説明

電極印刷法および該電極を備えた電極板

【課題】 簡易な工程で、シリコーンブランケットの表面に導電性ナノ金属粉末を含むインキを安定的に塗布することができ、導電性に優れ且つ高精度な電極パターンを容易に形成する。
【解決手段】 表面に親水化処理を施した平滑なシリコーンゴムを表面層に備えたブランケットの表面に、平均粒子径が0.1〜100nmの導電性ナノ金属粉末を分散させ、粘度を5〜50cpsに調整したコロイド状インキを塗布し、所定のパターンを有する凹版4または凸版をこの塗布面に押圧することにより不要部分のインキをブランケットから除去し、ブランケットの表面に残ったインキパターンを被印刷体に転写させた後、被印刷体を低温で加熱し、転写インキパターンを被印刷体上に硬化定着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の印刷方法および該電極を備えた電極基板に関し、詳しくは、反転オフセット印刷法を用いて、基板上に導電性ナノ金属粉末から微細な電極パターンを形成するもの、画像形成装置のTFT電極を形成する場合等に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置等の電気・電子部品に装着される電極基板は、主として、フォトリソ法と呼ばれる写真技術によって基板に回路を印刷形成したものが多く採用されている。フォトリソ法は、基板の全面に予めスパッタ等で導電性の良好な金属膜を成膜しておき、その上に感光性樹脂を成膜し、露光・現像してパターンを形成し、エッチングすることにより不要な部分の金属膜を洗い流して所要の電極を形成している。
前記フォトリソ法は、非常に微細なパターンを高精度で形成することができる点で優れるが、工程が非常に複雑で一連の管理が難しいだけでなく、露光、現像、乾燥等の工程を遂行する一連の製造ラインは、製造設備の精度やクリーン度が高度なものが要求される為、非常に高価なものとなる。また、導電性の良好なスパッタ膜を得る為には、スパッタリング条件として、200℃を越える高温処理が必要となり、基板に対する熱負担が大きくなり、基板の歪や劣化等が発生する原因ともなる。
【0003】
前記フォトリソ法を用いない印刷方法としては、特開平11−58921号公報(特許文献1)において、シリコーンゴムを表層部に備えたブランケット表面に、樹脂を全面塗布し、該塗布面に対して所定形状に形成された凸版の凸部分を押圧してブランケット上の樹脂を一部除去し、残った樹脂を基板に転写する画像形成法が開示されている。
【0004】
前記方法では、撥水性が非常に高い(濡れ性が非常に悪い)シリコーンゴムの表面に樹脂を全面に塗布する必要があり、しかも、印刷形状を向上させる目的でシリコーンゴムの表面の凹凸を0.1μm以下に設計されるため、インキがシリコーンゴムの表面で弾かれ、均一に樹脂を塗布することができない問題点がある。また、連続印刷を行うと、シリコーンゴムの表面が膨潤するために表面の濡れ性が変化し、これにより塗布性が変化し、安定した塗布面を形成することができな問題もある。更に、樹脂の乾燥性が悪いと被印刷体への転写性が悪くなり、パイリングすると言う問題点もある。
【0005】
さらに、印刷により電極を形成するため樹脂に金属粉末を混合した場合、樹脂が非常に高粘度となり、オフセット印刷に必要な低粘度(50〜500cps)に調整することは難しい。その結果、一旦、高粘度のオフセット印刷インキにてパターンを形成しておき、その上に金属粉末を含むインキを用いて金属膜を形成する方法を採らざるを得ず、その結果、工程が多くなり、コストの高騰を来たす原因ともなる。
【0006】
【特許文献1】特開平11−58921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたもので、特許文献1と同様な反転オフセット印刷法により電極パターンを形成するものにおいて、ブランケットのシリコーンゴムに導電性ナノ金属粉末を含むコロイド状インキを安定的に塗布することができると共に、被印刷体への転写後の加熱温度を低温とすることが可能し、導電性に優れ且つ高精度な電極パターンを形成することができる電極印刷法および電極板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、
表面に親水化処理を施した平滑なシリコーンゴムからなるブランケットの表面に、
