説明

難燃性接着剤組成物、ならびにそれを用いた接着シート、カバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板

【課題】
硬化物が優れた難燃性、耐マイグレーション性を示す、非ハロゲン系接着剤組成物、並びに該組成物を用いた接着シート、カバーレイフィルム及びフレキシブル銅張積層板を提供する。
【解決手段】
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(B)熱可塑性樹脂及び/又は合成ゴム、
(C)硬化剤、
(D)有機ホスフィン酸塩化合物、
(E)硬化促進剤、並びに
(F)下記一般式:
【化1】


(式中、R1〜R4は水素原子又はアルキル基、Xは窒素含有2価有機基を表す)
で表される窒素含有有機リン酸化合物
を含有する難燃性接着剤組成物;該組成物からなる層と該組成物からなる層を被覆する保護層とを有する接着シート;電気絶縁性フィルムと該フィルム上に設けられた該組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム;電気絶縁性フィルムと該フィルム上に設けられた該組成物からなる層と銅箔とを有するフレキシブル銅張積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化させて得られる硬化物が難燃性に優れ、かつハロゲンを含有しない接着剤組成物、ならびに該組成物を用いた接着シート、カバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体封止材料、ガラスエポキシ系銅張積層板等の電子材料に使用される接着剤は、従来、臭素を含有したエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等を配合することにより優れた難燃性を示すものである。臭素等のハロゲンを含む化合物を燃焼させた場合には、ダイオキシン系化合物等の有害ガスが発生する懸念があることから、近年、接着剤に使用される材料の非ハロゲン化が検討されている。
【0003】
一方、上記ガラスエポキシ系銅張積層板に比べてより薄型であり、柔軟性を付加した材料としてフレキシブル銅張積層板が広く使用されており、各種電子材料の薄型化、高密度化とともに市場規模が拡大している。フレキシブル銅張積層板とは、ポリイミドフィルムと銅箔とを接着剤を介して加熱することにより張り合わせ、その接着剤を熱硬化して得られる柔軟性を有した銅張積層板である。このフレキシブル銅張積層板に使用される接着剤についても、上述した電子材料に使用される接着剤と同様に、その材料の非ハロゲン化が検討されている。
【0004】
また、フレキシブル銅張積層板の銅箔を加工して配線パターンを形成した後に、その配線を保護するためにその配線パターン形成面を被覆する材料として接着剤の付いたポリイミドフィルム等の電気絶縁性フィルム(カバーレイフィルム)が使用される。これらのフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムの材料に求められる特性としては、例えば、電気絶縁性フィルムと銅箔との間の接着性、耐熱性、耐溶剤性、電気特性(耐マイグレーション性)、寸法安定性、保存安定性、難燃性等が挙げられる。さらに、カバーレイフィルムを圧着して作製したフレキシブル印刷配線用基板同士を貼り合せ、多層化、高密度化するために使用される接着性フィルム(接着シート)にもフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムと同様の特性が要求される。
【0005】
上記要求を満たすものとして、エポキシ樹脂、芳香族リン酸エステル、硬化剤および高純度アクリロニトリルブタジエンゴムを含有する接着剤組成物、ならびにそれを用いたフレキシブル銅張積層板およびカバーレイ(特許文献1)が知られているが、高純度アクリロニトリルブタジエンゴムは非常にコストが高く、一部の特殊な用途以外では大量に使用することは難しい。その他にも、エポキシ樹脂、芳香族リン酸エステル、窒素含有フェノールノボラック樹脂、および通常純度のアクリロニトリルブタジエンゴムを含有する接着剤組成物、ならびにそれを用いたフレキシブル銅張積層板およびカバーレイ(特許文献2)も知られているが、通常純度のアクリロニトリルブタジエンゴムを使用しているために耐マイグレーション性が低下するという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−339131号公報
【特許文献2】特開2001−339132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、硬化させて得られる硬化物が優れた難燃性、電気特性(耐マイグレーション性)を示す、ハロゲンを含有しない接着剤組成物、ならびに該組成物を用いた接着シート、カバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するために、
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(B)熱可塑性樹脂および/または合成ゴム、
(C)硬化剤、
(D)有機ホスフィン酸塩化合物、
(E)硬化促進剤、ならびに
(F)下記一般式(1):
【0009】
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は独立に水素原子またはアルキル基を表し、Xは窒素原子を含有する2価有機基を表す。)
で表される窒素含有有機リン酸化合物
を含有してなる難燃性接着剤組成物を提供する。
【0010】
本発明は第二に、前記組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する保護層とを有する接着シートを提供する。
【0011】
本発明は第三に、電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた前記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルムを提供する。
【0012】
本発明は第四に、電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた前記組成物からなる層と、銅箔とを有するフレキシブル銅張積層板を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物は、硬化させて得られる硬化物が難燃性、剥離強度、電気特性(耐マイグレーション性)および半田耐熱性に優れ、かつハロゲンを含有しないものである。したがって、この組成物を用いて作製した接着シート、カバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板も、難燃性、剥離強度、電気特性(耐マイグレーション性)および半田耐熱性に優れたものである。また、本発明の組成物の全成分を有機溶剤に溶解ないし分散させて所謂ワニスの状態に調製した場合でも、難燃成分等が沈殿しにくく、ワニス状態の組成物の安定性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<難燃性接着剤組成物>
