説明

電動パワーステアリング装置

【課題】新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることのできる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】この電動パワーステアリング装置は、操舵系にアシスト力を付与するモータを備え、このモータの抵抗を示す値であるモータRm抵抗を更新する。具体的には、モータの誘起電圧EXが第1判定値GAよりも小さいことに基づいて、モータ抵抗Rmを更新する。また、誘起電圧EXが第2判定値GBよりも小さいとき、モータ電圧Vmをモータ電流Imにより除算した値である除算値を新たなモータ抵抗Rmとして設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵系にアシスト力を付与するモータを備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置では、モータの実際の抵抗が電流に応じて変化することを考慮して、モータ電流とモータ抵抗との関係を規定したマップを予め用意し、このマップにそのときどきのモータ電流を適用してモータ抵抗を算出する。そして、算出したモータ抵抗を新たなモータ抵抗として設定し、これを各種の演算に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−66999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、モータの抵抗はモータの電流や外気温の影響を受けて変化するため、モータ抵抗を精確に算出するためには誘起電圧を考慮することが必要となる。すなわち、誘起電圧はモータ抵抗の推定精度に影響を及ぼすとともに、誘起電圧が大きくなるにつれて推定精度が低くなるため、この点を考慮してモータ抵抗の算出を行うことが好ましい。
【0005】
しかし、特許文献1の電動パワーステアリング装置をはじめとする従来の装置では、上記の点について特に考慮されていないため、モータ抵抗の更新にともない新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータ抵抗とが大きく乖離するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものでありその目的は、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、操舵系にアシスト力を付与するモータを備え、このモータの抵抗を示す値であるモータ抵抗を更新する電動パワーステアリング装置において、前記モータの誘起電圧が判定値以下のとき、前記モータ抵抗を更新することを要旨としている。
【0008】
この発明では、モータの誘起電圧が判定値よりも小さいとき、すなわちモータの抵抗の推定精度に対する誘起電圧の影響が小さいとき、モータ抵抗を更新している。このため、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0009】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記モータの電圧に基づいて、または前記モータの電流および前記モータ抵抗を乗算した値に基づいて、前記判定値が設定されることを要旨としている。
【0010】
モータの誘起電圧がモータの電圧に対して十分に小さいとき、誘起電圧がモータの抵抗の推定精度に及ぼす影響も小さくなる。また、モータの誘起電圧がモータの電流および抵抗を乗算した値に対して十分に小さいときにも、誘起電圧がモータの抵抗の推定精度に及ぼす影響が小さくなる。上記発明ではこの点に鑑み、モータの電圧または上記乗算した値を誘起電圧に対する判定値として設定しているため、モータの抵抗の推定精度に対する誘起電圧の影響が小さいときにモータ抵抗を更新することができる。
【0011】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記判定値である第1判定値よりも小さい値を第2判定値として、前記誘起電圧が前記第2判定値よりも小さいとき、前記モータの電圧を前記モータの電流により除算した値である除算値を新たなモータ抵抗として設定することを要旨としている。
【0012】
モータの抵抗の推定精度に対する誘起電圧の影響がないとき、実際のモータの抵抗を適切に反映した値、すなわちモータの電圧および電流に基づいて算出されたモータの抵抗(除算値)を新たなモータ抵抗として設定することが好ましい。しかし、実際には上記のとおり誘起電圧がモータの抵抗の推定精度に影響を及ぼすとともに、誘起電圧が大きくなるにつれて除算値の精度が低くなる。上記発明ではこの点に鑑み、モータの誘起電圧が第2判定値よりも小さいとき、すなわち除算値の精度が比較的高いと推定されるとき、除算値を新たなモータ抵抗として設定しているため、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離をより小さくすることができる。
【0013】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記判定値である第1判定値よりも小さい値を第2判定値として、前記誘起電圧が前記第2判定値よりも大きくかつ前記第1判定値以下のとき、そのときに設定されているモータ抵抗である前回モータ抵抗と、前記モータの電圧を前記モータの電流により除算した値である除算値とに基づいてモータ抵抗を算出し、これを新たなモータ抵抗として設定することを要旨としている。
【0014】
モータの誘起電圧の影響により除算値の精度が低いと推定される場合において、同除算値をそのまま新たなモータ抵抗として設定したときには、新たに設定したモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離が大きくなるおそれがある。このため、誘起電圧が第1判定値以下かつ第2判定値よりも大きいときには、誘起電圧が第1判定値よりも大きいときに比べてモータの抵抗の推定精度に対する誘起電圧の影響が小さいとはいえ、除算値を新たなモータ抵抗として設定することは好ましくない。上記発明ではこの点に鑑み、前回モータ抵抗および除算値に基づいて新たなモータ抵抗を算出しているため、除算値をそのまま新たなモータ抵抗として設定する構成と比較して、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0015】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、前記誘起電圧が前記第2判定値より大きくかつ前記第1判定値以下のとき、前記前回モータ抵抗と前記除算値との加重平均により新たなモータ抵抗を算出するとともに、前記加重平均において前記誘起電圧が前記第2判定値に近い値となるにつれて前記除算値の重みを前記前回モータ抵抗の重みに対して大きくすることを要旨としている。
【0016】
モータの誘起電圧が第2判定値に近い値となるにつれて、すなわちモータの誘起電圧が小さくなるにつれて、除算値の推定精度に対する誘起電圧の影響が小さくなる。上記発明ではこの点に鑑み、誘起電圧が第2判定値に近い値となるにつれて除算値の重みを前回モータ抵抗の重みに対して大きくしているため、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0017】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記モータの電圧方程式に基づいて前記モータの誘起電圧を算出することを要旨としている。
【0018】
上記発明によれば、モータの電圧、モータの抵抗、モータの電流、およびインダクタンスによりモータの誘起電圧を算出することができる。
(7)請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、前記モータの電流の時間変化量が電流判定値以下であることを条件Aとし、前記モータの電圧の時間変化量が電圧判定値以下であることを条件Bとして、前記条件Aおよび前記条件Bの少なくとも一方が成立しているとき、前記モータの電圧方程式に基づいて前記モータの誘起電圧を算出することを要旨としている。
【0019】
インダクタンスが小さいとき、モータの電圧方程式におけるインダクタンスを含む項を無視することができる。一方、モータの電流の時間変化量が大きいときには、算出したモータの誘起電圧と実際のモータの誘起電圧との乖離が大きくなるおそれがある。上記発明ではこの点に鑑み、インダクタンスを含む項が十分に小さい値になるとき、すなわち条件Aおよび条件Bの少なくとも一方が成立しているときに、モータの誘起電圧を算出しているため、算出したモータの誘起電圧と実際のモータの誘起電圧との乖離が大きくなることを抑制することができる。
【0020】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項6または7に記載の電動パワーステアリング装置において、過去に算出した前記モータ抵抗に基づいて前記誘起電圧を算出することを要旨としている。
【0021】
直前の演算周期のモータ抵抗のみを用いて誘起電圧を算出したとき、誘起電圧が発散するおそれが生じる。上記発明ではこの点に鑑み、過去のモータ抵抗に基づいて誘起電圧を算出しているため、直前の演算周期のモータ抵抗のみを用いて誘起電圧を算出する場合と比較して誘起電圧が発散するおそれが生じにくい。これにより、誘起電圧の推定精度が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、新たに設定されるモータ抵抗と実際のモータの抵抗との乖離を小さくすることのできる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態の電動パワーステアリング装置について、その全体構造を模式的に示す模式図。
【図2】同実施形態の電動パワーステアリング装置について、その制御系の構成を示すブロック図。
【図3】同実施形態の操舵トルクシフト制御に用いられるモータ速度と遷移係数との関係を規定したマップ。
【図4】同実施形態の電子制御装置により実行される「モータ抵抗更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態の電子制御装置により実行される「モータ抵抗更新処理」について、その重み付け係数γxを算出するためのマップ。
