説明

金属微粒子分散体、金属薄膜の製造方法および金属薄膜

【課題】 金属微粒子分散体に関し、分散体の安定性とこの分散体を用いて形成した金属薄膜の低抵抗を両立できる金属微粒子分散体を提供するとともに、これを用いた金属薄膜の製造方法及び金属薄膜を提供する。
【解決手段】 平均粒径が500nm以下の金属微粒子(A)及び分散媒からなる金属微粒子分散体であって、分散媒が分子中にスルフォン酸塩基を含有するポリマー(B)と溶媒(C)を含むことを特徴とする金属微粒子分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスルフォン酸塩基を分子中に導入したポリマーを含有する分散媒により、微細な金属微粒子を分散した、電極、配線、回路等を容易に形成することができる金属微粒子分散体に関するものである。また、この金属微粒子分散体を用いた金属薄膜の製造方法および金属薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電回路の形成のために金属微粒子を用いた金属ペーストがスクリーン印刷やディスペンサーで用いられている。使用する導電粒子は粒径が数μm以上のフレーク状の物を用いて、回路の厚みを10μm以上にして導電性を確保している。導電回路は近年、急速に高密度化が進んでいる。より緻密な回路の形成を可能にするため、より微細な金属微粒子の開発がなされている。
【0003】
微粒子の製造方法は、生成される相によって、固相法、気相法、液相法に分類される。固相法の粉砕によるプロセスでは粒系は0.1μm程度が限界である。ナノ粒子と呼ばれる粒径が数十nm以下の粒子の製造では、ビルドアッププロセスである気相法と液相法が適している。気相法の例としては、高温蒸気の冷却による物理的凝縮法および気相化学反応による粒子生成法が挙げられる。
【0004】
一方、液相法は粒子の構成成分が単一の場合だけでなく、多成分系にも適応できること、製造工程を多様化できること、粒径の制御が比較的容易であること、粒子の表面修飾が簡単に行えること等の利点を有し、種々の方法が検討されている。液相法には、共沈法、ゾル−ゲル法、ゲル−ゾル法、逆ミセル法、ホットソープ法、噴霧熱分解法などが提案されている。金属微粒子も保護ポリマーの存在下で金属塩を溶液中で還元する方法によりコロイド状態で合成されている。例えば、特許文献1には直鎖状脂肪族ポリエーテルを含有する金属微粒子分散体が開示されている。特許文献2にはピロリドン基を有するポリマーにより安定化された金属超微粒子分散体が開示されている。
【0005】
金属微粒子の粒径を低減することによって、金属微粒子間の焼成温度を大幅に下げることができることが知られている。例えば、特許文献3には、粒径100nm以下の金属微粒子を分散した分散体を用いて、金属薄膜を形成する方法が開示されている。この方法により電気回路や配線を形成できる。しかし、ナノ粒子に代表される微粒子は、表面積が非常に大きいため、極めて凝集し易い。そのため、バインダー樹脂や分散剤は金属微粒子に吸着することによって、微粒子の凝集を防止し、分散体の流動性を確保するという分散体を安定化させる役割を果たさなくてはならない。分散体の安定化のためには金属微粒子が微細化するほど、多量のバインダー樹脂や分散剤が必要になる。そのため、本来、低温焼成できる金属微粒子からなる分散体を用いても、バインダー樹脂や分散剤が導電性の向上を阻害する。バインダー樹脂や分散剤を昇華あるいは分解蒸発等により除く操作が必要になる。また、焼成によりフィルムやガラス等の基材との接着性が悪化することが起こりやすい。
【0006】
分散機能を持った樹脂として、カルボン酸、スルフォン酸、あるいは燐酸等の酸性官能基の塩を樹脂中に導入したものが知られている。特許文献4に開示されているように、磁気テープで使用されるフェライト等の金属酸化物の分散にはスルフォン酸金属塩基を分子中に有するポリウレタン樹脂等が有効である。
【0007】
【特許文献1】特開2006−9120号公報
【特許文献2】特開平5−224006号公報
【特許文献3】特開第2561537号明細書
【特許文献4】特公昭58−41565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性ペーストや導電性インキを利用して金属薄膜を形成し、これによって導電回路を形成する技術が汎用されている。導電回路の高密度化を達成するための方策の一つとして、回路幅や回路厚みを縮小することがなされる。導電性を確保しつつ、そのような変更を実現するために、使用される金属フィラーも微粒子化が進められている。一方、導電回路形成に関する作業性を確保するためには、金属微粒子分散体の凝集を防ぎ、適度な粘度を保持することが必要であるが、分散した金属微粒子を安定化させるためには、有機物を金属微粒子の表面に吸着させることが有効である。しかしながら、吸着した有機物は成膜後には導電性を低下させる。一般に、分散体での安定性と成膜後の導電性は相反する。
【0009】
