説明

銅配線の製造方法及び銅めっき用電解液

【課題】添加剤を添加しないでも微細な孔又は溝内に銅を埋め込み可能な銅めっき用電解液、並びに銅配線の製造方法を提供する。
【解決手段】配線接続孔又は配線溝内に電気めっきによって銅を埋め込む際に用いる銅めっき用電解液として、1vol%以上のアセトニトリルと、1vol%以上の水を含むことを特徴とする銅めっき用電解液を提案すると共に、このような銅めっき用電解液を用いて、配線接続孔又は配線溝内に銅を電気めっきすることにより、銅配線を形成することを特徴とする銅配線の製造方法を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線接続孔(ビアホール或いはコンタクトホール)や配線溝(トレンチ)内に、電気めっきによって銅を埋め込んで銅配線を製造する方法、並びに、これに用いる銅めっき用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスには、素子間を接続する配線溝(トレンチ)や、多層配線間を電気的に接続する配線接続孔(ビアホール或いはコンタクトホール)が多数形成される。
これら配線溝や配線接続孔内に埋め込む導電性材料としては、従来、アルミニウムが使用されてきたが、半導体デバイスの高集積化、微細化に伴い、これまでのアルミニウムに代わり、電気抵抗率が低く(低抵抗ともいう)、エレクトロマイグレーション耐性にも優れた銅が注目され、実用化が進められている。
【0003】
銅の配線は、アルミニウム配線とは異なり、ドライエッチングで微細な配線パターンを形成することが困難であるため、シリコンウエハ等からなる基板上に形成された絶縁膜における配線パターン形成予定箇所に溝や孔を形成しておき、その上にバリアメタル(拡散防止膜)及びCu膜(導通を得るための下地導電膜)を順次形成した後、電気めっきによって前記溝や孔内に銅を埋め込みつつ表面に銅層を形成し、そして、化学機械研磨(CMP)等によって余分な銅層を研磨して銅配線を露出させて銅配線を形成するという、いわゆるダマシン法が採用されている。
このような電気めっき(電解めっきともいう)によって形成された銅配線は、膜中の不純物濃度が低く、電気抵抗が低いため、半導体デバイスの高速化に有利である。
【0004】
従来、このような銅配線の形成に用いられる銅めっき用電解液として、硫酸銅溶液に3種類の有機系添加剤、すなわちポリエチレングリコール(PEG)等のキャリア、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド2ナトリウム(SPS)等のブライトナ、ヤーヌスグリーンB(JGB)等のレベラといわれる3種類の有機系添加剤と、塩化物イオンとを添加した電解液が用いられてきた。
【0005】
ところが、このように3種類の有機系添加剤と塩化物イオンとを含有する電解液は、添加物の濃度をそれぞれ厳密に管理する必要があり、その濃度管理が非常に難しいという課題を抱えていた。特に有機系添加剤は、電極上で反応して分解しやすく、濃度が低下しやすいため、濃度管理が極めて難しいばかりか、有機系添加剤の分解生成物により、微細孔への埋め込みが不良になったり、膜厚の均一性が悪化するなどの問題を抱えていた。さらに、有機系添加剤に含まれるカーボン(C)がめっき膜中に不純物として取り込まれることで、銅膜の純度が低下してエレクトロマイグレーション耐性が悪化するという問題も指摘されていた。
そこで最近は、このような課題に鑑みて、有機系添加剤や塩化物イオンなどの添加剤をなるべく使用せず、できるだけ単純な組成の銅めっき用電解液の開発が進められている。
【0006】
例えば特許文献1には、単一の有機化合物のみで微細孔へ銅を埋め込む技術が開示されている。しかし、この電解液は、アルカリ性のピロリン酸系、シアン系、スルファミン系であるため、pH調整剤(リン酸または水酸化カリウムなど)が加えられており、実施例を見ても、アンモニアが添加されているなど、実質的には数種類の添加剤が必要とされるものであった。
【0007】
また、特許文献2には、硫酸銅水溶液に適量の塩酸を添加することにより、微細孔への良好な埋め込み特性を実現する方法が開示されている。しかし、この方法においても、塩素濃度が低いと埋込みを達成することができず、塩酸濃度が濃過ぎると銅が溶けやすくなり、成膜性が低下することから、特に不溶性のアノードを用いた場合、塩化物イオンの消耗が激しく、塩化物イオンの管理が難しいという問題があった。
【0008】
