集光光学系及びレーザ加工装置
【課題】 集光スポットのサイズが小さく、かつ焦点深度が長い集光光学系を提供する。
【解決手段】 レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、球面収差を発生させるように構成されている。また、次式(a)〜(d)を満たすように設計することで、3次及び5次の球面収差を発生させた。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ、(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1、(c)|Z8|<1.4λ、(d)|Z15|<0.5λ
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【解決手段】 レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、球面収差を発生させるように構成されている。また、次式(a)〜(d)を満たすように設計することで、3次及び5次の球面収差を発生させた。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ、(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1、(c)|Z8|<1.4λ、(d)|Z15|<0.5λ
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を微小スポットかつ長焦点深度に集光させる集光光学系、並びに集光されたそのレーザ光によって加工対象物にレーザ加工を行うレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な分野でレーザ光が応用されており、そのうちの一つとしてレーザ加工技術が急速に進展してきている。レーザ加工技術には、より高度に精密化、微細化されたものが求められるようになってきており、より小さいスポットにレーザ光を集光させることが必要である。その方法として、集光光学系の開口数を大きく、又はFナンバを小さくして明るいレンズとすることが考えられる。しかし、焦点距離が短い明るいレンズでは、収差を抑えることができればスポットサイズは焦点距離に比例して小さくなるが、焦点深度が短くなる。そのため、加工対象物の表面への焦点合わせに厳しい精度が要求され、また厚い材料を加工することが難しくなる。このような問題に対して、スポットサイズを変えずに、焦点深度が長くなるような集光光学系が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1の集光光学系では、レンズ表面を同心円状に複数に分割して、それぞれの領域がわずかに異なる焦点距離を有する多焦点レンズとすることで、各領域で集光するスポットの位置をずらし、見かけ上焦点深度を長くしている。また、例えば特許文献2の集光光学系では、ベッセルビームを採用することで、微小スポットに集光し、かつ焦点深度を極めて長くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2664625号公報
【特許文献2】特開平9−64444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の集光光学系では、レンズ表面でレーザ光が分割され、焦点が断続的につながれているので、各領域で集光されるスポットサイズや強度分布が異なる。従って、焦点前後における強度分布が断続化する。また、特許文献2の集光光学系では、ベッセルビームは長い焦点深度を有するものの、ある1点に集光しているレーザ光は、入射光全体の極一部に過ぎない。従って、スポットの強度が極めて低く、高強度が要求される加工には適さない。
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招来することなく、スポットサイズが小さく、かつ焦点深度が長い集光光学系と、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能であると共に、焦点合わせが容易で厚い材料の加工が可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち本発明は、レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、
集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、
球面収差を発生させるように構成されており、
次式(a)及び(b)を満たすことを特徴とする。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【0008】
上記本発明の集光光学系によれば、球面収差を発生させるように構成されていることで、これが焦点深度に影響を与え、集光スポットのサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招かない。
【0009】
上記本発明において、更に、次式(c)及び(d)を満たすことが好ましい。
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
この場合、長焦点深度と小さいスポットサイズを維持したまま、高い強度を得ることができる。
【0010】
また、上記第2の光学手段は、例えば、非球面位相プレート又は回折型位相プレートよりなるものとすればよい。
【0011】
また、上記本発明における集光光学系が、ポリゴンミラー又はガルバノミラーよりなるレーザ光偏向手段を備え、集光機能を有する上記第1の光学手段がfθレンズとされていることで、長焦点深度かつ小さいスポットを焦点面上で高速走査することができる。
【0012】
