説明

長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法

【課題】 長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法において、ペレット溶解時に強化繊維が容易に解けて成形品中に強化繊維を均等に分散させることができるペレットを生産性良く製造する。
【解決手段】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1の製造方法は、溶融された熱可塑性樹脂5浴中に含浸させられた複数の強化繊維束3に対して、強化繊維束3同士を撚り合わせながら熱可塑性樹脂5浴中から引き抜くことで強化繊維の周りに熱可塑性樹脂5が被覆されたストランド8を形成し、ストランド8を所定長さに切断してペレット1を得るものであり、熱可塑性樹脂の溶融粘度をメルトフローレート=500〜1500g/10minに調整し、ストランド8の引き抜き方向に対する強化繊維束3の撚り角θを0°<θ≦50°として、ストランド8を引き抜くことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)は、軽量で強度に優れているため、車両や船舶の外装などによく用いられている。特に、繊維強化熱可塑性樹脂の中でも繊維長の長い強化繊維が含有されている長繊維強化熱可塑性樹脂(LFRTP)は、耐衝撃性や剛性に優れているので、近年は自動車のバンパーやボディに多用されるようになってきている。
このような長繊維強化熱可塑性樹脂の成形品はペレットを溶解した樹脂材料から製造されており、ペレットには繊維長の長い強化繊維が分散されて配合されている。例えば、特許文献1には、溶融された熱可塑性樹脂浴中に含浸させられた複数のガラスロービングのような強化繊維束に対して、強化繊維束同士を撚り合わせながら熱可塑性樹脂浴中から引き抜くことで強化繊維の周りに熱可塑性樹脂が被覆されたストランドを形成し、ストランドを所定長さに切断してペレットを得るペレットの製造方法が開示されている。
【0003】
このペレットの製造方法では、熱可塑性樹脂浴の下流側に一対の引取ロールが配備されており、これらのロール同士はストランドの引き抜き方向に対して互いに異なる方向に傾斜するように配備されている。それゆえ、特許文献1のペレットの製造方法では、これらのロール間に強化繊維束を挟み込むことで強化繊維束に撚りが加えられたストランドが中間体として製造される。
【0004】
このようにして引き抜かれた中間体のストランドは、撚り合わせによって強化繊維束同士が固く締まっており、ストランドの中央側に強化繊維束が固まっている。そして、中央側の強化繊維束の回りを熱可塑性樹脂が取り囲むように被覆している。それゆえ、ストランドをダイスから引き抜くときには、熱可塑性樹脂が潤滑の役割を担ってストランドの引き抜きを助け、また強化繊維がダイスに接触してストランドの引き抜きの抵抗となることもない。その結果、強化繊維を平行に引き抜く従来の製造方法に比べて小さい力でもストランドを引き抜くことができ、ストランドの引き抜き抵抗が小さいのでペレットの生産速度を大きくすることができるという長所を備えている。
【0005】
また、撚りを加えて製造する特許文献1の製造方法では、強化繊維束が撚り合わせで締め付けられて嵩減りするので、強化繊維の含有量を容易に増加させることができ、強化繊維を平行に引き抜く従来の製造方法に比べて強化繊維の含有率を高くすることができるという長所も備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−221574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、強化繊維の表面を被覆する熱可塑性樹脂の溶融粘度を低くすればするほど、熱可塑性樹脂は撚られた強化繊維の内部にまで浸透し難くなる傾向がある。それゆえ、熱可塑性樹脂に溶融粘度が低いものを用いると、強化繊維の内部に熱可塑性樹脂が含浸しなかった部分が残り易くなる。そして、熱可塑性樹脂が含浸しなかった部分が冷却後のストランドやペレットの内部に空隙として残り、ペレットを溶解させるとマスターバッチ中に気泡が発生しやすくなる。その結果、溶融粘度が低い熱可塑性樹脂を用いると、成形品に外観不良を起こしやすくなるという問題がある。
【0008】
