説明

電子放出素子、電子源、画像表示装置、及び、電子放出素子の製造方法

【課題】 電子放出特性の変動が小さく安定な電子放出素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 基体と、各々が前記基体の表面に対して実質的に垂直に配向した、複数の柱状の第1領域と、前記複数の第1領域の各々の間に設けられた、前記第1領域よりも高抵抗な第2領域と、前記複数の柱状の第1領域と前記第2領域とを覆う電子放出膜と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子放出素子、該電子放出素子を複数配置してなる電子源、該電子源を用いて構成した画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子放出素子には、電界放出型(以下、「FE型」と称する)の電子放出素子や、表面伝導型の電子放出素子がある。
【0003】
FE型の電子放出素子には、電子ビームの広がりが少ない電子放出素子の例として、特許文献1〜3のように、平坦な電子放出膜上に、開口(いわゆる「ゲートホール」)を備える、ゲート電極を備えた電子放出素子がある。このような平坦な電子放出膜を有する電子放出素子では、電子放出膜表面に比較的平坦な等電位面が形成されるため、電子ビームの広がりを小さくすることができる。
【0004】
一方で電子放出素子を用いた画像表示装置では、輝度均一性などの信頼性を確保するために安定した電子放出を行わなければならない。具体的には、電子放出素子が駆動中に過電流などによって破壊されるのを防止しなければならない。さらに電子放出量が経時的に変動することを防ぐ、つまり電子放出量のをゆらぎを小さくしなければならない。この対策として特許文献4では、電極を複数に分割した電子放出素子が開示されている。また、特許文献5では、多孔質アルミナの微小空間に抵抗材料を充填し、さらに、微粒子などの電子放出材料を固着材料を用いて充填した電子放出素子が開示されている。
【特許文献1】特開2004−071536号公報
【特許文献2】特開平8−055564号公報
【特許文献3】特開2005−26209号公報
【特許文献4】特開2002−352699号公報
【特許文献5】特開2001−250469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した平坦な電子放出膜を有する電子放出素子(FE型の電子放出素子)を作製する場合、電子放出膜上に、連通する開口を有する絶縁層及びゲート電極を設ける必要がある。そして、このような電子放出素子は基体上に配置される。
【0006】
しかし、電子放出素子を構成する部材のそれぞれの材料、厚さによっては、高い応力が発生する場合があり、さらには、基体から電子放出素子が剥離したり、電子放出膜が剥離してしまう場合もある。この傾向は、特に、電子放出特性の良好な、ダイヤモンドライクカーボンを主体とする膜やアモルファスカーボンを主体とする膜に代表される炭素を主成分とする膜を電子放出膜に用いた場合に顕著である。
【0007】
また、平坦な電子放出膜を有する電子放出素子では、電子放出量のゆらぎを小さくするために電流制限用の抵抗層を積層すると、上記したような理由から電子放出膜が基体から剥離してしまう場合がある。
【0008】
また、特許文献1に開示されたような金属を含む電子放出膜では、その電子放出膜中の金属量を制御することが重要である。しかし、電子放出膜中の金属が、電子放出膜に接する電極(例えば)カソード電極などに移動してしまうと、電子放出膜中の金属量などが変化し、電子放出特性が変化する場合がある。従って、電子放出膜中の金属が、電子放出膜に接するカソード電極などの部材に移動するのを防止するための層を設ける必要がある。そして、一方で、前述した様に電子放出膜が剥離しないようにする必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、電子放出量のゆらぎが小さく、かつ電子放出膜が基体や電子放出膜が接する部材(例えばカソード電極)から剥離することが抑制され、そして、電子放出特性の変動の小さい電子放出素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために成された本発明は、以下の通りである。
【0011】
即ち、本発明は、導電層と該導電層上に配置された電子放出膜とを備える電子放出素子であって、前記導電層が、複数の第1領域と、複数の第1領域の各々の間に設けられた、前記第1領域よりも高抵抗な第2領域とを、少なくとも有する表面を備えており、前記電子放出膜が、前記導電層の前記表面を覆っている、ことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、(A)基体と、(B)各々が前記基体の表面に対して実質的に垂直に配向した、複数の柱状の第1領域と、(C)前記複数の第1領域の各々の間に設けられた、前記第1領域よりも高抵抗な第2領域と、(D)前記複数の柱状の第1領域と前記第2領域とを覆う電子放出膜と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、導電層と該導電層上に配置された電子放出膜とを備える電子放出素子の製造方法であって、(i)(a)導電性の複数の柱状領域を具備する導電層と、(b)該導電層上に配置された、金属を含有する層と、を備える構造体を用意する工程、(ii)前記構造体を加熱する工程、とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子放出素子の基体からの剥離を防止し、カソード電極とは別に電流を制限するための抵抗層を設ける必要なく、電子放出量のゆらぎの小さい電子放出素子およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。但し、下記の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対位置などは、特に記載のない限りは、この発明の範囲をそれらに限定する趣旨のものではない。
【0016】
図1は本発明の電子放出素子の一例の断面模式図である。本発明の電子放出素子は、基体1の表面上に配置されており、導電層2と、導電層2上に位置する電子放出膜5と、を少なくとも備える。尚、導電層2を、「カソード電極」あるいは「電極」と呼ぶ場合もある。
【0017】
また、導電層2は、導電性の複数の第1領域3と、隣り合う第1領域3の間に設けられ、第1領域3よりも低い導電性を備えた領域4と、を少なくとも含む。導電層2はその表面に、上記複数の第1領域3の端部および第2領域4の端部を備えている。そして、導電層2の表面上に電子放出膜5が載置されているので、上記複数の第1領域3の端部と電子放出膜5とが電気的に接続された形態であると言う事ができる。尚、導電層2と電子放出膜5との間に何らかの層が配置された形態であっても、本発明の効果を奏する範囲内であれば、そのような形態も本発明の範囲内である。つまり、導電層2の表面に例えば薄い酸化膜が形成されていても、第1領域3の各々から電子放出膜5に電子が供給される状態であれば本発明の効果を奏する範囲内と言うことが出来る。また、複数の第1の領域3の各々は、領域4によって実質的に互いに電気的に分離された、「導電性のセル」または「導電性のチャネル」または「電流経路」と言い換える事も出来る。
【0018】
図1では、各第1の領域3から電子放出膜5への電流供給をより効率良く行うために、導電層2が更に、第3の領域101を備えた形態の電子放出素子を示した。この形態では、第1の領域3の導電率以上の導電率を備える材料で第3の領域101が構成される(第3の領域101が第1の領域3以上に低抵抗である)ことが好ましい。そして、この形態では、第3の領域101上に、複数の第1の領域3が載置されることになる。従って、第1の領域3の各々は、第3の領域101を介して電気的に共通に接続された形態と言う事が出来る。そして、この様な形態では、第3の領域101は膜状に形成されることが好ましいため、第3の領域は、導電性膜と言い換えることもできる。この様な形態の場合は、第1の領域3と第2の領域4とが、電子放出膜5と第3の領域101とに挟まれた形態と言う事ができる。尚、第3の領域101は典型的には金属膜で構成することができる。
【0019】
