説明

電子制御装置

【課題】バックアップ対象となる情報が多いシステムにおいても、データ破壊に対する検出精度が高く、かつ局所的な処理負荷増大を防止した形で、データの損失を抑えた電子制御装置を提供する。
【解決手段】主電源復帰時に、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11が記憶したバックアップデータのSUM値を算出して、このSUM値を主電源遮断時に同様に算出したSUM値と比較し、一致しない場合であっても揮発性メモリ11の固有データと不揮発性メモリ12の固有データとが一致する場合、バックアップデータを初期化せずに保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロコンピュータ等に使用される揮発性メモリのバックアップに用いる電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロコンピュータ等に使用される揮発性メモリの情報を主電源遮断時にバックアップする手法として以下のようなものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
マイクロコンピュータが主電源の遮断を検知すると低電力消費モードが始まり、続いて揮発性メモリの情報をバックアップするモードが始まる。このバックアップモードでは、マイクロコンピュータが主電源の復帰を検知するとマイクロコンピュータにハードウェアリセットがかかり、スタートアッププログラムが実行される。スタートアップ処理が完了するとユーザ定義のイニシャル処理が実行され、このイニシャル処理中にバックアップされた揮発性メモリが破壊されているか否かの確認プログラムが実行される。データ破壊の有無はバックアップ対象となるデータそれぞれが、仕様的に取り得る値であるか否で判断される。マイクロコンピュータは、バックアップされたデータの値が仕様的に取り得る範囲から外れていた場合、データが破壊されたと判断し、該当のデータおよびそのデータが属する情報群の情報を全て初期化する。バックアップされたデータの値が範囲内であった場合には、マイクロコンピュータは、データの破壊がなかったとして該当データの初期化は行わない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−158814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の揮発性メモリのバックアップに用いる電子制御装置においては、データ破壊の有無は、バックアップされたデータの値が仕様的に取り得る値の範囲内にあるか否で判断されているため、実際にはデータ破壊が発生しているにも関わらず、データ破壊が無かったものと判断される場合がある。この破壊されたデータの使用用途によっては、破壊後のデータ値が仕様的に取り得る範囲内であっても、データが参照されるタイミング、または動作環境において、取り得ないデータ値となっている場合がある。このとき、プログラムの暴走にいたらなくとも、システム動作で異常と判断される事象に至ることがある。
【0006】
また、バックアップの対象データそれぞれに対し、仕様的に取り得る値の範囲内にあるか否かの判断処理の実行が必要であるため、バックアップ対象データが追加された場合、追加データに対する判断処理も追加が必要になる。したがって、拡張性や汎用性に欠け、多くのデータをバックアップ対象としようとしたシステムには向かない。
【0007】
また、データが破壊されていると判断された場合、該当データは無条件に初期化されてしまい復旧できないため、データの損失が大きいという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、バックアップ対象となる情報が多いシステムにおいても、データ破壊に対する検出精度が高く、かつ局所的な処理負荷増大を防止した形で、データの損失を抑えた電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、制御手段が、揮発性記憶手段が記憶したバックアップデータに基づいて算出した値が主電源遮断時と主電源復帰時とで一致するか否か、および、主電源復帰時に揮発性記憶手段の固有データと不揮発性記憶手段の固有データとが一致するか否かによって揮発性記憶手段のバックアップデータの破壊の有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、バックアップ対象となる情報が多いシステムにおいても、データ破壊に対する検出精度が高く、かつ局所的な処理負荷増大を防止した形で、データの損失を抑えた電子制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における自動車エンジンの電子制御装置のブロック図
【図2】同図1の要部である揮発性メモリ11の内部構成を説明する図
