説明

防音用繊維及び防音材

【課題】 高い防音性及び軽量性を有する防音材と、この防音材に有用な防音用繊維とを提供する。
【解決手段】 防音用繊維を熱可塑性樹脂で構成するとともに、単繊維繊度を5dtex以下に調整し、かつ断面偏平率を7〜40に調整する。前記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂であってもよく、例えば、前記繊維は、ビニロン繊維やポリクラール繊維などであってもよい。前記繊維は、さらに、繊維中0.01〜30質量%程度の割合で層状無機化合物を含有し、かつ前記層状無機化合物の面方向が繊維の偏平面方向と配向していてもよい。この繊維を50質量%以上含む不織布で防音材を調製してもよい。この防音材は、平均見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3程度であり、目付が30〜500g/m2程度であり、かつ通気度が1〜150ml/cm2/秒程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸遮音性などの防音性に優れた繊維及びこの繊維を用いた防音材(例えば、車両や建築物に使用される防音材)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車室内や住空間の騒音を低減するために、自動車などの車両や、道路、住宅、工場などの建築物の内装材として防音材が使用されている。このような防音材としては、吸遮音性、軽量性、通気性などに優れる点から、天然繊維や合成繊維などのシート状繊維が汎用されている。
【0003】
例えば、特開平9−226480号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂で構成された主繊維とバインダー繊維と細繊化繊維とをシート面に対してほぼ垂直に配向し、かつ繊維同士を熱融着したシート状繊維構造体で形成されたパッドであって、前記繊維構造体の密度が0.01〜0.05g/cm3、動バネ定数が0.1×105〜0.5×105N/mである自動車用サイレンサーパッドが開示されている。しかし、このサイレンサーパッドは、構造が複雑であり、生産性が低下するだけでなく、防音性も充分でない。
【0004】
また、特開平5−181486号公報(特許文献2)には、単繊維繊度が5デニール以下の合成繊維ステープルを素材とし、この素材を少なくとも50重量%以上用いて平均見かけ密度0.02〜0.2g/cm3に成形した繊維集合体で構成された吸音材であって、繊維の断面積に等価な円形の外周に比べて、繊維の外周が長い断面形状を有する異形断面繊維を、少なくとも30重量%以上含有する吸音材が開示されている。この文献には、異形断面繊維の素材として、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が記載されている。また、異形断面としては、偏平、三角などの角部が鋭角である断面を有する凸多角形や、Y字型、十字型、ヒトデ型などの凹多角形断面、1本の繊維を分割して見かけ上多数の極細繊維とした繊維などが挙げられている。実施例では、2デニールの偏平断面ポリエステル繊維が使用されている。しかし、この吸音材では、繊維の偏平度が小さく、防音性が充分でない。
【0005】
さらに、特開2000−202933号公報(特許文献3)には、多孔質吸音材と表皮材とで構成された遮音材であって、前記吸音材が、2層以上の材料組成が異なる吸音材で構成された遮音材が開示されている。この文献には、前記吸音材の第1層として、平均繊維径5デニール以下、平均見かけ密度0.01〜0.5g/cm3で、合成繊維を主体とした吸音材が記載されている。この文献では、合成繊維はポリエステル繊維が最も好ましいと記載されている。実施例では、第1の吸音材として、2デニールの偏平断面ポリエステル繊維が使用されている。しかし、この吸音材は、構造が複雑であり、生産性が低下するだけでなく、防音性も充分でない。
【特許文献1】特開平9−226480号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平5−181486号公報(請求項1、段落番号[0006][0015]、実施例)
【特許文献3】特開2000−202933号公報(請求項1及び2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、高い防音性及び軽量性を有する防音材と、この防音材に有用な防音用繊維とを提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、高い防音性及び軽量性を有する防音材を簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、繊度が小さく、しかも偏平度の高い熱可塑性樹脂繊維を用いると、高い防音性及び軽量性を有する防音材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の防音用繊維は、熱可塑性樹脂で構成された繊維であって、単繊維繊度が5dtex以下であり、かつ断面偏平率が7〜40である。前記熱可塑性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂であってもよく、例えば、前記繊維は、ビニロン繊維やポリクラール繊維などであってもよい。前記繊維は、さらに、繊維中0.01〜30質量%程度の割合で層状無機化合物を含有し、かつ前記層状無機化合物の面方向が繊維の偏平面方向に配向していてもよい。
【0010】
