説明

電圧補償装置及び直流給電システム

【課題】抵抗を介して接地された正・負の電力供給線によって電源装置から負荷へ直流電圧を供給すると共に負荷への直流電圧供給をバックアップするための電圧補償装置を備えた直流給電システムにおいて、意図しない接地電流の発生を防止する。
【解決手段】整流装置2から負荷3への直流電圧が低下したときのバックアップ用に、中点が接地された蓄電池10を有すると共にこの蓄電池10の正極側及び負極側の双方にそれぞれ昇降圧チョッパからなる各電力変換装置11,12が接続された、電圧補償装置5を備えている。電圧補償装置5による負荷3への電力供給時に蓄電池電圧Vbが低下すると、各昇降圧チョッパ14,15が動作して蓄電池電圧Vbの低下分を補う。各昇降圧チョッパ14,15からは、それぞれ同じ電圧値の電圧が出力されるため、蓄電池10の接地点と各電力供給線6,7の間の電圧は均一となり、接地電流が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷への電力を直流で供給する直流給電システムと、この直流給電システムにおいて負荷電圧を補償するために用いられる電圧補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信システムにおいて使用される情報通信機器の増加に伴い、情報通信システムで消費される電力も増加している。そのため、情報通信システムで使用される各種の情報通信機器へ効率良く給電するための給電システムとして、直流で給電する直流給電システムが注目されており、特に、例えば直流400Vといった高い電圧で電力を供給する高電圧直流給電システムによって高効率化を目指す動きが進んでいる。
【0003】
このような直流給電システムでは、電源装置から負荷へ供給される直流電圧が何らかの原因で低下した場合のバックアップ用として、蓄電池を有する電圧補償装置を設け、電源装置からの直流電圧の低下時にはこの電圧補償装置によって負荷への直流電圧を補償する(即ち、電源装置に代わってこの電圧補償装置が負荷へ直流電圧を供給する)のが一般的である。
【0004】
電圧補償装置は、電源装置から負荷へ電力を供給する正・負2本の電力供給線の間に蓄電池を接続するだけの構成とすることもできるが、蓄電池の電圧によっては負荷へ十分な直流電圧を供給できないおそれがある。そこで、蓄電池に加えてこの蓄電池の電圧を昇圧又は降圧する電力変換器を設け、この電力変換器によって蓄電池の電圧低下分を補うように構成された電圧補償装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)
特許文献1には、バックアップ用のバッテリの電圧を昇圧する昇圧回路を設け、この昇圧回路の出力電圧を2本の電力供給線間に供給する技術が記載されている。
【0005】
ところで、直流給電システムとして、電源装置から負荷への2本の電力供給線をそれぞれ抵抗値の高い抵抗を介して共通の接地点に接地するという、高抵抗接地方式のシステムが知られている。また、そのように各電力供給線が高抵抗で接地された直流給電システムでは、一般に、蓄電池内部も接地される。高抵抗接地方式の直流給電システムにおける各抵抗の抵抗値は通常は同じ値に設定されることから、それに合わせて、蓄電池内部における接地点も、蓄電池の正極と負極の間の中点に設定される。
【0006】
このように構成された高抵抗接地方式の直流給電システムにおいても、蓄電池の電圧低下を補うために、電力変換器を有する電圧補償装置を設けることが有用である。そして、その具体的方法としては、例えば特許文献1に記載の技術と同様に、蓄電池の電圧を昇圧する昇圧回路を設ける方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−15888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように各電力供給線が抵抗を介して接地されると共に蓄電池内部も接地された高抵抗接地方式の直流給電システムにおいて、蓄電池の電圧低下分を補うために、特許文献1に記載されているような、昇圧回路からなる電圧補償装置を設ける方法を採用すると、負荷への直流電圧を補償することは可能であるものの、接地用の上記各抵抗を介して接地電位側へ意図しない電流(接地電流)が流れてしまう。
【0009】
即ち、昇圧回路によって蓄電池電圧を昇圧することから、蓄電池内の接地点(接地電位)と負極側の電力供給線の間の電圧に対し、蓄電池内の接地点と正極側の電力供給線の間の電圧の方が、昇圧した分だけ高くなる。この電圧の相違によって、電圧補償装置の正極側(即ち蓄電池の正極側)から正極側の電力供給線及びこれに接続された接地用の抵抗を経て蓄電池の接地点に戻るループを流れる電流と、電圧補償装置の負極側(即ち蓄電池の負極側)から負極側の電力供給線及びこれに接続された接地用の抵抗を経て蓄電池の接地点に戻るループを流れる電流とのバランスが崩れ、その結果、各抵抗の接地点と蓄電池の接地点との間に意図しない接地電流が流れてしまうのである。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、直流電圧を出力する電源装置からの電力を抵抗接地された正・負2本の電力供給線によって負荷へ供給するよう構成された直流給電システムに用いられ、電源装置からの直流電圧が低下した場合に負荷への直流電圧を補償するために設けられた電圧補償装置において、当該電圧補償装置の動作に伴って意図しない接地電流が流れるのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、直流電圧を出力する電源装置からの電力を、それぞれ同じ抵抗値の抵抗を介して接地された正・負の電力供給線である正極側電力供給線及び負極側電力供給線によって負荷へ供給するよう構成された直流給電システムにおいて、正極側電力供給線と負極側電力供給線の間に設けられ、電源装置から負荷へ供給される直流電圧が所定電圧値より低くなった場合に負荷を動作させるための直流電圧を補償する電圧補償装置である。
【0012】
そして、本発明(請求項1)の電圧補償装置は、負荷へ上記補償用の直流電圧を供給するための、正極と負極の間の中点が接地された蓄電池と、補償電圧生成手段とを備えている。
【0013】
