電子線源
【課題】 冷陰極と支持基板との密着性が問題にならず良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持して照射する技術を提供する。
【解決手段】 表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極12と、冷陰極12から電子の放出が可能となる所望の電圧を冷陰極12に対して印加する第1の電源と、冷陰極12に対する陽極となり冷陰極12から放出された電子を誘引し透過する膜16と、を有する。
【解決手段】 表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極12と、冷陰極12から電子の放出が可能となる所望の電圧を冷陰極12に対して印加する第1の電源と、冷陰極12に対する陽極となり冷陰極12から放出された電子を誘引し透過する膜16と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極の表面に電界を発生させて、その電界により冷陰極から電子を放出させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中に置かれた金属の表面に閾値以上の電界を発生させると、金属中の電子が、表面近傍のポテンシャル障壁を量子トンネル効果によって通過し、室温でも真空中に放出される。この現象を、冷陰極電界放出、または単に電界放出(フィールドエミッション)と呼ぶ。近年、冷陰極電界放出を利用した平面型の画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ:FED)が提案され、陰極線管(CRT)に代わる表示装置として期待されている。
【0003】
電界放出型冷陰極装置の代表的な例として、スピント(C.A.Spindt)らの提案によるスピント型冷陰極装置が挙げられる。スピント型冷陰極装置においては、モリブデン等からなる微小な円錐状の突起を冷陰極として用いる。ところが、微小な円錐状の突起を、形状の再現性良く作製することが困難であり、製造歩留まりが低い。
【0004】
特許文献1〜特許文献4に、カーボンナノチューブ等を用いた冷陰極装置が開示されている。これらの冷陰極装置では、支持基板上に形成されたカーボンナノチューブが冷陰極として作用する。また、特許文献1の従来の技術の欄に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜やダイヤモンド薄膜を支持基板上に堆積させ、この薄膜を冷陰極として用いる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−86080号公報
【特許文献2】特開2003−86079号公報
【特許文献3】特開平11−329312号公報
【特許文献4】特開平10−149760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
支持基板上にカーボンナノチューブ等を形成した構造では、カーボンナノチューブ等と支持基板との間で充分な密着性が得られない。また、支持基板上に形成されたカソード電極と冷陰極との界面での電圧降下が、電子放出特性の劣化(電流飽和)の原因になる。また、界面に電流が集中することにより、冷陰極の破壊等が生じやすくなる。
【0006】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、冷陰極と支持基板との密着性が問題にならず良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持してこの電子線を照射することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段とした。
すなわち、本発明は、表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極と、冷陰極から電子の放出が可能となる所望の電圧を当該冷陰極に対して印加する第1の電源と、冷陰極に対する陽極となり当該冷陰極から放出された電子を誘引し透過する膜と、を有する。
【0008】
本発明は、電子を照射する電子線源において、表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極を用い、その冷陰極から放出された電子を引き寄せる陽極として電子を透過可能な膜を用いた。
【0009】
従って、本発明によれば、良好な電子放出特性を有する冷陰極から放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【0010】
また、本発明は、膜が、少なくともダイヤモンド及びシリコンのいずれかを含む、軽元素を含有する材料によって形成されてもよい。
【0011】
このようにすることによって、本発明は、膜が低抵抗の材料で形成される。このため、本発明によれば、膜の陽極としての機能を向上することができる。
【0012】
また、本発明は、膜が、膜厚の異なる複数の領域を有してもよい。
【0013】
このようにすることによって、本発明は、電子の透過性能を維持しつつ所定の強度を有する膜を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、膜における複数の領域のうち、膜厚の薄い領域において前記電子が透過するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明は、膜における複数の領域が、エッチング処理によって形成されてもよい。
【0016】
また、本発明は、膜に対して導電層を形成してもよい。
【0017】
また、本発明は、冷陰極を含む電子が放出される所定の領域を囲繞するように形成され、電子の放出方向に開口部を備える外壁部をさらに有し、膜が開口部に設けられるようにしてもよい。
【0018】
さらに、本発明は、膜が、開口部における外壁部外方から貼り付けられるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
グラファイトからなる部材の表面に凹凸を形成することにより、冷陰極として用いることが可能になる。この冷陰極の表面の凸部は、本来グラファイト基板と一体であったものであるため、基板と凸部との密着性が問題になることはない。また、両者の間に明確な界面は存在しないため、基板と凸部との接触抵抗に起因する電子放出特性の劣化もない。そして、本発明によれば、冷陰極と支持基板との密着性が問題にならず良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の電子線源の一実施の形態に係る、電子線発生装置、及びこの電子線発生装置で用いる冷陰極並びに薄膜の構成について説明する。
