説明

金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板とそれらの製造方法

【課題】絞りおよび絞りしごき加工して用いられる缶用ラミネート鋼板被覆用の耐食性に優れる樹脂フィルムおよび耐食性に優れる樹脂フィルム被覆金属板を提供する。
【解決手段】固有粘度を規定したポリエステル樹脂に,ゴム状弾性体樹脂,及びエポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合し,ポリエステル樹脂中にゴム状弾性体樹脂を分散させた構造を有した実質上未配向状態のフィルムで,金属板に接するフィルム面におけるゴム状弾性体および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂の露出面積率を規定した金属板被覆用樹脂フィルムおよび同フィルムを用いた金属板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,耐食性に優れる金属板被覆用樹脂フィルムおよび耐食性に優れる樹脂フィルム被覆金属板に関する。さらに詳しくは,絞りおよび絞りしごき加工して用いられる缶用ラミネート鋼板被覆用の耐食性に優れる樹脂フィルムおよび耐食性に優れる樹脂フィルム被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,例えば飲料用の缶の内側には腐食防止を目的としてエポキシ・フェノール系樹脂,エポキシ・アミノ系樹脂,水性エポキシ・アクリル系樹脂などの樹脂コーティングが施されていた。近年,フレーバー保持性,製缶性に優れる点および製缶工程での塗料溶剤処理および潤滑液処理の省略が可能な点から,塗装缶に代って,耐衝撃性を有するポリエステルフィルムを予めラミネートした鋼板を用いて深絞りおよび絞りしごき加工した飲料缶が普及しつつある。
【0003】
前述の深絞りおよび絞りしごき加工用のラミネート鋼板の被覆用樹脂フィルムを構成する樹脂としては,結晶性ポリエステル樹脂と非晶性ポリエステル樹脂からなる樹脂組成物をラミネートする方法が開示されている(特許文献1参照。)。当該方法では,ラミネート工程中で,界面の結晶化率を容易に低下できるため,密着性が向上する反面,耐衝撃性およびガスバリア性が低下し,これらの特性を発現するためには,2軸延伸膜を使用して結晶化を積極的に残留させる等の工程の制約があった。
【0004】
また,ポリエステル樹脂とアイオノマー樹脂との組成物からなるフィルムを,金属板にラミネートする技術が開示されている(特許文献2参照。)。当該技術では,結晶化が低下しても樹脂そのものに耐衝撃性があるため,密着性と耐衝撃性との両方を兼備できるが,低温での耐衝撃性を十分に改善できるまでには至っていない。
【0005】
ポリエステル樹脂,アイオノマー樹脂,ポリエステルエラストマーの3元組成物を,金属板の被膜に応用する技術が開示されている(特許文献3,特許文献4参照。)。これらの技術では,低温,室温ともに耐衝撃性がある程度改善されるものの,まだ十分な水準にまで至っていなかった。
【0006】
ポリエステル樹脂中に,アイオノマー樹脂でカプセル化したオレフィン系ゴム状弾性体を微分散させた樹脂組成物からなるフィルムが,開示されている(特許文献5参照。)。このフィルムにより,大幅に密着性と耐衝撃性を向上することが可能であるが,しごき加工で金属容器を長期間連続成形する場合には,耐衝撃性が低下したり,白化して外観を低下させたりする場合があった。
【0007】
ポリエステル樹脂とポリオレフィン樹脂およびポリオレフィンエラストマーからなる群より選択された少なくとも1種からなる熱可塑性樹脂組成物を,耐衝撃性を保持しつつ混練工程を省略することにより熱履歴による樹脂物性の劣化を低減させ,またフィルムとして巻き取ることなく,かつ接着プライマーを介在させず直接金属板に実質上未配向の状態で圧着させる等,フィルム製造から金属板へのラミネートに至る工程コスト削減を図る技術が,開示されている(特許文献6参照。)。
【0008】
ポリエステル樹脂と強固な相互作用ができる相溶化剤としてエポキシ基含有ユニットを有するポリオレフィン系樹脂を選定し,ゴム状弾性体樹脂を溶融混練によって微細分散させたフィルムによって加工時の白化低減や耐衝撃性の向上を図るものであり,接着プライマーレスが前提である技術が,開示されている(特許文献7参照。)。
【0009】
一方,この樹脂組成物からなるフィルムは,少なくとも1軸方向延伸処理し生産性を向上させ,しごき加工で金属容器を長期間連続成形する場合の白化の低減や成形缶体での耐衝撃性の向上を図るものが,公開されている(特許文献8,特許文献9,特許文献10参照。)。
【0010】
【特許文献1】特開平3−269074号公報
【特許文献2】特開平7−195617号公報
【特許文献3】特開平7−290644号公報
【特許文献4】特開平7−290643号公報
【特許文献5】国際公開第99/27026号パンフレット
【特許文献6】特開2002−347176号公報
【特許文献7】特開2003−113292号公報
【特許文献8】特開2004−216891号公報
【特許文献9】特開2004−285342号公報
【特許文献10】特開2004−285343号公報
【特許文献11】特開平5−186613号公報
【特許文献12】特開平5−222357号公報
【特許文献13】特開平11−48431号公報
【特許文献14】特開平11−138702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら,上記の開示されている技術では,当該フィルムをラミネートした金属板からなる成形缶体に内容物を充填し,長期保存した場合,母材である金属板が腐食する場合があり,更なるフィルム性能の向上が求められている。
【0012】
本発明は,耐衝撃性確保を目的としてポリエステル樹脂中にゴム状弾性体樹脂を分散させた金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板に関し,前記の性能向上,特に接着プライマーレス前提での金属板の耐食性を向上させるための金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは,特許文献7記載の樹脂組成物を中心に,金属被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板を用いた,特に接着プライマーレス成形缶体での内容物充填後の母材腐食の原因を解析した。その結果,母材の腐食部位は,金属板と接するおよび接しているフィルム面のゴム状弾性体および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂部位が起点となっている場合が多い事,同部位の露出総面積率が高い場合に腐食する場合が多く観察されることを見出した。そこで,本発明者らは,内容物充填後の母材腐食の原因を,フィルムと金属板界面において,ゴム状弾性体および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂の密着性が確保できていないミクロな部位があることに起因していると推定し,同部位が金属板表面に接する面積を最低限に保持可能な製膜方法を採用すること,また,金属板と接するフィルム面およびラミネート後の金属板に接するフィルム面の同部位の面積をはじめとする状態を規定する事が必要であるとの考察に基づき,本発明に至った。
【0014】
すなわち,本発明の要旨は,
(1)固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を含み,前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有し,金属板被覆用樹脂フィルムが被覆する金属板に接する当該金属板被覆用樹脂フィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下であり,実質上未配向状態のフィルムであることを特徴とする金属板被覆用樹脂フィルムである。
(2)前記被覆される金属板に接する前記金属板被覆用樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする前記(1)に記載の金属板被覆用樹脂フィルムである。
(3)前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)は1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は1〜50質量部であることを特徴とする,前記(1)および(2)に記載の金属板被覆用樹脂フィルムである。
(4)前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,前記(1)〜(3)に記載の金属板被覆用樹脂フィルムである。
(5)前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記金属板被覆用樹脂フィルムを構成する樹脂組成物全体量に対して0.1質量%以下であることを特徴とする,前記(1)〜(4)に記載の金属板被覆用樹脂フィルムである。
(6)前記(1)〜(5)に記載の金属被覆用樹脂フィルムの金属板に接するフィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層有することを特徴とする金属板被覆用樹脂フィルムである。
