説明

金属張り積層板とその製造方法

【課題】無線通信用アンテナや高周波モジュール等に適用するプリント配線板用材料として、簡便な方法で低誘電率化を達成することができる金属張り積層板とその製造方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られるプリプレグを所要枚数重ね、さらに最外層のプリプレグのうち少なくとも一方に金属箔を重ねて加熱加圧成形することにより、金属箔と絶縁層とを一体化してなる金属張り積層板であって、絶縁層が気泡を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用の金属張り積層板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の材料として用いられるプリプレグは、熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂組成物を溶剤で希釈してワニスとし、このワニスをガラスクロス等の基材に含浸した後、これを乾燥して、樹脂を未硬化状態(A−ステージ)から半硬化状態(B−ステージ)にすることにより作製されている。
【0003】
従来、プリプレグの作製時には、真空または減圧条件にてワニスの基材への含浸を行い、気泡の混入を抑制するようにしている。これはワニスへの気泡の混入によりボイドが発生し、スルーホールの形成に好ましくないからである。
【0004】
そして、このようにして得たプリプレグを所定寸法に切断した後、所要枚数重ねると共にこの片面または両面に銅箔等の金属箔を重ね、これを加熱加圧成形することによりプリント配線板に加工される金属張り積層板を作製することができる。この段階において樹脂は、半硬化状態(B−ステージ)から完全硬化状態(C−ステージ)へと変化し、基材と共に絶縁層を形成する。
【0005】
近年、エレクトロニクス機器の進歩やインフラストラクチャの整備が進むにつれて、ネットワーク等で取り扱われる情報量はますます増大している。そしてデジタル信号を単位時間当たりに大量に伝達するために、信号の高周波化が進んでいる。
【0006】
このような現状において、電子機器内の電気信号は配線回路を介して部品間を移動するが、高周波域の電気信号は減衰が大きくなるため、伝送特性の良いプリント配線板が望まれている。
【0007】
すなわち、絶縁材料は誘電体であるために分子レベルで分極を有しており、交流信号を誘電体に印加すると分極が起こり、正負の電荷が誘電体内で反転運動を始めるが、信号が高周波域になると分極の反転が追従できなくなるため、電気信号が熱エネルギーとして消費されることになる。従って、プリント配線板に用いる絶縁材料には分極率が小さい、低誘電率や低誘電正接等の誘電特性が要求される。
【0008】
従来、このような誘電特性を向上させるための手段として、各種の技術が提案されている(特許文献1〜6参照)。例えば、樹脂材料の面からのアプローチとして、誘電率が低く、溶剤によるワニス化が容易であり、成形温度、硬化温度が低く、取り扱いも容易な材料が検討されてきた(特許文献1〜4参照)。
【0009】
一方、樹脂材料の誘電特性の改善方法と平行して、樹脂材料を含浸するクロス、不織布等の基材の低誘電率化、低誘電正接化の検討も進められてきた(特許文献5参照)。例えば、PTFE繊維とEガラス繊維とからなるクロス、酸化ホウ素等の配合比を規定したNEガラスクロス等が挙げられる。その他、誘電特性を向上させる手段として樹脂材料に中空フィラーを配合する技術等も提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−007763号公報
【特許文献2】特開平11−124491号公報
【特許文献3】特開平9−118759号公報
【特許文献4】特開平9−246429号公報
【特許文献5】特許2578097号明細書
【特許文献6】特許2687805号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のような従来技術では、低誘電率化のために概して特殊な樹脂や基材等を用いる必要があるが、さらに簡便な方法で各種の樹脂系において低誘電率化を達成する方法が望まれていた。
【0012】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、無線通信用アンテナや高周波モジュール等に適用するプリント配線板用材料として、簡便な方法で低誘電率化を達成することができる金属張り積層板とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来、プリプレグ製造時には、スルーホール形成への悪影響等の点から、上記したようにワニスの基材への含浸は真空または減圧条件にて行い気泡の導入を抑制するようにしていたが、本発明者らは、気泡を積極的にワニスに混入させることで低誘電率化を容易に達成でき、特にスルーホールを要しない平面アンテナ等の用途において好適な金属張り積層板が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0015】
第1に、本発明の金属張り積層板は、熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られるプリプレグを所要枚数重ね、さらに最外層のプリプレグのうち少なくとも一方に金属箔を重ねて加熱加圧成形することにより、金属箔と絶縁層とを一体化してなる金属張り積層板であって、絶縁層が気泡を含有する。
【0016】
第2に、上記第1の金属張り積層板において、絶縁層の気泡含有率が5〜25体積%である。
【0017】
第3に、上記第1または第2の金属張り積層板において、基材が誘電率3〜5のガラスクロスである。
【0018】
第4に、上記第1ないし第3のいずれかの金属張り積層板において、絶縁層の硬化樹脂の誘電率が3.5以下である。
【0019】
