説明

電動パワーステアリング装置及びその製造方法

【課題】簡単な構造で支持剛性の高い小型の電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】ピニオン軸7が、トーションバー19を介して連結された入力軸17と出力軸18とを含む。駆動ギヤ23から被動ギヤ24を介して出力軸18に動力を伝達する。第1ハウジング30が、駆動ギヤ23の一端を支持する第1軸受37を保持した第1軸受孔38と、入力軸17を支持する第2軸受39を保持した第2軸受孔40と、トルクセンサ収容部41とを含む。第2ハウジング20が、駆動ギヤ23の他端を支持する第3軸受42を保持した第3軸受孔43と、被動ギヤ24のボス部54を片持ち支持する第4軸受44を保持しトルクセンサ収容部41より大径の第4軸受孔45とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動パワーステアリング装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置において、電動モータの動力を駆動ギヤと被動ギヤ(減速ギヤ)とを有する平行軸歯車機構(減速機構)を介して、ピニオン軸に伝達する、いわゆるピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置が提案されている(例えば特許文献1を参照)。
特許文献1では、ピニオン軸が、ピニオン軸のピニオン形成部を挟んだ両側に配置された一対のアンギュラ玉軸受を介して、ピニオンハウジングによって支持されている。また、ピニオン軸の上端に、被動ギヤ(減速ギヤ)が単一の材料で一体に形成されている。
【0003】
一方、特許文献2,3では、平行軸歯車機構を構成する駆動ギヤ、中間ギヤおよび被動ギヤのそれぞれの一端が第1ハウジングに保持された対応する軸受によって支持され、駆動ギヤ、中間ギヤおよび被動ギヤのそれぞれの他端が第2ハウジングに保持された対応する軸受によって支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−216865号公報
【特許文献2】特開2008−260379号公報
【特許文献3】特開2008−116011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2,3では、各ギヤが各ギヤの軸方向の両側に配置された一対の軸受を介して両持ち支持されている。このため、電動パワーステアリング装置が軸方向に大型化する傾向にある。
また、特許文献1では、ピニオンハウジングに設けられた軸受保持部の径が、第1ハウジングに設けられたトルクセンサ収容部の径よりも小さくされている。特許文献2では、被動ギヤ(減速ギヤ)を支持する軸受を保持する、下側のハウジングの軸受孔の径は、上側のハウジングに設けられたトルクセンサ収容部の径よりも小さくされている。特許文献3では、被動ギヤ(減速ギヤ)を支持する軸受を保持する、下側のハウジングの軸受孔の径は、上側のハウジングに設けられたトルクセンサ収容部の径と同等にされている。このため、各特許文献1〜3では、被動ギヤの支持剛性が低くなるおそれがある。
【0006】
特許文献3では、被動ギヤを軸方向に挟んだ両側で操舵出力軸を支持する一対の軸受のうち、上方の軸受を支持するハウジングと、トルクセンサ収容部を形成するハウジングとを別体で構成している。したがって、部品点数が多くなり、構造が複雑になる。
そこで、本発明の目的は、簡単な構造で支持剛性の高い小型の電動パワーステアリング装置およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1の発明は、トーションバー(19)を介して同軸上に連結された入力軸(17)および出力軸(18)を含み、ラック軸(10)に噛み合うピニオン軸(7)と、前記ピニオン軸を取り囲み操舵トルクを検出するトルクセンサ(25)と、前記ピニオン軸に平行な回転軸(22)とモータハウジング(21)とを有し、前記トルクセンサの検出結果に基づいて操舵補助力を発生する電動モータ(12)と、前記回転軸に同軸上に連結された駆動ギヤ(23)と、前記ピニオン軸に一体回転可能に嵌合され、前記駆動ギヤに噛み合う減速用の被動ギヤ(24)と、前記モータハウジングが固定され単一の材料で一体に形成された第1ハウジング(30)と前記第1ハウジングに固定された第2ハウジング(20)とを含み、前記駆動