平均粒子径が0.1〜100nmの導電性ナノ金属粉末をインキ成分中に分散させ、粘度を5〜50cpsに調整したコロイド状インキを塗布し、ついで、
所定のパターンを有する凹版または凸版を前記塗布面に押圧することにより不要部分の前記インキをブランケット表面から除去し、ついで、
前記ブランケットの表面に所要パターンで残したインキを被印刷体に転写させ、
その後、前記被印刷体を加熱し、転写されたインキ中の導電性ナノ金属粉末を融着させ、
ついで、被印刷体上に、融着させた導電性ナノ金属粉末を硬化定着させて電極を形成していることを特徴とする電極印刷法を提供している。
【0009】
本発明では、前記したように、シリコーンゴムを表層部に備えたブランケット(以下、シリコーンブランケットと称す)のシリコーンゴム表面に塗布するコロイド状インキは、導電性ナノ金属粉末をインキ成分中に分散させて、低粘度の5〜50cpsのコロイド状インキとしている。
直径100nm以下とした前記ナノ金属粉末の製造方法は、溶液状の銀イオンを還元しメタライズさせる際に凝集防止として粒子の最表面に分散材をコーティングする湿式法と、金属表面に高エネルギーを与えて液化させることで微細な金属粉末を作成する乾式法とがあり、本発明では、これらいずれの方法によるナノ金属粉末も採用可能である。
【0010】
前記ナノ金属粉末は予め溶媒中に分散させた分散体としてインキ成分中に配合し、撹拌を行ってインキ成分中に均一に分散させている。
前記溶媒としては、溶剤系と水系とがあるが、水系溶媒を用いる方が、シリコーンゴムを殆ど膨潤させず、その結果、連続印刷を実施しても安定した印刷が可能となる。さらに、環境への影響が少なく、特別な排気装置も不要となり、コスト的に有利である。かつ、溶剤系の場合、溶剤の種類を変更するとナノ金属粉末の分散安定性が崩れ、凝縮が発生しやすい問題もある。
【0011】
しかしながら、水系溶媒にナノ金属粉末を分散させたコロイド状インキをシリコーンブランケットの表面に塗布する場合、インキの表面張力は溶媒の表面張力に殆ど対応するため、水系溶媒からなるインキでは表面張力が70mN/mと非常に大きくなり、シリコーンブランケットの表面でインキが弾かれる問題がある。
【0012】
この点に関して、水系溶媒を用いてインキの表面張力を下げずに、シリコーンブランケットのシリコーンゴム表面の濡れ性を向上させるため、本発明では、前記したように、シリコーンゴムの表面を予め親水化処理を施し、水系溶媒にナノ金属粉末を分散させたコロイド状インキが5〜50cpsと低粘度であっても、シリコーンゴムの表面に馴染みやすくなり、その全面に弾かれることなく均一に塗布することができる。
なお、ブランケットの表面をシリコーンゴムに代えて高エネルギー高分子材料を用いると表面の濡れ性を高めることができるが、その場合、塗布されたインキがブランケット表面に強く接着され、インキの転写性が著しく悪くなる。よって、シリコーンブランケットを用いて、その表面を親水化処理することが好ましい。
【0013】
前記親水化処理の方法として種々の方法があるが、シリコーンゴムの表面に接触させない方法が好ましく、この観点から、シリコーンゴムを紫外線で照射して親水化する方法が最も好ましい。シリコーンゴムは紫外線等の放射線に対して耐光性が非常に強い材料であるが、シリコーンゴム中にわずかに含まれるジエン部分(Si−C=C−)が紫外線を受けて酸化されることで親水性が向上する性質を有する。また、予めシリコーンゴム中に親水性の高い水酸基(−OH)を有するシリコーンオイルを配合しておくことで親水性を高めることができる。更には、シリコーンゴム分子中に水酸基(−OH)を一部導入した変性シリコーンゴムを用いてもよい。
【0014】
親水化の度合いは、純水の接触角で評価することが簡便で有効である。親水化処理されていない通常のシリコーンゴム表面に対する純水の接触角は110度程度と非常に大きく、この状態では水系ナノ金属粉末インキは塗布時に表面で大きく弾かれることになる。
前記したように、紫外線光照射等でシリコーンゴムの親水化処理を施すことで、純水の接触角を30〜70度にまで低下できる。その結果、水系溶媒にナノ金属粉末を分散させたコロイド状インキは親水化処理したシリコーンゴムの表面から弾かれず、均一に塗布することができる。かつ、シリコーンブランケットの本来の機能であるインキの転移性・転写性が損なわれることもない。前記接触角と弾き性とは相関性が高く、弾きを抑えるためには前記接触角が70度以下、好ましくは50度以下である。
【0015】