(7)固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂が混合され,前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有する樹脂組成物および/またはフィルムが,実質上未配向の状態で金属板に被覆され,当該金属板に接する前記フィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下であることを特徴とする樹脂フィルム被覆金属板である。
(8)前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,前記(7)に記載の樹脂フィルム被覆金属板である。
(9)前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)は1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は1〜50質量部であることを特徴とする,前記(7)および(8)に記載の樹脂フィルム被覆金属板である。
(10)前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,前記(7)〜(9)に記載の樹脂フィルム被覆金属板である。
(11)前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,フィルムを構成する樹脂組成物全体量の0.1質量%以下であることを特徴とする,前記(7)〜(10)に記載の樹脂フィルム被覆金属板である。
(12)前記(7)〜(11)に記載の金属被覆用樹脂フィルムの金属板に接するフィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層有することを特徴とする樹脂フィルム被覆金属板である。
(13)固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合し,前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)を分散させた構造を有する樹脂組成物をTダイから加熱溶融状態で金属板に直接押し出し,被覆される金属板に接する前記樹脂組成物からなるフィルムの前記金属板表面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下である前記樹脂組成物からなるフィルムを製造することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(14)前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,前記(13)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(15)前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)が1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が1〜50質量部であるように,前記ポリエステル樹脂(A),前記ゴム状弾性体樹脂(B),および前記ポリオレフィン系共重合体樹脂を混合することを特徴とする,前記(13)および(14)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(16)前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,前記(13)〜(15)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(17)前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記樹脂フィルムを構成する前記樹脂組成物全体量の0.1質量%以下であることを特徴とする,前記(13)〜(16)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(18)前記(13)〜(17)に記載の製造方法で製造された金属板に接する樹脂フィルムの面と反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層被覆することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(19)固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合し,前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)を分散させた構造を有する実質上未配向状態のフィルムを金属板に熱圧着し,当該金属板に接する前記実質上未配向状態のフィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下である前記実質上未配向状態のフィルムを製造することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(20)前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,前記(19)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(21)前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)が1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が1〜50質量部であるように,前記ポリエステル樹脂(A),前記ゴム状弾性体樹脂(B),および前記ポリオレフィン系共重合体樹脂を混合することを特徴とする,前記(19)および(20)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(22)前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,前記(19)〜(21)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(23)前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記樹脂フィルムを構成する前記樹脂組成物全体量の0.1%質量%以下であることを特徴とする,前記(19)〜(22)に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
(24)前記(19)〜(23)に記載の製造方法で製造された金属板に接する樹脂フィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層被覆することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板は,ポリエステル樹脂中にゴム状弾性体樹脂が分散しており,特に金属板に接するフィルム面およびラミネート後の金属板に接するフィルム面におけるポリエステル樹脂とゴム状弾性樹脂,ポリオレフィン共重合樹脂との存在状態を規定する事により,接着プライマーを用いずともフィルムと金属板面との密着性が向上し,十分な耐食性が確保可能である。そのため,耐衝撃性,厳しい加工が求められる飲料缶用途に用いられる金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板として,工業的に極めて価値の高い発明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
以下に,本発明に係る金属板被覆用樹脂フィルムおよび樹脂フィルム被覆金属板について説明する。
【0018】
始めに,金属板被覆用樹脂フィルムを構成する3種の熱可塑性樹脂である,ポリエステル樹脂(A),ゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)について説明する。
【0019】
(ポリエステル樹脂(A))
本発明では,フィルムに使用するポリエステル樹脂(A)として,例えば,ヒドロキシカルボン酸化合物残基とジオール化合物残基を構成ユニットとする熱可塑性ポリエステル,ジカルボン酸残基とジオール化合物残基を構成ユニットとする熱可塑性ポリエステル,またはヒドロキシカルボン酸化合物残基及びジカルボン酸残基及びジオール化合物残基を構成ユニットとする熱可塑性ポリエステルを使用することができる。また,これらの混合物であってもよい。
【0020】
ヒドロキシカルボン酸化合物残基の原料となるヒドロキシカルボン酸化合物を例示すると,例えば,p−ヒドロキシ安息香酸,p−ヒドロキシエチル安息香酸,2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(4’−カルボキシフェニル)プロパン等が挙げられ,これらを単独で使用しても,2種類以上混合して使用してもよい。
【0021】
また,ジカルボン酸残基を形成するジカルボン酸化合物を例示すると,例えば,テレフタル酸,イソフタル酸,オルトフタル酸,1,4−ナフタレンジカルボン酸,2,3−ナフタレンジカルボン酸,2,6−ナフタレンジカルボン酸,2,7−ナフタレンジカルボン酸,ジフェン酸等の芳香族ジカルボン酸,及びアジピン酸,ビメリン酸,セバシン酸,マロン酸,コハク酸,リンゴ酸,クエン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられ,これらを単独で使用しても,2種類以上混合して使用してもよい。
【0022】