本発明は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射される前記レーザ光を伝送する伝送光学系と、前記レーザ光を加工対象物の加工位置に集光させる上記集光光学系とを備えることを特徴とするレーザ加工装置である。
【0013】
上記本発明のレーザ加工装置によれば、集光光学系が球面収差を発生させるように構成されていることで、これが焦点深度に影響を与え、スポットサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招かない。これにより、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能でると共に、焦点合わせが容易で厚い材料加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
上記の通り、本発明の集光光学系によれば、球面収差を発生させるように構成されているので、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招来することなく、小さいスポットサイズかつ長い焦点深度を得ることができる。また、本発明のレーザ加工装置によれば、上記集光光学系を備えているので、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能であると共に、焦点合わせが容易で厚い材料加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るレーザ加工光学装置の概略図である。
【図2】図1の要部模式図である。
【図3】試作品1の焦点近傍の強度分布である。
【図4】試作品2の焦点近傍の強度分布である。
【図5】試作品3の焦点近傍の強度分布である。
【図6】試作品4の焦点近傍の強度分布である。
【図7】試作品5の焦点近傍の強度分布である。
【図8】試作品6の焦点近傍の強度分布である。
【図9】試作品7の焦点近傍の強度分布である。
【図10】試作品8の焦点近傍の強度分布である。
【図11】試作品9の焦点近傍の強度分布である。
【図12】試作品10の焦点近傍の強度分布である。
【図13】試作品11の焦点近傍の強度分布である。
【図14】試作品12の焦点近傍の強度分布である。
【図15】試作品13の焦点近傍の強度分布である。
【図16】試作品14の焦点近傍の強度分布である。
【図17】試作品15の焦点近傍の強度分布である。
【図18】試作品16の焦点近傍の強度分布である。
【図19】試作品17の焦点近傍の強度分布である。
【図20】試作品18の焦点近傍の強度分布である。
【図21】試作品19の焦点近傍の強度分布である。
【図22】試作品20の焦点近傍の強度分布である。
【図23】試作品21の焦点近傍の強度分布である。
【図24】試作品22の焦点近傍の強度分布である。
【図25】試作品23の焦点近傍の強度分布である。
【図26】試作品24の焦点近傍の強度分布である。
【図27】試作品25の焦点近傍の強度分布である。
【図28】試作品26の焦点近傍の強度分布である。
【図29】試作品27の焦点近傍の強度分布である。
【図30】試作品28の焦点近傍の強度分布である。
【図31】試作品29の焦点近傍の強度分布である。
【図32】試作品30の焦点近傍の強度分布である。
【図33】試作品31の焦点近傍の強度分布である。
【図34】単一の球面レンズにおけるZ8、Z15、Z8/Z15に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1及び図2は、本発明に係る集光光学系を備えたレーザ加工装置の一実施形態を示す概略図である。このレーザ加工装置1は、レーザ光を発生させるレーザ発振器2と、このレーザ発振器2と加工対象物の間に設けられた集光光学系3と、レーザ発振器2から出射されるレーザ光を伝送する2枚のベントミラー4よりなる伝送光学系と、レーザ発振器2等を制御する制御装置5を備えている。また、上記集光光学系3は複合光学系として構成されたものであり、集光機能を有する第1の光学手段6と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段7と、さらにレーザ光偏光手段としての一対のガルバノミラー8及びこれを駆動するガルバノスキャナ9を備えている。
【0017】
加工対象物はプリント基板10であり、レーザ照射によりその表面に複数の穴開け加工が行われる。レーザ発振器2から発生するレーザ光は、例えば炭酸ガスレーザやYAGレーザである。一対のガルバノミラー8及びガルバノスキャナ9は、レーザ発振器2より出射されたレーザ光を、所定の偏向角度で偏向させプリント基板10上でX軸方向及びY軸方向に振らせる。
【0018】
集光機能を有する第1の光学手段6は、ガルバノミラー8により偏向されたレーザ光を加工対象物の加工位置に集光させるfθレンズ6よりなり、収差発生機能を有する第2の光学手段7は、ベントミラー4と前方のガルバノミラー8との間に配置された非球面位相プレート7よりなる。なお、当該第2の光学手段7として、回折型位相プレートを使用してもよい。このうち、第1の光学手段としてのfθレンズ6は、後方のガルバノミラー8とプリント基板10との間に配置されており、像側テレセントリック光学系のものが採用されている。当該fθレンズ6を用いることにより、ガルバノミラー8により様々な方向に偏向された光軸上及び光軸外のレーザ光が共に光軸に略平行となり、プリント基板10の表面に垂直入射し、その表面上で焦点を結ぶ。そうすることで、プリント基板10の表面に、例えば離散的に配置された複数の穴が開けられる。
【0019】