【図3】同図1の要部であるマイクロコンピュータ2による主電源遮断時のバックアップ処理のフローチャート図
【図4】同図1の要部であるマイクロコンピュータ2による主電源復帰時のバックアップ処理のフローチャート図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の電子制御装置について、自動車エンジンの電子制御装置を例にとり図面を用いて説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態における自動車エンジンの電子制御装置のブロック図である。図1において、自動車エンジンの電子制御装置1はマイクロコンピュータ2と電源回路3と入力回路4と出力回路5を有する。電子制御装置1は、電子制御装置1の外部に設けられたイグニッションSW6、バッテリー7、車両状態検出装置8、外部装置9とそれぞれ接続する。
【0014】
電子制御装置1内の電源回路3はスイッチングレギュレータ等で構成され、イグニッションSW6の信号に応じて、バッテリー7の電圧をレギュレーションしたものをマイクロコンピュータ2へ供給する。すなわち、電源回路3は、マイクロコンピュータ2の命令に従い、イグニッションSW6がOFFになったことを検知した場合にバッテリー7からマイクロコンピュータ2へ電圧供給を行う。そして、電源回路3は、イグニッションSW6がOFFになったことを検知した場合に、マイクロコンピュータ2に対して低消費電力モードに移行するための信号を送る。また、電源回路3は、イグニッションSW6がONになったことを検知した場合には、主電源からマイクロコンピュータ2へ電圧供給を行う。
【0015】
また、入力回路4は波形整形回路や増幅回路などで構成される。入力回路4には、エンジン回転などのパルスやスイッチ、温度や圧力などの車両状態を検出する車両状態検出装置8から検出信号が入力される。入力回路4は、この検出信号を波形整形し、温度や圧力などのアナログ信号を増幅してマイクロコンピュータ2へ入力する。
【0016】
また、出力回路5は波形整形回路やHブリッジ回路などで構成される。出力回路5には、入力回路4の信号に基づいてマイクロコンピュータ2が演算処理した制御信号が入力される。出力回路5は、この制御信号をモータや点火プラグ、インジェクタなどで構成される外部装置9に出力する。外部装置9は、この制御信号により動作を制御される。
【0017】
さらに、マイクロコンピュータ2は中央演算処理装置10と揮発性メモリ11と不揮発性メモリ12を有する。
【0018】
中央演算処理装置10(CPU)は、不揮発性メモリ12に記憶された制御プログラムと入力回路4から入力された情報を元に演算を行い、演算結果を元に決定された制御信号を出力回路5に出力する。このとき、演算の途中結果や入力回路4から入力された情報は揮発性メモリ11に記憶される。また、中央演算処理装置10は、電源回路3からイグニッションSW6のON/OFFの検知信号を受信したとき、主電源が復帰・遮断されたと判定し、後述の制御を行う。なお、ここでいう主電源の復帰は、主電源と接続して遮断された状態が解除されたことをいう。また、中央演算処理装置10は、電源回路3からイグニッションSW6のOFFに伴う低消費電力モードの命令信号を入力された場合に、低消費電力モードに移行する。
【0019】
揮発性メモリ11(RAM)は、主電源遮断時においても低電力消費モードにて情報を記憶することが可能である。すなわち、イグニッションSW6がOFFされても、電源回路3によりバッテリー7の電圧がマイクロコンピュータ2に供給されるため、揮発性メモリ11は、記憶しているデータを消去されずに保持することができる。
【0020】
次に、揮発性メモリ11の内部構成について説明する。図2は、揮発性メモリ11の内部構成を説明する図である。
【0021】
揮発性メモリ11はバックアップ領域19と非バックアップ領域20を有する。バックアップ領域19は重要データを配置してバックアップをとる領域であり、使途用途で区別された複数の正規領域とこの複数の領域をそれぞれバックアップする複数のミラー領域で構成される。図2に示すように、バックアップ領域19は、用途Aのデータを格納する正規領域である第1領域13、第1領域のバックアップを記憶するミラー領域である第2領域14、用途Bのデータを格納する正規領域である第3領域15、第3領域のバックアップを記憶するミラー領域である第4領域16、用途Cのデータを格納する正規領域である第5領域17、第5領域のバックアップを記憶するミラー領域である第6領域18とで構成される。また、正規領域である第1領域13、第3領域15、第5領域17の各領域には、それぞれ第1特定領域(例えば先頭4バイト)に、データが破壊されているか否かを確認するための固有データが記憶されている。本実施形態では、第1領域13のデータが特に重要なデータであるものとする。なお、本実施形態では、揮発性メモリ11のバックアップ領域19は、第1領域13、第3領域15、第5領域17の3つの正規領域と第2領域14、第4領域16、第6領域18の3つのミラー領域を有するが、正規領域とミラー領域の数は、それぞれ2つ以上で互いの数が同じであればよい。
