説明

金属層付き積層フィルム

【課題】高い接着力を有し、高熱条件下においても接着力を維持することができる金属層付き積層フィルムを提供する。
【解決手段】主金属層1および厚さ10nm以上の酸化防止金属層2を有する金属箔3上に耐熱性樹脂層7を有する金属層付き積層フィルムであって、主金属層/酸化防止金属層界面の断面において、主金属の界面結晶密度が1000個/mm以下である金属層付き積層フィルム。該酸化防止金属層が、亜鉛、モリブデン等から選ばれる1種以上からなり、該耐熱性樹脂層が、ポリイミド系樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属層付き積層フィルムに関する。さらに詳しくは、金属箔上に耐熱性樹脂層を有する、フレキシブル回路基板用材料に好適に用いられる金属層付き積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ディスプレイおよびデジタルカメラ等の電子機器の小型化、軽量化および薄型化が急速に進んでいる。これに伴い、耐折れ性に優れ、軽量で耐熱性を有するフレキシブル回路基板の需要が高まっている。フレキシブル回路基板の中でも、ディスプレイ用の液晶ドライバー実装用途においては、耐折れ性、軽量化、耐熱性に加えて、ディスプレイの高精細化に伴い、微細な回路パターンを形成できることが求められている。このため、フレキシブル回路基板の半導体実装方式は、従来用いられていたTAB(テープ オートメーテッド ボンディング/Tape Automated Bonding)方式から微細配線形成に適したCOF(チップ オン フィルム/Chip On Film)方式へと移行してきている。COF方式の場合は、フレキシブル回路基板に形成される回路配線が細くなることに加え、フレキシブル回路基板上の配線に直接加熱した半導体を実装するため、高温の熱履歴を経ても高い接着力を保持できる、耐熱接着性の高いフレキシブル回路基板が求められている。
【0003】
これまでに、金属箔と樹脂層との接着力を向上させる方法として、例えば、金属箔表層部に凹凸をつける方法(例えば、特許文献1参照)、シャイニー面側の断面領域における結晶粒径0.5μm以下の結晶粒子の割合を50面積%以下とし、マット面側の表面荒さ(Ra)を1.3μm以上とする方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。これらの方法は耐熱性樹脂層に銅箔の凹凸を食い込ませる形で接着力を出す方法であり、銅箔部の凹凸により表面面積が増加することから、銅箔が酸化し易くなる。このため、高温の熱履歴がかかる際には逆に接着力が低下する場合がある。さらに微細配線の回路形成行程で凹凸によりエッチングのこりが生じるなどの問題もある。
【0004】
また、金属箔と樹脂層との接着性をより高める方法として、銅箔上に亜鉛系金属層および酸化クロム層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。銅箔の表面に酸化されやすい亜鉛層とクロム層を設け、銅箔の酸化を防ぐ方法である。この方法により接着性は向上するものの、後述する高温熱処理時の銅の拡散による接着力低下を防ぐことはできず、高温の熱履歴後の接着力が不十分であるという課題があった。
【0005】
また、上記の方法に対し、銅の拡散を抑える方法として、有機フィルム層上に、第1金属層、第2金属層および銅層がこの順に積層された金属積層フィルムにおいて、第1金属層中に窒素を有する層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、この方法は乾式めっきを用いためっき法による金属層付き積層フィルムにおいては有効であるが、従来のラミネート法やキャスト法による製法では、真空装置などの特殊な設備を用いる必要があり適しない。
【特許文献1】特開2001−342600号公報
【特許文献2】特開2004−152904号公報
【特許文献3】特開2002−217507号公報
【特許文献4】特開2005−262707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、高い接着力を有し、高熱条件下においても接着力を維持することができる金属層付き積層フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、主金属層および厚さ10nm以上の酸化防止金属層を有する金属箔上に耐熱性樹脂層を有する金属層付き積層フィルムであって、主金属層/酸化防止金属層界面の断面において、主金属の界面結晶密度が1000個/mm以下であることを特徴とする金属層付き積層フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高い接着力を有し、高熱条件下においても接着力を維持することができる金属層付き積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の金属層付き積層フィルムは、主金属層および厚さ10nm以上の酸化防止金属層を有する金属箔上に耐熱性樹脂層を有する。その代表的な構成例は、図1(a)に示すように、耐熱性樹脂フィルム6上に耐熱性接着層4、酸化防止金属層2、主金属層1をこの順に有する。また、両面板の場合は、図1(b)に示すように、耐熱性樹脂フィルム6を中心に、耐熱性接着層4、酸化防止金属層2、主金属層1を有する。また、他の構成例として図2に示す構造が挙げられる。図2(a)は、耐熱性樹脂フィルム6上に、2層の耐熱性接着層5および4、酸化防止金属層2、主金属層1を有する。金属箔側と耐熱性樹脂フィルム側それぞれに耐熱性接着層を設けることにより、金属箔と耐熱性樹脂フィルムの接着性をより向上させることができる。図2(b)は、耐熱性接着層を2層有する両面板の例である。
【0010】
以下、本発明の詳細を記述する。
【0011】