以下、本発明の難燃性接着剤組成物の構成成分についてより詳細に説明する。なお、本明細書中で室温とは25℃を意味する。また、ガラス転移点(Tg)はDMA法により測定されたガラス転移点を意味する。
【0015】
〔(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂〕
(A)成分である非ハロゲン系エポキシ樹脂は、その分子内に臭素等のハロゲン原子を含まないエポキシ樹脂であり、好ましくは、一分子中に少なくとも平均2個のエポキシ基を有するものである。該エポキシ樹脂は特に限定されず、例えば、骨格内にシリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等を含有していてもよい。また、骨格内にリン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0016】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、またはそれらに水素添加したもの;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、商品名で、エピコート828(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)、エピクロン830S(大日本インキ化学工業製、一分子中のエポキシ基:2個)、エピコート517(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個);重量平均分子量が1,000以上のエポキシ樹脂である、EOCN103S(日本化薬製、一分子中のエポキシ基:2個以上)、YL7175−1000(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)等が挙げられる。
【0017】
また、上述したエポキシ樹脂に、反応性リン化合物を用いてリン原子を結合した各種リン含有エポキシ樹脂もハロゲンを含まない難燃性接着剤組成物を構成するのに有効に用いられる。そのような反応性リン化合物としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(三光(株)製、商品名:HCA)、この化合物のリン原子に結合している活性水素原子をヒドロキノンで置換した化合物(三光(株)製、商品名:HCA−HQ)等が挙げられる。そして、こうして得られるリン含有エポキシ樹脂の市販品としては、例えば、商品名で、FX305(東都化成(株)製、リン含有率:3質量%、一分子中のエポキシ基:2個以上)、エピクロンEXA9710(大日本インキ化学工業(株)製、リン含有率:3質量%、一分子中のエポキシ基:2個以上)等が挙げられる。
(A)成分の非ハロゲン系エポキシ樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
〔(B)熱可塑性樹脂・合成ゴム〕
・熱可塑性樹脂
(B)成分として用いることができる熱可塑性樹脂は、通常、そのガラス転移点(Tg)が室温(25℃)以上の高分子化合物である。その重量平均分子量は、通常1,000〜500万であり、好ましくは5,000〜100万である。該熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられ、中でもこれらの樹脂がカルボキシル基を含有していることが好ましい。カルボキシル基を含有していると、得られる組成物をカバーレイフィルムに適用した場合には、熱プレス処理して積層一体化する際に接着剤が適度な流れ性を発現する点で有効なためである(フロー特性)。この接着剤の流れが、フレキシブル銅張積層板上において、回路を形成する銅箔部分(配線パターン)を隙間なく被覆して保護する。また、銅箔とポリイミドフィルム等の電気絶縁性フィルムとの接着性を向上できる点でも有効である。
【0019】
前記カルボキシル基含有熱可塑性樹脂中におけるカルボキシル基の割合は、特に限定されないが、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜6質量%である。この割合が1〜10質量%の範囲を満たすと、カバーレイフィルムに適用した場合のフロー特性、半田耐熱性がより優れたものとなり、また接着剤組成物の安定性がより優れたものとなる。
【0020】
カルボキシル基含有熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、商品名で、「バイロン」シリーズ(東洋紡績製、カルボキシル基含有ポリエステル樹脂)、AW−5(共同薬品製、カルボキシル基含有アクリル樹脂)、SG−708−6T(ナガセケムテックス社製、カルボキシル基含有アクリル樹脂)、「KS」シリーズ(日立化成工業製、エポキシ基含有アクリル樹脂)等が挙げられる。
【0021】
その他の熱可塑性樹脂の市販品としては、例えば、商品名で、「YP」シリーズ・「ERF」シリーズ(東都化成製、フェノキシ樹脂)、エピコート1256(ジャパンエポキシレジン製、フェノキシ樹脂)、「バイロマックス」シリーズ(東洋紡績製、ポリアミドイミド樹脂)、「カヤフレックス」シリーズ(日本化薬製、ポリアミドイミド樹脂)等が挙げられる。
【0022】
次に、上記で例示した各熱可塑性樹脂の特徴を説明する。アクリル樹脂を含有する組成物をカバーレイフィルムに用いると、特に優れた耐マイグレーション性を有するものが得られる。フェノキシ樹脂またはポリアミドイミド樹脂を含有する組成物をカバーレイフィルムに用いると、屈曲性がより向上する。
【0023】
・合成ゴム
もう一つの(B)成分として用いることができる合成ゴムは、通常、そのガラス転移点(Tg)が室温(25℃)未満の高分子化合物である。該合成ゴムとしては特に制限されないが、フレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムに用いられる組成物に配合されると、銅箔とポリイミドフィルム等の電気絶縁性フィルムとの接着性がより向上する点から、中でもカルボキシル基含有アクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、「アクリロニトリル−ブタジエンゴム」を「NBR」ともいう)が好ましい。
【0024】