また、強化繊維を撚り合わせる方法では、ストランドの引き抜き速度を高くしていくと、強化繊維がストランドの内部で固く引き締まってしまうことがある。このように固く締まった強化繊維はペレットを溶解させてもほどけ難く、成形品中に強化繊維がうまく分散せずに成形品の機械特性を悪化させるという問題もある。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、強化繊維が高い含有率で含まれたペレットを生産性良く製造できるものでありながら、ペレット溶解時に強化繊維が容易に解けて成形品中に強化繊維を均等に分散させることができ、成形品の機械特性や外観を損なうことがない長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法は、溶融された熱可塑性樹脂浴中に含浸させられた複数の強化繊維束に対して、当該強化繊維束同士を撚り合わせながら熱可塑性樹脂浴中から引き抜くことで強化繊維の周りに前記熱可塑性樹脂が被覆されたストランドを形成し、当該ストランドを所定長さに切断してペレットを得る長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法であって、前記熱可塑性樹脂のメルトフローレートを500〜1500g/10minに調整し、前記ストランドの引き抜き方向に対する強化繊維束の撚り角θを0°<θ≦50°として、前記ストランドを引き抜くことを特徴とするものである。
【0010】
なお、長繊維強化熱可塑性樹脂とは、強化繊維の中でも長い樹脂、本発明の場合では3〜25mmの繊維長を有する強化繊維を用いて熱可塑性樹脂を強化しているという意味である。
発明者らは、強化繊維の内部にまで十分に浸透し難いようなメルトフローレート(溶融粘度)が500〜1500g/10minと低い熱可塑性樹脂を用いていても、強化繊維束を撚り合わせる際の撚り角を調整すれば強化繊維を固く締まり込まなくなるのではないかと考えた。そして、撚り角θが0°<θ≦50°となるように強化繊維束を撚り合わせることで、成形品の機械特性や外観を損なうことなく、強化繊維が高い含有率で含まれたペレットを生産性良く製造できることを知見して、本発明を完成させたのである。
【0011】
上述のような方法によれば、前記強化繊維が50〜90重量%含有されているような、強化繊維の含有率が高いペレットを容易に製造することができる。また、前記ストランドを、前記引き抜き方向に対して80〜100m/minとなるような高い生産速度で引き抜くことが可能となる。
なお、前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、前記強化繊維束がガラスロービングであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法によれば、強化繊維が高い含有率で含まれたペレットを生産性良く製造できるものでありながら、ペレット溶解時に強化繊維が容易に解けて成形品中に強化繊維を均等に分散させることができ、成形品の機械特性や外観を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の製造方法に用いられる製造装置の斜視図である。
【図2】引取装置の拡大平面図である。
【図3】撚り角を変化させた場合のストランドの正面図及び断面図である。
【図4】メルトフローレイトと強化繊維の撚り角との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1の製造方法を、図面に基づき詳しく説明する。まず、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1の製造方法に用いられるペレット製造装置2について説明する。
図1に示されるように、ペレット製造装置2は、強化繊維束3が巻き回された複数のコイル4と、原料である熱可塑性樹脂(以下、樹脂5という)を混練溶解させる混練押出機6と、コイル4から送り出された強化繊維束3に混練押出機6で可塑化された樹脂5を被覆する樹脂含浸ヘッド7とを備えている。また、ペレット製造装置2は、樹脂含浸ヘッド7で樹脂5が被覆された強化繊維束3(ストランド8)を冷却する冷却装置9と、冷却装置9の下流側に配備されてストランド8を引き取る引取装置10と、冷却されたストランド8を所定長さに切断するカッタ11とを備えている。
【0015】
コイル4は強化繊維束3の線材が巻き回されたものである。強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミドなどの有機合成樹脂、鋼線などの金属繊維を用いることができ、本実施形態ではこの強化繊維束3としてガラスロービング12が用いられている。ガラスロービング12は、直径4〜30μmのガラスモノフィラメントをロービング番手が1000〜4000texとなるように複数集束して円筒状に巻き取ったものであり、本実施形態ではこのガラスロービング12が3巻備えられている。
