説明

電動ディスクブレーキ装置

【課題】駐車ブレーキ操作を伴わずに駐車ブレーキラッチ機構の故障診断を行なうことができる電動ディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】制動力が発生しないクリアランス領域で、モータを一旦、検出開始位置に移動(前進)した後に、戻り作動させ、ステップS6で「モータ電流≧ラッチ検出電流しきい値」状態を検出することなく(ステップS4に戻る)、モータの変位が進み(ステップS4)、モータ変位量と変位量しきい値との比較判定(ステップS5)で、モータ変位量が変位量しきい値より大きいと判定すると、「駐車ブレーキラッチ機構が作用できないままロータが戻ってしまった、ひいてはラッチ不可能で、駐車ブレーキラッチ機構の故障の虞がある」として、運転者にその旨の報知を行う等の異常処理を行う。上記処理により、駐車ブレーキ操作前に駐車ブレーキラッチ機構の故障を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータのトルクによって制動力を発生する電動ディスクブレーキ装置に係り、特に駐車ブレーキとしての機能を付加した電動ディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動ディスクブレーキ装置としては、ピストンと、モータと該モータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転-直動変換機構とを配設してなるキャリパを備え、前記モータのロータの回転に応じて前記ピストンを推進し、ブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生するものがある。そして、このような電動ディスクブレーキ装置では、通常、運転者によるブレーキペダルの踏力やストロークをセンサによって検出し、この検出値に応じて電動モータの回転(回転角)を制御することにより所望の制動力を得るようにしている。
【0003】
ところで最近、この種の電動ディスクブレーキ装置に駐車ブレーキの機能を付加して、利用価値を高めることが種々検討されている。
そして、ブレーキパッドからの反力に対して可逆性のある電動ディスクブレーキを、駐車ブレーキとして使用するにはピストンを何らかの手段で固定する必要がある。
例えば、モータの回転動を直動に変換している電動キャリパでは、モータのロータをソレノイドアクチュエータ(以下、ソレノイドという。)でロックさせている。そして、駐車ブレーキとして使用するには、ソレノイドを非通電状態でロックさせておく必要があり、(1)通常ブレーキ時はソレノイドを通電状態としロック解除し、駐車ブレーキ時はソレノイドを非通電状態としロックさせる機構や、(2)ラッチ機構を有したソレノイドを使用し、通常ブレーキ時はソレノイドを解除方向に一瞬通電状態としロック解除し、駐車ブレーキ時はソレノイドをロック方向に一瞬通電状態としロックさせる機構などが用いられる。
上述した駐車ブレーキの機能及びラッチ機構を有する電動ディスクブレーキ装置の一例として特許文献1に示される電動ディスクブレーキ装置がある。
【特許文献1】特開2003-42199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動ディスクブレーキ装置では、駐車ブレーキについて、ラッチ機構によるロック作動及びロック解除作動(以下、ロック・ロック解除作動と適宜略称する。)に際し、各作動が不良(ロック作動の不良、ロック解除作動の不良)となるような故障などの発生を防止したり、当該故障に適切に対処し得るように、故障診断を行なうことが望まれている。この要望に対して、上述した従来技術において、駐車ブレーキ操作を行なって制動力を一旦発生させた後に、故障診断を行なうように構成する方策が考えられる。
しかしながら、駐車ブレーキ力を保持させるラッチ機構の故障診断は、駐車ブレーキ操作を伴わずに行なわれることが望ましく、上記方策では、この要望に応え得るものになっていないというのが実情であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、駐車ブレーキ操作を伴わずにラッチ機構の故障診断を行なうことができる電動ディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、ピストンと、モータと、該モータのロータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、を配設してなるキャリパを有し、前記モータのロータの回転に応じてピストンを推進し、ブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生すると共に、前記モータによって回動する回転体に設けられたつめ車と、該つめ車の周りに配置した係合つめと、該係合