また、本発明の電子放出素子は、図1で示した第3の領域101と第1の領域3との間に、さらに、抵抗体を加えた形態であっても良い。この形態では、第3の領域101と各第1の領域3との間に、抵抗体としての第4の領域(不図示)が配置される。この第4の領域は、第3の領域と同様、膜状に形成されることが好ましい。そのため、第4の領域は、抵抗膜と呼ぶこともできる。そして、各第1の領域3は、第4の領域を介して共通に接続された形態となる。この様な形態の場合は、複数の第1の領域3と第2の領域4とが、電子放出膜5と第4の領域とに挟まれた形態ということができる。また、抵抗層としての第4の領域を用いる場合には、その抵抗値にもよるが、上述した第3の領域101を必要としない場合もある。
【0020】
このように、第1の領域3と基体1との間に第3の領域101が配置される場合には、電子放出素子を駆動するための電源は、第3の領域101に接続される。尚、第4の領域が第3の領域101と共に用いられる場合においては、電子放出素子を駆動するための電源は、第3の領域101に接続される。しかしながら、第3の領域101を用いずに、第1の領域3と基体1との間に第4の領域が配置される場合には、電子放出素子を駆動するための電源は、第4の領域101に接続されることが好ましい。
【0021】
尚、本発明の電子放出素子は、図10に示す様に、上述した第3の領域101(及び/または第4の領域)を備えない形態であっても良い。この様な形態の場合は、複数の第1の領域3と第2の領域4とが、電子放出膜5と基体1とに挟まれた形態と言う事ができる。
【0022】
ここでは、第1の領域3を柱状の領域で構成した形態を示したが、第1の領域3は柱状に限られるものではなく、例えば球状など別の形状であっても良い。しかしながら、電子放出点数を高密度に設け、電子放出量のゆらぎを低減するため、並びに、電子放出膜5と導電層2との密着性を確保するためには、第1の領域3は柱状であることが好ましい。
【0023】
第1の領域3が柱状の場合は、導電層2は、複数の柱状の第1の領域3と、領域3よりも低い導電性を備えた領域4と、を少なくとも含む。そのため、このような複数の柱状の第1の領域3と、第1の領域3よりも低い導電性を備えた第2の領域4と、を有する構造体100を、「柱状構造」または「柱状結晶」と呼ぶこともできる。
【0024】
ここで、図1に示した複数の柱状領域3の各々は、基体1が備える表面(平面)に対して垂直な方向に配向している。本発明における柱状領域3は、図1に示した様に基体1の表面(第3の領域101の表面)に対して垂直に、その長手方向が揃えられた形態だけでなく、図10に示す様に、その長手方向が基体1の表面に対して実質的に垂直な方向に設定された形態であっても良い。その場合、柱状領域3の輪郭線(あるいは柱状領域3の中心線)と、基体表面に対する垂線とのなす角θは、0°に近いほど好ましいが、電子放出特性の均一性の観点から、実用的な範囲としては、0°以上30°以下の範囲に設定すればよい。
【0025】
また、図1に記載の電子放出素子の形態は、多数の柱状領域3の各々の長手方向が、実質的に一方向に揃っており(上記実用的な範囲内であり)、多数の柱状領域3の各々の長手方向における一方の端部を電子放出膜5が覆っている形態と言うこともできる。あるいはまた、多数の柱状領域3の各々は、その長手方向において2つの対向する端部を備えており、その長手方向が基体1の表面に対して実質的に垂直な方向に配置されている形態と言うこともできる。尚、上記長手方向は、柱状領域3の輪郭線あるいは柱状領域3の中心線が延在する方向と言い換えることもできる。
【0026】
尚、第1の領域3が柱状であり、さらに上述した第3の領域を備える形態では、電子放出膜5と第3の領域101とが対向する方向と、各柱状領域3の長手方向とが、実質的に平行であると言う事ができる。また、特に、第3の領域101が導電性膜であれば、各柱状領域3が、電子放出膜5および第3の領域101である導電性膜に対して実質的に垂直に配向された形態と言うことが出来る。
【0027】
柱状領域3は、図1中に示す、高さ(厚み)dと、柱状領域3の直径(基体1の表面に平行な方向における「長さ」または「幅」)Wにより規定することができる。各々の柱状領域3を基体1の表面に平行な面で切った時の断面形状(平面形状)は、電子放出領域の密度を高くする観点から、円形であることが好ましいが、三角形や四角形や五角形などの多角形状であっても良い。
【0028】
長さW’は、領域3(第1の領域3)が周期的に配列した場合では、1周期長(ピッチ)に相当する。W’−Wは、第2の領域4の長さと言う事もできる。あるいは、W’−Wは、2つの隣合う第1領域3間の最短距離と言い換えることができる。
【0029】
ここでは、第1の領域3を柱状の領域で構成した形態を示したが、第1の領域3は柱状ではなく球状など別の形状であっても良い。いずれにしても、本発明において、複数の第1の領域3の各々は、領域4によって実質的に互いに電気的に分離された、「導電性のセル」または「電流経路」と考えることができる。
【0030】
本発明の電子放出素子は、図2(a)、(b)に模式的に示す形態であっても良い。図2(a)は平面図であり、図2(b)は、図2(a)のb−b’における断面図である。即ち、図1に示した電子放出膜5の上に、開口を備えた絶縁層7と開口を備えた第2の電極8とを備える形態である。絶縁層5と第2の電極8には連通する(貫通する)開口21が設けられている。この形態の電子放出素子では、導電層2の電位よりも高い電位を第2の電極8に印加することで、電子放出膜5から電子を放出する。従って、第2の電極8が、電子放出膜5から電子を電界放出させるために必要な電界を生成する。そのため、第2の電極8が、いわゆる「引出し電極」または「ゲート電極」に相当する。開口21は、ここでは円形の例を示したが、矩形や多角形状であっても構わない。
【0031】
また、本発明の電子放出素子は、図7(a)〜(c)に模式的に示す形態であっても良い。図7(a)は平面図であり、図7(b)は、図7(a)のb−b’における断面図である。また、図7(c)は、図7(a)のb−b’における断面における変形例である。
【0032】
図2で示した形態では、1つの電子放出素子に、1つの開口21を備えた形態を示した。しかしながら、本発明の電子放出素子では、図7(a)に示す様に、1つの電子放出素子に、複数の開口21を備える形態であっても良い。そして、図7(c)は、電子放出膜5が開口21内のみに配置された形態である。尚、図7と図2では、同じ部材には同じ符号を用いている。
【0033】
本発明の電子放出素子を用いた電子放出装置(画像表示装置も含む)では、例えば図9に示すように、一般にはトライオード構造(導電層2、第2の電極8、アノード9)を採用する。勿論、電極8を用いずに、図1に示した電子放出素子に対向する様に、アノード9を配置してダイオード構造の電子放出装置を構成する事も可能である。
【0034】
図9では、図2に示した形態の本発明の電子放出素子が配置された基体1の表面と実質的に平行になるように、第3電極であるところのアノード電極9を配置している。アノード電極9には、電子放出膜5と第2の電極8の電位よりも高い電位が印加される。駆動時には、第2の電極8に、電子放出膜5の電位よりも高い電位を印加することで、電子放出膜5から電子が放出される。典型的には、第2の電極8に第3の領域101の電位よりも高い電位が印加され、そして、第2の電極8の電位よりも十分に高い電位がアノード9に印加される。放出された電子は、開口21を通り抜けた後、アノード電極9の電位によってアノード9に引き寄せられ、アノード電極9に衝突する。
【0035】
導電層2が図1のような柱状構造を採用した場合、導電層2全体の応力を好ましく緩和することができ、基体1から電子放出膜5が剥離し難くすることができる。
【0036】
導電層2を、基体1表面の上方から見た様子の一例を、図11(a)〜(d)に示す。図11(a)〜(c)では領域3の平面(断面)形状が円形の場合を示し、図11(d)では、領域3の平面(断面)形状が多角形の一例である三角形の場合を示している。また、複数の領域3の各々の平面(断面)形状は、同じものあるいは実質的に同じものが並んでいてもよいし、様々な形態のものが混在していても構わない。
【0037】
また、複数の領域3の配列形態は様々な形態を採用することができる。例えば、図11(b)に示すように、領域3の密度が高くなるように、多数の領域3が蜂の巣状に並んだ形態であっても良いし、図11(a)に示す様に、行列状に配置された形態であっても良い。あるいは、図11(a)や図11(b)の形態に比べて秩序性が低い(ランダムな)、図11(c)や(d)に示すような形態であっても良い。
