説明

電気化学デバイス

【課題】リード端子部におけるシール性および耐久性の向上を図ることができる電気化学デバイスを提供する。
【解決手段】外装フィルム4と、外装フィルム4に収容される電気化学素子と、電気化学素子に接続されるリード端子5,6と、リード端子5,6の一部を被覆する封止フィルム7とを備え、リード端子5,6を封止フィルム7を介して挟み込んだ状態で、外装フィルム4のシール部4dが溶着される電気化学デバイスを対象とする。封止フィルム7は、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン2次電池ないしは電気二重層キャパシタ等に適用され、特に大型大容量、高出力密度の電気化学デバイスおよびその関連技術に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型電池として用いられるラミネート型電気化学デバイスは、例えば特許文献1に示すように、電極や電解質を含む発電要素が包装用外装フィルム内に収容されるとともに、発電要素に接続されたリード端子の一部が外部に引き出された状態で外装フィルムの周縁部が溶着(ヒートシール)されることにより、上記の発電要素を封入した構造を備えている。
【0003】
このような電気化学デバイスにおける外装フィルムとしての包装用ラミネート材料は、一般に3層構造を有しており、その外側に配置される外面層は、機械的強度、電気絶縁性を有する材料、例えばポリエチレンテレフタレート等のポリエステルや、ナイロン等のポリアミド等の合成樹脂によって構成されている。さらに内側に配置される内面層は、電解液等の発電要素と接するため、電気絶縁性と熱接着性とを兼ね備えた材料、例えば高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレン系の酢酸ビニル共重合樹脂やアイオノマー、ポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂等によって構成されている。さらに最外層および最内層間に位置する中間層は、外部からの水分の浸入や、外部への電解液の蒸発等を防止できる材料、例えばアルミニウム箔や、SUS箔等の金属箔によって構成されている。なお、外面層は、中間層としての金属箔を保護し、例えば突き刺し等の外力から守る役目も果たしている。
【0004】
このような構成の包装用ラミネート材料を有する電気化学デバイスを作製するには、包装用ラミネート材料を、例えば方形状に切り出して外装フィルムとし、それで電極や電解液等を含む素子を収容した状態で該外装フィルムにおける周縁部等のシール部を熱圧着し、これにより、前記電極や電解液等の電気化学素子が外装フィルム内に封入される。
【0005】
ところで、この電気化学デバイスにおける一対のリード端子は、外装フィルムにおけるシール部から外部に引き出されるとともに、該シール部に対応する部位が溶着によって外装フィルムにおける内面層の熱溶着性(熱可塑性)合成樹脂に接着されているが、シール時にリード端子が外装フィルムにおける内面層を突き破り、中間層の金属箔に接触して、短絡してしまう場合がある。
【0006】
このような不具合を防止するため、例えば特許文献2に示すように、リード端子における外装フィルムのシール部に対応する位置を、封止フィルムによって被覆する技術が提案されている。具体的には、正極リード端子あるいは負極リード端子における前記シール部に対応する部位を、予め絶縁性を有する熱接着性合成樹脂の封止フィルムで被覆しておくものである。
【0007】
しかしながら、このようにリード端子を封止フィルムによって被覆する技術を適用したものであっても、封止フィルムの構成材である合成樹脂とリード端子の構成材である金属との密着性不足によって十分なシール性が得られず、電池のサイクル寿命を延ばす障害となっていた。
【0008】
この問題を解決するため、例えば特許文献3に示すように、リード端子に被覆される封止フィルムとして、積層構造のものを用いる技術が提案されている。この封止フィルムは、リード端子を構成する金属と密着性の良い熱接着性合成樹脂層を最内層とし、その上に絶縁性合成樹脂層からなる中間絶縁層、最外層にオレフィン樹脂層を順次積層したものであり、この封止フィルムによって、リード端子のシール部に対応する位置を被覆するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭59−38708号公報
【特許文献2】特開平10−302756号公報
【特許文献3】特開2001−57184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3に示すように、多層構造の封止フィルムをリード端子に被覆した電気化学デバイスでは、封止フィルムがリード端子の全周にわたって確実に密着されず、リート端子の両側縁部に、封止フィルムとの間に隙間(空洞)が形成されることがある。この隙間により、シール性が低下して、電池寿命が短かくなる等、耐久性が低下するという課題が発生する。
【0011】
特に上記のような電気化学デバイスを、大容量、大電流用途の動力用電池、例えば電気自動車やハイブリッド車の自動車用バッテリー等として用いる場合には、大電流用に断面積が大きいリード端子、つまり、厚みが厚いリード端子を用いるため、リード端子の側縁部に、封止フィルムとの間に隙間が形成されやすく、上記の課題が顕著に発生するようになる。
【0012】
この発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、封止フィルムをリード端子の全周にわたって隙間なく密着させることができ、シール性および耐久性の向上を図ることができる電気化学デバイスおよびその関連技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0014】