つめを前記つめ車に対する係合位置及び係合離脱位置に移動するアクチュエータと、からなる駐車ブレーキラッチ機構を有し、前記アクチュエータによる前記係合つめの移動により前記駐車ブレーキラッチ機構のロック作動およびロック解除作動を行う電動ディスクブレーキ装置において、非制動時に前記モータと前記アクチュエータを作動させる検出動作手段と、前記回転体の変位を検出する変位検出手段と、前記検出動作手段により作動された前記駐車ブレーキラッチ機構のロック状態およびロック解除状態を、前記変位検出手段の検出内容に基いて検出するロック・ロック解除状態検出手段と、を備えたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電動ディスクブレーキ装置において、前記検出動作手段は、前記ブレーキパッドが前記ディスクブレーキに接触しない範囲で前記モータを作動させることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の電動ディスクブレーキ装置において、前記回転体の位置変化量により前記回転体の変位を検出することを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1又は2記載の電動ディスクブレーキ装置において、前記変位検出手段は、前記モータへ供給する電流変化量により前記回転体の変位を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1から4に記載の発明によれば、検出動作手段が非制動時に前記モータと前記アクチュエータを作動させ、検出動作手段により作動された駐車ブレーキラッチ機構のロック状態およびロック解除状態を、変位検出手段が検出する回転体の変位に基いて検出するので、駐車ブレーキ操作前にアクチュエータの故障を検出できる。
請求項2に記載の発明によれば、車両走行中に不要な制動力を発生させずに故障検出を行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る電動ディスクブレーキ装置を図1〜図4に基づいて説明する。図1及び図2において、電動ディスクブレーキ装置1は、ディスクロータ2より車両内側に位置する車両の非回転部(ナックル等)に固定されたキャリア3にキャリパ4を、ディスクロータ2の軸方向へ浮動可能に支持している。ディスクロータ2を挟んで一対のブレーキパッド5,6が対向して配置されている。ブレーキパッド5,6はディスクロータ2の軸方向に移動可能にキャリア3に支持されている。
【0010】
キャリパ4は、蓋部8及びこの蓋部8と対向するように配置された底部9を有する略筒状のキャリパ本体11と、キャリパ本体11の蓋部8形成側から延設された延設部12と、延設部12の先端側に形成されて車両外側のブレーキバッド6の背面に近接して配置される爪部13と、を備えている。
キャリパ本体11の蓋部8には孔(符号省略)が形成されており、この孔には車両内側のブレーキパツド5の背面に当接可能なピストン14が移動可能に挿通されている。キャリパ本体11の蓋部8側部分は、モータケース10とされている。モータケース10の内部には、キャリパ本体11の底部9に配置されたコントローラ15により制御されて電流の供給を受けるモータ16が配置されている。
【0011】
キャリパ本体11内には、モータ16の回転を直線運動に変換してピストン14に伝えるボールランプ機構(回転一直動変換機構)17と、モータ16の回転を減速してボールランプ機構17に伝える差動減速機構18と、ブレーキパッド5,6の摩耗に応じてピストン14の位置を変更してパッド(ブレーキパッド5,6)摩耗を補償するパッド摩耗追従機構19と、駐車ブレーキを確立する駐車ブレーキラッチ機構20と、が配設されている。
モータ16は、コントローラ15からの指令でロータ(回転体)22を所望トルクで所望角度だけ回転させるように作動し、そのロータ22の回転角は、該ロータ22の内部に配置されたレゾルバ等の回転位置検出器(変位検出手段)23により検出されるようになっている。
モータ16のロータ22の外周面にはつめ車24が一体に形成されており、駐車ブレーキラッチ機構20と協働してロータ22の回転のラッチ(固定状態にすること)及びその解除(アンラッチ)を行なえるようにしている。
【0012】
本実施の形態では、モータ16は、コントローラ15からの制動力発生指令でロータ22を図2における反時計方向Lに回転させる。コントローラ15は、回転位置検出器23が検出したロータ22の回転位置を利用してその変位量(戻り量)の検出を行うようになっており、回転位置検出器23と共に変位検出手段を構成している。なお、前記ロータ22(モータ16)の回転角ひいてはロータ22(モータ16)の回転位置(図2反時計方向Lの回転量)と推力とは、回転位置(図2反時計方向Lの回転量)が大きくなるのに伴って推力が大きくなるという一定の対応関係がある。