【図6】同実施形態の電子制御装置により実行される「モータ抵抗更新処理」について、モータ抵抗の変化を示すタイミングチャート。
【図7】本発明の第2実施形態の電子制御装置により実行される「モータ抵抗更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図8】本発明の第3実施形態の電子制御装置により実行される「モータ抵抗更新処理」について、その手順を示すフローチャート。
【図9】本発明の第1実施形態の電子制御装置より実行される「モータ抵抗更新処理」の変形例について、その重み付け係数γxを算出するためのマップ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1実施形態)
図1〜図6を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1に、電動パワーステアリング装置1の全体構成を示す。
【0025】
電動パワーステアリング装置1は、ステアリング2の回転を転舵輪3に伝達する操舵角伝達機構10と、ステアリング2の操作を補助するための力(以下、「アシスト力」)を操舵角伝達機構10に付与するEPSアクチュエータ20と、EPSアクチュエータ20を制御する電子制御装置30と、各装置の動作状態等を検出する複数のセンサとを含む。
【0026】
操舵角伝達機構10は、ステアリング2とともに回転するステアリングシャフト11と、ステアリングシャフト11の回転をラック軸17に伝達するラックアンドピニオン機構16と、タイロッド18を操作するラック軸17と、ナックルを操作するタイロッド18とを含む。
【0027】
ステアリングシャフト11は、先端部にステアリング2が固定されるコラムシャフト12と、ラックアンドピニオン機構16を介してラック軸17を軸方向に移動させるピニオンシャフト14と、コラムシャフト12とピニオンシャフト14とを互いに接続するインターミディエイトシャフト13を含む。コラムシャフト12の中間部には、トーションバー15が設けられている。
【0028】
EPSアクチュエータ20は、ステアリングシャフト11(コラムシャフト12)にトルクを付与するモータ21と、モータ21の回転を減速する減速機構22とを含む。モータ21としては、インナーロータを有するブラシ付きの直流モータが設けられている。モータ21の回転は減速機構22により減速されてステアリングシャフト11に伝達される。このときにモータ21からステアリングシャフト11に付与されるトルクがアシスト力として作用する。
【0029】
操舵角伝達機構10は次のように動作する。すなわち、ステアリング2が操作されたとき、これにともないステアリングシャフト11も回転する。ステアリングシャフト11の回転は、ラックアンドピニオン機構16によりラック軸17の直線運動に変換される。ラック軸17の直線運動は、同軸17の両端に連結されたタイロッド18を介してナックルに伝達される。そして、ナックルの動作にともない転舵輪3の舵角が変更される。
【0030】
ステアリング2の操舵角は、ステアリング2が中立位置にあるときを基準として定められる。すなわち、ステアリング2が中立位置にあるときの操舵角を「0」として、ステアリング2が中立位置から右方向または左方向に回転したとき、中立位置からの回転角度に応じて操舵角が増加する。
【0031】
電動パワーステアリング装置1には、複数のセンサとして、トルクセンサ101および車速センサ102が設けられている。これらのセンサは、それぞれ次のように監視対象の状態の変化に応じた信号を出力する。
【0032】
トルクセンサ101は、ステアリング2の操作によりステアリングシャフト11に付与されたトルクの大きさに応じた信号(以下、「出力信号SA」)を電子制御装置30に出力する。車速センサ102は、車両の後輪としての転舵輪の回転速度に応じた信号(以下、「出力信号SC」)を電子制御装置30に出力する。
【0033】
トルクセンサ101の具体的な構成を以下に示す。
トルクセンサ101は、トーションバー15を介して互いに対向する位置に設けられた2つのセンサ素子、すなわちセンサ素子101Aおよびセンサ素子101Bと、トーションバー15の捩れに応じて磁束の変化を生ずるセンサコア(図示略)とにより構成されている。各センサ素子101A,101Bは、センサコアの外周に配置されているとともに、トーションバー15の捩れに応じて出力が変化する磁気検出素子を含めて構成されている。
【0034】
トルクセンサ101の出力は次のように変化する。
ステアリング2の操作にともないコラムシャフト12にトルクが入力されたとき、トルクの大きさに応じてトーションバー15に捻れが生じる。これにより、トルクセンサ101の各センサ素子101A,101Bを通過する磁束が変化するため、各センサ素子101A,101Bから出力される電圧、すなわちトルクセンサ101の出力信号SAも磁束の変化に応じて変化する。
【0035】
車速センサ102の具体的な構成を以下に示す。
車速センサ102は、右側の後輪および左側の後輪のそれぞれに対応して設けられた2つのセンサ、すなわち右後輪センサ102Aおよび左後輪センサ102Bにより構成されている。各センサ102A,102Bは、対応する後輪が1回転する毎に1パルスを出力信号SCとして出力する。すなわち車速センサ102は、右側の後輪の回転速度に応じた信号および左側の後輪の回転速度に応じた信号を出力する。
【0036】
電子制御装置30は、各センサの出力に基づいて以下の各演算値を算出する。
トルクセンサ101の出力信号SAに基づいて、ステアリング2の操作にともないステアリングシャフト11に入力されたトルクの大きさに相当する演算値(以下、「操舵トルクτ」)を算出する。
【0037】
車速センサ102の出力信号SCに基づいて、すなわち右後輪センサ102Aの出力信号SCと左後輪センサ102Bの出力信号SCとに基づいて、車両の走行速度に相当する演算値(以下、「車速V」)を算出する。
【0038】
電子制御装置30は、車両の走行状態およびステアリング2の操舵状態に応じてアシスト力を調整するためのパワーアシスト制御と、パワーアシスト制御に用いられる操舵トルクτを補正するための操舵トルクシフト制御とを行う。
【0039】
ステアリング2の操舵状態は、「回転状態」および「中立状態」および「保舵状態」の3つに分類される。「回転状態」は、ステアリング2が回転している最中の状態を示す。「中立状態」は、ステアリング2が中立位置にある状態を示す。「保舵状態」は、ステアリング2が中立位置から右方向または左方向に回転した位置にあり、かつその位置に保持されている状態を示す。また「回転状態」は、操舵角が増大する方向への操作である「切り込み状態」と、操舵角が減少する方向への操作である「切り戻し状態」との2つに分類される。
【0040】
操舵トルクシフト制御では、トルクセンサ101の出力信号SAに基づいて算出された操舵トルクτをステアリング2の操舵状態に基づいて補正し、補正後の操舵トルクτを「補正操舵トルクτa」として出力する。
【0041】
パワーアシスト制御では、操舵トルクシフト制御により算出された補正操舵トルクτaと、車速センサ102の出力信号SCに基づいて算出された車速Vとに基づいて、アシスト力の目標値(以下、「目標アシスト力」)を算出する。そして、この目標アシスト力に対応した駆動電力をモータ21に供給する。これにより、EPSアクチュエータ20は目標アシスト力に対応したトルクをステアリングシャフト11に付与する。
【0042】
図2を参照して、電子制御装置30の詳細な構成について説明する。
電子制御装置30は、モータ21に供給する駆動電力の大きさを指示する信号(以下、「モータ制御信号Sm」)を出力するマイコン40と、モータ制御信号Smに応じた駆動電力をモータ21に供給する駆動回路50とを含む。
【0043】
駆動回路50には、モータ21の端子間電圧(以下、「モータ電圧Vm」)を検出する電圧センサ51と、モータ21に供給される電流(以下、「モータ電流Im」)を検出する電流センサ52とが設けられている。なお、マイコン40内に設けられる各制御ブロックはコンピュータプログラムにより構成されている。
【0044】
マイコン40は、以下の各制御要素を含む。
すなわち、目標アシスト力に相当するトルクをEPSアクチュエータ20に生じさせるために必要となる電流値(以下、「電流指令値Ia」)、すなわちモータ21に供給する電流の目標値を算出する電流指令値演算部70と、電流指令値Iaおよびモータ電流Imに基づいてモータ制御信号Smを生成するモータ制御信号出力部60とを含む。
【0045】
また、モータ電圧Vmおよびモータ電流Imに基づいてステアリング2の操舵状態を判定する誘起電圧推定部41と、モータ21の抵抗である「モータ抵抗」に相当する演算値(以下、「モータ抵抗Rm」)を算出し、これを所定条件に基づいて更新するモータ抵抗更新部42とを含む。また、モータ抵抗Rmに基づいて、モータ21の回転速度である「モータ速度」に相当する演算値(以下、「モータ速度ωm」)を算出するモータ速度推定部43を含む。
【0046】
さらに、トルクセンサ101の出力信号SAに基づいて操舵トルクτを算出するための操舵トルク検出部と、各種の演算により得られた結果等を記憶するための記憶部とを含む(いずれも図示略)。
【0047】
電流指令値演算部70は、車速Vおよび操舵トルクτに基づいて目標アシスト力の基礎成分(以下、「基本制御量Ias」)を算出する基本アシスト制御部80と、車速Vおよびモータ速度ωmに基づいて操舵トルクτを補正するトルクシフト制御部90とを含む。
【0048】
基本アシスト制御部80は、次のように基本制御量Iasを算出する。
・トルクシフト制御部90により算出された補正操舵トルクτaが大きくなるにつれて基本制御量Iasとしてより大きな値を算出する。すなわち、補正操舵トルクτaが大きくなるにつれて目標アシスト力を大きくする。
・車速Vが小さくなるにつれて基本制御量Iasとしてより大きな値を算出する。すなわち、車速Vが小さくなるにつれて目標アシスト力を大きくする。
【0049】
モータ制御信号出力部60は、電流指令値Iaおよびモータ電流Imに基づいて電流指令値Iaのフィードバック制御を実行し、その結果に基づいてモータ制御信号Smを生成する。また、生成したモータ制御信号Smを駆動回路50に出力する。
【0050】
モータ速度推定部43は、モータ方程式としての下記の(1)式に基づいて、モータ速度ωmを算出する。

