説明

金属感のある装飾模様の作成方法およびそれを施した装飾体

【課題】表面が金属感を有する装飾模様の作成方法およびそれを施した装飾体。
【解決手段】被装飾面に部分的に所定印刷インキまたは塗料による、粘度により生成された、または、インキまたは塗料に充填された微小粒子により生成された適度の表面アラサを有する微細な色彩模様の印刷を施す第1工程と、前記色彩模様の印刷部分を含め被装飾面に全面に、所定の金属無電解メッキ、金属真空蒸着または金属イオンプレーティングのいずれか1種による被覆を施す第2工程により金属表面に2トーン模様を表示した金属感ある装飾模様の作成方法およびそれを施した装飾体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、少なくとも装飾面が金属感を有する装飾模様の作成方法およびそれを施した装飾体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
旧来から少なくとも装飾面に金属感を有する装飾模様を施す手法は極めて多く、また、それにより装飾模様を施された製品も多種にまたがっている。
すなわち、金属個体の表面をスクラッチやブラッシング等により部分的に模様を形成する方法や、金属メッキ、金属真空蒸着、金属イオンプレーティング、金属箔貼付等により個体表面を先ず金属表面として、更にその表面をマスキングを介してエッチング、液体ホーニング、サンドブラシングなどにより装飾模様を付す方法などが広く行われている。
しかしながら、これら従来の金属表面に装飾模様を付す場合、少なからぬ大がかりな設備を要したり、特にマスキングについては技術的にも難しく色々な開発が行なわれている。(例えば、特許文献1参照)
特に微細な模様を対象とする微細装飾については、さらにマスキング技術も難しく、また美術的にもかなり高度の手法を求められ、過去色々な手法によりこれを実現しようとする試みが行われているが、必ずしも十分なものは得られていない。
【特許文献1】特開2002−187398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、市場要求として、より微細で鮮明な、しかも全体として金属感のある装飾模様を求める傾向が強くなり、特に技術的にも美術的にも難しい微細模様による金属感のある装飾に対する強い要求があり、これに対する十分な技術の出現が望まれている。
本発明は、上記に鑑み、比較的安価に、金属感のある美術的な微細模様の作成方法およびそれを施こされた装飾体を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の金属感のある装飾模様の作成方法は、
1)被装飾面に部分的に所定印刷インキまたは塗料による微細な色彩模様の印刷を施す第1工程と、前記色彩模様の印刷部分を含め被装飾面に全面に、所定の金属無電解メッキ、金属真空蒸着または金属イオンプレーティングのいずれか1種による被覆を施す第2工程により金属表面に2トーン模様を表示するものである。
2)また、上述の1)において、前記所定印刷インキによる微細な色彩模様印刷の表面の適度の表面アラサを有するものであり、
3)上述の1)または2)において、前記微細な色彩模様印刷の表面が適度の表面アラサが、印刷インキまたは塗料の粘度により生成されたもの、または該印刷インキまたは塗料に充填された微小粒子により生成したものであり、
4)上述の1)〜3)において、前記微細な色彩模様印刷表面の表面アラサを、Hmaxで0.1〜2μmとしたものである。
【0005】
また、本発明の装飾体は、
5)上述の1)〜4)のいずれかの装飾模様作成方法により装飾された金属感ある装飾体であり、
6)上述5)における、金属感ある装飾体を携帯電話またはデジタルカメラのボディとしたものであり
7)上述5)における、金属感ある装飾体を自動車用内装または外装部品としたものであり、
8)上述5)における、金属感ある装飾体を装飾品またはメガネフレームとしたものである。
【0006】
すなわち、従来少なくとも表面が金属感を与えられた金属表面への模様付け処理におけるインキ印刷または塗料塗布面の役割は、非模様付け部分のマスキングのためのものであって、従ってメッキ後において、インキ印刷または塗料塗布面は剥離剤等により除去していた。
本願発明においては、インキ印刷または塗料塗布面を微細色彩模様として積極的に生かし、その部分をベースの金属表面とは異なる装飾模様としての金属表面状態を形成させたところに第1の特徴がある。
また、本発明の金属感を有する装飾体は、その微細模様部分を線幅50μm以下の極細線または該極細線による模様、または所定の分布により印刷された網点画像(以下、微細模様という)としたところに第2の特徴があり、さらに微細模様を構成する印刷または塗装の表面を適度の表面アラサを有するものとしたところに第3の特徴がある。
これによりベース金属表面単独では得られなかったような、微細模様を付加され且つ全体として金属感を与えられた、ファッション性ある微細模様を有する装飾体を得ることができるものである。
【0007】
