説明

電動式直動アクチュエータおよび電動式ブレーキ装置

【課題】外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合して自転しながら公転する各遊星ローラに、外部からのスラスト荷重が均等に負荷されるようにすることである。
【解決手段】スラスト軸受18によって支持される各遊星ローラ6の支持端面6bから円周溝6aの所定の基準位置までの距離を、これらの各遊星ローラ6の円周溝6aに外輪部材5の螺旋凸条5aが嵌まり込むときに、各遊星ローラ6の支持端面6bの軸方向位置が互いに合致するように、各々異なる寸法に設定することにより、外輪部材5の螺旋凸条5aと円周溝6aで係合して自転しながら公転する各遊星ローラ6に、外部からのスラスト荷重が均等に負荷されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータと、電動式直動アクチュエータを用いてブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの回転運動を直線運動に変換して被駆動物を直線駆動する電動式直動アクチュエータには、運動変換機構としてボールねじ機構やボールランプ機構を採用したものが多く、小容量の電動モータで大きな直線駆動力が得られるように、遊星歯車減速機構等の歯車減速機構を組み込んだものが多い(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上述した電動式直動アクチュエータに採用されているボールねじ機構やボールランプ機構は、リードを有するねじ筋や傾斜カム面に沿わせる運動変換機構によって、ある程度の増力機能を有するが、電動式ブレーキ装置等で必要とされるような大きな増力機能は確保できない。このため、これらの運動変換機構を採用した電動式直動アクチュエータでは、遊星歯車減速機構等の別途の減速機構を組み込んで駆動力を増力しているが、このように別途の減速機構を組み込むことは、電動式直動アクチュエータのコンパクトな設計を阻害する。
【0004】
このような問題に対して、本発明者らは、別途の減速機構を組み込むことなく大きな増力機能を確保でき、直動ストロークが比較的小さい電動式ブレーキ装置にも好適な電動式直動アクチュエータとして、電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に固定された外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの遊星ローラが回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、遊星ローラの外径面に、螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む円周溝を設けて、外輪部材とキャリヤとが軸方向へ相対移動するようにし、回転軸の回転運動をキャリヤの直線運動に変換して、キャリヤを被駆動物を直線駆動する出力部材とした機構を先に開発している(特許文献2参照)。また、キャリヤの軸方向への移動を規制して、外輪部材を直線運動する出力部材とした機構も提案している(特願2008−233380)。
【0005】
特許文献2に記載されたキャリヤを直線運動する出力部材とした電動式直動アクチュエータは、キャリヤと一緒に直線運動する各遊星ローラの自転を支持するスラスト軸受を、キャリヤが被駆動物を直線駆動するように前進する側に配置し、キャリヤに負荷されるスラスト荷重を受けるようにしている。また、特願2008−233380で提案した外輪部材を直線運動する出力部材とした電動式直動アクチュエータは、各遊星ローラの自転を支持するスラスト軸受を、外輪部材が被駆動物を直線駆動するように前進する側と反対側に配置し、外輪部材に負荷されるスラスト荷重を受けるようにしている。
【0006】
一方、車両用ブレーキ装置としては油圧式のものが多く採用されてきたが、近年、ABS(Antilock Brake System)等の高度なブレーキ制御の導入に伴い、これらの制御を複雑な油圧回路なしに行うことができる電動式ブレーキ装置が注目されている。電動式ブレーキ装置は、ブレーキペダルの踏み込み信号等で電動モータを作動させ、上述したような電動式直動アクチュエータをキャリパボディに組み込んでブレーキ部材を被制動部材に押圧するものである(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2007−32717号公報
