説明

銅材料または銅合金材料

【課題】SnやNiなどによるめっきを必要とせず、また、接合部の電気抵抗の増加を最小限に抑えることが可能な、レーザー溶接し易い銅あるいは銅合金材料を提供すること。
【解決手段】本発明のレーザー溶接性に優れた銅材料または銅合金材料は、板厚0.5mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料を、酸化面または硫化面が最外表面となるように、板厚0.5mmの銅板と重ね合わせ、前記酸化面または硫化面に、Ybファイバーレーザーをスポット径0.1mmφ、速度2000mm/minで照射した際の、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶接が容易な銅材料あるいは銅合金材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅(銅合金を含む、以下同じ。)板は、導電性及び熱伝導性に優れていることから電子材料や電気回路材料として、例えば端子や接点、あるいはバスバーにおいて広く用いられており、通常は他の導電材料と接合して用いられる。
【0003】
接合方法としては、半田付け、かしめ、抵抗溶接などが挙げられる。また、他の接合方法として、炭酸ガスレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザー、ダイオードレーザー(LD)などを用いたレーザー溶接も導入されている。これは、端子や接点等の小型化に伴って必然的に接合部分も小さくなり、かかる小さな接合部位を高速に作製するにはレーザー溶接が最適であるからである。特に、小型で高出力が得られるYAGレーザーやファイバーレーザーが小型溶接に多用されるようになっており、多くのアルミ材料や鉄材料に適用されている。
【0004】
一方で、銅板はレーザー溶接に用いられる波長領域でのレーザーの反射率が高い(吸収率が低い)ため、他の材料に比べてレーザー溶接が難しいという問題がある。具体的には、YAGレーザーの波長は1064nm、ファイバーレーザーの波長は1075nm、ダイオードレーザー(LD)の波長は700〜1500nmである。そして、例えば900〜1100nmでのレーザーの吸収率は、鉄が35%、ニッケルが30%、アルミが28%前後、スズが45%程度であるのに対し、銅は10%以下である。
【0005】
このように、銅板は他の材料と比べて溶接が難しいことから、銅板のレーザー溶接には大きなエネルギーを必要とした。その一方で、高エネルギーのレーザーを銅板に用いると、銅板が溶融貫通してしまうという問題があった。その理由は以下の通りである。
【0006】
すなわち、一般的に、レーザー溶接では、レーザー照射で材料表面が溶融すると、キーホールと呼ばれる溶融穴がすぐに形成される。そして、レーザーはこのキーホール内部で複数反射を繰り返すことで吸収が増加されるため、一旦溶融した材料はレーザー溶接し易くなる。銅板の場合も、キーホールが形成されると溶融が進み易い。そうすると、一旦キーホールが形成された後の銅板は、照射されるレーザーが高エネルギーである分、一気に裏面まで溶融が進んでしまうこととなる。
【0007】
つまり、銅板をレーザー溶接する場合、レーザーのエネルギーが低いと銅板の高い反射性のために溶融することができず、一方、銅板を溶融できる高エネルギーのレーザーを銅板に照射すると表面溶融に続いてキーホール内部の溶融が急激に進んでしまい、容易に貫通してしまう。
【0008】
このような銅板の溶融貫通は、例えば二枚の銅板を重ね合わせて溶接を行う場合において、レーザー照射面である上側の銅板の板厚に比べてレーザー照射面でない下側の銅板の板厚が厚ければ、溶融は下側の銅板の途中で止まるため不都合はないが、下側の銅板の板厚が上側の銅板の板厚と同等もしくは薄いと、材料に穴が開いて種々の不都合が生じることとなる。
【0009】
より詳細には、例えば、自動車用の端子接続分野においては、光反射率を低下させた(光吸収率を向上させた)めっき銅を用いたYAGレーザー溶接が多用されている。かかるYAGレーザーを用いた溶接では、レーザー照射面である上側材料には0.1mm以下の薄い銅板が使われており、また、接合する下側の材料(銅板など)は板厚が厚い場合が多いため、下側の材料の途中で溶融が止まりやすく、レーザーによる溶融貫通を問題にする必要がない。また、得られる接合体は主に小電流用途で使用されるため、溶接部の接触電気抵抗による発熱を問題にすることもない。