第5に、本発明の金属張り積層板の製造方法は、上記第1ないし第4のいずれかの金属張り積層板の製造方法であって、熱硬化性樹脂組成物中に気泡を含有させ、この気泡を含有する熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し、乾燥してプリプレグを得る工程を含む。
【発明の効果】
【0020】
上記第1、第2、および第5の発明によれば、プリプレグの製造時において熱硬化性樹脂組成物中に気泡を含有させることで、各種の樹脂系において簡便な方法で低誘電率化を達成することができる。
【0021】
上記第3および第4の発明によれば、上記第1および第2の発明の効果に加え、金属張り積層板の誘電率をさらに低くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明においてプリプレグの製造に用いられる熱硬化性樹脂組成物は、特に限定されないが、例えば、プリント配線板用のプリプレグに一般に用いられている、耐熱性、耐薬品性等の良好な熱硬化性樹脂を主成分とするものを用いることができる。
【0024】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネート樹脂等を用いることができる。ポリフェニレンエーテル樹脂としては、フェノール類と過酸化物を混合して加熱することで分子量を制御しつつ熱硬化変性したものが知られており、これを適宜にエポキシ樹脂やシアネート樹脂と組み合わせて用いることができる。
【0025】
熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、およびこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、このエポキシ樹脂とともに用いる硬化剤としては、エポキシ樹脂を硬化させるものであれば特に限定されないが、例えば、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂等の多官能フェノール類、多官能アルコール類、アミン類、酸無水物等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
エポキシ樹脂組成物等の熱硬化性樹脂組成物には、上記に例示した成分の他に、必要に応じて、硬化促進剤、中空フィラー、顔料、染料等の他の成分を配合することができる。
【0028】
熱硬化性樹脂組成物は、芳香族炭化水素類、ケトン類、エーテル類、アルコール類、エーテルアルコール類、アミド類等の溶剤で希釈しワニスとして調製することができる。
【0029】
そしてプリプレグを作製する際には、ワニスとして調製した熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸する。
【0030】
このとき、例えば、減圧等をせずに大気中にて含浸を行うことで、プリプレグに気泡を含有させることができる。また、例えばワニスにバブリング処理を施すことで、ワニスの気泡含有量を調整することもでき、これにより金属張り積層板における絶縁層の気泡含有率を調整することができる。
【0031】
そして、例えば乾燥機中で加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(B−ステージ)にしたプリプレグを作製することができる。乾燥温度や乾燥時間は、熱硬化性樹脂や硬化剤の種類等にもよるが、例えば80〜200℃で1〜30分間の加熱乾燥を行う。
【0032】
プリプレグの基材としては、ガラスクロス、ガラスペーパー、ガラスマット等のガラス繊維基材を用いることができ、その他、クラフト紙、天然繊維布、有機合成繊維布等を用いることができる。基材の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.03〜0.5mm程度のものが用いられる。また、ガラス繊維基材として、シランカップリング剤等で表面処理したものや、機械的に開繊処理を施したものは、耐熱性や耐湿性、加工性等の点から好適である。
【0033】
中でも、誘電率が3〜5のガラスクロス、特にNEガラスクロスを基材として用いるのが好ましく、これにより、誘電率、誘電正接が低く高周波特性の良い金属張り積層板が得られる。
【0034】
なお、「NEガラスクロス」は、通常のEガラスの誘電率(6.6)よりも低い誘電率(4.6)のNEガラスで形成したガラスクロスであり、「NE」は日東紡績(株)製の「New Eガラス」のことである。
【0035】
また、上記のような誘電率のガラスクロスを用いるとともに、絶縁層の硬化樹脂の誘電率が3.5以下となるような熱硬化性樹脂組成物を用いることで、金属張り積層板の高周波特性をより高めることができる。このような誘電率は、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合にはその種類や硬化剤を適切に選択することで達成でき、また熱硬化性樹脂としてポリフェニレンエーテル樹脂を用いることで達成できる。
【0036】
プリプレグにおける乾燥後の樹脂含有量は、特に限定されないが、誘電特性等も考慮すると、ガラス繊維基材を含めたプリプレグの全量に対して例えば30〜70質量%である。
【0037】
そして本発明の金属張り積層板は、例えば、上記のようにして得られたプリプレグを所要枚数重ね、さらにその片面側または両面側の最外層のプリプレグに金属箔を重ね、所定の条件で加熱加圧成形することにより得ることができる。金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔等を用いることができる。金属箔の厚みは、例えば12〜70μmである。また、加熱加圧条件は、熱硬化性樹脂や硬化剤の種類等にもよるが、例えば、140〜200℃、0.5〜5.0MPa、10〜240分間の条件で成形を行うことができる。
【0038】
このようにして得られる、金属箔と絶縁層とを一体化してなる本発明の金属張り積層板は、絶縁層が気泡を含有し、絶縁層の気泡含有率は、低誘電率化の達成と、プリプレグの製造条件やプリント配線板の物性等も考慮すると、好ましくは5〜25体積%である。