本発明には、前記防音用繊維を含む繊維集合体で構成された防音材も含まれる。この防音材は、防音用繊維を50質量%以上含む不織布で構成されてもよい。この防音材は、さらに、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などのバインダー、特に、熱融着性を有する繊維状バインダーを含んでいてもよい。この防音材は、平均見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3程度であり、目付が30〜500g/m2程度であり、かつ通気度が1〜150ml/cm2/秒程度であってもよい。
【0011】
本発明には、熱可塑性樹脂を紡糸して前記防音用繊維を製造する方法も含まれる。この方法においては、ポリビニルアルコール系樹脂及び層状無機化合物を含むドープを湿式紡糸してもよい。また、本発明には、前記防音用繊維を用いて、前記防音材を製造する方法も含まれる。さらに、本発明には、前記防音材を用いた防音方法も含まれる。
【0012】
なお、本願明細書では、「防音性」は、吸遮音性、すなわち吸音性と遮音性との両特性を含めた意味として用いる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、単繊維繊度が5dtex以下であり、かつ断面偏平率が7〜40の熱可塑性樹脂繊維を用いるため、高い防音性及び軽量性を有する防音材を簡便に製造できる。従って、本発明の防音材は、例えば、自動車などの車両や、道路、住宅、工場などの建築物の内装材などに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[防音用繊維]
本発明の防音用繊維は、熱可塑性樹脂で構成されている。熱可塑性樹脂は、繊維に用いられる慣用の熱可塑性樹脂であればよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリC2-4オレフィン系樹脂など)、アクリル系樹脂(例えば、アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体などのアクリロニトリル単位を有するアクリロニトリル系樹脂など)、ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル系樹脂など)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド系樹脂、脂環族ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂など)、セルロースエステル系樹脂(例えば、酢酸セルロースなど)などであってもよい。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0015】
これらの熱可塑性樹脂のうち、ビニル系樹脂が好ましい。ビニル系樹脂には、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体など)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂(例えば、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)などが含まれる。
【0016】
特に、本発明では、剛直性が高く、防音性に優れる点から、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂には、ホモポリマーであるポリビニルアルコール(PVA)の他、例えば、主鎖や側鎖に共重合単位を導入した共重合体や、末端や側鎖の変性などにより官能基を導入した変性体も含まれる。共重合単位の導入方法は、主鎖へのランダム又はブロック重合であってもよく、側鎖としてグラフト重合されていてもよい。通常、ランダム又はグラフト重合である。さらに、他の樹脂(特に、ハロゲン含有ビニル系重合体)をポリビニルアルコール系樹脂で構成されたマトリックス中に含有していてもよい。
【0017】
共重合体における共重合性単量体としては、例えば、α−オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンなどのα−C2-6オレフィンなど)、ビニルエーテル類(例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテルなどのC1-6アルキルビニルエーテル、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテルなどのC2-6アルカンジオール−ビニルエーテルなど)、(メタ)アクリル酸又はその誘導体[例えば、(メタ)アクリル酸又はその塩、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピルなどの(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステルなど]、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体[例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミドなどのN−C1-6アルキル(メタ)アクリルアミドなど]、アリルエステル類(例えば、アリルアセテートなど)、アルキルアリルエーテル類(例えば、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのC1-6アルキル−アリルエーテルなど)、N−ビニルアミド類(例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなど)、アルケノール類(例