【0022】
不揮発性メモリ12(ROM)は、中央演算処理装置10が演算処理を行うための制御プログラムを記憶している。また、不揮発性メモリ12は、揮発性メモリ11の正規領域である第1、第3、第5領域の第1特定領域にそれぞれ記憶された固有データと同じ固有データをあらかじめ記憶している。
【0023】
次に、電源回路3が主電源の遮断(イグニッションSW6のOFF操作)を検知した場合に、マイクロコンピュータ2によるバックアップ処理について説明する。図3はマイクロコンピュータ2による主電源遮断時のバックアップ処理のフローチャート図である。
【0024】
図3のステップS21に示すように、中央演算処理装置10は、正規領域である第1領域13のSUM値を4バイト単位で算出し、この算出結果を第1領域13の第2特定領域(例えば最終4バイト)に記憶する。本実施形態ではSUM値が算出されるが、第1領域13に記憶されているデータに基づいた算出値であればよい。
【0025】
次に、ステップS22に示すように、中央演算処理装置10は、SUM値が反映された第1領域13の情報を第1領域13のミラー領域である第2領域14にコピーする。したがって、中央演算処理装置10が算出した第1領域13のSUM値も第2領域14の第2特定領域に記憶される。
【0026】
以下同様にステップS23に示すように、中央演算処理装置10は、第3領域15のSUM値を算出し、この算出結果を第3領域15の第2特定領域に記憶する。
【0027】
次に、ステップS24に示すように、中央演算処理装置10は、第3領域15のミラー領域である第4領域16にコピーを行う。したがって、中央演算処理装置10が算出した第3領域15のSUM値も第4領域16の第2特定領域に記憶される。
【0028】
次に、ステップS25に示すように、中央演算処理装置10は、第5領域17のSUM値を算出し、この算出結果を第5領域17の第2特定領域に記憶する。
【0029】
そして、ステップS26に示すように、中央演算処理装置10は、第5領域17のミラー領域である第6領域18にコピーを行う。したがって、中央演算処理装置10が算出した第5領域17のSUM値も第6領域18の第2特定領域に記憶される。
【0030】
次に、電源回路3が主電源の復帰(イグニッションSW6のON操作)を検知した場合に、マイクロコンピュータ2が通常制御動作を始める前のイニシャル処理中に実行するバックアップ処理について説明する。図4はマイクロコンピュータ2による主電源復帰時のバックアップ処理のフローチャート図である。
【0031】
まず、中央演算処理装置10は、正規領域である第1領域13とこのミラー領域である第2領域14に対する処理を行う。すなわち、中央演算処理装置10は、ステップS31に示すように、第1領域13の現在のSUM値を算出し、ステップS32に示すように、算出したSUM値が主電源遮断時に算出して第1領域13の第2特定領域に記憶したSUM値と一致しているか判定する。
【0032】
ステップS32で「NO」の場合、すなわち、SUM値が一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS33に示すように、中央演算処理装置10は、第1領域13のミラー領域である第2領域14のSUM値を算出する。
【0033】
そして、ステップS34に示すように、中央演算処理装置10は、算出した第2領域14のSUM値が、主電源遮断時のバックアップ処理により第2領域14の第2特定領域にコピーされたSUM値と一致するか判定する。
【0034】
ステップS34で「NO」の場合、すなわち、算出した第2領域14のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第2領域14の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS35に示すように、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11のバックアップ領域19の全領域である第1〜第6領域を初期化する。
【0035】
ステップS34で「YES」の場合、すなわち、算出した第2領域14のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第2領域14の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、中央演算処理装置10は、ミラー領域である第2領域14のデータの方が正規領域である第1領域13のデータよりも正確であると判定し、ステップS36に示すように、第2領域14に記憶されているデータ
を第1領域13にコピーする。
【0036】