さらにまた、特許文献3には、添加剤を含まないめっき液を用いて、パルス電流におけるデューティー比を適当に制御することにより、緻密なめっき膜が配線溝や配線孔内に均一に形成する方法が開示されている。しかし、この方法は、設備費が高価であるばかりか、電流コントロールが非常に難しいという課題を抱えていた。さらに、パルス電流を用いて拡散層を薄くするため、微細孔への均一な析出は期待できるものの、均一に析出するためのボイドやシームが発生するおそれがあった。
【0009】
【特許文献1】特表2003−533867号公報
【特許文献2】特開2002−332589号公報
【特許文献3】特開平11−97391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みて、有機系添加剤や塩化物イオンなどのハロゲン系添加剤を添加しないでも、極めて微細な孔又は溝(例えば径0.15μm〜0.2μmで深さ0.7μm)内にボイドやシームを発生させることなく銅を埋め込むことができる新たな組成の銅めっき用電解液を提供すると共に、かかる銅めっき用電解液を用いた新たな銅配線の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、配線接続孔又は配線溝内に電気めっきによって銅を埋め込む際に用いる銅めっき用電解液として、1vol%以上のアセトニトリルと、1vol%以上の水を含むことを特徴とする銅めっき用電解液を提案すると共に、このような銅めっき用電解液を用いて、配線接続孔又は配線溝内に銅を電気めっきすることにより、銅配線を形成することを特徴とする銅配線の製造方法を提案する。
【発明の効果】
【0012】
水とアセトニトリルの混合溶媒を用いた銅めっき用電解液を使用することにより、有機系添加剤および塩化物イオンなどのハロゲン添加剤を加えない単純な組成の電解液であっても、極めて微細な孔や溝(例えば径0.15μm〜0.2μm、深さ0.7μm)内にも、ボイドやシームなどの欠陥を発生させることなく銅を埋め込むことができる。よって、電解液成分の厳密な濃度管理をしなくても、極めて微細な銅配線を形成することができる。
【0013】
また、有機添加剤などを含む電解液を用いて電気めっきにより形成した銅膜は、有機添加剤に含まれるカーボン(C)がめっき膜中に不純物として取り込まれることで銅膜の純度が低下し、電気抵抗の増大や信頼性の低下をもたらすと言われるが、本発明の銅めっき用電解液によれば、有機系添加剤やハロゲン添加剤を含まない組成とすることができる上、アセトニトリルは銅膜中に残らないため、特に銅配線の不純物濃度が低く、電気抵抗をより低くすることが期待できる。さらに、本発明の銅めっき用電解液を用いて埋め込みした銅配線の配向性は、(111)面が優先配向となるため、エレクトロマイグレーション耐性に優れた配線となることも期待できる。
よって、本発明により形成した銅配線は、集積回路や、プリント基板等の電子回路基板で特に好適に利用することができる。
【0014】
なお、本発明において「電気めっき」とは、イオン化した金属を含む電解液に通電し、陰極の表面にめっき金属を析出させる方法を全て包含する。
また、本発明において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きく、Yより小さい」の意を包含するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の好ましい一例として、銅配線の製造方法について説明するが、本発明が、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
ここでは、本発明の実施形態の一例として、1vol%以上のアセトニトリルと、1vol%以上の水と、銅イオンを含む電解液を用いて電気めっきすることにより、配線接続孔又は配線溝内に銅を埋め込んで銅配線を形成する銅配線の製造方法について説明する。
より具体的には、図1に示すように、シリコンウエハ等からなる基板1A上に、絶縁物質からなる酸化膜等の絶縁膜1Bを形成し、絶縁膜1Bにおける配線パターンを形成する予定箇所に溝又は孔2を設け(図中の(A)参照)、次に、Ti、Ta、W或いはこれらの窒化物等からなるバリアメタル膜(拡散防止膜)3、及びCu下地導電膜(導通を得るための下地導電膜)4を順次形成し(図中の(B)参照)、その上で、上記の電解液を用いて電気めっきすることにより、前記溝又は孔2内に銅を埋め込みつつ基板1表面に銅層5を形成し(図中の(C)参照)、次いで、例えば化学機械研磨(CMP)等によって余分な銅層5を除去して銅配線6を露出させて銅配線を形成する(図中の(D)参照)という製法である。さらに、耐マイグレーション性を向上させるために、露出した銅配線6上に金属や酸化物、有機物を積層する場合もある。