本発明の課題は、基材上に塗布・加熱乾燥処理して導電層を得ることができる金属微粒子分散体に関し、分散体の安定性とこの分散体を用いて形成した金属薄膜の低抵抗を両立できる金属微粒子分散体を提供することである。なお、本発明における金属薄膜とは、金属のみからなる薄膜のみを指すものではなく、金属とその他の物質、例えばポリマー(B)、溶媒(C)、硬化剤(D)、分散剤から選ばれる1種以上の物質との混合物からなる薄膜をも指す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1) 平均粒径が500nm以下の金属微粒子(A)及び分散媒からなる金属微粒子分散体であって、分散媒が分子中にスルフォン酸塩基を含有するポリマー(B)と溶媒(C)を含むことを特徴とする金属微粒子分散体。
(2) 前記金属微粒子(A)は金属微粒子分散体の20〜80重量%であり、かつスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)100重量部に対し、金属微粒子(A)は600〜1500重量部であることを特徴とする(1)記載の金属微粒子分散体。
(3) さらに硬化剤(D)を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の金属微粒子分散体。
(4) (1)〜(3)いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対して加熱処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
(5) (1)〜(3)いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対してカレンダー処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
(6) (1)〜(3)いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対して焼成処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
(7) (4)〜(6)いずれかの製造方法で製造した金属薄膜。
(8) (7)に記載の金属薄膜からなる電気配線を構成要素として含む装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属微粒子分散体は、分散体の安定性が優れ、かつ、基材上に塗布して、加熱乾燥処理することにより、基板上に体積抵抗値の低い金属薄膜を形成することが可能である。また、本発明の好ましい実施態様においては、カレンダー処理および/または焼成処理を行うことにより、さらに導電性の高い金属薄膜を得ることができる。本発明の好ましい実施態様においては体積固有抵抗1×10−1Ω・cm以下の金属薄膜を得ることができ、より好ましい実施態様においては1×10−3Ω・cm以下、更に好ましい実施態様においては1×10−4Ω・cm以下、もっとも好ましい実施態様においては1×10−5Ω・cm以下の体積固有抵抗を示す金属薄膜を得ることができる。本発明の金属微粒子分散体から金属薄膜を形成させ、金属/樹脂積層体、電磁シールド金属薄膜、めっき用導電層、金属配線、導電回路等の装置を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の金属微粒子分散体は、平均粒径が500nm以下の金属微粒子(A)を分散質とし、スルフォン酸塩基含有するポリマー(B)と溶媒(C)を分散媒の必須成分とする。
【0013】
本発明に用いられる金属微粒子(A)の平均粒径の上限は500nm以下であり、好ましくは250nm以下、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。平均粒径の測定は、透過電子顕微鏡、電界放射型透過電子顕微鏡、電界放射型走査電子顕微鏡のいずれかにより粒子100個の粒子径を測定して平均値をもとめる方法による。
【0014】
金属微粒子の平均粒径が500nmより大きいと、分散体での金属微粒子の沈降を生じたり、微細回路の印刷適性が劣ったりする。平均粒径の下限は特に限定されないが、10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは60nm以上である。平均粒径が10nm未満であると、金属微粒子の分散が困難となり、安定な分散状態を保持するためには大量の分散媒が必要となり高導電性の金属薄膜を得るのが困難になる場合がある。本発明で用いる金属微粒子は、平均粒径が500nm以下であれば、異なる粒径の物を混合して使用してもかまわない。
【0015】
本発明で使用する金属微粒子(A)としては、加熱処理によって微粒子間が融着するものでも、融着しないものでも使用可能である。金属の種類としては、銅、ニッケル、コバルト、銀、白金、金、モリブデン、チタン等が挙げられ、特に銀、銅が好ましい。これらの金属微粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の方法を用いて調製することも可能である。また、異種の金属を積層した構造のもの、有機物あるいは無機物に金属めっきを施したものでもかまわない。
