説明

電動車

【課題】運転者が発進スイッチ12をONにするとインホイール・モータ9が適度に駆動して走行を開始させるようにすることにより、発進時に車体が不安定になったり登り坂で車両が後退するようなおそれのない電動車を提供する。
【解決手段】運転者が足で踏んで回転させるペダル6と、このペダル6の回転速度を検出する回転速度検出器10と、この回転速度検出器10が検出したペダル6の回転速度に応じて、後輪2を駆動するためのインホイール・モータ9を駆動制御する回転ペダル駆動制御手段16とを備えた電動車において、運転者がONに操作する発進スイッチ12と、この12がONの場合に、インホイール・モータ9を低速で定速回転するように駆動制御する発進スイッチ駆動制御手段17とを備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足で踏んで回転させるペダルをアクセルとして用いる電動車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
運転者が足でペダルを踏んで回転させたときの回転速度を検出し、この回転速度に応じて駆動用電動モータを駆動制御することにより駆動輪を駆動して走行する電動車が従来から開発されている(例えば、特許文献1参照。)。この電動車は、ペダルの回転力をチェーン等の伝動装置を介して駆動輪に伝えるものではないという点で、電動アシスト自転車と異なる。また、電動オートバイ等のように、ハンドルのアクセルグリップを手で持って回したときの回転角や、床のアクセルペダルを足で踏んだときの踏み込み角度に応じて駆動用電動モータを駆動制御するのとは異なり、ペダルを足で踏んで回転させたときの回転速度に応じて駆動用電動モータを駆動制御するものである。
【0003】
ここで、電動オートバイ等のアクセルグリップやアクセルペダルは、誤って回したり踏み込んだりすることにより、容易に最大のアクセル操作(フルスロットル)に達しやすく、急激な加速度が生じるために取り扱いに注意が必要となる。また、電動オートバイ等の最高速度が例えば時速20kmに制限されるようにしたとすると、アクセルグリップを回したりアクセルペダルを踏み込む簡単な操作で直ぐに最高速度に達するので、運転者はさらに早い速度で走行したいという要求に抗するためにストレスが溜まりやすくなる。
【0004】
しかしながら、上記電動車の場合には、最大のアクセル操作を行うには、ペダルを高速で回転させる必要があり、容易には最大のアクセル操作に達することができない。また、この電動車は、最高速度が時速20kmに制限されたとしても、この最高速度に達するには、ある程度早い回転速度でペダルを漕ぐ必要があり、しかも、最高速度を維持するには、この早い回転速度でペダルを漕ぎ続けなければならないので、運転者は、ほどほどの走行速度で十分に満足し、むやみに最高速度を長い時間維持しようという気にはならない。
【0005】
従って、上記電動車は、電動オートバイ等の場合とは異なり、自転車と同様の比較的ゆっくりした速度で走行し、運転者もゆったりした気持ちで余裕を持って運転ができる安全で扱いやすい車両を提供することができる。しかも、自転車や電動アシスト自転車とも異なり、登り坂であってもペダルを漕ぐ力には影響がなく平坦地と同様に運転ができるので、特に電動アシスト自転車よりもさらに楽に運転できるため、例えば高齢者や身体障害者等の比較的体力の弱い運転者でも運転が可能となる。
【特許文献1】特開平8−108881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記のようなペダルを足で踏んで回転させたときの回転速度に応じて駆動用電動モータを駆動制御する電動車は、実際に試作車両を作製して試乗してみると、発進時に車体が不安定になりやすく、特に登り坂の場合には坂道発進が困難になるという問題があることが分かった。
【0007】
つまり、例えば二輪車の場合には、サドルに跨がり両足を路面につけた状態で停車するが、発進時には、少なくとも片足を路面から離してペダルを踏む必要があり、自転車の発進の場合と同様に車体が不安定になりやすい。また、駆動用電動モータは、ペダルの回転速度に応じて駆動制御されるため、ペダルをある程度の速さで回転させなければ十分な始動トルクが発生しないので、両足でこのペダルを漕いで回転速度が十分に上昇するまで不安定な状態が続き、自転車の発進の場合以上に熟練や要領が必要になる。
【0008】
