説明

電極、膜、印刷版原版及び多層多孔質皮膜を含む他の物品、及びそれらの製造方法

【課題】高表面積を有す製品を提供する。
【解決手段】基材と、その少なくとも1表面に存在し、最高約50ミクロンの範囲で総厚を有し、複数の個別の隣接した層から成る多孔質皮膜であって、各個別の層を、多孔質界面を含めて多孔質とし、金属と金属酸化物から成る群から選択する少なくとも1物質から作製する多孔質皮膜と、を含む製品に関する。この製品を、金属を真空条件下で、選択的には酸化性雰囲気中で、所定の時間間隔を置いて蒸発させ、それにより所望の総厚の堆積を基材上に、複数の個別の隣接する層から成る皮膜として形成して、作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極(特に電解コンデンサ用電極)、膜及び印刷版原版等の物品に関し、該物品には、多層高表面積の金属皮膜及び(又は)金属酸化皮膜を含み、該皮膜を基材、好適にはアルミニウム又はアルミニウム合金の1つ上に配設する。特定の態様では、本発明は、かかる物品を作製する真空蒸着及び堆積法に関する。かかる皮膜を使用した他の高表面積の用途を、当業者は着想するであろう。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、絶縁体で分離した導電性材料のプレート2枚から成る電子素子である。電気回路に導入する場合、これらプレートは電流源の陰極端子及び陽極端子に接続されるため、其々陰極と陽極と呼ばれる。
【0003】
電解コンデンサは、片方のプレートを金属とし、他方のプレートを電解質とするコンデンサである。2枚のプレート間には誘電体を介在させ、該誘電体は金属プレートの表面酸化皮膜から成る。通常、誘電体皮膜を形成する金属プレートを、陽極と称する。用語“陽極”を、本明細書では、金属プレート自体、及び誘電体皮膜と金属プレートとの組合せの両方を称するのに、使用する。どちらの意味の“陽極”を意味するかは、前後関係から明らかとなる。電解質のイオン伝導と外部回路の電子伝導との間の移動を、ここでは好適には陰極とする第2金属プレートにより提供する。陽極及び陰極を、ここでは纏めて電極と称する。典型的には、陽極及び陰極を薄箔とする。
【0004】
典型的にまた、陽極の金属は弁金属となる、即ち、酸化すると、陰極として使用する場合電流を通過させるが、陽極として使用すると、電流流れを妨害する。弁金属の例として、マグネシウム、トリウム、カドミウム、タングステン、スズ、鉄、銀、シリコン、タンタル、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、及びニオブが挙げられる。
【0005】
一般のコンデンサと同様に、電解コンデンサの静電容量は該2枚のプレートの表面積に比例する。通常、箔の表面積をエッチングにより増大させる。高純度弁金属箔を、塩化物溶液中で電気化学的に、直流、交流、又は直流と交流を交互に、又は交流と直流を同時に流して、エッチングする。電気化学的エッチングの欠点は、薄箔の場合、機械的に箔を弱くし、その結果高速巻回して電解コンデンサを製造することが困難になる点である。その上、電気化学的エッチングの結果酸性廃棄物を齎してしまい、従って環境に優しくない。近年、真空蒸着処理が、箔電極の表面積を増大させるのに提案されている。
【0006】
カキノキ氏他は、米国特許第4,970,626号で、チタンをアルゴン雰囲気中でアルミニウム基材上に堆積することを備え、該堆積を一定角度又は次第に堆積角度を変化させて発生させる、電解コンデンサを作製する方法について開示している。この開示された方法では、粗い柱状構造を基材上に堆積させた皮膜を作製可能で、該皮膜を電解コンデンサの陰極として使用できる。別の実施例では、2段階の堆積処理を、各々段階で異なる角度で使用する。この開示された箔電極の表面積を増大する方法の欠点として、2金属に対して作業する追加コスト及び金属間化合物の可能性に関連して安定性が減少する点が挙げられる。
【0007】