【0016】
本発明で用いるスルフォン酸塩基を分子中に含有したポリマー(B)はスルフォン酸基とアルカリ金属やアルカリ土類金属との塩、スルフォン酸基とアンモニアやアミンとの4級アンモニウム塩あるいはスルフォン酸基の4級フォスフォニウム塩等のスルフォン酸塩基を有する。ポリマーの種類としてはポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドあるいはアクリル等が挙げられる。スルフォン酸塩基のポリマーへの導入方法としては、スルフォン酸塩基含有原料をポリマー原料の一部としての使用、あるいはスルフォン酸導入ポリマーの中和がある。スルフォン酸基は強酸のため腐食や分解が生じやすいので、予めスルフォン酸塩基を有する原料を使用することが、ポリマーの性能や生産性から望ましい。ポリマーがポリエステルである場合を例にとると、スルフォン酸塩基を含有する原料としては、たとえば、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルフォスフォニウムスルホイソフタル酸等の二塩基酸が挙げられる。
【0017】
スルフォン酸塩基の量としてはポリマー(B)中の硫黄含有率で0.03〜6重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3重量%、更に好ましくは0.2〜1重量%である。0.03重量%未満では金属微粒子の分散に対するスルフォン酸塩基の効果が見られず、6重量%を超えると吸湿性が強くなりすぎたり、分散体の粘度が高くなりすぎたりする傾向がある。
【0018】
本発明の金属微粒子(A)の割合は金属微粒子分散体の20〜80重量%であることが好ましく、35〜55重量%がより好ましく、更に好ましくは35〜45重量%である。金属微粒子(A)が金属微粒子分散体中20重量%未満では、一回の塗布乾燥で金属薄膜の厚みをかせぐことが困難になる。また、分散体の粘度が低くなるため、塗膜ににじみが起こりやすくなる。金属微粒子分散体中の金属微粒子(A)の割合はスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)と金属微粒子(A)の重量比は分散体の安定性、塗膜と基材との密着性、塗膜の導電性等に影響する。この重量比はポリマー(B)100重量部に対し、金属微粒子(A)を600〜1500重量部で用いることが好ましく、800〜1200重量部が特に好ましい。スルフォン酸塩基含有ポリマー(B)を用いることにより、塗膜の導電性を損なわない程度の少量の使用でも金属微粒子(A)の凝集を防ぐことができる。
【0019】
本発明のスルフォン酸塩含有ポリマー(B)としては、樹脂の比重が1.25未満であることが分散安定性と導電性から好ましい。詳細な理由は不明であるが、樹脂と金属粒子の体積分率、吸着強度、成膜性等が関与していると思われる。
【0020】
本発明のスルフォン酸塩含有ポリマー(B)の数平均分子量は金属微粒子の分散性、基材との接着性等から4000〜100000が好ましく、8000〜50000が特に好ましい。
【0021】
本発明の金属微粒子分散体に使用される溶媒(C)は、スルフォン酸塩基含有ポリマー(B)を溶解するものから選ばれる。溶媒(C)は有機化合物であっても水であってもよい。溶媒(C)は、分散体中で金属微粒子(A)を分散させる役割に加えて、分散体の粘度を調整する役割がある。溶媒(C)として用いることができる有機溶媒の例として、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、アミド等が挙げられる。
【0022】
本発明の金属微粒子分散体には、必要に応じ、硬化剤(D)を配合しても良い。本発明に使用できる硬化剤(D)としてはフェノール樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ樹脂等が挙げられる。硬化剤の使用量はスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)の1〜30重量%の範囲が好ましい。
【0023】
本発明の金属微粒子分散体は、分散機能を持つスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)を必須成分として含んでいるが、さらにスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)と異なる分散剤を配合してもかまわない。分散剤としてはステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸等の高級脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸金属塩、燐酸エステル、スルフォン酸エステル等が挙げられる。分散剤の使用量はスルフォン酸塩基含有ポリマーの0.1〜10重量%の範囲が好ましい。