【特許文献3】特開2003−343620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載された電動式直動アクチュエータや特願2008−233380で提案した電動式直動アクチュエータは、別途の減速機構を組み込むことなく、コンパクトな設計で大きな増力機能を確保できるが、自転しながら公転するようにキャリヤに支持され、外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合する各遊星ローラの軸方向位置が、周方向の公転位置の違いによって互いに少しずつずれる。このため、出力部材としてのキャリヤまたは外輪部材に負荷される外部からのスラスト荷重が、自転を支持するスラスト軸受を介して各遊星ローラに均等に負荷されず、一部の遊星ローラの寿命が短くなる問題がある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合して自転しながら公転する各遊星ローラに、外部からのスラスト荷重が均等に負荷されるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの各遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記各遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む円周溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を前記キャリヤの直線運動に変換して被駆動物を直線駆動するようにし、前記各遊星ローラの自転を、前記被駆動物を直線駆動するキャリヤにスラスト荷重が負荷される側の端面で、スラスト軸受によって前記キャリヤに支持した電動式直動アクチュエータにおいて、前記スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む前記外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けた構成を採用した。
【0011】
また、本発明は、電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの各遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記各遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む円周溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を前記外輪部材の直線運動に変換して被駆動物を直線駆動するようにし、前記各遊星ローラの自転を、前記被駆動物を直線駆動する外輪部材にスラスト荷重が負荷される側と反対側の端面で、スラスト軸受によって前記キャリヤに支持した電動式直動アクチュエータにおいて、前記スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む前記外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けた構成も採用した。
【0012】
すなわち、スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けることにより、外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合して自転しながら公転する各遊星ローラに、被駆動物を直線駆動するキャリヤまたは外輪部材に負荷される外部からのスラスト荷重が、これらの自転を支持する各スラスト軸受を介して均等に負荷されるようにした。
【0013】
前記円周溝位置調整手段は、前記各遊星ローラの前記スラスト軸受に支持される支持端面から前記円周溝の所定の基準位置までの距離を、前記円周溝と嵌まり込む螺旋凸条の軸方向位置が合致するように、各々異なる寸法に設定するものとすることができる。
【0014】
前記各遊星ローラの軸方向全長に亙って前記円周溝を形成し、支持端面から前記円周溝の所定の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定するときは、いずれかの遊星ローラのいずれかの端面側で、端面側が溝底から立ち上がる不完全形状の円周溝が形成される場合に、この不完全形状の円周溝の立ち上り部を除去するように面取りするとよい。
【0015】
前記各遊星ローラの支持端面と最も近くに形成される前記円周溝の支持端面側に、前記円周溝の溝底径以下の小径部を設け、この小径部の軸方向長さ寸法を変えて、前記各遊星ローラの支持端面から円周溝の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定することもできる。なお、小径部を円周溝の溝底径以下の直径としたのは、外輪部材の螺旋凸条と干渉しないようにするためである。
【0016】
前記小径部の軸方向長さ寸法を、前記円周溝のピッチ以下とすることにより、遊星ローラの外径面を有効に活用して円周溝を設けることができる。
【0017】
前記小径部は別体のリング部材で形成することもできる。
【0018】
前記円周溝位置調整手段は、前記各遊星ローラを支持する前記スラスト軸受の軌道輪と前記キャリヤの間に、各々軸方向厚みの異なるスペーサを配設するものとすることもできる。
【0019】
前記スペーサは、前記スラスト軸受の軌道輪またはキャリヤと一体に形成することもできる。
【0020】
前記各遊星ローラの軸方向長さ寸法は同一とするのが好ましい。
【0021】
