説明

金属被覆鋼製品の製造のための方法と装置

【課題】 従来技術に比べてよりコンパクトな製造工程、並びにFe−Zn反応を起こさせない加熱段階を可能とする金属被覆鋼製品の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属被覆を持つ鋼製品の被覆に追加の元素を添加するに先立って、表面を浄化し、活性化するためにプラズマ処理を受けさせること、追加の元素が物理蒸着技術により添加されること、続いての熱処理が高エネルギー赤外線を被覆の外表面に向けることにより適用されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属被覆鋼製品、特に亜鉛めっきまたはアルミニウム被覆製品、またはZn−Al被覆を持つ製品、の製造に関し、そこでは耐食性を改善するためにマグネシウムのような追加の合金元素がその被覆に添加される。
【背景技術】
【0002】
鋼製品の耐食性を改善する最良の既知の方法はZn被覆またはAl被覆のような金属被覆を設けることによる。Zn+5%Al(Galfan)及びZn+55%Al+1.6%Si(Galvalume)のような組合せたZn−Al合金熱浸漬被覆鋼板が開発されている。これらはZnの腐食防止性とAlの不動態化性の両方を持つため亜鉛めっき鋼よりより高い耐食性を持つ。
【0003】
Alとは別に、Mgもまた耐食性に有益な効果を持つことが知られている。特に、Zn−Al熱浸漬被覆鋼板におけるMgの効果は立証されている。改善された耐食性を持つZnとAlに加えてMgを含む幾つかの被覆が開発され、商業化されている。これらの被覆の殆どは熱浸漬亜鉛めっき工程の浴合金化により製造される。
【0004】
Mg合金化金属被覆を製造する別の方法は熱浸漬金属被覆(例えば亜鉛めっきされたZn−Alまたはアルミニウム被覆されたAl−Si被覆)または電気分解亜鉛めっきされたZnから出発して、その被覆の上に物理蒸着によりMgを添加し、続いて被覆中にMgを拡散するために熱処理し、Mg合金化被覆を作ることである。その場合、薄いMg層(通常1μm未満)が真空下に蒸着される。その後この二層被覆系が拡散アニールされる。この熱処理ではMgは金属被覆中に拡散し、金属間化合物(例えばMgZn、MgZn11)を形成する。結果として、金属被覆は通常の金属被覆の上に合金化された被覆から、または全厚にわたって金属間化合物を持つ金属被覆から構成される。この最後の技術は例えば文献WO−A−0214573から既知であり、そこでは被覆はZ被覆上へのMgの真空蒸着により、続いての保護雰囲気(HNx,N,HeまたはAr)下での誘導加熱により製造される。
【0005】
誘導加熱の欠点は加熱が亜鉛めっきされた鋼基板の内部側から作用することである。これはZn被覆をガルバニーリングする危険、すなわちFe−Zn反応を起こす危険があるという事実をもたらす。この現象は熱浸漬亜鉛めっき被覆の場合幾らか遅延され、そこではカルバニーリングはFe−Zn金属間化合物を形成するためにはFeAl抑制層の破壊を必要とする。しかし、電気亜鉛めっき基板の場合、Fe−Zn反応は鋼/亜鉛界面にFe−Al金属間層が存在しないので更により早く開始する。このFe−Zn反応の結果は主として被覆の延性の損失である。
【0006】
Mg蒸着の場合に、蒸着前に被覆表面を浄化し活性化することが必要である。特に、酸化物層は金属被覆中へのMg拡散を可能とするために熱浸漬亜鉛めっきされたまたはアルミニウム被覆された製品の表面から除去される必要があり、またはスキンパス乳剤はMg添加がスキンパス、すなわち硬化圧延工程後に行われる場合には除去される必要があるかもしれない。従来技術によれば、これはアルカリ脱脂の方法によりなされることができるが、それはかかる脱脂工程が製造ラインに大きな物理的空間を必要とするという意味でコンパクトな方法ではなく、効率と費用の点で望ましくない。
【0007】
最後に、文献DE 19527515はプラズマ処理が先に亜鉛めっきされた鋼板上へのFe蒸着より前に行われる方法を記載する。Fe添加後に熱処理が続くが、その正確な内容はこの文献中に認識されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は金属被覆鋼製品の製造のための方法を提供することを目的とし、そこでは被覆は熱浸漬被覆または電気分解被覆、主として亜鉛めっきまたはアルミニウム被覆、続いての追加の金属元素、好ましくはMgの蒸着により付与される。まず、本発明の方法は従来技術に比べてよりコンパクトな製造工程、並びにFe−Zn反応を起こさせない加熱工程を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属被覆鋼製品の製造のための方法であって、次の段階:
− 金属被覆を持つ鋼製品を準備すること、
− 前記被覆に追加の金属元素を添加すること、続いて
− 前記製品に熱処理を受けさせること、
を含むものにおいて、
− 前記の追加の元素の添加に先立って、前記被覆の表面を浄化し、かつ活性化するために、前記製品にプラズマ処理を受けさせること、
− 前記追加の元素が物理蒸着技術により添加されること、
− 前記熱処理が高エネルギー赤外線を前記被覆の外表面に向けることにより適用されること、
を特徴とする方法に関する。
【0010】
好適な実施態様によれば、前記金属被覆はZn被覆、Al被覆、Zn−Al被覆からなる群から選ばれる。
【0011】
好ましくは、前記追加の金属元素はMgであり、前記Mgは低圧力下のスパッタリングまたは蒸発を通して添加される。
【0012】
好適な実施態様によれば、前記プラズマ処理はNまたはNとHの混合物からなる雰囲気下の、0.1barと1barの間の圧力で起こる誘電体バリヤ放電(DBD)プラズマ処理である。これに代えて、前記プラズマ処理は減圧下で行ってもよい。
【0013】
更に本発明によれば、前記熱処理は不活性雰囲気下または空気下に与えられることができる。
【0014】
本発明の方法は好ましくは鋼板に適用される。前記赤外線は5〜10秒の間の時間間隔の間、前記鋼板の一方側に、または3〜8秒の間の時間間隔の間、前記鋼板の両方側に向けられることができる。
【0015】
前記赤外線のエネルギー密度は好ましくは少なくとも400kw/mである。
【0016】
本発明は同様に本発明の方法を実施するための装置に関し、前記装置は:
− 金属被覆製品上にプラズマ処理を実施するための手段、
− 物理蒸着技術を用いて前記被覆に追加の元素を添加するための手段、
− 前記追加の元素を添加した後に、前記被覆の外表面に高エネルギー赤外線を向けるための手段、
を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の方法は、金属被覆鋼製品、好ましくは熱浸漬金属被覆または電気分解被覆方法の工程を受けた鋼板、上で実施される次の段階:
− 前記製品にプラズマ処理を受けさせることによって被覆の表面を浄化し、活性化する、
− スパッタリングまたは蒸発のような物理蒸着技術によって前記表面上に追加の金属元素を蒸着する、
− 前記蒸着後に、製品の被覆された側に向けて高エネルギー赤外線を付与することにより前記前品に熱処理を受けさせる、
を含む。
【0018】
好適な実施態様において、金属被覆は熱浸漬亜鉛めっき/アルミニウム被覆または(Zn被覆の場合における)電気分解亜鉛めっきにより付与された、Zn被覆、Al被覆またはZn−Al被覆からなり、一方添加される金属元素はMgである。
【0019】
本発明によれば、プラズマ処理は減圧下で起こすことができる。しかし、好適な実施態様によれば、プラズマ処理は実際には0.1〜1barの間の大気圧またはわずかに低い圧力下で起こる誘導体バリヤ放電プラズマ処理である。この場合、プラズマ処理が起こる雰囲気はNまたはNとHの混合物からなる。DBDプラズマ処理のための二つの既知の形状、すなわち平行板形状及び遠隔プラズマ形状のいずれも利用されることができる。第一の場合、基板は第二電極であり、従って鋼板はプラズマ自体で処理される。第二の場合、鋼板はプラズマの残光により処理される。
【0020】
プラズマ技術の詳細は次の文献:US−A−6051150,US−A−6004631,WO−A−96/38311,US−A−5669583,DE−A−19546187,EP−A−0467639,WO−A−01/38596,US−A−5384167の一つまたはそれ以上に見出されることができる。
【0021】
被覆上へのMgの物理蒸着は低圧でまたは真空下で、例えば蒸発またはスパッタリングにより実施される。蒸発はより高い蒸着速度、従ってより高いライン速度を可能とする技術であり、これらの高い速度はもしこの構成が現存する電気亜鉛めっきまたは熱浸漬亜鉛めっき/アルミニウム被覆ライン上に設置されるなら特に好都合である。
【0022】
本発明によれば、鋼製品は次いで被覆に向けられた高エネルギー赤外線を使用することにより熱処理を受けさせられる。これは塗装金属板の製造で既知(EP−A−1201321参照)の構成に似た一連の高エネルギー赤外ランプにより実施されることができる。好ましくは、高エネルギー赤外線は400kw/m以上のエネルギー密度で付与される。この形式の加熱の利点は、その速度は別として、鋼製品が外側から加熱されるという事実である。従って、ZnまたはAl被覆中へのMg拡散は鋼基板とZnまたはAl被覆との間の界面に影響を及ぼすことなく表面からより容易に開始する。金属被覆製品の熱処理のための高エネルギー赤外線の使用はこれまでは知られておらず、それは主に追加の金属添加(Mgのような)なしでは被覆の特性がより反射的であり、それが必要な加熱を起こすのに十分な態様で赤外線を吸収させることができないという事実のためである。蒸着されたMgは被覆に対して非反射特性を与え、高エネルギー赤外線を付与するとき効率的な熱吸収を可能とする。
