電気化学セル及びその製造方法
【課題】小型の外装容器を用いた電気化学セルにおいて、大電流放電を可能にする。
【解決方法】ベース1とリッド6からなる外装容器と、前記ベース1の中に収納されるセル7と、電解質とからなる電気化学セルであって、前記ベース1の内側面に形成された少なくとも一つの弁金属からなるパッド膜2と、前記ベース1の外側面に設けられて、前記パッド膜2と電気的に接続した接続端子4とを有し、前記セルの延長部であるセルリード8と前記パッド膜2とが、溶接により接続された構造を有することを特徴とする電気化学セルを提案する。
【解決方法】ベース1とリッド6からなる外装容器と、前記ベース1の中に収納されるセル7と、電解質とからなる電気化学セルであって、前記ベース1の内側面に形成された少なくとも一つの弁金属からなるパッド膜2と、前記ベース1の外側面に設けられて、前記パッド膜2と電気的に接続した接続端子4とを有し、前記セルの延長部であるセルリード8と前記パッド膜2とが、溶接により接続された構造を有することを特徴とする電気化学セルを提案する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、従来、時計機能のバックアップ電源や半導体のメモリのバックアップ電源やマイクロコンピュータやICメモリ等の電子装置予備電源やソーラ時計の電池やモーター駆動用の電源などとして使用されており、近年は電気自動車の電源やエネルギー変換・貯蔵システムの補助貯電ユニットなどとしても検討されている。
【0003】
また、従来の電気化学セルはコインやボタンのような丸い形状であるため、リフローハンダ付けを行うには端子等をケースにあらかじめ溶接しておく必要があり、部品点数の増加および製造工数の増加という点でコストアップとなっていた。また、基板状に、端子のスペースを設ける必要があり小型化に限界があった。
【0004】
このような問題を解決するために、凹部を有する容器に発電要素(以下、セルと称する)と電解質を収納し、開口部を蓋(リッド)で封止した電気二重層キャパシタが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−216952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の構成による電気化学セルはメモリーバックアップ用途に好適であり、電気化学セルの放電電流としては、数μAから高々数mAの範囲である。しかしながら、電気化学セルの用途として、数百ミリ秒から数秒のパルス幅で、数百mAから数Aの電流を放電して、電子機器に備わったLEDなどの光源を点滅させたり、小型のモーターを間欠駆動するなどの新たな用途が出てきた(以下、大電流放電用途と称する)。上記の構成による電気化学セルでは、接続抵抗値が数Ωのレベルになることがあり、放電の開始時に大きな電圧降下を生じてしまい、所定の機能を満足させることが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、小型の外装容器を用いた電気化学セルにおいて、大電流放電を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では以下の構成を採用する。
請求項1に係る発明は、ベースとリッドからなる外装容器と、前記セルの延長部である複数のセルリードと、前記外装容器の中に収納されるセルと、電解質とからなる電気化学セルであって、前記ベースの内側面に形成された弁金属からなるパッド膜と、前記ベースの外側面に設けられて、前記パッド膜と電気的に接続した接続端子とを有し、少なくとも一つの前記セルリードが、溶接により前記パッド膜と接続されていることを特徴とする電気化学セルである。
請求項1に係る発明によれば、セルリードとパッド膜が溶接により接続されることにより、導電性接着剤を用いる従来の方法に比較して格段に低い接続抵抗値を実現した電気化学セルを実現できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記パッド膜の厚みは5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セルである。
請求項3に係る発明は、前記パッド膜の厚みは10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セルである。
請求項2及び3に係る発明によれば、パット膜の下に位置する電極の溶解を防止すると同時に、溶接によってベース部材に損傷を与えることなくセルリードとの接合を可能になる。よって、大電流放電が可能になる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記パッド膜はアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項4に係る発明によれば、パッド膜にアルミニウムを含むことにより、パッド膜が柔らかく溶接がしやすく、更に、アルミニウム自体の持つ低い電気抵抗率により溶接による接続抵抗を小さくできる。また、アルミニウムを含むことで化学的に安定であり、長期
に渡って安定した大電流放電が可能になる。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記溶接が超音波溶接またはビーム溶接であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項5に係る発明によれば、超音波溶接またはビーム溶接を用いることにより、ベースとなる部材に損傷を与えることなく局所的な領域にのみ効率よく接続部を設けられ、かつ、接続部が前記部材の接合界面の原子の拡散を引き起こすので十分に低い接続抵抗値を備える電気化学セルを実現できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記ベースがセラミックまたは、ガラスからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項6に係る発明によれば、配線抵抗と接続抵抗の低い電気化学セルを、ガラスを用いて実現できる。原材料として長尺のガラス板を利用できることから、取り個数を増加させることで、製造コストの低減を図ることも可能である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記セルリードがアルミニウム、ニッケルまたは銅からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項7に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記セルリードのうち、正極及び負極の前記セルリードとも前記パッド膜に溶接されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
【0015】
請求項9に係る発明は、負極の前記セルリードは、前記リッドと電気的に接続していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項9に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0016】
請求項10に係る発明は、前記パッド膜と前記接続端子とは、ベース内部に埋設されたベース内端子を介して接続されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項10に係る発明によれば、ベースに少なくとも一つの導電性のベース内端子を有することにより、配線パターンを短く出来るので配線抵抗値を低減できる。よって、大電流放電が可能になる。
また、請求項10に係る発明によれば、ベース内端子がベースの内側面と外側面とを貫通して、パッド膜と接続端子が接続されることにより、パッド膜と接続端子間の長さを十分短くできる。従って、配線抵抗を十分に低く抑えることが可能になる。また、外装容器の寸法が大きくなっても配線抵抗値の増加を抑制できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0017】
請求項11に係る発明は、前記外装容器は、凹状の前記ベースと板状のリッドとを、直接または接合金属部材を介して封口されたものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項11に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0018】
請求項12に係る発明は、前記ベースは、前記外装容器の外側の層である第一ベースと内側の層である第二ベースとから構成され、前記ベース内端子は前記第二ベースを貫通し、前記接続端子は、前記第一ベースと前記第二ベースの境界面に延設され、前記ベース内端子と接続することを特徴とする請求項10に記載の電気化学セルである。
請求項12に係る発明によれば、貫通孔をベースの底面にまで貫通させる方式に比較して、電解質が液体を含む場合に発生する可能性のあるベース外側面への漏液を抑制できる。また、配線抵抗を抑制できる。更に、セルリードとパッド膜は溶接により接続されるので、導電性接着剤に比較して格段に接続抵抗値を低減できている。
【0019】
請求項13に係る発明は、前記パッド膜は、前記ベースの内側面に延設された配線パターンを介して、前記接続端子と接続していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項13に係る発明によれば、電解質が液体を含む場合に発生する可能性のある、ベース外側面への漏液を抑制できる。更に、セルリードとパッド膜は溶接により接続された構造を有する電気化学セルであるので、格段に低い接続抵抗にすることが出来る。
【0020】
請求項14に係る発明は、前記配線パターンは電解質に露出しないように保護膜で覆われていることを特徴とする請求項13に記載の電気化学セルである。
請求項14に係る発明によれば、配線パターンが電解質に露出することがない。従って、配線パターンは溶解することなく、電気化学セルは長期に渡って安定な品質を維持できる。
【0021】
請求項15に係る発明は、前記ベースは平板状であり、前記リッドは凹状であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項15に係る発明によれば、配線抵抗と、接続抵抗を十分に抑えることが出来る。また、金属製リッドを慣用される深絞り加工するなどして深い凹状の容器とすることができる。そのため、大容量の電気化学セルを、製造コストを大きく上昇させることなく実現できる。
【0022】
請求項16に係る発明は、前記ベースまたは前記リッドは小孔を有し、前記小孔は封止栓で密封されていることを特徴とする請求項15に記載の電気化学セルである。
請求項16に係る発明によれば、電解質を注入する前に溶接をすることができる利点がある。
【0023】
請求項17に係る発明は、前記ベース部材は前記接合部材と接する面にステップを有し、前記ステップに前記金属接合部材がはめ込まれていることを特徴とする請求項15または16に記載の電気化学セルである。
請求項17に係る発明によれば、リッドを逆さまにした状態で電解質を充填した後に、セルをリッドの中に配置しても、リッドから溢れ出る電解質量を少なくできる。従って、電解質が充填された状態でもベースとリッドとの溶接を容易に行うことが出来る。そのため、リッドの小孔は不要で、封止栓による封止工程も省略できる。
【0024】
請求項18に係る発明は、前記ベース部材と前記リッドとは平板状であり、金属側壁を介して封口されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項18に係る発明によれば、配線抵抗と、接続抵抗を十分に抑えることが出来る。また、側面として用いる筒状の金属は中空のパイプなどの規格品が利用できる。そのため、大容量の電気化学セルを、製造コストを大きく上昇させることなく実現できる。
【0025】
請求項19に係る発明は、正極の前記セルリードは、前記金属側壁に接続されていることを特徴とする請求項18に記載の電気化学セルである。
請求項19に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0026】
請求項20に係る発明は、外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、セルをベースに収納する工程と、電解質を充填する工程と、リッドをベースに接合する工程とを含むことを特徴とする電気化学セルの製造方法である。
請求項20に係る発明によれば、外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、前記セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、セルをベースに収納する工程と、電解質を充填する工程と、リッドをベースに接合する工程とを含むので、接続抵抗値の十分に低い電気化学セルを実現できる。
【0027】
請求項21に係る発明は、前記セルリードと前記パッド膜との溶接工程は、超音波溶接又はビーム溶接を用いることを特徴とする請求項20に記載の電気化学セルの製造方法である。
請求項21に係る発明によれば、超音波溶接又はビーム溶接を用いるので、ベースとなるセラミック部材に損傷を与えることなく局所的な領域にのみ効率よく接続部を設けられ、かつ、接続部が前記部材の接合界面の原子の拡散を引き起こすので十分に低い接続抵抗値を備える電気化学セルを実現できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、セルリードとパッド膜が溶接により接続されることにより、導電性接着剤を用いる従来の方法に比較して格段に低い接続抵抗値を実現し、大電流放電を可能にした電気化学セルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電気化学セルを説明する図である。
【図2】本発明の電気化学セルのパッド膜とベース内端子及び接続端子の関係を示す図である。
【図3】本発明の電気化学セルのセルリードとパッド膜の溶接を説明する図である。
【図4】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図5】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図6】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図7】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図8】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図9】本発明の電気化学セルの製造フローを示す図である。
【図10】本発明の実施例1の抵抗値の内訳を説明する模式図である。
【図11】従来の電気化学セルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の電気化学セルを図面に基づいて説明する。本発明の電気化学セルは、主にパーソナルコンピューターや小型の携帯機器内部の基板に実装されて用いられる。図1(a)は、本発明の電気化学セルの外観図である。一例として直方体の形状で示されているが、トラック形状や円筒形状であっても良い。本発明の電気化学セルは、その発電要素であるセルを収納して容器として機能するベース1と、その開口部を気密に塞ぐための封口板として機能するリッド6を外装部品として備えている。本発明の電気化学セルの外装容器は、このベース1とリッド6により封止されている。
【0031】
図1(b)は、(a)のAA断面を示す図である。凹状のベース1の中にセル7が収納され、さらに電解質が充填され、凹状のベース1の上面に一周して設けられた接合金属部材5に押し当てられたリッド6によって気密に封止されている。セル7は、活物質と活物質を担持する金属からなる集電体(以下、金属集電体と称する)からなる一組の電極シートが絶縁性のセパレータを挿んで巻回法や積層法などで構成されたものである。正極及び負極の金属集電体の端部には、金属集電体そのものを細く延長させた延長部や、別の細く薄い板やワイヤ状のリードを機械的に接続して延長部を形成したものが用いられるが、本発明では、これをセルリード8で表す。正極、負極のそれぞれのセルリード8は、凹状のベース1のベース内側面1aに並置して配置されている一対の集電体金属膜であるパッド膜2に溶接によって接続されている。パッド膜2の底面には、ベース内側面1aとベース外側面1bを略垂直に貫通して接続する孔が設けられる。その孔にはタングステンなどの高融点金属が充填されて気密を満たしている。本発明では、ベース内端子3とは、ベース内部に埋設された端子をいい、その内部に金属が充填された導電性の貫通孔のほか、貫通孔の内面に金属膜が形成されて導電性を確保し、内部はガラスなどの絶縁物が充填されて気密を満たしているものを含む。ベース内端子3は、パッド膜2とベース外側面1bに形成された接続端子4とを電気的に接続している。そして、セル7の正極、負極は接続端子4によって実装される基板の実装用パターンに接続されることになる。
【0032】
ここで、本発明を詳細に述べる前に、接続抵抗値と配線抵抗値が放電特性に与える影響について、電気二重層キャパシタを例にあげて説明する。
電気二重層キャパシタの定格電圧は、2.6Vで、静電容量は1Fであると仮定する。等価直列抵抗の値を、セルの持つイオン拡散抵抗値や電子抵抗値の合計Aと、セルを収納する外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値(この配線抵抗値と接続抵抗値の和をBとする)とに分離して、電気二重層キャパシタの放電特性を評価する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1は、先の等価直列抵抗のAの値を50mΩとし、Bを3通り(ケース1から3)に設定して、パルス状の放電電流が流れた時の電気二重層キャパシタの電圧降下を計算したものである。電流は1Aで、放電パルス幅は1000msec(1秒)とした。
【0035】
ここで、ケース1は、Bの値、即ち外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値が十分に小さく設計されたもので、20mΩとした。等価直列抵抗の合計値は、AとBの合計であり、70mΩである。放電電流は1Aであるから、等価直列抵抗により発生する電圧降下は、電流と等価直列抵抗の積、即ち、1A×0.07Ω=0.07Vである。一方、容量は1Fであるから、容量分が関与する電圧降下は、(1A×1sec)/1F、即ち1Vとなる。従って、ケース1では、1Aの電流が1000msec放電したことにより、両者の電圧降下の和である0.07+1=1.07Vとなる。
【0036】
電気二重層キャパシタは、当初2.6Vに充電されていたので、この放電が終了した時点で、電気二重層キャパシタは、2.6−1.07=1.53Vの電圧を維持していることになる。つまり、ケース1では、1Aで1000msecの大電流放電用途が実現できるといえる。
【0037】
表1のケース2、ケース3も同様な方法で算出されている。ケース3は、従来の導電性接着剤のような接続手段でセルリードとパッド膜が接続された電気二重層キャパシタを想定したものであり、Bの値が2000mΩとなっており、等価直列抵抗の合計は2050mΩに達する。従って、等価直列抵抗の寄与による電圧降下だけで、2.05Vあり、これに容量の寄与する電圧降下1Vを加えると、3.05Vとなり、当初の定格電圧を超えてしまう。つまり、電気二重層キャパシタは、1000msecのパルス幅の途中で放電が不可能になってしまい、大電流放電は実現できない。
【0038】
ケース2は、ケース1とケース3の中間に相当する場合である。つまり、外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値が、500mΩに留まっているので、等価直列抵抗の合計値は、550mΩとなっており、等価直列抵抗の寄与する電圧降下は0.55Vで済んでいる。従って、容量の寄与分の電圧降下を含めても、電圧降下の合計値は、1.55Vに留まり、定格電圧の値2.6V以下であるので、1Aで1000msecの大電流放電は実現可能である。
【0039】
以上、3通りのケースで、大電流放電可能か否かを示した。Bの値が低いケース1とケース2の場合が大電流放電可能であったが、Bの値による電圧降下の寄与分は放電電流に比例することに注意が必要である。仮に放電電流が2Aの場合では、ケース1の等価直列抵抗の寄与分の電圧降下は2A×0.07Ω=0.14Vであり、容量の寄与分の電圧降下2Vとの合計が2.14Vとなり大電流放電はなお可能である。一方、ケース2においては、等価直列抵抗の寄与分の電圧降下は、2A×0.55Ω=1.1Vとなり、容量の寄与分の電圧降下2Vとの合計は3.1Vとなり、定格電圧2.6Vを超えてしまい、もはや、大電流放電は不可能である。
【0040】
このように、Bの値の大小が大電流放電可能か否かに大きく影響するので、電気二重層キャパシタの設計にあたっては、配線抵抗値とセルリードとパッド膜の接続抵抗値をmΩの単位で検討していく必要がある。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