【0021】
<冷陰極の構成>
本発明の一実施の形態に係る冷陰極の製造方法について説明する。まず、表面が鏡面状のグラファイト製の基板を準備する。この基板の表面を水素プラズマに晒す。この水素プラズマ処理は、例えば、マイクロ波プラズマエッチング装置を用いて行うことができる。
【0022】
図1(A)に、水素プラズマ処理前のグラファイト基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、図1(B)に、水素プラズマ処理後のグラファイト基板の表面のSEM写真を示す。図1(B)に示したグラファイト基板は、マイクロ波プラズマエッチング装置を用い、入力RFパワー800W、圧力約1330Pa(約10Torr)、水素流量80sccmの条件で30分間の水素プラズマ処理を行ったものである。
【0023】
図1(A)に示されるように、水素プラズマ処理前の基板表面は、ほぼ平坦である。水素プラズマ処理を行うと、図1(B)に示されているように、面内の寸法が約0.5μm程度の微細な凹凸が形成される。一つの窪みと、それに隣接する窪みとの境界に尾根状の凸部が形成されていると考えられる。この尾根状の凸部の高さは一定ではなく、うねりをもっていると考えられる。このため、尾根状の凸部に沿って、先の尖った突起部が離散的に分布していると考えられる。
【0024】
凹凸の形成されたグラファイト基板の表面に電界を発生させると、突起部の先端に電界が集中する。このため、表面が鏡面状である場合に比べて、グラファイト基板から電子が放出されやすいと考えられる。
【0025】
図2に、グラファイト基板の電子放出特性の測定結果を示す。横軸はグラファイト基板の表面に発生する電界を単位「V/μm」で表し、縦軸は、グラファイト基板から放出された電子による電流を単位「A」で表す。図中の破線は、水素プラズマ処理前のグラファイト基板の測定結果を示し、実線は、水素プラズマ処理後のグラファイト基板の測定結果を示す。
【0026】
水素プラズマ処理前の、表面が鏡面状のグラファイト基板からは、ほとんど電子が放出されないことがわかる。水素プラズマ処理により表面に凹凸を形成したグラファイト基板からは、表面の電界が10V/μmを超えた領域で電子が放出されていることがわかる。このため、水素プラズマ処理したグラファイト基板は、冷陰極として用いることが可能である。電子放出の閾値は、約10V/μmと考えられる。
【0027】
本実施例では、表面を水素プラズマに晒すことにより、突起が形成される。このため、支持基板上に多数の突起を成長させるスピント型冷陰極に比べて、製造工程を簡略化することができる。水素プラズマ処理で形成された突起は、本来グラファイト基板と一体であったため、突起と下地との密着性に起因する問題は生じない。また、グラファイト基板自体がカソード電極となるため、突起とカソード電極との接触抵抗に起因する問題も生じない。このように、本実施例による方法により、低価格、長寿命、かつ安定な冷陰極を作製することができる。
【0028】
水素プラズマ処理は、入力RFパワー100〜1000W、圧力1.33×102〜1.33×104Pa(1〜100Torr)、水素流量5〜100sccm、処理時間1〜100分の範囲内の条件で行ってもよい。この範囲内の条件で水素プラズマ処理を行っても、良好な電子放出特性を得ることができる。また、水素プラズマとグラファイト基板との間に適当な電位差を設けると、表面に形成される凹凸の高低差がより大きくなる場合がある。凹凸の高低差が大きくなると、より良好な電子放出特性を得ることができる。
【0029】
本実施例では、マイクロ波プラズマエッチング装置を用いて水素プラズマ処理を行ったが、その他のプラズマエッチング装置、例えば電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ装置、反応性イオンエッチング(RIE)装置等を用いてもよい。また、グラファイトを化学的にエッチングするためのガスとして、水素以外に、酸素、CF4等を用いることも可能である。なお、処理条件によっては、化学的なエッチング作用に物理的なスパッタリング作用が共存して、グラファイト基板の表面に凹凸が形成される。
【0030】
本実施例では、主として化学的なエッチング作用を利用して、グラファイト基板に凹凸を形成したが、主として物理的なスパッタリング作用を利用してもよい。例えば、スパッタリングガスとしてアルゴン(Ar)や窒素(N2)を用いることができる。また、サンドブラスト等の機械的な表面処理により、グラファイト基板の表面に凹凸を形成してもよい。また、パルスレーザビームをグラファイト基板の表面に照射して損傷を与えることにより、凹凸を形成してもよい。
【0031】
なお、本実施例において、上述の表面処理を組み合わせてもよい。例えば、機械的な表面処理によって凹凸を形成し、その後化学的なエッチングまたは物理的なスパッタリングを行ってもよい。
【0032】
また、本実施例において、グラファイト表面に凹凸を形成した後、表面にCO2レーザ、Nd:YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザビームを照射することにより、電子放出特性を向上させることができるであろう。カーボンナノチューブを用いた冷陰極にレーザビームを照射すると電子放出特性が向上することが報告されている(例えば、J. S. Kim et. al., "Ultraviolet laser treatment of multiwall carbon nanotubes grown at room temperature" Appl. Phys. Lett. 82, 1607 (2003))。
【0033】
図3に、本実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極の電子放出特性を、従来の冷陰極の電子放出特性と比較して示す。横軸は、冷陰極の表面の電界を単位「V/μm」で表し、縦軸は、電子放出に起因する電流を単位「A」で表す。図中の実線a、b、及びcは、それぞれ本実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極、FeNi合金基板上に熱CVDで形成したグラファイトナノファイバ(GNF)を用いた冷陰極、及びFeNi合金基板上にプラズマCVDにより形成したカーボンナノチューブ(CNT)を用いた冷陰極の電子放出特性を示す。