【0024】
金属微粒子分散体を得る方法としては、粉体を液体に分散する一般的な方法を用いることができる。例えば、金属微粒子(A)とスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)の溶液、必要により追加の溶媒からなる混合物を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロール法、ボールミル法等で分散を施せばよい。これらの分散手段のうち、複数を組み合わせて分散を行うことも可能である。これらの分散処理は室温で行ってもよく、分散体の粘度を下げるために、加熱して行ってもよい。
【0025】
液状の金属微粒子分散体を用いて、基材上に金属薄膜を形成するには、分散体を基材に塗布する場合に用いられる一般的な方法を用いることができる。例えばスクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法等が挙げられる。印刷あるいは塗布により形成された塗膜から加熱、減圧、送風あるいはこれらの複合等の操作により、あるいは自然乾燥により、溶剤の少なくとも一部を蒸発させることにより、金属薄膜を形成することができる。
【0026】
金属薄膜の形成方法によっては、塗布作業性や得られた金属薄膜の性能に、分散体の粘度が大きな影響を及ぼす場合がある。分散体の粘度を適正化するために、溶剤量で調整した場合、低粘度では金属微粒子の沈降が起き易い。スルフォン酸塩基含有ポリマー(B)を分散媒に含むことにより、低粘度での金属微粒子の沈降を抑えることができる。
【0027】
金属薄膜を形成後、薄膜が破壊しない範囲で加圧処理(カレンダー処理)をすることが好ましい。カレンダー処理により導電性が向上する傾向がある。カレンダー処理は一般的には金属ロールと弾性ロールの間で材料に応じた線圧、たとえば1〜100kg/cmの加圧処理を行うことである。カレンダー処理は、スルフォン酸塩基含有ポリマー(B)のガラス転移温度以上の温度に加熱して行うことが特に好ましい。カレンダー処理は金属薄膜層に他の層を積層した状態で行っても良い。
【0028】
本発明より得られる導電性の金属薄膜に、更に焼成処理を施すことが好ましい。焼成処理は金属微粒子の粒径が100nm以下の場合に特に高い効果を発揮する傾向にある。金属微粒子の結晶化度や酸化度等の表面状態により異なるが、いわゆるナノ粒子では表面活性が大きく、一般に知られているバルクの融点よりもはるかに低い温度で融着を始める。なお、本発明において焼成処理とは、金属微粒子(A)の少なくとも一部に融着を生じる加熱処理を指し、ポリマー(B)の分解や揮散は必ずしも要しないものとする。
【実施例】
【0029】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。
【0030】
樹脂組成:樹脂を重クロロホルムに溶解し、H−NMRにより定量した。
【0031】
数平均分子量:テトラヒドロフランを溶媒として用いて、ウォーターズ社製ゲル浸透クロマトグラフィによりポリスチレン換算値として求めた。
【0032】
硫黄濃度:堀場製作所製の紫外蛍光法硫黄分析計により燃焼紫外蛍光法により測定した。
【0033】
比重:水温30℃の塩化カルシウム水溶液中に樹脂約0.1gを投入し、塩化カルシウム濃度を調整し樹脂が浮き沈みしなくなった際の塩化カルシウム水溶液の比重を比重計で測定し、その値をもって樹脂比重とした。
【0034】
電気抵抗:横河M&C社製直流精密測定器ダブルブリッジ2769−10を用いて測定した。電気抵抗値は体積抵抗値として求めた。
【0035】
分散体安定性:金属微粒子分散体を30℃で1日静置した後の沈殿の有無を観察した。
○---沈殿なし。
△---少しの沈殿が認められ、沈殿量は全金属微粒子の20重量%以下である。
×---多量の沈殿がある。沈殿量は全金属微粒子の20重量%を越える。
【0036】
接着性:基材に対する接着性を常温におけるテープ剥離テストにより評価した。剥離テストは住友スリーエム製スコッチテープを貼り、これを剥がした際の基材の剥離状態を観察した。
○---剥離なし
△---一部、剥離する
×---全面剥離する
【0037】
用いた金属微粒子
銀微粒子(1):硝酸銀をアスコルビン酸とドデシルアミンによりヘキサン中で還元することにより得た。洗浄、乾燥後、透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径60nmの球状の粒子であった。
銀微粒子(2):硝酸銀を水素化ホウ素ナトリウムとドデシルアミンによりヘキサン中で還元することにより得た。洗浄、乾燥後、透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径830nmの球状の粒子であった。
銀微粒子(3):日本アトマイズ加工社製純銀粉「HXR−Ag」。平均粒径1μの球状粒子。
