説明

障害物検知システム、障害物検知方法、プログラム

【課題】障害物を確実に検知するとともに航行者にその旨を適切に通知する。
【解決手段】 航行中にある航行体が障害物を検知すべく当該航行体に設けられる障害物検知システムにおいて、航行区域内に含まれる前記障害物の位置情報を記憶する記憶部と、人工衛星より受信した航法信号に基づいて前記航行体の現在位置を検出する位置検出部と、前記検出された航行体の現在位置に基づいて前記記憶部より現在の前記航行体の近傍に位置する前記障害物を検索する障害物検索部と、当該障害物が検索された場合に警報を出力する警報出力部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害物検知システム、障害物検知方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の航行の安全を確保するため、航空法(昭和27年法律第231号)51条第1項の規定により、「地表又は水面から60m以上の高さの物件の設置者は、国土交通省令で定めるところにより、航空障害灯を設置する」旨が設置者に義務づけられている。
【0003】
また、航空法51条の2第1項の規定では、「昼間において航空機からの視認が困難であると認められる煙突、鉄塔その他の国土交通省令で定める物件で地表又は水面から60m以上の高さのものの設置者は、国土交通省令で定めるところにより、当該物件に昼間障害標識を設置する」旨が設置者に義務づけられている。
【0004】
そこで、例えば、以下に示す特許文献1では、前述した航空法の規定に従って、所定地域内において所定高さ以上のビルや鉄塔、煙突、鉄橋等に設置される航空障害灯システムが開示されている。
【特許文献1】特開2004−55460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、障害物側に法律上の対策がなされているにも関わらず、例えば、広範囲に敷設され且つ視認困難な送電線に、航行中のヘリコプターが接触する等の事故が発生している。また、例えば、海峡の大橋に敷設され且つ航空障害灯が具備された送電線に、運航中の船舶が視認困難な為に衝突する可能性も想定されうる。
【0006】
このように、障害物側における法律上の対策だけでは未だに事故が発生する可能性がある。また、全ての障害物に対して航空障害灯を設置することは技術面や費用面等を含めて現実的に困難である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決する主たる本発明は、航行中にある航行体が障害物を検知すべく当該航行体に設けられる障害物検知システムにおいて、航行区域内に含まれる前記障害物の位置情報を記憶する記憶部と、人工衛星より受信した航法信号に基づいて前記航行体の現在位置を検出する位置検出部と、 前記検出された航行体の現在位置に基づいて前記記憶部より現在の前記航行体の近傍に位置する前記障害物を検索する障害物検索部と、当該障害物が検索された場合に警報を出力する警報出力部と、を有することとする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、障害物を確実に検知するとともに航行者にその旨を適切に通知可能な、障害物検知システム、障害物検知方法、プログラム、を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
<障害物検知システムの構成>
図1は、航行体に搭載された本発明の一実施形態に係る障害物検知システムの構成を示す図である。なお、本実施形態における航行体は、ヘリコプターや飛行機等の空中を航行する航空物を対象とするが、水上を航行する船舶等を対象としてもよい。また、本実施形態に係る障害物は、少なくとも航空法51条第1項又は航空法51条の2第1項で規定された物件、特に、鉄塔並びに鉄塔間の送電線を対象とする。尚、送電線は、既設のものに限らず、計画中や建設中にあるもので事前に位置情報が明確なものであってもよい。勿論、航空法51条第3項や航空法51条の2第2項の規定にあるように、前項に従って航空障害灯や昼間障害標識を設置すべき物件(例えば送電線等)以外の物件で、航空機の航行の安全を著しく害するおそれがあるものをも対象とする。
【0010】
