説明

難燃性接着剤組成物、それを用いた接着シート及びカバーレイフィルム

【課題】ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有する硬化物を与えるハロゲンを含まない接着剤組成物を提供する。
【解決手段】(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、(B)Mwが1万〜10万であり、Tgが70℃以上のフェノキシ樹脂、(C)硬化剤、(D)ホスファゼン化合物、(E)熱可塑性樹脂からなり、N2/(N1+N2)=0.05〜0.9及びN4/(N1+N2+N3+N4)=0.01〜0.3[式中、N1、N2、N3はそれぞれ(A−1)、(A−2)、(B)成分の質量である。]で表される関係を満たすことを特徴とするハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えるハロゲンを含有しない接着剤組成物、それを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野の発展が目覚ましく、特にパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、ハードディスクドライブ等の通信用・民生用の電子機器の小型化、薄型化、軽量化、回路の高密度化が進み、これらの性能に対する要求がますます高度なものとなっている。このような要求に対して、フレキシブル印刷回路基板(以下、FPCと記す。)は可撓性を有し、繰り返し屈曲に耐えるため、狭い空間に立体的に高密度の実装が可能であり、電子機器への配線、ケーブル、コネクター機能等を付与した複合部品として、その用途が拡大しつつある。
【0003】
FPCとは、FPC用基板に常法により回路を作製し、使用目的によってはこの回路を保護するような形でカバーレイフィルムを貼り合わせたものである。上述の通り、電子機器の小型化等に伴い、FPCを4層以上重ねた多層FPCの需要が高まっている。この多層FPCは、接着シートを用いて、片面銅箔若しくは両面銅箔FPCを2枚以上積層することで、多層構造を得るものである。これらFPCに要求される特性としては、接着性、半田耐熱性、屈曲性、耐折性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性等が挙げられる。
【0004】
FPCに使用される接着シートとは、離型基材の片面に半硬化状態の接着剤層を備えたものである。接着シートはカバーレイフィルムを圧着して作製した複数のFPCを貼り合わせて多層FPCを製造する場合やFPCと補強板とを貼り合わせる場合等の接着材料として使用される。更に、従来、カバーレイフィルムが用いられてきた銅配線の絶縁材料としての利用や一対のFPCの銅配線面同士を貼り合わせる層間絶縁材としての利用も検討されている。接着シートに要求される特性としては、高いガラス転移温度、接着性、半田耐熱性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性、保存性、加工性、ハンドリング性等が挙げられる。
【0005】
FPCに使用されるカバーレイフィルムとは、電気絶縁性の基材フィルムの少なくとも片面に半硬化状態の接着剤を塗布してなり、通常、その接着剤塗布層には保護用の離型シートが貼り合わされている。離型シートは、使用に際し、剥離され、露出した接着剤層を貼り付けて、FPCの回路保護や屈曲性の向上等を目的として使用されている。カバーレイフィルムに要求される特性としては、高いガラス転移温度、接着性、半田耐熱性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、難燃性、保存性、加工性、ハンドリング性等が挙げられる。
【0006】
近年では、電子機器の高機能化に伴い、FPCのおかれる環境がますます厳しくなってきている。特に、FPCを高温下で繰り返し屈曲させて使用する機会や部品をワイヤーボンディングにより実装する機会等が増えてきており、これに伴い、FPCに使用される接着剤に対して、高いガラス転移温度や高い貯蔵弾性率、高温下での優れた屈曲性が必要になってきている。更に、環境問題を背景として、電子機器に実装される部品に対してハロゲン化合物の使用を禁止する傾向があり、従来、FPCを難燃化するために用いられてきた臭素化合物の使用が困難となってきている。
【0007】
そのため、FPC用基板に関しては、ガラス転移温度が高い接着剤を使用したものや接着剤を使用しないで金属箔と耐熱性樹脂を貼り合せた二層構造の材料等が提案されており、また、接着剤に難燃剤として臭素化合物の代わりに燐系難燃剤を添加してハロゲンを使用しないで難燃化する手法が取られている。これに対して、接着シート及びカバーレイフィルムに関しては、加工性や保存性の観点から、ガラス転移温度が高い接着剤を使用し、かつ燐系難燃剤を使用して、ハロゲンを使用しないで難燃化したものが提案されている。
【0008】
その具体例としては、例えば、熱可塑性樹脂、燐含有フェノキシ樹脂、燐含有エポキシ樹脂及び硬化剤からなる接着剤組成物(特開2003−176470号公報:特許文献1)、エポキシ樹脂、硬化剤、フェノキシ樹脂、ゴム成分及び硬化促進剤からなる樹脂組成物(特開2003−286391号公報:特許文献2)、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂及び硬化剤からなる樹脂組成物(特開平11−279260号公報:特許文献3)、アクリルゴム、フェノキシ樹脂及び硬化剤からなる接着剤組成物(特開2004−136631号公報:特許文献4)、燐含有フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、カルボキシル基含有ブタジエンゴム、硬化剤、硬化促進剤、金属水酸化物及び無機充填剤からなる接着剤組成物(特開2003−292927号公報:特許文献5)、エポキシ樹脂、多官能アラルキルフェノール、硬化促進剤、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム等のエラストマー、ホスファゼン化合物及び無機充填剤からなる接着剤組成物(特開2004−075748号公報:特許文献6)等が提案されている。
【0009】
しかしながら、いずれの接着剤組成物も、その硬化物が、ガラス転移温度が高く、加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性及び耐熱性が同時に優れ、かつハロゲンを含まずに難燃性に優れたものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−176470号公報
【特許文献2】特開2003−286391号公報
【特許文献3】特開平11−279260号公報