【0038】
また、本発明では、全ての領域3が完全に領域4によって分離されている形態が好ましい。しかしながら、本発明の効果を奏する限り、わずかな数の領域3同士が、領域4を実効的に間に挟まずに、互いに接しているような形態であっても構わない。
【0039】
領域3の直径Wは、領域3を上方から見た際の(領域3の平面形状における)、最小外接円の直径で定義することができる。換言すると、各々の領域3の直径Wは、導電層2の表面に存在する(露出する)領域3の最小外接円の直径で定義することができる。
【0040】
第1の領域3を構成する材料は、導電性材料であればよく、金属や導電性の金属化合物が好ましい。例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等の金属、またはこれらの金属を含む合金を用いることができる。特に好ましくは、耐熱性が良好な材料である、Ti、TiN、Ta、TaN、AlN、TiAlNが用いられる。
【0041】
領域3の高さ(厚み)dは、実用的には、10nm以上10μm以下の範囲で選択され、好ましくは10nm以上1μm以下の範囲で選択される。領域3の直径Wは、実用的には、1nm以上100nm以下の範囲で選択され、好ましくは1nm以上10nm以下の範囲で選択される。上述した領域3の高さdは、領域3が柱状である場合は、柱状領域3の長手方向における長さと言い換えることもできる。あるいは、柱状領域3の長手方向における2つの端部の間の距離と言い換えることもできる。尚、ここで言う2つの端部は、一方が電子放出膜5に接する端部であり、もう一方が基体1(あるいは第3の領域101)に接する端部である。
【0042】
隣り合う2つの領域3の間に配置される領域4は、領域3よりも低い導電性を備えている。
【0043】
また、本発明の効果をより大きくする上では、第2の領域4の比抵抗(抵抗率)ρと第1の領域3の比抵抗(抵抗率)ρとの比(ρ/ρ)は大きいほど好ましい。ρ/ρの実用的な範囲としては、少なくとも10以上、好ましくは10以上、更に好ましくは10以上である。
【0044】
そして、電流制限効果を得るために、実用的には、領域4の比抵抗ρは10Ω・cm以上であることが好ましく、実用的には10Ω・cm以上1012Ω・cm以下であることがより好ましい。一方、領域3の抵抗率ρは10‐6Ω・cm以上であることが好ましく、実用的には10‐6Ω・cm以上10Ω・cm以下であることがより好ましい。本発明において、10Ω・cm以上である領域4は絶縁体と言い換えることもできる。
【0045】
領域4を構成する材料としては、酸化物、窒化物、酸窒化物(酸化物と窒化物の混合物も含む)を用いることができる。より具体的には、酸化チタン、酸化チタンと窒化チタンの混合物、酸化シリコン(典型的にはシリカ)、窒化シリコン、アルミナなどの絶縁体であればよい。また、酸化物であることがより好ましい。酸化物としては、金属の酸化物または半導体の酸化物を好ましく用いることができる。そして、特には、領域3を構成する材料の酸化物であることが、特に簡易で好ましい。さらに好ましくは、領域3の表面を酸化することで、領域4を構成する。
【0046】
尚、領域3を窒化チタンで構成し、その表面を酸化することで領域4を形成した場合は、領域4は、少なくとも酸化チタンを含んでおり、場合によってはさらに窒化チタンを含む。後述する例えば実施例1に記載の製造方法を用いれば、簡易に、柱状の領域3を形成できる。但し、電子放出素子の駆動時における熱的な安定性などを考慮すると、領域4は、酸化チタンと窒化チタンの混合物で構成されていることが好ましい。
【0047】
領域4を、隣合う領域3同士の間に配置することで、導電層2は、実質的に、領域3の数に分割される(領域3の直径サイズに分割される)。そのため、導電層2の膜厚方向(導電層2と電子放出膜3とが積層される方向)への導電経路が、領域3のサイズWに制限することができる。つまり、カソード導電層2を通り電子放出膜5に到達する電流量を制限することができるので、別途、電流を制限するための抵抗層を設けなくとも、電子放出膜5からの電子放出量のゆらぎを小さくすることができる。
【0048】
尚、領域3の抵抗率ρ及び領域4の抵抗率ρを実測する手法は特に限定されるものではなく様々な手法を用いることができる。例えば、まず、金属膜上に、本発明の導電層2を配置する。そして、走査型トンネル顕微鏡(STM)のプローブで領域3(領域4)を走査しながら金属膜とプローブとの間に電圧を印加する。これにより領域3(領域4)を流れる電流を測定し、ρ(ρ)を測る方法を用いる事が出来る。
【0049】
本発明の電子放出膜5は、電子放出特性の良好性および安定性から、炭素を主体(母材または主成分)として構成されることが好ましい。特には、好ましくは、電子放出膜5の主体は、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボンから選択される。ただし、電子放出膜5の主体の抵抗率は高く、実質的に、絶縁体として機能することが好ましい。そのため、電子放出膜3の主体としては、ダイヤモンドライクカーボンやアモルファスカーボンを用いることが好ましい。実用的には、電子放出膜5の主体は、1×10以上1×1014Ω・cm以下の抵抗率を備えることが好ましい。また、詳しくは後述するが、本発明の電子放出膜5は金属を含む形態であってもよい。尚、電子放出膜3全体の抵抗率については10Ω・cm以上1010Ω・cm以下であることが好ましい。
【0050】
そして、電子放出膜5は、金属膜などのような良導体の膜ではないことが求められる。この理由は、電子放出膜5が良導体の場合、各導電経路(各領域3)内に移動範囲が制限された電子が、電子放出膜5中で広がってしまい、放出電流のゆらぎが多くなってしまう為である。
【0051】
一方で、電子放出膜5の比抵抗(実質的に電子放出膜5の主体の比抵抗と言い換えることができる)ρが大きい場合には、電子放出膜5の膜厚(柱状領域3の長手方向における厚み)d’を考慮する必要がある。これは、高抵抗な電子放出膜5の膜厚d’が大きいと、電子放出膜5の表面または表面近傍に存在すると想定される電子放出部から十分な量の電子を低い駆動電圧で放出させることが困難になるためである。
【0052】
本発明では、各々の第1の領域3から流れ込んだ電子の電子放出膜5中での広がりが、隣の第1の領域3から流れ込んだ電子の電子放出膜5中での広がりと、実効的に、重ならない様に制御される事が好ましい。このように設定することで、実質的に、各領域3の直上から、電子を安定に放出させることができる。例えば、領域3が図1のような柱状である場合、複数の導電パス(柱状領域3)を流れる電流(電子)は、その移動範囲が、柱状領域3の幅Wに制限される。その結果、電子の流れる方向が制限された電流(電子)を、そのまま各柱状領域3の直上に位置する電子放出膜5中の電子放出点まで到達させることができ、電子放出量のゆらぎを小さくすることにつながる。
【0053】
導電層2から電子放出膜5に流れ込んだ電子の、電子放出膜5中における進行方向は、電子放出膜5中の電気力線の向きに影響を受ける。導電層2と電子放出膜5とは基本的に異なる材料で構成されるので、導電層2と電子放出膜5との境界でそれぞれの材料の誘電率(すなわち抵抗率)に起因した電気力線の曲がりが起こる。電気力線が曲がると、電子は、電子放出膜5中で、導電層2と電子放出膜5とが積層される方向(「導電層2の電子放出膜5との界面に垂直な方向」あるいは「電子放出膜5の膜厚方向」)から逸れながら(広がりながら)電子放出膜5の表面に向かうと推測される。
【0054】
従って、複数ある領域3の内のある領域3から電子放出膜5に流れ込んだ電子の一部と、その隣の領域3から電子放出膜5に流れ込んだ電子の一部とが同じ電子放出点から放出される事を抑制する事が、放出電流の安定化(揺らぎの抑制)にとって重要である。換言すると、複数の領域3から供給された電子が一つの電子放出点から放出されることを抑制することが、放出電流の安定化(揺らぎの抑制)にとって重要である。
【0055】
領域3の抵抗率ρ、領域4の抵抗率ρ、電子放出膜5の抵抗率ρ、電子放出膜5の膜厚d’を用いて、領域3から電子放出膜5に流れ込んだ電子の電子放出膜5中での広がりを求めることができる。
【0056】
