説明

電動ブレーキ装置

【課題】 駐車時において、制動力を解除することなく、簡単な構成で凍結を確実に防止することができる電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 この電動ブレーキ装置は、電動モータ2と、制動力負荷機構4と、ロック機構5と、車両の外気温度を検出する温度センサ6と、凍結防止通電手段7とを有する。凍結防止通電手段7は、制動力負荷機構4が制動力を負荷し、且つ、ロック機構5がロック状態のとき、温度センサ6が、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、電動モータ2に通電を開始するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パーキング用のロック機構を備えた電動ブレーキ装置に関し、制動力を解除することなく電動ブレーキ装置の凍結を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、車両の駐車時には、いわゆるフットブレーキ(サービスブレーキともいう)とは機構的に独立したパーキングブレーキを用いて車両の移動を防止する。しかし、冬季や寒冷地等においては、パーキングブレーキが凍結して解除できなく場合がある。したがって、寒冷地等において、車両の駐車時にパーキングブレーキを使用せず、例えば、自動変速機をパーキングレンジにして、この自動変速機内の係止部を被係止部に係止させることで、車両の移動を簡易的に防止することが提案されている。
例えば、寒冷地等において、車両の駐車中、電動パーキングブレーキの凍結を防止するため、車両の外気温度を検出するセンサが凍結温度になると、電動パーキングブレーキを解除する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−082035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術では、電動パーキングブレーキを解除し、自動変速機のパーキングロック機構により車両の移動を禁止しているが、自動変速機を利用するパーキングロック機構は補助的な機構であり、坂道等では自動変速機に負荷が掛かる。自動変速機に過度な負荷が掛かり、同自動変速機における係止部と被係止部との係止状態に不具合が生じると、車両が不所望に移動する場合がある。
【0005】
この発明の目的は、駐車時において、制動力を解除することなく、簡単な構成で凍結を確実に防止することができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電動ブレーキ装置は、電動モータと、この電動モータの出力により車輪に対して制動力を負荷する制動力負荷機構と、この制動力負荷機構の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能なロック機構とを備えた電動ブレーキ装置であって、車両の外気温度または電動ブレーキ装置の温度を検出する温度センサを設け、前記制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態のとき、温度センサが、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、電動モータに通電を開始するように制御する凍結防止通電手段を設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、走行時は、ロック機構をアンロック状態としておき、電動モータを駆動することで、制動力負荷機構は車輪に対して制動力を負荷する。駐車時には、制動力負荷機構が車輪に対し制動力を負荷した状態で、ロック機構をロック状態に切換えることで、車両の移動を禁止する。ロック機構をロック状態とすることで、電動モータを停止させても、制動力が維持される。駐車時にロック機構等に凍結が生じるとロック解除が行えない。しかし、この車両の駐車時に、温度センサは、車両の外気温度または電動ブレーキ装置の温度を検出する。制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態のとき、温度センサが、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、凍結防止通電手段は電動モータに通電を開始するように制御する。この電動モータへの通電により、モータコイルを熱源としてモータ自体が発熱することで、電動ブレーキ装置の温度を上昇させる。これにより、駐車時において、電動ブレーキ装置のロック機構等の凍結を確実に防止することができて、正常にロック解除等が行える。したがって、車両を遅滞無く発進させることができる。このようにモータコイルを熱源に利用するため、凍結防止専用の熱源が不要であり、簡単な構成で凍結防止が行える。
【0008】