【特許文献4】特開2004−136631号公報
【特許文献5】特開2003−292927号公報
【特許文献6】特開2004−075748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えるハロゲンを含有しない接着剤組成物、それを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を達成するため、鋭意検討を行なった結果、
(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して20〜400質量部、
(C)硬化剤:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜60質量部、
(D)ホスファゼン化合物:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して5〜150質量部、
(E)熱可塑性樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜200質量部
を含有してなり、
式:N2/(N1+N2)=0.05〜0.9、及び
式:N4/(N1+N2+N3+N4)=0.01〜0.3
[式中、N1は(A−1)成分の質量であり、N2は(A−2)成分の質量であり、N3は(B)成分の質量であり、N4は(E)成分の質量である。]
で表される関係を満たすハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物が、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与えるハロゲンを含有しない接着剤組成物であり、それを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムに有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、下記難燃性接着剤組成物、それを用いた接着シート及びカバーレイフィルムを提供する。
請求項1:
(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して20〜400質量部、
(C)硬化剤:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜60質量部、
(D)ホスファゼン化合物:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して5〜150質量部、
(E)熱可塑性樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜200質量部
を含有してなり、
式:N2/(N1+N2)=0.05〜0.9、及び
式:N4/(N1+N2+N3+N4)=0.01〜0.3
[式中、N1は(A−1)成分の質量であり、N2は(A−2)成分の質量であり、N3は(B)成分の質量であり、N4は(E)成分の質量である。]
で表される関係を満たすことを特徴とするハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物。
請求項2:
接着剤組成物中のリン含有率が1.8〜6.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着剤組成物。
請求項3:
硬化後のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性接着剤組成物。
請求項4:
硬化後の80℃における貯蔵弾性率が0.8〜7.0GPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性接着剤組成物。
請求項5:
離型基材層と、該離型基材層上に設けられた請求項1〜4のいずれか1項記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有することを特徴とする接着シート。
請求項6:
電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた請求項1〜4のいずれか1項記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有することを特徴とするカバーレイフィルム。
請求項7:
電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項6記載のカバーレイフィルム。
請求項8:
接着剤層上に更に離型基材層を有することを特徴とする請求項6又は7記載のカバーレイフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明の組成物によれば、硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有するものであり、該組成物への少ない無機充填剤の配合量にもかかわらず、硬化物の接着性及び難燃性を低下させることなく、効果的に半田耐熱性及び耐吸湿性を向上させることができる。
従って、該組成物を用いて作製した接着シート及びカバーレイフィルムも、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有するため、特にFPC等の分野で好適に利用及び応用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は片面フレキシブル印刷配線用基板の長手方向に形成された回路の平面図であり、(B)は(A)図のA部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は、熱硬化性接着剤組成物であり、例えば、接着シート、カバーレイフィルムの製造等に用いられる。また、本発明の接着剤組成物は、上記の(A−1)〜(E)成分を含有してなるものであり、必要に応じて、溶剤等の任意成分を含有させてもよい。
以下、上記の(A−1)〜(E)成分について、詳しく説明する。
【0017】
〔(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂〕
(A−1)成分である1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂は、分子骨格内にハロゲン原子を含まないものであり、通常、重量平均分子量が10,000未満のエポキシ樹脂が好ましく、1分子中に2個のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されてもよい。また、分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