【0017】
配線接続孔(ビア)又は配線溝(トレンチ)の大きさは特に限定するものではないが、本発明の製造方法は、例えば孔径或いは溝幅が0.15μm〜0.2μmで深さ0.7μmという極めて微細な孔或いは溝に対しても、十分に埋め込みが可能である。よって、少なくともそれ以上に径が大きいか、或いは深さの浅い孔や溝に対しては十分に埋め込み可能である。例えば孔径或いは溝幅が100μmで深さが200μmのようなSoC (システム オン チップ)やSiP (システム イン パッケージ)、MEMS (メムス、機械電気マイクロシステム)などの貫通電極用の孔或いは溝に対しても十分に埋め込み可能である。また、例えば孔径或いは溝幅が200μmで深さが50μmのような、プリント配線板のビアフィリングめっきの孔或いは溝に対しても十分に埋め込み可能である。逆に、本発明の限界が、前記の孔径或いは溝幅0.15μm〜0.2μm、深さ0.7μmであるという意味ではない。
配線接続孔(ビア)又は配線溝(トレンチ)の形状についても特に限定するものではない。ちなみに、孔径或いは溝幅が0.15μm〜0.2μmの極めて微細な孔或いは溝になると、開口部から奥まで同径の孔や溝を設けること自体が困難であるため、通常は、図1に示すように開口部から底部に向って窄まった断面形状になる。
【0018】
(電解液)
本実施形態で用いる銅めっき用電解液(以下「本電解液」という)としては、1vol%以上のアセトニトリルと1vol%以上の水との混合溶媒であるアセトニトリル水溶液に、電析させる銅イオンを添加してなる溶液、特に溶媒としての水及びアセトニトリル中に硫酸イオン及び銅イオンを含み、且つ、ハロゲンイオン及び有機系添加剤を実質的に含まない電解液を用いるのが好ましい。
【0019】
この際、「実質的に含まない」とは、積極的に添加しないという意味であり、不可避的に含まれる程度を許容する意味である。具体的濃度で言えば1ppm以下であるのが好ましい。
【0020】
アセトニトリル(CHCN)は、エタンニトリル或いはシアン化メチルと称される水溶性の有機シアン化合物である。
なお、アセトニトリルの替わりに、他の水溶性有機物を主成分として用いたとしても、アセトニトリルの効果と同様の効果を期待することができる。この場合の「水溶性有機溶媒」、すなわち水と相互溶解する有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、例えばアセトン,エチルメチルケトンなどのケトン類、そのほか、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、或いはアセトニトリル等のシアン系有機溶媒等を挙げることができるが、本発明はこれらの中で特に好ましい「水溶性有機溶媒」としてアセトニトリルを提案するものである。
【0021】
本電解液におけるアセトニトリルの濃度は、上述のように1vol%以上であることが重要であり、好ましくはアセトニトリルと水との合計量に対するアセトニトリルの混合比率が、1〜40vol%、特に1〜26vol%となるように調整乃至制御するのが好ましい。
【0022】
また、銅イオンを提供する銅化合物としては、例えば、アルカリ性のシアン化銅、ピロリン酸銅や酸性のホウフッ化銅、硫酸銅などの水溶性銅塩が好ましく、中でも硫酸銅及び硫酸を含む硫酸銅水溶液が好ましい。
これらは、予めアセトニトリルと混合することができる。
【0023】
本電解液の好ましい具体例として、硫酸銅水溶液とアセトニトリルとを含む電解液を、純水によって希釈して、目的に合った所望の組成濃度に調整してなる電解液を挙げることができる。
【0024】
上記のような水とアセトニトリルの混合溶媒を銅めっき用電解液として使用することにより、有機系添加剤および塩化物イオンなどのハロゲン添加剤を加えない単純な組成の電解液としても、極めて微細な孔や溝へ銅を埋め込むことが可能となる。
但し、有機系添加剤やハロゲン添加剤、その他の添加剤を適切な組合せで加えることは任意である。例えば光沢剤、錯化剤、緩衝剤、導電剤、有機化合物(にかわ、ゼラチン、フェノールスルフォン酸、白糖蜜など)、多価アルコール、チタンなどの添加剤を電解液に添加するは可能である。
【0025】
(陰極)
本実施形態で用いる陰極、すなわち被メッキ体となる基板の素材は、特に限定するものではない。半導体デバイスの基板材料は、通常シリコンウエハ等からなる基板上に酸化膜等の絶縁膜を形成してなる構成のものであるため、それだけでは導通が得られず電気めっきすることができない。そこで、通常は前記絶縁膜上に導電性材料、例えば銅などをスパッタその他の手段により積層させて下地導電膜を形成するのが一般的である。