しかも、上記問題は、二輪車の場合だけでなく、この二輪車の後輪の左右に補助輪が取り付けられた四輪車の場合にもある程度当て嵌まる。このような四輪車は、運転者がサドルに跨がり両足を路面から離しても補助輪に支えられて自立しているので、この状態でペダルを漕げば通常はそのまま発進することが可能である。しかし、このような補助輪は、走行時の車体の左右への傾斜に対応するために、下方に付勢された状態で上下に揺動可能に取り付けられていることが多いので、停車時に車体が自立していても、ペダルを漕ぐために運転者の身体が左右に揺れると、補助輪に支えられながらも、これに応じて車体が左右に傾斜し、このために車体が不安定になるおそれが生じる。
【0009】
ただし、前後二輪ずつの四輪車や前後いずれかが二輪の三輪車の場合には、停車時の自立安定性が高いため、上記問題はほとんど生じない。しかしながら、登り坂の坂道発進時には、さらに大きな始動トルクが必要となるため、二輪車に限らず、三輪車や四輪車以上の電動車でも、発進が困難になる。
【0010】
即ち、登り坂では、両足を路面から離しただけで車両が後退(逆行)することになり、この車両の後退に抗して発進をさせるためには平坦地よりもさら大きな始動トルクを得る必要があるので、足を路面から離すやいなや、直ちにペダルを漕いで速い回転速度にまで達するようにしなければならず、たとえ車体が自立するため不安定になるおそれのない三輪車や四輪車であっても発進が容易ではなくなる。しかも、ペダルの回転速度に対応する所定の走行速度となるように駆動用電動モータを駆動制御するのではなく、ペダルの回転速度に対応する所定のトルクを発生するように駆動制御する場合には、発進時のこの大きな始動トルクを得るためにペダルを相当な高速で回転させる必要があり、発進が極めて困難になる。
【0011】
従って、登り坂の坂道発進時には、車両が後退しないように、ハンドブレーキを徐々に弱めながらペダルの回転速度を上げて行くという非常に高度な運転技量が必要となり、特に車体が自立しない二輪車では坂道発進が実質的に不可能であった。なお、ワンウェイクラッチ等により車輪の逆転を防いで車両が後退しないようにすることも考えられるが、車両が後退しないようになると、運転者が電動車を押し歩きして方向転換や車庫の出し入れ等を行う際に極めて不便になる。
【0012】
本発明は、運転者が発進スイッチをONにすると駆動用電動モータが適度に駆動して走行を開始させるようにすることにより、発進時に車体が不安定になったり登り坂で車両が後退するようなおそれのない電動車を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、運転者が足で踏んで回転させるペダルと、このペダルの回転速度を検出する回転速度検出器と、この回転速度検出器が検出したペダルの回転速度に応じて、駆動輪を駆動するための駆動用電動モータを駆動制御する回転ペダル駆動制御手段とを備えた電動車において、運転者がOFFからONに操作する発進スイッチと、この発進スイッチがONの場合に、駆動用電動モータを所定のプログラムに従って駆動制御する発進スイッチ駆動制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明は、前記発進スイッチがONであり、回転速度検出器がペダルの所定速度以上の回転を検出している場合、発進スイッチ駆動制御手段ではなく回転ペダル駆動制御手段によって駆動用電動モータの駆動制御を行わせる回転ペダル駆動制御優先手段が設けられたことを特徴とする。
【0015】
請求項3の発明は、前記電動車が、運転者が運転席に着座したことを検出する着座検出器と、この着座検出器が着座を検出しない場合には、回転ペダル駆動制御手段による駆動用電動モータの駆動制御を制限し、かつ、この着座検出器による着座の検出の有無にかかわらず、発進スイッチ駆動制御手段による駆動用電動モータの駆動制御を制限しない着座制御手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、運転者が発進スイッチを操作してONにすると、発進スイッチ駆動制御手段が所定のプログラムに従って駆動用電動モータを駆動制御するので、この発進スイッチの操作だけで電動車を発進させることができ、これによって走行が安定したらペダルを漕いで通常の運転を行えばよい。従って、運転者は、足を路面につけた状態のままで発進ができるので、発進時に車体が不安定になるのを防止することができ、上り坂の坂道発進の場合であっても車体が後退するのを防ぐことができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、発進後に発進スイッチをONにしたままペダルを漕いでも、このペダルの回転速度が所定速度以上になれば、駆動用電動モータの駆動制御が自動的に発進スイッチ駆動制御手段から回転ペダル駆動制御手段に移行するので、発進スイッチをOFFに戻すタイミングを運転者が気にする必要がなくなる。また、ペダルを漕いで通常の運転をしている最中に誤って発進スイッチをONにしても、駆動用電動モータの駆動制御が発進スイッチ駆動制御手段に切り替わるようなことが生じない。
