説明

鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの製造方法

【課題】金属塩化物を原料とするCVD法により、長尺の鋼板ストリップに対してセラミクス被膜を成膜した場合であっても、成膜後に鋼板に反りが生じることのない、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップを得る。
【解決手段】原料である金属塩化物をその沸点または昇華点を超える温度に加熱して実質的に単体ガスの状態としたのち、反応ガスと混合して、または反応ガスとは別個に、反応炉内に導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの製造方法に関し、従来、方向性電磁鋼板ストリップの表面に低鉄損や低騒音を目的として大きな張力付与機能を有するセラミクス被膜を連続して被成する場合に懸念された、反りの発生を効果的に防止しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主に変圧器や発電機の鉄心材料として用いられる軟磁性材料である。近年、省エネルギーの観点から、これら電気機器のエネルギーロスを低減することに対する要求が高まっており、鉄心材料として用いられる方向性電磁鋼板にも、従来にも増して良好な磁気特性が求められるようになってきた。特に、地球温暖化防止の観点から、発電所からの送配電時の電力損失を最小限にするために、方向性電磁鋼板の鉄損低減に対する要請は年々厳しくなってきている。
【0003】
鉄損は、ヒステリシス損と渦電流損とに大別される。
方向性電磁鋼板の鉄損を低減するためには、
(1) 二次再結晶により鉄の磁化容易軸である<001>軸を一方向(圧延方向)に高度に揃えることにより、ヒステリシス損を低減する、
(2) 鋼板に含まれる不純物を低減したり、表面を平滑化することにより、ヒステリシス損を低減する、
(3) 鋼板に高比抵抗元素(主としてSi)を含有させて渦電流損を低減する、
(4) 鋼板の厚みを薄くして渦電流損を低減する、
(5) 粒径を制御したり、鋼板の表面に溝を刻むことにより、磁区を細分化することで渦電流損を低減する
などの方法が知られている。
【0004】
これらの方法が確立されたことにより、20世紀後半、方向性電磁鋼板の鉄損は飛躍的に減少してきた。
しかしながら、これら従来法による鉄損の低減は、もはや限界に達しており、新たな方法を開発することが必要な時期に来ている。
【0005】
最終仕上げ焼鈍後の鋼板の表面を平滑化し、その上に張力付与被膜を成膜することにより、磁区を細分化して、渦電流損を低減すると同時に騒音特性を改善する技術が、これまで多数提案されており、発明者らも開発を行ってきた。
例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6には、PVD(物理蒸着)法やCVD(化学蒸着)法によって窒化物や炭化物などのセラミクス被膜を成膜することにより鉄損を低減する技術が開示されている。
【0006】
CVD法、PVD法のどちらを利用するかは、薄膜の種類、基板となる材料からの制約、要求される製品特性および工業化した場合のコストメリット等、様々な要因によって決定される。例えば、工具鋼では、その寿命改善や耐食性改善を目的としてTiN被覆が行われているが、上記したような種々の要因に応じてCVD法またはPVD法のいずれかが選択利用されている。PVD法は、低温で比較的広範囲の組成の薄膜を合成することが可能な反面、真空を必要とするために大面積を有する材料への被覆は困難である。一方、CVD法は、一般に高温を必要とする反面、目的とする薄膜の種類によっては大気圧で合成が可能であり、大面積を有する材料への被覆に適している。また、一般的にCVD法によって被覆した膜は、PVD法によって被覆したそれに比較して密着性に優れるという特徴がある。
【0007】
方向性電磁鋼板の表面に、CVD法によりセラミクス被膜を成膜して、極めて低い鉄損特性を有する方向性電磁鋼板を工業的に生産するためには、数千mに及ぶ長さの鋼板ストリップ(鋼帯)を成膜装置に通板させながら連続的に安定して高速成膜を実現する必要がある。このような長尺物に対して、薄膜を高速で連続的に成膜する場合、真空を必要とするPVD法を利用するのは極めて難しい。また、上述の方向性電磁鋼板は、セラミクス膜を成膜したのち、打ち抜き等により部品に加工され、最終的に800℃程度の高温で歪取り焼鈍が施される場合も多く、被膜密着性の点からもPVD法よりもCVD法が適していると考えられる。
