説明

金属部材の接合方法および金属接合体

【課題】少ない接合エネルギーで高い接合強度を確保する。
【解決手段】第1金属部材(1)の第1、第2内径部4,5に、第2金属部材(10)の第1、第2外径部11,12をそれぞれ当接させるとともに、上記第1金属部材(1)と第2金属部材(10)とを一対の電極21,22を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両部材(1,10)の間に、上記第1内径部4と第1外径部11とが接合された第1接合部P1と、上記第2内径部5と第2外径部12とが接合された第2接合部P2とを形成し、かつこれら両接合部P1,P2の間に、金属どうしが接触しない間隙部15を、所定の軸方向長さにわたって形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、いわゆるリングマッシュ接合法の一種として、下記特許文献1に示される接合方法が知られている。具体的に、下記特許文献1の方法では、中空状の第1金属部材と、第1金属部材の内径よりもわずかに大きい外径を有する第2金属部材とを軸方向に重ね合わせ、同方向に加圧力をかけた状態で溶接電流を流すことにより、上記第1金属部材の内周面と第2金属部材の外周面とを接合するようにしている。
【0003】
なお、この場合において、上記第1金属部材と第2金属部材との接合の形態は、溶融接合ではなく拡散接合である。すなわち、上記両金属部材に加圧力をかけて通電することにより、接触部分の金属を軟化させて塑性流動を発生させ、金属の新生面どうしを冶金的に接合するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−17048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に示すようなリングマッシュ接合法によれば、例えばアーク溶接等のような一般的な溶融接合と比較して、溶融による炭化物の偏析や、熱影響による凝固割れ等が発生せず、溶接に要する時間も非常に短時間で済むといった利点がある。
【0006】
ただし、上記特許文献1に開示された方法において、より接合強度を高めることを目的に、上記第1金属部材と第2金属部材との接合面積を増やしたような場合には、これに応じて加圧力および電流値を増大させる必要が生じ、設備の大型化を招いてしまうという問題がある。このため、接合に要するエネルギーをできるだけ低く抑えながら、接合強度をより向上させることが求められていた。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、少ない接合エネルギーで高い接合強度を得ることが可能な金属部材の接合方法および金属接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法であって、上記第1金属部材の内周壁部に、第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とを形成し、上記第2金属部材の外周壁部に、上記第1内径部および第2内径部よりも所定量だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部を形成し、上記第1金属部材の第1、第2内径部に、上記第2金属部材の第1、第2外径部をそれぞれ当接させるとともに、上記第1金属部材と第2金属部材とを一対の電極を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両金属部材の間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とを形成し、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部を、所定の軸方向長さにわたって形成することを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明の接合方法では、第1金属部材の内周壁部と第2金属部材の外周壁部とを段違いに形成することで、2つの接合部を離間して形成し、その間を間隙部としたため、上記各接合部の軸方向長さ(接合長)をむやみに大きくしなくても、特に曲げに強い優れた接合構造を構築することができ、接合エネルギーの増大を回避しつつ接合強度を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0010】
本発明の接合方法において、好ましくは、上記第1金属部材と第2金属部材との接合開始時、上記第1内径部と第1外径部、第2内径部と第2外径部とを同時に当接させ、この状態で上記電極による通電を開始する(請求項2)。
【0011】
このようにすれば、上記2つの接合部の品質にばらつきが生じることがなく、信頼性の高い均質な接合構造を構築できるという利点がある。
【0012】