【0016】
混練押出機6は、内部が空洞とされたチャンバ13内に混練翼を備えたスクリュシャフト(図示略)を回転自在に備えており、ホッパ14から投入された樹脂5の原料を溶解して可塑化している。可塑化された樹脂5は樹脂含浸ヘッド7に送られる。
混練押出機6に供給される樹脂5(強化繊維を被覆する樹脂5)としては、ポリプロピレンやポリエチレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂、ナイロンのようなポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、またはポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性の樹脂であり、本実施形態ではポリプロピレン系樹脂が用いられている。
【0017】
樹脂5には、シランカップリング剤(強化繊維に対する接着性向上剤)、反応性希釈剤(耐衝撃性等のペレットの機械的特性を改善する添加剤)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、充填剤、または着色用顔料などを適宜加えることもできる。
樹脂含浸ヘッド7は、上下方向に沿う軸心回りに円筒状に形成されており、その中空な内部には混練押出機6で可塑化された樹脂5が貯められている。樹脂含浸ヘッド7の上端は上方に向かって開口しており、この開口から貯められた樹脂5内に強化繊維束3を引き込めるようになっている。樹脂含浸ヘッド7の内部には、上下方向に距離をあけて複数(本実施形態では5本)の含浸ロール15が設けられており、これらの含浸ロール15を順に通過する間に上端の開口から引き込まれた強化繊維束3がほどけて内部に可塑化された樹脂5が含浸される構造となっている。樹脂含浸ヘッド7の下端側には、樹脂5が含浸させられた強化繊維束3を外部に引き抜く出口16が形成されており、この出口16には強化繊維の周りに樹脂5を賦形してストランド8を形成するダイス17が設けられている。
【0018】
冷却装置9は、樹脂含浸ヘッド7から引き抜かれたストランド8を冷却するものであり、樹脂含浸ヘッド7の下流側に配備されている。冷却装置9は、内部に冷却水18が貯められた水槽であり、ストランド8の表面に被覆された可塑状態にある樹脂5を冷却水18中に導いて冷却できるようになっている。冷却装置9で冷却されたストランド8は、引取装置10に送られる。
【0019】
引取装置10は、互いに外周面で接触する上下一対の引取ロール19U、19Dを有している。これら上下一対の引取ロール19U、19Dは、ストランド8を挟んで下流側に送り出せるように、互いに異なる回転方向に回転している。
図2に示されるように、上下一対の引取ロール19U、19Dは、ストランド8の引き取り方向に対して傾斜した方向を向くように配備されており、上下の引取ロール19U、19D同士が互いに等しい角度で且つ異なる方向を向くようになっている。すなわち、上側の引取ロール19Uが引き取り方向に対して上方から見た場合に反時計回りに傾斜角θだけ傾く場合には、下側の引取ロール19Dは引き取り方向に対して時計回りに傾斜角θだけ傾くようになっている。それゆえ、引取ロール19間にストランド8を挟み込むと、ストランド8に対して軸心回りにねじれ方向の力が加わり、ストランド8に引取ロール19の傾斜角θに相当する撚り角θの撚りが加わることになる。
【0020】
この引取ロール19によって加えられる撚りは、樹脂含浸ヘッド7の内部に配備された一番下側の含浸ロール15よりも下流側のストランド8全体に加わるため、一番下側の含浸ロール15を通過した強化繊維束3に対してもダイス17を通過するまでの間に撚りが生じる。その結果、ダイス17から引き出されたストランド8は、樹脂含浸ヘッド7内で撚られた強化繊維の周りに熱可塑性樹脂5が被覆されたものとなる。
【0021】
カッタ11は、引取装置10の下流側に配備されており、冷却装置9で冷却されたストランド8を所定長さ(例えば3〜10mm)に切断できるようになっている。カッタ11は、軸心回りに回転する円筒状の本体20の外周面に、接線方向に対して傾斜した刃部21を周方向に所定の間隔をあけて複数備えている。それゆえ、ストランド8を刃部21に当てながらカッタ11を回転させると、カッタ11によりストランド8が刃部21の間隔に応じた所定長さに切断される。