【0008】
工業規模での鋼板ストリップに対するCVD処理においては、大きな成膜速度や均一な膜厚分布を得ることが必要である。
このため、発明者らは、特許文献7や特許文献8において、ノズルでのガス吹きつけによる技術を提案している。
さらに、発明者らは、特許文献9において、ガス混合後の成膜までの時間を規定することにより成膜速度を確保する方法についても提案している。
【0009】
【特許文献1】特公昭63−32849号公報
【特許文献2】特公昭63−32850号公報
【特許文献3】特公昭63−35684号公報
【特許文献4】特公昭63−35685号公報
【特許文献5】特公昭63−35686号公報
【特許文献6】特公昭63−35687号公報
【特許文献7】特開2004−60039号公報
【特許文献8】特願2004−69189号公報
【特許文献9】特願2004−95135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した発明に準拠してセラミクス被膜の成膜を行っても、工業的に長尺のストリップに対して成膜を行った場合には、成膜後の鋼板に反りが生じるという問題が発生した。
このような鋼板の反りという問題は、研究室レベルの小規模な成膜装置により小試片に対して成膜を行っていた場合には顕在化しなかった現象である。
【0011】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、CVD法により、長尺の鋼板ストリップに対してセラミクス被膜を成膜した場合であっても、成膜後に鋼板に反りが生じることのない、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの有利な製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
さて、発明者らは、上記したような反りの発生原因を解明すべく鋭意検討を重ねた結果、以下のことが明らかとなった。
すなわち、原料である金属塩化物は多くの場合、室温で液体となっている。これを鋼板上での成膜反応に供する場合、研究室程度の小規模での成膜装置では、図1に示すガス供給装置のように、液体である金属塩化物を適度な温度に保持し、その中にH2やAr等のキャリアガスあるいはN2等のキャリアガスを兼ねた反応ガスをバブリングして通過させていた。これにより、キャリアガスや反応ガス中には金属塩化物が保持された温度に相当する蒸気圧分だけ気化した金属塩化物が含まれることになる。この方法は、温度を調整するだけで、確実に飽和蒸気圧分の金属塩化物ガスをキャリアガスや反応ガス中に含有させることができるため、ガス組成の制御が容易であるという利点がある。
【0013】
そこで、鋼板ストリップに対してセラミクス被膜を実機で連続して成膜する工業的設備においても、同じ方法の使用を試みた。
その結果、膜厚分布はほば均一に成膜されたものの、鋼板ストリップは500 mm幅で最大50mmもの反りを生じ、成膜後の各製造ラインへの通板や、特性評価を行う試片の採取に支障をきたすレベルの反り状態となった。
【0014】
そこで、次に、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、原料である金属塩化物を従来のように液体状態で供給するのではなく、ガス状態で供給することが、反りの軽減に関し、極めて有効であることの知見を得た。
【0015】
すなわち、金属塩化物を上記バブリング方式によりキャリアガス中に含有させて供給するのではなく、金属塩化物を、その沸点を超える温度に加熱して連続的に沸騰させ、液化しない程度に保温された配管を通して、直接反応炉へ導くか、途中で反応ガスと混合してから反応炉に導いて、成膜を行った場合には、反りの発生がほとんどなく、実質的に平坦なセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップを得ることができたのである。
【0016】
なお、従来のような研究室規模での成膜において、バブリング方式でガスを調製していた場合についても、綿密な調査を行った結果、バブリング方式の場合にも厳密には反りが発生していたが、試片が小さいために一見して判別できるような反り形状としては顕在化していなかったことが解明された。
【0017】