銅微粒子(1):水中にて、硫酸銅(II)、アンモニア、硫酸アンモニウム、及び金属銅を用い、pH調節により生成した銅(I)イオンを、銅(II)イオン、および銅に不均化分解反応により得た金属銅微粒子。透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径250nmの球状の粒子である。
銅微粒子(2):真空雰囲気中でのガス中蒸発法にて生成させた銅微粒子。銅微粒子製造時、坩堝で発生させた銅蒸気とα−テルピネオールの蒸気を混合し銅粒子の凝集やチェーン化を防止した。透過型電子顕微鏡により観察したところ、平均粒径20nmの球状の粒子である。
銅微粒子(3):日本アトマイズ加工社製純銅粉「HXR−Cu」。平均粒径1μの球状粒子。
【0038】
合成例1 スルフォン酸塩基含有ポリエステル(a)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル140部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル8.9部、1,3−プロピレングリコール122部、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレート82部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、ダイマー酸141部を追加しエステル化反応を200〜220℃で60分行った。反応系を30分で265℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で80分反応し、淡黄色透明なポリエステル(a)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0039】
合成例2 スルフォン酸塩基含有ポリエステル(b)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル97部、イソフタル酸ジメチル87部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル15部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、反応系を30分で250℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で50分反応し、淡黄色透明なポリエステル(b)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0040】
合成例3 スルフォン酸塩基含有ポリエステル(c)の合成
ポリエステル(b)と同じ組成の低分子量品を以下のようにして得た。
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル97部、イソフタル酸ジメチル87部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル15部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、反応系を30分で250℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で20分反応し、淡黄色透明なポリエステル(c)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0041】
合成例4 スルフォン酸塩基含有ポリウレタン(d)の合成
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器に予め乾燥させたポリエステル(c)100部、トルエン100部を仕込み50℃に加熱して溶解させた。ネオペンチルグリコール20部、シクロヘキサノン100部を加え、均一になってからジフェニルメタンジイソシアネート80部を投入した。80℃で60分反応後、数平均分子量1000のポリプロピレングリコール100部、ジブチル錫ジラウレート0.1部加え、80℃で5時間反応させた後、トルエン125部、シクロヘキサノン125部で希釈した。得られたポリウレタン(d)の分析結果を表1に示す。
【0042】
合成例5 ポリエステル(e)の合成
ポリエステル(a)と類似の組成でスルフォン酸塩基を含まないポリエステルを合成した。
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル146部、1,3−プロピレングリコール122部、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレート82部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、ダイマー酸141部を追加しエステル化反応を200〜220℃で60分行った。反応系を30分で265℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で80分反応し、淡黄色透明なポリエステル(e)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0043】
