説明

電動式ブレーキ倍力装置

【課題】回生制動ギャップによるブレーキ液圧不変ストローク域が発生することのないようにして操作フィーリングの違和感をなくした電動式ブレーキ倍力装置を提案する。
【解決手段】S18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値未満と判定する時、S19で、回生制動ギャップが全負荷点において零となるよう縮小されるプライマリピストンストローク位置Spを求め、S21で、回生制動ギャップSgの縮小程度をブレーキ操作力増大速度Vpに応じ補正するのに用いる回生制動ギャップ縮小補正係数αを求め、S23で、回生制動ギャップSgの縮小程度を回生制動可能減速度Rgに応じ補正するのに用いる回生制動ギャップ縮小補正係数βを求め、S24で、S19により求めたプライマリピストンストローク位置を係数αおよびβにより補正し、このストローク位置となるようプライマリピストンを電動機でストローク制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作力を入力されてストロークする入力部材に追従するよう出力部材を電動機によりストロークさせることでブレーキ液圧を倍力下に上昇させる電動式ブレーキ倍力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる電動式ブレーキ倍力装置としては従来から様々なものが提案されているが、例えば特許文献1に記載のように、ブレーキ操作力を入力されてストロークする入力部材としてのインプットロッドと、このインプットロッドに追従するよう電動機でストロークされてブレーキ液圧を上昇させる出力部材としてのプライマリピストンを具えたものが知られている。
【0003】
この電動式ブレーキ倍力装置は、ブレーキ操作力を入力されてストロークするインプットロッドに追従するようプライマリピストンを電動機によりストロークさせることでブレーキ液圧を倍力下に上昇させることができる。
プライマリピストンを電動機により、例えばインプットロッドとの間に相対変位が生じないようにストローク制御するとき、ブレーキ液圧Pmはインプットロッドの0起点からのストロークSiに対して図7にA1により示すごとく一定倍力比で上昇させることができる。
【0004】
ところで、ハイブリッド車両などのように駆動系にモータ/ジェネレータを搭載した電動車両にあっては、車両の制動時にモータ/ジェネレータを発電機として機能させる回生制動により制動力を発生させてエネルギー効率を高めることが行われている。
この場合、回生制動分だけブレーキ液圧Pmを低下させる必要があり、かかるブレーキ液圧Pmの低下に際し上記の電動式ブレーキ倍力装置にあっては、特許文献1にも記載されている通り、プライマリピストンを電動機によりインプットロッドに対し相対的に制限範囲内(回生制動ギャップの範囲内)で戻しストロークさせることによってブレーキ液圧Pmを低下させるのが常套である。
【0005】
ちなみに、上記の制限範囲(回生制動ギャップ)をSgとすると、プライマリピストンを電動機によりストロークさせず、従って倍力作用を行わなかった場合におけるブレーキ液圧Pmの変化特性は、例えば図7にA2で示すごときものとなる。
【0006】
かかるブレーキ液圧Pmの変化特性A2を以下に説明する。
この場合プライマリピストンは、インプットロッドが上記の回生制動ギャップSgだけストロークして(Si=Sgとなって)プライマリピストンに当接するまで初期ストローク位置Sp=Sgを保ち、ブレーキ液圧Pmを発生させない。
インプットロッドが上記の回生制動ギャップSgを越えてストロークする間(インプットロッドストローク位置SiがSi>Sgである間)、インプットロッドはプライマリピストンを押動し、これによるプライマリピストンのストロークでブレーキ液圧Pmは、倍力されることなく図7にA2で示す特性をもって発生する。
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した回生制動ギャップSgを設定されている電動式ブレーキ倍力装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。
つまり、電動機によるプライマリピストンのブレーキ液圧上昇方向へのストロークが不能になる全負荷点(全負荷状態)が存在する。
【0008】
図7のBoでこの全負荷点に達するものである場合について説明する。
Boまではプライマリピストンが電動機によってインプットロッドに追従するようストロークされ得ることから、ブレーキ液圧Pmは太い破線Bで示すように前記のA1特性をもって倍力下に上昇する。
【0009】