【0010】
一方、近年、電極に数アンペアから数十アンペア、あるいは数百アンペアの大電流を通電する用途に接合体を使用するケースが増大しており、同時に、部品の大型化を抑制する動きも進んでいる。このため、接点や端子に用いられる銅板としては、接点の幅は小さく保ちつつ電気抵抗を低減するべく、レーザー照射面である上側の銅板の板厚を厚くする方向で設計が行われるようになっており、上側と下側の銅板の板厚が同程度になる場合がある。この場合、板厚の厚い上側の銅板を溶融するべく高エネルギーのレーザーを照射すると、下側の銅板ともども溶融貫通することとなる。
【0011】
レーザー加工が材料に穴を開けることを目的する場合には、上記現象は特に問題とはならない。しかしながら、溶接のように、二つ以上の材料を合わせて接合する場合、レーザーが材料を完全に貫通することは必ずしも望ましいものではなく、材料の内部で溶融を止めることが好ましい場合が多い。したがって、レーザー溶接によって溶融貫通し難い厚膜の銅板が望まれており、銅板の反射率を制御する重要性がますます高まっている。
【0012】
光反射率を低下させた(光吸収性を向上させた)上記めっき銅(銅材料)として、例えば特許文献1には、表面にSnめっき層を有する銅または銅合金が開示されている。また、特許文献2には、無酸素銅にNiめっきを施した銅材料が開示されている。
【0013】
しかしながら、銅材料の表面にSnやNiが存在すると、レーザー溶接時にSnやNiが銅と合金化して、接合部の電気抵抗が増加する場合があった。接合体を大電力用途で使用する場合には、接合部に大きな電流が流れ込むため、接合部の電気抵抗が増加すると極めて大きな問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8−218137号公報
【特許文献2】特開昭64−75699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記の様な状況の下でなされたものであり、本発明の目的は、SnやNiなどによるめっきを必要とせず、また、接合部の電気抵抗の増加を最小限に抑えることが可能な、レーザー溶接し易い銅あるいは銅合金材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、(1)レーザー溶接に用いられるYAGレーザーやファイバーレーザーなどの波長1000nm付近のレーザーに対する銅板や銅合金板の反射率を低下させるとともに、(2)接合部の電気抵抗を増加させない銅板や銅合金板の処理方法について鋭意研究を行った。その結果、銅板や銅合金板の表面を酸化または硫化することにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0017】
すなわち、上記課題を解決し得た本発明のレーザー溶接性に優れた銅材料または銅合金材料は、板厚0.5mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料を、酸化面または硫化面が最外表面となるように、板厚0.5mmの銅板と重ね合わせ、前記酸化面または硫化面に、Ybファイバーレーザーをスポット径0.1mmφ、速度2000mm/minで照射した際の、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなることを特徴とする。
【0018】
なお、本明細書において、溶融開始時レーザー出力とは、板厚0.5mmの銅板あるいは銅合金板を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料と、板厚0.5mmの銅板(表面が酸化または硫化されていない未処理の銅板)とを、酸化面または硫化面が最外表面となるように重ね合わせて接合体とし、所定のレーザーを所定条件下で酸化面または硫化面に照射した場合に、レーザー照射面が溶融し始めるのに要するレーザーのエネルギー(W)を意味する。また、溶融貫通時レーザー出力とは、レーザー照射による溶融が、接合体の裏面(レーザー照射面の裏面)に到達するのに要するレーザーのエネルギー(W)を意味する。
【0019】
本発明では、酸化または硫化された面の表層10μmが、酸素または硫黄を2〜55原子%含有することが好ましい実施態様である。