なお、上記重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算値であり、以下、(A−1)成分以外の他の成分についても同様である。
【0018】
そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、スチルベンゼン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、商品名で、jER828、同871、同1001(三菱化学製)、スミエポキシELA115、同127(住友化学工業製)、エピクロン830S(DIC製)等が挙げられる。
【0019】
1分子中に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、柔軟性及び接着性の向上に効果がある。
【0020】
(A−1)成分の1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0021】
〔(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂〕
(A−2)成分である1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂は、分子骨格内にハロゲン原子を含まないものであり、通常、重量平均分子量が10,000未満のエポキシ樹脂が好ましく、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されず、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されてもよい。また、分子骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0022】
そのようなエポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ポリフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリスフェノールトリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。市販品では、例えば、商品名で、jER604(ジャパンエポキシレジン製)、スミエポキシESCN195X、同ELM120(住友化学工業製)、EOCN103S、EPPN502H(日本化薬製)、テクモアVG3101L(プリンテック製)等が挙げられる。
【0023】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂は、耐熱性、屈曲性及び硬化後接着剤のガラス転移温度の向上に効果がある。
【0024】
(A−2)成分の1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0025】
〔(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂〕
(B)成分であるフェノキシ樹脂は、重量平均分子量が10,000〜100,000であり、かつガラス転移温度が70℃以上のものである。更に、分子鎖両末端にエポキシ基を有することが好ましく、分子鎖両末端にエポキシ基を有しない場合には、硬化物の耐溶剤性、半田耐熱性、特に吸湿時の半田耐熱性が低下することがある。
【0026】
重量平均分子量は、10,000〜100,000、好ましくは20,000〜100,000であり、より好ましくは30,000〜80,000である。重量平均分子量が10,000未満である場合には、硬化物は耐熱性、柔軟性に劣ることがあり、100,000を超える場合には、硬化物は安定性に劣ることがあり、後述の有機溶剤を用いる場合には、特に本成分の溶剤への溶解性が低下することがある。
【0027】
ガラス転移温度は、70℃以上、好ましくは70〜200℃、より好ましくは90〜160℃である。ガラス転移点が70℃未満である場合には、硬化物のガラス転移温度及び貯蔵弾性率が低くなることがあり、更に高温条件下での屈曲性が低下することがある。200℃を超える場合には、該硬化物の剥離強度が劣ることがある。
【0028】
(B)成分のフェノキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂とビスフェノールS型フェノキシ樹脂の共重合フェノキシ樹脂等が挙げられる。
【0029】
(B)成分のフェノキシ樹脂の配合量は、接着剤の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して、20〜400質量部であり、30〜250質量部であることがより好ましく、40〜150質量部であることが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、半田耐熱性、ガラス転移温度、加工性がより良好なものとなる。
【0030】
(B)成分のフェノキシ樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
〔(C)硬化剤〕
(C)成分である硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられる公知のものでよい。かかる硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤;レゾール型、ノボラック型等のフェノール樹脂;無水フタル酸、無水ピロメリト酸、無水トリメリト酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤;2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のトリオルガノホスフィン;ジシアンジアミド;三フッ化ホウ素アミン錯塩、硼弗化錫、硼弗化亜鉛等の硼弗化物;オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等のオクチル酸塩等が挙げられ、好ましくは、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物、ジシアンジアミド、オクチル酸塩、特に好ましくは、芳香族アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イミダゾール化合物、硼弗化物が挙げられる。
【0032】
(C)成分の硬化剤の配合量は、(A−1)及び(A−2)成分のエポキシ当量、接着剤の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して、1〜60質量部であり、5〜50質量部であることがより好ましく、10〜40質量部であることが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、半田耐熱性、耐溶剤性、ガラス転移温度、電気絶縁性がより良好なものとなる。
