説明

金属酸化物素子及びその製造方法

【課題】より安定に状態の保持が得られるなど、金属酸化物から構成された材料を用いて安定した動作が得られる金属酸化物素子を提供する。
【解決手段】単結晶シリコンからなる基板101の上に絶縁層102,共通に設けられた下部電極層103,BiとTiとOとから構成された膜厚30〜200nm程度の複数の金属酸化物層104,金属酸化物層104毎に設けられた上部電極105を備える。また、隣り合う酸化物層104の間が、五酸化タンタルからなる絶縁分離層106により素子分離されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電特性を有するなどの特性を備えた金属酸化物の薄膜を用いた金属酸化物素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メモリには、半導体装置が多く用いられてきた。この中の1つとして、DRAM(Dynamic Random Access Memory)が広く使用されている。DRAMの単位記憶素子(以下、メモリセルという)は、1個のキャパシタと1個のMOSFET(Metal-oxide-semiconductor field effect transistor)からなり、選択されたメモリセルのキャパシタに蓄えられた電荷の状態に対応する電圧変化を、デジタル信号の「0」あるいは「1」として読み取ることで、メモリ動作をさせている。
【0003】
しかし、DRAMでは、キャパシタに蓄えられた電荷が時間とともに減少するため、通電しながらデータを保持しなければならないという欠点を有している。また、DRAMでは、データを読み出す毎にキャパシタの電荷の状態が変化するため、再書き込みが必要となる。これらの問題は、ユビキタスサービス社会で必要となる低消費電力で高速動作をするメモリ装置を開発する上で、大きな制限となっている。
【0004】
現在、高速かつ不揮発なメモリとして、強誘電体の分極を用いた強誘電体メモリ(FeRAM:Ferroelectric RAM)や、強磁性体の磁気抵抗を用いた強磁性体メモリ(MRAM:Magnetoresist RAM)などが注目されており、盛んに研究されている。この中で、FeRAMは、既に実用化されていることもあり、諸処の課題を解決できれば、フラッシュメモリやロジックのDRAMも置き換えできると期待されている。
【0005】
強誘電体材料のうち、FeRAMには、主に酸化物強誘電体が使用されている。酸化物強誘電体は、BaTiO3,PbTiO3などのペロブスカイト構造(Perovskite)、LiNbO3,LiTaO3などの擬イルメナイト構造(Pseudo-ilmenite)、PbNb26,Ba2NaNb515などのタングステン・ブロンズ(TB)構造(Tumgsten-bronze)、SrBi2Ta29,Bi4Ti312などのビスマス層状構造(Bismuth layer-structure ferroelectric,BLSF)等、Pb2Nd27などのパイロクロア構造(Pyrochlore)に分類される。
【0006】
これらの中でもPb(Zr,Ti)O3(PZT)で代表される鉛系強誘電体が、実用上で主流となっている。しかしながら、鉛含有物や鉛酸化物は、労働安全衛生法により規制される材料であり、生態への影響や環境負荷の増大などが懸念される。このため欧米では、生態学的見知及び公害防止の面から規制対象となりつつある。
【0007】
近年の環境負荷軽減の必然性から、非鉛系(無鉛)で鉛系強誘電体の性能に匹敵する強誘電体材料が世界的に注目されており、この中でも無鉛ペロブスカイト型強誘電体やビスマス層状構造強誘電体(BLSF)が有望とされている。ビスマス層状構造強誘電体は、分極特性に大きな特徴を持ち、配向軸の向きにより分極量が10倍程度変化することや、分極を反転させた回数による劣化が少なく、Pb系よりも疲労特性に優れているという報告もなされている。しかし、ビスマス層状構造強誘電体は、鉛系強誘電体に比べ分極量が小さく成膜法・加工法ともに課題が多いのも事実である(非特許文献1参照)。
【0008】
フラッシュメモリの代わりとして期待されるFeRAMには、主に、スタック型とFET型に分類される。スタック型は、1トランジスタ1キャパシタ型FeRAMとも呼ばれ、この構造からスタック型キャパシタを持つものと、プレーナ型キャパシタを持つもの、立体型キャパシタを持つものがある。これらの構造では、キャパシタ中の強誘電体の分極の向きにより、トランジスタを流れる電流量が変化することを利用し、メモリの「0」と「1」とを読み出すようにしている。また、強誘電体の分極は、通電せずに保持することができるの、FeRAMは、不揮発性も有している。しかしながら、FeRAMは、データを読み出すときに分極の反転が伴うことがあり、破壊読み出し動作になるという欠点を有している。また、FeRAMは、1つのメモリセルが専有する面積が大きいため、高集積化が容易ではない。
【0009】
上述したスタック型FeRAMに対し、FET型FeRAMは、次世代を担うFeRAMとして期待されている。FET型FeRAMは、1トランジスタ型FeRAMとも呼ばれ、この構造から、MOSFETのゲート電極とチャネル領域のゲート絶縁膜の代わりに強誘電体膜を配置したMFS(Metal-ferroelectric-semiconductor)型FeRAM、MOSFETのゲート電極の上に強誘電体膜を配置したMFMIS(Metal-ferroelectric-metal-insulator-semiconductor)型FeRAM、さらにMOSFETのゲート電極とゲート絶縁膜の間に強誘電体膜を配置したMFIS(Metal-ferroelectric-insulator-semiconductor)型FeRAMなどの1トランジスタ型FeRAMがある(非特許文献2参照)。
【0010】
これらのFeRAMは、MOSFETの動作に強誘電体の分極を適用させたものであり、分極の状態により、ゲート絶縁膜直下の半導体表面にチャネルが形成される場合と、形成されない場合との状態を作り出し、このときのソース−ドレイン間の電流値を読み取り、電気的なデジタル信号の「0」あるいは「1」として取り出すことで、メモリ動作を実現している。
【0011】
FET型FeRAMでは、動作原理から、データ読み出しを行っても、強誘電体の分極量は変化しないことから非破壊読み出しが可能であり、高速動作が期待されている。また、1トランジスタ1キャパシタ型FeRAMに比べて専有面積も小さくできることから、高集積化に有利である特徴を持つ。
【0012】
しかしながら、上述した構成では、強誘電体の層を半導体上に形成することになるが、よく知られているように、半導体上に強誘電体の層を形成することは非常に困難である。例えば、Siなどの半導体基板を用いた場合、強誘電体の成膜に良く用いられるゾルゲル法や有機金属化学気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法などでは、高温での成膜が必要となるため、半導体の表面が酸化又は変質してしまう。これにより、界面に不要な酸化膜や欠陥を形成してしまい、これらがメモリ特性を大きく悪化させる原因となる。
【0013】
実際、界面での酸化膜は強誘電体の分極保持を妨げるような減分極電界を発生させるため、メモリの保持特性を著しく悪くしてしまう。また欠陥の形成は、ゲートからチャネルヘのリーク電流を増大させるため、トランジスタのON/OFF比を劣化させてしまう。このような問題点を解決するため、強誘電体と半導体に間に高誘電率の絶縁膜を挟む構造が提案されているが、やはり減分極電界の影響を無視することができず、長期の分極保持は非常に困難であるという報告が多い。
【0014】
上述したことから明らかなように、次世代のメモリとして注目されているFeRAMを実現するためには、基板上への強誘電体薄膜の形成が非常に重要である。現在までに様々な形成装置及び種々の薄膜形成方法が試みられている。例えば、前述したゾルゲル法やMOCVD方法に加え、パルス・レーザ・デポジション(Pulsed laser deposition,PLD)、高周波スパッタリング法(rf-sputtering、RFスパッタ法やマグネトロンスパッタ法とも呼ぶ)、ECRスパッタ法(Electron cyclotron resonance sputtering)などが挙げられる。
【0015】
ゾルゲル法などの化学溶液堆積法は、強誘電体の基材を有機溶媒に溶解して基板に塗布し、この塗布膜を焼結する手順を繰り返し、所定の膜厚とした強誘電体層を形成する方法である。ゾルゲル法は、簡便で比較的大面積に膜が形成できるのが特徴であるが、塗布する基板との濡れ性の問題や、形成した膜中に溶媒が残ってしまうことによる汚染などの多くの欠点を抱えている。
【0016】
MOCVD法は、大面積に結晶性の良い膜を形成でき、かつ段差被覆特性にも優れた強誘電体の成膜手法として、多くの注目を集めている。しかしながら、ソースガスの供給するため有機溶剤を使用するため、膜中の炭素原子による汚染が大きな問題点となる。利用するガスの取り扱いが容易ではなく、装置が非常に大掛かりになってしまう。