前記コロイド状インキの粘度を5〜50cpsとしているのは、5cps未満では流動性が良すぎる為にシリコーンブランケット表面への塗布性が安定せず、一方、50cpsを超える場合は塗布安定性は向上するが、粘度調整剤を多く必要とすることになる。かつ、前記粘度範囲とすることで、凹版または凸版によりシリコーンブランケットの表面に塗布された前記インキの除去や、ブランケットに残ったインキの被印刷体への転移、転写も的確に行うことができる。
前記コロイド状インキの粘度は、より好ましくは10〜30cpsである。
【0016】
また、コロイド状インキ中に含有する金属粉末を、平均粒子径が0.1〜100nmのナノ金属粉末としているため、金属粉末全体の表面積を著しく増大でき、その結果、金属粉末の融点を大幅に下降させることができる。具体的には、融点が900℃の銀を、10nmレベルに微分散した場合、融点を150℃まで低下させることができる。
従って、ブランケット表面に残ったインキを基板等の被印刷体に転写させた後、加熱してナノ金属粉末同士を融着させ、導電性金属層からなる所望の電極が基板上に定着させるための加熱温度を150℃まで低下させることができる。このように、加熱温度を低下させると、基板に対する熱負担が小さくなり、基板の歪や劣化等の発生を防止できる。
即ち、従来は前記したように250℃を越える高温処理が必要であるため基板への影響が大きかったが、本発明では低温処理できるため、基板への悪影響を無くすことができると共に、電気抵抗の低い電極を印刷で形成することができる。
前記観点から、加熱温度の低温化が好ましいく、該加熱温度は250℃以下、より好ましくは200℃以下となるようにしている。また、加熱時間も短い程好ましく、5分〜60分、より好ましくは10分〜30分である。
【0017】
前記した理由より、導電性ナノ金属粉末の平均粒径を100nm以下としており、100nmを超えると金属同士の融着温度が高くなる傾向となり、加熱温度も高くする必要が生じるためである。一方、0.1nm以上としているおは、0.1nm未満の場合、その扱いが難しく、コロイド溶液内での分散性も悪くなる傾向となるためである。該導電性ナノ金属粉末の平均粒径は好ましくは1〜100nm、最も好ましくは5〜20nmである。
【0018】
一方、前記コロイド状インキの沸点も重要はパラメータである。シリコーンブランケット上にインキを塗布と同時に溶剤の蒸発が発生し、蒸発と共にインキ粘度が低下する。従って、インキの沸点が低いと蒸発が早くなり、インキの粘度上昇が早いためインキを塗布しにくくなる。この点、沸点が100℃の水を溶媒とすると、水は蒸発潜熱が大きく常温ではインキ粘度上昇は遅く、印刷インキとして比較的しやすいものとなる。
【0019】
本発明で用いる導電性ナノ金属粉末としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル及びこれらの混合物が好適に用いられる。これらの金属は、優れた導電性を有する上に、前記した非常に微細なナノ粒子にすることが容易である。特に、コスト面と導電性の面から、銀が好適であるが、前記した金属に限定されない。
また、ナノ金属粉末の粒子形状は、前記平均粒径の範囲内で、球状、楕円球状、柱状、鱗片状、繊維状等の種々の形状とすることができる。
【0020】
前記ナノ金属粉末と混合するインキ成分は樹脂からなり、ポリエステル−メラミン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の水系溶媒と相溶性を有する樹脂を用いている。
前記ナノ金属粉末の水系溶媒としては、純水の他に、アルコール等が使用可能である。
溶媒中にナノ金属粉末を分散させた分散体を、前記インキ樹脂中に配合し、プラネタリーミキサーで予備撹拌し、其の後、ビーズミル等で十分に攪拌・分散させて、前記コロイド溶液として調製している。
【0021】
導電性ナノ金属粉末は、コロイド溶液中に、全体積の10〜95体積%の割合で均一に分散されていることが望ましい。前記範囲は、10体積%より小さいと、金属粉末同士が十分に密着しにくく加熱時に金属層が形成しにくくなるからである。一方、95体積%を超えると、コロイド溶液が安定せずに凝集してしまい、粒子径が大きくなって低温での溶融ができなくなるからである。より望ましくは、30〜80体積%である。
【0022】
前記コロイド状インキは、ブランケットの親水化したシリコーンゴムの表面へ、スリットダイコータ、バーコータ、スピンコータ、スクリーン印刷、ロールコータ等から選択された方法に塗布している。