ωm=(Vm−Im×Rm)/Ke … (1)

「Vm」は、電圧センサ51から入力されるモータ電圧Vmを示す。
【0051】
「Im」は、電流センサ52から入力されるモータ電流Imを示す。
「Rm」は、記憶部に予め記憶されているモータ抵抗Rmを示す。モータ抵抗Rmとしては、モータ21に固有の抵抗に相当する値が用いられる。
【0052】
「Ke」は、記憶部に予め記憶されているモータ21の逆起電力定数Keを示す。逆起電力定数Keとしてはモータ21に固有の逆起電力定数Keに相当する値が用いられる。
モータ抵抗更新部42は、ステアリング2の操舵状態およびモータの電圧方程式としての下記(2)式に基づいてモータ抵抗Rmを算出する。
【0053】

EX=Vm−Rm×Im−L×(dIm/ds) … (2)

「Vm」は、電圧センサ51から入力されるモータ電圧Vmを示す。
【0054】
「Im」は、電流センサ52から入力されるモータ電流Imを示す。
「L」は、モータ21のインダクタンスを示す。
「dIm/ds」は、モータ電流Imの時間変化量(以下、「電流変化率ID」)を示す。
【0055】
「EX」は、モータ21の誘起電圧EXを示す。
誘起電圧EXが小さいとき、「dIm/ds」および「EX」を「0」とみなすことができるため、(2)式は下記(3)式に変形することができる。
【0056】

Rm=Vm/Im … (3)