【0033】
(C)成分の硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
〔(D)ホスファゼン化合物〕
(D)成分であるホスファゼン化合物は、分子中にリン原子と窒素原子とを含有するために、得られるFPCにおいて、難燃性を付与する成分として作用する。前記ホスファゼン化合物は、ハロゲン原子を含有せず、分子中にホスファゼン構造を持つ化合物であれば、特に限定されない。
【0035】
ここで、ホスファゼン構造とは、下記式:
【化1】

[式中、Rは一価の有機基又はアミノ基等である。]
で表される構造を意味する。
【0036】
このようなホスファゼン化合物としては、耐熱性、耐湿性、難燃性及び耐薬品性の点から、例えば、シクロホスファゼンオリゴマーが好ましい。このシクロホスファゼンオリゴマーは、下記一般式(1)
【化2】

[式中、Yは同一又は異種のハロゲン原子を含まない一価の有機基又はアミノ基であり、nは3〜10の整数である。]
で示されるものであり、その融点は、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは90〜150℃であり、特に好ましくは100〜150℃である。上記式中、nは好ましくは3〜9、より好ましくは3〜6の整数であり、Yで表されるハロゲン原子を含まない有機基又はアミノ基としては、例えば、炭素数1〜6のアルコキシ基、フェノキシ基、アミノ基、アリル基等が挙げられる。
【0037】
(D)成分のホスファゼン化合物の配合量は、接着剤の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して、5〜150質量部であり、30〜120質量部であることがより好ましく、40〜100質量部であることが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の難燃性、接着性、半田耐熱性、電気絶縁性がより良好なものとなる。
【0038】
(D)成分のホスファゼン化合物は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0039】
〔(E)熱可塑性樹脂〕
(E)成分である熱可塑性樹脂は、常温下(25℃程度)でゴム弾性を有しない高分子量の熱可塑性樹脂である。具体的には、分子内にエステル基、ウレタン基、エーテル基、アミド基の骨格をもつ高分子量の熱可塑性樹脂であり、ポリエステルウレタン、ポリエーテルエステルアミドなどが挙げられる。このようなゴム弾性を有しない高分子量の熱可塑性樹脂を用いることで、得られる接着剤組成物は、ガラス転移温度を下げることなく、加工性に優れたものとなる。
【0040】
(E)成分である熱可塑性樹脂は、分子中にカルボキシル基、アミノ基、水酸基等の反応性の官能基を含有していてもよい。これらの反応性の官能基を含有していると、得られる接着剤組成物をカバーレイフィルムに適応した場合には、熱プレス処理して積層一体化する際に接着剤組成物が適度な流れ性を発現するため、有効である。更に、(E)成分である熱可塑性樹脂は、リン原子、硫黄原子、窒素原子等を含有していてもよい。これらの原子を含有していると難燃性や接着性等の向上に効果がある。
【0041】
(E)成分である熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、商品名で、「バイロン」シリーズ(東洋紡製、カルボキシルキ含有ポリエステル樹脂)、「TPAE」シリーズ(富士化成製、ポリエーテルエステルアミド)等が挙げられる。
【0042】
(E)成分の熱可塑性樹脂の配合量は、接着剤組成物の硬化状態、硬化物の特性のバランス等を考慮して決められるが、(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して、1〜200質量部であり、5〜100質量部であることがより好ましく、10〜70質量部であることが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物のガラス転移温度、加工性、接着性、半田耐熱性がより良好なものとなる。
【0043】
なお、(E)成分の熱可塑性樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0044】
〔その他の任意成分〕
上記(A−1)〜(E)成分以外にも、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤、難燃剤、カップリング剤、酸化防止剤、イオン吸着剤、無機充填剤等の任意成分を添加しても良い。
【0045】
溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル2−ピロリドン、ジオキソラン等が挙げられ、好ましくは、MEK、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノンが挙げられる。これらの溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用しても良い。
【0046】
ここで、接着剤溶液の固形成分濃度は20〜50質量%であればよく、更に好ましくは25〜40質量%である。固形分濃度が20質量%未満では接着剤の塗工時に厚みムラが生じる可能性が高く、50質量%を超えると接着剤の粘度が高いために塗工性が悪くなるという問題が生じる。
【0047】
また、接着剤組成物には、無機充填剤を添加することが望ましい。無機充填剤は、硬化物の難燃性の補助、剥離状態の安定性(接着剤の凝集剥離)の向上、耐吸湿性の安定化等を目的として配合される成分である。この無機充填剤は、従来、カバーレイフィルム又は接着シートに使用されているものであれば特に限定されない。無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、及びホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物であり、特に好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム及びホウ酸亜鉛である。これらの無機充填剤の樹脂マトリックスへの密着性や耐水性を向上させ、硬化物の耐熱性、耐吸湿性等を向上させるために、該無機充填剤の表面が、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等により疎水化処理されていることが好ましい。
【0048】