【0034】
図3によれば、実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極のグラフの傾きが、他の2つの冷陰極のグラフの傾きよりも急峻である。これは、抵抗成分が小さいことを表している。
【0035】
<電子線発生装置の構成>
図4に、上記冷陰極を用いた、本発明の電子線源の一実施の形態である電子線発生装置1の断面図を示す。電子線発生装置1は、一端が閉じ他端が開放された円筒状のガラスバルブ10の開放端に、フェースガラス11が低融点フリットガラスまたは真空用接着剤などの適宜の接着材料により接着され、外壁2が構成されている。
【0036】
また、フェースガラス11は、中心部分に開口部15を有する。開口部15の外方(外壁2を形成する側)には、開口部15を覆うように電子線取出し用の薄膜16が設けられる。この薄膜16が図のように外方に設けるのは、外壁2の内部の空間は、圧力が1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)以下になるように真空排気されているため、例えば開口部15の内方に薄膜16を設けた場合には、その圧力によって薄膜16が引き込まれてしまうことを避けるためである。
【0037】
薄膜16は、例えばダイヤモンドあるいはシリコンなど、軽元素からなる素材を薄膜化したものを用いる。薄膜16にこのような素材を用いるのは、冷陰極12から照射された電子線が透過するためである。
【0038】
また、薄膜16は、このような素材を用いることによって、低抵抗(0.01Ωから0.001Ω)のもので導電性を有する。そして、薄膜16は、電気的に接続されて接地されることにより、冷陰極12に対する陽極としての役割も果たす。
【0039】
薄膜16は、上述のように冷陰極12から放出された電子線を電子線発生装置1の外部へ放出するために、電子を所定の効率で透過することができるようにすることが要求される。また、薄膜16は、上述のように外壁2内部が真空排気されていることから、その圧力によって破損することがないような所定の強度を有することが要求される。要求されるこのような特性を両立するために、薄膜16は、電子の透過効率を満たす第1の領域と圧力に対する強度を維持する第2の領域との、膜厚の異なる複数の領域を有している。
【0040】
図5は、薄膜16を照射される電子線と向かい合う(冷陰極12の平面と向かい合う)方向から見た平面図である。また、図6は、薄膜16の縦断面を示す図である。薄膜16は、開口部15の内径D全体を覆うのに十分な大きさ(外径)を有していることが望ましい。薄膜16は、例えば、所定の区画20で抜き出したと仮定すると、その区画20中に膜厚の薄い第1領域21と膜厚の厚い第2の領域22とを有している。そして、薄膜16は、このような第1の領域21と第2の領域22とが平面中に適宜の配列で多数設けられている。なお、本実施の形態において、一つの区画20を150μm四方とすると、第1領域は直径75μmとし区画20上の残りの領域が第2領域22となっている。なお、この第1領域21と第2領域22との比率は一例であり、適宜定めることができる。
【0041】
第1領域21と第2領域22との膜厚は、例えば第1領域21が1μmで第2領域22が50μmである。この膜厚の数値、及び複数の領域の比率並びにその形状は例示であり、それらは上述のように電子の透過効率を満たしつつ薄膜の強度を維持可能なものであれば適宜設定可能である。そして、このような2つの領域を薄膜16の表面上に多数配置することによって、上述のような薄膜16に要求される特性を満たしている。
【0042】
電子線発生装置1は、電源に接続されたリードピン17が、ガラスバルブ10内において、閉じられた側の端部からフェースガラス11に向かって延伸されている。また、電子線発生装置1は、リードピン17の先端に、冷陰極12が配置されている。すなわち、冷陰極12は、リードピン17により、ガラスバルブ10内に支持されている。
【0043】
冷陰極12は、上記冷陰極の構成で説明したグラファイト基板であり、その凹凸を付された面がフェースガラス11(薄膜16)に対向している。冷陰極12と薄膜16に電圧を印加すると、双方間において双方が近づく向きの静電気力が発生する。
【0044】
リードピン17は、ガラスバルブ10の閉じられた端部を貫通して外部まで導出されている。薄膜16は、不図示の電源及び接地に対して電気的に接続されている。リードピン17及び配線18を介して冷陰極12に所定の電圧が印加され、陽極である薄膜16に所定の電圧が印加される。
【0045】
冷陰極12には、冷陰極12から電子が放出されるのに充分な大きさの電圧が印加される。薄膜16には、冷陰極12に印加される電圧よりも高い電圧が印加される。冷陰極12から放出された電子が、薄膜16に近づくにつれて、この薄膜16に印加されている電圧によって加速される。そして、電子は、薄膜16に入射する。薄膜16に入射した電子は、この薄膜16を貫通し透過して外部に放射される。
【0046】
以上のような構成を有する電子線発生装置1によれば、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域との、膜厚の異なる複数の領域を有する導電性のある材料からなる薄膜16を用いることによって、良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【0047】
<薄膜の生成方法>
次に、本実施の形態に係る、薄膜16の生成方法の一例について説明する。
【0048】
図7は、薄膜16の生成方法を例示する図である。上述のように、薄膜16は、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域との、膜厚の異なる複数の領域を有する。そのため、薄膜16には、これら2つの領域を膜上に生成する必要がある。
【0049】
まず、薄膜16の材料として、例えばSi層とSiO2層とが積層した、Si基板を用いる。このような材料のうち、第1領域となりうる部分においては、Si層((1)の層:膜厚300〜600μm)とSiO2層((2)の層:膜厚1〜2μm)とを取り除き、(3)のSi層のみを残すようにする。
【0050】