コントローラ15は、モータ16の制御のみならず、ソレノイド25ひいては駐車ブレーキラッチ機構20を制御するようにしている。
【0013】
駐車ブレーキラッチ機構20は、つめ車24の周りにピン26を用いて回転可能に配置された略く字型(この場合、図2紙面裏面側から見た形状)の揺動アーム27と、揺動アーム27に図2時計方向の回転力を作用するねじりばね28と、コントローラ15の制御により通電される前記ソレノイド25と、を備えている。ソレノイド25は、通電されることによって発生する磁力により揺動アーム27を図2反時計方向に回転させ得るようになっている。
揺動アーム27は、アーム長辺部27a及びアーム短辺部27bが上述したように略く字型をなすように連接して構成されている。
アーム長辺部27aの先端側には、係合つめ29が形成されており、つめ車24に設けられた歯部30に係合可能となっている。アーム短辺部27bの先端部分は、ピン31を介してソレノイド25のプランジャ32の一端部と接続されている。
つめ車24の各歯部30は、制動解除時におけるロータ22の回転方向(図2時計方向R)の前側に歯面30aを、制動時におけるロータ22の回転方向(図2反時計方向L)の前側に傾斜逃げ面30bをそれぞれ向けるように歯形状が設定されている。
【0014】
ソレノイド25は、前記プランジャ32と、コントローラ15に制御されて通電されてプランジャ32に作用する磁力を発生する励磁コイル33と、キャリパ本体11に固定されるブラケット34と、を有している。励磁コイル33は、前記磁力によりプランジャ32を図2左方向に移動させ、ひいてはピン31を介して揺動アーム27を図2反時計方向に回転させる。ブラケット34には、ソレノイド25をキャリパ本体11に固定するために用いられるねじ穴(符号省略)と、プランジャ32の先端部(符号省略)が当接することによりプランジャ32の図2右方向の移動を規制する当接面35と、が形成されている。
コントローラ15には、ディスプレイや警告灯などの表示手段36と、スピーカなどの音発生手段37と、図示せぬパーキングブレーキ操作スイッチと、トランスミッションコントラーラへの通信手段とが接続されており、後述するように、故障検出作動に伴う故障検出時処理を行なう場合、駐車ブレーキラッチ機構20が故障状態であること、及び停車時にはパーキングレンジ(Pレンジ)にて車両を保持するように促す旨を、運転者に報知し得るようにしている。また、パーキングブレーキ故障時には、上記通信手段によって故障状況をトランスミッションに通知して、パーキングブレーキ操作スイッチの操作時に自動的にトランスミッションをパーキングレンジに移行できるようにしても良い。
【0015】
この電動ディスクブレーキ装置1の作用について、(1)[通常制動時]、(2)[通常制動解除時]、(3)[駐車ブレーキ(PKB)作動時]、(4)[駐車ブレーキ(PKB)解除時]、及び(5)[駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出作動]に分けて、以下に説明する。
【0016】
(1)[通常制動時]
通常の電動ブレーキとして作動する場合は、運転者のブレーキ操作信号の入力に応じてモータ16のロータ22が、図2反時計方向Lに回転し、ピストン14が推進し、モータ16のトルクに応じた制動力が発生する。この通常制動時には、駐車ブレーキラッチ機構20のソレノイド25に対する通電は遮断されている。
この際、ねじりばね28の作用により揺動アーム27が回転力(図2時計方向の力)を受けることにより、プランジャ32の先端部が当接面35に当接した状態でプランジャ32及び揺動アーム2719が保持されている。このとき、係合つめ29は、つめ車24の歯部30とわずか係合離脱する状態(係合つめ29と歯部30との間にクリアランスを持った状態)で位置決めされる。この結果、ロータ22は円滑に図2反時計方向Lへ回転し、電動ブレーキとしての機能が保証される。
なお、本願発明は、上述したように係合つめ29と歯部30との間にクリアランスが存在することを利用して、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出を行うようにしている。
【0017】
(2)[通常制動解除時]
電動ブレーキの解除時には、運転者の解除操作に応じてモータ16のロータ22が図2時計方向Rに回転し、ピストン14が後退して制動が解除されるが、このとき、駐車ブレーキラッチ機構20のソレノイド25に対する通電は遮断されている。この際、ねじりばね28の作用により揺動アーム27が回転力を受けることにより、プランジャ32の先端部が当接面35に当接した状態で揺動アーム27が保持されているので、係合つめ29は、つめ車24の歯部30とわずか係合離脱する状態(係合つめ29と歯部30との間にクリアランスを持った状態)を維持する。