また、本発明は、開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とが、軸方向の加圧力と通電による抵抗発熱とを受けて接合された金属接合体であって、上記第1金属部材の内周壁部に、第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とが形成され、上記第2金属部材の外周壁部に、接合前の時点で上記第1内径部および第2内径部よりも所定量だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部が形成され、上記第1金属部材と第2金属部材との間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とが形成され、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部が、所定の軸方向長さにわたって形成されていることを特徴とするものである(請求項3)。
【0013】
本発明の金属接合体では、軸方向に離間した2つの接合部が形成されることにより、特に曲げに対する剛性が効果的に向上するという利点がある。
【0014】
本発明の金属接合体の用途は特に問わないが、例えば、上記第1金属部材をリングギア、上記第2金属部材をデフケースとするのが好適である(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、リングギアとデフケースとを高強度に接合でき、ディファレンシャル機構の信頼性をより高めることができるという利点がある。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、少ない接合エネルギーで高い接合強度を得ることが可能な金属部材の接合方法および金属接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】接合対象としてのリングギアとデフケースとの分解断面図である。
【図2】上記リングギアとデフケースとを接合する際に使用される接合装置の概略構成を示す図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】接合が完了した状態を示す図2相当図である。
【図5】上記リングギアに曲げモーメントが加わる状況を説明するための図である。
【図6】本発明の変形例を説明するための図である。
【図7】本発明の別の変形例を説明するための図であり、(a)は接合前の状態、(b)は接合後の状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、当実施形態における接合対象部品の構成を示す分解断面図である。本図に示すように、当実施形態では、車両用の部品であるリングギア1とデフケース10とを、本発明の接合方法に基づき接合する。
【0019】
上記デフケース10は、ディファレンシャル機構のピニオンギアやサイドギアを収納するケースであり、本発明にかかる第2金属部材に相当する。デフケース10の材質は鋳鉄であり、その具体例としては、FCD450やFCD550等の球状黒鉛鋳鉄が好適である。
【0020】
上記デフケース10は、大小複数の径を有する中空多段状の部材からなり、その軸方向中間部分の外周壁部には、外径Y1を有する第1外径部11と、外径Y1よりも大きい外径Y2を有する第2外径部12とが形成されている。
【0021】
上記リングギア1は、トランスミッションから伝達される駆動力を受けるギア部品であり、本発明にかかる第1金属部材に相当する。リングギア1の材質はスチールであり、その具体例としては、SCR420H等の浸炭焼入れ鋼が好適である。
【0022】
上記リングギア1は、厚み方向に貫通する開口部2を有したリング状の部材からなり、その最外周部には、トランスミッションの出力ギアと噛合されるギア部3が形成されている。また、上記開口部2を囲むリングギア1の内周壁部には、内径X1を有する第1内径部4と、内径X1よりも大きい内径X2を有する第2内径部5とが形成されている。
【0023】
上記リングギア1の内径X1,X2と、上記デフケース10の外径Y1,Y2との関係は、第1外径部11の外径Y1が第1内径部4の内径X1よりもわずかに大きく、第2外径部12の外径Y2が第2内径部5の内径X2よりもわずかに大きい。なお、後述する図3に示すように、上記各外形部11,12と各内径部4,5との半径の差(締め代)は、ともにSとされる。この場合、直径差は2Sとなるので、(第1外径部11の外径Y1)=(第1内径部の内径X1)+2S、(第2外径部12の外径Y2)=(第2内径部の内径X2)+2S という関係になる。
【0024】
また、上記各外形部11,12と各内径部4,5の軸方向長さに関しては、図1に示すように、リングギア1の第1内径部4およびデフケース10の第2外径部12の軸方向長さがともにL1で、リングギア1の第2内径部5およびデフケース10の第1外径部11の軸方向長さとがともにL2で、かつ、L1<L2である。
