説明

電動機

本発明は、電動機および電動機の製造方法に関する。電動機は、少なくとも固定子(24)、回転子(25)、およびこれらの間にあるエアギャップ(26)を有し、モータの固定子および/または回転子は、スロット(4)、およびスロット間歯部(5)を有し、固定子および/または回転子はスロットに取り付けられた集中巻線を有する。本発明の方法では、相巻線を分数スロット集中巻線として取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の電動機、および請求項8に記載の電動機の製造方法に関するものである。
【発明の背景】
【0002】
電動機は、電気的エネルギーを力学的エネルギーに変換するために用いられる。標準的な構造の電動機では、一定の基本的要素、例えば、回転可能に装着された回転子、回転子軸、定置固定子、軸受、およびエンド・シールドが確認できる。回転子は、軸受で支持される。一般的に、小さなエアギャップが回転子と固定子の間にある。
【0003】
多相同期モータおよび非同期モータなどの回転式多相交流機の動作は、交流機内の磁場回転に基づいている。以下のような具合に多相固定子巻線が形成されている。すなわち、正弦波電圧が相巻線に供給される(相に供給される電圧の相間位相シフトは360/n度、ただしnは相数)と、固定子巻線を流れる電流が交流機のエアギャップに循環磁界を発生させ、回転子巻線の磁界との相互作用によって回転子を回転させる。同期モータでは、回転子巻線の磁界は、通常、永久磁石によるか、または回転子励磁巻線に直流を流すことで発生する。非同期モータでは、回転子巻線の励磁は、一般的に、固定子電流が発生する磁束によって回転子巻線に誘導される電圧および電流によって発生する。
【0004】
エアギャップにおける磁束密度分布は、できるだけ正弦曲線になるようにする。回転子の回転運動は、磁束密度の正弦波の基本波の作用で起きるが、実際には、モータ内で作用する磁界もまた、高調波すなわち基本波の高調波成分を含む。
【0005】
磁束密度の高調波によって、固定子と回転子の間に余分な力成分が発生する。また、トルクの大きさが変動し(トルク脈動)、モータにさらに損失が生じる。
【0006】
固定子および回転子周辺の巻線の不連続性およびエアギャップの透磁率の変化によって、エアギャップの磁束密度に高調波が生じる。固定子巻線は一般にスロットおよびコイル群に集中しているため、巻線によってエアギャップに生じる起磁力は正弦波状に分布しない。エアギャップの透磁率の変化は、例えば、固定子および回転子に溝切りがあればその溝切り、開放磁極、および磁気飽和に起因する。電動機の磁界の高調波は、回転子による高調波と固定子による高調波とに分けられる。
【0007】
電動機の巻線は、従来、分布巻線であり、異なる相の各コイルがインターリーブ状に取り付けられて、それぞれのコイルによって画定される領域他の相のコイル辺も含むようになっている。米国特許第6581270号の明細書には固定子の製造方法が記載され、これは、各コイル辺がモータの磁極領域においていくつかのスロットに分散しているものである。同じ相のコイル辺は、磁極領域では互いに相当の距離をおいて配設されるため、端部巻線が長くなる。端部巻線はトルクを発生させずに損失を引き起こすうえにスペースを要するため、モータ巻線に用いられるかなりの割合の導体材料が活用されない。また、この構造では異なる相の端部巻線が互いに交差するため、コイル間の短絡の危険性が高くなる。したがって、端部巻線に余分な絶縁が必要となる。このような巻線を用意するための巻き線作業にも様々な作業が含まれ、しかも、多くの場合、手作業で行わなければならない。
【0008】
また、従来の分布巻線を備えたモータは、端部巻線が長いために大きくて重く、巻線のコイルは通常、磁極対の周辺でいくつかのスロットに分布している。これはとくに、エレベータで使用されるモータには不利であるが、それは、エレベータがだんだん、エレベータ昇降路のガイドレールと壁との間に駆動装置を設置する装置方式を用いて構築されるようになったからである。そのため、大型で大重量のモータは不利である。
【0009】
近年、分数スロット集中巻線を開発する研究が行われているが、これは、そうすれば従来の巻線に関する特定の問題の解決策が得られるからである。集中巻線では、同じコイルのコイル辺は隣り合うスロットに配される。したがって、端部巻線は短くなり、従来の巻線ほど場所をとらない。
【0010】
