説明

電動モータ

【課題】弱め界磁制御が不要であり、かつ、渦電流による発熱を防止可能な電動モータを提供することを目的とする。
【解決手段】電動モータ1は、永久磁石を使用したロータ(回転子)20と、ステータ(固定子)30と、ロータ20と連動して回転し、ハウジング10を貫通する回転軸40と、ステータ30とロータ20との軸方向の相対的位置関係を、ロータ20の回転速度に応じたオイル70の油圧で変位させると共に、ロータ20をオイル70で冷却する変位・冷却機構とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータに関し、詳細には、永久磁石を備えたロータを使用した電動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石を備えたロータを使用した電動モータは、高出力かつ高効率であるため、広く車両等に利用されている。かかる永久磁石を備えたロータを使用した電動モータの運転可能条件は、誘起電圧と電動モータにおける電圧降下(コイルに電流が流れることによる低下)との和がインバータから電動モータに出力される出力可能電圧以下となることである。電動モータでは、ロータに設けられている永久磁石が発生する磁束と、電動モータの回転角速度とによって誘起起電力(誘起電圧)が決定される。すなわち、電動モータの回転角速度が上昇すると、電動モータの誘起電圧が比例して上昇する。誘起電圧が支配的になると、電動モータに流せる電流が少なくなる。電動モータにおけるトルクは電流に比例するため、誘起電圧が支配的になる高回転領域では、高トルク出力運転が困難であった。
【0003】
これを解消するため、弱め界磁制御によって高回転領域を広げる手段を用いた電動モータがある。しかしながら、弱め界磁制御では、回転角速度に比例して上昇する誘起起電力に応じて弱め界磁制御用電流を上昇させる必要があるため、高回転領域において電動モータの効率が低下してしまうという問題がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、弱め界磁制御を用いることなく高回転領域(高トルク出力運転が可能な高回転領域)を広げられる電動モータが提案されている。同文献の電動モータでは、複数の移動体は、ロータの半径方向へ移動可能に構成されている。円筒部の内側に設けられた弾性体は、ロータの半径方向の外側から内側へ向けて移動体を付勢する。出力軸の端部の外周には複数の平面形状の傾斜面が形成されており、移動体には平面形状のカム面が傾斜面と摺接可能に形成されている。モータハウジングの端壁と出力軸の端面との間に介在された圧縮バネは、出力軸をその軸方向へ付勢しており、傾斜面とカム面とが圧縮バネのバネ力によって接合されている。ロータの回転に伴って移動体に作用する遠心力が弾性体による予荷重を上回ると、ロータの全体がその軸方向へ移動する。
【0005】
【特許文献1】特開2006−136126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電動モータの高速回転領域では、永久磁石に発生する渦電流により永久磁石が発熱し、この状態で、ステータコイルからの逆磁界を受けると永久磁石減磁が生ずるという問題がある。上記特許文献1では、渦電流による発熱について何ら考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、弱め界磁制御が不要であり、かつ、渦電流による発熱を防止可能な電動モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ステータと、永久磁石を備えたロータと、前記ロータと連動して回転する回転軸と、前記ステータと前記ロータとの軸方向の相対的位置関係を、前記ロータの回転速度に応じた油圧で変位させると共に、前記ロータをオイルで冷却する変位・冷却機構と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変位・冷却機構は、前記油圧により前記ロータを軸方向に移動させることが望ましい。
【0010】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変位・冷却機構は、前記ロータを前記軸方向の一方の方向に付勢する第1の付勢手段と、回転速度に応じて、前記ロータを前記軸方向の他方の方向に付勢するオイル供給手段と、を含むことが望ましい。
【0011】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変位・冷却機構は、高速回転領域では、低速回転領域に比して、前記ロータを前記ステータと対向する面積が小さくなる位置に移動させることが望ましい。
【0012】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変位・冷却機構は、回転速度に応じてオイルの流路を切り替えることが望ましい。