しかしBoを越えると、ブレーキ操作力の増大によりインプットロッドストロークSiを更に大きくしても、プライマリピストンが電動機によってインプットロッドに追従するようストロークされ得ないことから、インプットロッドはプライマリピストンに対し相対的に回生制動ギャップSgを詰めつつストロークしてストロークSiを増大される。
インプットロッドがプライマリピストンに対し相対的に回生制動ギャップSg分だけストロークし、インプットロッドストロークSiがSpmax(全負荷点でのプライマリピストンストローク開始位置)となる図7のB1において、インプットロッドはプライマリピストンに当接し、以後プライマリピストンがインプットロッドにより押動されてストロークする。
【0010】
よってB1以後は、インプットロッドにより押動されて生ずるプライマリピストンのストロークで、ブレーキ液圧Pmが太い破線Bで示すように前記のA2特性をもって非倍力下に上昇される。
ちなみに前記したところから明らかなように、インプットロッドがプライマリピストンに対し相対的に回生制動ギャップSg分だけストロークしてプライマリピストンに当接した時のストローク位置Spmax以前におけるプライマリピストンのストローク位置SpはSp=Sg+Siであり、それ以後におけるプライマリピストンのストローク位置SpはSp=Siである。
【0011】
以上のように、従来の電動式ブレーキ倍力装置にあってはブレーキ液圧Pmが、インプットロッドストロークSiおよびプライマリピストンストロークSpに対し図7に太い破線Bで示すような特性を持って変化し、
全負荷点(全負荷状態)を迎えるBoから、かかる全負荷点(全負荷状態)のままインプットロッドがプライマリピストンに対し相対的に回生制動ギャップSg分だけストロークしてプライマリピストンに当接するB1まで間、
インプットロッドがストロークしているのに(ブレーキペダルの踏み込みストロークが増しているのに)ブレーキ液圧Pmが上昇しないこととなり、
当該ブレーキ液圧不変ストローク域がブレーキ操作フィーリングに違和感を与えるという問題を生ずる。
【0012】
本発明は、全負荷点を迎えた時における前記の制限範囲(回生制動ギャップ)が上記違和感の原因であるとの観点から、この原因をなくするような電動式ブレーキ倍力装置を提案して上記の問題を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため本発明による電動式ブレーキ倍力装置は、請求項1に記載のごとく、
ブレーキ操作力を入力されてストロークする入力部材と、
該入力部材に追従するよう電動機でストロークされてブレーキ液圧を上昇させる出力部材とを具え、
この出力部材を前記電動機により前記入力部材に対し相対的に制限範囲内で戻しストロークさせることによってブレーキ液圧を低下させ得るようにした電動式ブレーキ倍力装置を基礎前提とし、
前記電動機による出力部材のブレーキ液圧上昇ストロークが不能になる全負荷点へ向かうにつれて前記制限範囲が縮小されるよう前記出力部材を前記電動機によりストローク制御する構成にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明の電動式ブレーキ倍力装置によれば、
出力部材を電動機により入力部材に対し相対的に制限範囲内で戻しストロークさせてブレーキ液圧を低下させるための当該制限範囲が全負荷点へ向かうにつれて縮小されるよう出力部材を電動機によりストローク制御するため、
全負荷点を迎えた時においては上記の制限範囲が縮小されていることとなり、当該全負荷点で制限範囲に起因して生ずるブレーキ液圧不変ストローク域を小さくし得るか、若しくは無くすことができ、ブレーキ液圧不変ストローク域の存在に伴うブレーキ操作フィーリングへの違和感を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、タンデムマスターシリンダ1に一体結合して構成した、本発明のー実施例になる電動式ブレーキ倍力装置2の縦断側面図である。
タンデムマスターシリンダ1のシリンダ本体3と、電動式ブレーキ倍力装置2のブースタハウジング4とを、相互に同心に配して結着し、これらシリンダ本体3およびブースタハウジング4の結着部を貫通するよう配置して、これらシリンダ本体3およびブースタハウジング4の中心部に、出力部材としてのプライマリピストン5を設ける。
【0016】
プライマリピストン5は、図中左端(前端)をシリンダ本体3内に摺動自在に挿入し、該プライマリピストン5の左端(前端)とシリンダ本体3の底壁との間においてシリンダ本体3内にフリーピストン型式のセカンダリピストン6を摺動自在に嵌合する。
プライマリピストン5の右端(後端)はブースタハウジング4内に摺動自在に嵌合し、該プライマリピストン5の右端(後端)における中空孔内に、入力部材であるインプットロッド7を摺動自在に挿置する。
【0017】