ステップS32で「YES」の場合、すなわち、SUM値が一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、または、ステップS36の処理が行われた場合、ステップS37に示すように、中央演算処理装置10は、さらに第1領域13の第1特定領域に現在記憶されている判定用の固有データと不揮発性メモリ12に記憶された第1領域13の第1特定領域に対応付けられた判定用の固有データとが一致しているかの判断を行う。
【0037】
ステップS37で「NO」の場合、すなわち、固有データが一致していないと中央演算処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS32とステップS37のダブルチェックにより第1領域13に記憶されているデータが破壊されていると判断し、ステップS35の処理を行う。
【0038】
ステップS37で「YES」の場合、すなわち、固有データが一致していると中央演算処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS32とステップS37のダブルチェックにより第1領域13に記憶されているデータが破壊されておらず正しいものであると判断し、記憶しているデータの初期化を行わずデータを保持する。
【0039】
そして次に、中央演算処理装置10は、正規領域である第3領域15とこのミラー領域である第4領域16に対する処理を行う。すなわち、中央演算処理装置10は、ステップS38に示すように、第3領域15の現在のSUM値を算出し、ステップS39に示すように、算出したSUM値が主電源遮断時に算出して第3領域15の第2特定領域に記憶したSUM値と一致しているか判定する。
【0040】
ステップS39で「NO」の場合、すなわち、SUM値が一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS40に示すように、中央演算処理装置10は、第3領域15のミラー領域である第4領域16のSUM値を算出する。
【0041】
そして、ステップS41に示すように、中央演算処理装置10は、算出した第4領域16のSUM値が、主電源遮断時のバックアップ処理により第4領域16の第2特定領域にコピーされたSUM値と一致するか判定する。
【0042】
ステップS41で「NO」の場合、すなわち、算出した第4領域16のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第4領域16の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS42に示すように、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11の領域のうち、正規領域である第3領域15を初期化する。
【0043】
ステップS41で「YES」の場合、すなわち、算出した第4領域16のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第4領域16の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、中央演算処理装置10は、ミラー領域である第4領域16のデータの方が正規領域である第3領域15のデータよりも正確であると判定し、ステップS43に示すように、第4領域16に記憶されているデータを第3領域15にコピーする。
【0044】
ステップS39で「YES」の場合、すなわち、SUM値が一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、または、ステップS43の処理が行われた場合、ステップS44に示すように、中央演算処理装置10は、さらに第3領域15の第1特定領域に現在記憶されている判定用の固有データと不揮発性メモリ12に記憶された第3領域15の第1特定領域に対応付けられた判定用の固有データとが一致しているかの判断を行う。
【0045】
ステップS44で「NO」の場合、すなわち、固有データが一致していないと中央演算処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS39とステップS44のダブルチェックにより第3領域15に記憶されているデータが破壊されていると判断し、ステップS42の処理を行う。
【0046】
ステップS44で「YES」の場合、すなわち、固有データが一致していると中央演算処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS39とステップS44のダブルチェックにより第3領域15に記憶されているデータが破壊されておらず正しいものであると判断し、記憶しているデータの初期化を行わずデータを保持する。
【0047】