すなわちモータ抵抗更新部42は、誘起電圧EXが小さいとき、モータ電圧Vmおよびモータ電流Imに基づいて、新たにモータ抵抗Rmを算出する。また、モータ電圧Vmおよびモータ電流Imおよび更新時に記憶されているモータ抵抗Rmに基づいて、新たにモータ抵抗Rmを算出する。このようにして算出されたモータ抵抗Rmは、そのときに記憶部に記憶されているモータ抵抗Rmに代わる新たなモータ抵抗Rmとして記憶部に記憶される。
【0057】
誘起電圧推定部41は、モータ抵抗Rmおよびモータ電圧Vmおよびモータ電流Imと上記(2)式とに基づいて、誘起電圧EXを算出する。そして、算出した誘起電圧EXをモータ抵抗更新部42に出力する。
【0058】
トルクシフト制御部90は、操舵トルクシフト制御の補償成分(以下、「トルクシフト制御量Etb」)を演算するトルクシフト制御量演算部91と、トルクシフト制御量Etbの急峻な変動を抑制するフィルタ処理を行う急変防止処理部96と、操舵トルクτにトルクシフト制御量Etcを重畳して補正操舵トルクτaを算出する加算器97とを含む。
【0059】
トルクシフト制御量演算部91は、操舵トルクシフト制御の基礎補償成分となる基礎シフト制御量Etaを算出する基礎シフト演算部92と、車速Vに基づいて基礎シフト制御量Etaのゲイン(以下、「車速ゲインKv」)を算出する車速ゲイン演算部93と、ステアリング2の操舵状態を示す遷移係数Kssを算出する遷移係数演算部94とを含む。さらに、基礎シフト制御量Etaと車速ゲインKvと遷移係数Kssとを乗算してトルクシフト制御量Etbを算出する乗算器95を含む。
【0060】
基礎シフト演算部92は、次のように基礎シフト制御量Etaを算出する。
・操舵トルクτが大きくなるにつれて基礎シフト制御量Etaとしてより大きな値を算出する。すなわち、操舵トルクτが大きくなるにつれて目標アシスト力を大きくする。
・操舵トルクτが所定値以上のときには、操舵トルクτに対して基礎シフト制御量Etaを一定値に維持する。
【0061】
車速ゲイン演算部93は、次のように車速ゲインKvを算出する。
・車速Vが大きくなるにつれて車速ゲインKvとしてより大きな値を算出する。
・車速Vが所定値以上のとき、車速Vに対して車速ゲインKvを一定値に維持する。
【0062】
遷移係数演算部94は、操舵トルクτの方向およびモータ速度ωmに基づいて、ステアリング2の操舵状態すなわち、「切り込み状態」および「切り戻し状態」および「保舵状態」のそれぞれに対応した遷移係数Kssを算出する。
【0063】
急変防止処理部96は、トルクシフト制御量演算部91が出力したトルクシフト制御量Etbをローパスフィルタによりフィルタ処理し、その結果をトルクシフト制御量Etcとして加算器97に出力する。ローパスフィルタは、トルクシフト制御量Etbの急峻な変動を低減するためのフィルタとして構成されている。
【0064】
図3を参照して、遷移係数Kssの算出方法の詳細について説明する。
遷移係数演算部94は、操舵トルクτの方向およびモータ速度ωmと遷移係数Kssとが関連付けられた2つのマップを用いて遷移係数Kssを算出する。すなわち、操舵トルクτの符号が正のときのマップ(図3(a))、および操舵トルクτの符号が負のときのマップ(図3(b))を用いて遷移係数Kssを算出する。
【0065】
図3(a)に示されるように、操舵トルクτの符号が正のときのマップにおいては、判定値ωaおよび判定値−ωaによりモータ速度ωmの領域が3つに区分されている。すなわち、モータ速度ωmが判定値ωa以上の領域RAと、モータ速度ωmが判定値−ωa以下の領域RBと、モータ速度ωmが判定値ωaよりも小さくかつ判定値−ωaよりも大きい領域RCとに区分されている。
【0066】
領域RAは、ステアリング2の操舵状態が「切り込み状態」にあるときの領域として設定されている。領域RBは、ステアリング2の操舵状態が「切り戻し状態」にあるときの領域として設定されている。領域RCは、ステアリング2の操舵状態が「保舵状態」の状態にあるときの領域として設定されている。
【0067】
領域RAにおいては、遷移係数Kssが「0」に設定されている。領域RBにおいては、遷移係数Kssが「1」に設定されている。領域RCにおいては、モータ速度ωmが判定値ωaから判定値−ωaに向けて減少するにつれて「0」から「1」に向けて増加するように遷移係数Kssが設定されている。
【0068】
図3(b)に示されるように、操舵トルクτの符号が負のときのマップにおいては、判定値ωaおよび判定値−ωaによりモータ速度ωmの領域が3つに区分されている。すなわち、モータ速度ωmが判定値−ωa以下の領域RAと、モータ速度ωmが判定値ωa以上の領域RBと、モータ速度ωmが判定値ωaよりも小さくかつ判定値−ωaよりも大きい領域RCとに区分されている。
【0069】
領域RAは、ステアリング2の操舵状態が「切り込み状態」にあるときの領域として設定されている。領域RBは、ステアリング2の操舵状態が「切り戻し状態」にあるときの領域として設定されている。領域RCは、ステアリング2の操舵状態が「保舵状態」にあるときの領域として設定されている。
【0070】
領域RAにおいては、遷移係数Kssが「0」に設定されている。領域RBにおいては、遷移係数Kssが「1」に設定されている。領域RCにおいては、モータ速度ωmが判定値−ωaから判定値ωaに向けて増加するにつれて「0」から「1」に向けて増加するように遷移係数Kssが設定されている。
【0071】
以上のように遷移係数演算部94は、操舵トルクτの方向(操舵トルクτの符号)とステアリング2の回転方向(モータ速度ωmの符号)とに基づいて、ステアリング2の操舵状態を判定する。すなわち、操舵トルクτの符号とモータ速度ωmの符号とが一致するときには「切り込み状態」にある旨判定する。また、操舵トルクτの符号とモータ速度ωmの符号とが不一致のときには「切り戻し状態」にある旨判定する。また、「中立状態」以外のときにモータ速度ωmが「0」またはその近傍にあるときには「保舵状態」にある旨判定する。
【0072】
操舵トルクシフト制御においては、ステアリング2の操舵状態が「保舵状態」または「切り戻し状態」のとき、その補正操舵トルクτaにより基本制御量Iasが増大するようにトルクシフト制御量Etcを算出する。これにより、「保舵状態」を維持するために必要となる運手者の力が軽減されるとともに、「保舵状態」から「切り戻し状態」への移行時に運転者に違和感を与えることが抑制される。また、「切り込み状態」のときにはトルクシフト制御量Etcとして「0」を算出するため、すなわちトルクシフト制御量Etcによる操舵トルクτの補正を行わないため、過度に大きなアシスト力が付与されることに起因して運転者が違和感を覚える現象、すなわち運転者が「ステアリングが軽い」と感じる現象の発生が抑制される。
【0073】
ところで、上述のとおり操舵トルクシフト制御において用いられるモータ速度ωmは、モータ電圧Vmおよびモータ電流Imおよびモータ抵抗Rmに基づいて算出される。このため、操舵トルクシフト制御を精確に行うためには、モータ速度ωmとしてより実際の値に近いものを算出することが求められる。
【0074】
しかし、モータ抵抗Rmはモータ21の温度やモータ電流Im等の影響を受けて変化するため、こうした影響が反映されていないモータ抵抗Rmに基づいてモータ速度ωmが算出された場合には、モータ速度ωmが実際のモータ速度から大きく乖離しているおそれがある。
【0075】
そこで電子制御装置30は、モータ電圧Vmおよびモータ電流Imに基づいてモータ抵抗Rmを更新し、各種の演算に用いるモータ抵抗Rmと実際のモータ抵抗との乖離を小さくするための処理として「モータ抵抗更新処理」を行う。
【0076】
図4を参照して、「モータ抵抗更新処理」についてその手順を説明する。なお、この処理は記憶部に予め記憶されているとともに、マイコン40により所定の演算周期毎に繰り返し行われる。
【0077】
ステップS110では、モータ電流Imおよびモータ電圧Vmを取得する。
ステップS120では、上記(2)式に基づいて誘起電圧EXを算出する。
ステップS130では、誘起電圧EXが第1判定値GAよりも大きいか否か判定する。また次のステップS140では、誘起電圧EXが第2判定値GBよりも大きいか否かを判定する。そして、ステップS130およびS140の判定処理の少なくとも一方の結果に基づいて、以下の(A)〜(C)のようにモータ抵抗Rmの更新態様を選択する。
【0078】
(A)ステップS130において誘起電圧EXが第1判定値GAよりも大きい旨判定したとき、ステアリング2の操舵状態が「回転状態」にあると推定される。すなわち、モータ抵抗Rmを更新する時期としては適切な時期ではないと推定される。このため、モータ抵抗Rmの更新を行うことなく本処理を一旦終了する。
【0079】
(B)ステップS130において誘起電圧EXが第1判定値GA以下の旨判定し、ステップS140で誘起電圧EXが第2判定値GB以下の旨判定したとき、ステップS150において、モータ電圧Vmをモータ電流Imで除算した値(以下、「除算値DX」)を算出し、この除算値DXを新たなモータ抵抗Rmとして記憶する。
【0080】
誘起電圧EXが第2判定値GB以下のときには、誘起電圧EXが十分に小さいため「0」とみなすことができる。これにより、上記のように(3)式に基づいてモータ抵抗Rmを算出することができる。またこのとき、ステアリング2の操舵状態は「中立状態」または「保舵状態」にあると推定することができる。
【0081】
(C)ステップS130において誘起電圧EXが第1判定値GA以下の旨判定し、ステップS140において誘起電圧EXが第2判定値GBよりも大きい旨判定したとき、ステップS160において、下記(4)式に基づいてモータ抵抗Rmを算出する。
【0082】