無機充填剤の配合量は、(A−1)〜(E)成分の合計に対して、少量でよく、通常、1〜15質量%となる量であり、より好ましくは1〜10質量%となる量である。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性、半田耐熱性、耐吸湿性がより良好なものとなる。特に、配合量が15質量%を超えると硬化物のガラス転移温度、屈曲性、接着性が低下することがある。なお、無機充填剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0049】
以上の各成分を混合する場合には、その順序は特に限定されないが、添加される成分の溶解性や得られる接着剤溶液の粘度を考慮して適宜決められる。混合には、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いることができる。
【0050】
〔接着剤組成物中の(A−1)、(A−2)の配合比率〕
接着剤組成物中の、(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂の配合比は、
式:N2/(N1+N2)=0.05〜0.9
[式中、N1は(A−1)成分の質量であり、N2は(A−2)成分の質量である。]
で表される関係を満たすものであり、
2/(N1+N2)=0.05〜0.7
を満たすことがより好ましく、
2/(N1+N2)=0.05〜0.6
を満たすことが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の接着性及び屈曲性がより良好なものとなる。
【0051】
〔接着剤組成物中の(A−1)、(A−2)、(B)、(E)成分の配合比率〕
接着剤組成物中の、(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂、(E)熱可塑性樹脂の配合比は、
式:N4/(N1+N2+N3+N4)=0.01〜0.3
[式中、N1は(A−1)成分の質量であり、N2は(A−2)成分の質量であり、N3は(B)成分の質量であり、N4は(E)成分の質量である。]
で表される関係を満たすものであり、
4/(N1+N2+N3+N4)=0.05〜0.25
を満たすことがより好ましく、
4/(N1+N2+N3+N4)=0.05〜0.2
を満たすことが特に好ましい。この配合量がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性及び加工性がより良好なものとなる。
【0052】
〔接着剤組成物の硬化後のガラス転移温度及び貯蔵弾性率〕
本発明の接着剤組成物(接着剤溶液の場合も含む)は、該組成物を、40〜200℃、好ましくは80〜180℃、より好ましくは120〜180℃で加熱処理することにより、硬化させることができる。
【0053】
硬化後の接着剤組成物のガラス転移温度は、90℃以上が好ましく、90〜180℃がより好ましく、90〜160℃が特に好ましい。ガラス転移温度がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性、加工性、接着性、半田耐熱性がより良好なものとなる。
【0054】
更に、硬化後の80℃での貯蔵弾性率は、0.8〜7.0GPaが好ましく、0.9〜5.0GPaが特に好ましい。80℃での貯蔵弾性率がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性(特に80℃付近の高温下での屈曲性)、半田耐熱性がより良好なものとなり、ハードディスクドライブなど、高温下で繰り返し屈曲させて使用されるFPCのカバーレイフィルム用の接着剤組成物として、好適に使用することができる。
【0055】
更に、硬化後の25℃での貯蔵弾性率は、1.0〜7.0GPaが好ましく、1.0〜5.0GPaが特に好ましい。25℃での貯蔵弾性率がかかる範囲を満たすと、硬化物の屈曲性(特に25℃付近の常温下での屈曲性)、加工性、接着性、半田耐熱性がより良好なものとなり、携帯電話など、常温下で繰り返し屈曲させて使用されるFPCのカバーレイフィルム用の接着剤組成物として、好適に使用することができる。
【0056】
〔接着剤組成物中のリン元素の割合〕
更に、本発明では、リン元素の全有機基樹脂成分に対する割合が、1.8〜6.0質量%であることが必要であり、2.0〜5.0質量%であることが好ましく、2.0〜3.5質量%であることがより好ましい。この割合が1.8質量%未満であると、得られる接着剤組成物の難燃性を満足することが難しく、6.0質量%を超えると、接着剤組成物における(D)成分のホスファゼン化合物等の割合が大きくなり、接着剤組成物の接着性、半田耐熱性、屈曲性、耐溶剤性、電気絶縁性(マイグレーション性)等が低下する。
【0057】
<接着シート>
〔構成〕
本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有する接着シートは、離型基材と、該離型基材上に設けられた該接着層とを有するものである。具体的には、例えば、離型基材と接着剤層とを有する2層構造、若しくは接着剤層と該接着剤層の両面に設けられた離型基材とを有する3層構造等が挙げられる。FPC製造時の加工方法等に応じて、2層構造若しくは3層構造のいずれかを適宜選択すればよい。この接着剤層の厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、10〜50μmが好ましく、より好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0058】
離型基材は、必要に応じて、接着剤層の形態を損なうことなく該接着剤層から剥離できるフィルム状材料であれば特に限定されない。離型基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、シリコーン離型基材付きPEフィルム、シリコーン離型基材付きPPフィルム等の離型フィルム;PE樹脂コート紙、PP樹脂コート紙、TPX樹脂コート紙等の離型紙が挙げられる。離型基材の厚さは、必要に応じて適宜選択すればよいが、例えば、離型基材が離型フィルムである場合、該基材の厚さは13〜75μmであることが好ましく、離型基材が離型紙である場合、該基材の厚さは50〜200μmであることが好ましい。
【0059】
〔製造方法〕