【0017】
形成される薄膜の純度や組成に関しては、PLD法は有効な成膜手法である。これは、エキシマレーザなどの強力なレーザ光源で強誘電体材料のターゲットをアブレーションすることにより放出される原子,イオン,クラスターを基板に堆積させ、薄膜を形成する方法である。PLD法では、比較的結晶性の良い薄膜を形成できることから、大きな関心が寄せられている。しかし、レーザがターゲットに照射される面積が小さいため、基板の上に形成される薄膜に大きな面内分布が生じてしまい、大面積での成膜は容易ではない。従って、量産をするなど工業的な観点からは、現在のPLD法は極めて不利な手法である。
【0018】
上述した種々の膜形成方法に対し、強誘電体膜の形成方法としてスパッタリング法(単にスパッタ法ともいう)が注目されている。スパッタ法は、危険度の高いガスや有毒ガスなどを用いることなく、堆積する膜の表面凹凸(表面モフォロジ)が比較的良いなどの理由により、有望な成膜装置・方法の1つになっている。
【0019】
従来から使用されているRFスパッタ法においては、ターゲットとして対象とする化合物の焼結体を用い、酸化物強誘電体を堆積している。ところが、不活性ガスとしてアルゴン、反応性ガスとして酸素を用いてスパッタした場合、基板の上に形成された強誘電体薄膜中に酸素が充分に取り込まれず、良好な膜質の強誘電体薄膜が得られないという問題点があった。このため、上述したスパッタ法では、膜を形成した後に酸素中でのアニーリングが必要とされてきた。
【0020】
一方、スパッタ膜の膜質改善の方法として、電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを発生させ、このプラズマの発散磁場を利用して作られたプラズマ流を基板に照射し、同時にターゲットと接地と間に高周波又は負の直流電圧を印加し、ECRで発生したプラズマ流中のイオンをターゲットに引き込み衝突させて、スパッタリングすることにより、膜を基板上に堆積させるECRスパッタ法がある。
【0021】
ECRを利用したプラズマは、低ガス圧(0.01Pa程度)での放電、低エネルギー(数10eV程度)領域でのイオンエネルギーの制御、高イオン化率などの優れた特性を有する。ECRプラズマ中のイオンは、ターゲットに印加される負電荷により、ターゲット材料をスパッタするとともに、スパッタされて基板の上に飛来した原料粒子に適度なエネルギーを与え、原料粒子と酸素との結合反応を促進することになり、堆積した膜の膜質改善になると考えられている。従って、ECRスパッタ法では、低い基板温度で高品質の膜が形成できることが大きな特徴であり、表面モフォロジも極めて優れたものとなる。特にゲート絶縁膜の形成においては、この有効性を発揮している(特許文献1,特許文献2参照)。
【0022】
また、ECRスパッタ法を用いた強誘電体薄膜形成の検討についてもいくつか報告されている(特許文献3、特許文献4参照)。これらでは、バリウム又はストロンチウムを含む強誘電体の製造について報告されている。また、ECRスパッタ法によるBi4Ti312の製造法についても報告されている(非特許文献2参照)。
【0023】
上述したようなメモリを取り巻く状況に対し、強誘電体の分極量により半導体の状態を変化させる(チャネルを形成する)などの効果によりメモリを実現させるのではなく、半導体基板の上部に直接形成した強誘電体層の抵抗値を変化させ、結果としてメモリ機能を実現する技術が提案されている(特許文献5参照)。強誘電体層の抵抗値の制御は、電極と電極との間に電圧を印加することで行う。
【0024】
【特許文献1】特許第2814416号公報
【特許文献2】特許第2779997号公報
【特許文献3】特開平10−152397号公報
【特許文献4】特開平10−152398号公報
【特許文献5】特開平7−263646号公報
【非特許文献1】塩嵜忠 監修、「強誘電体材料の開発と応用」、シーエムシー出版
【非特許文献2】増本らのアプライド・フィジクス・レター、第58号、243頁、1991年、(Appl.Phys.Lett.,58,243,(1991).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、特許文献5に提案されている構造は、前述したMFS型FeRAMのゲート電極直下と同様に、半導体の上に強誘電体層を備える構造となっている。従って、従来の素子では、MFS型FeRAMの製造過程に最大の問題となる半導体上の良質な強誘電体層の形成が困難であるばかりでなく、半導体と強誘電体層との間に半導体酸化物が形成されてしまい、減分極電界の発生や多くの欠陥の発生が特性に大きく影響し、長時間のデータ保持は不可能であることが予想される。実際、従来の素子では、2分程度の保持時間しか達成されておらず、1分程度でデータの再書き込みを強いられることになる。また、メモリとしてのON/OFF比も3程度であり、充分なものではなかった。
【0026】
また、上記素子に見られる電流電圧ヒステリシスは、半導体基板と強誘電体層の界面に発生した欠陥に、電子又はホールが捕獲(トラップ)されるために起きるとされている。このため、特許文献5では、強誘電体に接する材料は金属ではなく、キャリアの少ない半導体基板が好ましいとされている。金属のようにキャリアが多数の場合は、これらの電気伝導が支配的となってしまい、界面でのトラッピング効果が顕著でなくなるため、ヒステリシスが発現しにくいものと考えられている。これを防ぐために、半導体基板はキャリア数を制御する役割を担っており、特許文献5の構造では不可欠な要素となっている。しかしながら、このような界面におけるトラッピング現象が電流電圧特性のヒステリシスの原因の場合、メモリの保持時間は誘電緩和時間程度となってしまい、原理的に長期のメモリ保持は望めない構成となる。
【0027】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より安定に状態の保持が得られるなど、金属酸化物から構成された材料を用いて安定した動作が得られる金属酸化物素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係る金属酸化物素子は、金属酸化物層及びこの金属酸化物層に接続する第1電極,第2電極を少なくとも備えて基板の上に形成された複数の素子と、隣り合う素子の金属酸化物層の間に設けられて金属酸化物層に接触する部分が五酸化タンタルなどの酸化タンタルから構成された絶縁分離層とを少なくとも備え、金属酸化物層は、少なくとも2つの金属を含んでいるものである。従って、金属酸化物層と絶縁分離層との界面における反応が抑制される。
【0029】
上記金属酸化物素子において、金属酸化物層は、印加された電気信号により抵抗値が変化するものであり、金属酸化物層は、第1電圧値以上の電圧印加により第1抵抗値を持つ第1状態となり、第1電圧とは極性の異なる第2電圧値以下の電圧印加により第1抵抗値より低い第2抵抗値を持つ第2状態となるものである。ここで、金属酸化物層は、少なくとも第1金属及び酸素から構成された基部層と、第1金属,第2金属,及び酸素の化学量論的組成の結晶からなり、基部層の中に分散された複数の微結晶粒とを少なくとも備えるものであればよい。また、基部層は、第1金属,第2金属,及び酸素から構成され、化学量論的組成に比較して第2金属の組成比が小さいものであってもよい。また、基部層は、第1金属,第2金属,及び酸素の柱状結晶を含むものであってもよい。また、金属酸化物層は、基部層に接して配置され、少なくとも第1金属,及び酸素から構成され、柱状結晶及び非晶質の少なくとも1つである金属酸化物単一層を備える場合もある。この場合、金属酸化物単一層は、第1金属,第2金属,及び酸素から構成され、化学量論的組成に比較して第2金属の組成比が小さい。また、金属酸化物単一層は、微結晶粒を含まない。なお、第1金属はチタンであり、第2金属はビスマスであり、基部層は、化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む層からなる非晶質状態であればよい。
【0030】
上記金属酸化物素子において、絶縁分離層は、五酸化タンタルなどの酸化タンタルから構成されていればよい。また、絶縁分離層は、金属酸化物層に接して設けられた五酸化タンタルなどの酸化タンタルからなる保護層と、この保護層を介して隣り合う素子の間に設けられた絶縁層とから構成されていてもよい。
【0031】