【0022】
このようにして得られたペレット1は、射出成形前に溶解させられると共に希釈用の樹脂5で必要に応じて適宜希釈されて射出成形用のマスターバッチとして用いられる。
本発明の製造方法は、熱可塑性樹脂5の溶融粘度をメルトフローレート=500〜1500g/10minに調整し、ストランド8の引き抜き方向に対する強化繊維束3の撚り角θを0°<θ≦50°としてストランド8を引き抜くことを特徴としている。
【0023】
メルトフローレート(熱可塑性樹脂5の溶融粘度)は、熱可塑性樹脂5の可塑状態の流動性を示す指標であり、JIS K 7210(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト)に規定されている。
本発明の製造方法では、樹脂5をメルトフローレートが500〜1500g/10minとなるように調整している。メルトフローレートが500g/10min未満となると樹脂5の流動性が悪くなって強化繊維の内部まで樹脂5が含浸しにくくなる。一方、メルトフローレートが1500g/10minより高くなると樹脂5の粘度が低すぎて強化繊維に樹脂5が付着し難く(被覆され難く)なる。
【0024】
ところで、この樹脂5のメルトフローレートは、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1に使われる樹脂5の値としては高い範囲に設定されており、強化繊維の表面を被覆する樹脂5の溶融粘度としては低くなっている。
このように溶融粘度が低い樹脂5を用いると、溶融粘度が低い熱可塑性樹脂5は撚られた強化繊維の内部にまで十分に浸透し難いため、強化繊維の内部に熱可塑性樹脂5が含浸しなかった部分を残したままストランド8が冷却されてしまうことになる。その結果、熱可塑性樹脂5が含浸しなかった部分がペレット1の内部に空隙として残り、今度はペレット1を溶解させた樹脂5中に気泡が発生しやすくなって、成形品に外観不良を起こしやすくするという問題がある。
【0025】
そこで、本発明では、熱可塑性樹脂5のメルトフローレートを500〜1500g/10minに調整するだけでなく、上述のようにストランド8の引き抜き方向に対する強化繊維束3の撚り角θを0°<θ≦50°、好ましくは10°≦θ≦40°としてストランド8を引き抜くようにしている。
このようにストランド8の引き抜き方向に対する強化繊維束3の撚り角θを調整するのは、以下の理由による。
【0026】
すなわち、図3(c)に示されるように強化繊維束3の撚り角θを0°とすると、強化繊維に撚りが加わらなくなるので、強化繊維がストランド8の引き取り方向に沿って平行に揃えられた状態になる。その結果、図3(f)の断面図に示されるようにストランド8の表面付近にも強化繊維が存在するようになり、ストランド8をダイス17から引き抜くときに表面近傍の強化繊維がダイス17に引っ掛かってストランド8の引き抜き抵抗が大きくなる。その結果、ペレット1の生産速度を上げるとストランド8の断裂が発生し易くなり、生産速度を大きくしたまま安定して生産することができない。
【0027】
ところが、図3(a)に示されるように強化繊維束3の撚り角θを0°〜50°、好ましくは10°〜40°にすると、強化繊維に撚りが加わるので、強化繊維がストランド8の内部に集まりやすくなる。その結果、図3(d)に示されるようにストランド8をダイス17から引き抜くときには強化繊維の周りに被覆された樹脂5が潤滑の役割を担ってストランド8の引き抜きを助けるので、ストランド8の引き抜き抵抗が小さくなりペレット1の生産速度を大きくすることができる。また、強化繊維がストランド8の内部に集まっているので、強化繊維がダイス17に当たり難くなり、ストランド8の断裂が起こることもなくなる。
【0028】
一方、図3(b)に示されるように強化繊維束3の撚り角θを50°より大きくすると、強化繊維に強い撚りが加わる。その結果、図3(e)に示されるように強化繊維が強く締め付けられてストランド8の内部に固く締まり込んだ状態で集まることになり、ペレット1を溶解させたときにペレット1から強化繊維がほどけて分散し難くなる。その結果、成形品中に強化繊維がうまく分散せずに成形品の機械特性が低下する。
【0029】