【0026】
(陽極)
本実施形態で用いる陽極すなわち対極としての素材は、特に限定するものではない。例えば銅のほか、白金、白金めっきチタンなどの不溶性電極、その他の電極板を例示できるが、中でも銅が好ましい。
【0027】
(電解条件等)
本実施形態における電解条件等について説明する。
【0028】
(アセトニトリルの量)
電解液中のアセトニトリル濃度は、1vol%以上に制御することが重要であり、好ましくは5vol%以上、特に10vol%以上であるのが好ましい。上限値は、特に限定するものではないが、40vol%程度であると考えられる。
電解液中のアセトニトリル濃度は、均一電着性、すなわち対極とめっき面との距離が変化しても電着性が変化しない性質に影響する。言い換えれば、対極とめっき面との距離が変れば電流密度が変化するから、電流密度が変化しても電着性が変化しない性質に影響する。孔或いは溝内への電着を考えると、開口部付近と孔又は溝の奥とでは対極からの距離および電流密度が異なるから、均一電着性に優れていれば、より均一な厚さにめっき膜を形成でき、より好適に埋め込みできることになる。この観点から、電解液中のアセトニトリル濃度は、5vol%以上であるのが好ましく、特に10vol%以上であるのがより好ましい。
【0029】
(HSO濃度)
SO濃度は、適宜調整可能であるが、通常0.01mol/L以上、特に0.1mol/L〜2mol/Lとするのが好ましい。
【0030】
(+1価の金属(銅)の電解液中濃度)
+1価の金属(銅)の電解液中濃度、すなわち2つ以上の価数を有する金属における最も低価数の金属の電解液中濃度は、0〜0.05mol/Lに制御することが重要であり、中でも0.02mol/Lより低くなるように制御するのが特に好ましい。
なお、+1価の金属(銅)の電解液中濃度の調節は、例えば電解液の循環(+1価の金属(銅)が含まれない電解液)量の調整や、電解時間の調整、不溶性陽極の使用などによって調節することができる。但し、これらの方法に限定されるものではない。
【0031】
(+2価の金属(銅)の電解液中濃度)
+2価の金属(銅)の電解液中濃度、すなわち2つ以上の価数を有する金属において、最も低価数の金属以外の金属の電解液中濃度は、電流密度にもよるが0.01mol/L〜0.2mol/Lの範囲に制御するのが好ましい。
なお、本電解液は、配線接続孔又は配線溝の表面に形成されるCu下地導電膜を腐食する性質があり、腐食速度が大きくなるとCu下地導電膜が腐食して電気めっき時に十分な導通が得られず埋め込み不良となる可能性がある。本発明者の研究の結果、+2価の金属(銅)の電解液中濃度は、腐食速度に影響し、+2価の金属(銅)の電解液中濃度が高くなると腐食速度が大きくなる傾向があるため、この観点から、+2価の金属(銅)の電解液中濃度は、より好ましくは0.01〜0.15mol/Lの範囲、中でも0.05〜0.10mol/Lの範囲に制御するのが特に好ましい。
【0032】
(電解温度)
電解温度、すなわち電解液の温度は、特に限定するものではなく、25℃以上であればよい。中でも、製造コストや有機成分の蒸発を少なくするために25〜45℃となるように制御するのが好ましい。
【0033】
(電流密度)
電流密度は、特に限定するものではないが、好ましくは0.005A/cm以上に制御するのがよい。上限値は特に限定されないが、0.5A/cm程度が現実的な上限値になると考えられる。より好ましくは、電解温度に応じて電流密度を制御するのが好ましく、具体的には電解温度が25℃以上35℃未満の場合には0.005〜0.02A/cm、電解温度が35℃以上の場合には0.02A/cm以上に制御するのが好ましい。
【0034】
(電解時間)
電解時間(通電時間)は、特に限定するものではない。孔や溝の大きさや形状等に応じて適宜調整するのがよい。
【0035】
(好ましい電解条件)
以上の点を総合すると,好ましい電解条件の一例として,電解液中のアセトニトリル濃度を8〜12vol%とし、且つ、電解液中の+1価の銅濃度を0〜0.02mol/Lとし、且つ、電解液中の+2価の銅濃度を0.05〜0.15mol/Lとし、且つ、電解温度を25〜45℃とし、且つ、電流密度を0.005A/cm〜0.035A/cmを挙げることができる。
【0036】
(装置)
電気めっき装置の構成は適宜設計可能であり、特に限定するものではない。例えば、電解液を収容するメッキ槽を備え、このメッキ槽は電解液排水部と電解液供給部とを備え、メッキ槽内には、基板(例えば半導体ウエハ)保持する基板ホルダーと、電源の陽極が接続されたアノード電極とが配設されてなる電気めっき装置を挙げることができる。