次に、本発明の接着シートの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて離型基材片面に塗布する。この接着剤組成物溶液を塗布した離型基材をインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物溶液中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とし、2層構造の接着シートとする。更に、この接着シートの接着剤組成物の塗布面に別の離型基材を、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、3層構造の接着シートとする。離型基材は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態で、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【0060】
<カバーレイフィルム>
〔構成〕
本発明の接着剤組成物を用いて形成される接着剤層を有するカバーレイフィルムは、電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた該接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルムと接着剤層と該接着剤層上に設けられた離型基材とを有する3層構造が挙げられる。この接着剤層の厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、10〜50μmが好ましく、より好ましくは15〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0061】
電気絶縁性フィルムとしては、例えば、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維やアラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスとなるエポキシ樹脂や、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂を含浸して、フィルム状又はシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられ、耐熱性、寸法安定性、機械特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0062】
この電気絶縁性フィルムの厚さとしては、使用目的により任意の厚さを選択してよいが、12.5〜75μmが好ましく、より好ましくは12.5〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤層との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面又は両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。なお、離型基材は、前記接着シートの項で説明した通りである。
【0063】
〔製造方法〕
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた場合を一例として説明する。
まず、予め調製された有機溶剤を含有する接着剤組成物溶液を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて電気絶縁性フィルム片面に塗布する。この接着剤組成物溶液を塗布したフィルムをインラインドライヤーに通して40〜160℃で2〜20分間加熱処理して、接着剤組成物溶液中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とする。次いで、このフィルムの接着剤組成物の塗布面と離型基材とを、加熱ロールにより、線圧0.2〜20kg/cm、温度40〜120℃の条件で圧着させ、カバーレイフィルムとする。離型基材は使用に際して剥離される。
【0064】
本発明の接着シート及びカバーレイフィルムは、常法に従いFPCを作製するのに用いることができる。FPCの作製過程において、半硬化状態の接着剤層は、接着シート及びカバーレイフィルムの一方又は両方を貼り合せるたびに完全に硬化させてもよいし、最終的なFPCの構成を組み上げてから完全に硬化させてもよい。本発明の接着シート及びカバーレイフィルム中の半硬化状態の接着剤層は、例えば、1〜5MPaの加圧下、140〜180℃で40〜120分加熱することにより完全に硬化させることができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明について、より詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をなんら限定するものではない。
実施例及び比較例で用いた(A−1)〜(E)成分及びその他成分としては、具体的には以下のものを用いた。
【0066】
<接着剤組成物の成分>
(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂
・[a−1]jER828(商品名)(三菱化学製、重量平均分子量:約370、エポキシ当量:約189g/eq)
・[a−2]jER1001(商品名)(三菱化学製、重量平均分子量:約900、エポキシ当量:約475g/eq)
・[a−3]エピクロン830S(商品名)(DIC製、重量平均分子量:約340、エポキシ当量:約170g/eq)
【0067】
(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂
・[a−4]jER604(商品名)(三菱化学製、重量平均分子量:約500、エポキシ当量:約109g/eq)
・[a−5]テクモアVG3101L(商品名)(プリンテック製、重量平均分子量:約600、エポキシ当量:約210g/eq、)
・[a−6]EOCN−103S(商品名)(日本化薬製、重量平均分子量:2,000以下、エポキシ当量:約214g/eq、)
【0068】
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂
・[b−1]ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(重量平均分子量:約53,000、ガラス転移温度:約95℃、分子鎖両末端にエポキシ基を有する)
・[b−2]ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合フェノキシ樹脂(共重合比率:ビスフェノールA型/ビスフェノールF型=50/50(重量比)、重量平均分子量:約60,000、ガラス転移温度:約80℃、分子鎖両末端にエポキシ基を有する)
【0069】
(C)硬化剤
・[c−1]4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
・[c−2]4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