Bの値は、接続抵抗値と配線抵抗値の和であるとしたが、さらにこの2つの関係について表2に基づいて説明する。表2から4は、片側の極当りの接続抵抗値を1mΩ、5mΩ、10mΩ、30mΩ、100mΩの5種類とした時の、放電初期の望ましい電圧降下の範囲から、配線抵抗値の上限(単位はmΩ)を計算により求めたものである。ここで、配線抵抗値は正極と負極の配線抵抗値の和である。
【0045】
放電初期の電圧降下は、実用上0.3V以内であることが好ましい。0.2V以内であれば更に好ましい。例えば、充電電圧が2.6Vであり、放電初期の電圧降下が0.3Vであるとすると、放電エネルギーに寄与する放電の初期電圧は、電圧降下分を差し引いた2.3Vである。この場合の放電エネルギーを、初期電圧が2.6Vの時の放電エネルギーと比較すると約78%を維持できており、許容できる値である。初期の電圧降下が0.2Vの場合の比率は約85%に、電圧降下が0.1Vの場合は約92%に向上する。
【0046】
小型の電気化学セルにおいては、単独の電気化学セルの等価直列抵抗のAの値は数十mΩから数百mΩの範囲であるが、ここでは、代表例として、150mΩの場合を計算した。表2は、単独の電気化学セルの配線抵抗値の上限であり、表3は、前記単独の電気化学セルを2個直列に接続した場合の1個の電気化学セルの配線抵抗値の上限、表4は、前記単独の電気化学セルを3個直列に接続した場合の1個の電気化学セルの配線抵抗値の上限を示したものである。電気化学セルであるから、必要とされる定格電圧になるように、直列に接続して用いられる場合も多い。従って、直列接続する場合にも通用できるようするのが望ましい。
【0047】
ここで、配線抵抗値の上限は、初期の電圧降下を上述の0.3Vであるとして算出した。表2において、横線の引かれた欄は、電圧降下を0.3Vとすると配線抵抗値の上限は0mΩ以下となることを示している。つまり、初期の電圧降下が0.3Vを越えることを意味している。
【0048】
表2では、接続抵抗値が1mΩであれば、放電電流を1Aとすると、配線抵抗値の上限が148mΩであることを示している。さらに放電電流を大きくして1.75Aまで流すと、配線抵抗値の上限が19mΩにまで低下する。このように、ある程度広い範囲の放電電流値を流すことができるようにするには、最大の電流値を考慮して、例えば配線抵抗値の上限を10mΩ台になるようにする。接続抵抗値が5mΩの場合の上限値は、接続抵抗値が1mΩの場合より8mΩ低いだけである。この場合も、配線抵抗値を10mΩ以下に製作すれば、1.75Aまで放電することができる。接続抵抗値が10mΩの場合は、1.75Aの放電電流で電圧降下が0.3Vを超えてしまうが、配線抵抗値が20mΩ台であれば、1.5Aまで放電電流を流すことができる。
【0049】
一方、接続抵抗値が100mΩの場合は、初期の電圧降下が0.3V以下に抑えられる電流値は0.75A以下であり、実質的に大電流放電用途には不適当である。接続抵抗値が30mΩの場合は、接続抵抗値が100mΩの場合に比較して、配線抵抗値の余裕は改善されるが、1.5Aの電流を流すと初期の電圧降下が0.3Vを越えてしまうので、接続抵抗値としてはやはり大きい。従って、接続抵抗値は、10mΩ以下が好ましい。
【0050】
2直列で接続した場合は、表3が示すように、等価直列抵抗のAが150mΩの2倍になるから、配線抵抗値の上限は大きく抑制され、かつ、最大の放電電流も低下させる必要がある。例えば、放電電流が1Aの場合は、等価直列抵抗のAによる電圧降下が1A×0.3Ω=0.3Vあるから、接接続抵抗値が1mΩであっても、配線抵抗値の上限の欄は横線となっている。2直列の場合は、0.3V以下の電圧降下で使用する条件では、1A以下の放電電流となる。0.9Aの放電電流では、接続抵抗値5mΩの場合は配線抵抗値の上限は6.5mΩであるが、接続抵抗値が10mΩの場合は、0.90Aの放電電流では電圧降下が0.3Vを超えてしまい、接続抵抗値が5mΩ以下の場合に比較して差がでている。従って、直列接続用途を考慮すれば、接続抵抗値は5mΩ以下が好ましい。
【0051】
3直列の場合は、等価直列抵抗のAの値が150mΩ×3=450mΩであるから、電圧降下が0.3V以下にするためには、最大電流も0.3V/0.45Ω、即ち約0.65A程度になる。表4に示すように、接続抵抗値が5mΩの場合は、0.6Aの放電も可能となるが、配線抵抗値の上限は6mΩとなる。接続抵抗値が1mΩの場合は、配線抵抗値の上限は14mΩとなる。このように、直列接続する段数が増加すると、接続抵抗値の配線抵抗値に与える影響が大きく現れてくるので、単独の電気化学セルのみでの仕様だけで検討すると、実用性に乏しい外装容器となるので、上記の検討が必要である。
【0052】
さて、配線抵抗値は、パッド膜と接続端子それぞれの抵抗率、面積とそれらを接続する配線や構造に依存する。配線が長くなることによって生ずる配線抵抗値の増加に関しては、本発明のベース内端子の寄与が大きい。特に、電気二重層キャパシタの容量を増大させて大電流放電の放電電流や放電時間を大きくあるいは長くしようとすると、容器の寸法が大きくなり、これに伴って配線が長くなり易い。ベース内端子を用いてベースの表裏を直接接続することで、配線抵抗値を大幅に減らすことが可能である。
【0053】
一方、セルリードとパッド膜との接続抵抗値の低減は溶接による寄与が大きい。電気化学セル用の導電性接着剤としては、導電フィラーがカーボンやグラファイトから成り、バインダはフィノール樹脂等が好適に用いられてきた。しかし、接続抵抗値は、導電性接着剤の塗布条件、接続される金属の表面状態、熱硬化条件、電気化学セルの基板への実装温度条件などで大きく異なるほか、導電性接着剤の生産ロットによるバラツキに起因するものもあり、大電流放電用途で求められるmΩ単位での接続抵抗値の設計と管理は困難である。
【0054】
図2(a)、(b)は、それぞれベース1のベース内側面1aとベース外側面1bを示す図である。図2(a)に示すベース内側面1aには、導電性材料からなる一対のパッド膜2が配置されている。パッド膜2の下面には、破線で示されるベース内端子3がそれぞれ4個設けられ、ベース1の外側面に配置された接続端子4(同じく破線で示す)に垂直に接続されている。
【0055】
尚、ここで、パッド膜2は、一例としてベースの長手方向に並置されているが、短辺方向に並置することや、長手方向の対角線方向に並べることも可能である。そして、パッド膜2は、必ずしもベース内端子3の上に形成されることを要しない。
【0056】
パッド膜2は、アルミニウムやチタン等の化学的に安定な弁金属からなる膜であり、溶解しにくい材料からなる。これらの膜は、例えば、蒸着、イオンプレーティングやスパッタリングなどの周知の膜形成方法によって設けることができる。これらの方法による場合は、まず、タングステンなどの金属が貫通孔に印刷法等により充填・焼成されて気密なベース内端子3が仕上がった後に形成する。真空中で成膜する場合は、例えば、正負のパッド膜2をそれぞれ構成するように、互いに空間的に分離した2つの開口を持つようにパターニングした金属製等のマスクを準備して、成膜のチャンバーの中に収納し、真空排気系で所定の真空度に排気した後、弁金属材料と蒸発させたり、弁金属材料からなるターゲットを物理的にイオンで叩いて材料を飛ばして、ベース1の内側面に成膜する。これらの成膜法では、成膜の条件が制御し易いので、形成した膜の抵抗率が低く、かつ液体が浸透しにくい高密度な膜が形成できる。
【0057】
また、アルミニウムの膜はスクリーン印刷法によっても形成可能である。高温では酸化しやすいアルミニウムにおいても、150℃以下の温度で配線パターンを形成可能な技術が開発されている。印刷法であるので、蒸着法などの薄膜形成技術に比較して厚く、数十ミクロンの厚膜も容易である。
【0058】
更に、アルミニウム膜は電気メッキ法により作製することも可能である。ジメチルスルホンと塩化アルミニウムからなるメッキ液を用いて、約40μmの膜厚で形成した膜が、表面が平滑で、膜の内部も均一な膜であることが知られている。
【0059】
図2(b)に示すベース外側面1bには、パッド膜2に対向するように一対の接続端子4が設けられている。接続端子4は、リフロー処理などにより、実装基板のパターンに設けられたクリームハンダなどで基板に固着される。接続端子4は、例えば、印刷法により形成したタングステンのパターンに、ニッケルと金とからなるメッキ膜が施されている。符番1cで示されるベース側面凹部にもタングステンやこれらメッキ材料がパターニングされ接続端子の一部として機能する。
【0060】
続いて、パッド膜2の厚みについて述べる。膜厚は5μm以上でかつ100μm以下が望ましい。好ましくは、10μm以上で30μmの範囲がよい。膜厚が薄いと膜内部に存在する微細なポーラスが繋がって電解質がパッド膜の下にあるタングステンに浸透してタングステンの電解腐食を引き起こしやすいこと、及び、後述の様に、溶接でセルリード8と接続されるときに、溶接の条件が極めて限定されて信頼性ある接合の実現が難しくなることによる。
【0061】
厚さ約1.3mmのソーダライムガラス板に、パッド膜2の厚みが5μmのアルミニウム膜をイオンプレーティング法により形成したのち、厚みが80μmのアルミニウムの薄板を超音波溶接で溶接させる実験を実施した。セルリード5個中1個のサンプルはガラス板に微小なクラックの発生が認められた。従って、5μmは膜厚としては実用上の下限値である。実用的には、膜厚は10μm以上あることが望ましい。
【0062】
一方、蒸着法やイオンプレーティング法によるアルミニウムの蒸着レートは、1時間当たり3μm〜10μmである。蒸着時間を考慮すると30μm以下の厚みが好ましく、この場合の成膜時間は長くても4〜5時間程度である。100μm程度まで厚く形成した場合は、成膜時間は長時間に及ぶが、溶接でセルリード8に接続するときの溶接条件を広くとることができ、下地となるセラミックにクラックが誘発される可能性を極めて低くすることができる。
【0063】
次に、図3を用いてセルリード8とパッド膜2との具体的な溶接方法を説明する。図3(a)は、セル7に接続する一対のセルリード8と一対のパッド膜2との接続を示す図である。一対のセルリード8の先端は、図3(a)に示すように、パッド膜2の表面に置かれた後、セルリード8の上面から溶接され、パッド膜2とセルリード8が接合される。溶接を用いることで、セルリード8とパッド膜2の接合界面で、それぞれの部材を構成する材料の原子的な拡散が起こり、強固な接合が可能となる。図3(a)の8aは、溶接した領域を模式的に示している。溶接であるので、接合界面に自然酸化膜などの汚染が存在しても、接続抵抗がmΩ台、あるいはmΩ以下の十分に低い接合が可能となる。これによって、導電性接着剤などによる接合方法に比較して、接続抵抗を10分の1から100分の1に低減させることが出来る。また、接続抵抗値のバラツキを抑え、かつ経時変化の少ない接合が可能となる。
【0064】
また、接合ポイントを複数設定することで、接続抵抗値を一層低減できると共に、セルリード8とパッド膜2の間の引っ張り強度を向上させることができるので、セルリード8を変形させて容器の内部にセル7を収納させる製造工程において、溶接の剥がれ等の不良の発生を抑制できるほか、完成した電気化学セルの耐振動特性や落下衝撃特性などの機械的な信頼性を向上させることができる。
【0065】
セルリード8とパッド層2の溶接として、具体的には超音波溶接、ビーム溶接、抵抗溶接等の局所的な溶接方法が適している。即ち、これらの溶接手段は、溶接の対象となる部分が局所的であるので熱的な影響は溶接部近傍のみに留まり、セル7自体への影響を避けることがきる。また、セルリード8の材料、厚み、パッド膜2の材料と貫通孔の配置などを変更することで、溶接の機械的あるいは熱的な衝撃による構成部材への影響を低減できる。上記構成にすることで、セラミックス等の材料からなるベース1に対してもクラックの発生による部材への損傷を回避することが可能である。
【0066】
図3(b)は、超音波溶接の具体的な方法を説明するための図である。超音波溶接では、図3(b)に示すように、まず、パッド膜2の上にセルリード8を位置決めして密着させるが、この時、セル7は超音波溶接用チップ9の移動の妨げにならないように、ベース1の外に置かれる。次に、超音波溶接用チップ9を、移動機構によりセルリード8の上面に適当な加圧力をもって当接させる。超音波溶接用チップ9はホーン先端に一体的に形成されたり、あるいはホーンの先端に別途取り付けられる。超音波溶接用チップ9のチップ先端9aは、セルリード8との接触面となる部分であって、ここには、セルリード8の表面に適切に食い込むように表面に凹凸パターンが施されていること(ナール加工)が好ましい。
【0067】
超音波溶接用チップ9がセルリード8を適当な加圧力で当接された後に、超音波溶接機の発振機構が数十KHzからなる超音波をホーンに加えると、超音波溶接用チップ9が周波数で接合部分を擦り合わせる。これにより、セルリード8とパッド膜2との界面は、金属材料の清浄な表面同士の密着面となり、数十ミリ秒から数百ミリ秒の僅かな時間で圧接することができる。先の図3(a)のセルリードとパッド膜の溶接領域8aで示されたセルリード8の表面の凹凸パターンは、この超音波溶接によって超音波溶接用チップ9の凹凸パターンが転写されていることを模式的に示したものである。この凹凸パターンで示された領域8aが溶接領域であるが、微視的に見ると、接合している部分は、超音波溶接用チップ9の先端に加工された凸によって凹まされた部分のみであり、それ以外の領域は、セルリードとパッド膜の間に僅かな隙間を保った状態である。
【0068】
超音波溶接用チップ9がセルリード8の表面に当接する際に、大きな衝撃とならないように注意することが好ましく、移動機構には、ダンパーなどの衝撃吸収機構を備えるのがよい。これにより、ベース材料への損傷を低減できる。
【0069】
セルリード8の寸法(リードの幅と厚み)とパッド膜2の寸法(縦横の寸法と厚み)及び超音波溶接用チップ9の寸法を適切に選択することで、電気化学セルの種々の寸法に対応することが可能である。図3(a)に示した超音波溶接領域の幅寸法dは、0.5mmであっても十分であり、小型の電気化学セルの製作に好都合である。また、更に機械的な強度を上げるために、パッド膜2の略全面積を覆うように設計された超音波溶接用チップ9を用いて超音波溶接した場合も適切な溶接条件を設定することで、ベース内端子やベース材料に影響はなく、十分に大きな機械的強度を得ることができる。
【0070】
尚、超音波溶接においては、振動だけでなく、熱エネルギーと機械的な圧接力を併用することも可能である。また、図3(a)では、セルリード8として細い板状の例が示されているが、ワイヤであってもよく、超音波溶接用チップ9の形状を適切に変形させて用いればよい。
【0071】
次に、ビーム溶接の場合を述べる。ビーム溶接としてレーザー溶接と電子ビーム溶接が代表的である。これらの溶接は、局所的な加工が可能であるだけでなく、非接触法であるので、溶接端子の熱と磨耗による劣化がない。そのため、再現性が良い。また、金属を溶融させるのに十分なエネルギー密度を有するので、短時間の加工が可能である。電子ビーム溶接は、エネルギー密度が極めて高いこと、電子ビームの走査性に富むこと、そして、溶接対象のベース1とセルリード8を有するセル7を真空中に置いて、電子ビームを真空中で照射して溶接することを除けば、レーザー溶接と同様である。
【0072】
レーザー溶接では、スポット溶接やシーム溶接(パルス発振や連続発振)を用いることができる。YAGレーザーによるスポット溶接の場合を以下に説明する。
レーザー発振器、伝送ファイバー、ベース1とセルリード8の位置決めと表面観察のための同軸CCDモニターを準備し、セルリード8とパッド膜2とを適当な加圧力を持って密着させた後に、リード8の表面側からレーザーを照射する。レーザーを照射する際は、パッド膜2とセルリード8の接合部の酸化を防止するために、アルゴンや窒素などの不活性ガスを吹き付けるか、グローブボックス等を用いて不活性ガス雰囲気下にするのが望ましい。
【0073】
図3(c)は、セルリード8とパッド膜2のレーザー溶接による接続を示したものである。図の黒丸で示した8aはレーザーが照射されて溶接された溶接領域を示している。アルミニウムはYAGレーザーの1064nmの吸収率が低い(高反射率材料)が、レーザー照射部が加熱され、加熱の中心部から徐々に溶解部が拡がっていく。加熱はセルリード8の下面から接合する下側のパッド膜2の表面に達して、パッド膜2の表面部分を溶解させて、セルリード8とパッド膜2が接合される。
【0074】
レーザー溶接の場合も、溶接領域を増加させて接続抵抗値を更に低下させ、また、溶接の機械的な強度を図るのが望ましく、図3(c)では、それぞれのパッド膜で2点づつスポット溶接をしている。
【0075】
また、図3(a)及び図3(c)では、1つのパッド膜に1つのセルリードを溶接していたがセルリードの数は、複数であっても良い。活物質を担持する金属集電体の長さが長い場合は、金属集電体に複数のセルリードを設けることができる。この場合には、これら複数のセルリードを1つのパッド膜に接続できると抵抗分を低減することができ、好ましい。
【0076】
以上は、溶接法として超音波溶接とビーム溶接について説明したが、溶接手段はこれに限定されることなく、その他の手段であってもよい。例えば、スポット抵抗溶接やアーク溶接などの溶接法を用いることも可能である。
【0077】
外装容器のベース材料として、セラミックスは慣用される材料であるが、セラミックスに限定されない。ソーダライムガラスや耐熱ガラスなども使用可能である。ガラスは素材として長尺のものが利用できるので、小型のパッケージの場合は、1枚のガラスに多くの取り個数を設定でき、ベース部材の低コスト化が期待できる。また、これらのガラスに凹部や貫通孔を形成する手段としては、化学的なエッチング法、サンドブラストのような物理的方法、あるいは高温雰囲気において型を用いて凹部と貫通孔を同時に形成することができる。
【0078】
また、貫通孔の内面にアルミニウム膜を形成した後、熱膨張係数をマッチングさせたガラスペーストを貫通孔に充填し、脱バインダ及び焼成を実施することにより、気密で導電性を有するベース内端子3を形成することができる。このような場合は、ベース内端子3が溶解するという懸念はない。従って、ベース内端子3を覆うようにパッド膜2を形成する必要がない。また、ベース内端子3の内面を形成する膜はアルミニウムに限定されることなく、チタンなどのその他の弁金属を含む膜であってよい。
【0079】
続いて、セル7に関して説明する。セル7は、厚みが5μm〜50μmのアルミニウム箔や銅箔を金属集電体とし、その表面に活物質を塗工や接着法により担持した正負の一対の電極シートを、絶縁物からなるセパレータを挟んで巻回、積層、折畳みなどの手法で一体化した発電要素である。電気二重層キャパシタの場合は、活物質の代表的な材料として、活性炭ないし炭素が挙げられる。リチウムイオン.二次電池では、正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等の化合物が用いられ、負極活物質としては、例えば黒鉛やコークスのほかシリコン酸化物等が用いられる。活物質ペーストは、上記の活物質に、導電補助剤、バインダ、分散剤等を混合して適当な粘度に調節したものであり、これをローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード法などの方法により、集電体の両面または片面に塗工する。塗工後に、乾燥、プレス工程を得て電極シートが形成される。
【0080】
セパレータは、正極及び負極の直接的な接触を規制するものであり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。例えば、耐熱性が求められる環境においては、ガラス繊維の他、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド等の樹脂を用いることができる。また、セパレータの孔径、厚みに関しては、特に限定されるものではないが、使用機器の電流値や、電気化学セルの内部抵抗に基づいて決定される。また、セラミックスの多孔質体をセパレータとして用いることも可能である。
【0081】
電解質は非水溶媒と支持塩を含む。また、電解質は液体であっても固体であってもよい。電解質の非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートまたはメチルエチルカーボネートのいずれか1種もしくは2種以上の混合物として用いられる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、スルホランのような沸点の高い溶媒から選ばれる単独又は複合物を用いることが好ましい。これらの溶媒を用いることにより、高温環境下において溶媒の気化を防ぎ、容器の内部圧力を抑えることができる。
【0082】
支持塩は電解質カチオンと電解質アニオンとを含む。電解質カチオンとしては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、またはチオシアン塩、リチウム塩、等の一種以上の塩が使用される。電解質アニオンとしてはBF4-、PF6-、ClO4-、CF3SO3-、またはN(CF3SO2)2-が用いられる。
【0083】