次に,ジオール残基を形成するジオール化合物を例示すると,例えば,2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下,「ビスフェノールA」と略称する。),ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン,ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン,o−ヒドロキシフェニル−p−ヒドロキシフェニルメタン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル,ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド,ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン,ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン,ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン,ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル,ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン,ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド,1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン,1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン,1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン,1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン,1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン,1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン,2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン,2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン,1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン,4,4’−ビフェノール,3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル,4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール,及びエチレングリコール,プロピレングリコール,1,4−ブタンジオール,ペンタメチレングリコール,水添ビスフェノールA等の脂肪族ジオール等が挙げられ,これらを単独使用しても,2種類以上混合して使用してもよい。
【0023】
また,上記の化合物から得られるポリエステル樹脂を,単独で使用してもよく,2種類以上混合して使用してもよい。
【0024】
本発明に係るポリエステル樹脂(A)は,上記の残基の組み合わせより構成されていればよいが,中でも芳香族ジカルボン酸残基とジオール残基より構成される芳香族ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0025】
本発明において,フィルムに使用する好ましいポリエステル樹脂(A)を例示すると,例えば,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリヘキサメチレンテレフタレート,ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート,ポリエチレン−2,6−ナフタレート,ポリブチレン−2,6−ナフタレート等が挙げられるが,なかでも適度の機械特性,ガスバリア性,金属密着性を有するポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレン−2,6−ナフタレート,ポリブチレン−2,6−ナフタレートが最も好ましい。
【0026】
本発明に使用するポリエステル樹脂(A)の固有粘度は,0.7〜1.4dl/gである。固有粘度が0.7dl/g未満の場合は,マトリックス自体の機械強度や耐衝撃性が低くなり,金属板にラミネートした後の成形加工時に割れ,破れ等が生じ,フィルムとしての特性が確保できない。一方,固有粘度が1.4dl/g超過の場合には,フィルム成形時に受ける熱履歴による粘度低下が大きく,また,経済的とはいえず,いずれも好ましくない。
【0027】
ポリエステル系樹脂(A)の特に好ましい固有粘度範囲は,0.8〜1.2dl/gである。この範囲に制御することにより,マトリックス強度をより確実に保持できる。また,固有粘度を当該域に制御することにより,伸張粘度を適正域に制御でき,製膜加工しても伸張応力によりゴム状弾性体(B)相が伸張方向に配向しにくくなる。この結果,ゴム相に応力が残留しないため金属と被膜との密着力をより強固にでき,かつ,しごき加工のような厳しい加工をしても,フィルムに生じる疵や耐衝撃性の低下を,より確実に防止できる。
【0028】
(ゴム状弾性体樹脂(B))
次に,ゴム状弾性体樹脂(B)について説明する。本発明に係る樹脂組成物を構成するゴム状弾性体樹脂(B)は,例えば,西敏夫編「ゴム材料選択のポイント」日本規格協会(1993)等に記載されている公知のゴム状弾性体樹脂を,広く使用できる。中でも水蒸気や酸素などの腐食要因物のバリア性から好ましいのは,以下に示す(式2)の構成ユニットを有する共重合体である。
【0029】
−R1 CH−CR2 3 − ・・・(式2)
(式中,R1 およびR3 は各々独立に炭素数1〜12のアルキル基もしくは水素を示し,R2 は炭素数1〜12のアルキル基,フェニル基もしくは水素を示す。)
【0030】
具体的には,例えば,エチレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−プロピレン−ジエン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−ブテン共重合体,エチレン−アクリル共重合体,スチレン−ブタジエン共重合体とその水素添加物等からなる共重合体が挙げられる。より具体的には,例えば,極低密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−1−ブテン共重合体,エチレン−1−ペンテン共重合体,エチレン−3−エチルペンテン共重合体,エチレン−1−オクテン共重合体等のエチレンと炭素数3以上のα−オレフィンの共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−アクリル酸もしくはその誘導体との共重合体,エチレン−メタクリル酸もしくはその誘導体との共重合体,前記2元共重合体にブタジエン,イソプレン,5−メチリデン−2−ノルボーネン,5−エチリデン−2−ノルボーネン,シクロペンタジエン,1,4−ヘキサジエン等を共重合したエチレン,炭素数3以上のα−オレフィン及び非共役ジエンからなる3元共重合体,スチレン−ブタジエン共重合体とその水素添加物,スチレン−イソプレン共重合体等が挙げられる。
【0031】
上記の化合物の中でも,例えば,極低密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,また,エチレン−プロピレン共重合体やエチレン−酢酸ビニル共重合体の2元共重合体,又は,エチレン−プロピレン共重合体に,非共役ジエンとして5−メチリデン−2−ノルボーネン,5−エチリデン−2−ノルボーネン,シクロペンタジエン,1,4−ヘキサジエンを使用し,α−オレフィン量を20〜60質量%,非共役ジエンを0.5〜10質量%共重合した樹脂が好ましい。これらの樹脂は結晶相を有するので,−10℃から室温までの領域で,良好な耐衝撃性を保持できる。
【0032】
さらに,ゴム状弾性体樹脂(B)の好ましい溶融粘度範囲は,ポリエステル樹脂(A)への分散性により決定される。ゴム状弾性体樹脂(B)をポリエステル樹脂(A)内に微細分散化させるためには,溶融混練温度,剪断速度域でのポリエステル樹脂(A)の粘度と比較して,ゴム状弾性体樹脂(B)の粘度を1/2以下とすることが好ましい。また,ポリエステル樹脂(A)の溶融粘度に応じて,ゴム弾性体樹脂(B)の分子量及び分子量分散を上記粘度領域になるように制御することが望ましい。具体的な溶融粘度測定条件を例示すると,例えば,ポリエステル系樹脂(A)を構成する樹脂の中で最も高融点である成分の融点よりも35℃高い温度において,剪断速度域100〜1000/sの範囲でキャピラリー粘度計によって測定する方法が挙げられる。
【0033】
本発明では,フィルムに使用するゴム状弾性体樹脂(B)は,上記の構成単位の単独重合体であっても,2種類以上の共重合体であっても,また,上記のユニットで形成される樹脂単位の共重合体であっても良い。繰り返し単位の例としては,例えば,エチレン,プロピレン,1−ブテン,1−ペンテン,4−メチル−1−ペンテン,1−ヘキセン,1−オクテン,1−デセン,1−ドデセン等のα−オレフィンを付加重合したときに現れる繰り返し単位や,イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィン,スチレンモノマーの他に,o−,m−,p−メチルスチレン,o−,m−,p−エチルスチレン,t−ブチルスチレン等のアルキル化スチレン,モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン,α−メチルスチレン等のスチレン系モノマーの付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0034】