本発明において、金属箔は主金属層および酸化防止金属層を有する。主金属層としては、銅箔、アルミ箔、SUS箔などが挙げられるが、通常銅箔が用いられる。銅箔には電解銅箔と圧延銅箔があり、どちらでも用いることができるが、半導体実装時の圧力による変形が小さいことから、電解銅箔が好ましい。
【0012】
主金属層の厚さは特に限定されず、用途にあわせて適切な厚さを選択することができる。近年、配線パターンの微細化に伴い、より薄い金属箔が好まれていることから、主金属層の厚さも薄いことが好ましい。好ましくは150μm以下、より好ましくは25μm以下、より好ましくは18μm以下、さらに好ましくは12μm以下である。また、取り扱い性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上である。なお、厚さ5μm以下の主金属層は、単体での取り扱いが困難な場合があり、厚さ20〜50μm程度の樹脂または金属の支持体(キャリア)を有するものを用いることができる。
【0013】
本発明に用いられる金属箔は、酸化防止金属層と主金属層の界面における主金属層の界面結晶密度が1000個/mm以下であることを特徴とする。すなわち、主金属層/酸化防止金属層界面において、主金属層に粒径の大きい粒子が多く存在することを特徴とする。このことにより、金属箔と耐熱性樹脂層との接着性に優れ、高熱条件下においても高い接着力を維持することができる金属層付き積層フィルムが得られる。より好ましくは500個/mm以下、さらに好ましくは200個/mm以下である。
【0014】
一般的に、金属は熱処理等により他の物質中に拡散することが知られており、特に高温になれば拡散は顕著になる。回路形成プロセスや金属層付き積層フィルムの使用環境において、金属層付き積層フィルムが高熱条件下に晒されると、主金属層中の金属元素が他の層へ拡散し、界面付近の耐熱性樹脂層の樹脂劣化を引き起こし、接着性を低下させる場合がある。特に、主金属層として一般的に用いられる銅は拡散しやすく、高熱条件下における金属層付き積層フィルムの接着力低下の要因となる。金属元素の拡散は、その結晶粒界から多く遊離して拡散することから、本発明においては、酸化防止金属層と主金属層の界面における主金属層の結晶粒径を大きくすること、すなわち、主金属層の界面結晶密度を1000個/mm以下とすることにより、遊離金属元素の発生源を少なくして金属元素の拡散を抑え、耐熱性樹脂層の樹脂劣化を防止することができる。この結果、高温条件下においても優れた接着力を維持することができる。
【0015】
ここで、主金属層の界面結晶密度は、金属層付き積層フィルムの断面を電子後方散乱回折(EBSD:Electoron Backscatter Diffraction)にて結晶観察することにより測定できる。本発明においては、主金属層/酸化防止金属層界面を含む断面をEBSDにて観察し、300μm長あたりの界面断面に接する結晶個数を計数して求めた単位長さ(mm)あたりの結晶個数を界面結晶密度(個/mm)とする。結晶観察は、金属層付き積層フィルムを厚さ方向に切断・研磨した試料を用いて行う。観察場所は主金属層が酸化防止金属層に接する界面の主金属層であり、基材に水平方向に基準長(300μm)観察する。このとき、0.5μm以上の結晶が判別できる分解能を有する条件で観察する。具体的には、一視野における観察領域が界面断面100μm以内であればよい。
【0016】
主金属層の表面は微結晶化することがあるが、本発明においては、主金属層の界面結晶密度が上記範囲であればよく、主金属層全体の結晶粒径は特に限定されない。エッチング速度の観点から、主金属層の結晶粒径は5μm以下が好ましく、3μm以下が好ましい。一方、耐折れ性の観点から、0.1μm以上が好ましく、1μm以上が好ましい。また、主金属層として結晶粒径の異なる層を複数層形成してもよい。例えば、エッチング性を向上させる目的で表面層(レジスト面)に結晶粒径の小さい層を、耐折れ性を向上させる目的で酸化防止金属層側に結晶粒径の大きい層を形成してもよい。
【0017】
主金属層の界面結晶密度は、例えば電解銅箔の場合、めっき添加剤や結晶の析出速度によって制御することができる。例えば、硫黄等を含有し微結晶化させる効果を持つ添加剤を減量することにより、結晶粒径を大きくすることができる。また、結晶析出時の電流密度を小さくして、結晶をゆっくり成長させることによって、結晶粒径を大きくすることができる。圧延銅箔の場合、使用する銅塊の結晶粒径を適宜選択すればよい。また、圧延銅箔表面の酸化物・不純物や微結晶層をエッチング処理し、内部の結晶粒径の大きな層を表出させる方法も挙げられる。さらに、電解銅箔・圧延銅箔ともに、熱アニール処理を施すことにより、結晶粒径を大きくすることができる。
【0018】
主金属層を構成する金属元素の拡散は、酸化防止金属層の剥離界面近傍の金属元素濃度を指標として評価することができる。なお、ここで主金属層構成元素の主成分とは、主金属層中の重量比率にて50%以上を占める成分を指す。例えば、金属箔として銅箔を用いる場合は銅が主成分となる。また、SUS304を用いる場合は鉄が主成分となる。本発明においては、金属層付き積層フィルムの金属箔を耐熱性樹脂層との界面で剥離したとき、酸化防止金属層の剥離界面から主金属層側に向かって深さ4nmまでの領域に含まれる主金属層構成元素の主成分濃度の最大値は、8atomic%以下であることが好ましく、6atmoic%以下がより好ましい。さらに、金属元素の拡散は高温条件下において顕著であることから、本発明においては、金属層付き積層フィルムを大気中150℃で168時間熱処理した後、金属箔を耐熱性樹脂層との界面で剥離したとき、酸化防止金属層の剥離界面から主金属層側に向かって深さ4nmまでの領域に含まれる主金属層構成元素の主成分濃度の最大値は、10atomic%以下であることが好ましく、8atomic%以下がより好ましい。これらの金属元素の拡散抑制は、主金属層の界面結晶密度を小さくすること、具体的には1000個/mm以下、より好ましくは500個/mm以下、さらに好ましくは200個/mm以下とし、さらに酸化防止金属層を10nm以上とすることによって達成できる。