[1]内面側が熱接着性合成樹脂からなる外装フィルムと、前記外装フィルムに収容される電気化学素子と、内端部が前記電気化学素子に電気的に接続されて、外端部が前記外装フィルムの外部に配置されるリード端子と、前記リード端子の一部を被覆する封止フィルムとを備え、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を前記封止フィルムを介して挟み込んだ状態で、前記外装フィルムのシール部が溶着される電気化学デバイスであって、
前記封止フィルムは、前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、
前記封止フィルムは、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されていることを特徴とする電気化学デバイス。
【0015】
[2]前記封止フィルムにおける最内層の融点と中間絶縁層の融点との差が5℃以上である前項1に記載の電気化学デバイス。
【0016】
[3]前記中間絶縁層が、ポリ塩化ビニリデンによって構成される前項1または2に記載の電気化学デバイス。
【0017】
[4]前記中間絶縁層が、酸変性オレフィン樹脂によって構成される前項1または2に記載の電気化学デバイス。
【0018】
[5]前記中間絶縁層が、マイレン酸によって変性されたオレフィン樹脂によって構成される前項1または2に記載の電気化学デバイス。
【0019】
[6]前記リード端子の厚みが0.2〜1.5mmである前項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【0020】
[7]前記封止フィルムの厚みが、0.08〜0.25mmである前項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【0021】
[8]前記封止フィルムの全厚に対し、中間絶縁層の厚みが20〜60%である前項1〜7のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【0022】
[9]前項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学デバイスによって構成され、
前記電気化学素子が、少なくとも正極、負極、および正負両極間に介在される電解質を含む電池用発電要素によって構成されたことを特徴とする薄型電池。
【0023】
[10]内面側が熱接着性合成樹脂からなり、シール部を除いた周縁部が融着された袋状の外装フィルムを準備する工程と、
一端部に電気化学素子が電気的に接続され、かつ一部が封止フィルムによって被覆されたリード端子を準備する工程と、
前記電気化学素子を前記外装フィルム内に収容するとともに、前記リード端子の他端部を外部に配置した状態で、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を前記封止フィルムを介して挟み込みつつ、前記外装フィルムのシール部を溶着する工程とを含み、
前記封止フィルムとして、前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されたものを用いることを特徴とする電気化学デバイス。
【0024】
[11]内面側が熱接着性合成樹脂からなる外装フィルムと、前記外装フィルムに収容される電気化学素子と、内端部が前記電気化学素子に電気的に接続されて、外端部が前記外装フィルムの外部に配置されるリード端子とを備え、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を挟み込んだ状態で、前記外装フィルムのシール部が溶着される電気化学デバイスにおいて、前記外装フィルムと前記リード端子との間に介在されるように、前記リード端子の一部を被覆する封止フィルムであって、
前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、
5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されていることを特徴とする電気化学デバイスにおける封止フィルム。
【0025】
なお本発明において、溶着は、熱可塑性(熱接着性)材料を熱によって溶かして、加圧・冷却することにより、接着させることであり、ヒートシール、融着、熱接着と同じ意味で用いられている。
【発明の効果】
【0026】
前項[1]に記載の発明の電気化学デバイスによれば、封止フィルムが十分な柔軟性を有しているため、封止フィルムをリード端子の全周にわたって隙間なく密着させることができ、シール性および耐久性の向上を図ることができる。
【0027】
前項[2]に記載の発明の電気化学デバイスによれば、外装フィルムの中間層である金属箔とリード端子との短絡を防止することができる。
【0028】
前項[3]〜[5]に記載の発明の電気化学デバイスによれば、封止フィルムをリード端子に、より確実に密着させることができる。
【0029】
前項[6]に記載の発明の電気化学デバイスによれば、動力用等の大電流用途の電池等に好適に採用することができる。
【0030】
前項[7][8]に記載の発明の電気化学デバイスによれば、封止フィルムをリード端子に、より一層確実に密着させることができる。
【0031】
前項[9]に記載の発明の薄型電池によれば、上記と同様に、同様の作用効果を奏する。
【0032】
前項[10]に記載の発明の電気化学デバイスの製造方法によれば、上記と同様の作用効果を奏する電気化学デバイスを確実に製造することができる。
【0033】
