説明

鋼板の洗浄方法および装置

【課題】アルカリ洗浄液を使用することなく、低コストで鋼板を十分に洗浄できる、鋼板の洗浄方法および装置を提供すること。または、少量のアルカリ洗浄液の使用であっても、低コストで鋼板を十分に洗浄できる、鋼板の洗浄方法および装置を提供すること。
【解決手段】鋼板7に水蒸気と、空気および/または液滴とを吹き付けて洗浄することを特徴とする鋼板の洗浄方法を用いる。液滴が水であることが好ましい。このために、水蒸気を高速で噴出させることが出来る蒸気ノズル2と、蒸気ノズル2内に空気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口5から供給された空気および/または液体と前記水蒸気とを蒸気ノズル2内で混合し蒸気ノズル2の噴出口6から噴出することを特徴とする鋼板の洗浄装置を用いる。供給管が、空気を供給する供給管3と、液体を供給する供給管4とからなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから噴出させる噴流による鋼板の脱脂洗浄方法及びこの洗浄方法に用いる鋼板の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等において鋼板を製造する際には、圧延工程においてロールや鋼板の冷却及び潤滑のために噴射された圧延油等の油や、鉄粉、その他の異物等が鋼板表面に付着する。後工程で焼鈍やめっき等を行なう際には、これらの油や異物を除去する必要がある。
【0003】
このような鋼板の洗浄方法としては、加圧アルカリ溶液噴霧とブラシロールによって冷延鋼帯を脱脂洗浄したのち、高圧温水を冷延鋼帯に噴霧してリンス洗浄する連続焼鈍設備における冷延鋼帯の洗浄方法のような、アルカリ洗浄液による脱脂洗浄が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。又この他に、過熱水蒸気を噴射することによる洗浄方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平09−059789号公報
【特許文献2】特開2007−246936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、アルカリ洗浄液を用いた洗浄では、アルカリ溶液である洗浄液の廃液処理が必要となり、手間がかかり、コスト高である。また、アルカリ洗浄液の発泡の問題に対する対処や、洗浄液を循環利用する際の洗浄液の管理も必要となる。さらに、設備コストやランニングコストが高い点も問題である。
【0005】
一方で、アルカリ溶液を使用せずに、鋼板に過熱水蒸気を吹き付けることで洗浄する方法は、水蒸気を200〜500℃程度の高温に過熱する必要があるため、過熱装置が必要となり、やはりコスト高である。過熱温度が200℃未満であると、洗浄効果が十分でない。
【0006】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、アルカリ洗浄液を使用することなく、低コストで鋼板を十分に洗浄できる、鋼板の洗浄方法および装置を提供することにある。
【0007】
また本発明の他の目的は、少量のアルカリ洗浄液の使用であっても、低コストで鋼板を十分に洗浄できる、鋼板の洗浄方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)鋼板に水蒸気と、空気および/または液滴とを吹き付けて洗浄することを特徴とする鋼板の洗浄方法。
(2)液滴が水であることを特徴とする(1)に記載の鋼板の洗浄方法。
(3)水蒸気を高速で噴出させることが出来る蒸気ノズルと、該蒸気ノズル内に空気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口から供給された空気および/または液体と前記水蒸気とを前記蒸気ノズル内で混合し該蒸気ノズルの噴出口から噴出することを特徴とする、(1)または(2)に記載の鋼板の洗浄方法に用いる鋼板の洗浄装置。
(4)供給管が、空気を供給する供給管と、液体を供給する供給管とからなることを特徴とする、(3)に記載の鋼板の洗浄装置。
(5)空気を高速で噴出させることが出来る空気ノズルと、該空気ノズル内に水蒸気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口から供給された水蒸気および/または液体と前記空気とを前記空気ノズル内で混合し該空気ノズルの噴出口から噴出することを特徴とする、(1)または(2)に記載の鋼板の洗浄方法に用いる鋼板の洗浄装置。
(6)供給管が、水蒸気を供給する供給管と、液体を供給する供給管とからなることを特徴とする、(5)に記載の鋼板の洗浄装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルカリ洗浄液を使用することなく、また使用する場合であっても少量で、高温の過熱水蒸気を用いることなく、低コストで鋼板を十分に洗浄することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく実験と検討を重ねた結果、以下のような事実を見出した。
【0011】
(a)水蒸気を用いて鋼板の洗浄を行なう場合、乾き蒸気(液滴の混じっていない水蒸気)よりも液滴混じりの水蒸気の方が格段に洗浄能力高い。
【0012】
(b)水蒸気を加熱して過熱蒸気としても、200℃程度まででは洗浄効果は向上せず、乾き飽和蒸気と同等である。