補償電圧生成手段は、蓄電池の電圧を元に、正極側電力供給線の電位を蓄電池の正極の電位よりも所定の正極側補償電圧だけ高くすると共に、蓄電池の電圧を元に、負極側電力供給線の電位を蓄電池の負極の電位よりも所定の負極側補償電圧だけ低くする。
【0014】
このように構成された請求項1に記載の電圧補償装置は、電源装置から負荷へ直流電圧が正常に供給されている間は、負荷への直流電圧の補償、即ち当該電圧補償装置から負荷への直流電圧供給は行わない。そして、何らかの原因によって電源装置から負荷への直流電圧が所定電圧値より低くなった場合に、負荷への直流電圧を補償する。即ち、電圧補償装置が電源装置に代わって負荷へ直流電圧を供給する。
【0015】
このとき、蓄電池の電圧が負荷を動作させるのに必要な電圧よりも低くなっていると、蓄電池による負荷への直流電圧の補償は困難となるが、補償電圧生成手段を備えていることから、蓄電池の電圧不足分をこの補償電圧生成手段によって補うことができる。つまり、各電力供給線の間に蓄電池の電圧よりも高い直流電圧を印加して負荷へ供給することができる。
【0016】
しかも、補償電圧生成手段は、各電力供給線のうち一方のみ(例えば正極側電力供給線のみ)についてその電位を蓄電池における対応する電極(本例では正極)とは異なるようにする(本例では蓄電池の正極よりも高い電位とする)のではなく、各電力供給線の双方に対して、正極側電力供給線については蓄電池の正極電位よりも正極側補償電圧だけ高く、負極側電力供給線につては蓄電池の負極電位よりも負極側補償電圧だけ低くなるようにする。
【0017】
接地電位を基準にした表現で言い換えると、補償電圧生成手段は、接地電位と正極側電力供給線の間の電圧を接地電位と蓄電池の正極の間の電圧よりも正極側補償電圧だけ高くすると共に、負極側電力供給線と接地電位の間の電圧についても蓄電池の負極と接地電位の間の電圧よりも負極側補償電圧だけ高くするように動作する。つまり、接地電位と各電力供給線の電位差が共に大きくなるように動作するということである。
【0018】
従って、請求項1に記載の電圧補償装置によれば、補償電圧生成手段による、各電力供給線間に蓄電池の電圧よりも高い電圧を供給する動作が、接地電位と各電力供給線の間の電圧を互いに適切なバランスにて昇圧させることで実現できるため、これにより意図しない接地電流が流れるのを防止することが可能となる。
【0019】
ここで、正極側補償電圧及び負極側補償電圧は、負荷への直流電圧を補償可能な範囲内で且つ接地電流を抑止できるような値に適宜設定すればよいが、より具体的には、例えば請求項2に記載のように設定するとよい。
【0020】
即ち、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電圧補償装置であって、補償電圧生成手段は、正極側補償電圧と負極側補償電圧を同じ電圧値に設定する。
このように構成された請求項2に記載の電圧補償装置によれば、接地電位と正極側電力供給線の間の電圧と、接地電位と負極側電力供給線の間の電圧が、同じ電圧値となるため、意図しない接地電流が流れるのを確実に防止することが可能となる。
【0021】
ところで、正極側補償電圧及び負極側補償電圧を上記請求項2に記載のように設定すれば、少なくとも理論的には、意図しない接地電流を防止することができる。しかし実際には、例えば蓄電池内の電圧のばらつきや各抵抗の抵抗値の公差、電圧補償装置と各抵抗の間に存在する各種回路定数などの様々な要因により、単に各補償電圧を同じ電圧値に設定するだけでは接地電流を効果的に防止できない場合が起こりうる。
【0022】
そこで、意図しない接地電流をより確実に防止するために、例えば請求項3に記載のように電圧補償装置を構成するとよい。
即ち、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電圧補償装置であって、蓄電池から各抵抗を介して接地電位側へ流れる接地電流を検出する接地電流検出手段を備えている。そして、補償電圧生成手段は、接地電流検出手段により検出される接地電流が所定の電流値以下となるように、正極側補償電圧及び負極側補償電圧の電圧値をそれぞれ個別に設定する。
【0023】
つまり、接地電流を防止するという目的を確実に達成するために、その接地電流を実際に検出し、その検出値が所定の電流値以下となるように各補償電圧の電圧値を個別設定するのである。所定の電流値は適宜設定することができ、例えば0に設定してもよい。
【0024】
個別設定の具体的方法は種々考えられ、例えば、接地電位側から蓄電池内の接地点に向かう方向に接地電流が流れているならば、正極側補償電圧をより低くするか或いは負極側補償電圧をより高くすることによってその接地電流を低下・防止することができる。また例えば、蓄電池内の接地点から接地電位側に向かう方向に接地電流が流れているならば、負極側補償電圧をより低くするか或いは正極側補償電圧をより高くすることによってその接地電流を低下・防止することができる。
【0025】
従って、請求項3に記載の電圧補償装置によれば、接地電流を実際に検出してその検出値が所定の電流値以下となるように各補償電圧の電圧値が設定されるため、意図しない接地電流が流れるのをより確実に防止することが可能となる。
【0026】
次に、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電圧補償装置であって、補償電圧生成手段は、正極側電力変換手段と負極側電力変換手段を備えている。正極側電力変換手段は、蓄電池と正極側電力供給線の間に設けられ、入力される蓄電池の電圧を元に正極側補償電圧を生成して出力する。負極側電力変換手段は、蓄電池と負極側電力供給線の間に設けられ、入力される蓄電池の電圧を元に負極側補償電圧を生成して出力する。
【0027】
このように、各補償電圧を生成するために各補償電圧毎にそれぞれ電力変換手段を備えることで、各電力供給線から電圧補償装置をみた抵抗(電圧補償装置内の内部抵抗)も適切なバランスとなる。即ち、例えば同じ構成の電力変換器を備えるようにすれば各電力供給線からみた電圧補償装置の内部抵抗を同じ値にすることができる。そのため、接地電流の防止効果をさらに高めることができる。
【0028】
ここで、各電力変換手段の具体的構成は種々考えられ、例えば入力側と出力側が変圧器によって絶縁された絶縁型の構成としてもよいが、例えば請求項5に記載のように、正極側電力変換手段及び負極側電力変換手段の少なくとも一方を、入力側と出力側が絶縁されていない非絶縁型にて構成するようにしてもよい。