(ポリオレフィン系樹脂(C))
本発明では,フィルムに使用するゴム状弾性体(B)の分散性を向上する目的で,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系樹脂(C)を含有していなければならない。ポリオレフィン系樹脂(C)は,上記の(式2)のユニットとエポキシ基含有ユニットから構成される。本発明で使用するポリオレフィン系樹脂(C)は,これらのユニットの単数もしくは複数の共重合体でも,また,ユニットが樹脂単位で共重合化される共重合体であってもよい。具体的に,上記の(式2)で示される構成単位を例示すると,例えば,プロピレン,1−ブテン,1−ペンテン,4−メチル−1−ペンテン,1−ヘキセン,1−オクテン,1−デゼン,1−ドデゼン等のα−オレフィンを付加重合したときに現れる繰り返し単位や,イソブテンを付加したときの繰り返し単位等の脂肪族オレフィン,スチレンモノマーの他に,o−,m−,p−メチルスチレン,o−,m−,p−エチルスチレン,t−ブチルスチレン等のアルキル化スチレン,モノクロロスチレン等のハロゲン化スチレン,α−メチルスチレン等のスチレン系モノマー付加重合体単位等の芳香族オレフィン等が挙げられる。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂(C)内に,エポキシ基含有ユニットを含有することにより,ポリエステル樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(C)との間を共有結合により結合でき,分散性が向上できると同時に,連続しごき加工で被膜温度が上昇しても,安定した分散状態を保持できる。エポキシ基含有ユニットが10質量%超過では,エポキシ基とポリエステル樹脂(A)との間で反応が進行しすぎ,ポリエステル系樹脂(A)の伸張粘度が増加し,製膜工程で加わる比較的小さな伸張応力でも長手方向に配向する場合がある。この結果,既述のしごき加工時のフィルム疵,耐衝撃特性の低下,あるいは,金属と被膜との密着性低下が生じる場合がある。さらに,この傾向は,混練と同時に製膜する場合に,特に著しくなるので,このような工程で製膜する場合は,エポキシ基含有ユニット含有量を例えば5質量%以下,より好ましくは3質量%以下とすることが望ましい。
【0036】
エポキシ基含有ユニットを例示すると,例えば,以下の(式3)に示すα・β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルが挙げられる。
【0037】
【化1】

(式中,Rは水素原子,低級アルキル基あるいはグリシジルエステル基で置換された低級アルキル基である。)
【0038】
より具体的には,例えば,アクリル酸グリシジル,メタクリル酸グリシジル,エタクリル酸グリシジル,イタコン酸グリシジル等のエステルであり,なかでも,熱安定性が良好で,長時間の連続製膜でも熱劣化物の生成を抑制できるという観点から,メタクリル酸グリシジルエステルを特に好ましく使用できる。
【0039】
極性基含有ユニットを例示すると,−C−O−基を有する例として例えばビニルアルコール,−C=O基を有する例として例えばビニルクロロメチルケトンがある。また,−COO−基を有する例として,例えば,アクリル酸,メタクリル酸,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル等のビニル酸及びその金属塩若しくはエステル誘導体,C23基を有する例として例えば無水マレイン酸,C22N−基を有する例として例えば無水マレイン酸のイミド誘導体,−CN基を有する例として例えばアクリロニトリル,−NH2基を有する例として例えばアクリルアミン,−NH−基を有する例として例えばアクリルアミド,−X基(ハロゲン)を有する例として例えば塩化ビニル,−SO3−基を有する例として例えばスチレンスルホン酸等が挙げられる。上記の化合物が単独で又は複数でポリオレフィン系樹脂(C)に含有されていても良い。ポリオレフィン系樹脂(C)に含有される極性基を有するユニットは,ポーリングの電気陰性度の差が0.39(eV)0.5以上ある元素が結合した基を有するユニットであれば良く,上記の具体例に限定されるものではない。上記の広範な条件(Spread Parameter)を適正に制御する上で好ましい極性基含有ユニットを例示すると,例えば,ビニルエーテル,酢酸ビニル,プロピオン酸ビニル等のビニルエステル,エチル,メチル,プロピル,ブチル等のメタクリル酸エステルもしくはアクリル酸エステル,アクリロニトリルが挙げられる。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂(C)を例示すると,例えば,エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体,エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体,エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体,エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられ,中でもエチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体が熱安定性の点から好ましい。
【0041】
次に本発明の限定理由について説明する。
【0042】
本発明に係る金属板被覆用樹脂フィルムは,ポリエステル樹脂(A),ゴム状弾性体樹脂(B)およびエポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合してなり,ポリエステル樹脂(A)の耐衝撃性を向上させることを目的としてポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)を微細分散させたものである。しかし,通常の混合だけではゴム状弾性体樹脂(B)をポリエステル樹脂中に微細分散させることは困難であるため,本発明のフィルムでは,ポリエステルと共有結合可能なエポキシ基含有ユニットを有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)をゴム状弾性体樹脂(B)の相溶化剤として添加することにより,微細分散を達成させた樹脂組成物からなる実質上未配向フィルムである。また,本発明は,前記樹脂組成物をTダイから加熱溶融状態で直接押し出して金属板を被覆した後急冷し実質上未配向状態を保持したフィルム被覆金属板,および前記樹脂組成物を加熱溶融しTダイからキャスティングロール上に押出し冷却固化したフィルムを熱圧着した後急冷し実質上未配向状態を保持したフィルム被覆金属板に関するものである。
【0043】
フィルムおよび金属板被覆後のフィルムにおいて,ポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体樹脂(B)が「微細分散」している状態とは,ゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)粒分が,押出し方向に1〜8μm程度,樹脂の押出し方向と垂直方向に0.1〜2μm程度の大きさで分散している状態を意味する。この範囲にゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が分散していれば,耐衝撃性,特に低温での耐衝撃性が確保可能となる。
【0044】
本発明では,フィルムおよび金属板被覆後のフィルムは,それぞれ実質上未配向状態とすることおよび実質上未配向状態であることが必須である。実質上未配向状態のフィルムとは,上述したようにTダイからキャスティングロール上に押出し,冷却固化しフィルムとし,巻き取る等,意図的に一軸あるいは二軸延伸処理をしないフィルムを意味する。延伸処理を施すと,マトリックスであるポリエステル樹脂(A)が配向し,金属密着性に有効と考えられている当該樹脂中に存在するエステル結合,末端のカルボン酸,末端のカルボン酸誘導体,末端の水酸基,末端の水酸基誘導体等の極性を有する官能基も同様に配向し,金属との密着性を低下させる。さらに,マトリックスポリエステル樹脂(A)が配向すると同時に,ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)やゴム状弾性体樹脂(B)も配向し,後述するように,金属との密着性を低下させる傾向がある。なお,Tダイでのフィルム製膜時等に,加熱溶融した混合樹脂の自重や巻き取り速度によってフィルムの長手方向に若干配向する場合等があるが,このような場合は意図的ではないので,ここでいう配向処理には該当しない。
【0045】