【0013】
(c)水蒸気に空気を添加していくと、洗浄効果が若干低下する場合もあるがほぼ同程度の洗浄効果を保ち、水蒸気消費量を低減できるためランニングコストを低減することができる。
【0014】
(d)液滴混じり水蒸気に空気を添加していくと、洗浄効果が若干低下する場合もあるがほぼ同程度の洗浄効果を保ち、乾き蒸気よりは十分効果が高い。したがって、空気添加により水蒸気消費量を低減できる。
【0015】
(e)空気のみ、もしくは、液滴混じりの空気を用いてでは洗浄効果は全く得られないか、著しく低くなる。
【0016】
(f)液滴の混合比率は最適値がある。一定比率以上混合しても効果はなく、むしろ効果が低下する。これは多量の液滴を混合すると水蒸気の流速が低下するためであると考えられる。
【0017】
以上のことから、200℃未満の水蒸気であっても、水蒸気に液滴を混ぜることにより洗浄効果を格段に向上可能であること、水蒸気に空気を混ぜることにより洗浄効果を保ったまま蒸気消費量を低減可能であること、さらに水蒸気に液滴と空気とを添加することにより、洗浄効果を高く保ったまま蒸気消費量を低減可能であることの知見を得て、本発明を完成した。
【0018】
まず、水蒸気に液滴を混ぜる場合について説明する。液滴としては、水(水滴)を用いることが好ましいが、下記に示すように洗浄剤等を用いることも効果的である。水蒸気に加えて、液滴の噴出による物理的な衝撃と高温の液滴の洗浄作用により鋼板をより効果的に洗浄できる。液滴の供給は微粒化して行うことが望ましい。
【0019】
水蒸気に混ぜる液滴の量は、湿り度で0.1〜0.3程度とすることが好ましい。湿り度とは、鋼板の洗浄に用いる流体の全質量流量に対する液滴(水)質量流量の割合であり、水蒸気と、水滴とを吹き付けて洗浄する場合には、[水流量(kg/min)]/[水流量(kg/min)+水蒸気流量(kg/min)]で表すことができる。
【0020】
液滴として、水に洗浄剤を混ぜたものを用いることもできる。この場合の洗浄剤には、アルカリ洗浄剤や界面活性剤を用いることができる。洗浄剤を用いる場合は廃液の処理が必要となるが、水蒸気と共に使用することで、洗浄剤のみで鋼板の洗浄を行う場合に比べると洗浄剤の使用量を大幅に減らすことができるのでコスト削減の効果がある。
【0021】
次に、水蒸気に空気を混ぜる場合について説明する。水蒸気に混合する気体としては、空気以外に窒素ガス等を用いることも可能であるが、コストの面から考えると空気を用いることが現実的である。空気の混合により水蒸気流の流速を低下させることなく水蒸気消費量を低減できるため、洗浄効果を保ちつつランニングコストを低減できる。
【0022】
水蒸気に混ぜる空気の量は、多いほど水蒸気消費量を低減できるが、空気の割合が多すぎると洗浄効果が低下するため、空気比率を0.4以下とすることが好ましい。空気比率とは、洗浄に用いる気体の全流量に対する空気流量の割合であり、[空気流量(Nm3/h)]/[水蒸気流量(Nm3/h)+空気流量(Nm3/h)]で表される。
【0023】
次に、水蒸気に液滴と空気とを混ぜる場合について説明する。液滴と空気との混合により、水蒸気流の流速を低下させることなく水蒸気消費量を低減でき、かつ液滴により洗浄効果が大幅に向上する。これにより、洗浄効果を向上させたうえにランニングコストを低減できる。
【0024】
水蒸気に混ぜる液滴の量は、湿り度で0.1〜0.3、空気量は空気比率を0.4以下とすることが好ましい。この場合の湿り度は、[水流量(kg/min)]/[水流量(kg/min)+水蒸気流量(kg/min)+空気流量(kg/min)]で表すことができる。
【0025】
上記のように水蒸気を用いて鋼板を洗浄するためには、水蒸気を高速で噴出させることが出来る蒸気ノズルと、該蒸気ノズル内に空気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口から供給された空気および/または液体と前記水蒸気とを前記蒸気ノズル内で混合し該蒸気ノズルの噴出口から噴出することを特徴とする鋼板の洗浄装置を用いることができる。図1はこのような鋼板の洗浄装置1の一実施形態であり、蒸気ノズル2内に空気を供給する空気供給管3と、液体を供給する液体供給管4とを備えている。空気供給管3と、液体供給管4の先端の供給口5から供給された空気および液体は、水蒸気流と蒸気ノズル2内で混合されて、蒸気ノズル2の噴出口6から噴出し、洗浄対象物である鋼板7を脱脂・洗浄する。
【0026】
空気供給管と液体供給管とは、一つの供給管とすることも可能であるが、図1に示すように空気供給管3と、液体供給管4とが独立していることが好ましい。蒸気ノズル1の断面形状は任意であり、円でもスリットでも構わない。また、図1においては蒸気ノズル1の最小断面部分(のど部8)の下流側には拡大部9を有しているが、拡大部9はあってもなくてもよい。最小断面部分(のど部8)における流速が音速に達している場合には、拡大部9により水蒸気流をさらに加速させることができる。
【0027】
鋼板の洗浄装置は、メインノズルを空気ノズルとすることもできる。この場合は、空気を高速で噴出させることが出来る空気ノズル内に水蒸気供給管と液体供給管とを備えた構造とする。水蒸気供給管は必須である。そして上記と同様に、水蒸気供給管の供給口から供給された水蒸気と空気とを空気ノズル内で混合し空気ノズルの噴出口から噴出する。さらに液体供給管から液滴を供給して噴出することもできる。
【0028】