米国特許第4,309,810号(ドレーク氏)では、金属蒸気、例えばタンタル、の真空蒸着を低角度で箔基材、例えばアルミニウム上へ、行い、それにより柱状構造を作製することを、教示している。この蒸着を、10−4トル以下の分圧で、酸素存在下で実施する。実施例では、少量の不活性ガスを酸素に加える。ドレーク氏の箔は、電解コンデンサに使用するには脆過ぎることが分かった:箔を電解コンデンサの標準的な形である筒状ロールに巻く際に、破れてしまう。柱状表面構造を作製する同様な処理については、独国特許第DE4,127,743号(ノイマン氏他)で開示されている。ドレーク氏の処理とは異なり、蒸着が30度超の角度で発生する。
【0008】
アレグレ氏他の米国特許第5,431,971号及び第5,482,743号では、アルミニウムを0.8〜2.3Paの圧力下、酸化性雰囲気中で蒸着させ、それによりアルミニウムと酸化アルミニウムの混成を堆積する処理について開示している。堆積層は微粒子凝集体から成り、該微粒子凝集体で金属アルミニウム微結晶を含む酸化アルミニウムの多孔性マトリクスを形成するが、それら微粒子内には該微結晶がランダムに埋め込まれている。このようなAl/Al混合表面は、純粋なアルミニウム表面と比較して機械的により頑丈である;しかしながら、それらを組込んだ電解コンデンサは、経時的に比較的高い抵抗損失と比較的低い安定性を有することが、知られている。加えて、アルミニウムと多量の酸化アルミニウムの両方が箔表面に存在するために、次なる従来の化学的又は電気化学的処理による安定化、及び次なる焼鈍による結晶粒構造粗大化による安定化の両方を困難にし、効果を低下させてしまう。
【0009】
米国特許第6,764,712号(カツィル(Katsir)氏他)は、金属基材の表面積を増大する処理について開示しており、該処理には主に酸素及び不活性ガスを含む雰囲気中で金属箔上への弁金属の反応性真空蒸着を備える。この処理により、フラクタル状構造を有する高表面積皮膜を作製できるが、該皮膜はカリフラワー状モルフォロジを特徴とし、米国特許第6,865,071号(カツィル氏他)で記述した集積電解コンデンサの構成要素を構成してもよい。
【0010】
箔を電解コンデンサの陽極として用いようとする場合、表面を増大するステップに続いて、表面を酸化させて薄い酸化物層を、従来の陽極処理で作製する必要がある。この技術に関する特許については、米国特許第4,537,665号及び米国特許第4,582,574号(グエン氏他)、及び米国特許第5,643,432号(チウ(Qui)氏)が挙げられる。陰極箔に関しては、長期間静電容量を維持するために、酸化工程が必要であり、これを安定化パッシベーションとも呼ぶ。
【0011】
略平面基材及びその上に真空蒸着した砂目立てされない多孔質皮膜を備える印刷版については、米国特許出願公開第11/242,292号(英国優先出願第0421810.3に相当する)で記述、主張されており、これらは本発明特許出願と共通する発明者適格を有する。
【0012】
上記の米国特許及び米国特許出願公開の全内容を、参照によりここに組込む。
【0013】
(本発明の目的)
本発明の目的は、高表面積を有する製品を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、かかる製品を作製する方法を提供することである。
【0015】
本発明に関する他の目的は、以下の記述から明白となろう。
【0016】
本発明はこのように、1態様において、製品を提供するが、該製品には:(A)基材;及び(B)該基材の少なくとも1表面に存在し、最高約50ミクロンの総厚を有し、複数の個別の隣接した層で構成する多孔質皮膜であって、該各個別の層を、多孔質界面を含めて多孔質とし、金属及び金属酸化物から成る群から選択する少なくとも1物質から作製する多孔質皮膜を含む。好適には、各個別の層には、略その全幅に亘り、層の2対面を連結する溝を形成する細長の孔を含み、それにより皮膜の多孔性が略その全幅及び深さに亘り広がる。
【0017】
別の態様では、本発明により、前段落に関する製品を作製する方法を提供するが、該方法には、金属を真空条件下で、所定の時間間隔を置いて、蒸発させ、それにより堆積を基材に皮膜として形成し、該皮膜を複数の個別の隣接した層で構成し、皮膜の堆積を、皮膜が所望の記述した範囲内の所定厚に達すると、終了するが、皮膜を金属酸化皮膜又は金属/金属酸化物混合皮膜とする場合には、蒸発を酸化性雰囲気中で行い、皮膜を金属だけのものとする場合には、蒸発を、蒸発させる金属に対して化学的に略不活性なガス雰囲気中で行うこと、を備える。
