説明

銅薄膜形成材料および銅薄膜形成方法

【課題】導電性に優れ、多くの電子デバイスに簡便、安価に使用できる塗布法により銅薄膜を形成できる銅薄膜形成材料およびその材料を用いて銅薄膜を形成する手法を提供すること。
【解決手段】下記式


ここで、R〜Rは水素原子またはハロゲン原子または炭素数1〜15の炭化水素基または炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基または炭素数1〜10のエーテル基である。R〜Rは互いに同一でも異なっても良い、
で表される化合物と溶剤を含有する銅薄膜形成材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅薄膜形成材料およびそれを用いた銅薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上への銅薄膜形成方法として、これまで真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、メッキ法がその主流であった(非特許文献1)。なかでも真空蒸着法、スパッタ法、CVD法はいずれも高価な真空装置を必要とするため製造コストがかさみ、また大型化された基板に適用するには困難であるといった問題がある。また、メッキ法は真空装置を必要としないが、基板が絶縁体の場合、基板上に導電層を別途形成する必要があるなどプロセスが煩雑になり、またメッキ法は溶液中での反応を利用するため大量の廃液が副生しその処理に多大な手間とコストが発生するといった問題がある。
【0003】
上記課題に対し、近年金属ペースト法が開発された。本法は銅または銅化合物微粒子を溶剤中に均一分散させた銅ペーストを調整し、これを基板上に塗布、加熱、場合によっては還元処理を行って銅薄膜を形成する手法である(特許文献1〜4)。この方法は製造コスト低減には大きな効果があるが、銅および銅化合物微粒子間で空隙が発生して成膜した銅薄膜の膜質および導電性が低下するという問題があり、さらに銅および銅化合物微粒子を分散させるために大量の分散剤を必要とするため、分散剤が不純物として成膜後の銅薄膜中に残留して、銅薄膜の膜質および導電性を低下させるという問題もある。上記課題に対して、銅成分に微粒子を用いない塗布型材料の開発も検討されているが(特許文献5、非特許文献2)、プロセスが煩雑となるといった課題がある。
【特許文献1】再公表特許WO2003/051562号公報
【特許文献2】特開2004−119686号公報
【特許文献3】特開2005−281781号公報
【特許文献4】特開2006−210872号公報
【特許文献5】特開2002−339076号公報
【非特許文献1】はじめての半導体製造材料、工業調査会、p61−68
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc., 1996, 118, p237
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題に鑑みなされたもので、その目的は導電性に優れ、多くの電子デバイスに簡便、安価に使用できる塗布法により銅薄膜を形成できる銅薄膜形成材料およびその材料を用いて銅薄膜を形成する手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、本発明の上記目的は、第一に、
下記式(1)、
【0006】
【化1】

【0007】
(ここで、R〜Rは水素原子またはハロゲン原子または炭素数1〜15の炭化水素基または炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基または炭素数1〜10のアルコキシ基である。R〜Rは互いに同一でも異なっても良い。)
で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と溶剤を含有することを特徴とする銅薄膜形成材料によって達成される。
【0008】
本発明によると、本発明の上記目的は、第二に、
本発明の銅薄膜形成材料の塗膜を形成し、次いで上記式(1)で表される化合物を熱処理および/または光処理することを特徴とする銅薄膜形成方法によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、製造コストが安価で、プロセスが簡便な塗布法により、導電性に優れた良質な銅薄膜を得ることができる銅薄膜形成材料および銅薄膜形成方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の銅薄膜形成材料は、下記式(1)、