プライマリピストン5とブースタハウジング4との間には、プライマリピストン5を図の右方へ附勢するリターンスプリング8を縮設し、該リターンスプリング8によるプライマリピストン5のストロークを、プライマリピストン5の右端面(後端面)と、スラスト部材9に設けた内周フランジ9aとの衝接により、図示の非作動ストローク位置に制限する。
【0018】
プライマリピストン5とセカンダリピストン6の間にはリターンスプリング11を縮設し、このリターンスプリング11は、両ピストン5,6間に画成されたシリンダ室12内に収納する。
セカンダリピストン6とシリンダ本体3の底壁との間にはリターンスプリング13を縮設し、このリターンスプリング13は、セカンダリピストン6とシリンダ本体3の底壁との間に画成されたシリンダ室14内に収納する。
かくしてセカンダリピストン6は、リターンスプリング11,13のバネ力が釣り合う図示の非作動ストローク位置に弾支される。
【0019】
図示するプライマリピストン5の非作動ストローク位置において、リザーバタンク15に通じさせてシリンダ本体3に設けたブレーキ液供給ポート16と、シリンダ室12との間を連通させるためのリリーフポート17をプライマリピストン5の左端(前端)に形成する。
図示するセカンダリピストン6の非作動ストローク位置において、リザーバタンク15に通じさせてシリンダ本体3に設けたブレーキ液供給ポート18と、シリンダ室14との間を連通させるためのリリーフポート19をセカンダリピストン6の左端(前端)に形成する。
【0020】
なお、これらリリーフポート17,19はそれぞれ、対応するピストン5,6が図示の非作動ストローク位置から図の左方へ押し込まれると、直ちに対応するブレーキ液供給ポート16,18から遮断される位置に配置する。
そしてシリンダ本体3には更に、シリンダ室12,14に通じさせてブレーキ液圧出口ポート21,22を形成し、これらポートよりブレーキ液圧Pmを液圧ブレーキ装置の2ブレーキ系へ出力可能とする。
【0021】
インプットロッド7は、プライマリピストン5の右端(後端)における中空孔内に摺動自在に挿置され、プライマリピストン5に対し軸線方向へ相対変位可能であるが、該インプットロッド7とプライマリピストン5との間には、インプットロッド7に対し相互逆向きに作用する中立スプリング23,24を縮設する。
これら中立スプリング23,24は、インプットロッド7をプライマリピストン5に対し相対的に、中立スプリング23,24のバネ力が釣り合う図示の中立位置に弾支する。
かかる中立位置のインプットロッド7に対し相対的にプライマリピストン5が、回生制動ギャップSgの制限範囲内で戻しストローク(図の右向きストローク)を行い得るよう、インプットロッド7に、プライマリピストン5と衝接する大径肩部7aを設定する。
【0022】
スラスト部材9は、電動機25により以下のボールネジ機構を介して図示の非作動位置から図の左方へストロークさせ得るようになす。
電動機25は、ブースタハウジング4内に固設した環状ステータ25sと、この環状ステータ25s内におけるロータ25rとよりなり、
一対の軸受26a,26bを介してロータ25rをブースタハウジング4内に回転自在に支承することにより電動機25を構成する。
【0023】
ロータ25rの内周には、このロータ25rと共に回転するようボールナット27を固着し、該ボールナット27の内周はボールネジ28を介してスラスト部材9の外周に螺合させる。
そしてスラスト部材9と、ブースタハウジング4との間には、スラスト部材9を図の右方へ附勢するリターンスプリング29を縮設する。
なお、リターンスプリング29から遠いスラスト部材9の端面には複数個の軸線方向ガイドロッド9bを突設し、これらガイドロッド9bをブースタハウジング4に摺動自在に挿通させて、スラスト部材9を回転不能にすると共に軸線方向へは変位可能にする。
【0024】
上記の構成になるマスターシリンダ1を含む電動式ブレーキ倍力装置2は、電動式ブレーキ倍力装置2の後端面を車両のダッシュボード31に取着し、インプットロッド7と、車室内におけるブレーキペダル32との間にプッシュロッド33を介在させて実用する。
【0025】
マスターシリンダを含む電動式ブレーキ倍力装置2の作用を以下に説明する。
ブレーキペダル32を踏み込まない非作動時は、電動機25がスラスト部材9(従ってプライマリピストン5)を図示の非作動ストローク位置となす回転位置にある。
ブレーキペダル32が踏み込まれると、プッシュロッド33を介してインプットロッド7が図示の非作動中立位置から図の左方へ押し込まれるようストロークする。
【0026】
これに呼応して電動機25は、スラスト部材9(従ってプライマリピストン5)を図示の非作動ストローク位置からインプットロッド7に追従する方向へストロークさせるよう回転する。
【0027】
スラスト部材9を介したプライマリピストン5の上記ストロークは、リリーフポート17をブレーキ液供給ポート16から遮断してシリンダ室12を封じ込め室となし、プライマリピストン5の上記ストロークと相まってシリンダ室12内にブレーキ液圧Pmを発生させ、このブレーキ液圧Pmをポート21から出力する。