【0019】
酸化防止金属層中の元素濃度は、オージェ電子分光(AES)により測定することができる。酸化防止金属層のエッチングはアルゴンのイオンエッチングで行い、エッチング深さはSi結晶基板に対して同条件でエッチングしたときのSi結晶基板のエッチング深さの値とする。
【0020】
酸化防止金属層としては、一般的にニッケル、クロム、モリブデン、タンタル、タングステン、マンガン、チタン、バナジウムまたはこれらの合金が用いられる。これらの中でも、クロム、チタン、バナジウムは、銅などの元素の拡散を防止する効果が高いため好ましく用いられる。また、亜鉛、ニッケルは酸化を防ぎ、耐熱性樹脂層との接着性を向上させるため好ましく用いられる。また、亜鉛、ニッケル、モリブデンは塩化第2鉄エッチャントへの溶解性に優れ、クロムは膜厚が薄い場合はエッチングが可能であることから好ましく用いられる。酸化防止層は主金属層の界面を酸化させないために設けられるものであるが、副次的に主金属層の金属元素の耐熱性樹脂層への拡散を抑制する効果も持っている。本発明においては、酸化防止金属層の厚さが10nm以上であることが重要である。酸化防止金属層の厚さが10nm未満であると、主金属層の金属元素の拡散を効果的に抑制することができず、高温条件下において金属層付き積層フィルムの接着力が低下する。好ましくは12nm以上であり、より好ましくは15nm以上である。上限は特に限定されないが、回路形成時のエッチング性の観点から50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。
【0021】
酸化防止金属層の厚みは、AESにより測定することができる。AESによる深さ方向の元素濃度測定において、酸化防止金属層を構成する元素濃度のピークの半値幅を酸化防止金属層の厚みとする。酸化防止金属層が2種以上の元素を含む場合は、重量比で含有量の最も多い元素の濃度により測定する。なお、酸化防止金属層のエッチングはアルゴンのイオンエッチングで行い、エッチング深さはSi結晶基板に対して同条件でエッチングしたときのSi結晶基板のエッチング深さの値とする。
【0022】
酸化防止金属層を2層以上有することも好ましく行われる。これは、主金属層の拡散を低減する層、金属の酸化を防ぐ層、耐熱性樹脂層との接着を向上させるための層など異なる役割を持つ層を設けるときに有効である。
【0023】
酸化防止金属層を形成する方法は特に限定しないが、生産性に優れるため、めっき法を用いて金属析出をさせる方法が一般的に用いられる。めっきは無電解めっき、電解めっきいずれを用いてもよい。また、主金属層表面に真空中で酸化防止金属層を蒸着、スパッタ製膜、CVD製膜を行うこともできる。
【0024】
また、耐熱性樹脂層との接着性をより向上させるため、酸化防止金属層の表面をシランカップリング処理してもよい。この処理に用いられるシランカップリング剤は特に限定されないが、一般的には、アミノシランカプリング剤またはエポキシシランカプリング剤が用いられる。例えば、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0025】
本発明の金蔵層付き積層フィルムは、耐熱性樹脂層を有する。耐熱性樹脂層としては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂などを単独あるいは2種以上含む層が挙げられる。本発明においては、耐熱性、絶縁信頼性の点から、ポリイミド系樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
耐熱性樹脂層の線膨張係数は20ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは5〜18ppm/℃である。また、ガラス転移温度は300℃以上が好ましく、より好ましくは350℃以上である。ここで、本発明における線膨張係数とは、30〜200℃における平均線膨張係数をさす。線膨張係数は熱機械分析装置を用いた測定法(TMA法)で測定することができる。また、本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量分析装置を用いた測定法(DSC法)で昇温速度20℃/分の条件で測定したものをいう。
【0027】
耐熱性樹脂層の膜厚は、ハンドリング性の観点から5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がより好ましい。耐折れ性や多層用途に用いる場合を考慮すると、125μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がより好ましい。
【0028】
ポリイミド系樹脂としては、上記線膨張係数およびガラス転移温度を得られるものが好ましい。具体的には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から少なくとも1つ選ばれる芳香族テトラカルボン酸二無水物と、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジメチルベンジジンから少なくとも1つ選ばれる芳香族ジアミンから合成されるポリイミド樹脂が好ましく用いることができる。
【0029】
耐熱性樹脂層は、耐熱性樹脂フィルム上に耐熱性接着層を有するものであってもよい。耐熱性樹脂フィルムとしては、アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂などを単独あるいは2種以上含むフィルムが挙げられる。本発明においては、耐熱性、絶縁信頼性の点から、ポリイミド系樹脂から構成される耐熱性樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0030】