一方、無方向性電磁鋼板に上記したバブリング方式による方法で成膜した場合には同様の反り現象は生じない。従って、方向性電磁鋼板のように、鋼板の剛性が面内の方向で異なる場合にのみ、張力が面内で不均一となって鋼板の反りが生じるものと考えられる。
【0018】
上述したように、原料の供給方式の違いでは膜厚の均一性にほとんど差が認められないにもかかわらず、張力の均一性が変動する理由については、必ずしも明確に解明されたわけではないが、発明者らは、以下のメカニズムによるものと考えている。
すなわち、工業生産において使用される金属塩化物およびキャリアガス中には、不可避的に微量の不純物が含まれている。このうち、おそらくキャリアガス中に含有される水分が最も大きく影響しているものと思われるのであるが、バブリング方式によりガスを調製する場合には、気化器内において金属塩化物と水分との反応が生じ、金属酸化物ないしは酸素を含む化合物が生成され、これが間歇的に反応系内に排出される。その結果、被膜張力が幅方向または長手方向に変動し、結果として面内剛性の異なる方向性電磁鋼板ストリップにおいては、顕著な反り形状として現出するものと考えられる。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0019】
すなわち、本発明は、金属塩化物を原料とするCVD法により、方向性電磁鋼板ストリップの表面に連続的にセラミクス被膜を被成するに際し、該金属塩化物をその沸点または昇華点を超える温度に加熱して実質的に単体ガスの状態としたのち、反応ガスと混合して、または反応ガスとは別個に、反応炉内に導入することを特徴とする、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、長尺物である方向性電磁鋼板ストリップに対し、CVD法により連続してセラミクス被膜を被成する場合であっても、鋼板における反りの発生を効果的に防止して、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップを安定して得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に従う張力被膜は、Goss方位の結晶粒からなる方向性電磁鋼板に対して被覆することにより効果を発揮するものであるから、素材である方向性電磁鋼板としては従来公知のものいずれもが適合する。従って、その製造方法についても特に制限はないが、一般的には以下のような方法で製造される。
【0022】
まず、所定の成分組成に調整されたスラブを、熱間圧延に供する。ここでのスラブ加熱は、高温で行ってもよいが、概ね1280℃以下のスラブ加熱を用いる方法(インヒビターを用いない方法および途中窒化法を含む)が好適に適用される。その後、スラブは熱間圧延にて1.8〜3.0mm厚程度の熱延板とする。その際、必要に応じて熱延板焼鈍を行うことができる。
ついで、冷間圧延を行うが、この際必要に応じて、中間焼鈍を挟んで冷間圧延を複数回に分けてもよい。また、パス間で100〜300℃程度の保熱を行ったり、100〜300℃程度の温度での温間圧延とすることも、磁気特性を発現させる上で有効である。
その後、一次再結晶焼鈍を行う。なお、鋼板中に炭素が残存する際には脱炭焼鈍を兼ねてもよい。
さらに、焼鈍分離剤を塗布または塗布しないで2次再結晶焼鈍(仕上げ焼鈍)を行う。この2次再結晶焼鈍後にフォルステライト被膜を有する場合には、これを酸洗など公知の手法により除去する。
【0023】
なお、磁区細分化のための溝形成を、最終冷間圧延から製品出荷までの任意の段階で行うことは、低鉄損化に有効であるので推奨される。また、磁区細分化は溝形成法に限らず歪付与法等も有効である。
【0024】
かくして得られた膜なしの方向性電磁鋼板ストリップの表面に、張力付与被膜を被成する。すなわち、本発明では、CVD(化学蒸者)法によりセラミクス被膜を被成し、その際、金属塩化物をその沸点もしくは昇華点を超える温度に保持して実質的に単体ガスとしてから、反応ガスと混合して、または反応ガスとは別個に、反応炉内に導き、鋼板表面に成膜する。
【0025】
例えば、図2に示すガス供給装置のように、液体または固体である金属塩化物を直接ヒーター等で加熱して沸騰もしくは昇華させて単体のガス(原料ガス)とする。その後、そのまままたは図示するようにキャリアガスにより、反応炉内(鋼板)に導くことが好ましいが、反応ガスと混合しこの反応ガスをキャリアガスとして、さらには混合ガスをキャリアガスを用いて、反応炉内に導入してもよい。