・[c−3]1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール
・[c−4]ホウフッ化錫45質量%水溶液
【0070】
(D)ホスファゼン化合物
・[d−1]下記式(2)に示すシクロホスファゼン化合物(n=3〜6の混合物、燐含有率:約13%)
【化3】

・[d−2]下記式(3)に示すシクロホスファゼン化合物(n=3〜6の混合物、燐含有率:約12%)
【化4】

【0071】
(E)熱可塑性樹脂
・[e−1]バイロンUR3575(商品名)(東洋紡製、カルボキシル基含有燐含有ウレタン変性ポリエステル樹脂、燐含有率:約2.5%、重量平均分子量:約20,000)
・[e−2]バイロン237(商品名)(東洋紡製、燐含有ポリエステル樹脂、燐含有率:約3.1%、重量平均分子量:約25,000)
・[e−3]TPAE−826−5A(商品名)(富士化成製、アミノ基含有ポリエーテルエステルアミド樹脂、重量平均分子量:約15,000)
【0072】
その他成分
・[f−1]ニポール1072B(商品名)(日本ゼオン製、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、ガラス転移温度:0℃以下)
【0073】
<使用材料>
・カプトン100H(商品名)(東レデュポン製、ポリイミドフィルム、厚さ:25μm)
・アピカルNPI(商品名)(カネカ製、ポリイミドフィルム、厚さ:12.5μm)
・Y7TF(商品名)(リンテック製、離型紙、厚さ:約130μm)
・PET38X(商品名)(リンテック製、離型フィルム、厚さ:約38μm)
・HTE(商品名)(三井金属製、電解銅箔、厚さ:18μm及び35μm)
・RAS22S47(商品名)(信越化学工業製、片面三層フレキシブル印刷配線用基板、カプトン50H/接着剤層の厚さ:13μm/圧延銅箔18μm)
・KN16SR18P(商品名)(信越化学工業製、片面フレキシブル印刷配線用基板、アピカルNPI/圧延銅箔18μm)
【0074】
<実施例1〜6、比較例1〜7>
表1に示す配合比(質量部)で、接着剤組成物の各成分を混合し、混合物を調整した。この混合物を、MEK/トルエンの混合溶剤(MEK:トルエン=80:20(質量比))に溶解させ、均一になるようにボールミルを用いて十分に攪拌し、不揮発性成分の合計濃度が38質量%の接着剤組成物(溶液状態)を調製した。
【0075】
次に、この接着剤組成物を、離型フィルム(商品名:PET38X)上に、乾燥後の接着剤層の厚さが25μmとなるようにリバースロールコーターを用いて塗布した。その後、140℃、10分の加熱乾燥条件でMEK及びトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態とした。この半硬化状態の接着剤組成物の付いたフィルムの接着剤面に、離型紙(商品名:Y7TF)を温度70℃、線圧2kg/cmの条件でロールラミネーターを用いて圧着し、接着剤シートを作製した。
【0076】
また、離型フィルムをポリイミドフィルム(商品名:カプトン100H、厚さ:25μm)に変更した以外は、接着シートの作製と同様の工程により、カバーレイフィルムを作製した。
【0077】
これらの接着シート及びカバーレイフィルムについて、下記の評価・測定方法に従って、物性の評価・測定を行った。結果を表1に示す。なお、接着シート及びカバーレイフィルムの離型基材は剥離してからサンプルの作製に用いた。
【0078】
<評価・測定方法>
(評価用サンプルの構成)
以下のサンプル1〜3を、160℃、5.0MPa、60分のプレス加工条件で加熱圧着し、剥離強度、半田耐熱性、ガラス転移温度及び貯蔵弾性率の評価用サンプルとして用いた。
・サンプル1:接着シートの両面を2枚のRAS22S47のフィルム面で被覆したもの
・サンプル2:カバーレイフィルムの接着剤層とHTE箔(35μm)の光沢面とを接着したもの
・サンプル3:接着シートの両面を2枚のHTE箔(35μm)の光沢面で被覆したもの
【0079】
(物性評価・測定方法)
1.剥離強度(JIS C6471に準ずる)
・剥離強度A:サンプル1を10mm幅にカットして試験片1を作製し、該試験片1について、25℃の条件下でRAS22S47を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
・剥離強度B:サンプル2を10mm幅にカットして試験片2を作製し、該試験片2について、25℃の条件下でHTE箔を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に50mm引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し、剥離強度とした。
【0080】
2.半田耐熱性(JIS C6471に準ずる)
・常態半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片3を作製し、該試験片3を80℃で10分間乾燥した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、該試験片3の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度を測定した。
・吸湿半田耐熱性:サンプル2を25mm角にカットして試験片4を作製し、該試験片4を40℃、90%RHで1時間静置した後、半田浴上に30秒間浮かべた。その後、常態半田耐熱性の項と同様にして最高温度を測定した。
【0081】
3.ガラス転移点温度(Tg)及び80℃における貯蔵弾性率
サンプル3を150℃で4時間加熱処理した後、HTE箔を塩化第二鉄水溶液で除去して接着シートを作製し、この接着シートをカットして試験片5(10mm×50mm)を作製した。試験片5を用いて、粘弾性測定装置(商品名:RSAIII、レオメトリック社製)により、昇温条件を5℃/分に設定して、接着剤のTg及び貯蔵弾性率を測定した。なお、Tgはtanδのピーク(極大値)とし、貯蔵弾性率は80℃における値とした。
【0082】
4.耐マイグレーション性
HTE箔(18μm)の処理面とカバーレイフィルムの組成物層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:60分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。そのプレスサンプルの銅箔をエッチング処理し、一対の櫛型電極からなる100μmピッチ(ライン幅/スペース幅=50μm/50μm)の櫛型回路を作製した。この櫛型回路が作製された面に対し、別のカバーレイフィルムの組成物層をプレス装置(温度:160℃、圧力:3MPa、時間:60分)にて貼り合わせ、耐マイグレーション性測定用サンプルを作製した。