プライマリピストン5の上記ストロークおよびシリンダ室12内のブレーキ液圧Pmに応動してフリーピストン型式のセカンダリピストン6も同方向にストロークし、当該セカンダリピストン6のストロークは、リリーフポート19をブレーキ液供給ポート18から遮断してシリンダ室14を封じ込め室となし、セカンダリピストン6の上記ストロークと相まってシリンダ室14内に同じブレーキ液圧Pmを発生させ、このブレーキ液圧Pmをポート22から出力する。
【0028】
この際、スラスト部材9(プライマリピストン5)を如何なる態様でインプットロッド7に追従させるかに応じ、ブレーキ倍力の仕方を自由に設定することができる。
一例を挙げると、スラスト部材9(プライマリピストン5)をインプットロッド7に対し、これとの間に相対変位を生じないよう追従させるべく電動機25でストローク制御する場合、
ブレーキ液圧Pmを図7にA1で示すように、インプットロッドの0起点からのストロークSiに対して一定倍力比で上昇させることができる。
【0029】
ところで、ハイブリッド車両などのように駆動系にモータ/ジェネレータを搭載した電動車両にあっては、車両の制動時にモータ/ジェネレータを発電機として機能させる回生制動により制動力を発生させてエネルギー効率を高めることが行われている。
この場合、回生制動分だけブレーキ液圧Pmを低下させる必要があり、さもなくば制動力が要求制動力に対して過剰になる。
かかるブレーキ液圧Pmの低下に際し上記の電動式ブレーキ倍力装置2においては、上記のごとくインプットロッド7に追従するよう電動機25でストローク制御したスラスト部材9(プライマリピストン5)を電動機25の逆回転によりインプットロッド7に対し相対的に制限範囲内(回生制動ギャップSgの範囲内)で戻しストロークさせ、これによりブレーキ液圧Pmを要求通り上記の回生制動分だけ低下させ得る。
【0030】
しかし、かかる目的などのために回生制動ギャップSgを設定している場合、以下のような問題を生ずる。
ブレーキ液圧Pmを倍力作用により、例えば図7のA1特性に沿い上昇させている途中で、スラスト部材9(プライマリピストン5)が電動機25によってインプットロッド7に追従ストロークされ得なくなる全負荷点を迎えると、
この時から(図7のBo参照)、インプットロッド7がプライマリピストン5に対し相対的に回生制動ギャップSg分だけストロークしてプライマリピストン5に当接する(図7のB1参照)までの間、
インプットロッド7がストロークしているのに(ブレーキペダル32の踏み込みストロークが増しているのに)ブレーキ液圧Pmが上昇しないブレーキ液圧不変ストローク域が発生し、これがブレーキ操作フィーリングを悪化させるという問題を生ずる。
【0031】
そこで本実施例においては、図1に示すごとく、電動機25の回転位置(プライマリピストン5のストローク位置Sp)を検出するよう設けたレゾルバ41、および、ブレーキペダル32の踏み込みストローク(インプットロッド7のストローク位置Si)を検出するよう設けたペダルストロークセンサ42からの信号をもとに、図示せざるコントローラが図2に示すブレーキ倍力制御プログラムを実行して、プライマリピストン5を電動機25により以下のごとくにストローク制御するよう、電動式ブレーキ倍力装置2を特異な構成にする。
【0032】
ステップS11においては、レゾルバ41の検出値を読み込み、ステップS12においては、このレゾルバ41の検出値からプライマリピストン5のストローク位置Spを算出する。
次のステップS13においては、ペダルストロークセンサ42の検出値を読み込み、ステップS14においては、このペダルストロークセンサ42の検出値からインプットロッド7のストローク位置Siを算出する。
【0033】
次のステップS15においては、倍力作用を行わなかった場合におけるプライマリピストン5のストロークSp(=Sg+Si)によるブレーキ液圧Pmの変化特性(図7のプライマリピストン特性A2参照)を算出する。
次のステップS16においては、図3に例示する予定の目標減速度マップをもとに、インプットロッド7のストローク位置Si(運転者が要求している減速度を表す)から、車両の目標減速度Gを算出する。
【0034】
ステップS17においては、ステップS15で求めたプライマリピストン特性A2をもとに全負荷点でのプライマリピストンストローク開始位置Spmax(図7参照)を算出する。
ステップS18においては、全負荷点でのプライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値以上か否かをチェックする。