前記カルボキシル基含有NBRとしては、例えばアクリロニトリルとブタジエンとを、アクリロニトリルとブタジエンとの合計量に対するアクリロニトリル量が、好ましくは5〜70質量%、特に好ましくは10〜50質量%の割合となるように共重合させた共重合ゴムの分子鎖末端をカルボキシル化したもの、または、アクリロニトリルおよびブタジエンと、アクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマーとの共重合ゴム等が挙げられる。前記共重合ゴムの分子鎖末端のカルボキシル化には、例えばメタクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体を用いることができる。
【0025】
前記カルボキシル基含有NBR中におけるカルボキシル基の割合は、特に限定されないが、好ましくは1〜10質量%、特に好ましくは2〜6質量%である。この割合が1〜10質量%の範囲を満たすと、得られる組成物の流動性をコントロールできるため良好な硬化性が得られる。
【0026】
このようなカルボキシル基含有NBRとしては、例えば、商品名で、ニッポール1072(日本ゼオン製)、イオン不純物量が少なく高純度品であるPNR−1H(JSR製)等が使用できる。高純度なカルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴムはコストが高いために多量に使用することはできないが、接着性と耐マイグレーション性とを同時に向上させることができる点で有効である。
【0027】
さらに、カバーレイフィルムに本発明の接着剤組成物を適用する場合には、水素添加したNBRを併用することが有効である。これらの合成ゴムは、上記NBRゴム中のブタジエンの二重結合を水素添加により単結合としているために、熱履歴によるブタジエンゴム成分の劣化が起こらない。従って、該接着剤組成物と銅箔との剥離強度の熱履歴による低下、加熱による耐マイグレーション性の低下が少ない。上記カルボキシル基含有NBRと水素添加したNBRとを併用することにより、さらにバランスのとれた特性を有するカバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板を得ることができる。具体的には、水素添加したNBRの例として、商品名で、例えば、Zetpolシリーズ(日本ゼオン製)が挙げられる。
【0028】
(B)成分の熱可塑性樹脂および合成ゴムは、各々、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。また(B)成分として、熱可塑性樹脂または合成ゴムの一方を単独で用いても、その両方を併用してもよい。
【0029】
(B)成分の配合量(熱可塑性樹脂と合成ゴムを併用する場合は合計配合量)は特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して通常10〜2,500質量部であり、好ましくは20〜300質量部である。(B)成分が10〜2,500質量部の範囲を満たすと、得られるフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムおよび接着シートは、難燃性、銅箔との剥離強度により優れたものとなる。
【0030】
〔(C)硬化剤〕
(C)成分である硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として通常使用されるものであれば特に限定されない。この硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、三フッ化ホウ素アミン錯塩、フェノール樹脂等が挙げられる。ポリアミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤;ジシアンジアミド等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、ピロメリト酸無水物、トリメリト酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。中でも、得られる組成物を、カバーレイフィルムに用いる場合には適度な反応性が求められることからポリアミン系硬化剤が好ましく、フレキシブル銅張積層板に用いる場合にはより優れた耐熱性を付与できることから酸無水物系硬化剤が好ましい。
(C)成分の硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0031】
(C)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して通常0.5〜100質量部であり、好ましくは1〜20質量部である。
【0032】
〔(D)有機ホスフィン酸塩化合物〕
(D)成分である有機ホスフィン酸塩化合物は、(1)硬化物の半田耐熱性(常態)を損なわずに硬化物に優れた難燃性(VTM−0)を付与し、また(2)硬化物の半田耐熱性(吸湿)を損なわずに耐マイグレーション性を向上させるための成分であって、通常、ハロゲン原子を含有しないものである。
【0033】
(D)成分の有機ホスフィン酸塩化合物は、下記一般式(2):
【0034】
【化2】

(式中、R5およびR6は独立に、非置換または置換の1価炭化水素基を表し、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、または周期表14族の典型元素を表し、mは1〜4の整数である。)
で表される有機ホスフィン酸塩等である。
【0035】
上記一般式(2)中、Mとしては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属;鉄、コバルト、ニッケル、チタン、亜鉛等の遷移金属;アルミニウム等の周期表14族の典型元素等が挙げられ、好ましくはアルミニウムである。
【0036】
上記一般式(2)中、R5およびR6で表される非置換または置換の1価炭化水素基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられ、好ましくは炭素原子数1〜3のアルキル基、より好ましくはエチル基である。これらの1価炭化水素基は、通常、炭素原子数1〜30、好ましくは1〜20、典型的には1〜10のものである。
【0037】
有機ホスフィン酸塩の具体例としては、有機ホスフィン酸アルミニウム、有機ホスフィン酸カルシウム、有機ホスフィン酸亜鉛等が挙げられ、好ましくは有機ホスフィン酸アルミニウムであり、より好ましくはジアルキルホスフィン酸アルミニウム、さらに好ましくはジエチルホスフィン酸アルミニウムである。
【0038】
また、より少量の添加・配合で難燃性が実現できるので、本成分中におけるリン含有率は、典型的には15〜30質量%、より典型的には18〜25質量%である。
【0039】