前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構による制動力が向上する方向に、電動モータを通電させるものであっても良い。この場合、電動モータが回転しようとするが、制動力負荷機構が制動力を負荷しており押圧反力が発生しているため、電動モータの回転が制限される。
前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構による制動力が低減する方向に、電動モータを通電させるものであっても良い。この場合、ロック機構がロック状態になっているため、電動モータの回転が制限される。したがって、制動力負荷機構による制動力が実際に低減することはない。
【0009】
前記凍結防止通電手段は、温度センサが設定された温度を検出している間、一定時間毎に電動モータへの通電と遮断を繰り返し行うものとしても良い。電動モータへの通電開始後、温度センサで検出される温度は、例えば、時間と共に温度上昇傾向となる。その後も連続して電動モータへの通電を行うことで、温度低下傾向となることなく電動ブレーキ装置の凍結を確実に防止できるが、この場合、バッテリに負荷がかかる。また、電動モータへ比較的長い時間通電を行い、モータ自体が高温になると、電動モータへの通電を一時的に遮断しても温度低下し難くなる傾向がある。
したがって、凍結防止通電手段は、一定時間毎に電動モータへの通電と遮断を繰り返し行うことで、電動モータへ連続通電する場合よりも、バッテリへの負荷を低減しつつ発電効率を高めて、電動ブレーキ装置の凍結を防止し得る。なお、電動モータへ連続通電し、所定の温度上昇傾向になったとき電動モータへ供給する電流を小さくすることも考えられるが、車両の駐車時間が長い場合において、例えば、昼夜で寒暖の差が大きいときには、連続通電しつつ電流制御を行う場合よりも、一定時間毎に電動モータへの通電と遮断を繰り返す方が、バッテリへの負荷を低減でき、且つ、簡単に制御できる。
前記電動モータの回転を減速する減速機構を有し、前記制動力負荷機構は、減速機構で出力される回転運動を直線運動に変換して車輪に対して制動力を負荷するものとしても良い。
【0010】
車両の発進操作を表す検出信号を検出する発進操作検出手段を有し、前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態で、温度センサが設定された温度を検出しているとき、発進操作検出手段により車両の発進操作を表す検出信号を検出すると、電動モータに通電を行うものとしても良い。駐車時の電動ブレーキの凍結は、温度検出による電動モータへの通電で行われるが、通電を行う設定温度が高過ぎると、バッテリの電力消費が多くなる。電力消費を抑えるために、設定温度を下げると若干の凍結が生じることがある。このような若干の凍結が生じていても、上記のように、車両の発進操作を表す検出信号を検出すると電動モータに通電を行うようにしてあると、電動ブレーキ装置の凍結を早期に解消できて、車両を遅滞無く発進させることができる。
【0011】
前記発進操作検出手段は、車両のドア「開」を検出信号とするものであっても良い。
前記発進操作検出手段は、車両のドアロック解除を検出信号とするものであっても良い。
前記発進操作検出手段は、車両のイグニッション「オン」を検出信号とするものであっても良い。
前記発進操作検出手段は、車両の運転席側シートに運転者が着座したことを検出するセンサを含むものであっても良い。
前記発進操作検出手段は、車輪に対し制動力を与えるペダルの操作を検出信号とするものであっても良い。
この発明の自動車は、前記いずれかの電動ブレーキ装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明の電動ブレーキ装置は、電動モータと、この電動モータの出力により車輪に対して制動力を負荷する制動力負荷機構と、この制動力負荷機構の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能なロック機構とを備えた電動ブレーキ装置において、車両の外気温度または電動ブレーキ装置の温度を検出する温度センサを設け、前記制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態のとき、温度センサが、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、電動モータに通電を開始するように制御する凍結防止通電手段を設けたため、駐車時において、制動力を解除することなく、簡単な構成で凍結を確実に防止することができ、正常に走行を開始できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る電動ブレーキ装置の断面図である。
【図2】同電動ブレーキ装置の減速機構の拡大断面図である。
【図3】同電動ブレーキ装置のロック機構の拡大断面図である。
【図4】同電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