本発明では,フィルムおよび金属板被覆後のフィルムは,被覆する金属板に接する当該フィルム面におけるゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下である事を必須とする。例えば,上記の露出面積率は,被覆する金属板に接する任意の20μm×20μm四方部分の値であってもよい。当該フィルムは密着プライマーを使用しない事を前提としており,熱圧着方法,Tダイ直接押出法等でラミネート金属を作製する際に,十分な金属密着性を確保するために,当該樹脂(B)および/または(C)の金属板接着面における露出面積率は,20%以下でなければならない。特に,ゴム状弾性体樹脂(B)は本来金属との密着性が悪く,当該樹脂が金属板接着面に高い面積率で存在する場合,著しく金属との密着性を低下させる。その結果,製缶加工時,例えば絞りしごき(DI)加工時に,密着不良等の不具合が生じる場合がある。従って,上記の露出面積率が20%超過である場合には,金属との密着性が低下し,缶等への加工時において二次密着性が低下する傾向があり,内容物にも依存するが母材の金属板の腐食性にも悪影響を及ぼす場合がある。また,前記のように延伸処理を施した場合,当該樹脂(B)および/または(C)の面積率が増加し,結果としてフィルムと金属との密着性を低下させる。上記の露出面積率は,好ましくは,18%以下,さらに好ましくは16%以下である。
【0046】
本発明では,フィルムおよび金属板被覆後のフィルムは,同様に観察したゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の被覆するおよび/または被覆した金属板に接する当該フィルム面の例えば任意の20μm×20μm四方部分におけるゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒の断面積を円相当換算した場合,同直径の最大値は3.0μm以下であってもよい。すなわち,分散粒の断面を円で近似した場合の,その円の直径の最大値が3.0μm以下であってもよい。ゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の存在に依存するが,円相当換算した場合の分散粒の直径が3.0μm超過の場合,金属との密着性が低下し,結果として同部位が母材である金属の腐食の起点となる場合がある。円相当換算した場合の分散粒の直径は,好ましくは,2.8μm以下,さらに好ましくは2.5μm以下である。
【0047】
次に,フィルムの樹脂組成について述べる。当該組成はポリエステル樹脂(A)100質量部に対して,ゴム状弾性体樹脂(B)が1〜30質量部であり,ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対してポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が1〜50質量部であってもよい。
【0048】
本発明では,耐衝撃性を向上する目的で,フィルムにゴム状弾性体樹脂(B)が,ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して,1〜30質量部添加されてもよい。
【0049】
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対してゴム状弾性体樹脂(B)が1質量部未満では,ゴム状弾性体樹脂(B)が微細分散してもフィルムの耐衝撃性が不足する場合があり,好ましくない。ゴム状弾性体樹脂(B)が30質量部を超過する場合では,樹脂を混合する際,添加したゴム状弾性体樹脂(B)のゴム弾性により,押出し機の剪断力の低下を招いて微細分散化が困難となり,結果として表面性状の安定したフィルムとするのが困難となる。また,金属面に接するフィルム面の同樹脂の露出面積率が高くなり,金属との密着性を低下させる。更に耐熱性が低下し,レトルト処理等で変形する。このため,ゴム状弾性体(B)の添加量を1〜30質量部の範囲となることが好ましい。微細分散化による耐衝撃性および密着性のバランスから,ポリエステル樹脂(A)100質量部に対するゴム状弾性体(B)の添加量は,好ましくは8〜20質量部程度,より好ましくは10〜15質量部程度である。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂(C)の添加量は,ゴム状弾性体(B)100質量部に対して1〜50質量部であってもよい。1質量部未満では,ゴム状弾性体(B)を十分に微細に分散できない。50質量部超過では,相溶化剤として機能しなかった余剰のポリオレフィン系樹脂(C)が,ポリエステル樹脂(A)マトリックス内に多数の相を構成し,耐熱性等の物性を低下させる場合がある。ポリオレフィン系樹脂(C)の好ましい添加量範囲は,ポリオレフィン系樹脂(C)内のエポキシ基含有ユニットの含有量に応じて決定される。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂(C)の中には,上記の(式2)のユニットとエポキシ基含有ユニット以外に,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットが40質量%以下で共重合されていてもよい。無極性の(式2)のユニットと極性基を有する第3のユニットとの共重合化により,S.Y.Hobbs,et al.,Polymer,Vol.29,1598 (1988)に示されるポリエステル樹脂(A)中でのゴム状弾性体(B)/ポリオレフィン系樹脂(C)間の広範な条件(Spread Parameter)を適正に制御でき,ポリオレフィン系樹脂(C)が相溶化効果を発揮して,ゴム状弾性体(B)をポリエステル樹脂(A)内に分散させることができる。
【0052】
樹脂組成物の全質量に対し,エポキシ基含有ユニットが0.1質量%以下,より好ましくは0.05質量%以下になるように,エポキシ基含有ユニットの含有量に応じてポリオレフィン系樹脂(C)を添加することができる。エポキシ基含有ユニットの含有量を当該範囲に制御することにより,エポキシ基とポリエステル樹脂(A)との間の反応度を適正に制御でき,より確実にポリオレフィン系樹脂(C)の溶融粘度増加を抑制してゴム状弾性体(B)相の流れ方向への配向を防止することができる。
【0053】
本発明での,フィルム構成について述べる。本発明では,当該発明フィルムを単層で用いてもよく,また金属板に接するフィルム面に対し反対面に,ポリエステル樹脂層を実質上未配向状態で少なくとも1層有してもかまわない。
【0054】
すなわち,金属板と,ポリエステル樹脂(A)およびゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の混合フィルム層と,ポリエステル樹脂層とが順に積層され,全体として少なくとも2層構成のフィルムとしてもかまわない。この場合のポリエステル樹脂としては,例えば,当該混合樹脂に用いたポリエステル樹脂(A)と同様のものを使用することができるが,好ましくは,当該ポリエステル樹脂の融点(Tm)は混合樹脂に用いたポリエステル(A)のTmより5〜10℃程度高いことが,製缶時での加工治具との熱融着等を避けることできる点で好ましい。当該ポリエステル樹脂層を有することによって,混合樹脂から溶出する可能性があるオリゴマー等の樹脂の部分成分,また混合時に生成する可能性のある樹脂の酸化劣化物等,極微量成分の内容物への溶出を低減することができ,その結果,内容物のフレーバー性を保持することができる。また,同ポリエステル樹脂層を実質上未配向とすることによって,当該混合樹脂層とポリエステル樹脂層との界面の密着性を安定化させることが可能となり,結果として製缶時での加工性を担保することが可能となる。特に,製缶時の剪断力が加わるような巻き締め加工時においても,混合樹脂層とポリエステル樹脂層との層間剥離に起因するフィルムの部分浮き,剥離等の発生を大きく低減することができる。
【0055】
フィルムの厚みは,特に制限するものではないが,総厚みは例えば7〜50μmの範囲内であることが好ましく,うち混合フィルム層/ポリエステル樹脂層の場合,混合樹脂層の厚みは7〜43μm程度,ポリエステル樹脂層の厚みは3〜20μm程度であることが好ましい。さらに好ましくは,総厚みは例えば20〜30μmの範囲内で,うち混合樹脂層の厚みは13〜20μm程度,ポリエステル樹脂層の厚みは7〜10μm程度であることが好ましい。
【0056】
(フィルム製造方法)
本発明でのフィルムの製造方法について述べる。本発明では,公知の押出し機およびTダイを具備した製膜装置と,Tダイから押出された溶融状態のフィルムを冷却する冷却ロールを具備したフィルム巻き取り装置によって製造することができる。また,溶融状態のフィルムをTダイから直接押し出し金属板上を被覆し急冷することによって,フィルム製造とラミネートを同時に行うことでもよい。混合フィルム層/ポリエステル樹脂層を有する2層以上の多層フィルムを製造する場合には,混合樹脂を加熱溶融する押出し機とポリエステル樹脂を加熱溶融する押出し機とそれぞれ別々の押出し機で加熱溶融しフィードブロック部で合流させるか,あるいは複数のダイノズルを有するTダイ内で合流させた後に,共押出しし,冷却ロールを具備したフィルム巻き取り装置にて製造する方法等が挙げられる。
【0057】
フィルムを製造する際,押出し機のホッパに樹脂原料を投入することになるが,当該原料としてポリエステル樹脂(A),ゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)を加熱溶融して混合し,一度樹脂組成物のペレットとした後にTダイから押し出してもよい。また,押し出し機のホッパにポリエステル樹脂(A),ゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)をそれぞれ単独に投入し,押し出し機内で加熱溶融して混合しながらTダイから押し出してもよい。それぞれの樹脂を単独に投入し,押出し機内で加熱溶融して混合しながらTダイから押し出す場合には,ゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)をより微細に分散化するために,混合効率の良い2軸押出し機を用いる事が好ましい。