(1)の層を取り除くには、例えば公知のDeep RIE(Reactive Ion Etching)プロセスでC4F8,SF6ガスを利用してエッチングを行う。この方法を用いることで、(1)のSi層のみを除去することができる。その後、(2)のSiO2層を取り除くには、公知の方法によって可能である。すなわち、(2)のSiO2層を取り除くには、ドライプロセスで行うときはCHF3+Arガスを利用して行い、ウェットプロセスで行うときはBuffered HFを利用して行う。
【0051】
そうすることで、薄膜16は、(1)及び(2)の層を取り除いた部分(第1領域)の膜厚が(3)の層のみの1〜2μmとなり、この部分が第1の領域となる。また、第1の領域は、他の部分(第2領域)の膜厚よりも薄いことから電子の透過率が高くなる。このとき、第1領域となる(3)のSi層は、1μmの膜厚であれば、電子線が20keVで照射されたときには、12keVの電子線が70%透過することが明らかとなった。そして、薄膜16は、第1領域以外の部分については膜厚の厚い第2領域となるため、所定の強度を確保することが可能となる。
【0052】
なお、以上の薄膜16として用いた材料、及びその加工方法などは一例であり、低抵抗(0.01Ω〜0.001Ω)の薄膜として利用可能な材料で、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域とを形成することが可能なものであれば、他の材料を用いることが可能である。
【0053】
また、薄膜16に対して、図7のようにその面上に導電性のある材料(例えばアルミなどの金属材料)による層を何らかの方法によって設けることも可能である。
【0054】
<変形例>
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等により、様々な装置等の作製が可能なことは当業者に自明であろう。本実施例の変形例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0055】
図8は、電子線発生装置の第1の変形例を示す図である。この変形例と上述の電子線発生装置1との相違点は、冷陰極12の凹凸が形成された面に対向するように、グリッド13が配置されていることにある。
【0056】
冷陰極12とグリッド13との間隔は、0.5〜1mm程度に設定される。グリッド13は平面に沿った形状にしてもよいが、冷陰極12から遠ざかる方向に膨らんだ球面に沿う形状にしてもよい。冷陰極12(−20keV)とグリッド13(−18keV)とに電圧を印加すると、両者に電位差が生じ両者が近づく向きの静電気力が発生する。また、グリッド13を球面に沿う形状にすることにより、グリッド13と冷陰極12との接触を生じにくくすることができる。
【0057】
グリッド13を設けることで、冷陰極12とグリッド13との間に、冷陰極12から電子が放出されるのに充分な大きさの電圧が印加される。薄膜16には、グリッド13に印加される電圧よりも高い電圧が印加される。冷陰極12から放出された電子が、グリッド13を通過し、薄膜16に印加されている電圧によって加速され、薄膜16に入射する。
【0058】
図9は、電子線発生装置の第2の変形例を示す図である。この変形例と上述の電子線発生装置1との相違点は、外壁2の内部に薄膜16から電源への電気的接続を行うリードピン19と配線20とを行ったことにある。
【0059】
図10は、電子線発生装置の第3の変形例を示す図である。この変形例は、上記第1の変形例と第2の変形例とを組合せたように構成したことが特徴である。
【0060】
また、電子線発生装置1において、冷陰極12は平板上であるが、本発明ではこれに限定されず、例えば針状や棒状のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の冷陰極は、放射線発生装置や照明装置の電子ビーム源として使用することができる。また、本発明の電子線源は、電子線殺菌装置、排ガス測定装置、環境汚染測定装置、大気汚染測定装置、電子線樹脂硬化装置等の電子線光源に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1(A)】水素プラズマ処理前のグラファイト基板のSEM写真である。
【図1(B)】実施例による方法で水素プラズマ処理を行ったグラファイト基板のSEM写真である。
【図2】水素プラズマ処理前後のグラファイト基板の電子放出特性を示すグラフである。
【図3】実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極、従来のカーボンナノチューブおよびグラファイトナノファイバを使用した冷陰極の電子放出特性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施の形態に係る電子線発生装置の断面図である。
【図5】薄膜の正面図である。
【図6】薄膜の断面図である。
【図7】薄膜の生成方法を図示する断面図である。
【図8】第1の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【図9】第2の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【図10】第3の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 電子線発生装置
2 外壁
10 ガラスバルブ
11 フェースガラス
12 冷陰極
13 グリッド
15 開口部
16 薄膜
17 リードピン
18 配線
19 リードピン
20 区画
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極の表面に電界を発生させて、その電界により冷陰極から電子を放出させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中に置かれた金属の表面に閾値以上の電界を発生させると、金属中の電子が、表面近傍のポテンシャル障壁を量子トンネル効果によって通過し、室温でも真空中に放出される。この現象を、冷陰極電界放出、または単に電界放出(フィールドエミッション)と呼ぶ。近年、冷陰極電界放出を利用した平面型の画像表示装置(フィールドエミッションディスプレイ:FED)が提案され、陰極線管(CRT)に代わる表示装置として期待されている。
【0003】
電界放出型冷陰極装置の代表的な例として、スピント(C.A.Spindt)らの提案によるスピント型冷陰極装置が挙げられる。スピント型冷陰極装置においては、モリブデン等からなる微小な円錐状の突起を冷陰極として用いる。ところが、微小な円錐状の突起を、形状の再現性良く作製することが困難であり、製造歩留まりが低い。