また、本発明は、電動モータの回転運動を出力部材の直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに上述したいずれかの電動式直動アクチュエータを用いた構成を採用することにより、外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合して自転しながら公転する各遊星ローラに、被駆動物を直線駆動するキャリヤまたは外輪部材に負荷される外部からのスラスト荷重が均等に負荷されるようにした。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電動式直動アクチュエータは、スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けたので、外輪部材の螺旋凸条と円周溝で係合して自転しながら公転する各遊星ローラに、被駆動物を直線駆動するキャリヤまたは外輪部材に負荷される外部からのスラスト荷重を均等に負荷し、各遊星ローラの寿命を延長することができる。
【0023】
また、本発明の電動式ブレーキ装置は、直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式直動アクチュエータに、上述したいずれかの電動式直動アクチュエータを用いたので、ブレーキ部材を直線駆動するキャリヤまたは外輪部材に負荷される外部からのスラスト荷重を各遊星ローラに均等に負荷し、各遊星ローラの寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1の実施形態の電動式直動アクチュエータを示す縦断面図
【図2】図1のII−II線に沿った断面図
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図
【図4】図1の外輪部材の螺旋凸条と係合する遊星ローラの展開平面図
【図5】(a)、(b)は、図4の遊星ローラの形成方法を説明する正面図
【図6】(a)、(b)は、それぞれ図4の遊星ローラの変形例を示す正面図
【図7】図1の電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す縦断面図
【図8】第2の実施形態の電動式直動アクチュエータを示す縦断面図
【図9】図8の外輪部材の螺旋凸条と係合する遊星ローラの展開平面図
【図10】第3の実施形態の電動式直動アクチュエータを示す縦断面図
【図11】図10の外輪部材の螺旋凸条と係合する遊星ローラの展開平面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1乃至図5は、第1の実施形態を示す。この電動式直動アクチュエータは、図1乃至図3に示すように、ハウジング1の円筒部1aの一端側に片側へ張り出すフランジ1bが設けられ、このフランジ1bに電動モータ2が円筒部1aと平行に取り付けられている。電動モータ2のロータ軸2aの回転は、歯車3a、3b、3cによって円筒部1aの中心に配設された回転軸4に伝達され、円筒部1aの内径面に固定された外輪部材5と回転軸4との間に介在する4個の遊星ローラ6が、キャリヤ7に回転自在に支持されて、回転軸4の回転に伴ってその周りを自転しながら公転し、外輪部材5の内径面に設けられた螺旋凸条5aと、遊星ローラ6の外径面に設けられた円周溝6aとの係合によって、遊星ローラ6を支持するキャリヤ7と外輪部材5とが軸方向へ相対移動するようになっている。この実施形態では、外輪部材5の軸方向への移動が規制されて、キャリヤ7が直線運動し、出力部材として被駆動物を直線駆動する。
【0026】
前記ハウジング1のフランジ1bを設けた側には蓋1cが取り付けられ、歯車3a、3b、3cは蓋1cで覆われた空間の軸方向同一断面内で噛み合うように配設されている。また、円筒部1aの蓋1c側には軸支持部材8が内嵌され、歯車3cを取り付けられた回転軸4の基端側が軸支持部材8に玉軸受9で支持されている。軸支持部材8は外輪部材5の端面に当接され、外輪部材5は軸支持部材8を抜け止めする止め輪10aと、反対側の止め輪10bとで軸方向への移動を規制されている。なお、ロータ軸2aに取り付けられた歯車3aと歯車3cに噛み合う中間歯車3bは、フランジ1bと蓋1cに差し渡された軸ピン11に玉軸受12で支持されている。
【0027】
前記キャリヤ7は、回転軸4にすべり軸受13a、13bでスライド可能かつ相対回転可能に外嵌されたキャリヤ本体7aおよび支持板7bと、離間したキャリヤ本体7aと支持板7bに両端部を支持され、遊星ローラ6を回転自在に支持する支持ピン7cと、支持板7bをキャリヤ本体7aに位相合わせして連結する複数の連結棒7dとからなり、各連結棒7dの両端部はボルト7eでキャリヤ本体7aと支持板7bに連結されている。各支持ピン7cは、その両端側をキャリヤ本体7aと支持板7bとに設けられた半径方向の長孔14に、円周方向への移動を規制され、半径方向への移動を許容されて取り付けられている。
【0028】