【0013】
また、本発明の好ましい態様によれば、前記変位・冷却機構は、低速回転領域では、オイルの流路を、前記ステータを冷却する経路に、高速回転時には、オイルの流路を、前記ロータを冷却する経路に切り替えることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ステータと、永久磁石を備えたロータと、前記ロータと連動して回転する回転軸と、前記ステータと前記ロータとの軸方向の相対的位置関係を、前記ロータの回転速度に応じた油圧で変位させると共に、前記ロータをオイルで冷却する変位・冷却機構と、を備えているので、弱め界磁制御が不要であり、かつ、渦電流による発熱を防止可能な電動モータを提供することが可能となるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、この発明の最良の形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものまたは実質的に同一のものが含まれる。
【0016】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る電動モータの軸方向の概略断面図であり、特に、低速回転時の断面構成を示している。図2は、図1のA−A’断面図を示している。図3は、図1のB−B’断面図を示している。図4は、本発明の実施の形態に係る電動モータの軸方向の概略断面図であり、特に、高速回転時の断面構成を示している。図5は、図4のC−C’断面図を示している。図6は、図4のD−D’断面図を示している。図7は、図4のE−E’断面図を示している。
【0017】
図1において、電動モータ1は、ロータ10(回転子)、ステータ(固定子)30,および回転軸(シャフト)40を収容するハウジング10と、永久磁石を使用したロータ20と、ステータ30と、ロータ20と連動して回転し、ハウジング10を貫通する回転軸40と、ステータ30とロータ20との軸方向の相対的位置関係を、ロータ20の回転速度に応じたオイル70の油圧で変位させると共に、ロータ20をオイル70で冷却する変位・冷却機構とを備えている。
【0018】
ハウジング10の第1の収納室11には、ステータ30が配置されており、ハウジング10の周壁内周面に固定されている。このステータ30は、ステータ本体31にステータコイル32が巻回されて構成されている。また、ハウジング10は、ステータ30の径方向内側に第2の収納室12を備えており、この第2の収納室12には、ロータ20、回転軸40が回転自在および軸方向に移動可能に収容されている。
【0019】
また、ハウジング10には、図1,図3、図4、図7に示すように、オイル供給機構60から供給されるオイル70を、ハウジング10の第1の収納室11に導くための複数の通路13が径方向内側から外側に向かって形成されている。通路13の入り口にはオイル漏れを防止するためのオイルシール15が設けられている。
【0020】
回転軸40は、両端側がベアリング45,46を介してハウジング10に回転自在および軸方向に移動可能に支承されている。また、回転軸40には、図1〜図7に示すように、オイル供給機構60から供給されるオイル70が流れる通路41が形成されている。この通路41には、オイル供給機構60から圧送されるオイル70をハウジング10の通路13に導くための、略扇形形状を呈する第1の吐出口41aと、オイル供給機構60から供給されるオイルを、第2の収納室12(空間)を介して、ロータ20の通路21に導くための、略扇形形状を呈する第2の吐出口41bとが設けられている。
【0021】
ベアリング45には、リング形状を呈するスペーサ47が固定されている。回転軸40の外周方向には、第1の付勢手段であるスプリング50が配されており、このスプリング50の一端側は、スペーサ47に固定されており、その他端側は、ロータ20に当接して
ロータ20を軸方向のリア方向(一方の方向)に付勢している。
【0022】
ロータ20は、断面視リング形状を呈しており、フランジ22を介して回転軸40に固定されている。ロータ20は、永久磁石ロータで構成されており、図1および図2に示すように、電磁鋼板(コア)24に、径方向外側に周方向に沿って、複数の永久磁石25が埋め込まれて構成されている。周方向に隣接する2つの永久磁石25の極性は反対となっている。また、永久磁石25の内側には、電磁鋼板24の内部にオイル70を供給するための,断面視L字形状を呈する複数の通路21が形成されている。なお、ここでは、埋込磁石型の永久磁石ロータを使用することとしたが、表面磁石型の永久磁石を使用することにしてもよい。
【0023】
ロータ20および回転軸40は、スプリング50により軸方向のリア方向(一方の方向)に付勢されるとともに、オイル供給機構60から供給されるオイル70の油圧により軸方向のフロント方向(他方の方向)に付勢され、ベクトル的にバランスする軸方向位置に移動する。