なお、全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxは図7からも明らかなように全負荷点の大きさを表し、全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが大きいということは、全負荷点が大きいことを意味する。
ここで、全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxの大小判定に資する上記の設定値は、全負荷点がアンチスキッド制御開始液圧(制動ロック液圧)相当値以上か否かを判定するための設定値とする。
【0035】
ステップS18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値以上でない(設定値未満である)と判定する場合は、つまり、全負荷点が小さくてアンチスキッド制御が行われない通常ブレーキ操作域で全負荷点を迎える可能性がある場合は、制御をステップS19に進める。
このステップS19においては、インプットロッド7のストロークSiに対しプライマリピストン5のストロークSpを遅れ気味に追従させつつ(回生制動ギャップSgを縮小させつつ)、全負荷点で丁度回生制動ギャップSgが零となるよう電動機25によるプライマリピストン5のストローク制御を行わせ、図7に太い実線Cで示すブレーキ液圧Pmの変化を生じさせるようなプライマリピストン特性(プライマリピストン特性Cと言う)用のプライマリピストンストローク位置Spを
Sp=Sg+{1−(Sg/Spmax)}Si
の演算により求める。
【0036】
上記したプライマリピストン特性Cに基づくプライマリピストン5のストローク(Sp)制御は、図7に同符号Cで示すようにブレーキ液圧Pmを、太い破線で示す従来のブレーキ液圧値よりも、インプットロッドストロークSiに対するプライマリピストンストロークSpの追従遅れ分ΔPmだけ低くするが、
B1の全負荷点においてプライマリピストン特性A2によるブレーキ液圧変化特性に滑らかに連続することとなり、全負荷点においてインプットロッドストローク位置Siが変化しているのにブレーキ液圧Pmが変化しないというようなブレーキ液圧不変ストローク域が発生するのを回避することができる。
【0037】
次のステップS20においては、演算周期ごとにステップS14で算出したインプットロッド7のストローク位置Si(前回値)およびストローク位置Si(今回値)間の差から、ブレーキペダル32の踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vp{=Si(前回値)−Si(今回値)}を算出する。
【0038】
ステップS21においては、ステップS19につき前述した回生制動ギャップSgの縮小程度を上記のブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpに応じ補正するのに用いる回生制動ギャップ縮小補正係数αを算出する。
この算出に際しては、図4に例示する特性に対応した二次元マップをもとに、ブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpから回生制動ギャップ縮小補正係数αを検索により求める。
【0039】
回生制動ギャップ縮小補正係数αは、図4から明らかなように、ブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpが設定速度Vpo未満の間は1を保ち、ブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpが設定速度Vpo以上である間、ブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpが速くなるにつれて1から0に向けて低下するものとする。
ここで設定速度Vpoは、制動による減速度を優先させるべき急ブレーキ域におけるブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vpの下限値とする。
【0040】
ステップS22においては、回生制動時に充電されるバッテリの蓄電状態や、車両の運転状態などに応じて決まる利用可能な回生制動力により得られる車両減速度(回生制動可能減速度)Rgを算出する。
ステップS23においては、ステップS19につき前述した回生制動ギャップSgの縮小程度を上記の回生制動可能減速度Rgに応じ補正するのに用いる回生制動ギャップ縮小補正係数βを算出する。
この算出に際しては、図5に例示する特性に対応した二次元マップをもとに、回生制動可能減速度Rgから回生制動ギャップ縮小補正係数βを検索により求める。
【0041】
回生制動ギャップ縮小補正係数βは、ステップS19につき前述した回生制動ギャップSgの縮小程度を、前記した回生制動分のブレーキ液圧低下に際して行うべきプライマリピストン5の戻しストロークのための回生制動ギャップが残存するようなものにするための補正係数であり、