ここで、スポットの強度低下を起こさず、かつ小さいスポットサイズのままで長い焦点深度を得ることを目的として、球面収差を発生させることを検討した。具体的には、5次の球面収差に対応する波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数と、さらに3次の球面収差に対応する同ゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数に着目し、試作品として非球面レンズを用いて各種設計を行った。そして、これら設計を行った各試作品にレーザ光を通したときの焦点近傍の強度分布から、各試作品の焦点深度と強度を測定した。レーザ光の照射条件は、焦点距離:50mm、入射瞳径φ20mm、入射レーザ光の波長:1.064μm、レーザビーム径:φ10mm(1/e^2強度径)である。強度分布は、断面強度分布測定機を光軸方向に動かして測定した。表1は、各試作品(1〜31)の試作条件及び焦点深度、強度、及びそれらの評価であり、図3〜図33は、各試作品の焦点近傍の強度分布を濃淡平面像(上段)と高さ(下段)で表したものである。但し、λは波長であり、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数であり、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数である。それ以外のゼルニケ・フリンジ多項式の係数は全てゼロとしている。
【0020】
【表1】
【0021】
試作品1は、微小なスポットサイズを得るためZ8及びZ1をともに0とし、無収差を狙って設計されたものであり焦点深度が短くなっている。なお、表1における強度は試作品1を基準値とした相対的な値であり、その評価は試作品1を基準値とした相対的な値が0.50より下回るものを△とし、0.5以上の良好なものを○とした。また、焦点深度は、ピーク強度の半分のレベルの光軸方向の距離(半値全幅)から求めた。焦点深度評価は、試作品1の80μmを上回るものを○とし、試作品1と同じ80μmのものを×とすることを原則としたが、試作品2,12,13,26については、後述の理由により例外的に前記条件とは異なる判断理由に基づき○、×を与えている。
【0022】
(Z8の効果:試作品2〜試作品11)
試作品2〜試作品11は、Z15=0、Z8/Z15=∞ で固定し、Z8を0.05λから1.20λへ除々に上げていき、−0.05λから−1.40λまで除々に下げたものである。
焦点深度をみると、Z8が0.05λでは81μmと短く(80μmを上回るが有意差が無いとの判断で試作品2の深度評価は×とした)、0.10λでは87μmと長くなり、これ以上になるとさらに長くなっていくことが認められる。また、Z8が−0.05λでは80μmと短く、−0.10λでは82μmと長くなり、これ以下になるとさらに長くなっていくことが認められる。
強度をみると、Z8が上がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、1.20λでは0.48という強度が維持されている。また、Z8が負になると、下がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、−1.4λでは0.47の強度が維持されている。
これらから、Z8に関しては、|Z8|≧0.1λという関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となり、|Z8|<1.4λという関係式を満たすことが強度を維持するための条件となる。
【0023】
(Z15の効果:試作品12〜試作品20)
試作品12〜試作品20は、Z8=0、Z8/Z15=0 で固定し、Z15を0.05λから0.50λへ除々に上げていき、−0.05λから−0.40λまで除々に下げたものである。
焦点深度をみると、Z15が0.05λと0.10λでは80μmと短く、0.20λでは115μmと長くなり、これ以上になるとさらに長くなっていくことが認められる。また、Z8が−0.05λでは85μmと長くなり、これ以下になるとさらに長くなっていくことが認められる。但し、Z15=0.05λ(試作品12)、0.10λ(試作品13)は、半値全幅は80μmであるが、半値よりも低い強度レベルでの長焦点深度化が認められるので、深度判定を○とした。
強度をみると、Z15が上がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、0.50λでは0.43という強度が維持されている。また、Z15が負になると、下がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、−0.40λでは0.48という強度が維持されている。
これらから、Z15に関しては、|Z15|≧0.05λという関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となり、|Z15|<0.5λという関係式を満たすことが強度を維持するための条件となる。
【0024】
(Z8/Z15の効果:試作品21〜試作品31)
試作品21〜試作品31は、Z15を上記で導いたZ15の条件である|Z15|≧0.05λ、|Z15|<0.5λを満たす−0.10λで固定し、さらに、上記で導いたZ8の条件である|Z8|≧0.1λ、|Z8|<1.4λを満たすことを前提として、Z8を−1.00λから0へ、0〜1.00λへ変えていき、Z8/Z15を10〜0、0〜−10の範囲で変化させたものである。
焦点深度をみると、Z8/Z15が10では145μmと長くなっており、Z8/Z15が下がるに従って短くなっていることが認められ、Z8/Z15が2と1では、80μm、82μmと短くなる(後者は80μmよりも長いが有意差は無いと判断されるので、試作品26の深度評価を×とした)。Z8/Z15が0になると88μmと長くなり、ここからZ8/Z15が上がるに従って次第に長くなっていくことが認められる。
強度をみると、Z8/Z15が10では0.62であり、Z8/Z15が10から1に向かって下がるに従って次第に高くなっていることが認められ、Z8/Z15が0から負へ下がるに従って次第に低くなっていくことが認められる。そして、Z8/Z15が−10では0.46の強度が維持されている。