【0024】
オイル供給機構60は、オイルポンプで構成されており、回転軸40の通路41にオイル70を圧送するものであり、回転軸40に連結しており、回転軸40と共に回転し、その回転速度に応じて油圧を変化させる。具体的には、回転速度が高くなるほど油圧を高くする。オイルポンプの構成は、公知であるのでその詳細な説明は省略する。なお、オイル供給機構60は、回転軸40に直接連結せずに、電磁弁を設け、不図示のコントローラから供給される制御信号に応じて、電磁弁の開度を調整して油圧を変更することにしてもよい。この場合、コントローラは、ロータ20の回転速度を検出し、高回転時に油圧が高くなるようにオイル供給機構60を制御する。
【0025】
上記構成において、スプリング50、ハウジング10の通路13,ロータ20の通路21、回転軸40の通路41、第1の吐出口41a、第2の突出口41b、オイル供給機構
60は、変位・冷却機構を構成する。
【0026】
上記構成の電動モータ1の動作を説明する。不図示の電気回路によりステータコイル32が通電すると、ロータ20および回転軸40は回転を開始する。低速回転時には、オイル供給機構60から低い圧力で圧送され、図1に示すように、通路41がオイル70で満たされる。この場合、スプリング50のリア方向への付勢力が通路41内のオイル70のフロント方向への付勢力よりも大きく、ロータ20および回転軸40は移動しない。これにより、ロータ20は、ステータ30と対向する部分の面積が大きく、磁石磁束量を増大することができる。
【0027】
また、低速回転時には、図1、図3に示すように、回転軸40の通路41の第1の吐出口41aとハウジング10の通路13とは、同じ高さにあり、第1の吐出口41aは、回転軸40の回転に従って、複数の通路13と連結して、順次、オイル70を供給する。通路13に供給されるオイル70は、第1の収納室11に流入して、ステータ30を冷却する第1の冷却経路が形成される。この場合、第1の収納室11のオイル70の高さは、第2の突出口41bと同じになる。一方、図1,図2に示すように、第2の吐出口41bとロータ20の通路21は連結されない。低速回転時の高トルク運転時の発熱は、ステータコイル32>永久磁石25となるため、低速回転領域では、オイル冷却経路をステータ30側に設定している。
【0028】
他方、高速回転時には、オイル供給機構60から高い圧力でオイル70が圧送され、図4に示すように、通路41内のオイル70のフロント方向への付勢力が増大して、ロータ20および回転軸40をフロント方向へスプリング50の付勢力に抗して移動させる。この結果、ロータ20のステータ30と対向する部分の面積は減少し、磁石磁束量を減少させ、ステータ30のステータコイル32の誘起電圧が小さくなる。これにより、弱め界磁制御が不要となる。
【0029】
また、高速回転時には、図4,図7に示すように、回転軸40の通路41の第1の吐出口41aとハウジング10の通路13は遮断される。他方、図4〜図6に示すように、第2の吐出口41bは、回転軸40の外周の第2の収容室12の空間と連結し、オイル70は、第2の吐出口41bから第2の収納室12の空間を通り、さらに、ロータ20の通路21に至り、ロータ20を冷却する第2の冷却路が形成される。高速回転領域では、ステータコイル32の鎖交磁束変化の増大により、永久磁石25の渦電流が大きくなって発熱するため、オイル冷却経路をロータ20側に設定している。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態の電動モータによれば、ステータ30と、永久磁石25を備えたロータ20と、ロータ20と連動して回転する回転軸40と、ステータ30とロータ20との軸方向の相対的位置関係を、ロータ20の回転速度に応じたオイル70の油圧で変位させると共に、ロータ20をオイル70で冷却する変位・冷却機構とを備えているので、高速回転時にはステータ30とロータ20との軸方向の相対的位置関係を変位させることで、弱め界磁制御を行わなくても、磁石磁束量を減少させて減磁作用を奏することができ、また、ロータ20をオイル70で冷却することができ、弱め界磁制御を不要とし、かつ、渦電流による発熱を防止することが可能となる。
【0031】
また、本実施の形態の電動モータによれば、変位・冷却機構は、油圧によりロータ20を軸方向に移動させることとしたので、ステータ30とロータ20との軸方向の相対的位置関係を簡単な構成で変位させることが可能となる。
【0032】
また、本実施の形態の電動モータによれば、変位・冷却機構は、ロータ20を軸方向の一方の方向に付勢するスプリング50と、ロータ20の回転速度に応じて、ロータ20を軸方向の他方の方向に付勢するオイル供給機構60と、を含んでいるので、スプリング50の付勢力と、オイル供給機構60から供給されるオイルの油圧がベクトル的にバランスする軸方向位置にロータ20を移動することが可能となる。