また、本発明に係る金属酸化物素子の製造方法は、基板の上に金属酸化物層が形成された状態とする工程と、この金属酸化物層の一方の面に接して第1電極が形成された状態とする工程と、金属酸化物層の他方の面側に接して第2電極が形成された状態とする工程とにより基板の上に金属酸化物層及びこの金属酸化物層に接続する第1電極,第2電極を少なくとも備えた複数の素子が形成された状態とする金属酸化物素子の製造方法であって、隣り合う素子の金属酸化物層の間に設けられて金属酸化物層に接触する部分が五酸化タンタルなどの酸化タンタルから構成された絶縁分離層が形成された状態とする工程を備え、金属酸化物層は、所定の組成比で供給された不活性ガスと酸素ガスとからなる第1プラズマを生成し、第1金属と第2金属とから構成されたターゲットに負のバイスを印加して第1プラズマより発生した粒子をターゲットに衝突させてスパッタ現象を起こし、ターゲットを構成する材料を基板の上に堆積することで、少なくとも第1金属及び酸素から構成された基部層と、第1金属,第2金属,及び酸素の化学量論的組成の結晶からなり、基部層の中に分散された複数の微結晶粒とを少なくとも備える状態に形成され、第1プラズマは、電子サイクロトロン共鳴により生成されて発散磁界により運動エネルギーが与えられた電子サイクロトロン共鳴プラズマであり、基板は所定温度に加熱された状態とするようにしたものである。
【0032】
上記金属酸化物素子の製造方法において、基板の上に絶縁材料から構成された絶縁物マスク層が形成された状態とする工程と、絶縁物マスク層の上に所定の間隔を開けて設けられた開口部を備えたレジストパターンが形成された状態とする工程と、レジストパターンをマスクとした等方的なエッチングにより絶縁物マスク層をエッチングすることでレジストパターンの開口部より面積の広い状態の貫通孔が絶縁物マスク層に形成された状態とする工程と、貫通孔の内部に金属酸化物層が形成された状態とする工程と、金属酸化物層が形成された後、絶縁物マスク層及びレジストパターンが形成された状態とする工程とを少なくとも備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0033】
以上説明したように、本発明によれば、金属酸化物層からなる素子の間に配置される絶縁分離層を、金属酸化物層に接触する部分が五酸化タンタルなどの酸化タンタルから構成されているようにしたので、より安定に状態の保持が得られるなど、金属酸化物から構成された材料を用いて安定した動作が得られる金属酸化物素子が得られるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態における金属酸化物素子の構成例を模式的に示す断面図である。図1に示す素子は、例えば、単結晶シリコンからなる基板101の上に絶縁層102,共通に設けられた下部電極層103,BiとTiとOとから構成された膜厚30〜200nm程度の複数の金属酸化物層104,金属酸化物層104毎に設けられた上部電極105を備える。また、図1に示す構成例では、隣り合う金属酸化物層104の間が、例えば五酸化タンタルなどの酸化タンタルからなる絶縁分離層106により素子分離されている。図1では、下部電極層103と金属酸化物層104と上部電極105とからなる3つの素子が示されている。
【0035】
基板101は、半導体,絶縁体,金属などの導電性材料のいずれから構成されていてもよい。基板101が絶縁材料から構成されている場合、絶縁層102はなくてもよい。また、基板101が導電性材料から構成されている場合、絶縁層102,下部電極層103はなくてもよく、この場合、導電性材料から構成された基板101が、下部電極となる。
【0036】
下部電極層103,上部電極105は、例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、金(Au)、銀(Ag)などの貴金属を含む遷移金属の金属から構成されていればよい。また、下部電極層103,上部電極105は、窒化チタン(TiN)、窒化ハフニウム(HfN)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO2)、酸化亜鉛(ZnO)、鉛酸スズ(ITO)、フッ化ランタン(LaF3)などの遷移金属の窒化物や酸化物やフッ化物等の化合物、さらに、これらを積層した複合膜であってもよい。
【0037】
図1に示した素子の構成の具体例について説明すると、例えば、下部電極層103は、膜厚10nmのルテニウム膜であり、金属酸化物層104は、膜厚40nmのBiとTiとからなる金属酸化物膜であり、上部電極105は、金から構成されたものである。なお、前述したように、基板101及び絶縁層102の構成は、これに限るものではなく、電気特性に影響を及ぼさなければ、他の材料も適当に選択できる。
【0038】
次に、本発明に係る金属酸化物薄膜から構成された金属酸化物層104について、より詳細に説明する。金属酸化物層104は、Bi4Ti312の化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む層からなる基部層の中に、Bi4Ti312の結晶からなる粒径3〜15nm程度の複数の微結晶粒が分散されて構成されたものである。これは、透過型電子顕微鏡の観察により確認されている。基部層は、ビスマスの組成がほぼ0となるTiOxの場合もある。言い換えると、基部層は、2つの金属から構成されている金属酸化物において、いずれかの金属が化学量論的な組成に比較して少ない状態の層である。
【0039】
このような金属酸化物層104を用いた素子によれば、以降に説明するように、2つの状態が保持される機能素子が実現できる。図1に示す機能素子の特性について説明する。この特性は、下部電極層103と上部電極105との間に電圧を印加することで調査されたものである。下部電極層103と上部電極105との間に電源により電圧を印加し、電圧を印加したときの電流を電流計により観測すると、図2に示す結果が得られた。図2において、縦軸は、電流値を面積で除した電流密度である。
【0040】
以下、図2を説明し、あわせて本発明の金属酸化物層104を用いた素子の動作原理を説明する。ただし、ここで説明する電圧値や電流値は、実際の素子で観測されたものを例としている。従って、本現象は、以下に示す数値に限るものではない。実際に素子に用いる膜の材料や膜厚、及び他の条件により、他の数値が観測されることがある。
【0041】
図2は上部電極に印加する電圧をゼロから正の方向に増加させた後にゼロに戻し、さらに負の方向に減少させ、最後に再びゼロに戻したときに金属酸化物層104中を流れる電流値が描くヒステリシスの特性を表している。まずはじめに、上部電極105に電圧を0Vから正の方向に徐々に印加させた場合、金属酸化物層104を流れる正の電流は比較的少ない(0.1Vで約0.1μA程度)。
【0042】
しかし、0.5Vを超えると急激に正の電流値が増加し始める。さらに約1Vまで電圧を上げた後、逆に正の電圧を減少させていくと、1Vから約0.4Vまでは電圧値の減少にも拘わらず、正の電流値はさらに増加する。電圧値が約0.4V以下になると、電流値も減少に転じるが、このときの正の電流は先と比べて流れやすい状態であり、電流値は0.1Vで約0.1μA程度である(先の約10倍)。印加電圧をゼロに戻すと、電流値もゼロとなる。
【0043】
次に上部電極105に負の電圧を印加していく。この状態では、負の電圧が小さいときは、前の履歴を引き継ぎ、比較的大きな負の電流が流れる。ところが、−0.5V程度まで負の電圧を印加すると、負の電流が突然減少し始め、この後、約−1V程度まで負の電圧を印加しても負の電流値は減少し続ける。最後に、−1Vから0Vに向かって印加する負の電圧を減少させると、負の電流値も共にさらに減少し、ゼロに戻る。この場合のときは、負の電流は流れ難く、−0.1Vで約0.1μA程度である。
【0044】
以上に説明したような、金属酸化物層104中を流れる電流のヒステリシスは、上部電極105に印加する電圧により金属酸化物層104の抵抗値が変化することが原因で発現すると解釈できる。ある一定以上の大きさの正の電圧VW1を印加することにより、金属酸化物層104は電流を流しにくい「低抵抗状態」(データ「1」)に遷移する。一方、ある一定の大きさの負の電圧VW0を印加することにより、金属酸化物層104は電流が流れにくい「高抵抗状態」(データ「0」)に遷移すると考えられる。
【0045】
金属酸化物層104には、これらの低抵抗状態と高抵抗状態の2つの安定状態が存在し、各々の状態は、前述した一定以上の正あるいは負の電圧を印加しない限り、各状態を維持する。なお、VW1の値は約+1V程度であり、VW0の値−1V程度であり、高抵抗状態と低抵抗状態の抵抗比は約10〜100程度である。上記のような、電圧により金属酸化物層104の抵抗がスイッチする現象を用いることで、図1に示す機能素子により、不揮発性で非破壊読み出し動作が可能なメモリ素子が実現できる。
【0046】
金属酸化物層104を用いた図1に示す素子をメモリ素子として用いる場合についてDC電圧を用いると、メモリ動作は以下のように行う。まず、VW1以上の大きさの正の電圧を印加し、金属酸化物層104を低抵抗状態に遷移させる。これはメモリとしてデータ「1」を書き込むことに対応する。このデータ「1」は、読み出し電圧VRにおける電流値JR1を観測することにより読み出すことができる。VRとしては、状態が遷移しない程度のなるべく小さな値で、かつ抵抗比が充分に現れるような値を選択することが重要となる(上記の例では0.1V程度が適当)。これにより、低抵抗状態、すなわちデータ「1」を破壊することなく、何回も読み出すことが可能となる。