【0004】
特許文献1〜特許文献4に、カーボンナノチューブ等を用いた冷陰極装置が開示されている。これらの冷陰極装置では、支持基板上に形成されたカーボンナノチューブが冷陰極として作用する。また、特許文献1の従来の技術の欄に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜やダイヤモンド薄膜を支持基板上に堆積させ、この薄膜を冷陰極として用いる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−86080号公報
【特許文献2】特開2003−86079号公報
【特許文献3】特開平11−329312号公報
【特許文献4】特開平10−149760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
支持基板上にカーボンナノチューブ等を形成した構造では、カーボンナノチューブ等と支持基板との間で充分な密着性が得られない。また、支持基板上に形成されたカソード電極と冷陰極との界面での電圧降下が、電子放出特性の劣化(電流飽和)の原因になる。また、界面に電流が集中することにより、冷陰極の破壊等が生じやすくなる。
【0006】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、冷陰極と支持基板との密着性が問題にならず良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持してこの電子線を照射することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段とした。
すなわち、本発明は、表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極と、冷陰極から電子の放出が可能となる所望の電圧を当該冷陰極に対して印加する第1の電源と、冷陰極に対する陽極となり当該冷陰極から放出された電子を誘引し透過する膜と、を有する。
【0008】
本発明は、電子を照射する電子線源において、表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極を用い、その冷陰極から放出された電子を引き寄せる陽極として電子を透過可能な膜を用いた。
【0009】
従って、本発明によれば、良好な電子放出特性を有する冷陰極から放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【0010】
また、本発明は、膜が、少なくともダイヤモンド及びシリコンのいずれかを含む、軽元素を含有する材料によって形成されてもよい。
【0011】
このようにすることによって、本発明は、膜が低抵抗の材料で形成される。このため、本発明によれば、膜の陽極としての機能を向上することができる。
【0012】
また、本発明は、膜が、膜厚の異なる複数の領域を有してもよい。
【0013】
このようにすることによって、本発明は、電子の透過性能を維持しつつ所定の強度を有する膜を提供することができる。
【0014】
また、本発明は、膜における複数の領域のうち、膜厚の薄い領域において前記電子が透過するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明は、膜における複数の領域が、エッチング処理によって形成されてもよい。
【0016】
また、本発明は、膜に対して導電層を形成してもよい。
【0017】
また、本発明は、冷陰極を含む電子が放出される所定の領域を囲繞するように形成され、電子の放出方向に開口部を備える外壁部をさらに有し、膜が開口部に設けられるようにしてもよい。
【0018】
さらに、本発明は、膜が、開口部における外壁部外方から貼り付けられるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
グラファイトからなる部材の表面に凹凸を形成することにより、冷陰極として用いることが可能になる。この冷陰極の表面の凸部は、本来グラファイト基板と一体であったものであるため、基板と凸部との密着性が問題になることはない。また、両者の間に明確な界面は存在しないため、基板と凸部との接触抵抗に起因する電子放出特性の劣化もない。そして、本発明によれば、冷陰極と支持基板との密着性が問題にならず良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の電子線源の一実施の形態に係る、電子線発生装置、及びこの電子線発生装置で用いる冷陰極並びに薄膜の構成について説明する。
【0021】
<冷陰極の構成>
本発明の一実施の形態に係る冷陰極の製造方法について説明する。まず、表面が鏡面状のグラファイト製の基板を準備する。この基板の表面を水素プラズマに晒す。この水素プラズマ処理は、例えば、マイクロ波プラズマエッチング装置を用いて行うことができる。
【0022】
図1(A)に、水素プラズマ処理前のグラファイト基板の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、図1(B)に、水素プラズマ処理後のグラファイト基板の表面のSEM写真を示す。図1(B)に示したグラファイト基板は、マイクロ波プラズマエッチング装置を用い、入力RFパワー800W、圧力約1330Pa(約10Torr)、水素流量80sccmの条件で30分間の水素プラズマ処理を行ったものである。
【0023】
図1(A)に示されるように、水素プラズマ処理前の基板表面は、ほぼ平坦である。水素プラズマ処理を行うと、図1(B)に示されているように、面内の寸法が約0.5μm程度の微細な凹凸が形成される。一つの窪みと、それに隣接する窪みとの境界に尾根状の凸部が形成されていると考えられる。この尾根状の凸部の高さは一定ではなく、うねりをもっていると考えられる。このため、尾根状の凸部に沿って、先の尖った突起部が離散的に分布していると考えられる。
【0024】
凹凸の形成されたグラファイト基板の表面に電界を発生させると、突起部の先端に電界が集中する。このため、表面が鏡面状である場合に比べて、グラファイト基板から電子が放出されやすいと考えられる。
【0025】
図2に、グラファイト基板の電子放出特性の測定結果を示す。横軸はグラファイト基板の表面に発生する電界を単位「V/μm」で表し、縦軸は、グラファイト基板から放出された電子による電流を単位「A」で表す。図中の破線は、水素プラズマ処理前のグラファイト基板の測定結果を示し、実線は、水素プラズマ処理後のグラファイト基板の測定結果を示す。
