説明

金属膜形成方法、それを用いた金属膜、金属膜形成用基板、金属パターン形成方法、及びそれを用いた金属パターン、金属パターン形成用基板、ポリマー前駆体層形成用塗布液組成物

【課題】多大なエネルギーを必要とせず、平滑な基板との密着性に優れる金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜形成方法、それにより得られる金属膜、及び金属膜形成用基板を提供することにある。
【解決手段】(a)基板に直接化学結合しており、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを形成するポリマー層形成工程と、(b)該ポリマー層上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、(c)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、(d)ポリマー層に架橋を行う架橋工程と、を有することを特徴とする金属膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜形成方法、金属膜形成方法を利用した金属膜、金属膜形成用基板、金属パターン形成方法、及び該金属パターン形成方法を用いた金属パターン、金属パターン形成用基板、及びポリマー前駆体層形成用塗布液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に形成された金属膜は、パターン状にエッチングされることで様々な電化製品に、配線などとして使用されている。基板上に形成された金属膜(金属基板)は、基板表面を凹凸処理してアンカー効果により基板と金属膜との密着性向上を図っていた。その結果、形成された金属膜は、基板界面部が凹凸状となり、金属配線として使用する際には、高周波特性が悪くなるという問題点があった。更に、基板表面を凹凸処理するために、クロム酸などの強酸で基板を処理するという煩雑な工程が必要であり、改良が望まれていた。
【0003】
この問題を解決する為に、基板にモノマーを含む塗布液を塗布し、電子線やUV光を照射することにより、基板上に表面グラフトポリマーを導入し、メッキにより金属膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法によれば、基板表面に凹凸を形成することなく、金属膜を形成しうるが、グラフトポリマーの形成にあたっては、基板に液状のモノマーを塗布し、液状のモノマーが存在している状態で電子線やUV光を照射する工程を必要としており製造上のハンドリングが困難であることが予想される。また、ここでは、実際の基板表面の状態や、基板と金属膜との密着性について詳細な検討は未だなされていなかった。
【0004】
また、基板上にグラフトポリマーを導入して基板と金属膜との密着性を向上する手法に関しては、ポリイミド基板にプラズマ処理を行って、ポリイミド基板表面に重合開始基を導入し、この重合開始基からモノマーを重合させてグラフトポリマーを基板上に導入し、当該グラフトポリマー上に金属膜(銅膜)を形成することで、ポリイミド基板と銅層との密着性を改良する方法が開示されている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。しかし、この方法には、プラズマ処理という大掛かりな処理が必要であり、処理には大きなエネルギーが必要であり、より簡便な方法が求められていた。
【0005】
また、金属パターン形成方法としては、例えば、「サブトラクティブ法」が知られている。このサブトラクティブ法とは、基板表面に形成された金属膜上に、活性光線の照射により感光する感光層を設け、この感光層に像様露光し、その後現像してレジスト像を形成し、次いで、金属膜をエッチングして金属パターンを形成し、最後にレジストを剥離する方法である。
【0006】
この方法により得られる金属パターンにおいては、基板表面に凹凸を設けることにより生じるアンカー効果により、基板と金属膜との間の密着性を発現させている。そのため、得られた金属パターンの基板界面部の凹凸に起因して、電気配線として使用する際の高周波特性が悪くなるという問題点があった。また、基板表面に凹凸化処理するためには、クロム酸などの強酸で基板表面を処理するが必要であるため、金属膜と基板との密着性に優れた金属パターンを得るためには、煩雑な工程が必要であるという問題点があった。
【0007】
この問題を解決するために、前記特許文献1に記載の方法で作製した金属膜をサブトラクティブ法によりパターン化しても、サブトラクティブ法に特有の問題点が発生する。サブトラクティブ法により高細線幅の金属パターンを形成するためには、レジストパターンの線幅よりもエッチング後の線幅が細くなる、いわゆる、オーバーエッチング法が有効である。しかしながら、オーバーエッチング法により、微細金属パターンを直接形成しようとすると、線のにじみやかすれ、断線等が発生しやすくなり、良好な微細金属パターンを形成するという観点からは、30μm以下の金属パターンの形成は難しい。また、パターン部以外のエリアに存在する金属膜をエッチング処理によって除去するため無駄が多く、また、そのエッチング処理によって生じる金属廃液の処理に費用がかかるなど、環境、価格面でも問題があった。
【特許文献1】特開昭58−196238号公報
【非特許文献1】En Tang Kang,Yan Zhang,"Advanced Materials",20,p1481−p1494
【非特許文献2】N.Inagaki,S.Tasaka,M.Matsumoto,"Macromolecules",29,p1642−p1648
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の技術の欠点を考慮してなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、多大なエネルギーを必要とせず、平滑な基板との密着性に優れる金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜形成方法、それにより得られる金属膜、及び金属膜形成用基板を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、基板表面の粗面化やエッチング工程を行うことなく、高周波特性に優れる金属配線に好適な、微細な金属パターンの形成方法、それにより得られる金属パターン、及び金属パターン形成用基板を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、金属膜、金属パターン材料の形成に好適に用いられるポリマー前駆体層形成用塗布液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
本発明者等は、鋭意検討の結果、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを基板と直接パターン状に化学結合させ、該ポリマーにメッキを行うことで、簡便、少エネルギー、かつ、容易に基材表面に表面グラフトポリマーを導入でき、また、基板界面の凹凸が少ない場合であっても、密着性に優れた金属膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の金属膜形成方法は、(a)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有する、ポリマーを形成するポリマー層形成工程と、(b)該ポリマー層上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、(c)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、(d)ポリマー層に架橋を行う架橋工程と、を有することを特徴とする
なお、前記(a)ポリマー層形成工程が、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを基板に直接化学結合させることがより好ましい態様である。
また、前記(c)メッキ工程が無電解メッキ工程、無電解メッキ工程及び電気メッキ工程を含むことがより好ましい態様である。
さらに、前記(c)メッキ工程が無電解メッキであり、前記(d)架橋工程の後、又は前記(d)架橋工程の前に、更に電気メッキを行うことができる。
これらの方法により形成された金属膜は、基板との密着性が0.3kN/m以上であることが好ましく、0.4kN/m以上であることがより好ましい。
【0011】
本発明の金属膜形成方法には、表面の凹凸が500nm以下である基板が好適である。
また、基板の好ましい態様としては、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。また、基板の好ましい他の態様としては、1GHzにおける誘電率が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板が挙げられる。
【0012】
詳細には、前記(a)ポリマー層形成工程が、(a−1)基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層上に、直接化学結合しており、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを形成させる工程と、を有することが好ましい。
また、前記(a−2)工程が、該重合開始層上に、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを接触させた後エネルギーを付与することにより、前記基板表面に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることが好ましい。
更に、前記(c)メッキ工程と前記(d)架橋工程の間、又は前記(d)架橋工程の後、更に、(c’)乾燥工程を有することが好ましい。
【0013】
ここで、本発明における基材とは、金属膜を形成するための支持部材となりうるエポキシ樹脂等の材料そのものを指す。
また、本発明における基板とは、以下に詳述するグラフトポリマーが、その上に直接化学的に結合しうるものを指す。例えば、基材上に重合開始層等の中間層を設けてその上にポリマー層を形成する場合であれば、基板とは、基材及び該基材上に設けられた中間層を包含したものを指す。また、基材上にポリマー層を直接生成する場合であれば、基板とは、基材そのものを指す。
そのため、本発明においては、基板が、基材と該基材上に設けられた中間層とからなる場合、その中間層の表面の凹凸が500nm以下となることが好ましい。
【0014】
本発明の金属膜形成用基板は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマー層と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の金属膜は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマー層を有し、該ポリマー層の内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする。
本発明の金属膜は、基板との密着性が0.3kN/m以上であることが好ましく、0.4kN/mであることがより好ましい。
また、前記ポリマー層は、メッキ触媒及びメッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子を分散する領域(ポリマー層の内部のメッキ層)を、前記ポリマー層と前記金属膜との界面から前記基板方向に0.05μm以上有することが好ましい。
また、本発明の金属パターン形成方法は、上記方法で得られた金属膜をパターン状にエッチングする工程を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第2の形態である請求項12にかかる金属パターン形成方法とは、(A)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーをパターン状に形成するポリマーパターン形成工程と、(B)該ポリマーパターン上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、(C)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、(D)ポリマーパターンに架橋を行う架橋工程と、を有することを特徴とする。
なお、前記(A)ポリマーパターン形成工程が、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーパターンを基板に直接化学結合させることがより好ましい態様である。
また、前記(C)メッキ工程が無電解メッキ工程、無電解メッキ工程及び電気メッキ工程を含むことがより好ましい態様である。
さらに、前記(D)架橋工程の後、又は前記(D)架橋工程前に、更に電気メッキを実施することができる。
これらの方法により形成された金属膜は、基板との密着性が0.3kN/m以上であることが好ましく、0.4kN/m以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明の金属パターン形成方法には、表面の凹凸が500nm以下である基板が好適である。
また、基板の好ましい態様としては、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板であることが好ましい。また、基板の好ましい他の態様としては、1GHzにおける誘電率が3.5以下である絶縁性樹脂からなる基板、又は、該絶縁性樹脂からなる層を基材上に有する基板が挙げられる。
【0018】
詳細には、前記(A)ポリマーパターン形成工程が、(A−1)基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(A−2)該重合開始層上に、直接化学結合しており、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーをパターン状に形成する工程と、を有することが好ましい。
また、前記(A−2)工程が、該重合開始層上に、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを接触させた後、パターン状にエネルギーを付与することにより、前記基板表面に当該ポリマーをパターン状に直接化学結合させる工程であることが好ましい。
更に、前記(C)メッキ工程と前記(D)架橋工程の間、又は前記(D)架橋工程の後に、更に、(C’)乾燥工程を有することが好ましい。
【0019】
ここで、本発明における基材とは、金属膜を形成するための支持部材となりうるエポキシ樹脂等の材料そのものを指す。
また、本発明における基板とは、以下に詳述するグラフトポリマーが、その上に直接化学的に結合しうるものを指す。例えば、基材上に重合開始層等の中間層を設けてその上にポリマーパターンを形成する場合であれば、基板とは、基材及び該基材上に設けられた中間層を包含したものを指す。また、基材上にポリマーパターンを直接生成する場合であれば、基板とは、基材そのものを指す。
そのため、本発明においては、基板が、基材と該基材上に設けられた中間層とからなる場合、その中間層の表面の凹凸が500nm以下となることが好ましい。
【0020】
本発明の金属パターン形成用基板は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーパターンが前記基板上に直接化学結合してなるポリマーパターンと、を有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の金属パターンは、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上にパターン状に直接化学結合してなるポリマーパターンを有し、該ポリマーパターンの内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の金属パターンは、基板との密着性が0.3kN/m以上であることが好ましく、0.4kN/mであることがより好ましい。
また、前記ポリマーパターンは、メッキ触媒及びメッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子を分散する領域(ポリマーパターンの内部のメッキ層)を、前記ポリマーパターンと前記金属パターンとの界面から前記基板方向に0.05μm以上有することが好ましい。
【0023】
さらに、上記金属膜及び金属パターンを形成する際に用いる本発明のポリマー前駆体層形成用塗布液組成物は、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有することを特徴とするポリマーが溶解していることを特徴とする。
【0024】
本発明の作用は明確でないが、以下のように推定される。
本発明において、金属膜が形成される基板(すなわち、本発明の金属膜形成用基板)は、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーにより表面改質されていることから、基板と金属膜との界面では、前記ポリマー層とメッキ層とのハイブリッド状態が形成される。このため、基板表面が平滑であっても金属膜(メッキ層)と基板との密着性が高いものと考えられる。
【0025】
また、本発明の金属膜形成方法において生成するポリマー層は、ポリマー自体の高い運動性により、メッキ液がポリマー層の内部に浸透し易いという利点を有する。そのため、メッキ工程において、メッキがポリマー層内部や上部で進行し、該メッキ層と、基板に直接結合しているポリマー(ポリマー層)と、の間でハイブリッド状態が形成され易い。その結果、金属膜(メッキ層)と基板との密着性の向上に寄与しているものと推測される。
また、本発明においては、ポリマー層の形成に用いられるポリマーにおける架橋性基前駆体の存在によりポリマー層中にて架橋反応が進行することで膜強度が上昇し、より強固となったポリマー層中にメッキ層がハイブリッドされるため、より高い密着性が発現するものと推測される。また、架橋性基を前駆体としてポリマーに導入することで架橋までのプロセスに以下のような悪影響を与えることなく、膜強度を上昇することができる。
架橋性基前駆体を直接導入すると塗布液の経時によるゲル化やグラフト重合時に一部架橋官能が進行することでメッキ触媒の吸着阻害が生じる可能性がある。
【0026】
本発明の金属膜形成方法における好適な態様は、基材上に重合開始剤を含有する重合開始層を形成する基板を用いる態様である。このように、基材上に、重合開始剤を含有する重合開始層を設けてなる基板を用いることにより、UV光などの汎用的に使用されている露光源で照射するだけで、基板表面に発生するラジカル種の量が増加し、より多くのポリマーを基板に結合させることができる。そのため、メッキ層とポリマー(ポリマー層)とのハイブリッド状態がより多く形成され易くなる。その結果、基板と金属膜(メッキ層)との密着性がより一層向上するものと推測される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、多大なエネルギーを必要とせず、平滑な基板との密着性に優れる金属膜を簡便な工程により形成しうる金属膜形成方法、それにより得られる金属膜、及び金属膜形成用基板を提供することができる。
また、本発明の他の目的は、基板表面の粗面化やエッチング工程を行うことなく、高周波特性に優れる金属配線に好適な、微細な金属パターンの形成方法、それにより得られる金属パターン、及び金属パターン形成用基板を提供することができる。
本発明のさらなる目的は、金属膜、金属パターン材料の形成に好適に用いられるポリマー前駆体層形成用塗布液組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<金属膜形成方法>
本発明の金属膜形成方法は、(a)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有する、ポリマー層を形成するポリマー層形成工程と、(b)該ポリマー層上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、(c)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、(d)ポリマー層に架橋を行う架橋工程と、をこの順に有することを特徴とする。
以下、上記(a)〜(d)の各工程について順次説明する。
【0029】
<(a)ポリマー層形成工程>
(a)工程では、基板上に、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマー(以下、適宜、「特定重合性ポリマー」と称する)を直接化学結合させることで、ポリマー層が形成される。
本発明における(a)ポリマー層形成工程が、(a−1)基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層上に、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを直接化学結合させる工程であることが好ましい。
【0030】
<ポリマー層形成工程>
本工程では、基板上に、該基板表面に特定重合性ポリマーを直接結合し、且つ、グラフトポリマーを生成させて、ポリマー層を形成する。このようなグラフトポリマーは、一般的に、表面グラフト重合と呼ばれる手段を用いて生成される。
表面グラフト重合とは、一般に、固体表面を形成する高分子化合物鎖上に活性種を与え、この活性種を起点として別の単量体を更に重合させ、グラフト(接ぎ木)重合体を合成する方法である。
本発明では、基板表面に特定重合性ポリマーを接触させ、そこにエネルギーを付与することで、基板表面に活性点を発生させて、この活性点と特定重合性ポリマーの重合性基とが反応し、表面グラフト重合反応が引き起こされる。
また、エネルギーを付与し基板表面に活性点を発生させてから、特定重合性ポリマーを、その基板表面に接触させてもよい。
【0031】
この接触は、特定重合性ポリマーを含有する液状組成物中に、基板を浸漬することで行ってもよいが、取り扱い性や製造効率の観点からは、後述するように、前記液状組成物を基板表面に塗布する、又は、その塗膜を乾燥させてグラフトポリマー前駆体層を形成する方法を用いることが好ましい。
また、基板の両面にポリマー層を形成させる場合には、上記のような表面グラフト重合を用いて表裏同時にグラフトポリマーを生成させてもよいし、片面に対して先ずグラフトポリマーを生成させた後に、もう片面に対してグラフトポリマーを生成させてもよい。
【0032】
本発明を実現するための表面グラフト重合法としては、文献記載の公知の方法のいずれも使用することができる。例えば、新高分子実験学10、高分子学会編、1994年、共立出版(株)発行、p135には、表面グラフト重合法として、光グラフト重合法が記載されている。
光グラフト重合の具体的方法としては、特開昭63−92658号公報、特開平10−296895号公報、及び特開平11−119413号公報に記載の方法を使用することができる。
【0033】
光グラフト重合法は、上記記載の文献の他に、特開昭53−17407号公報(関西ペイント)や、特開2000−212313号公報(大日本インキ)記載のように、フィルム基板の表面に光重合性組成物を塗布し、その後、ラジカル重合化合物を接触させ光を照射させて、グラフトポリマーを得ることができる。
【0034】
また、本発明で使用されるラジカル重合化合物としては、メッキ触媒、又は、その前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーや、メッキ触媒、又はその前駆体と相互作用する官能基を有するモノマーと架橋性基前駆体を有するモノマーの2種類以上を表面グラフト共重合してもよい。
【0035】
(メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマー)
本発明において、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基(以下、適宜、相互作用性基)、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーとしては、相互作用性基を有するモノマーを1種以上、及び、架橋性基前駆体を有するモノマーを1種以上用いて得られるコポリマーに、重合性基を導入したものが用いられる。
【0036】
−重合性基−
導入する重合性基としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのエチレン付加重合性不飽和基が挙げられる。
【0037】
−相互作用性基−
このような本発明の特定重合性ポリマーを合成するために用いられる、相互作用性基を有するモノマーとしては、以下に示されるものが挙げられる。
すなわち、例えば、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、イタコン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミン若しくはそのハロゲン化水素酸塩、3−ビニルプロピオン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ビニルスルホン酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはその4級アンモニウム塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−アクリル
アミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドンなどのカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、アミノ基若しくはそれらの塩や4級アンモニウム塩、水酸基、アミド基、ホスフィン基、イミダゾール基、ピリジン基、若しくはそれらの塩、及びエーテル基などの官能基を有するモノマーが挙げられる。これらのモノマーは、一種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。この中でも解離性基を有する、(メタ)アクリル酸若しくはそのアルカリ金属塩及びアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが好ましい。
【0038】
−架橋性基前駆体−
次に、本発明の特定重合性ポリマーを合成するために用いられる、架橋性基前駆体を有するモノマーについて説明する。ここで、本発明において、「架橋性基前駆体」とは、熱・光などのエネルギーを付与することにより架橋基が発生する官能基をいう。架橋性基前駆体としては、特に制限はないが、後に説明する(c)工程の後に架橋する必要があるため、(d)工程を行うまで安定に存在している官能基である必要がある。また、架橋する対象官能基に応じて架橋性基前駆体を選択する必要がある。対象官能基がカルボン酸基である場合は、イソシアネート基、エポキシ基の前駆体状態が挙げられ、具体的には以下の構造が挙げられる。
【0039】
【化1】