【0047】
一方、VW0以上の大きさの負の電圧を印加することにより、金属酸化物層104を高抵抗状態に遷移させ、データ「0」を書き込むことができる。この状態の読み出しはと全く同様に、読み出し電圧VRにおける電流値JR0を観測することにより、行うことができる(JR1/JR0≒10〜100)。また、電極間に通電がない状態では、金属酸化物層104は各状態を保持するため不揮発性を有しており、書き込み時と読み出し時以外には、電圧を印加する必要はない。なお、本素子は、電流を制御するスイッチ素子としても用いることができる。
【0048】
ここで図1に示した素子におけるデータ保持特性について、説明する。例えば、上部電極に正の電圧VW1を印加して、図2に示す低抵抗状態(データ「1」)に遷移させた後、読み出し電圧VRを印加して電流値JR1を観測する。次に、上部電極に負の電圧電圧VW0を印加することで高抵抗状態に遷移させ、データ「0」を書き込んだ状態とし、この後、一定時間毎に上部電極に読み出し電圧VRを印加し、電流値JR0を観測する。観測されたON/OFF比は、経時に伴い徐々に減少する傾向が示されているが、充分にデータの判別が可能な範囲である。この結果から予想される1000分後のON/OFF比は21程度であり、この時点でも判別は可能である。このように、図1に示す素子によれば、少なくとも1000分の保持時間を有していることがわかる。また、以上の実施の形態では、印加した電圧は直流であったが、適当な幅と強さのパルス電圧を印加しても同様の効果は得られる。
【0049】
以上に説明した特徴を備えた金属酸化物層104による複数の素子を、図1に示すように集積(配列)する場合、絶縁材料により素子間を分離し、各素子間のリーク電流を減らして素子の安定性を高めるようにしている。このような目的のために、一般には、酸化シリコンが分離のための絶縁材料として用いられている。しかしながら、金属酸化物層104に含まれている金属とシリコンとが反応して界面酸化層や界面反応層が形成され、電気耐圧を低下させ、リーク電流の増加を招く場合がある。
【0050】
図3は、シリコン基板の上に形成された金属酸化物層とシリコン基板との界面の状態を、透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。図3に示すように、シリコン基板301と金属酸化物層302との界面に、界面酸化層303と界面反応層304とが観察される。同様の状態が図1に示す素子においても発生し、例えば、金属酸化物層104が、BiとTiとOから構成されている場合、金属酸化物層104に酸化シリコンの層が接触すると、界面においては、チタンとシリコンとが反応した界面反応層が形成され、電気耐圧を低下させ、リーク電流の増加を招く原因となる。
【0051】
以上のことに対し、図1に示す素子を分離する構造によれば、五酸化タンタルから構成された絶縁分離層106を用い、金属酸化物層104に五酸化タンタルなどの酸化タンタルの層が接触した状態となる。この結果、絶縁分離層106との界面にシリコンと金属とが反応した界面層などが形成されることがなく、電気耐圧の低下やリーク電流の増加を招くことがない。
【0052】
次に、図1に示す金属酸化物素子の製造方法例について簡単に説明する。まず、図4(a)に示すように、主表面が面方位(100)で抵抗率が1〜2Ω-cmのp形のシリコンからなる基板101を用意し、基板101の表面を硫酸と過酸化水素水の混合液と純水と希フッ化水素水とにより洗浄し、このあと乾燥させる。ついで、洗浄・乾燥した基板101の上に、絶縁層102が形成された状態とする。絶縁層102の形成では、例えばECRスパッタ装置を用い、ターゲットとして純シリコン(Si)を用い、プラズマガスとしてアルゴン(Ar)と酸素ガスを用いたECRスパッタ法により、シリコンからなる基板101の上に、表面を覆う程度にSi−O分子によるメタルモードの絶縁層102が形成された状態とする。
【0053】
例えば、10-5Pa台の内部圧力に設定されているプラズマ生成室内に流量20sccm程度でArガスを導入し、内部圧力を10-3〜10-2Pa程度にし、ここに、0.0875Tの磁場と2.45GHzのマイクロ波(500W程度)とを供給して電子サイクロトロン共鳴条件とすることで、プラズマ生成室内にArのプラズマが生成された状態とする。なお、sccmは流量の単位あり、0℃・1気圧の流体が1分間に1cm3流れることを示す。また、T(テスラ)は、磁束密度の単位であり、1T=10000ガウスである。
【0054】
上述したことにより生成されたプラズマは、磁気コイルの発散磁場によりプラズマ生成室より処理室の側に放出される。また、プラズマ生成室の出口に配置されたシリコンターゲットに、高周波電源より13.56MHzの高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、シリコンターゲットにArイオンが衝突してスパッタリング現象が起こり、Si粒子が飛び出す。シリコンターゲットより飛び出したSi粒子は、プラズマ生成室より放出されたプラズマ、及び導入されてプラズマにより活性化された酸素ガスと共にシリコンからなる基板101の表面に到達し、活性化された酸素により酸化され二酸化シリコンとなる。以上のことにより、基板101上に二酸化シリコンからなる例えば100nm程度の膜厚の絶縁層102が形成された状態とすることができる(図4(a))。
【0055】
なお、絶縁層102は、この後に形成する各電極に電圧を印加した時に、基板101に電圧が洩れて、所望の電気的特性に影響することがないように絶縁を図るものである。例えば、シリコン基板の表面を熱酸化法により酸化することで形成した酸化シリコン膜を絶縁層102として用いるようにしてもよい。絶縁層102は、絶縁性が保てればよく、酸化シリコン以外の他の絶縁材料から構成してもよく、また、絶縁層102の膜厚は、100nmに限らず、これより薄くてもよく厚くてもよい。絶縁層102は、上述したECRスパッタによる膜の形成では、基板101に対して加熱はしていないが、基板101を加熱しながら膜の形成を行ってもよい。
【0056】
以上のようにして絶縁層102を形成した後、今度は、ターゲットとして純ルテニウム(Ru)を用いた同様のECRスパッタ法により、絶縁層102の上にルテニウム膜を形成することで、下部電極層103が形成された状態とする。Ru膜の形成について詳述すると、Ruからなるターゲットを用いたECRスパッタ装置において、例えば、まず、絶縁層を形成したシリコン基板を400℃に加熱し、また、プラズマ生成室内に、例えば流量7sccmで希ガスであるArガスを導入し、加えて、例えば流量5sccmでXeガスを導入し、プラズマ生成室の内部を、例えば10-2〜10-3Pa台の圧力に設定する。
【0057】
ついで、プラズマ生成室内に電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与え、この後、2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)をプラズマ生成室内に導入し、プラズマ生成室にArとXeのECRプラズマが生成した状態とする。生成されたECRプラズマは、磁気コイルの発散磁場によりプラズマ生成室より処理室側に放出される。また、プラズマ生成室の出口に配置されたルテニウムターゲットに、13.56MHzの高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、スパッタリング現象が起き、ルテニウムターゲットよりRu粒子が飛び出す。ルテニウムターゲットより飛び出したRu粒子は、基板101の絶縁層102表面に到達して堆積する。
【0058】
以上のことにより、絶縁層102の上に、例えば10nm程度の膜厚の下部電極層103が形成された状態が得られる(図4(a))。下部電極層103は、この後に形成する上部電極105との間に電圧を印加した時に、金属酸化物層104に電圧が印加できるようにするものである。従って、導電性が持てればルテニウム以外から下部電極層103を構成してもよく、例えば、白金から下部電極層103を構成してもよい。ただし、二酸化シリコンの上に白金膜を形成すると剥離しやすいことが知られているが、これを防ぐためには、チタン層や窒化チタン層もしくはルテニウム層などを介して白金層を形成する積層構造とすればよい。また、下部電極層103の膜厚も10nmに限るものではなく、これより厚くてもよく薄くてもよい。
【0059】
ところで、上述したようにECRスパッタ法によりRuの膜を形成するときに、基板101を400℃に加熱したが、加熱しなくても良い。ただし、加熱を行わない場合、ルテニウムの二酸化シリコンへの密着性が低下するため、剥がれが生じる恐れがあり、これを防ぐために、基板を加熱して膜を形成する方が望ましい。