そして最後に、中央演算処理装置10は、正規領域である第5領域17とこのミラー領域である第6領域18に対する処理を行う。すなわち、中央演算処理装置10は、ステップS45に示すように、第5領域17の現在のSUM値を算出し、ステップS46に示すように、算出したSUM値が主電源遮断時に算出して第5領域17の第2特定領域に記憶したSUM値と一致しているか判定する。
【0048】
ステップS46で「NO」の場合、すなわち、SUM値が一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS47に示すように、中央演算処理装置10は、第5領域17のミラー領域である第6領域18のSUM値を算出する。
【0049】
そして、ステップS48に示すように、中央演算処理装置10は、算出した第6領域18のSUM値が、主電源遮断時のバックアップ処理により第6領域18の第2特定領域にコピーされたSUM値と一致するか判定する。
【0050】
ステップS48で「NO」の場合、すなわち、算出した第6領域18のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第6領域18の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致しないと中央演算処理装置10が判定した場合、ステップS49に示すように、中央演算処理装置10は、揮発性メモリ11の領域のうち、正規領域である第5領域17を初期化する。
【0051】
ステップS48で「YES」の場合、すなわち、算出した第6領域18のSUM値と主電源遮断時のバックアップ処理により第6領域18の第2特定領域にコピーされたSUM値とが一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、中央演算処理装置10は、ミラー領域である第6領域18のデータの方が正規領域である第5領域17のデータよりも正確であると判定し、ステップS50に示すように、第6領域18に記憶されているデータを第5領域17にコピーする。
【0052】
ステップS46で「YES」の場合、すなわち、SUM値が一致すると中央演算処理装置10が判定した場合、または、ステップS50の処理が行われた場合、ステップS51に示すように、中央演算処理装置10は、さらに第5領域17の第1特定領域に現在記憶されている判定用の固有データと不揮発性メモリ12に記憶された第5領域17の第1特定領域に対応付けられた判定用の固有データとが一致しているかの判断を行う。
【0053】
ステップS51で「NO」の場合、すなわち、固有データが一致していないと中央演算処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS46とステップS51のダブルチェックにより第5領域17に記憶されているデータが破壊されていると判断し、ステップS49の処理を行う。
【0054】
ステップS51で「YES」の場合、すなわち、固有データが一致していると中央演算
処理装置10が判定した場合には、中央演算処理装置10は、ステップS46とステップS51のダブルチェックにより第5領域17に記憶されているデータが破壊されておらず正しいものであると判断し、記憶しているデータの初期化を行わずデータを保持する。
【0055】
このような本発明のバックアップ装置によれば、複数の領域に分割された揮発性メモリ11のバックアップ領域19の各領域について、記憶されているデータの破壊の有無をダブルチェックにより判定することができる。
【0056】
すなわち、バックアップ領域19の各領域について中央演算処理装置10が算出したSUM値と電源遮断時に第2特定領域に記憶されたSUM値とが一致するか否か、バックアップ領域19の各領域の第1特定領域に記憶された固有データと不揮発性メモリ12に記憶された固有データとが一致するか否かの両方を中央演算処理装置10が判定してデータ破壊の有無を判断するようにしたことにより、破壊検出に対する高い信頼性を持たせることができる。
【0057】
さらに揮発性メモリ11の正規領域である第1領域13、第3領域15、第5領域17の各領域それぞれに対しミラー領域である第2領域14、第4領域16、第6領域18を設けることで、正規領域のデータが破壊されていた場合でも、ミラー領域のデータが正常であればミラー領域のデータに置き換えてミラー領域のデータを使用できるため、初期化されるケースを少なくすることができる。正規領域およびミラー領域共に破壊されていた場合には、初期化して使用するが、破壊されたデータが属する領域のみ初期化するため、初期化されるデータは限られたものに限定ができ、処理速度を向上することができる。
【0058】
一方、第1領域13のように、特に重要なデータ、例えば揮発性メモリ11の全領域のデータの有効性につながるデータが記憶されている領域でデータの破壊が発生した場合には、ステップS35のように無条件に全領域を初期化して使用することができる。
【0059】