【図5】同電動ブレーキ装置における、温度センサによる設定温度と時間との関係を表す図である。
【図6】この発明の他の実施形態に係る電動ブレーキ装置における、温度センサによる設定温度と時間との関係を表す図である。
【図7】この発明のさらに他の実施形態に係る電動ブレーキ装置における、温度センサによる設定温度と時間との関係を表す図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御系のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図5と共に説明する。この実施形態に係る電動ブレーキ装置は、車両の運転時に使用されるサービスブレーキと、車両の停車時に使用される駐車ブレーキとを兼ねている。後述するロック機構をアンロック状態にすることで、この電動ブレーキ装置をサービスブレーキとして使用でき、ロック機構をロック状態にすることで、この電動ブレーキ装置を駐車ブレーキとして使用し得る。
この電動ブレーキ装置は、図1に示すように、ハウジング1と、電動モータ2と、この電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、制動力負荷機構4と、ロック機構5と、温度センサ6(図4)と、凍結防止通電手段7(図4)を有する。ハウジング1の開口端に、径方向外方に延びるベースプレート8が設けられ、このベースプレート8に電動モータ2が支持されている。ハウジング1内には、電動モータ2の出力により車輪、この例ではブレーキディスク9に対して制動力を負荷する制動力負荷機構4が組込まれている。ハウジング1の開口端およびベースプレート8の外側面は、カバー10によって覆われている。
【0015】
制動力負荷機構4について説明する。
制動力負荷機構4は、減速機構3で出力される回転運動を直線運動に変換して車輪に対して制動力を負荷するいわゆる直動機構である。この制動力負荷機構4は、スライド部材11と、軸受部材12と、環状のスラスト板13と、スラスト軸受14と、転がり軸受15,15と、回転軸16と、キャリア17と、すべり軸受18,19とを有する。ハウジング1の内周面に、円筒状のスライド部材11が、回り止めされ且つ軸方向に移動自在に支持されている。スライド部材11の内周面には、径方向内方に所定距離突出し螺旋状に形成された螺旋突起11aが設けられている。この螺旋突起11aに、後述する複数の遊星ローラが噛合している。
【0016】
ハウジング1内におけるスライド部材11の軸方向一端側に、軸受部材12が設けられている。この軸受部材12は、径方向外方に延びるフランジ部と、ボス部とを有する。ボス部内に転がり軸受15,15が嵌合され、これら各軸受15,15の内輪内径面に回転軸16が嵌合されている。よって回転軸16は、軸受部材12に軸受15,15を介して回転自在に支持される。
【0017】
スライド部材11の内周には、前記回転軸16を中心に回転可能なキャリア17が設けられている。キャリア17は、軸方向に互いに対向して配置されるディスク17a,17bを有する。軸受部材12に近いディスク17bをインナ側ディスク17bといい、ディスク17aをアウタ側ディスク17aという場合がある。一方のディスク17aのうち、他方のディスク17bに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向に突出する間隔調整部材17cが設けられる。この間隔調整部材17cは、複数の遊星ローラ20の間隔を調整するため、円周方向に間隔を空けて複数配設されている。これら間隔調整部材17cにより、両ディスク17a,17bが一体に設けられる。
【0018】
インナ側ディスク17bは、回転軸16との間に嵌合されたすべり軸受18により、回転自在に、且つ、軸方向に移動自在に支持されている。アウタ側ディスク17aには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受19が嵌合されている。アウタ側ディスク17aは、すべり軸受19により回転軸16に回転自在に支持される。回転軸16の端部には、スラスト荷重を受けるワッシャが嵌合され、このワッシャの抜け止め用の止め輪が設けられる。
【0019】
キャリア17には、複数のローラ軸21が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸21の両端部が、ディスク17a,17bにわたって支持されている。すなわちディスク17a,17bには、それぞれ長孔から成る軸挿入孔が複数形成され、各軸挿入孔に各ローラ軸21の両端部が挿入されてこれらローラ軸21が径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸21には、これらローラ軸21を径方向内方に付勢する弾性リング22が掛け渡されている。
【0020】
