説明

電極材料としてのナノ粒子修飾ナノ構造材料およびその製造方法

本発明は、表面にナノ粒子が結合したナノ構造材料に関する。ナノ構造材料は、表面に結合したナノ粒子を含み、該ナノ粒子は約20nmの最大寸法を有する。さらに、ナノ構造材料は約2nm〜約5μmの最大寸法を有する細孔を含む。ナノ構造材料の表面上に結合したナノ粒子は、貴金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子またはそれらの混合物である。本発明は、それらの製造方法および上記材料の電極材料としての使用方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2008年9月8日に提出された、米国仮出願第61/095,090号に優先権を主張し、その各内容全体を参照により、あらゆる目的のために組み込む。
(技術分野)
本発明は、電気化学の分野に関し、とりわけ電気化学キャパシタの電気化学に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の二次電池よりも桁違いに高い電力密度(〜10kW/kg)を有するスーパーキャパシタまたはウルトラキャパシタともよばれる電気化学キャパシタは、重要な電荷貯蔵装置の領域を示すものである。スーパーキャパシタは、優れたエネルギーおよび電力密度に加えて、非常に高い充放電速度と長い寿命(リチウム電池の<10サイクルと比較して、>10サイクル)という利点も提供することから、高負荷電気自動車の解決策から、一体化グリーンエネルギー利用および貯蔵用途のための太陽光発電システムに亘る応用に対する魅力的な選択肢となっている。従来のスーパーキャパシタは、金属製の集電体と、非晶質炭素によってなされる電気二重層(EDL)とを含み、カーボンナノチューブ(CNT)が、その高い電気/熱伝導性、低い質量密度、および大きな表面積のために、スーパーキャパシタおよびLiイオン電池に対する電極材料として探索されてきた。CNT網状体を単層電流コレクタおよび活物質として組み込むことで、ロール間印刷処理に対する機会も与える軽量かつ可撓性の電荷貯蔵装置がもたらされてきた。この「印刷電力(“printed power”)」の解決法は、現在、とりわけ、無線周波数識別タグ(RFID)、装着型電子機器、および大面積ディスプレイ用バックプレーンなどの用途と潜在的に統合される印刷スーパーキャパシタを有する印刷電子機器の展開にあたっての重大なギャップに対処している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、とりわけ電極電解質間またはチューブ間(CNT−CNT)接触抵抗に起因すると考えられる機器の内部抵抗が、スーパーキャパシタの電力密度と充放電容量を制限するかもしれないことが認識されている。この接触抵抗を克服するための既知の戦略としては、導電性ポリマーまたは非晶質炭素を含むナノ構造材料による被覆が挙げられる。
【0004】
したがって、上述の問題の少なくともいくつかを克服するスーパーキャパシタおよび他のエネルギー電荷貯蔵装置のための適切な電極材料を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様において、本発明は表面に結合したナノ粒子を含むナノ構造材料に関する。ナノ構造材料は、その表面に結合したナノ粒子を含み、ナノ粒子は約20nmの最大寸法を有する。さらに、ナノ構造材料は、約2nm〜約5μmの最大寸法を有する細孔を含む。ナノ構造材料の表面に結合したナノ粒子は、貴金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子またはそれらの混合物であってよい。これらの材料は本明細書中では、ナノ粒子修飾ナノ構造材料とも称される。
【0006】
別の態様において、本発明は、ナノ粒子修飾ナノ構造材料の製造方法に関する。その方法は、多孔性ナノ構造材料を貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液と混合して、ナノ構造材料の、貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液との懸濁液を得る工程を含む。さらなる工程において、その方法は、80℃以下の温度において、貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を化学的に還元してナノ構造材料の表面にナノ粒子を沈殿させる工程を含む。
【0007】
本発明は、本明細書中に記載する方法によって得られるナノ粒子修飾ナノ構造材料にも関する。
本発明は、電極の製造のためのナノ粒子修飾ナノ構造材料の使用方法にも関する。
【0008】
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と合わせて考察した場合、詳細な説明の参照によってよりよく理解されることであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】ナノ粒子修飾ナノ構造材料の製造方法の一般的原理を示す図。図1に示すように、表面に結合したリンカーを含むナノ構造材料を、金属粒子前駆体を含む溶液と混合する。≦80℃の温度で前駆体を化学的に還元する工程において、ナノ粒子はリンカーに結合することによって、ナノ構造材料の表面上に生成され、沈殿する。
【図2】(a)SWCNTのカルボキシル基における銀ナノ結晶の沈殿および(b)高pHにおけるSWCNT表面からの水酸化銀の分解についての提案される反応機構を示す図。
【図3】Agナノ粒子サイズが(a)約13nm、(b)約4nmおよび(c)約3nmであるAg−CNT(銀修飾カーボンナノチューブ)のTEM画像を示す図。(a)および(b)の画像は、図4の(b)および(c)に示すものと同じである(縮尺バー100nm)。
【図4】(a)は、第2の電極材料として銀修飾カーボンナノチューブを用い、第1の電極としてカーボンナノチューブを用いたスーパーキャパシタの実験的セルアセンブリの概略図(CNT/Ag−CNT網状体)である。(b)は、約13nmの直径を有するAgナノ粒子で修飾されたCNT(Ag−CNT)を示す(縮尺バー100nm)。(c)は、Agナノ粒子の直径が約4nmのAg−CNTを示す(縮尺バー100nm)。(d)は、4nmAg−CNTの高解像度TEM画像を示す(縮尺バー5nm)。(e)は、13nmAg−CNT電極、7nmAg−CNT電極、4nmAg−CNT電極、1nmAg−CNT電極およびCNTと混合した2%Ag(Ag+CNT)電極を有するCNTスーパーキャパシタにおけるサイクリックボルタモグラムを示す。(f)は、対応するスーパーキャパシタにおける定電流充放電曲線を示す。
【図5】本明細書に記載する方法によって得られ、ナノ構造材料の表面に結合したMnOナノフレークのTEM画像を示す図。スケールバー100nm。
【図6】本明細書に記載する方法によって得られ、本明細書に記載する金属ナノ粒子による修飾のために用いられるTiOナノチューブのTEM画像を示す図。スケールバー100nm。
【図7】ナノ構造材料の銀修飾に対する、様々な金属前駆体濃度(この場合、AgNO)の効果を示す図である。(a)0.15M(Ag−CNT6)における大きなコロイド状銀クラスタ形成、および(b)0.05M(AgCNT2)における平均サイズ1nm。
【図8】AgCNT6の金属銀反射を示すXRDプロット。
【図9】(a)は、1nmAg−CNTおよびCNT装置におけるサイクリックボルタモグラムであり、1M HPO液体電解質中の1nmAg−CNTにおいて観察された酸化還元ピークを明確に示し、(b)は、実験の部において言及されるすべてのスーパーキャパシタ装置におけるエネルギー密度および電力密度プロットを示す。
【図10】図4にすでに言及したスーパーキャパシタ装置において測定された内部抵抗およびシート抵抗を示す棒グラフ。
【図11】(a)は、ナイキストインピーダンスプロットを示す。図中の挿入図は、高周波数、低インピーダンス領域を示す。(b)CNT,13nmAg−CNT,7nmAg−CNTおよび2%Ag−CNT装置に対する等価回路モデル。(c)4nmAg−CNTおよび1nmAg−CNT装置に対する等価回路モデル。
【図12】(a)は、CNTなどのナノ構造材料の表面の上部に結合(修飾)された1nm銀粒子、および提示される対応するエネルギーダイアグラムを示しており、チューブ内の潜在的バリア(チューブ内抵抗)は、AgNP(<5nm、実線)などのより小さい金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子に比べて、AgNP(>20nmAgNP、点線)修飾CNTなどのより大きい金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子でより深い。(b)は、ショットキー障壁の形成をもたらす金属および半導体CNT接合のエネルギーダイアグラムを示し、金属および半導体ナノチューブ間の電荷輸送の向上(チューブ間抵抗がより低い)をもたらすNPによって媒介されるバリア高さの減少を示す。
【図13】本明細書に記載する方法によって得られたMnOナノフラワー(左の画像)、MnOナノワイヤ(中央の画像)およびMnO粉末(右の画像)のSEM画像を示す図(すべての画像において、スケールバーは1μm)。