このため、駐車ブレーキラッチ機構20のつめ車24は係合つめ29と接触することなくロータ22と一体に図2時計方向Rへ円滑に回転し、これにより電動ブレーキの解除が保証される。
【0018】
(3)[駐車ブレーキ(PKB)作動時]
駐車ブレーキを作動させる場合は、運転者の駐車ブレーキ作動信号により、モータ16のロータ22が図2反時計方向Lに回転し、通常の電動ブレーキ作動時と同様にピストン14が推進して制動力が発生する。この制動力発生後、制動力が所定値となった時とほぼ同時に、コントローラ15の制御により励磁コイル33に、所定時間、所定電流を通電しながら、モータ16への通電を徐々に減少し、その後、遮断するようにしている。
そして、励磁コイル33ヘの前記通電によりプランジヤ32を吸着する磁力(プランジヤ32を図2左方向へ移動させる力)が発生する。そして、ねじりばね28の付勢力で保持されていたプランジャ32が、励磁コイル33の磁力により図2左方向に移動してブラケット34の当接面35より離れる。これに伴い、揺動アーム27が図2反時計方向に回転し、係合つめ29がつめ車24に対する係合位置に位置決めされ、つめ車24の歯面30aに嵌合する。
係合つめ29と歯面30aの当接面は、モータ16への通電遮断に伴いキャリパ4の剛性の影響等を受けることによってモータ16のロータ22に発生する図2時計方向Rの回転力により、押し付け力と嵌合力が働くような形状としてある。この結果、励磁コイル33への通電を遮断してもロータ22の図2時計方向Rへの回転と揺動アーム27の回転が規制され、駐車ブレーキが確立する。
【0019】
(4)[駐車ブレーキ(PKB)解除時]
上記駐車ブレーキを解除する場合は、運転者のブレーキ解除操作に応じてモータ16に通電して、そのロータ22をわずかに反時計方向(制動方向)Lへ回転させると、係合つめ29に働いていた押し付け力と嵌合力が解除されると同時に、ねじりばね28の作用により、揺動アーム27は図2時計回りに回転する。これにより、駐車ブレーキラッチ機構20の係合つめ29は、つめ車24の歯部30から係合離脱する。その後、適宜タイミングでモータ16のロータ22を図2時計方向R(制動力解除方向)へ回転させれば、ロータ22のつめ車24は係合つめ29と接触することなく時計方向Rへ円滑に回転し、これにより駐車ブレーキが解除される。
【0020】
(5)[駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出作動]
この故障検出作動について、コントローラ15が実行する駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出動作処理のフローチャートを示す図3、及びそのタイムチャートを示す図4に基づいて説明する。
図3において、コントローラ15は、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出の要求があるか否かを判断する(ステップS1)。ステップS1でNO(要求がない。)と判断すると、図示しないメインルーチンに戻って処理を行う。
ステップS1でYES(要求がある。)と判断すると、ステップS2で、モータ16に一方向(便宜上、正方向という。)の電流を通電し、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出開始位置〔以下、適宜、検出開始位置という。〕までモータ16(ロータ22)を図2反時計方向Lに回転(前進)させる〔図4の時刻t1〜t2〕。前記検出開始位置は、モータ16(ロータ22)の図2反時計方向Lの回転(前進)により、パッド(ブレーキパッド5,6)がディスクロータ2に接触することになるモータ16(ロータ22)の回転位置(以下、パッド接触位置という。)に至っていないときのモータ16(ロータ22)の回転位置(以下、モータ位置という。)に定められている。
ここで、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出は、モータ16の回転ひいてはピストン14の移動を伴い、ブレーキパッド5,6の移動の可能性があるが、ブレーキパッド5,6がディスクロータ2に接触する位置(パッド接触位置)に至る前の移動範囲で行なう。換言すれば、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出は、ブレーキパッド5,6がディスクロータ2に当接しない状態で行なうようにしている。これにより、ブレーキ力を発生させることなく、駐車ブレーキラッチ機構20の故障を検出することができる。
【0021】
ステップS2に続いて、ソレノイド25に通電し(図4の時刻t3)、駐車ブレーキラッチ機構20をラッチさせる(ステップS3)。
ステップS3に続いて実行されるステップS4〜S6のループでは、モータ16に負方向の電流を通電してモータ16(ロータ22)を所定速度(α)で図2時計方向Rに回転させる(後退させる)〔図4の時刻t4〜t6,t6´〕。