ギヤと前記被動ギヤと前記ピニオン軸を収容したハウジング(28)と、を備え、前記第1ハウジングは、前記駆動ギヤの一端(231)を回転可能に支持する第1軸受(37)を保持した第1軸受孔(38)と、前記入力軸を回転可能に支持する第2軸受(39)を保持した第2軸受孔(40)と、前記第2軸受孔よりも第2ハウジング側に配置され前記トルクセンサを収容したトルクセンサ収容部(41)と、を含み、前記第2ハウジングは、前記駆動ギヤの他端(232)を回転可能に支持する第3軸受(42)を保持した第3軸受孔(43)と、前記被動ギヤの一端を片持ち支持する第4軸受(44)を保持した第4軸受孔(45)と、を含み、前記第4軸受孔は、前記トルクセンサ収容部よりも大径である電動パワーステアリング装置(1)を提供する。
【0008】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記第4軸受は、組合せアンギュラ玉軸受(44)または複列アンギュラ玉軸受であってもよい。
【0009】
また、請求項3のように、前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングのそれぞれに、両ハウジングを相互に位置決めする位置決めピン(70)を挿通可能な位置決めピン挿通孔(71,72)が設けられていてもよい。
また、請求項4のように、前記第1軸受孔と前記第3軸受孔との同軸度交差の絶対値が、前記第2軸受孔と前記第4軸受孔との同軸度交差の絶対値よりも小さくされていてもよい。
【0010】
また、請求項5の発明は、前記電動パワーステアリング装置の製造方法であって、前記第1軸受孔および前記第3軸受孔に挿通された第1位置決め基準軸(91)と、前記第3軸受孔および前記第4軸受孔に挿通された第2位置決め基準軸(92)と、を用いて、前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングを互いに位置決めする、基準軸による位置決め工程を含む電動パワーステアリング装置の製造方法を提供する。
【0011】
また、請求項6のように、前記第1位置決め基準軸と前記第2位置決め基準軸とによって互いに位置決めされた状態の前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングのそれぞれに、互いに連通する位置決めピン挿通孔を同時に加工するピン挿通孔加工工程と、前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングを互いに固定する前に、両ハウジングの位置決めピン挿通孔に位置決めピンを挿通して、両ハウジングを相互に位置決めする、位置決めピンによる位置決め工程と、を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、下記の効果を奏する。すなわち、通例、ピニオン軸を収容する第2ハウジング(いわゆるピニオンハウジングに相当)は、ラック軸を支持するラックハウジングの一部と一体に構成されており、剛性が高い。その剛性の高い第2ハウジングが、トルクセンサ収容部よりも大径をなす第4軸受孔に保持した大型の第4軸受を介して、被動ギヤの一端を片持ち支持する。したがって、片持ち支持であっても被動ギヤを十分な支持剛性で支持することができ、しかも、被動ギヤの両端を両持ち支持する従来の場合と比較して、軸方向の小型化を達成することができる。さらに、第2軸受を保持する第2軸受孔とトルクセンサ収容孔とを形成した第1ハウジングを単一の材料で一体に形成しているので、構造を簡素化することができる。
【0013】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
請求項2の発明によれば、被動ギヤを片持ち支持する第4軸受として組合せアンギュラ玉軸受や複列アンギュラ玉軸受を用いることにより、被動ギヤの支持剛性をより高くすることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、両ハウジングを固定する前に、両ハウジングの位置決めピン挿通孔に位置決めピンを挿通して両ハウジング間の位置精度を高く設定できるので、駆動ギヤと被動ギヤの噛み合い精度を向上することができる。