【0020】
また、銅板または銅合金板の少なくとも片面を、大気中、200〜600℃で加熱して酸化したり、銅板または銅合金板の少なくとも片面に酸化剤を接触させて酸化したり、さらに還元処理したり、あるいは、銅板または銅合金板の少なくとも片面に硫化剤を接触させて硫化して、レーザー溶接性に優れた銅材料または銅合金材料を得ることが、好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の銅材料または銅合金材料は、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面が酸化または硫化されてなるため、レーザー溶接を容易に行うことができる。また、Snめっき層やNiめっき層を設けないため、溶接時に銅材料または銅合金材料の表面が合金化して接合部の電気抵抗が増加するのを抑えることが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の銅材料または銅合金材料(以下、単に「銅材料」と称する場合がある。)は、板厚0.5mmの銅板または銅合金板(以下、単に「銅板」と称する場合がある。)の少なくとも片面を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料を、酸化面または硫化面が最外表面となるように、板厚0.5mmの銅板と重ね合わせ、前記酸化面または硫化面に、Ybファイバーレーザーをスポット径0.1mmφ、速度2000mm/minで照射した際の、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなることを特徴とする。以下、本発明の銅材料または銅合金材料について詳細に説明する。
【0023】
(銅板、銅合金板)
本発明で用いる銅合金板の合金元素としては、当該銅合金板から得られる銅合金材料を電子材料や電気回路材料に用いることができれば特に限定されず、例えば、Zn、Al、Fe、Mn、Snなどが挙げられる。これらの合金元素は単独で含まれても、2種以上が組み合わせて含まれてもよい。合金元素の含有率は、得られる接合体に要求される機械特性や耐熱性、加工性に応じて適宜調整され、特に限定されるものではないが、例えば、Znなら50質量%以下、Alなら13質量%以下、Feなら7質量%以下、Mnなら3.0質量%以下、Snなら10質量%以下含まれることが好ましい。
【0024】
本発明で用いる銅板の板厚は0.05〜10.0mmである。板厚が0.05mm未満では銅板が薄くなり過ぎて箔の状態となって自立せず、何らかの基材に銅板を貼り付けて用いることとなる。その場合、基材の状態によって溶接状態が著しく変わるため、溶接を容易に行えない場合がある。また、レーザーのスポット径を小さくしても溶接が難しい場合がある。板厚が10.0mmを超えると、溶接するのに高いエネルギーを必要とするため、製造コストが上昇する。また、用いる溶接機によっては高いエネルギーを出力できずに溶接できない場合がある。銅板の板厚は、0.1mm以上(より好ましくは0.5mm以上)が好ましく、5.0mm以下(より好ましくは3.0mm以下)が好ましい。
【0025】
(酸化または硫化)
本発明の銅材料は、上記銅板が酸化または硫化されてなる。これにより、本発明の銅材料は、未処理の(表面が酸化または硫化されていない)銅板に比べて低いレーザー出力で溶接することが可能になる。また、本発明の銅材料を未処理の銅板と重ね合わせて溶接する際に、レーザー照射によりレーザー照射面が溶融し始めるエネルギー(溶融開始時レーザー出力)と、レーザー照射による溶融が照射面の裏面に達するのに要するエネルギー(溶融貫通時レーザー出力)との差が大きくなるため、レーザーによる溶融を接合体の内部で留める(溶融貫通しない)照射条件を設定するのが容易になる。また、銅材料の表面に酸化物や硫化物が存在しても、これらは溶接時の温度(おおむね1100℃以上)で溶融分解するため、接合部の電気抵抗が増加するのを最小限に抑えることができる。
【0026】
上記酸化または硫化の程度は、具体的には以下の通りである。すなわち、板厚0.5mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料を、酸化面または硫化面が最外表面となるように、板厚0.5mmの銅板と重ね合わせ、前記酸化面または硫化面に、Ybファイバーレーザーをスポット径0.1mmφ、速度2000mm/minで照射した際の、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、銅板を酸化または硫化する。