これらから、Z8/Z15に関しては、Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1という関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となる。強度に関しては、上記の|Z15|<0.5λあるいは|Z8|<1.4λを満たしていればよい。
【0025】
(まとめ)
非球面レンズが、小さいスポットサイズのままで長い焦点深度を得るには、次式(a)及び(b)を満たすことが条件となり、スポットの強度低下を起こさないためには、次式(a)及び(b)に加え、さらに次式(c)及び(d)を満たす設計をすればよい。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
【0026】
ここで、従来の集光光学系との違いを説明する。従来の非球面レンズや複合レンズ(組レンズ)は無収差(Z8=0、Z15=0など)を狙って設計されていることから、上記各式を満たし球面収差を発生させる非球面レンズと異なることは明らかである。
一方、単一の球面レンズの場合は、一般に球面収差が残存している。球面レンズは2つの面の形状の違いから平凸レンズ、両凸レンズ、メニスカレンズの3つに分類される(凸レンズの場合)。これら各球面レンズのZ8、Z15、Z8/Z15は、例えば図34に示すグラフのようになる。
【0027】
横軸の形状因子Sは、レンズの第1面と第2面の曲率半径r1、r2(光の進行方向に対して凹面の場合が正、凸面の場合が負)から、(r1+r2)/(r1−r2)で求められる。最も球面収差の小さいS=0.5(r1=−3r2)である両凸レンズが選択された場合であっても、Z8>4λとなり、単一の球面レンズの球面収差は上記各式を満たす非球面レンズの球面収差に比べて非常に大きい。従って、単一の球面レンズが当該非球面レンズと異なることは明らかである。
【0028】
本実施形態における収差発生機能を有する非球面位相プレート7は、上記式(a)〜(d)の関係式を満たす設計を行って製作されたものであり、これによりスポットの強度低下を起こさず、かつ小さいスポットサイズのままで長い焦点深度が得られている。
上述した集光光学系を備えるレーザ加工光学装置1でプリント基板10に穴開け加工をする場合、レーザ発振器2により発生したレーザ光は、レーザ発振器2のシャッタにより放出され、レーザ発振器2の近傍に設けられた2枚のベントミラー4により進行方向が変えられ、非球面位相プレート7を通り、二枚のガルバノミラー8で偏向されてfθレンズ6へ導かれる。ガルバノミラー8を出射したレーザ光が、fθレンズ6で収束され当該fθレンズ6がもつ焦点距離に従ってプリント基板7に照射される。そして、ガルバノミラー8が、レーザ光の進行方向を振る(レーザ光を走査する)ことにより、プリント基板10上のレーザ光入射位置を変化させ、プリント基板10に複数の穴開け加工が行われる。
【0029】
上記本実施形態のレーザ加工光学装置1によれば、集光光学系3のうち球面収差発生機能を有する非球面位相プレート7が、上記式(a)〜式(d)を満たすように設計されて球面収差を発生させることで、これが焦点深度に影響を与え、スポットサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、スポットの強度低下、及び焦点前後での強度分布の断続化という問題が起こらず、高出力が要求される加工に適応可能で、焦点合わせが容易で厚い材料の加工や深い加工を行うことができる。また、本実施形態のレーザ加工装置1は、ソリなどにより加工表面が光軸方向に変位した加工対象物の加工にも適用可能である。また、集光機能を有する第1の光学手段がfθレンズとされていることで、長焦点深度のスポットを焦点面上で高速走査することができる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば、球面収差を発生させる集光光学系を本実施形態のように複合光学系としたうえで、集光機能を有する第1の光学手段を通常のレンズや凹面鏡などの集光光学部品としてもよい。また、レーザ加工装置において、レーザ光を偏向させるガルバノミラーの代わりにポリゴンミラーを用いてもよい。前記の実施例では、プリント基板の穴開け加工への適用例を示したが、他にも、材料の金属、非金属を問わず、切断、溶接など様々なレーザ加工用途に適用可能であり、長焦点深度化の効果によって優れた加工特性が得られることは容易に類推できる。
【符号の説明】
【0031】
1 レーザ加工装置
2 レーザ発信器
3 集光光学系
6 fθレンズ(第1の光学手段)
7 非球面位相プレート(第2の光学手段)
8 ガルバノミラー
10 プリント基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を微小スポットかつ長焦点深度に集光させる集光光学系、並びに集光されたそのレーザ光によって加工対象物にレーザ加工を行うレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な分野でレーザ光が応用されており、そのうちの一つとしてレーザ加工技術が急速に進展してきている。レーザ加工技術には、より高度に精密化、微細化されたものが求められるようになってきており、より小さいスポットにレーザ光を集光させることが必要である。その方法として、集光光学系の開口数を大きく、又はFナンバを小さくして明るいレンズとすることが考えられる。しかし、焦点距離が短い明るいレンズでは、収差を抑えることができればスポットサイズは焦点距離に比例して小さくなるが、焦点深度が短くなる。そのため、加工対象物の表面への焦点合わせに厳しい精度が要求され、また厚い材料を加工することが難しくなる。このような問題に対して、スポットサイズを変えずに、焦点深度が長くなるような集光光学系が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1の集光光学系では、レンズ表面を同心円状に複数に分割して、それぞれの領域がわずかに異なる焦点距離を有する多焦点レンズとすることで、各領域で集光するスポットの位置をずらし、見かけ上焦点深度を長くしている。また、例えば特許文献2の集光光学系では、ベッセルビームを採用することで、微小スポットに集光し、かつ焦点深度を極めて長くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2664625号公報