前項[11]に記載の発明の電気化学デバイスにおける封止フィルムによれば、上記と同様に、同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1はこの発明の実施形態に係る電気化学デバイスが適用された薄型電池を示す断面図である。
【図2】図2は実施形態の薄型電池を分解して示す分解斜視図である。
【図3】図3は実施形態の薄型電池を分解して示す分解断面図である。
【図4】図4は実施形態の薄型電池における外装フィルムの一部を拡大して示す断面図である。
【図5】図5は実施形態の薄型電池のリード端子におけるシール部付近を示す斜視図である。
【図6】図6は実施形態の薄型電池のリード端子におけるシール部付近を示す断面図である。
【図7】図7は袋状に加工された外装フィルムに電気化学素子を収容した状態を示す斜視図である。
【図8】図8は実施形態の薄型電池における封止フィルムの一部を拡大して示す断面図である。
【図9】図9はこの発明に関連した実施例の電気化学デバイスサンプルにおけるシール部周辺を示す断面図である。
【図10】図10はこの発明の要旨を逸脱する比較例の電気化学デバイスサンプルにおけるシール部周辺を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1はこの発明の実施形態に係る電気化学デバイスが適用された薄型電池を示す断面図、図2は分解斜視図、図3は分解断面図である。
【0036】
これらの図に示すように、本実施形態の薄型電池は、周縁部が溶着されて内部が密閉される2枚の外装フィルム(4)(4)と、外装フィルム(4)(4)内に収容される電気化学素子(10)と、一端部としての内端部(5a)(6a)が電気化学素子(10)に接続され、他端部としての外端部(5b)(6b)が外装フィルム(4)(4)の外部に配置される一対のリード端子(5)(6)と、リード端子(5)(6)における外装フィルム(4)(4)の引出部(シール部4d)に対応して位置に被覆される封止フィルム(7)(7)とを備えている。
【0037】
電気化学素子(10)は、正極(1)と負極(2)とが、電解質部(3)を介して積層されて構成されている。電解質部(3)は、例えばセパレートおよび電解液を組み合わせたもの、セパレータおよびゲル電解質を組み合わせたもの、ゲル電解質単体からなるもの、固体電解質単体からなるもの等によって構成されている。言うまでもなく、電解質部(3)は、例示した構成に限定されるものではない。
【0038】
さらに正極(1)および負極(2)は、金属箔、例えばアルミニウム箔ないしは銅箔等の表面にLiCoO2やLiCoMn24等の正極材料およびLiC6Ti512等の負極材料が炭素導電助材やバインダーとともに塗布された構成となっている。
【0039】
そして一対のリード端子(5)(6)の各内端部(5a)(5b)が、電気化学素子(10)の正極(1)および負極(2)に溶接等によってそれぞれ固定されて、電気的にそれぞれ接続されている。
【0040】
外装フィルム(4)(4)は、方形状の防湿性ラミネート材料によって構成されており、周囲4辺のうち3辺(4a)〜(4c)が溶着されて袋状に形成され、残り1辺が、シール部(4d)として構成されており、電気化学素子(10)等が収容された後、溶着によって封止される。なお、本発明においては、外装フィルムの周囲4辺のうち、2辺を溶着しておき、残りの2辺を、正極側リード端子用のシール部および負極側リード端子用のシール部としてそれぞれ構成するようにしても良い。
【0041】
言うまでもなく、本発明において、外装フィルム(4)(4)の形状、大きさ等は、限定されるものではなく、任意に変更可能である。
【0042】
外装フィルム(4)は、図4に示すように3層の積層構造であり、内面側に設けられる内面層(41)は、熱接着性(熱可塑性)合成樹脂、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレン系のアイオノマー、ポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂等から選択されたもので構成されている。
【0043】
また外面側に設けられる外面層(43)は、電気絶縁性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルや、ナイロン等のポリアミドによって構成されている。
【0044】
内面層(41)および外面層(43)間に設けられる中間層(42)は、金属箔、例えばアルミニウム箔ないしはSUS箔から選択されたものによって構成されている。この中間層(42)により、外部からの水分の浸入や内部からの電解液の蒸発が有効に防止されるようになっている。
【0045】
また外面層(43)は、機械的強度を確保し、中間層(42)を保護する役目をもっている。
【0046】
リード端子(5)(6)のうち、正極側は、アルミニウム、チタン等の金属導体によって構成されており、負極側は、銅、ニッケル、ニッケルメッキされた銅等の金属導体によって構成されている。言うまでもなく、リード端子(5)(6)の素材は、上記のものに限定されるものではない。
【0047】
本実施形態の薄型電池は、大電流用に適したものであるため、リード端子(5)(6)に大電流が流れる。このため、リード端子(5)(6)を流れる電流の抵抗を下げる必要があり、リード端子(5)(6)として、断面積が大きいもの、つまり厚みが厚いものが用いられる。例えば本実施形態において、リード端子(5)(6)の厚みは、0.2〜1.5mmに設定するのが好ましい。すなわちリード端子(5)(6)の厚みが薄過ぎる場合には、大電流を流した際の抵抗が大きくなり、好ましくない。逆に厚みが厚過ぎる場合には、外装フィルム(4)や封止フィルム(7)を密着させた際に、シワ等が発生するおそれがあり、好ましくない。