【0029】
電力変換手段を非絶縁型にて構成すれば、絶縁型にて構成する場合と比較して、例えば絶縁用の変圧器が不要になるなど、電力変換手段を構成する部品点数を削減でき、これにより電力変換手段の小型化・高効率化が可能となる。
【0030】
そして、上記のように各電力変換手段の少なくとも一方を非絶縁型にて構成する場合は、更に、例えば請求項6に記載のように、正極側電力変換手段及び負極側電力変換手段をいずれも、入力電圧を昇圧又は降圧可能であると共に入力電圧に対して正・負の極性が反転した電圧が出力される昇降圧チョッパ回路にて構成するようにしてもよい。
【0031】
各補償電圧を生成するための各電力変換器として昇降圧チョッパを用いれば、蓄電池電圧を昇圧又は降圧できるため、蓄電池電圧の変動に応じて各補償電圧を適切且つ確実に生成することができる。しかも、昇降圧チョッパは入力と出力の極性が反転する構成であるため、蓄電池の正極と正極側電力供給線の間、及び蓄電池の負極と負極側電力供給線の間の双方に容易に設けることができる。
【0032】
次に、請求項7に記載の発明は、請求項4〜請求項6の何れか1項に記載の電圧補償装置であって、正極側電力変換手段及び負極側電力変換手段は、スイッチング方式の電力変換回路にて構成され、各々が有するスイッチング素子を、互いに位相差を持った駆動信号に従ってオン・オフさせることにより、対応する補償電圧を生成する。
【0033】
スイッチング方式の電力変換回路は、スイッチング素子をオン・オフ制御することによって電力変換を行う構成であるため、出力電圧にはリプルが含まれる。そのため、例えば正極側電力変換手段と負極側電力変換手段の双方のスイッチング素子を同じタイミングでオン・オフさせると、リプルの変化も同じタイミングで生じ、その結果、電圧補償装置から負荷へ出力される直流電圧には、各電力変換手段によるリプルが加算された大きなリプルが含まれてしまう。しかも、蓄電池から放電される電流のピーク値も大きくなってしまう。
【0034】
このリプルは、電力変換回路が通常有している出力平滑用のフィルタによってある程度低減することは可能であるが、低減効果をより大きくしようとするとフィルタの大型化を招く。
【0035】
そこで、請求項7に記載の電圧補償装置では、各電力変換手段における各スイッチング素子を同じタイミングでオン・オフさせるのではなく、互いに位相差を持った駆動信号に従ってオン・オフさせる。
【0036】
このような構成により、各電力変換手段から出力される各補償電圧に含まれるリプルの位相にもずれが生じるため、電圧補償装置から負荷へ出力される直流電圧全体のリプルを低減することができる。そのため、各電力変換手段における出力平滑用のフィルタを小型化することができ、コストダウンが可能となる。また、蓄電池から放電される電流のピーク値を低減することもできるため、蓄電池の長寿命化が図られてその信頼性が向上する。
【0037】
次に、請求項8に記載の発明は、直流電圧を出力する電源装置からの電力を、それぞれ同じ抵抗値の抵抗を介して接地された正・負の電力供給線である正極側電力供給線及び負極側電力供給線によって負荷へ供給するよう構成された直流給電システムであって、正極側電力供給線と負極側電力供給線の間に、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の電圧補償装置が設けられている。
【0038】
このように構成された直流給電システムによれば、何らかの原因によって電源装置からの直流電圧が低下した場合には、負荷への直流電圧供給が電圧補償装置によって補償される。しかもその電圧補償装置として、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の電圧補償装置が用いられるため、上述した各請求項と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態の直流給電システムの概略構成を表す構成図である。
【図2】第1実施形態の電圧補償装置の概略構成を表す構成図である。
【図3】第1実施形態の電圧補償装置の動作を説明するための説明図である。
【図4】第1実施形態の電圧補償装置の動作を説明するための説明図である。
【図5】第2実施形態の電圧補償装置の概略構成を表す構成図である。
【図6】電圧補償装置の変形例を表す構成図である。
【図7】電圧補償装置の変形例を表す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
[第1実施形態]
図1に、本実施形態の直流給電システムの概略構成を示す。図1に示すように、本実施形態の直流給電システム1は、負荷3への電力供給を直流で行うよう構成されたシステムであって、主として、外部から入力される三相交流電圧を所定の直流電圧(本例では400V)に変換して出力する整流装置2と、この整流装置2から出力された直流電圧を負荷3へ供給するための正極側電力供給線6及び負極側電力供給線7と、整流装置2から負荷3へ供給される直流電圧が所定電圧値より低くなった場合に負荷3を動作させるための直流電圧を補償する電圧補償装置5と、を備えている。
【0041】
各電力供給線6,7の間には、抵抗値の大きい(本例では数十kΩ)2つの抵抗(以下「高抵抗」ともいう)R1,R2が直列に接続されている。各高抵抗R1,R2はいずれも同じ抵抗値であり、その中点、即ち各高抵抗R1,R2の接続点は接地されている。
【0042】
つまり、本実施形態の直流給電システム1は、各電力供給線6,7がそれぞれ高抵抗R1,R2を介して接地された高抵抗接地系・中点接地方式のシステムとして構成されている。そのため、整流装置2から400Vの直流電圧が出力されると、接地電位に対する正極側電力供給線6の電位は200Vとなり、接地電位に対する負極側電力供給線7の電位は−200Vとなる。
【0043】
また、各電力供給線6,7の間には、電圧補償装置5が設けられている。この電圧補償装置5は、正極と負極の間の中点が接地された、所定の定格電圧(本例では380V)の蓄電池10と、この蓄電池10の正極側、より詳しくは蓄電池10の正極と正極側電力供給線6の間に接続されたハイサイド電力変換器11と、蓄電池10の負極側、より詳しくは蓄電池10の負極と負極側電力供給線7の間に接続されたローサイド電力変換器12と、これら各電力変換器11,12の動作を制御する制御部13とを備えている。つまり、電圧補償装置5は、蓄電池10の正極側及び負極側にそれぞれ各電力変換器11,12が対称に接続された構成となっている。