電子放出膜5中での電子の広がりが(w’−w)/2よりも大きくなった時、ある領域3から流れ込んだ電子の広がる範囲と、隣りに位置する領域3から流れ込んだ電子の広がる範囲とが重なってしまう。そのため、電子放出量のゆらぎを小さくする効果を奏するように、w’−wを設計することが肝要である。電子の広がりが(w’−w)/2よりも大きくなった時、ある領域3からの電子の広がる範囲とその隣の領域3からの電子の広がる範囲とが重なってしまい、電子放出量のゆらぎを小さくする効果が減少してしまう。従って、電子放出量のゆらぎの抑制効果が得られるように、電子放出膜5の膜厚d’、電子放出膜5の抵抗率ρ、領域3の抵抗率ρ、領域4の抵抗率ρ、距離(w’−w)、の組合せを制御する必要がある。
【0057】
すなわち、本発明では、膜厚d’は、領域3から電子放出膜5に流れ込む電子の電子放出膜5中での広がる範囲と、その隣の領域3から電子放出膜5に流れ込む電子の電子放出膜5中での広がる範囲とが重なることを抑制する様に選択される事が好ましい。
【0058】
そこで、電子放出膜5の膜厚d’は、下記式(1)を満たすように選択される事が好ましい。
【0059】
【数1】

【0060】
尚、kは、ある領域3から電子放出膜5に流れ込んだ電子が電子放出膜5中で広がる範囲と、その隣に位置する領域3から電子放出膜5に流れ込んだ電子が電子放出膜5中で広がる範囲との重なりをどの程度許容するか、に応じて定義される定数である。
【0061】
ここで、領域3と領域4の界面の直上の電子放出膜5を、領域3と領域4の界面に沿って、電子放出膜5の厚み方向に流れる電流の密度(電流密度)をIとする。この場合、定数kは、領域3と領域4との界面から(W’−W)/2離れた領域4上の点の直上に位置する電子放出膜5を、その厚み方向に流れる電流の密度を、Iの何%まで許容するかによって変化する。具体的には、例えば、領域3と領域4との界面から(W’−W)/2離れた領域4の、直上の電子放出膜5を厚み方向に流れる電流の密度をIの50%まで許容する場合、k=1.0となる。許容する電流の密度が低ければkの値はさらに大きくなる。
【0062】
実用的な範囲としては、Iの50%まで許容することができるので、kの値は、1.0以上であればよい。
【0063】
尚、電子放出膜5の膜厚d’は、具体的には、実用上、1nm以上1μm以下の範囲から選択され、好ましくは1nmから100nm以下、特に好ましくは、5nm以上20nm以下の範囲から選択される。そのため、式(1)の左辺は、実質的に、1nm以上1μm以下の値から選択され、この値に合わせて、右辺のρ、ρ、ρの値が選択される。
【0064】
本発明では、電子放出膜5は、複数の領域3を跨るように配置されている(図1参照)。そして、図2や図7で示す形態では、1つの開口21内に1つの電子放出膜5が配置されており、1つの開口21内に位置する複数の領域3を電子放出膜5が覆っている。この形態が、電子放出量の変動や電子ビームの強度のバラツキを低減する上で好ましい。
【0065】
1つの開口内に、電子放出膜5が互いに分離された、複数の電子放出膜が配置される場合には、各々の電子放出膜の端部に電界が集中し易くなる。そのため、電子を電子放出膜のより広い領域から均一性高く放出させることが困難になってしまう。そのため、本発明の電子放出素子では、1つの電子放出素子を構成する電子放出膜5は、分離されておらず、単一の膜であることが好ましい。即ち、電子放出素子を構成する複数の領域3を跨ぐように、電子放出膜5を設けることが好ましい。
【0066】
尚、1つの開口21内に1つの電子放出膜が配置されるが、電子放出膜5は、必ずしも1つの開口21内に位置する全ての領域3を覆う必要はない。即ち、開口21内の一部に電子放出膜5が配置され、残る部分に複数の領域3の一部が露出している形態であっても良い。しかしながら、理想的には、図7(b)、図7(c)に示すように、開口21内に位置する全ての領域3が電子放出膜5によって覆われている形態であることが好ましい。換言すると、開口21内には導電層2は露出していない形態であることが好ましい。
【0067】
本発明の電子放出膜5は、主として半導体領域から、絶縁体領域の半導体側に限定される。具体的には、電子放出膜5の抵抗率ρが、10Ω・cm以上1010Ω・cm以下であることが好ましく、実用的には10Ω・cm以上10Ω・cm以下であることがより好ましい。従って、第1の領域3と第2の領域4と電子放出膜5は、好ましくは、ρ<ρ<ρの関係を満たす。
【0068】
電子放出膜5の抵抗率ρを測定する手法は特に限定されないが、例えば、電子放出膜5の上下に導電体を配して、上下の導電体の間に1V以上10V以下の電圧(駆動電圧より小さい電圧)を印加した時に流れる電流から算出することができる。
【0069】
また、本発明の電子放出膜5は、前述したように、金属を含むことができる。そして、特には、電子放出膜5が、金属を含む粒子6を多数備える形態が、良好な電子放出特性を得る上で好ましい。金属を含む粒子6は、導電性であればその材料は特に限定されるものではない。例えば、粒子6は、金属粒子または導電性の合金粒子で構成することができる。
【0070】
そして、電子放出膜5が金属を含む場合、電子放出膜5の主体(金属を除く)の抵抗率は、含まれる金属の抵抗率よりも高く設定される。含まれる金属(または粒子)の抵抗率の100倍以上に電子放出膜5の主体の抵抗率を設定することで、より低電界で電子放出を行うことができる。そして、金属を含む電子放出膜5の主体は前述したように、炭素であることが好ましく、ダイアモンドライクカーボンまたはアモルファスカーボンであることが特に好ましい。
【0071】
金属を含む粒子6の粒径(直径)は、電子放出膜5の膜厚d’よりも小さく設定される。粒子6は、電子放出膜5の膜厚方向に、少なくとも2個以上並ぶように配置されることが、電界が粒子6に集中するためにも、好ましい。そのため、粒子6の粒径(直径)は、電子放出膜5の膜厚d’の1/4以下であることが好ましく、下限としては、粒子6の粒径の制御性から1nm以上であることが好ましい。また、電子放出膜5の膜厚方向における、少なくとも2つの粒子6の並び方としては、電子の供給を良好にするためにも5nm以下に設定することが好ましい。また、電子放出膜5の膜厚方向に並ぶ少なくとも2つの粒子6は、互いに接触していても良い。粒子6同士が接触していても接触面積は小さく、また、5nm以下の範囲で離れていれば電子の受け渡しが可能であるので、電子放出電流の変動を抑制する効果を得ることができると考えられる。このような構造とすることで、電子放出膜5中に存在する導電性の粒子に電界が集中し、電子が電子放出膜5から放出されるものと推測される。
【0072】
電子放出膜5は前述したように高抵抗である必要があるので、電子放出膜5全体に占める金属の割合は、10atm%以上30atm%以下であることが実用上好ましい。
【0073】
絶縁層7の望ましい材料としては、酸化シリコン(典型的にはシリカ)、窒化シリコン、アルミナ、CaF、アンドープダイヤモンドなどの高電界に耐えられる耐圧の高い材料が好ましい。絶縁層7の厚さとしては、実用的には、10nm以上100μm以下の範囲で設定され、好ましくは、100nm以上10μm以下の範囲から選択される。
【0074】
第2の電極8は、導電性を有する材料から選択され、例えば、Be、Mg、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Al、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Pd等の金属、またはこれらの金属を含む合金を用いることができる。また、その厚さとしては、実用的には、10nm以上10μm以下の範囲で設定され、好ましくは10nm以上1μm以下の範囲で選択される。第2の電極8の材料は、前述した第3の領域101の材料と同じものを用いることができる。
【0075】
また、図1、図2、図9に示す様に、基体1と柱状構造体100との間に、第3の領域101を設ける場合には、この材料は、第2の電極8と同様、高い導電性を備えていることが好ましい。また、この第3の領域101に用いる材料としては、上述した第2の電極8と同じ材料を用いることができる。
【0076】
基体1は、基板や、基板の表面上に設けられた構造体である。そして、基体1は実質的な絶縁体であることが好ましい。基体1に用いる材料としては、石英ガラスや、Na等の不純物含有量を減少させたガラスや、青板ガラスを用いることができる。また、シリコン基体などにスパッタ法等により酸化シリコン(典型的にはシリカ)を積層した積層体や、アルミナ等セラミックスの絶縁性基体なども基体1に用いることができる。