ポリイミドフィルムの具体的な製品としては、東レ・デュポン(株)製“カプトン”(登録商標)、宇部興産(株)製“ユーピレックス”(登録商標)、(株)カネカ製“アピカル”(登録商標)などが挙げられる。
【0031】
耐熱性樹脂フィルムの厚みは特に限定されないが、支持体としての強度の観点から、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上である。また、柔軟性の観点から、好ましくは150μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。
【0032】
耐熱性樹脂フィルムの30〜200℃における線膨張係数は好ましくは20ppm/℃以下、より好ましくは5〜18ppm/℃である。このような線膨張係数を有するポリイミドフィルムとしては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から少なくとも1つ選ばれるテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから少なくとも1つ選ばれるジアミンから得られるポリイミド樹脂からなるポリイミドフィルムが好ましい。このようなポリイミドフィルムとしては、“カプトン”(登録商標)ENタイプ、“ユーピレックス”(登録商標)Sタイプ、“アピカル”(登録商標)NPIタイプ等があるが、フレキシブルプリント回路基板(FPC)材料として用いる場合には、接着性、寸法安定性等の点から、“カプトン”(登録商標)ENタイプが特に好ましく用いられる。
【0033】
耐熱性樹脂フィルムの片面あるいは両面は、目的に応じて接着性改良処理が施されていてもよい。接着改良処理としては、常圧プラズマ処理、コロナ放電処理、低温プラズマ処理などの放電処理が好ましい。
【0034】
接着性の機能を有する耐熱性接着層としては、熱硬化性および/または熱可塑性を有する樹脂を用いることができ、特に熱可塑性を有する樹脂を用いることが好ましい。アクリル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂などを単独あるいは2種以上用いることができる。本発明においては、耐熱性、絶縁信頼性の点から、ポリイミド系樹脂が好ましく用いられる。
【0035】
耐熱性接着層として用いるポリイミド系樹脂としては、接着性等の特性を満たせば任意に組成を選択することができる。ポリイミド系樹脂は、その前駆体であるポリアミド酸またはそのエステル化合物を加熱あるいは適当な触媒により、イミド環や、その他の環状構造を形成した高分子樹脂である。ポリイミド系樹脂は、テトラカルボン酸二無水物、およびジアミンから重合することができる。
【0036】
耐熱性接着層のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは240℃以上であり、好ましくは380℃以下、より好ましくは320℃以下、さらに好ましくは280℃以下である。耐熱性接着層のガラス転移温度が前記範囲にあることで、加熱圧着工程における生産効率が良く、さらに金属箔および/または耐熱性樹脂フィルムとの接着性がより向上する。
【0037】
本発明において、耐熱性接着層には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂や充填材を含有してもよい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などの耐熱性高分子樹脂が挙げられる。充填材としては、有機あるいは無機からなる微粒子、フィラーなどが挙げられる。微粒子、フィラーの具体例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、石英粉、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、硫酸バリウム、マイカ、タルクなどが挙げられる。
【0038】
次に、本発明において耐熱性樹脂層に好ましく用いられるポリイミド樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0039】
ポリイミド樹脂、またはその前駆体であるポリアミド酸樹脂は、公知の方法で合成することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを選択的に組み合わせ、溶媒中で0〜80℃で1〜100時間撹拌し、反応させることにより合成することができる。樹脂組成物の粘度特性、得られる金属層付き積層フィルムの接着性等の特性が所望の特性となるように酸過剰、あるいはジアミン過剰のモル比で合成することが好ましい。また、ポリマー鎖末端を封止するために、安息香酸、無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、アニリンなどのジカルボン酸またはその無水物、モノアミンをテトラカルボン酸二無水物、ジアミンと同時に仕込んで反応させてもよく、また、テトラカルボン酸二無水物、ジアミンを反応させ、重合した後に添加して反応させてもよい。
【0040】
ポリアミド酸合成の溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド系極性溶媒、また、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンなどのラクトン系極性溶媒、他には、メチルセロソルブ、メチルセルソルブアセテート、エチルセロソルブ、エチルセルソルブアセテート、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、乳酸エチルなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。ポリアミド酸の濃度としては、通常5〜60重量%が好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%である。