各ローラ軸21に、遊星ローラ20が回転自在に支持され、各遊星ローラ20は、回転軸16の外周面と、スライド部材11の内周面との間に介在される。複数のローラ軸21に渡って掛け渡された弾性リング22の付勢力により、各遊星ローラ20が回転軸16の外周面に押し付けられる。回転軸16が回転することで、この回転軸16の外周面に接触する各遊星ローラ20が接触摩擦により回転する。遊星ローラ20の外周面には、前記スライド部材11の螺旋突起11aに噛合する螺旋溝が形成されている。
キャリア17のインナ側ディスク17bと、遊星ローラ20の軸方向一端部との間には、ワッシャーおよびスラスト軸受(いずれも図示せず)が介在されている。ハウジング1内において、インナ側ディスク17bと軸受部材12との間には、環状のスラスト板13およびスラスト軸受14が設けられている。
【0021】
減速機構3について説明する。
図2に示すように減速機構3は、電動モータ2の回転を、回転軸16に固定された出力ギヤ23に減速して伝える機構であり、複数のギヤ列を含む。この例では、減速機構3は、電動モータ2のロータ軸2aに取付けられた入力ギヤ24の回転を、ギヤ列25,26,27により順次減速して、回転軸16の端部に固定された出力ギヤ23に伝達可能としている。
【0022】
ロック機構5について説明する。
図3に示すように、ロック機構5は、制動力負荷機構4(図2)の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。図3の丸枠A内において、ロック機構5のロック状態を二点鎖線で表し、アンロック状態を実線で表す。前記減速機構3に、ロック機構5が設けられている。すなわち、ギヤ列26の出力側の中間ギヤ28には、複数の係止孔28aが円周方向一定間隔おきに形成されている。これら係止孔28aのピッチ円上の一点に対し、ロックピン29が、ピン駆動用アクチュエータであるリニアソレノイド30により進退可能に設けられている。リニアソレノイド30は前記ベースプレート8に支持され、このベースプレート8には、ロックピン29の進退を許すピン孔が形成されている。リニアソレノイド30によりロックピン29を進出させて係止孔28aに係合し、中間ギヤ28の回転を禁止することで、ロック機構5を丸枠A内の二点鎖線で示すようにロック状態にする。逆に、ロックピン29を退入させて係止孔28aから離脱させ、中間ギヤ28の回転を許すことで、ロック機構5を丸枠A内の実線で示すようにアンロック状態にし得る。
【0023】
温度センサ6および凍結防止通電手段7等について説明する。
図4に示すように、車両には、車両全般を制御する電気制御ユニットであるECU31、および、この車両の外気温度を検出する温度センサ6がそれぞれ設けられている。車両の例えばナックルアームに温度センサ6が取り付けられている。ECU31は、主に、走行制御部31aと、一般制御部31bとを有する。走行制御部31aは、アクセルペダル37の踏み込み量に応じてセンサ38から出力される加速指令と、ブレーキペダル32の動作量に応じてセンサ33から出力される減速指令等から、加速・減速指令を生成する。この例では、車両本体のナックルアームに温度センサ6を設けているが、この形態に限定されるものではない。ハウジング1と減速機構3との間が凍結する場合、電動ブレーキ装置の例えばハウジング1に温度センサ6を設け、電動ブレーキ装置の温度を検出しても良い。この場合、電動ブレーキ装置の凍結直前の温度をより正確に検出することができる。
【0024】
一般制御部31bは、ブレーキ制御部31ba、凍結防止通電手段7、および各種補機システム(図示せず)を制御する機能等を有する。ブレーキ制御部31baは、車両の停車時にこの電動ブレーキ装置を駐車ブレーキとして制御する手段である。このブレーキ制御部31baは、センサ33の検出信号、およびロック機構操作部34の操作指令に基づき、駆動回路35を介してリニアソレノイド30を駆動可能になっている。
ECU31にインバータ装置39が接続され、インバータ装置39は、各電動モータ2に対して設けられたパワー回路部39aと、このパワー回路部39aを制御するモータコントロール部39bとを有する。モータコントロール部39bは、各パワー回路部39aに対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良い。
【0025】
モータコントール部39bは、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。このモータコントール部39bは、走行制御部31aまたはブレーキ制御部31baから与えられる減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部39aのPWMドライバに電流指令を与える。