集中巻線の問題点は、モータ磁極当りの巻線に割り当てられるスロットの数が従来のモータのそれより少ないため、巻線によってエアギャップに生じる起磁力は連続正弦波パターンから大きく外れ、従来の巻線より多くの高調波を含むことになる。これらの高調波は、トルク脈動および渦電流の両方をモータに引き起こす。
【0011】
米国特許第6894413号の明細書には発電機が開示され、これは回転子が永久磁石で磁化され、固定子は分数スロット集中巻線を有するものである。この明細書では、回転子の直径は次の式によって決まる。

D≧0.00045 x Pout

ただし、Dは回転子の直径を示し、Poutは発電機の発生電力を示す。したがって、例えば、5kwの発電機の回転子の直径は、少なくとも2.25mである。よって、この発電機はかなり大型の多極式低回転発電機であり、例えば風力発電機などに用いることができる。この明細書では、特定のさまざまな形状の組合せについて発電機の出力電圧の高調波も調べている。この明細書では、これらの高調波の低減にどの組合せを用いることができるかを開示しているが、これは、明細書によると、高調波によって発電機に渦電流が発生し、その結果、電力損が生ずるためとしている。またこの明細書は、回転子を薄い積層状鋼板で組み立てることで渦電流を削減できるという着想を開示し、また同様に、回転子を鉄塊から製造することも可能であるが、鉄部分は渦電流損を最小化するために切片分けするという着想を開示している。
【0012】
集中巻線に起因するトルク脈動を除去するために、例えば、小さなスロット開口部が用いられている。このような方式は、少なくとも、米国特許第6882080号の明細書に開示されている。この明細書によると、小さいスロット開口部はトルク脈動を低減させるが、この方式には、仕上がったモータフレームに巻線を作製するのが難しいという問題点がある。日本国特許第3451263号の明細書では、モータを組み立てる前に相導体を磁極に巻きつける方式を提案している。この方式ではモータの組み立てに新たな作業段階を必要とするため、モータの製造に時間を要するうえに、製造コストが増加する。
【発明の目的】
【0013】
本発明は、トルクの基本波に関連して分数スロット集中巻線によって生じるトルク脈動を低減させるモータの実現を目的とする。本発明はまた、従来のモータより製造性の高い構造のモータを開示することを目的とする。本発明はさらに、有利なモータの製造方法の開示を目的とする。
【発明の簡単な説明】
【0014】
本発明のモータは、請求項1の特徴部に開示されている事項により特徴付けられる。本発明の方法は、請求項8の特徴部に開示されている事項により特徴付けられる。本発明の他の実施例は、他の請求項に開示されている事項により特徴付けられる。
【0015】
いくつか発明実施例は、本願の明細書部分および図面に示されている。本願に開示されている発明の内容は、特許請求の範囲に規定されているものとは別の形で規定することも可能である。また、本発明は、とくに、明言した、もしくは内在するサブタスクの点から見た場合、または達成される各利点もしくは利点の各組合せから見た場合、いくつかの別々の発明から成ることもある。この場合、特許請求の範囲に含まれる属性のいくつかは、別々の発明の概念からみて不要なこともある。本発明の基本概念の枠内において、本発明の様々な実施例における特徴を他の実施例と併せて適用可能である。
【0016】
本発明は、分数スロット集中巻線を有する電動機、および分数スロット集中巻線の製作方法に関する。本発明のモータは、エレベータなどの人を移動させる装置、巻上機械、エスカレータ、工場や倉庫のコンベヤベルトもしくは搬送ローラ、または他の人もしくは貨物を運搬するための運搬装置の駆動に使用できる。また本発明のモータは、自動車や電車などの乗り物用の駆動モータとしても適用可能である。
【0017】
運搬装置に用いられる本発明の駆動モータは、少なくとも固定子、回転子、およびこれらの間のエアギャップを含む。本発明のモータでは、固定子および/または回転子は、スロット底部およびスロット開口部で形成されるスロットと、スロット間歯部とを含み、固定子および/または回転子は、それに取り付けられた集中巻線を有する。集中巻線は、最大スロット数0.5の分数スロット巻線である。スロット数は、磁極および相当りのスロットを意味する。エアギャップに面する側のモータスロットのスロット開口部の幅は、スロット底部の幅の少なくとも75%、最大で125%である。本発明に関連して、スロット底部の幅とは、巻線およびスロット絶縁体を収めることのできる最大スロット幅を言う。集中巻線の場合、スロット開口部の幅がスロット底部の幅の少なくとも75%まで増大すると、基本トルク波に対するモータのトルク脈動を、これより狭い半開きのスロット開口部の場合より大幅に低いレベルまで低減できることが、数学的、実験的に立証できる。モータトルクおよびトルク脈動は、モータのすべての磁極対の結合作用によって発生する。本発明で提示するモータパラメータを用いて、モータのトルク脈動を低減させる一方で、トルクの基本波はほぼ不変のままである。基本トルク波の周波数とは、モータの電気周波数、すなわち固定子および回転子の磁束の回転周波数を言う。電気周波数は、モータの機械的回転周波数にモータの磁極対数を掛けて求める。