図5から明らかなように、回生制動可能減速度Rgが微少設定値Rgo未満で、回生制動分のブレーキ液圧低下(プライマリピストン5の戻しストローク)が不要な領域においては、回生制動ギャップ縮小補正係数βを1となし、
Rg≧Rgoでは、回生制動可能減速度Rgが大きいほど、回生制動ギャップ縮小補正係数βを1から0に向け低下させて、回生制動ギャップSgの縮小程度を小さくすることにより、回生制動分のブレーキ液圧低下(プライマリピストン5の戻しストローク)用の回生制動ギャップが確実に確保されるようになす。
【0042】
次のステップS24においては、ステップS19で求めたプライマリピストン特性Cを上記の回生制動ギャップ縮小補正係数αおよびβにより補正して、図7に二点鎖線C'で例示するブレーキ液圧Pmの変化を生じさせるようなプライマリピストン特性(プライマリピストン特性C'と言う)用のプライマリピストンストローク位置Spを
Sp=[Sg+{1−(Sg/Spmax)}Si]×α×β
の演算により求める。
【0043】
上記したプライマリピストン特性C'に基づくプライマリピストン5のストローク(Sp)制御は、インプットロッドストロークSiに対するプライマリピストンストロークSpの追従遅れ(回生制動ギャップSgの縮小程度)を前記した太い実線特性Cよりも小さくし、図7に同符号C'で示すごとくブレーキ液圧Pmを、前記した太い実線特性Cよりも高くするが、
依然として、太い破線Bで示す従来のブレーキ液圧値よりも、インプットロッドストロークSiに対するプライマリピストンストロークSpの追従遅れ分ΔPm'だけブレーキ液圧Pmを低くする。
【0044】
そして、プライマリピストン特性C'に基づくプライマリピストン5のストローク(Sp)制御によれば、B1の全負荷点においてプライマリピストン特性A2によるブレーキ液圧変化特性に滑らかに連続しないようになり、全負荷点においてインプットロッドストローク位置Siが変化しているのにブレーキ液圧Pmが変化しないブレーキ液圧不変ストローク域を発生するようになるが、
このブレーキ液圧不変ストローク域を、太い破線Bで示す従来の特性に較べて小さくすることができる。
【0045】
次のステップS25においては、プライマリピストン特性C'に応じた図6に例示する予定の目標減速度マップをもとに、インプットロッド7のストローク位置Si(運転者が要求している減速度を表す)から、車両の目標減速度Gγを算出する。
次のステップS26においては、この目標減速度Gγを回生制動と、図1に示すマスターシリンダ1からのブレーキ液圧Pmによる摩擦制動とで実現すべく、回生制動力/摩擦制動力配分制御を実行する。
この回生制動力/摩擦制動力配分制御に当たっては、回生制動ギャップSgの縮小に伴う図7の制動力低下ΔPm(ΔPm')を回生制動により補償するよう、回生制動力および摩擦制動力の配分を決定する。
【0046】
ステップS18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値以上であると判定する場合は、つまり、全負荷点がアンチスキッド制御開始液圧(制動ロック液圧)相当値以上で、アンチスキッド制御が行われない通常ブレーキ操作域で全負荷点を迎える可能性がない場合は、いきなり制御をステップS26に進める。
この場合、前記したステップS19〜S25をバイパスすることから、これらステップによる回生制動ギャップSgの縮小制御は行われず、図7に太い破線で示す特性Bに沿って変化するブレーキ液圧Pmが出力される。
【0047】
そしてこの場合、ステップS26における回生制動力/摩擦制動力配分制御は、ステップS16で求めた目標減速度Gを回生制動と、図1に示すマスターシリンダ1からのブレーキ液圧Pmによる摩擦制動とで実現すべく実行される。
【0048】
上記した実施例の構成によれば、
プライマリピストン5を電動機25によりインプットロッド7に対し相対的に回生制動ギャップSgの範囲内で戻しストロークさせてブレーキ液圧Pmを低下させるための当該回生制動ギャップSgが全負荷点へ向かうにつれて縮小されるようプライマリピストン5を電動機25によりストローク制御するため(ステップS19〜ステップS24)、
全負荷点を迎えた時においては上記の回生制動ギャップSgが零にされるか、少なくとも縮小されていることとなり、当該全負荷点で回生制動ギャップSgに起因して生ずるブレーキ液圧不変ストローク域を図7のC特性により示すごとく無くすか、少なくとも同図の特性C'特性により示すように小さくすることができ、ブレーキ液圧不変ストローク域の存在に伴うブレーキ操作フィーリングへの違和感を緩和することができる。
【0049】