請求項4の発明によれば、駆動ギヤの両端を両持ち支持する第1軸受および第3軸受をそれぞれ保持する第1軸受孔および第3軸受孔の間の同軸度公差の絶対値を、第2軸受孔および第4軸受孔の間の同軸度公差の絶対値よりも小さくしたので、両持ち支持される駆動ギヤの位置精度を高めて、駆動ギヤと被動ギヤとの噛み合い精度を向上することができる。一方、トルクセンサ収容部は、あまり厳密な精度を要求されないので、第2軸受孔および第4軸受孔の間の同軸度公差の絶対値を相対的に高くしても支障がない。
【0015】
請求項5の発明によれば、第1軸受孔および第3軸受孔に挿通された第1位置決め基準軸と、第2軸受孔および第4軸受孔に挿通された第2位置決め基準軸と、を用いて、第1ハウジングおよび第2ハウジングを互いに位置決めする。したがって、両位置決め基準軸を用いて、第1軸受孔および第3軸受孔の間の同軸度公差の絶対値と、第2軸受孔および第4軸受孔の間の同軸度公差の絶対値との関係を容易に設定することができる。
【0016】
請求項6の発明によれば、両位置決め基準軸によって互いに位置決めされた状態の両ハウジングのそれぞれに、互いに連通する位置決めピン挿通孔を同時に加工した後、駆動ギヤ、被動ギヤおよび各軸受等を組み込んで、電動パワーステアリング装置を組み立てる。両ハウジングを互いに固定する前に、両ハウジングの位置決めピン挿通孔に位置決めピンを挿通して、両ハウジングを相互に位置決めしておくことにより、両ハウジングの対応する軸受孔を同時加工せずとも、特に駆動ギヤを両持ち支持する第1軸受および第3軸受に関して、位置精度を高くすることが可能となる。これにより駆動ギヤの位置精度を高めて、駆動ギヤと被動ギヤとの噛み合い精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図であり、電動パワーステアリング装置の概略構成を示している。
【図2】電動パワーステアリング装置の要部の一部破断側面図である。
【図3】図2の一部を拡大した拡大断面図である。
【図4】図2の他の部分を拡大した拡大断面図である。
【図5】図5(a)〜(c)は電動パワーステアリング装置の製造工程の模式的縦断面図である。
【図6】図6(a)〜(c)は、図5(c)の製造工程に続く製造工程の模式的縦断面図である。
【図7】図5(b)の状態に対応する製造工程の模式的横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施形態を添付図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の一実施形態の電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2が一端に連結されたステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、この中間軸5に自在継手6を介して連結された操舵伝達軸としてのピニオン軸7と、ピニオン軸7の先端部に設けられたピニオン8に噛み合うラック9を形成して車両の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸10と、伝達機構としての減速機構11を介してピニオン軸7に操舵補助力を付与する電動モータ12とを備えている。
【0019】
電動パワーステアリング装置1は、電動モータ12が操舵伝達軸としてのピニオン軸7に操舵補助力を付与する、いわゆるピニオンアシストタイプの電動パワーステアリング装置として構成されている。
ラック軸10は、筒状のラックハウジング13に軸方向移動可能に支持されている。ラック軸10の両端部には、それぞれタイロッド14が連結されており、各タイロッド14は、対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪15に連結されている。ピニオン軸7、ラック軸10およびタイロッド14等を含んで転舵輪15を転舵するための転舵機構16が構成されている。
【0020】
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転は中間軸5等を介してピニオン8に伝達され、ピニオン8およびラック9によって、車両の左右方向に沿うラック軸10の直線運動に変換される。これにより、転舵輪15の転舵が達成される。
操舵伝達軸としてのピニオン軸7は、自在継手6を介して中間軸5に連なる入力軸17と、ピニオン8を形成した出力軸18とを有している。これら入力軸17および出力軸18は、連結軸としてのトーションバー19を介して同軸上に互いに連結されている。入力軸17および出力軸18は、互いにトルク伝達可能であり、所定の角度範囲内で相対回転可能とされている。