【0012】
【化2】

【0013】
で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と溶剤を含有させることで形成される。
ここで、R〜Rは水素原子またはハロゲン原子または炭素数1〜15の炭化水素基または炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基または炭素数1〜10のアルコキシ基である。R〜Rは互いに同一でも異なっても良い。
【0014】
ここで、ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、なかでもフッ素と塩素が好ましい。炭素数1〜15の炭化水素基としては炭素数1〜7の炭化水素基が好ましく、その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、メチルフェニル基を挙げることができる。また炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基としては炭素数1〜6のハロゲン化炭化水素基が好ましい。その具体例としては、例えばモノクロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、モノフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、ペンタフルオロフェニル基を挙げることができる。また炭素数1〜10のアルコキシ基としては炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましく、その具体例としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブチトキシ基、イソブトシキ基、t−ブトキシ基、n−ヘキサオキシ基、フェノキシ基を挙げることができる。R〜R15の好ましい例としては、水素原子、フッ素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ネオペンチル基、モノフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロヘキシル基、メトキシ基、エトキシ基、t−ブトキシ基を挙げることができる。
【0015】
上記式(1)で表される有機銅化合物の具体例としては、例えば;
フェニル銅、2−メチルフェニル銅、3−メチルフェニル銅、4−メチルフェニル銅、2−エチルフェニル銅、3−エチルフェニル銅、4−エチルフェニル銅、2−イソプロピルフェニル銅、3−イソプロピルフェニル銅、4−イソプロピルフェニル銅、2−t−ブチルフェニル銅、3−t−ブチルフェニル銅、4−t−ブチルフェニル銅、2−フルオロフェニル銅、3−フルオロフェニル銅、4−フルオロフェニル銅、2−クロロフェニル銅、3−クロロフェニル銅、4−クロロフェニル銅、2−モノフルオロメチルフェニル銅、3−モノフルオロメチルフェニル銅、4−モノフルオロメチルフェニル銅、2−トリフルオロメチルフェニル銅、3−トリフルオロメチルフェニル銅、4−トリフルオロメチルフェニル銅、2−メトキシフェニル銅、3−メトキシフェニル銅、4−メトキシフェニル銅、2−エトキシフェニル銅、3−エトキシフェニル銅、4−エトキシフェニル銅、2−t−ブトキシフェニル銅、3−t−ブトキシフェニル銅、4−t−ブトキシフェニル銅、2,3−ジメチルフェニル銅、2,4−ジメチルフェニル銅、3,4−ジメチルフェニル銅、2,3−ジエチルフェニル銅、2,4−ジエチルフェニル銅、3,4−ジエチルフェニル銅、2,3−ジ−t−ブチルフェニル銅、2,4−ジ−t−ブチルフェニル銅、3,4−ジ−t−ブチルフェニル銅、2,3−ジフルオロフェニル銅、2,4−ジフルオロフェニル銅、3,4−ジフルオロフェニル銅、2,3−ジトリフルオロメチルフェニル銅、2,4−ジトリフルオロメチルフェニル銅、3,4−ジトリフルオロメチルフェニル銅、2,3−ジメトキシフェニル銅、2,4−ジメトキシフェニル銅、3,4−ジメトキシフェニル銅、2,3−ジエトキシフェニル銅、2,4−ジエトキシフェニル銅、3,4−ジエトキシフェニル銅、2−メチル−3−エチルフェニル銅、2−メチル−4−エチルフェニル銅、3−メチル−4−エチルフェニル銅、2−エチル−3−メチルフェニル銅、2−エチル−4−メチルフェニル銅、3−エチル−4−メチルフェニル銅、2−メチル−3−t−ブチルフェニル銅、2−メチル−4−t−ブチルフェニル銅、3−メチル−4−t−ブチルフェニル銅、2−t−ブチル3−