【特許文献2】特開平9−64444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の集光光学系では、レンズ表面でレーザ光が分割され、焦点が断続的につながれているので、各領域で集光されるスポットサイズや強度分布が異なる。従って、焦点前後における強度分布が断続化する。また、特許文献2の集光光学系では、ベッセルビームは長い焦点深度を有するものの、ある1点に集光しているレーザ光は、入射光全体の極一部に過ぎない。従って、スポットの強度が極めて低く、高強度が要求される加工には適さない。
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招来することなく、スポットサイズが小さく、かつ焦点深度が長い集光光学系と、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能であると共に、焦点合わせが容易で厚い材料の加工が可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
すなわち本発明は、レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、
集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、
球面収差を発生させるように構成されており、
次式(a)及び(b)を満たすことを特徴とする。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【0008】
上記本発明の集光光学系によれば、球面収差を発生させるように構成されていることで、これが焦点深度に影響を与え、集光スポットのサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招かない。
【0009】
上記本発明において、更に、次式(c)及び(d)を満たすことが好ましい。
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
この場合、長焦点深度と小さいスポットサイズを維持したまま、高い強度を得ることができる。
【0010】
また、上記第2の光学手段は、例えば、非球面位相プレート又は回折型位相プレートよりなるものとすればよい。
【0011】
また、上記本発明における集光光学系が、ポリゴンミラー又はガルバノミラーよりなるレーザ光偏向手段を備え、集光機能を有する上記第1の光学手段がfθレンズとされていることで、長焦点深度かつ小さいスポットを焦点面上で高速走査することができる。
【0012】
本発明は、レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射される前記レーザ光を伝送する伝送光学系と、前記レーザ光を加工対象物の加工位置に集光させる上記集光光学系とを備えることを特徴とするレーザ加工装置である。
【0013】
上記本発明のレーザ加工装置によれば、集光光学系が球面収差を発生させるように構成されていることで、これが焦点深度に影響を与え、スポットサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招かない。これにより、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能でると共に、焦点合わせが容易で厚い材料加工を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
上記の通り、本発明の集光光学系によれば、球面収差を発生させるように構成されているので、焦点前後における強度分布の断続化、及びスポットの強度低下という問題を招来することなく、小さいスポットサイズかつ長い焦点深度を得ることができる。また、本発明のレーザ加工装置によれば、上記集光光学系を備えているので、精密化、微細化かつ高出力が要求される加工に適応可能であると共に、焦点合わせが容易で厚い材料加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るレーザ加工光学装置の概略図である。
【図2】図1の要部模式図である。
【図3】試作品1の焦点近傍の強度分布である。
【図4】試作品2の焦点近傍の強度分布である。
【図5】試作品3の焦点近傍の強度分布である。
【図6】試作品4の焦点近傍の強度分布である。
【図7】試作品5の焦点近傍の強度分布である。
【図8】試作品6の焦点近傍の強度分布である。
【図9】試作品7の焦点近傍の強度分布である。
【図10】試作品8の焦点近傍の強度分布である。
【図11】試作品9の焦点近傍の強度分布である。
【図12】試作品10の焦点近傍の強度分布である。
【図13】試作品11の焦点近傍の強度分布である。
【図14】試作品12の焦点近傍の強度分布である。
【図15】試作品13の焦点近傍の強度分布である。
【図16】試作品14の焦点近傍の強度分布である。
【図17】試作品15の焦点近傍の強度分布である。
【図18】試作品16の焦点近傍の強度分布である。
【図19】試作品17の焦点近傍の強度分布である。
【図20】試作品18の焦点近傍の強度分布である。
【図21】試作品19の焦点近傍の強度分布である。
【図22】試作品20の焦点近傍の強度分布である。