【0021】
電動モータ12は、ラックハウジング13の一部とは単一の材料で一体に形成された第2ハウジング20(ピニオンハウジングに相当)に固定されたモータハウジング21と、そのモータハウジング21に回転可能に支持された回転軸22と、モータハウジング21内に固定されたステータ(図示せず)と、回転軸22に一体回転可能に連結されたロータ(図示せず)とを備えている。
【0022】
減速機構11は、電動モータ12の回転軸22に図示しない継手を介して同軸上にトルク伝達可能に連結された例えば小型のピニオンからなる駆動ギヤ23と、駆動ギヤ23と噛み合い、ピニオン軸7の出力軸18に一体回転可能に連結された例えばウォームホイールからなる被動ギヤ24とを備えている。
電動パワーステアリング装置1は、トルクセンサ25により検出された操舵トルクと、車速センサ26により検出された車速に基づいて、電動モータ12を駆動制御するマイクロコンピュータを含むECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)27を備えている。
【0023】
トルクセンサ25では、トーションバー19のねじれに起因する入力軸17と出力軸18との相対回転変位量に基づく磁束変化から、入力軸17および出力軸18に付与される操舵トルクを検出する。ECU27では、操舵トルクと目標アシスト量との関係を車速毎に記憶したマップを用いて目標アシスト量を決定し、電動モータ12の発生するアシスト力を目標アシスト量に近づけるように制御する。
【0024】
ECU27が電動モータ12を駆動すると、その出力回転(動力)が、駆動ギヤ23および被動ギヤ24を含む減速機構11で減速されて、ピニオン軸7の出力軸18へ伝達される。出力軸18に伝えられた動力は、ラック軸10、タイロッド14およびナックルアーム等を含む転舵機構16に伝えられ、運転者の操舵が補助される。
電動パワーステアリング装置1の要部の一部破断側面図である図2を参照して、減速機構11を構成する駆動ギヤ23および被動ギヤ24は、ハウジング28によって区画されたギヤ収容室29内に収容されている。ハウジング28は、単一の材料で一体に形成された第1ハウジング30(センサハウジングに相当)と、前記第2ハウジング20(ピニオンハウジングに相当)とを組み合わせて、両ハウジング30,20を締結ねじ31によって締結して構成されている。
【0025】
電動モータ12のモータハウジング21に設けられた嵌合凸部32が、第1ハウジング30に設けられた嵌合凹部33に嵌合した状態で、モータハウジング21に設けられたフランジ部34が、第1ハウジング30に設けられたフランジ部35に、締結ねじ36を用いて締結されている。これにより、モータハウジング21が第1ハウジング30に固定されている。
【0026】
第1ハウジング30は、駆動ギヤ23の一端231を回転可能に支持する第1軸受37を保持した第1軸受孔38と、入力軸17を回転可能に支持する第2軸受39を保持した第2軸受孔40と、第2軸受孔40よりも第2ハウジング20側に配置されてトルクセンサ25を収容したトルクセンサ収容部41とを形成している。
第2ハウジング20は、駆動ギヤ23の他端232を回転可能に支持する第3軸受42を保持した第3軸受孔43と、被動ギヤ24の一端に相当するボス部54を片持ち支持する第4軸受44を保持した第4軸受孔45とを形成している。この第4軸受孔45は、トルクセンサ収容部41よりも大径である。
【0027】
第1ハウジング30と第2ハウジング20との対向端部に設けられたフランジ部30a,20aのそれぞれに、両ハウジング30,20を相互に位置決めする位置決めピン70を挿通可能な位置決めピン挿通孔71,72が設けられている。位置決めピン70は、少なくとも2本設けられている。位置決めピン70は先細り状のテーパピンにより構成されており、位置決めピン挿通孔71,72も先細りのテーパ状に形成されている。
【0028】
両ハウジング30,20は、位置決めピン70によって相互に位置決めされた状態で、締結ねじ31を用いて固定される。位置決めピン70は両ハウジング30,20の固定後に、図2のように、そのまま残存させておいてもよいし、また、両ハウジング30,20の固定後に位置決めピン70を取り除くようにしてもよい。位置決めピン70の先端を押すことにより、位置決めピン70を逆側へ容易に離脱させることができる。