【0026】
このように単体のガスとなった原料ガスを、反応炉内に達する前にキャリアガスや反応ガスと混合する場合には、キャリアガスや反応ガス中に不可避的に混入する酸素源により金属酸化物ないしは酸素を含む化合物が生成されることが考えられるが、このような場合には経時的に一定量が安定して生成するために、張力の面内変化ひいては鋼板反りにつながることはない。
【0027】
ここで、原料としては、TiCl4,SiCl4,AlCl3,BCl3等の金属塩化物が有利に適合する。
また、反応ガスとしては、被覆するセラミクス被膜が窒化物ならばN2,NH3,(CH3)3N, (CH3)2NHなどが、炭化物ならばCH4,CO,C2H4,C3H6,C3H8,C2H6,i- C5H12などが有利に適合する。なお、窒化物、炭化物を形成する場合には、鋼中に含まれるC,Nを利用することもできる。
そして、これらの原料ガスおよび反応ガスを、それぞれ上記の方法で反応炉内に導き、これらのガスが混合した雰囲気中にて鋼板を加熱することにより、鋼板表面に所望組成のセラミクス被膜を被成することができるのである。
【実施例】
【0028】
実施例1
C:0.05mass%,Si:3.5mass%,Mn:0.06mass%,S:0.03mass%,Se:0.02mass%,Al:0.03mass%,N:0.008mass%,Bi:0.02mass%およびSn:0.1mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、最終板厚:0.19mmに圧延された幅:800mm の冷延コイルに、磁区細分化のために7mm間隔で圧延方向から80°の方向に伸びる複数の平行溝をエッチングにより形成し、ついで脱炭を兼ねた1次再結晶焼鈍を施した後、MgOを主成分とし塩化ナトリウムを2mass%含有する焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上げ焼鈍を施した。その後、得られた鋼板を酸洗して表面を洗浄したのち、還元性雰囲気中で平坦化焼鈍を施してフォルステライト被膜を有さない方向性電磁鋼板ストリップを得た。
【0029】
ついで、この鋼板ストリップを、1040℃に加熱した反応炉内に通板しつつ、CVDガスとしてTiCl4,N2およびH2の混合ガスを反応炉内に導入し、30秒で片面当たり0.6μm 厚のTiN被膜を被成した。その際、原料であるTiCl4は大気圧下で145℃の蒸気により加熱して沸騰状態とし、得られた単体のTiCl4ガス(原料ガス)を、保熱したN2ガス(反応ガス)およびH2ガス(キャリアガス)と混合して反応炉内に供給した。
かくして得られた張力被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの長手方向および幅方向における反りの発生状況について調査したところ、長手方向および幅方向とも反りの発生は検知されなかった。
【0030】
比較例1
実施例1と同様にして作製した、フォルステライト被膜を有さない方向性電磁鋼板ストリップを、1040℃に加熱した反応炉内に通板しつつ、CVDガスとして TiCl4,N2およびH2の混合ガスを反応炉内に導入し、30秒で片面当たり0.6μm 厚のTiN被膜を被成した。
但し、その際、原料であるTiCl4は110℃に液体の状態で恒温保持し、この中を反応ガスであるN2ガスをバブリングして通過させることでTiCl4とN2の混合ガスとし、さらにH2ガスと混合して、反応炉内に供給した。
かくして得られた張力被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの長手方向および幅方向における反りの発生状況について調査したところ、鋼板の長手方向に周期的に、幅方向に反りが発生し、出側コイルとしての巻き取りが不可能であった。
【0031】
実施例2
C:0.10mass%,Si:3.4mass%,Mm:0.05mass%,S:0.01mass%,Se:0.002mass%,Al:0.005mass%, N:0.005mass%,Bi:0.02mass%,Sn:0.1mass%およびMo:0.25mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、最終板厚:0.50mmに圧延された幅:600mm の冷延コイルに、脱炭を行わずに1次再結晶焼鈍を施した後、Al2O3を主成分とし塩化ナトリウムを2mass%含有する焼鈍分離剤を塗布し、最終仕上げ焼鈍を施した。なお、仕上げ焼鈍後の鋼板には約0.05%の炭素が残留している。