【0018】
なお、前記発進スイッチは、運転者がOFFに戻すようにしてもよいし、通常の運転に移行したときに自動的にOFFに戻るようにしてもよい。しかしながら、運転者がOFFに戻す場合であっても、トグルスイッチ等のように運転者が改めて操作を行う必要があるものは、操作忘れのおそれがあるので好ましくない。
【0019】
この発進スイッチは、手で押すとONとなり、手を離すとOFFに戻る押しボタンスイッチからなることが好ましい。このようにすれば、発進スイッチを手で押してONにすれば発進し、通常の運転に移行すれば、この発進スイッチから手を離すだけでOFFに復帰するので、発進スイッチをOFFに戻す操作を忘れるおそれをなくすことができる。
【0020】
また、前記発進スイッチ駆動制御手段による所定のプログラムに従った駆動制御は、駆動用電動モータを所定の一定速度で回転させる速度制御であることが好ましい。このようにすれば、発進スイッチがONになると、駆動用電動モータが所定の一定速度で回転する速度制御が行われるので、発進時には路面が坂道であるか平坦地であるかに応じて必要な場合には十分に大きな始動トルクを得ることができ、発進後は例えば時速6km程度の低速で定速走行が行われるので、運転者は定速走行になってからペダルを漕げばよく、容易に通常の運転に移行することができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、運転者が運転席に着座していない場合に、誤ってペダルを回転させて電動車が誤発進してしまうのを防止できるので、電動車の安全性を高めることができる。しかも、運転者が運転席に着座せず、電動車を押し歩きしながら発進スイッチをONにすれば、この電動車が例えば低速の一定速度等で走行するので、特に登り坂や重い荷物の積載時等に運転者が電動車を押すのを補助することができる。
【0022】
なお、前記電動車は、前輪と後輪の二輪のみからなる二輪車、又は、この二輪車の後輪に左右に補助輪が取り付けられた四輪車であることが好ましい。特にこのような停車時に車体が安定しない二輪車や、停車時に車体が不安定になるおそれのある補助輪を用いた四輪車の場合に、発進時に車体が不安定になるのを防止することができるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施形態について図1〜図3を参照して説明する。
【0024】
本実施形態は、図1及び図2に示すような電動車について説明する。この電動車は、操舵輪である一輪の前輪1と駆動輪である一輪の後輪2とを備えると共に、この後輪2の左右に一対の補助輪3、3を備えた四輪車である。各補助輪3は、後輪2よりも少し径の小さい従動輪であり、電動車のフレームに対して下方に付勢された状態で上下動自在に取り付けられている。
【0025】
この電動車は、運転者がサドル4に跨がってハンドル5を両手で握ることにより前輪1の操舵を行いながらペダル6を足で踏んで回転させるようになっている。ただし、この電動車は、自転車や電動アシスト自転車のようにペダル6を漕いだときの回転力を後輪2に伝えて駆動するのではなく、荷台7の下に収納された蓄電池8によって後輪2の車軸に直結されたインホイール・モータ9を回転させてこの後輪2を駆動するようになっている。そして、ペダル6は、足で踏んで漕いだときの回転速度を回転速度検出器10で検出し、この回転速度検出器10が検出した回転速度に応じてインホイール・モータ9の駆動制御を行うようになっている。
【0026】
上記ハンドル5には、左右の端部に手で握るためのグリップ11、11が取り付けられ(図1ではハンドル5の左側の図示を省略して右側のグリップ11だけが見えるようになっている)、右側のグリップ11の付け根部分には発進スイッチ12が取り付けられている。発進スイッチ12は、ハンドル5の内側にボタンが突出した押しボタンスイッチであり、右側のグリップ11を握った右手の親指で押すことができるようになっている。また、この発進スイッチ12の押しボタンスイッチは、ボタンを押し込んでいる間にONとなり、ボタンを離すとばねで復帰してOFFに戻るようになっている。