【0018】
本発明のモータでは、分数スロット巻線は二層集中巻線であり、これは、巻線をより簡単にスロットに取り付けられるように開放スロット開口部を有するスロットに取り付ける。
【0019】
本発明の好適な実施例では、スロット底部幅はスロット長に対して一定であり、したがって巻線でスロットを効率的に満たすことができる。
【0020】
本発明の好適な実施例では、モータ巻線はn相の巻線を含み、少なくとも1相の巻線は、コイル群として取り付けられる連続導体を1本のみ含んでコイル群の機械巻きを容易にする。
【0021】
本発明のモータでは、回転子巻線および/または固定子巻線は、スロット数が2/5の分数スロット巻線である。
【0022】
本発明の好適な実施例では、上述のモータは永久磁石同期モータである。
【0023】
本発明のモータにおいて、回転子は永久磁化され、回転子磁石は回転子の表面に配設され、磁石の保護遮蔽体は好ましくは、渦電流損を減少させるガラス繊維積層物で形成される。ただし、磁石の保護遮蔽体は、他の材料、例えばステンレス鋼またはプラスチックなど、磁界に対する透磁性の低い材料から作ってもよい。
【0024】
本発明による上述のモータは、エレベータ用モータでもよい。この場合、本発明のモータはエレベータシステムの一部として設置でき、エレベータ昇降路内でエレベータ乗りかごを移動させるために使用できる。また、エレベータのトラクションシーブをエレベータモータの回転子とともに設置してもよい。トラクションシーブは、例えば、特定の固定要素で回転子に固定してよく、または回転子の固定された部品として実装してもよい。
【0025】
エレベータシステムにおいて、本発明のモータはエレベータ昇降路内のエレベータ乗りかごとガイドレールの間に取り付けるが、エレベータ昇降路内の他のどこに取り付けてもよく、または機械室に配設してもよい。また本発明のモータは、カウンタウェイトのないエレベータシステム、およびカウンタウェイトを有するエレベータシステムのどちらにも使用可能である。
【0026】
本発明のモータは、軸方向磁束機または径方向磁束機のどちらでもよい。軸方向磁束機では、磁束はモータのエアギャップを、モータの回転軸に実質的に平行な方向に貫いている。これに対し、径方向磁束機では、磁束はモータのエアギャップを、実質的にモータの半径方向に貫いている。
【0027】
本発明の好適な実施例では、固定子および/または回転子は巻線枠を含んで、モータの巻線の製造を容易にする。
【0028】
また、本発明の概念は、運搬装置の駆動モータの製造方法も含む。
【0029】
運搬装置の駆動モータを製造する本発明の方法において、モータは固定子、回転子、およびこれらの間のエアギャップを含み、モータの固定子および/または回転子は、スロット底部およびスロット開口部で形成されるスロットと、スロット間歯部とを含む。本発明の方法では、スロット開口部は、エアギャップに面する側の幅がスロット底部の幅の少なくとも75%、最大で125%になるように構成される。また、分数スロット集中巻線をスロットに取り付け、この巻線の最大スロット数は0.5である。
【0030】
本発明による方法は、n相の分数スロット集中巻線の製造に関する。巻線はm個の基本巻線部を備え、各相巻線はmと同数のコイル対を含む。本方法では、モータの第1相巻線を連続導体から、好ましくはコイル巻線機を使って巻回してコイル群を形成し、相巻線の第1および第2コイルを巻回して2枚の互いに隣接する歯を囲む第1コイル対を形成し、第3および第4コイルを巻回して2枚の互いに隣接する歯を囲む第2コイル対を形成して、巻線の第1コイル対と第2コイル対の間の距離を、基本巻線部の長さbで決まる導体長に等くし、この導体長部分が前部導体を形成する。コイル巻線機は、導体を取り付けて巻回し完成コイルを形成する回転軸装置でよい。本発明の方法によって、コイル巻線機は、連続導体からモータ相巻線の全コイルを巻回するのと同時にコイル群を形成するのにも使用できる。コイル群が一本の連続導体から形成され、それによって同じコイル群のコイルが互いに電気的に接続されるため、別途、これらのコイルを相互に接続する必要がなく、それにより手間と時間を省くことができる。