また、電解質は、ポリエチレンオキサイド誘導体、又は、ポリエチレンオキサイド誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体やポリプロピレンオキサイド誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマー、PVDF等を非水溶媒、支持塩と併用し、ゲル状又は固体状で用いることもできる。
【0084】
また、LiS/SiS2/Li4SiO4の無機固体電解質を用いることもできる。更に、電解質として、ピリジン系や脂環式アミン系、脂肪族アミン系やイミダゾリウム系のイオン性液体やアミジン系等の常温溶融塩を用いても構わない。
【0085】
続いて、ベース1とリッド6の封止について述べる。リッド6はベース1のリッド接合に用いる接合金属部材5と熱膨張係数がマッチングするように選択され、例えば鉄・コバルト・ニッケル合金であるコバール等の材料が用いられる。具体的には、コバールの0.1mmから0.2mm程度の厚みを有する薄板で、表面には2μmから4μm程度の厚みで電解ニッケルメッキや無電解ニッケルメッキが施されたものが用いられる。
【0086】
両者を溶接する方法として用いられる抵抗シーム溶接では、リッド6を接合金属部材5に当接させた後に、リッド6の長辺側の略中心の2点に、対向した台形形状のローラー電極を配置して低電圧大電流を短時間流し、リッド6の仮溶接(スポット溶接)が行われる。このようにして、リッド6は仮に固定され、溶接作業中の振動等で位置がずれことはない。
【0087】
続いて、例えば、長辺の端からローラー電極で長辺がなぞられるようにベース1とリッド6が移動して溶接される。次に、ベース1とリッド6は90度回転され、同様に短辺が溶接される。このようにして、リッド6の一周に亘って溶接が行われる。前述した仮固定においても、本抵抗シーム溶接においても、リッド6と接合金属部材5との界面で、金とニッケルの拡散が発生し、気密で強固な拡散接合層が形成される。これにより、リッド6は、ベース1に気密に封止される。
【0088】
ベース1とリッド6の溶接は、レーザーの走査照射を用いても可能である。仮溶接を前述と同様に実施した後、レーザーを、リッドを一周するように走査照射する。これにより、リッド6と接合金属部材5の界面で拡散接合層が形成される。この場合、リッド6の接合側の面に銀と銅からなるロウ材のシートを貼ることにより、溶融温度をロウ材の温度まで低下させることも可能である。
【0089】
尚、電解質が常温で液体状の溶媒や支持塩からなり、リッド6を封止する前に電解質を充填する工程を採用する場合は、液体がリッド6と接合金属部材5の界面に存在する場所が有得る。このような場合でも、シーム溶接を用いた接合は可能である。シーム溶接は、ローラー電極を使用するものでも、レーザーの走査照射を用いるものでもかまわない。前記界面に液体が存在しても気密な溶接が可能となるのは、界面に存在する液体は、溶接時に近傍の温度が急激に上昇するので蒸発して飛散することによるものと考えられる。
【0090】
続いて、発明の変形例について説明する。まず、ベース内端子の構造に関する変形例を述べる。
図4は本発明の変形例を示す図である。図4(a)は本変形例の断面を示す図である。図4(b)は本変形例の配線パターンを示す図で、ベタ状の配線パターンの例を示す図である。図4(c)は本変形例の別の配線パターンの例を表す。図4(a)に示す電気化学セルでは、ベース内端子3をベースの内面側から外面側に直接貫通させたものではなく、ベース内端子3をベースの底面部を構成する2枚の板であるベース底面構成板1d(第二ベース)とベース底面構成板1e(第一ベース)との界面で止めた構造になっている。この界面には、配線パターン10が設けられている。配線パターン10は、ベース内端子3と接続し、水平に延出して外面に露出し、更に接続端子4に接続した構成である。
【0091】
パッド膜2は、前述したものと同様に、アルミニウム膜が5μmから100μmの厚みで形成されたものである。セル7に接続する一対のセルリード8は、パッド膜2に溶接で接続されている。また、電解質が充填された後、ベース1とリッド6は気密に封止され、外装容器を構成している。
【0092】
図4(b)に示すように、下側のセラミック板1eの界面には、ベース内端子3に接続するタングステン等の金属膜からなる配線パターン10が、斜線で示すようにベタ状に広い面積で設けられている。そして、セラミック板のベース底面構成板1eの長辺側の端部に水平に引き出され、側面まで延長されている。そして、その延長部が接続電極4に接続されている。このようなベタ状の配線パターンにしているので、配線パターンの持つ抵抗値を低く抑えることができる。
【0093】
一方、図4(c)は、幅dの直線の配線パターン10aが、ベース内端子3に対応する各ポイントから、外側に延出したものである。このように、配線パターンはベタ状に限定されない。ただし、この場合には、配線パターン10aの持つ抵抗値は、先の図4(b)に比較して高くなる。そのため、ベース内端子の数と、幅dと、長さ(L1とL2)と、配線パターンのシート抵抗値を勘案して、配線パターンを決定する必要がある。
【0094】
上記の配線抵抗値の例を以下に説明する。例えば、dとL1、L2をそれぞれ0.2mm、3mm、2mmとし、配線パターン10aのシート抵抗値を10mΩとする。この数値は、約10μmの厚みのタングステン膜のシート抵抗値の代表的な値である。長さL1の部分の配線パターンの抵抗値は、10mΩ×(3mm/0.2mm)=150mΩとなる。長さ2mmの配線パターンの抵抗値は、同様な計算で、100mΩと算出される。図では、4本の配線パターンが設けられているので、これら4本の配線パターンの並列抵抗値を計算すると30mΩとなる。正極及び負極とも同じ配線パターンを用いているので、この配線パターンの持つ概略の抵抗値は60mΩと見積もられる。
【0095】
配線パターンの幅dを更に太くして0.4mmとすると、同様な計算で、4本の配線パターンの並列抵抗値は15mΩと算出されるので、dの値に0.2mmを用いた場合に比較して半分に低減できる。同様にして、dの値を0.6mmとすれば、配線パターンの並列抵抗値は10mΩであり、dの値を0.8mmまで広げれば配線パターンの並列抵抗値は7.5mΩとなる。このように、dの値を調節して、十分に低い値が実現できることが分かる。ただし、外装容器の配線抵抗値としては、上記の配線パターンの抵抗値に加えて、側面の領域の配線抵抗値と接続端子の配線抵抗値を合計した値になる。
【0096】
本変形例が示すように、充填貫通電極3は、ベースの上側面と外側面を直接に貫通した構造でなくても良く、適切な抵抗値を持つ配線パターン10及び10aと組み合わせることで、本発明の目的とする大電流放電用途に用いることができる。
【0097】
続いて、ベースの底面と側壁に貫通領域を設けた例を図5に基づいて説明する。図5(a)は、本変形例の電気化学セルの断面図である。また、図5(b)は、本変形例のベースを説明する模式図であり、リッド接続用金属層5は省いてある。また、図5(a)に示した保護膜11も省略してある。この保護膜11に関しては、後述する。
【0098】
ベース1のベース内側面1aに集電体として機能するベタ状の配線パターン10が設けられ、その上にパッド膜2が設けられている。配線パターン10はタングステン等の高融点金属からなる。また、配線パターン10はベース1の内側面で水平に延出して、ベース1の底面と側壁の間を貫通して側面に露出し、ベース1の側面から更に接続端子4に接続する構成をなしている。図5(a)では、パッド膜2が正負の両極に設けられているが、少なくとも正極に対応する配線パターン10の上に形成されれば良い。
【0099】
セル7に接続するセルリード8は、長さL3とL4の配線パターン10と、長さL5の配線パターンの側面部(符番10bで示した)の合計の長さのパターンを経由して接続端子4に接続されている。そのため、配線抵抗値において、配線パターン10及び10bの長さの合計値が問題となる。ここで、L4は、ベースの側壁の厚みに相当する長さである。以下に、配線パターン10及び10bの持つ配線抵抗値の概略例を示す。
【0100】
数値例として、L3、L4、L5の値としてそれぞれ3.4mm、0.8mm、0.5mmとする。この寸法は、後の実施例1で示す長辺が10mm、短辺が5mm、高さが3mmの直方体からなるセラミックパッケージを想定した数値である。即ち、L4の値は、側壁の厚みであり、L5の値はベース底面の厚みである。また、L3の値は、正極と負極の2つのパッド膜を並べて配置しても蒸着法において2つを十分に分離できるように考慮した値であり、L4との加算値が長辺の半分の長さよりも小さいが出来るだけ近い数値を選択してある。2つのシート抵抗値としてニッケルと金メッキが施されたタングステン膜のパターン部(L3とL5)を5mΩ、タングステンのみの膜となるL4では10mΩとする。また、配線パターンの幅d2は、3.0mmとする。ここで、d2の数値は、短辺の長さ5mmから2つの側壁の厚み1.6mmを差し引いた値である3.4mm(ベースの内底面の短辺)に近い数値を採用して、以下に示すように配線パターンの配線抵抗値を抑えている。
【0101】
L3の部分は、配線抵抗値はその中心からの距離で計算するものとすると、長さは半分の1.7mmとなるから、配線抵抗値は、5mΩ×(1.7mm/3mm)=2.83mΩ、即ち2.9mΩである。同様の計算から、L4の部分は2.7mΩ、側面の10bにあたるL5の部分は0.9mΩであり、合計値として約6.5mΩである。正極では、アルミニウムからなるパッド膜を形成するので、上記のL3の部分の配線抵抗値は2.9mΩからさらに低減することになる。
【0102】
配線抵抗値が正極及び負極を合わせて約13mΩで、片側の極の接続抵抗値が1mΩ以下であれば、表2で説明した様に、単独の電気化学セルでは、1.75Aの放電電流においても、初期の電圧降下は0.3V以下である。同様に、表3に示すように配線抵抗値は14mΩより小さいから、2直列に接続した場合には0.90Aの放電電流においても初期の電圧降下は0.3V以下である。また、表4によれば、配線抵抗値は14mΩよりも小さいから、3直列にしても、0.60Aの放電電流で初期の電圧降下が0.3V以下である。即ち、本変形例は、大電流放電用途に用いることが可能である。
【0103】
次に保護膜11に関して述べる。集電体として機能する配線パターン10の内面側が電解質と接触しないように、本変形例では、図5(c)または図5(d)に示す様に保護膜が設けられている。図5(c)では、パッド膜2がベース側壁内側面1fにまで延長されて成膜されている(符番2aで示す)。ベース側壁内側面まで成膜することで、ベースのベース内側面1aと側壁内側面1fの境界付近のパッド膜2が薄くなることを防ぐことができる。従って、図5(c)では、2aの部分と2aの近傍領域を保護膜11とする。これによって、配線パターン10はその全面を前述した適切な厚みのパッド膜2で被覆することが可能となり、従って配線パターン10の電解腐食を防止することが出来る。
【0104】
図5(d)は、パッド膜2とは別材料の膜を保護膜11として用い、配線パターン10の内面側を被覆して、配線パターン10が電解質と接触することを防いでいる。ここで保護膜11は、配線パターン10の表面及びベース材料との密着性、耐電解質特性、電解質の非浸透性、基板への実装時の温度特性、成膜や塗布等の容易さ、硬化温度等を勘案して決定される。また、保護膜11は、1層に限定されることなく、複数の膜がコートされた多層膜であってもよい。保護膜11としては、無機コーティング材、ブチル系ゴム、ポリイミド、ポリアミドイミドベースの耐熱樹脂等、エポキシ系紫外線硬化型樹脂等を用いることができる。硬化温度については、エポキシ系紫外線硬化形樹脂などは約100℃、無機コーティング材では約120〜150℃、ポリアミドイミドやポリイミドは約230℃〜270℃である。このように、保護膜11の硬化温度はアルミニウムの融点よりも低い。そのため、アルミニウムからなるパッド膜2を形成した後に保護膜11を塗布してもパッド膜2に影響を与えることはない。
【0105】
以上より、本変形例においても、配線抵抗値を十分に低い値に抑えることが出来る。また、保護膜11により集電体として機能する配線パターン10が電解質に露出することがないので、本発明の目的とする大電流放電用途に安定して用いることが可能である。
【0106】
続いて、更なる変形例について図6に基づいて説明する。図6(a)の電気化学セルは、セラミックスの平板からなるベース1と、凹状の形状からなる金属製のリッド6aを外装容器としたものであり、断面図を示している。容器の内部には、前述の発明と同様に、セル7と、一対のセルリード8と、一対のパッド膜2と、ベース内端子3と電解質とが収納され、セルリード8とパッド膜2とは溶接により接続されたものである。
【0107】
図6(a)に示すように、リッド6aは、セル7等を覆うように、その開口部をベース1の周囲に設けられた接合金属部材5に当接させて溶接されている。この溶接には、レーザーによるシーム溶接が好ましい。また、シーム溶接を行う際は、図6(a)矢印方向から走査照射される。ローラー電極を用いた抵抗シーム溶接では、ローラー電極がリッド6aの段差に接触しやすく、ローラー電極を接合部に適切に当接させることが難しくなる。
【0108】
リッド6aでは、リッド6aの底面部に小孔を設けている。これは、ベース1とリッド6aを溶接した後に、電解質をこの小孔から充填し、その後に封止栓6bを用いて気密に封止できるように意図されたものである。これにより、ベース接合用金属層5とリッド6aの接合面との間に電解質が存在することによる、封止作業の能率低下を防ぐことができる。ベース1の内側面に形成されるパッド膜2の材料やその厚みの範囲、ベース内端子3の構造やその個数、セルリード8とパッド膜2との接合手段は、前述と同様であるので記載を省略する。
【0109】
図6(b)に示す電気化学セルは、図6(a)と同様の構成であるが、平板状のベース1の周囲に配置される接合金属部材5が、ベースに設けられたステップにはめ込まれていて、接合金属部材5とベース内側面との高さの差が十分に小さく抑えられている。これにより、リッド6aを逆さまにした状態で電解質を充填した後に、セル7をリッド6aの中に配置しても、リッド6aから溢れ出る電解質量を少なくできる。従って、図6(b)の構成にすることによって、電解質が充填された状態でもベース1とリッド6aとの溶接を容易に行うことが出来る。そのため、図6(a)に示したようなリッド6aの小孔は不要で、封止栓6bによる封止工程も省略できる。
【0110】
続いて、別の変形例について図7を用いて説明する。図7(a)に、本変形例で用いるベースを示した。本変形例では、ベース1が、セラミックス製の平板と、平板に接合された金属製の筒状の側面12から構成されており、これによって凹状の容器を成している。ベースのベース内側面1aには、ベースの外側面に直接貫通するベース内端子3が設けられ、その上にパッド膜2が一対配置されている。金属製の金属側壁12は、熱膨張率がベースの平板とマッチングするように選択され、平板にロウ材で接合されている。一方、反対側の開口部は、リッド6の接合面を形成している。本変形例では、リッド6を封止するための接合金属部材5は不要であり、金属側壁12それ自体が接合金属部材5の役割も果たしている。そのため、少なくともリッド6と接合する面には、ニッケルと金のメッキ膜が施されており、リッド6は、メッキ面に当接されて、抵抗シーム溶接やレーザーシーム溶接を用いて接合が可能なように構成されている。
【0111】
図7(b)は、ベースを用いた電気化学セルの断面図を示す。セル7に接続する一対のセルリード8が溶接手段でパッド膜2に接続され、ベース内端子3によって、接続端子4に接続されている。容器内には、図示しない電解質が充填されて、リッド6により気密に封止されている。パッド膜の材質やその厚みは前述と同様である。金属側壁12は、金属製であるので、様々な形状に加工することが可能である。またその形状は、角、トラック形状、楕円、円等の選択が可能である。特に、規格品の中空パイプを任意の長さで切断して用いると、電気化学セルの高さが自由に決定することができる上、製造コストの低減を図ることができる。
【0112】
図7(c)に示す電気化学セルでは、図7(b)と同様に金属製の金属側壁12を用いているが、パッド膜2は正極側にのみに限った例である。正極側のリード8bはパッド膜2に接続される一方で、負極側のセルリード8cは、金属製の金属側壁12の内側に溶接で接続されている。更に、負極に対応する接続端子4は、金属側壁と電気的に接続するように構成されている。これにより、金属側壁12が金属製で、かつ電流の流れる経路が大きいので、負極側の配線抵抗値は低く抑えられる。従って、本発明の電気化学セルも大電流放電が可能となる。
【0113】
続いて、更に別の変形例について図8を用いて説明する。図8は、電気化学セルの断面を示すもので、セラミックからなる凹状の容器1の内底面1aには、前述と同様にアルミニウム膜からなるパッド膜2が設けられ、ベース内端子3によって接続端子4に接続された構成をなす。本変形例では、パッド膜は1つだけ設けられ、巻回法や積層法などによって構成されたセル7に接続する一対のセルリード8のうち、正極側8bがパッド膜に超音波溶接で接続されて、十分に低い接続抵抗値を実現している。
【0114】
一方、負極側のセルリード8cはリッド6の内面側に接続された構造を有している。負極側のセルリード8cの材質がそれぞれアルミニウム、銅、またはニッケルの薄板や箔からなる場合であっても、金属製のリッド6に超音波溶接、レーザースポット溶接、抵抗スポット溶接、アーク溶接などの周知の溶接法で接続することが可能である。従って、負極側も接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0115】
負極側の接続端子は容器底面1bから側面に沿って接合金属部材5に延設されており、リッド6と電気的に接続される。延設される部分を延設部4bとした。延設部4bの導体の長さ、幅と厚みを調整することによって延設部の直流抵抗値を低く抑えることができるので、負極側の配線抵抗値を大きく増大させることなく構成できる。
【0116】
容器1内には図示しない電解質が充填され、リッド6が接合金属部材5に溶接されて気密容器をなす。リチウムイオン.二次電池では負極の集電体材料として銅箔、セルリードとしてはニッケルの薄板が慣用されるが、本変形例を適用することが可能である。従って、高い気密特性を持つ高信頼の小型、薄型のリチウムイオン.二次電池を製造することが出来る。
【0117】
尚、延設部は本変形例では容器の外側に設けた。リッド6と接続端子4の接続はこれに限ることなく、接合金属部材5の下部に孔を設けて、内面に導体材料を形成して接続端子4に接続する構造とすることも容易である。
【0118】
(実施例1)
次に、図9に示す電気二重層キャパシタの製造フローを参照しながら、実施例1について説明する。まず、外装容器として、図1(a)及び(b)に示す凹状の形状をなすベース1と、リッド6を準備した。ベース1は、長辺が10mm、短辺が5mm、高さが2.85mmであり、ベース1の底辺の厚みは0.5mmである。材料としては、セラミックスで電子部品のパッケージを製造する時の標準的な材料を用いた。材料の抗折強度は400MPa、ヤング率は310GPaである。パッド膜2が形成される領域には、タングステンを充填し、その表面をニッケルと金でメッキした内径0.2mmのベース内端子3を、ベースの内側面と外側面を直接貫通するように、それぞれ4個設けた。ベース外側面1bには、一対の接続端子4が配置され、ベース内端子3に接続している。接続端子にはニッケルを下地とした金メッキが施されている(S10)。
【0119】
次に、ベース内側面1aには、アルミニウムの蒸着膜からなる一対のパッド膜2を形成した。パッド膜2の寸法は、長辺2.4mm、短辺2mmで厚みは約25μmである(S11)。
一方、リッド6は、厚み0.15mmのコバール板を準備し、表面を電解ニッケルメッキした(S20)。
【0120】
続いてセル7の準備をする。20μmの厚みを持つアルミニウムからなる金属集電体に活性炭、導電補助材、バインダ及び増粘材からなる活物質を塗工法によりコーティングしてシート電極とした(S30)。適当な長さに切断した後、金属集電体の一端に、厚みが80μmで幅が2mm、長さ8mmのアルミニウムの薄板を超音波溶接で取り付けてセルリード8とした(S31)。セルリード8が溶接された正負一対のシート状の電極に、ポリテトラフルオロエチレンからなるセパレータを挟持させた後、巻芯を入れて、トラック状に巻回した。その後、巻芯を取り出し、隙間を軽くつぶして巻回電極とした(S32)。
【0121】
続いて、超音波溶接を行う。先に準備したベース1のパッド膜2の表面に、セルリード8を密着させて位置決めした。超音波溶接は、セルリードを片方ずつ行った(S33)。超音波溶機の発振周波数は40KHzで行った。溶接ホーンは鉄製であり、同じ材料からなる超音波溶接用チップ9はホーンの先端に一体型に設けられている。超音波溶接用チップ9の表面には、2×1.5mmの領域に、0.2mmピッチの千鳥格子状の凹凸パターン(ナール)を設けた。山の高さと谷底の差は0.2mmである。溶接のモードは、溶接中にセルリード8に供給するエネルギーを制御するモードとし、溶接エネルギーの設定値を15Jとし、溶接時間の最大値を60msecとした。超音波溶接用チップ9が、エアー機構によりアルミニムからなるセルリード8の表面に降下した後、セルリード8の表面に食い込んで、セルリード8とパッド膜2の界面の間で振動することにより溶接が行われる。
【0122】