【0018】
更に別の態様では、本発明により製品を提供するが、該製品には:(A)基材;及び(B)基材の少なくとも1表面にある、最高約50ミクロンの範囲内に総厚を有し、複数の個別の隣接した層から成る多孔質皮膜であって、各個別の層を、多孔質界面を含めて多孔質とし、該層には略その全幅に亘り、層の2対面を連結する溝を形成する細長の孔を含み、それにより皮膜の多孔性が略その全幅及び深さに亘り広がる多孔質皮膜を含む。
【0019】
(定義)
“金属”又は“複数の金属”には、前後関係で特に矛盾しない限り、単一金属元素及びそれらの混合物及び合金を含む。“弁金属”は、以下の1つ(又は前後関係に従い2つ以上)を意味する:マグネシウム、トリウム、カドミウム、タングステン、スズ、鉄、銀、シリコン、タンタル、チタン、アルミニウム、ジルコニウム及びニオブ。
【0020】
用語“真空蒸着”には、例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、電気アーク堆積、レーザ堆積、及びスパッタリング等の、あらゆる真空蒸着技術を含む。
【0021】
用語“皮膜”は、前後関係で示唆しない限り、本発明を特徴付ける多層高表面積皮膜を意味する。
【発明の開示】
【0022】
本発明の製品は、好適には以下の特徴:(a)基材を金属基材とすること;(b)金属を弁金属とすること及び金属酸化物を弁金属酸化物とすること;(c)それには追加的に重畳した表面酸化物層を含むこと;(d)皮膜を真空蒸着膜とすること、の少なくとも1つを更なる特徴とする。より好適には、以下の特徴の1つ以上を適用する:金属基材を、アルミニウム及びアルミニウム合金製基材から成る群から選択し、弁金属をアルミニウムとすること;及び(又は)、金属基材を金属箔基材とすること;及び(又は)、重畳した表面酸化物層を陽極酸化層とする。基材を金属箔基材(又はその厚さがその長さ及び幅より大幅に少ない同様な基材)とする場合、当然ながら、かかる基材を片側だけ、又は両側の何れかに被覆してもよい。
【0023】
前述の通り、限定されない本発明による製品を、コンデンサ(特に電解コンデンサ)、膜及び平版印刷版原版での使用に適する電極とする。本発明による膜を使用して、例えば混合物を分離してもよいが、この膜には多孔質基材が必要である。
【0024】
本発明の方法に関しては、当然ながら、この方法を、上述した好適な特徴の1つ以上を有する製品を作製するよう構成してもよい。
【0025】
本発明の方法に於いて必要な金属の蒸発を、任意の既知の方法、例えば加熱蒸着、電子ビーム蒸着等で達成してもよい。更に、後処理には、例えば焼鈍及び(又は)酸化を含み、該酸化を好適には陽極酸化により行う。
【0026】
本発明の方法に関する特定の実施例では、金属の蒸発を酸化性雰囲気中で行い、複数層の各層を、温度、処理ガス(例えば、蒸発させる金属に対して化学的に不活性な酸素及び他のガス)の流速について略同一条件下で、堆積させる。
【0027】
この方法に関する別の実施例では、金属の蒸発を酸化性雰囲気中で行い、複数層の各層を、所定の方法で層毎に変化させた処理ガスの温度及び流速の条件下で堆積させて、それにより各層の気孔率及び(又は)孔形に関して所望の変化を得る。
【0028】
本発明は、如何なる理論又は説明によってもこれを制限したものと解釈されないが、現在、本発明を特徴付ける多層皮膜の気孔率を高くする程、処理ガスに対して、同じ厚さを有する、一段操作で作製した単層皮膜の吸収/吸着よりも、その吸収/吸着もやはり高くなる、と信じられている。
【0029】