それゆえ、ストランド8の引き抜き方向に対する強化繊維束3の撚り角θを0°<θ≦50°、好ましくは10°≦θ≦40°とすれば、強化繊維の周りに被覆された樹脂5の潤滑作用を温存したまま、強化繊維がストランド8の内部で固く締まり過ぎないようにすることができる。このようにすれば、ペレット1を溶解させたときには強化繊維をマスターバッチ中に良好に分散させることができる。また、引き抜き方向に対して60〜80m/minとストランド8の引き抜き速度を高くしても、ストランド8の破断が起こることがなく、ペレット1を安定して生産することが可能となる。
【0030】
さらに、このようにして製造されたペレット1は、ストランド8の内部に強化繊維を集めるように撚り込んでいるので、強化繊維を撚らない場合に比べて多くの強化繊維を樹脂5に配合することができる。その結果、強化繊維の含有率が50〜90重量%と高いペレット1であっても安定して製造することが可能となる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例と比較例とを用いて、本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1の製造方法について説明する。
実施例及び比較例は、以下のようにして製造された長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット1に対して、所定の評価項目で評価を行うことで実施した。
ペレット1の製造については、直径17μm(比重2.5g/cm3)のモノフィラメントを集束したガラスロービング12(ロービング番手:2310tex)のコイル4を2本〜3本用意し、これらのコイル4から樹脂含浸ヘッド7にガラスロービング12を供給する。なお、コイル4が2本の場合は繊維含有率が55wt%、コイル4が3本の場合は繊維含有率が69wt%のペレット1が製造される。樹脂含浸ヘッド7には、混練押出機6で可塑状態にされた樹脂5を供給した。この樹脂5は、比重0.9g/cm3のポリプロピレン(PP)である。樹脂含浸ヘッド7の樹脂5にガラスロービング12を含浸させた後、口径3.0mmに形成されたダイス17の開口からストランド8を引取り速度60〜80m/minで引き抜き、直径3.0mmのストランド8を得た。そして、ストランド8を5mm長さに切断してペレット1を製造した。
【0032】
なお、実施例のペレット1は、メルトフローレイトが500g/10min、800g/10min、1500g/10minに調整された樹脂5を、撚り角θが0°、10°、40°、50°となるように撚りを加えた強化繊維に被覆したものである。
また、比較例のペレット1は、メルトフローレイトが300g/10minに調整された樹脂5を用いているか、撚り角θが60°となるように撚りを加えたものである。
【0033】
上述のようにして得られた実施例及び比較例のペレット1に対して、以下の評価項目に従って評価を行った。
・運転安定性:60〜80m/minの引取り速度で安定した連続運転が可能であるかどうかを、ダイに強化繊維の引っ掛かることで発生する毛羽、引取装置10におけるストランド8のスリップ、又はストランド8の破断の有無から判断した。評価結果は○×△の3段階で評価したものである。×はストランド8の破断が発生した場合、△はダイで毛羽が発生するか、引取装置10でストランド8のスリップが発生する場合、○はそれ以外の場合(所定速度で安定した連続運転が可能である場合)である。
・強化繊維中への樹脂の含浸性:樹脂5が含浸していない繊維がペレット1から遊離するかどうかで判断した。評価結果は、○×の2段階で評価したものである。×は樹脂未含浸の繊維の遊離が確認される場合、○は遊離が確認されない場合である。
・成形品の外観:ペレット1中に分散せずに偏ったままの強化繊維が確認されるかどうかで判断した。評価結果は、○×の2段階で評価したものである。×は偏ったままの強化繊維がペレット1中に確認される場合、○は強化繊維が確認されない場合である。
【0034】
評価結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果を見ると、メルトフローレイトが500g/10minより小さい300g/10minに調整された樹脂5を用いた比較例1では、樹脂未含浸の繊維の遊離が確認されるため「強化繊維中への樹脂の含浸性」が良好ではなく、また偏ったままの強化繊維がペレット1中に確認されるため「成形品外観」にも劣ることが分かる。
また、メルトフローレイトが500〜1500g/10minの範囲にある800g/10minに調整された樹脂5を用いていても、ストランド撚り角が10°を下回る5°の強化繊維に対して被覆を行った比較例2では、「強化繊維中への樹脂の含浸性」や「成形品外観」が良好でないだけでなく、ストランド8の破断が発生して「運転安定性」にも劣っている。