【0041】
ポリイミド樹脂を得る場合には、前記で合成したポリアミド酸樹脂溶液を、120〜300℃の温度に上げて1〜100時間撹拌し、ポリイミドに変換する。また、室温〜200℃で、無水酢酸、トリフルオロ酢酸無水物、p−ヒドロキシフェニル酢酸、ピリジン、ピコリン、イミダゾール、キノリン、トリエチルアミンなどのイミド化触媒を単独あるいは2種以上を組み合わせて添加し、ポリイミドに変換することもできる。イミド化触媒の含有量は、ポリアミド酸樹脂組成物中のポリアミド酸樹脂に対して、1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。また、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。イミド化触媒の含有量が前記範囲であれば、イミド化温度を低くすることができ、ポリアミド酸樹脂組成物の保存安定性も良い。
【0042】
以下に本発明の金属層付き積層フィルムの製造方法を例示する。本発明の金属層付き積層フィルムは、ラミネート法、キャスティング法により製造することができる。
【0043】
ラミネート法について代表的な製造方法を、図1(a)を用いて説明する。あらかじめ耐熱性樹脂フィルム6上に耐熱性接着剤を塗布・乾燥して耐熱性接着層4を形成する。この耐熱性接着層4に酸化防止金属層2側が接するように金属箔3を配置し、ラミネートロールにて加熱圧着を行い、酸化防止金属層2と耐熱性樹脂層4を接着する。また、予め酸化防止金属層2に耐熱性接着層4を形成し、この耐熱性接着層4に耐熱性樹脂フィルム6を接着してもよいし、図2(b)に示すように、耐熱性樹脂フィルム6と酸化防止金属層2の両方にそれぞれ耐熱性樹脂層を形成してもよい。
【0044】
耐熱性接着層は、耐熱性樹脂フィルムまたは酸化防止金属層上に接着剤を塗布し、必要により熱処理することにより形成することができる。例えば、ポリイミド系樹脂を含む接着剤としては、有機溶媒可溶性ポリイミド樹脂組成物、ポリイミド前駆体組成物等が挙げられる。以下、ポリイミド前駆体組成物を用いる場合について詳説する。例えば、耐熱性樹脂フィルム上にポリイミド前駆体組成物を塗布し、60〜200℃程度の温度で連続的または断続的に1〜60分間加熱することにより、溶媒除去する。このとき、硬化後の膜厚が0.01〜5μmとなるように塗布することが一般的であり、好ましくは0.1〜4μm、さらに好ましくは0.5〜3μmである。また、酸化防止金属層上に耐熱性接着層を形成する場合は、その膜厚が0.01〜10μmとなるように塗布することが一般的であり、好ましくは0.1〜6μm、さらに好ましくは0.5〜4μmである。ポリイミド前駆体をポリイミドに変換させる場合は続いて、200〜400℃、好ましくは240〜350℃、さらに好ましくは260〜320℃の温度範囲で、1〜48時間熱処理を行う。なお、耐熱性接着層を複数層有する場合は、前記塗布・乾燥工程を繰り返し行ってもよいし、乾燥工程は一括で処理してもかまわない。
【0045】
耐熱性樹脂層と金属箔との加熱圧着は、耐熱性樹脂層のイミド化が完了している場合は硬化した樹脂を軟化させるために、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、さらに好ましくは380℃以上の温度で行う。このときの加熱ロールの温度は、通常300〜500℃、好ましくは350〜450℃、さらに好ましくは380〜420℃である。また、耐熱接着樹脂が未硬化の場合は、さらに低温でラミネートすることができ、加熱ロールの温度は100℃〜260℃、好ましくは140℃〜240℃、さらに好ましくは160℃〜220℃である。このときの加熱ロールの温度は、通常100℃〜260℃、好ましくは140℃〜240℃さらに好ましくは160℃〜220℃である。加熱圧着の際、加熱ロール温度が高い場合は金属箔表面が酸化されることを防止するため、加熱ロールと被積層体との間に保護フィルムを設けることも好ましい。ロールニップ圧は、線圧で2〜150N/mm、好ましくは5〜100N/mm、さらに好ましくは10〜80N/mmである。
【0046】
次に、キャスティング法による金属層付き積層フィルムの製造方法について例を挙げて説明する。金属箔に接着剤を塗布し、必要により熱処理することにより、耐熱性樹脂層を形成する。ここで、接着剤として耐熱性樹脂前駆体組成物を用いることが好ましい。以下、耐熱性樹脂前駆体組成物を用いた方法を例に説明する。この方法では、耐熱性樹脂フィルムを必要とせず、耐熱性樹脂前駆体組成物を目的の厚みに合わせて塗布すればよい。耐熱性樹脂前駆体組成物を複数回塗布することにより、膜厚を調整してもよいし、異なる種類の耐熱性樹脂層を複数層設けてもかまわない。例えば、金属箔側に高接着性のポリイミド前駆体を塗布し、次に剛直で安定性の良いコア層となるポリイミド前駆体を塗布積層してもよい。また、そりを調整するための樹脂を塗り重ねることもできる。耐熱性樹脂前駆体組成物を複数回塗布する場合、各々乾燥してもよいし、仮乾燥のみの状態で順次塗布し、最後に複数層同時に熱処理することもできる。耐熱性樹脂層を形成した金属箔は、窒素等の不活性ガス中で乾燥・硬化されることが好ましい。乾燥温度の最高温度は200〜450℃が好ましく、さらに好ましくは250〜350℃である。乾燥のオーブンは何段に分かれていてもよく、溶媒を揮発させるために順次温度をあげていくことが望ましい。
【0047】