本成分は、接着剤ワニスに一般的に使用されるメチルエチルケトン、トルエン、ジメチルアセトアミド、ジオキソラン等の有機溶剤に不溶であることから、カバーレイフィルムに用いた場合には、カバーレイフィルムを熱プレス硬化させた時の滲み出し等が起こり難いという利点がある。
(D)成分の有機ホスフィン酸塩化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(D)成分の配合量は、特に限定されないが、良好な難燃性を確保する観点から、接着剤組成物中の有機固形成分および無機固形成分の合計100質量部に対して、好ましくは0.1
〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0041】
〔(E)硬化促進剤〕
(E)成分である硬化促進剤は、(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂と(C)硬化剤との反応の促進に用いられるものであれば特に限定されない。この硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のトリオルガノホスフィン類;四級ホスホニウム塩;トリエチレンアンモニウム・トリフェニルボレート等の第三級アミン、およびそのテトラフェニルホウ素酸塩、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化錫、ホウフッ化ニッケル等のホウフッ化物;オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等のオクチル酸塩等が挙げられる。
(E)成分の硬化促進剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
(E)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜30質量部であり、より好ましくは1〜20質量部であり、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0043】
〔(F)窒素含有有機リン酸化合物〕
(F)成分である上記一般式(1)で表される窒素含有有機リン酸化合物は、(D)成分である有機ホスフィン酸塩化合物と共に硬化物に優れた難燃性を付与する成分であって、通常、ハロゲン原子を含有しないものである。
【0044】
より少量の添加・配合で難燃性が実現できるので、本成分中におけるリン含有率は、典型的には5〜15質量%、より典型的には8〜12質量%である。また、より少量の添加・配合で難燃性が実現できるので、本成分中における窒素含有率は、典型的には2〜10質量%、より典型的には3〜7質量%である。
【0045】
上記一般式(1)において、R1、R2、R3およびR4で表されるアルキル基は、通常、炭素原子数が1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3のものであり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等である。R1、R2、R3およびR4としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0046】
上記一般式(1)において、Xで表される窒素原子を含有する2価有機基としては、例えば、
【0047】
【化3】

等が挙げられる。
【0048】
(F)成分としては、例えば、芳香族リン酸ピペラジン等が挙げられる。
【0049】
芳香族リン酸ピペラジンは、例えば、下記一般式(3):
【0050】
【化4】

(式中、R1、R2、R3およびR4は前記のとおりである。)
で表される。
【0051】
(F)成分の具体例としては、
【0052】
【化5】

等が挙げられる。
【0053】
本成分の製造方法は、特に限定されない。上記一般式(3)で表される芳香族リン酸ピペラジンを例に説明すると、トリエチルアミン等のアミン触媒の存在下、ピペラジン1モルと下記一般式(4):
【0054】
【化6】

(式中、Rは独立に水素原子またはアルキル基を表す。)
で表される置換ジフェニルリン酸クロリド2モルとを反応させることにより得られる。なお、より具体的には特開平10−175985号公報に記載されている。
【0055】
上記一般式(4)において、Rで表されるアルキル基は上記R1〜R4で例示したものと同種のものである。また、Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0056】
(F)成分の配合量は、特に限定されないが、単独で接着剤組成物の難燃性を向上させようとすると配合量が多くなり、接着剤ワニスを調製した場合に(F)成分が沈殿してしまうおそれがある。本発明の組成物においては、(F)成分の配合量は、全接着剤成分100質量部に対して、好ましくは1〜13質量部、より好ましくは2〜8質量部である。
(F)成分は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
〔その他の任意成分〕
上記(A)〜(F)成分以外にも、その他の任意成分を添加してもよい。
【0058】
・無機充填剤
無機充填剤は、従来、接着シート、カバーレイフィルムおよびフレキシブル銅張積層板に使用されているものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、難燃助剤としても作用する点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、二酸化ケイ素、酸化モリブデン等の金属酸化物が挙げられ、好ましくは、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。これらの無機充填剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
上記無機充填剤の配合量は、特に限定されないが、接着剤組成物中の有機固形成分および無機固形成分の合計100質量部に対して、好ましくは5〜60質量部、より好ましくは7〜30質量部である。
【0060】
・有機溶剤
上記の(A)〜(F)成分および必要に応じて添加される成分は、有機溶剤に溶解または分散させ、該組成物を分散液として調製して、フレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムおよび接着シートの製造に用いる。この有機溶剤としては、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、ジオキソラン等が挙げられ、好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、ジオキソラン、特に好ましくはN,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、トルエン、ジオキソランが挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