【0025】
図2は、上記リングギア1とデフケース10とを接合する際に使用される接合装置20の概略構成を示す図である。本図に示すように、接合装置20は、上部電極21および下部電極22と、各電極21,22を軸方向(図2では上下方向)に加圧する図外の加圧機構と、各電極21,22に接合用の高電流を供給する電源装置23とを備える。このような接合装置20を用いての接合は、リングギア1の開口部2にデフケース10を挿入して仮固定した状態で、上記上部電極21および下部電極22により上記両部材1,10を軸方向に加圧しつつ通電することで行う。なお、図2では、上部電極21および下部電極22を上下方向に対向配置して、その間にリングギア1およびデフケース10を挟み込んで接合する場合を例示するが、例えば、上記両電極21,22を水平方向に対向配置した状態で接合することも当然に可能である。
【0026】
上記リングギア1およびデフケース10の接合の手順についてより詳しく説明する。リングギア1およびデフケース10を接合するには、まず、リングギア1の開口部2に、デフケース10を上から挿入する。すなわち、リングギア1を、その第1内径部4が第2内径部5よりも下にくる姿勢で下部電極22上に設置し、このリングギア1の上方から、デフケース10を下向きに挿入する。このとき、デフケース10の第1外径部11が第2外径部12よりも下にくるようにし、第1外径部11から先にリングギア1に挿入する。
【0027】
図3は、図2のA部拡大図であり、上記のようなデフケース10の挿入操作が完了した状態を示している。上述したように、上記デフケース10の第1外径部11および第2外径部12の各外径Y1,Y2は、リングギア1の第1内径部4および第2内径部5の各内径X1,X2よりも締め代Sの分だけ大きいため、図3に示すように、デフケース10がリングギア1に挿入されると、第1外径部11の最外周部が第1内径部4に当接するとともに、第2外径部12の最外周部が第2内径部5に当接する。このとき、リングギア1の第2内径部5の軸方向長さと、デフケース10の第1外径部11の軸方向長さが等しいことから(ともに図1の寸法L2)、上記第1内径部4と第1外径部11、および第2内径部5と第2外径部12とは、同時に当接することになる。なお、図示の例では、各内径部4,5および各外径部11,12の角部がそれぞれ面取りされており、この面取りされた部分どうしが互いに当接するようになっている。以上により、デフケース10がリングギア1上に仮固定される。
【0028】
上記のようにして仮固定が完了すると、次に、上部電極21および下部電極22によりリングギア1およびデフケース10を上下から挟み込んで加圧するとともに、上記両電極21,22に接合用の電圧を印加する。具体的には、上記下部電極22上に仮固定されたリングギア1およびデフケース10に対し、上部電極21を上から接近させ、その下端部をデフケース10の第2外径部12の部分に当接させるとともに、その状態で上記両電極21,22に対し所定の加圧力を接近方向(軸方向)に加える。また、これに合わせて電源装置23を作動させることにより、上記両電極21,22に接合用の電圧を印加する。
【0029】
上記のような電圧の印加に応じて、上記両電極21,22の間には、リングギア1およびデフケース10を介して瞬時に大きな電流が流れる。このとき、リングギア1とデフケース10とは、第1内径部4と第1外径部11との当接部、および、第2内径部5と第2外径部12との当接部の2箇所を介して接触しているため、上記電流は、この2箇所の当接部を通じて流れることになる。
【0030】
すると、通電による抵抗発熱が発生し、上記両当接部では、金属の軟化および塑性流動が起きる。このとき、上記電極21,22による加圧は継続されているため、上記金属の軟化に伴い、デフケース10がリングギア1に対し徐々に下方に押し込まれていく。これにより、デフケース10とリングギア1との接触面積(つまり第1内径部4と第1外径部11、第2内径部5と第2外径部12との各接触面積)が増大し、金属が軟化する領域も増大していく。
【0031】
そして、上記デフケース10が下部電極22に当接するまで下方に押し込まれ、図4に示すように、リングギア1の第1内径部4の内周面全体が、デフケース10の第1外径部11の外周面に接触し、かつデフケース10の第2外径部12の外周面全体が、リングギア1の第2内径部5の内周面に接触するようになった状態で、上記電極21,22間の通電が停止されることにより、上記各接触面の金属が再凝固し、同図に示すような2つの接合部P1,P2が形成される。
【0032】