【0032】
ついで、得られた鋼板ストリップを酸洗して表面を洗浄したのち、この鋼板ストリップを1040℃に加熱した反応炉内に通板しつつ、CVDガスとしてSiCl4とH2の混合ガスを反応炉内に導入し、30秒で片面当たり0.1μmの厚SiC被膜を被成した。その際、原料であるSiCl4は大気圧下で65℃にヒーター加熱して沸騰状態とし、得られた単体のSiCl4ガス(原料ガス)を、保熱したH2ガス(キャリアガス)と混合して反応炉内に供給した。反応炉の出側では約800℃で平坦化焼鈍を実施した。その後、さらに、コロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁被膜を2μm厚塗布した後、800℃で焼付けた。ついで、磁区細分化のために10mm間隔で圧延方向から80°の方向に伸びる複数の歪付与部を熱歪法により平行に形成した。
かくして得られた張力被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの長手方向および幅方向における反りの発生状況について調査したところ、長手方向および幅方向とも反りの発生は検知されなかった。
【0033】
比較例2
実施例1と同様にして作製した、フォルステライト被膜を有さない方向性電磁鋼板ストリップを、1040℃に加熱した反応炉内に通板しつつ、CVDガスとしてSiCl4とH2の混合ガスを反応炉内に導入し、30秒で片面当たり0.1μm厚のSiC被膜を被成した。
但し、その際、原料であるSiCl4は大気圧下48℃に液体の状態で恒温保持し、この液体中をキャリアガスであるH2ガスを通過させることで(SiCl4+H2)混合ガスに調整した。反応炉の出側では約 800℃で平坦化焼鈍を実施した。その後、さらに、同一ライン内でコロイダルシリカを含有するリン酸マグネシウムを主成分とする絶縁被膜を2μm厚塗布したのち、800℃で焼付けた。その際のコイル形状は、正常な巻き取りが可能であったが、ついで磁区細分化のために10mm間隔で圧延方向から80°の方向に伸びる複数の歪付与部を熱歪法により平行に形成するためにライン入側で低張力で巻き戻したところ、幅方向の反りが顕著となり、製造ラインでの鋼板ストリップの通板が不能となった。
【0034】
すなわち、通板時に鋼板に対して機械的な張力を付与することにより、ある程度反りは抑えられるが、付与できる張力の大きさは製造ラインによって異なる。よって、反りが顕著な場合、低張力しか付与できない製造ラインでは反りを抑えられず、通板ができなくなる。また、変圧器等の最終製品に加工する場合には、一般に張力を強力に付与することはできないので、製造上、重大な問題が生じるのである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】従来のガス供給装置の模式図である。
【図2】本発明の実施に供して好適なガス供給装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩化物を原料とするCVD法により、方向性電磁鋼板ストリップの表面に連続的にセラミクス被膜を被成するに際し、該金属塩化物をその沸点または昇華点を超える温度に加熱して実質的に単体ガスの状態としたのち、反応ガスと混合して、または反応ガスとは別個に、反応炉内に導入することを特徴とする、鋼板形状に優れたセラミクス被膜付き方向性電磁鋼板ストリップの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−249495(P2006−249495A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67047(P2005−67047)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本件は、国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務地球温暖化防止新技術プログラム変圧器の電力損失削減のための革新的磁性材料の開発プロジェクト)で、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるものである。
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】