【0058】
本発明のフィルムを,押出し機で加熱溶融により製造する条件として,加熱溶融時の樹脂温度がポリエステル樹脂(A)の融点よりも5〜50℃高い範囲内で,少なくとも剪断速度は80sec-1以上であることが好ましい。この場合の樹脂温度とは,押出し機のスクリュのニーダー部直後における樹脂温度を意味する。同部位で測温できない場合,Tダイから押出される樹脂温度を測定してもかまわない。混練後の樹脂温度がポリエステル樹脂(A)の融点よりも5℃高い温度に満たないと,ポリエステル樹脂(A)が未溶融となる場合があり,均一なフィルムが製膜できず,またゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散化が困難となり,好ましくない。
【0059】
樹脂温度が,ポリエステル樹脂(A)の融点よりも50℃高い温度より高くなると,ポリエステル(A)とポリオレフィン系共重合体樹脂(C)との反応が促進され,反応熱にて局部的に高温となる。その結果,ゴム状弾性体樹脂(B)及び/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の熱劣化や,ポリエステルの溶融粘度低下による混合効率の低下を招き,均一な安定したフィルムが得られないのみならず,ゴム状弾性体樹脂(B)およびポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散化が困難となり,好ましくない。さらに樹脂原料成分に過度な熱が加わる事となり,熱劣化による原料樹脂成分の物性の低下を招く場合が有り,好ましくない。フィルム製膜に好ましい温度は,上記温度範囲内でも,ポリエステル樹脂が未溶融とならない範囲の,より低温が好ましい。
【0060】
なお,フィルム製膜を大気中で行う際,オレフィン系樹脂の酸化劣化を防止するために,樹脂の溶融混練部を不活性ガスに置換することにより,酸素を遮断させる方法を用いる場合がある。ただし,不活性ガス中の水分と,ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)のポリエステルと共有結合可能な部位とが反応し,ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の相溶化効果を低減させる可能性があるため,使用する不活性ガスは乾燥処理を施したガスを用いる事が好ましい。
【0061】
本発明では,樹脂フィルム被覆金属板は,単層の場合,上記樹脂組成物を加熱溶融しTダイから直接長尺状の予備加熱された金属板に押し出し,圧着ロールで金属板に押しつけた後,直ちに水中あるいはミスト冷却等にて急冷することで作成してもよい。また,複層の場合,上記樹脂組成物を複数のダイノズルを有するTダイから直接長尺帯状の適宜均一に予備加熱された金属板上に共押し出しし,圧着ロールで金属板に押しつけた後,直ちに水中あるいはミスト冷却等にて急冷することで,樹脂フィルム被覆金属板を作成してもよい。また,上記と同様にして加熱溶融した樹脂を押出し機のTダイからキャスティングロール上に押し出し冷却固化させてフィルムとした後,公知のラミネーターを用いポリエステル樹脂の融点(Tm)からTm+40℃高い温度に加熱された長尺帯状の金属板に当接させ1対のラミネートロールで挟み付けて圧着し,直ちに水中あるいはミスト冷却して急冷し熱可塑性樹脂フィルム被覆金属板を作成してもよい。ここで,圧着した後急冷することにより例えば10秒以内に100℃以下まで急冷させる等を行うことで,鋼板上のフィルムのアモルファス状態を保つことができ,冷却時の結晶化によるフィルムの白化,収縮・変形等を防ぐことができる。また,Tダイからの突出速度あるいはフィルムのフィード速度とフィルムテンション,金属板の通板速度を制御することにより,鋼板上フィルムの事実上未配向を保持するとともに,本発明の金属板に接するフィルム面のゴム状弾性体樹脂(B)及び/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出状態を制御することができる。
【0062】
本発明では,目的に応じてフィルムに酸化防止剤,熱安定剤,光安定剤,離型剤,滑剤,顔料,難燃剤,可塑剤,核剤,帯電防止剤,抗菌抗カビ剤等を適性量添加することも可能である。このうち滑剤は,フィルムを金属板へ被覆する際やラミネート板を加工する際の潤滑性を向上させる目的で添加され,特許文献11等に開示されているような公知の滑剤が用いられる。滑剤としては,例えば,シリカ,アルミナ,チタニア,炭酸カルシウム,硫酸バリウムなどの,粒径2.5μm以下の無機系の化合物が好ましく,添加量としては0.05〜20%程度が好ましい。特に平均粒径が2.5μm以下であると同時に粒径比(長径/短径)が1.0〜1.2である単分散の滑剤が,フィルムの耐ピンホールの点で好適であり,例えば,真球状シリカ,真球状酸化チタンなどを挙げることができる。滑剤の平均粒径,粒径比は,電子顕微鏡観察により求めることができる。滑剤の粒径分布は鋭く,標準偏差0.5以下が望ましい。滑剤の添加量は,フィルム製造工程の捲取性に関係するので,一般に,粒径が大きい時は少量,粒径が小さい時は多量に用いると良い。例えば,滑剤の種類にもよるが,平均粒径0.2〜2.0μmで0.02〜0.5%程度である。顔料としては,例えば,白色顔料としてアルミナ,二酸化チタン,炭酸バリウムなどの無機系顔料を挙げることができる。顔料の平均粒径は,滑剤の粒径と同様な理由から,2.5μm以下が好ましい。顔料の添加量は着色の機能を達成するために必要な量であり,3〜50質量%程度の範囲内で使用される。顔料の添加方法は,公知の方法が利用できる。
【0063】
ポリエステル樹脂の可塑剤としては,例えば,炭素数2〜20の脂肪族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体と炭素数8〜20の芳香族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とが所定のモル比で混合されたものの多塩基酸成分と,炭素数2〜20の脂肪族アルコールとを縮重合させ,炭素数2〜20の一塩基酸またはそのエステル形成性誘導体および/または炭素数1〜18の一価アルコールで末端をエステル化したポリエステルからなるポリエステル樹脂用可塑剤を挙げることができる。上記のモル比として,例えば,上記の脂肪族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体に対して,上記の芳香族多塩基酸またはそのエステル形成性誘導体を0〜2.0としてもよい。
【0064】
製膜工程におけるフィルムのロールへの巻き付きやフィルム表面への汚れ付着等の静電気障害を防止することを目的として,特許文献12等に開示される帯電防止剤を樹脂組成物中に練り込む方法等を,必要に応じて適用することができる。また,特許文献13,14等に開示されている従来公知の抗菌剤を,必要に応じて使用することができる。
【0065】
本発明でのフィルムは,広く金属板の被覆材として使用することができる。金属板は特に限定するものではないが,ブリキ,ティンフリースチール等の鋼板,アルミニウム,銅,ニッケル等が挙げられる。また,金属板への被覆は片面又は両面のいずれであってもよい。
【実施例】
【0066】
以下,本発明を実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0067】
表1に示すように,ポリエステル樹脂(A)として,ユニチカ(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET,SA−1346P,MA−1344P)および内製したラボ試作品を用いた。また,ゴム状弾性体(B)として,三井・住友ポリオレフィン(株)製極低密度ポリエチレン(VLDPE,エボリューSP0540),官能基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系樹脂(C)として,エチレン系共重合体として住友化学(株)製エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体(E−GMA,GMA含量:6質量%,ボンドファースト2C)及びエチレン系共重合体として住友化学(株)エチレン−アクリル酸メチル−グリシジルメタクリレート共重合体(E−MA−GMA,GMA含量:3質量%,ボンドファースト7L)を使用した。なお,二層フィルム調製時,すなわち混合樹脂層/ポリエステル樹脂層のポリエステル樹脂層には,ユニチカ(株)製PETであるSA−1346PまたはMA−1344Pとユニチカ(株)製PETであるNEH−2070を質量比1:1となるように混合したものを用い(実施例1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23,比較例8),実施例25では内製PETとユニチカ(株)製PETであるSA−1206を質量比1:1となるように混合したものを用いた。
【0068】
表1に実施例および比較例に使用した樹脂の物性を示す。
【0069】
【表1】

*エポキシ基含有ユニットの含有量
【0070】
(実施例1〜26,比較例1〜8)
(ポリエステル樹脂(A)の固有粘度)
固有粘度は,25℃のオルトクロロフェノール中,0.5%の濃度で測定し,(式1)によって求めた。式中,Cは溶液100ml当たりの樹脂のg数で表した濃度を,t0は溶媒の流下時間を,tは溶液の流下時間を,各々表す。
【0071】
固有粘度=(ln(t/t0))/C ・・・(式1)