【図14】表面にMnOナノ粒子が結合した単層カーボンナノチューブのTEM画像を示す図。ナノ粒子の平均サイズは、約1〜10nmの間である(左右の画像は、同じ構造を異なる縮尺で示したものである。左の画像の縮尺バーは100nm、右の画像の縮尺バーは20nm)。
【図15】MnOおよびMnO粉末の異なるナノ構造物のBET表面積の測定結果を示す(MnOナノフラワー)。
【図16】MnOおよびMnO粉末の異なるナノ構造物のBET表面積の測定結果を示す(MnOナノワイヤ)。
【図17】MnOおよびMnO粉末の異なるナノ構造物のBET表面積の測定結果を示す(MnO粉末)。
【図18】MnOナノフラワーについて集められたXRDパターンを示す図。ナノフラワーが実際にMnO相で構成されることを示す。MnOの形成を示す定量的証拠である。
【図19】MnOナノワイヤについて集められたXRDパターンを示す図。ナノフラワーが実際にMnO相で構成されることを示す。結果は、リートベルト解析を用いて得られた。リートベルト解析は、MnO構造の定量的結晶学的解析である。結晶粉末の正確な組成は、リートベルト解析から抽出することができる。
【図20】CNTおよびMnO修飾CNT電極を有するスーパーキャパシタについての、20mVs−1で測定したサイクリックボルタモグラムを示す図であり、MnO修飾CNTは、CNT電極(〜90F/g)と比較して、105F/gというわずかに高い静電容量を有している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の態様において、本発明は、表面にナノ粒子が結合したナノ構造材料に関する。そのようなナノ構造材料の表面に結合したナノ粒子の材料は、本明細書中では、修飾または金属ナノ粒子修飾ナノ構造材料とも呼ばれる。表面に結合したすべてのナノ粒子は、約20nmの最大寸法を有する。ナノ構造材料は、約2nm〜約5μmの最大寸法を有する細孔を含み、ナノ粒子は、限定はされないが、貴金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子またはそれらの混合物を含む。
【0011】
修飾ナノ構造材料は、電気化学キャパシタ用や電池用の装置のための効果的な二機能電荷コレクタおよび電極材料であることが実証されている。修飾ナノ構造材料を含む装置は、高められたエネルギー密度と電力密度を示す。
【0012】
ナノ粒子は、貴金属から製造することができる。貴金属には、銀、パラジウム、金、プラチナ、イリジウム、オスミウム、ロジウムおよびルテニウムが含まれる。一実施形態において、銀、パラジウム、金、プラチナ、それらの混合物またはそれらの合金を用いることができる。貴金属合金の例としては、プラチナとイリジウムの合金、Pd−Pt,Pd−Rh,Pd−Pt−Rh、銀または金とカルシウムの合金が挙げられる。貴金属の合金は、たとえば、耐食電極材料を得るために用いられる。
【0013】
別の態様において、ナノ粒子は、遷移金属酸化物またはアルミニウム酸化物から製造することができる。そのような酸化物としては、限定はされないが、たとえば、PtO,V,V,Nb,NiO・xHO,LiCoO,LiFeO,LiMn,LiMoO,LiTiO,MnO,Ag−MnO,Al,MoO,TiO,SiO,ZnO,SnO,Fe,NiO,Co,CoO,Nb,W、それらの混合物および合金が挙げられる。金属酸化物は、化学量論的また非化学量論的のいずれであってもよい(たとえば、Men−xm−y,0<x<1;0<y<1;1≦n≦3;1≦m≦5)。
【0014】
約0.5nm〜約20nmのサイズを有するナノ粒子で修飾されたナノ構造材料が、スーパーキャパシタ、センサ、ハイブリッド電気化学装置、リチウムイオン電池またはZn空気電池などの金属空気電池などの様々な装置に対する電極材料として最も適していることが本明細書において実証された。
【0015】
ナノ粒子の寸法は常に一定であるわけではない(すなわち、完全に球形ではない)ので、上記のサイズは、任意の方向におけるナノ粒子の最大寸法のことをさす。他の実施形態において、ナノ粒子のサイズは、約0.5〜15nm、または約0.5〜12、または約0.5〜5nm、または約5nm〜約12nm、または約5〜約15nm、または約0.5〜13nmである。
【0016】
さらに、一実施形態において、本明細書に記載の方法は、非常に狭いサイズ分布を有するナノ粒子を製造することが可能である。したがって、一実施形態において、約≧12〜20nmのサイズを有するナノ粒子に対するナノ粒子サイズ分布は、約±5である。約≧5nm〜<12nmのサイズを有するナノ粒子に対するナノ粒子サイズ分布は、約±3nmである。約2〜<5nmのサイズを有するナノ粒子に対するナノ粒子サイズ分布は、約±1mmである。たとえば、1nmのサイズを有する銀ナノ粒子は、約31個の銀原子から構成されると推定される。より小さいナノ粒子はナノ構造材料の細孔を塞がないという利点を有し、したがって、ナノ構造材料の表面積を減少させることがない。大きな表面積によって、修飾ナノ構造材料の静電容量を増加させることができる。
【0017】
したがって、ナノ粒子のサイズに応じて、ナノ構造材料の細孔は、マクロ細孔またはメソ細孔のいずれかである。IUPAC規定によれば、マクロ細孔は、約>50nm〜約5μmのサイズを有すると考えられる細孔であり、メソ細孔は、約2nm〜約50nmのサイズを有する。多孔性構造により、ナノ構造材料は大きな表面積を有する。ナノ構造材料は、少なくとも約50m/gでありうる大きな表面積を特徴としうる。一実施形態において、ナノ構造材料の表面積は、約100、または200または300m/gである。
【0018】
ナノ構造材料は、本明細書中で言及する用途において用いることのできる任意の材料から製造することができる。たとえば、ナノ構造材料は、数例をあげると、炭素材料、セラミック、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、アクリルガラス、アイシングラス(モスクワガラス)などのガラス、アルミニウム酸窒化物、チタンなどの金属、金属酸化物、ポリピロールまたは種々の上記材料から形成されたナノ構造材料の混合物からなるものであってよい。一実施形態において、ナノ構造材料は炭素材料からなる。炭素材料としては、限定はされないが、たとえば、活性炭、カーボンブラックおよびグラフェンが挙げられる。一例において、ナノ構造材料は、TiOナノチューブなどのTiOから形成され、別の例において、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)などのカーボンナノチューブが用いられる。
【0019】
ナノ構造材料とは、ナノメートル範囲の寸法を有する材料のことをいう。一実施形態において、ナノ構造材料の少なくとも1つの寸法が100nm未満である。別の実施形態において、ナノ構造材料は、典型的には1〜100nm(ここで、10オングストローム=1nm=1/1000マイクロメートルである)の範囲の寸法を有する。ナノ構造材料は、以下の次元タイプに分類することができる。ゼロ次元(0D):ナノ球形粒子(ナノ粒子とも呼ぶ)、一次元(1D):ナノロッド、ナノワイヤ(ナノファイバーとも呼ばれる)およびナノチューブ、ならびに二次元(2D):ナノフレーク、ナノフラワー、ナノディスク、およびナノフィルム。
【0020】
ナノ構造材料のナノ構造としては、限定はされないが、たとえば、ナノチューブ、ナノフラワー、ナノワイヤ(ナノファイバーとも呼ばれる)、ナノフレーク、ナノ粒子、ナノディスク、ナノフィルム、および上記ナノ構造体の組み合わせ(たとえば、ナノチューブとナノワイヤの混合物)が挙げられる。
【0021】
ナノチューブは、単層(SWNT)、または二層(DWNT)または多層ナノチューブ(MWNT)であってよい。単層ナノチューブは約0.7〜約10または20nmの直径、または<20または<2nmの直径を有する円筒形シートによって画定されるものであってよい。それらの長さは、数マイクロメートル、すなわち少なくとも1μmまたは少なくとも2μm、または約1μm〜5μmであってよい。二層または多層ナノチューブは、互いに緊密に積層された多数の円筒で構成される。
【0022】
一実施形態において、ナノチューブは炭素から形成され、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)または多層カーボンナノチューブ(MWCNT)として用いられる。単層カーボンナノチューブは、構造が軸対称を有する一次元であり、かつ一般に、キラリティと呼ばれる螺旋状の立体構造を呈するように、中空円筒形状に巻かれた黒鉛面(いわゆるグラフェン)シートとして説明することができる。
【0023】
たとえば、電極材料としてのカーボンナノチューブの用途は、電子輸送のために重要な少なくともまたは約2000S/cmの高い電気伝導性を提供することができる。さらに、カーボンナノチューブの薄層を透明電極として形成し、可視および赤外波長域における透明性を提供することもできる。同時に、カーボンナノチューブの層は、良好な機械的および熱的特性を与え、かつ可撓性を有するように製造することもできる。カーボンナノチューブは、溶解処理可能であり、したがって、製造のための印刷技術に適合する。