また、ステップS18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値未満であると判定するとき(全負荷点が小さく、アンチスキッド制御が行われない通常ブレーキ操作域で全負荷点を迎える可能性があるとき)、ステップS19〜ステップS24において回生制動ギャップSgの上記縮小量が大きくなるようプライマリピストン5を電動機25でストローク制御するため、
このようなときはプライマリピストン特性が、図7の特性C、若しくはこれに近い特性に沿ってブレーキ液圧Pmを変化させることとなり、
かかる条件下で優先させるべき、ブレーキ液圧不変ストローク域のない、若しくはブレーキ液圧不変ストローク域の小さな、違和感のない、若しくは違和感の少ないブレーキ操作フィーリングを実現することができる。
【0050】
逆に、ステップS18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値以上であると判定するとき(全負荷点がアンチスキッド制御開始液圧相当値以上で、アンチスキッド制御が行われない通常ブレーキ操作域で全負荷点を迎える可能性がないときは)、ステップS19〜ステップS24をバイパスして回生制動ギャップSgの前記縮小を行わないようプライマリピストン5を電動機25でストローク制御するため、
このようなときはプライマリピストン特性が、図7の特性Bに沿ってブレーキ液圧Pmを変化させることとなり、
かかる条件下で、ブレーキ液圧不変ストローク域の解消による良好なブレーキ操作フィーリングよりも優先させるべき、速やかで十分なブレーキ液圧Pmの上昇を実現することができる。
【0051】
更に、ステップS21で補正係数αを用いて、ブレーキペダル踏み込み速度Vp(ブレーキ操作力の増大速度)が遅いほど回生制動ギャップSgの前記縮小量が大きくなるようプライマリピストン5を電動機25でストローク制御するため、
ブレーキペダル踏み込み速度Vp(ブレーキ操作力の増大速度)が遅い場合はプライマリピストン特性が、図7の特性C、若しくはこれに近い特性に沿ってブレーキ液圧Pmを変化させることとなり、
かかるブレーキ操作で優先させるべき、ブレーキ液圧不変ストローク域のない、若しくはブレーキ液圧不変ストローク域の小さな、違和感のない、若しくは違和感の少ないブレーキ操作フィーリングを実現することができる。
【0052】
ところで逆に、ブレーキペダル踏み込み速度Vp(ブレーキ操作力の増大速度)が速い場合は、回生制動ギャップSgの前記縮小量が小さくなるようプライマリピストン5を電動機25でストローク制御するため、
ブレーキペダル踏み込み速度Vp(ブレーキ操作力の増大速度)が速い場合はプライマリピストン特性が、例えば図7の特性C'に沿ってブレーキ液圧Pmを変化させることとなり、
かかる速いブレーキペダル踏み込み速度Vp(ブレーキ操作力の増大速度)のもとで、ブレーキ液圧不変ストローク域の解消による良好なブレーキ操作フィーリングよりも優先させるべき、速やかで十分なブレーキ液圧Pmの上昇を実現することができる。
【0053】
また、ステップS23で補正係数βを用いて、回生制動ギャップSgの前記縮小量を、回生制動分のブレーキ液圧低下用に回生制動ギャップSgが残存するよう決定するため、
回生制動ギャップSgの前記縮小によっても、この回生制動ギャップSgが、回生制動分のブレーキ液圧低下を行い得なくなるまで小さくされたり、0にされることがなく、車両制動力が要求に対して過大になるのを回避することができる。
【0054】
更に、回生制動ギャップSgの前記縮小に伴う、図7に例示したブレーキ液圧低下ΔPm(ΔPm')、つまり制動力低下を、回生制動により補償するため、
回生制動ギャップSgの前記縮小によっても、車両全体の制動力が低下されるような事態には至らない。
なお、かかる制動力低下の補償は、回生制動に限られず、車載されたブレーキシステムのどれを併用しても良いのは言うまでもない。
【0055】
更に、ステップS18で全負荷点プライマリピストンストローク開始位置Spmaxが設定値未満である(全負荷点が小さく、アンチスキッド制御が行われない通常ブレーキ操作域で全負荷点を迎える可能性がある)と判定し、
ステップS19が図7に太い実線で示すプライマリピストン特性C用のプライマリピストンストローク位置Spを
Sp=Sg+{1−(Sg/Spmax)}Si
の演算により求め、
ステップS21が、ブレーキペダル踏み込み速度(ブレーキ操作力増大速度)Vp<Vpo(図4参照)を受けて回生制動ギャップ縮小補正係数αを1となし、
ステップS23が、回生制動可能減速度Rg<Rgo(図5参照)を受けて回生制動ギャップ縮小補正係数βを1となすとき、
プライマリピストン5を、ステップS19で求めたストローク位置Spにされるよう電動機25でストローク制御し、回生制動ギャップSgが全負荷点で丁度零にされるようにしたから、