【0037】
(得られる銅配線の特徴)
本電解液によれば、有機系添加剤や塩化物イオンなどのハロゲン系添加剤を実質的に含まないでも、極めて微細な孔又は溝(例えば径0.15μm〜0.2μmで深さ0.7μm)内にボイドやシームなどの欠陥を発生させることなく銅を埋め込むことができ、極めて微細な銅配線を形成することができる。
また、本実施形態で得られる銅配線は、純度が高いという特徴を有しており、アセトニトリルを電解液に添加しても、得られる銅配線中にアセトニトリルが残らないことも本発明の特徴の一つである。そのため、不純物の濃度が低く、且つ比抵抗が十分に低い銅薄膜を得ることができる。
さらに、本実施形態で得られる銅配線の配向性は、(111)面が優先配向となるため、エレクトロマイグレーション耐性に優れた配線となることが期待できる。
よって、本発明によって形成される銅配線は、電子材料、例えばIC、LSI、CPU等の集積回路やそれを実装する回路基板などの製造に有効に利用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、試験結果(実施例に相当)に基づいて本発明について説明するが、本発明の範囲が下記試験結果に限定されるものではない。
【0039】
(試験1)
下記装置を用いて、下記サンプル(被めっき体)に対して、表1に示すように電解条件を種々変化させながら電気めっきを行い、各サンプルについて配線溝内の埋め込み性を比較検討した。
【0040】
めっき用のセルには、図2に示すように、(株)山本鍍金試験器製マイクロセルModelI型を用い、アノードには含燐銅を用いた。
カソードには、図3に示すように、表面を酸化膜処理されたシリコンウエハ板(11mm×15mm×0.8mm)に、溝幅190nm、深さ700nmの配線溝を、190nm間隔で185本形成し、その表面にTaN及びCuを順次スパッタしてTaバリヤ層、Cuシード層を形成したものを使用した。
電流制御には、北斗電工(株)製のポテンシオスタット(HA-151)を用い、約0.8Hzでカソードを揺動させながら、表1に示す条件にて電気めっきを行った。
また、電解液は、硫酸銅水溶液とアセトニトリルとを混合した後、純水によって希釈したり、添加剤を加えたりして、表1に示す組成に調製した。
【0041】
めっき後のサンプルの埋め込み性は、エスアイアイナノテクノロジー(株)製の集束イオンビーム加工観察装置/走査型イオン顕微鏡を用いて断面観察し、次の基準で評価し、表1に示した。
◎:溝内への銅の埋め込み率がほぼ100%
○:溝内への銅の埋め込み率が80%以上100%未満
△:溝内への銅の埋め込み率が50%以上80%未満
×:溝内への銅の埋め込み率が50%未満
【0042】
【表1】

【0043】
サンプルの埋め込み性が△以下に評価されたものについては、その原因を検討した。
サンプル1及び2は、Cu (II)濃度が低く一部水素発生を伴うため、埋め込み性が若干低下したと考えられる。
サンプル4は、アセトニトリルが混合されていないため、均一電着性が悪く、埋め込み性が低下したと考えられる。
サンプル5は、アセトニトリル濃度が低いため均一電着性が悪く、埋め込み性が低下したと考えられる。
サンプル8は、電流密度が高く、一部水素発生を伴うため、埋め込み性が若干低下したと考えられる。
サンプル9は、電流密度が高すぎて水素発生を伴うため、埋め込み性が低下したと考えられる。
サンプル14は、Cu
(I)の電解液では均一電着性が低下するため、埋め込み性が低下したものと考えられる。
サンプル15は、Cu
(I)が均一電着性を低下させ、埋め込み性が若干低下したものと考えられる。
サンプル17は、Cu(II)濃度が高すぎるため、腐食性が増加し、埋め込み性が低下したものと考えられる。
サンプル18は、Cl-がアセトニトリルのもつ効果を阻害し、埋め込み性が低下したものと考えられる。
サンプル22は、MPS(3-メルカプト-1-プロパンスルフォネート)がアセトニトリルのもつ効果を阻害し、埋め込み性が若干低下したものと考えられる。
【0044】
表1の結果から、たとえば次のような点が分かった。
電解液中のアセトニトリル濃度は、1.0vol%以上に制御することが重要であり、電解液中の塩化物イオンやMPSはアセトニトリルの効果を阻害するため、実質的に含有させないことが好ましいことが分かった。逆に、ポリエチレングリコールなどの有機系添加剤は添加しても埋め込み性は阻害されないことが分かった。