其の際、前記したように、水系溶媒を用いると、シリコーンゴムブランケットの表面に塗布された状態では、蒸発潜熱が大きいことから乾燥は速くなく、インキの粘性が急速に増大することがなく、上記版でのインキの除去或いは被印刷体への転写の制御がし易くなる。
【0023】
前記コロイド状インキが塗布されるシリコーンゴムの表面硬度は、JIS−A硬度で70〜20が好ましい。これは、70を越えると、硬すぎて変形せず、版のインキを十分に転移させることができなくなる。一方、20未満と硬度が低いと、表面ゴムの変形が大きくなり、精度良く印刷することが難しくなる。より好ましくは60〜30である。
【0024】
また、シリコーンゴムの表面粗さは、印刷パターンが微細になる程、印刷精度に大きく影響を及ぼす。ライン幅20μm程度の微細なパターン形成には、表面粗度が、10点平均粗さで1.0μm以下が好ましく、より好ましくは、0.5μm以下の平滑な表面であることが望ましい。
【0025】
シリコーンゴム表面に塗布されたコロイド状インキの一部(非印刷部)を除去させるための版としては、凹版、凸版いずれも採用可能である。版の材料としては、ソーダガラス、ノンアルカリガラス等の表面にエッチュング処理を施し、所望の回路パターンに対応した凹凸を付与したもの、或いは金属材料に同様にエッチング処理を施したもの等が採用される。ガラス材料としては、高度な寸法精度を要求されない分野では安価なソーダガラスが好ましく用いられる。また、金属材料としては、エッチング性が良好なステンレスや42合金(Fe−Ni合金)、銅、真鍮、アンバー材等が使用可能である。
【0026】
上記印刷法によって得られた電極板は、導電性ナノ金属粉末同士が融着した金属層により電極を形成しているため、該電極は導電性に優れて電気抵抗が小さく、かつ、濃淡がなく均一で、しかも分断のない精密な電極回路パターンを備えたものとすることができる。 よって、液晶画像形成装置で用いられる電極が形成されたTFT等の電極板や、その他の電子部品用の電極板として、極めて優れたものである。
電極回路パターンを構成する金属層の厚みは、1〜15μmとなるよう調整されることが望ましい。1μmより薄いと断線し易く、また導電性も低下する傾向となる。一方、15μmより厚くしても、導電性は十分満たしており材料コストがかかり無駄となる他、表面の平坦性が悪くなる。
【発明の効果】
【0027】
以上の説明より明らかなように、本発明によれば、シリコーンブランケットのシリコーンゴム表面を親水化処理した状態で、導電性ナノ金属粉末を分散したコロイド状インキを直接塗布し、これに凹版もしくは凸版を作用させて不要なインキを除去し、残ったインキを被印刷体に転写させ後、低温で加熱して、硬化定着させるようにしているから、装置コストの高騰を来たすことのない簡易な工程で、導電性に優れ且つ精密な電極回路パターンを備えた電極板を容易に印刷・製造することができる。
特に、シリコーンゴムの表面には、親水化処理が施して濡れ性を持たせているため、低粘度のコロイド状インキでありながら、シリコーンゴムの表面から弾かれることなく安定した塗布することができると共に、被印刷体の表面に所要パターンで安定して転写でき、導電性に優れ且つ精密な電極パターンが確実に得ることができる。
また、コロイド状インキに分散される導電性ナノ金属粉末は、平均粒子径が0.1〜100nmと非常に微細としているため、配合される金属粉末全体の表面積を増大でき、これら金属粉末の融着温度が著しく低下することができる。その結果、金属粉末同士を低温で融着させることが可能となり、被印刷体への転写後の加熱温度を250℃以下と低温化でき、被印刷体に対する熱負荷を小さくでき、被印刷体の熱劣化等が生じるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1(A)(B)(C)は、本発明の電極印刷法の一例による印刷工程を示し、図2(A)(B)は夫々図1(B)(C)の要部を拡大して示し、図3は同印刷法によって得た電極板の概略図を示す。
【0029】
図1に示す印刷機1は反転オフセット印刷機からなる。
シリコーンブランケット20は、円筒状ブランケット胴の表面をシリコーンゴム2で被覆したシリコーンブランケットからなる。ブランケット銅に被覆されているシリコーンゴム2には予め紫外線を照射して親水化処理を施している。この親水化度は、純水の接触角度が30〜70度の範囲となるように設定している。かつ、シリコーンゴム2の厚さは0.1mm〜2mmとし、硬度はJIS−Aで20〜70の範囲とし、表面粗さは10点平均で1.0μm以下の平滑面としている。