【0040】
前記エポキシ基前駆体及びイソシアネート前駆体は、熱によりエポキシ基及びイソシアネート基が生成する。
【0041】
1及びR2は、置換又は無置換のアルキル基を表す。
1及びR2が表すアルキル基としては、1価の有機基が挙げられ、置換無置換でもよい。置換基の安定性の観点から、無置換の1価の有機基が好ましい。
【0042】
1及びR2が置換基を有するアルキル基である場合、置換基としては、メチル基、エチルキ、プロピル基、ブチル基、フェニル基が挙げられ、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0043】
このような架橋性基前駆体を有するモノマーとしては、以下に示されるものが挙げられる。
【0044】
【化2】

【0045】
本発明における特定重合性ポリマーは、以下に示す合成方法を用いることで合成することができる。
合成方法としては、i)相互作用性基を有するモノマーと架橋性基前駆体を有するモノマーと重合性基を特定位置に有するモノマーとを共重合する方法、ii)相互作用性基を有するモノマーと架橋性基前駆体を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基及び架橋性基前駆体を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(重合性基を導入する)方法が挙げられる。
上記3手法の中で好ましいのは、合成適性の観点から、ii)相互作用性基を有するモノマーと架橋性基前駆体を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)相互作用性基及び架橋性基前駆体を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法である。
【0046】
前記i)の合成方法で用いられる重合性基を有するモノマーとしては、以下の化合物などが挙げられる。
【0047】
【化3】