溶接終了後、セルリード8を折りたたむようにしてセル7をベース1の中に収納した。この時に、セルリード8が接合金属部材5に混触しないように注意した(S34)。セルのショートを回避するためである。
【0123】
次に、セル7が収納されたベース1を、液体の電解質の中に浸漬させ、1時間真空脱泡した。ここで、電解質の支持塩はスピロビピロリジニウムテトラフルオロボレートであり、非水溶媒としてポリカーボネートとエチレンカーボネートの混合液を用いた(S35)。続いて、大気圧に戻して、電解質中からセル7が収納されたベース1を取り出した後に、窒素雰囲気下でリッド6を接合金属部材5に当接し、長辺側の2点の仮溶接を行い、続いて長辺側と短辺側をこの順に連続して抵抗シーム溶接を行い気密に封止した(S36)。このようにして実施例1の電気二重層キャパシタを作製した。
【0124】
作製した実施例1の電気二重層キャパシタの電気特性検査を行った(S37)。項目としては等価直列抵抗及び容量の測定を行った。等価直列抵抗は、AC1KHzでの交流抵抗法を用いた。また、容量は、放電法(2V−1V間で測定電流を10mAとした)を用いた。
【0125】
(比較例1)
実施例1と同一の寸法からなるシート電極を用いてセル7を作製した。ここで、セルリードは、材質及び幅と厚みは実施例1と同一であるが、長さは40mmとした。次に、同一の電解質を充填して、アルミラミネートフィルムからなる外装容器に収納した。このようにして比較例のアルミラミネートパッケージを用いた電気二重層キャパシタを作製した。この比較例1は、パッド膜を有さないことから、接続抵抗は実用値である値を示すものである。
【0126】
作製した比較例1の電気二重層キャパシタについて、実施例1と同様に電気特性検査を行った。
実施例1の等価直列抵抗は、310mΩであった。また、容量は170mFであった。比較例1の等価直列抵抗の測定値は、320mΩであった。また、容量は実施例1と略同じ180mFであった。つまり、パッド膜とセルリードの溶接によっても配線抵抗値は実用レベルに低く抑えることができることがわかる。実施例1及び比較例1の等価直列抵抗の値のうち、セルリード8の抵抗値を含む外装容器の抵抗分を比較したものが表5である。
【0127】
【表5】
【0128】
表5で、接続抵抗値等の欄の2.4mΩの数値は、R1セルリード8とパッド膜2の間の接続抵抗値と、以下の3つの配線抵抗値の合計である。3つの配線抵抗値とは、R2パッド膜2自体の抵抗値と、R3ベース内端子3の抵抗値と、R4接続端子4の抵抗値である。R1、R2、R3、R4は図10に示した。接続抵抗値等に示した2.4mΩは、別途に測定サンプルを作製して実測した値である。充電貫通孔3は、前述のように、1つのパッド膜2に対して6個配置しているので、充電貫通孔3の抵抗値R3は、これら6個の貫通孔が寄与した抵抗値となっている。本接続抵抗等の値は、比較例のアルミラミネートパッケージでは、セルリードがそのままパッケージ外に露出して測定器の測定端子に接続される構造であるので、0mΩとしている。尚、数値はいずれも、正極と負極の和である。
【0129】
表5の接続抵抗値等の数値は、片側のみの電極で1.2mΩ、両極で2.4mΩであるから、本実施例では、まずR1からR4までのそれぞれの数値が十分に低いことが分かる。そして、セルリードとパッド膜の接続抵抗値は、別途の行った多数個の実験から、パッド膜を構成するアルミニウムの蒸着膜の抵抗率を6.6μΩcmとすると1mΩ以下と算出される。アルミニウムの蒸着膜は、通常、バルクの値(2.75μΩcm)の2.2倍から2.7倍程度とされるので、6.6μΩcmは、2.4倍に相当する値となり、妥当と思われる。
【0130】
また、ベース内端子3が接続端子4に6個直接接続する構造によって、R1とR2とR3の合計からなる配線抵抗値も十分に低く抑えられている。従って、表5の合計値の欄では、実施例1の合計は、5.2mΩであり、アルミラミネートパッケージの合計値である13.6mΩと同等の値となっている。
【0131】
(比較例2)
上記の接続抵抗値を、導電性接着剤を用いた接続手段による場合の接続抵抗値と比較する目的で、実施例1と同一のベース1とアルミニウムの薄板を導電性接着剤を用いて接続し、接続抵抗値を求めた。導電性接着剤の主たる導電性フィラーは、グラファイトとカーボンである。表6に結果を示した。
【0132】
【表6】
【0133】
導電性接着剤D1、D2は、活性炭とカーボンとポリテトラフルオロエチレン粉末を混練してシート状にした電極をアルミニウムやステンレスに接着する場合に慣用されるものである。また、D3は、導電塗料であり、アルミニウムヤステンレスに優れた濡れ性で塗布できるものである。接続面積は約4mm2、硬化温度は150℃で30分とした。
【0134】
接続抵抗値は、D3を用いた場合でも9.4Ωであり、D1とD2では10Ωを超えた値であった。このような値では充放電により大幅な電圧降下を生じるので、本発明の目的とする大電流放電には不適当である。実施例1の接続抵抗値は、上記のように1mΩ以下であったから、比較例2の場合と比較して3ケタも低い数値を達成している。表6には、単位面積当り(1cm2)に換算した接続抵抗値が記載されているが、接続面積が1cm2に拡大されても300mΩ以上であり、接続抵抗値としては大きすぎる値である。導電性接着剤を用いた接続は、本発明の目的とする小型の外装容器を用いた電気化学セルには不適当である。つまり、従来方法である導電性接着剤を用いてセルリードとパッド膜を接続した電気化学セルに比べ、セルリードとパッド膜を溶接により接続した本願発明にかかる電気化学セルの接続抵抗値はきわめて低い値となることがわかる。
【0135】
続いて、実施例1で作成したサンプルのリフロー処理における熱の影響を検討した。本サンプルを最高温度270℃が数秒印加されるリフロー装置でリフロー処理した後、外装容器外観を光学顕微鏡で綿密に観察した。ベース1にクラックの発生は一切に認められなかった。また、ベース1とリッド6の抵抗シーム溶接部は勿論のこと、ベース下側面の貫通電極開口部近傍においても電解質の漏液はなかった。
【0136】
更に、セルリード8とパッド膜2を超音波溶接する条件で、同一部材を別途溶接して、接合界面の断面を光学顕微鏡で観察した。セルリード8とパッド膜2を超音波溶接したサンプルを、樹脂に埋め込んで固形化した後、一方向から徐々に研磨を行い綿密に観察した。この結果、セルリード8の断面には、超音波溶接チップの凹凸が転写されて、チップの凸部が食い込んだ近傍は、パッド膜をなすアルミニウム膜に接合されていることが観察された。また、チップの凹部に当接した近傍は、アルミニウム膜のパッドとは数μmの隙間が観察された。即ち、超音波溶接チップの凹凸に対応した接合ポイントでセルリード8とパッド膜2とが接合した形態であった。そして、パッド膜2の下面にあたるセラミックスの断面には、ベース内端子3が形成された近傍を含めてクラックの発生は認められなかった。
【0137】
以上より、ベースの内側面から外側面に直接接続するベース内端子の配置により配線抵抗値を低く抑える構造の採用し、セルリード8とパッド膜2を超音波溶接による接続させる構造にしたので、接続抵抗値も十分低く、大電流放電用途の電気化学デバイスを実現することが可能となった。そして、適切な溶接条件を設定することで、ベースに損傷を与えることなく溶接することができるので、信頼性に優れた電気化学セルを製作可能である。
【0138】
(実施例2)
セルリード8とパッド膜2を接合させる工程を、YAGレーザーによるスポット溶接により実施した。尚、窒素を吹きかけることにより溶接時の接合部の酸化を防止した。
アルミニウムの細板は厚みが80μmで、幅が2mm(実施例1でセルリード8に用いたものと同一)である。セラミック製の凹状容器は、実施例1とは異なり、変形例2で説明した図4(c)に示す構造と同様の構造であり、ベースの途中まで貫通するベース内端子は6個設けてある。ベースの底面の厚みは、実施例1よりも薄い0.3mmであり、ベース内側面にアルミニウムを蒸着法で約25μmの厚みで形成してある。パッド膜の寸法は、3mm×1.3mmの矩形状である。
【0139】
溶接は次のように行った。まずアルミニウム膜にセルリード8を十分に密着させた。続いて、密着を維持するようにリード8の先端部の4隅の位置を機械的に押さえた後、YAGレーザーで2箇所をスポット溶接した。ここで溶接条件は、ピーク出力が300Wでパルス幅は1msecとした、即ち、1パルスのエネルギーは0.3Jである。
【0140】
このようにしてセルリードを接続したサンプルの配線抵抗値と接続抵抗値の合計値を測定した。測定は、ベース底面に薄い銅製リードをハンダ付けした後、セルリードと銅製のリード間を前述した抵抗計を用いて測定した。合計値からセルリードと銅製のリードの配線抵抗値分を差し引いた抵抗値(接続抵抗値とベースの配線抵抗値の和)は、約38から40mΩの範囲であった。同一のサンプルを、実施例1と同じ超音波溶接装置(ただし、超音波溶接用チップ9を交換し、溶接領域が2.0×0.5mmの領域で溶接した)を用いて溶接した場合の上記の抵抗値(接続抵抗値とベースの配線抵抗値の和)もほぼ同じ範囲であった。これにより、レーザー溶接した場合の接続抵抗値は、超音波溶接した場合のそれとほぼ同じであると推測される。
【0141】
本サンプルとは別に、同一の溶接条件でレーザー溶接した箇所の断面観察を実施した。光学顕微鏡による断面観察によれば、アルミニウムのセルリード8と下側のアルミニウム蒸着膜からなるパッド膜2の接続箇所は、約120μmの径からなる領域で接続されていた。また、本接続領域の周辺のセラミックにはクラックなどの損傷は認められなかった。これにより、溶接手段としてレーザーを用いた方法も可能である。
【0142】
(実施例3)
実施例1、2ともベースの材料はセラミックスであった。本実施例では、ベースの材料がガラスの場合について述べる。ソーダライムガラス(厚み約1.3mm)の表面(片面)に、イオンプレーティング法によってアルミニウム膜を成膜した。厚みは5μmとした。このアルミニウム表面に、超音波溶接を用いて、厚みが80μmで幅が2mmのアルミニウムの細板(実施例1でセルリード8に用いたものと同一である)を溶接した。超音波溶接は発振周波数は62.5KHzとした。超音波溶接チップの先端の面積は、長辺が2mmで短辺は0.5mmであり、先端の表面には、千鳥格子状の凹凸が加工してある。
【0143】
本溶接条件においてアルミニウムの細板はアルミニウム膜に確実に溶接され、かつ、ソーダライムガラスにクラックを誘発することは無かった。超音波溶接による2本のアルミニウムの細板間の配線抵抗値と接続抵抗値の合計値を測定した後、配線抵抗値分を差し引いて、接続抵抗値を算出した。この時、イオンプレーティング成膜によるアルミニウム膜の抵抗率を3.8μΩcmとすると、接続抵抗値は1mΩ以下と算出された。
【0144】
従って、ベース材料はセラミックスに限られずソーダライムガラスのような脆性材料でも可能である。ソーダライムガラスや耐熱ガラスにベース内端子を形成する技術は前述の様に公知であるので、本発明のパッド膜と組み合わせることで、大電流用途の電気化学セルのベース材料に用いることが可能である。
【0145】
(実施例4)
本実施例で用いたセラミックス材料は、抗折強度が350MPaでヤング率が280GPaであり、電子部品のパッケージとして標準的なものである。厚みが0.3mmのセラミックスからなる板に、内径が0.3mmのベース内端子をピッチ0.5mmでXY方向に多数個設けたサンプルを準備した。ベース内端子の開口面には、これらベース内端子を互いに接続するようにベタ状のタングステンのパターンを表面、裏面ともに設けた。タングステンの厚みは10μmであり、表面はニッケルと金のメッキを施してある。セルリードとして、板厚が80μmで幅が2mmのアルミニウムの細板を、メッキされたタングステンの表面に位置決めし、超音波溶接により溶接した。超音波溶接機と超音波溶接チップは、実施例3と同一である。
【0146】
上記溶接条件で溶接したサンプルの溶接断面の観測を実施例1と同様に行った。多数個配列した貫通孔の開口部近傍を光学顕微鏡で丹念に観察したが、セラミックにクラックは観察されなかった。即ち、負極用集電体側は、アルミニウムのパッド膜を設けない設計にしても、正極の同一の溶接手段を適用できる。これにより、正極と負極で別々の溶接手段を準備する必要はなく、製造上好都合である。
【0147】
電気化学セルとして安定に機能するためには、上述の様に、ベースの内側面に形成される正極用の集電体にはアルミニウムのような弁金属のコートが必要であるが、必ずしも負極用の集電体には必要ない。前述したアルミニウムのパッド膜は、最低限、正極用の集電体にだけ設けてあれば良い。この時、負極用の集電体は、ベース内端子を形成する際に用いるタングステン膜であってその表面をニッケルと金のメッキを施した膜が形成されている。
セルリード8とパッド膜2を接続する前述した溶接が、もう一方のセルリード8とタングステン膜の接続にも適用できれば、製造上好都合である。
【0148】
(実施例5)
前述した実施例1から実施例4で示したセルリード8はすべてアルミニウムであった。実施例5ではセルリード8の材質がニッケルの場合を示す。ニッケル製のリードは、リチウムイオン二次電池の負極用のリードとして慣用されている。例えば、ニッケルリードは銅箔からなる負極集電体に接続された後、もう一方の端部を外装容器の内部でパッド膜に接続する。
【0149】
実施例1と同じ材質からなる厚み0.5mmのセラミック製の板に、厚み5μmのアルミニウムを蒸着してパッド膜を形成した。幅が6mmで厚みが100μmからなるニッケル製のリードを配置して超音波溶接を行った。超音波溶接用チップの表面には、4mm×3mmの領域に、0.7mmピッチの千鳥格子の凹凸パターンを設けた。その山と谷底の差は0.30mmである。本チップをニッケルリードの表面に押し当てた。溶接のモードは、溶接時間を指定する方式とし、定溶接時間は0.15秒とした。エアーの圧力は0.1MPa、溶接エネルギーは22.1ジュール、溶接振幅は約13μmの条件で、十分な溶接強度の溶接が可能であった。
【0150】
接合した部材を前述とように樹脂に埋め込んだ後に研磨を行い、接合部の断面観察を実施した。詳細な観察を行ったが、セラミック部にクラックの存在は無かった。従って、セルリードにニッケル製のリードを用いた場合も本発明の構造を有する電気化学セルを構成することが可能となる。
尚、リチウムイオン二次電池の負極用としてニッケルリードを接続したアルミニウムからなるパッド膜は、電解液に晒されないように絶縁性の塗料で被覆するのが望ましい。
【0151】
(実施例6)
本実施例では、セルリード8は銅箔の場合を示す。実施例5と同一のセラミックス板を準備した。5μmの膜厚に形成されたアルミニウムのパッド膜上に幅が6mmで厚みが20μmからなる銅箔を5枚重ねて配置した。実施例5と同一の超音波溶接用チップを用いた。銅箔の表面に超音波溶接チップを押し当てて溶接した。溶接の条件は、実施例5と同一とした。即ち、溶接のモードは、溶接時間を指定する方式とし、定溶接時間は0.15秒、エアーの圧力は0.1MPa、溶接エネルギーは22.1ジュール、溶接振幅は約13μmの条件とした。この条件で十分な溶接強度の溶接が可能であり、銅箔が剥がれることはなかった。
【0152】
接合した部材を前述の様に樹脂に埋め込んだ後に研磨を行い、接合部の断面観察を実施した。詳細な観察を行ったが、セラミック部にクラックの存在は無かった。従って、セルリードに銅箔のリードを用いた場合も本発明の構造を有する電気化学セルを構成することが可能となる。
【0153】
尚、銅箔がリチウムイオン二次電池の負極用の集電体である場合は、前記銅箔を接続したアルミニウムからなるパッド膜は、電解液に晒されないように絶縁性の塗料で被覆するのが望ましい。
【0154】
本発明は、本明細書に記述された変形例や実施例に限定されることなく、発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を取り得ることはもちろんである。例えば、請求項で限定しない限り、リッドは金属に限定されることなく、セラミック、ガラス、樹脂などを用いることが可能であり、材料に応じて様々な封止の手段が可能である。
【0155】
また、図6や図7に示した電気化学セルは、ベースの底面が基板に水平に取り付けられることに限定されることなく、電気化学セルの寸法に応じて、実装方向を決めれば良い。例えば、リッド6aの高さ寸法が大きいときは、電気化学セルを基板に水平に取り付けることもできる。そのためには、ベースに設けられる接続端子のパターンを僅かに変更して対応できる。
【符号の説明】
【0156】
1 ベース
1a ベース内側面
1b ベース外側面
1c ベース側面
1d ベース底面構成板
1e ベース底面構成板
1f ベース側壁内側面
2 パッド膜
3 ベース内端子
4 接続端子
4b 延設部
5 接合金属部材
6 リッド
6a キャビティ型リッド
6b 封止栓
7 セル
8 セルリード
8a セルリードとパッド膜の溶接領域
8b 正極のセルリード
8c 負極のセルリード
9 超音波溶接用チップ
9a チップ先端
10、10a、10b 配線パターン
11 保護膜
12 金属側壁
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、従来、時計機能のバックアップ電源や半導体のメモリのバックアップ電源やマイクロコンピュータやICメモリ等の電子装置予備電源やソーラ時計の電池やモーター駆動用の電源などとして使用されており、近年は電気自動車の電源やエネルギー変換・貯蔵システムの補助貯電ユニットなどとしても検討されている。
【0003】
また、従来の電気化学セルはコインやボタンのような丸い形状であるため、リフローハンダ付けを行うには端子等をケースにあらかじめ溶接しておく必要があり、部品点数の増加および製造工数の増加という点でコストアップとなっていた。また、基板状に、端子のスペースを設ける必要があり小型化に限界があった。
【0004】
このような問題を解決するために、凹部を有する容器に発電要素(以下、セルと称する)と電解質を収納し、開口部を蓋(リッド)で封止した電気二重層キャパシタが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−216952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の構成による電気化学セルはメモリーバックアップ用途に好適であり、電気化学セルの放電電流としては、数μAから高々数mAの範囲である。しかしながら、電気化学セルの用途として、数百ミリ秒から数秒のパルス幅で、数百mAから数Aの電流を放電して、電子機器に備わったLEDなどの光源を点滅させたり、小型のモーターを間欠駆動するなどの新たな用途が出てきた(以下、大電流放電用途と称する)。上記の構成による電気化学セルでは、接続抵抗値が数Ωのレベルになることがあり、放電の開始時に大きな電圧降下を生じてしまい、所定の機能を満足させることが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、小型の外装容器を用いた電気化学セルにおいて、大電流放電を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では以下の構成を採用する。
請求項1に係る発明は、ベースとリッドからなる外装容器と、前記セルの延長部である複数のセルリードと、前記外装容器の中に収納されるセルと、電解質とからなる電気化学セルであって、前記ベースの内側面に形成された弁金属からなるパッド膜と、前記ベースの外側面に設けられて、前記パッド膜と電気的に接続した接続端子とを有し、少なくとも一つの前記セルリードが、溶接により前記パッド膜と接続されていることを特徴とする電気化学セルである。
請求項1に係る発明によれば、セルリードとパッド膜が溶接により接続されることにより、導電性接着剤を用いる従来の方法に比較して格段に低い接続抵抗値を実現した電気化学セルを実現できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記パッド膜の厚みは5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セルである。
請求項3に係る発明は、前記パッド膜の厚みは10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セルである。
請求項2及び3に係る発明によれば、パット膜の下に位置する電極の溶解を防止すると同時に、溶接によってベース部材に損傷を与えることなくセルリードとの接合を可能になる。よって、大電流放電が可能になる。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記パッド膜はアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項4に係る発明によれば、パッド膜にアルミニウムを含むことにより、パッド膜が柔らかく溶接がしやすく、更に、アルミニウム自体の持つ低い電気抵抗率により溶接による接続抵抗を小さくできる。また、アルミニウムを含むことで化学的に安定であり、長期