本発明においては、ラミネート法、キャスティング法のいずれにおいても、得られた金属層付き積層フィルムをさらに熱処理してもよい。このときの熱処理方法は、金属層付き積層フィルムをロール巻きにしてのバッチ方式処理、ロールtoロール方式での連続処理、カットシートでの枚葉処理のいずれを用いてもよい。熱処理は通常200〜400℃、好ましくは240〜350℃、さらに好ましくは260〜320℃の温度範囲で、0.2〜48時間熱処理を行い、目標温度まで段階的に上げても良い。熱処理により耐熱性樹脂層を安定化させることができる。ボンディング性の観点から、350℃以上の温度における熱処理時間は、0.2時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。一方、高温での熱処理により主金属層の金属元素拡散を防止する観点からは、350℃以上の温度における熱処理時間は5時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましい。また、0.2時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、金属箔の酸化を防止するために、真空中または窒素雰囲気中で処理することが好ましい。
【0048】
工程内最高温度を評価する方法として、TMA(Thermomechanical Analysys)法を用いることができる。まず、金属層付き積層フィルムの金属箔をエッチングにより除去し、耐熱性樹脂層単体を得る。この単体フィルムを用いて、高温時の線膨張係数を測定する。測定温度の範囲は一般的には23℃から600℃程度まで測定することができる。温度に対する線膨張係数の値は、工程内最高温度において変曲点を持つ。これは、工程内最高温度まで熱履歴を受けることにより、この温度以下では線膨張係数が安定化するのに対して、工程内最高温度以上では耐熱性樹脂層が安定化していないため熱収縮したり逆に熱膨張したりするためである。この変曲点を調べることにより工程内の熱履歴の最高温度を調べることができる。
【0049】
本発明の金属層付き積層フィルムを用いて、金属層に配線パターンを形成することによりフレキシブルプリント回路基板(FPC)を製造することができる。配線パターンのピッチは特に限定されないが、好ましくは10〜150μm、より好ましくは15〜100μm、さらに好ましくは20〜80μmの範囲である。
【0050】
半導体チップ(IC)を実装して半導体装置を作製する方法の一例として、フリップチップ技術を用いたCOF方式による作製例を説明する。
【0051】
本発明の金属層付き積層フィルムを目的の幅にスリットする。次に金属層上にフォトレジスト膜を塗布乾燥し、マスク露光で配線パターンを形成した後、金属層をウエットエッチング処理し、残ったフォトレジスト膜を除去して金属配線パターンを形成する。形成した金属配線パターン上に錫または金を0.2〜0.8μmめっきした後、配線パターン上にソルダーレジストを塗布してCOFテープが得られる。
【0052】
上記方法で得られたCOFテープのインナーリードに金バンプを形成したICをフリップチップ実装で接合し、樹脂で封止することにより半導体装置を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。接着力、主金属層構成元素濃度の最大値、主金属層の界面結晶密度、ボンディング性、絶縁信頼性、工程内最高温度の測定方法について述べる。
【0054】
(1)接着力の測定
JIS−C−6471に記載の銅箔の引き剥がし強さ試験方法を用いて評価した。金属層付き積層フィルムを塩化第2鉄溶液にてエッチングして、2mm幅のパターンを形成した。TOYO BOLDWIN社製”テンシロン”UTM-4-100を用い、引っ張り速度50mm/分、90゜剥離で2mm幅のパターンを剥離する際の剥離力を測定した。熱処理後の接着力は、金属層付き積層フィルムをオーブンにて大気中150℃、168時間の熱処理を行った後、前述の方法で測定した。
【0055】
実用的な接着力としては、熱処理を施していない未処理(常態)の金属層付き積層フィルムでは、金属箔の厚さが8μmの場合、6N/cm以上が好ましく、より好ましくは8N/cm、熱処理後では5N/cm以上が好ましく、より好ましくは6N/cm以上、さらに好ましくは7N/cm以上である。
【0056】
(2)主金属層構成元素濃度の最大値の測定
金属層付き積層フィルムの金属箔をJIS−C−6471記載の方法で90°方向に引き剥がし、酸化防止金属層の剥離界面から主金属層側に向かって深さ4nmまでの領域に含まれる主金属層構成元素濃度をPHI製SAM−670型オージェ電子分光装置を用いて測定した。真空度は5×10−7Pa以下で測定を行った。深さ方向分析時のイオンエッチングにアルゴンイオンを用い、厚み方向のエッチングレートはSiのエッチングレートと同等として計算した。また、金属の厚みは厚み方向に対する金属のプロファイルの半値幅とした。
【0057】
(3)主金属層の界面結晶密度の測定
主金属層の界面結晶密度は、金属層付き積層フィルムの断面を高分解能 SEM(HITACHI S−4500)および EBSD(ThermoNoran Phase−ID)にて観察して算出した。主金属層の酸化防止金属層側界面300μm長あたりにおいて、EBSDにて観察される結晶個数を計数し、単位長さ(mm)あたりの結晶個数を界面結晶密度(個/mm)とした。なお、結晶内に粒界を生じない双晶がある場合は双晶も同一結晶と見なす。観察時は一視野あたり100μmの界面を3カ所観察した。
【0058】
(4)ボンディング性の評価
金属層付き積層フィルムに幅30μm、高さ8μmの配線パターンを形成し、長さ100μm、高さ10μmの金バンプを加重30g/バンプで押しつけた際、配線下部の耐熱性接着層の熱流動による沈み込みの有無を観察した。また、圧力による耐熱性接着層からの配線の浮きの有無を観察した。上記いずれかの欠陥が発生したら不良(×)とし、いずれも発生しない場合は良品(○)とした。
【0059】
(5)絶縁信頼性の測定