えば、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オールなどのC3-10アルケノールなど)、ビニルシラン類(例えば、ビニルトリメトキシシランなどのビニルトリC1-4アルコキシシランなど)、不飽和カルボン酸類[例えば、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、(無水)シトラコン酸などの多価カルボン酸又はその無水物など]、スルホン酸基含有単量体(例えば、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸など)、カチオン基含有単量体[例えば、ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどのビニロキシテトラC1-10アルキルアンモニウムハライド;ビニロキシエチルジメチルアミンなどのビニロキシトリC1-10アルキルアミン;N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどのN−アクリルアミドテトラC1-10アルキルアンモニウムハライド;N−アクリルアミドジメチルアミンなどのN−アクリルアミドジC1-10アルキルアミン;(メタ)アリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの(メタ)アリルトリC1-10アルキルアンモニウムハライド;ジメチルアリルアミンなどのジC1-3アルキルアリルアミン;アリルエチルアミンなどのアリルC1-3アルキルアミンなど]、ハロゲン含有ビニル系単量体(例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニルや、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデンなど)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの共重合性単量体のうち、例えば、繊維物性を高める点から、エチレンなどのC2-4オレフィンが汎用され、自動車用途などの場合に、耐熱性を向上させる点から、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニルなどが汎用される。ハロゲン化ビニルは、グラフト重合などにより導入してもよい。
【0018】
共重合単位の割合は、ポリビニルアルコール系樹脂中70モル%以下の範囲から選択でき、通常、50モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下(例えば、0.01〜20モル%)程度である。塩化ビニルなどのハロゲン含有ビニルをグラフト重合で導入したり、ハロゲン含有ビニル系重合体(ポリ塩化ビニルなど)をポリビニルアルコール系樹脂で構成されたマトリックス中にフィブリル状などの形態で存在させる場合、ハロゲン化ビニル単位(又はハロゲン化ビニル系重合体)の割合は、例えば、樹脂成分の合計量に対して、10〜70質量%、好ましくは20〜60質量%、さらに好ましくは25〜50質量%(例えば、30〜40質量%)程度であってもよい。
【0019】
ポリビニルアルコール系樹脂の粘度平均重合度は、例えば、500〜4000、好ましくは1000〜2500、さらに好ましくは1200〜2500程度である。重合度が低すぎると、分子鎖のからみが小さく、延伸により繊維強度や耐水性が低下し易い。一方、重合度が高すぎると、原液の粘度が著しく上昇するため、原液中のPVA系樹脂の濃度を低下させる必要があり、生産性が低下する虞がある。さらに、脱水により体積収縮が大きくなり、偏平度の高い形状を得るのが困難となり易い。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度は、例えば、85〜99.99%、好ましくは90〜99.9%、さらに好ましくは95〜99.9%(特に96〜99.9%)程度である。けん化度が低すぎると、熱安定性が低下し、けん化度が高すぎると、生産性が低下する。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂が、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより慣用の方法により得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニルなどが挙げられる。これらのビニル化合物単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルなどの低級脂肪族カルボン酸ビニルが好ましく、通常、酢酸ビニルが用いられる。
【0022】
熱可塑性樹脂には、繊維に用いられる各種の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、畜熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤、可塑剤、増粘剤、分散剤などを含有してもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0023】