【0033】
また、本実施の形態の電動モータによれば、変位・冷却機構は、高速回転領域では、低速回転領域に比して、ロータ20をステータ30と対向する面積が小さくなる位置に移動させることとしたので、高速回転領域で磁石磁束量を減少させることが可能となる。
【0034】
また、本実施の形態の電動モータによれば、変位・冷却機構は、ロータ20の回転速度に応じてオイル70の流路を切り替えることとしたので、ロータ20の回転速度に応じてオイル70の冷却経路を切り替えることが可能となる。
【0035】
また、本実施の形態の電動モータによれば、変位・冷却機構は、低速回転領域では、オイル70の流路をステータ30を冷却する経路に、高速回転領域では、オイル70の流路をロータ20を冷却する経路に切り替えることとしたので、低速回転領域では発熱の大きいステータ30を冷却し、速回転領域では発熱の大きいロータ20を冷却することが可能となり、効果的に電動モータ1を冷却することが可能となる。
【0036】
なお、本実施の形態では、変位・冷却機構により、ステータ30とロータ20との相対的位置関係を変位させるために、ロータ20および回転軸40を軸方向に移動させることとしたが、油圧でロータ20のみを軸方向に移動させる構成としてもよく、また、ロータ20の位置を固定にして、油圧でステータ30を軸方向に移動させる構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る電動モータは、永久磁石を備えたロータを有する電動モータにおいて、弱め界磁制御が必要な電動モータに広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動モータの軸方向の概略断面図(低速回転時)である。
【図2】図1のA−A’断面図である。
【図3】図1のB−B’断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る電動モータの軸方向の概略断面図(高速回転時)である。
【図5】図4のC−C’断面図である。
【図6】図4のD−D’断面図である。
【図7】図4のE−E’断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 電動モータ
10 ハウジング
11 第1の収納室
12 第2の収納室
13 通路
15 オイルシール
20 ロータ
21 通路
22 フランジ
24 電磁鋼板(コア)
25 永久磁石
30 ステータ
31 ステータ本体
32 ステータコイル
40 回転軸
41 通路
41a 第1の吐出口
41b 第2の突出口
45,46 ベアリング
47 スペーサ
50 スプリング
60 オイル供給機構
70 オイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
永久磁石を備えたロータと、
前記ロータと連動して回転する回転軸と、
前記ステータと前記ロータとの軸方向の相対的位置関係を、前記ロータの回転速度に応じた油圧で変位させると共に、前記ロータをオイルで冷却する変位・冷却機構と、
を備えたことを特徴とする電動モータ。
【請求項2】
前記変位・冷却機構は、前記油圧により前記ロータを軸方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の電動モータ。
【請求項3】
前記変位・冷却機構は、
前記ロータを前記軸方向の一方の方向に付勢する第1の付勢手段と、
前記ロータの回転速度に応じて、前記ロータを前記軸方向の他方の方向に付勢するオイル供給手段と、
を含むことを特徴とする請求項2に記載の電動モータ。
【請求項4】
前記変位・冷却機構は、高速回転領域では、低速回転領域に比して、前記ロータを前記ステータと対向する面積が小さくなる位置に移動させることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の電動モータ。
【請求項5】
前記変位・冷却機構は、前記ロータの回転速度に応じて、オイルの流路を切り替えることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の電動モータ。
【請求項6】
前記変位・冷却機構は、低速回転領域では、オイルの流路を前記ステータを冷却する経路に、高速回転領域では、オイルの流路を前記ロータを冷却する経路に切り替えることを特徴とする請求項5に記載の電動モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−125235(P2008−125235A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305743(P2006−305743)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】