に渡って安定した大電流放電が可能になる。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記溶接が超音波溶接またはビーム溶接であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項5に係る発明によれば、超音波溶接またはビーム溶接を用いることにより、ベースとなる部材に損傷を与えることなく局所的な領域にのみ効率よく接続部を設けられ、かつ、接続部が前記部材の接合界面の原子の拡散を引き起こすので十分に低い接続抵抗値を備える電気化学セルを実現できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0012】
請求項6に係る発明は、前記ベースがセラミックまたは、ガラスからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項6に係る発明によれば、配線抵抗と接続抵抗の低い電気化学セルを、ガラスを用いて実現できる。原材料として長尺のガラス板を利用できることから、取り個数を増加させることで、製造コストの低減を図ることも可能である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記セルリードがアルミニウム、ニッケルまたは銅からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項7に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0014】
請求項8に係る発明は、前記セルリードのうち、正極及び負極の前記セルリードとも前記パッド膜に溶接されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
【0015】
請求項9に係る発明は、負極の前記セルリードは、前記リッドと電気的に接続していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項9に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0016】
請求項10に係る発明は、前記パッド膜と前記接続端子とは、ベース内部に埋設されたベース内端子を介して接続されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項10に係る発明によれば、ベースに少なくとも一つの導電性のベース内端子を有することにより、配線パターンを短く出来るので配線抵抗値を低減できる。よって、大電流放電が可能になる。
また、請求項10に係る発明によれば、ベース内端子がベースの内側面と外側面とを貫通して、パッド膜と接続端子が接続されることにより、パッド膜と接続端子間の長さを十分短くできる。従って、配線抵抗を十分に低く抑えることが可能になる。また、外装容器の寸法が大きくなっても配線抵抗値の増加を抑制できる。よって、大電流放電が可能になる。
【0017】
請求項11に係る発明は、前記外装容器は、凹状の前記ベースと板状のリッドとを、直接または接合金属部材を介して封口されたものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項11に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0018】
請求項12に係る発明は、前記ベースは、前記外装容器の外側の層である第一ベースと内側の層である第二ベースとから構成され、前記ベース内端子は前記第二ベースを貫通し、前記接続端子は、前記第一ベースと前記第二ベースの境界面に延設され、前記ベース内端子と接続することを特徴とする請求項10に記載の電気化学セルである。
請求項12に係る発明によれば、貫通孔をベースの底面にまで貫通させる方式に比較して、電解質が液体を含む場合に発生する可能性のあるベース外側面への漏液を抑制できる。また、配線抵抗を抑制できる。更に、セルリードとパッド膜は溶接により接続されるので、導電性接着剤に比較して格段に接続抵抗値を低減できている。
【0019】
請求項13に係る発明は、前記パッド膜は、前記ベースの内側面に延設された配線パターンを介して、前記接続端子と接続していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項13に係る発明によれば、電解質が液体を含む場合に発生する可能性のある、ベース外側面への漏液を抑制できる。更に、セルリードとパッド膜は溶接により接続された構造を有する電気化学セルであるので、格段に低い接続抵抗にすることが出来る。
【0020】
請求項14に係る発明は、前記配線パターンは電解質に露出しないように保護膜で覆われていることを特徴とする請求項13に記載の電気化学セルである。
請求項14に係る発明によれば、配線パターンが電解質に露出することがない。従って、配線パターンは溶解することなく、電気化学セルは長期に渡って安定な品質を維持できる。
【0021】
請求項15に係る発明は、前記ベースは平板状であり、前記リッドは凹状であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項15に係る発明によれば、配線抵抗と、接続抵抗を十分に抑えることが出来る。また、金属製リッドを慣用される深絞り加工するなどして深い凹状の容器とすることができる。そのため、大容量の電気化学セルを、製造コストを大きく上昇させることなく実現できる。
【0022】
請求項16に係る発明は、前記ベースまたは前記リッドは小孔を有し、前記小孔は封止栓で密封されていることを特徴とする請求項15に記載の電気化学セルである。
請求項16に係る発明によれば、電解質を注入する前に溶接をすることができる利点がある。
【0023】
請求項17に係る発明は、前記ベース部材は前記接合部材と接する面にステップを有し、前記ステップに前記金属接合部材がはめ込まれていることを特徴とする請求項15または16に記載の電気化学セルである。
請求項17に係る発明によれば、リッドを逆さまにした状態で電解質を充填した後に、セルをリッドの中に配置しても、リッドから溢れ出る電解質量を少なくできる。従って、電解質が充填された状態でもベースとリッドとの溶接を容易に行うことが出来る。そのため、リッドの小孔は不要で、封止栓による封止工程も省略できる。
【0024】
請求項18に係る発明は、前記ベース部材と前記リッドとは平板状であり、金属側壁を介して封口されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電気化学セルである。
請求項18に係る発明によれば、配線抵抗と、接続抵抗を十分に抑えることが出来る。また、側面として用いる筒状の金属は中空のパイプなどの規格品が利用できる。そのため、大容量の電気化学セルを、製造コストを大きく上昇させることなく実現できる。
【0025】
請求項19に係る発明は、正極の前記セルリードは、前記金属側壁に接続されていることを特徴とする請求項18に記載の電気化学セルである。
請求項19に係る発明によれば、接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0026】
請求項20に係る発明は、外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、セルをベースに収納する工程と、電解質を充填する工程と、リッドをベースに接合する工程とを含むことを特徴とする電気化学セルの製造方法である。
請求項20に係る発明によれば、外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、前記セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、セルをベースに収納する工程と、電解質を充填する工程と、リッドをベースに接合する工程とを含むので、接続抵抗値の十分に低い電気化学セルを実現できる。
【0027】
請求項21に係る発明は、前記セルリードと前記パッド膜との溶接工程は、超音波溶接又はビーム溶接を用いることを特徴とする請求項20に記載の電気化学セルの製造方法である。
請求項21に係る発明によれば、超音波溶接又はビーム溶接を用いるので、ベースとなるセラミック部材に損傷を与えることなく局所的な領域にのみ効率よく接続部を設けられ、かつ、接続部が前記部材の接合界面の原子の拡散を引き起こすので十分に低い接続抵抗値を備える電気化学セルを実現できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、セルリードとパッド膜が溶接により接続されることにより、導電性接着剤を用いる従来の方法に比較して格段に低い接続抵抗値を実現し、大電流放電を可能にした電気化学セルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電気化学セルを説明する図である。
【図2】本発明の電気化学セルのパッド膜とベース内端子及び接続端子の関係を示す図である。
【図3】本発明の電気化学セルのセルリードとパッド膜の溶接を説明する図である。
【図4】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図5】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図6】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図7】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図8】本発明の電気化学セルの変形例を示す図である。
【図9】本発明の電気化学セルの製造フローを示す図である。
【図10】本発明の実施例1の抵抗値の内訳を説明する模式図である。
【図11】従来の電気化学セルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の電気化学セルを図面に基づいて説明する。本発明の電気化学セルは、主にパーソナルコンピューターや小型の携帯機器内部の基板に実装されて用いられる。図1(a)は、本発明の電気化学セルの外観図である。一例として直方体の形状で示されているが、トラック形状や円筒形状であっても良い。本発明の電気化学セルは、その発電要素であるセルを収納して容器として機能するベース1と、その開口部を気密に塞ぐための封口板として機能するリッド6を外装部品として備えている。本発明の電気化学セルの外装容器は、このベース1とリッド6により封止されている。
【0031】
図1(b)は、(a)のAA断面を示す図である。凹状のベース1の中にセル7が収納され、さらに電解質が充填され、凹状のベース1の上面に一周して設けられた接合金属部材5に押し当てられたリッド6によって気密に封止されている。セル7は、活物質と活物質を担持する金属からなる集電体(以下、金属集電体と称する)からなる一組の電極シートが絶縁性のセパレータを挿んで巻回法や積層法などで構成されたものである。正極及び負極の金属集電体の端部には、金属集電体そのものを細く延長させた延長部や、別の細く薄い板やワイヤ状のリードを機械的に接続して延長部を形成したものが用いられるが、本発明では、これをセルリード8で表す。正極、負極のそれぞれのセルリード8は、凹状のベース1のベース内側面1aに並置して配置されている一対の集電体金属膜であるパッド膜2に溶接によって接続されている。パッド膜2の底面には、ベース内側面1aとベース外側面1bを略垂直に貫通して接続する孔が設けられる。その孔にはタングステンなどの高融点金属が充填されて気密を満たしている。本発明では、ベース内端子3とは、ベース内部に埋設された端子をいい、その内部に金属が充填された導電性の貫通孔のほか、貫通孔の内面に金属膜が形成されて導電性を確保し、内部はガラスなどの絶縁物が充填されて気密を満たしているものを含む。ベース内端子3は、パッド膜2とベース外側面1bに形成された接続端子4とを電気的に接続している。そして、セル7の正極、負極は接続端子4によって実装される基板の実装用パターンに接続されることになる。
【0032】
ここで、本発明を詳細に述べる前に、接続抵抗値と配線抵抗値が放電特性に与える影響について、電気二重層キャパシタを例にあげて説明する。
電気二重層キャパシタの定格電圧は、2.6Vで、静電容量は1Fであると仮定する。等価直列抵抗の値を、セルの持つイオン拡散抵抗値や電子抵抗値の合計Aと、セルを収納する外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値(この配線抵抗値と接続抵抗値の和をBとする)とに分離して、電気二重層キャパシタの放電特性を評価する。
【0033】
【表1】
【0034】
表1は、先の等価直列抵抗のAの値を50mΩとし、Bを3通り(ケース1から3)に設定して、パルス状の放電電流が流れた時の電気二重層キャパシタの電圧降下を計算したものである。電流は1Aで、放電パルス幅は1000msec(1秒)とした。
【0035】
ここで、ケース1は、Bの値、即ち外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値が十分に小さく設計されたもので、20mΩとした。等価直列抵抗の合計値は、AとBの合計であり、70mΩである。放電電流は1Aであるから、等価直列抵抗により発生する電圧降下は、電流と等価直列抵抗の積、即ち、1A×0.07Ω=0.07Vである。一方、容量は1Fであるから、容量分が関与する電圧降下は、(1A×1sec)/1F、即ち1Vとなる。従って、ケース1では、1Aの電流が1000msec放電したことにより、両者の電圧降下の和である0.07+1=1.07Vとなる。
【0036】
電気二重層キャパシタは、当初2.6Vに充電されていたので、この放電が終了した時点で、電気二重層キャパシタは、2.6−1.07=1.53Vの電圧を維持していることになる。つまり、ケース1では、1Aで1000msecの大電流放電用途が実現できるといえる。
【0037】
表1のケース2、ケース3も同様な方法で算出されている。ケース3は、従来の導電性接着剤のような接続手段でセルリードとパッド膜が接続された電気二重層キャパシタを想定したものであり、Bの値が2000mΩとなっており、等価直列抵抗の合計は2050mΩに達する。従って、等価直列抵抗の寄与による電圧降下だけで、2.05Vあり、これに容量の寄与する電圧降下1Vを加えると、3.05Vとなり、当初の定格電圧を超えてしまう。つまり、電気二重層キャパシタは、1000msecのパルス幅の途中で放電が不可能になってしまい、大電流放電は実現できない。
【0038】
ケース2は、ケース1とケース3の中間に相当する場合である。つまり、外装容器の配線抵抗値とセルリードとパッド膜との接続抵抗値が、500mΩに留まっているので、等価直列抵抗の合計値は、550mΩとなっており、等価直列抵抗の寄与する電圧降下は0.55Vで済んでいる。従って、容量の寄与分の電圧降下を含めても、電圧降下の合計値は、1.55Vに留まり、定格電圧の値2.6V以下であるので、1Aで1000msecの大電流放電は実現可能である。
【0039】
以上、3通りのケースで、大電流放電可能か否かを示した。Bの値が低いケース1とケース2の場合が大電流放電可能であったが、Bの値による電圧降下の寄与分は放電電流に比例することに注意が必要である。仮に放電電流が2Aの場合では、ケース1の等価直列抵抗の寄与分の電圧降下は2A×0.07Ω=0.14Vであり、容量の寄与分の電圧降下2Vとの合計が2.14Vとなり大電流放電はなお可能である。一方、ケース2においては、等価直列抵抗の寄与分の電圧降下は、2A×0.55Ω=1.1Vとなり、容量の寄与分の電圧降下2Vとの合計は3.1Vとなり、定格電圧2.6Vを超えてしまい、もはや、大電流放電は不可能である。
【0040】
このように、Bの値の大小が大電流放電可能か否かに大きく影響するので、電気二重層キャパシタの設計にあたっては、配線抵抗値とセルリードとパッド膜の接続抵抗値をmΩの単位で検討していく必要がある。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
Bの値は、接続抵抗値と配線抵抗値の和であるとしたが、さらにこの2つの関係について表2に基づいて説明する。表2から4は、片側の極当りの接続抵抗値を1mΩ、5mΩ、10mΩ、30mΩ、100mΩの5種類とした時の、放電初期の望ましい電圧降下の範囲から、配線抵抗値の上限(単位はmΩ)を計算により求めたものである。ここで、配線抵抗値は正極と負極の配線抵抗値の和である。
【0045】
放電初期の電圧降下は、実用上0.3V以内であることが好ましい。0.2V以内であれば更に好ましい。例えば、充電電圧が2.6Vであり、放電初期の電圧降下が0.3Vであるとすると、放電エネルギーに寄与する放電の初期電圧は、電圧降下分を差し引いた2.3Vである。この場合の放電エネルギーを、初期電圧が2.6Vの時の放電エネルギーと比較すると約78%を維持できており、許容できる値である。初期の電圧降下が0.2Vの場合の比率は約85%に、電圧降下が0.1Vの場合は約92%に向上する。
【0046】
小型の電気化学セルにおいては、単独の電気化学セルの等価直列抵抗のAの値は数十mΩから数百mΩの範囲であるが、ここでは、代表例として、150mΩの場合を計算した。表2は、単独の電気化学セルの配線抵抗値の上限であり、表3は、前記単独の電気化学セルを2個直列に接続した場合の1個の電気化学セルの配線抵抗値の上限、表4は、前記単独の電気化学セルを3個直列に接続した場合の1個の電気化学セルの配線抵抗値の上限を示したものである。電気化学セルであるから、必要とされる定格電圧になるように、直列に接続して用いられる場合も多い。従って、直列接続する場合にも通用できるようするのが望ましい。
【0047】
ここで、配線抵抗値の上限は、初期の電圧降下を上述の0.3Vであるとして算出した。表2において、横線の引かれた欄は、電圧降下を0.3Vとすると配線抵抗値の上限は0mΩ以下となることを示している。つまり、初期の電圧降下が0.3Vを越えることを意味している。
【0048】
表2では、接続抵抗値が1mΩであれば、放電電流を1Aとすると、配線抵抗値の上限が148mΩであることを示している。さらに放電電流を大きくして1.75Aまで流すと、配線抵抗値の上限が19mΩにまで低下する。このように、ある程度広い範囲の放電電流値を流すことができるようにするには、最大の電流値を考慮して、例えば配線抵抗値の上限を10mΩ台になるようにする。接続抵抗値が5mΩの場合の上限値は、接続抵抗値が1mΩの場合より8mΩ低いだけである。この場合も、配線抵抗値を10mΩ以下に製作すれば、1.75Aまで放電することができる。接続抵抗値が10mΩの場合は、1.75Aの放電電流で電圧降下が0.3Vを超えてしまうが、配線抵抗値が20mΩ台であれば、1.5Aまで放電電流を流すことができる。
【0049】
一方、接続抵抗値が100mΩの場合は、初期の電圧降下が0.3V以下に抑えられる電流値は0.75A以下であり、実質的に大電流放電用途には不適当である。接続抵抗値が30mΩの場合は、接続抵抗値が100mΩの場合に比較して、配線抵抗値の余裕は改善されるが、1.5Aの電流を流すと初期の電圧降下が0.3Vを越えてしまうので、接続抵抗値としてはやはり大きい。従って、接続抵抗値は、10mΩ以下が好ましい。
【0050】
2直列で接続した場合は、表3が示すように、等価直列抵抗のAが150mΩの2倍になるから、配線抵抗値の上限は大きく抑制され、かつ、最大の放電電流も低下させる必要がある。例えば、放電電流が1Aの場合は、等価直列抵抗のAによる電圧降下が1A×0.3Ω=0.3Vあるから、接接続抵抗値が1mΩであっても、配線抵抗値の上限の欄は横線となっている。2直列の場合は、0.3V以下の電圧降下で使用する条件では、1A以下の放電電流となる。0.9Aの放電電流では、接続抵抗値5mΩの場合は配線抵抗値の上限は6.5mΩであるが、接続抵抗値が10mΩの場合は、0.90Aの放電電流では電圧降下が0.3Vを超えてしまい、接続抵抗値が5mΩ以下の場合に比較して差がでている。従って、直列接続用途を考慮すれば、接続抵抗値は5mΩ以下が好ましい。
【0051】
3直列の場合は、等価直列抵抗のAの値が150mΩ×3=450mΩであるから、電圧降下が0.3V以下にするためには、最大電流も0.3V/0.45Ω、即ち約0.65A程度になる。表4に示すように、接続抵抗値が5mΩの場合は、0.6Aの放電も可能となるが、配線抵抗値の上限は6mΩとなる。接続抵抗値が1mΩの場合は、配線抵抗値の上限は14mΩとなる。このように、直列接続する段数が増加すると、接続抵抗値の配線抵抗値に与える影響が大きく現れてくるので、単独の電気化学セルのみでの仕様だけで検討すると、実用性に乏しい外装容器となるので、上記の検討が必要である。
【0052】
さて、配線抵抗値は、パッド膜と接続端子それぞれの抵抗率、面積とそれらを接続する配線や構造に依存する。配線が長くなることによって生ずる配線抵抗値の増加に関しては、本発明のベース内端子の寄与が大きい。特に、電気二重層キャパシタの容量を増大させて大電流放電の放電電流や放電時間を大きくあるいは長くしようとすると、容器の寸法が大きくなり、これに伴って配線が長くなり易い。ベース内端子を用いてベースの表裏を直接接続することで、配線抵抗値を大幅に減らすことが可能である。
【0053】
一方、セルリードとパッド膜との接続抵抗値の低減は溶接による寄与が大きい。電気化学セル用の導電性接着剤としては、導電フィラーがカーボンやグラファイトから成り、バインダはフィノール樹脂等が好適に用いられてきた。しかし、接続抵抗値は、導電性接着剤の塗布条件、接続される金属の表面状態、熱硬化条件、電気化学セルの基板への実装温度条件などで大きく異なるほか、導電性接着剤の生産ロットによるバラツキに起因するものもあり、大電流放電用途で求められるmΩ単位での接続抵抗値の設計と管理は困難である。