分散液中の有機固形成分および無機固形成分の合計濃度は、通常10〜45質量%であり、好ましくは20〜40質量%である。この濃度が10〜45質量%の範囲を満足すると、分散液は電気絶縁性フィルム等の基材への塗布性が良好であることから作業性に優れ、塗工時にムラが生じることがなく塗工性に優れ、かつ環境面、経済性等にも優れたものとなる。
【0062】
なお、「有機固形成分」とは、本発明の接着剤組成物中の不揮発性有機成分であり、該接着剤組成物が有機溶剤を含む場合には、有機溶剤は有機固形成分に含まれない。また、「無機固形成分」とは、本発明の接着剤組成物に含まれる不揮発性無機固体成分である。
【0063】
本組成物中の有機固形成分、ならびに場合よって加えられる無機固形成分および有機溶剤は、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いて混合すればよい。
【0064】
<カバーレイフィルム>
上記組成物は、カバーレイフィルムの製造に用いることができる。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた上記組成物からなる層とを有するカバーレイフィルムが挙げられる。以下、その製造方法を説明する。
【0065】
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより組成物を液状に調製した分散液をリバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、電気絶縁性フィルムに塗布する。分散液が塗布された電気絶縁性フィルムをインラインドライヤ等に通し、80〜160℃で2〜10分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥し、半硬化状態とし、次いでロールラミネータを用いて保護層と圧着、積層することによりカバーレイフィルムが得られる。保護層は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態、乃至、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【0066】
上記カバーレイフィルムの組成物塗布膜の乾燥後の厚さは、通常5〜45μmであり、好ましくは5〜35μmである。
【0067】
・電気絶縁性フィルム
前記電気絶縁性フィルムは、本発明のフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムに用いられるものである。この電気絶縁性フィルムとしては、通常、フレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムに用いられるものであれば特に限定されないが、カバーレイフィルムに用いられる場合には低温プラズマ処理されたものであることが好ましい。電気絶縁性フィルムの具体例としては、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等からなる基材にマトリックスになるエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を含浸して、フィルムまたはシート状にしたもの等が挙げられる。特に、カバーレイフィルムの耐熱性、寸法安定性、機械特性等の点から、ポリイミドフィルムが好ましく、低温プラズマ処理されたポリイミドフィルムをカバーレイフィルムに用いることが望ましい。ポリイミドフィルムとしては、通常、カバーレイフィルムに用いられるものであればよい。この電気絶縁性フィルムの厚さは、必要に応じて適切な厚さのものを使用すればよいが、好ましくは12.5〜50μmである。
【0068】
本発明の好ましい実施形態では、低温プラズマ処理されたポリイミドフィルムを用いる。ポリイミドフィルムの低温プラズマ処理の方法は以下のとおりである。具体的には、例えば、減圧可能な低温プラズマ処理装置内にポリイミドフィルムを入れ、装置内を無機ガスの雰囲気とし、圧力を0.133〜1,333Pa、好ましくは1.33〜133Paに保持した状態で、電極間に0.1〜10kVの直流電圧または交流電圧を印加してグロー放電させることにより無機ガスの低温プラズマを発生させ、前記フィルムを移動させながら、フィルム表面を連続的に処理する方法により行われる。この処理時間は、通常0.1〜100秒である。前記無機ガスとしては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、空気等が使用できる。これら無機ガスは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0069】
低温プラズマ処理によって、ポリイミドフィルムと該フィルム上に形成した接着剤層との接着性が向上する。本発明の組成物に(B)成分として熱可塑性樹脂を使用した場合には、これらの化合物のガラス転移点(Tg)が一般的に高いために、ポリイミドフィルムと本発明の組成物との接着性が不十分な場合がある。その場合には、低温プラズマ処理したフィルムを組み合わせることによって接着性の向上を図ることができる。また、(B)成分として合成ゴムを使用した場合にも、上記接着性がより向上する点で有利である。
【0070】
・保護層
上記保護層は、接着剤層の形態を損なうことなく剥離できるものであれば特に限定されないが、通常、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム、ポリエステルフィルム等のプラスチックフィルム;PEフィルム、PPフィルム等のポリオレフィンフィルム、TPXフィルム等を紙材料の片面または両面にコートした離型紙等が挙げられる。
【0071】
<接着シート>
上記組成物は、接着シートの製造に用いることができる。具体的には、例えば、前記組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する保護層とを有する接着シートが挙げられる。該保護層は、上記カバーレイフィルムの保護層として説明したものを用いることができる。以下、本発明の接着シートの製造方法について説明する。
【0072】