【0024】
ナノ構造材料の表面に結合したナノ粒子は、リンカーを介してナノ構造材料に化学的に結合されるか固定される。リンカーは、ナノ構造材料の表面とナノ粒子とを連結する分子である。リンカーは、水酸基、ピレン、エステル、チオール、アミン、またはカルボキシル基などの官能基を含む。また、上記基の異なるリンカーの混合物を用いてナノ粒子をナノ構造材料の表面に結合させることもできる。適切なリンカーとしては、限定はされないが、たとえば、ポルフィリン(アミン基を含む)またはポリエチレングリコール(PEG;ポリ(エチレンオキシド)としても知られる)(−OH基を含む)が挙げられる。
【0025】
一実施形態において、カルボキシル基は、限定はされないが、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、シクロアルカンカルボン酸または安息香酸を含むリンカーに含まれるものであってよい。一例としては、4−アミノ安息香酸が挙げられる。さらに、水酸基は、限定はされないが、リン酸またはスルホン酸を含むリンカーに含まれるものであってよい。ナノ粒子をナノ構造材料の表面に連結するためにこのようなリンカーを用いることで、内部抵抗を減少させながら、装置エネルギー密度を高めることができる。たとえば図3に示されるように、ナノ構造材料の表面においてナノ粒子が均等に分布している場合には、さらなる改善を得ることができる。均等に分布しているということは、図7(a)に示すようにナノ粒子が個別のクラスタを形成しないということも意味する。したがって、一実施形態において、ナノ粒子は、ナノ構造材料の表面において均等に分布している。一実施形態において、ナノ構造材料の表面の約5%〜約80%がナノ粒子で覆われている。別の実施形態において、少なくとも30%または40%または50%または60%がナノ粒子で覆われている。
【0026】
一実施形態において、銀修飾単層カーボンナノチューブが用いられる。他の実施形態において、MnO修飾MnOナノフレーク、ナノワイヤまたはナノフラワーが用いられる。
【0027】
上述の修飾ナノ構造材料は、電極材料として使用可能な膜に形成されてもよい。たとえば、スーパーキャパシタ、センサ、ハイブリッド電気化学装置、リチウムイオン電池などの充電式電池、亜鉛空気電池などの金属空気電池のための電極材料として用いることができる。
【0028】
「スーパーキャパシタ」と呼ばれることも多い電気化学キャパシタ(EC)は、高度に可逆的な電荷貯蔵および送達能力を有する電気装置である。通常のキャパシタが導電性箔と乾燥セパレータとから構成されるのに対して、スーパーキャパシタは、特別な電極と電解質を用いることにより電池技術に入り込んできた。電気化学キャパシタは、電極構造内で起こる酸化還元反応におけるエネルギーを貯蔵しないという点で、電池とは異なる。電気化学キャパシタは、二重層としても知られる、電極と電解質との界面領域で起こる静電相互作用を介してエネルギーを貯蔵する。ECは、二次電池を補足する特性を有する。このようなECは、本明細書で言及する修飾ナノ構造材料に基づいた電極と電解質とから構成することができる。ECは、液体または固体状態のいずれかにある水性および非水性電解質の両方を採用することができる。
【0029】
本明細書には、修飾ナノ構造材料を含むスーパーキャパシタも記載されている。修飾ナノ構造材料は、スーパーキャパシタの一方または両方の電極に用いることができる。一実施形態において、電極材料として銀修飾カーボンナノチューブが用いられる。
【0030】
ハイブリッド電気化学装置は、一方の電極が電池(典型的にはLiイオン電池)に由来し、他方の電極がスーパーキャパシタに由来するハイブリッド電気化学キャパシタ(HEC)である。キャパシタの電極は、本明細書中で言及する修飾ナノ構造材料から製造することができる。
【0031】
充電式電池は2つの電極を含み、それらの間には電解質が配されている。電解質は、液体電解質またはゲル様ポリ電解質であってよい。充電式電池の例としては、数例あげると、水銀、ニッケル−カドミウム、ニッケル−鉄、ニッケル−水素、ニッケル−金属水素化物、ニッケル−亜鉛、リチウム−イオン、リチウム−マンガン、リチウム−ポリマー、リチウム−鉄−リン酸、リチウム−硫黄、リチウム−チタン酸塩、または銀−亜鉛電池が含まれる。たとえばリチウムイオン電池は、最良のエネルギー対重量比を有すること、メモリ効果を有しないこと、および不使用時には電荷の損失が遅いことのいずれかを備える携帯電子機器などの家庭用電化製品に広く用いられている。リチウムイオン電池の電極は、軽量のリチウムおよび炭素から作られる。炭素電極は、本明細書において言及する修飾ナノ構造材料に置き換えることができる。
【0032】
修飾ナノ構造材料は、金属空気電池においても用いることができる。金属空気電池は、高いエネルギー密度と、平坦な放電電圧と、長い貯蔵期間を特徴とする。金属空気電池において、反応性アノードおよび空気電極が無尽蔵のカソード反応物質をもたらす。反応生成物の取り扱いと貯蔵だけでなく、アノードにおけるアンペア時容量も、容量限界を決定する。金属空気電池には、一次電池、保存電池、ならびに電気的および機械的に再充電可能な電池もある。機械的に再充電可能な電池は一次電池と酷似しているが、電気的に充電可能なタイプは、酸素発生のために第3または二機能の電極を必要とする。金属空気電池の例としては、限定はされないが、亜鉛空気電池、リチウム空気電池、およびアルミニウム空気電池などが挙げられる。
【0033】
リチウムイオン電池と同様に、金属空気電池は、通常は炭素質材料からなる電極も用いる。この炭素電極は、本明細書中で言及する修飾ナノ構造材料に置き換えることができる。
【0034】
たとえば、亜鉛空気電池のカソードは、本明細書中で言及する修飾ナノ構造材料で構成することができる。このカソードは、電解質層と直接的に電気接続した状態にある。アノードは、電解質層を介してカソードから分離されている亜鉛アノードであり、これによりフレキシブルな亜鉛空気電池を形成する。
【0035】
別の態様において、本発明は、(ナノ粒子)修飾ナノ構造材料の製造方法に関する。その方法は、第1の工程において、多孔性ナノ構造材料を貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液と混合して、ナノ構造材料の、貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液との懸濁液を得る工程を含む。さらなる工程において、貴金属ナノ粒子前駆体および/または金属酸化物ナノ粒子前駆体は、80℃以下の温度において化学的に還元され、ナノ構造材料の表面におけるナノ粒子の沈殿を可能にする。図1は本方法の一実施形態を示す。
【0036】
貴金属ナノ粒子前駆体が用いられる一実施形態において、化学的還元工程のための温度は、60℃未満または50℃未満である。別の実施形態において、温度は約15℃〜約30℃または約15℃〜25℃または約0℃,5℃,10℃,15℃,20℃,25℃,30℃,35℃,40℃,45℃,50℃,55℃または60℃未満である。上記したように、ナノ粒子については小さいサイズであることが特に有益である。したがって、上記方法に対する反応条件は、約20nmの最大寸法または大きさ、または約0.5nm〜約20nmの大きさ、または本明細書中で言及する任意の他のサイズを有するナノ粒子を形成するように適合される。
【0037】
指示されたサイズのナノ粒子を形成することなどのために反応条件を適合させるための一つの選択肢は、懸濁液中、すなわちナノ構造材料と貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体との混合物中の、貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子の濃度を適合させることである。一般に、前駆体材料の濃度は、約0.001M〜約1Mの範囲であってよい。一実施形態において、貴金属前駆体材料の濃度範囲は、約0.01M〜約1Mの範囲にあり、別の実施形態において、金属酸化物前駆体材料の濃度範囲は、約0.001M〜約0.1Mの範囲であってよい。
【0038】
化学的還元は、以下の方法のいずれかによって達成することができる。化学的還元は、たとえば、ナノ構造材料および貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む懸濁液中のpHを調整することにより達成することができる。化学的還元の別の方法は、<500℃の温度にある5%H/Nまたは5%H/Ar雰囲気中で4〜8時間加熱するなど、還元雰囲気中で懸濁液を加熱することによるか、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、またはCaHやMgHなどの他の金属水素化物などの化学的還元剤を用いることによる。
【0039】