障害物検知システム100は、いわゆるGPS(Global Positioning System)を利用したものであり、航行中にある航空物が視認困難な障害物を検知すべく当該航空物の例えば操縦席に設けられる情報処理システムのことをいう。ここで、GPSとは、人工衛星200から送信される航法信号を受信して現在位置を求める全世界的測位システムのことである。なお、GPSでは、地球上空にある6つの軌道面それぞれに対して4個ずつ計24個の人工衛星200が当該軌道上を周回することになる。また、人工衛星200から送信される航法信号には、その人工衛星200に搭載された原子時計が刻む衛星時刻やその軌道等の情報が含まれる。よって、受信側が、通常3〜4個の人工衛星から送信される航法信号を受信・解析することで、その受信側の位置や速度を算出可能となる。例えば、直接法と呼ばれる測位方法では、GPS受信システムに搭載された水晶時計の時刻と、航法信号から得られる衛星時刻との差によって人工衛星までの距離を測定して受信点の3次元的な位置を求めることができる。
【0011】
アンテナ10は、少なくとも3個以上の人工衛星200から送信された航法信号を受信する。LNA(Low Noise Amplifier)11は、アンテナ10で受信された航法信号を増幅してRF信号を生成する。RF/IF変換部12は、LNA11からのRF信号をIF信号(中間周波信号)に変換する。
【0012】
GPS復調部13は、本発明に係る『位置検出部』ならびに『速度検出部』の一実施形態である。GPS復調部13は、RF/IF変換部12からのIF信号を復調したデジタルデータを生成した後、このデジタルデータを用いて前述した直接法等の演算を行うことで、現在の航空物の位置情報(経度、緯度、海抜高度)や速度等の測位データを生成する。尚、航空物の現在速度の検出に関しては、ジャイロなどの速度センサーを利用してもよい。
【0013】
コンタマップDB(データベース)14は、本発明に係る『記憶部』の一実施形態である。コンタマップDB14は、航空物の航行区域内における三次元(経度、緯度、高度)の地形図情報(コンタマップ)を記憶するデータベースである。なお、この地形図情報は、等高線等によって表示装置18に表示されるものであり、市販された既存の地図データ等を利用することで容易に情報収集且つデータベース構築できる。なお、コンタマップDB14といった固定型記憶媒体の実施形態以外にも、CD−ROMやDVD−ROM等の可搬型記憶媒体の実施形態としてもよい。
【0014】
コンタマップDB14は、さらに、航空物の航行区域内に含まれる『障害物の位置情報』を記憶する。なお、この障害物の位置情報としては、当該障害物の経度、緯度、高度による三次元位置情報に対して、当該障害物側における立体的な『障害物被検知範囲』を設定しておく。なお、障害物被検知範囲とは、障害物側において、障害物検知システム100によって自身を事前に検知させる為に予め設定しておいた範囲とする。当該範囲は、安全面を最優先に考慮しつつも、後述の警報が頻繁に出力しないように適切な範囲に設定すべきものである。
【0015】
図2は、鉄塔30a、30b間の送電線40が視認困難な障害物となる場合において、その送電線40に設定される障害物被検知範囲の一例を示す図である。ここで、鉄塔30aの三次元位置を、“緯度P1LA、経度P1LO、高度P1HE”で表現し、鉄塔30bの三次元位置を、“緯度P2LA、経度P2LO、高度P2HE”で表現する。よって、鉄塔30a、30b間の送電線40は、“経度P1LA〜P2LA、緯度P1LO〜P2LO、高度P1HE〜P2HE”の範囲にある。さらに、送電線40は、緯度、経度、高度それぞれに所定の範囲“±x、±y、±z”をもたせておく。このように、送電線40の障害物被検知範囲が設定される。
【0016】
図3は、障害物被検知範囲が設定された障害物の位置情報がコンタマップDB14へ格納された例を示すものである。ここで、コンタマップDB14は、前述したように、既存の三次元の地形図情報を記憶する場合、この地形図情報と、当該地形図情報に含まれる障害物の三次元位置情報ならびに障害物被検知範囲と、を対応づけて記憶することになる。このように、既存の地形図情報を有効に活用することで、本発明に係る『障害物の三次元位置情報』や『障害物被検知範囲』を、容易にデータベース化できる。
【0017】
CPU15は、障害物検知システム100全体の制御を司るものであり、本発明に係る『障害物検索部』、『警報出力部』、『障害物検知範囲設定部』の一実施形態である。CPU15は、まず、GPS復調部13により検出された航空物の現在の位置情報に基づいて、コンタマップDB14より現在の航空物の近傍位置に含まれる障害物を検索する。
【0018】
なお、CPU15は、このような障害物の検索に際して、航空物側において障害物を事前に検知させる為に障害物検知範囲を予め設定しておく。この障害物検知範囲は、GPS復調部13により検出された航空物の現在位置を特定する経度、緯度、高度による三次元位置情報に対して、当該航空物側における立体的な範囲として設定される。図4は、航空物の一例としてヘリコプター50に設定される障害物検知範囲の一例を示す図である。ここで、ヘリコプター50の現在位置が緯度FLA、経度FLO、高度FHEによって表現された場合、それらに所定の範囲“±α、±β、±γ”をもたせる。なお、障害物検知範囲を規定するパラメータα、β、γは、キーボード等の入力装置19を介して操縦者等が任意に設定でき、RAM等のCPU15がアクセス可能なメモリ16へと格納される。