【0048】
前記ii)の合成方法で用いられる二重結合前駆体を有するモノマーとしては下記式で表される化合物などが挙げられる。
【0049】
【化4】

【0050】
上記式中、A1は重合性基を有する有機団、R1〜R3は水素原子、及び/又は、1価の有機基、X、Zは脱離反応により除去される脱離基であり、ここでいう脱離反応とは、塩基の作用によりZが引き抜かれ、Xが脱離するものである。Xはアニオンとして、Zはカチオンとして脱離するものが好ましい。
具体的には以下の化合物を挙げることができる。
【0051】
【化5】

【0052】
また、前記ii)の合成方法において、二重結合前駆体を二重結合に変換するには、下記に示すように、X、Zで表される脱離基を脱離反応により除去する方法、つまり、塩基の作用によりZを引き抜き、Xが脱離する反応を使用する。
【0053】
【化6】

【0054】
上記の脱離反応において用いられる塩基としては、アルカリ金属類の水素化物、水酸化物又は炭酸塩、有機アミ化合物、金属アルコキシド化合物が好ましい例として挙げられる。アルカリ金属類の水素化物、水酸化物、又は炭酸塩の好ましい例としては、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機アミン化合物の好ましい例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、1−メチルピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、ピペリジン、1−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、4−メチルモルホリン、ピリジン、ピコリン、4−ジメチルアミノピリジン、ルチジン、1、8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕−7−ウンデセン(DBU)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルエチルアミン、Schiff塩基などが挙げられる。金属アルコキシド化合物の好ましい例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどが挙げられる。これらの塩基は、1種或いは2種以上の混合であってもよい。
【0055】
また、前記脱離反応において、塩基を付与(添加)する際に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、水などが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは2種以上混合してもよい。
【0056】
使用される塩基の量は、化合物中の特定官能基(X、Zで表される脱離基)の量に対して、当量以下であってもよく、また、当量以上であってもよい。また、過剰の塩基を使用した場合、脱離反応後、余剰の塩基を除去する目的で酸などを添加することも好ましい形態である。
【0057】
前記iii)の合成方法において、相互作用性基及び架橋性基前駆体を有す
るポリマーと反応させる重合性基を有するモノマーとしては、相互作用性基及び架橋性基前駆体を有するポリマー中の相互作用性基の種類によって異なるが、以下の組合せの官能基を有するモノマーを使用することができる。
すなわち、(ポリマーの相互作用性基、モノマーの官能基)=(カルボキシル基、カルボキシル基)、(カルボキシル基、エポキシ基)、(カルボキシル基,イソシアネート基)、(水酸基、カルボキシル基)、(水酸基、エポキシ基)、(水酸基、イソシアネート基)等を挙げることができる。
具体的には以下のモノマーを使用することができる。
【0058】
【化7】