【0044】
蓄電池10の正極側に接続されたハイサイド電力変換器11は、アノードが蓄電池10の正極に接続されてカソードが正極出力端子8を介して正極側電力供給線6に接続されたダイオードD1と、蓄電池10の電圧(以下「蓄電池電圧」という)Vbを元に、正極側電力供給線6の電圧を蓄電池10の正極の電位よりも所定のハイサイド補償電圧VoutHだけ高くするためのハイサイド昇降圧チョッパ14を備えている。
【0045】
このハイサイド昇降圧チョッパ14は、入力される蓄電池電圧Vbを昇圧又は降圧することによりハイサイド補償電圧VoutHを生成し、ダイオードD1の両端へ出力する。
蓄電池10の負極側に接続されたローサイド電力変換器12は、カソードが蓄電池10の負極に接続されてアノードが負極出力端子9を介して負極側電力供給線7に接続されたダイオードD2と、蓄電池電圧Vbを元に、負極側電力供給線7の電圧を蓄電池10の負極の電位よりも所定のローサイド補償電圧VoutLだけ低くするためのローサイド昇降圧チョッパ15を備えている。
【0046】
このローサイド昇降圧チョッパ15は、入力される蓄電池電圧Vbを昇圧又は降圧することによりローサイド補償電圧VoutLを生成し、ダイオードD2の両端へ出力する。なお、ダイオードD1とダイオードD2は電気的特性が同じものである。
【0047】
そして、本実施形態では、ハイサイド昇降圧チョッパ14から出力されるハイサイド補償電圧VoutHと、ローサイド昇降圧チョッパ15から出力されるローサイド補償電圧VoutLは、同じ電圧値である。
【0048】
制御部13は、蓄電池電圧Vbに基づき、ハイサイド昇降圧チョッパ14及びローサイド昇降圧チョッパ15からそれぞれ蓄電池電圧Vbに応じた適切な電圧値のハイサイド補償電圧VoutH及びローサイド補償電圧VoutLが出力されるよう、各昇降圧チョッパ14,15の動作を制御する。
【0049】
ここでいう適切な電圧値とは、電圧補償装置5から各電力供給線6,7を介して負荷3へ出力される直流電圧が負荷3を動作させるために必要な一定の電圧値(本例では380V)となるような電圧値である。
【0050】
そのため、蓄電池電圧Vb自体が380Vであれば、蓄電池10のみによって負荷3へ十分な直流電圧を供給できるため、制御部13は各昇降圧チョッパ14,15を動作させない。なお、各ダイオードD1,D2による電圧降下分についてはここでは無視することとする。
【0051】
これに対し、蓄電池電圧Vbが低下して蓄電池10のみでは負荷3へ十分な直流電圧を供給できない場合は、制御部13が各昇降圧チョッパ14,15を動作させて、各補償電圧VoutH,VoutLを出力させる。これにより、電圧補償装置5からは、蓄電池電圧Vbとローサイド補償電圧VoutLとハイサイド補償電圧VoutHが総和された電圧値(380V)が、負荷3へ出力されることとなる。
【0052】
このように構成された直流給電システム1において、電圧補償装置5は、整流装置2からの直流電圧が低下或いは遮断等された場合のバックアップ用に設けられている。そのため、整流装置2から負荷3へ直流電圧が正常に供給されている正常時には、電圧補償装置5から負荷3への電力供給は行われない。
【0053】
一方、例えば停電等によって整流装置2への三相交流電圧の入力が途絶えたり、整流装置2の故障などによって、整流装置2から負荷3への直流電圧が低下或いは遮断等されると、電圧補償装置5によるバックアップ動作が行われ、負荷3への直流電圧は引き続き正常な値(負荷3が動作可能な値)に保持される。つまり、電圧補償装置5が負荷3への全電力を供給するのである。
【0054】
具体的には、整流装置2から負荷3へ供給される直流電圧が所定電圧値より低くなった場合、即ち蓄電池電圧Vbよりも低くなった場合に、整流装置2からの直流電圧と蓄電池電圧Vbの大小関係が逆転することにより、蓄電池10からの放電(負荷3への出力)が始まる。
【0055】
このとき、蓄電池電圧Vb自体が380Vあるならば、既述の通り、各昇降圧チョッパ14,15は動作せず、蓄電池電圧Vbが各ダイオードD1,D2を介して負荷3へ出力される。一方、蓄電池電圧Vbが380Vより低くなって蓄電池10のみでは負荷3へ十分な直流電圧を供給できなくなると、各昇降圧チョッパ14,15が動作して、蓄電池電圧Vbの低下分が補われる。
【0056】
ところで、本実施形態では、既述の通り、ハイサイド補償電圧VoutHとローサイド補償電圧VoutLが同じ値に設定されているが、これは、蓄電池10から各高抵抗R1,R2を介して接地電位側へ接地電流が流れないようにするためである。
【0057】
仮に、ハイサイド補償電圧VoutHとローサイド補償電圧VoutLを異なる値にすると、蓄電池10がその内部において中点が接地されていることから、その接地点と正極側電力供給線6の間の電圧と、接地点と負極側電力供給線7の間の電圧が、異なる電圧値となる。これに対し、各高抵抗R1,R2は、既述の通り同じ抵抗値である。
【0058】
そのため、電圧補償装置5の正極側(正極出力端子8)から、正極側電力供給線6、これに接続された高抵抗R1、及び接地線(図示略)を経て蓄電池10内の接地点に戻るループを流れる電流と、電圧補償装置5の負極側(負極出力端子9)から、負極側電力供給線7、これに接続された高抵抗R2、及び接地線を経て蓄電池10内の接地点に戻るループを流れる電流とのバランスが崩れ、その結果、各高抵抗R1,R2の接地点と蓄電池10の接地点との間の接地線に意図しない接地電流が流れてしまうのである。
【0059】
そこで本実施形態では、そのような意図しない接地電流が流れるのを防止すべく、ハイサイド補償電圧VoutHとローサイド補償電圧VoutLを同じ電圧値とし、接地電位と各電力供給線6,7の間の電圧が等しくなるようにしている。このように、各昇降圧チョッパ14,15からの出力電圧を均一に制御することで、接地電流が防止される。
【0060】
なお、本実施形態では、蓄電池10の充電は、浮動充電ではなく、別途設けられた充電装置4によって行われる。充電装置4は、外部から入力される三相交流電圧から充電用の充電電圧を生成して蓄電池10へ出力し、蓄電池10を充電する。ただし、このように充電装置4によって蓄電池10を充電する構成はあくまでも一例であり、蓄電池10の充電方式は特に限定されるものではない。