薄層を堆積する際、及びその後、更なる層を時間を置いた後に堆積させるが、その時間を、例えば所望の微細構造及び/又は気孔率に関して先の実験により予め決定して、最適結果を齎すようにしてもよく、そうして堆積させた薄層では、処理ガスを吸着/吸収可能であり、それにより隣接した層間に多孔質界面を生成する。かかる界面は、基材表面に対して略縦方向及び横方向に向く比較的長い溝状孔を特徴とする。各層には、比較的短い横溝(基材表面に略直交方向に向く)を含み、それによって隣接する層の横溝を互いに、及び隣接する層の界面における溝と連結する。最初の層堆積工程を間隔を置いて繰返す場合、準規則的な構造体の多層皮膜を生成するが、該皮膜は高実効表面積を特徴とし、その結果例えば高容量化でき、製品を例えば電解コンデンサ等のコンデンサ電極とできる。
【0030】
前述したように段階的に生成する皮膜には、1段階処理を同様な条件下、即ち蒸着速度、酸素に対する不活性ガス流量比(上記の意味で)等で実行して生成した同じ厚さの皮膜と比較して、高気孔率を有する。その結果、多層皮膜を有する箔は、相当する1層皮膜と比較して、高静電容量値を示した。
【0031】
多層皮膜を作製するに関しての原理、及び本発明の方法で箔電極を製造する際のその使用については、図面及びそれに付随する説明を参照して、一層良く理解されるかも知れない。
【0032】
真空蒸着技術に本発明は基づくが、該技術については当該分野では周知であり、ここで詳述する必要はない。例えば、ディー.エム.マトックス氏(D.M.Mattox)“真空蒸着、反応性蒸着及びガス蒸着”ASMハンドブック、第5巻:表面工学、1994年、556〜581ページ、を参照されたい。任意の適当な方法を用いて、例えば抵抗加熱蒸着熱、電子ビーム蒸着、及びスパッタリングで、金属を蒸着させてもよい。
【0033】
本発明の方法では、多層皮膜を金属酸化物で構成する又は含む場合には、蒸発を酸化性雰囲気、これは実質的に純酸素でもよいが、好適には不活性ガス、即ち蒸発させる金属に対して化学的に略不活性であるガスと混合した酸素とする中で、行い、多層皮膜を金属のみで構成する場合には、蒸発を不活性ガス雰囲気中で行う。いずれにせよ、不活性ガスを好適にはアルゴンとするが、気化室の条件下で、これが蒸発させる金属(Al等)と反応する可能性がある場合には、窒素としてもよく、及び(又は)酸素が存在して、酸素と反応する可能性がある場合には、少量程度だけ窒素としてもよい。同様の状況下で、アルゴン/窒素混合物も効果的に機能するかも知れない。更に、気化室に、水蒸気、水素又は二酸化炭素等他のガスが少量存在しても、本発明の方法に悪影響を与えないようである。
【0034】
多層皮膜の総厚は、上述したように最大約50ミクロンになるが、好適には約0.2〜約30ミクロン、より好適には約0.3〜約20ミクロン、より好適には約0.5〜約10ミクロンの範囲内とする。特定の実施例では、この総厚は約1〜約5ミクロンの範囲内とする。
【0035】
皮膜の層数を、2以上、好適には3以上、より好適には5以上、最も好適には10層以上とする。層数の最上限については、個々の層の実際の厚さにより決定されるが、何よりも商業的実用性が優先される。非限定的な例証のみとしてだが、30ミクロン皮膜を、300×0.1ミクロン層又は100×0.3ミクロン層、又は30x1ミクロン層で構成するかも知れない。明らかに総皮膜厚、個々の層厚及び層数は、相互関係のあるパラメータであり、それでも個々の層は、通常約0.1〜約1ミクロンの範囲内、好適には約0.15〜約0.5ミクロンの範囲内の厚さを有するとしてもよい。
【0036】
(発明の説明)
本発明の方法では、多層の多孔性金属及び(又は)金属酸化皮膜を基材に堆積させるが、例えば真空中で金属を加熱蒸着させ、その後金属/金属酸化物を基材に堆積させて、これを行う。
【0037】
本発明の方法は不連続な堆積方法、即ち、第1層を堆積後に処理を中断し、その後、第2層を同様に堆積する方法である。中断工程及び堆積工程を、必要な厚さ/気孔率の皮膜を獲得するまで、繰返す。
【0038】
本発明について、以下の非限定的な実施例で更に説明する。
【0039】
実施例1
多層のアルミニウム/アルミナ混合皮膜の堆積