これらの添加剤のうち、熱可塑性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール系樹脂)には、難燃剤や可塑剤の添加が効果的である。難燃剤としては、例えば、無機酸又はその塩[例えば、リン酸、スズ酸、ホウ酸、又はこれらの金属塩(例えば、スズ酸ナトリウム、スズ酸マグネシウム、スズ酸亜鉛など)など]、金属化合物(例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモンなどの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化スズなどの金属水酸化物、硫化亜鉛、硫化モリブデンなどの金属硫化物など)などが挙げられる。可塑剤は融点や溶融粘度を調整する目的で添加され、可塑剤として、例えば、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドを付加した化合物などが挙げられる。
【0024】
これらの添加剤は、それぞれ、熱可塑性樹脂100質量部に対して、50質量部以下の割合で使用でき、例えば、0.01〜30質量部、好ましくは0.1〜20質量部程度の割合である。
【0025】
このような熱可塑性樹脂で構成された繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい繊維としては、具体的に、ビニロン繊維やポリクラール繊維などのポリビニルアルコール系繊維が挙げられる。
【0026】
本発明の防音用繊維には、層状無機化合物が含まれていてもよい。層状無機化合物は、天然及び合成のいずれの化合物であってもよい。層状無機化合物としては、例えば、スメクタイト群粘土鉱物(例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチブンサイトなど)、バーミキュライト群粘土鉱物(例えば、バーミキュライトなど)、カオリン型鉱物(例えば、ハロイサイト、カオリナイト、エンデライト、ディッカイトなど)、フィロケイ酸塩(例えば、タルク、パイロフィライト、マイカ(雲母)、マーガライト、白雲母、金雲母、テトラシリリックマイカ、テニオライトなど)、ジャモン石群鉱物(例えば、アンチゴライトなど)、緑泥石群鉱物(例えば、クロライト、クックアイト、ナンタイトなど)などが例示できる。これらの層状無機化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの層状無機化合物のうち、マイカやタルクなどのフィロケイ酸塩、モンモリロナイトなどのスメクタイト群粘土鉱物などが汎用される。
【0027】
層状無機化合物の粒径は、紡糸ノズルの孔の大きさに応じて適宜選択でき、例えば、平均粒径0.01〜30μm、好ましくは0.05〜20μm、さらに好ましくは0.1〜10μm程度である。
【0028】
これらの層状無機化合物の割合は、例えば、繊維中0.01〜30質量%程度であり、好ましくは0.05〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜15質量%(特に0.1〜10質量%)程度である。層状無機化合物の割合が少なすぎると、高偏平度の繊維の生産性が向上せず、層状無機化合物による遮音効果も発現しない。一方、層状無機化合物の割合が多すぎると、紡糸ノズルにおける吐出の安定性が低下し、得られた繊維の物性も低下する。
【0029】
本発明では、偏平な繊維中で、層状無機化合物は配向していなくてもよいが、通常、配向している場合が多い。例えば、層状無機化合物の面方向が繊維の偏平面方向に配向していてもよい。このように配向した場合には、層状無機化合物の遮音効果によって、繊維の防音性が向上すると考えられる。
【0030】
このような防音用繊維は、吸音性及び軽量性の点から、極細であるのが好ましく、単繊維繊度が5dtex以下である。単繊維繊度は、例えば、0.001〜5dtex程度であってもよく、好ましくは0.01〜4dtex、さらに好ましくは0.1〜3dtex(特に0.5〜3dtex)程度である。単繊維繊度が大きすぎると、吸音性が低下し、小さすぎると、生産性が低下する。
【0031】
防音用繊維の形状は偏平形状(例えば、スリット(長方形)形状、楕円形状など)であり、さらに、防音性の点から、高い偏平度を有するのが好ましい。本発明では、断面偏平率は7〜40であり、好ましくは8〜35、さらに好ましくは10〜35(特に12〜35)程度である。断面偏平率が小さすぎると、防音性が低下し、大きすぎると生産性が低下する。本発明において、断面偏平率とは、繊維断面(繊維の長さ方向に対して垂直な方向における断面)における短径に対する長径の比を意味する。
【0032】
防音用繊維の厚みは、例えば、0.1〜10μm、好ましくは0.3〜5μm、さらに好ましくは1〜4.5μm(特に1.5〜4μm)程度である。なお、厚みが不均一な場合には、平均値を意味し、断面偏平率はこの平均値に基づき求める。
【0033】
防音用繊維の繊維長は、特に限定されず、繊維集合体の形態に応じて、適宜選択できるが、繊維集合体として不織布を形成する場合には、0.5〜100mm程度であってもよく、例えば、1〜50mm、好ましくは2〜30mm、さらに好ましくは3〜10mm程度である。
【0034】
[防音用繊維の製造方法]
前記防音用繊維の製造方法は、繊維の種類に応じて慣用の方法を選択でき、湿式紡糸法、乾式紡糸法、乾湿式紡糸法、溶融紡糸法などのいずれの方法であってもよい。防音用繊維がポリビニルアルコール系繊維である場合には、高い偏平性を有する繊維を簡便に形成できる点から、湿式紡糸法が好ましい。さらに、偏平形状を有する繊維の形成方法としては、溶媒に対する溶解性の異なる複数の樹脂成分で形成された繊維を、溶媒で溶解して分割する方法であってもよいが、防音性及び生産性の点から、偏平な口金の紡糸ノズルを用いる方法が好ましい。
【0035】