一実施形態において、ナノ構造材料および貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む懸濁液のpHは、pHを約1〜10、または3〜10、または4〜10の範囲に適合させることにより、ナノ粒子前駆体の化学的還元を可能にするように適合される。別の実施形態において、pHは、約1〜7.5や1〜10の範囲にあってよい。たとえば、銀ナノ粒子前駆体材料を用いる場合において、pHは、約4〜8の範囲、または約4.3〜<7.3に調整または適合される。金ナノ粒子前駆体が用いられる別の例において、pHは、約3〜10または3.5〜10または4〜10の範囲に調整される。プラチナナノ粒子前駆体を用いる場合、pHは、約4〜10または約4〜9の範囲に調整される。マンガンナノ粒子前駆体などの金属酸化物ナノ粒子前駆体を用いる場合、pHは、約1〜7の範囲に調整される。このように、pHを調整する場合、化学的還元は酸または塩基などの還元剤を用いることによって達成される。限定はされないが、数例としてNaOH,NH,HCl,HClO,HSOを挙げることができる。一般に、懸濁液のpHを調整するために任意の既知の酸または塩基を用いることができる。
【0040】
ナノ粒子前駆体とのナノ構造材料との反応時間またはインキュベーション時間は、形成されるナノ粒子のサイズにも影響を及ぼす。一般に、反応時間は、約5または10または15分〜約120分である。別の実施形態において、反応時間は、約15分〜約60分である。
【0041】
形成されるナノ粒子のサイズに影響しうるさらなる要因は、ナノ構造材料と混合する前の、出発溶液中のナノ粒子前駆体の濃度である。一実施形態において、ナノ粒子前駆体の濃度は、約3mM〜約150mM、または少なくとも3mM、または約3mM〜約6.5または6.3mM、または約3mM〜約100mMまたは150mM未満である。本明細書中に記載の方法は、ナノ構造材料の表面に結合したナノ粒子が上記ですでに概説した狭いサイズ範囲を有する修飾ナノ構造材料を製造することを可能にする。
【0042】
上記材料のためのナノ粒子前駆体材料は、当該技術分野において知られている。前駆体材料の種々の例として、貴金属塩化物などの金属塩化物、貴金属硝酸塩などの金属硝酸塩、金属アルコキシド、有機金属前駆体、または金属酢酸塩が挙げられる。貴金属ナノ粒子前駆体および金属酸化物ナノ粒子前駆体の例としては、限定はされないが、AgNO,[Ag(NH(aq),AuCl,HAuCl・3HO,HPtCl・6HO,HPdCl・6HO,Mn(NOまたはKMnOが挙げられる。たとえば、TiOナノ粒子のための前駆体は、金属アルコキシドまたは有機金属前駆体であってもよい。チタンアルコキシドの例としては、限定はされないが、チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンプロポキシドおよびチタンブトキシドが挙げられる。
【0043】
一般に、ナノ構造材料に対する金属ナノ粒子前駆体のモル比は、約0.05〜約0.6または約0.1〜約0.55の範囲であってよい。一実施形態において、ナノ構造材料に対する銀ナノ粒子前駆体などの貴金属ナノ粒子前駆体のモル比は、0.18〜約0.54である。別の実施形態において、ナノ構造材料に対する金属酸化物ナノ粒子前駆体のモル比は、約0.1〜約0.5である。
【0044】
ナノ粒子前駆体との混合に先だって、ナノ構造材料を約0.1〜約1mg/mLの濃度の各ナノ構造材料に適した溶媒中に分散させる。このような溶媒は当該技術分野において知られている。たとえば、カーボンナノ構造材料またはMnOナノ構造材料は、たとえば水などの水性溶液中に容易に溶解させることができる。本明細書中で用いることのできる他の適切な溶媒としては、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールおよびアセトンが挙げられる。
【0045】
本明細書に記載の方法において用いられるナノ構造材料は、その表面に固定化されたリンカーを含むべきである。このようなリンカーを含まないか、非常に少量しか含まないカーボンナノチューブなどのナノ構造材料を、ナノ構造材料の表面上に固定化されたリンカーを導入するための処理に供することができる。リンカーを含まないか、非常に少量しか含まないナノ構造材料は、「プリスチン(pristine)」ナノ構造材料と呼ばれる。
【0046】
リンカーを導入するためのこのような処理は、当該技術分野において知られており、たとえば、ナノ構造材料を酸化的処理に暴露すること、または500℃未満の温度で焼結すること、または無機極性溶媒中で還流すること、あるいはNまたはHまたはOプラズマ処理などのプラズマ処理を含んでいてもよい。別の実施形態において、カーボンナノチューブなどのナノ構造材料を、ガンマ線照射を用いる処理に供し、その後、ガンマ照射後のナノ構造材料を不飽和カルボン酸と接触させる。ガンマ線は、不飽和カルボン酸と容易に反応して、ナノ構造材料の表面上に固定化または結合したリンカー分子を形成するフリーラジカルをナノ構造材料の表面に生み出すことができる。
【0047】
不飽和カルボン酸は、不飽和カルボン酸またはその誘導体であってもよい。ナノ粒子とナノ構造材料との間の距離が大きくなりすぎることを回避するために、リンカー分子を形成する不飽和カルボン酸は、12個以下のC原子を含むものとする。
【0048】
一実施形態において、不飽和カルボン酸は、アクリル酸またはその誘導体である。使用することのできるアクリル酸またはその誘導体としては、限定はされないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリル酸、エタクリル酸、α−クロロアクリル酸、α−シアノアクリル酸、βメチルアクリル酸(クロトン酸)、α−フェニルアクリル酸、ソルビン酸、α−クロロソルビン酸、アンゲリカ酸、桂皮酸、p−クロロ桂皮酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アコニット酸、マレイン酸、フマル酸、またはトリカルボキシエチレンが挙げられる。
【0049】
化学的還元中に形成するナノ粒子が、たとえば図2に示すように、沈殿中にリンカーに結合する。図2に示す実施形態において、AgNOは貴金属ナノ粒子前駆体として用いられ、HNOを用いて化学的に還元されることにより、リンカーのカルボキシル基を介してナノ構造材料に結合するAgを形成する。別の実施形態では、KMnOが、MnOナノ粒子に還元され、リンカーを介してナノ構造材料にも結合する金属酸化物ナノ粒子前駆体としても用いられる。
【0050】
本明細書中で言及する修飾ナノ構造材料からなる膜を製造するために、修飾ナノ構造材料を洗浄し、その後濾過膜を通して篩いにかけてもよい。その後、修飾ナノ構造材料からなる膜を、自立膜としてフィルタ膜から剥離することができ、電極材料として直接使用してもよい。修飾ナノ構造材料を、濾過膜を通して篩いにかけて電極材料を得る前に、電極材料において用いられることになる他の成分と混合することもできる。たとえば、修飾ナノ構造材料を、未処理および/または未酸化のナノ構造材料と混合することもできる。未酸化またはプリスチンナノ構造材料とは、前処理(上述したような、酸化的処理、焼結、還流またはプラズマ処理)を受けていない材料のことをいう。
【0051】
別の態様において、本発明は、本明細書中で言及する方法によって得られたナノ粒子修飾ナノ構造材料または本明細書中で言及する方法によって製造された電極膜にも関する。ナノ粒子修飾ナノ構造材料は、スーパーキャパシタ用電極などの電極、またはセンサ、またはハイブリッド電気化学装置、または充電式電池、または金属空気電池を製造するために用いることができる。たとえば、センサのための用途において、修飾ナノ構造材料は、センサまたはセンサの検知材料として用いることができる。
【0052】
本明細書中に説明的に記載する本発明は、本明細書中に具体的に開示されない任意の要素、限定が無い状態で適切に実施されてもよい。したがって、たとえば、「からなる」、「有する」、「含む」などの用語は、広くかつ限定なく解釈される。さらに、本明細書中で用いる用語および表現は、限定ではなく説明の用語として用いられ、そのような用語および発現の使用において、提示および記載された特徴の任意の均等物またはその部分を排他する意図はなく、請求された発明の範囲内で、様々な改変が可能であると理解される。したがって、本発明を好ましい実施形態および随意選択的な特徴によって具体的に開示してきたが、本明細書中に開示したそこで具現化された本発明の改変および変更も当業者によって再分類されうること、およびそのような改変および変更が本発明の範囲内に含まれると考えられることを理解すべきである。
【0053】
本発明は、本明細書において広義かつ一般的に記載されている。より狭い種のそれぞれ、および一般的な開示に包含される下位の分類もまた、本発明の一部を構成する。これには、削除された材料が具体的に挙げられているかどうかに関わらず、その部類から任意の主題を除去する条件または負の限定を伴った本発明の一般的な記載が含まれる。
【0054】
他の実施形態は、以下の請求項および非限定的な例に包含される。さらに、本発明の特徴または態様が、マーカッシュ群の意味で記載される場合には、当業者は、その発明がマーカッシュ群の任意の個々の要素または要素のサブグループの意味で記載されていることを理解するであろう。
【0055】
実験の部
1.金属修飾単層カーボンナノチューブの合成
1.1 銀修飾単層カーボンナノチューブ