【0029】
位置決めピン70による位置決めが完了した後に互いに固定された第1ハウジング30および第2ハウジング20では、第1軸受孔38と第3軸受孔43との同軸度交差の絶対値(例えば10μm)が、第2軸受孔40と第4軸受孔45との同軸度交差の絶対値(例えば50μm)よりも小さくされている。
図2の一部を拡大した図3に示すように、第1ハウジング30の嵌合凹部33の底からモータハウジング21側に向けて延びる筒状部46が形成され、筒状部46の内周によって第1軸受孔38が区画されている。筒状部46の内周には、第1軸受37の外輪を第3軸受42側に向けて押圧することにより、第1軸受37および第3軸受42に一括して予圧を付与するための押圧部材47が螺合されている。押圧部材47はロックナット48によって、筒状部46に止定されている。
【0030】
第1軸受37の内輪371は、駆動ギヤ23の一端231に圧入されたスリーブ73の外周に嵌合されている。第1軸受37の内輪371は、スリーブ73の一端に形成されて駆動ギヤ23の一端231の環状の位置決め段部74に当接したフランジ75と、駆動ギヤ23の一端231のねじ部76に螺合されたナット77との間に挟持されている。これにより、駆動ギヤ23に対して、第1軸受37の内輪371の軸方向移動が規制されている。
【0031】
第3軸受42の内輪421は、駆動ギヤ23の他端232に圧入されたスリーブ78の外周に嵌合されている。第3軸受42の内輪421は、スリーブ78の一端に形成されて駆動ギヤ23の他端232の環状の位置決め段部79に当接したフランジ80に当接することにより、駆動ギヤ23に対して、第3軸受42の内輪421の軸方向移動(第1軸受37側への移動)が規制されている。
【0032】
第3軸受42の外輪422の端面は、第2ハウジング20の第2軸受孔43の底に形成された環状の位置決め段部81に当接している。これにより、第2ハウジング20に対して、第3軸受42の外輪422の軸方向移動が規制されている。一方、前記押圧部材47は、第1軸受37の外輪372の端面を軸方向(第3軸受42側)に押圧している。この押圧部材47による押圧力が、第1軸受37および第3軸受42に負荷されて、両軸受37,42に予圧が付与されている。
【0033】
駆動ギヤ23は電動モータ12の回転軸22に、継手49を介して一体回転可能に連結されている。継手49は、例えば、駆動ギヤ23の一端231から延設された延設軸233と、回転軸23の端部とにスプライン結合する筒状のスプライン継手である。
図2の一部を拡大した図4に示すように、トーションバー19は入力軸17を同軸上に貫通している。トーションバー19の一端191は、連結ピン50によって入力軸17の一端171に同伴回転可能に連結されている。トーションバー19の他端192は、出力軸18に設けられた連結孔51の奥部に、セレーション結合により同伴回転可能に連結されている。
【0034】
入力軸17の他端172は、出力軸18の連結孔51の入口部に嵌合された例えば針状ころ軸受等のころ軸受52によって回転可能に支持されている。
被動ギヤ24は、外周に歯を形成し、出力軸18の一端の外周に嵌合された環状の被動ギヤ本体53と、被動ギヤ本体53からピニオン8側に向けて突出する、被動ギヤ24の一端としてのボス部54とを備えている。被動ギヤ本体53には、軽量化のために複数の肉抜き孔55が貫通形成されている。被動ギヤ24のボス部54と出力軸18とは、両者を径方向に挿通する連結ピン56によって一体回転可能に連結されている。
【0035】
被動ギヤ24の一端としてのボス部54が、第2ハウジング20の第4軸受孔45に保持された第4軸受44によって回転可能に支持されている。第4軸受44は、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bが例えば正面合わせに配置された組合せアンギュラ玉軸受として構成されている。
一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bの内輪441,442は、ボス部54の外周に一体回転可能に嵌合している。また、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bの内輪441,442は、ボス部54の基端部の外周に設けられた位置決め段部57によって受けられた予圧調整用シム68と、ボス部54の軸方向中間部の外周に設けられたねじ部に螺合したナット58との間に挟持されている。これにより、ボス部54に対して、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bの内輪441,442の軸方向移動が規制されている。