【0059】
また、本発明における特定重合性ポリマーの溶剤溶解性を高める目的で、ポリマー中にカルボン酸基(相互作用性基)を有している場合には、カルボン酸塩構造に変換してもよい。カルボン酸塩構造としてはアルカリ金属塩構造が好ましく、更に好ましくはナトリウム塩構造である。
また、カルボン酸基をカルボン酸塩構造に変換する試薬としては無機塩基、有機塩基を使用することができるが、好ましくは、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムである。
【0060】
以上のようにして得られた特定重合性ポリマーを含有する組成物に使用する溶剤は、組成物の主成分である特定重合性ポリマーなどが溶解可能ならば特に制限はない。また、溶剤には、更に、界面活性剤を添加してもよい。
使用できる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールモノメチルエーテルの如きアルコール系溶剤、酢酸の如き酸、アセトン、シクロヘキサノンの如きケトン系溶剤、ホルムアミド、ジメチルアセトアミドの如きアミド系溶剤、水などが挙げられる。
【0061】
必要に応じて溶剤に添加することのできる界面活性剤は、溶剤に溶解するものであればよく、そのような界面活性剤としては、例えば、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの如きアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドの如きカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品としては、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルの如き非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0062】
本発明における特定重合性ポリマーを基板(重合開始層)に接触させる方法としては、任意の方法で行うことができるが、具体的には、特定重合性ポリマーを含有する液状の組成物中に基板を浸漬する方法や、特定重合性ポリマーを含有する組成物を基板(重合開始層)上に塗布する方法が挙げられる。
また、取り扱い性や製造効率の観点からは、特定重合性ポリマーを含有する組成物を基板(重合開始層)上に塗布・乾燥させて、グラフトポリマー前駆体層を形成する態様が好ましい。
また、グラフトポリマー前駆体層の塗布量は、十分なメッキ触媒又はその前駆体との相互作用性、及び、均一な塗布膜を得る観点からは、固形分換算で0.1〜10g/m2が好ましく、特に0.5〜5g/m2が好ましい。
【0063】
(エネルギー付与)
重合開始層へのエネルギー付与方法としては、重合開始パート(部位)にもよるが、例えば、加熱や露光等の輻射線照射を用いることができる。例えば、UVランプ、可視光線などによる光照射、ホットプレートなどでの加熱等が可能である。光源としては、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、等がある。また、g線、i線も使用される。エネルギー付与に要する時間としては、目的とするグラフトポリマーの生成量及び光源により異なるが、通常、10秒〜10分の間である。
モノマーを使用する場合には、上記の架橋性基前駆体を有するモノマー、相互作用性基を有するモノマーを直接用いることができる。
【0064】
以上説明した(a)工程により、基板上に、特定重合性ポリマーを直接結合させて、ポリマー層を形成することができる。
【0065】
(基板)
次に、本発明において用いられる基板について説明する。本発明における基板は、寸度的に安定な板状物であり、必要な可撓性、強度、耐久性等を満たせばいずれのものも使用でき、使用目的に応じて適宜選択される。
基板として具体的には、ポリイミド樹脂、ビスマレインイミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などを成型したものや、シリコーン基板、紙、プラスチックがラミネートされた紙、金属板(例えば、アルミニウム、亜鉛、銅等)、上記の如き金属がラミネート若しくは蒸着された紙若しくはプラスチックフィルム等を挙げることができる。
【0066】
また、本発明で得られる導電膜を用いてプリント配線板を作製する場合には、基板として絶縁性樹脂を用いることが好ましい。
このような絶縁樹脂としては、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテル、シアネートエステル化合物、エポキシ化合物などの樹脂が挙げられ、これらの樹脂の1種以上を含む熱硬化性樹脂組成物により形成される基板が好ましく用いられる。これらの樹脂を2種以上組み合わせて樹脂組成物とする場合の好ましい組み合わせとしては、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとシアネートエステル化合物、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとエポキシ化合物、ポリフェニレンエーテル又は変性ポリフェニレンエーテルとシアネートエステル化合物とエポキシ化合物などの組み合わせが挙げられる。
このような熱硬化性樹脂組成物により多層プリント配線板の基板を形成する場合には、シリカ、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群より選ばれる無機充填剤を含まないことが好ましく、また、臭素化合物又はリン化合物を更に含む熱硬化性樹脂組成物であることが好ましい
【0067】
また、プリント配線板の基板として好ましい、その他の絶縁樹脂としては、1,2−ビス(ビニルフェニレン)エタン樹脂、若しくはこれとポリフェニレンエーテル樹脂との変性樹脂が挙げられ、このような樹脂については、例えば、天羽悟ら著、「Journal
of Applied Polymer Science」第92巻、p1252−1258(2004年)に詳細に記載されている。
更に、クラレ製のベクスターなどの名称で市販品としても入手可能な液晶性ポリマーやポリ4フッ化エチレン(PTFE)に代表されるフッ素樹脂なども好ましく挙げられる。
これらの樹脂のうち、フッ素樹脂(PTFE)は高分子材料の中でもっとも高周波特性に優れる。ただし、Tgが低い熱可塑性樹脂であるために熱に対する寸法安定性に乏しく、機械的強度なども熱硬化性樹脂材料に比べて劣る。また、形成性や加工性にも劣るという問題がある。また、ポリフェニレンエーテル(PPE)などの熱可塑性樹脂は熱硬化性樹脂などとのアロイ化を行なって用いることもできる。例えば、PPEとエポキシ樹脂、トリアリルイソシアネートとのアロイ化樹脂、或いは重合性官能基を導入したPPE樹脂とそのほかの熱硬化性樹脂とのアロイ化樹脂としても使用することができる。
エポキシ樹脂はそのままでは誘電特性が不十分であるが、かさの高い骨格の導入などで改善が図られており、このようにそれぞれの樹脂の特性を生かし、その欠点を補うような構造の導入、変性などを行った樹脂が好ましく用いられる。
例えば、シアネートエステルは熱硬化性の中ではもっとも誘電特性の優れる樹脂であるが、それ単独で使用されることは少なく、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、熱可塑性樹脂などの変性樹脂として使用される。これらの詳細に関しては、「電子技術」、2002年第9号、p35に記載されており、これらの記載もまた、このような絶縁樹脂を選択する上で参照することができる。
【0068】
本発明で得られる導電膜を用いてプリント配線板を形成する場合、大容量データを高速に処理するという観点で、信号の遅延と減衰とを抑制するためには、誘電率及び誘電正接のそれぞれ低くすることが有効である。低誘電正接材料の採用については、「エレクトロニクス実装学会誌」第7巻、第5号、P397(2004年)に詳細に記載されているとおりであり、特に低誘電正接特性を有する絶縁材料を採用することが高速化の観点から好ましい。具体的には、基板は、1GHzにおける誘電率(比誘電率)が3.0以下である絶縁性樹脂からなることが好ましく、且つ、1GHzにおける誘電正接が0.01以下である絶縁性樹脂からなることが更に好ましい。絶縁樹脂の誘電率、誘電正接は、常法、例えば、「第18回エレクトロニクス実装学会学術講演大会要旨集」、2004年、p189、に記載の方法に基づき、空洞共振器摂動法を利用した測定器(極薄シート用εr、tanδ測定器・システム、キーコム株式会社製)を用いて測定することができる。このように、本発明においては誘電率や誘電正接の観点から絶縁樹脂材料を選択することも有用である。誘電率が3.5以下であり、誘電正接が0.01以下の絶縁樹脂としては、液晶ポリマー、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、シアネートエステル樹脂、ビス(ビスフェニレン)エタン樹脂などが挙げられ、更にそれらの変性樹脂も含まれる。
【0069】
(基板表面或いは中間層)
本発明における基板は、上述のように、ポリマーが化学的に直接結合できるような表面を有するものである。本発明においては、基板の表面自体がこのような特性を有していてもよく、このような特性を有する中間層を基板表面に設けてもよい。
【0070】
中間層としては、特に、光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法、放射線照射グラフト重合法によりグラフトポリマーを合成する場合には、有機表面を有する層であることが好ましく、特に有機ポリマーの層であることが好ましい。また、有機ポリマーとしてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、メラミン系樹脂、フォルマリン樹脂などの合成樹脂、ゼラチン、カゼイン、セルロース、デンプンなどの天然樹脂のいずれも使用することができる。光グラフト重合法、プラズマ照射グラフト重合法、放射線照射グラフト重合法などではグラフト重合の開始が有機ポリマーの水素の引き抜きから進行するため、水素が引き抜かれやすいポリマー、特に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂などを使用することが、特に製造適性の点で好ましい。
【0071】
(重合開始層)
本発明においては、グラフト重合の際に活性点を効率よく発生させるという観点から、基板表面に設けられる中間層としては、エネルギーを付与することにより重合開始能を発現する化合物を含有する重合開始層であることが好ましい。この重合開始層としては、重合性化合物及び重合開始剤を含有する重合性層と、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基前駆体を有するポリマー(以下、特定重合開始ポリマーと称する。)を架橋反応により固定化してなる重合開始層と、の2つの態様が存在する。
この2つの態様の重合開始層について順次説明する。
【0072】
(重合性化合物及び重合開始剤を含有する重合性層)
本発明における重合性層は、重合性化合物及び重合開始剤等の必要な成分を、それらを溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基板表面上に設け、加熱又は光照射により硬膜し、形成することができる。
【0073】
(a)重合性化合物
重合性層に用いられる重合性化合物は、基板との密着性が良好であり、且つ、活性光線照射などのエネルギー付与により相互作用性基を有するモノマー及び架橋性基前駆体を有するモノマーが付加し得るものであれば特に制限はないが、中でも、分子内に重合性基を有する疎水性ポリマーが好ましい。
このような疎水性ポリマーとしては、具体的には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリぺンタジエンなどのジエン系単独重合体、アリル(メタ)アクリレー卜、2−アリルオキシエチルメタクリレー卜などのアリル基含有モノマーの単独重合体;
更には、前記のポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリペンタジエンなどのジエン系単量体又はアリル基含有モノマーを構成単位として含む、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリルなどとの二元又は多元共重合体;
不飽和ポリエステル、不飽和ポリエポキシド、不飽和ポリアミド、不飽和ポリアクリル、高密度ポリエチレンなどの分子中に炭素−炭素二重結合を有する線状高分子又は3次元高分子類;などが挙げられる。
なお、本明細書では、「アクリル、メタクリル」の双方或いはいずれかを指す場合、「(メタ)アクリル」と表記することがある。
重合性化合物の含有量は、重合性層中、固形分で0〜100質量%の範囲が好ましく、10〜80質量%の範囲が特に好ましい。
【0074】
(b)重合開始剤
本発明における重合性層には、エネルギー付与により重合開始能を発現させるための重合開始剤を含有することが好ましい。ここで用いられる重合開始剤は、所定のエネルギー、例えば、活性光線の照射、加熱、電子線の照射などにより、重合開始能を発現し得る公知の熱重合開始剤、光重合開始剤などを目的に応じて、適宜選択して用いることができる。中でも、熱重合よりも反応速度(重合速度)が高い光重合を利用することが製造適性の観点から好適であり、このため、光重合開始剤を用いることが好ましい。
光重合開始剤は、照射される活性光線に対して活性であり、重合性層に含まれる重合性化合物と、相互作用性基を有するモノマー及び架橋性基前駆体を有するモノマーと、を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤などを用いることができる。
【0075】
そのような光重合開始剤としては、具体的には、例えば、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2'−ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの如きアセトフェノン類;ベンゾフェノン(4,4'−ビスジメチルアミノベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、の如きケトン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルの如きベンゾインエーテル類;ベンジルジメチルケタール、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの如きベンジルケタール類、などが挙げられる。
重合開始剤の含有量は、重合性層中、固形分で0.1〜70質量%の範囲が好ましく、1〜40質量%の範囲が特に好ましい。
【0076】
重合性化合物及び重合開始剤を塗布する際に用いる溶媒は、それらの成分が溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50質量%が適当である。
【0077】
重合性層を基板上に形成する場合の塗布量は、充分な重合開始能の発現、及び、膜性を維持して膜剥がれを防止するといった観点からは、乾燥後の質量で、0.1〜20g/m2が好ましく、更に、1〜15g/m2が好ましい。
【0078】
上記のように、基板表面上に上記の重合性層形成用の組成物を塗布などにより配置し、溶剤を除去することにより成膜させて重合性層を形成するが、このとき、加熱及び/又は光照射を行って硬膜することが好ましい。特に、加熱により乾燥した後、光照射を行って予備硬膜しておくと、重合性化合物のある程度の硬化が予め行なわれるので、基板上にグラフトポリマーが生成した後に重合性層ごと脱落するといった事態を効果的に抑制し得るため好ましい。ここで、予備硬化に光照射を利用するのは、前記光重合開始剤の項で述べたのと同様の理由による。
加熱温度と時間は、塗布溶剤が充分乾燥し得る条件を選択すればよいが、製造適正の点からは、温度が100℃以下、乾燥時間は30分以内が好ましく、乾燥温度40〜80℃、乾燥時間10分以内の範囲の加熱条件を選択することがより好ましい。
【0079】
加熱乾燥後に所望により行われる光照射は、光源として、例えば、水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、カーボンアーク灯等がある。放射線としては、電子線、X線、イオンビーム、遠赤外線などがある。また、g線、i線、Deep−UV光、高密度エネルギービーム(レーザービーム)も使用される。引き続き行われるグラフトパターンの形成と、エネルギー付与により実施される重合性層の活性点とグラフト鎖との結合の形成を阻害しないという観点から、重合性層中に存在する重合性化合物が部分的にラジカル重合しても、完全にはラジカル重合しない程度に光照射することが好ましく、光照射時間については光源の強度により異なるが、一般的には30分以内であることが好ましい。このような予備硬化の目安としては、溶剤洗浄後の膜残存率が10%以上となり、且つ、予備硬化後の開始剤残存率が1%以上であることが、挙げられる。
【0080】
(特定重合開始ポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層)
本発明における重合開始層は、特定重合開始ポリマーを含んで構成されていてもよい。この特定重合開始ポリマーは、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基前駆体を有するポリマーである。このため、その特定重合開始ポリマーにおいて、重合開始基がポリマー鎖に結合しており、かつ、そのポリマー鎖が架橋反応により固定化された形態の重合開始層を形成することができる。このような重合開始層の表面にグラフトポリマーを生成させる場合、例えば、親水性基を有するモノマーを含有する溶液を接触させても、その溶液中に重合開始層中の開始剤成分が溶出することを防止することができる。また、重合開始層の形成に際しては、通常のラジカルによる架橋反応のみならず、極性基間の縮合反応や付加反応を使用することも可能であるため、より強固な架橋構造を得ることができる。その結果、重合開始層中の開始剤成分が溶出することをより効率良く防止することができ、重合開始層表面と直接結合をしていないホモポリマーの副生が抑えられることにより、重合開始層表面には直接結合したグラフトポリマーのみが生成されることになる。
【0081】
ここで用いられる特定重合開始ポリマーは、特開2004−161995号公報の段落番号〔0011〕〜〔0158〕に記載にものが挙げられる。特定重合開始ポリマーの特に好ましいものの具体例としては、以下に示すものが挙げられる。

【0082】
【化8】

【0083】
【化9】

【0084】
−重合開始層の成膜−
本発明における重合開始層は、上述の特定重合開始ポリマーを適当な溶剤に溶解し、塗布液を調製し、その塗布液を基板上に塗布などにより配置し、溶剤を除去し、架橋反応が進行することにより成膜する。つまり、この架橋反応が進行することにより、特定重合開始ポリマーが固定化される。この架橋反応による固定化には、特定重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用する方法、及び架橋剤を併用する方法があり、架橋剤を用いることが好ましい。特定重合開始ポリマーの自己縮合反応を使用する方法としては、例えば、架橋性基が−NCOである場合、熱をかけることにより自己縮合反応が進行する性質を利用したものである。この自己縮合反応が進行することにより、架橋構造を形成することができる。
【0085】
本発明における架橋剤の具体例としては、以下に示す構造のものが挙げられる。
【0086】
【化10】

【0087】
このような架橋剤は、重合開始層の成膜の際、上述の特定重合開始ポリマーを含有する塗布液に添加される。その後、塗膜の加熱乾燥時の熱により、架橋反応が進行し、強固な架橋構造を形成することができる。より詳細には、下記のex1.で示される脱水反応やex2.で示される付加反応により架橋反応が進行し、架橋構造が形成される。これらの反応における温度条件としては、50℃以上300℃以下が好ましく、更に好ましくは80℃以上200℃以下である。
【0088】
【化11】