合成例6 ポリエステル(f)の合成
ポリエステル(b)と類似の組成のスルフォン酸塩基を含まないポリエステルを合成した。
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル97部、イソフタル酸ジメチル97部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、反応系を30分で250℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で50分反応し、淡黄色透明なポリエステル(f)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0044】
合成例7 ポリエステル(g)の合成
ポリエステル(c)と類似の組成のスルフォン酸塩基を含まないポリエステルを合成した。
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器にテレフタル酸ジメチル97部、イソフタル酸ジメチル97部、エチレングリコール81部、ネオペンチルグリコール73部及びテトラブトキシチタネート0.1部を仕込み、150〜230℃で180分間加熱し、エステル交換を行った後、反応系を30分で250℃まで昇温し、系を徐々に減圧し、10分後に0.3mmHg以下とした。この条件で20分反応し、淡黄色透明なポリエステル(g)を得た。得られた樹脂の分析結果を表1に示す。
【0045】
合成例8 ポリウレタン(h)の合成
ポリウレタン(d)と類似の組成のスルフォン酸塩基を含まないポリウレタンを合成した。
温度計、撹拌機、リービッヒ冷却管を具備した反応容器に予め乾燥させたポリエステル(g)100部、トルエン100部を仕込み50℃に加熱して溶解させた。ネオペンチルグリコール20部、シクロヘキサノン100部を加え、均一になってからジフェニルメタンジイソシアネート80部を投入した。80℃で60分反応後、数平均分子量1000のポリプロピレングリコール100部、ジブチル錫ジラウレート0.1部加え、80℃で5時間反応させた後、トルエン125部、シクロヘキサノン125部で希釈した。得られたポリウレタン(h)の分析結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1
下記の配合割合の組成物をサンドミルにいれ、800rpmで、3時間分散した。メディアは半径1mmのジルコニアビーズを用いた。得られた分散体を厚さ25μmのポリイミドフィルム上に、乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥して導電性金属薄層を得た。100℃、線圧50kg/cmでクロムめっきロールとゴムロールからなるカレンダーロールに通した。さらに、180℃で1時間熱処理し、銀微粒子の焼成を進めた。金属微粒子分散体の安定性と金属箔層のポリイミドフィルムとの接着性と電気抵抗の測定結果を表2に示す。カレンダー処理をせずに焼成処理を施した場合の電気抵抗も測定した。
ポリエステル(a)の溶液 5部
(トルエン/シクロヘキサノン=1/1(重量比)の40重量%溶液)
銀微粒子(1)(平均粒径60nm) 16部
γ−ブチロラクトン(希釈溶剤) 20部
【0048】
実施例2〜7
実施例1と同様にして表2に記載した配合比率の金属微粒子分散体を得た。実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
比較例1
下記の配合割合の組成物をサンドミルにいれ、800rpmで、3時間分散した。メディアは半径1mmのジルコニアビーズを用いた。分散操作後、数時間で銀微粒子の沈殿が起こり塗布できなかった。分散時間を10時間にしても改善できなった。
ポリエステル(e)の溶液 5部
(トルエン/シクロヘキサノン=1/1(重量比)の40重量%溶液)
銀微粒子(1)(平均粒系60nm) 16部
γ−ブチロラクトン(希釈溶剤) 20部
【0051】
比較例2〜7
比較例1と同様にして表3に記載した配合比率の金属微粒子分散体を得た。ただし、比較例2,3は比較例1と同様に分散操作を行ったが、数時間で銀微粒子の沈殿が起こり、評価用の導電性金属薄膜を得られなかった。比較例4では比較例3に分散剤としてオレイン酸を添加して、分散安定性に若干の改善を得た。比較例5〜6は比較例1とは平均粒径が異なる銀微粒子を用いた。比較例5と7は銀粒子の沈降が顕著に見られたが、素早い操作により評価試料を得た。比較例6は沈降量が多く、評価用の導電性金属薄膜を得られなかった。なお、比較例7では比較例4の二倍量のオレイン酸を用いた。結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
実施例8