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより組成物を液状に調製した分散液をリバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、保護層に塗布する。分散液が塗布された保護層をインラインドライヤ等に通し、80〜160℃で2〜10分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥させ、半硬化状態とし、次いでロールラミネータを用いて別の保護層と圧着し、積層することにより接着シートが得られる。
【0073】
<フレキシブル銅張積層板>
上記組成物は、フレキシブル銅張積層板の製造に用いることができる。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた上記組成物からなる層と、銅箔とを有するフレキシブル銅張積層板が挙げられる。該電気絶縁性フィルムは、上記カバーレイフィルムの項で電気絶縁性フィルムとして説明したもの(好ましくはポリイミドフィルム)を用いることができるが、低温プラズマ処理したものを用いてもよい。以下、フレキシブル銅張積層板の製造方法を説明する。
【0074】
予め所要成分と有機溶剤とを混合することにより組成物を液状に調製した分散液をリバースロールコータ、コンマコータ等を用いて、電気絶縁性フィルムに塗布する。分散液が塗布された電気絶縁性フィルムをインラインドライヤ等に通し、80〜160℃で2〜10分間かけて有機溶剤を除去することにより乾燥し、半硬化状態とし、次いで銅箔と100〜150℃で熱ラミネート(熱圧着)することにより、フレキシブル銅張積層板が得られる。このフレキシブル銅張積層板をさらにアフターキュアすることにより半硬化状態の組成物を完全に硬化させて、最終的なフレキシブル銅張積層板が得られる。アフターキュアは、80〜160℃で行うことが好ましい。
【0075】
上記フレキシブル銅張積層板の組成物塗布膜の乾燥後の厚さは、通常5〜45μmであり、好ましくは5〜18μmである。
上記銅箔としては、フレキシブル銅張積層板に従来用いられている圧延、電解銅箔製品をそのまま使用することができる。この銅箔の厚さは、通常5〜70μmである。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を用いて本発明についてより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。実施例で用いた(A)〜(F)成分およびその他の任意成分は、具体的には下記のとおりである。なお、表中の配合比を示す数値の単位は「質量部」である。
【0077】
<接着剤組成物の成分>
・(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂
(1)エピコート828EL(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:約190、重量平均分子量:約370、一分子中のエポキシ基:2個)
(2)エピコート834(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:約250、重量平均分子量:約470、一分子中のエポキシ基:2個)
(3)エピコート1001(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:約475、重量平均分子量:約900、一分子中のエポキシ基:2個)
(4)エピコート604(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:約120、重量平均分子量:約430、一分子中のエポキシ基:4個)
(5)EP-49-20(商品名)(旭電化製、エポキシ当量:200、重量平均分子量:1000以下、一分子中のエポキシ基:2個以上)
(6)EPPN-502H(商品名)(日本化薬製、エポキシ当量:約170、重量平均分子量:1000以下、一分子中のエポキシ基:2個以上)
(7)エピクロン830S(商品名)(大日本インキ化学工業製、エポキシ当量:約170、重量平均分子量:340、一分子中のエポキシ基:2個)
(8)EOCN-103S(商品名)(日本化薬製、エポキシ当量:約215、重量平均分子量:2000以下、一分子中のエポキシ基:7〜9個)
(9)YL7175-1000(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、エポキシ当量:1120、重量平均分子量:2000以上、一分子中のエポキシ基:2個)
・(B−1)熱可塑性樹脂
(1)バイロン237(商品名)(東洋紡績製、リン含有ポリエステル樹脂、リン含有率:3.1質量%、数平均分子量:25000)
(2)バイロン537(商品名)(東洋紡績製、リン含有ポリエステル樹脂、リン含有率:3.9質量%、数平均分子量:24000)
(3)SG-708-6T(商品名)(ナガセケムテック社製、カルボキシル基含有アクリル樹脂、重量平均分子量:50万〜60万)
(4)エピコート1256(商品名)(ジャパンエポキシレジン製、フェノキシ樹脂、エポキシ当量:約8000、重量平均分子量:約50000、一分子中のエポキシ基:2個)
・(B−2)合成ゴム
(1)ゼットポール2020(商品名)(日本ゼオン製、水添アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル含有量:36質量%)
(2)PNR-1H(商品名)(JSR製、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル含有量:27質量%、カルボキシル基含有量:3.5質量%)
(3)ニッポール1072(商品名)(日本ゼオン製、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、アクリロニトリル含有量:27質量%、カルボキシル基含有量:3.4質量%)
・(C)硬化剤
(1)EH705A(商品名)(旭電化製、酸無水物系硬化剤)
(2)DDS(4,4'-ジアミノジフェニルスルホン)
・(D)有機ホスフィン酸塩化合物
(1)ジエチルホスフィン酸アルミニウム(リン含有率:23質量%、クラリアント社製、商品名:「Exolit OP-930」として入手した。)
・(E)硬化促進剤
(1)2E4MZ−CN(商品名)(四国化成工業製、イミダゾール系硬化促進剤)
(2)Sn(BF4)2
・(F)窒素含有有機リン酸化合物
(1)式:
【0078】
【化7】

で表される芳香族リン酸ピペラジン(四国化成工業製、商品名:「SP-703」として入手した。リン含有率:11質量%、窒素含有率:5質量%)
・(任意)無機充填剤
(1)ハイジライトH43STE(昭和電工製、水酸化アルミニウム)
(2)亜鉛華(酸化亜鉛)
・(その他)(D)成分および(F)成分以外の難燃剤
(1)TPP(商品名)(大八化学製、トリフェニルホスフェ−ト、リン含有率:9.5質量%)
【0079】
<フレキシブル銅張積層板の特性>
〔実施例1〕