前記各支持ピン7cの両端部の外径面には溝15が設けられ、円周方向の一部を切り欠いたばね鋼で形成された縮径リングばね16が、各溝15に嵌め込まれて、各支持ピン7cを包絡するように巻回されて装着されている。したがって、各支持ピン7cに回転自在に支持された各遊星ローラ6が回転軸4の外径面に押圧付勢され、回転軸4の回転トルクが安定して各遊星ローラ6に伝達される。
【0029】
前記各遊星ローラ6は、内径面に装着された針状ころ軸受17でキャリヤ7の支持ピン7cに回転自在に支持され、その自転をスラストころ軸受18でキャリヤ本体7aに支持されている。各遊星ローラ6と一緒に公転し、出力部材として直線運動するキャリヤ7の前面側には、被駆動物と連結する連結部材19が設けられている。なお、隣接する各遊星ローラ6間には、両側の遊星ローラ6の外径面に摺接してグリースを塗布する扇形状の潤滑剤塗布部材20が、キャリヤ7の連結棒7dと外輪部材5の内径面との間に保持されている。
【0030】
前記連結部材19は、キャリヤ本体7aの筒部に外嵌されて止め輪21で抜け止めされ、スラストころ軸受22でキャリヤ本体7aと相対回転自在に支持されており、被駆動物に連結されて回り止めするキー23が前端面に設けられている。なお、連結部材19の外径側は、ハウジング1の円筒部1aとの間を環状のシール部材24でシールされ、連結部材19の内径側は、キャリヤ本体7aに内嵌された回転軸4の端を覆うように、膜状のシール部材25でシールされている。
【0031】
前記外輪部材5の内径面には螺旋凸条5aが設けられ、遊星ローラ6の外径面には、螺旋凸条5aが嵌まり込み、螺旋凸条5aと同一ピッチの円周溝6aが設けられている。これらの螺旋凸条5aと円周溝6aの係合によって、回転軸4の周りを自転しながら公転する遊星ローラ6が、螺旋凸条5aのリード角で外輪部材5と軸方向へ相対移動するように直線運動し、出力部材としてのキャリヤ7も、遊星ローラ6と一緒に直線運動する。この実施形態では、キャリヤ7が被駆動物を直線駆動するように前進するときに、各遊星ローラ6には、キャリヤ7の前進側に配置された各スラストころ軸受18を介して、外部からのスラスト荷重が負荷される。
【0032】
図4に示すように、前記スラストころ軸受18に支持された各遊星ローラ6の円周溝6aに嵌まり込む外輪部材5の螺旋凸条5aの軸方向位置は、周方向の公転位置の違いによって少しずつずれるが、この実施形態では、スラストころ軸受18で支持される各遊星ローラ6の支持端面6bから円周溝6aの所定の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定する手段によって、各円周溝6aと嵌まり込む螺旋凸条5aの軸方向位置が合致するように、円周溝位置が調整されている。したがって、外部からのスラスト荷重が各遊星ローラ6に均等に負荷される。
【0033】
図5(a)、(b)は、前記円周溝位置を調整する各遊星ローラ6の形成方法を示す。まず、図5(a)に示すように、外径面に螺旋凸条5aと同一ピッチの円周溝6aを全長に亙って形成した遊星ローラ6の素材を用意し、この素材の切断予定位置に近い円周溝6aに測定球Sを嵌め込んで、この測定球Sの中心を基準位置として、基準位置から支持端面6bまでの距離dが、互いに遊星ローラ6毎で異なる所定の寸法となるように、支持端面6bで素材を切断するとともに、各遊星ローラ6の軸方向長さ寸法が同一となるように、支持端面6bと反対側の端面を切断する。
【0034】
こののち、図5(b)に示すように、前記切断された遊星ローラ6のいずれかの端面側で、端面側が溝底から立ち上がる不完全形状の円周溝6aが形成される場合に、この不完全形状の円周溝6aの立ち上り部を除去するように、端部の外径面に面取り6cを施す。この例では、両端側に、立ち上り部を除去する面取り6cを施しているが、円周溝6aに対する切断位置によって、片側のみに面取り6cを施したり、両側とも面取り6cを施さないこともある。
【0035】
図6(a)、(b)は、前記支持端面6bから円周溝6aの所定の基準位置までの距離が異なる遊星ローラ6の変形例を示す。(a)の変形例は、遊星ローラ6の支持端面6bと最も近くに形成される円周溝6aの中心を基準位置として、その支持端面6b側に円周溝6aの溝底径以下の小径部6dを設け、この小径部6dの軸方向長さ寸法を変えて、各遊星ローラ6の基準位置から支持端面6bまでの距離dを異なる寸法に設定したものであり、小径部6dの軸方向長さ寸法は、円周溝6aのピッチ以下とされている。(b)の変形例は、(a)の変形例の小径部6dを、別体のリング部材29で形成したものである。
【0036】
図6(a)、(b)に示した各変形例では、小径部6dまたはリング部材29を含めた各遊星ローラ6の軸方向長さ寸法が少しずつ異なるようになるが、支持端面6bと反対側の端面にはスラスト荷重が負荷されず、これらの端面側には軸方向の隙間が形成されてもよいので、遊星ローラ6の軸方向長さ寸法は必ずしも同一寸法でなくてもよい。
【0037】