【0031】
本発明の好適実施例によると、モータの第1相巻線をさらに巻いてコイル群を形成し、第1相巻線のコイル対1、2、...m-1、mをコイル対の順序番号で決まる順序でコイル群に連続して取り付けて、巻線の2つの連続するコイル対間の距離を、基本巻線部の長さで決まる導体長に等しくし、この導体長部分が前部導体を形成する。
【0032】
本発明の好適実施例では、モータの第1相の相巻線と同様の仕方で、モータの全n相の相巻線を巻いてコイル群を形成する。
【0033】
本発明による方法において、モータの第1相巻線の第1コイル対の2つのコイルを、第1および第2の歯を囲む互いに隣接するスロットの第1基本巻線部に取り付けて、各コイルの互いに隣接するコイル辺を同じスロットに配設し、第1歯近傍の第1コイルを流れる相電流と第2歯近傍の第2コイルを流れる相電流が互いに逆方向に流れ、同じスロットに配設された第1および第2コイルのコイル辺とともにスロット絶縁体を取り付けて、スロット絶縁体をスロット底部、側壁、およびコイル辺の間に残す。スロット絶縁体はまた、2つの独立したスロット絶縁体で構成してもよく、これらの絶縁体は、それぞれ同じスロット内の2つのコイル辺とともにスロットに取り付けてスロット絶縁体をスロット底部、側壁およびコイル辺の間に残し、また、どちらのスロット絶縁体もコイル辺間に残してコイル辺間の絶縁性を高める。
【0034】
本発明による方法において、第1相巻線の第1コイル対の2つのコイルと同様の仕方で、モータの第2相巻線の第1コイル対の2つのコイルを第1基本巻線部の互いに隣接するスロットに取り付けて、第1相巻線の第1コイル対の相電流と第2相巻線の第1コイル対の相電流が互いに逆方向に流れるようにし、第1相巻線の第1コイル対と第2相巻線の第1コイル対を並んで取り付けて、互いに最も近いコイル辺を同じスロットに取り付けようにし、同じスロットに配設されたコイル辺とともにスロット絶縁体を取り付けて、スロット絶縁体をスロット底部、側壁およびコイル辺の間に残す。
【0035】
本発明の方法において、モータ相1、2、...n-1、nの第1コイル対を相の連続的順序番号に従って第1基本巻線部において並んで取り付けて、モータの第1相巻線および第2相巻線の第1コイル対と同様の仕方で、順序番号の連続する相のコイル対を並んで取り付ける。
【0036】
本発明の方法において、第1相の第1コイル対と同様の仕方で、モータの第1相の第2コイル対を第2基本巻線部のスロットに取り付けて、第1および第2基本巻線部の最縁端の互いに隣接するコイル辺を同じスロットに取り付け、基本巻線部の長さで決まる導体長を、第1相の第1コイル対と第2コイル対の間に残して端部巻線を形成する。第1相の第2コイル対と同様の仕方で、モータの第2相の第2コイル対を第2基本巻線部のスロットに取り付ける。
【0037】
本発明の好適な方法では、第1基本巻線部の場合と同様の仕方で、モータ相1、2、...n-1、nのコイル対を第2基本巻線部のスロットに取り付ける。
【0038】
本発明による方法において、第1および第2基本巻線部の場合と同様の仕方で、コイル対を基本巻線部1、2、...m-1、mに取り付けて、相巻線コイル対を相の順序番号で決まる順序で各基本巻線部に取り付け、順序番号の連続する基本巻線部を第1および第2基本巻線部と同様の仕方で並んで取り付けて、2つのコイル辺を各スロットに取り付ける。
【0039】
本発明による方法において、スロット閉鎖絶縁体をスロットのコイル辺上に取り付けて、スロット閉鎖絶縁体がスロットの全長にわたってスロット絶縁体と接するようにする。
【0040】
本発明により、コイル対を平行に巻くこともできる。また、巻き取り作業に関連付けて、あるいは巻き取り作業後に、コイル対を特定の巻線枠に取り付けてもよく、巻線枠はモータのスロットおよび歯部と組み合わせて取り付けることができる。
【発明の利点】
【0041】
本発明の方式は、スロット開口部の幅がスロット底部の幅の少なくとも75%である場合、モータのトルク脈動を実質的に低減できるという利点を有する。基本トルク波は実質的に変化のないまま残る。このことは、搬送装置を本発明による駆動モータで駆動させる際に有利である。これは、トルク脈動がエレベータなどの搬送装置の運転には不利であり、振動や騒音を発生させて搬送装置の乗り心地を損なうためである。振動は、エレベータ機構の固有振動数における振動として、および励起振動数がエレベータ機構の固有振動数同じでなくても系を振動させる束縛振動として、現れる。また振動は、搬送装置の機構を磨耗させ、その耐用年数を縮めてしまう。