すなわち、上記第1内径部4と第1外径部11、および第2内径部5と第2外径部12との各接触面において、金属の軟化および塑性流動が起きることにより、酸化皮膜や異物等が除去され、この状態で通電が停止されることにより、金属の新生面どうしが冶金的に結合しつつ再凝固する。これにより、第1内径部4と第1外径部11との間に第1接合部P1が形成されるとともに、第2内径部5と第2外径部12との間に第2接合部P2が形成される。なお、図4において符号Q1,Q2はバリであり、このバリは、上記第1内径部4と第1外径部11との間、および、第2内径部5と第2外径部12との間から、上記締め代Sの分だけ外部に押し出された金属によって形成される。
【0033】
以上のような工程を経ることにより、リングギア1とデフケース10との接合が完了する。この場合に形成される第1接合部P1および第2接合部P2の間には、金属どうしが接触しない間隙部15が存在することになる。すなわち、リングギア1の第1、第2内径部4,5、およびデフケース10の第1、第2外径部11,12が、図1等に示したような寸法関係(つまり、Y1(=X1+2S)<Y2(=X2+S2)、かつL1<L2)であったことにより、接合後の状態において、上記第1接合部P1および第2接合部P2が径方向および軸方向にそれぞれオフセットして形成され、その結果、上記両接合部P1,P2の間に、間隙部15が所定の軸方向長さにわたって形成される。
【0034】
以上説明したように、当実施形態では、リングギア1とデフケース10とを接合するに際して、まず、リングギア1の内周壁部に、内径X1の第1内径部4と、これより大きい内径X2の第2内径部5とを形成するとともに、デフケース10の外周壁部に、上記内径X1,X2よりも締め代Sの分だけ外径が大きい(外径Y1,Y2の)第1外径部11および第2外径部12を形成するようにした。そして、上記リングギア1の第1、第2内径部4,5に、上記デフケース10の第1、第2外径部11,12をそれぞれ当接させるとともに、上記リングギア1とデフケース10とを一対の電極21,22を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両部材1,10の間に、上記第1内径部4と第1外径部11とが接合された第1接合部P1と、上記第2内径部5と第2外径部12とが接合された第2接合部P2とを形成し、かつこれら両接合部P1,P2の間に、金属どうしが接触しない間隙部15を、所定の軸方向長さにわたって形成するようにした。このような構成によれば、少ない接合エネルギーで高い接合強度が得られるという利点がある。
【0035】
すなわち、上記実施形態では、リングギア1の内周壁部とデフケース10の外周壁部とを段違いに形成することで、2つの接合部P1,P2を離間して形成し、その間を間隙部15としたため、上記各接合部P1,P2の軸方向長さ(接合長)をむやみに大きくしなくても、特に曲げに強い優れた接合構造を構築することができ、接合エネルギーの増大を回避しつつ接合強度を効果的に向上させることができるという利点がある。
【0036】
例えば、単に接合強度を高めるだけの目的であれば、上記実施形態のように接合部を2つ(P1,P2)に分けなくても、接合長の長い1つの接合部を形成することで接合強度を高められる。しかしながら、このようにした場合には、接合時に必要な電流値や加圧力が増大し、設備の大型化やコストアップを招いてしまう。
【0037】
これに対し、上記実施形態のように、軸方向に離間した2つの接合部P1,P2を形成した場合には、例えば各接合部P1,P2を軸方向に連続させたような場合と比較して、接合部の断面係数が増大するため、特に図5に示すような曲げモーメントMがリングギア1に作用したときに、接合部P1,P2に作用する力が軽減され、曲げ剛性がより向上する。なお、リングギア1は、そのギア部3に伝達される駆動力により様々な方向の力を受けることから、上記のような曲げ剛性の向上により、ディファレンシャル機構の信頼性をより高めることができる。
【0038】
しかも、各接合部P1,P2の間に上記間隙部15が存在することで、接合により生じるバリQ2を間隙部15に逃がすことができるため、例えばバリQ2を介してリングギア1とデフケース10とが接合されるようなことがなく、バリQ2に起因した接合不良を効果的に防止できるという利点がある。
【0039】
さらに、上記実施形態では、リングギア1とデフケース10との接合開始時に、図2および図3に示すように、第1内径部4と第1外径部11、第2内径部5と第2外径部12とを同時に当接させ、この状態で通電を開始するようにしたため、上記2つの接合部P1,P2の品質にばらつきが生じることがなく、信頼性の高い均質な接合構造を構築できるという利点がある。
【0040】
例えば、上記第1内径部4と第1外径部11との当接、および、第2内径部5と第2外径部12との当接が、極端に異なるタイミングで起きるような場合には、先に当接した方に過大な電流が流れ、金属母材が飛散するチリ(散り)と呼ばれる現象が生じる等により、接合強度が大きく低下するおそれがある。これに対し、上記実施形態では、2箇所の当接のタイミングを同時に設定することで、上記のような事態を回避して接合強度を高いレベルに維持できるという利点がある。
【0041】