メチルフェニル銅、2−t−ブチル4−メチルフェニル銅、3−t−ブチル4−メチルフェニル銅、2−メチル−3−フルオロフェニル銅、2−メチル−4−フルオロフェニル銅、3−メチル−4−フルオロフェニル銅、2−フルオロ3−メチルフェニル銅、2−フルオロ4−メチルフェニル銅、3−フルオロ4−メチルフェニル銅、2−メチル−3−トリフルオロメチルフェニル銅、2−メチル−4−トリフルオロメチルフェニル銅、3−メチル−4−トリフルオロメチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル3−メチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル4−メチルフェニル銅、3−トリフルオロメチル4−メチルフェニル銅、2−フルオロ3−t−ブチルフェニル銅、2−フルオロ4−t−ブチルフェニル銅、3−フルオロ4−t−ブチルフェニル銅、2−t−ブチル3−フルオロフェニル銅、2−t−ブチル4−フルオロフェニル銅、3−t−ブチル4−フルオロフェニル銅、2−トリフルオロメチル3−t−ブチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル4−t−ブチルフェニル銅、3−トリフルオロメチル4−t−ブチルフェニル銅、2−t−ブチル3−トリフルオロメチルフェニル銅、2−t−ブチル4−トリフルオロメチルフェニル銅、3−t−ブチル4−トリフルオロメチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル3−メトキシフェニル銅、2−トリフルオロメチル4−メトキシフェニル銅、3−トリフルオロメチル4−メトキシフェニル銅、2−メトキシ3−トリフルオロメチルフェニル銅、2−メトキシ4−トリフルオロメチルフェニル銅、3−メトキシ4−トリフルオロメチルフェニル銅、2,4,6−トリメチルフェニル銅、2,4,6−トリエチルフェニル銅、2,4,6−トリイソプロピルフェニル銅、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル銅、2,4,6−トリフルオロフェニル銅、2,4,6−トリモノフルオロメチルフェニル銅、2,4,6−トリ(トリフルオロメチル)フェニル銅、2,4,6−トリメトキシフェニル銅、2,4,6−トリエトキシフェニル銅、2,4,6−トリt−ブトキシフェニル銅、ペンタメチルフェニル銅、ペンタエチルフェニル銅、ペンタイソプロピルフェニル銅、ペンタ−t−ブチルフェニル銅、ペンタフルオロフェニル銅、ペンタモノフルオロメチルフェニル銅、ペンタ(トリフルオロメチル)フェニル銅、ペンタメトキシフェニル銅、ペンタエトキシフェニル銅、ペンタt−ブトキシフェニル銅等を挙げることができる。
【0016】
これらのうち、フェニル銅、2−メチルフェニル銅、3−メチルフェニル銅、4−メチルフェニル銅、2−エチルフェニル銅、3−エチルフェニル銅、4−エチルフェニル銅、2−t−ブチルフェニル銅、3−t−ブチルフェニル銅、4−t−ブチルフェニル銅、2−トリフルオロメチルフェニル銅、3−トリフルオロメチルフェニル銅、4−トリフルオロメチルフェニル銅、2−メトキシフェニル銅、3−メトキシフェニル銅、4−メトキシフェニル銅、2−t−ブトキシフェニル銅、3−t−ブトキシフェニル銅、4−t−ブトキシフェニル銅、2,3−ジメチルフェニル銅、2,4−ジメチルフェニル銅、3,4−ジメチルフェニル銅、2,3−ジ−t−ブチルフェニル銅、2,4−ジ−t−ブチルフェニル銅、3,4−ジ−t−ブチルフェニル銅、2,3−ジトリフルオロメチルフェニル銅、2,4−ジトリフルオロメチルフェニル銅、3,4−ジトリフルオロメチルフェニル銅、2,3−ジメトキシフェニル銅、2,4−ジメトキシフェニル銅、3,4−ジメトキシフェニル銅、2−メチル−3−エチルフェニル銅、2−メチル−4−エチルフェニル銅、3−メチル−4−エチルフェニル銅、2−エチル−3−メチルフェニル銅、2−エチル−4−メチルフェニル銅、3−エチル−4−メチルフェニル銅、2−メチル−3−t−ブチルフェニル銅、2−メチル−4−t−ブチルフェニル銅、3−メチル−4−t−ブチルフェニル銅、2−t−ブチル3−メチルフェニル銅、2−t−ブチル4−メチルフェニル銅、3−t−ブチル4−メチルフェニル銅、2−メチル−4−トリフルオロメチルフェニル銅、3−メチル−4−トリフルオロメチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル3−メチルフェニル銅、2−トリフルオロメチル4−メチルフェニル銅、3−トリフルオロメチル4−メチルフェニル銅、2−フルオロ3−t−ブチルフェニル銅、3−トリフルオロメチル4−t−ブチルフェニル銅、2−t−ブチル3−トリフルオロメチルフェニル銅、2−t−ブチル4−トリフルオロメチルフェニル銅、3−t−ブチル4−トリフルオロメチルフェニル銅、2,4,6−トリメチルフェニル銅、2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル銅、2,4,6−トリ(トリフルオロメチル)フェニル銅、2,4,6−トリメトキシフェニル銅、ペンタメチルフェニル銅、ペンタフルオロフェニル銅が好ましい。