【0089】
また、塗布液中の架橋剤の添加量としては、特定重合開始ポリマー中に導入されている架橋性基前駆体の量により変化するが、架橋度合や、未反応の架橋成分の残留による重合反応への影響の観点から、通常、架橋性基前駆体のモル数に対して0.01〜50当量であることが好ましく、0.01〜10当量であることがより好ましく、0.5〜3当量であることが更に好ましい。
【0090】
また、重合開始層を塗布する際に用いる溶媒は、上述の特定重合開始ポリマーが溶解するものであれば特に制限されない。乾燥の容易性、作業性の観点からは、沸点が高すぎない溶媒が好ましく、具体的には、沸点40℃〜150℃程度のものを選択すればよい。
具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテートなどが挙げられる。
これらの溶媒は、単独或いは混合して使用することができる。そして塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50重量%が適当である。
【0091】
重合開始層の塗布量は、表面グラフト重合の開始能や、膜性の観点から、乾燥後の重量で、0.1〜20g/m2が好ましく、更に、1〜15g/m2が好ましい。
【0092】
[重合開始能を有する基板]
更に、本発明においては、基板自体が重合開始能を有していてもよい。このような基板としては、例えば、骨格中に重合開始部位を有するポリイミド(以下、適宜、特定ポリイミドと称する。)を含む基板が好適である。
【0093】
本発明における重合開始能を有するポリイミド基板は、次の<1>〜<3>をこの順に行うことにより作製することができ、具体的には特開2005−281350で開示のポリイミド基板を使用することができる。
<1>ポリイミド前駆体化合物の作製
<2>ポリイミド前駆体の成形
<3>加熱処理によるポリイミド前駆体のポリイミド構造へ変化
以下に、ポリイミド基板の組成の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0094】
【化12】

【0095】
【化13】

【0096】
以上のようにして、特定ポリイミドを含む基板(重合開始能を有するポリイミド基板)が得られる。
【0097】
<(b)触媒付与工程>
本発明の金属膜の形成方法においては、以上説明したグラフトポリマー生成工程に次いで、「メッキ触媒等付与工程」が行われ、基板表面には、その基板との密着性に優れた金属膜が形成される。
以下、無電解メッキ触媒付与工程、及び、メッキ触媒付与工程について、詳細に説明する。
【0098】
〔無電解メッキ触媒付与工程〕
本工程においては、上記のようにして生成したグラフトポリマーの親水性基に対して、無電解メッキ触媒又はその前駆体を付与する。
【0099】
(無電解メッキ触媒)
本工程において用いられる無電解メッキ触媒とは、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd、Agがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。0価金属を相互作用性領域に固定する手法としては、例えば、相互作用性領域中の上の相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、相互作用性領域に適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、グラフトポリマーが有する親水性基と相互作用させることで、グラフトポリマーに金属コロイド(無電解メッキ触媒)を吸着させることができる。
【0100】
(無電解メッキ触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解メッキ触媒前駆体とは、化学反応により無電解メッキ触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には上記無電解メッキ触媒で用いた0価金属の金属イオンが用いられる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解メッキ触媒である0価金属になる。無電解メッキ触媒前駆体である金属イオンは、グラフトポリマーの親水性基に吸着した後、無電解メッキ浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解メッキ触媒としてもよいし、無電解メッキ触媒前駆体のまま無電解メッキ浴に浸漬し、無電解メッキ浴中の還元剤により金属(無電解メッキ触媒)に変化させてもよい。
【0101】
実際には、無電解メッキ前駆体である金属イオンは、金属塩の状態でグラフトポリマーに付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO3)n、MCln、M2/n(SO4)、M3/n(PO4)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、Agイオン、Pdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0102】
無電解メッキ触媒である金属コロイド、或いは、無電解メッキ前駆体である金属塩をグラフトポリマーに付与する方法としては、金属コロイドを適当な分散媒に分散、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液をグラフトポリマーが存在する基板表面に塗布するか、或いは、その溶液中にグラフトポリマーを有する基板を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、グラフトポリマーが有する親水性基に、イオン−イオン相互作用、又は、双極子−イオン相互作用を利用して金属イオンを吸着させること、或いは、グラフトポリマー生成領域に金属イオンを含浸させることができる。このような吸着又は含浸を充分に行なわせるという観点からは、接触させる溶液中の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、5分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0103】
〔電気メッキ触媒付与工程〕
本発明において、後述の(c)工程において、ポリマー層に対して、無電解メッキを行わず直接電気メッキを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、特に、Pd、Ag、Cuが、その取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。
0価金属を、ポリマー層の相互作用性基に固定する手法としては、例えば、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層に適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用させると、相互作用性基は主に極性基であるために、ポリマー層に選択的に金属コロイド(メッキ触媒)を吸着させることができる。また、導電性を高める目的で、加熱を行ってもよい。
【0104】
<(c)メッキ工程>
(c)メッキ工程は、前記メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行う工程である。この工程は、無電解メッキ工程のみ、電気メッキ工程のみ、又は、無電解メッキ及び電気メッキの両工程を意味し、無電解メッキ及び電気メッキの両工程であることが好ましい。また、両工程を行う場合、無電解メッキ工程の後に電解メッキ工程を行うことが好ましい態様として挙げられる。
以下にそれぞれのメッキ工程について記載する。
【0105】
〔無電解メッキ工程〕
無電解メッキ工程では、メッキ触媒等付与工程より、メッキ触媒等が付与された基板に対して、メッキを行うことで、金属膜が形成される。即ち、本工程におけるメッキを行うことで、前記工程により得られたポリマーに高密度の金属膜が形成される。形成された金属膜は、優れた導電性と密着性を有する。
【0106】
(無電解メッキ)
無電解メッキとは、メッキとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解メッキは、例えば、前記無電解メッキ触媒等付与工程で得られた、無電解メッキ触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解メッキ触媒(金属)を除去した後、無電解メッキ浴に浸漬して行なう。使用される無電解メッキ浴としては一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
また、無電解メッキ触媒前駆体が付与された基板を、無電解メッキ触媒前駆体がグラフトポリマーに付着又は含浸した状態で無電解メッキ浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解メッキ浴中へ浸漬される。この場合には、無電解メッキ浴中において、前駆体の還元とこれに引き続き無電解メッキが行われる。ここに使用される無電解メッキ浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解メッキ浴を使用することができる。
【0107】
一般的な無電解メッキ浴の組成としては、1.メッキ用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このメッキ浴には、これらに加えて、メッキ浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
無電解メッキ浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウム等が知られており、中でも、導電性の観点からは、銅や金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解メッキの浴は、銅塩としてCuSO4、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤が含まれている。また、CoNiPの無電解メッキに使用されるメッキ浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解メッキ浴は、金属イオンとして(Pd(NH34)Cl2、還元剤としてNH3、H2NNH2、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのメッキ浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0108】
〔電気メッキ工程〕
本発明においては、電気メッキを行う工程(電気メッキ工程)を有することもできる。本工程では、前記無電解メッキ工程における無電解メッキにより得られた金属膜を電極とし、更に、電気メッキを行う。
【0109】
上記のように、本工程では、無電解メッキにより得られた、基板との密着性に優れた金属膜(金属膜)をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。本発明においては、この工程を付加することにより、金属膜を目的に応じた厚みに形成することができ、本発明において得られた金属膜を種々の応用に適用するのに好適である。
【0110】
(電気メッキ)
本発明における電気メッキの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。なお、本工程の電気メッキに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0111】
電気メッキにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、メッキ浴中に含まれる金属濃度、浸漬時間、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線など作製する際に用いるためには、膜厚は、導電性の観点から、0.3μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0112】
このようにして形成される金属膜の膜厚は、メッキ浴の金属塩又は金属イオン濃度、メッキ浴への浸漬時間、或いは、メッキ浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、メッキ浴への浸漬時間としては、1分〜3時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0113】
以上のようにして得られる金属膜は、運動性の高いグラフトポリマーに吸着された無電解メッキ触媒に対して無電解メッキを行い形成されるものであり、メッキ液はグラフトポリマーからなる層内部にも浸透すると考えられることから、金属膜と基板との界面は、グラフトポリマーと無電解メッキ触媒や析出したメッキ金属とのハイブリッド状態になっているものと予想される。このような金属膜を、SEMにより断面を観察すると、グラフトポリマーからなる層中に無電解メッキ触媒やメッキ金属の微粒子が分散していることが確認された。
【0114】
この結果に示されるように、界面がグラフトポリマーと微粒子とのハイブリッド状態で構成されているため、基板(有機成分)と無機物(無電解メッキ触媒又はメッキ金属)との界面の凹凸差が500nm以下、更に、好ましい態様である100nm以下であるような平坦な状態であっても、金属膜の密着性が良好であった。更に詳細に説明すると、無電解メッキ触媒、無電解メッキ触媒前駆体に由来する金属塩、及び/又は、無電解メッキにより析出した金属からなる微粒子が分散しているおり、微粒子の分散状態は、金属膜との界面で高密度となっていた。また、グラフトポリマーからなる層中において、このような微粒子が高密度で存在する領域としては、金属膜との界面から基板方向へ深さ0.05μm以上の領域で存在することが好ましく、0.1μm以上の領域で存在することがより好ましく、更に0.2μm以上の領域で存在することが好ましく、特に0.3μm以上の深さまで存在することが好ましい。
【0115】
〔(c’)乾燥工程〕
本発明においては、前記(c)メッキ工程と、前記(d)架橋工程の間、又は前記(d)架橋工程の後、更に(c’)乾燥工程を行うことが密着性向上の観点から好ましい。また、前記(c)メッキ工程が無電解メッキ工程及び電気メッキ工程の両方を含む場合、無電解メッキ工程、電気メッキ工程後のタイミングで(c’)乾燥工程を行うことが好ましい。
【0116】
乾燥工程における乾燥処理は如何なる手段であってもよく、具体的には、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥、送風乾燥などの手段により行うことができる。これらの中でも、乾燥に起因するポリマー層の変質を抑制するという観点からは、常温又はその近傍の温度条件で乾燥処理を行うことが好ましい。具体的には、前記(c)工程終了後に、金属膜形成後の材料を、常温下に保存する自然乾燥、常温条件下での減圧乾燥、及び常温送風乾燥の各乾燥処理が好ましい。
加温を行うことなく水分を可能な限り除去するという観点からは、これらの乾燥処理を、1時間以上、更には24時間以上実施することが好ましい。乾燥処理条件は、必要とされる密着性などを考慮して適宜選択すればよいが、具体的には、金属膜形成後の材料を、例えば、25℃前後の温度雰囲気下で1〜3日程度、1〜3週間程度、或いは、1〜2ヶ月程度保存して乾燥する方法、通常の真空乾燥機による減圧下に1〜3日程度、或いは、1〜3週間程度、保存して乾燥する方法等が挙げられる。
【0117】
このような乾燥処理を行うことにより、基板と金属膜との密着性が向上する作用は明確ではないが、充分な乾燥を行うことにより、密着性を低下させる要因である水分が金属膜とポリマー層との界面に保持されるのを防ぐことで、水分に起因する密着性の低下を抑制しうるものと推定している。
また、乾燥中における銅等からなる金属膜表面の酸化防止のために、乾燥工程の前に、酸化防止剤を金属膜表面に塗布することが好ましい。酸化防止剤としては、一般的に使用されるものが適用でき、例えば、アジミドベンゼン等が使用できる。
【0118】
〔(d)架橋工程〕
(d)架橋工程は、前記ポリマー層を架橋する工程である。(d)工程により、前記架橋性基前駆体から架橋性基が生成する。以下に具体例を示すが、これに限ることはない。
【0119】
【化14】