【0042】
スロット開口部の幅がスロット底部の幅の少なくとも75%である場合、スロット開口部は実質的に開いているとみなせる。またこのことは、モータの巻線作業を円滑にする。スロット開口部が実質的に開いていれば、仕上がった回転子および/または固定子の所定の位置に巻線を取り付けることが可能なため、コイルを仕上げておいてから巻線を所定位置に取り付けることも可能である。また、本発明の製造方法により、モータ相巻線を1本の連続する導線から、例えば巻線機を使用して機械的に、コイルとして巻くことも可能であり、巻き取り作業が容易になり、モータの製造費用が削減される。
【0043】
本発明が開示する分割スロット集中巻線によって、従来の分布巻線に比べ、モータの磁極対数を実質的に増やすことができ、異なる相の導体をスロットに設けて、互いに隣接する2つのスロットがそれぞれ異なる相のコイル辺を含むようにする。それとともに、モータの端部巻線の割合が減り、これによってモータの巻線に要する銅の量が減る。また、これによって、モータの価格が実質的に下がる。さらには、モータのサイズが小さくなる。これは、エレベータで使用するモータでは、とくにエレベータ昇降路に設置されるエレベータモータの場合、不可欠なことである。
【0044】
本モータの端部巻線間には旧型の分布巻線式モータの場合ほど多くの交差箇所がないため、端部巻線に必要な絶縁体も削減される。端部巻線間の交差箇所が削減されるため、巻線の絶縁破壊の危険性も低減され、モータの信頼性も高まる。
【0045】
本発明による巻線は任意の数の相を含むが、以下の具体例では、三相巻線を例として挙げている。この巻線は、星形に巻いた場合、必ずしも別の中性線を星形先端部に接続する必要がないという利点を有する。これは、現在では、中性線に電流を流さないようにすることが可能なためである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による、分数スロット集中巻線を備えた軸方向磁束機構を示す図である。
【図2】本発明による固定子枠の一部の断面を、伸ばした状態で示す図である。
【図3】本発明による固定子枠の一部を、エアギャップの方向から垂直に見た図である。
【図4】モータのトルク脈動をスロット開口部の幅について示す比のグラフである。
【図5】本発明による軸方向磁束機構を示す図である。
【図6】(原文欠落)
【図7】(原文欠落)
【発明の詳細な説明】
【0047】
以下に述べる具体例では、本発明を三相モータについて説明し、このモータは、固定子に分数スロット集中巻線が備わり、回転子は永久磁石を備えるものである。本発明の実施例では、相巻線に含まれる複数のコイルは直列に巻回されるが、並列巻きでもよい。
【0048】
図1は、分数スロット集中巻線を備えた軸方向磁束機械固定子を示す。固定子はスロット4および歯部5を含む。コイルは歯部に巻回されて、同じコイルのコイル辺31が相互に隣接するスロットに位置するように集中巻線が形成されている。このようにすると、端部巻線38は、2つの隣接するスロット間にのみ伸びるように短く残る。コイル1および2は第1相の第1コイル対を形成し、コイル6および7は第1相の第2コイル対を形成する。図は、第1コイル対と第2コイル対の間の間隔3を示す。この間隔は、基本巻線部の長さでもある。図はまた、前部導体8を示し、この導体は第1相の第1コイル対1、2と第2コイル対6、7を相互に接続する。図1では、各コイルは導体ループを1本だけ備えているが、それ以上の数の導体ループを有していてもよい。本図のモータでは、スロット底部9の幅はスロットの全長にわたって一定であり、スロットがコイルで可能な限り効果的に埋まるようになっている。
【0049】
図2は、本発明による固定子枠の一部を伸ばした状態で示している。モータは、実質的に開いているスロット開口部を有し、スロット開口部の幅10はスロット底部の幅9の少なくとも75%の広さである。第1相の第1コイル1および第2コイル2は、2つの互いに隣接する歯の周囲のスロットに取り付けられてコイル対1、2を形成し、コイル1に囲まれた歯11を回る相電流の流れの方向は、コイル2に囲まれた歯12を回る電流の流れの方向と逆になる。各スロットに2つのコイル辺が嵌取り付けられている。スロット絶縁体13がコイル辺とスロット底部およびスロット側壁との間に残るように、コイル絶縁体がスロットに取り付けられている。
【0050】