【0017】
上記式(1)で表される有機銅化合物との溶液に用いる溶剤としては、該有機銅化合物を溶解できる溶媒も使用することができる。これら溶媒としては、例えばエーテル、エーテル基を有するエステル、炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール、非プロトン性極性溶媒等及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0018】
上記エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等;
上記エーテル基を有するエステルとしては、例えばエチレングリコルモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−アセトキシ−1−メトキシプロパン等;
上記炭化水素としては、例えばトルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカリン、テトラリン、デュレン等;
上記ハロゲン化炭化水素としては、例えば塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化ベンゼン、臭化ベンゼン、オルトジクロロベンゼン、オルトジブロモベンゼン等;
上記アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール等;
上記非プロトン性極性溶媒として、例えばN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホアミド、γ−ブチロラクトン等を、それぞれ挙げることができる。なかでも、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコルモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン、塩化メチレン、塩化ベンゼン、オルトジクロロベンゼン、プロパノール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトンが好ましい。有機銅化合物の溶液中の有機銅化合物の含有量は、好ましくは0.1〜50質量%であり、より好ましくは1〜30質量%である。
【0019】
本発明の銅薄膜形成方法は、上記の銅薄膜形成材料を使用する他は、それ自体公知の方法を使用できる。例えば次のようにして実施することができる。
【0020】
(A)本発明の銅薄膜形成材料を基体上に塗布し、次いで(B)基体を加熱して、熱分解せしめて基体上に銅薄膜を形成する。
上記工程(A)において、基体を構成する材料は、用いる基体の材質、形状等は特に制限はないが、材質は次工程の熱処理に耐えられるものが好ましく、また塗膜を形成する基体は平面でもよく段差のある非平面でもよく、その形態は特に限定されるものではない。これらの基板の材質の具体例としては、ガラス、金属、プラスチック、セラミックスなどを挙げることができる。ガラスとしては、例えば石英ガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス、鉛ガラスが使用できる。金属としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、シリコン、アルミニウム、鉄の他ステンレス鋼などが使用できる。プラスチックとしては、例えばポリイミド、ポリエーテルスルホン等を挙げることができる。さらにこれらの材質形状は、例えばバルク形状、板状、フィルム形状などであることができる。
また上記工程(A)において、基体への塗布は、例えばスピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法、スプレー法、液滴吐出法(インクジェット法)等の適宜の方法により行うことができる。これらの塗布工程では、基体上の形状、大きさ等により、基体の隅々にまで銅薄膜形成材料が行き亘るような塗布条件が採用される。例えば塗布法としてスピンコート法を採用する場合において、スピナーの回転数を、300〜2,500rpm、更に500〜2,000rpmとすることができる。