厚さ50μmの標準的なアルミニウム箔を、1時間、温度450〜500℃で焼鈍し、残油を除去し、該箔を堆積室に入れ、該堆積室から空気をその後、2×10−4トルの真空となるまで抜いた。蒸着を目的とするアルミニウム製ワイヤを、ドラムに巻着して、0.64〜0.68グラム/分の割合で蒸着ボートに供給し、そこで該ワイヤを抵抗加熱蒸着によりアルミニウム箔の片側に、温度約250〜270℃で蒸着させ、一方で酸素の量を140cc/分と150cc/分との間で変化させ、及びアルゴンの量を45cc/分と50cc/分との間で変化させ(両ガスの体積流量を標準状態とし)、これらを該堆積室に導入した。酸素分圧を(4.5〜5.5)x10−5トルの範囲で変化させ、アルゴン分圧を(4.5〜5.5)x 10−3トルの範囲で変化させた。その他のガス(例えば水素、窒素、二酸化炭素及び水蒸気)も、酸素及びアルゴンの量より大幅に少ない量で、該室内に存在した。製品をアルミニウムと酸化アルミニウムの混合物とし、これを600〜700A/秒の割合で、箔上に堆積させた。
【0040】
第1層を厚さ約0.23μmで片側の箔に付与した後、堆積処理を約60秒間中断した。その後、前述の堆積工程と次層の堆積するまで時間間隔とを12回繰返し、その結果、総厚約3μmを有する約13層を含む多孔質皮膜を作製した。
【0041】
実施例2
これは実施例1と同様に実施したが、異なる点は其々の厚さが0.10〜0.15μmの25層を有する皮膜を付与した点である。皮膜の総厚は、約3μm、即ち実施例1の総厚と同様にした。
【0042】
実施例3(比較例):単層で構成する皮膜の堆積
これは実施例1と同様に実施したが、異なる点は単層皮膜を、一段階(間隔無しで)堆積処理によって付与した点である。皮膜の総厚は、約3μm、即ち実施例1の総厚と同様にした。走査電子顕微鏡を用いて得た製品層の顕微鏡写真(横断面図)を図1A(倍率1000倍)に示すが、該図中では参照番号1は基材、及び2は単層皮膜である。
【0043】
実施例4:多層アルミニウム皮膜の堆積
厚さ50μmを有する標準的アルミニウム箔を、温度450〜500℃で1時間焼鈍し、残油を除去し、装置の堆積室に入れた。
【0044】
空気を、2x10−4トルの真空になるまで、堆積室から蒸発させた。蒸着を目的とするアルミニウム製ワイヤを、ドラムに巻着し、0.64〜0.68グラム/分の割合で蒸着ボートに供給し、そこで該ワイヤを抵抗加熱蒸着によりアルミニウム箔の片側に、温度約250〜270℃で蒸着させ、一方でアルゴンの量を45cc/分と50cc/分との間で変化させ(体積流量を標準状態とし)、これを該堆積室に導入した。アルゴン分圧は約5x10−3トルであり、一方他のガス(例えば水素、窒素、二酸化炭素、酸素及び水蒸気)も、アルゴン量より大幅に少ない量で、該室内に存在した。製品を多孔質アルミニウムとし、これを500〜600A/秒の割合で、箔上に堆積させた。
【0045】
第1層を厚さ約0.20μmで片側の箔に付与した後、堆積処理を約60秒間中断した。その後、前述の堆積処理及び中断を14回繰返し、それにより総厚約3μmを有する約15層を含む多孔質皮膜を作製した。
【0046】
実施例5:多層アルミナ皮膜の堆積
厚さ50μmの標準的なアルミニウム箔を、1時間、温度450〜500℃で焼鈍し、残油を除去し、装置の堆積室に入れ、該堆積室から空気をその後、2×10−4トルの真空となるまで抜いた。蒸着を目的とするアルミニウム製ワイヤを、ドラムに巻着して、0.64〜0.68グラム/分の割合で蒸着ボートに供給し、そこで該ワイヤを抵抗加熱蒸着によりアルミニウム箔の片側に、温度約250〜270℃で蒸着させ、一方で酸素の量を320cc/分と340cc/分との間で変化させ、及びアルゴンの量を45cc/分と50cc/分との間で変化させ(両ガスの体積流量を標準状態とし)、これらを該堆積室に導入した。酸素分圧を(6.0〜8.0)x10−4トルの範囲で変化させ、アルゴン分圧を(4.0〜4.5)x10−3トルの範囲で変化させた。その他のガス(例えば水素、窒素、二酸化炭素及び水蒸気)も、酸素及びアルゴンの量より大幅に少ない量で、該室内に存在した。製品を多孔質アルミナとし、これを600〜750A/秒の割合で、箔上に堆積させた。
【0047】
第1層を厚さ約0.20μmで片側の箔に付与した後、堆積処理を約60秒間中断した。その後、前述の堆積処理と中断を14回繰返し、それにより総厚約3μmを有する約15層を含む多孔質皮膜を生成した。
【0048】
実施例6:陽極処理