【0019】
ところで、航空物の飛行速度が高速となった場合、パラメータα、β、γの固定設定が低速時のものであれば、安全面において支障が生じる恐れがある。よって、パラメータα、β、γは、航空物の速度に応じて可変設定とすることが好ましい。詳述すると、CPU15は、GPS復調部13により検出された現在速度と、障害物を事前に検知すべく要求される許容時間と、に基づいて定まる距離によって、パラメータα、β、γの設定、すなわち障害物検知範囲の設定を更新するようにする。
【0020】
このように、航空物側で障害物検知範囲が設定されるとともに、障害物側では障害物被検知範囲が予め設定されることを受けて、CPU15は、GPS復調部13により検出された航空物の現在位置に応じた障害物検知範囲と交錯する、障害物被検知範囲の有無をコンタマップDB14より検索する。
【0021】
そして、CPU15は、コンタマップDB14より障害物が検索された場合にはその旨を示す警報を出力する。尚、警報は、表示装置18において地形図情報とともに表示されるとともに、スピーカー17によって音声出力されることとする。すなわち、航行中に障害物が接近した場合には、航空物の操縦者に対して確実にその旨を通知させるための仕組みを設ける。なお、単に警報を出力するだけではなく、図5に示す警報出力時の画面表示例のように、航空物と障害物の位置関係(航空物・障害物それぞれの経度、緯度、高度等)を表示装置18に表示させるとともにスピーカー19により音声出力(例:「あと、xx分で、送電線yyに接近します。」)することが好ましい。
【0022】
図6は、前述した障害物検知システム100の動作、換言すると、本発明に係る障害物検知方法の手順を示すフローチャートである。なお、特に断らない限り、CPU15が下記の動作を行うこととする。
【0023】
まず、アンテナ10において人工衛星200より航法信号を受信し(S600)、LNA11、RF/IF変換部12を介して当該航法信号に応じたIF信号をGPS復調部13へと供給する。GPS復調部13では、当該IF信号に基づいて障害物検知システム100が搭載された航空物の現在位置や速度等の測位データ(以下、GPS受信データ)が生成される(S601)。
【0024】
CPU15は、GPS復調部13によりGPS受信データに基づいて、パラメータα、β、γの値、すなわち障害物検知範囲を設定する(S602)。ここで、CPU15は、コンタマップDB14より、設定した障害物検知範囲と交錯する障害物被検知範囲が有るか否かの検索を行う(S603)。すなわち、現在の航空物の近傍に位置する障害物が有るか否かを検索する。そして、現在の航空物の近傍に位置する障害物が有る旨を検索した場合(S603:YES)、その旨の警報を表示装置18やスピーカー17を介して出力する(S604)。なお、現在の航空物の近傍に位置する障害物が無い場合(S603:NO)、S600からS603までの処理を繰り返し実行することとなる。
【0025】
このように、本発明によれば、航行体側で障害物検知の対策を施しておくことで、障害物側で航空障害灯等の対策に費用をかけなくて済む。また、送電線や橋等といった障害物は、航空障害灯を設置したとしても送電中止によって常時の点灯が困難であり、また、近年の事故発生に基づいて航行者にとっては視認困難な物件であるといえるため、このような物件に対して本発明は有効且つ現実的な対策といえよう。
【0026】
以上、本発明の実施形態について前述したように説明したが、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更/改良され得るととともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0027】
例えば、前述した障害物検知方法を、様々な情報処理システムに実行させるプログラムとして実施してもよい。なお、当該プログラムは、一般の情報処理システムが読み取り可能な記録媒体や、ASPにより通信回線を利用して提供されることとする。これにより、本発明に係る障害物検知方法を様々な情報処理システム上で実行可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る障害物検知システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る障害物被検知範囲の設定の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るコンタマップDBに格納される情報の一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る障害物検知範囲の設定の一例を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る警報出力の際の画面表示例等を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る障害物検知システムの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