【0021】
上記工程(B)の加熱工程において、一旦溶剤のみを飛散させる目的で低温下にて塗布膜を加熱してもよい。溶剤を飛散させる温度としては、好ましくは80〜250℃、1〜90分であり、更に好ましくは100〜200℃、5〜60分である。さらに銅薄膜形成を完結させるべく、さらに加熱を行う。好ましくは150〜500℃、1〜120分であり、更に好ましくは200〜400℃、5〜90分である。本加熱工程は、不活性気体の存在下もしくは不存在下又は還元性気体又は酸化性気体の存在下もしくは不存在下のいずれの条件下でも実施することができる。また、不活性気体および還元性気体の両者または不活性気体および酸化性気体の両者が存在する条件で実施してもよい。ここで不活性気体としては、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。また、還元性気体としては、例えば水素、アンモニア等を挙げることができる。また、酸化性気体としては、例えば酸素、一酸化炭素、亜酸化窒素等を挙げることができる。特に、成膜し銅薄膜中不純物を低減させる目的から、還元性気体を共存させることが好ましい。還元性気体を共存させる場合、雰囲気中の還元性気体の割合は、1〜90モル%であることが好ましく、3〜40モル%であることがより好ましい。また、本加熱工程は加圧下、常圧下および減圧下のいずれの条件でも実施することができる。
【0022】
また、上記式(1)で表される有機銅化合物を用いた溶液に、銅薄膜形成を促進する目的で、他の還元剤を混合してもよい。還元剤としては、特に限定はされないが、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ホルムアルデヒド、ヒドラジン、メチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、ジイミド、クエン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。混合の割合は、有機銅化合物に対し10〜300モル%であることが好ましく、30〜120モル%であることがより好ましい。混合は塗布前に行っても、塗布膜の上からの混合のいずれでもよい。
【0023】
また、上記式(1)で表される有機銅化合物を用いた溶液の塗布膜を上記熱処理に代えてあるいは上記熱処理と一緒に、光処理し銅薄膜を形成することもできる。光処理に使用する光源としては、低圧あるいは高圧の水銀ランプ、重水素ランプあるいはアルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスの放電光の他、YAGレーザー、アルゴンレーザー、炭酸ガスレーザー、XeF、XeCl、XeBr、KrF、KrCl、ArF、ArClなどのエキシマレーザーなどを光源として使用することができる。これらの光源としては、一般には、10〜5,000Wの出力のものが用いられるが、通常100〜1,000Wで十分である。これらの光源の波長は特に限定されず、例えば170nm〜600nmである。また銅薄膜の改質効果の点でレーザー光の使用が特に好ましい。これらの光処理時の温度は通常室温程度である。また光照射に際しては、特定部位のみを照射するためにマスクを介して照射してもよい。
上記の如くして得られた銅薄膜は、後述の実施例から明らかなように、低コストで簡便な塗布型の手法で、導電性に優れる。例えば、配線材料、電極材料、メッキ成長膜、キャパシタ電極、帯電防止材料、導電性付与膜等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明する。
【0025】
合成例1:フェニル銅の合成
乾燥した500mLの3つ口フラスコに磁気攪拌子、乾燥窒素ガス導入管、ドライアイス冷却管を付け、乾燥したジエチルエーテル100mLと細かく刻んだリチウムワイヤー0.175gを入れ、反応容器を10℃に保った。この混合液に4時間かけて臭化ベンゼン1.57gを攪拌しながら添加した。添加後さらに1時間攪拌し、不溶粒子を沈降させるために窒素気流下で1晩静置した。窒素を流しながら、上澄み液を他の乾燥容器に移して10mmolフェニルリチウム含有エーテル溶液とした。
【0026】