実施例1〜3で記述した方法によって従い生成した3枚の箔全てに、更に標準的な陽極処理を施した。処理条件は以下の通りであった:
電圧 0.5V(直流)
電流密度 5A/dm
印加時間 10分
電解質温度 83〜90℃
電解質: 150g/Lのアジピン酸アンモニウム水溶液。
【0049】
真空環境でのアウトガスによる質量損失比及び再凝縮物質量比を求める標準的試験方法(ASTM規格E 595−93、2003)
実施例1及び2で記述した方法で作製した2枚の箔を、陽極処理後、真空環境でアウトガス試験を行い、質量損失比(TML)及び再凝縮物質量比(CVCM)を求めた。この試験は、真空環境に曝した際の、物質(例えば発泡材料、フィルム、皮膜等)の揮発性含量を測定することを目的とする。TMLについてはex−situで、上記アウトガス試験で指定された条件で真空曝露前後の質量差として測定し、CVCMについてはex−situで、コレクタプレート上のものを指定真空曝露後に指定された条件下で測定するが、TML及びCVCMは通常材料の初期質量に対する%として表される。
【0050】
試験結果は、以下の通りであった:TML‐5.22%、CVCM0.01%。この結果は、本発明による皮膜が極めて高い気孔率を有する証拠である。この結果を一層理解するために、同程度のCVCM値を有する他の材料について触れると、そうした材料では、相当低いTML値、例えばLamiglas LG 1047ポリエステルフィルム‐0.09、セルロースアセテートブチレートフィルム‐約0.95という特徴を有する。
【0051】
本発明の典型的皮膜に関する組成深さに従う変化、及び単層皮膜との比較
図3には、グロー放電発光分光法(GDS)で求めたグラフを示し、該グラフでは3つのAl/Al皮膜に含有されるアルミニウムの重量%について、皮膜深さに対して2.5ミクロンまでプロットしてある。3つの皮膜を、本発明の13層及び25層皮膜、及び単層皮膜とするが、それら全てについては既に上述した。この目的のために、AlとO以外の要素は、微量だけ存在しているが、無視した。皮膜表面に関するプロットしたデータを、グラフ左側に示す。
【0052】
図3で示すように、本発明の典型的皮膜に関する組成は、単層皮膜とは異なる。例えば、上面から0.5ミクロンの部分では、典型的皮膜には、単層皮膜よりかなり高いAl含有量を有する。また、0.5〜2.5ミクロンの部分では、単層皮膜に於けるより、典型的皮膜のAl含有量に関する全体的なバラツキが少ないようである。
【0053】
製品の静電容量
実施例1〜3に従い生成し、実施例6に従い0.5Vで陽極処理したサンプルの静電容量を測定し、その結果を(1ミクロン厚に規格化して)下表に示す。
【0054】
(表)

【0055】
結果に関する考察
多層皮膜(図1B)の顕微鏡写真と単層皮膜(図1A)のそれと比較すると、多層皮膜の方が、孔寸法及び皮膜中での孔位置に関して均一なことが示されている。単層皮膜は、比較的大きな空洞という特徴があり、該空洞は様々な形状をしており、皮膜内に不均一に存在する;これら大きな空洞は、本質的に皮膜の実効表面積に貢献しない。対照的に、多層皮膜には、多数のより小さな、半規則的な空洞が皮膜内に比較的均一に分布しており;その結果、電極として試験される箔の静電容量と同様に、多層皮膜の方が、実効表面積が大きくなる。
【0056】
前段落で記述した構造について、一層容易に断面略図で理解されるかも知れないが、図2Aでは基材1に堆積させた単層皮膜2を示し、図2Bでは説明的に3層4を、界面6により分離させて、基材1上に堆積させて含む皮膜2を示している。
【0057】
前述の通り、単層皮膜(図2A)は、比較的大きな孔6を特徴とし、該孔は多様な形状をしており、不均一に皮膜内に存在し、皮膜の実効表面積にはあまり貢献しないのに対して、多層皮膜には多数のより小さな、半規則的な、比較的均一に分布する溝状の孔8を有し、該孔は効果的に各層の対向する面と連結し、従って界面6にも連結する。
【0058】
上の表から分かるように、多層被覆箔は、単層被覆箔と比較してより高い静電容量対厚比を示す、即ち、静電容量対厚の増加は、13層皮膜では20%で、25層皮膜では約38%である。
【0059】