【0048】
また本発明において、リード端子(5)(6)の幅や、長さは、厚みを考慮しつつ、電気化学デバイスの性能等に応じて適宜設定するようにすれば良い。
【0049】
図5〜8に示すように、封止フィルム(7)は、厚みが0.08〜0.25mmの3層構造を有している。この封止フィルム(7)が、リード端子(5)(6)におけるシール部(4d)に対応する部分を両側から挟み込んだ状態で、熱ロール、あるいは平らな熱板等によって溶着される。
【0050】
封止フィルム(7)において、外装フィルム(4)の内面層(41)に直接接触する最外層(73)は、外装フィルム(4)の内面層(41)との相溶性(接着性)を考慮して、同じような材質の同系統の合成樹脂、例えばポリプロピレンや、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリエチレン系の酢酸ビニル共重合樹脂やアイオノマー等)等のオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。言うまでもなく、最外層(73)は、後述するような酸変性の有無が問われることはない。
【0051】
リード端子(5)(6)に直接接触する最内層(71)は、リード端子(5)(6)を構成する金属材料との接着性に優れた材料、例えばマイレン酸無水基やアクリル酸(エステル)により変性されたオレフィン樹脂を例示することができる。
【0052】
封止フィルム(7)における最内層(71)および最外層(73)間に設けられる中間絶縁層(72)は、本発明特有の構成を有する材料によって構成されている。
【0053】
この中間絶縁層(72)は、融点が最内層(71)よりも高い材料を用いる必要があり、好ましくは融点が5℃以上高い材料を用いるのが良い。
【0054】
具体的に中間絶縁層(72)としては、ポリ塩化ビニリデン、マイレン酸、アクリル酸で変性したオレフィン樹脂を好適に用いることができ、これにより、封止フィルム(7)全体として、柔軟性が増し(腰が弱くなり)、リード端子(5)(6)への馴染み性(付き回り性)が向上し、封止フィルム(7)がリード端子(5)(6)の全周に隙間なく密着し、シール性を著しく向上させることができる。言うまでもなく、このシール性の向上効果は、正極および負極のいずれのリード端子(5)(6)においても、確実に得ることができる。
【0055】
参考までに、封止フィルムの中間絶縁層として、ポリエチレンテレフタレートや高融点のホモポリプロピレン等の周知の材料を用いた場合には、柔軟性が不十分なり(腰が硬過ぎて)、リード端子への付き回り性が悪化し、封止フィルムをリード端子の全周にわたって確実に密着させることができず、十分なシール性を得ることが困難になる恐れがある。
【0056】
また中間絶縁層(72)の厚みは、封止フィルム(7)の全厚に対し、20〜60%に設定するのが好ましい。すなわち、中間絶縁層(72)の厚みが厚過ぎる場合には、リード端子(5)(6)や外装フィルム(4)に対する接着性が低下する一方、厚みが薄過ぎる場合には、リード端子(5)(6)および外装フィルム(4)間を封止する際の熱溶着時に、両者間の絶縁性を維持するのが困難になるおそれがある。
【0057】
さらに本実施形態において、封止フィルム(7)は、十分な柔軟性を有するものであり、具体的には、5%伸ばした際の引張強さ(F5値)が15N/mm2以下に調整されたものを採用する必要がある。すなわち封止フィルム(7)において、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2を超えるものでは、柔軟性が欠如することにより、リード端子への馴染み性(付き回り性)が悪化し、十分なシール性を得ることが困難になる恐れがある。
【0058】
なお本発明において、封止フィルム(7)は、3層構造に限られず、4層以上の多層構造であっても良い。
【0059】
以上のように構成される薄型電池における製造手順の一例は以下の通りである。まず、リード端子(5)(6)に、そのシール部(4d)に対応する部分に封止フィルム(7)(7)を両側から挟み込んだ状態で溶着して固定する。続いて、そのリード端子(5)(6)を電気化学素子(10)に溶接によって固定する。
【0060】
その一方で、方形状に2枚切り出した外装フィルム用のラミネート材料を、互いの内面層(41)(41)側を対向させて、周囲3辺(4a)〜(4c)を熱溶着して袋状の外装フィルム(4)(4)を作製しておく。
【0061】
そしてその外装フィルム(4)(4)内に、リード端子(5)(6)が接続された電気化学素子(10)を収容する。
【0062】
その後、外装フィルム(4)(4)のシール部(4d)(4d)によって、リード端子(5)(6)を封止フィルム(7)(7)を介して挟み込んだ状態で、シール部(4d)(4d)の全域を互いに熱溶着する。これにより、電気化学素子(10)が外装フィルム(4)内に密閉状態で収容された電気化学デバイス(薄型電池)が作製される。
【0063】
なお言うまでもなく、本発明において、電気化学デバイス(薄型電池)の製造方法は、特に限定されるものではない。
【0064】
こうして得られた電気化学デバイスは図6等に示すように、リード端子(5)(6)に直接被覆される封止フィルム(7)が、十分な柔軟性を有するものであるため、封止フィルム(7)がリード端子(5)(6)の全周に隙間なく密着し、十分なシール性を得ることができる。従って電解液の漏出等の不具合を確実に防止でき、ひいては電池寿命の向上等、耐久性の向上を図ることができる。
【0065】