【0054】
図2(a)、(b)は、それぞれベース1のベース内側面1aとベース外側面1bを示す図である。図2(a)に示すベース内側面1aには、導電性材料からなる一対のパッド膜2が配置されている。パッド膜2の下面には、破線で示されるベース内端子3がそれぞれ4個設けられ、ベース1の外側面に配置された接続端子4(同じく破線で示す)に垂直に接続されている。
【0055】
尚、ここで、パッド膜2は、一例としてベースの長手方向に並置されているが、短辺方向に並置することや、長手方向の対角線方向に並べることも可能である。そして、パッド膜2は、必ずしもベース内端子3の上に形成されることを要しない。
【0056】
パッド膜2は、アルミニウムやチタン等の化学的に安定な弁金属からなる膜であり、溶解しにくい材料からなる。これらの膜は、例えば、蒸着、イオンプレーティングやスパッタリングなどの周知の膜形成方法によって設けることができる。これらの方法による場合は、まず、タングステンなどの金属が貫通孔に印刷法等により充填・焼成されて気密なベース内端子3が仕上がった後に形成する。真空中で成膜する場合は、例えば、正負のパッド膜2をそれぞれ構成するように、互いに空間的に分離した2つの開口を持つようにパターニングした金属製等のマスクを準備して、成膜のチャンバーの中に収納し、真空排気系で所定の真空度に排気した後、弁金属材料と蒸発させたり、弁金属材料からなるターゲットを物理的にイオンで叩いて材料を飛ばして、ベース1の内側面に成膜する。これらの成膜法では、成膜の条件が制御し易いので、形成した膜の抵抗率が低く、かつ液体が浸透しにくい高密度な膜が形成できる。
【0057】
また、アルミニウムの膜はスクリーン印刷法によっても形成可能である。高温では酸化しやすいアルミニウムにおいても、150℃以下の温度で配線パターンを形成可能な技術が開発されている。印刷法であるので、蒸着法などの薄膜形成技術に比較して厚く、数十ミクロンの厚膜も容易である。
【0058】
更に、アルミニウム膜は電気メッキ法により作製することも可能である。ジメチルスルホンと塩化アルミニウムからなるメッキ液を用いて、約40μmの膜厚で形成した膜が、表面が平滑で、膜の内部も均一な膜であることが知られている。
【0059】
図2(b)に示すベース外側面1bには、パッド膜2に対向するように一対の接続端子4が設けられている。接続端子4は、リフロー処理などにより、実装基板のパターンに設けられたクリームハンダなどで基板に固着される。接続端子4は、例えば、印刷法により形成したタングステンのパターンに、ニッケルと金とからなるメッキ膜が施されている。符番1cで示されるベース側面凹部にもタングステンやこれらメッキ材料がパターニングされ接続端子の一部として機能する。
【0060】
続いて、パッド膜2の厚みについて述べる。膜厚は5μm以上でかつ100μm以下が望ましい。好ましくは、10μm以上で30μmの範囲がよい。膜厚が薄いと膜内部に存在する微細なポーラスが繋がって電解質がパッド膜の下にあるタングステンに浸透してタングステンの電解腐食を引き起こしやすいこと、及び、後述の様に、溶接でセルリード8と接続されるときに、溶接の条件が極めて限定されて信頼性ある接合の実現が難しくなることによる。
【0061】
厚さ約1.3mmのソーダライムガラス板に、パッド膜2の厚みが5μmのアルミニウム膜をイオンプレーティング法により形成したのち、厚みが80μmのアルミニウムの薄板を超音波溶接で溶接させる実験を実施した。セルリード5個中1個のサンプルはガラス板に微小なクラックの発生が認められた。従って、5μmは膜厚としては実用上の下限値である。実用的には、膜厚は10μm以上あることが望ましい。
【0062】
一方、蒸着法やイオンプレーティング法によるアルミニウムの蒸着レートは、1時間当たり3μm〜10μmである。蒸着時間を考慮すると30μm以下の厚みが好ましく、この場合の成膜時間は長くても4〜5時間程度である。100μm程度まで厚く形成した場合は、成膜時間は長時間に及ぶが、溶接でセルリード8に接続するときの溶接条件を広くとることができ、下地となるセラミックにクラックが誘発される可能性を極めて低くすることができる。
【0063】
次に、図3を用いてセルリード8とパッド膜2との具体的な溶接方法を説明する。図3(a)は、セル7に接続する一対のセルリード8と一対のパッド膜2との接続を示す図である。一対のセルリード8の先端は、図3(a)に示すように、パッド膜2の表面に置かれた後、セルリード8の上面から溶接され、パッド膜2とセルリード8が接合される。溶接を用いることで、セルリード8とパッド膜2の接合界面で、それぞれの部材を構成する材料の原子的な拡散が起こり、強固な接合が可能となる。図3(a)の8aは、溶接した領域を模式的に示している。溶接であるので、接合界面に自然酸化膜などの汚染が存在しても、接続抵抗がmΩ台、あるいはmΩ以下の十分に低い接合が可能となる。これによって、導電性接着剤などによる接合方法に比較して、接続抵抗を10分の1から100分の1に低減させることが出来る。また、接続抵抗値のバラツキを抑え、かつ経時変化の少ない接合が可能となる。
【0064】
また、接合ポイントを複数設定することで、接続抵抗値を一層低減できると共に、セルリード8とパッド膜2の間の引っ張り強度を向上させることができるので、セルリード8を変形させて容器の内部にセル7を収納させる製造工程において、溶接の剥がれ等の不良の発生を抑制できるほか、完成した電気化学セルの耐振動特性や落下衝撃特性などの機械的な信頼性を向上させることができる。
【0065】
セルリード8とパッド層2の溶接として、具体的には超音波溶接、ビーム溶接、抵抗溶接等の局所的な溶接方法が適している。即ち、これらの溶接手段は、溶接の対象となる部分が局所的であるので熱的な影響は溶接部近傍のみに留まり、セル7自体への影響を避けることがきる。また、セルリード8の材料、厚み、パッド膜2の材料と貫通孔の配置などを変更することで、溶接の機械的あるいは熱的な衝撃による構成部材への影響を低減できる。上記構成にすることで、セラミックス等の材料からなるベース1に対してもクラックの発生による部材への損傷を回避することが可能である。
【0066】
図3(b)は、超音波溶接の具体的な方法を説明するための図である。超音波溶接では、図3(b)に示すように、まず、パッド膜2の上にセルリード8を位置決めして密着させるが、この時、セル7は超音波溶接用チップ9の移動の妨げにならないように、ベース1の外に置かれる。次に、超音波溶接用チップ9を、移動機構によりセルリード8の上面に適当な加圧力をもって当接させる。超音波溶接用チップ9はホーン先端に一体的に形成されたり、あるいはホーンの先端に別途取り付けられる。超音波溶接用チップ9のチップ先端9aは、セルリード8との接触面となる部分であって、ここには、セルリード8の表面に適切に食い込むように表面に凹凸パターンが施されていること(ナール加工)が好ましい。
【0067】
超音波溶接用チップ9がセルリード8を適当な加圧力で当接された後に、超音波溶接機の発振機構が数十KHzからなる超音波をホーンに加えると、超音波溶接用チップ9が周波数で接合部分を擦り合わせる。これにより、セルリード8とパッド膜2との界面は、金属材料の清浄な表面同士の密着面となり、数十ミリ秒から数百ミリ秒の僅かな時間で圧接することができる。先の図3(a)のセルリードとパッド膜の溶接領域8aで示されたセルリード8の表面の凹凸パターンは、この超音波溶接によって超音波溶接用チップ9の凹凸パターンが転写されていることを模式的に示したものである。この凹凸パターンで示された領域8aが溶接領域であるが、微視的に見ると、接合している部分は、超音波溶接用チップ9の先端に加工された凸によって凹まされた部分のみであり、それ以外の領域は、セルリードとパッド膜の間に僅かな隙間を保った状態である。
【0068】
超音波溶接用チップ9がセルリード8の表面に当接する際に、大きな衝撃とならないように注意することが好ましく、移動機構には、ダンパーなどの衝撃吸収機構を備えるのがよい。これにより、ベース材料への損傷を低減できる。
【0069】
セルリード8の寸法(リードの幅と厚み)とパッド膜2の寸法(縦横の寸法と厚み)及び超音波溶接用チップ9の寸法を適切に選択することで、電気化学セルの種々の寸法に対応することが可能である。図3(a)に示した超音波溶接領域の幅寸法dは、0.5mmであっても十分であり、小型の電気化学セルの製作に好都合である。また、更に機械的な強度を上げるために、パッド膜2の略全面積を覆うように設計された超音波溶接用チップ9を用いて超音波溶接した場合も適切な溶接条件を設定することで、ベース内端子やベース材料に影響はなく、十分に大きな機械的強度を得ることができる。
【0070】
尚、超音波溶接においては、振動だけでなく、熱エネルギーと機械的な圧接力を併用することも可能である。また、図3(a)では、セルリード8として細い板状の例が示されているが、ワイヤであってもよく、超音波溶接用チップ9の形状を適切に変形させて用いればよい。
【0071】
次に、ビーム溶接の場合を述べる。ビーム溶接としてレーザー溶接と電子ビーム溶接が代表的である。これらの溶接は、局所的な加工が可能であるだけでなく、非接触法であるので、溶接端子の熱と磨耗による劣化がない。そのため、再現性が良い。また、金属を溶融させるのに十分なエネルギー密度を有するので、短時間の加工が可能である。電子ビーム溶接は、エネルギー密度が極めて高いこと、電子ビームの走査性に富むこと、そして、溶接対象のベース1とセルリード8を有するセル7を真空中に置いて、電子ビームを真空中で照射して溶接することを除けば、レーザー溶接と同様である。
【0072】
レーザー溶接では、スポット溶接やシーム溶接(パルス発振や連続発振)を用いることができる。YAGレーザーによるスポット溶接の場合を以下に説明する。
レーザー発振器、伝送ファイバー、ベース1とセルリード8の位置決めと表面観察のための同軸CCDモニターを準備し、セルリード8とパッド膜2とを適当な加圧力を持って密着させた後に、リード8の表面側からレーザーを照射する。レーザーを照射する際は、パッド膜2とセルリード8の接合部の酸化を防止するために、アルゴンや窒素などの不活性ガスを吹き付けるか、グローブボックス等を用いて不活性ガス雰囲気下にするのが望ましい。
【0073】
図3(c)は、セルリード8とパッド膜2のレーザー溶接による接続を示したものである。図の黒丸で示した8aはレーザーが照射されて溶接された溶接領域を示している。アルミニウムはYAGレーザーの1064nmの吸収率が低い(高反射率材料)が、レーザー照射部が加熱され、加熱の中心部から徐々に溶解部が拡がっていく。加熱はセルリード8の下面から接合する下側のパッド膜2の表面に達して、パッド膜2の表面部分を溶解させて、セルリード8とパッド膜2が接合される。
【0074】
レーザー溶接の場合も、溶接領域を増加させて接続抵抗値を更に低下させ、また、溶接の機械的な強度を図るのが望ましく、図3(c)では、それぞれのパッド膜で2点づつスポット溶接をしている。
【0075】
また、図3(a)及び図3(c)では、1つのパッド膜に1つのセルリードを溶接していたがセルリードの数は、複数であっても良い。活物質を担持する金属集電体の長さが長い場合は、金属集電体に複数のセルリードを設けることができる。この場合には、これら複数のセルリードを1つのパッド膜に接続できると抵抗分を低減することができ、好ましい。
【0076】
以上は、溶接法として超音波溶接とビーム溶接について説明したが、溶接手段はこれに限定されることなく、その他の手段であってもよい。例えば、スポット抵抗溶接やアーク溶接などの溶接法を用いることも可能である。
【0077】
外装容器のベース材料として、セラミックスは慣用される材料であるが、セラミックスに限定されない。ソーダライムガラスや耐熱ガラスなども使用可能である。ガラスは素材として長尺のものが利用できるので、小型のパッケージの場合は、1枚のガラスに多くの取り個数を設定でき、ベース部材の低コスト化が期待できる。また、これらのガラスに凹部や貫通孔を形成する手段としては、化学的なエッチング法、サンドブラストのような物理的方法、あるいは高温雰囲気において型を用いて凹部と貫通孔を同時に形成することができる。
【0078】
また、貫通孔の内面にアルミニウム膜を形成した後、熱膨張係数をマッチングさせたガラスペーストを貫通孔に充填し、脱バインダ及び焼成を実施することにより、気密で導電性を有するベース内端子3を形成することができる。このような場合は、ベース内端子3が溶解するという懸念はない。従って、ベース内端子3を覆うようにパッド膜2を形成する必要がない。また、ベース内端子3の内面を形成する膜はアルミニウムに限定されることなく、チタンなどのその他の弁金属を含む膜であってよい。
【0079】
続いて、セル7に関して説明する。セル7は、厚みが5μm〜50μmのアルミニウム箔や銅箔を金属集電体とし、その表面に活物質を塗工や接着法により担持した正負の一対の電極シートを、絶縁物からなるセパレータを挟んで巻回、積層、折畳みなどの手法で一体化した発電要素である。電気二重層キャパシタの場合は、活物質の代表的な材料として、活性炭ないし炭素が挙げられる。リチウムイオン.二次電池では、正極活物質としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等の化合物が用いられ、負極活物質としては、例えば黒鉛やコークスのほかシリコン酸化物等が用いられる。活物質ペーストは、上記の活物質に、導電補助剤、バインダ、分散剤等を混合して適当な粘度に調節したものであり、これをローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード法などの方法により、集電体の両面または片面に塗工する。塗工後に、乾燥、プレス工程を得て電極シートが形成される。
【0080】
セパレータは、正極及び負極の直接的な接触を規制するものであり、大きなイオン透過度を有し、所定の機械的強度を有する絶縁膜が用いられる。例えば、耐熱性が求められる環境においては、ガラス繊維の他、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド等の樹脂を用いることができる。また、セパレータの孔径、厚みに関しては、特に限定されるものではないが、使用機器の電流値や、電気化学セルの内部抵抗に基づいて決定される。また、セラミックスの多孔質体をセパレータとして用いることも可能である。
【0081】
電解質は非水溶媒と支持塩を含む。また、電解質は液体であっても固体であってもよい。電解質の非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、スルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートまたはメチルエチルカーボネートのいずれか1種もしくは2種以上の混合物として用いられる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ―ブチロラクトン、スルホランのような沸点の高い溶媒から選ばれる単独又は複合物を用いることが好ましい。これらの溶媒を用いることにより、高温環境下において溶媒の気化を防ぎ、容器の内部圧力を抑えることができる。
【0082】
支持塩は電解質カチオンと電解質アニオンとを含む。電解質カチオンとしては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、またはチオシアン塩、リチウム塩、等の一種以上の塩が使用される。電解質アニオンとしてはBF4-、PF6-、ClO4-、CF3SO3-、またはN(CF3SO2)2-が用いられる。
【0083】
また、電解質は、ポリエチレンオキサイド誘導体、又は、ポリエチレンオキサイド誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体やポリプロピレンオキサイド誘導体を含むポリマー、リン酸エステルポリマー、PVDF等を非水溶媒、支持塩と併用し、ゲル状又は固体状で用いることもできる。
【0084】
また、LiS/SiS2/Li4SiO4の無機固体電解質を用いることもできる。更に、電解質として、ピリジン系や脂環式アミン系、脂肪族アミン系やイミダゾリウム系のイオン性液体やアミジン系等の常温溶融塩を用いても構わない。
【0085】
続いて、ベース1とリッド6の封止について述べる。リッド6はベース1のリッド接合に用いる接合金属部材5と熱膨張係数がマッチングするように選択され、例えば鉄・コバルト・ニッケル合金であるコバール等の材料が用いられる。具体的には、コバールの0.1mmから0.2mm程度の厚みを有する薄板で、表面には2μmから4μm程度の厚みで電解ニッケルメッキや無電解ニッケルメッキが施されたものが用いられる。
【0086】
両者を溶接する方法として用いられる抵抗シーム溶接では、リッド6を接合金属部材5に当接させた後に、リッド6の長辺側の略中心の2点に、対向した台形形状のローラー電極を配置して低電圧大電流を短時間流し、リッド6の仮溶接(スポット溶接)が行われる。このようにして、リッド6は仮に固定され、溶接作業中の振動等で位置がずれことはない。
【0087】
続いて、例えば、長辺の端からローラー電極で長辺がなぞられるようにベース1とリッド6が移動して溶接される。次に、ベース1とリッド6は90度回転され、同様に短辺が溶接される。このようにして、リッド6の一周に亘って溶接が行われる。前述した仮固定においても、本抵抗シーム溶接においても、リッド6と接合金属部材5との界面で、金とニッケルの拡散が発生し、気密で強固な拡散接合層が形成される。これにより、リッド6は、ベース1に気密に封止される。
【0088】
ベース1とリッド6の溶接は、レーザーの走査照射を用いても可能である。仮溶接を前述と同様に実施した後、レーザーを、リッドを一周するように走査照射する。これにより、リッド6と接合金属部材5の界面で拡散接合層が形成される。この場合、リッド6の接合側の面に銀と銅からなるロウ材のシートを貼ることにより、溶融温度をロウ材の温度まで低下させることも可能である。
【0089】
尚、電解質が常温で液体状の溶媒や支持塩からなり、リッド6を封止する前に電解質を充填する工程を採用する場合は、液体がリッド6と接合金属部材5の界面に存在する場所が有得る。このような場合でも、シーム溶接を用いた接合は可能である。シーム溶接は、ローラー電極を使用するものでも、レーザーの走査照射を用いるものでもかまわない。前記界面に液体が存在しても気密な溶接が可能となるのは、界面に存在する液体は、溶接時に近傍の温度が急激に上昇するので蒸発して飛散することによるものと考えられる。
【0090】
続いて、発明の変形例について説明する。まず、ベース内端子の構造に関する変形例を述べる。
図4は本発明の変形例を示す図である。図4(a)は本変形例の断面を示す図である。図4(b)は本変形例の配線パターンを示す図で、ベタ状の配線パターンの例を示す図である。図4(c)は本変形例の別の配線パターンの例を表す。図4(a)に示す電気化学セルでは、ベース内端子3をベースの内面側から外面側に直接貫通させたものではなく、ベース内端子3をベースの底面部を構成する2枚の板であるベース底面構成板1d(第二ベース)とベース底面構成板1e(第一ベース)との界面で止めた構造になっている。この界面には、配線パターン10が設けられている。配線パターン10は、ベース内端子3と接続し、水平に延出して外面に露出し、更に接続端子4に接続した構成である。
【0091】
パッド膜2は、前述したものと同様に、アルミニウム膜が5μmから100μmの厚みで形成されたものである。セル7に接続する一対のセルリード8は、パッド膜2に溶接で接続されている。また、電解質が充填された後、ベース1とリッド6は気密に封止され、外装容器を構成している。
【0092】
図4(b)に示すように、下側のセラミック板1eの界面には、ベース内端子3に接続するタングステン等の金属膜からなる配線パターン10が、斜線で示すようにベタ状に広い面積で設けられている。そして、セラミック板のベース底面構成板1eの長辺側の端部に水平に引き出され、側面まで延長されている。そして、その延長部が接続電極4に接続されている。このようなベタ状の配線パターンにしているので、配線パターンの持つ抵抗値を低く抑えることができる。
【0093】
一方、図4(c)は、幅dの直線の配線パターン10aが、ベース内端子3に対応する各ポイントから、外側に延出したものである。このように、配線パターンはベタ状に限定されない。ただし、この場合には、配線パターン10aの持つ抵抗値は、先の図4(b)に比較して高くなる。そのため、ベース内端子の数と、幅dと、長さ(L1とL2)と、配線パターンのシート抵抗値を勘案して、配線パターンを決定する必要がある。
【0094】
上記の配線抵抗値の例を以下に説明する。例えば、dとL1、L2をそれぞれ0.2mm、3mm、2mmとし、配線パターン10aのシート抵抗値を10mΩとする。この数値は、約10μmの厚みのタングステン膜のシート抵抗値の代表的な値である。長さL1の部分の配線パターンの抵抗値は、10mΩ×(3mm/0.2mm)=150mΩとなる。長さ2mmの配線パターンの抵抗値は、同様な計算で、100mΩと算出される。図では、4本の配線パターンが設けられているので、これら4本の配線パターンの並列抵抗値を計算すると30mΩとなる。正極及び負極とも同じ配線パターンを用いているので、この配線パターンの持つ概略の抵抗値は60mΩと見積もられる。