図3は、本発明による固定子枠の一部をエアギャップ方向から垂直に見た場合を示す。第1相のコイルは直列に取り付けられてコイル群を形成し、その相の連続するコイル対1、2と6、7は、基本巻線部によって決まる共通の間隔3で配設される。2つの連続するコイル対は、基本巻線部3の長さに等しい長さの前部導体8によって相互に接続される。第1相は、コイル対1、2と6、7が取り付けられているやり方でコイル対を直列に取り付けることによって1コイル群のみで形成される。各基本巻線部3、15では、1つのコイル対は相巻線の順序番号で決まる順序で取り付けられ、したがってコイル対の数は基本巻線部の数に等しい。第1相巻線14は、機械巻きを容易にするために1本の連続する導体から巻回される。第1相の第1コイル対の第1コイルのモータ相巻線に流れ込む相電流の方向は矢印20で示し、第1相の第1コイル対の第2コイルにおける相電流の流れ方向は矢印21で示す。同様に、第2相の第1コイル対の第1コイルのモータ相巻線に流れ込む相電流の方向は矢印22で示し、第2相の第1コイル対の第2コイルにおける相電流の流れの方向は矢印23で示す。図では、第1相および第2相の各第1コイル対に流れる各相電流の方向は、互いに反対になるように構成されている。また図から分かるように、第1相の第2コイル対6、7を流れる相電流の方向20、21は、第1相の第1コイル対における相電流の方向と逆である。図3のコイルでは、2本の導体ループが設けられているが、導体ループの数もこれと異なってよい。
【0051】
図3に示すモータの三相すべてのコイル対は順序番号に従って互いに隣り合って固定子に配され、個々の相のコイル対の電流方向が第1相および第2相のコイル対と同様のやり方で互いに逆になっている。
【0052】
図4は、モータのトルクの基本波に対するトルク脈動をスロット開口部の幅17の関数として示す。図4において、Trippleはモータトルク脈動を表し、Tは基本トルク波を表す。同様に、lはスロット開口部の幅を表し、lはスロット底部の幅を表す。曲線33は分数スロット集中巻線におけるトルク脈動のグラフを示し、曲線34は従来の分布巻きの場合を示す。分布巻きでは、相巻線が磁極領域でいくつかのスロットに分散されている。従来の巻線の場合、スロット開口部の幅が広くなるにつれて、トルク脈動が大きくなる。分数スロット集中巻線の場合、トルク脈動は、まずスロット開口部が閉じていると小さく、スロット開口部が広くなるにつれて大きくなり、スロット開口部の幅が一定値18を超えて広くなると、トルク脈動は再度小さくなり始める。本発明では、スロット開口部幅がスロット底部の幅19の少なくとも75%である場合、トルク脈動は実質的に時点18における値から減少する。また、このようなスロット開口部は原則的には開いていて、固定子が最終的な形状になると、このスロット開口部にモータ巻線を装着することが可能となる。
【0053】
図5は、径方向磁束モータを示し、このモータでは、固定子24が分数スロット集中巻線を有し、回転子25は永久磁石27を有する。モータのスロット数は、相および磁極当りの固定子スロット4の数を意味する。図5のモータでは、固定子スロットが12本、相が3相、磁極は10極であるため、スロット数は2/5となる。
【0054】
付表1は、本発明によるモータのシミュレーション結果を示す。シミュレーションは、固定子スロット開口部10とスロット底部9の幅の比を50%および100%にして行った。
【0055】
図6は、固定子のスロット開口部10とスロット底部9の幅の比が50%の場合におけるモータのシミュレーション結果を示す。上側のグラフは時間の関数としてのモータトルク脈動を示し、下側のグラフはトルクスペクトルを示す。トルクの6次および12次高調波をトルクスペクトルのグラフから読み取ることができる。
【0056】
同様に、図7は、固定子のスロット開口部10とスロット底部9の幅の比が100%の場合におけるモータのシミュレーション結果を示す。
【0057】
図6によると、シミュレーションを行ったモータの固定子のスロット開口部10とスロット底部9の幅の比が50%のとき、トルク脈動のピーク間振幅は基本波トルクの0.75%であり、また図7によれば、スロット開口部とスロット底部の幅の比が100%に拡大すると、ピーク間トルク脈動は基本波トルクの0.36%に減少する。図6および図7において、トルクの高調波スペクトルは、モータの電気周波数をトルクの基本周波数として用いることで算出した。
【0058】