【0037】
さらに、ストランド撚り角が50°を超える60°の強化繊維に対して被覆を行った比較例3では、「運転安定性」や「強化繊維中への樹脂の含浸性」は良好ではあるが、偏ったままの強化繊維がペレット1中に確認されるため「成形品外観」が良好ではない。
これらの比較例に対して、メルトフローレイトが500〜1500g/10minに調整された樹脂5を、撚り角θが10〜50°となるように撚りを加えた強化繊維に被覆した実施例1〜5ではいずれも、「運転安定性」、「強化繊維への樹脂含浸性」、「成形品の外観」が良好であることが分かる。
【0038】
それゆえ、図4に示すように、メルトフローレイトが500〜1500g/10minで且つ撚り角θが10〜50°の好適範囲に入るように生産を行えば、強化繊維が50〜90重量%含有されているような強化繊維の含有率が高いペレットであっても、成形品中に強化繊維を均等に分散させつつ、また成形品の機械特性や外観を損なうことなく、安定してペレットの生産が可能になると判断される。
【0039】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
上記実施形態では、ガラスロービング12が2本又は3本のものを例示したが、ガラスロービング12の本数は1本でも良いし、4本以上でも良い。
上記実施形態では、樹脂5としてポリプロピレン樹脂を例示したが、樹脂5にはポリエチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどを用いることもできる。
【0040】
上記実施形態では、強化繊維が50〜90重量%含有されたペレット1を製造する場合や引き抜き方向に対して80〜100m/minでストランド8を引き抜く場合を例に挙げたが、本発明の製造方法は強化繊維が50重量%未満しか含有されないペレット1を製造する場合や引き抜き方向に対して80m/min以下でストランド8を引き抜く場合にも用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 ペレット(長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット)
2 ペレット製造装置
3 強化繊維束
4 コイル
5 熱可塑性樹脂(樹脂)
6 混練押出機
7 樹脂含浸ヘッド
8 ストランド
9 冷却装置
10 引取装置
11 カッタ
12 ガラスロービング
13 チャンバ
14 ホッパ
15 含浸ロール
16 出口
17 ダイス
18 冷却水
19U上側の引取ロール
19D下側の引取ロール
20 本体
21 刃部
θ 強化繊維束の撚り角(引取ロールの傾斜角)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の強化繊維束同士を撚り合わせながら溶融された熱可塑性樹脂中を引き抜くことで強化繊維の周りに前記熱可塑性樹脂が被覆されたストランドを形成し、当該ストランドを所定長さに切断してペレットを得る長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂の溶融粘度をメルトフローレート=500〜1500g/10minに調整し、
前記ストランドの引き抜き方向に対する強化繊維束の撚り角θを0°<θ≦50°として、前記ストランドを引き抜くことを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記ペレットには、前記強化繊維が50〜90重量%含有されていることを特徴とする請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項3】
前記ストランドを、前記引き抜き方向に対して80〜100m/minで引き抜くことを特徴とする請求項1又は2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、前記強化繊維束がガラスロービングであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−62971(P2011−62971A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217032(P2009−217032)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】