Rm ← γx×Rmold+γy×(Vm/Im) … (4)

「Vm」は、電圧センサ51から入力されるモータ電圧Vmを示す。
【0083】
「Im」は、電流センサ52から入力されるモータ電流Imを示す。
「Rmold」は、そのときに記憶部に記憶されているモータ抵抗Rm(以下、「更新前モータ抵抗Rmold」)を示す。
【0084】
「γx」は、更新前モータ抵抗Rmoldに対する重み付け係数を示す。
「γy」は、(Vm/Im)に対する重み付け係数を示す。
すなわち、ステップS160においては、上記(4)式に基づいて「更新前モータ抵抗Rmold」と「Vm/Im」との加重平均により新たなモータ抵抗Rmを算出する。
【0085】
重み付け係数γxは、図5に示されるマップに誘起電圧EXを適用して算出する。重み付け係数γyは、(1−γx)の計算式により算出する。すなわち、重み付け係数γxと重み付け係数γyとの加算値は「1」を示す。
【0086】
図5のマップにおいては、係数αとモータ電圧Vmの絶対値とを乗算した値(以下、「境界値」)により誘起電圧EXの領域が複数の領域に区画されている。隣り合う境界値の間においては、誘起電圧EXに対して同一の重み付け係数γxが設定されている。モータ電圧Vmに対する各係数αは、「α1>α2>α3>α4>α5」の関係に設定されている。各重み付け係数γxは、「1>γ1>γ2>γ3>γ4>γ5」の関係に設定されている。
【0087】
これにより、誘起電圧EXが第1判定値GAに近い値となるにつれてモータ抵抗Rmは更新前モータ抵抗Rmoldに近い値として算出される。一方、誘起電圧EXが第2判定値GBに近い値となるにつれて「Vm/Im」に近い値として算出される。
【0088】
誘起電圧EXが大きくなるにつれてモータ抵抗Rmの推定精度に対する誘起電圧EXの影響が大きくなるため、推定精度の低下を抑制するためには、新たに算出するモータ抵抗Rmに対する更新前モータ抵抗Rmoldの反映度合いを大きくすることが好ましい。このため、図5のマップにおいては、誘起電圧EXが大きくなるにつれて重み付け係数γxがより大きな値として算出されるように誘起電圧EXと重み付け係数γxとの関係が規定されている。
【0089】
図6を参照して、「モータ抵抗更新処理」の実行態様の一例について説明する。なお、時刻t1〜時刻t5の期間は、ステアリング2を一方向に回転している途中でステアリング2の位置を保舵し、その後に同方向に再びステアリング2を回転している状態を示している。また、時刻t6〜時刻t10の期間は、ステアリング2を時刻t1〜時刻t5の期間の回転方向とは反対方向に回転している途中でステアリング2の位置を保持し、その後に同方向に再びステアリング2を回転している状態を示している。
【0090】
時刻t1すなわち、誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GAよりも大きいとき、モータ抵抗Rmの更新処理は行われない。このとき、ステアリング2の操舵状態が「回転状態」にあると推定されるため、すなわちモータ抵抗Rmを更新する時期として適切でないため、モータ抵抗Rmが更新されない。
【0091】
時刻t2のとき、すなわち誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GA以下かつ第2判定値GBよりも大きいとき、除算値DXと更新前モータ抵抗Rmoldとの加重平均によりモータ抵抗Rmが算出される。このとき算出されたモータ抵抗Rmは、新たなモータ抵抗Rmとして記憶部に記憶される。
【0092】
時刻t3すなわち、誘起電圧EXの絶対値が第2判定値GB以下のとき、除算値DXが算出され、この除算値DXが新たなモータ抵抗Rmとして記憶される。このとき、ステアリング2の操舵状態が「中立状態」または「保舵状態」にあると推定される。また、誘起電圧EXを「0」とみなすことができる。このため、(3)式に基づいてモータ抵抗Rmを正確に算出することができる。
【0093】
時刻t4のとき、すなわち誘起電圧EXの絶対値が第2判定値GBよりも大きくなったとき、モータ抵抗Rmが除算値DXと更新前のモータ抵抗Rmとの加重平均に基づいて求められる。そして、このとき求められた値が新たなモータ抵抗Rmとして記憶される。
【0094】
時刻t5のとき、すなわち誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GAよりも大きいとき、モータ抵抗Rmの更新処理は行われない。また時刻t5〜時刻t6の期間においても同様に誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GAよりも大きいため、モータ抵抗Rmの更新処理は行われない。
【0095】
時刻t7すなわち、誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GA以下かつ第2判定値GBより大きいとき、除算値DXと更新前モータ抵抗Rmoldとの加重平均によりモータ抵抗Rmが算出される。このとき算出されたモータ抵抗Rmは、新たなモータ抵抗Rmとして記憶部に記憶される。
【0096】
時刻t8すなわち、誘起電圧EXの絶対値が第2判定値GB以下のとき、除算値DXが算出され、この除算値DXが新たなモータ抵抗Rmとして記憶される。このとき、誘起電圧EXを「0」とみなすことができる。このため、(3)式に基づいてモータ抵抗Rmを正確に算出することができる。
【0097】
時刻t9のとき、すなわち誘起電圧EXの絶対値が第2判定値GBよりも大きくなったとき、モータ抵抗Rmが除算値DXと更新前のモータ抵抗Rmとの加重平均に基づいて求められる。そして、このとき求められた値が新たなモータ抵抗Rmとして記憶される。
【0098】
時刻t10のとき、すなわち誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GAよりも大きいとき、モータ抵抗Rmの更新処理は行われない。また時刻t10以降の期間においても同様に誘起電圧EXの絶対値が第1判定値GAよりも大きいため、モータ抵抗Rmの更新処理は行われない。
【0099】
(実施形態の効果)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1によれば、以下の効果が得られる。
(1)本実施形態では、モータ21の誘起電圧EXが第1判定値GAよりも小さいことに基づいて、モータ抵抗Rmを更新する。
【0100】
この構成では、モータ21の誘起電圧EXが第1判定値GAよりも小さいとき、すなわちモータ21の抵抗の推定精度に対する誘起電圧EXの影響が小さいとき、モータ抵抗Rmを更新する。このため、新たに設定されるモータ抵抗Rmと実際のモータ21の抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0101】
(2)本実施形態では、誘起電圧EXが第2判定値GBよりも小さいとき、モータ電圧Vmをモータ電流Imにより除算した値である除算値DXを新たなモータ抵抗Rmとして設定する。
【0102】
モータ21の抵抗の推定精度に対する誘起電圧EXの影響がないとき、実際のモータ21の抵抗を適切に反映した値、すなわちモータ電圧Vmおよびモータ電流Imに基づいて算出されたモータ21の抵抗(除算値DX)を新たなモータ抵抗Rmとして設定することが好ましい。しかし、実際には上記のとおり誘起電圧EXがモータ21の抵抗の推定精度に影響を及ぼすとともに、誘起電圧EXが大きくなるにつれて除算値DXの精度が低くなり、除算値DXが実際のモータ21の抵抗から乖離する。上記構成ではこの点に鑑み、モータ21の誘起電圧EXが第2判定値GBよりも小さいとき、すなわち除算値DXの精度が比較的高いと推定されるとき、除算値DXを新たなモータ抵抗Rmとして設定しているため、新たに設定されるモータ抵抗Rmと実際のモータ21の抵抗との乖離をより小さくすることができる。
【0103】
(3)本実施形態では、誘起電圧EXが第2判定値GBよりも大きくかつ第1判定値GA以下のとき、そのときに設定されている更新前モータ抵抗Rmold(前回モータ抵抗)と、モータ電圧Vmをモータ電流Imにより除算した値である除算値DXとに基づいてモータ抵抗Rmを算出し、これを新たなモータ抵抗Rmとして設定する。
【0104】
モータ21の誘起電圧EXの影響により除算値DXの精度が低いと推定される場合において、同除算値DXをそのまま新たなモータ抵抗Rmとして設定したときには、新たに設定したモータ抵抗Rmと実際のモータ21の抵抗との乖離が大きくなるおそれがある。
【0105】
このため、誘起電圧EXが第1判定値GA以下かつ第2判定値GBよりも大きいときには、誘起電圧EXが第1判定値GAよりも大きいときに比べてモータ21の抵抗の推定精度に対する誘起電圧EXの影響が小さいとはいえ、除算値DXを新たなモータ抵抗Rmとして設定することは好ましくない。
【0106】
上記構成ではこの点に鑑み、更新前モータ抵抗Rmold(前回モータ抵抗)および除算値DXに基づいて新たなモータ抵抗Rmを算出しているため、除算値DXをそのまま新たなモータ抵抗Rmとして設定する構成と比較して、新たに設定されるモータ抵抗Rmと実際のモータ21の抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0107】
(4)本実施形態では、誘起電圧EXが第2判定値GBより大きくかつ第1判定値GA以下のとき、更新前モータ抵抗Rmold(前回モータ抵抗)と除算値DXとの加重平均により新たなモータ抵抗Rmを算出する。
【0108】
モータ21の誘起電圧EXが第2判定値GBに近い値となるにつれて、すなわちモータ21の誘起電圧EXが小さくなるにつれて、除算値DXの推定精度に対する誘起電圧EXの影響が小さくなる。
【0109】
上記構成ではこの点に鑑み、誘起電圧EXが第2判定値GBに近い値となるにつれて除算値DXの重みを更新前モータ抵抗Rmold(前回モータ抵抗)の重みに対して大きくしているため、新たに設定されるモータ抵抗Rmと実際のモータ21の抵抗との乖離を小さくすることができる。
【0110】
(第2実施形態)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、第1実施形態の電動パワーステアリング装置1の「モータ抵抗更新処理」を以下に説明する内容に変更したものに相当する。なお、その他の点については第1実施形態の電動パワーステアリング装置1と同様の構成が採用されている。このため、以下では第1実施形態と異なる点の詳細を説明し、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0111】
モータ21においては、インダクタンスLが十分に小さい。このため、インダクタンスLが誘起電圧EXに及ぼす影響が小さい。このため、上記(2)式において、「L」を「0」とみなすことにより、下記(5)式に変形することができる。
【0112】