【0120】
前記架橋性基は、加熱によりカルボン酸基が以下に示す付加反応により架橋が進行する。以下に具体例を示すが、これに限ることはない。
【0121】
【化15】

【0122】
架橋するために必要な加熱方法としては如何なる方法も使用することができる。例えば、オーブン、ホットプレート、IR光源などがあげられ、簡便性の観点よりオーブンが好ましい。また、加熱温度に関しては使用する架橋性基前駆体で最適な温度は異なるが、100℃以上が好ましく、更に好ましくは150℃以上が好ましい。ただし、250℃以上になるとポリマー層中の有機成分の分解が始まるため、250℃以下が更に好ましい。加熱時間に関しては1分以上3時間以下、更に好ましくは、1分以上1時間以下である。
【0123】
<ポリマー前駆体層形成用塗布液組成物、金属膜形成用基板、及び金属膜>
本発明のポリマー前駆体層形成用塗布液組成物は、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる前記の溶剤とを含有することを特徴とする。
本発明の金属膜形成用基板は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、且つ、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが基板上に直接化学結合してなるポリマー層と、を有することを特徴とする。
本発明の金属膜は、本発明の金属膜形成用基板に対し、メッキによるメッキ層を設けてなるものである。
すなわち、本発明の金属膜は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を含む置換基を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマー層と、を有し、該ポリマー層の内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする。
このように、平滑な基板上に形成されたポリマー層の内部及び上部にメッキ層が形成されるため、該メッキ層からなる金属膜は、基板との密着性に優れるという優れた効果を有する。
【0124】
本発明の金属膜において、基板と金属膜(メッキ層)との密着力は好ましくは0.3kN/m以上であり、0.3〜2.0kN/m程度である。なお、従来法により基板を粗面化した上に形成された金属膜における基板と金属膜との密着性は、0.3〜3.0kN/m程度が一般的な値である。このことを考慮すれば、本発明の金属膜は実用上充分な密着性を有していることが分かる。
【0125】
また、本発明においては、金属膜(メッキ層)と基板との間に存在するポリマー層が、メッキ触媒及びメッキにより析出した金属から選ばれる少なくとも1種の微粒子を25体積%以上分散含有する領域を、前記ポリマー層と前記金属膜との界面から前記基板方向に0.05μm以上有することが好ましい。
ポリマー層中に存在する微粒子の状態を更に詳細に説明する。このようなポリマー層中には、メッキ触媒及び/又はメッキにより析出した金属を含む微粒子が分散している。具体的には、この微粒子は、ポリマー層の金属膜との界面側に近接する領域で高密度に分散している。
このときの微粒子分散状態において、金属膜とポリマー層との界面近傍に、微粒子が25体積%以上含まれている領域が存在することが、金属膜の密着力発現の観点から好ましく、更に好ましくは30体積%以上、より好ましくは40体積%以上、特に50体積%以上含まれる領域が存在することが好ましい。
また、ポリマー層中において、このように微粒子が高密度で存在する領域としては、ポリマー層と金属膜との界面から基板方向へ深さ0.05μm以上で存在することが好ましく、0.1μm以上がより好ましく、更に0.2μm以上が好ましく、特に0.3μm以上の深さまで存在することが好ましい。
【0126】
ところで、従来の金属膜においては、基板表面の凹凸を減らすと、基板と金属膜との密着性が低下してしまうため、やむを得ず基材表面を種々の方法により粗面化し、その上に金属膜を設けるといった手法が取られていた。そのため、従来の金属膜の基板の凹凸は、2000nm以上であることが一般的であった。
一方、本発明の金属膜では、基板に対して直接結合してなるポリマーからなる層と、メッキ層と、がハイブリッド状態を形成しているため、平滑な基板と金属膜(メッキ層)との間であっても、優れた密着性を得ることができる。
【0127】
また、本発明の金属膜は、平滑性の高い基板を用いていることから、パターン状にエッチングすることで、高周波特性に優れた金属パターンを得ることができる。ここで、高周波特性とは、特に伝送損失が低くなる特性であり、更には、伝送損失の中でも導体損失が低くなる特性である。
【0128】
本発明の金属膜は、例えば、電磁波防止膜等として用いることができる。また、本発明の金属膜をエッチングすることで金属パターンが形成され、半導体チップ、半導体パッケージ、各種電気配線板、FPC、COF、TAB、アンテナ、多層配線基板、マザーボード、等の種々の用途に適用することができる。
【0129】
<防錆処理工程>
本発明においては、形成された金属膜に対して、酸化を防止するための防錆処理を施すことができる。
本発明に適用可能な防錆処理としては、通常、プリント配線基板の製造時に使用されている防錆処理の方法が何れも使用可能である。例えば、基板上に亜鉛をメッキする方法、フラックスを塗布する方法、ソルダーレジストを塗布する方法などを用いることができる。
【0130】
本発明の金属膜を、以下に説明するようにパターニングすることで、金属パターンを形成することができる。
【0131】
〔第一の金属パターン形成方法〕
本発明の第一の金属パターン形成方法は、上記の金属膜形成方法により得られた金属膜をパターン状にエッチングする工程を含むことを特徴とする。
前記第一の金属パターン形成方法に用いられるエッチング方法は、具体的には一般的に知られているサブトラクティブ法、セミアディブ法が用いられる。
サブトラクティブ法とは、形成した金属膜上にドライフィルムレジスト層を設けパターン露光、現像により金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジストパターンをマスクとしてエッチング液で金属膜を除去し、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジストとしては如何なる材料も使用でき、ネガ型、ポジ型、液状、フィルム状のものが使用できる。また、エッチング方法としては、プリント配線基板の製造時に使用されている方法が何れも使用可能であり、湿式エッチング、ドライエッチング等が使用可能であり、任意に選択すれば良い。作業の操作上、湿式エッチング装置などが簡便で好ましい。エッチング液として、例えば塩化第二銅、塩化第二鉄等の水溶液を使用することができる。
セミアディティブ法とは、形成した金属膜上にドライフィルムレジスト層を儲けパターン露光、現像により非金属パターン部と同じパターンを形成し、ドライフィルムレジソトパターンをマスクとして電気メッキを行い、ドライフィルムレジソトパターンを除去した後にクイックエッチングをし金属膜をパターン状に除去することで、金属パターンを形成する方法である。ドライフィルムレジソト、エッチング液等はサブトラクティブ法と同様な材料が使用できる。また、電気メッキ手法としては前記記載の手法が使用できる。
【0132】
〔第二の金属パターン形成方法〕
本発明では、本発明により得られた金属膜を加工する工程を含む上記金属パターン形成方法とは別の方法で金属パターンを形成する方法を用いることができる。
本発明の請求項12に係る第二の金属パターン形成方法は、(A)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーをパターン状に形成するポリマーパターン形成工程と、(B)該ポリマーパターン上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、(C)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、(D)ポリマーパターンに架橋を行う架橋工程と、
を有することを特徴とする。
上記工程のうち、(A)工程であるパターン状にポリマーパターンを形成させる工程は、前記本発明の金属膜形成方法における(a)工程であるポリマー層形成工程において、前記ポリマーを全面に形成せず、例えば、エネルギー付与領域を制御するなどの手段により、基板の所望の領域のみにパターン状にポリマーを化学結合させる他は、(a)工程と同様にして行うことができる。
その後、引き続き行われる(B)工程乃至(D)工程は、前記金属形成方法における(b)乃至(d)工程と同様にして行うことができる。
ポリマー層をパターン状に形成する方法としては、例えば、ポリマー層形成時に記載表面或いは重合開始層へエネルギーを付与する際に、所望のパターン状にエネルギー付与する方法が挙げられ、この場合は、紫外線、可視光線などによる走査露光や、所定のマスクパターンを介した全面露光などを行えばよい。
【0133】
本発明によれば、基板表面と直接結合しているグラフトポリマーパターン上に、選択的に無電解メッキまたはその前駆体を付与し、続いて無電解メッキを行うため、従来のレジストパターンを用いたエッチング工程による金属膜形成方法と比較して、高解像度の金属膜を容易に得ることができる。また、基板表面の粗面化やエッチング工程を必要としないため、工程が簡易になる、エッチング廃液がでないといった利点をも奏する。
【0134】
本発明の金属パターンは、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上にパターン状に直接化学結合してなるポリマーパターンを有し、該ポリマーパターンの内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする。
【0135】
本発明の金属パターン形成用基板及は、表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマーパターンと、を有することを特徴とする。
【0136】
このように、本発明の金属膜形成方法により得られた金属膜、該金属膜から形成された金属パターン、或いは、金属パターン形成方法により得られた金属パターンは、平滑な基板上に形成され、且つ、基板に直接結合してなるポリマー層との間にハイブリット状態で金属膜が形成されていることから、基板と金属膜との密着性が高く、また、基板の平滑性にも優れることから、導電材料として用いた場合、高周波特性に優れるため、その応用範囲は広い。
【実施例】
【0137】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔基板1の作製〕
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量176、ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート825)5g、トリアジン構造含有フェノールノボラック樹脂のMEKワニス(大日本インキ化学工業(株)製、フェノライトLA−7052、不揮発分62%、不揮発分のフェノール性水酸基当量120)2g、フェノキシ樹脂MEKワニス(東都化成(株)製、YP−50EK35、不揮発分35%)10.7g、重合開始剤として下記化合物(1)2.3g、MEK5.3g、2−エチル−4−メチルイミダゾール0.053gを混合し、攪拌して完全に溶解させて重合開始層塗布液1を作製した。
【0138】
【化16】