配線幅50μm、配線間50μm、配線ピッチ100μm、対抗する配線は10mm重なり合う、櫛歯の配線は4本ずつ配した櫛形回路を形成し、85℃・85%RHの恒温恒湿槽に100Vの電圧を連続印可し保管した。定期的に回路の絶縁抵抗を測定した。通常は1000時間保管して、1×10Ω以上の絶縁抵抗値を示したら良品である。
【0060】
(6)工程内最高温度の測定
金属層付き積層フィルムの金属箔をエッチング除去し、15mm幅、30mm長さのサンプルを得た。このサンプルをTMA測定装置(SII EXSTAR6000)に装着し、温度を上昇させながらその膨張・収縮挙動を観察した。測定温度範囲は40℃から550℃までを測定し、線膨張係数の変曲点から工程内最高温度を測定した。
【0061】
以下の製造例に示してある酸二無水物、ジアミンの略記号の名称は下記の通りである。
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
OPDA:3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物
SiDA:1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ビス(3−アミノプロピル)ジシロキサン
DAE :4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
PDA :p−フェニレンジアミン
DBAB:4,4’−ジアミノベンズアニリド
NMP :N−メチル−2−ピロリドン。
【0062】
(実施例1)
温度計、乾燥窒素導入口、温水・冷却水による加熱・冷却装置、および、攪拌装置を付した反応釜に、SiDA 62.15g(0.25mol)、DAE 110.11g(0.55mol)、PDA 21.62g(0.2mol)、をNMP 2765gと共に仕込み、溶解させた後、BPDA 294.2g(1mol)を添加し、70℃で6時間反応させたことにより、15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA1)を得た。
【0063】
また、同様の反応釜にDAE 40.04g(0.20mol)、PDA 86.48g(0.8mol)をNMP 2384gと共に仕込み、溶解させた後、BPDA 294.2g(1mol)を添加し、70℃で6時間反応させ、15重量%ポリアミド酸樹脂溶液(PA2)を得た。
【0064】
ポリアミド酸樹脂溶液PA1を、あらかじめアルゴン雰囲気中で低温プラズマ処理しておいた厚さ25μmのポリイミドフィルム(“カプトン”(登録商標)100EN 東レ・デュポン(株)製)に乾燥後の膜厚が1.5μmになるようにリバースコーターで塗工し、80℃で10分、さらに170℃で10分乾燥し、ポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体を得た。
【0065】
SUS304の板に電解銅めっきを施し、めっき後にSUS板から剥がすことにより厚さ8μmの銅箔(CU1)を得た。銅めっき液は、銅濃度70g/L、硫酸濃度200g/L、atotec社製添加剤:カパラシドGS添加剤20mL/L、カパラシドGS補正剤0mL/Lとした。めっき時の電流密度は1A/dmで、40分めっきを行った。この銅箔(CU1)のSUS板側をS面とし、電解液側をD面とした。このときD面の表面結晶密度は500個/mmであった。
【0066】
この銅箔のD面を真空中にてArプラズマによってクリーニングし、Ni/Crを元素比95:5にて15nmスパッタ製膜した。製膜面をシランカップリング剤にて処理した後、ポリアミド酸樹脂溶液PA2を乾燥後の膜厚が6μmになるようにスリットコーターで塗工し、100℃で1分、さらに170℃で4分乾燥し、金属箔/耐熱性樹脂層の積層体を得た。
【0067】
上記ポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体の耐熱性樹脂層に、上記金属箔/耐熱性樹脂層の耐熱性樹脂層側を張り合わせ、ロールの表面温度を180℃に加熱したロールラミネーターで、保護フィルムとして厚さ25μmのポリイミドフィルム(“カプトン”(登録商標)100H 東レ・デュポン(株)製)を両ロールとポリイミドフィルム/耐熱性樹脂層の積層体、金属箔/耐熱性樹脂層の積層体の間にそれぞれ介在させ、線圧70N/mm、速度1m/分で加熱圧着した。ここで得られた金属層付き積層フィルムを窒素中にて80℃で1時間、さらに150℃で1時間、さらに昇温に2時間、さらに220℃で1時間、さらに昇温に2時間、さらに350℃で1時間、さらに40℃までの降温に3時間かけて熱処理して金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同条件でSUS板にめっきして得た銅箔表面にNi/Crを元素比95:5にて10nmスパッタ製膜すること以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
実施例1と同条件でSUS板にめっきして得た銅箔表面にNiを13nmスパッタ製膜した後、さらにZnを2nmスパッタ製膜したこと以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
実施例1と同条件でSUS板にめっきして得た銅箔表面にNiを13nmスパッタ製膜した後、さらにMoを2nmスパッタ製膜したこと以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
実施例1と同条件でSUS板にめっきして得た銅箔表面にNiを13nmスパッタ製膜した後、さらにCrを2nmスパッタ製膜したこと以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例6)
銅箔のめっき時に、電解めっき液の添加剤濃度をカパラシドGS添加剤:20mL/L、カパラシドGS補正剤:0mL/Lとし、電流条件を2A/dmにて18.6分にする以外は実施例1と同様にして銅箔を作製した。このときD面の表面結晶密度は1000個/mmであった。この銅箔を用いて実施例1と同様に金属層付き積層フィルムを作製した。諸特性の評価結果をに示す。