【0036】
一方、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bの外輪443,444は、第2軸受孔45に例えば圧入されて固定されている。また、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bの外輪443,444は、第4軸受孔45の端部に形成された位置決め段部59と、第4軸受孔45の縁部に固定ねじ60によって固定された環状の押圧部材61との間に挟持されている。押圧部材61による押圧力が、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bを介して、ナット58によって受けられる。これにより、複列アンギュラ玉軸受(第4軸受44)を構成する一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bに予圧が付与されている。
【0037】
トルクセンサ25は、入力軸17に一体回転可能に連結された環状の多極磁石62と、出力軸18に一体回転可能に連結された合成樹脂製の保持筒63にモールドされた軟磁性体製の一対のヨークリング64,65と、ヨークリング64,65と磁気的に結合された軟磁性体製の一対の集磁リング66,67と、集磁リング66,67から延設された集磁板(図示せず)間に生ずる磁束を検出する磁気センサとしての一対のホールIC(図示せず)とを備えている。
【0038】
次いで、図5(a)〜(c)および図6(a)〜(c)は、電動パワーステアリング装置1の主たる製造工程を模式的に示している。具体的には、第1軸受孔38と第3軸受孔43との同軸度を調整し、且つ第2軸受孔40と第4軸受孔45との同軸度を調整した状態に、第1ハウジング30と第2ハウジング20を位置決めする工程である。
まず、図5(a)に示すように、第2ハウジング20の第3軸受孔43に第1位置決め基準軸91を挿通し、第2ハウジング20の第4軸受孔45に第2位置決め基準軸92を挿通する。
【0039】
第1位置決め基準軸91は、第1ハウジング30の第1軸受孔38と第2ハウジング20の第3軸受孔43との同軸度公差を調整する円柱軸である。第2位置決め基準軸92は、第1ハウジングの第2軸受孔40と第2ハウジング20の第4軸受孔45との同軸度公差を調整する2段軸であり、第4軸受孔45に嵌合する円柱状の大径部92aと、第2軸受孔40に嵌合する断面長円状の小径部92bとを有している。
【0040】
模式的横断面図である図7に示すように、小径部92bの長手方向が、第1位置決め基準軸91の中心軸線C1および第2位置決め基準軸92の中心軸線C2を含む平面Pに対して直交する方向に延びている。
次いで、図5(b)に示すように、第1ハウジング30の第1軸受孔38および第2軸受孔40に、それぞれ、第1位置決め基準軸91および第2位置決め基準軸92が挿通させるようにして、第1ハウジング30を第2ハウジング20に組み合わせる。これにより、第1軸受孔38と第3軸受孔43との同軸度公差が、例えば10μmに調整され、第2軸受孔40と第4軸受孔45との同軸度公差が、例えば50μmに調整された状態に、両ハウジング30,20が互いに位置決めされる。
【0041】
次いで、図5(c)に示すピン挿通孔加工工程では、前記のように両ハウジング30,20が互いに所定の位置精度に位置決めされた状態で、両ハウジング30,20のそれぞれに、互いに連通する位置決めピン挿通孔71,72を複数箇所、同時に加工する。
その後、両ハウジング30,20を離脱させて、両位置決め基準軸91,92を取り外した後、図6(a)に示すように、駆動ギヤ23、被動ギヤ24、各軸受37,39,42,44およびトルクセンサ25等を組み込んで、電動パワーステアリング装置1を仮組みする。
【0042】
次いで、図6(b)に示す位置決めピンによる位置決め工程では、両ハウジング30,20の位置決めピン挿通孔71,72に位置決めピン70を挿通して、両ハウジング30,20を相互に位置決めする。
次いで、図6(c)に示すように、位置決めピン70によって位置決めされた状態の両ハウジング30,20を、締結ねじ31を用いて固定する。両ハウジング30,20の固定後は、位置決めピン70を残存させておいてもよいし、取り外してしまってもよい。