【0139】
上記エポキシ樹脂組成物を、基材である、厚さ128μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン500H)上にバー塗布し、170℃で、30分乾燥させて、重合開始層を形成した。得られた重合開始層の膜厚は10μmであった。
また、このようにして得られた基板1の表面の凹凸を、Nanopicks1000(セイコーインスツルメンツ社製)にて測定したところ、Rz=15nmであった。
【0140】
〔基板2の作製〕
基材であるポリイミドフィルム(製品名:カプトン500H、東レデュポン社製)上に、下記の重合開始層塗布液2をロッドバー18番を用いて塗布し、80℃で2分間乾燥させた。
次に、この塗布されたフィルムを、400W高圧水銀灯(UVL−400P、理工科学産業(株)製)を使用し、10分間照射し、予備硬化させて、基材上に重合開始層を形成した。得られた重合開始層の膜厚は6.5μmであった。
また、このようにして得られた基板2の表面の凹凸を、基板1と同様の方法で測定したところ、Rz=12nmであった。
【0141】
(重合開始層塗布液2)
・アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体 4g
(モル比率80/20、分子量10万)
・エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレート 4g
(東亞合成(株)M210)
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 1.6g
・1−メトキシ−2−プロパノール 16g
【0142】
〔基板3の作製〕
(ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)の合成)
窒素下にてN−メチルピロリドン(30ml)中にジアミン化合物として、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(28.7mmol)を溶解させ室温にて約30分間撹拌した。この溶液に3,3’,4,4”−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(28.7mmol)を0℃にて加え5時間撹拌した。反応液を再沈してポリイミド前駆体1を得た。生成物は1H−NMR、FT−IRによりその構造を確認した。
【0143】
(基板の成形)
上記手法で合成したポリイミド前駆体(ポリアミック酸)を、DMAc(和光純薬(株)社製)に溶かし、30質量%のポリイミド前駆体溶液とした。
得られたポリイミド前駆体溶液をロッドバー#36を用いてガラス基板上に塗布、100℃で5分間乾燥後、250℃で30分間加熱して固化させた。その後、得られた膜を、ガラス基板から剥がすことで、重合開始基がポリマー主鎖構造中に含まれるポリイミド樹脂からなる基板3を得た。
また、このようにして得られた基板3の表面の凹凸を、基板1と同様の方法で測定したところ、Rz=30nmであった。
【0144】
〔基板4の作製〕
基材であるポリイミドフィルム(製品名:カプトン500H、東レデュポン社製)の上に、下記の重合開始層塗布液4をロッドバー18番を用いて塗布し、110℃で10分乾燥・架橋反応させた。得られた重合開始層の膜厚は9.3μmであった。
また、このようにして得られた基板4の表面の凹凸を、基板1と同様の方法で測定したところ、Rz=15nmであった。
【0145】
(重合開始層塗布液4)
・下記重合開始ポリマーA 0.4g
・TDI(トリレン−2,4−ジイソシアネート) 0.16g
・メチルエチルケトン(MEK) 1.6g
【0146】
(重合開始ポリマーAの合成)
300mlの三口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(MFG)30gを加え75℃に加熱した。そこに、[2−(Acryloyloxy)ethyl](4−benzoylbenzyl)dimethyl ammonium bromide8.1gと、2−Hydroxyethylmethaacrylate9.9gと、isopropylmethaacrylate13.5gと、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.43gと、MFG30gと、の溶液を2.5時間かけて滴下した。その後、反応温度を80℃に上げ、更に2時間反応させ、下記に示す構造を有する重合開始ポリマーAを得た。なお、下記の構造式に付されている数値は、各繰り返し単位におけるモル共重合比を示す。
【0147】
【化17】

【0148】
〔特定重合性ポリマー1の合成〕
前記ii)の合成方法を用い、下記のようにして、特定重合性ポリマー1を合成した。
(モノマーAの合成)
500mlの三口フラスコに、2−ヒドロキシエチルアクリレート50gを入れ、更にアセトン250mlを加え、撹拌した。そこへ、ピリジン37.5g、p−メトキシフェノール0.03gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、3−クロロプロピオニルクロライド60.1gを滴下ロートにて3時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに3時間撹拌した。反応混合液を水750mlに投入し、1時間撹拌した。水混合液を分液ロートを用いて、酢酸エチル500mlで3回抽出した。その後、有機層を1M(mol/l)塩酸500ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液500ml、飽和食塩水500mlで順次洗浄した。そして、有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去し、下記に示す構造を有するモノマーAを59g得た。
なお、下記に示す構造のモノマーAは、前記ii)の合成方法で用いられる二重結合前駆体を有するモノマーの1つである。
【0149】
【化18】

【0150】
(モノマーBの合成)
500mlの三口フラスコに、カレンズAOI(昭和電工(株)製)10gを入れ、更にテトラヒドロフラン50mlを加え、撹拌した。そこへ、トリエチルアミン0.7g、p−メトキシフェノール0.018gを添加した後に、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、メチルエチルケトオキシム6.2gを滴下ロートにて10分かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに2時間撹拌し、メタノールを10g加えて反応終了した。反応混合液を水50mlに投入し、水溶液を分液ロートを用いて、酢酸エチル100mlで3回抽出した。そして、有機層に硫酸マグネシウム100gを入れ、脱水乾燥した後、濾過した。溶媒を減圧留去し、下記に示す構造を有するモノマーBを6g得た。なお、モノマーBは吸着性基であるカルボン酸と架橋反応をするイソシアネート前駆体官能基を有している。
【0151】
【化19】