もちろん、多少のタイミングのずれであれば、過電流が流れる時間もわずかで済むため、品質への影響も少ないと考えられる。したがって、上記2箇所の当接のタイミングは、厳密な意味で同時でなくてもよく、多少のタイミングのずれが存在してもよい。例えば、図6に示すように、リングギア1の第2内径部5の軸方向長さと、デフケース10の第1外径部11の軸方向長さとを、設計上の都合等で同一寸法にできないような場合(図示の寸法差ΔLが存在する場合)には、上記第1内径部4と第1外径部11との当接、および、第2内径部5と第2外径部12との当接のタイミングがずれることになるが、その場合でも、図示のように寸法差ΔLが小さければ、当接タイミングのずれも小さく、接合は問題なく行われると考えられる。
【0042】
なお、上記実施形態では、軸方向に離間した2箇所の接合部P1,P2を介してリングギア1とデフケース10とを接合したが、接合部は2箇所でなくてもよく、3箇所もしくはそれ以上の接合部を介してリングギア1とデフケース10とを接合してもよい。図7(a)(b)は、接合部を3箇所(P1,P2,P3)に設定した場合を例示したものであり、同図(a)は接合前の状態を、同図(b)は接合後の状態をそれぞれ示している。
【0043】
また、上記実施形態では、スチール製のリングギア1と鋳鉄製のデフケース10とを接合する場合を例に挙げて説明したが、本発明の接合方法は、その他の金属製部品にも当然に適用可能であり、その材質もスチールや鋳鉄に限られない。本発明の接合方法は、金属の軟化・塑性流動により接合するものであるため、例えばアーク溶接やレーザ溶接といった溶融接合による場合よりも、材質の制約が少なく、様々な材質への適用が期待できる。
【符号の説明】
【0044】
1 リングギア(第1金属部材)
2 開口部
4 第1内径部
5 第2内径部
10 デフケース(第2金属部材)
11 第1外径部
12 第2外径部
15 間隙部
21 上部電極(電極)
22 下部電極(電極)
P1 第1接合部
P2 第2接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とを、軸方向に加圧しつつ通電による抵抗発熱によって接合する方法であって、
上記第1金属部材の内周壁部に、第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とを形成し、
上記第2金属部材の外周壁部に、上記第1内径部および第2内径部よりも所定量だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部を形成し、
上記第1金属部材の第1、第2内径部に、上記第2金属部材の第1、第2外径部をそれぞれ当接させるとともに、上記第1金属部材と第2金属部材とを一対の電極を用いて軸方向に加圧しつつ通電することにより、上記両金属部材の間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とを形成し、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部を、所定の軸方向長さにわたって形成することを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の金属部材の接合方法において、
上記第1金属部材と第2金属部材との接合開始時、上記第1内径部と第1外径部、第2内径部と第2外径部とを同時に当接させ、この状態で上記電極による通電を開始することを特徴とする金属部材の接合方法。
【請求項3】
開口部が設けられた第1金属部材と、上記開口部を囲む第1金属部材の内周壁部に部分的に接触可能な外周壁部を有した第2金属部材とが、軸方向の加圧力と通電による抵抗発熱とを受けて接合された金属接合体であって、
上記第1金属部材の内周壁部に、第1内径部と、これよりも内径の大きい第2内径部とが形成され、
上記第2金属部材の外周壁部に、接合前の時点で上記第1内径部および第2内径部よりも所定量だけ外径が大きい第1外径部および第2外径部が形成され、
上記第1金属部材と第2金属部材との間に、上記第1内径部と第1外径部とが接合された第1接合部と、上記第2内径部と第2外径部とが接合された第2接合部とが形成され、かつこれら両接合部の間に、金属どうしが接触しない間隙部が、所定の軸方向長さにわたって形成されていることを特徴とする金属接合体。
【請求項4】
請求項3記載の金属接合体において、
上記第1金属部材がリングギアであり、上記第2金属部材がデフケースであることを特徴とする金属接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−98358(P2011−98358A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253185(P2009−253185)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】