【0077】
開口21の大きさは、10nm以上50μm以下の範囲から選択され、好ましくは100nm以上5μm以下の範囲から選択される。また、開口21の形状は円形でもよいし、四角形などの多角形状であってもよく、特に制限されるものではない。
【0078】
次に上記した本発明の電子放出素子の製造プロセスの一例を説明する。ただし、この製造方法に、本発明が特に限定されるものではない。
【0079】
図3を参照して、本発明の実施の形態に係る第1の導電層2と該第1の導電層2上に配置された電子放出膜5とを備える電子放出素子の製造方法を説明する。
【0080】
(工程a)
予め、その表面を十分に洗浄した基体1上に、第3の領域101と多数の柱状領域3を設ける(図3(a))。
【0081】
多数の柱状領域3の形成方法としては、例えば、後述する実施例に記載するように、TiNの成膜条件を制御する方法を採用することができる。
【0082】
(工程b)
次に、複数の柱状領域3の各々の間に、柱状領域3よりも低い導電性を備えた領域4を設ける(図3(b)、図3(c))。
【0083】
領域4は、例えば、柱状領域3を酸素を含む雰囲気中で加熱することで、形成することができる。しかしながら、領域4の形成方法は、この方法に限定されるものではない。
【0084】
上記手法で形成される領域4は、柱状領域3の酸化物を含む。そして、加熱時には、柱状領域3の表面(柱状領域3の長手方向における2つの端部のうちの基板1とは反対側の端部の表面)も酸化され、酸化層12が形成される場合がある。加熱の方法は、焼成炉の中に基体1を配置し、ヒーターもしくはランプなどで基体全体を加熱してもよいし、またはレーザーなどで目的の場所のみを加熱するという方法でもよい。また加熱時の雰囲気も酸素を含む雰囲気以外にもオゾン雰囲気などでもよく、一般的に金属が酸化される雰囲気であればよい。酸化する程度としては、形成される酸化層12の厚みが、実用的には、1nm以上20nm以下の範囲で形成されれる程度であれば良い。加熱温度、加熱時間は、適宜選択される。
【0085】
(工程c)
そして、エッチングにより酸化層12を除去し、柱状構造体100と第3の領域101とから構成された第2の導電層2を形成する(図3(c))。
【0086】
この時、後の工程で形成する電子放出膜5と第2の導電層2とが基体1の表面に対して実質的に垂直な方向で電気的接続が十分取れていれば、酸化層12はある程度残っていても構わない。エッチングの手法はドライエッチングでもウェットエッチングでも構わず、特に限定されない。またエッチングは、第2の導電層2の全面を露出するようにしてもよいし、フォトリソグラフィなどにより、第2の導電層2の一部が露出するようにしてもよい。また、この時、領域4が、隣り合う複数の柱状領域3の間に、残るようにする。
【0087】
尚、ここでは、柱状構造体100を形成する手順として、柱状領域3を形成してから領域4を形成するという順序を説明した。しかしながら、本発明の電子放出素子の製造方法では、この順序はどちらが先でも良いし、同時に形成しても良い。例えば、まず、第3の領域101上に公知のアルミナナノホール(上記領域4に相当する)を形成する。アルミナナノホールは、アルミの膜に陽極酸化を行うことで形成することができるものであって、ナノサイズの直径を備えた円柱状の開口を多数備えるアルミナの膜である。アルミナナノホールでは、多数の円柱状の開口を実質的に一方向に配向することができる。例えば、図11(a)や図11(b)に示すように、ナノサイズの開口(図11の符号3で示す領域に相当する)を行列状や蜂の巣状に容易に形成することができる。そして、前述した柱状領域3を構成する導電性材料を、例えばメッキ法などを用いて、各ナノホール内に埋め込むことで、図3(c)などに示す柱状構造体を形成することができる。
【0088】
(工程d)
次いで導電層2上に、電子放出膜5を形成する(図3(e))。
【0089】
電子放出膜5は、蒸着法、スパッタ法、HFCVD法(Hot Filament CVD法)等の成膜技術を用いて形成することができるが、特にその製造方法が限定されるものではない。
【0090】
電子放出膜5の主体としては、炭素を好ましく用いることができる。電子放出膜5として金属を含む電子放出膜を用いる場合は、例えば、グラファイトターゲットと金属ターゲットを用いるマルチターゲットを使って、Rfスパッタ法で、金属を含んだ炭素の膜を形成する方法を採用することができる。また、グラファイトと金属を混合した1つのターゲットを用いて金属含有量を制御する方法等も適宜用いることができる。或いはまた、電子放出膜5の主体としてダイヤモンドライクカーボンを用いる場合、まず電子放出膜5の主体となるDLC膜をHFCVD法により形成する。その後、イオン注入法などで金属をダイヤモンドライクカーボン膜に含ませる方法を採用することもできる。即ち、電子放出膜5の主体となる膜と金属とをわけて、金属を含む電子放出膜5を形成してもよい。
【0091】
尚、前述したように、本発明の電子放出膜5は、金属を含む導電性粒子6を含む場合もある。その場合の製造方法では、例えば以下の(工程e)を加える。
【0092】
(工程e)
その中に金属を含む粒子6を有する電子放出膜5を形成する場合は、上記(工程d)の後に熱処理を行い、電子放出膜5中に存在する金属を凝集させ、粒子6を複数形成する。
【0093】
本工程は、この段階で行わずに、後ほどの工程で行ってもよい。加熱温度は、400℃以上800℃以下の範囲から適宜選択される。加熱温度と加熱温度までの昇温レート、加熱温度における保持時間、加熱後の冷却のための降温レートは、用いる金属と電子放出膜5の主体の材料との組合せにより適宜決定される。
【0094】
(工程f)
少なくとも上記工程(a)〜(d)を行った後に、電子放出膜5上に絶縁層7を堆積する(図3(f))。
【0095】
絶縁層7は、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法等の一般的真空技術を用いてもよいし、印刷法などで形成してもよく、特に限定されるものではない。
【0096】
(工程g)
絶縁層7上に、最終的に第2の電極(ゲート電極)となる導電層8を配置する。
【0097】
導電層8は、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成してもよいし、印刷法などで形成してもよく、特に限定されるものではない。
【0098】
(工程h)
導電層8上に、フォトリソグラフィー技術などにより上記導電層8と絶縁層7とを貫通する開口21を形成するためのパターン(開口)を有するマスク(不図示)を形成する。
【0099】
そして、上記マスクを用いて、導電層8と絶縁層7を貫通し、電子放出膜5上面にまでおよぶ開口21を形成する、エッチング工程を行い、その後、マスクパターンを除去する(図3(h))。
【0100】
尚、エッチングの手法は限定されず、また開口21の平面形状は、円形に限られるものではない。
【0101】
(工程i)
上記工程(a)〜(h)を終えた後に、さらに、本発明の電子放出素子の電子放出特性をさらに向上させるために、電子放出膜5の表面を水素で終端させる工程を設けることもできる。水素で電子放出膜5の表面を終端することで、電子の放出をさらに容易にすることができる。
【0102】
以上の工程により、本発明の電子放出素子を形成することができる。上記製造方法によれば、領域4を領域3の間に設けることで、電子放出膜5中に存在する金属が、複数の領域3の間を通って拡散することを抑制することができる。その結果、電子放出膜中の金属の含有量のプロセス途中における変動を抑制でき、再現性高く、所定の特性を備えた電子放出膜を形成することができる。即ち、金属を含んだ電子放出膜5を加熱する工程(例えば、上記した工程(e)の加熱工程)が必要である場合に、電子放出膜中の金属の含有量が変化することを抑制することができる。特に、後述する実施例にあるように、窒化チタンの柱状領域3の間には電子放出膜5に含まれる金属が加熱によって移動し易いことがわかっている。そのため、柱状領域3同士の間に酸化チタン(窒素を含む場合もある)を配置した上で加熱工程を行えば、上記拡散を抑制できるので好ましい。また、多数の領域3で導電層2を構成することで、製造時の加熱工程や駆動時の発熱などによる、電子放出膜5(特に炭素を主成分とする膜)が導電層2から剥離してしまうという問題も低減することができる。