凍結防止通電手段7は、前記制動力負荷機構4が制動力を負荷し、且つ、ロック機構5がロック状態のとき、温度センサ6が、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、電動モータ2に通電を開始するように制御する。前記設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度は、温度0℃を基準として任意に定めることが可能である。なお、温度センサ6で外気温度を検出する際、電動ブレーキ装置のハウジング1内の温度が、外気温度よりも比較的高く保持される場合には、電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を、温度センサ6で検出された外気温度よりも低く補正しても良い。
【0026】
前記のように凍結防止通電手段7は、三つの条件、すなわち(1) 制動力負荷機構4が制動力を負荷している、(2) ロック機構5がロック状態にある、(3) 温度センサ6が設定温度以下である、を全て満たすと、制動力負荷機構4による制動力が向上する方向に、電動モータ2を通電させる。この場合、電動モータ2が回転しようとするが、制動力負荷機構4が制動力を負荷しており押圧反力が発生しているため、電動モータ2の回転が制限される。凍結防止通電手段7は、温度センサ6で外気温度を常時検出する。電動モータ2を通電させることで、温度センサ6が設定温度よりも高くなると、凍結防止通電手段7は、電動モータ2への通電を遮断する。前記設定温度は、図5に示すように、通電時と遮断時で異なり、それぞれ通電時設定温度T1と、遮断時設定温度T2が設定される。通電時設定温度T1、遮断時設定温度T2ともに、温度0℃より定められた温度高く設定され、且つ、遮断時設定温度T2は、通電時設定温度T1よりも高く設定されている。
凍結防止通電手段7は、前記三つの条件を全て満たすと、制動力負荷機構4による制動力が低減する方向に、電動モータ2を通電させるものであっても良い。この場合、ロック機構5がロック状態になっているため、電動モータ2の回転が制限される。したがって、制動力負荷機構4による制動力が実際に低減することはない。
【0027】
以上説明した電動ブレーキ装置によると、走行時は、ロック機構5をアンロック状態としておき、電動モータ2を駆動することで、制動力負荷機構4は車輪に対して制動力を負荷する。駐車時には、制動力負荷機構4が車輪に対し制動力を負荷した状態で、ロック機構5をロック状態に切換えることで、車両の移動を禁止する。ロック機構5をロック状態とすることで、電動モータ2を停止させても、制動力が維持される。駐車時にロック機構5等に凍結が生じるとロック解除が行えない。しかし、この車両の駐車時に、温度センサ6は、車両の外気温度または電動ブレーキ装置の温度を検出する。車両の駐車時に前記三つの条件を全て満たすと、凍結防止通電手段7は、電動モータ2に通電を開始するように制御する。電動モータ2への通電により、モータコイルを熱源としてモータ自体が発熱することで、電動ブレーキ装置の温度を上昇させる。これにより、駐車時において、電動ブレーキ装置のロック機構5等の凍結を確実に防止することができて、正常にロック解除等が行える。したがって、車両を遅滞無く発進させることができる。このようにモータコイルを熱源に利用するため、凍結防止専用の熱源が不要であり、簡単な構成で凍結防止が行える。
【0028】
他の実施形態として、図6に示すように、車両の駐車時に、通電時設定温度T1にて電動モータ2に通電を開始させた後、温度T1よりも高い設定温度Tと検出された時点で、電動モータ2へ通電する電流を小さく制御しても良い。この場合、一定の電流を電動モータ2に通電させ続けるよりも、車両に搭載されるバッテリの負荷を低減することができる。
図7に示すように、凍結防止通電手段7は、前記温度を検出している間、一定時間毎(時間t1毎)に電動モータ2への通電と遮断を繰り返し行うものとしても良い。電動モータ2への通電開始後、温度センサ6で検出される温度は、例えば、時間と共に温度上昇傾向となる。その後も連続して電動モータ2への通電を行うことで、温度低下傾向となることなく電動ブレーキ装置の凍結を確実に防止できるが、この場合、バッテリに負荷がかかる。また、電動モータ2へ比較的長い時間通電を行い、モータ自体が高温になると、電動モータ2への通電を一時的に遮断しても温度低下し難くなる傾向がある。
したがって、凍結防止通電手段7は、一定時間毎に電動モータ2への通電と遮断を繰り返し行うことで、電動モータ2へ連続通電する場合よりも、バッテリへの負荷を低減しつつ発電効率を高めて、電動ブレーキ装置の凍結を防止し得る。車両の駐車時間が長い場合において、例えば、昼夜で寒暖の差が大きいときには、連続通電しつつ電流制御を行う場合よりも、一定時間毎に電動モータ2への通電と遮断を繰り返す方が、バッテリへの負荷を低減でき、且つ、簡単に制御できる。
【0029】
図8に示すように、車両の発進操作を表す検出信号を検出する発進操作検出手段36を設け、凍結防止通電手段7は、制動力負荷機構4が制動力を負荷し、且つ、ロック機構5がロック状態で、温度センサ6が設定された温度を検出しているとき、発進操作検出手段36により車両の発進操作を表す検出信号を検出すると、電動モータ2に通電を行うようにしても良い。