【0030】
前記シリコーンブランケット20は、移動機構を図示していないが、図1(A)(B)(C)に示すように各工程順に移動させており、移動自在のフレームに取り付けた回転軸25を軸心に貫通固定して、所要の回転速度で回転させる構成としている。
【0031】
図1(A)に示す位置では、シリコーンブランケット2の上方にコロイド状インキQを塗布するスリットダイコータ装置3が配置されていると共に、側方に乾燥装置6が配置されている。該乾燥装置6は、加熱装置61と冷却装置62とよりなり、夫々の送風口61a、62aより、温風及び/若しくは冷風がインキ塗布面に吹き付けられる。加熱装置61及び冷却装置62は、室温、塗膜等の条件に応じて適宜使い分け或いは併用がなされる。
【0032】
シリコーンブランケット20のシリコーンゴム2の表面にコロイド状インキが塗布された後に移動される図1(B)の位置には、基台10が固定され、該基台10の一方側の上面に凹版4が載置されている。該凹版4の凹部4aは、電極パターンの形状とされ、その他の部分が凸部4bとされている。
搬送されたシリコーンブランケット2は凹版4の表面を回転しながら移動され、凹版4の凸部4bがインキ塗布面に押圧されてインキQを凸部4aの表面に転写させて、シリコーンブランケット2の表面から除去する一方、電極パターンとなる凹部4aの部分はシリコーンブランケット2の表面にインキQを残存させる構成としている。
【0033】
前記基台10のシリコーンブランケット搬送側の上面には、ガラス基板等の被印刷体5が固定され、凹版4で不要なインキQが除去され、電極パターンとなる部分に残存するインキQを被印刷体5の上面に回転しながら転写して、被印刷体5の表面に所要の電極パターンを印刷させる構成としている。
【0034】
前記構成の反転オフセット印刷機による電極印刷法について、以下に説明する。
コロイド状インキQは、樹脂成分としてのポリエステル−メラミン樹脂と、水系分散した導電性ナノ金属粉末(平均粒子径0.1〜100nm)とをプラネタリーミキサーで予備攪拌し、最後にビーズミルにて分散し、粘度が5〜50cpcとなるように調製している。導電性ナノ金属粉末はコロイド状インキQの10〜95体積%としている。
このように調製したコロイド状インキQを、図1(A)の矢示方向に回転するブランケット胴に対してスリットダイコータ装置3により塗布い、シリコーンブランケット20のシリコーンゴム2の全面に、厚さ約5〜20μmとなるよう塗布する。其の際、シリコーンゴム2の表面が親水化処理されているため、コロイド状インキQの塗布は、弾かれることなく均質に塗布することができる。
【0035】
塗布後、乾燥装置6で加熱あるいは/および冷却して塗布したコロイド状インキQを乾燥させる。乾燥後、図1(B)に示すようにシリコーンブランケット20を基台10の上方へと搬送する。
基台10の凹版4の上方に達すると、シリコーンブランケット20を所要の回転速度で回転させながら、矢印方向に移動させ、凹版4の上面に沿って転動させる。それにより、図2(A)の拡大図で示すように、凹版4の凸部4bがシリコーンブランケット20のインキQの塗布面に順次押接される。この時、押接部分のインキQ1が凸部4bの表面に転移し、凹部4aに対応する非押接部分のインキQ2がシリコーンブランケット2の表面に残る。
【0036】
凹版4上の転動を完了したシリコーンブランケット20は、シリコーンゴム2の表面に凹部4aに対応するインキ(インキパターン)Q2を保持した状態で、引続き図1(C)に示すように矢示方向に移動し、被印刷体5上を転動する。シリコーンブランケット20が被印刷体5上を転動する間、図2(B)の拡大図で示すように、インキパターンQ2が順次被印刷体5の表面に接して被印刷体5に転写され、転写インキパターンQ3が形成される。転写インキパターンQ3が形成された被印刷体5は、200℃以下のクリーンオーブン(不図示)内で10〜20分の間保持して加熱処理し、ナノ金属粉末同士を融着し、前記転写インキパターンQ3からなる金属帯が前記インキ樹脂の硬化層を接着剤として被印刷体5上に硬化定着される。
【0037】
図3は製造された電極基板を示し、被印刷体5上に電極パターン7を形成されている。