【図23】試作品21の焦点近傍の強度分布である。
【図24】試作品22の焦点近傍の強度分布である。
【図25】試作品23の焦点近傍の強度分布である。
【図26】試作品24の焦点近傍の強度分布である。
【図27】試作品25の焦点近傍の強度分布である。
【図28】試作品26の焦点近傍の強度分布である。
【図29】試作品27の焦点近傍の強度分布である。
【図30】試作品28の焦点近傍の強度分布である。
【図31】試作品29の焦点近傍の強度分布である。
【図32】試作品30の焦点近傍の強度分布である。
【図33】試作品31の焦点近傍の強度分布である。
【図34】単一の球面レンズにおけるZ8、Z15、Z8/Z15に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1及び図2は、本発明に係る集光光学系を備えたレーザ加工装置の一実施形態を示す概略図である。このレーザ加工装置1は、レーザ光を発生させるレーザ発振器2と、このレーザ発振器2と加工対象物の間に設けられた集光光学系3と、レーザ発振器2から出射されるレーザ光を伝送する2枚のベントミラー4よりなる伝送光学系と、レーザ発振器2等を制御する制御装置5を備えている。また、上記集光光学系3は複合光学系として構成されたものであり、集光機能を有する第1の光学手段6と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段7と、さらにレーザ光偏光手段としての一対のガルバノミラー8及びこれを駆動するガルバノスキャナ9を備えている。
【0017】
加工対象物はプリント基板10であり、レーザ照射によりその表面に複数の穴開け加工が行われる。レーザ発振器2から発生するレーザ光は、例えば炭酸ガスレーザやYAGレーザである。一対のガルバノミラー8及びガルバノスキャナ9は、レーザ発振器2より出射されたレーザ光を、所定の偏向角度で偏向させプリント基板10上でX軸方向及びY軸方向に振らせる。
【0018】
集光機能を有する第1の光学手段6は、ガルバノミラー8により偏向されたレーザ光を加工対象物の加工位置に集光させるfθレンズ6よりなり、収差発生機能を有する第2の光学手段7は、ベントミラー4と前方のガルバノミラー8との間に配置された非球面位相プレート7よりなる。なお、当該第2の光学手段7として、回折型位相プレートを使用してもよい。このうち、第1の光学手段としてのfθレンズ6は、後方のガルバノミラー8とプリント基板10との間に配置されており、像側テレセントリック光学系のものが採用されている。当該fθレンズ6を用いることにより、ガルバノミラー8により様々な方向に偏向された光軸上及び光軸外のレーザ光が共に光軸に略平行となり、プリント基板10の表面に垂直入射し、その表面上で焦点を結ぶ。そうすることで、プリント基板10の表面に、例えば離散的に配置された複数の穴が開けられる。
【0019】
ここで、スポットの強度低下を起こさず、かつ小さいスポットサイズのままで長い焦点深度を得ることを目的として、球面収差を発生させることを検討した。具体的には、5次の球面収差に対応する波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数と、さらに3次の球面収差に対応する同ゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数に着目し、試作品として非球面レンズを用いて各種設計を行った。そして、これら設計を行った各試作品にレーザ光を通したときの焦点近傍の強度分布から、各試作品の焦点深度と強度を測定した。レーザ光の照射条件は、焦点距離:50mm、入射瞳径φ20mm、入射レーザ光の波長:1.064μm、レーザビーム径:φ10mm(1/e^2強度径)である。強度分布は、断面強度分布測定機を光軸方向に動かして測定した。表1は、各試作品(1〜31)の試作条件及び焦点深度、強度、及びそれらの評価であり、図3〜図33は、各試作品の焦点近傍の強度分布を濃淡平面像(上段)と高さ(下段)で表したものである。但し、λは波長であり、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数であり、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数である。それ以外のゼルニケ・フリンジ多項式の係数は全てゼロとしている。
【0020】
【表1】
【0021】
試作品1は、微小なスポットサイズを得るためZ8及びZ1をともに0とし、無収差を狙って設計されたものであり焦点深度が短くなっている。なお、表1における強度は試作品1を基準値とした相対的な値であり、その評価は試作品1を基準値とした相対的な値が0.50より下回るものを△とし、0.5以上の良好なものを○とした。また、焦点深度は、ピーク強度の半分のレベルの光軸方向の距離(半値全幅)から求めた。焦点深度評価は、試作品1の80μmを上回るものを○とし、試作品1と同じ80μmのものを×とすることを原則としたが、試作品2,12,13,26については、後述の理由により例外的に前記条件とは異なる判断理由に基づき○、×を与えている。
【0022】
(Z8の効果:試作品2〜試作品11)
試作品2〜試作品11は、Z15=0、Z8/Z15=∞ で固定し、Z8を0.05λから1.20λへ除々に上げていき、−0.05λから−1.40λまで除々に下げたものである。
焦点深度をみると、Z8が0.05λでは81μmと短く(80μmを上回るが有意差が無いとの判断で試作品2の深度評価は×とした)、0.10λでは87μmと長くなり、これ以上になるとさらに長くなっていくことが認められる。また、Z8が−0.05λでは80μmと短く、−0.10λでは82μmと長くなり、これ以下になるとさらに長くなっていくことが認められる。