【0095】
配線パターンの幅dを更に太くして0.4mmとすると、同様な計算で、4本の配線パターンの並列抵抗値は15mΩと算出されるので、dの値に0.2mmを用いた場合に比較して半分に低減できる。同様にして、dの値を0.6mmとすれば、配線パターンの並列抵抗値は10mΩであり、dの値を0.8mmまで広げれば配線パターンの並列抵抗値は7.5mΩとなる。このように、dの値を調節して、十分に低い値が実現できることが分かる。ただし、外装容器の配線抵抗値としては、上記の配線パターンの抵抗値に加えて、側面の領域の配線抵抗値と接続端子の配線抵抗値を合計した値になる。
【0096】
本変形例が示すように、充填貫通電極3は、ベースの上側面と外側面を直接に貫通した構造でなくても良く、適切な抵抗値を持つ配線パターン10及び10aと組み合わせることで、本発明の目的とする大電流放電用途に用いることができる。
【0097】
続いて、ベースの底面と側壁に貫通領域を設けた例を図5に基づいて説明する。図5(a)は、本変形例の電気化学セルの断面図である。また、図5(b)は、本変形例のベースを説明する模式図であり、リッド接続用金属層5は省いてある。また、図5(a)に示した保護膜11も省略してある。この保護膜11に関しては、後述する。
【0098】
ベース1のベース内側面1aに集電体として機能するベタ状の配線パターン10が設けられ、その上にパッド膜2が設けられている。配線パターン10はタングステン等の高融点金属からなる。また、配線パターン10はベース1の内側面で水平に延出して、ベース1の底面と側壁の間を貫通して側面に露出し、ベース1の側面から更に接続端子4に接続する構成をなしている。図5(a)では、パッド膜2が正負の両極に設けられているが、少なくとも正極に対応する配線パターン10の上に形成されれば良い。
【0099】
セル7に接続するセルリード8は、長さL3とL4の配線パターン10と、長さL5の配線パターンの側面部(符番10bで示した)の合計の長さのパターンを経由して接続端子4に接続されている。そのため、配線抵抗値において、配線パターン10及び10bの長さの合計値が問題となる。ここで、L4は、ベースの側壁の厚みに相当する長さである。以下に、配線パターン10及び10bの持つ配線抵抗値の概略例を示す。
【0100】
数値例として、L3、L4、L5の値としてそれぞれ3.4mm、0.8mm、0.5mmとする。この寸法は、後の実施例1で示す長辺が10mm、短辺が5mm、高さが3mmの直方体からなるセラミックパッケージを想定した数値である。即ち、L4の値は、側壁の厚みであり、L5の値はベース底面の厚みである。また、L3の値は、正極と負極の2つのパッド膜を並べて配置しても蒸着法において2つを十分に分離できるように考慮した値であり、L4との加算値が長辺の半分の長さよりも小さいが出来るだけ近い数値を選択してある。2つのシート抵抗値としてニッケルと金メッキが施されたタングステン膜のパターン部(L3とL5)を5mΩ、タングステンのみの膜となるL4では10mΩとする。また、配線パターンの幅d2は、3.0mmとする。ここで、d2の数値は、短辺の長さ5mmから2つの側壁の厚み1.6mmを差し引いた値である3.4mm(ベースの内底面の短辺)に近い数値を採用して、以下に示すように配線パターンの配線抵抗値を抑えている。
【0101】
L3の部分は、配線抵抗値はその中心からの距離で計算するものとすると、長さは半分の1.7mmとなるから、配線抵抗値は、5mΩ×(1.7mm/3mm)=2.83mΩ、即ち2.9mΩである。同様の計算から、L4の部分は2.7mΩ、側面の10bにあたるL5の部分は0.9mΩであり、合計値として約6.5mΩである。正極では、アルミニウムからなるパッド膜を形成するので、上記のL3の部分の配線抵抗値は2.9mΩからさらに低減することになる。
【0102】
配線抵抗値が正極及び負極を合わせて約13mΩで、片側の極の接続抵抗値が1mΩ以下であれば、表2で説明した様に、単独の電気化学セルでは、1.75Aの放電電流においても、初期の電圧降下は0.3V以下である。同様に、表3に示すように配線抵抗値は14mΩより小さいから、2直列に接続した場合には0.90Aの放電電流においても初期の電圧降下は0.3V以下である。また、表4によれば、配線抵抗値は14mΩよりも小さいから、3直列にしても、0.60Aの放電電流で初期の電圧降下が0.3V以下である。即ち、本変形例は、大電流放電用途に用いることが可能である。
【0103】
次に保護膜11に関して述べる。集電体として機能する配線パターン10の内面側が電解質と接触しないように、本変形例では、図5(c)または図5(d)に示す様に保護膜が設けられている。図5(c)では、パッド膜2がベース側壁内側面1fにまで延長されて成膜されている(符番2aで示す)。ベース側壁内側面まで成膜することで、ベースのベース内側面1aと側壁内側面1fの境界付近のパッド膜2が薄くなることを防ぐことができる。従って、図5(c)では、2aの部分と2aの近傍領域を保護膜11とする。これによって、配線パターン10はその全面を前述した適切な厚みのパッド膜2で被覆することが可能となり、従って配線パターン10の電解腐食を防止することが出来る。
【0104】
図5(d)は、パッド膜2とは別材料の膜を保護膜11として用い、配線パターン10の内面側を被覆して、配線パターン10が電解質と接触することを防いでいる。ここで保護膜11は、配線パターン10の表面及びベース材料との密着性、耐電解質特性、電解質の非浸透性、基板への実装時の温度特性、成膜や塗布等の容易さ、硬化温度等を勘案して決定される。また、保護膜11は、1層に限定されることなく、複数の膜がコートされた多層膜であってもよい。保護膜11としては、無機コーティング材、ブチル系ゴム、ポリイミド、ポリアミドイミドベースの耐熱樹脂等、エポキシ系紫外線硬化型樹脂等を用いることができる。硬化温度については、エポキシ系紫外線硬化形樹脂などは約100℃、無機コーティング材では約120〜150℃、ポリアミドイミドやポリイミドは約230℃〜270℃である。このように、保護膜11の硬化温度はアルミニウムの融点よりも低い。そのため、アルミニウムからなるパッド膜2を形成した後に保護膜11を塗布してもパッド膜2に影響を与えることはない。
【0105】
以上より、本変形例においても、配線抵抗値を十分に低い値に抑えることが出来る。また、保護膜11により集電体として機能する配線パターン10が電解質に露出することがないので、本発明の目的とする大電流放電用途に安定して用いることが可能である。
【0106】
続いて、更なる変形例について図6に基づいて説明する。図6(a)の電気化学セルは、セラミックスの平板からなるベース1と、凹状の形状からなる金属製のリッド6aを外装容器としたものであり、断面図を示している。容器の内部には、前述の発明と同様に、セル7と、一対のセルリード8と、一対のパッド膜2と、ベース内端子3と電解質とが収納され、セルリード8とパッド膜2とは溶接により接続されたものである。
【0107】
図6(a)に示すように、リッド6aは、セル7等を覆うように、その開口部をベース1の周囲に設けられた接合金属部材5に当接させて溶接されている。この溶接には、レーザーによるシーム溶接が好ましい。また、シーム溶接を行う際は、図6(a)矢印方向から走査照射される。ローラー電極を用いた抵抗シーム溶接では、ローラー電極がリッド6aの段差に接触しやすく、ローラー電極を接合部に適切に当接させることが難しくなる。
【0108】
リッド6aでは、リッド6aの底面部に小孔を設けている。これは、ベース1とリッド6aを溶接した後に、電解質をこの小孔から充填し、その後に封止栓6bを用いて気密に封止できるように意図されたものである。これにより、ベース接合用金属層5とリッド6aの接合面との間に電解質が存在することによる、封止作業の能率低下を防ぐことができる。ベース1の内側面に形成されるパッド膜2の材料やその厚みの範囲、ベース内端子3の構造やその個数、セルリード8とパッド膜2との接合手段は、前述と同様であるので記載を省略する。
【0109】
図6(b)に示す電気化学セルは、図6(a)と同様の構成であるが、平板状のベース1の周囲に配置される接合金属部材5が、ベースに設けられたステップにはめ込まれていて、接合金属部材5とベース内側面との高さの差が十分に小さく抑えられている。これにより、リッド6aを逆さまにした状態で電解質を充填した後に、セル7をリッド6aの中に配置しても、リッド6aから溢れ出る電解質量を少なくできる。従って、図6(b)の構成にすることによって、電解質が充填された状態でもベース1とリッド6aとの溶接を容易に行うことが出来る。そのため、図6(a)に示したようなリッド6aの小孔は不要で、封止栓6bによる封止工程も省略できる。
【0110】
続いて、別の変形例について図7を用いて説明する。図7(a)に、本変形例で用いるベースを示した。本変形例では、ベース1が、セラミックス製の平板と、平板に接合された金属製の筒状の側面12から構成されており、これによって凹状の容器を成している。ベースのベース内側面1aには、ベースの外側面に直接貫通するベース内端子3が設けられ、その上にパッド膜2が一対配置されている。金属製の金属側壁12は、熱膨張率がベースの平板とマッチングするように選択され、平板にロウ材で接合されている。一方、反対側の開口部は、リッド6の接合面を形成している。本変形例では、リッド6を封止するための接合金属部材5は不要であり、金属側壁12それ自体が接合金属部材5の役割も果たしている。そのため、少なくともリッド6と接合する面には、ニッケルと金のメッキ膜が施されており、リッド6は、メッキ面に当接されて、抵抗シーム溶接やレーザーシーム溶接を用いて接合が可能なように構成されている。
【0111】
図7(b)は、ベースを用いた電気化学セルの断面図を示す。セル7に接続する一対のセルリード8が溶接手段でパッド膜2に接続され、ベース内端子3によって、接続端子4に接続されている。容器内には、図示しない電解質が充填されて、リッド6により気密に封止されている。パッド膜の材質やその厚みは前述と同様である。金属側壁12は、金属製であるので、様々な形状に加工することが可能である。またその形状は、角、トラック形状、楕円、円等の選択が可能である。特に、規格品の中空パイプを任意の長さで切断して用いると、電気化学セルの高さが自由に決定することができる上、製造コストの低減を図ることができる。
【0112】
図7(c)に示す電気化学セルでは、図7(b)と同様に金属製の金属側壁12を用いているが、パッド膜2は正極側にのみに限った例である。正極側のリード8bはパッド膜2に接続される一方で、負極側のセルリード8cは、金属製の金属側壁12の内側に溶接で接続されている。更に、負極に対応する接続端子4は、金属側壁と電気的に接続するように構成されている。これにより、金属側壁12が金属製で、かつ電流の流れる経路が大きいので、負極側の配線抵抗値は低く抑えられる。従って、本発明の電気化学セルも大電流放電が可能となる。
【0113】
続いて、更に別の変形例について図8を用いて説明する。図8は、電気化学セルの断面を示すもので、セラミックからなる凹状の容器1の内底面1aには、前述と同様にアルミニウム膜からなるパッド膜2が設けられ、ベース内端子3によって接続端子4に接続された構成をなす。本変形例では、パッド膜は1つだけ設けられ、巻回法や積層法などによって構成されたセル7に接続する一対のセルリード8のうち、正極側8bがパッド膜に超音波溶接で接続されて、十分に低い接続抵抗値を実現している。
【0114】
一方、負極側のセルリード8cはリッド6の内面側に接続された構造を有している。負極側のセルリード8cの材質がそれぞれアルミニウム、銅、またはニッケルの薄板や箔からなる場合であっても、金属製のリッド6に超音波溶接、レーザースポット溶接、抵抗スポット溶接、アーク溶接などの周知の溶接法で接続することが可能である。従って、負極側も接続抵抗値を十分低く抑えることが可能である。
【0115】
負極側の接続端子は容器底面1bから側面に沿って接合金属部材5に延設されており、リッド6と電気的に接続される。延設される部分を延設部4bとした。延設部4bの導体の長さ、幅と厚みを調整することによって延設部の直流抵抗値を低く抑えることができるので、負極側の配線抵抗値を大きく増大させることなく構成できる。
【0116】
容器1内には図示しない電解質が充填され、リッド6が接合金属部材5に溶接されて気密容器をなす。リチウムイオン.二次電池では負極の集電体材料として銅箔、セルリードとしてはニッケルの薄板が慣用されるが、本変形例を適用することが可能である。従って、高い気密特性を持つ高信頼の小型、薄型のリチウムイオン.二次電池を製造することが出来る。
【0117】
尚、延設部は本変形例では容器の外側に設けた。リッド6と接続端子4の接続はこれに限ることなく、接合金属部材5の下部に孔を設けて、内面に導体材料を形成して接続端子4に接続する構造とすることも容易である。
【0118】
(実施例1)
次に、図9に示す電気二重層キャパシタの製造フローを参照しながら、実施例1について説明する。まず、外装容器として、図1(a)及び(b)に示す凹状の形状をなすベース1と、リッド6を準備した。ベース1は、長辺が10mm、短辺が5mm、高さが2.85mmであり、ベース1の底辺の厚みは0.5mmである。材料としては、セラミックスで電子部品のパッケージを製造する時の標準的な材料を用いた。材料の抗折強度は400MPa、ヤング率は310GPaである。パッド膜2が形成される領域には、タングステンを充填し、その表面をニッケルと金でメッキした内径0.2mmのベース内端子3を、ベースの内側面と外側面を直接貫通するように、それぞれ4個設けた。ベース外側面1bには、一対の接続端子4が配置され、ベース内端子3に接続している。接続端子にはニッケルを下地とした金メッキが施されている(S10)。
【0119】
次に、ベース内側面1aには、アルミニウムの蒸着膜からなる一対のパッド膜2を形成した。パッド膜2の寸法は、長辺2.4mm、短辺2mmで厚みは約25μmである(S11)。
一方、リッド6は、厚み0.15mmのコバール板を準備し、表面を電解ニッケルメッキした(S20)。
【0120】
続いてセル7の準備をする。20μmの厚みを持つアルミニウムからなる金属集電体に活性炭、導電補助材、バインダ及び増粘材からなる活物質を塗工法によりコーティングしてシート電極とした(S30)。適当な長さに切断した後、金属集電体の一端に、厚みが80μmで幅が2mm、長さ8mmのアルミニウムの薄板を超音波溶接で取り付けてセルリード8とした(S31)。セルリード8が溶接された正負一対のシート状の電極に、ポリテトラフルオロエチレンからなるセパレータを挟持させた後、巻芯を入れて、トラック状に巻回した。その後、巻芯を取り出し、隙間を軽くつぶして巻回電極とした(S32)。
【0121】
続いて、超音波溶接を行う。先に準備したベース1のパッド膜2の表面に、セルリード8を密着させて位置決めした。超音波溶接は、セルリードを片方ずつ行った(S33)。超音波溶機の発振周波数は40KHzで行った。溶接ホーンは鉄製であり、同じ材料からなる超音波溶接用チップ9はホーンの先端に一体型に設けられている。超音波溶接用チップ9の表面には、2×1.5mmの領域に、0.2mmピッチの千鳥格子状の凹凸パターン(ナール)を設けた。山の高さと谷底の差は0.2mmである。溶接のモードは、溶接中にセルリード8に供給するエネルギーを制御するモードとし、溶接エネルギーの設定値を15Jとし、溶接時間の最大値を60msecとした。超音波溶接用チップ9が、エアー機構によりアルミニムからなるセルリード8の表面に降下した後、セルリード8の表面に食い込んで、セルリード8とパッド膜2の界面の間で振動することにより溶接が行われる。
【0122】
溶接終了後、セルリード8を折りたたむようにしてセル7をベース1の中に収納した。この時に、セルリード8が接合金属部材5に混触しないように注意した(S34)。セルのショートを回避するためである。
【0123】
次に、セル7が収納されたベース1を、液体の電解質の中に浸漬させ、1時間真空脱泡した。ここで、電解質の支持塩はスピロビピロリジニウムテトラフルオロボレートであり、非水溶媒としてポリカーボネートとエチレンカーボネートの混合液を用いた(S35)。続いて、大気圧に戻して、電解質中からセル7が収納されたベース1を取り出した後に、窒素雰囲気下でリッド6を接合金属部材5に当接し、長辺側の2点の仮溶接を行い、続いて長辺側と短辺側をこの順に連続して抵抗シーム溶接を行い気密に封止した(S36)。このようにして実施例1の電気二重層キャパシタを作製した。
【0124】
作製した実施例1の電気二重層キャパシタの電気特性検査を行った(S37)。項目としては等価直列抵抗及び容量の測定を行った。等価直列抵抗は、AC1KHzでの交流抵抗法を用いた。また、容量は、放電法(2V−1V間で測定電流を10mAとした)を用いた。
【0125】
(比較例1)
実施例1と同一の寸法からなるシート電極を用いてセル7を作製した。ここで、セルリードは、材質及び幅と厚みは実施例1と同一であるが、長さは40mmとした。次に、同一の電解質を充填して、アルミラミネートフィルムからなる外装容器に収納した。このようにして比較例のアルミラミネートパッケージを用いた電気二重層キャパシタを作製した。この比較例1は、パッド膜を有さないことから、接続抵抗は実用値である値を示すものである。
【0126】
作製した比較例1の電気二重層キャパシタについて、実施例1と同様に電気特性検査を行った。
実施例1の等価直列抵抗は、310mΩであった。また、容量は170mFであった。比較例1の等価直列抵抗の測定値は、320mΩであった。また、容量は実施例1と略同じ180mFであった。つまり、パッド膜とセルリードの溶接によっても配線抵抗値は実用レベルに低く抑えることができることがわかる。実施例1及び比較例1の等価直列抵抗の値のうち、セルリード8の抵抗値を含む外装容器の抵抗分を比較したものが表5である。
【0127】
【表5】
【0128】
表5で、接続抵抗値等の欄の2.4mΩの数値は、R1セルリード8とパッド膜2の間の接続抵抗値と、以下の3つの配線抵抗値の合計である。3つの配線抵抗値とは、R2パッド膜2自体の抵抗値と、R3ベース内端子3の抵抗値と、R4接続端子4の抵抗値である。R1、R2、R3、R4は図10に示した。接続抵抗値等に示した2.4mΩは、別途に測定サンプルを作製して実測した値である。充電貫通孔3は、前述のように、1つのパッド膜2に対して6個配置しているので、充電貫通孔3の抵抗値R3は、これら6個の貫通孔が寄与した抵抗値となっている。本接続抵抗等の値は、比較例のアルミラミネートパッケージでは、セルリードがそのままパッケージ外に露出して測定器の測定端子に接続される構造であるので、0mΩとしている。尚、数値はいずれも、正極と負極の和である。
【0129】
表5の接続抵抗値等の数値は、片側のみの電極で1.2mΩ、両極で2.4mΩであるから、本実施例では、まずR1からR4までのそれぞれの数値が十分に低いことが分かる。そして、セルリードとパッド膜の接続抵抗値は、別途の行った多数個の実験から、パッド膜を構成するアルミニウムの蒸着膜の抵抗率を6.6μΩcmとすると1mΩ以下と算出される。アルミニウムの蒸着膜は、通常、バルクの値(2.75μΩcm)の2.2倍から2.7倍程度とされるので、6.6μΩcmは、2.4倍に相当する値となり、妥当と思われる。
【0130】
また、ベース内端子3が接続端子4に6個直接接続する構造によって、R1とR2とR3の合計からなる配線抵抗値も十分に低く抑えられている。従って、表5の合計値の欄では、実施例1の合計は、5.2mΩであり、アルミラミネートパッケージの合計値である13.6mΩと同等の値となっている。
【0131】
(比較例2)
上記の接続抵抗値を、導電性接着剤を用いた接続手段による場合の接続抵抗値と比較する目的で、実施例1と同一のベース1とアルミニウムの薄板を導電性接着剤を用いて接続し、接続抵抗値を求めた。導電性接着剤の主たる導電性フィラーは、グラファイトとカーボンである。表6に結果を示した。
【0132】
【表6】
【0133】
導電性接着剤D1、D2は、活性炭とカーボンとポリテトラフルオロエチレン粉末を混練してシート状にした電極をアルミニウムやステンレスに接着する場合に慣用されるものである。また、D3は、導電塗料であり、アルミニウムヤステンレスに優れた濡れ性で塗布できるものである。接続面積は約4mm2、硬化温度は150℃で30分とした。
【0134】
接続抵抗値は、D3を用いた場合でも9.4Ωであり、D1とD2では10Ωを超えた値であった。このような値では充放電により大幅な電圧降下を生じるので、本発明の目的とする大電流放電には不適当である。実施例1の接続抵抗値は、上記のように1mΩ以下であったから、比較例2の場合と比較して3ケタも低い数値を達成している。表6には、単位面積当り(1cm2)に換算した接続抵抗値が記載されているが、接続面積が1cm2に拡大されても300mΩ以上であり、接続抵抗値としては大きすぎる値である。導電性接着剤を用いた接続は、本発明の目的とする小型の外装容器を用いた電気化学セルには不適当である。つまり、従来方法である導電性接着剤を用いてセルリードとパッド膜を接続した電気化学セルに比べ、セルリードとパッド膜を溶接により接続した本願発明にかかる電気化学セルの接続抵抗値はきわめて低い値となることがわかる。
【0135】