すなわち、中央演算処理装置10は、バックアップ領域19の各領域に記憶されたバックアップデータについて、使途用途等に応じて各正規領域ごとに重要度の重み付けを行い、この重み付けに基づいてバックアップデータの初期化を行う領域を決定する。したがって、バックアップデータの信頼性と処理負荷削減の両立を図ることができる。
【0060】
さらに、本実施形態によれば、揮発性メモリ11のバックアップ領域19のように使途用途で分割された領域ごとにデータ破壊の有無がチェックされ、この領域ごとにデータの初期化の有無が判定されるため、バックアップ対象データの追加等が容易に出来る。
【0061】
また、揮発性メモリ11のバックアップ領域19のうち特定の領域に配置するデータを、ある特定のタイミング以降更新されることがないもので統一してしまうことで、その領域のSUM算出およびミラー領域へのコピー処理を分散化することができ、多くのバックアップ対象データがある場合でも、処理負荷を削減することができる。
【0062】
以上のように、本実施形態によれば、データ量やデータの種類が増えてもデータ破壊の有無を、不揮発性メモリに保存された判定用データとの一致性と、主電源遮断時と復帰時のバックアップ領域内のデータSUM値の一致性を合わせて判断を実施するため判断結果の信頼性を高めることができる。また、主電源遮断時にバックアップデータをミラー領域にコピーして2重化しておくことで、データ破壊の判断がなされても、データの復旧ができるため、データの損失を抑えることができる。特に、自動車等のように随時データを更新してデータの精度を高めていくことでモータ等の装置の精密制御が可能になる車載用途においては、このようなデータ損失の抑制は、装置の精密制御に極めて有効である。さらに、バックアップ領域を複数に分割することで、SUM算出、コピー処理の分散化をする
ことができ、処理負荷を抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明にかかる電子制御装置は、データ量やデータの種類が多くても高い処理速度が求められる車載用途、特に自動車エンジン用に有用である。
【符号の説明】
【0064】
2 マイクロコンピュータ
3 電源回路
10 中央演算処理装置
11 揮発性メモリ
12 不揮発性メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源遮断時に外部電源から電圧を供給する電圧供給手段と、
この電圧供給手段から供給される電圧により主電源遮断時にバックアップデータを記憶し、かつ、固有データを有する揮発性記憶手段と、
この揮発性記憶手段が有する固有データと同じ固有データを有する不揮発性記憶手段と、
主電源復帰時に前記揮発性記憶手段のデータの破壊の有無を判定し、データが破壊されている場合に前記揮発性記憶手段のバックアップデータの初期化を行う制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記揮発性記憶手段が記憶したバックアップデータに基づいて算出した値が主電源遮断時と主電源復帰時とで一致するか否か、および、主電源復帰時に前記揮発性記憶手段の固有データと前記不揮発性記憶手段の固有データとが一致するか否かによって前記揮発性記憶手段のバックアップデータの破壊の有無を判定することを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記揮発性記憶手段は、バックアップデータを記憶するバックアップ領域と、このバックアップ領域と同じバックアップデータを記憶するミラー領域とを有し、
前記制御手段は、前記バックアップ領域のバックアップデータに基づいて算出した値が主電源遮断時と主電源復帰時とで一致せず、前記ミラー領域のバックアップデータに基づいて算出した値が主電源遮断時と主電源復帰時とで一致した場合、前記バックアップ領域のバックアップデータを前記ミラー領域のバックアップデータに置き換えることを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、主電源復帰時に前記バックアップ領域の固有データと前記不揮発性記憶手段の固有データとが一致する場合に前記バックアップ領域のバックアップデータを初期化せずに保持することを特徴とする請求項2に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記揮発性記憶手段が記憶したバックアップデータの重要度に応じて前記揮発性記憶手段のバックアップデータの初期化を行う領域を決定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−13737(P2011−13737A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154975(P2009−154975)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】