銀ナノ粒子修飾単層カーボンナノチューブを調製するために、0.08gの単層カーボンナノチューブ(P3−SWCNT、カーボンソリューション社(Carbon Solution Inc.))を15mLの脱イオン水に分散させてから、20分間超音波処理(120kW)を行った。銀ナノ粒子の分散は、AgNO(99.99%、アルドリッチ社(Aldrich))(0.1〜0.15M)の100mLアリコートに添加した0.1M NaOH(99%、メルク社(Merck))を用いたpH調整(4.3<pH<7.3)によって調節した。CNTに対する銀ナノ粒子前駆体のモル比は、0.18〜0.54の範囲とすべきである。SWCNT懸濁液を、pHを調整したAgNO溶液と混合し、激しく攪拌した。Agで修飾されたSWCNTを遠心分離(15,000rpm,10分)によって母液から分離した後、過剰なNaイオンおよび硝酸塩を脱イオン水によって複数回洗浄することによって除去した。最終産物は、使用前に脱イオン水に再分散させた。
【0056】
1.2 金修飾単層カーボンナノチューブ
0.1M NaOH(シグマアルドリッチ社(Sigma−Aldrich))を、pHが4〜10の範囲の所定の値に安定するまで、20mLの3.0〜6.3mM HAuCl(HAuCl・3HO、アルファ・エイサー社(Alfa Aesar))(本例においては4.5mM)に滴下することによって金ストック溶液を調製した。SWCNT懸濁液(15mLの脱イオン水中に0.08g)を、金前駆体を含む溶液中に分散させた(SWCNTに対する金前駆体のモル比は、0.1〜0.55とすべきである)。SWCNTと金前駆体を混合した後の溶液中のpHは、約3.5であった。得られた混合物を75℃で、30分間激しく攪拌しながら熟成させ、その後、金が負荷された触媒を濾過により回収し、塩素を除去するために脱イオン水で繰り返し洗浄した。
【0057】
1.3 プラチナ修飾単層カーボンナノチューブ
PtCl・6HO(3.0〜6.3mM、アルドリッチ社、本例においては5mM)の脱イオン水溶液を、所望のpH(4〜9)に調整した。SWCNT懸濁液(15mLの脱イオン水中に0.08g)をPt前駆体溶液中に懸濁し(SWCNTに対するPt前駆体のモル比は0.1〜0.55とすべきである)、次に、還元剤としてメタノール(メルク社)を加えた。この懸濁液を75℃で40分間熟成させ、脱イオン水で数回洗浄した。
【0058】
1.4a MnOナノフレークの合成
10mLの蒸留水に溶解した0.2gの硝酸マンガンMn(NOを含む溶液Aを、10mLの蒸留水に溶解した0.5gのKMnOを含む溶液Bに激しく攪拌しながら添加した。得られた溶液を2時間攪拌し、テフロン(Teflon、登録商標)で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに移し、140〜170℃のオーブン中に1〜24時間置いて生成物を得、これを溶液のpHが7になるまで蒸留水で数回洗浄した。これを100℃のオーブン内で24時間風乾した。この方法により得られたナノフレークを図5のTEM画像中に示す。
【0059】
1.4b MnOナノフラワーおよびナノワイヤの合成
MnSO(8mg/ml)およびKMnO(20mg/ml)の水性溶液を混合し、テフロン(登録商標)で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに移した。オートクレーブを140℃に予熱したオーブンに装着した。反応のための滞留時間は、電気化学用途のための材料を最適化するために、1〜18時間の間で変動させた。MnSOとMnSOのよく混合された溶液を1時間加熱することにより、図13(左図)に示すようなMnOナノフラワーが形成された。熱水反応時間をさらに18時間まで増加することにより、大量の個々のナノワイヤが図13(中央図)に示すように形成される。MnOナノワイヤの直径は、約80〜約150nmであり、長さは1マイクロメートルを超える。140℃での滞留時間の後、オートクレーブを自然に室温まで冷却した。形成された茶色がかった黒の沈殿を濾過し、脱イオン(DI)水で洗浄して、未反応の出発材料および反応中に生成された可溶性副生物を取り除いた。沈殿を空気中100℃において乾燥させると、1時間後、MnOナノフラワー/ナノロッドが回収できる状態になっていた。図13(右図)は、2〜3.5μmの粒子サイズを有する市販のMnO粉末のSEM画像を示す。
【0060】
図15〜17はMnOの異なるナノ構造のBET表面積の測定値を示す。図15は、MnOナノフラワーのBET表面測定値の結果を示す。図16は、MnOナノワイヤのBET表面測定値の結果を示す。図17は、MnO粉末のBET表面測定値の結果を示す。下の表1は、これらの測定値から得られた結果をまとめたものである。
【0061】
【表1】

1.5 MnO修飾単層ナノチューブ(SWCNT)
10mL〜20mLの蒸留水中に溶解した0.2g〜0.5gの硝酸マンガンMn(NOまたは酢酸マンガンを含む溶液Aを、10mL〜20mLの蒸留水中に0.5g〜0.9gのKMnOを含む溶液Bに激しく攪拌しながら添加した。0.05〜0.2gのSWCNTを攪拌かつ50〜80℃に加熱しながら溶液中に分散させた。0.01M HClまたは0.01〜0.05M HNOを用いてpHを1〜7に調節した(pHに応じて、MnO粒子サイズ/分散性は変化する)。1〜2時間攪拌した後、得られた懸濁液を遠心分離し、蒸留水で洗浄し、100℃のオーブン中で24時間乾燥させた。
【0062】
MnO修飾ナノ構造の製造のための代替法として、10mgの単層カーボンナノチューブを100mLの蒸留水中に溶解し、溶液の超音波処理を用いて約30分間混合した。その後、溶液の試料をKMnOの溶液(200mlのHO中に40mgのKMnO)に加えた。得られた混合物を約70℃の温度、pH8.5において3日間攪拌した。反応中、酸化が起こるにつれ、KMnO溶液の紫色が消失した。3日間のインキュベーション終了時に、溶液を濾過し、洗浄して、MnO修飾SWCNTを得た。図14は、MnO修飾SWCNTのTEM画像を示し、SWCNTの表面に結合したMnOナノ粒子は、約1〜10nmの間の平均サイズを有する。図14に示す画像は、同じ構造を示しているが、倍率が異なる。図20は、20mVs−1で測定したCNTおよびMnO修飾CNT電極を有するスーパーキャパシタにおけるサイクリックボルタモグラムを示し、MnO修飾CNTは、CNT電極(〜90F/g)と比べて105F/gのわずかに高い静電容量を有する。
【0063】
1.6 TiOナノチューブの合成
チタニア(TiO)粉末0.5〜1.0gを水酸化ナトリウムの15M溶液に加え、2時間激しく攪拌した。次に、内容物をテフロン(登録商標)で裏打ちされたステンレス鋼オートクレーブに移し、これをオーブンに入れ、170℃で4〜5日間放置した。得られた分散液をpHが7になるまで、0.1mol/L HNOで数回洗浄し、その後、オーブン中、80℃で24時間乾燥させた。この方法によって得られるナノチューブは、図6のTEM画像中に図示されている。上記方法を用いて、TiOナノチューブを金属ナノ粒子で修飾することができる。
【0064】
1.7 スーパーキャパシタ電極の調製
以下、電極材料としての金属修飾ナノ構造材料の一般的適合性をスーパーキャパシタ用の電極材料の製造に基づいて実証する。
【0065】
スーパーキャパシタ電極を調製するために、SWCNT、Ag修飾SWCNTまたはMnO修飾SWCNT懸濁液(脱イオン水中に0.2mg/ml)をフィルタ膜(ワットマン社(Whatman)、細孔径20nm、直径47mm)を通して濾過した。CNTはフィルタの表面上に捕捉され、相互に連結した網状体を形成していた。乾燥後、自立CNT網状体をフィルタから剥離し(厚み約20μm)、電極として使用した。比較の目的で、2重量%Ag粉末(シグマアルドリッチ社、2〜3.5μm)およびSWCNTからなる薄膜電極を、これらを脱イオン水(0.2mg/mL)中で機械的に混合し、膜を介して濾過することによって調製した。
【0066】
1.8 ポリマー電解質およびスーパーキャパシタのアセンブリの製造
50mlの脱イオン水中、5gのPVAモノマー粉末(アルファ・エイサー社、98〜99%加水分解,中/高分子量)を、明確なゲル様溶液が得られるまで90℃で加熱することにより酸性ポリマー電解質を調製した。続いて、3mlのHPO(シグマアルドリッチ社、純度85%)を継続的に攪拌されているこの溶液に加えた。ゲル様溶液中の空気泡は真空デシケータを用いて除去し、この溶液を60℃で4時間加熱して、過剰な水を除去し、ポリマー電解質の0.5mmフィルムを形成した。これをAg−CNTまたはMnO−CNT網状体の2本の細片の間に積層し(図4a)、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に両面テープで固定した。ポリマー電解質は、2つの電極間のセパレータとしても作用し、短絡を防止しながらも、イオン電荷輸送が起こることを許容する。
【0067】
1.9 構造的および電気化学的特性評価