ポリビニルアルコール系樹脂の湿式紡糸法には、溶媒として水性溶媒(水など)を用いる水系湿式紡糸法と、有機溶媒を用いる有機溶媒系湿式紡糸法が含まれるが、簡便性や安全性などの点から、通常、水系湿式紡糸法が用いられる。水系湿式紡糸法では、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂を水に溶解させて紡糸原液を調製した後、この紡糸原液をノズル孔より凝固浴中に吐出させて凝固させることにより繊維化する。凝固浴としては、通常、紡糸液に対して凝固能を有する塩類を含む水溶液(例えば、飽和硫酸ナトリウム水溶液など)が使用される。得られる繊維の強度を高めるために、紡糸原液中にホウ酸を溶解させ、さらに凝固浴として苛性ソーダを含有する硫酸ナトリウム水溶液を用いてもよい。
【0036】
紡糸原液には、前記層状無機化合物を含有させてもよい。層状無機化合物を添加すると、紡糸原液が口金を通過した後において、形成された繊維の収縮や変形が抑制され、偏平形状の繊維の製造が容易になる。特に、層状無機化合物を添加すると、層状無機化合物の存在により、口金の形状に対応した偏平形状が保持されるだけでなく、層状無機化合物が樹脂中で偏平面に沿って配向するためか、口金の偏平形状よりも高い偏平性を有する繊維を形成することが可能である。従って、繊維の偏平形状は、口金の形状、層状無機化合物の割合によってコントロールできる。特に、断面偏平率を高めるために、層状無機化合物の割合を高めたり、口金スリットの長辺と短辺との比を高くしてもよい。
【0037】
紡糸で用いられるノズル単孔の形状は、繊維が偏平形状となるように、スリット(長方形)形状とする。具体的には、スリットの長辺が100〜2000μm(好ましくは150〜1500μm、さらに好ましくは180〜1000μm)、短辺が10〜200μm(好ましくは15〜150μm、さらに好ましくは20〜100μm)程度であってもよい。このようなスリット形状は、長方形の長端を半円状にした形状や、長端を円形処理したいわゆる「ドッグボーン」形状であってもよい。ノズル単孔の長辺と短辺との比は、通常、繊維の断面偏平率と同じ比率とすればよいが、得られる繊維の断面形状は必ずしもノズル形状と一致しない。例えば、層状無機化合物を用いた場合には、口金の形状よりも高い偏平性を有する繊維の製造が可能であるため、繊維の偏平率よりも偏平率の低い口金を用いることも可能である。層状無機化合物を用いる場合、口金スリットの長辺と短辺との長さ比は、例えば、長辺/短辺=3/1〜12/1、好ましくは4/1〜10/1程度の範囲であってもよい。
【0038】
凝固浴中で凝固した繊維は、ローラーで巻取られた後、水を含んだままの状態で延伸してもよい。湿延伸の倍率は、例えば、2〜5倍、好ましくは3〜4倍程度である。湿延伸された繊維を、100〜150℃(好ましくは120〜140℃)程度の熱風乾燥機中において定長状態で乾燥を行い、引き続いて200〜250℃(好ましくは210〜240℃)程度の熱風炉中でさらに2〜3倍の乾熱延伸して、本発明のポリビニルアルコール系樹脂で構成された防音用繊維が得られる。乾熱延伸の倍率は、1.5〜4倍、好ましくは2〜3倍程度である。なお、得られたポリビニルアルコール系繊維はこのまま使用してもよく、耐水性などを向上する目的で、さらにホルムアルデヒドによるホルマール化処理を施してもよい。得られた防音用繊維は、不織布を形成する場合には、さらに前記範囲の繊維長にカットしてもよい。
【0039】
[防音材]
本発明の防音材は、前記防音用繊維を含む繊維集合体で構成されている。繊維集合体は、織物や編み物など織布であってもよいが、防音性及び生産性の点から、不織布が好ましい。防音材の防音用繊維の割合は、製造方法に応じて適宜選択できるが、防音性の点から、少なくとも50質量%以上(例えば、50〜100質量%)であるのが好ましく、通常、60質量%以上(例えば、60〜99質量%)、好ましくは70質量%以上(例えば、70〜98質量%)、さらに好ましくは80質量%以上(例えば、80〜95質量%)程度である。
【0040】
防音材には、前記防音用繊維の防音性を損なわない範囲、例えば、防音材中50質量%以下(例えば、0.1〜50質量%)、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下の割合で、非偏平形状である他の繊維、例えば、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、天然繊維などが含まれていてもよい。
【0041】
合成繊維としては、例えば、前記防音用繊維の項で例示された熱可塑性樹脂で構成された繊維などが例示できる。半合成繊維としては、例えば、トリアセテート繊維などのアセテート繊維などが挙げられる。再生繊維としては、例えば、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル(例えば、登録商標名:「テンセル」など)などが挙げられる。天然繊維としては、例えば、木綿、羊毛(ウール)、絹、麻などが挙げられる。さらに、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などの無機繊維を使用してもよい。
【0042】
これら他の繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これら他の繊維のうち、ポリビニルアルコール系繊維と組み合わせる繊維としては、ポリエチレンテレフタレート繊維やポリブチレンテレフタレート繊維などのポリエステル系繊維;ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維などのポリオレフィン系繊維;ポリ塩化ビニル繊維などのハロゲン含有ビニル系繊維などの合成繊維、トリアセテート繊維などの半合成繊維、木綿などの天然繊維、レーヨンやポリノジックなどの再生繊維、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維などが好ましい。