温度85℃、相対湿度85%の条件下で、この測定用サンプルの2つの櫛型電極の各々の端部にマイグレーションテスター(IMV社製、商品名:MIG−87)を用いて50Vの直流電圧を印加して、耐マイグレーション性を評価した。電圧印加後、1,000時間以内に導体間で短絡(抵抗値の低下)が発生した場合、若しくは1,000時間経過後デンドライトの成長が認められた場合を「不良」と評価し×で示し、1,000時間経過後も抵抗値を維持し、かつデンドライトを生じなかった場合を「良」と評価し○で示した。
【0083】
5.測定温度80℃の条件下での屈曲性
図1に示すように、KN16SR18PのMD方向(Machine Direction:長手方向)に沿って、その銅箔面をエッチング処理して残存した銅箔2(導線)による6往復、150μmピッチ(銅箔幅75μm、銅箔間隔75μm)の回路1を作製した。これにカバーレイフィルムを160℃、5.0MPa、60分の条件でプレス圧着し、更に、150℃で4時間加熱処理を行い、屈曲性測定用サンプルとした。このサンプルについて、高速屈曲試験機(商品名:SEK−31C4S、信越エンジニアリング製)を用いて、屈曲半径1.5mm、屈曲速度600rpm、ストローク30mm、及び、測定温度80℃の条件で、測定方向をカバーレイ内側として、電気抵抗が初期値から20%上昇した時点までの屈曲回数をカウントした。屈曲回数が500万回未満の場合を「不良」と評価し×で示し、屈曲回数が500万回以上の場合を「良」と評価し○で示した。
【0084】
6.難燃性
UL94VTM−0難燃性規格に準拠して、カバーレイフィルムの難燃性を測定した。UL94VTM−0規格を満足する難燃性を示した場合を「良」と評価し○で示し、該サンプルがUL94VTM−0規格を満足しなかった場合を「不良」と評価し×で示した。
【0085】
7.加工性
カバーレイフィルムを180度方向に折り曲げて開いて、接着剤層の折れ、欠けを目視により確認した。接着剤層に折れ及び欠けが認められなかった場合を加工性が良好と評価して○と示し、接着剤層に折れ又は欠けの少なくとも一方が認められた場合を加工性が不良と評価して×と示した。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
<評価結果>
実施例1〜6で調製した組成物は、本発明の要件を満足するものであって、ハロゲフリーでありながら、ガラス転移温度が高く、優れた加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有していた。
一方、比較例1〜7で調製した組成物は、本発明の要件を満足しないものであって、ガラス転移温度、加工性、屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性の少なくとも一種の特性が、実施例で調製したものに比べて劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、ハロゲンフリーでありながら、ガラス転移温度が高く、優れた屈曲性、電気絶縁性(耐マイグレーション性)、接着性、半田耐熱性及び難燃性を有し、特にフレキシブル印刷回路基板に好適に使用可能な硬化物を与える接着剤組成物、それを用いた接着剤シート及びカバーレイフィルムを得ることができるので、その工業的利用価値は高い。
【符号の説明】
【0090】
1 片面フレキシブル印刷配線用基板の長手方向に形成された回路
2 銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A−1)1分子中にエポキシ基を2個有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(A−2)1分子中にエポキシ基を3個以上有するハロゲンを含まないエポキシ樹脂、
(B)重量平均分子量が10,000〜100,000であり、ガラス転移温度が70℃以上のフェノキシ樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して20〜400質量部、
(C)硬化剤:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜60質量部、
(D)ホスファゼン化合物:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して5〜150質量部、
(E)熱可塑性樹脂:(A−1)及び(A−2)成分の合計100質量部に対して1〜200質量部
を含有してなり、
式:N2/(N1+N2)=0.05〜0.9、及び
式:N4/(N1+N2+N3+N4)=0.01〜0.3
[式中、N1は(A−1)成分の質量であり、N2は(A−2)成分の質量であり、N3は(B)成分の質量であり、N4は(E)成分の質量である。]
で表される関係を満たすことを特徴とするハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物。
【請求項2】
接着剤組成物中のリン含有率が1.8〜6.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項3】
硬化後のガラス転移温度が90℃以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項4】
硬化後の80℃における貯蔵弾性率が0.8〜7.0GPaであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の難燃性接着剤組成物。
【請求項5】
離型基材層と、該離型基材層上に設けられた請求項1〜4のいずれか1項記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有することを特徴とする接着シート。
【請求項6】
電気絶縁性フィルムと、該電気絶縁性フィルム上に設けられた請求項1〜4のいずれか1項記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有することを特徴とするカバーレイフィルム。
【請求項7】
電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項6記載のカバーレイフィルム。
【請求項8】
接着剤層上に更に離型基材層を有することを特徴とする請求項6又は7記載のカバーレイフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241147(P2012−241147A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114608(P2011−114608)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】