本発明について特に特定の実施例に関して記述したが、当業者には多くの修正及び変更が成される可能性があることは明らかである。本発明について、従って、かかる実施例により決してこれを制限したものとは解釈されず、寧ろその概念についてクレームの精神及び範囲によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】走査電子顕微鏡(SEM)により倍率1,000倍で得た単層皮膜の顕微鏡写真(横断面図)である。
【図1B】SEMにより倍率1,000倍で得た13層皮膜の顕微鏡写真(横断面図)である。
【図2A】単層皮膜の略横断面である。
【図2B】多層(3層)皮膜の略横断面である。
【図3】本発明の実施例による皮膜組成深さに伴う変化をグロー放電発光分光法(GDS)で求め、単層皮膜のものと比較して示したグラフである。
【符号の説明】
【0061】
1 基材
2 単層皮膜
4 3層
6 界面
8 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基材;及び、
(B)前記基材の少なくとも1表面に存在し、最高約50ミクロンの範囲で総厚を有し、複数の個別の隣接した層から成る多孔質皮膜であって、各個別の層を、多孔質界面を含めて多孔質とし、金属と金属酸化物から成る群から選択する少なくとも1つの物質から作製する多孔質皮膜を含むこと、を特徴とする製品。
【請求項2】
以下の特徴:
(a)前記基材を金属基材とすること;
(b)前記金属を弁金属とし、前記金属酸化物を弁金属酸化物とすること;
(c)前記物品には、追加的に重畳した表面酸化物層を含むこと;
(d)前記皮膜を真空蒸着皮膜とすること、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項3】
以下の特徴:
前記金属基材をアルミニウム及びアルミニウム合金基材から成る群から選択し、前記弁金属をアルミニウムとすること;及び(又は)
前記金属基材を金属箔基材とすること;及び(又は)
前記重畳した表面酸化物層を陽極処理した層とすること;及び(又は)
前記製品を、コンデンサ、特に電解コンデンサ、膜、及び平版印刷版用原版で使用するよう構成した電極から選択すること、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項2に記載の製品。
【請求項4】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の片側だけの表面に配設すること、を特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項5】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の片側だけの表面に配設すること、を特徴とする請求項2に記載の製品。
【請求項6】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の片側だけの表面に配設すること、を特徴とする請求項3に記載の製品。
【請求項7】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の両側表面に配設すること、を特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項8】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の両側表面に配設すること、を特徴とする請求項2に記載の製品。
【請求項9】
前記基材を金属箔基材とし、前記皮膜を前記箔基材の両側表面に配設すること、を特徴とする請求項3に記載の製品。
【請求項10】
金属を真空条件下で、所定の時間間隔を置いて、蒸発させ、これにより前記皮膜の堆積を、皮膜が上述した範囲内の所望の所定厚さに達すると、終了するが、皮膜を金属酸化皮膜又は金属/金属酸化物混合皮膜にする場合には、前記蒸発を酸化性雰囲気中で行い、皮膜を金属のみの皮膜にする場合には、前記蒸発を蒸発させる金属に対して化学的に略不活性なガスの雰囲気中で行い、複数の個別の隣接する層からなる被膜として基材上に堆積を形成すること、を特徴とする請求項1に記載の製品を作製する方法。