【0039】
そして、上記のようにして作製した金属張り積層板の片面または両面に、常法に従って回路を形成し、プリント配線板を作製することができる。
【0040】
本発明のプリント配線板は、無線通信用アンテナや高周波モジュール等の各種の用途に用いることができ、特に、スルーホールを形成しない用途、例えば、無線通信用アンテナ等に好適である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
熱硬化性樹脂組成物の配合成分として以下のものを用いた。
[樹脂ワニスの調製]
臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製「EPICRON1121N−80M」)109質量部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製「EPICRON N690−75M」)17質量部、硬化剤としてジシアンジアミド2.4質量部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.06質量部を配合し、溶剤のメチルエチルケトンで希釈したものをディスパー等で攪拌、均一化した。このとき溶剤以外の配合成分(固形分)が60〜75質量%となるように溶剤量を調整し、このようにしてエポキシ樹脂と硬化剤を主成分とする熱硬化性樹脂組成物をワニスとして調製した。
[プリプレグの作製]
基材として、Eガラスクロス(日東紡績(株)製「WEA2116」、誘電率6.6)またはNEガラスクロス(日東紡績(株)製「NEA2116」、誘電率4.6)を用い、これらのガラスクロスに上記の熱硬化性樹脂組成物のワニスを室温にて大気中で含浸させた。また、含浸時に必要に応じてワニスにバブリング処理を施し、樹脂中に気泡を含有させた。
【0043】
その後、非接触タイプの加熱ユニットを用いて約130〜170℃で加熱することにより、ワニス中の溶剤を乾燥除去し、熱硬化性樹脂組成物を半硬化させてプリプレグを作製した。ワニスおよび樹脂含浸量の条件は、以下のように調整した。
【0044】
実施例1:銅張り積層板の絶縁層の気泡含有率が5体積%となるようにワニスにバブリング処理を施し、ガラスクロス100質量部に対して樹脂77質量部(樹脂44質量%)となるように樹脂含浸量を調整した。
【0045】
実施例2:銅張り積層板の絶縁層の気泡含有率が10体積%となるようにワニスにバブリング処理を施し、ガラスクロス100質量部に対して樹脂73質量部(樹脂42質量%)となるように樹脂含浸量を調整した。
【0046】
実施例3:銅張り積層板の絶縁層の気泡含有率が25体積%となるようにワニスにバブリング処理を施し、ガラスクロス100質量部に対して樹脂61質量部(樹脂38質量%)となるように樹脂含浸量を調整した。
【0047】
比較例1:ワニスにバブリング処理を施さず、気泡を含まないようにし、ガラスクロス100質量部に対して樹脂81質量部(樹脂45質量%)となるように樹脂含浸量を調整した。
[銅張り積層板の成形]
上記において作製したプリプレグ8枚(500mm×500mm)を2枚の銅箔(厚み35μm、三井金属鉱業(株)製)の粗化面の間に挟んで170℃、2.94MPaで90分間積層成形し、厚み0.8mmの絶縁層を有する銅張り積層板を得た。
〈絶縁層の気泡含有率〉
JIS K6911に準拠して、銅箔をエッチアウトした積層板の比重を測定し、比重より銅張り積層板の絶縁層の気泡含有率を算出した。
〈誘電率(Dk)、誘電正接(Df)〉
JIS C6481に準拠して銅張り積層板の誘電率(Dk)、誘電正接(Df)を測定した(測定周波数1MHz)。
【0048】
実施例1〜3および比較例1の銅張り積層板の絶縁層の気泡含有率および誘電率、誘電正接の測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1より、熱硬化性樹脂組成物のワニスに気泡を含有させ、この気泡を含有する熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸、乾燥してプリプレグ調製した実施例1〜3では、ワニスに気泡を含有させなかった比較例1に比べて銅張り積層板の誘電率を低下させることができた。気泡含有率が多くなるほど誘電率は低下し、NEガラスを用いた場合には誘電率はさらに低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し乾燥して得られるプリプレグを所要枚数重ね、さらに最外層のプリプレグのうち少なくとも一方に金属箔を重ねて加熱加圧成形することにより、金属箔と絶縁層とを一体化してなる金属張り積層板であって、絶縁層が気泡を含有することを特徴とする金属張り積層板。
【請求項2】
絶縁層の気泡含有率が5〜25体積%であることを特徴とする請求項1に記載の金属張り積層板。
【請求項3】
基材が誘電率3〜5のガラスクロスであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属張り積層板。
【請求項4】
絶縁層の硬化樹脂の誘電率が3.5以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一項に記載の金属張り積層板。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一項に記載の金属張り積層板の製造方法であって、熱硬化性樹脂組成物中に気泡を含有させ、この気泡を含有する熱硬化性樹脂組成物を基材に含浸し、乾燥してプリプレグを得る工程を含むことを特徴とする金属張り積層板の製造方法。

【公開番号】特開2011−46083(P2011−46083A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196076(P2009−196076)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】