【0061】
次に、電圧補償装置5を構成する各昇降圧チョッパ14,15及び制御部13の構成について、図2を用いて説明する。図2は、電圧補償装置5の概略構成を表す構成図であり、特に、各昇降圧チョッパ14,15及び制御部13のより具体的な構成を表したものである。
【0062】
図2に示すように、ハイサイド昇降圧チョッパ14は、入力と出力が絶縁されていない非絶縁型の電力変換器であり、一端が蓄電池10の正極に接続されたリアクトルL1と、ドレインがリアクトルL1の他端に接続されてソースがローサイド昇降圧チョッパ15内のダイオードD17を介して蓄電池10の負極に接続されたMOSFET(以下「ハイサイドスイッチ」という)16と、一端がリアクトルL1の一端に接続されたコンデンサC1と、アノードがリアクトルL1の他端に接続されてカソードがコンデンサC1の他端に接続されたダイオードD11と、アノードがコンデンサC1の他端に接続されてカソードがダイオードD1のカソードに接続(即ち正極出力端子8に接続)されたダイオードD12を備えてなるものである。そして、ハイサイドスイッチ16のゲートには制御部13からのハイサイド駆動信号SP1が入力される。なお、リアクトルL1及びコンデンサC1からなる回路は、出力電圧(ハイサイド補償電圧VoutH)のリプルを低減するための出力平滑用フィルタとしても機能する。
【0063】
このように構成されたハイサイド昇降圧チョッパ14は、制御部13からのハイサイド駆動信号SP1によってハイサイドスイッチ16がオン・オフされることで、入力される蓄電池電圧Vbがハイサイド補償電圧VoutHに変換される。なお、ハイサイドスイッチ16のスイッチングによってハイサイド補償電圧VoutHが生成される原理は、一般によく知られた昇降圧チョッパ回路と基本的に同じであるため、ここではその説明を省略する(次に述べるローサイド昇降圧チョッパ15も同様)。
【0064】
ローサイド昇降圧チョッパ15も、入力と出力が絶縁されていない非絶縁型の電力変換器であり、ドレインが蓄電池10の正極に接続されたMOSFET(以下「ローサイドスイッチ」という)17と、一端がローサイドスイッチ17のソースに接続されたリアクトルL2と、一端がリアクトルL2の他端に接続されて他端がダイオードD2のアノードに接続(即ち負極出力端子9に接続)されたコンデンサC2と、アノードがコンデンサC2の他端に接続されてカソードがローサイドスイッチ17のソースに接続されたダイオードD16と、アノードがリアクトルL2とコンデンサC2の接続点に接続されてカソードが蓄電池10の負極に接続されたダイオードD17を備えてなるものである。そして、ローサイドスイッチ17のゲートには制御部13からのローサイド駆動信号SP2が入力される。なお、リアクトルL2及びコンデンサC2からなる回路は、出力電圧(ローサイド補償電圧VoutL)のリプルを低減するための出力平滑用フィルタとしても機能する。
【0065】
このように構成されたローサイド昇降圧チョッパ15は、制御部13からのローサイド駆動信号SP2によってローサイドスイッチ17がオン・オフされることで、入力される蓄電池電圧Vbがローサイド補償電圧VoutLに変換される。
【0066】
昇降圧チョッパは、一般に、入力に対して出力の極性が反転するという性質がある。そのため、本実施形態では、蓄電池10の正極側及び負極側に設ける各電力変換器11,12として、昇降圧チョッパを用いることで、蓄電池10の正極に対して正極側電力供給線6の電位を高くすること、及び蓄電池10の負極に対して負極側電力供給線7の電位を低くすること、の双方を容易に実現している。
【0067】
制御部13は、蓄電池電圧Vbを検出する電圧検出部13aと、この電圧検出部13aによって検出された蓄電池電圧Vbに基づいて、ハイサイドスイッチ16を駆動するための駆動デューティと駆動タイミング、及びローサイドスイッチ17を駆動するための駆動デューティと駆動タイミングを演算してその演算結果を示す駆動指令を出力するマイコン13bと、マイコン13bからの駆動指令に基づいてハイサイドスイッチ16の駆動用のハイサイド駆動信号SP1及びローサイドスイッチ17の駆動用のローサイド駆動信号SP2を生成して出力する駆動部13cと、を備えている。
【0068】
各駆動信号SP1,SP2は、対応する各スイッチ16,17をオン・オフさせるための所定のデューティ比のパルス信号であり、ハイレベルのときに対応するスイッチがオンし、ローレベルのときにオフする。各駆動信号SP1,SP2の駆動デューティは、生成すべきハイサイド補償電圧VoutH及びローサイド補償電圧VoutLの値に応じて決められる。
【0069】
一方、各駆動信号SP1,SP2の出力タイミングは同じではなく、互いに位相差を持って出力される。その一例を、図3及び図4に示す。なお、図3及び図4における、ハイサイドスイッチ及びローサイドスイッチの波形(ON・OFFの変化)は、そのまま、対応する駆動信号のハイ・ローの変化と見なすことができる。
【0070】
図3は、各駆動信号SP1,SP2の駆動デューティが50%である場合の例である。駆動デューティが50%であるため、各スイッチ16,17はいずれも、オン期間とオフ期間が同じである。そして、ハイサイド補償電圧VoutHは、ハイサイドスイッチ16がオンすると減少してオフすると増加に転じる。つまり、ハイサイド補償電圧VoutHはリプル分を含む電圧となる。ローサイド補償電圧VoutLについても同様である。
【0071】
そのため、仮に、ハイサイドスイッチ16とローサイドスイッチ17を同じタイミングでオン・オフすると、各補償電圧VoutH,VoutLの変動パターンが同じであるため、リプル分が相加的に増大してしまう。また、蓄電池10から放電される電流のピーク値も上昇してしまう。
【0072】
そこで本実施形態では、各駆動信号SP1,SP2に互いに位相差(本例では180度)を持たせ、ハイサイドスイッチ16がオンしていてハイサイド補償電圧VoutHが減少する期間は、ローサイドスイッチ17はオフしてローサイド補償電圧VoutLが増加するようにし、一方、ハイサイドスイッチ16がオフしていてハイサイド補償電圧VoutHが増加する期間は、ローサイドスイッチ17はオンしてローサイド補償電圧VoutLが減少するようにしている。なお、駆動デューティが50%の場合に180度の位相差を持たせるということは、換言すれば、図3からも明らかなように、一方の駆動信号の論理を反転させたものをそのまま他方の駆動信号とすることができるということである。