【0043】
本実施の形態の電動パワーステアリング装置1によれば、下記の効果を奏する。すなわち、ピニオン軸7を収容する第2ハウジング20(いわゆるピニオンハウジングに相当)は、ラック軸8を支持するラックハウジング13の一部と一体に構成されており、剛性が高い。その剛性の高い第2ハウジング20が、トルクセンサ収容部41よりも大径をなす第4軸受孔44に保持された、大型で負荷容量の大きい第4軸受44を介して、被動ギヤ24の一端に相当するボス部54を片持ち支持する。
【0044】
したがって、片持ち支持であっても被動ギヤ24を十分な支持剛性で支持することができ、しかも、被動ギヤの両端を両持ち支持する従来の場合と比較して、軸方向の小型化を達成することができる。さらに、第2軸受39を保持する第2軸受孔40とトルクセンサ収容孔41とを形成した第1ハウジング30を単一の材料で一体に形成しているので、構造を簡素化することができる。
【0045】
特に、被動ギヤ24を片持ち支持する第4軸受44として、一対の単列アンギュラ玉軸受44A,44Bで構成された組合せアンギュラ玉軸受を用いることにより、被動ギヤ24の支持剛性をより高くすることができる。
また、両ハウジング30,20を固定する前に、両ハウジング30,20の位置決めピン挿通孔71,72に位置決めピン70を挿通して両ハウジング30,20間の位置精度を高く設定できるので、駆動ギヤ23と被動ギヤ24の噛み合い精度を向上することができる。
【0046】
また、駆動ギヤ23の両端231,232を両持ち支持する第1軸受37および第3軸受42をそれぞれ保持する第1軸受孔38および第3軸受孔43の間の同軸度公差の絶対値を、第2軸受孔40および第4軸受孔45の間の同軸度公差の絶対値よりも小さくしたので、両持ち支持される駆動ギヤ23の位置精度を高めて、駆動ギヤ23と被動ギヤ24との噛み合い精度を向上することができる。一方、トルクセンサ収容部41は、あまり厳密な精度を要求されないので、第2軸受孔40および第4軸受孔45の間の同軸度公差の絶対値を相対的に高くしても支障がない。
【0047】
また、電動パワーステアリング装置1の製造方法によれば、第1軸受孔38および第3軸受孔43に挿通された第1位置決め基準軸91と、第2軸受孔40および第4軸受孔45に挿通された第2位置決め基準軸92とを用いて、第1ハウジング30および第2ハウジング20を互いに位置決めする。したがって、両位置決め基準軸91,92を用いて、第1軸受孔38および第3軸受孔43の間の同軸度公差の絶対値と、第2軸受孔40および第4軸受孔45の間の同軸度公差の絶対値との関係を容易に設定することができる。
【0048】
さらに、両位置決め基準軸91,92によって互いに位置決めされた状態の両ハウジング30,20のそれぞれに、互いに連通する位置決めピン挿通孔71,72を同時に加工した後、駆動ギヤ23、被動ギヤ24および各軸受等(図示せず)を組み込んで、電動パワーステアリング装置1を仮組みする。そして、両ハウジング30,20を互いに固定する前に、両ハウジング30,20の位置決めピン挿通孔71,72に位置決めピン70を挿通して、両ハウジング30,20を相互に位置決めしておくことにより、両ハウジング30,20の対応する軸受孔(第1軸受孔38と第3軸受孔43)を同時加工せずとも、特に駆動ギヤ23を両持ち支持する第1軸受37および第3軸受42に関して、位置精度を高くすることが可能となる。これにより駆動ギヤ23の位置精度を高めて、駆動ギヤ23と被動ギヤ24との噛み合い精度を向上することができる。
【0049】
本実施の形態は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、第4軸受44として、組合せアンギュラ玉軸受に代えて、複列アンギュラ玉軸受を用いるようにしてもよい。その他、本発明の請求項記載の範囲内で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0050】