EX=Vm−Rm×Im … (5)

誘起電圧EXの算出時に、直前の演算周期に更新されたモータ抵抗Rmのみを用いた場合、誘起電圧EXおよびモータ抵抗Rmが発散するおそれがある。そこで、電子制御装置30は、モータ抵抗Rmを更新するとき更新前のモータ抵抗Rmを記憶値(以下、「記憶モータ抵抗Rmm」)として記憶部に順次記憶し、上記(5)式のモータ抵抗Rmを、モータ抵抗Rmおよび複数回の演算周期の記憶モータ抵抗Rmmの平均値(以下、「平均モータ抵抗Rmavg」)に置換した下記(7)式により誘起電圧EXを算出する。
【0113】

Rmavg=(Rm+Rmm(1)+…+Rmm(n))/(n+1) … (6)

「Rmm」は、記憶モータ抵抗Rmmを示す。
【0114】
「Rmavg」は、「Rm」およびRmよりも1回前の演算周期に更新された「Rmm」(「Rmm(1)」)からRmよりもn回前の演算周期に更新された「Rmm」(「Rmm(n)」)までの平均値を示す。
【0115】
図7を参照して、「モータ抵抗更新処理」の手順を説明する。
この処理では、図4のステップS110を経た後、以下の各処理を行う。
ステップS210では上記(6)式に基づいて平均モータ抵抗Rmavgを算出する。
【0116】
ステップS220では、上記(5)式のモータ抵抗Rmに平均モータ抵抗Rmavgを置換した下記(7)式に基づいて誘起電圧EXを算出する。

EX←Vm−Rmavg×Im … (7)