この際、図2の係合つめ29とつめ車24が当接する際の衝撃荷重を緩和するために、モータ16は低速で回転させることが望ましい。
【0022】
ステップS6では、モータ16の電流(モータ電流)がラッチ検出電流しきい値以上であるか否かを判定する。ステップS6でNOと判定するとステップS4に戻る、すなわち「モータ電流<ラッチ検出電流しきい値」が成立している間は、ステップS4へのループ処理を継続する (図4の時刻t4〜t6,t6´) 。
このループ中には、モータ16の変位量(モータ回転量)を判定する処理(ステップS5)を含んでいる。なお、この処理は、〔検出開始位置−モータ位置(n)〕>(変位量しきい値)であるか否かの判定を行なうものであり、モータ16の位置〔モータ位置(n)〕と位置しきい値との大小比較を行なうものになっている。前記変位量しきい値は検出開始位置と予め定めた基準位置(位置しきい値)との間の長さ寸法で定めている。
【0023】
ステップS5において、モータ位置(n)は、現制御周期における値(モータ位置)である。これに対し、ステップS4に示すモータ位置(n−1)は、現制御周期より1周期前の制御周期における値(モータ位置)を示す。なお、ステップS4における「−α」は、1周期(サイクル)でモータ16をαだけ戻すことを示す。換言すれば、戻し速度が1サイクル当りαであることを示している。
【0024】
そして、図4の破線H1,H2に示すように、ステップS6で「モータ電流≧ラッチ検出電流しきい値」状態を検出することなく(ステップS4に戻る)、モータ16の変位(図2の時計方向Rの回転)が進み(ステップS4、S5)、モータ変位量が変位量しきい値より大きくなる〔モータ位置(n)が位置しきい値(ラッチ検出)より小さくなる〕と、ステップS5ではYES〔すなわち、駐車ブレーキラッチ機構20が作用できないままロータ22が図2時計方向Rに戻ってしまった、ひいてはラッチ不可能で、駐車ブレーキラッチ機構20の故障の虞がある〕と判定して、ステップS7の異常処理(ラッチ不可)サブルーチンを実行する(図4の時刻t6´)。ステップS7では、上述したように運転者への報知を行い、駐車ブレーキラッチ機構20が異常状態にあることに対して、運転者が適切な対処が図れるようにしている。
【0025】
ここで、変位量しきい値(ラッチ検出)は、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出開始位置から、図2に示すつめ車24の歯部30の1つ分に相当する長さだけ戻ったモータ回転位置までの長さとされている。
上記故障検出のためにモータ16を後退方向に回転(図2時計方向の回転)させる場合、モータ16の回転位置が、変位量しきい値における基準回転位置に至る前に、ステップS6で「モータ電流≦ラッチ検出電流しきい値」である(YES)と判定すると、駐車ブレーキラッチ機構20のラッチ動作は正常に行うことができると判断して、ラッチ位置を、ラッチ位置=モータ位置(n)として記憶する(ステップS8。図4の時刻t6参照)。
このとき、モータ16は回転位置制御が行われているため、戻り方向に回転位置指令を出すと、正方向のモータ電流が減少していき、正常にラッチ動作している場合には、さらに戻し方向に回転位置制御するため、モータ電流は負の方向に流れ始める。この負のモータ電流を検出することでラッチ動作を検出することができる。
【0026】
ステップS8に続いて、図4の時刻t7に対応して示されるように、モータ電流をゼロとし、さらに、ソレノイド25の通電を停止して、駐車ブレーキラッチ機構20をラッチ解除させる(ステップS9)。
次に、駐車ブレーキラッチ機構20を確実に解除するために、図4の時刻t7〜t8に対応して示されるように、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出開始位置から所定距離(α)だけ前進させた位置まで、モータ16を再度前進(図2反時計方向Lに回転)させる(ステップS10)。
【0027】
ステップS10に続いて実行されるステップS11〜S13のループでは、モータ16を所定速度(α)で後退(図2の時計方向Rの回転)させる(図4の時刻t9〜t10,t10´)。
ステップS13では、現在のモータ位置(n)がステツプS8で記憶したラッチ位置より小さいか否かを判定する。ステップS13でNOと判定する、すなわち〔現在のモータ位置(n)≧ラッチ位置(位置検出しきい値)〕が成立している間は、ステップS11へのループ処理を継続する。このループの中には、モータ電流が電流しきい値以下(モータ電流≦電流しきい値)であるか否かの判定を行なうステップ(ステップS12)を含んでいる。
【0028】
そして、図4の破線H3に示すように、モータ位置(n)が位置検出しきい値に至る前(この場合、ステップS13でNOと判定される)に「モータ電流≦ラッチ検出電流しきい値」状態を検出する(ステップS12)と、ステップS12でYESと判定し、これにより駐車ブレーキラッチ機構20が解除出来ないと判定して、異常処理(ラッチ解除不可)サブルーチンであるステップS14ヘジャンプする(図4の時刻t10´参照)。