発進操作検出手段36は、以下の検出信号を適用可能である。
・車両のドア「開」を検出信号とする。
・車両のドアロック解除を検出信号とする。
・車両のイグニッション「オン」を検出信号とする。
・車両の運転席側シートに運転者が着座したことを検出するセンサによる検出信号
・車輪に対し制動力を与えるペダルの操作を検出信号とする。
若干の凍結が生じていても、上記のように、車両の発進操作を表す検出信号を検出すると電動モータ2に通電を行うようにしてあると、電動ブレーキ装置の凍結を早期に解消できて、車両を遅滞無く発進させることができる。
【符号の説明】
【0030】
2…電動モータ
3…減速機構
4…制動力負荷機構
5…ロック機構
6…温度センサ
7…凍結防止通電手段
36…発進操作検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、この電動モータの出力により車輪に対して制動力を負荷する制動力負荷機構と、この制動力負荷機構の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能なロック機構とを備えた電動ブレーキ装置であって、
車両の外気温度または電動ブレーキ装置の温度を検出する温度センサを設け、
前記制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態のとき、温度センサが、設定された電動ブレーキ装置の凍結直前の温度を検出すると、電動モータに通電を開始するように制御する凍結防止通電手段を設けたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構による制動力が向上する方向に、電動モータを通電させる電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1において、前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構による制動力が低減する方向に、電動モータを通電させる電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記凍結防止通電手段は、温度センサが設定された温度を検出している間、一定時間毎に電動モータへの通電と遮断を繰り返し行うものとした電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記電動モータの回転を減速する減速機構を有し、前記制動力負荷機構は、減速機構で出力される回転運動を直線運動に変換して車輪に対して制動力を負荷するものとした電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、車両の発進操作を表す検出信号を検出する発進操作検出手段を有し、前記凍結防止通電手段は、制動力負荷機構が制動力を負荷し、且つ、ロック機構がロック状態で、温度センサが設定された温度を検出しているとき、発進操作検出手段により車両の発進操作を表す検出信号を検出すると、電動モータに通電を行う電動ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項6において、前記発進操作検出手段は、車両のドア「開」を検出信号とする電動ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、前記発進操作検出手段は、車両のドアロック解除を検出信号とする電動ブレーキ装置。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれか1項において、前記発進操作検出手段は、車両のイグニッション「オン」を検出信号とする電動ブレーキ装置。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれか1項において、前記発進操作検出手段は、車両の運転席側シートに運転者が着座したことを検出するセンサを含む電動ブレーキ装置。
【請求項11】
請求項6ないし請求項10のいずれか1項において、前記発進操作検出手段は、車輪に対し制動力を与えるペダルの操作を検出信号とする電動ブレーキ装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1つの電動ブレーキ装置を備えた自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−39885(P2013−39885A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178834(P2011−178834)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】