そして、ステップS220において算出した誘起電圧EXを用いて図4のステップS130以降の処理を行う。
【0117】
(実施形態の効果)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1によれば、第1実施形態の(1)〜(4)の効果に加えて以下の効果が得られる。
【0118】
(5)本実施形態では、モータの電圧方程式に基づいて誘起電圧EXを算出している。これにより、モータ電圧Vm、モータ抵抗Rm、およびモータ電流Imのみにより誘起電圧EXを算出することができる。
【0119】
また、インダクタンスLを「0」とみなした(5)式を用いて誘起電圧EXを算出しているため、(2)式を用いて誘起電圧EXを算出する場合よりも項および定数が少なくなる。これにより、演算負荷を低減することができる。
【0120】
(6)本実施形態では、モータ抵抗Rmを記憶モータ抵抗Rmmに基づいて算出される平均モータ抵抗Rmavgに置換した(7)式により誘起電圧EXを算出している。このため、モータ抵抗Rmのみを用いて誘起電圧EXを算出する場合と比較して誘起電圧EXが発散するおそれが生じにくい。これにより、誘起電圧EXの推定精度が低下することを抑制することができる。
【0121】
(第3実施形態)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1は、第1実施形態の電動パワーステアリング装置1の「モータ抵抗更新処理」を以下に説明する内容に変更したものに相当する。なお、その他の点については第1実施形態の電動パワーステアリング装置1と同様の構成が採用されている。このため、以下では第1実施形態と異なる点の詳細を説明し、同実施形態と共通する構成については同一の符号を付してその説明の一部または全部を省略する。
【0122】
「dIm/ds」が小さいときには、「L×(dIm/ds)」の項は、より「0」に近づく。すなわち、上記(5)式において、「dIm/ds」が十分に小さいとき、「L×(dIm/ds)」の項が誘起電圧EXに及ぼす影響がより小さくなる。このため、本実施形態においては、「dIm/ds」が十分に小さいときに誘起電圧EXを算出する。
【0123】
図8を参照して、「モータ抵抗更新処理」の手順を説明する。
この処理では、図4のステップS110を経た後、以下の各処理を行う。
ステップS310では、電流変化率IDが判定変化率DAよりも大きいか否か判定する。ステップS310において電流変化率IDが判定変化率DAよりも大きい旨判定したとき、モータ抵抗Rmの更新を行うことなく本処理を一旦終了する。そして、ステップS310において、電流変化率IDが判定変化率DA以下の旨判定したとき、ステップS320に進む。
【0124】
ステップS320では、上記(5)式に基づいて誘起電圧EXを算出する。
そして、ステップS320において算出した誘起電圧EXを用いて図4のステップS130以降の処理を行う。
【0125】
(実施形態の効果)
本実施形態の電動パワーステアリング装置1によれば、第1実施形態の(1)〜(4)の効果、および第2実施形態の(5)の効果に加えて以下の効果が得られる。
【0126】
(7)本実施形態では、電流変化率IDが判定変化率DA以下のとき、モータの電圧方程式に基づいて誘起電圧EXを算出している。すなわち、「L×(dIm/ds)」の項が誘起電圧EXに及ぼす影響がより小さいときに誘起電圧EXを算出するため、算出した誘起電圧EXと実際のモータの誘起電圧との乖離が大きくなることを抑制することができる。
【0127】
(8)本実施形態では、電流変化率IDが判定変化率DAよりも大きいときには、誘起電圧EXの算出およびモータ抵抗Rmの算出を保留している。このため、電流変化率IDが判定変化率DAよりも大きいときには、誘起電圧EXの算出およびモータ抵抗Rmの算出にかかる演算量を小さくすることができる。
【0128】
(その他の実施形態)
本発明の実施態様は上記各実施形態に限られるものではなく、例えば以下に示すように変更することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施形態についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0129】
・第1実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS120において、誘起電圧EXを上記(2)式に代えて、上記(5)式を用いて算出することもできる。
・上記第1実施形態の「モータ抵抗更新処理」では、ステップS120においてモータの電圧方程式により誘起電圧EXを算出したが、外乱オブザーバーにより誘起電圧EXを算出することもできる。
【0130】
・第2実施形態のステップS210において、平均モータ抵抗Rmavgに代えて、次の(A)〜(C)と対応する値を用いることもできる。
(A)モータ抵抗Rmおよび複数回の演算周期の記憶モータ抵抗Rmmの中央値。
(B)n回前の演算周期の記憶モータ抵抗Rmm(Rmm(n))。
(C)複数回の演算周期の記憶モータ抵抗Rmmの平均値。
【0131】
・第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS310の内容を次の(A)または(B)に変更することもできる。
(A)電流変化率IDが判定変化率DA以下か否かの判定に代えて、モータ電圧Vmの時間変化量が判定値以上か否かを判定する。そして、この判定において肯定の結果が得られるとき、誘起電圧EXの算出を行う。また、否定の結果が得られるとき、誘起電圧EXの算出を保留する。
【0132】
(B)電流変化率IDが判定変化率DA以下か否かの判定に加えて、モータ電圧Vmの時間変化量が判定値以上か否かを判定する。そして、双方の判定において肯定の結果が得られるとき、誘起電圧EXの算出を行う。また、少なくとも一方の判定において否定の結果が得られるとき、誘起電圧EXの算出を保留する(変形例X)。
【0133】
・第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS310および上記の(変形例X)において、電流変化率IDに代えて、電流指令値Ia、出力信号SA、操舵トルクτ、目標アシスト力、モータ制御信号Sm、またはDUTY比の指令値を用いることもできる。また、モータ電圧Vmの時間変化量に代えて、モータ電圧の指令値を用いることもできる。
【0134】
・第1および第2実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS130の内容を次のように変更することもできる。すなわち、誘起電圧EXが第1判定値GA以下か否かの判定に加えて、電流変化率IDが判定変化率DA以下か否かの判定を行う。そして、双方の判定において肯定の結果が得られるとき、モータ抵抗Rmの更新を行う。また、少なくとも一方の判定において否定の結果が得られるとき、モータ抵抗Rmの更新を保留する。
【0135】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS130の内容を次の(A)または(B)に変更することもできる。
(A)誘起電圧EXが第1判定値GA以下か否かの判定に加えて、モータ電流Imが判定値以上か否かの判定を行う。そして、双方の判定において肯定の結果が得られるとき、モータ抵抗Rmの更新を行う。また、少なくとも一方の判定において否定の結果が得られるとき、モータ抵抗Rmの更新を保留する。
【0136】
(B)誘起電圧EXが第1判定値GA以下か否かの判定に加えて、モータ電圧Vmが判定値以上か否かの判定を行う。そして、双方の判定において肯定の結果が得られるときにモータ抵抗Rmの更新を行う。また、少なくとも一方の判定において否定の結果が得られるときにモータ抵抗Rmの更新を保留する。
【0137】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS130の内容を次のように変更することもできる。すなわち、誘起電圧EXがモータ電圧Vmに対して十分に小さいか否かを判定し、十分に小さい旨判定したときにモータ抵抗Rmの更新を行うこともできる。また、誘起電圧EXがモータ電圧Vmに対して十分に小さいか否かについては、例えば「EX/Vm」が判定値よりも小さいか否かに基づいて、または「Vm−EX」が判定値よりも大きいか否かに基づいて判定することができる。
【0138】
モータ21の誘起電圧EXがモータ電圧Vmに対して十分に小さいとき、誘起電圧EXがモータ抵抗Rmの推定精度に及ぼす影響も小さくなる。上記構成ではこの点に鑑み、モータ電圧Vmを誘起電圧EXに対する判定値として設定しているため、モータ21の抵抗の推定精度に対する誘起電圧EXの影響が小さいときにモータ抵抗Rmを更新することができる(変形例Y)。