ステップS14では、上述したように運転者への報知を行い、運転者が異常状態に対して対処し得るようにしている。
【0029】
上述したように、本実施の形態によれば、制動力が発生しないクリアランス領域にて駐車ブレーキラッチ機構20の故障を検出するので、制動力に影響を与えずに故障検出できる。
さらに、駐車ブレーキラッチ機構20の故障検出を、制動力に影響を与えずに果たすことができるので、駐車ブレーキラッチ機構20の信頼性を向上させることができる。
【0030】
上記実施の形態では、モータ位置(モータ変位量)を検出して故障判定しているが、モータ16の回転速度を制御する場合、モータ位置(モータ変位量)の代わりに、モータ16駆動時間を用いて故障判定が可能である。また、同様に、モータ電流を検出して故障判定する個所は、モータ16の電流増加速度を制御する場合、モータ電流の代わりに、モータ16の駆動時間を用いて故障判定が可能である。
【0031】
上記実施の形態では、駐車ブレーキラッチ機構20が故障していると判断すると、その旨を運転者に報知するように報知手段(表示手段36、音発生手段37)を設けた場合を例にしたが、これに代えて、又は、これに加えて、駐車ブレーキ作動を行なう際、同時に、クラッチ機構がPレンジに自動的に移行し得るように構成してもよい。
上記実施の形態では、ロータ22につめ車24を設けたが、モータ16によって回動する部分であれば、ボールランプ機構17の回動部材や作動減速機構18につめ車24を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態に係る電動ディスクブレーキ装置の全体構造を模式的に示す図である。
【図2】図1のY−Y線に沿う断面図である。
【図3】図1のコントローラの処理内容を示すフローチャートである。
【図4】図1の電動ディスクブレーキ装置の作用を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1…電動ディスクブレーキ装置、15…コントローラ(変位検出手段、検出動作手段)、16…モータ、20…駐車ブレーキラッチ機構、22…ロータ(回転体)、23…回転位置検出器(変位検出手段)、24…つめ車、25…ソレノイド(アクチュエータ)、29…係合つめ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、モータと、該モータのロータの回転を直線運動に変換して前記ピストンに伝達する回転−直動変換機構と、を配設してなるキャリパを有し、前記モータのロータの回転に応じてピストンを推進し、ブレーキパッドをディスクロータに押圧して制動力を発生すると共に、前記モータによって回動する回転体に設けられたつめ車と、該つめ車の周りに配置した係合つめと、該係合つめを前記つめ車に対する係合位置及び係合離脱位置に移動するアクチュエータと、からなる駐車ブレーキラッチ機構を有し、前記アクチュエータによる前記係合つめの移動により前記駐車ブレーキラッチ機構のロック作動およびロック解除作動を行う電動ディスクブレーキ装置において、
非制動時に前記モータと前記アクチュエータを作動させる検出動作手段と、
前記回転体の変位を検出する変位検出手段と、
前記検出動作手段により作動された前記駐車ブレーキラッチ機構のロック状態およびロック解除状態を、前記変位検出手段の検出内容に基いて検出するロック・ロック解除状態検出手段と、
を備えたことを特徴とする電動ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記検出動作手段は、前記ブレーキパッドが前記ディスクブレーキに接触しない範囲で前記モータを作動させることを特徴とする請求項1記載の電動ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記変位検出手段は、前記回転体の位置変化量により前記回転体の変位を検出することを特徴とする請求項1又は2記載の電動ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記変位検出手段は、前記モータへ供給する電流変化量により前記回転体の変位を検出することを特徴とする請求項1又は2記載の電動ディスクブレーキ装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−203821(P2007−203821A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23094(P2006−23094)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】