別途良く乾燥した500mLの3つ口フラスコに磁気攪拌子、乾燥窒素ガス導入管、ドライアイス冷却管を付け、乾燥して細かく砕いた臭化銅(I)3.35gと乾燥したテトラヒドロフラン100mLを入れ、反応容器を10℃に保った。この混合液に、2時間かけて上記で準備した10mmolフェニルリチウム含有エーテル溶液を全量(約100mL)攪拌しながら添加した。添加後さらに1時間攪拌し、不溶粒子を沈降させるために窒素気流下で1晩静置した。窒素を流しながら、上澄み液を500mL乾燥フラスコに移した。上澄み液中の溶媒成分を室温で減圧留去させた後、50℃で2時間減圧乾燥させることで、薄黄色固体のフェニル銅化合物0.31gを得た(収率21%)。このフェニル銅化合物0.1gを1mLの良く乾燥した塩化ベンゼンに溶かして、フェニル銅混合溶液とした。
【0027】
合成例2:2−メチルフェニル銅の合成
上記合成例1に於いて、臭化ベンゼンの代わりに2−メチル臭化ベンゼン1.71gを用いる以外は全て同一の手法で、黄色固体の2−メチルフェニル銅化合物0.63gを得た(収率40%)。この2−メチルフェニル銅化合物0.1gを1mLの良く乾燥した塩化ベンゼンに溶かして、2−メチルフェニル銅混合溶液とした。
以下の実施例において、比抵抗はナプソン社製探針抵抗率測定器、形式「RT−80/RG−80」により測定した。膜厚及び膜密度はフィリップス社製斜入射X線分析装置、形式「X’Pert MRD」により測定した。ESCAスペクトルは日本電子(株)製形式「JPS80」にて測定した。
【0028】
実施例1
上記合成例1で調製したフェニル銅混合溶液1mLを、窒素雰囲気下でガラス基板上に600rpmでスピンコートを行ない、その後直ちに窒素中150℃で30分間熱処理を行なって溶媒を除去して、褐色の膜を形成した。この暗褐色の膜を3%水素・97%窒素混合ガス雰囲気中でさらに400℃で60分間加熱することにより、ガラス基板上に赤銅色の金属光沢を有する銅薄膜が形成された。この基板上の銅膜の膜厚は65nmであった。またこの銅膜のESCAを測定した結果、Cu2p3/2が933eVに検出され金属銅であることが判った。この銅膜の比抵抗を4端子法で測定したところ、9.5μΩ・cmであった。
【0029】
実施例2
上記合成例2で調製した2−メチルフェニル銅混合溶液1mLを、窒素雰囲気下でガラス基板上に600rpmでスピンコートを行ない、その後直ちに窒素中150℃で30分間熱処理を行なって溶媒を除去して、褐色の膜を形成した。この暗褐色の膜を3%水素・97%窒素混合ガス雰囲気中でさらに400℃で60分間加熱することにより、ガラス基板上に赤銅色の金属光沢を有する銅薄膜が形成された。この基板上の銅膜の膜厚は68nmであった。またこの銅膜のESCAを測定した結果、Cu2p3/2が933eVに検出され金属銅であることが判った。この銅膜の比抵抗を4端子法で測定したところ、8.5μΩ・cmであった。
【0030】
実施例3
上記合成例1で調製したフェニル銅混合溶液1mLに窒素雰囲気下にてフェニルヒドラジン2mLを加え3分攪拌した。反応溶液は赤褐色に変色した。この混合液を窒素雰囲気下でガラス基板上に600rpmでスピンコートを行ない、その後直ちに窒素中150℃で30分間熱処理を行なって溶媒を除去して、赤褐色の膜を形成した。この暗褐色の膜を3%水素・97%窒素混合ガス雰囲気中でさらに400℃で60分間加熱することにより、ガラス基板上に赤銅色の金属光沢を有する銅薄膜が形成された。この基板上の銅膜の膜厚は65nmであった。またこの銅膜のESCAを測定した結果、Cu2p3/2が933eVに検出され金属銅であることが判った。この銅膜の比抵抗を4端子法で測定したところ、5.3μΩ・cmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(ここで、R〜Rは水素原子またはハロゲン原子または炭素数1〜15の炭化水素基または炭素数1〜10のハロゲン化炭化水素基または炭素数1〜10のアルコキシ基である。R〜Rは互いに同一でも異なっても良い。)
で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と溶剤を含有することを特徴とする銅薄膜形成材料。
【請求項2】
請求項1に記載の銅薄膜形成材料の塗膜を形成し、次いで上記式(1)で表される化合物を熱処理および/または光処理することを特徴とする銅薄膜形成方法。

【公開番号】特開2008−187133(P2008−187133A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21508(P2007−21508)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】