【0103】
次に、本発明の電子放出素子の応用例について以下に述べる。
【0104】
本発明の電子放出素子を同一の基体表面上を複数配列することによって、例えば、電子源や画像表示装置を構成することができる。
【0105】
図4を用いて、本発明の電子放出素子を複数配して得られる電子源について説明する。図4において、1は基体、42はX方向配線、43はY方向配線、44は本発明の電子放出素子である。
【0106】
X方向配線42は、Dx1、Dx2、…Dxmのm本の配線からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性材料(典型的には金属)で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は適宜設計される。Y方向配線43は、Dy1、Dy2、…Dynのn本の配線からなり、X方向配線42と同様に形成される。これらm本のX方向配線42とn本のY方向配線43との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している。ここで、m及びnは共に正の整数である。不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された酸化シリコン等で構成される。
【0107】
電子放出素子44を構成する、第1の電極(カソ―ド電極)2はm本のX方向配線42のうちの一つに接続され、第2の電極(ゲート電極)8はn本のY方向配線43のうちの一つに電気的に接続される。
【0108】
X方向配線42、Y方向配線43、及び第1の電極及び第2の電極を構成する材料は、その構成元素の一部或いは全部が同一であっても、またそれぞれ異なっていても良い。第1の電極及び第2の電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、X方向配線42、Y方向配線43は、それぞれ第1の電極或いは第2の電極ということもできる。
【0109】
X方向配線42には、X方向に配列した電子放出素子44の行を選択するための、走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線43には、Y方向に配列した電子放出素子44の各列に変調信号を印加するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として定義される。
【0110】
上記構成においては、個別の電子放出素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。このようなマトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置について、図5を用いて説明する。図5は、画像表示装置を構成する表示パネル57の一例を示す模式図である。
【0111】
図5において、1は電子源を備える基体(「リアプレート」と呼ぶ場合もある)である。56は、透明な基体53と、その内面に配置された蛍光体などの電子線の照射によって発光する発光体からなる発光体膜54と、アノード電極としての導電性膜(メタルバックと呼ぶ場合もある)55とが設けられたフェースプレートである。52は支持枠であり、支持枠52には、リアプレート1、フェースプレート56がフリットガラス等の接着剤を用いて接続(封着)されている。57は外囲器(気密容器)であり、フェースプレートとリアプレートと支持枠とを封着することで構成されている。フェースプレート56とリアプレート1との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器57を構成することもできる。
【0112】
また、図5を用いて説明した本発明の外囲器(表示パネル)(57)を用いて情報表示再生装置を構成することができる。
【0113】
具体的には、受信装置と、受信した信号を選曲するチューナーと、選曲した信号に含まれる信号を、ディスプレイパネル(57)に出力してディスプレイパネル57のスクリーンに表示または再生させる。上記受信装置は、テレビジョン放送などの放送信号を受信することができる。また、上記選曲した信号に含まれる信号としては、映像情報、文字情報および音声情報の少なくとも1つを指す。尚、上記「スクリーン」は、図5で示したディスプレイパネル(57)においては、発光体膜(54)に相当すると言うことができる。この構成によりテレビジョンなどの情報表示再生装置を構成することができる。勿論、放送信号がエンコードされている場合には、本発明の情報表示再生装置はデコーダーも含むことができる。また、音声信号については、別途設けたスピーカーなどの音声再生手段に出力して、ディスプレイパネル(57)に表示される映像情報や文字情報と同期させて再生する。
【0114】
また、映像情報または文字情報をディスプレイパネル(57)に出力してスクリーンに表示および/あるいは再生させる方法としては、例えば以下のように行うことができる。まず、受信した映像情報や文字情報から、ディスプレイパネル(57)の各画素に対応した画像信号を生成する。そして生成した画像信号を、ディスプレイパネル(C11)の駆動回路(C12)に入力する。そして、駆動回路に入力された画像信号に基づいて、駆動回路からディスプレイパネル(57)内の各電子放出素子に印加する電圧を制御して、画像を表示する。
【0115】
図12は、本発明の情報表示再生装置の一例であるテレビジョン装置のブロック図である。受信回路(C20)は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、インターネットなどのネットワークを介したデータ放送等を受信し、復号化した映像データをI/F部(インターフェース部)(C30)に出力する。I/F部(C30)は、映像データを表示装置の表示フォーマットに変換して上記ディスプレイパネル(C11)に画像データを出力する。画像表示装置(C10)は、ディスプレイパネル(C11)、駆動回路(C12)及び制御回路(C13)を含む。制御回路は、入力した画像データに表示パネルに適した補正処理等の画像処理を施すともに、駆動回路(C12)に画像データ及び各種制御信号を出力する。駆動回路(C12)は、入力された画像データに基づいて、ディスプレイパネル(C11)の各配線(図5のDx1〜Dxm、Dy1〜Dyn参照)に駆動信号を出力し、テレビ映像が表示される。受信回路(C20)とI/F部(C30)は、セットトップボックス(STB)として画像表示装置(C10)とは別の筐体に収められていてもよいし、また画像表示装置(C10)と同一の筐体に収められていてもよい。
【0116】
また、インターフェースには、プリンター、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラ、ハードディスクドライブ(HDD)、デジタルビデオディスク(DVD)などの画像記録装置や画像出力装置に接続することができる構成とすることもできる。そして、このようにすれば、画像記録装置に記録された画像をディスプレイパネル(C11)に表示させることもできる。また、ディスプレイパネル(C11)に表示させた画像を、必要に応じて加工し、画像出力装置に出力させることもできる情報表示再生装置(またはテレビジョン)を構成することができる。
【0117】
ここで述べた情報表示再生装置の構成は、一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。また、本発明の情報表示再生装置は、テレビ会議システムやコンピュータ等のシステムと接続することで、様々な情報表示再生装置を構成することができる。
【実施例】
【0118】
以下本発明の実施例を詳細に説明する。
【0119】
(実施例1)
図2に示した電子放出素子を図6に示した工程に従って作製した。
【0120】
(工程1)
基体1として石英基板を用い、これを十分に洗浄を行った後、基体1上に、多数の柱状領域3を形成するために、以下に示す(条件1)で、スパッタ法により、TiN膜を100nmの厚さで成膜した。下記(条件1)における雰囲気ガスは、ArガスとNガスとを9:1の割合で混合したガスを用いた。
【0121】
(条件1)
Rf電源 : 13.56MHz
Rf出力 : 8W/cm
雰囲気ガス圧 : 1.2Pa
ターゲット : Ti