また封止フィルム(7)の最外層(73)は、外装フィルム(4)の内面層(41)と接着性に優れた材料を使用するとともに、最内層(71)は、リード端子(5)(6)と接着性に優れた材料を使用しているため、封止フィルム(7)および外装フィルム(4)間の密着性を向上できるとともに、封止フィルム(7)およびリード端子(5)(6)間の密着性とを共に向上させることができ、シール性を一層向上させることができる。
【0066】
なお、本発明の電気化学デバイスは、その使用用途が限定されるものではないが、特に、大型大容量、高出力密度、大電流用途の動力用電池、例えば電気自動車やハイブリッド車の自動車用バッテリー等として好適に用いることができる。言うまでもなく、本発明の電気化学デバイスは、携帯電話用電池等の小型のものにも支障なく、採用することができる。
【実施例】
【0067】
次に、上記構成の薄型電池による実施例および比較例について説明する。
【0068】
なお、実施例および比較例において、リード端子(5)(6)の構成(材質、サイズ等)、包装用ラミネート材料からなる外装フィルム(4)の構成(材質、サイズ等)は、全て同じものであり、以下の通りである。
【0069】
まずリード端子(5)(6)において、正極用として厚さ0.2mm、幅50mmのアルミニウム製のもの、負極用として厚さ0.2mm、幅50mmのNiメッキ銅製のものを準備した。
【0070】
外装フィルム(4)用のラミネート材料において、外面層(43)が、厚さ40μmの二軸延伸ナイロン(ONY)フィルム、中間層(42)が、厚さ15μmのアルミニウム箔、内面層(41)が、厚さ30μmの無延伸ポリプロピレン(CPP)フィルムによって構成された3層構造のものを準備した。
【0071】
また封止フィルム(7)としては、最外層(73)、中間絶縁層(72)および最内層(71)を有する3層構造であって、各層(71)〜(73)が表1に示されるものによって構成されたものを準備した。
【0072】
【表1】

【0073】
<実施例1>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃のアクリル酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点145℃のポリ塩化ビニリデンからなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなるものを準備した。この封止フィルム(7)において、5%伸ばした時の引張強さ(F5値)は、13.6N/mm2であった。
【0074】
この構成の封止フィルム(7)をリード端子(5)(6)の所要位置(シール部に対応する位置)に熱溶着により被覆した。
【0075】
一方、方形状に切り出した外装フィルム用のラミネート材料におけるシール部(4d)を除く3辺を、加熱ヒータにつなげたバー形状の金型を用いて溶着することにより、袋状の外装フィルム(4)を作製した。その外装フィルム(4)内に、「EC:DEC=1:1+1molLiPF6」の組成を有する擬似電解液を10g投入した後、上記リード端子(5)(6)を所定量差し込み、外装フィルム(4)のシール部(4d)によって、封止フィルム(7)を介してリード端子(5)(6)を挟み込んだ状態で、シール部(4d)を互いに溶着して密封状態とし、実施例1の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0076】
<実施例2>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、F5値が、13.2N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例2の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0077】
<実施例3>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点165℃のポリ塩化ビニリデンからなり、F5値が、13.9N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0078】
<実施例4>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ20μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ60μm、融点168℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、最外層(73)が、厚さ20μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、F5値が、14.8N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例4の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0079】
<実施例5>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点143℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点148℃のポリ塩化ビニリデンからなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点145℃のポリプロピレン(ランダムポリマー)からなり、F5値が、14.1N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例5の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0080】