【0027】
上記サドル4とこのサドル4をフレームに取り付けるためのポール13との間には、運転者がサドル4を跨いで着座したことを検出する着座検出器14が取り付けられている。この着座検出器14は、圧力センサ等からなり、運転者が着座している間にONとなり、サドル4から離れるとOFFになる。
【0028】
上記電動車のフレームの前方におけるハンドル5の下方には、図示では隠れた前照灯等を取り付けた筐体にマイクロコンピュータ15が収納されている。このマイクロコンピュータ15には、図3に示すように、回転速度検出器10が検出したペダル6の回転速度を示す信号と、発進スイッチ12のON/OFFの検出信号と、着座検出器14のON/OFFの検出信号とが入力されるようになっている。そして、このマイクロコンピュータ15からの駆動信号によってインホイール・モータ9が駆動され、これによって後輪2が回転するようになっている。インホイール・モータ9は、ブラシレスDCモータとそのドライバからなり、本実施形態ではブラシレスDCモータを速度制御する場合を示すので、このドライバは、蓄電池8からの電源をブラシレスDCモータに供給すると共に、マイクロコンピュータ15からの駆動信号で指示された回転速度で回転するように速度制御を行うようになっている。
【0029】
上記マイクロコンピュータ15には、回転ペダル駆動制御手段16と発進スイッチ駆動制御手段17と着座制御手段18と回転ペダル優先手段19がプログラムとしてEEPROMに格納されている。回転ペダル駆動制御手段16は、回転速度検出器10からペダル6の回転速度を示す信号を入力したときに、この信号に対応したインホイール・モータ9の回転速度(電動車の走行速度)を指示する駆動信号を出力するプログラムである。従って、運転者がペダル6を漕いで回転させると、このペダル6の回転速度に応じた速度で電動車が走行するようにインホイール・モータ9が速度制御される。このため、平坦地だけでなく上り下りの坂道で負荷が変化しても、ペダル6を同じ回転速度で漕いでいる限り、インホイール・モータ9のトルクが変化して電動車を同じ速度で走行させることができる。
【0030】
また、ペダルに6には、回転速度検出器10を回転させるための負荷しか掛からないので、運転者がこのペダル6を回転させるためのペダル回転負荷はほとんど変化しない。ただし、走行速度を上げ過ぎないように、ペダル6の回転速度が速くなるに従ってこのペダル回転負荷を大きくしたり、ペダル6が一定の回転速度を超えるとこのペダル回転負荷を大きくするようにしてもよく、また、坂道を上っていることを体感しやすいように、この坂道の傾斜による負荷に応じてペダル回転負荷を少し大きくしたりする等、このペダル6の回転に意図的に負荷を加えるようにすることもできる。
【0031】
上記発進スイッチ駆動制御手段17は、発進スイッチ12のON/OFFの検出信号を入力して、この検出信号がONの場合にのみ、電動車の走行速度が時速6kmとなるようなインホイール・モータ9の回転速度を指示する駆動信号を出力するプログラムである。従って、停車時に運転者がこの発進スイッチ12を押してONにすれば、インホイール・モータ9が回転して電動車が低速で走行を開始して発進することができる。
【0032】
上記回転ペダル駆動制御手段16が出力する駆動信号は、着座制御手段18と回転ペダル優先手段19とを介してインホイール・モータ9に出力される。着座制御手段18は、着座検出器14から運転者が着座したことを示すONの検出信号を入力した場合にのみ、回転ペダル駆動制御手段16からの駆動信号の出力を許可するプログラムである。
【0033】
従って、運転者がサドル4に着座していない状態でペダル6が回転しても、回転ペダル駆動制御手段16が駆動信号をインホイール・モータ9に出力し電動車が不用意に発進してしまうのを防止することができる。ただし、運転者は、電動車の走行中に腰を浮かしたり立ち漕ぎを行う可能性があるので、このような場合にも着座制御手段18が駆動信号の出力を遮断すると、電動車が動力を失って停車してしまうおそれがある。そこで、この着座制御手段18は、電動車の発進後の一定期間にのみ回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号の出力を制限したり、着座検出器14以外のセンサも用いて、運転者がサドル4の上にいることを確実に確認するようにしてもよい。