【0043】
他の繊維の断面形状は、特に限定されず、例えば、丸型断面の他、異形断面(例えば、中空状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状など)であってもよい。他の繊維の単繊維繊度や繊維長も特に限定されないが、通常、防音用繊維と同程度である。
【0044】
他の繊維の割合は、防音用繊維100質量部に対して、例えば、0〜200質量部程度の範囲から選択できるが、好ましくは0〜100質量部、さらに好ましくは0〜90質量部程度である。他の繊維の割合は、防音用繊維100質量部に対して、1〜100質量部(例えば、50〜100質量部)程度であってもよい。
【0045】
防音材には、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂で構成されたバインダーが含まれていてもよい。これらのバインダーは、熱融着性を有するバインダー、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などのホットメルト接着性樹脂で構成されたバインダーであってもよい。これらのバインダーは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。熱融着性を有するバインダーの中でも、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、脂肪族ジカルボン酸単位を有するコポリエステルなど)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6やポリアミド12などの脂肪族ポリアミドなど)などで構成されたバインダーが好ましい。
【0046】
さらに、本発明では、これらの熱融着性を有する繊維状バインダー、特に、熱融着性樹脂を鞘成分とする芯鞘型構造の繊維状バインダーであってもよい。例えば、融点が低く、熱融着性を有するポリエステル系樹脂を鞘成分とし、鞘成分の樹脂よりも融点が高いポリエステル系樹脂を芯成分とする繊維状バインダーであってもよい。繊維状バインダーの断面形状は、特に限定されず、例えば、丸型断面の他、異形断面(例えば、中空状、偏平状、楕円状、多角形状、3〜14葉状、T字状、H字状、V字状、ドッグボーン(I字状)など)であってもよい。繊維状バインダーの単繊維繊度や繊維長も特に限定されないが、通常、防音用繊維と同程度である。
【0047】
バインダーの割合は、繊維成分の合計100質量部に対して、例えば、0〜100質量部、好ましくは1〜50質量部、さらに好ましくは3〜30質量部(特に5〜20質量部)程度である。
【0048】
本発明の防音材は、防音性及び軽量性を両立できる点から、平均見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3程度であり、好ましくは、0.015〜0.4g/cm3、さらに好ましくは0.02〜0.3g/cm3程度(0.05〜0.2g/cm3)程度である。
【0049】
防音材の目付は、例えば、30〜500g/m2程度であり、好ましくは50〜500g/m2、さらに好ましくは80〜450g/m2(特に100〜400g/m2)程度である。防音材の通気度は、例えば、1〜150ml/cm2/秒、好ましくは2〜100ml/cm2/秒、さらに好ましくは3〜80ml/cm2/秒(特に5〜50ml/cm2/秒)程度である。
【0050】
防音材の形態は、通常、シート状であり、その厚みは、用途に応じて適宜すればよく、0.1〜100mm程度の範囲から選択できるが、通常、0.5〜50mm、好ましくは1〜30mm、さらに好ましくは3〜20mm程度である。
【0051】
本発明の防音材は、音として感知できる周波数の範囲(10〜20000Hz程度)に対して防音性を示し、通常、100〜10000Hz程度の周波数を有する音に対して用いられる。特に、本発明の防音材は、例えば、200〜5000Hz、好ましくは300〜3000Hz、さらに好ましくは500〜2500Hz(特に500〜1800Hz)の周波数の音に対して効果的である。具体的には、目付200g/m2の防音材は、1000Hzの音に対する垂直入射吸音率が0.25以上(例えば、0.25〜0.9)であってもよくし、好ましくは0.3〜0.8、さらに好ましくは0.35〜0.6程度である。さらに、1600Hzの音に対する垂直入射吸音率が0.5以上(例えば、0.5〜0.99)であってもよく、好ましくは0.6〜0.95、さらに好ましくは0.7〜0.9程度である。
【0052】
[防音材の製造方法]
防音材の製造方法は、繊維集合体の種類に応じて慣用の方法により、前記防音用繊維を用いて製造できる。防音材が不織布である場合には、乾式及び湿式のいずれの方法であってもよい。
【0053】
乾式の場合には、例えば、防音用繊維を機械捲縮し、繊維長を20〜100mm程度にカットし、カーディングしてウエブを作製する。必要に応じて、ウエブを作製する際に、他の繊維を混綿してもよい。得られたウエブに対して、例えば、水流絡合や部分的な熱圧融着(熱エンボス加工など)、機械的圧縮(ニードルパンチなど)などの処理をして、乾式不織布を得ることができる。水流絡合においては、3MPa以上(例えば、5〜50MPa程度)の高圧水流を噴射してもよく、ニードルパンチにおいては、40本/cm2以上(例えば、120〜1000本/cm2程度)の密度でパンチングしてもよい。
【0054】