【0023】
本発明によれば、高エネルギー赤外線処理は(空気)雰囲気条件下で、または不活性ガスの存在下で行われることができる。後者の代替法は不活性環境では温度が所定の限界を越えるときにも酸化物形成の危険がないとすれば、蒸着工程の終わりの温度がより重大でないという利点を与える。高エネルギー赤外線は鋼板の一方側に、または両方側に付与されることができる。赤外線が付与される時間は好ましくは一方側加熱のためには5〜10秒の間、そして両方側加熱のためには3〜8秒の間にある。正確な放射時間は主として鋼板の厚さに依存する。
【0024】
プラズマ処理と高エネルギー赤外線加熱の適用のため、本発明の方法はかなりコンパクトである。すなわち従来技術の方法より必要とする物理的空間は小さく、それが現存する金属被覆製造ライン中への組み込みを容易にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属被覆鋼製品の製造のための方法であって、次の段階:
− 金属被覆を持つ鋼製品を準備すること、
− 前記被覆に追加の金属元素を添加すること、続いて
− 前記製品に熱処理を受けさせること、
を含むものにおいて、
− 前記の追加の元素の添加に先立って、前記被覆の表面を浄化し、かつ活性化するために、前記製品にプラズマ処理を受けさせること、
− 前記追加の元素が物理蒸着技術により添加されること、
− 前記熱処理が高エネルギー赤外線を前記被覆の外表面に向けることにより適用されること、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記金属被覆がZn被覆、Al被覆、Zn−Al被覆からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記追加の金属元素がMgであり、前記Mgが低圧力下のスパッタリングまたは蒸発を通して添加されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマ処理がNまたはNとHの混合物からなる雰囲気下の、0.1barと1barの間の圧力で起こる誘電体バリヤ放電(DBD)プラズマ処理であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理が減圧下で起こることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理が不活性雰囲気下で与えられることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理が空気下で与えられることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記製品が鋼板であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記赤外線が5〜10秒の間の時間間隔の間、前記鋼板の一方側に向けられることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記赤外線が3〜8秒の間の時間間隔の間、前記鋼板の両方側に向けられることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記赤外線のエネルギー密度が少なくとも400kw/mであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一つに記載の方法を実施するための装置において:
− 金属被覆製品上にプラズマ処理を実施するための手段、
− 物理蒸着技術を用いて前記被覆に追加の元素を添加するための手段、
− 前記追加の元素を添加した後に、前記被覆の外表面に高エネルギー赤外線を向けるための手段、
を含むことを特徴とする装置。

【公表番号】特表2008−513595(P2008−513595A)
【公表日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527343(P2006−527343)
【出願日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010673
【国際公開番号】WO2005/028695
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(591000986)アルセロール フランス (9)
【氏名又は名称原語表記】ARCELOR France
【Fターム(参考)】