従って本発明においては、金属感を与える処理であれば如何なる手法によっても金属被膜を形成することができるし、装飾体の母材は、金属、プラスチック、木材、石膏等でもよく極めて自由度を有する。但し、非導電性材料の母材および印刷面に対して電気的に金属被覆を行う場合は、当然予め無電解金属メッキ等によって少なくともその被装飾面を導電化しておく必要がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、市場要求が強く技術的にも美術的にも難しい微細模様を付した全体として金属感を有する微細装飾の作成方法およびそれを施した装飾体を比較的コストも安く提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体の作成工程を示す説明図である。
図2は、本実施の形態1による装飾体の断面の1例を示す説明図である。
図において、1は装飾体、2は被装飾体、3は色彩印刷または塗装膜、4は金属被膜である。
【0010】
図に示すように、本実施の形態1における、金属感を有する微細模様付装飾体1の被装飾体2は、金属や、ABS、ポリカーボネートなどのプラスチックや、石膏、木材等の母材による平面形状のものばかりでなく曲面の被装飾面を有する広範囲な被装飾体2とすることができる。OP1印刷または塗装による微細模様付工程に先立ち、被装飾体2の被装飾面は清浄化処理が施される。母材により異なるが、通常実施されている各種の清浄化処理方法により行われる。
【0011】
OP1印刷または塗装による微細模様付工程において、微少色彩印刷または塗装が行なわれる。被装飾面が曲面の場合の印刷は基本的にパッド印刷法により、また平面の場合の印刷はスクリーン印刷等の通常の印刷方法により印刷される。印刷または塗装後において、印刷インキまたは塗料3は、加熱、UV等により、または印刷インキまたは塗料3の組成自体における固定化の働きにより固定化する。固定化された印刷インキまたは塗料は、以後の工程における金属被覆により冒される、乃至変色されることを十分避け得る組成のものでなければならない。印刷または塗装されたインキまたは塗料3の表面は適度の表面アラサを有することが最終の微細模様を認識させるために極めて重要である。
【0012】
前記適度の表面アラサは、印刷または塗布された印刷インキまたは塗料の粘度、およびその固定化条件により選択される。
粘度が少な過ぎると、模様表面は表面張力によるメニスカス表面として平坦化されてしまい模様インキまたは塗料の厚さの差のみで模様が表現され、模様自体の表面のアラサによるベース金属表面との微細凹凸の差が生じず、装飾模様としては思わしくない。
また、粘度が大き過ぎると、表面に粘度による大きな波状紋が生じ思わしくない。
実験の結果、美的な最終の微細模様を得るための印刷インキまたは塗料の粘度としては、粘性係数μは通常10〜500PaSに対して、好ましくは15〜100PaS程度が望ましい。
また、上記の粘度によって表面アラサを維持する替わりに、インキまたは塗料に微粒子の粉体を充填することにより適宜の表面アラサを選択することが可能で、これによりより複雑な微細模様の金属装飾面を得ることができる。多くの思考錯誤の結果、美術的な微細模様として最終金属面を認識させるためには、充填される微粒子の粉体は、粒子直径1〜5μm程度が好ましいことがわかった。
上述における、適度のアラサは0.1〜5μm程度とするのが好ましい。しかし、これに限定されるものではない。
【0013】
また、本発明の特徴でもある、微細色彩印刷は、前述のごとく線幅50μm以下の極細線または該極細線による模様、または所定の分布により印刷された網点画像として印刷される。本出願人の出願になる特願2004−258811号「曲面の印刷方法およびそれによる曲面体」、特願2004−263554号「曲面の印刷方法およびそれによる曲面体」等による極細線の印刷方法を使用することができる。
極細線による微細色彩印刷により、極めて繊細な色彩模様を作成せることができる。また所定の分布により印刷された網点画像は、その分布により繊細なボカシ効果を与えることができる。
【0014】
上記印刷または塗布3を施された被装飾体2は、OP2金属被覆工程において被装飾面全面に金属被膜3を被覆される。被覆は、金属無電解メッキ、金属真空蒸着、金属イオンプレーティング、または電気金属メッキ等の方法にて施行される。金属としては、Ti、Ni、Cu、Au、Ag、Pt、Rh、Pd等の装飾性のある金属が、装飾体のデザイン面より選択される。また、真空蒸着やイオンプレーティングによる場合には適当な色彩色素を併合して処理することにより、金属感が有り、しかも独特の色彩を有する装飾面を作成することができる。
いずれにしても、OP2工程による金属被膜3の厚さは、金属被覆が厚過ぎては、印刷または塗布表面のアラサ面の効果が削減されてしまい、また薄過ぎては十分に被覆がゆきわたらない恐れがあり、後段における試験の結果から0.1〜2μm程度が好ましいことがわかった。
【実施例】
【0015】
サンプル試験として、次ぎの試料を作成し、最終修飾表面の状態を目視およびルーペによる観察により比較した。
試 料:ABS板(50×30×1(厚さ) [mm])
印 刷:UVインキ(黒色)による画像印刷
インキ粘度;(約10、50、100、150 PaS)
印刷画像;
(イ)5mm線幅×10mm間隔 市松模様
(ロ)(50μm線幅×20μmピッチ)集合線×10mm間隔 市松模様
インキ厚さ;3μm(一定)
インキ表面アラサ(固定化後);
0.05S、0.4S、1.6S、3.2S、6.3S(相当)