【0026】
水素プラズマ処理前の、表面が鏡面状のグラファイト基板からは、ほとんど電子が放出されないことがわかる。水素プラズマ処理により表面に凹凸を形成したグラファイト基板からは、表面の電界が10V/μmを超えた領域で電子が放出されていることがわかる。このため、水素プラズマ処理したグラファイト基板は、冷陰極として用いることが可能である。電子放出の閾値は、約10V/μmと考えられる。
【0027】
本実施例では、表面を水素プラズマに晒すことにより、突起が形成される。このため、支持基板上に多数の突起を成長させるスピント型冷陰極に比べて、製造工程を簡略化することができる。水素プラズマ処理で形成された突起は、本来グラファイト基板と一体であったため、突起と下地との密着性に起因する問題は生じない。また、グラファイト基板自体がカソード電極となるため、突起とカソード電極との接触抵抗に起因する問題も生じない。このように、本実施例による方法により、低価格、長寿命、かつ安定な冷陰極を作製することができる。
【0028】
水素プラズマ処理は、入力RFパワー100〜1000W、圧力1.33×102〜1.33×104Pa(1〜100Torr)、水素流量5〜100sccm、処理時間1〜100分の範囲内の条件で行ってもよい。この範囲内の条件で水素プラズマ処理を行っても、良好な電子放出特性を得ることができる。また、水素プラズマとグラファイト基板との間に適当な電位差を設けると、表面に形成される凹凸の高低差がより大きくなる場合がある。凹凸の高低差が大きくなると、より良好な電子放出特性を得ることができる。
【0029】
本実施例では、マイクロ波プラズマエッチング装置を用いて水素プラズマ処理を行ったが、その他のプラズマエッチング装置、例えば電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ装置、反応性イオンエッチング(RIE)装置等を用いてもよい。また、グラファイトを化学的にエッチングするためのガスとして、水素以外に、酸素、CF4等を用いることも可能である。なお、処理条件によっては、化学的なエッチング作用に物理的なスパッタリング作用が共存して、グラファイト基板の表面に凹凸が形成される。
【0030】
本実施例では、主として化学的なエッチング作用を利用して、グラファイト基板に凹凸を形成したが、主として物理的なスパッタリング作用を利用してもよい。例えば、スパッタリングガスとしてアルゴン(Ar)や窒素(N2)を用いることができる。また、サンドブラスト等の機械的な表面処理により、グラファイト基板の表面に凹凸を形成してもよい。また、パルスレーザビームをグラファイト基板の表面に照射して損傷を与えることにより、凹凸を形成してもよい。
【0031】
なお、本実施例において、上述の表面処理を組み合わせてもよい。例えば、機械的な表面処理によって凹凸を形成し、その後化学的なエッチングまたは物理的なスパッタリングを行ってもよい。
【0032】
また、本実施例において、グラファイト表面に凹凸を形成した後、表面にCO2レーザ、Nd:YAGレーザ、エキシマレーザ等のレーザビームを照射することにより、電子放出特性を向上させることができるであろう。カーボンナノチューブを用いた冷陰極にレーザビームを照射すると電子放出特性が向上することが報告されている(例えば、J. S. Kim et. al., "Ultraviolet laser treatment of multiwall carbon nanotubes grown at room temperature" Appl. Phys. Lett. 82, 1607 (2003))。
【0033】
図3に、本実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極の電子放出特性を、従来の冷陰極の電子放出特性と比較して示す。横軸は、冷陰極の表面の電界を単位「V/μm」で表し、縦軸は、電子放出に起因する電流を単位「A」で表す。図中の実線a、b、及びcは、それぞれ本実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極、FeNi合金基板上に熱CVDで形成したグラファイトナノファイバ(GNF)を用いた冷陰極、及びFeNi合金基板上にプラズマCVDにより形成したカーボンナノチューブ(CNT)を用いた冷陰極の電子放出特性を示す。
【0034】
図3によれば、実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極のグラフの傾きが、他の2つの冷陰極のグラフの傾きよりも急峻である。これは、抵抗成分が小さいことを表している。
【0035】
<電子線発生装置の構成>
図4に、上記冷陰極を用いた、本発明の電子線源の一実施の形態である電子線発生装置1の断面図を示す。電子線発生装置1は、一端が閉じ他端が開放された円筒状のガラスバルブ10の開放端に、フェースガラス11が低融点フリットガラスまたは真空用接着剤などの適宜の接着材料により接着され、外壁2が構成されている。
【0036】
また、フェースガラス11は、中心部分に開口部15を有する。開口部15の外方(外壁2を形成する側)には、開口部15を覆うように電子線取出し用の薄膜16が設けられる。この薄膜16が図のように外方に設けるのは、外壁2の内部の空間は、圧力が1.33×10−3Pa(1×10−5Torr)以下になるように真空排気されているため、例えば開口部15の内方に薄膜16を設けた場合には、その圧力によって薄膜16が引き込まれてしまうことを避けるためである。
【0037】
薄膜16は、例えばダイヤモンドあるいはシリコンなど、軽元素からなる素材を薄膜化したものを用いる。薄膜16にこのような素材を用いるのは、冷陰極12から照射された電子線が透過するためである。
【0038】
また、薄膜16は、このような素材を用いることによって、低抵抗(0.01Ωから0.001Ω)のもので導電性を有する。そして、薄膜16は、電気的に接続されて接地されることにより、冷陰極12に対する陽極としての役割も果たす。
【0039】
薄膜16は、上述のように冷陰極12から放出された電子線を電子線発生装置1の外部へ放出するために、電子を所定の効率で透過することができるようにすることが要求される。また、薄膜16は、上述のように外壁2内部が真空排気されていることから、その圧力によって破損することがないような所定の強度を有することが要求される。要求されるこのような特性を両立するために、薄膜16は、電子の透過効率を満たす第1の領域と圧力に対する強度を維持する第2の領域との、膜厚の異なる複数の領域を有している。