【0073】
このように、各駆動信号SP1,SP2の位相を180度ずらすことで、ハイサイド補償電圧VoutHのリプルとローサイド補償電圧VoutLのリプルが互いに相殺され、その結果、電圧補償装置5から負荷3へ、リプルが低減された直流電圧(負荷電圧VL)が供給される。また、蓄電池10から放電される電流のピーク値も抑制できる。
【0074】
図4は、各駆動信号SP1,SP2の駆動デューティが70%である場合であって、互いに180度の位相差を有する場合の例である。この場合も、ハイサイドスイッチ16のオン・オフタイミングとローサイドスイッチ17のオン・オフタイミングにずれが生じるため、負荷3へ出力される直流電圧のリプル低減や蓄電池10から放電される電流のピーク値を抑制できるといった効果が得られる。
【0075】
尚、図3及び図4の例では、いずれも各駆動信号SP1,SP2の位相差を180度としたが、これはあくまでも一例であり、具体的にどの程度の位相差を持たせるかについては適宜決めることができる。
【0076】
以上説明したように、本実施形態の高抵抗接地系・中点接地方式の直流給電システム1では、整流装置2から負荷3への直流電圧が低下したときのバックアップ用の電圧補償装置5として、中点が接地された蓄電池10を有すると共に、この蓄電池10の正極側及び負極側の双方にそれぞれ、昇降圧チョッパからなる電力変換装置が接続されたものが用いられている。
【0077】
そして、蓄電池電圧Vbが正常であるときは各昇降圧チョッパ14,15は動作せずに蓄電池10から負荷3へ直流電圧が供給される。このとき、蓄電池10の正極側及び負極側の双方に電力変換器が対称配置されていることから、蓄電池10の接地点と各電力供給線6,7の間の電圧は均一となり、接地電流が確実に防止される。
【0078】
一方、蓄電池電圧Vbの低下によって各昇降圧チョッパ14,15からの出力電圧がその低下分を補う場合、各昇降圧チョッパ14,15からは、それぞれ、同じ電圧値の電圧(ハイサイド補償電圧VoutH、ローサイド補償電圧VoutL)が出力される。そのため、この場合も、蓄電池10の接地点と各電力供給線6,7の間の電圧は均一となり、接地電流が確実に防止される。
【0079】
また、各電力変換器11,12は、いずれも、非絶縁型の電力変換器(具体的にはハイサイド昇降圧チョッパ14,ローサイド昇降圧チョッパ15)にて構成されている。そのため、絶縁型の電力変換器にて構成する場合と比較して、例えば絶縁用の変圧器が不要になるなど、電力変換器を構成する部品点数を削減できる。そして、電力変換器の小型化・高効率化が可能となる。
【0080】
また、図3及び図4を用いて説明したように、各昇降圧チョッパ14,15のスイッチングは、互いに位相差を有する駆動パルスSP1,SP2に従って行われるため、電圧補償装置5から負荷3へ出力される直流電圧全体のリプルを低減することができる。そのため、各昇降圧チョッパ14,15における出力平滑用フィルタを小型化することができ、コストダウンが可能となる。また、蓄電池10から放電される電流のピーク値を低減することもできるため、蓄電池10の長寿命化が図られてその信頼性が向上する。
【0081】
なお、本実施形態において、ハイサイド補償電圧VoutHは本発明の正極側補償電圧に相当し、ローサイド補償電圧VoutLは本発明の負極側補償電圧に相当する。また、ハイサイド電力変換器11は本発明の正極側電力変換手段に相当し、ローサイド電力変換器12は本発明の負極側電力変換手段に相当する。
【0082】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の電圧補償装置について、図5を用いて説明する。図5に示すように、本実施形態の電圧補償装置20が第1実施形態の電圧補償装置5(図1,図2参照)と異なるのは、蓄電池10の中点と接地電位の間に、接地電流を検出するための電流検出抵抗R3が接続されていること、及び、この電流検出抵抗R3を用いて検出された接地電流に基づき、制御部21がハイサイド昇降圧チョッパ14のハイサイドスイッチ16及びローサイド昇降圧チョッパ15のローサイドスイッチ17をそれぞれ個別に制御することである。それ以外の構成については、第1実施形態の電圧補償装置5と同じであるため、第1実施形態と同じ構成要素には第1実施形態と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
本実施形態の電圧補償装置20では、電流検出抵抗R3における蓄電池10の中点との接続点の電圧が、制御部21内の電流検出部21aに入力される。この電流検出部21aに入力される電圧は、接地電流に応じた値である。そのため、電流検出部21aは、電流検出抵抗R3から入力された電圧に基づき、接地電流を検出する。そして、その検出した接地電流の値を示すデータ(接地電流検出データ)をマイコン21bへ出力する。
【0084】
マイコン21bは、入力された接地電流検出データに基づき、接地電流が所定の電流値以下となるように、各スイッチ16,17を個別に制御する。つまり、第1実施形態のようにハイサイド昇降圧チョッパ14からのハイサイド補償電圧VoutHとローサイド昇降圧チョッパ15からのローサイド補償電圧VoutLを同じ電圧値とするのではなく、接地電流が所定の電流値以下となるようにそれぞれ個別に設定するのである。なお、上記の所定の電流値は適宜決めることができ、0としてもよい。
【0085】
個別設定の具体的方法としては、例えば、接地電位側から蓄電池10内の接地点に向かう方向に接地電流が流れているならば、ハイサイド補償電圧VoutHをより低くするか或いはローサイド補償電圧VoutLをより高くすることによってその接地電流を低下・防止することができる。逆に、蓄電池10内の接地点から接地電位側に向かう方向に接地電流が流れているならば、ローサイド補償電圧VoutLをより低くするか或いはハイサイド補償電圧VoutHをより高くすることによってその接地電流を低下・防止することができる。
【0086】
なお、はじめから各補償電圧を個別に設定していくようにしてもよいが、例えば、最初は各補償電圧を第1実施形態と同じように同じ電圧値に設定し、そのときに検出される接地電流の値に基づいて、以後、各補償電圧の何れか一方又は双方を適宜個別に設定するようにしてもよい。
【0087】