【0060】
以上のようにして下部電極層103を形成した後、前述した絶縁層102の形成と同様にすることで、酸化シリコン層401が形成された状態とする。ついで、酸化シリコン層401の上に、レジストパターン402が形成された状態とする。レジストパターン402は、図1に示す金属酸化物層104のパターンが配置される領域に開口部を備えたマスクパターンである。ついで、レジストパターン402をマスクとし、酸化シリコン層401を等方的にエッチングすることで、図4(b)に示すように、レジストパターン402に対してアンダーカットが形成されるように、酸化シリコン層401が選択的にエッチング除去された状態とし、開口部403が形成された状態とする。従って、レジストパターン402の端部は、開口部403の領域にまで延在する庇を備えた状態となる。
【0061】
次に、BiとTiの割合が4:3の酸化物焼結体(Bi−Ti−O)からなるターゲットを用い、プラズマガスとしてアルゴン(Ar)と酸素ガスとを用いたECRスパッタ法により、図4(c)に示すように、開口部403の内部の下部電極層103の上に、金属酸化物層104が形成された状態とする。開口部403の内部において、レジストパターン402の庇により隠れる部分は、飛来するスパッタ粒子が到達しにくく、成膜の速度が遅くなる。この結果、開口部403の内部には、断面視台形のパターンとされた金属酸化物層104が形成される。このとき、レジストパターン402の上にも金属酸化物膜104aが堆積されるが、以降に説明するように、レジストパターン402の除去とともに同時に除去される。
【0062】
金属酸化物層104の形成について詳述すると、まず、300℃〜700℃の範囲に基板101が加熱されている状態とする。また、プラズマ生成室内に、例えば流量20sccmで希ガスであるArガスを導入し、例えば10-3Pa〜10-2Pa台の圧力に設定する。この状態で、プラズマ生成室に電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与え、この後、2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)をプラズマ生成室に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室にECRプラズマが生成された状態とする。
【0063】
生成されたECRプラズマは、磁気コイルの発散磁場によりプラズマ生成室より処理室側に放出される。また、プラズマ生成室の出口に配置された焼結体ターゲットに、13.56MHzの高周波電力(例えば500W)を供給する。このことにより、焼結体ターゲットにAr粒子が衝突してスパッタリング現象を起こし、Bi粒子とTi粒子が飛び出す。
【0064】
焼結体ターゲットより飛び出したBi粒子とTi粒子は、プラズマ生成室より放出されたECRプラズマ、及び、放出されたECRプラズマにより活性化した酸素ガスと共に、加熱されている下部電極層103の表面に到達し、活性化された酸素により酸化される。なお、反応ガスとしての酸素(O2)ガスは、以降にも説明するようにArガスとは個別に導入され、例えば、例えば流量1sccmで導入されている。焼結体ターゲットは酸素を含んでいるが、酸素を供給することにより堆積している膜中の酸素不足を防ぐことができる。以上に説明したECRスパッタ法による膜の形成で、例えば、膜厚40nm程度の金属酸化物層104が形成された状態が得られる(図4(c))。
【0065】
以上のようにすることで、各開口部403の内部に各々金属酸化物層104が形成された後、レジストパターン402及び酸化シリコン層401を除去することで、下部電極層103の上に、各々が離間した状態に複数の金属酸化物層104が形成された状態が得られる。前述したように、レジストパターン402の上の金属酸化物膜104aも、レジストパターン402の除去とともに同時に除去される。上述した製造方法によれば、まず、断面形状が台形の金属酸化物層104が、容易に形成可能である。
【0066】
一般には、ビスマスとチタンとを含む金属酸化物は、ドライエッチングによる微細加工が容易ではない。このため、従来では、ウエットエッチングが利用さていたが、アンダーエッチング,アンダーカットの発生など形状の制御性がよくない。また、下層との界面における電気的な不均一性により、パターンの下端部にノッチングが形成されるなどの問題もある。これらに対し、上述したリフトオフを利用した方法によれば、微細なパターンの形成が容易である。また、上述した製造方法では、プラズマによるドライエッチングを用いていないため、プラズマによるダメージなどの問題も抑制される。
【0067】
なお、形成した金属酸化物層104に、不活性ガスと反応性ガスのECRプラズマを照射し、膜質を改善するようにしてもよい。反応性ガスとしては、酸素ガスに限らず、窒素ガス,フッ素ガス,水素ガスを用いることができる。また、この膜質の改善は、絶縁層102の形成にも適用可能である。また、基板温度を300℃以下のより低い温度条件として金属酸化物層104を形成した後に、酸素雰囲気中などの適当なガス雰囲気中で、形成した金属酸化物層104をアニール(加熱処理)し、膜質の特性を大きく改善するようにしてもよい。
【0068】
次に、ターゲットとして純タンタル(Ta)を用いたECRスパッタ法により、図4(d)に示すように、各金属酸化物層104が覆われた状態に五酸化タンタル層404が形成された状態とする。なお、五酸化タンタル層404は、酸化タンタルから構成されていればよい。以下に説明するように、Ta−O分子によるメタルモード膜を形成し、五酸化タンタル層404とする。Ta−O分子によるメタルモード膜の形成について詳述すると、タンタルからなるターゲットECRスパッタ装置において、まず、プラズマ生成室内に、例えば流量25sccmで希ガスであるArガスを導入し、プラズマ生成室の内部を、例えば10-3Pa台の圧力に設定する。また、プラズマ生成室には、磁気コイルにコイル電流を例えば28Aを供給することで電子サイクロトロン共鳴条件の磁場を与える。
【0069】
加えて、マイクロ波発生部より、例えば2.45GHzのマイクロ波(例えば500W)を供給し、これをプラズマ生成室内に導入し、このマイクロ波の導入により、プラズマ生成室にArのプラズマが生成した状態とする。生成されたプラズマは、磁気コイルの発散磁場によりプラズマ生成室より基板が配置されている処理室の側に放出される。また、プラズマ生成室の出口に配置されたターゲットに、高周波電極供給部より高周波電力(例えば500W)を供給する。
【0070】
このことにより、ターゲットにAr粒子が衝突してスパッタリング現象を起こし、Ta粒子がターゲットより飛び出す。ターゲットより飛び出したTa粒子は、プラズマ生成室より放出されたプラズマ、導入されてプラズマにより活性化された酸素ガスと共に基板101の上に到達し、活性化された酸素により酸化され酸化タンタル(五酸化タンタル)となる。これらの結果、図4(d)に示すように、五酸化タンタル層404が形成された状態が得られる。
【0071】
次に、例えば化学的機械的研磨(CMP)法などにより、金属酸化物層104の上方の部分の五酸化タンタル層404を平坦化された状態で研削研磨することで、図4(e)に示すように、金属酸化物層104の上面が露出し、各々の金属酸化物層104の間が充填された状態に絶縁分離層106が形成された状態とする。
【0072】
以上のようにして金属酸化物層104を形成した後、図4(f)に示すように、金属酸化物層104の上に、所定の面積のAuからなる上部電極105が形成された状態とすることで、図1に示す素子が得られる。上部電極105は、よく知られたリフトオフ法と抵抗加熱真空蒸着法による金の堆積とにより形成できる。なお、上部電極105は、例えば、Ru、Pt、TiNなどの他の金属材料や導電性材料を用いるようにしてもよい。なお、Ptを用いた場合、密着性が悪く剥離する可能性があるので、Ti−Pt−Auなどの剥離し難い構造とし、この上でフォトリソグラフィーやリフトオフ処理などのパターニング処理をして所定の面積を持つ電極として形成する必要がある。
【0073】
以上に説明したECRスパッタによる各層の形成は、図5に示すようなECRスパッタ装置を用いればよい。図5に示すECRスパッタ装置について説明すると、まず、処理室501とこれに連通するプラズマ生成室502とを備えている。処理室501は、図示していない真空排気装置に連通し、真空排気装置によりプラズマ生成室502とともに内部が真空排気される。処理室501には、膜形成対象の基板101が固定される基板ホルダ504が設けられている。基板ホルダ504は、図示しない傾斜回転機構により所望の角度に傾斜し、かつ回転可能とされている。基板ホルダ504を傾斜して回転させることで、堆積させる材料による膜の面内均一性と段差被覆性とを向上させることが可能となる。