湿式の場合には、繊維長2〜20mm程度にカットした防音用繊維を、バインダー(例えば、繊維状バインダー)とともに湿式抄造することにより原紙(ウエブ)を作製できる。抄造においては、必要に応じて、他の繊維を混抄してもよい。得られた原紙は、単独で、又は必要に応じて複数枚(例えば、2〜5枚、好ましくは2〜4枚程度)積層して、水流絡合で処理して、湿式不織布を得ることができる。水流絡合においては、具体的には、高圧の水流絡合機を用いて、不織布に対して、高圧水流を噴射させることにより、繊維を交絡処理することにより、不織布としての形態安定性を向上させる。水流絡合においては、3MPa以上(例えば、5〜50MPa程度)の高圧水流を噴射してもよい。水流絡合機の通過速度としては、例えば、0.1〜50m/分、好ましくは0.5〜30m/分、さらに好ましくは1〜10m/分程度である。また、防音用繊維をナイアガラビーター、リファイナー、パルパーなどの叩解機で叩解させた繊維を含むスラリーを抄造することによりフィブリル化した繊維を含む湿式不織布を作製してもよい。
【0055】
これらの方法のうち、不織布の製造方法としては、繊維の偏平面が揃い易い点、生産性が高い点などから、湿式が好ましい。
【0056】
得られた不織布は、目的に応じ、エレクトレット加工による帯電処理、プラズマ放電処理やコロナ放電処理による親水化処理などの後加工処理をしてもよく、さらに二次加工してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の防音材は、防音性を必要とする様々な用途に有用であり、例えば、ベヒクル(例えば、自動車などの車両、航空機など)や建築物(例えば、道路における建造物、工場の家屋や設備、住宅など)の内装材などに利用される。特に、本発明の防音材は、高い防音性と軽量性とを兼ね備えているため、自動車における防音部品、例えば、フィードインシュレーター、ダッシュアウターインシュレーター、アンダーカバーインシュレーター、ホイールハウスインシュレーター、ダッシュインナーインシュレーター、フロアインシュレーター、ルーフライナー、リアパーシェルインシュレーター、リアクオーターインシュレーター、特に、その軽量性を生かして、ルーフライナー(天井材)として有用である。
【実施例】
【0058】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法、他の繊維及びバインダーの詳細について以下に示す。さらに、実施例において、各物性値は以下のようにして測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0059】
[偏平ビニロンの製造方法]
(実施例1で使用した偏平ビニロン繊維)
平均重合度1700、ケン化度99.9モル%のPVA樹脂15質量%及び層状無機化合物(コープケミカル社製、合成雲母「MEB−3」)0.24質量%を含有する水溶液からなる紡糸原液を孔数4000、縦30μm×横170μmの長方形スリット型の紡糸口金より、飽和硫酸ナトリウム水溶液の凝固浴中に吐出させ、第1ローラーで巻き取った後、4倍の湿延伸を行った後、130℃で乾燥した。引き続き、230℃で2倍の乾熱延伸を行い、単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率8の偏平形状のビニロン繊維を得た。得られた偏平ビニロン繊維をホルムアルデヒド5質量%及び硫酸10質量%を含有する水溶液中で60分間アセタール化処理した。
【0060】
得られた偏平ビニロン繊維を透過型電子顕微鏡で観察したところ、合成雲母の平坦面は繊維の偏平面方向に配向していた。
【0061】
(実施例2〜4及び7で使用した偏平ビニロン繊維)
実施例1で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法において、層状無機化合物の添加量を0.54質量%に変更する以外は同様にして、単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率15の偏平ビニロン繊維を製造した。
【0062】
得られた偏平ビニロン繊維を透過型電子顕微鏡で観察したところ、合成雲母の平坦面は繊維の偏平面方向に配向していた。
【0063】
(実施例5で使用した偏平ビニロン繊維)
実施例1で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法において、層状無機化合物の添加量を0.8質量%に変更する以外は同様にして、単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率23の偏平ビニロン繊維を製造した。
【0064】
得られた偏平ビニロン繊維を透過型電子顕微鏡で観察したところ、合成雲母の平坦面は繊維の偏平面方向に配向していた。
【0065】
(実施例6で使用した偏平ビニロン繊維)
実施例1で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法において、層状無機化合物の添加量を0.8質量%に変更し、紡糸口金の孔を縦25μm、横210μmとする以外は同様にして、単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率30の偏平ビニロン繊維を製造した。
【0066】
得られた偏平ビニロン繊維を透過型電子顕微鏡で観察したところ、合成雲母の平坦面は繊維の偏平面方向に配向していた。
【0067】
(実施例8で使用した偏平ビニロン繊維)
実施例1で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法において、層状無機化合物の添加量を0.8質量%に変更し、紡糸口金の孔を縦55μm、横300μmとする以外は同様にして、単繊維繊度4dtex、断面偏平率23の偏平ビニロン繊維を製造した。