+1価の金属(銅)の電解液中濃度は、0.1mol/Lより低くなるように制御することが重要であり、好ましくは0〜0.05mol/Lに制御することが重要であり、中でも0.02mol/Lより低くなるように制御するのが好ましいことが分かった。
+2価の金属(銅)の電解液中濃度は、0.24mol/Lより低くなるように制御するのが好ましく、0.05〜0.1mol/Lの範囲に制御するのが好ましいことが分かった。
電流密度は、40mA/cmより低く設定することが重要であり、30mA/cm以下に設定することが好ましいことが分かった。
【0045】
(試験2:ハルセル試験におけるアセトニトリル濃度依存性)
(株)山本鍍金試験器製のハルセル水槽を用い、陰極に銅板、陽極に無酸素銅板を用い、電解液のアセトニトリル濃度を変化させて、1Aの電流を10分間印加することによって得られた銅めっき膜の外観をデジタルカメラにて撮影した。
【0046】
この結果、電解液中のアセトニトリル濃度は、5vol%以上であるのが好ましく、特に10vol%以上であるのがより好ましいことが分かった。
【0047】
(試験3:腐食速度に対するCu(II)濃度依存性)
タフピッチ銅板の周りを、露出面積が7.5cm2となるようにマスキングテープにて被覆したものを腐食速度測定用のサンプルとして用いた。
この腐食測定用サンプルを、H2SO4濃度0.1mol/L、アセトニトリル濃度11vol%、+1価の銅イオン濃度0mol/Lで、+2価の銅イオン濃度の異なる電解液(21℃)に12時間浸漬させた。12時間後に電解液から取り出したサンプルの浸漬前後の重量差より腐食速度を算出した。
【0048】
この結果、Cu(II)濃度、すなわち+2価の銅イオンの電解液中濃度は、腐食速度に影響し、+2価の銅イオンの電解液中濃度が高くなると腐食速度が大きくなる。この観点から、Cu(II)濃度、すなわち+2価の銅イオンの電解液中濃度は、0.01〜0.15mol/Lの範囲、中でも0.05〜0.10mol/Lの範囲に制御するのが好ましいことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(A)〜(D)は、銅配線の製造方法を工程順に説明した断面図である。
【図2】実施例・比較例で使用したセルの構成を説明した図である。
【図3】実施例・比較例で使用したカソードの構成を説明した図である。
【図4】試験2の結果として、アセトニトリルの濃度毎に、陽極からの距離に応じた陰極の色変化を示した図である。
【図5】試験3の結果として、Cu(II)濃度と腐食速度との関係を示したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1A 基板
1B 絶縁膜
2 溝又は孔
3 バリアメタル膜
4 下地導電膜
5 銅層
6 銅配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1vol%以上のアセトニトリルと、1vol%以上の水を含む銅めっき用電解液を用いて、配線接続孔又は配線溝内に銅を電気めっきすることにより、銅配線を形成することを特徴とする銅配線の製造方法。
【請求項2】
水、アセトニトリル、硫酸及び銅イオンを含み、且つ、ハロゲンイオン及び有機系添加剤を実質的に含まない銅めっき用電解液を用いて電気めっきすることを特徴とする請求項1記載の銅配線の製造方法。
【請求項3】
アセトニトリルと水との合計量に対するアセトニトリルの混合比率が、1〜40vol%となるように制御して電気めっきすることを特徴とする請求項1又は2記載の銅配線の製造方法。
【請求項4】
電解液中のCu(I)濃度が0〜0.05mol/Lとなるように制御して電気めっきすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の銅配線の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の銅配線の製造方法によって基板に銅配線を形成してなる構成を備えた電子回路基板及び集積回路。
【請求項6】
配線接続孔又は配線溝内に電気めっきによって銅を埋め込む際に用いる銅めっき用電解液であって、1vol%以上のアセトニトリルと、1vol%以上の水を含むことを特徴とする銅めっき用電解液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−56968(P2008−56968A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233373(P2006−233373)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】