【0034】
上記発進スイッチ駆動制御手段17が出力する駆動信号は、回転ペダル優先手段19を介してインホイール・モータ9に出力される。回転ペダル優先手段19は、発進スイッチ12がONの検出信号を出力することにより発進スイッチ駆動制御手段17が駆動信号を出力している場合であっても、ペダル6が回転し回転速度検出器10がこの回転速度を示す信号を出力することにより回転ペダル駆動制御手段16が駆動信号の出力を開始すると、発進スイッチ駆動制御手段17の駆動信号を遮断して、この回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号を優先してインホイール・モータ9に出力するプログラムである。
【0035】
ただし、発進直後に運転者が路面から足を離してペダル6に乗せたことにより少しこのペダル6が回転した場合や、まだ発進スイッチ駆動制御手段17による低速の走行速度にも達しないようなゆっくりした速さで回転させ始めたような場合にも、発進スイッチ駆動制御手段17の駆動信号を回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号に切り替えると、低速の走行速度がさらに遅い速度に低下することになる。このため、回転ペダル優先手段19は、ペダル6が例えば時速5kmの走行速度に対応するような所定速度以上で回転を始め、回転速度検出器10がこの所定以上の回転速度を示す信号を出力し、回転ペダル駆動制御手段16がこれに対応する駆動信号の出力を開始した場合にのみ、発進スイッチ駆動制御手段17の駆動信号を回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号に切り替えるようにしている。
【0036】
なお、この回転ペダル優先手段19は、上記のように低速の走行速度よりもさらに遅い速度に低下することが特に問題にならなければ、ペダル6の回転速度が極めて0に近いような僅かな回転を検出して駆動信号の切り替えを行うようにすることもできる。即ち、この場合には、ペダル6の所定の回転速度を極めて0に近い値に設定すればよい。また、この回転ペダル優先手段19は、ペダル6の所定速度以上の回転を検出して駆動信号の切り替えを行うようにすればよいので、回転ペダル駆動制御手段16が出力する駆動信号ではなく、回転速度検出器10が出力する信号を入力し、この信号がペダル6の所定速度以上の回転を示すものになったかどうかを検出するようにしてもよい。
【0037】
上記回転ペダル優先手段19の動作により、運転者が発進スイッチ12を押して電動車を発進させた後も、この発進スイッチ12を押したままペダル6を漕ぎ出せば、発進スイッチ駆動制御手段17による低速の定速走行から回転ペダル駆動制御手段16によるペダル6の回転速度に応じた速度の通常の走行に切り替えることができる。運転者は、通常は、この走行が切り替わった後に発進スイッチ12から手を離してOFFに戻す。
【0038】
なお、着座制御手段18や回転ペダル優先手段19は、本実施形態では回転ペダル駆動制御手段16や発進スイッチ駆動制御手段17と同様に、マイクロコンピュータ15によって実行されるプログラムであるため、これら回転ペダル駆動制御手段16と発進スイッチ駆動制御手段17の出力を回路的に遮断したり切り替える訳ではない。
【0039】
即ち、着座制御手段18は、例えば回転ペダル駆動制御手段16のプログラムの中で、着座検出器14の出力を随時又は発進後の一定期間監視し、この着座検出器14の検出信号がOFFであることを検出すると、回転ペダル駆動制御手段16のプログラムの実行を終了させるようなルーチンによって構成することができる。また、回転ペダル優先手段19は、例えば発進スイッチ駆動制御手段17のプログラムの中で、回転速度検出器10の出力を随時監視し、この回転速度検出器10がペダル6の所定速度以上の回転を示す信号を出力していることを検出すると、発進スイッチ駆動制御手段17のプログラムの実行を終了させるようなルーチンによって構成することができる。さらに、これらの着座制御手段18や回転ペダル優先手段19は、着座検出器14や回転速度検出器10等から出力される信号に応じて起動される割り込みルーチンによって構成することもできる。
【0040】