【0072】
(一層および二層樹脂フィルムの調製)
一層フィルムの調整にあたっては,樹脂組成物の各成分(A),(B),(C)を表2の配合でV型ブレンダーを使用してドライブレンドし,2軸押出機で270℃の温度で,混練時間,スクリュ形状を種々変えて加熱溶融し,混合樹脂とした。その後,Tダイスに送り込み,ダイスノズルからキャスティングロールに押し出し,冷却固化して25μm厚みのフィルムを得た。
【0073】
二層フィルムの調整にあたっては,樹脂組成物の各成分(A),(B),(C)を表2の配合でV型ブレンダーを使用してドライブレンドした樹脂混合物(混合樹脂)を2軸押し出し機で270℃の温度で混練時間,スクリュ形状を種々変えて加熱溶融したものと,ポリエステル(SA−1346PとNEH−2070とを質量比1:1でドライブレンドしたもの),あるいは,内製PETとSA−1206を質量比1:1となるようにブレンドしたもの)を別の2軸押し出し機で270℃の温度で加熱溶融したものとを,2つのダイノズルを有するTダイスに送り込み,ダイス内で合流させた。その後,キャスティングロールに共押出し,冷却固化させて,混合樹脂層厚み15μm,ポリエステル層厚み10μm,総厚み25μmのフィルムを得た。
【0074】
なお,比較例7,8は,二軸延伸フィルムであり,以下の方法で調整した。
【0075】
比較例7は一層フィルムの場合である。まず,樹脂組成物の各成分(A),(B),(C)を表2の配合でV型ブレンダーを使用してドライブレンドし,2軸押出機で270℃の温度で加熱溶融し混合樹脂とした後,Tダイスに送り込み,ダイスノズルからシート状にキャスティングロールに押し出し,冷却固化させて,無延伸フィルムを得た。次いで,同無延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに把持し,60℃で予熱し,温度80℃で長尺方向に4.0倍,幅方向に4.5倍で同時二軸延伸した。その後,150℃で4秒間の熱処理を施し,室温まで冷却して,25μm厚みの一層二軸延伸フィルムを得た。
【0076】
比較例8は二層フィルムの場合である。まず,樹脂組成物の各成分(A),(B),(C)を表2の配合でV型ブレンダーを使用しドライブレンドした樹脂混合物を2軸押し出し機で270℃の温度で加熱溶融した混合樹脂と,別の2軸押し出し機でポリエステル(SA−1346PとNEH−2070を質量比1:1をドライブレンドしたもの)とを加熱溶融し(270℃),それぞれを,2つのダイノズルを有するTダイスに送り込み,ダイス内で合流させた。その後,ダイスノズルからシート状にキャスティングロールに押し出し,冷却固化させて,無延伸フィルムを得た。次いで,同無延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸機のクリップに把持し,60℃で予熱し,温度80℃で長尺方向に4.0倍,幅方向に4.5倍で同時二軸延伸した。その後、150℃で4秒間の熱処理を施し,室温まで冷却して,混合樹脂層厚み15μm,ポリエステル層厚み10μm,総厚み25μmの二層二軸延伸フィルムを得た。
【0077】
(金属板への被覆)
熱圧着法:前記冷却固化した一層および二層フィルム(二層フィルムは混合樹脂層側)を,250℃に加熱した,0.225mm厚みのティンフリースチール(TFS,缶外面となる片側はDI加工に支障がないように潤滑性を具備した塗装板)の缶内面となる片面に1対の圧着ロールで挟み付け,水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し,次いで乾燥し,熱圧着法による樹脂被覆金属板を得た。
【0078】
直接押出法:(一層および二層樹脂フィルムの調製)で記した方法と同様に押し出し機にてそれぞれの樹脂を加熱溶融し混合樹脂とした後,Tダイスに送り込み,ダイスノズルから,加熱通板している0.225mm厚みのティンフリースチール(TFS,缶外面となる片側はDI加工に支障がないように潤滑性を具備した塗装板)に缶内面となる片面に押し出し,1対の圧着ロールで挟み付け,水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し,次いで乾燥し,直接押出法による樹脂被覆金属板を得た。なお,二層フィルムは混合樹脂側をTFSに接するように押し出し,1対の圧着ロールで挟み付け,水冷により10秒以内に100℃以下まで急冷し,次いで乾燥し,直接押出法による樹脂被覆金属板(フィルム厚み:一層フィルムは25μm厚み,二層フィルムは混合樹脂層厚み15μm,ポリエステル層厚み10μm,総厚み25μm)を得た。
【0079】
(フィルムの前処理および露出面積率の算出)
金属板と圧着させるフィルム面を表とし,同フィルムをSEMのサンプルホルダーに固定し,130℃メタキシレンで30分間浸漬して,ゴム状弾性体(B)および/またはポリオレフィン系樹脂(C)を溶解した。サンプルホルダーに固定したままの状態で,SEM観察を行い,金属板と圧着させる面のゴム状弾性体樹脂(B)および/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)(凹部が同部位)を画像処理で2値化することにより解析した。任意に20部位をサンプリングしたフィルムにおいて,ゴム状弾性体(B)および/またはポリオレフィン系樹脂(C)の20μm×20μm四方における露出面積率および,同部位に存在する円換算最大径を解析した結果を,以下の表2に示す。
【0080】
樹脂被覆金属板の場合,樹脂フィルムを被覆したTFSを塩酸溶液(濃塩酸/蒸留水=1/2)にてTFSのみを溶解させ,貼り合わせたフィルムを回収し,TFSと圧着させた面を表とし,前述した方法と同様に,ゴム状弾性体樹脂(B)及び/またはポリオレフィン系共重合体樹脂(C)(凹部が同部位)を画像処理で2値化することにより解析した。その結果を,以下の表2に示す。
【0081】
なお,露出面積率は,以下の式より算出した。
【0082】
露出面積率(%)={(樹脂(B)の露出面積)μm2+(樹脂(C)の露出面積)μm2/400μm2}×100
【0083】
(成形加工条件)
樹脂フィルムを被覆したTFSを,以下の条件で絞りしごき(DI)加工した。連続して製缶したが,いずれの供試材でも製缶時のトラブルはなかった。
【0084】
ブランク径 :162mm
第1段の絞り加工の絞り比 :1.80
第2段の再絞り加工の絞り比 :1.35
しごき加工時のポンチ径 :66.08mm
第1段のしごき加工率 :20%
第2段の再しごき加工率 :20%
第3段の再々しごき加工率 :20%
【0085】
(衝撃変形部耐食性評価)
次いで,公知の方法で得られた缶体の上端をトリミングし,乾燥してから,190℃×3分の空焼を施した後,上端部をフランジ加工した。成形した缶内にコカ・コーラ(日本コカ・コーラ株式会社商品名)を低温で充填し,塗装したアルミ缶蓋で巻締め,2日間室温に保管してから0℃に1日貯蔵した。その後,600gの直角ブロックを,その直角部が0℃のままの缶外部から缶側面に衝突するように,50cmの高さから落下させ,凹部を形成させた。落垂試験後,開缶して側面凹部の衝撃変形部を取り出し,1.0%食塩水中に入れて,TFSを陽極とし,+6Vの電圧をかけた際のERV測定により,耐低温衝撃特性を評価した。全て0.01mA未満であり,全水準問題のないレベルであった。
【0086】
(缶内面耐食性評価)
また,ウーロン茶を充填し,塗装したアルミ缶蓋で巻締め,135℃で30分のレトルト処理を行い,2日間室温に保管してから20℃に1日貯蔵した後,20℃のままで上述の落垂試験を行った。落垂試験後,37℃で3ヶ月間保管した。その後,開缶して缶内面および側面部の衝撃変形部のブリスター,変色,錆びの発生状況を肉眼観察し,下記の基準で耐食性を評価した。
【0087】
◎:異常なし。
○:実用上問題とならない程度のブリスター,変色,錆びが認められる。
△:実用上問題となる程度のブリスター,変色,錆びが認められる。
×:表面にかなりのブリスター,変色,錆びが認められる。
【0088】
表2に示すように,実施例1〜6,比較例1〜3との比較から,ポリエステル樹脂(A)中にゴム状弾性体(B)およびポリオレフィン系樹脂(C)を分散させた樹脂組成物および/またはフィルムをプライマー無しで被覆した金属板は,樹脂組成物および/または当該樹脂組成物からなるフィルムの金属板との接着面のゴム状弾性体(B)およびポリオレフィン系樹脂(C)の存在状態,すなわち同樹脂の露出面積率,また同樹脂の円換算最大直径を本発明で規定した範囲内に制御した場合において,缶体が外部から衝撃力が加わった場合に生じる変形部においても耐食性を確保できることが明らかとなった。この結果,本発明にて従来技術で課題であった耐食性を改善でき,容器用途等,金属板の被覆材料として好適に使用することが可能である。
【0089】
【表2】




【0090】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を含み,
前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有し,
金属板被覆用樹脂フィルムが被覆する金属板に接する当該金属板被覆用樹脂フィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下であり,
実質上未配向状態のフィルムであることを特徴とする,金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項2】