本発明は、例えば、エレベータ乗りかごを動かすエレベータシステムで使用されるモータに適用可能である。これらのモータは、エレベータ昇降路または機械室のどちらに設置してもよい。しかし、本発明は特定用途のみに限定されるものではなく、電動機全般に適用できる。言及するに値する別の有効な適用例として、エスカレータ駆動機械がある。
【0059】
当業者には明白なことであるが、本発明は、本発明の一例として述べた上述の実施例に限定されるものでなく、以下の特許請求の範囲で規定された発明の概念の範囲内であれば、さまざまな変形形態ならびに種々の実施形態が可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも固定子(24)、回転子(25)、およびこれらの間のエアギャップ(26)を含み、該固定子および/または回転子は、スロット底部(9)およびスロット開口部(10)で形成されるスロット(4)と、スロット間歯部(5)とを含み、該固定子および/または回転子は、前記スロットに取り付けられた集中巻線(1、2、6、7)を有し、該集中巻線は最大スロット数0.5の分数スロット巻線であり、前記エアギャップに面するスロット開口部(10)の幅は、前記スロット底部(9)の幅の少なくとも75%、最大で125%である運搬装置用永久磁石型同期モータにおいて、
該モータは軸方向磁束機であり、永久磁石型回転子(25)を有し、回転子磁石(27)は前記回転子の表面に配設され、該磁石の保護遮蔽体(28)は好ましくは、渦電流損を減少させるガラス繊維積層物で形成されることを特徴とする永久磁石型同期モータ。
【請求項2】
請求項1に記載のモータにおいて、前記分数スロット巻線は二層集中巻線であり、該巻線は、該巻線をより簡単に前記スロットに取り付けられるように開いたスロット開口部を有するスロット(4)に取り付けられることを特徴とするモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータであって、該モータの巻線がn相の巻線を含むモータにおいて、少なくとも1相の巻線(14)は、コイル群として取り付けられる連続導体を1本のみ含んで該コイル群の機械巻回を容易にすることを特徴とするモータ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のモータにおいて、前記回転子(25)および/または固定子(24)の巻線は、スロット数が2/5の分数スロット巻線であることを特徴とするモータ。
【請求項5】
請求項1ないし6のいずれかに記載のモータにおいて、該モータはエレベータモータであることを特徴とするモータ。
【請求項6】
固定子(24)、回転子(25)、およびこれらの間のエアギャップ(26)を含み、該固定子および/または回転子は、スロット底部(9)およびスロット開口部(10)で形成されるスロット(4)と、該スロット間の歯部(5)とを含み、前記エアギャップに面するスロット開口部(10)は、その幅が前記スロット底部(9)の幅の少なくとも75%、最大で125%となるように構成され、最大スロット数0.5の分数スロット集中巻線が前記スロットに取り付けられた運搬装置用永久磁石型同期モータの製造方法において、該方法は、
永久磁石回転子(25)を有する軸方向磁束機として前記モータを製造し、前記回転子磁石(27)は該回転子の表面に配設し、該磁石の保護遮蔽体(28)は好ましくは、渦電流損を減少させるガラス繊維積層物で形成することを特徴とする永久磁石型同期モータの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、該方法で製造した巻線はm個の基本巻線部(3)を含むn相の分数スロット集中巻線であり、各相の巻線はmと同数のコイル対(1、2)を含み、該方法は、
a)好ましくはコイル巻線機を使用して前記モータの第1の相巻線(14)を巻いて連続導体からコイル群を形成して、該相巻線の第1コイル(1)および第2コイル(2)が巻回されて互いに隣接する2枚の歯(11、12)を囲繞する第1コイル対を形成し、また第3コイル(6)および第4コイル(6)が巻回されて互いに隣接する2枚の歯を囲繞する第2コイル対を形成し、該巻線における第1コイル対と第2コイル対の間の距離を、前記基本巻線部(3)の長さで決まる導体長に等しくする工程を含み、該導体長が前部導体(8)を形成することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、該方法はさらに、