【0074】
また、処理室501内のプラズマ生成室502からのプラズマが導入される開口領域において、開口領域を取り巻くようにリング状のターゲット505が備えられている。ターゲット505は、絶縁体からなる容器505a内に載置され、内側の面が処理室501内に露出している。また、ターゲット505には、マッチングユニット521を介して高周波電源522が接続され、例えば、13.56MHzの高周波が印加可能とされている。ターゲット505が導電性材料の場合、直流の負電圧を印加するようにしても良い。なお、ターゲット505は、上面から見た状態で、円形状だけでなく、多角形状態であっても良い。
【0075】
プラズマ生成室502は、真空導波管506に連通し、真空導波管506は、石英窓507を介して導波管508に接続されている。導波管508は、図示していないマイクロ波発生部に連通している。また、プラズマ生成室502の周囲及びプラズマ生成室502の上部には、磁気コイル(磁場形成手段)510が備えられている。これら、マイクロ波発生部、導波管508,石英窓507,真空導波管506により、マイクロ波供給手段が構成されている。なお、導波管508の途中に、モード変換器を設けるようにする構成もある。
【0076】
図5のECRスパッタ装置の動作例について説明すると、まず、処理室501及びプラズマ生成室502内を10-5Paから10-4Paに真空排気した後、不活性ガス導入部511より不活性ガスであるアルゴンガスを導入し、また、反応性ガス導入部512より酸素ガスなどの反応性ガスを導入し、プラズマ生成室502内を例えば10-3〜10-2Pa程度の圧力にする。この状態で、磁気コイル510よりプラズマ生成室502内に0.0872Tの磁場を発生させた後、導波管508,石英窓507を介してプラズマ生成室502内に2.45GHzのマイクロ波を導入し、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマを発生させる。
【0077】
ECRプラズマは、磁気コイル510からの発散磁場により、基板ホルダ504の方向にプラズマ流を形成する。生成されたECRプラズマのうち、電子は磁気コイル510で形成される発散磁場によりターゲット505の中を貫通して基板101の側に引き出され、基板101の表面に照射される。このとき同時に、ECRプラズマ中のプラスイオンが、電子による負電荷を中和するように、すなわち、電界を弱めるように基板101側に引き出され、成膜している層の表面に照射される。このように各粒子が照射される間に、プラスイオンの一部は電子と結合して中性粒子となる。
【0078】
なお、図5の薄膜形成装置では、図示していないマイクロ波発生部より供給されたマイクロ波電力を、導波管508において一旦分岐し、プラズマ生成室502上部の真空導波管506に、プラズマ生成室502の側方から石英窓507を介して結合させている。このようにすることで、石英窓507に対するターゲット505からの飛散粒子の付着が、防げるようになり、ランニングタイムを大幅に改善できるようになる。
【0079】
次に、ECRスパッタ法により形成されるBi4Ti312膜の特性について、より詳細に説明する。発明者らは、ECRスパッタ法を用いたBi4Ti312膜の形成について注意深く観察を繰り返すことで、温度と導入する酸素流量によって、形成されるBi4Ti312膜の組成が制御できることを見いだした。なお、このスパッタ成膜では、ビスマスとチタンが4:3の組成を持つように形成された酸化物焼結体ターゲット(Bi4Ti3x)を用いている。図6は、ECRスパッタ法を用いてBi4Ti312を成膜した場合の、導入した酸素流量に対する成膜速度の変化を示した特性図である。また、図6は、基板に単結晶シリコンを用い、基板温度を420℃とした条件の結果である。
【0080】
図6より、酸素流量が0〜0.5sccmと小さいとき、酸素流量が0.5〜0.8sccmの時、酸素流量が0.8sccm以降の時の領域に分かれることがわかる。この特性について、高周波誘導結合プラズマ発光(ICP)分析と透過型電子顕微鏡の断面観察を実施し、成膜された膜を詳細に調べた。調査の結果、酸素流量が0〜0.5sccmと小さい時には、ターゲットにBi−Ti−Oの焼結ターゲットを使用しているのにも拘わらず、Biがほとんど含まれないTi−Oが主成分の結晶膜が形成されていることが判明した。この酸素領域を酸素領域Aとする。
【0081】
また、酸素流量が0.8〜3sccm程度の場合は、Bi4Ti312の化学量論的組成の微結晶又は柱状結晶で成膜していることが判明した。この酸素領域を酸素領域Cとする。さらに、酸素流量が3sccm以上の場合には、Biの割合が多い膜となり、Bi4Ti312の化学量論的組成からずれてしまうことが判明した。この酸素領域を酸素領域Dとする。さらにまた、酸素流量が0.5〜0.8sccmの場合は、酸素領域Aの膜と酸素領域Cの中間的な成膜となることが判明した。この酸素領域を酸素領域Bとする。
【0082】
これらの供給する酸素に対して、4つの領域に分かれて、組成変化することは今まで知られておらず、ECRスパッタ法でBi−Ti−Oの焼結ターゲットを用いてBi4Ti312を成膜した場合の特徴的な成膜特性であるといえる。この領域を把握した上で、成膜を制御することで所望の組成と膜質の膜が得られることになる。さらに別の厳密な測定結果より、得られた膜が強誘電性を明らかに示す成膜条件は、化学量論的組成が実現できている酸素領域Cであることが判明した。
【0083】
次に、図6中の酸素領域A内のα,酸素領域B内のβ,酸素領域C内のγの酸素流量条件で作製したビスマスチタン酸化物薄膜の状態について、図7を用いて説明する。図7は、作製した薄膜(ビスマスとチタンと酸素とを含む)の断面を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示している。図7において、(a),(b),(c),(d)は、顕微鏡写真であり、(a’),(b’),(c’),(d’)は、各々の状態を模式的に示した模式図である。まず、酸素流量を0とした条件αでは、図7(a)及び図7(a’)に示すように、膜全体が柱状結晶から構成されている。条件αで作製した薄膜の元素の組成状態をEDS(エネルギー分散形X線分光)法で分析すると、ビスマスが含まれていなく、この膜は、酸化チタンであることがわかる。
【0084】
次に、酸素流量を0.5sccmとした条件βでは、図7(b)及び図7(b’)に示すように、作製した薄膜は2層に分離しており、Bi4Ti312の化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む金属酸化物単一層144と、Bi4Ti312の化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む基部層141とから構成され、基部層141の中にBi4Ti312の結晶からなる粒径3〜15nm程度の複数の微結晶粒142が分散している状態が確認される。基部層141は、非晶質の状態となっている。
【0085】
次に、酸素流量を1sccmとした条件γでは、図7(c)及び図7(c’)に示すように、基部層141の中に微結晶粒142が分散している状態が確認される。ただし、基部層141及び金属酸化物単一層144は、ともにほぼビスマスが存在していない状態となっている。以上に示した状態は、成膜時の温度条件が420℃である。なお、図7(d)及び図7(d’)は、酸素流量を1sccmとした条件で作製した膜の観察結果であるが、以降に説明するように、膜形成時の温度条件が異なる。
【0086】
ECRスパッタ法により形成されるBi4Ti312膜の特徴は、成膜温度にも関係する。図8は、基板温度に対する成膜速度と屈折率の変化を示したものである。図8には、図6に示した酸素領域Aと酸素領域Cと酸素領域Dに相当する酸素流量の成膜速度と屈折率の変化が示してある。図8に示すように、成膜速度と屈折率が、温度に対してともに変化することがわかる。
【0087】
まず、屈折率に注目すると、酸素領域A、酸素領域C、酸素領域Dのいずれの領域に関して同様の振る舞いを示すことがわかる。具体的には、約250℃程度までの低温領域では、屈折率は約2と小さくアモルファス的な特性を示している。300℃から600℃での中間的な温度領域では、屈折率は、約2.6と論文などで報告されているバルクに近い値となり、Bi4Ti312の結晶化が進んでいることがわかる。これらの数値に関しては、例えば、山口らのジャパニーズ・ジャーナル・アプライド・フィジクス、第37号、5166頁、1998年、(Jpn.J.Appl.Phys.,37,5166(1998).)などを参考にしていただきたい。
【0088】