【0073】
(実施例7)
銅箔のめっき時に、電解めっき液の添加剤濃度をカパラシドGS添加剤:20mL/L、カパラシドGS補正剤:0mL/Lとし、電流条件を0.6A/dmにて66分にする以外は実施例1と同様にして銅箔を作製した。このときD面の表面結晶密度は200個/mmであった。この銅箔を用いて実施例1と同様に金属層付き積層フィルムを作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例8)
工程内最高温度(樹脂硬化)を320℃としたこと以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
銅箔のめっき時に、電解めっき液の添加剤濃度をカパラシドGS添加剤:20mL/L、カパラシドGS補正剤:1.6mL/Lとし、電流条件を2A/dmにて18.6分にする以外は実施例1と同様にして銅箔を作製した。このときD面の表面結晶密度は2500個/mmであった。この銅箔を用いて実施例1と同様に金属層付き積層フィルムを作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
銅箔のめっき時に、電解めっき液の添加剤濃度をカパラシドGS添加剤:20mL/L、カパラシドGS補正剤:0.1mL/Lとし、電流条件を3A/dmにて13分にする以外は実施例1と同様にして銅箔を作製した。このときD面の表面結晶密度は1500個/mmであった。この銅箔を用いて実施例1と同様に金属層付き積層フィルムを作製した。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0077】
(比較例3)
実施例1と同条件でSUS板にめっきして得た銅箔表面にNi/Crを5nmスパッタ製膜したこと以外は実施例1と同様の方法で金属層付き積層フィルムを得た。諸特性の評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
実施例と比較例から、主金属層/酸化防止金属層界面の主金属層の界面結晶密度を1000個/mm以下とすることにより、接着力、特に熱処理後の接着力が飛躍的な向上することが分かる。なお、角実施例・比較例のいずれの試料も回路異常は発生せず、また絶縁信頼性も1000時間後で1×10Ω以上の数値を示し、良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の金属層付き積層フィルムは、携帯電話、ディスプレイおよびデジタルカメラ等の電子機器のフレキシブル回路基板用材料に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の金属層付き積層フィルムの一態様を示した概略図
【図2】本発明の金属層付き積層フィルムの一態様を示した概略図
【符号の説明】
【0082】
1 主金属層
2 酸化防止金属層
3 金属箔
4 耐熱性接着層
5 耐熱性接着層
6 耐熱性樹脂フィルム
7 耐熱性樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主金属層および厚さ10nm以上の酸化防止金属層を有する金属箔上に耐熱性樹脂層を有する金属層付き積層フィルムであって、主金属層/酸化防止金属層界面の断面において、主金属の界面結晶密度が1000個/mm以下であることを特徴とする金属層付き積層フィルム。
【請求項2】
前記酸化防止金属層が、亜鉛、モリブデン、クロムおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の金属層付き積層フィルム。
【請求項3】
前記耐熱性樹脂層が、ポリイミド系樹脂を含むことを特徴とする請求項1または2記載の金属層付き積層フィルム。
【請求項4】
前記主金属層が、電解銅箔であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の金属層付き積層フィルム。
【請求項5】
前記金属箔を前記耐熱性樹脂層との界面で剥離したとき、前記酸化防止金属層の剥離界面から前記主金属層側に向かって深さ4nmまでの領域に含まれる主金属層構成元素の主成分濃度の最大値が8atomic%以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の金属層付き積層フィルム。
【請求項6】
大気中150℃の温度で168時間熱処理後、前記金属箔を前記耐熱性樹脂層との界面で剥離したとき、前記酸化防止金属層の剥離界面から前記主金属層側に向かって深さ4nmまでの領域に含まれる主金属層構成元素の主成分濃度の最大値が10atomic%以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか金属層付き積層フィルム。
【請求項7】
前記耐熱性樹脂層が耐熱性樹脂フィルム上に耐熱性接着層を有し、耐熱性接着層を介して耐熱性樹脂フィルムと金属箔を積層してなることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の金属層付き積層フィルム。
【請求項8】
金属箔に耐熱性樹脂前駆体組成物を塗布し、熱処理することにより、金属箔上に耐熱性樹脂層を形成して得られることを特徴とする請求項1〜6いずれか記載の金属層付き積層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−230096(P2008−230096A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−74249(P2007−74249)
【出願日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】