【0040】
図5は、薄膜16を照射される電子線と向かい合う(冷陰極12の平面と向かい合う)方向から見た平面図である。また、図6は、薄膜16の縦断面を示す図である。薄膜16は、開口部15の内径D全体を覆うのに十分な大きさ(外径)を有していることが望ましい。薄膜16は、例えば、所定の区画20で抜き出したと仮定すると、その区画20中に膜厚の薄い第1領域21と膜厚の厚い第2の領域22とを有している。そして、薄膜16は、このような第1の領域21と第2の領域22とが平面中に適宜の配列で多数設けられている。なお、本実施の形態において、一つの区画20を150μm四方とすると、第1領域は直径75μmとし区画20上の残りの領域が第2領域22となっている。なお、この第1領域21と第2領域22との比率は一例であり、適宜定めることができる。
【0041】
第1領域21と第2領域22との膜厚は、例えば第1領域21が1μmで第2領域22が50μmである。この膜厚の数値、及び複数の領域の比率並びにその形状は例示であり、それらは上述のように電子の透過効率を満たしつつ薄膜の強度を維持可能なものであれば適宜設定可能である。そして、このような2つの領域を薄膜16の表面上に多数配置することによって、上述のような薄膜16に要求される特性を満たしている。
【0042】
電子線発生装置1は、電源に接続されたリードピン17が、ガラスバルブ10内において、閉じられた側の端部からフェースガラス11に向かって延伸されている。また、電子線発生装置1は、リードピン17の先端に、冷陰極12が配置されている。すなわち、冷陰極12は、リードピン17により、ガラスバルブ10内に支持されている。
【0043】
冷陰極12は、上記冷陰極の構成で説明したグラファイト基板であり、その凹凸を付された面がフェースガラス11(薄膜16)に対向している。冷陰極12と薄膜16に電圧を印加すると、双方間において双方が近づく向きの静電気力が発生する。
【0044】
リードピン17は、ガラスバルブ10の閉じられた端部を貫通して外部まで導出されている。薄膜16は、不図示の電源及び接地に対して電気的に接続されている。リードピン17及び配線18を介して冷陰極12に所定の電圧が印加され、陽極である薄膜16に所定の電圧が印加される。
【0045】
冷陰極12には、冷陰極12から電子が放出されるのに充分な大きさの電圧が印加される。薄膜16には、冷陰極12に印加される電圧よりも高い電圧が印加される。冷陰極12から放出された電子が、薄膜16に近づくにつれて、この薄膜16に印加されている電圧によって加速される。そして、電子は、薄膜16に入射する。薄膜16に入射した電子は、この薄膜16を貫通し透過して外部に放射される。
【0046】
以上のような構成を有する電子線発生装置1によれば、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域との、膜厚の異なる複数の領域を有する導電性のある材料からなる薄膜16を用いることによって、良好な電子放出特性を実現可能な冷陰極によって放出された電子線の特性を維持して照射することができる。
【0047】
<薄膜の生成方法>
次に、本実施の形態に係る、薄膜16の生成方法の一例について説明する。
【0048】
図7は、薄膜16の生成方法を例示する図である。上述のように、薄膜16は、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域との、膜厚の異なる複数の領域を有する。そのため、薄膜16には、これら2つの領域を膜上に生成する必要がある。
【0049】
まず、薄膜16の材料として、例えばSi層とSiO2層とが積層した、Si基板を用いる。このような材料のうち、第1領域となりうる部分においては、Si層((1)の層:膜厚300〜600μm)とSiO2層((2)の層:膜厚1〜2μm)とを取り除き、(3)のSi層のみを残すようにする。
【0050】
(1)の層を取り除くには、例えば公知のDeep RIE(Reactive Ion Etching)プロセスでC4F8,SF6ガスを利用してエッチングを行う。この方法を用いることで、(1)のSi層のみを除去することができる。その後、(2)のSiO2層を取り除くには、公知の方法によって可能である。すなわち、(2)のSiO2層を取り除くには、ドライプロセスで行うときはCHF3+Arガスを利用して行い、ウェットプロセスで行うときはBuffered HFを利用して行う。
【0051】
そうすることで、薄膜16は、(1)及び(2)の層を取り除いた部分(第1領域)の膜厚が(3)の層のみの1〜2μmとなり、この部分が第1の領域となる。また、第1の領域は、他の部分(第2領域)の膜厚よりも薄いことから電子の透過率が高くなる。このとき、第1領域となる(3)のSi層は、1μmの膜厚であれば、電子線が20keVで照射されたときには、12keVの電子線が70%透過することが明らかとなった。そして、薄膜16は、第1領域以外の部分については膜厚の厚い第2領域となるため、所定の強度を確保することが可能となる。
【0052】
なお、以上の薄膜16として用いた材料、及びその加工方法などは一例であり、低抵抗(0.01Ω〜0.001Ω)の薄膜として利用可能な材料で、電子の透過効率を満たす第1領域と圧力に対する強度を維持する第2領域とを形成することが可能なものであれば、他の材料を用いることが可能である。
【0053】
また、薄膜16に対して、図7のようにその面上に導電性のある材料(例えばアルミなどの金属材料)による層を何らかの方法によって設けることも可能である。
【0054】
<変形例>
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等により、様々な装置等の作製が可能なことは当業者に自明であろう。本実施例の変形例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0055】
図8は、電子線発生装置の第1の変形例を示す図である。この変形例と上述の電子線発生装置1との相違点は、冷陰極12の凹凸が形成された面に対向するように、グリッド13が配置されていることにある。
【0056】