Ag−CNT中の銀を、島津回折計(CuKα)を用いて集められたX線回折(XRD)パターンから、10°〜140°の2θ範囲にわたる段階的走査(0.02°、滞留時間0.6秒)によって特性評価した。200kVの電圧において動作するJEOL 2100Fを用いて、高解像度モードで動作する透過型電子顕微鏡法(TEM)を実施した。二電極構成を用いて静電容量を測定した。サイクリックボルタメトリおよび定電流充放電サイクルテストは、それぞれコンピュータ制御バイポテンショスタット(パインインスツルメント社(Pine Instrument)、AFBP1)を用いて、20mVs−1の走査速度、0〜1Vの電位範囲、かつ定電流(0.4〜1mA)で行った。ACインピーダンスは、インピーダンススペクトル分析器(ソーラトロン社(Solatron)、SI 1255インピーダンス/増幅率−位相分析器;コンピュータソフトウェアZView)を用いて、室温、5mVのAC振幅、開回路電位(OCP)で55kHz〜1mHzにおいて測定した。
【0068】
1.10 ナノ構造材料の修飾のための合成条件の最適化
これらの知見から、pH、反応時間およびAgNO濃度が、SWCNT上のAgNPの分散およびサイズを制御する主要なパラメータであることが判明した。SWCNTを0.15M AgNO溶液に導入後、pHは、ナノチューブ上の酸性カルボキシル基の存在により、表2に示すように5.6から3.4に低下した。
【0069】
【表2】

続いて、CNT上にこれらの基を有するAgNOが吸着してCOO−Ag基を形成する(図2)。NaOH溶液の添加は、AgをAgに徐々に還元するのに十分なヒドロキシルイオンの量を確保するためにpHを調節するにあたっての重要な工程である。表2は、pHおよび反応時間に応じた3つの異なる試料の銀ナノ粒子サイズを示す。pH4.3(NaOH添加後)において、SWCNT上に修飾されたAgナノ粒子サイズは、約15nmの直径を有し、最大となった(図3a)。pHが6.3まで増加すると、Agナノ粒子の大きさは、同じ反応時間に対して6nmまで劇的に減少した(図3b)。この現象は、Ag−OH放出を伴うSWCNT上のカルボキシル基の再形成を促進する、高pHにおける過剰なヒドロキシルイオンとCOO−Ag基との間の反応によるものであろう。結果として、利用可能な核形成部位の数とAgナノ粒子の成長が抑制される。(同じpH条件において)120分から15分に熟成時間を短縮することにより、Agナノ粒子のサイズは、6nmから3nmに減少する(図3bおよび3c)。このことは、反応時間をより長くすることにより、結晶成長と核形成後の凝集を介してより大きなAgナノ粒子が産生されることを示す。コロイド状Agクラスタ形成が防止されるような条件を最適化するために、様々なAgNO濃度(0.05〜0.15M,pH6、熟成時間15分)を試験した。核形成および成長に必要とされるよりも過剰なAg前駆体(0.15M)において、大きなコロイド状Agクラスタ(20〜100nm、図7a)およびSWCNT上に修飾されたAg(3nm)の混合物が形成された。AgNO濃度を0.10Mに低下させると、Agクラスタはなくなり、かつ0.15Mの条件のようなSWCNT上の一定サイズのAgが得られた。0.05M AgNO溶液では、SWCNT表面上において、より低い分散とより小さい銀結晶サイズ1nm(図7b)が達成された。XRDパターン(図8)から、2θ=38,45,64,78および82における立方晶Agの形成が確認される。
【0070】
1.11 スーパーキャパシタ電気化学装置試験
以下の電極材料を有する6種類のスーパーキャパシタ装置、すなわち、CNT電極を有する参照装置、13±2nm,7±1nm,4±1nmおよび1nm(1〜2nmサイズ範囲)の4つの異なるAgNPサイズ範囲のAg修飾CNT、および2重量%Ag粉末−CNT混合物(2%Ag+CNT)についてのサイクリックボルタモグラムを図4eに示す。サイクリックボルタメトリ(CV;図4e)と定電流充放電(GCD;図4f)法の両方を用いて判定されたすべての装置の比容量は、0.03〜0.24F/cmの範囲であり、参照CNT装置は、文献値との良好な一致を示した。ポリマー電解質は、液体電解質とは異なり電極の表面を濡らすに過ぎないことから、Ag−CNT電極の全質量ではなく表面のみが電気二重層の形成に寄与すると考えられたため、比容量は電極毎に、質量ではなく面積を用いて標準化した。高密度のCNT網状体の比容量は0.09F/cmであり、そのCV曲線は0.2Vにおいて最大となり、これは、全静電容量に対する疑似容量として寄与する酸素含有官能基に起因するものと考えられる。CNT合成および装置製作工程によってもたらされる官能基、界面活性剤、および不純物、最適化されていない装置構造に起因する内部および外部装置抵抗ならびに外部装置接続は、理想的なスーパーキャパシタの箱形のCV特性からの逸脱をもたらすと考えられている。
【0071】
【表3】

比較において、1nmAg−CNTおよび4nmAg−CNTではV=0およびV=1で酸化還元ピークを観察することができ、これらはまた、それぞれ0.24F/cmおよび0.15F/cmという顕著に大きい比容量を示した。固体状態の水性電解質に比べて、液体電解質中に含まれるイオンの方が高い移動性を示すため、1M HPO液体電解質を用いることにより、これらの酸化還元ピークはより明確に認められる(図9a)。酸化還元ピークの出現は、1nmAg−CNTおよび4nmAg−CNT装置中の静電容量を高める機構が、Ag−NPsがファラデー可逆酸化還元部位として関与し、全比容量に対する疑似容量の寄与につながるという事実によるものかもしれないことを強く示唆するものである。したがって、全比容量は、表面積から多大な影響を受ける電気二層容量、およびAgの存在から多大な影響を受ける疑似容量の寄与を合わせたものと考えることができる。
【0072】
スーパーキャパシタの比容量(図9b中のエネルギーおよび電力密度として示される)は、4nmAg−CNT,7nmAg−CNTおよび13nmAg−CNT装置が、それぞれ0.15F/cm,0.09F/cmおよび0.05F/cmの値を与えるというように、粒子サイズの増大とともに低下する。同様のことが、定電流充放電法を用いた比容量の測定からも観察され、静電容量の測定値(表3)はサイクリックボルタメトリの結果を反映している。
【0073】
より大きいAgNPsを有する装置(たとえば、7nmAg−CNTおよび13nmAg−CNT装置)の比容量の減少は、より大きいAgNPによってCNTの細孔の遮断が起こり、結果的に有効表面積が減少し、それにより電気二重層容量が減少することに起因すると考えられる。一方、より小さいAgNP(直径5nm未満)は、カーボンナノチューブのメソ細孔を遮断しにくく、CNT表面上に小さな突起を作るAg原子のクラスタに助けられて有効表面積を高めるかもしれない。1nmAgNPは、約31個のAg原子からなると推定され、このことが、1nmAg−CNTおよび4nmAg−CNT装置において観察される高められた静電容量に寄与しうる有効表面積の増大をもたらすのかもしれない。
【0074】
疑似容量に寄与する際のAgの役割を、電極が2重量%のAg粒子をCNT中に物理的に混合することにより調製された装置(2%Ag+CNT装置と表す)を調べることによりさらに研究した。記録された静電容量0.12F/cmは、参照CNT、13nmAg−CNTおよび7nmAg−CNT装置(>5nmAgNP)のものより高かったが、4nmAg−CNTおよび1nmAg−CNT装置(<5nmAgNP)のものよりは低かった。この2%Ag+CNT装置の静電容量は、参照CNT装置よりも高く、このことは、Ag粒子がCNT表面を遮断することはなく、Agがその疑似容量を介して寄与したことを示唆するものである。前段落に詳述した結果は以下のようにまとめることができる。Ag−CNTスーパーキャパシタにおける比容量は、電気二層容量からの寄与と、疑似容量からの寄与とを含み、前者は主として表面積によって支配され、後者は、AgNPの大きさから多大な影響を受ける。小さいAgNPは、全表面積を低下させることはないが、疑似容量を高め、1nmAg−CNTについては参照CNT装置の約150%まで比容量を高める結果をもたらす。
【0075】
1.12 スーパーキャパシタインピーダンス試験
低い内部抵抗は、スーパーキャパシタにおいて非常に重要である。というのも、それが電力密度(P=V/4R)に対する制限要因の一つであり、充放電サイクルにも影響を及ぼすためである。スーパーキャパシタにおいて、数多くの原因が、内部抵抗に寄与しており、これらはまとめて測定され、等価直列抵抗またはESRと呼ばれる。スーパーキャパシタのESRへの寄与には、電極のシート抵抗、電極と電解質との間の界面抵抗、電解質のイオン性抵抗、および外部リード接触抵抗が含まれる。プローブステーションを用いて網状体上のいくつかの点で測定されるシート抵抗は、15.74Ωcm−2から、参照CNT装置については10.20Ωcm−2に、1nmおよび4nmAgNPを含む装置については、それぞれ、6.34Ωcm−2に低下する。予想通り、AgNPをCNT網状体に添加することがシート抵抗の減少をもたらし、これはおそらくチューブ間の抵抗の減少によるものと思われる。しかし、この傾向はAgNP粒子サイズの増大とともに逆転し、7nmAg−CNTおよび13nmAg−CNT装置では、それぞれ6.34Ωcm−2から10.26cm−2の抵抗を示す。
【0076】