<実施例6>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点168℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点160℃のポリプロピレン(ブロックポリマー)からなり、F5値が、14.9N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例6の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0081】
<実施例7>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ40μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ20μm、融点168℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、最外層(73)が、厚さ40μm、融点134℃のマイレン酸変性ポリプロピレンからなり、F5値が、12.1N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、実施例7の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0082】
<比較例1>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃の酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点264℃のポリエチレンテレフタレートからなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点134℃の酸変性ポリプロピレンからなり、F5値が、65.0N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、比較例1の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0083】
<比較例2>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃の酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点272℃のポリエチレンテレナフタレートからなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点134℃の酸変性ポリプロピレンからなり、F5値が、83.0N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0084】
<比較例3>
表1に示すように、封止フィルム(7)として、最内層(71)が、厚さ30μm、融点134℃の酸変性ポリプロピレンからなり、中間絶縁層(72)が、厚さ40μm、融点165℃のポリプロピレン(ホモポリマー)からなり、最外層(73)が、厚さ30μm、融点145℃のポリプロピレン(ランダムポリマー)からなり、F5値が、18.3N/mm2のものを用い、それ以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3の電気化学デバイスサンプルを得た。
【0085】
<シール性の評価>
こうして得られた実施例1〜7および比較例1〜3の各サンプルに対し、それぞれリード端子(5)(6)における封止フィルム被覆領域(シール部4dに対応する領域:熱溶着領域)において、リード端子(5)(6)の長さ方向に対し直交する方向に切断し、その断面をそれぞれ観察した。
【0086】
その結果、実施例1〜7のサンプルでは、図9に示すように、リード端子(5)(6)と封止フィルム(7)との間、特にリード端子(5)(6)の側縁部付近に、隙間等の空洞部が一切形成されておらず、封止フィルム(7)が、リード端子(5)(6)の全周にわたって隙間なく確実に密着しており、十分なシール性が確保されていることが確認された。
【0087】
これに対し、比較例1〜3のサンプルでは、図10に示すように、リード端子(5)(6)と封止フィルム(7)との間におけるリード端子(5)(6)の側縁部に、空洞部(8)が形成されていた。つまり、比較例1〜3のサンプルは、実施例のものと比較して、封止フィルム(7)が、リード端子(5)(6)の全周に隙間なく密着しておらず、シール性に劣っていることが確認された。
【0088】
<耐久性の評価>
実施例1〜7および比較例1〜3の各サンプルに対し、質量(重量)を測定してから、タブ部(リード端子引出部)が下向きになるように静置して85℃の温度下で1週間放置する保存テストを行った。そして保存テストの終了後に、質量を測定し、保存テスト前後の質量差を測定した。その結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2から明らかように、実施例1〜7のサンプルでは、保存テスト前後において質量差が認められず、長期間の過酷な環境下であっても、電解質の漏出等の不具合がなく、長期間安定したシール性が得られ、耐久性に優れていることが確認された。
【0091】
これに対し、比較例1〜3のサンプルでは、保存テスト後に質量が減少しており、保存テスト期間中に、電解質の漏出があったものと認められる。つまり比較例1〜3のサンプルは、実施例のものと比較して、長期間安定したシール性を得ることが困難であり、耐久性に劣っていることが確認された。
【0092】