しかし、約600℃を超える温度領域では、屈折率が大きくなり表面モフォロジ(表面凹凸)が大きくなってしまい結晶性が変化しているものと思われる。この温度は、Bi4Ti312のキュリー温度である675℃よりも低いが、成膜している基板表面にECRプラズマが照射されることでエネルギーが供給され、基板温度が上昇して酸素欠損などの結晶性の悪化が発生しているとすれば、上述した結果に矛盾はないものと考える。成膜速度の温度依存性についてみると、各酸素領域は、同じ傾向の振る舞いを示すことがわかる。具体的には、約200℃までは、温度と共に成膜速度が上昇する。しかし、約200℃から300℃の領域で、急激に成膜速度が低下する。
【0089】
約300℃に達すると成膜速度は600℃まで一定となる。この時の各酸素領域における成膜速度は、酸素領域Aが約1.5nm/min、酸素領域Cが約3nm/min、酸素領域Dが約2.5nm/minであった。以上の結果から、Bi4Ti312の結晶膜の成膜に適した温度は、屈折率がバルクに近くなり、成膜速度が一定となる領域であり、上述の結果からは、300℃から600℃の温度領域となる。
【0090】
上述した成膜時の温度条件により、金属酸化物層の状態は変化し、図7(c)に示した状態となる酸素流量条件で、成膜温度条件を450℃と高くすると、図7(d)及び図7(d’)に示すように、Bi4Ti312の柱状結晶からなる寸法(グレインサイズ)20〜40nm程度の複数の柱状結晶部143の中に、寸法が3〜15nm程度の微結晶粒142が観察されるようになる。この状態では、柱状結晶部143が、図7(c)及び図7(c’)に示す基部層141に対応している。なお、図7に示すいずれの膜においても、XRD(X線回折法)測定では、Bi4Ti312の(117)軸のピークが観測される。また、前述した透過型電子顕微鏡の観察において、微結晶粒142に対する電子線回折により、微結晶粒142は、Bi4Ti312の(117)面を持つことが確認されている。
【0091】
一般に、強誘電性を示す材料では、キュリー温度以上では結晶性が保てなくなり、強誘電性が発現されなくなる。例えば、Bi4Ti312などのBiとTiと酸素とから構成される強誘電材料では、キュリー温度が675℃付近である。このため、600℃に近い温度以上になると、ECRプラズマから与えられるエネルギーも加算され、酸素欠損などが起こりやすくなるため、結晶性が悪化し、強誘電性が発現され難くなるものと考えられる。
【0092】
また、X線回折による解析により、上記の温度領域で、酸素流量Cで成膜したBi4Ti312膜は、(117)配向した膜であることが判明した。このような条件で成膜したBi4Ti312膜は、100nm程度の厚さにすると2MV/cmを超える充分な電気耐圧性を示すことが確認された。以上に説明したように、ECRスパッタを用い、図6や図8で示される範囲内でBi4Ti312膜を形成することにより、膜の組成と特性を制御することが可能となる。
【0093】
ところで、金属酸化物層104は、図9に示す状態も観察されている。図9に示す金属酸化物層104は、Bi4Ti312の化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む金属酸化物単一層144と、複数の微結晶粒142が分散している基部層141との積層構造である。図9に示す状態も、図7に示す状態と同様に、透過型電子顕微鏡の観察により確認されている。上述した各金属酸化物層の状態は、形成される下層の状態や、成膜温度,成膜時の酸素流量により変化し、例えば、金属材料からなる下地の上では、酸素流量が図8に示すβ条件の場合、図7(b)もしくは図9に示す状態となることが確認されている。
【0094】
上述したように、微結晶粒が観察される成膜条件の範囲において、基部層が非晶質の状態の場合と柱状結晶が観察される場合とが存在するが、いずれにおいても、微結晶粒の状態には変化がなく、観察される微結晶粒は、寸法が3〜15nm程度となっている。このように、微結晶粒が観察される状態の金属酸化物層において、図2を用いて説明したように、低抵抗状態と高抵抗状態の2つの安定状態が存在し、図7(a)及び図7(a’)に示す状態の薄膜では、上記2つの安定状態が得られない。
【0095】
従って、図7(b)〜図7(d’),及び図9に示す状態となっている金属酸化物層104によれば、図2を用いて説明したように、2つの状態が保持される素子を実現することが可能となる。この特性は、上述したECRスパッタにより膜を形成する場合、図6の酸素領域B,Cの条件で形成した膜に得られていることになる。また、図8に示した成膜温度条件に着目すると、上記特性は、成膜速度が低下して安定し、かつ屈折率が上昇して2.6程度に安定する範囲の温度条件で、上述した特性の薄膜が形成できる。
【0096】
上述では、ビスマスとチタンとの2元金属からなる酸化物を例に説明したが、2つの状態が保持されるようになる特性は、少なくとも2つの金属と酸素とから構成されている他の金属酸化物層104においても得られるものと考えられる。少なくとも2つの金属と酸素とから構成され、いずれかの金属が化学量論的な組成に比較して少ない状態となっている層の中に、化学量論的な組成の複数の微結晶粒が分散している状態であれば、図2を用いて説明した特性が発現するものと考えられる。
【0097】
例えば、BaTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、(Pb,La)(Zr,Ti)O3、LiNbO3、LiTaO3、PbNb36、PbNaNb515、Cd2Nb27、Pb2Nb27、(Bi,La)4Ti312、SrBi2Ta29などから金属酸化物層104が構成されていても、いずれかの金属が化学量論的な組成に比較して少ない状態となっている層の中に、化学量論的な組成の複数の微結晶粒が分散している状態であれば、前述した実施例と同様の作用効果が得られるものと考えられる。また、例えばビスマスとチタンとの2元金属からなる酸化物の場合、金属酸化物層104の中にランタン(La)やストロンチウム(ストロンチウム)が添加されている(La,Bi)TiOや(Sr,Bi)TiOのような状態とすることで、各抵抗値の状態を可変制御させることが可能となる。
【0098】
次に、本発明の実施の形態における他の金属酸化物素子について説明する。図10は、本発明の実施の形態における他の金属酸化物素子の構成例を模式的に示す断面図である。図10に示す素子は、例えば、単結晶シリコンからなる基板101の上に絶縁層102,共通に設けられた下部電極層103,BiとTiとOとから構成された膜厚30〜200nm程度の複数の金属酸化物層104,金属酸化物層104毎に設けられた上部電極105を備える。また、図10に示す構成例では、隣り合う金属酸化物層104の間が、五酸化タンタルなどの酸化タンタルからなる保護層161と酸化シリコンからなる絶縁層107とにより素子分離されている。図10では、下部電極層103と金属酸化物層104と上部電極105とからなる3つの素子が示されている。
【0099】
図10に示す素子では、各金属酸化物層104の側面が、保護層161により被覆され、保護層161に被覆された各金属酸化物層104の間が、絶縁層107に充填されて素子分離されている。図10に示すように、素子分離をする部分に酸化シリコンからなる絶縁層107を設けることで、より高い絶縁性が得られるようになる。
【0100】
また、図11に示すように、各金属酸化物層104の間を埋め込む絶縁層171が金属酸化物層104より高く(厚く)形成され、各上部電極151の間が絶縁層171により分離されているようにしてもよい。この場合、金属酸化物層104の上面の上部電極151仮面との境界部分にまで延在する保護層162により、金属酸化物層104と絶縁層171との接触が抑制されている。この構成は、以下に説明するように、絶縁層171に形成した開口部内に金属の層を形成することで、上部電極151の形成が可能となる。
【0101】
以下、図11に示す構成の金属酸化物素子の製造方法例について説明する。まず、図4(a)から図4(c)を用いた説明と同様にすることで、図12(a)に示すように、下部電極層103の上に、各々が離間した状態に複数の金属酸化物層104が形成された状態とする。次に、図12(b)に示すように、各金属酸化物層104を含む下部電極層103の上に、五酸化タンタルなどの酸化タンタルからなる保護層162が形成された状態とする。保護層162は、前述した絶縁分離層106と同様にして形成すればよい。
【0102】
次に、保護層162で覆われた各金属酸化物層104を含む下部電極層103の上に、例えばスパッタ法やCVD法などにより酸化シリコンを堆積するとで、図12(c)に示すように、絶縁層171が形成された状態とする。次に、図12(d)に示すように、上部電極151が形成される領域に開口部を備えたレジストパターン1201が形成された状態とする。レジストパターン1201は、公知のフォトリソグラフィ技術により形成可能である。
【0103】