これらの結果について、定電流充放電テストから得られる内部抵抗測定値によってさらに確かめる(図4f)。放電曲線の最初に見られる電圧(IR)降下から、CNT電極に対する内部抵抗は83.2Ωであることがわかった。CNT網状体へのAgNPの取込みによって、1nmAg−CNTおよび4nmAg−CNTについて、83Ωおよび65Ωの内部抵抗が生じたが、7nmAg−CNT、13nmAg−CNTおよび2%Ag+CNT装置は、それぞれ、68Ω,160Ωおよび141Ωの内部抵抗を示し、これはシート抵抗測定からの結果と類似している。AgNPサイズと、装置の内部抵抗およびシート抵抗の両方との相関関係をより明確に概説するために、電極の内部抵抗とシート抵抗の両方の結果を棒グラフによって示す(図10)。
【0077】
スーパーキャパシタ性能におけるAgNPの効果と、Ag−CNT電極の電気化学的挙動をACインピーダンス分光法によってさらに調査した(図11a)。高周波数領域において実軸に交差が生じ、続いて低周波数領域において単一の疑似半円形が生じる。この高周波数における半円は、(1)電極と電解質との間の界面の存在、および(2)抵抗と平行な二重層容量に関与するRCループの存在に起因するものと考えられる。低周波数では、プロットは、多孔質炭素の静電容量応答に対応して、ほとんど垂直な線に変形する。低周波数におけるスーパーキャパシタのインピーダンスプロットの非垂直傾斜は、異なる細孔サイズ分布の炭素、および電極内のイオンの低移動度によるものであるかもしれない。Ag−CNT電極のための等価回路は、以下の回路要素を包含するであろう。バルク溶液抵抗R、二重層容量Cdl、界面電荷輸送抵抗Rct、およびメソ細孔内の分布抵抗によるワールブルグインピーダンスW。活物質と電荷コレクタの両方が装置の1つの成分中に組み込まれたので、CおよびRは、電極内の静電容量および抵抗に対応する。1nmAg−CNTおよび4nmAg−CNTは、とりわけ、等価回路に含まれる必要のある疑似容量に対応するCの付加的要素である。回路要素の組み合わせは、それぞれ図11bおよび11c中に提示されている。したがって、疑似容量の存在を除いたCNT、13nmAg−CNT,7nmAg−CNTおよび2%Ag−CNT装置に対する等価回路の全インピーダンスZは、
【0078】
【数1】

によって表される。
【0079】
疑似容量の付加的要素を有する4nmAg−CNTおよび1nmAg−CNT装置については、インピーダンスZの方程式は、
【0080】
【数2】

で表される。
【0081】
方程式(1)および(2)は、図11aのインピーダンスデータとともに、図11bおよび11c中の等価回路の要素の値を推定するために用いた。推定値をまとめる(表4)。
【0082】
【表4】

電解質抵抗は約65Ωであり、液体電解質(<10Ω)と比較して相対的に高いこの値は、主としてポリマー電解質中でのイオンの低い移動度に起因するものである。各Ag−CNT電極に対するRct値は、全抵抗の主要部分をなし、Rは小さな役割を果たす。電荷移動抵抗Rctは、AgNPサイズが小さくなるにつれ低下し、4nmAg−CNTおよび1nmAg−CNT装置において1〜4Ωの範囲のRctという顕著な低下が認められる(表4)。この結果から、1〜5nmのサイズ範囲にあるAgNPが、CNT電極と電解質との間の抵抗を効果的に低下させることが示された。一方、より大きいAgNP(>7nm)は、おそらくはCNT表面上の細孔を遮断することにより電気学的酸化還元速度を低下させて、13nmAg−CNT装置に87Ωという参照CNT装置(約28Ω)よりも著しく高いRct値を与えることが示された。
【0083】
インピーダンス解析から得られる二重層容量Cdlは、AgNPが7から1nmに減少するにつれて増加し、これは、CV測定からの結果と類似している。4nmAg−CNTおよび1nmAg−CNT装置の疑似容量Cは、Cdl+Cとして全静電容量に寄与していた。かさねて、1nmAg−CNTは、すべての装置のなかで最も高い静電容量を有しており、このことは、<5nmAgNP装置の静電容量の向上において疑似容量が重要な要因であるというCV測定からの知見を裏付けている。RおよびCの値(電極からの寄与)は、全抵抗および静電容量に比べて無視できるほど小さかった(表4)。
【0084】
フェルミ準位アライメントは、金属と半導体の間に接点が形成され、結果として電荷再分配と金属を囲む空乏層の形成が起こるたびに発生することが予想される。Ag修飾CNTもそのような効果を受けて、電荷散失部位として作用し、ナノチューブ内にポテンシャル障壁を造り出し、移動度およびチューブ内導電性の低下をもたらす局在化空乏領域を生み出すであろう(図12(a))。空乏領域(およびポテンシャル障壁)の深さはナノクラスタ中の原子数とともに増大し、5〜20nmの範囲内のどこかで最大に達し、それを超えるとこの深さは一定に保たれると考えられるが、幅はAgナノ粒子の被覆の増加とともに増大するかもしれない。金属−金属および半導体−半導体チューブの間の接触抵抗は、無視できることが知られている。一方、半導体−金属CNT間の有意なチューブ間接触抵抗は、ショットキー障壁の生成に起因するとされてきた。Agナノ粒子を仲介した半導体−金属CNT接合は、一方でショットキー障壁の減少をもたらし、チューブ間接触抵抗を減少させる(図12(b))。
【0085】
増加したシート抵抗および内部抵抗の結果は、チューブ間だけでなくチューブ内抵抗に対するAgの効果との関連で議論することができる。13nmAgNPによるチューブ内抵抗は、本研究において評価した1nm〜13nmのすべてのAgNPサイズの中でもおそらく一番高いと言える。一方、チューブ間抵抗は、CNT表面上のAg被覆のために、1nmAgNP装置においておそらく最も高いと言えよう。AgNPをCNTに加えることにより、シート抵抗が参照装置の約15Ωcm−2から、Agサイズが減少するにつれ、約10Ωcm−2(13nmAgNP)に、約6Ωcm−2(7および4nmAgNP)に、および約10Ωcm−2(1nmAgNP)に減少する。13nmおよび7nm装置におけるシート抵抗の減少は、チューブ間接触の向上によるものと考えることができる。一方、より小さいAgNP装置に関しては、Agに仲介されるCNT−CNT接触の確率はCNT上のAgの減少したサイズ/表面被覆のために減少しており、したがって、1nmAgNP−CNTにおけるシート抵抗は約10Ωcm−2までわずかに増加するが、それでも参照(約15Ωcm−2)よりも低い。2%Ag−CNT装置におけるシート抵抗は5Ωcm−2で最も低く、これは、大きな銀クラスタと、2〜5μm銀粒子内に存在しうる透過経路のためであると考えられる。一方、内部抵抗の反応は、チューブ間およびチューブ内接触抵抗の問題に加えて電解質効果を包含し、いくらかのAgNP依存性を示すものの、EISに最もよく匹敵し、前述のように、大きなAgNPによる細孔遮断に起因するイオン拡散抵抗が、13nmAgNPおよび2%Ag+CNT装置について、それぞれ160Ωおよび141Ωの高い内部抵抗をもたらす。
【0086】
以上をまとめると、金属−修飾ナノ構造材料は、スーパーキャパシタのための効果的な電荷コレクタおよび電極材料であることが実証された。装置の面積あたりの静電容量は、約5nmより小さいサイズの金属ナノ粒子または金属酸化物ナノ粒子でナノ構造材料を修飾することにより増加させることができ、そのような粒子はナノ構造材料のメソ細孔を遮断することなく、ファラデー反応によって誘導される疑似容量によって二重層容量を補完する。装置の内部抵抗は、3〜8nmの範囲のサイズのナノ粒子を加えることによっても低下させることができる。AgNPの存在は、CNTのチューブ間接触抵抗の低下を促進し、装置の全内部抵抗の低下をもたらすことができる。このことは、電力密度を向上させるために重要である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にナノ粒子が結合したナノ構造材料において、
表面に結合したすべてのナノ粒子が約20nmの最大寸法を有し、
ナノ構造材料が約2nm〜約5μmの最大寸法を有する細孔を含み、かつ
ナノ粒子は、貴金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子およびそれらの混合物からなる群より選択されるナノ構造材料。
【請求項2】
貴金属は、銀、パラジウム、金、プラチナ、それらの混合物および合金からなる群より選択される請求項1に記載のナノ構造材料。
【請求項3】
金属酸化物は、遷移金属酸化物およびアルミニウム酸化物からなる群より選択される請求項1に記載のナノ構造材料。
【請求項4】
金属酸化物は、PtO,V,V,Nb,NiO・xHO,LiCoO,LiFeO,LiMn,LiMoO,LiTiO,MnO,Ag−MnO,Al,MoO,TiO,SiO,ZnO,SnO,Fe,NiO,Co,CoO,Nb,W、それらの混合物および合金からなる群より選択される請求項3に記載のナノ構造材料。
【請求項5】
粒子の最大寸法が、約0.5〜20nmである請求項1〜4のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項6】
約≧12〜20nmのサイズを有するナノ粒子におけるナノ粒子サイズ分布は約±5であり、約≧5nm〜<12nmのサイズを有するナノ粒子におけるナノ粒子サイズ分布は約±3nmであり、約2〜<5nmのサイズを有するナノ粒子におけるナノ粒子サイズ分布は約±1nmである請求項5に記載のナノ構造材料。
【請求項7】