図7は、上述した電動式直動アクチュエータを採用した電動式ブレーキ装置を示す。この電動式ブレーキ装置は、キャリパボディ31の内部で被制動部材としてのディスクロータ32の両側に、ブレーキ部材としてのブレーキパッド33を対向配置したディスクブレーキであり、キャリパボディ31に電動式直動アクチュエータのハウジング1が固定され、出力部材としてのキャリヤ7が左方へ直線運動するときに、キャリヤ7が連結部材19を介して、被駆動物としてのブレーキパッド33を負荷に抗してディスクロータ32に押圧するようになっている。なお、この図では、電動式直動アクチュエータが図1で示した断面と直交する断面で示されている。
【0038】
図8および図9は、第2の実施形態を示す。この電動式直動アクチュエータは、前記キャリヤ7の軸方向への移動が規制され、前記外輪部材5が直線運動する出力部材とされている点が第1の実施形態のものと異なる。図8に示すように、この実施形態では、キャリヤ7のキャリヤ本体7aと支持板7bが、第1の実施形態のものとは左右反対に配置され、キャリヤ本体7aがサポート部材7fを介してスラストころ軸受26で、ハウジング1の円筒部1aの蓋1c側に内嵌された軸支持部材8に公転自在に支持されている。軸支持部材8は止め輪10aで軸方向の両側を固定され、支持板7bがすべり軸受27を介して止め輪28で回転軸4に抜け止めされて、キャリヤ7の軸方向への移動が規制されている。
【0039】
前記出力部材としての外輪部材5は、ハウジング1の円筒部1aにスライド可能に内嵌され、被駆動物に連結されて回り止めするキー23が前端面に設けられている。また、外輪部材5の外径側は、円筒部1aとの間を環状のシール部材24でシールされ、外輪部材5の内径側は、キャリヤ7の支持板7bに内嵌された回転軸4の端を覆うように、膜状のシール部材25でシールされている。この実施形態では、外輪部材5が被駆動物を直線駆動するように前進するときに、各遊星ローラ6には、外輪部材5の前進側と反対側に配置された各スラストころ軸受18を介して、外部からのスラスト荷重が負荷される。
【0040】
図9に示すように、前記各遊星ローラ6の円周溝6aの軸方向位置は、第1の実施形態のものと同様に、スラストころ軸受18に支持された各遊星ローラ6の円周溝6aに嵌まり込む外輪部材5の螺旋凸条5aの軸方向位置は、周方向の公転位置の違いによって少しずつずれるが、図5または図6(a)、(b)に示したもののように、各スラストころ軸受18で支持される各遊星ローラ6の支持端面6bから円周溝6aの所定の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定する手段で、各円周溝6aと嵌まり込む螺旋凸条5aの軸方向位置が互いに合致するようになっている。
【0041】
図10および図11は、第3の実施形態を示す。この電動式直動アクチュエータは、基本的な構成は第2の実施形態のものと同じであり、前記各遊星ローラ6の円周溝6aと、これらに嵌まり込む外輪部材5の螺旋凸条5aの軸方向位置を合致させる円周溝位置調整手段のみが異なる。この実施形態では、各遊星ローラ6の自転を支持するスラストころ軸受18の軌道輪18aとキャリヤ7のキャリヤ本体7aの間に、各々軸方向厚みの異なるスペーサ30が配設され、周方向の公転位置の違いによって少しずつずれる螺旋凸条5aの軸方向位置と、スラストころ軸受18に自転を支持された各遊星ローラ6の円周溝6aの軸方向位置が合致するように調整されている。なお、スペーサ30は、軌道輪18aまたはキャリヤ本体7aと一体に形成することもできる。
【0042】
上述した各実施形態では、外輪部材の内径面の螺旋凸条を一体に形成したが、外輪部材の内径面に螺旋溝を設け、この螺旋溝に嵌め込まれた別体の条部材で螺旋凸条を形成することもできる。また、複数の遊星ローラの配置個数を4個としたが、遊星ローラの配置個数は4個に限定されることはない。
【符号の説明】
【0043】
1 ハウジング
1a 円筒部
1b フランジ
1c 蓋
2 電動モータ
2a ロータ軸
3a、3b、3c 歯車
4 回転軸
5 外輪部材
5a 螺旋凸条
6 遊星ローラ
6a 円周溝
6b 支持端面
6c 面取り
6d 小径部
7 キャリヤ
7a キャリヤ本体
7b 支持板
7c 支持ピン
7d 連結棒
7e ボルト
7f サポート部材
8 軸支持部材
9 玉軸受
10a、10b、10c 止め輪
11 軸ピン
12 玉軸受
13a、13b すべり軸受
14 長孔
15 溝
16 縮径リングばね
17 針状ころ軸受
18 スラストころ軸受
18a 軌道輪
19 連結部材
20 潤滑剤塗布部材
21 止め輪
22 スラストころ軸受
23 キー
24、25 シール部材
26 スラストころ軸受
27 すべり軸受
28 止め輪
29 リング部材
30 スペーサ
31 キャリパボディ
32 ディスクロータ