成膜されたTiN膜は、図6(a)に示す様に、多数の柱状領域3から構成されており、柱状領域3の平均直径Wは、30nmであり、その抵抗率ρは10−4Ω・cmであった。平均直径Wは、走査型電子顕微鏡で、成膜したTiN膜の表面を20万倍の倍率で撮影し、その写真で直径を測長し、平均化した数値である。
【0122】
尚、このように、成膜条件を制御することで、多数の柱状領域3を簡易に形成できる材料としては、Ti、TiN、Ta、TaN、Al、AlN、TiAlNが挙げられる。
【0123】
(工程2)
次に、大気雰囲気(酸素含有雰囲気)のオーブンの中に上記工程1を経た基体1を入れ、350℃で1時間の加熱を行った。すると、図6(b)のように隣り合うTiNの柱状領域3の間(柱状領域3の側面)にTiの酸化物を主体とした第2の領域4が形成された。また同時に、柱状領域3の表面にTiの酸化物層12が形成された。
【0124】
TEM(透過型電子顕微鏡)によって観察すると、隣合う2つの柱状領域3の間に領域4が存在することを観察することができた。領域4をEDX(エネルギー分散型X線分析装置)で定性分析すると、Tiと酸素とNの存在が認められ、領域4が酸化物であることが確認できた。また、ESCA(X線光電子分光分析法)で測定したところTiの酸化物とTiの窒化物の存在が確認された。また層4の幅W‘−Wは、14nmであり、その抵抗率ρは10Ω・cmであった。
【0125】
(工程3)
ドライエッチングにより、柱状領域3の表面の酸化層12を除去し、導電層2の酸化されていない表面を露出させる(図6(c)。つまり、領域3と領域4とを露出させる。この時、隣り合う複数のTiNの柱状領域3の間の、酸化物層である領域4は除去せず、隣り合う柱状領域3の間を埋めたままとした。
【0126】
(工程4)
ついでスパッタ法によりコバルトを含んだ炭素膜5を導電層2上に12nm堆積した(図6(d))。
【0127】
炭素膜15の主体としてはアモルファスカーボンを用いた。従って、この工程で形成した膜15は、アモルファスカーボンを主成分とし、コバルトを含む膜と言い換えることができる。このコバルトを含む膜の比抵抗は、10Ω・cmであった。
【0128】
(工程5)
炭素膜15上に、プラズマCVD法により絶縁層7としてSiO2を1000nm成膜した(図6(e))。
【0129】
(工程6)
絶縁層7上に、ゲート電極8として、Ptを100nmの厚さになるように成膜した(図6(f))。
【0130】
(工程7)
次いで、ゲート電極8上に、ポジ型フォトレジストをスピンコートし、フォトマスクパターン(円形)を露光、現像し、不図示のマスクパターンを形成した。マスクパターンは、円形の開口を備えている。このときの開口径は、1.5μmとした。尚、開口の数は、図7に示した様に複数個形成してもよく、特に限定されるものではない。
【0131】
(工程8)
ドライエッチングにより、炭素膜5の表面が露出するまで、前記マスクパターンの開口の直下に位置するゲート電極8および絶縁層7をエッチングし、開口21を形成した(図6(g))。
【0132】
(工程9)
残ったマスクパターン(不図示)を、剥離液にて除去し、水洗を行った。
【0133】
(工程10)
次に、アセチレンと水素の混合ガス雰囲気中で、基体1を550℃で300分間熱処理を行った。この熱処理でコバルトが凝集し、コバルト粒子6を内包する炭素膜5(即ち電子放出膜5)を形成した(図6(h))。
【0134】
以上の工程で、実施例1の電子放出素子を完成させた。
【0135】
このように作製した電子放出素子の電子放出特性を測定した。測定に際しては、本実施例で作製した電子放出素子を図9に示すように、電子放出素子の上方に、離れて、アノード電極9を配置した。そして、アノード電極9、導電層2、ゲート電極8にそれぞれ電位を印加して、電子放出特性を測定した。
【0136】
印加電圧はVa=10kV、Vb=20Vとし、電子放出膜5とアノード電極9との距離Hを2mmとした。その結果、柱状領域を備えていないTiN膜を用いた電子放出素子では、電子放出素子が、一部、基体1から剥離してしまった。一方、本実施例の電子放出素子では、基体1から電子放出膜5が剥離することもなく、安定した電子放出特性を示し、電子放出量のゆらぎも小さかった。
【0137】
また、電子放出量のゆらぎを比較するために、上記工程4で形成する炭素膜5を20nmの厚みで形成した電子放出素子1と、炭素膜5を100nmの厚みで形成した電子放出素子2も用意した。これらの電子放出素子1及び2は、上記厚み以外は、実施例1の電子放出素子の製造方法と同様の方法で形成した。
【0138】
そして、実施例1の電子放出素子の電子放出量のゆらぎと、電子放出素子1及び2の電子放出量のゆらぎを比較すると、実施例1の電子放出素子と電子放出素子1との比較では実施例1の電子放出素子の方が若干優れていた。一方、電子放出素子1と電子放出素子2との比較では、電子放出素子1の方が電子放出量のゆらぎは非常に小さかった。
【0139】
この時のそれぞれのkの値は、実施例1の電子放出素子は、5.0であり、電子放出素子1は3.5であり、電子放出素子2は0.70であった。つまり、電子放出素子2は、電子放出点での電子の広がりと、それに隣接した電子放出点での電子の広がりとの重なりが、Iの61%の地点で起こっており、電子放出ゆらぎは、特に大きかった。
【0140】
これは、電子放出素子2では、先述した式(1)を満たしておらず、領域3から流れ込む電子の広がりが、隣の領域3から流れ込む電子の広がりと実質的に重なってしまうためであると推察される。このように、電子放出膜5の膜厚が、(式1)を満たさないと、電子放出量のゆらぎが顕著に増大する傾向になる。
【0141】
また、上記工程1における条件を下記(条件2)に変更して、柱状領域3を備えない導電層2を形成し、続いて、上記工程2、3を行わずに、上記工程4〜10を行って、比較用の電子放出素子3を作製した。尚、下記(条件2)における雰囲気ガスは、ArとNガスを9:1の混合ガスであった。
【0142】
(条件2)
Rf電源 : 13.56MHz
Rf出力 : 8W/cm
ガス圧 : 0.4Pa
ターゲット : Ti
上記条件2で成膜されたTiN膜は、柱状領域の見られないバルク状の膜であった。そして、比較用の電子放出素子3の電子放出量のゆらぎは、実施例1の電子放出素子に比べて非常に大きかった。また、同じ製造工程で作成した他のサンプルでは、電子放出膜が基体から剥離してしまった。また、別のサンプルでは、電子放出膜中の金属の含有量が実施例1で作成した電子放出膜に比べて大幅に減少していた。この傾向は、上記工程2および工程3を行わずに作成した電子放出膜にも同様に見られた。
【0143】
(実施例2)
本実施例では、図2に示した電子放出素子を図8に示した工程に従って作製した。尚、本実施例2の電子放出素子は、実施例1に対して、電子放出膜5を開口21内部にのみ配置した構成の電子放出素子である。
【0144】
(工程1)
実施例1の工程1と同様に、基体1上に多数のTiNからなる柱状領域3を形成した(図8(a))。柱状領域3の平均直径は、30nmであり、抵抗率ρは10−4Ω・cmであった。
【0145】
(工程2)
次に、オゾン雰囲気のアッシング装置の中に基体1を入れ、オゾンアッシングを行ったところ、隣り合う複数のTiNの柱状領域3の間(柱状領域3の側面)にTiの酸化物を主体とした第2の領域4が形成された。また同時に、柱状領域3の表面にTiの酸化物層12が形成された(図8(b))。
【0146】
TEM(透過型電子顕微鏡)によって観察すると、柱状構造体3と隣り合う柱状構造体3の間の領域4が観察された。領域4をEDX(エネルギー分散型X線分析装置)で定性分析すると酸素の存在が認められ、領域4が酸化物であることが確認でき、また、領域4の幅は14nmであり、その比抵抗は10Ω・cmであった。
【0147】
(工程3)
実施例1の工程3と同様に、ドライエッチングで、酸化層12を除去し導電層2の酸化されていない表面を露出させる(図8(c))。
【0148】
(工程4)
導電層2上に、プラズマCVD法により絶縁層7としてSiO2を1000nm成膜した(図8(d))。
【0149】
(工程5)
絶縁層7上に、ゲート電極8として、Ptを100nmの厚さになるように成膜した(図8(e))。
【0150】
(工程6)
次いで、ゲート電極8上に、実施例1の工程7と同様に不図示のマスクパターンを形成した。マスクパターンは、円形の開口を備えており、開口径は、1.5μmとした。
【0151】
(工程7)