ナノ構造材料は、約2nm〜約50nmの最大寸法を有するメソ細孔を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項8】
ナノ構造材料は、約>50nm〜約5μmの最大寸法を有するマクロ細孔を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項9】
ナノ粒子は、ナノ構造材料の表面に化学的に結合されている請求項1〜8のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項10】
ナノ粒子は、ナノ構造材料の表面に結合したリンカーを介してナノ構造材料の表面に化学的に結合されている請求項9に記載のナノ構造材料。
【請求項11】
リンカーは、水酸基を含む分子、ピレン、エステル、チオール、アミン、カルボキシル基およびそれらの混合物からなる群より選択される請求項10に記載のナノ構造材料。
【請求項12】
カルボキシル基は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、シクロアルカンカルボン酸および安息香酸からなる群より選択される分子に含まれる請求項11に記載のナノ構造材料。
【請求項13】
リンカーは、リン酸またはスルホン酸を含む分子である請求項11に記載のナノ構造材料。
【請求項14】
ナノ構造材料の表面積の約5〜約80%がナノ粒子によって被覆されている請求項1〜13のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項15】
ナノ粒子は、ナノ構造材料の表面上に均一に分配される請求項1〜14のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項16】
ナノ構造材料は、ナノチューブ、ナノフラワー、ナノワイヤ(ナノファイバーとも呼ばれる)、ナノフレーク、ナノ粒子、ナノディスク、ナノフィルムおよび混合物中での上記ナノ構造材料の組み合わせからなる群より選択される請求項1〜15のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項17】
ナノチューブは、単層または二重層あるいは多層ナノチューブである請求項16に記載のナノ構造材料。
【請求項18】
ナノチューブは、炭素または金属酸化物ベースである請求項16に記載のナノ構造材料。
【請求項19】
ナノ構造材料の少なくとも1つの寸法が100nm未満である請求項1〜18のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項20】
ナノ構造材料は、炭素材料、セラミック、ガラス、金属、金属酸化物、ポリピロールおよび種々の上記材料から形成されたナノ構造材料の混合物からなる群より選択される材料から形成される請求項1〜19のいずれか一項に記載のナノ構造材料。
【請求項21】
炭素材料は、活性炭、カーボンブラックおよびグラフェンからなる群より選択される請求項20に記載のナノ構造材料。
【請求項22】
請求項1〜21のいずれか一項に記載のナノ構造材料の網状体を含む電極。
【請求項23】
スーパーキャパシタ、センサ、ハイブリッド電気化学装置、充電式電池、または金属空気電池に含まれる電極であることを特徴とする請求項22に記載の電極。
【請求項24】
ナノ粒子修飾ナノ構造材料の製造方法であって、ナノ粒子は、貴金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、およびそれらの混合物からなる群より選択され、前記方法は、
多孔性ナノ構造材料を貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液と混合して、ナノ構造材料の貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を含む溶液との懸濁液を得る工程と、
80℃以下の温度において貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体を化学的に還元して、ナノ構造材料の表面上にナノ粒子を沈殿させる工程とを含む方法。
【請求項25】
貴金属ナノ粒子前駆体を用いる場合、化学的還元中の温度は60℃以下である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
懸濁液中の貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体の濃度は、約20nmの最大寸法を有するナノ粒子を形成するように適合される請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
化学的還元は、懸濁液中のpHを調整するか、還元性雰囲気中で懸濁液を加熱するか、化学的還元剤を用いることによって達成される請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
pHは、約1〜10の範囲に調整される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
pHは、銀ナノ粒子前駆体を用いる場合には、約4〜<7.5に調整される請求項28に記載の方法。
【請求項30】
pHは、金ナノ粒子前駆体を用いる場合には、約4〜10の範囲に調整される請求項28に記載の方法。
【請求項31】
pHは、プラチナナノ粒子前駆体を用いる場合には、約4〜9の範囲に調整される請求項28に記載の方法。
【請求項32】
pHは、マンガンナノ粒子前駆体を用いる場合には、約1〜7の範囲に調整される請求項28に記載の方法。
【請求項33】
懸濁液は、約15分〜約120分間インキュベートされる請求項24〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ナノ粒子前駆体の溶液中の貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体の濃度は、約3mM〜約150mMである請求項24〜33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体は、金属塩化物、金属硝酸塩、金属アルコキシド、有機金属前駆体、およびKMnOからなる群より選択される請求項24〜34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体は、AgNO,[Ag(NH(aq),HAuCl・3HO,HPtCl・6HO,HPdCl・6HO,Mn(NO,チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンプロポキシド、チタンブトキシド、およびKMnOからなる群より選択される請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ナノ構造材料に対するナノ粒子前駆体のモル比は、0.05〜約0.6である請求項24〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
ナノ構造材料を貴金属ナノ粒子前駆体または金属酸化物ナノ粒子前駆体と混合する前に、ナノ構造材料を処理する工程を含み、前記処理は、酸化処理、<500℃の温度での焼結、無機極性溶媒中での還流、またはプラズマ処理である請求項24〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
ナノ粒子修飾ナノ構造材料を濾過膜を通して篩いにかけ、ナノ粒子修飾ナノ構造材料からなる膜を得る工程をさらに含む請求項24〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
請求項24〜39のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノ粒子修飾ナノ構造材料または請求項39に記載の方法によって得られるナノ粒子修飾ナノ構造材料からなる膜。
【請求項41】
電極の製造のための請求項1〜24および40のいずれか一項に記載のナノ粒子修飾ナノ構造材料の使用方法。
【請求項42】
スーパーキャパシタ、センサ、ハイブリッド電気化学装置、充電式電池、または金属空気電池のための電極を製造するための請求項41に記載の使用方法。

【図1】
image rotate

【図2a)】
image rotate

【図2b)】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公表番号】特表2012−502467(P2012−502467A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526015(P2011−526015)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000318
【国際公開番号】WO2010/027336
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(506076891)ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー (14)
【Fターム(参考)】