また、回転ペダル駆動制御手段16と発進スイッチ駆動制御手段17が同じプログラムからなり、回転速度検出器10や発進スイッチ12の出力の状態に応じて駆動信号を切り替えて出力するようなものであってもよい。しかも、この場合には、回転速度検出器10や発進スイッチ12の出力の状態に応じた駆動信号の切り替えを行うルーチンによって回転ペダル優先手段19を構成することもできる。
【0041】
上記構成の電動車によれば、停車時に運転者が両足を路面につけたまま発進スイッチ12を押してONにすれば、電動車が低速の一定速度で走行を開始するので、車体を安定させたまま電動車を容易に発進させることができる。そして、運転者は、電動車の走行が安定したら、ペダル6を漕いで通常の運転を行えばよい。従って、この電動車は、発進の際に車体が不安定になるおそれがなく、上り坂の坂道発進の場合であっても車体が後退するのを防ぐことができる。
【0042】
また、ペダル6を漕げば、回転ペダル優先手段19によって、発進スイッチ12による低速の一定速度での走行から、このペダル6の回転速度に応じた速度の通常の走行に自動的に切り替わるので、発進スイッチ12をOFFにするタイミングを気にする必要がない。しかも、発進スイッチ12は、手を離すだけでOFFに戻るので、この発進スイッチ12をOFFに戻し忘れるおそれもない。さらに、ペダル6を漕いで通常の走行を行っているときに、誤って発進スイッチ12を押しても、低速の一定速度による走行に切り替わるのを防ぐことができる。
【0043】
また、着座制御手段18は、安全のために、運転者が着座していない場合には、ペダル6が回転しても、回転ペダル駆動制御手段16が出力する駆動信号を遮断して、電動車が発進しないようにするが、この運転者が着座していない場合でも、発進スイッチ駆動制御手段17が出力する駆動信号は遮断しないので、発進スイッチ12を押すことにより電動車を低速で自走させることができる。従って、例えば上り坂や重い荷物の積載時に、運転者が電動車を押し歩きしながら発進スイッチ12を押せば、この電動車を押す力をほとんど使うことなく楽に歩くことができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、発進スイッチ12が押しボタンスイッチである場合を示したが、運転者がON/OFFを操作するスイッチであれば、どのようなものであってもよい。ただし、OFFに操作することを忘れるのを防ぐために、トグルスイッチ等よりも、操作を止めればOFFに戻るようなレバースイッチ等が好ましい。また、近接感知スイッチ等よりも、操作実感のあるスイッチの方が好ましい。さらに、運転者は、発進前に両足を路面につけて車体を安定させるので、発進スイッチ12は、手で操作するスイッチが好ましいが、手以外の身体の部分で操作するものであってもよく、例えば足操作によるものであっても、片足で簡単に操作できるのであれば、発進前に車体を不安定にするおそれはほとんどない。
【0045】
また、この発進スイッチ12は、必ずしも運転者が操作によってONからOFFにする必要はなく、例えば回転ペダル優先手段19がペダル6の所定速度以上の回転を検出したときに、自動的にOFFに戻すようにしてもよい。従って、発進スイッチ12は、少なくとも運転者がOFFからONに操作するスイッチであればよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ペダル6の回転が速くなって所定速度以上になった場合に、回転ペダル優先手段19によって発進スイッチ駆動制御手段17の駆動信号が遮断される場合を示したが、この回転ペダル優先手段19は、回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号の出力と発進スイッチ駆動制御手段17の駆動信号の出力とが重複するような状況のときに、回転ペダル駆動制御手段16の駆動信号の出力の方を優先するように動作すればよい。これにより、運転者がペダル6を漕いで通常の運転をしている最中に誤って発進スイッチ12を押したとしても、低速の定速走行に切り替わるのを防ぐことができる。
【0047】
また、上記実施形態で示した回転速度検出器10は、ペダル6の回転速度(単位時間あたりの回転回数又は単位時間あたりの回転角)を検出するものであれば、どのような検出器であってもよく、例えばダイナモの発電電圧を検出出力としたり、ペダル6と共に回転する歯車状の突起の接近を磁気センサ等で検出する検出器等を用いることもできる。
【0048】