但し、インキ表面アラサ6.3Sの試料は、インキ粘度150PaSインキ
に平均直径2μmのセラミック粒子を添加し作成した。
金属被覆:被覆金属 Cu ( 被覆厚さ 約0.5μm )
無電解メッキ;
ロシェル塩浴、pH 12.0、温度 20℃
真空蒸着;
高周波プラズマ放電、真空度10-5Torr
【0016】
ABS板試料を表面清浄化処理をし、上記各インキ粘度の印刷インキにより(イ)、(ロ)の模様を各2枚当て印刷した。加熱固定化処理後通常の工程による無電解メッキおよび真空蒸着法によりCu被膜を被覆粒子直径1〜5μm程度が好ましいことがわかった。
した。上記試料作成は、工程上特に問題を生ずることなく行われた。
作成された資料の被覆面を目視およびルーペ(倍率;×30)により外観表面状態を観察した。 観察結果を図3に示す。
【0017】
印刷模様(イ)の場合、印刷部と非印刷部との表面状態の差は、印刷表面アラサによって比較的明瞭な模様差が確認された。特に1.6sおよび3.2sの表面アラサの場合、極めて美的にも良好な結果が得られている。また、Cu真空蒸着に較べてCu無電解メッキの方が仕上がり表面は好ましいものであった。
印刷模様(ロ)の場合は、集合線の状態による仕上がり表面への影響が強く、表面アラサの許容範囲は狭くなるように思われる。特に表面アラサが粗い6.3sのものでは、仕上がり模様の状態で集合線の模様が強く強調され過ぎて好ましくない。またその強調度合いもCu無電解メッキよりCu真空蒸着の場合がより強い。
被覆厚さは試験においては、被覆厚さ約0.5μm一定としたが、印刷面の表面アラサ1.6S、3.2Sの範囲では被覆厚さ約0.1〜2μmの比較的広い範囲でも良好な金属感を有する装飾模様が得られることの知見を得た。
【産業上の利用可能性】
【0018】
上記実施例においては、金属感のある装飾体として比較的小形のものを対象としているが、特許請求の範囲において、自動車の内装品や調度家具などの大形の装飾体に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1における、金属感を有する微細模様を付した装飾体の作成工程を示す説明図である。
【図2】本実施の形態1による装飾体の断面の1例を示す説明図である。
【図3】本実施例1における 試験観察結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
1 装飾体
2 被装飾体
3 色彩印刷または塗装膜
4 金属被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装飾面に部分的に所定印刷インキまたは塗料による微細な色彩模様の印刷を施す第1工程と、前記色彩模様の印刷部分を含め被装飾面に全面に、所定の金属無電解メッキ、金属真空蒸着または金属イオンプレーティングのいずれか1種による被覆を施す第2工程により金属表面に2トーン模様を表示することを特徴とする金属感のある装飾模様の作成方法。
【請求項2】
前記所定印刷インキによる微細な色彩模様印刷の表面が適度の表面アラサを有することを特徴とする請求項1に記載の金属感のある装飾模様の作成方法。
【請求項3】
前記微細な色彩模様印刷の表面の適度の表面アラサが、印刷インキまたは塗料の粘度により生成されたものまたは、該印刷インキまたは塗料に充填された微小粒子により生成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の金属感のある装飾模様の作成方法。
【請求項4】
前記微細な色彩模様印刷表面の表面アラサが、Hmaxで0.1〜2μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属感のある装飾模様の作成方法。
【請求項5】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装飾模様作成方法により装飾されたことを特徴とする金属感のある装飾体。
【請求項6】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装飾模様作成方法により装飾された被装飾体が、携帯電話またはデジタルカメラのボディであることを特徴とする金属感のある装飾体。
【請求項7】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装飾模様作成方法により装飾された被装飾体が、自動車用内装または外装部品であることを特徴とする金属感のある装飾体。
【請求項8】
前記請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装飾模様作成方法により装飾された被装飾体が、装飾品またはメガネフレームであることを特徴とする金属感のある装飾体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−130600(P2007−130600A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327805(P2005−327805)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000145378)株式会社秀峰 (32)
【Fターム(参考)】