図7に太い実線Cで示すようにブレーキ液圧Pmを発生させることができ、ブレーキ液圧不変ストローク域がほとんど無い良好なブレーキ操作特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施例になる電動式ブレーキ倍力装置を、これに一体化したマスターシリンダと共に示す縦断側面図である。
【図2】図1に示す電動式ブレーキ倍力装置のコントローラが実行するブレーキ倍力制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】回生制動ギャップを縮小制御しない場合の目標減速度の変化特性図である。
【図4】ブレーキペダル踏み込み速度に対する回生制動ギャップ縮小補正係数の変化特性を示す特性線図である。
【図5】回生制動可能減速度に対する回生制動ギャップ縮小補正係数の変化特性を示す特性線図である。
【図6】回生制動ギャップを縮小制御する場合の目標減速度の変化特性図である。
【図7】図1に示す電動式ブレーキ倍力装置の動作特性図である。
【符号の説明】
【0057】
1 マスターシリンダ
2 電動式ブレーキ倍力装置
3 シリンダ本体
4 ブースタハウジング
5 プライマリピストン(出力部材)
6 セカンダリピストン
7 インプットロッド(入力部材)
8 リターンスプリング
9 スラスト部材
11,13 リターンスプリング
12,14 シリンダ室
15 リザーバタンク
16,18 ブレーキ液供給ポート
17,19 リリーフポート
23,24 中立スプリング
25 電動機
27 ボールナット
28 ボールネジ
29 リターンスプリング
31 ダッシュボード
32 ブレーキペダル
33 プッシュロッド
41 レゾルバ
42 ペダルストロークセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作力を入力されてストロークする入力部材と、
該入力部材に追従するよう電動機でストロークされてブレーキ液圧を上昇させる出力部材とを具え、
この出力部材を前記電動機により前記入力部材に対し相対的に制限範囲内で戻しストロークさせることによってブレーキ液圧を低下させ得るようにした電動式ブレーキ倍力装置において、
前記電動機による出力部材のブレーキ液圧上昇ストロークが不能になる全負荷点へ向かうにつれて前記制限範囲が縮小されるよう前記出力部材を前記電動機によりストローク制御する構成にしたことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記全負荷点が小さいほど前記制限範囲の縮小量が大きくなるよう前記出力部材のストローク制御を行う構成にしたことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記ブレーキ操作力の増大速度が遅いほど前記制限範囲の縮小量が大きくなるよう前記出力部材のストローク制御を行う構成にしたことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記制限範囲の縮小量を、回生制動分のブレーキ液圧低下用に前記制限範囲が残存するよう決定する構成にしたことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記制限範囲の縮小に伴う制動力低下を、電動式ブレーキ倍力装置付きブレーキ装置以外のブレーキシステムにより補償するよう構成したことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1項に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記全負荷点が設定値未満であり、且つ、前記ブレーキ操作力の増大速度が設定速度未満であり、且つ、回生制動分のブレーキ液圧低下が不要であるとき、前記制限範囲が前記全負荷点で零にされるよう前記出力部材のストローク制御を行う構成にしたことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電動式ブレーキ倍力装置において、
前記制限範囲が前記全負荷点で零になるようにするための前記出力部材のストローク位置Spは、前記制限範囲をSgとし、前記入力部材のストローク位置をSiとし、前記出力部材の全負荷点でのストローク開始位置をSpmaxとしたとき、
Sp=Sg+{1−(Sg/Spmax)}Si
の演算により求めるよう構成したことを特徴とする電動式ブレーキ倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−255670(P2009−255670A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105603(P2008−105603)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】