下記の配合割合の組成物をサンドミルにいれ、800rpmで、3時間分散した。メディアは半径1mmのジルコニアビーズを用いた。分散後、硬化剤として日本ポリウレタン社製ポリイソシアネート「コロネートHX」0.5部を加えた。得られた分散体を厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥した。乾燥後、種々の温度で、線圧50kg/cmでクロムめっきロールとゴムロールからなるカレンダーロールに通した。さらに、150℃で2時間放置し銅微粒子の焼成処理を行ったが抵抗値に改善は見られなかった。カレンダー処理をせずに焼成処理を施した場合の電気抵抗も変化はみられなかった。金属微粒子分散体の安定性と金属薄層のポリエチレンテレフタレートフィルムとの接着性と電気抵抗の測定結果を表4に示す。
ポリエステル(b)の溶液 5部
(トルエン/シクロヘキサノン=1/1の40%溶液)
銅微粒子(1)(平均粒系250nm) 18部
γ−ブチロラクトン(希釈溶剤) 25部
【0054】
実施例9、10
実施例8と同様にして表4に記載した配合比率の金属微粒子分散体を得た。ただし、実施例10では、実施例8と異なる平均粒径の銅微粒子を用いた。実施例10では焼成処理により抵抗値が減少した。結果を表4に示す。
【0055】
比較例8
下記の配合割合の組成物をサンドミルにいれ、800rpm、3時間分散した。メディアは半径1mmのジルコニアビーズを用いた。分散後、硬化剤として日本ポリウレタン社製ポリイソシアネート「コロネートHX」0.5部を加えた。得られた分散体を厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム上に、乾燥後の厚みが2μmになるように塗布し、120℃で5分間乾燥した。乾燥後、種々の温度で、線圧50kg/cmでクロムめっきロールとゴムロールからなるカレンダーロールに通した。さらに、150℃で2時間放置し銅銀微粒子の焼成を進めた。カレンダー処理をせずに焼成処理を施した場合の電気抵抗も測定した。金属微粒子分散体の安定性と金属薄層のポリエチレンテレフタレートフィルムとの接着性と電気抵抗の測定結果を表4に示す。
ポリエステル(f)の溶液 5部
(トルエン/シクロヘキサノン=1/1(重量比)の40重量%溶液)
銅微粒子(1) (平均粒系250nm) 18部
γ−ブチロラクトン(希釈溶剤) 25部
オレイン酸 (分散剤) 1部
【0056】
比較例9、10
比較例8と同様にして表4に記載した配合比率の金属微粒子分散体を得た。ただし、比較例9、10は比較例1と同様に、分散操作後、数時間で銀微粒子の沈殿が起こり、評価用の導電性金属薄膜を得られなかった。
【0057】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の金属微粒子分散体は、分散体の安定性が優れ、かつ、基材上に塗布し加熱乾燥処理することにより、基材上に体積抵抗値の低い金属薄膜を形成することが可能である。得られた金属薄膜は金属/樹脂積層体、電磁シールド金属薄膜、めっき用導電層、金属配線材料、導電材料等に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が500nm以下の金属微粒子(A)及び分散媒からなる金属微粒子分散体であって、分散媒が分子中にスルフォン酸塩基を含有するポリマー(B)と溶媒(C)を含むことを特徴とする金属微粒子分散体。
【請求項2】
前記金属微粒子(A)は金属微粒子分散体の20〜80重量%であり、かつスルフォン酸塩基含有ポリマー(B)100重量部に対し、金属微粒子(A)は600〜1500重量部であることを特徴とする請求項1記載の金属微粒子分散体。
【請求項3】
さらに硬化剤(D)を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の金属微粒子分散体。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対して加熱処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対してカレンダー処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載の金属微粒子分散体を基材に塗布して形成した塗膜に対して焼成処理を施す工程を含む金属薄膜の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかの製造方法で製造した金属薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の金属薄膜からなる電気配線を構成要素として含む装置。

【公開番号】特開2010−132967(P2010−132967A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309437(P2008−309437)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】