なお、本実施例では、特定の電解質および非水電解液を使用したが、本発明において、電池等の電気化学素子内の構成は限定されるものではなく、周知のものを適宜選択して使用することができる。例えば電解質として、KiPF6の他、LiBF4およびこれらを混合したもの等を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
この発明の電気化学デバイスは、薄型電池あるいは薄型キャパシター等として利用可能である。
【符号の説明】
【0094】
1・・・正極
2・・・負極
3・・・電解質
4・・・外装フィルム
41・・・内面層(内面側)
4d・・・外装フィルムのシール部
5,6・・・リード端子
5a,6a・・・リード端子の内端部(一端部)
5b,6b・・・リード端子の外端部(他端部)
7・・・・封止フィルム
71・・・最内層
72・・・中間絶縁層
73・・・最外層
10・・・電気化学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面側が熱接着性合成樹脂からなる外装フィルムと、前記外装フィルムに収容される電気化学素子と、内端部が前記電気化学素子に電気的に接続されて、外端部が前記外装フィルムの外部に配置されるリード端子と、前記リード端子の一部を被覆する封止フィルムとを備え、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を前記封止フィルムを介して挟み込んだ状態で、前記外装フィルムのシール部が溶着される電気化学デバイスであって、
前記封止フィルムは、前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、
前記封止フィルムは、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されていることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項2】
前記封止フィルムにおける最内層の融点と中間絶縁層の融点との差が5℃以上である請求項1に記載の電気化学デバイス。
【請求項3】
前記中間絶縁層が、ポリ塩化ビニリデンによって構成される請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項4】
前記中間絶縁層が、酸変性オレフィン樹脂によって構成される請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項5】
前記中間絶縁層が、マイレン酸によって変性されたオレフィン樹脂によって構成される請求項1または2に記載の電気化学デバイス。
【請求項6】
前記リード端子の厚みが0.2〜1.5mmである請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項7】
前記封止フィルムの厚みが、0.08〜0.25mmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項8】
前記封止フィルムの全厚に対し、中間絶縁層の厚みが20〜60%である請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気化学デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電気化学デバイスによって構成され、
前記電気化学素子が、少なくとも正極、負極、および正負両極間に介在される電解質を含む電池用発電要素によって構成されたことを特徴とする薄型電池。
【請求項10】
内面側が熱接着性合成樹脂からなり、シール部を除いた周縁部が融着された袋状の外装フィルムを準備する工程と、
一端部に電気化学素子が電気的に接続され、かつ一部が封止フィルムによって被覆されたリード端子を準備する工程と、
前記電気化学素子を前記外装フィルム内に収容するとともに、前記リード端子の他端部を外部に配置した状態で、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を前記封止フィルムを介して挟み込みつつ、前記外装フィルムのシール部を溶着する工程とを含み、
前記封止フィルムとして、前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されたものを用いることを特徴とする電気化学デバイス。
【請求項11】
内面側が熱接着性合成樹脂からなる外装フィルムと、前記外装フィルムに収容される電気化学素子と、内端部が前記電気化学素子に電気的に接続されて、外端部が前記外装フィルムの外部に配置されるリード端子とを備え、前記外装フィルムのシール部によって前記リード端子を挟み込んだ状態で、前記外装フィルムのシール部が溶着される電気化学デバイスにおいて、前記外装フィルムと前記リード端子との間に介在されるように、前記リード端子の一部を被覆する封止フィルムであって、
前記外装フィルムの内面側と相溶性を有する最外層と、前記リード端子と密着性を有する最内層と、前記最外層および前記最内層間に設けられ、かつ前記最内層よりも融点の高い中間絶縁層とを有し、
5%伸ばした際の引張強さが15N/mm2以下に調整されていることを特徴とする電気化学デバイスにおける封止フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−245000(P2010−245000A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95459(P2009−95459)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(501428187)昭和電工パッケージング株式会社 (110)
【Fターム(参考)】