b)項目aに従って第1相巻線のコイル対1、2、...m-1、mを該コイル対の順序番号で決まる順序でコイル群に連続して取り付けて、前記モータの第1相巻線(14)をコイル群として巻き、該巻線の2つの連続するコイル対(1、2;6、7)の間の距離を、前記基本巻線部(3)の長さで決まる導体長に等しくする工程を含み、該導体長が前部導体(8)を形成し、該方法はさらに、
c)項目aおよびbに従って、前記モータの第1相(14)と同様の仕方で、該モータのn相の相巻線を巻いてコイル群を形成する工程と、
d)該モータの第1相巻線(14)の第1コイル対(1、2)の2つのコイルを、第1および第2の歯(11、12)を囲む互いに隣接するスロットの第1基本巻線部(3)に取り付けて、前記コイルの互いに隣接するコイル辺(31)を同じスロットに配設し、第1の歯近傍の第1コイルを流れる相電流の方向(20)と第2の歯近傍の第2コイルを流れる相電流の方向(21)を互いに逆にし、同じスロットに配設された第1および第2コイルのコイル辺とともにスロット絶縁体(13)を取り付けて、該スロット絶縁体が前記スロット底部、側壁、およびコイル辺の間に残るようにする工程と、
e)項目dに従って、第1相巻線の第1コイル対の前記2つのコイルと同様の仕方で、該モータの第2相巻線(35)の第1コイル対の前記2つのコイル(29、30)を第1基本巻線部の互いに隣接するスロットに取り付けて、第1相巻線の第1コイル対(20、21)を流れる相電流の方向と第2相巻線の第1コイル対(22、23)を流れる相電流の方向を互いに逆にし、第1相巻線の第1コイル対(1、2)と第2相巻線の第1コイル対(29、30)を並んで取り付けて、互いに最も近いコイル辺を同じスロットに取り付け、スロット絶縁体(13)を同じスロットにコイル辺とともに取り付けて、該スロット絶縁体を前記スロット底部、側壁およびコイル辺の間に残す工程と、
f)第1基本巻線部のモータ相1、2、...n-1、nの第1コイル対を該相の順序番号に従って並んで取り付けて、項目dおよびeに従って、前記モータの第1相巻線(1、2)および第2相巻線(29、30)の第1コイル対と同様の仕方で、連続する順序番号の相のコイル対を並んで取り付ける工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法において、該方法はさらに、
g)項目dに従って、第1相の第1コイル対(1、2)と同様の仕方で、前記モータの第1相の第2コイル対(6、7)を第2基本巻線部(15)のスロットに取り付けて、第1および第2基本巻線部(3、15)の最縁端の互いに隣接するコイル辺を同じスロットに取り付け、該基本巻線部の長さ(3)で決まる導体長を前部導体(8)として第1相の第1コイル対と第2コイル対の間に残す工程と、
h)前記項目dおよびeに従って、第1相の第2コイル対(6、7)と同様の仕方で、該モータの第2相の第2コイル対(36、37)を第2基本巻線部のスロットに取り付ける工程と、
i)項目d、e、fに従って、第1基本巻線部(3)の場合と同様の仕方で、前記モータ相1、2、...n-1、nのコイル対を該相の順序番号に従って第2基本巻線部のスロットに取り付ける工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれかに記載の方法において、該方法はさらに、
j)項目d、e、f、g、h、iに従って、第1および第2基本巻線部(3、15)の場合と同様の仕方で、基本巻線部1、2、...m-1、mのコイル対を取り付けて、相巻線コイル対を前記相の順序番号で決まる順序で各基本巻線部に取り付け、連続する順序番号を有する基本巻線部を項目gに従って並んで取り付け、2つのコイル辺を各スロットに取り付ける工程と、
k)スロット閉鎖絶縁体(32)を前記スロットのコイル辺上に取り付けて、該スロット閉鎖絶縁体が該スロットの全長にわたって前記スロット絶縁体(13)に接触させる工程とを含むことを特徴とする方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−514403(P2010−514403A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542114(P2009−542114)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/FI2007/000278
【国際公開番号】WO2008/074910
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(591159044)コネ コーポレイション (75)
【氏名又は名称原語表記】KONE CORPORATION
【Fターム(参考)】