水蒸気供給管と液体供給管とは、一つの供給管とすることも可能であるが、それぞれを独立したものとすることが好ましい。
【0029】
図4に現状一般的な鋼板洗浄ラインの構成図を示す。鋼板11は浸漬洗浄工程12、ブラシ洗浄工程13、電解洗浄工程14、ブラシ洗浄工程15、リンス洗浄工程16で洗浄後に乾燥工程17で乾燥される。本発明方法及び装置を用いて鋼板を洗浄する際には、図4中において、上記の方法および装置により、乾燥を除く全洗浄工程を代替する構成とすることもできるし、一部工程、例えば、浸漬洗浄部分のみ、もしくは、浸漬洗浄+電解洗浄部分のみを代替する構成とすることも可能である。
【0030】
上記の方法および装置を用いて洗浄した鋼板は、十分に洗浄・脱脂がされているので、後工程で焼鈍やめっき等を行なう際にも後工程のラインが汚損されたり、製品鋼板の表面に汚れや傷が発生することなく、表面性状の良好な鋼板を製造できる。
【実施例1】
【0031】
図1に示すものと同様のノズルを用い、鋼板の洗浄試験を行った。ノズルから水蒸気のみ、水蒸気+水滴、水蒸気+空気、水蒸気+水滴+空気の4種類の噴射を行い、洗浄後の鋼板の洗浄効果を比較した。噴射前の水蒸気は150℃、0.5MPaのものを用い、空気を添加する場合は、水蒸気の一部を置換した。
【0032】
試験の条件は、水蒸気圧力0.1〜0.7MPa、水蒸気流量0.02〜0.12kg/min、水流量0〜0.07kg/min、空気流量0〜0.15kg/min、であり、湿り度範囲:0〜0.52、空気比率範囲:0〜0.95である。
【0033】
鋼板の洗浄効果は洗浄度という指標で評価した。洗浄度は、鋼板に付着している油量に対する、洗浄後に除去された油量の割合を測定して、水蒸気のみを用いた場合の洗浄度を1とした相対値として求めた。結果を表1に示す。またそれぞれの場合の水蒸気消費量についても、水蒸気のみを用いた場合の水蒸気消費量を1とした相対値として表1に併せて示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1によれば、水滴の添加により洗浄度が向上し、空気の添加により水蒸気の消費量を削減できることが分かる。
【0036】
次に、水蒸気+水滴+空気の4種類の噴射を行う際に、湿り度と空気比率を変化させて洗浄度の測定を行った。図2に空気比率を0.1として湿り度を0〜0.4に変化させた場合の、図3に湿り度を0.3として空気比率を0〜1.0に変化させた場合の結果を示す。
【0037】
図2によれば、湿り度は最適値を有し、湿り度0.1〜0.3で高い洗浄度が得られることが分かる。また、図3によれば、空気比率が0.4程度までは高い洗浄度を保つが、それ以上では洗浄度が低下することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の鋼板の洗浄装置の一実施形態を示す概略図。
【図2】湿り度と洗浄度の関係を示すグラフ。
【図3】空気比率と洗浄度の関係を示すグラフ。
【図4】一般的な鋼板洗浄ラインの構成図
【符号の説明】
【0039】
1 鋼板の洗浄装置
2 蒸気ノズル
3 空気供給管
4 液体供給管
5 供給口
6 噴出口
7 鋼板
8 のど部
9 拡大部
11 鋼板
12 浸漬洗浄工程
13 ブラシ洗浄工程
14 電解洗浄工程
15 ブラシ洗浄工程
16 リンス洗浄工程
17 乾燥工程
18 アルカリ循環ポンプ
19 アルカリ洗浄タンク
20 温水循環ポンプ
21 温水タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板に水蒸気と、空気および/または液滴とを吹き付けて洗浄することを特徴とする鋼板の洗浄方法。
【請求項2】
液滴が水であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板の洗浄方法。
【請求項3】
水蒸気を高速で噴出させることが出来る蒸気ノズルと、該蒸気ノズル内に空気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口から供給された空気および/または液体と前記水蒸気とを前記蒸気ノズル内で混合し該蒸気ノズルの噴出口から噴出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鋼板の洗浄方法に用いる鋼板の洗浄装置。
【請求項4】
供給管が、空気を供給する供給管と、液体を供給する供給管とからなることを特徴とする、請求項3に記載の鋼板の洗浄装置。
【請求項5】
空気を高速で噴出させることが出来る空気ノズルと、該空気ノズル内に水蒸気および/または液体を供給する供給管とを備え、該供給管の供給口から供給された水蒸気および/または液体と前記空気とを前記空気ノズル内で混合し該空気ノズルの噴出口から噴出することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の鋼板の洗浄方法に用いる鋼板の洗浄装置。
【請求項6】
供給管が、水蒸気を供給する供給管と、液体を供給する供給管とからなることを特徴とする、請求項5に記載の鋼板の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−100900(P2010−100900A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273693(P2008−273693)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】