【0068】
得られた偏平ビニロン繊維を透過型電子顕微鏡で観察したところ、合成雲母の平坦面は繊維の偏平面方向に配向していた。
【0069】
(比較例1〜2で使用した偏平ビニロン繊維)
実施例1で使用した偏平ビニロン繊維の製造方法において、層状無機化合物を添加することなく、丸断面の紡糸口金を用いる以外は同様にして、単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率2.5の偏平ビニロン繊維を製造した。
【0070】
[他の繊維及びバインダー]
2.2Tポリエステル繊維:単繊維繊度2.2dtex、繊維長10mmで、断面が球状のポリエチレンテレフタレート繊維
1.4Tポリエステル繊維:単繊維繊度1.4dtex、繊維長10mmで、断面が球状のポリエチレンテレフタレート繊維
バインダー繊維:鞘部を構成する樹脂の融点が110℃の共重合ポリエステルで、芯部を構成する樹脂が共重合されていないポリエチレンテレフタレートである芯鞘型ポリエステル繊維バインダー((株)クラレ製、商品名「N−720」、単繊維繊度2.2dtex、繊維長10mm)。
【0071】
[単繊維繊度]
走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率1000倍で撮影した不織布試料の拡大写真から、無作為に10本の繊維(単糸)を選び、それらの短径及び長径を測定し、その平均値から単繊維繊度を求めた。
【0072】
[断面偏平率]
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、繊維の断面の長径と短径を測定して求めた。
【0073】
[不織布の目付]
JIS L1906「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0074】
[不織布の見掛け密度]
不織布の見掛け体積(cm3)に対する不織布の質量(g)で示した。
【0075】
[不織布の通気度]
JIS L1906 「一般長繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0076】
[不織布の吸音率]
音響インピーダンス管を用いた吸音率測定システム(ブリューエル&ケアー社製、2マイクロフォンインピーダンス管4206型の大型測定管)によって、音源側の防音材表面から剛壁までの距離を20mmとして、500Hz、1000Hz、1600Hzの垂直入射吸音率を測定した。
【0077】
実施例1
単繊維繊度1.2dtex、断面偏平率8、繊維長10mmの偏平ビニロン繊維90部と、単繊維繊度2.2dtex、繊維長10mmのバインダー繊維10部とを混合し、2槽抄き抄紙機で抄き上げ、目付67g/m2の原紙を得た。この原紙を3層重ね合わせ、水流絡合処理して(4.7MPa、通過速度10m/分)、目付200、見掛け密度、通気度である不織布を得た。得られた不織布の吸音率を測定した結果を表1に示す。
【0078】
実施例2〜8及び比較例1〜3
表1に示す繊維を用いて、抄紙条件を調整することにより、表1に示す特性を有する不織布を得た。得られた不織布の吸音率を測定した結果を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
表1の結果から明らかなように、偏平なビニロン繊維を含む実施例の不織布は、高い吸音率を示すのに対し、比較例の不織布は、吸音率が低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂で構成された繊維であって、単繊維繊度が5dtex以下であり、かつ断面偏平率が7〜40である防音用繊維。
【請求項2】
熱可塑性樹脂がポリビニルアルコール系樹脂である請求項1記載の防音用繊維。
【請求項3】
ビニロン繊維及びポリクラール繊維から選択された少なくとも一種で構成されている請求項1記載の防音用繊維。
【請求項4】
さらに、繊維中0.01〜30質量%の割合で層状無機化合物を含有し、かつ層状無機化合物の面方向が繊維の偏平面方向に配向している請求項1記載の防音用繊維。
【請求項5】
請求項1記載の防音用繊維を含む繊維集合体で構成された防音材。
【請求項6】
防音用繊維を50質量%以上含む不織布で構成された請求項5記載の防音材。
【請求項7】
さらに、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂から選択された少なくとも一種で構成されたバインダーを含む請求項5記載の防音材。
【請求項8】
バインダーが、熱融着性を有する繊維状バインダーである請求項7記載の防音材。
【請求項9】
平均見掛け密度が0.01〜0.5g/cm3であり、目付が30〜500g/m2であり、かつ通気度が1〜150ml/cm2/秒である請求項5記載の防音材。
【請求項10】
熱可塑性樹脂を紡糸して請求項1記載の防音用繊維を製造する方法。
【請求項11】
ポリビニルアルコール系樹脂及び層状無機化合物を含むドープを湿式紡糸する請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1記載の防音用繊維を用いて、請求項5記載の防音材を製造する方法。
【請求項13】
請求項5記載の防音材を用いた防音方法。

【公開番号】特開2006−317805(P2006−317805A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141763(P2005−141763)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】