【0027】
当該レーザー出力差が200W以上となる程度に酸化または硫化されれば、レーザーによる銅材料の溶融を接合体の内部で留めて、溶融貫通させない照射条件を設定するのが容易になる。かかるレーザー出力差は300W以上(より好ましくは400W以上、さらに好ましくは500W以上)であることが好ましい。レーザー出力差の上限については特に制限されるものではないが、技術的制限から本発明では600Wとなる。なお、本発明において、溶融開始時レーザー出力は、膜厚0.5mmの銅板(表面が酸化または硫化されていない銅板)に対して上記条件のレーザー照射を行った場合の溶融開始時レーザー出力に比して30%程度低いことが好ましく、具体的には900W以下(より好ましくは850W以下)であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の銅材料は、酸化または硫化された銅板の面の表層10μmが、酸素または硫黄を2〜55原子%含有していることが好ましい。当該元素の含有率が2原子%未満の場合には、溶融開始時レーザー出力を十分に低くすることができない場合がある。また、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差を大きくすることができない場合がある。また、当該元素の含有率が55原子%を超える場合には、銅材料から酸化物や硫化物が剥離し易くなる場合がある。上記元素の含有率は、10原子%以上(より好ましくは20原子%以上)が好ましく、50原子%以下(より好ましくは47原子%以下)が好ましい。なお、上記元素の含有率の測定方法については後述する。
【0029】
(銅材料または銅合金材料)
本発明の銅材料は、板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなるため、低いレーザー出力で溶接することができる。また、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で酸化または硫化してなるため、レーザーによる銅材料の溶融を接合体の内部で留める(溶融貫通しない)照射条件を設定するのが容易になる。さらに、接合部の電気抵抗が増加するのを最小限に抑えることができる。したがって、本発明の銅材料によれば、YAGレーザーやファイバーレーザーなど、波長が1000nm付近のレーザーを用いたレーザー溶接を容易に行うことができる。
【0030】
以下、本発明の銅材料の製造方法(酸化あるいは硫化方法)について詳細に説明する。
【0031】
(酸化あるいは硫化方法)
銅板の少なくとも片面を酸化して本発明の銅材料を得る方法としては、例えば、銅板を大気中で加熱炉などを用いて熱処理して酸化する方法が挙げられる。熱処理の際の加熱温度は、200℃以上(より好ましくは300℃以上)であることが好ましく、600℃以下(より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは400℃以下)であることが好ましい。加熱時間が200℃未満であっても酸化はできるが、長時間を要する場合がある。また、加熱温度が600℃を超える場合には、急速に酸化が進み、酸化膜の形成を制御できない場合がある。また冷却時に酸化膜が割れ易くなる。加熱時間は10分以上(より好ましくは20分以上)、1時間以下(より好ましくは40分以下)とすることが好ましい。
【0032】
また、銅板の少なくとも片面を酸化して本発明の銅材料を得る他の方法としては、例えば、銅板の少なくとも片面に酸化剤を接触させて酸化する方法が挙げられる。
【0033】
本発明で用いる酸化剤としては、過酸化水素、濃硫酸、濃硝酸、次亜塩素酸ナトリウム等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
銅板に酸化剤を接触させる方法は特に限定されず、例えば、上記酸化剤の水溶液を銅板に噴霧したり、当該水溶液中に銅板を浸漬する方法が挙げられる。水溶液中の酸化剤の濃度は、0.5〜1.5mol/l(より好ましくは0.6〜1.0mol/l)とすることが好ましい。
【0035】