【請求項11】
以下の特徴:
(a)基材を金属基材とすること;
(b)蒸発させる金属を弁金属とすること;
(c)前記堆積終了に続いて、獲得した被覆基材を焼鈍及び(又は)酸化させること;
(d)前記蒸発を、抵抗加熱蒸着及び電子ビーム蒸着から選択する技術により行うこと、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
以下の特徴:
金属基材をアルミニウム及びアルミニウム合金基材から成る群から選択し、前記弁金属をアルミニウムとすること;及び(又は)
金属基材を金属箔基材とすること;及び(又は)
(c)の前記酸化を、陽極処理によって行うこと、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
以下の特徴:
(i)基材を金属箔基材とし、前記堆積を箔基材の片側だけの表面で行うこと;及び(又は)
(ii)前記蒸発を、酸化雰囲気中で行い、複数層の各々を、温度及び酸素分圧について略同一条件下で堆積させること、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
以下の特徴:
(i)基材を金属箔基材とし、前記堆積を箔基材の片側だけの表面で行うこと;及び(又は)
(ii)前記蒸発を、酸化雰囲気中で行い、複数層の各々を、温度及び酸素分圧について略同一条件下で堆積させること、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
以下の特徴:
(i)基材を金属箔基材とし、前記堆積を箔基材の片側だけの表面で行うこと;及び(又は)
(ii)前記蒸発を酸化雰囲気中で行い、複数層の各々を、温度及び酸素分圧について略同一条件下で堆積させるか、複数層の各々を、温度及び酸素分圧を、層毎に所定の方法で変化させる条件下で堆積させるかし、それにより各層で所望に変化させた気孔率及び(又は)孔形状を獲得すること、
の少なくとも1つを更なる特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項16】
基材を金属箔基材とし、堆積を箔基材の両側の表面で行うこと、を特徴とする請求項10乃至12の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記蒸発を酸化雰囲気中で行い、複数層の各々を、温度及び酸素分圧について略同一条件下で堆積させるか、複数層の各々を、温度及び酸素分圧を、層毎に所定の方法で変化させる条件下で堆積させるかし、それにより各層で所望に変化させた気孔率及び(又は)孔形状を獲得すること、を特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
各個別の層には、略その全幅に亘り、前記層の2対面を連結する溝を形成する細長い孔を含み、それにより皮膜の多孔性が略その全幅及び深さに亘り広がること、を特徴とする請求項1に記載の製品。
【請求項19】
(A)基材;及び
(B)前記基材の少なくとも1表面に存在し、最高約50ミクロンの範囲で総厚を有し、複数の個別の隣接した層から成る多孔質皮膜であって、各個別の層を、多孔質界面を含めて多孔質とし、該層には略その全幅に亘り、前記層の2対面を連結する溝を形成する細長の孔を含み、それにより前記皮膜の多孔性が略その全幅及び深さに亘り広がる多孔質皮膜、
を含むことを特徴とする製品。
【請求項20】
コンデンサ、特に電解コンデンサ、膜、及び平版印刷版用原版で使用するよう構成した電極から選択する、請求項19に記載の製品。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−208254(P2007−208254A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−1598(P2007−1598)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(503342498)アクタール リミテッド (7)
【Fターム(参考)】