33 ブレーキパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの各遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記各遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む円周溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を前記キャリヤの直線運動に変換して被駆動物を直線駆動するようにし、前記各遊星ローラの自転を、前記被駆動物を直線駆動するキャリヤにスラスト荷重が負荷される側の端面で、スラスト軸受によって前記キャリヤに支持した電動式直動アクチュエータにおいて、前記スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む前記外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
電動モータのロータ軸から回転を伝達される回転軸と、この回転軸の外径側でハウジングの内径面に内嵌した外輪部材との間に、キャリヤに回転自在に支持された複数の遊星ローラを介在させて、これらの各遊星ローラが前記回転軸の回転に伴って回転軸の周りを自転しながら公転するようにし、前記外輪部材の内径面に螺旋凸条を設け、前記各遊星ローラの外径面に、前記螺旋凸条と同一ピッチで螺旋凸条が嵌まり込む円周溝を設けて、前記外輪部材と前記キャリヤを軸方向へ相対移動させ、前記回転軸の回転運動を前記外輪部材の直線運動に変換して被駆動物を直線駆動するようにし、前記各遊星ローラの自転を、前記被駆動物を直線駆動する外輪部材にスラスト荷重が負荷される側と反対側の端面で、スラスト軸受によって前記キャリヤに支持した電動式直動アクチュエータにおいて、前記スラスト軸受によって支持される各遊星ローラの円周溝の軸方向位置を、これらの円周溝に嵌まり込む前記外輪部材の螺旋凸条の軸方向位置と合致させるように調整する円周溝位置調整手段を設けたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記円周溝位置調整手段が、前記各遊星ローラの前記スラスト軸受に支持される支持端面から前記円周溝の所定の基準位置までの距離を、前記円周溝と嵌まり込む螺旋凸条の軸方向位置が合致するように、各々異なる寸法に設定するものである請求項1または2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
前記各遊星ローラの軸方向全長に亙って前記円周溝を形成し、支持端面から前記円周溝の所定の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定するときに、いずれかの遊星ローラのいずれかの端面側で、端面側が溝底から立ち上がる不完全形状の円周溝が形成される場合に、この不完全形状の円周溝の立ち上り部を除去するように面取りした請求項3に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記各遊星ローラの支持端面と最も近くに形成される前記円周溝の支持端面側に、前記円周溝の溝底径以下の小径部を設け、この小径部の軸方向長さ寸法を変えて、前記各遊星ローラの支持端面から円周溝の基準位置までの距離を各々異なる寸法に設定した請求項3に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記小径部の軸方向長さ寸法を、前記円周溝のピッチ以下とした請求項5に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記小径部を別体のリング部材で形成した請求項5または6に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記円周溝位置調整手段が、前記各遊星ローラを支持する前記スラスト軸受の軌道輪と前記キャリヤの間に、各々軸方向厚みの異なるスペーサを配設するものである請求項1または2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項9】
前記スペーサを前記スラスト軸受の軌道輪またはキャリヤと一体に形成した請求項8に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項10】
前記各遊星ローラの軸方向長さ寸法を同一とした請求項1乃至9のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項11】
電動モータの回転運動を出力部材の直線運動に変換してブレーキ部材を直線駆動する電動式直動アクチュエータを備え、前記直線駆動されるブレーキ部材を被制動部材に押圧する電動式ブレーキ装置において、前記電動式直動アクチュエータに請求項1乃至10のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータを用いたことを特徴とする電動式ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−74950(P2011−74950A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224606(P2009−224606)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】