【0152】
次に、1000mlの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド30gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。上記モノマーA2.48g、アクリル酸(相互作用性基を有するモノマー)5.19g、モノマーB8.22g、V−601(和光純薬製)0.28gのN,N−ジメチルアセトアミド20g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
【0153】
上記の反応溶液に、4−ヒドロキシTEMPO 0.21gを入れ、N,N−ジメチルアセトアミド350gを加え、氷水を入れた氷浴にて冷却した。混合液温度が5℃以下になった後に、トリエチルアミン21.2gを滴下ロート用いて、滴下した。滴下終了後、氷浴を外してさらに2時間撹拌した。反応液に、水9.5gにメタンスルホン酸22.2gを溶解させた液を添加し、4時間攪拌した。攪拌の後、水再沈を行い、固形物を濾取し、水で洗浄、乾燥して、特定重合性ポリマー1を8g得た。
【0154】
〔特定重合性ポリマー2の合成〕
前記iii)の合成方法を用い、下記のようにして、特定重合性ポリマー2を合成した。
1000mlの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド16gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、2−ヒドロキシエチルアクリレート1.97g、アクリル酸8.58g、モノマーB7.76g、V−601(和光純薬製)0.39gのN,N−ジメチルアセトアミド15g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液に、ジターシャリーペンチルハイドロキノン0.43g、ジブチルチンジラウレート0.53g、カレンズMOI(昭和電工(株)製)2.5g、N,N−ジメチルアセトアミド70gを加え、55℃、6時間反応を行った。その後、反応液にメタノールを20.0g加え、更に2時間反応を行った。反応終了後、水再沈を行い、固形物を濾取し、水で洗浄、乾燥して、特定重合性ポリマー2を10g得た。
なお、「カレンズMOI」は、前記iii)の合成方法で用いられる重合性基を有するモノマーの1つであり、イソシアネート基を有する。
【0155】
〔特定重合性ポリマー4の合成〕
前記iii)の合成方法を用い、下記のようにして、特定重合性ポリマー4を合成した。
1000mlの三口フラスコに、N,N−ジメチルアセトアミド15gを入れ、窒素気流下、75℃まで加熱した。そこへ、アクリル酸9.80g、モノマーB7.76g、V−601(和光純薬製)0.391gのN,N−ジメチルアセトアミド15g溶液を、2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃まで加熱し、更に3時間撹拌した。その後、室温まで、反応溶液を冷却した。
上記の反応溶液に、N,N−ジメチルアセトアミド40g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン0.03g、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド2.0g、サイクロマーA(ダイセル化学工業(株)製)17.06gを加え、60℃、12時間反応を行った。反応終了後、アセトニトリルにて再沈を行い、固形物を濾取し、アセトニトリルで洗浄、乾燥して、特定重合性ポリマー4を8.8g得た。
なお、「サイクロマーA」は、前記iii)の合成方法で用いられる重合性基を有するモノマーの1つであり、エポキシ基を有する。
【0156】
[実施例1]
<ポリマー層形成工程>
基板1に、下記組成からなる塗布液をロッドバー#18を用いて塗布し、乾燥させた。これにより得られたグラフトポリマー前駆体層の膜厚は、1.6μmだった。
【0157】
(塗布液の組成)
・前記特定重合性ポリマー1 0.25g
・炭酸水素ナトリウム 0.15g
・蒸留水 3.0g
【0158】
次に、基板表面に対し、1.5kW高圧水銀灯を使用し、40秒間全面露光を行った。その後、表面を1wt%炭酸ナトリウム水溶液にて洗浄し、特定重合性ポリマー1がグラフト重合した基板Aを得た。
【0159】
<触媒付与工程、及び金属膜形成工程>
得られた基板Aを、硝酸銀(和光純薬製)1質量%の水溶液に5分間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。
その後、以下の組成からなる無電解メッキ浴(液温:60℃)にて、20分間無電解メッキし、金属膜を作製した。
【0160】
(無電解メッキ浴の組成)
・蒸留水 176g
・硫酸銅・5水和物 1.9g
・EDTA・2Na 5.54g
・NaOH 1.58g
・PEG(分子量1000) 0.019g
・2,2−ビピリジル 0.18mg
・ホルムアルデヒド水溶液 1.01g
その後、得られた金属膜を120℃30分加熱することで金属膜1を作成した。
【0161】
[実施例2]
実施例1で得られた金属膜1の製造工程で120℃、30分加熱の操作を行わなかった金属膜に対し、更に、下記組成の電気メッキ浴にて20分間電気メッキ(電気メッキ工程)し、金属膜を作製した。
(電気メッキ浴の組成)
・硫酸銅・五水和物 135g
・濃硫酸 342g
・塩酸 0.25g
・カッパーグリームST−901C 9mL
(ローム・アンド・ハース電子材料(株)製)
・水 234g
【0162】
〔実施例3〕
<ポリマー層形成工程>
基板2に、下記組成からなる塗布液をロッドバー#18を用いて塗布し、乾燥させた。これにより得られたグラフトポリマー前駆体層の膜厚は、1.5μmだった。
(塗布液の組成)
・特定重合性ポリマー2 0.25g
・炭酸水素ナトリウム 0.15g
・蒸留水 3.0g
【0163】
次に、基板表面に対し、1.5kW高圧水銀灯を使用し、40秒間全面露光を行った。その後、表面を1wt%炭酸ナトリウム水溶液にて洗浄し、特定重合性ポリマー2がグラフト重合した基板Bを得た。
【0164】
<触媒付与工程、及び金属膜形成工程>
得られた基板Bを、実施例1と同様な手法で、触媒付与工程、及び金属膜形成工程を行い、実施例2と同様な手法で電気メッキを行い金属膜を得た。
その後、得られた金属膜を120℃30分加熱することで金属膜2を作成した。
【0165】
[実施例4]
<ポリマー層形成工程>
基板4に、下記組成からなる塗布液をロッドバー#18を用いて塗布し、乾燥させた。これにより得られたグラフトポリマー前駆体層の膜厚は、1.5μmだった。
(塗布液の組成)
・特定重合性ポリマー4 0.25g
・炭酸水素ナトリウム 0.15g
・蒸留水 3.0g
【0166】
次に、基板表面に対し、1.5kW高圧水銀灯を使用し、40秒間全面露光を行った。その後、表面を1wt%炭酸ナトリウム水溶液にて洗浄し、特定重合性ポリマー4がグラフト重合した基板Dを得た。
【0167】
<触媒付与工程、及び金属膜形成工程>
得られた基板Dを、実施例1と同様な手法で、触媒付与工程、及び金属膜形成工程を行い、実施例2と同様な手法で電気メッキを行い、金属膜を得た。
その後、防錆処理した後100℃、30分乾燥を行って得られた金属膜を120℃、30分加熱することで金属膜5を作成した。
【0168】
〔実施例5〕
前記実施例2で得られた導電性材料(銅基板)を用いて、微細配線を作製した。
上記導電性材料〔実施例2〕の表面に、感光性ドライフィルム(富士写真フイルム製)をラミネートし、所望の導体回路パターンが描画されたマスクフィルム(金属パターン部分が開口部、金属パターン非形成部がマスク部)を通して紫外線露光させ、画像を焼き付け、現像を行った。次に、塩化第二銅エッチング液を用いてレジストが除去された部分の金属膜(銅薄膜)を除去した。その後ドライフィルムを剥離することにより、銅微細パターンを得た。
得られたパターンは、光学顕微鏡(ニコン製、OPTI PHOTO−2)を用いて細線幅を測定し、50μmの金属パターンが形成したことを確認した。
【0169】
〔実施例6〜9〕
実施例1〜4において、基板に塗布液を塗布後、基板表面に対しフォトマスクを使用しパターン露光を行った以外は同様の工程により金属パターンを作製した。
【0170】
〔比較例1及び比較例2〕
<比較特定重合性ポリマーの合成>
ポリアクリル酸(平均分子量25000)18gをジメチルアセトアミド300gに溶解し、ハイドロキノン0.42g、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート19.4gとジブチルチンジラウレート0.25gを添加し、65℃、4時間反応させた。得られたポリマーの酸価は7.11meqであった。1N水酸化ナトリウム水溶液でカルボキシル基を中和し、酢酸エチルに加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄し親水性ポリマーを10g得た。
【0171】
<金属膜及び金属パターンの形成>
以下の塗布液を使用し実施例1と同様の手法で金属膜を形成し、実施例2の方法で電気メッキをし、比較例1とした。また、実施例6と同様の手法で金属パターンを形成し、比較例2とした。
【0172】
(塗布液の組成)
・比較特定重合性ポリマー 0.25g
・蒸留水 3.0g
【0173】
〔評価〕
(断面形状観察)
金属膜2及び金属パターン6を、ミクロトーム(ライカ製)を用いてダイヤモンドカッター(製品名:スミナイフ)にてカットし、きれいなメッキ断面を有する試料を調整した。得られた試料をSEMで観察したところ、ポリマー層中の金属膜との界面近傍に、無電解メッキ触媒、無電解メッキにより析出した金属の1種以上からなると考えられる微粒子が高密度で存在することが確認された。
【0174】
(密着性)
初めに実施例1〜9、比較例1及び比較例2で得られた金属膜及び金属パターンを65℃1時間→−10℃1時間のヒートサイクルを1回繰返し、以下の試験を行った。
実施例2〜4及び比較例1で得られた金属膜については、金属膜はカッターで幅1cmの傷をつけ、その端を剥がし、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行った(実験器:テンシロン剥離機、(株)オリエンテック製)。実施例5〜9及び比較例2で得られた金属パターンは、幅1cmのパターンを形成し、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行った。
実施例1で得られた金属膜については、カッターで幅1cmの傷をつけ、その表面に、銅板(幅:1cm、厚み:50μm)をエポキシ系接着剤(アラルダイト、チバガイギー製)で接着し、140℃で4時間乾燥した後、JIS C 6481に基づき90度剥離実験を行った。
【0175】
(最小パターン幅)
実施例6〜9で得られた金属パターンについて、光学顕微鏡(ニコン製、OPTI PHOTO−2)を用いて細線幅を測定した。結果を下記表2に示す。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
上記表1の結果によれば、実施例1〜4により得られた各金属膜は、比較例1と比べ、いずれも密着力が良好であった。これは、基板との金属膜との界面が、グラフトポリマーからなるポリマー層と無電解メッキ及び無電解メッキ触媒層(無機成分)とのハイブリット状態を形成しており、更に、グラフトポリマー中の架橋性基前駆体によりグラフトポリマー中に架橋がかかり強固となるので、密着力が良好になると推測される。
また、上記表2の結果によれば、実施例5〜9のパターンにおいても密着力が良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有する、ポリマーを形成するポリマー層形成工程と、
(b)該ポリマー層上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
(c)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、
(d)ポリマー層に架橋を行う架橋工程と、
を有することを特徴とする金属膜形成方法。
【請求項2】
前記(a)ポリマー層形成工程が、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを基板に直接化学結合させることを特徴とする請求項1に記載の金属膜形成方法。
【請求項3】
前記(c)メッキ工程が無電解メッキにより行われることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属膜形成方法。
【請求項4】
前記(c)メッキ工程が無電解メッキであり、前記(d)架橋工程の後、又は前記(d)架橋工程の前に、更に電気メッキを行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項5】
前記基板の表面の凹凸が500nm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項6】
前記(a)ポリマー層形成工程が、(a−1)基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(a−2)該重合開始層上に、直接化学結合しており、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを形成させる工程と、を有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項7】
前記(a−2)工程が、該重合開始層上に、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを接触させた後エネルギーを付与することにより、前記基板表面に当該ポリマーを直接化学結合させる工程であることを特徴とする請求項6に記載の金属膜形成方法。
【請求項8】
前記(c)メッキ工程と前記(d)架橋工程の間、又は前記(d)架橋工程の後、更に、(c’)乾燥工程を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の金属膜形成方法。
【請求項9】
表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマー層と、を有することを特徴とする金属膜形成用基板。
【請求項10】
表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上に直接化学結合してなるポリマー層と、を有し、該ポリマー層の内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする金属膜。
【請求項11】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の金属膜形成方法により得られる金属膜をパターン状にエッチングする工程を含むことを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項12】
(A)基板に直接化学結合し、メッキ触媒またはその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーをパターン状に形成するポリマーパターン形成工程と、
(B)該ポリマーパターン上にメッキ触媒又はその前駆体を付与する触媒付与工程と、
(C)該メッキ触媒又はその前駆体に対してメッキを行うメッキ工程と、
(D)ポリマーパターンに架橋を行う架橋工程と、
を有することを特徴とする金属パターン形成方法。
【請求項13】
前記(A)ポリマーパターン形成工程が、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーパターンを基板に直接化学結合させることを特徴とする請求項12に記載の金属パターン形成方法。
【請求項14】
前記(C)メッキ工程が無電解メッキにより行われることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の金属パターン形成方法。
【請求項15】
前記(C)メッキ工程が無電解メッキであり、前記(D)架橋工程の後、又は前記(D)架橋工程前に、更に電気メッキを行うことを特徴とする請求項12乃至請求項14のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項16】
前記基板の表面の凹凸が500nm以下であることを特徴とする請求項12乃至請求項15のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項17】
前記(A)ポリマーパターン形成工程が、(A−1)基材上に重合開始剤を含有する重合開始層が形成された基板を作製する工程と、(A−2)該重合開始層上に、直接化学結合しており、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーをパターン状に形成する工程と、を有することを特徴とする請求項12乃至請求項16のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項18】
前記(A−2)工程が、該重合開始層上に、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーを接触させた後、パターン状にエネルギーを付与することにより、前記基板表面に当該ポリマーをパターン状に直接化学結合させる工程であることを特徴とする請求項17に記載の金属パターン形成方法。
【請求項19】
前記(C)メッキ工程と前記(D)架橋工程の間、又は前記(D)架橋工程の後に、更に、(C’)乾燥工程を有することを特徴とする請求項12乃至請求項18のいずれか1項に記載の金属パターン形成方法。
【請求項20】
表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーパターンが前記基板上に直接化学結合してなるポリマーパターンと、を有することを特徴とする金属パターン形成用基板。
【請求項21】
表面の凹凸が500nm以下の基板と、メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーが前記基板上にパターン状に直接化学結合してなるポリマーパターンと、を有し、該ポリマーパターンの内部、及び、上部にメッキ層を有することを特徴とする金属パターン。
【請求項22】
メッキ触媒又はその前駆体と相互作用する官能基、重合性基、及び架橋性基前駆体を有するポリマーと、該ポリマーを溶解しうる溶剤と、を含有することを特徴とするポリマー前駆体層形成用塗布液組成物。

【公開番号】特開2007−270216(P2007−270216A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95804(P2006−95804)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】