冷陰極12とグリッド13との間隔は、0.5〜1mm程度に設定される。グリッド13は平面に沿った形状にしてもよいが、冷陰極12から遠ざかる方向に膨らんだ球面に沿う形状にしてもよい。冷陰極12(−20keV)とグリッド13(−18keV)とに電圧を印加すると、両者に電位差が生じ両者が近づく向きの静電気力が発生する。また、グリッド13を球面に沿う形状にすることにより、グリッド13と冷陰極12との接触を生じにくくすることができる。
【0057】
グリッド13を設けることで、冷陰極12とグリッド13との間に、冷陰極12から電子が放出されるのに充分な大きさの電圧が印加される。薄膜16には、グリッド13に印加される電圧よりも高い電圧が印加される。冷陰極12から放出された電子が、グリッド13を通過し、薄膜16に印加されている電圧によって加速され、薄膜16に入射する。
【0058】
図9は、電子線発生装置の第2の変形例を示す図である。この変形例と上述の電子線発生装置1との相違点は、外壁2の内部に薄膜16から電源への電気的接続を行うリードピン19と配線20とを行ったことにある。
【0059】
図10は、電子線発生装置の第3の変形例を示す図である。この変形例は、上記第1の変形例と第2の変形例とを組合せたように構成したことが特徴である。
【0060】
また、電子線発生装置1において、冷陰極12は平板上であるが、本発明ではこれに限定されず、例えば針状や棒状のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の冷陰極は、放射線発生装置や照明装置の電子ビーム源として使用することができる。また、本発明の電子線源は、電子線殺菌装置、排ガス測定装置、環境汚染測定装置、大気汚染測定装置、電子線樹脂硬化装置等の電子線光源に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1(A)】水素プラズマ処理前のグラファイト基板のSEM写真である。
【図1(B)】実施例による方法で水素プラズマ処理を行ったグラファイト基板のSEM写真である。
【図2】水素プラズマ処理前後のグラファイト基板の電子放出特性を示すグラフである。
【図3】実施例による方法で作製したグラファイト製の冷陰極、従来のカーボンナノチューブおよびグラファイトナノファイバを使用した冷陰極の電子放出特性を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施の形態に係る電子線発生装置の断面図である。
【図5】薄膜の正面図である。
【図6】薄膜の断面図である。
【図7】薄膜の生成方法を図示する断面図である。
【図8】第1の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【図9】第2の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【図10】第3の変形例による電子線発生装置の断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 電子線発生装置
2 外壁
10 ガラスバルブ
11 フェースガラス
12 冷陰極
13 グリッド
15 開口部
16 薄膜
17 リードピン
18 配線
19 リードピン
20 区画
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極と、
前記冷陰極から電子の放出が可能となる所望の電圧を当該冷陰極に対して印加する第1の電源と、
前記冷陰極に対する陽極となり当該冷陰極から放出された電子を誘引し透過する膜と、を有する電子線源。
【請求項2】
前記膜が、
少なくともダイヤモンド及びシリコンのいずれかを含む、軽元素を含有する材料によって形成される、請求項1に記載の電子線源。
【請求項3】
前記膜が、
膜厚の異なる複数の領域を有する、請求項1に記載の電子線源。
【請求項4】
前記膜における複数の領域のうち、膜厚の薄い領域において前記電子が透過する、請求項3に記載の電子線源。
【請求項5】
前記膜における複数の領域が、
エッチング処理によって形成される、請求項3に記載の電子線源。
【請求項6】
前記膜に対して導電層を形成する、請求項1に記載の電子線源。
【請求項7】
前記冷陰極を含む前記電子が放出される所定の領域を囲繞するように形成され、前記電子の放出方向に開口部を備える外壁部をさらに有し、
前記膜が、前記開口部に設けられる、請求項1に記載の電子線源。
【請求項8】
前記膜が、
前記開口部における外壁部外方から貼り付けられる、請求項7に記載の電子線源。
【請求項1】
表面に凹凸が形成されたグラファイトによって形成される冷陰極と、
前記冷陰極から電子の放出が可能となる所望の電圧を当該冷陰極に対して印加する第1の電源と、
前記冷陰極に対する陽極となり当該冷陰極から放出された電子を誘引し透過する膜と、を有する電子線源。
【請求項2】
前記膜が、
少なくともダイヤモンド及びシリコンのいずれかを含む、軽元素を含有する材料によって形成される、請求項1に記載の電子線源。
【請求項3】
前記膜が、
膜厚の異なる複数の領域を有する、請求項1に記載の電子線源。
【請求項4】
前記膜における複数の領域のうち、膜厚の薄い領域において前記電子が透過する、請求項3に記載の電子線源。
【請求項5】
前記膜における複数の領域が、
エッチング処理によって形成される、請求項3に記載の電子線源。
【請求項6】
前記膜に対して導電層を形成する、請求項1に記載の電子線源。
【請求項7】
前記冷陰極を含む前記電子が放出される所定の領域を囲繞するように形成され、前記電子の放出方向に開口部を備える外壁部をさらに有し、
前記膜が、前記開口部に設けられる、請求項1に記載の電子線源。
【請求項8】
前記膜が、
前記開口部における外壁部外方から貼り付けられる、請求項7に記載の電子線源。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1(A)】
【図1(B)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1(A)】
【図1(B)】
【公開番号】特開2006−210162(P2006−210162A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21002(P2005−21002)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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