このように構成された本実施形態の電圧補償装置20によれば、蓄電池10の電圧のばらつきや各高抵抗R1,R2の抵抗値の公差などといった様々な要因によって、単に各補償電圧を同じ電圧値に設定するだけでは接地電流を効果的に防止できない場合でも、接地電流をより確実に防止することが可能となる。
【0088】
[変形例]
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の実施の形態は、上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得ることはいうまでもない。
【0089】
例えば、上記実施形態では、電圧補償装置において蓄電池10の正極側及び負極側の双方に設ける各電力変換器11,12を、いずれも昇降圧チョッパにより構成した場合について示したが、双方を昇降圧チョッパとする構成はあくまでも一例である。
【0090】
例えば、双方ともにチョッパにより構成する場合は、ハイサイド電力変換器11を、昇圧チョッパにて構成することもできる。ハイサイド電力変換器11を昇圧チョッパにて構成した電圧補償装置の一例を、図6に示す。
【0091】
図6に示す電圧補償装置30は、第1実施形態の電圧補償装置5(図1,図2参照)において、ハイサイド昇降圧チョッパ14をハイサイド昇圧チョッパ31に変えたものである。
【0092】
図6に示すように、ハイサイド昇圧チョッパ31は、一端が蓄電池10の正極に接続されたリアクトルL21と、ドレインがリアクトルL2の他端に接続されてソースがローサイド昇降圧チョッパ15におけるダイオードD17のアノードに接続されたMOSFET(ハイサイドスイッチ)33と、アノードがハイサイドスイッチ33のドレインに接続されたダイオードD31と、一端がダイオードD31のカソードに接続されて他端がハイサイドスイッチのソースに接続されたコンデンサC21と、アノードがダイオードD31のカソードに接続されてカソードがダイオードD1のカソードに接続(即ち正極出力端子8に接続)されたダイオードD32を備えてなるものである。
【0093】
そして、ハイサイドスイッチ33のゲートには制御部32からのハイサイド駆動信号SP1が入力される。なお、リアクトルL21及びコンデンサC21からなる回路は、出力電圧(ハイサイド補償電圧VoutH)のリプルを低減するための出力平滑用フィルタとしても機能する。
【0094】
このように構成されたハイサイド昇圧チョッパ31は、制御部32からのハイサイド駆動信号SP1によってハイサイドスイッチ33がオン・オフされることで、入力される蓄電池電圧Vbよりも高い直流電圧が生成される。この生成された直流電圧は、蓄電池10の負極とダイオードD1のカソードの間に印加される構成となっている。
【0095】
そのため、このハイサイド昇圧チョッパ31からの出力電圧が、蓄電池電圧Vbよりもハイサイド補償電圧VoutHだけ高い電圧となるように、ハイサイド昇圧チョッパ31を制御すれば、結果として、正極側電力供給線6の電位を蓄電池10の正極の電位よりもハイサイド補償電圧VoutHだけ高くすることができ、上記各実施形態と同等の機能を有する電圧補償装置30が実現される。
【0096】
また、ここまでの説明では、電圧補償装置を構成する各電力変換器をいずれも非絶縁型の電力変換器により構成した場合について示したが、非絶縁型の電力変換器を用いることについても一例にすぎず、絶縁型の電力変換器を用いても良い。各電力変換器が絶縁型の電力変換器にて構成された電圧補償装置の一例を、図7に示す。
【0097】
図7に示す電圧補償装置40は、蓄電池10の電圧(蓄電池電圧Vb)を入力してこの蓄電池電圧Vbを一旦交流に変換する入力側変換器41と、蓄電池10の正極側に設けられたハイサイド出力側変換器42と、蓄電池10の負極側に設けられたローサイド出力側変換器43とを備えている。そして、これら各変換器41,42,43により、全体として1つの絶縁型の電力変換器が構成されている。
【0098】
なお、蓄電池10の正極に接続された各ダイオードD1,D12と、蓄電池10の負極に接続された各ダイオードD2,D17は、第1実施形態の電圧補償装置5においても同様に蓄電池10に接続されていたものである。そのため、第1実施形態と同じ符号を付している。
【0099】
入力側変換器41は、図示の如く、4つのスイッチング素子(MOSFET)51,52,53,54からなる周知のフルブリッジ型の電力変換回路(自励式の電圧型インバータ)であり、変圧器45の一次巻線L11へ交流電圧を供給する。なお、各スイッチング素子51,52,53,54のドレイン−ソース間にそれぞれ並列接続された各ダイオードD21,D22,D23,D24は、周知のフライバックダイオードである。また、入力側変換器41の入力側に並列接続されたコンデンサC11は、入力電圧を安定化させるためのものである。
【0100】
変圧器45は、二次側が、第1の二次巻線L12と第2の二次巻線L13の2つに分割された構成であり、各二次巻線L12,L13の巻数は同じである。そのため、各二次巻線L12,L13には、一次巻線L11の巻数と各二次巻線L12,L13の巻数との比率に応じた交流電圧が発生する。この変圧器45により、入力側と出力側が絶縁されることとなる。
【0101】
ハイサイド出力側変換器42は、第1の二次巻線L12に誘起された交流電圧を平滑化して直流電圧に変換するための、ダイオードD26、リアクトルL14,及びコンデンサC12からなる整流平滑化回路を備えている。
【0102】
同様に、ローサイド出力側変換器43は、第2の二次巻線L13に誘起された交流電圧を平滑化して直流電圧に変換するための、ダイオードD28、リアクトルL15,及びコンデンサC13からなる整流平滑化回路を備えている。
【0103】
そして、ハイサイド出力側変換器42とローサイド出力側変換器43は、いずれも同じ電圧値の直流電圧を出力する。
そのため、図7に示したような、絶縁型の電力変換器を有する電圧補償装置40によっても、第1実施形態の電圧補償装置5と同様に、接地電流を防止することができる。
【0104】
また、上記実施形態の直流給電システムは、整流装置2からの直流電圧が低下して蓄電池電圧Vbよりも低くなったときにその電圧差によって自然に蓄電池10から負荷3へ直流電圧が出力されるようになる構成であったが、これはあくまでも一例であり、例えば、蓄電池10と各電力供給線6,7をスイッチ等で遮断しておき、整流装置2からの直流電圧が所定の閾値以下となったときにスイッチ等をオンして蓄電池10から負荷3へ直流電圧を出力させるようにしてもよい。