接着剤組成物の成分を表1の実施例1の欄に示す割合で混合し、得られた混合物に、メチルエチルケトン/ジオキソランの混合溶剤を添加することにより、有機固形成分および無機固形成分の合計濃度が35質量%の分散液を調製した。
【0080】
一方、ポリイミドフィルムA(商品名:カプトンH、東レ・デュポン製、厚さ:25μm)上にアプリケータで上記分散液を乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、それを120℃で10分間、送風オーブン内で乾燥させることにより組成物を半硬化状態とした。ポリイミドフィルムAの分散液塗布面と圧延銅箔(ジャパンエナジー製、商品名:BHY22BT、厚さ:35μm)の片面とを120℃、線圧2kg/cmでロールラミネーターにて熱圧着した後、80℃で1時間、さらに160℃で4時間のアフターキュアをすることによりフレキシブル銅張積層板を作製した。このフレキシブル銅張積層板の特性を下記測定方法1に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0081】
〔実施例2〕
接着剤組成物の成分を表1の実施例2の欄に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にしてフレキシブル銅張積層板を作製した。このフレキシブル銅張積層板の特性を下記測定方法1に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
〔比較例1、2〕
接着剤組成物の成分を表1の比較例1、2の各欄に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にしてフレキシブル銅張積層板を作製した。これらのフレキシブル銅張積層板の特性を下記測定方法1に従って測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
〔測定方法1〕
1−1.剥離強度
JIS C6481に準拠して、フレキシブル銅張積層板にパターン幅1mmの回路を形成した後、25℃の条件下で銅箔(前記回路)を該積層板の面に対して90度の方向に50mm/分の速度で引き剥がすのに要する力の最低値を測定し、剥離強度として示す。
【0084】
1−2.半田耐熱性(常態)
JIS C6481に準拠して、フレキシブル銅張積層板を25mm角に切断することにより試験片を作製し、その試験片を一定温度の半田浴上に30秒間浮かべた。半田浴の温度を変えて、その試験片に膨れ、剥がれ、変色が生じない最高温度を測定した。
【0085】
1−3.難燃性
フレキシブル銅張積層板にエッチング処理を行うことにより銅箔を全て除去してサンプルを作製した。UL94VTM-0難燃性規格に準拠して、そのサンプルの難燃性を測定した。UL94VTM-0規格を満足する難燃性を示した場合を「良」と評価し○で示し、該サンプルが燃焼した場合を「不良」と評価し×で示した。
【0086】
【表1】

【0087】
<カバーレイフィルムの特性>
〔実施例3〜6〕
接着剤組成物の成分を表2の実施例3〜6の各欄に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして分散液を調製した。一方、ポリイミドフィルムB(商品名:アピカルNPI、鐘淵化学製、厚さ:25μm)の片面を所定の条件(圧力:13.3Pa、アルゴン流量:1.0L/分、印加電圧:2kV、周波数:110kHz、電力:30kW、処理速度:10m/分)で低温プラズマ処理した。次いで、アプリケータで上記分散液を乾燥後の厚さが25μmとなるように該低温プラズマ処理したポリイミドフィルム表面に塗布し、それを90℃で10分間、送風オーブン内で乾燥させることにより組成物を半硬化状態としてカバーレイフィルムを作製した。これらのカバーレイフィルムの特性を下記測定方法2に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0088】
〔比較例3〜5〕
接着剤組成物の成分を表2の比較例3〜5の欄に示す割合で混合した以外は実施例3と同様にしてカバーレイフィルムを作製した。これらのカバーレイフィルムの特性を下記測定方法2に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0089】
〔測定方法2〕
2−1.剥離強度
JIS C6481に準拠して、厚さ35μmの電解銅箔(ジャパンエナジー製)の光沢面とカバーレイフィルムの接着剤層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。得られたプレスサンプルを幅1cm、長さ15cmの大きさに切断して試験片とし、その試験片のポリイミドフィルム面を固定し、25℃の条件下で銅箔を該ポリイミドフィルム面に対して90度の方向に50mm/分の速度で引き剥がすのに要する力の最低値を測定し、剥離強度として示す。
【0090】
2−2.半田耐熱性(常態・吸湿)
前記剥離強度の測定で作製したカバーレイフィルムのプレスサンプルを25mm角に切断することにより試験片を作製した以外は、上記測定方法1−2と同様にして半田耐熱性(常態)を測定した。
一方、半田耐熱性(吸湿)については、前記半田耐熱性(常態)の測定用のものと同様にして作製した試験片を40℃、湿度90%の雰囲気下で24時間放置した後、その試験片を一定温度の半田浴上に30秒間浮かべた。半田浴の温度を変えて、その試験片に膨れ、剥がれ、変色が生じない最高温度を測定した。
【0091】
2−3.難燃性
実施例3〜6で得られたカバーレイフィルムと、実施例2で得られたフレキシブル銅張積層板をエッチング処理することにより銅箔を全て除去したサンプルの接着剤層とをプレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。また、同様にして、比較例3〜5で得られたカバーレイフィルムと、比較例1で得られたフレキシブル銅張積層板をエッチング処理することにより銅箔を全て除去したサンプルとを貼り合わせることによりプレスサンプルを作製した。これらのプレスサンプルについて、上記測定方法1−3と同様にして難燃性(カバーレイフィルムとフレキシブル銅張積層板との組み合わせ)を評価した。
【0092】
2−4.耐マイグレーション性