また、上記実施形態では、回転ペダル駆動制御手段16や発進スイッチ駆動制御手段17がインホイール・モータ9に回転速度を指示することにより速度制御を行う場合を示したが、この駆動制御の方法は任意であり、例えば回転ペダル駆動制御手段16は、インホイール・モータ9に対して、ペダル6の回転速度に応じたトルクを出力するように制御することも可能である。また、発進スイッチ駆動制御手段17は、電動車が一定の走行速度となるように速度制御するのではなく、例えばこの走行速度がある程度まで徐々に速くなるように速度制御を行うようにしてもよい。即ち、これら回転ペダル駆動制御手段16や発進スイッチ駆動制御手段17による駆動制御は、電動車の運転や発進がより適切に行われるように適宜改良を加えることができる。
【0049】
また、上記実施形態では、インホイール・モータ9がブラシレスDCモータである場合を示したが、この駆動用電動モータの種類は任意である。さらに、このように後輪2の車軸に直結されたインホイール・モータ9に限らず、伝動装置を介して後輪2を駆動する他の駆動用電動モータを用いることもできる。
【0050】
また、上記実施形態では、回転ペダル駆動制御手段16や発進スイッチ駆動制御手段17等をマイクロコンピュータ15によって構成する場合を示したが、これらの構成は任意であり、通常のディジタル回路やアナログ回路、その他の制御手段によって構成することもできる。
【0051】
また、上記実施形態では、電動車が前輪1と後輪2と左右の補助輪3、3からなる四輪車である場合を示したが、この電動車は、駆動用電動モータによって駆動される駆動輪がどこかに少なくとも1輪ある車両であればよく、例えば補助輪3、3のない二輪車や、前後二輪ずつの四輪車、前後いずれかが二輪の三輪車等、どのような車両であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の構成を示す全体側面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の構成を示す全体背面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すものであって、電動車の駆動制御部の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0053】
1 前輪
2 後輪
3 補助輪
4 サドル
5 ハンドル
6 ペダル
7 荷台
8 蓄電池
9 インホイール・モータ
10 回転速度検出器
11 グリップ
12 発進スイッチ
13 ポール
14 着座検出器
15 マイクロコンピュータ
16 回転ペダル駆動制御手段
17 発進スイッチ駆動制御手段
18 着座制御手段
19 回転ペダル優先手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が足で踏んで回転させるペダルと、このペダルの回転速度を検出する回転速度検出器と、この回転速度検出器が検出したペダルの回転速度に応じて、駆動輪を駆動するための駆動用電動モータを駆動制御する回転ペダル駆動制御手段とを備えた電動車において、
運転者がOFFからONに操作する発進スイッチと、この発進スイッチがONの場合に、駆動用電動モータを所定のプログラムに従って駆動制御する発進スイッチ駆動制御手段とを備えたことを特徴とする電動車。
【請求項2】
前記発進スイッチがONであり、回転速度検出器がペダルの所定速度以上の回転を検出している場合、発進スイッチ駆動制御手段ではなく回転ペダル駆動制御手段によって駆動用電動モータの駆動制御を行わせる回転ペダル駆動制御優先手段が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の電動車。
【請求項3】
前記電動車が、運転者が運転席に着座したことを検出する着座検出器と、この着座検出器が着座を検出しない場合には、回転ペダル駆動制御手段による駆動用電動モータの駆動制御を制限し、かつ、この着座検出器による着座の検出の有無にかかわらず、発進スイッチ駆動制御手段による駆動用電動モータの駆動制御を制限しない着座制御手段とを備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120599(P2010−120599A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298427(P2008−298427)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】