本発明において、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムの水溶液を用いる場合は、さらに水酸化ナトリウムも水溶液中に含有させることが好ましい。水酸化ナトリウムのような強アルカリを併用することにより、銅板の表面を均一に酸化処理することができる。
【0036】
酸化剤の水溶液を用いて銅板を処理する場合、水溶液の温度は常温(25℃前後)であってもよいが加熱しておくことが好ましい。水溶液の温度は50℃以上(より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上)が好ましく、90℃以下(より好ましくは85℃以下)であることが好ましい。当該温度範囲内において、酸化を速やかに行うことができる。なお、当該温度範囲の水溶液に銅板を浸漬して酸化する場合、浸漬時間は1分〜5分でよい。
【0037】
また、本発明では、上記酸化剤による処理に続いて、さらに還元処理を施してもよい。これにより、表層の酸素量が少なくなる。具体的には、表層10μmの酸素含有率が、2〜30原子%(より詳細には10〜30原子%)になる。なお、酸素含有率が10原子%未満であると、銅材料の表面が黒化しない場合がある。一方で、銅材料表面に凹凸をさらに付与できる。具体的には、銅材料の表面粗さ(R)が0.5〜10μm(より詳細には3〜7μm)になる。このため、得られる銅材料のレーザー反射率を低下させることができる。なお、表面粗さの測定方法については後述する。
【0038】
還元処理としては、例えば、水素気流中で熱処理する方法、炭素皮膜を形成した後に熱処理する方法、アルコール蒸気中で加熱する方法、ジメチルアミンボラン、水酸化ホウ素ナトリウム、ホルマリンなどの還元剤により処理する方法などが挙げられる。特に、還元剤による処理は、上記酸化剤による処理と同様に、還元剤の水溶液中に酸化処理後の銅板を浸漬して行うことができるため好ましい。水溶液中の還元剤の濃度は、0.05〜0.5mol/l(より好ましくは0.07〜0.15mol/l)とすることが好ましい。
【0039】
還元剤の水溶液を用いて銅板を処理する場合、水溶液の温度は常温(25℃前後)であってもよいが加熱しておくことが好ましい。水溶液の温度は50℃以上(より好ましくは55℃以上)が好ましく、70℃以下(より好ましくは65℃以下)であることが好ましい。当該温度範囲内において、還元を速やかに行うことができる。なお、当該温度範囲の水溶液に銅板を浸漬して還元する場合、浸漬時間は1分〜5分でよい。還元処理が長すぎると、金属光沢が出てしまい、反射率が低下しない場合がある。
【0040】
銅板の少なくとも片面を硫化して本発明の銅材料を得る方法としては、例えば、銅板の少なくとも片面に硫化剤を接触させて硫化する方法が挙げられる。
【0041】
本発明で用いる硫化剤としては、硫化カリウム、硫化ナトリウム、硫化リチウム等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
銅板に硫化剤を接触させる方法は特に限定されず、上記酸化剤による酸化処理と同様の方法であってよい。なお、水溶液中の硫化剤の濃度は、0.05〜1.0質量%(より好ましくは0.1〜0.6質量%)とすることが好ましい。
【0043】
硫化剤の水溶液を用いて銅板を処理する場合、水溶液の温度は常温(25℃前後)であってもよいが加熱しておくことが好ましい。水溶液の温度は30℃以上(より好ましくは35℃以上)が好ましく、80℃以下(より好ましくは60℃以下)であることが好ましい。当該温度範囲内において、硫化を速やかに行うことができる。なお、当該温度範囲の水溶液に銅板を浸漬して硫化する場合、浸漬時間は30秒〜3分でよい。
【0044】
本発明において、硫化剤として硫化カリウムの水溶液を用いる場合は、さらに水酸化カリウムも水溶液中に含有させることが好ましい。水酸化カリウムを併用することにより、硫化膜が緻密になり、銅との密着性が向上する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
(実施例1)
板厚0.5mmの純銅板を大気中、熱処理(350℃、30分)して、銅表面を酸化させて、本発明の銅材料1を得た。
【0047】
(実施例2)