前記電極パターン7は、ナノ金属粉末が融着して形成されるため、導電性に優れ、電気抵抗値を1×10−5Ω・cm〜2×10−6Ω・cm(比抵抗)とすることができる。
【0038】
前記したように、本発明の電極形成方法では、シリコーンブランケットの表面のシリコーンゴムを親水化処理して濡れ性を高めているため、ナノ金属粉末を分散されたコロイド状インキQが弾かれることなく均一の厚さで安定して塗布することができる。
しかも、インキQ中に分散されたナノ銀粉末を、その平均粒子径が0.1〜100mmと非常に微細としているため、加熱処理温度を200℃以下の低温化しても、ナノ銀粉末同士を互いに融着できる。この低温化処理により、ガラス基板等からなる被印刷体5は、熱歪等が生じることを防止できる。従って、このようにして得られた電極基板は、TFT等の電極基板として優れた適性を備えたものとなる。
かつ、前記印刷機1を用いて連続印刷を行っても、シリコーンブランケット20のシリコーンゴム2が膨潤しないため、塗布性が変化することもなく安定した塗布面を形成でき、連続印刷を高精度に行うことができる。
【0039】
尚、前記実施形態において、インキ供給装置はスリットダイコータ装置3を用いているが、これに限定されず、また、乾燥機6を実施形態に限定されないと共に不要とすることもでき、印刷機1の構成は前記実施形態の構成に限定されない。
また、シリコーンゴムブランケット20の表面に塗布されたコロイド状インキQの一部を転移・除去するための版として、凹版4を用いた例について述べたが、これは凸版であっても良い。更に、被印刷体として、ガラス基板、樹脂基板、金属基板、セラミック基板等も対象とされ得ることは言うまでもない。
【0040】
「実施例」
実施例はTFT液晶基板(対角30インチ)のアルイ配線の部分に用いる電極基板として作成した。
【0041】
シリコーンブランケット20は、表面層のシリコーンゴム2を住友ゴム株式会社製シリコーンゴム(ゴム硬度JIS−Aが40、常温硬化型シリコーンゴム付加型)で作成し、ゴム厚みを600μmとした。このシリコーンゴム2の支持層として、厚みが350μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フイルムとと積層一体した。
シリコーンゴムの表面粗度は10点平均粗さで0.1μmのものを採用した。
このシリコーンゴム2の表面は、250nmにピークを持つ紫外線ランプを用い、紫外線光を表面に照射することによって親水化処理を施した。照射条件は照射時間を60秒とした。照射後において、シリコーンゴムの親水化度は、純水での接触角で約40度とした。
【0042】
コロイド状インキQは、樹脂成分としてのポリエステル−メラミン樹脂と、水系分散した銀ナノ粉末(平均粒子径10nm)とをプラネタリーミキサーで予備攪拌し、最後にビーズミルにて分散して調製した。銀ナノ粉末はコロイド状インクの75体積%で配合した。
このコロイド状インキQをシリコーンブランケット20のシリコーンゴム2の表面にスリットダイコータ装置3を用い、厚さ10μmとなるよう塗布した。
塗布後、コロイド状インキQを乾燥装置6で100℃で1分加熱して、乾燥した。
乾燥後、シリコーンブランケット20を凹版4の表面上を転動させた。
【0043】
凹版4はソーダライムガラス板に印刷パターンと全く同じ形状・パターンになるようエッチングで凹部4aと凸部4bを設けた。印刷パターンは線幅20μmのアルミ電極パターンと同一とし、凹部4aの幅を20μmとし、深さを10μmとした。凹凸部はTFTアレイから引き出される電極であるため、パターン方向は縦横方向が入り交じったものとしている。
【0044】
シリコーンブランケット20を凹版4上で転動させることにより、凸部4bの表面にインキQを転移させ、凹部4aに対応する非押接部分のインキのみをシリコーンブランケット20のシリコーンゴム2の表面に残した。
続いて、シリコーンブランケット20をガラス基板上に所要の押圧力を負荷して転動させ、シリコーンゴム2上のインキを順次ガラス基板5の接触させて転写した。
転写後、ガラス基板5を200℃のクリーンオーブン内で20分間加熱処理した。
【0045】
前記方法で形成した電極基板の電極の電気抵抗は4×10−6Ω・cmであった。かつ、電極の線幅は20μmを保持し、かつ、所定のパターンで高密度に電極が形成されていた。
【0046】
「比較例」
実施例と同一のシリコーンゴムに親水化処理を施さ無かった。よって、シリコーンゴムの表面に対する純水の接触角度は110度であった。