強度をみると、Z8が上がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、1.20λでは0.48という強度が維持されている。また、Z8が負になると、下がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、−1.4λでは0.47の強度が維持されている。
これらから、Z8に関しては、|Z8|≧0.1λという関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となり、|Z8|<1.4λという関係式を満たすことが強度を維持するための条件となる。
【0023】
(Z15の効果:試作品12〜試作品20)
試作品12〜試作品20は、Z8=0、Z8/Z15=0 で固定し、Z15を0.05λから0.50λへ除々に上げていき、−0.05λから−0.40λまで除々に下げたものである。
焦点深度をみると、Z15が0.05λと0.10λでは80μmと短く、0.20λでは115μmと長くなり、これ以上になるとさらに長くなっていくことが認められる。また、Z8が−0.05λでは85μmと長くなり、これ以下になるとさらに長くなっていくことが認められる。但し、Z15=0.05λ(試作品12)、0.10λ(試作品13)は、半値全幅は80μmであるが、半値よりも低い強度レベルでの長焦点深度化が認められるので、深度判定を○とした。
強度をみると、Z15が上がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、0.50λでは0.43という強度が維持されている。また、Z15が負になると、下がるに従って次第に低くなっていくことが認められるが、−0.40λでは0.48という強度が維持されている。
これらから、Z15に関しては、|Z15|≧0.05λという関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となり、|Z15|<0.5λという関係式を満たすことが強度を維持するための条件となる。
【0024】
(Z8/Z15の効果:試作品21〜試作品31)
試作品21〜試作品31は、Z15を上記で導いたZ15の条件である|Z15|≧0.05λ、|Z15|<0.5λを満たす−0.10λで固定し、さらに、上記で導いたZ8の条件である|Z8|≧0.1λ、|Z8|<1.4λを満たすことを前提として、Z8を−1.00λから0へ、0〜1.00λへ変えていき、Z8/Z15を10〜0、0〜−10の範囲で変化させたものである。
焦点深度をみると、Z8/Z15が10では145μmと長くなっており、Z8/Z15が下がるに従って短くなっていることが認められ、Z8/Z15が2と1では、80μm、82μmと短くなる(後者は80μmよりも長いが有意差は無いと判断されるので、試作品26の深度評価を×とした)。Z8/Z15が0になると88μmと長くなり、ここからZ8/Z15が上がるに従って次第に長くなっていくことが認められる。
強度をみると、Z8/Z15が10では0.62であり、Z8/Z15が10から1に向かって下がるに従って次第に高くなっていることが認められ、Z8/Z15が0から負へ下がるに従って次第に低くなっていくことが認められる。そして、Z8/Z15が−10では0.46の強度が維持されている。
これらから、Z8/Z15に関しては、Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1という関係式を満たすことが長い焦点深度を得る条件となる。強度に関しては、上記の|Z15|<0.5λあるいは|Z8|<1.4λを満たしていればよい。
【0025】
(まとめ)
非球面レンズが、小さいスポットサイズのままで長い焦点深度を得るには、次式(a)及び(b)を満たすことが条件となり、スポットの強度低下を起こさないためには、次式(a)及び(b)に加え、さらに次式(c)及び(d)を満たす設計をすればよい。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
【0026】
ここで、従来の集光光学系との違いを説明する。従来の非球面レンズや複合レンズ(組レンズ)は無収差(Z8=0、Z15=0など)を狙って設計されていることから、上記各式を満たし球面収差を発生させる非球面レンズと異なることは明らかである。
一方、単一の球面レンズの場合は、一般に球面収差が残存している。球面レンズは2つの面の形状の違いから平凸レンズ、両凸レンズ、メニスカレンズの3つに分類される(凸レンズの場合)。これら各球面レンズのZ8、Z15、Z8/Z15は、例えば図34に示すグラフのようになる。
【0027】
横軸の形状因子Sは、レンズの第1面と第2面の曲率半径r1、r2(光の進行方向に対して凹面の場合が正、凸面の場合が負)から、(r1+r2)/(r1−r2)で求められる。最も球面収差の小さいS=0.5(r1=−3r2)である両凸レンズが選択された場合であっても、Z8>4λとなり、単一の球面レンズの球面収差は上記各式を満たす非球面レンズの球面収差に比べて非常に大きい。従って、単一の球面レンズが当該非球面レンズと異なることは明らかである。
【0028】
本実施形態における収差発生機能を有する非球面位相プレート7は、上記式(a)〜(d)の関係式を満たす設計を行って製作されたものであり、これによりスポットの強度低下を起こさず、かつ小さいスポットサイズのままで長い焦点深度が得られている。
上述した集光光学系を備えるレーザ加工光学装置1でプリント基板10に穴開け加工をする場合、レーザ発振器2により発生したレーザ光は、レーザ発振器2のシャッタにより放出され、レーザ発振器2の近傍に設けられた2枚のベントミラー4により進行方向が変えられ、非球面位相プレート7を通り、二枚のガルバノミラー8で偏向されてfθレンズ6へ導かれる。ガルバノミラー8を出射したレーザ光が、fθレンズ6で収束され当該fθレンズ6がもつ焦点距離に従ってプリント基板7に照射される。そして、ガルバノミラー8が、レーザ光の進行方向を振る(レーザ光を走査する)ことにより、プリント基板10上のレーザ光入射位置を変化させ、プリント基板10に複数の穴開け加工が行われる。