前記被覆される金属板に接する前記金属板被覆用樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,請求項1に記載の金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)は1〜30質量部であり,
前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は1〜50質量部であることを特徴とする,請求項1,2に記載の金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,請求項1〜3に記載の金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項5】
前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記金属板被覆用樹脂フィルムを構成する樹脂組成物全体量に対して0.1質量%以下であることを特徴とする,請求項1〜4に記載の金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の金属被覆用樹脂フィルムの金属板に接するフィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層有することを特徴とする,金属板被覆用樹脂フィルム。
【請求項7】
固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂が混合され,前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)が分散された構造を有する樹脂組成物および/またはフィルムが,実質上未配向の状態で金属板に被覆され,
当該金属板に接する前記フィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下であることを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項8】
前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,請求項7に記載の樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項9】
前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)は1〜30質量部であり,
前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は1〜50質量部であることを特徴とする,請求項7,8に記載の樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項10】
前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,請求項7〜9に記載の樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項11】
前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,フィルムを構成する樹脂組成物全体量の0.1質量%以下であることを特徴とする,請求項7〜10に記載の樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項12】
請求項7〜11に記載の金属被覆用樹脂フィルムの金属板に接するフィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層有することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板。
【請求項13】
固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合し,
前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)を分散させた構造を有する樹脂組成物をTダイから加熱溶融状態で金属板に直接押し出し,
被覆される金属板に接する前記樹脂組成物からなるフィルムの前記金属板表面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下である前記樹脂組成物からなるフィルムを製造することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項14】
前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,請求項13に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項15】
前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)が1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が1〜50質量部であるように,前記ポリエステル樹脂(A),前記ゴム状弾性体樹脂(B),および前記ポリオレフィン系共重合体樹脂を混合することを特徴とする,請求項13,14に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項16】
前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,請求項13〜15に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項17】
前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記樹脂フィルムを構成する前記樹脂組成物全体量の0.1質量%以下であることを特徴とする,請求項13〜16に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項18】
請求項13〜17に記載の製造方法で製造された金属板に接する樹脂フィルムの面と反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層被覆することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項19】
固有粘度が0.7〜1.4dl/gであるポリエステル樹脂(A)と,ゴム状弾性体樹脂(B)と,エポキシ基含有ユニットを10質量%以下含有するポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の少なくとも3種の熱可塑性樹脂を混合し,
前記ポリエステル樹脂(A)中に前記ゴム状弾性体樹脂(B)を分散させた構造を有する実質上未配向状態のフィルムを金属板に熱圧着し,
当該金属板に接する前記実質上未配向状態のフィルム面における前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の露出面積率が20%以下である前記実質上未配向状態のフィルムを製造することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項20】
前記被覆される金属板に接する前記樹脂フィルム面における露出している前記ゴム状弾性体(B)および/または前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)の分散粒断面を円相当換算した場合の最大直径が3.0μm以下であることを特徴とする,請求項19に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項21】
前記ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ゴム状弾性体樹脂(B)が1〜30質量部であり,前記ゴム状弾性体樹脂(B)100質量部に対して前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)が1〜50質量部であるように,前記ポリエステル樹脂(A),前記ゴム状弾性体樹脂(B),および前記ポリオレフィン系共重合体樹脂を混合することを特徴とする,請求項19,20に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項22】
前記ポリオレフィン系共重合体樹脂(C)は,エポキシ基以外の極性基を有する第3のユニットを40質量%以下含有している樹脂組成物からなることを特徴とする,請求項19〜21に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項23】
前記エポキシ基含有ユニットの全体量は,前記樹脂フィルムを構成する前記樹脂組成物全体量の0.1%質量%以下であることを特徴とする,請求項19〜22に記載の樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。
【請求項24】
請求項19〜23に記載の製造方法で製造された金属板に接する樹脂フィルム面の反対側の面に,実質上未配向状態のポリエステル樹脂層を少なくとも1層被覆することを特徴とする,樹脂フィルム被覆金属板の製造方法。

【公開番号】特開2007−204630(P2007−204630A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25671(P2006−25671)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】