水100ml中に水酸化ナトリウムを8g、及び酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を6.5g溶解させた水溶液を調製した。80℃に加熱した当該水溶液中に、板厚0.5mmの純銅板を2分浸漬して銅表面を酸化させて、本発明の銅材料2を得た。
【0048】
(実施例3)
水100ml中に水酸化ナトリウムを8g、及び酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO2)を6.5g溶解させた水溶液を調製した。80℃に加熱した当該水溶液中に、板厚0.5mmの純銅板を2分浸漬して銅表面を酸化させた。
【0049】
次いで、60℃に加熱した0.1mol/lのジメチルアミンボラン水溶液に、酸化処理後の純銅板を3分浸漬して還元処理を行い、本発明の銅材料3を得た。
【0050】
(実施例4)
水1000ml中に硫化剤として硫化カリウムを2g、及び水酸化カリウムを5g溶解させた水溶液を調製した。40℃に加熱した当該水溶液中に、板厚0.5mmの純銅板を1分浸漬して銅表面を硫化させて、本発明の銅材料4を得た。
【0051】
(酸素または硫黄の含有率)
銅材料1〜4の表層10μmの酸素または硫黄の含有率について、X線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro−Analysis、日本電子株式会社製、JXA−8800RL)を用いて測定した。銅材料1及び2の酸素含有率は45原子%、銅材料3の硫黄含有率は45原子%、銅材料4の酸素含有率は25原子%であった。
【0052】
(表面粗さ)
銅材料4の表面粗さ(R)について、レーザー式表面粗さ計(レーザーテック株式会社製、VL2000)を測定したところ、5μmであった。
【0053】
(レーザー溶接試験)
板厚0.5mmの純銅板の上に、銅材料1〜4、あるいは、板厚0.5mmの純銅板をそれぞれ重ね合わせて、ファイバーレーザーで重ね合わせ溶接を行った。溶接装置は、住友機械エレクロトニクス社製のYbファイバーレーザーを用いた。スポット径は0.1mmφとし、前進角5度、加工速度2000mm/min、溶接長を20mmとした。
【0054】
銅材料1〜4を用いた場合、レーザー出力を800W以上にすると溶接が可能となり、1300W以上にすると溶融貫通した。一方、板厚0.5mmの純銅板を用いた場合、レーザー出力が1300W以下では、表面に傷ひとつ付けることができなかった。1400Wにすると溶融貫通した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、レーザー溶接が容易な銅材料の提供に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚0.5mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなる銅材料または銅合金材料を、酸化面または硫化面が最外表面となるように、板厚0.5mmの銅板と重ね合わせ、前記酸化面または硫化面に、Ybファイバーレーザーをスポット径0.1mmφ、速度2000mm/minで照射した際の、溶融開始時レーザー出力と溶融貫通時レーザー出力との差が200W以上となる条件で、
板厚0.05〜10.0mmの銅板または銅合金板の少なくとも片面を酸化または硫化してなることを特徴とする、レーザー溶接性に優れた銅材料または銅合金材料。
【請求項2】
酸化または硫化された面の表層10μmが、酸素または硫黄を2〜55原子%含有する請求項1に記載の銅材料または銅合金材料。
【請求項3】
銅板または銅合金板の少なくとも片面を、大気中、200〜600℃で加熱して酸化する請求項1または2に記載の銅材料または銅合金材料。
【請求項4】
銅板または銅合金板の少なくとも片面に酸化剤を接触させて酸化する請求項1または2に記載の銅材料または銅合金材料。
【請求項5】
さらに還元処理する請求項4に記載の銅材料または銅合金材料。
【請求項6】
銅板または銅合金板の少なくとも片面に硫化剤を接触させて硫化する請求項1または2に記載の銅材料または銅合金材料。


【公開番号】特開2011−115827(P2011−115827A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276755(P2009−276755)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】