【0029】
上記本実施形態のレーザ加工光学装置1によれば、集光光学系3のうち球面収差発生機能を有する非球面位相プレート7が、上記式(a)〜式(d)を満たすように設計されて球面収差を発生させることで、これが焦点深度に影響を与え、スポットサイズを小さくしたままで、長い焦点深度が得られる。また、従来の多焦点レンズのようにレーザ光の焦点が断続的につながれるものではなく、ベッセルビームとする必要もないため、スポットの強度低下、及び焦点前後での強度分布の断続化という問題が起こらず、高出力が要求される加工に適応可能で、焦点合わせが容易で厚い材料の加工や深い加工を行うことができる。また、本実施形態のレーザ加工装置1は、ソリなどにより加工表面が光軸方向に変位した加工対象物の加工にも適用可能である。また、集光機能を有する第1の光学手段がfθレンズとされていることで、長焦点深度のスポットを焦点面上で高速走査することができる。
【0030】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば、球面収差を発生させる集光光学系を本実施形態のように複合光学系としたうえで、集光機能を有する第1の光学手段を通常のレンズや凹面鏡などの集光光学部品としてもよい。また、レーザ加工装置において、レーザ光を偏向させるガルバノミラーの代わりにポリゴンミラーを用いてもよい。前記の実施例では、プリント基板の穴開け加工への適用例を示したが、他にも、材料の金属、非金属を問わず、切断、溶接など様々なレーザ加工用途に適用可能であり、長焦点深度化の効果によって優れた加工特性が得られることは容易に類推できる。
【符号の説明】
【0031】
1 レーザ加工装置
2 レーザ発信器
3 集光光学系
6 fθレンズ(第1の光学手段)
7 非球面位相プレート(第2の光学手段)
8 ガルバノミラー
10 プリント基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、
集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、
球面収差を発生させるように構成されており、
次式(a)及び(b)を満たすことを特徴とする集光光学系。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【請求項2】
更に、次式(c)及び(d)を満たす請求項1に記載の集光光学系。
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
【請求項3】
前記第2の光学手段が、非球面位相プレート又は回折型位相プレートよりなる請求項1又は2に記載の集光光学系。
【請求項4】
ポリゴンミラー又はガルバノミラーよりなるレーザ光偏向手段を備え、前記第1の光学手段がfθレンズである請求項1〜3のいずれか一項に記載の集光光学系。
【請求項5】
レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射される前記レーザ光を伝送する伝送光学系と、前記レーザ光を加工対象物の加工位置に集光させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の集光光学系とを備えること特徴とするレーザ加工装置。
【請求項1】
レーザ光源で発生させたレーザ光を所望の焦点距離で集光させる集光光学系であって、
集光機能を有する第1の光学手段と、球面収差発生機能を有する第2の光学手段とからなると共に、
球面収差を発生させるように構成されており、
次式(a)及び(b)を満たすことを特徴とする集光光学系。
(a)|Z8|≧0.1λ 又は |Z15|≧0.05λ
(b) Z8/Z15≧3 又は Z8/Z15<1
但し、λは波長、Z8は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第8番目の係数で3次の球面収差に対応し、Z15は波面収差のゼルニケ・フリンジ多項式の係数のうち第15番目の係数で5次の球面収差に対応する。
【請求項2】
更に、次式(c)及び(d)を満たす請求項1に記載の集光光学系。
(c)|Z8|<1.4λ
(d)|Z15|<0.5λ
【請求項3】
前記第2の光学手段が、非球面位相プレート又は回折型位相プレートよりなる請求項1又は2に記載の集光光学系。
【請求項4】
ポリゴンミラー又はガルバノミラーよりなるレーザ光偏向手段を備え、前記第1の光学手段がfθレンズである請求項1〜3のいずれか一項に記載の集光光学系。
【請求項5】
レーザ光を発生させるレーザ発振器と、このレーザ発振器から出射される前記レーザ光を伝送する伝送光学系と、前記レーザ光を加工対象物の加工位置に集光させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の集光光学系とを備えること特徴とするレーザ加工装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2013−109357(P2013−109357A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−280263(P2012−280263)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2006−324409(P2006−324409)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2006−324409(P2006−324409)の分割
【原出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】
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