1…電動パワーステアリング装置、7…ピニオン軸、10…ラック軸、11…減速機構(伝達機構)、12…電動モータ、13…ラックハウジング、16…転舵機構、17…入力軸、18…出力軸、19…トーションバー、20…第2ハウジング、20a…フランジ部、21…モータハウジング、22…回転軸、23…駆動ギヤ、231…一端、232…他端、233…延設軸、24…被動ギヤ、25…トルクセンサ、28…ハウジング、29…ギヤ収容室、30…第1ハウジング、30a…フランジ部、31…締結ねじ、37…第1軸受、38…第1軸受孔、39…第2軸受、40…第2軸受孔、41…トルクセンサ収容部、42…第3軸受、43…第3軸受孔、44…第4軸受(組合せアンギュラュラ玉軸受)、44A,44B…単列アンギュラ玉軸受、45…第4軸受孔、54…ボス部(被動ギヤの一端)、70…位置決めピン、71,72…位置決めピン挿通孔、91…第1位置決め基準軸、92…第2位置決め基準軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションバーを介して同軸上に連結された入力軸および出力軸を含み、ラック軸に噛み合うピニオン軸と、
前記ピニオン軸を取り囲み操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ピニオン軸に平行な回転軸とモータハウジングとを有し、前記トルクセンサの検出結果に基づいて操舵補助力を発生する電動モータと、
前記回転軸に同軸上に連結された駆動ギヤと、
前記ピニオン軸に一体回転可能に嵌合され、前記駆動ギヤに噛み合う減速用の被動ギヤと、
前記モータハウジングが固定され単一の材料で一体に形成された第1ハウジングと前記第1ハウジングに固定された第2ハウジングとを含み、前記駆動ギヤと前記被動ギヤと前記ピニオン軸を収容したハウジングと、を備え、
前記第1ハウジングは、前記駆動ギヤの一端を回転可能に支持する第1軸受を保持した第1軸受孔と、前記入力軸を回転可能に支持する第2軸受を保持した第2軸受孔と、前記第2軸受孔よりも第2ハウジング側に配置され前記トルクセンサを収容したトルクセンサ収容部と、を含み、
前記第2ハウジングは、前記駆動ギヤの他端を回転可能に支持する第3軸受を保持した第3軸受孔と、前記被動ギヤの一端を片持ち支持する第4軸受を保持した第4軸受孔と、を含み、
前記第4軸受孔は、前記トルクセンサ収容部よりも大径である電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第4軸受は、組合せアンギュラ玉軸受または複列アンギュラ玉軸受である電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングのそれぞれに、両ハウジングを相互に位置決めする位置決めピンを挿通可能な位置決めピン挿通孔が設けられている電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、前記第1軸受孔と前記第3軸受孔との同軸度交差の絶対値が、前記第2軸受孔と前記第4軸受孔との同軸度交差の絶対値よりも小さくされている電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置の製造方法であって、
前記第1軸受孔および前記第3軸受孔に挿通された第1位置決め基準軸と、前記第3軸受孔および前記第4軸受孔に挿通された第2位置決め基準軸と、を用いて、前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングを互いに位置決めする、基準軸による位置決め工程を含む電動パワーステアリング装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記第1位置決め基準軸と前記第2位置決め基準軸とによって互いに位置決めされた状態の前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングのそれぞれに、互いに連通する位置決めピン挿通孔を同時に加工するピン挿通孔加工工程と、
前記第1ハウジングおよび前記第2ハウジングを互いに固定する前に、両ハウジングの位置決めピン挿通孔に位置決めピンを挿通して、両ハウジングを相互に位置決めする、位置決めピンによる位置決め工程と、を含む電動パワーステアリング装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82348(P2013−82348A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224141(P2011−224141)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】