続いて、実施例1で作成したサンプルのリフロー処理における熱の影響を検討した。本サンプルを最高温度270℃が数秒印加されるリフロー装置でリフロー処理した後、外装容器外観を光学顕微鏡で綿密に観察した。ベース1にクラックの発生は一切に認められなかった。また、ベース1とリッド6の抵抗シーム溶接部は勿論のこと、ベース下側面の貫通電極開口部近傍においても電解質の漏液はなかった。
【0136】
更に、セルリード8とパッド膜2を超音波溶接する条件で、同一部材を別途溶接して、接合界面の断面を光学顕微鏡で観察した。セルリード8とパッド膜2を超音波溶接したサンプルを、樹脂に埋め込んで固形化した後、一方向から徐々に研磨を行い綿密に観察した。この結果、セルリード8の断面には、超音波溶接チップの凹凸が転写されて、チップの凸部が食い込んだ近傍は、パッド膜をなすアルミニウム膜に接合されていることが観察された。また、チップの凹部に当接した近傍は、アルミニウム膜のパッドとは数μmの隙間が観察された。即ち、超音波溶接チップの凹凸に対応した接合ポイントでセルリード8とパッド膜2とが接合した形態であった。そして、パッド膜2の下面にあたるセラミックスの断面には、ベース内端子3が形成された近傍を含めてクラックの発生は認められなかった。
【0137】
以上より、ベースの内側面から外側面に直接接続するベース内端子の配置により配線抵抗値を低く抑える構造の採用し、セルリード8とパッド膜2を超音波溶接による接続させる構造にしたので、接続抵抗値も十分低く、大電流放電用途の電気化学デバイスを実現することが可能となった。そして、適切な溶接条件を設定することで、ベースに損傷を与えることなく溶接することができるので、信頼性に優れた電気化学セルを製作可能である。
【0138】
(実施例2)
セルリード8とパッド膜2を接合させる工程を、YAGレーザーによるスポット溶接により実施した。尚、窒素を吹きかけることにより溶接時の接合部の酸化を防止した。
アルミニウムの細板は厚みが80μmで、幅が2mm(実施例1でセルリード8に用いたものと同一)である。セラミック製の凹状容器は、実施例1とは異なり、変形例2で説明した図4(c)に示す構造と同様の構造であり、ベースの途中まで貫通するベース内端子は6個設けてある。ベースの底面の厚みは、実施例1よりも薄い0.3mmであり、ベース内側面にアルミニウムを蒸着法で約25μmの厚みで形成してある。パッド膜の寸法は、3mm×1.3mmの矩形状である。
【0139】
溶接は次のように行った。まずアルミニウム膜にセルリード8を十分に密着させた。続いて、密着を維持するようにリード8の先端部の4隅の位置を機械的に押さえた後、YAGレーザーで2箇所をスポット溶接した。ここで溶接条件は、ピーク出力が300Wでパルス幅は1msecとした、即ち、1パルスのエネルギーは0.3Jである。
【0140】
このようにしてセルリードを接続したサンプルの配線抵抗値と接続抵抗値の合計値を測定した。測定は、ベース底面に薄い銅製リードをハンダ付けした後、セルリードと銅製のリード間を前述した抵抗計を用いて測定した。合計値からセルリードと銅製のリードの配線抵抗値分を差し引いた抵抗値(接続抵抗値とベースの配線抵抗値の和)は、約38から40mΩの範囲であった。同一のサンプルを、実施例1と同じ超音波溶接装置(ただし、超音波溶接用チップ9を交換し、溶接領域が2.0×0.5mmの領域で溶接した)を用いて溶接した場合の上記の抵抗値(接続抵抗値とベースの配線抵抗値の和)もほぼ同じ範囲であった。これにより、レーザー溶接した場合の接続抵抗値は、超音波溶接した場合のそれとほぼ同じであると推測される。
【0141】
本サンプルとは別に、同一の溶接条件でレーザー溶接した箇所の断面観察を実施した。光学顕微鏡による断面観察によれば、アルミニウムのセルリード8と下側のアルミニウム蒸着膜からなるパッド膜2の接続箇所は、約120μmの径からなる領域で接続されていた。また、本接続領域の周辺のセラミックにはクラックなどの損傷は認められなかった。これにより、溶接手段としてレーザーを用いた方法も可能である。
【0142】
(実施例3)
実施例1、2ともベースの材料はセラミックスであった。本実施例では、ベースの材料がガラスの場合について述べる。ソーダライムガラス(厚み約1.3mm)の表面(片面)に、イオンプレーティング法によってアルミニウム膜を成膜した。厚みは5μmとした。このアルミニウム表面に、超音波溶接を用いて、厚みが80μmで幅が2mmのアルミニウムの細板(実施例1でセルリード8に用いたものと同一である)を溶接した。超音波溶接は発振周波数は62.5KHzとした。超音波溶接チップの先端の面積は、長辺が2mmで短辺は0.5mmであり、先端の表面には、千鳥格子状の凹凸が加工してある。
【0143】
本溶接条件においてアルミニウムの細板はアルミニウム膜に確実に溶接され、かつ、ソーダライムガラスにクラックを誘発することは無かった。超音波溶接による2本のアルミニウムの細板間の配線抵抗値と接続抵抗値の合計値を測定した後、配線抵抗値分を差し引いて、接続抵抗値を算出した。この時、イオンプレーティング成膜によるアルミニウム膜の抵抗率を3.8μΩcmとすると、接続抵抗値は1mΩ以下と算出された。
【0144】
従って、ベース材料はセラミックスに限られずソーダライムガラスのような脆性材料でも可能である。ソーダライムガラスや耐熱ガラスにベース内端子を形成する技術は前述の様に公知であるので、本発明のパッド膜と組み合わせることで、大電流用途の電気化学セルのベース材料に用いることが可能である。
【0145】
(実施例4)
本実施例で用いたセラミックス材料は、抗折強度が350MPaでヤング率が280GPaであり、電子部品のパッケージとして標準的なものである。厚みが0.3mmのセラミックスからなる板に、内径が0.3mmのベース内端子をピッチ0.5mmでXY方向に多数個設けたサンプルを準備した。ベース内端子の開口面には、これらベース内端子を互いに接続するようにベタ状のタングステンのパターンを表面、裏面ともに設けた。タングステンの厚みは10μmであり、表面はニッケルと金のメッキを施してある。セルリードとして、板厚が80μmで幅が2mmのアルミニウムの細板を、メッキされたタングステンの表面に位置決めし、超音波溶接により溶接した。超音波溶接機と超音波溶接チップは、実施例3と同一である。
【0146】
上記溶接条件で溶接したサンプルの溶接断面の観測を実施例1と同様に行った。多数個配列した貫通孔の開口部近傍を光学顕微鏡で丹念に観察したが、セラミックにクラックは観察されなかった。即ち、負極用集電体側は、アルミニウムのパッド膜を設けない設計にしても、正極の同一の溶接手段を適用できる。これにより、正極と負極で別々の溶接手段を準備する必要はなく、製造上好都合である。
【0147】
電気化学セルとして安定に機能するためには、上述の様に、ベースの内側面に形成される正極用の集電体にはアルミニウムのような弁金属のコートが必要であるが、必ずしも負極用の集電体には必要ない。前述したアルミニウムのパッド膜は、最低限、正極用の集電体にだけ設けてあれば良い。この時、負極用の集電体は、ベース内端子を形成する際に用いるタングステン膜であってその表面をニッケルと金のメッキを施した膜が形成されている。
セルリード8とパッド膜2を接続する前述した溶接が、もう一方のセルリード8とタングステン膜の接続にも適用できれば、製造上好都合である。
【0148】
(実施例5)
前述した実施例1から実施例4で示したセルリード8はすべてアルミニウムであった。実施例5ではセルリード8の材質がニッケルの場合を示す。ニッケル製のリードは、リチウムイオン二次電池の負極用のリードとして慣用されている。例えば、ニッケルリードは銅箔からなる負極集電体に接続された後、もう一方の端部を外装容器の内部でパッド膜に接続する。
【0149】
実施例1と同じ材質からなる厚み0.5mmのセラミック製の板に、厚み5μmのアルミニウムを蒸着してパッド膜を形成した。幅が6mmで厚みが100μmからなるニッケル製のリードを配置して超音波溶接を行った。超音波溶接用チップの表面には、4mm×3mmの領域に、0.7mmピッチの千鳥格子の凹凸パターンを設けた。その山と谷底の差は0.30mmである。本チップをニッケルリードの表面に押し当てた。溶接のモードは、溶接時間を指定する方式とし、定溶接時間は0.15秒とした。エアーの圧力は0.1MPa、溶接エネルギーは22.1ジュール、溶接振幅は約13μmの条件で、十分な溶接強度の溶接が可能であった。
【0150】
接合した部材を前述とように樹脂に埋め込んだ後に研磨を行い、接合部の断面観察を実施した。詳細な観察を行ったが、セラミック部にクラックの存在は無かった。従って、セルリードにニッケル製のリードを用いた場合も本発明の構造を有する電気化学セルを構成することが可能となる。
尚、リチウムイオン二次電池の負極用としてニッケルリードを接続したアルミニウムからなるパッド膜は、電解液に晒されないように絶縁性の塗料で被覆するのが望ましい。
【0151】
(実施例6)
本実施例では、セルリード8は銅箔の場合を示す。実施例5と同一のセラミックス板を準備した。5μmの膜厚に形成されたアルミニウムのパッド膜上に幅が6mmで厚みが20μmからなる銅箔を5枚重ねて配置した。実施例5と同一の超音波溶接用チップを用いた。銅箔の表面に超音波溶接チップを押し当てて溶接した。溶接の条件は、実施例5と同一とした。即ち、溶接のモードは、溶接時間を指定する方式とし、定溶接時間は0.15秒、エアーの圧力は0.1MPa、溶接エネルギーは22.1ジュール、溶接振幅は約13μmの条件とした。この条件で十分な溶接強度の溶接が可能であり、銅箔が剥がれることはなかった。
【0152】
接合した部材を前述の様に樹脂に埋め込んだ後に研磨を行い、接合部の断面観察を実施した。詳細な観察を行ったが、セラミック部にクラックの存在は無かった。従って、セルリードに銅箔のリードを用いた場合も本発明の構造を有する電気化学セルを構成することが可能となる。
【0153】
尚、銅箔がリチウムイオン二次電池の負極用の集電体である場合は、前記銅箔を接続したアルミニウムからなるパッド膜は、電解液に晒されないように絶縁性の塗料で被覆するのが望ましい。
【0154】
本発明は、本明細書に記述された変形例や実施例に限定されることなく、発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を取り得ることはもちろんである。例えば、請求項で限定しない限り、リッドは金属に限定されることなく、セラミック、ガラス、樹脂などを用いることが可能であり、材料に応じて様々な封止の手段が可能である。
【0155】
また、図6や図7に示した電気化学セルは、ベースの底面が基板に水平に取り付けられることに限定されることなく、電気化学セルの寸法に応じて、実装方向を決めれば良い。例えば、リッド6aの高さ寸法が大きいときは、電気化学セルを基板に水平に取り付けることもできる。そのためには、ベースに設けられる接続端子のパターンを僅かに変更して対応できる。
【符号の説明】
【0156】
1 ベース
1a ベース内側面
1b ベース外側面
1c ベース側面
1d ベース底面構成板
1e ベース底面構成板
1f ベース側壁内側面
2 パッド膜
3 ベース内端子
4 接続端子
4b 延設部
5 接合金属部材
6 リッド
6a キャビティ型リッド
6b 封止栓
7 セル
8 セルリード
8a セルリードとパッド膜の溶接領域
8b 正極のセルリード
8c 負極のセルリード
9 超音波溶接用チップ
9a チップ先端
10、10a、10b 配線パターン
11 保護膜
12 金属側壁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとリッドからなる外装容器と、前記外装容器の中に収納されるセルと、電解質とからなる電気化学セルであって、
前記セルの延長部である複数のセルリードと、
前記ベースの内側面に形成された弁金属からなるパッド膜と、
前記ベースの外側面に設けられて、前記パッド膜と電気的に接続した接続端子とを有し、
少なくとも一つの前記セルリードが、溶接により前記パッド膜と接続されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記パッド膜の厚みは5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記パッド膜の厚みは10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記パッド膜はアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記溶接が超音波溶接またはビーム溶接であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ベースがセラミックまたは、ガラスからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記セルリードがアルミニウム、ニッケルまたは銅からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記セルリードのうち、正極及び負極の前記セルリードとも前記パッド膜に溶接されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
負極の前記セルリードは、前記リッドと電気的に接続していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記パッド膜と前記接続端子とは、前記ベース内部に埋設されたベース内端子を介して接続されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記外装容器は、凹状の前記ベースと板状のリッドとを、直接または接合金属部材を介して封口されたものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ベースは、前記外装容器の外側の層である第一ベースと内側の層である第二ベースとから構成され、
前記ベース内端子は前記第二ベースを貫通し、
前記接続端子は、前記ベースの外側面から前記第一ベースと前記第二ベースの境界面に延設され、前記ベース内端子と接続することを特徴とする請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記パッド膜は、前記ベースの内側面に延設された配線パターンを介して、前記接続端子と接続していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記配線パターンは電解質に露出しないように保護膜で覆われていることを特徴とする請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記ベースは平板状であり、前記リッドは凹状であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記ベースまたは前記リッドは小孔を有し、前記小孔は封止栓で密封されていることを特徴とする請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記ベース部材は前記接合部材と接する面にステップを有し、前記ステップに前記接合部材がはめ込まれていることを特徴とする請求項15または16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記ベース部材と前記リッドとは平板状であり、金属側壁を介して封口されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項19】
正極の前記セルリードは、前記金属側壁に接続されていることを特徴とする請求項18に記載の電気化学セル。
【請求項20】
外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、
セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、
セルをベースに収納する工程と、
電解質を充填する工程と、
リッドをベースに接合する工程とを含むことを特徴とする電気化学セルの製造方法。
【請求項21】
前記セルリードと前記パッド膜との溶接工程は、超音波溶接又はビーム溶接を用いることを特徴とする請求項20に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項1】
ベースとリッドからなる外装容器と、前記外装容器の中に収納されるセルと、電解質とからなる電気化学セルであって、
前記セルの延長部である複数のセルリードと、
前記ベースの内側面に形成された弁金属からなるパッド膜と、
前記ベースの外側面に設けられて、前記パッド膜と電気的に接続した接続端子とを有し、
少なくとも一つの前記セルリードが、溶接により前記パッド膜と接続されていることを特徴とする電気化学セル。
【請求項2】
前記パッド膜の厚みは5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記パッド膜の厚みは10μm以上30μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記パッド膜はアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記溶接が超音波溶接またはビーム溶接であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記ベースがセラミックまたは、ガラスからなることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記セルリードがアルミニウム、ニッケルまたは銅からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記セルリードのうち、正極及び負極の前記セルリードとも前記パッド膜に溶接されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
負極の前記セルリードは、前記リッドと電気的に接続していることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記パッド膜と前記接続端子とは、前記ベース内部に埋設されたベース内端子を介して接続されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
前記外装容器は、凹状の前記ベースと板状のリッドとを、直接または接合金属部材を介して封口されたものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記ベースは、前記外装容器の外側の層である第一ベースと内側の層である第二ベースとから構成され、
前記ベース内端子は前記第二ベースを貫通し、
前記接続端子は、前記ベースの外側面から前記第一ベースと前記第二ベースの境界面に延設され、前記ベース内端子と接続することを特徴とする請求項10に記載の電気化学セル。
【請求項13】
前記パッド膜は、前記ベースの内側面に延設された配線パターンを介して、前記接続端子と接続していることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項14】
前記配線パターンは電解質に露出しないように保護膜で覆われていることを特徴とする請求項13に記載の電気化学セル。
【請求項15】
前記ベースは平板状であり、前記リッドは凹状であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記ベースまたは前記リッドは小孔を有し、前記小孔は封止栓で密封されていることを特徴とする請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記ベース部材は前記接合部材と接する面にステップを有し、前記ステップに前記接合部材がはめ込まれていることを特徴とする請求項15または16に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記ベース部材と前記リッドとは平板状であり、金属側壁を介して封口されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項19】
正極の前記セルリードは、前記金属側壁に接続されていることを特徴とする請求項18に記載の電気化学セル。
【請求項20】
外装容器を構成するベースの内側面にパッド膜を形成するパッド膜形成工程と、
セルリードと前記パッド膜とを溶接で接続するセルリード/パッド膜溶接工程と、
セルをベースに収納する工程と、
電解質を充填する工程と、
リッドをベースに接合する工程とを含むことを特徴とする電気化学セルの製造方法。
【請求項21】
前記セルリードと前記パッド膜との溶接工程は、超音波溶接又はビーム溶接を用いることを特徴とする請求項20に記載の電気化学セルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−30750(P2013−30750A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91033(P2012−91033)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】
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