ドライエッチングにより、導電層2の表面が露出するまで、前記マスクパターンの開口の直下に位置するゲート電極8及び絶縁層7をエッチングし、開口21を形成した(図8(f))。
【0152】
(工程8)
ついでスパッタ法によりコバルトを含んだ炭素膜5を開口21内に露出した導電層2上に12nm堆積した(図8(g))。このコバルトを含む膜5の比抵抗は、10Ω・cmであった。
【0153】
(工程9)
残ったマスクパターン(不図示)を、剥離液にて除去し、水洗を行った。
【0154】
(工程10)
次に、実施例1の工程10と同様の手法で、コバルト粒子6を内包する炭素膜5(即ち電子放出膜5)を形成した(図8(h))。
【0155】
以上の工程で、実施例2の電子放出素子を完成させた。
【0156】
また、実施例2で作製した電子放出素子の電子放出特性を実施例1と同様に図10に示すようにアノード電極9を配置して測定した。印加電圧はVa=10kV、Vb=20Vで、電子放出膜3とアノード電極8との距離Hを2mmとした。
【0157】
その結果、基体1から電子放出素子が剥離することもなく、安定した電子放出特性を示し、さらに実施例1と同様に電子放出量のゆらぎの小さい電子放出素子を形成することができた。
【0158】
(実施例3)
上記実施例2で作製した電子放出素子を用いて図5に示す画像表示装置57を作製した。
【0159】
実施例2で示した電子放出素子を、X方向に100個、Y方向に100個、マトリクス状に配置した。配線は図5に示したようにX方向配線42(Dx1〜Dxm)を導電層2に接続し、Y方向配線43(Dy1〜Dyn)をゲート電極8に接続した。各電子放出素子44の上方には蛍光体層54とアノード電極であるメタルバック55を配置した。図5では、1つの電子放出素子44に開口21が一つ形成されている例を示しているが、開口の数は一つに限定されるものではなく、複数の開口を備えていても構わない。
【0160】
外囲器57を封着するために接着剤としてインジウムを用いてリアプレート1とフェースプレート56とを支持枠52を間に挟んで封着した。この結果、単純マトリクス駆動が可能で、高精細で、輝度ばらつきの少ない、画像表示装置が形成できた。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の電子放出素子の構成を示す模式図である。
【図3】本発明の電子放出素子の製造方法の一例を示した模式図である。
【図4】本発明の電子放出素子を用いた電子源の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の電子放出素子を用いた画像表示装置の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の電子放出素子の製造方法の一例を示した模式図である。
【図7】本発明の電子放出素子を用いた電子放出装置の一例を示した模式図である。
【図8】本発明にかかる電子放出素子の製造方法の一例を示した模式図である。
【図9】本発明の電子放出素子を用いた電子放出装置の模式図である。
【図10】本発明の電子放出素子の導電層の断面模式図である。
【図11】本発明の電子放出素子の導電層の表面の平面模式図である。
【図12】本発明の情報表示再生装置の一例のブロック図である。
【符号の説明】
【0162】
1 基体
2 導電層
3 第1の領域
4 第2の領域
5 電子放出膜
6 粒子
100 柱状構造体
101 第3の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電層と該導電層上に配置された電子放出膜とを備える電子放出素子であって、
前記導電層が、(A)複数の第1領域と、(B)複数の第1領域の各々の間に設けられた、前記第1領域よりも高抵抗な第2領域とを、少なくとも有する表面を備えており、
前記電子放出膜が、前記導電層の前記表面を覆っている、ことを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記電子放出素子は基体の表面上に配置されており、前記複数の第1領域は前記基体の表面と前記電子放出膜との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記複数の第1領域の各々は柱状の領域であり、前記柱状の領域は、前記基体の表面に対して実質的に垂直に配向している、ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
(A)基体と、(B)各々が前記基体の表面に対して実質的に垂直に配向した、複数の柱状の第1領域と、(C)前記複数の第1領域の各々の間に設けられた、前記第1領域よりも高抵抗な第2領域と、(D)前記複数の柱状の第1領域と前記第2領域とを覆う電子放出膜と、を備えることを特徴とする電子放出素子。
【請求項5】
前記電子放出膜の膜厚が、前記柱状領域の平均直径以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記電子放出膜の主体の抵抗率が、前記第1領域の抵抗率よりも高く、前記第2領域の抵抗率よりも低い、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記電子放出膜の主成分が炭素であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記電子放出膜の主体が、1×10Ω・cm以上1×1014Ω・cm以下の抵抗率を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
前記電子放出膜が金属を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項10】
前記電子放出膜の主体の抵抗率が、前記金属の抵抗率の100倍以上であることを特徴とする請求項9に記載の電子放出素子。
【請求項11】
前記電子放出膜の膜厚をd’とした時に、下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【数1】

【請求項12】
前記第1領域が、金属を含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項13】
前記第1領域が、Ti、TiN、Ta、TaN、AlN、TiAlNのいずれかから選択された材料を含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項14】
前記第2領域が、酸化物を含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項15】
前記酸化物が、前記第1領域を構成する材料の酸化物であることを特徴とする請求項14に記載の電子放出素子。
【請求項16】
複数の電子放出素子を備える電子源と、該電子源から放出された電子が照射されることで発光する発光部材と、を具備する画像表示装置であって、前記複数の電子放出素子の各々が請求項1乃至15のいずれか1項の電子放出素子であることを特徴とする画像表示装置。
【請求項17】
画像表示装置と、受信した信号を前記画像表示装置に送る、該画像表示装置に接続された受信回路とを、備える情報表示再生装置であって、前記画像表示装置が請求項16に記載の画像表示装置であることを特徴とする情報表示再生装置。
【請求項18】
導電層と該導電層上に配置された電子放出膜とを備える電子放出素子の製造方法であって、
(i)(a)導電性の複数の柱状領域を具備する導電層と、(b)該導電層上に配置された、金属を含有する層と、を備える構造体を用意する工程、
(ii)前記構造体を加熱する工程、とを有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項19】
前記工程(ii)の前に、前記複数の柱状領域間に酸化物を設ける工程を有することを特徴とする請求項18に記載の電子放出素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−294126(P2007−294126A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−117730(P2006−117730)
【出願日】平成18年4月21日(2006.4.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】