その他の条件は実施例と同一とした。
まず、シリコーンブランケット20のシリコーンゴム2の表面にコロイド状インキQの塗布を試みたが、塗布直後にシリコーンゴム2の表面でインキQの弾き現象が見られた。 その後、実施例と同様に、凹版による不要部分のインキの除去、除去後にガラス基板への転写し、加熱処理してインキを硬化定着させた。
【0047】
製造したガラス基板上の電極は、ピンホールが多発し、良好な印刷物を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は電極印刷方法として最も好適に用いられ、PDP前面電極、背面電極、フレキシブルプリント基板回路、高密度積層基板回路、電気機器からの電磁波シールド等の製造方法として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】(A)(B)(C)は、本発明の電極印刷法の一例による印刷工程の説明図である。
【図2】(A)(B)は夫々図1(B)(C)の要部の拡大図である。
【図3】同印刷法によって得た電極板の一例を示す概念的斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1 印刷機
20 シリコーンブランケット
2 シリコーンゴム
3 スリットダイコータ装置
4 凹版
5 被印刷体(ガラス基板)
7 電極パターン
Q コロイド状インキ
Q2 インキパターン
Q3 転写インキパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に親水化処理を施した平滑なシリコーンゴムからなるブランケットの表面に、
平均粒子径が0.1〜100nmの導電性ナノ金属粉末をインキ成分中に分散させ、粘度を5〜50cpsに調整したコロイド状インキを塗布し、ついで、
所定のパターンを有する凹版または凸版を前記塗布面に押圧することにより不要部分の前記インキをブランケット表面から除去し、ついで、
前記ブランケットの表面に所要パターンで残したインキを被印刷体に転写させ、
その後、前記被印刷体を加熱し、転写されたインキ中の導電性ナノ金属粉末を融着させ、
ついで、被印刷体上に、融着させた導電性ナノ金属粉末を硬化定着させて電極を形成していることを特徴とする電極印刷法。
【請求項2】
前記シリコーンゴム表面の親水化処理方法として、下記の(1)〜(3)のいずれかの方法を用いている請求項1に記載の電極印刷法。
(1)シリコーンゴム表面に紫外線を照射し、表面ゴムの一部を酸化させる;
(2)分子中に水酸基を有するシリコーンオイルをシリコーンゴム中に配合する;
(3)シリコーンゴム分子中に水酸基を一部導入した変性シリコーンゴムを用いる。
【請求項3】
前記シリコーンゴム表面の親水化処理により、該シリコーンゴムへの純水の接触角度が30〜70度の範囲の親水化度としている請求項2に記載の電極印刷法。
【請求項4】
前記導電性ナノ金属粉末は、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル及びこれらの混合物のいずれかからなる請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電極印刷法。
【請求項5】
前記コロイド状インキは、水系溶媒に分散した前記導電性ナノ金属粉末の分散体を、前記インキ成分に配合して調製している請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の電極印刷法。
【請求項6】
前記被印刷体に前記コロイド状インキを転写した後の前記加熱処理時の温度を250℃以下としている請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電極印刷法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電極印刷法によって印刷された電極を、基板上に備えていることを特徴とする電極基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−222157(P2006−222157A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32172(P2005−32172)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】