【0139】
・上記の(変形例Y)において、モータ電圧Vmに代えて「モータ抵抗Rm×モータ電流Im」を用いることもできる。すなわち、上記の説明においてモータ電圧Vmを「モータ抵抗Rm×モータ電流Im」に読み替えた構成とすることもできる。
【0140】
モータ21の誘起電圧EXが「モータ電流Im×モータ抵抗Rm」に対して十分に小さいときにも、誘起電圧EXがモータ21の抵抗の推定精度に及ぼす影響が小さくなる。上記構成ではこの点に鑑み、上記乗算した値を誘起電圧EXに対する判定値として設定しているため、モータ21の抵抗の推定精度に対する誘起電圧EXの影響が小さいときにモータ抵抗Rmを更新することができる。
【0141】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS130に用いられる第1判定値GAをモータ電流Imまたはモータ電圧Vmが大きくなるほど大きな値に設定することもできる。
【0142】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS140に用いられる第2判定値GBをモータ電流Imまたはモータ電圧Vmが大きくなるほど大きな値に設定することもできる。
【0143】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」のステップS160では、「更新前モータ抵抗Rmold」と「モータ電圧Vm/モータ電流Im」との加重平均として新たなモータ抵抗Rmを算出しているが、モータ抵抗Rmの算出方法を次のように変更することもできる。すなわち、「更新前モータ抵抗Rmold」と「モータ電圧Vm/モータ電流Im」との平均値を新たなモータ抵抗Rmとして算出することもできる。
【0144】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」では、誘起電圧EXとモータ電圧Vmとの比率に応じて重み付け係数γx設定しているが、次のように重み付け係数γxを算出することもできる。すなわち、図9に示されるように、モータ抵抗Rmとモータ電流Imとの積と誘起電圧EXとの関係に応じて重み付け係数γxを設定することもできる。
【0145】
図9のマップにおいては、係数βとモータ抵抗Rmおよびモータ電流Imの積の絶対値とを乗算した値(以下、「境界値」)により誘起電圧EXの領域が複数の領域に区画されている。隣り合う境界値の間においては、誘起電圧EXに対して同一の重み付け係数γxが設定されている。「Rm×Im」に対する各係数βは、「β1>β2>β3>β4>β5」の関係に設定されている。各重み付け係数γxは、「1>γ1>γ2>γ3>γ4>γ5」の関係に設定されている。
【0146】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」では、重み付け係数γxが誘起電圧EXに対して段階的に増加するように誘起電圧EXと重み付け係数γxとの関係を図5のマップのように規定しているが、重み付け係数γxが誘起電圧EXに対してリニアに増加するようにマップの内容を変更することもできる。
【0147】
・第1〜第3実施形態の「モータ抵抗更新処理」では、ステップS130およびステップS140の判定によりステップS150またはステップS160のいずれかにおいてモータ抵抗Rmを更新しているが、次の(A)または(B)に変更することもできる。
(A)ステップS140およびステップS160を省略する。すなわち、誘起電圧EXが第1判定値GA以下のとき、モータ抵抗Rmを除算値に更新する。
(B)ステップS140およびステップS150を省略する。すなわち、誘起電圧EXが第1判定値GA以下のとき、モータ抵抗Rmを(4)式により更新する。
【0148】
・第1〜第3実施形態では、モータ速度ωmを正確に推定するためにモータ抵抗Rmを更新しているが、更新したモータ抵抗Rmをモータ速度ωmの推定とは別の演算処理に用いることもできる。
【0149】
・第1〜第3実施形態では、EPSアクチュエータ20のモータ21としてブラシ付きモータを備えているが、ブラシ付きモータに代えてブラシレスモータを備えることもできる。
【0150】
・第1〜第3実施形態では、コラム型の電動パワーステアリング装置1に本発明を適用したが、ピニオン型およびラックアシスト型の電動パワーステアリング装置に対して本発明を適用することもできる。この場合にも、上記実施形態に準じた構成を採用することにより、同実施形態の効果に準じた効果が得られる。
【符号の説明】
【0151】
1…電動パワーステアリング装置、2…ステアリング、3…転舵輪、10…操舵角伝達機構(操舵系)、11…ステアリングシャフト、12…コラムシャフト、13…インターミディエイトシャフト、14…ピニオンシャフト、15…トーションバー、16…ラックアンドピニオン機構、17…ラック軸、18…タイロッド、20…EPSアクチュエータ、21…モータ、22…減速機構、30…電子制御装置、40…マイコン、41…誘起電圧推定部、42…モータ抵抗更新部、43…モータ速度推定部、50…駆動回路、51…電圧センサ、52…電流センサ、60…モータ制御信号出力部、70…電流指令値演算部、80…基本アシスト制御部、90…トルクシフト制御部、91…トルクシフト制御量演算部、92…基礎シフト演算部、93…車速ゲイン演算部、94…遷移係数演算部、95…乗算器、96…急変防止処理部、97…加算器、101…トルクセンサ、101A…センサ素子、101B…センサ素子、102…車速センサ、102A…右後輪センサ、102B…左後輪センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵系にアシスト力を付与するモータを備え、このモータの抵抗を示す値であるモータ抵抗を更新する電動パワーステアリング装置において、
前記モータの誘起電圧が判定値以下のとき、前記モータ抵抗を更新する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記モータの電圧に基づいて、または前記モータの電流および前記モータ抵抗を乗算した値に基づいて、前記判定値が設定される
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記判定値である第1判定値よりも小さい値を第2判定値として、
前記誘起電圧が前記第2判定値よりも小さいとき、前記モータの電圧を前記モータの電流により除算した値である除算値を新たなモータ抵抗として設定する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記判定値である第1判定値よりも小さい値を第2判定値として、
前記誘起電圧が前記第2判定値よりも大きくかつ前記第1判定値以下のとき、そのときに設定されているモータ抵抗である前回モータ抵抗と、前記モータの電圧を前記モータの電流により除算した値である除算値とに基づいてモータ抵抗を算出し、これを新たなモータ抵抗として設定する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記誘起電圧が前記第2判定値よりも大きくかつ前記第1判定値以下のとき、前記前回モータ抵抗と前記除算値との加重平均により新たなモータ抵抗を算出するとともに、前記加重平均において前記誘起電圧が前記第2判定値に近い値となるにつれて前記除算値の重みを前記前回モータ抵抗の重みに対して大きくする
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記モータの電圧方程式に基づいて前記モータの誘起電圧を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記モータの電流の時間変化量が電流判定値以下であることを条件Aとし、前記モータの電圧の時間変化量が電圧判定値以下であることを条件Bとして、前記条件Aおよび前記条件Bの少なくとも一方が成立しているとき、前記モータの電圧方程式に基づいて前記モータの誘起電圧を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電動パワーステアリング装置において、
過去に算出した前記モータ抵抗に基づいて前記誘起電圧を算出する
ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76733(P2012−76733A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146430(P2011−146430)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】