100 障害物検知システム 10 アンテナ
11 LNA 12 RF/IF変換部
13 GPS復調部 14 コンタマップDB
15 CPU 16 メモリ
17 スピーカー 18 表示装置
19 入力装置 30a、30b 鉄塔
40 送電線 50 ヘリコプター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航行中にある航行体が障害物を検知すべく当該航行体に設けられる障害物検知システムにおいて、
航行区域内に含まれる前記障害物の位置情報を記憶する記憶部と、
人工衛星より受信した航法信号に基づいて前記航行体の現在位置を検出する位置検出部と、
前記検出された航行体の現在位置に基づいて前記記憶部より現在の前記航行体の近傍に位置する前記障害物を検索する障害物検索部と、
当該障害物が検索された場合に警報を出力する警報出力部と、
を有することを特徴とする障害物検知システム。
【請求項2】
前記記憶部は、前記障害物の位置情報を、当該障害物の三次元位置情報に対して、前記障害物側での立体的な障害物被検知範囲を設定した情報として記憶すること、を特徴とする請求項1に記載の障害物検知システム。
【請求項3】
前記記憶部は、前記航行区域内の三次元地形図情報と、当該三次元地形図情報に含まれる前記障害物の前記三次元位置情報ならびに前記障害物被検知範囲と、を対応づけて記憶すること、を特徴とする請求項2に記載の障害物検知システム。
【請求項4】
前記検出された航行体の現在位置を特定する前記三次元位置情報に対して、前記航行体側での立体的な障害物検知範囲を設定する障害物検知範囲設定部を有すること、を特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項5】
前記航行体の現在速度を検出する速度検出部を有しており、
前記障害物検知範囲設定部は、
前記検出された現在速度と、前記障害物を事前に検知すべく要求される許容時間と、に基づいて、前記障害物検知範囲の設定を更新すること、
を特徴とする請求項4に記載の障害物検知システム。
【請求項6】
前記障害物検索部は、
前記検出された航行体の現在位置に応じた前記障害物検知範囲と交錯する、前記障害物被検知範囲の有無を検索すること、
を特徴とする請求項4又は5に記載の障害物検知システム。
【請求項7】
前記航行区域内の前記三次元地形図情報を表示する表示装置と、
音声出力を行うスピーカーと、を有しており、
前記警報出力部は、
前記警報を前記表示装置に表示させるとともに前記スピーカーより音声出力すること、
を特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の障害物検知システム。
【請求項8】
前記警報出力部は、
前記航行体と前記検索された障害物との位置関係を前記表示装置に表示させるとともに前記スピーカーより音声出力すること、
を特徴とする請求項7に記載の障害物検知システム。
【請求項9】
航行中にある航行体が障害物を検知する障害物検知方法において、
航行区域内に含まれる前記障害物の位置情報を記憶しておき、
人工衛星より受信した航法信号に基づいて前記航行体の現在位置を検出し、
前記検出された航行体の現在位置に基づいて前記記憶部より前記航行体の近傍に位置する前記障害物を検索し、
当該障害物が検索された場合に警報を出力すること、を特徴とする障害物検知方法。
【請求項10】
航行中にある航行体が障害物を検知するための障害物検知システムに対して、
航行区域内に含まれる前記障害物の位置情報を記憶しておくステップと、
人工衛星より受信した航法信号に基づいて前記航行体の現在位置を検出するステップと、
前記検出された航行体の現在位置に基づいて前記記憶部より前記航行体の近傍に位置する前記障害物を検索するステップと、
当該障害物が検索された場合に警報を出力するステップと、を実行させるためのプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−41706(P2007−41706A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−223149(P2005−223149)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】