次に、形成したレジストパターン1201をマスクとしたドライエッチングにより、絶縁層171及び保護層162を選択的に除去し、図12(e)に示すように、開口部が形成されてこの低部に金属酸化物層104の一部上面が露出した状態とする。ついで、レジストパターン1201が除去された状態とした後、図12(f)に示すように、形成された開口部内に充填されて金属酸化物層104の上面に接触する上部電極151が形成された状態とすれば、図11に示す構成と同様の、保護層162と絶縁層171とにより分離構造が構成された金属酸化物素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明の実施の形態における金属酸化物素子の構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】金属酸化物層104における電圧と電流の関係を示す特性図である。
【図3】シリコン基板の上に形成された金属酸化物層とシリコン基板との界面の状態を、透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
【図4】図1に示す金属酸化物素子の製造方法例について説明する工程図である。
【図5】ECRスパッタ装置の構成例を示す構成図である。
【図6】ECRスパッタ法を用いてBi4Ti312を成膜した場合の、導入した酸素流量に対する成膜速度の変化を示した特性図である。
【図7】ビスマスとチタンと酸素とを含む金属酸化物の層の断面を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
【図8】基板温度に対する成膜速度と屈折率の変化を示した特性図である。
【図9】ビスマスとチタンと酸素とを含む金属酸化物の層の断面を透過型電子顕微鏡で観察した結果を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態における他の金属酸化物素子の構成例を模式的に示す断面図である。
【図11】本発明の実施の形態における他の金属酸化物素子の構成例を模式的に示す断面図である。
【図12】図11に示す金属酸化物素子の製造方法例を説明するための工程図である。
【符号の説明】
【0105】
101…基板、102…絶縁層、103…下部電極層、104…金属酸化物層、105…上部電極、106…絶縁分離層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物層及びこの金属酸化物層に接続する第1電極,第2電極を少なくとも備えて基板の上に形成された複数の素子と、
隣り合う前記素子の前記金属酸化物層の間に設けられて前記金属酸化物層に接触する部分が酸化タンタルから構成された絶縁分離層と
を少なくとも備え、
前記金属酸化物層は、少なくとも2つの金属を含んでいる
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項2】
請求項1記載の金属酸化物素子において、
前記金属酸化物層は、印加された電気信号により抵抗値が変化する
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項3】
請求項2記載の金属酸化物素子において、
前記金属酸化物層は、
第1電圧値以上の電圧印加により第1抵抗値を持つ第1状態となり、
前記第1電圧とは極性の異なる第2電圧値以下の電圧印加により前記第1抵抗値より低い第2抵抗値を持つ第2状態となる
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属酸化物素子において、
前記金属酸化物層は、
少なくとも第1金属及び酸素から構成された基部層と、
前記第1金属,第2金属,及び酸素の化学量論的組成の結晶からなり、前記基部層の中に分散された複数の微結晶粒と
を少なくとも備えることを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項5】
請求項4記載の金属酸化物素子において、
前記基部層は、前記第1金属,前記第2金属,及び酸素から構成され、化学量論的組成に比較して第2金属の組成比が小さい
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項6】
請求項4または5記載の金属酸化物素子において、
前記基部層は、前記第1金属,前記第2金属,及び酸素の柱状結晶を含むことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の金属酸化物素子において、
前記基部層に接して配置され、少なくとも前記第1金属,及び酸素から構成され、柱状結晶及び非晶質の少なくとも1つである金属酸化物単一層を備えることを特徴とした金属酸化物素子。
【請求項8】
請求項7記載の金属酸化物素子において、
前記金属酸化物単一層は、前記第1金属,前記第2金属,及び酸素から構成され、化学量論的組成に比較して第2金属の組成比が小さい
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項9】
請求項7または8記載の金属酸化物素子において、
前記金属酸化物単一層は、前記微結晶粒を含まないことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の記載の金属酸化物素子において、
前記第1金属はチタンであり、前記第2金属はビスマスであり、前記基部層は、化学量論的組成に比較して過剰なチタンを含む層からなる非晶質状態であることを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属酸化物素子において、
前記絶縁分離層は、酸化タンタルから構成されたものである
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の金属酸化物素子において、
前記絶縁分離層は、前記金属酸化物層に接して設けられた酸化タンタルからなる保護層と、この保護層を介して隣り合う前記素子の間に設けられた絶縁層とから構成されたものである
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の金属酸化物素子において、
前記酸化タンタルは、五酸化タンタルである
ことを特徴とする金属酸化物素子。
【請求項14】
基板の上に金属酸化物層が形成された状態とする工程と、
この金属酸化物層の一方の面に接して第1電極が形成された状態とする工程と、
前記金属酸化物層の他方の面側に接して第2電極が形成された状態とする工程と
により前記基板の上に前記金属酸化物層及びこの金属酸化物層に接続する第1電極,第2電極を少なくとも備えた複数の素子が形成された状態とする金属酸化物素子の製造方法であって、
隣り合う前記素子の前記金属酸化物層の間に設けられて前記金属酸化物層に接触する部分が酸化タンタルから構成された絶縁分離層が形成された状態とする工程を備え、
前記金属酸化物層は、
所定の組成比で供給された不活性ガスと酸素ガスとからなる第1プラズマを生成し、第1金属と第2金属とから構成されたターゲットに負のバイスを印加して前記第1プラズマより発生した粒子を前記ターゲットに衝突させてスパッタ現象を起こし、前記ターゲットを構成する材料を基板の上に堆積することで、少なくとも前記第1金属及び酸素から構成された基部層と、前記第1金属,第2金属,及び酸素の化学量論的組成の結晶からなり、前記基部層の中に分散された複数の微結晶粒とを少なくとも備える状態に形成され、
前記第1プラズマは、電子サイクロトロン共鳴により生成されて発散磁界により運動エネルギーが与えられた電子サイクロトロン共鳴プラズマであり、
前記基板は所定温度に加熱された状態とする
ことを特徴とする金属酸化物素子の製造方法。
【請求項15】
請求項14記載の金属酸化物素子の製造方法において、
前記基板の上に絶縁材料から構成された絶縁物マスク層が形成された状態とする工程と、
前記絶縁物マスク層の上に所定の間隔を開けて設けられた開口部を備えたレジストパターンが形成された状態とする工程と、
前記レジストパターンをマスクとした等方的なエッチングにより前記絶縁物マスク層をエッチングすることで前記レジストパターンの開口部より面積の広い状態の貫通孔が前記絶縁物マスク層に形成された状態とする工程と、
前記貫通孔の内部に前記金属酸化物層が形成された状態とする工程と、
前記金属酸化物層が形成された後、前記絶縁物マスク層及び前記レジストパターンが形成された状態とする工程と
を少なくとも備えることを特徴とする金属酸化物素子の製造方法。
【請求項16】
請求項14又は15記載の金属酸化物素子において、
前記酸化タンタルは、五酸化タンタルである
ことを特徴とする金属酸化物素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−42784(P2007−42784A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224065(P2005−224065)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】