【0105】
また、上記実施形態では、蓄電池電圧Vbが380Vより低くなって蓄電池10のみでは負荷3へ十分な直流電圧を供給できない状態となったときに各昇降圧チョッパ14,15が動作するものとして説明したが、蓄電池電圧Vbの大きさにかかわらず、電圧補償装置から負荷3への直流電圧の出力が開始されたらすぐに各昇降圧チョッパ14,15を動作させて、蓄電池電圧Vbよりも高い電圧値の直流電圧を負荷3へ出力するようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、三相交流電圧を整流装置2にて直流に変換することにより負荷動作用の直流電圧を生成したが、このような構成もあくまでも一例であり、負荷3へ直流電圧を供給するための電源側の構成(電圧補償装置は除く)は特に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0107】
1…直流給電システム、2…整流装置、3…負荷、4…充電装置、5,20,30,40…電圧補償装置、6…正極側電力供給線、7…負極側電力供給線、8…正極出力端子、9…負極出力端子、10…蓄電池、11…ハイサイド電力変換器、12…ローサイド電力変換器、13,21,32…制御部、13a…電圧検出部、13b,21b…マイコン、13c…駆動部、14…ハイサイド昇降圧チョッパ、15…ローサイド昇降圧チョッパ、16,33…ハイサイドスイッチ、17…ローサイドスイッチ、21a…電流検出部、31…ハイサイド昇圧チョッパ、41…入力側変換器、42…ハイサイド出力側変換器、43…ローサイド出力側変換器、45…変圧器、C1,C2,C11,C12,C13,C21,C22…コンデンサ、D1,D2,D11,D12,D16,D17,D21〜D24,D26,D28,D31,D32…ダイオード、L1,L2,L14,L15,L21…リアクトル、L11…一次巻線、L12…第1の二次巻線、L13…第2の二次巻線、R1,R2…高抵抗、R3…電流検出抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を出力する電源装置からの電力を、それぞれ同じ抵抗値の抵抗を介して接地された正・負の電力供給線である正極側電力供給線及び負極側電力供給線によって負荷へ供給するよう構成された直流給電システムにおいて、前記正極側電力供給線と前記負極側電力供給線の間に設けられ、前記電源装置から前記負荷へ供給される直流電圧が所定電圧値より低くなった場合に前記負荷を動作させるための直流電圧を補償する電圧補償装置であって、
前記負荷へ前記補償用の直流電圧を供給するための、正極と負極の間の中点が接地された蓄電池と、
前記蓄電池の電圧を元に、前記正極側電力供給線の電位を前記蓄電池の正極の電位よりも所定の正極側補償電圧だけ高くすると共に、前記蓄電池の電圧を元に、前記負極側電力供給線の電位を前記蓄電池の負極の電位よりも所定の負極側補償電圧だけ低くする、補償電圧生成手段を備えている
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電圧補償装置であって、
前記補償電圧生成手段は、前記正極側補償電圧と前記負極側補償電圧を同じ電圧値に設定する
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電圧補償装置であって、
前記蓄電池から前記各抵抗を介して接地電位側へ流れる接地電流を検出する接地電流検出手段を備え、
前記補償電圧生成手段は、前記接地電流検出手段により検出される前記接地電流が所定の電流値以下となるように、前記正極側補償電圧及び前記負極側補償電圧の電圧値をそれぞれ個別に設定する
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の電圧補償装置であって、
前記補償電圧生成手段は、
前記蓄電池と前記正極側電力供給線の間に設けられ、入力される前記蓄電池の電圧を元に前記正極側補償電圧を生成して出力する正極側電力変換手段と、
前記蓄電池と前記負極側電力供給線の間に設けられ、入力される前記蓄電池の電圧を元に前記負極側補償電圧を生成して出力する負極側電力変換手段と、
を備えていることを特徴とする電圧補償装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電圧補償装置であって、
前記正極側電力変換手段及び前記負極側電力変換手段の少なくとも一方は、入力側と出力側が絶縁されていない非絶縁型にて構成されている
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電圧補償装置であって、
前記正極側電力変換手段及び前記負極側電力変換手段は、いずれも、入力電圧を昇圧又は降圧可能であると共に入力電圧に対して正・負の極性が反転した電圧が出力される昇降圧チョッパ回路にて構成されている
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項7】
請求項4〜請求項6の何れか1項に記載の電圧補償装置であって、
前記正極側電力変換手段及び前記負極側電力変換手段は、スイッチング方式の電力変換回路にて構成され、各々が有するスイッチング素子を、互いに位相差を持った駆動信号に従ってオン・オフさせることにより、対応する前記補償電圧を生成する
ことを特徴とする電圧補償装置。
【請求項8】
直流電圧を出力する電源装置からの電力を、それぞれ抵抗を介して接地された正・負の電力供給線である正極側電力供給線及び負極側電力供給線によって負荷へ供給するよう構成された直流給電システムであって、
前記正極側電力供給線と前記負極側電力供給線の間に、請求項1〜請求項7の何れか1項に記載の電圧補償装置が設けられている
ことを特徴とする直流給電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−130610(P2011−130610A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287870(P2009−287870)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】