実施例3〜6で得られたカバーレイフィルムと、実施例1で得られたフレキシブル銅張積層板に160μmピッチ(ライン/スペース=80μm/80μm)の櫛型回路を印刷した基板(即ち、銅張積層板の銅箔をエッチング処理して櫛型回路を形成させた基板)とをプレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて貼り合わせることにより評価用サンプルを作製した。また、同様にして、比較例3〜5で得られたカバーレイフィルムと、比較例1で得られたフレキシブル銅張積層板に160μmピッチ(ライン/スペース=80μm/80μm)の櫛型回路を印刷した基板とを貼り合わせることにより評価用サンプルを作製した。温度85℃、湿度85%の条件下で、これらの評価用サンプルの回路両端にマイグレーションテスター(商品名:MIG-86、IMV社製)を用いて50Vの電圧を印加し、1,000時間後に回路間の抵抗値が10MΩ以上であった場合を「良」と評価し○で示し、10MΩ未満となった場合を「不良」と評価し×で示した。
【0093】
2−5.組成物の安定性
実施例3〜6および比較例3〜5で得られた分散液(即ち、接着剤ワニス)を3時間放置し、無機充填剤であるハイジライトH43STE(商品名)および窒素含有有機リン酸化合物であるSP-703(商品名)の沈降状態を目視により観察した。これらの成分の沈降が認められなかった場合を「良」と評価し○で示し、沈降が認められた場合を「不良」と評価し×で示した。
【0094】
【表2】

【0095】
<接着シートの特性>
〔実施例7〕
接着剤組成物の成分を表3の実施例7の欄に示す割合で混合した以外は実施例1と同様にして分散液を調製した。次いで、アプリケータでその分散液を乾燥後の厚さが25μmとなるようにシリコーン離型剤付の厚さ25μmのポリエステルフィルム表面に塗布し、それを90℃で10分間、送風オーブン内で乾燥させることにより組成物を半硬化状態として接着シートを作製した。この接着シートの特性を下記測定方法3に従って測定した。その結果を表3に示す。
【0096】
〔比較例6〕
接着剤組成物の成分を表3の比較例6の欄に示す割合で混合した以外は実施例7と同様にして接着シートを作製した。この接着シートの特性を下記測定方法3に従って測定した。その結果を表3に示す。
【0097】
〔測定方法3〕
3−1.剥離強度
接着シートから保護層を除去したものを介して、前記ポリイミドフィルムBと電解銅箔(ジャパンエナジー製、厚さ:35μm)の光沢面とを重ね合わせた後、プレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを得た以外は、上記測定方法2−1と同様にして剥離強度を測定した。
【0098】
3−2.半田耐熱性(常態・吸湿)
前記剥離強度の測定で作製した接着シートのプレスサンプルを25mm角に切断することにより試験片を作製した以外は、上記測定方法2−2と同様にして半田耐熱性(常態・吸湿)を測定した。
【0099】
3−3.難燃性
実施例2で得られたフレキシブル銅張積層板をエッチング処理することにより銅箔を全て除去したサンプルと前記ポリイミドフィルムBとの間に実施例7で得られた接着シートから保護層を除去したものを挟み、プレス装置(温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:30分)を用いて貼り合わせることによりプレスサンプルを得た。また、同様にして、比較例2で得られたフレキシブル銅張積層板をエッチング処理することにより銅箔を全て除去したサンプルと前記ポリイミドフィルムBとの間に比較例6で得られた接着シートから保護層を除去したものを挟み、貼り合わせることによりプレスサンプルを得た。該プレスサンプルについて、上記測定方法2−3と同様にして難燃性(フレキシブル銅張積層板と接着シートとポリイミドフィルムとの組み合わせ)を評価した。
【0100】
【表3】

【0101】
<評価>
実施例1〜7で調製した組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムおよび接着シートは、測定したすべての特性が著しく優れていた。一方、比較例1〜6で調製した組成物を用いたフレキシブル銅張積層板、カバーレイフィルムおよび接着シートは、測定した特性の少なくとも一種が著しく劣っていた。また、比較例1および3では、UL94VTM-0規格の難燃性を得るために、実施例と比べて大量の難燃剤の添加が必要であった。さらに比較例4では、UL94VTM-0規格の難燃性を得るために、有機ホスフィン酸塩化合物を添加せず大量の窒素含有有機リン酸化合物のみを添加したので、接着剤ワニスの安定性が著しく悪かった。そのため、接着剤ワニスをフィルム上に塗布する際の作業性が著しく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の難燃性接着剤組成物を硬化させて得られる硬化物、ならびに該組成物を用いたカバーレイフィルム、接着シートおよびフレキシブル銅張積層板はいずれも、難燃性、剥離強度、電気特性(耐マイグレーション性)および半田耐熱性に優れ、かつハロゲンを含有しないので、環境に優しいフレキシブル印刷配線板の製造等への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)非ハロゲン系エポキシ樹脂、
(B)熱可塑性樹脂および/または合成ゴム、
(C)硬化剤、
(D)有機ホスフィン酸塩化合物、
(E)硬化促進剤、ならびに
(F)下記一般式(1):
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4は独立に水素原子またはアルキル基を表し、Xは窒素原子を含有する2価有機基を表す。)
で表される窒素含有有機リン酸化合物
を含有してなる難燃性接着剤組成物。
【請求項2】
(B)成分が、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、およびカルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の組成物からなる層と、該組成物からなる層を被覆する保護層とを有する接着シート。
【請求項4】
電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた請求項1または2に記載の組成物からなる層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項5】
前記電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項4に記載のカバーレイフィルム。
【請求項6】
電気絶縁性フィルムと、該フィルム上に設けられた請求項1または2に記載の組成物からなる層と、銅箔とを有するフレキシブル銅張積層板。
【請求項7】
前記電気絶縁性フィルムがポリイミドフィルムである請求項6に記載のフレキシブル銅張積層板。

【公開番号】特開2006−328112(P2006−328112A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149911(P2005−149911)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】