説明

電気機械的に操作可能な駐車ブレーキを備えた組み合わせ式車両ブレーキおよび回転運動を並進運動に変換する伝動装置

本発明は、油圧操作可能な常用ブレーキと、電気機械的に操作可能な駐車ブレーキ装置とを備え、駐車ブレーキ装置が伝動装置1によってブレーキピストン5に作用し、伝動装置が多数の転動体4を介して互いに接触するねじ付きスピンドル2とねじ付きナット3を備えている、組み合わせ式車両ブレーキに関する。本発明はさらに、多数の転動体4を介して互いに接触するねじ付きスピンドルとねじ付きナットを備えている、回転運動を並進運動に変換するための伝動装置に関する。高い全体効率と同時に、電気的出力の低消費を達成するために、本発明によれば、転動体4が2個のストッパ21、22の間でねじ溝内に移動を制限されて配置され、第1ばね要素10が転動体4とストッパ21との間に配置され、伝動装置1が負荷されてない状態で操作されるときに、第1ばね要素が転動体4の滑りを可能にし、伝動装置1が負荷下で操作されるときに第1ばね要素が転動体4の転動を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧操作可能な常用ブレーキと、電気機械的に操作可能な駐車ブレーキ装置とを備え、ブレーキハウジング内において作動油圧室がブレーキピストンによって画成され、このブレーキピストンが常用ブレーキを実施するために液圧媒体で付勢可能であり、それによってブレーキピストンが制動作用を達成するためにピストン縦軸線に沿って操作可能であり、伝動装置が電気機械式アクチュエータの回転運動を並進運動に変換し、駐車ブレーキの過程を実施するためにブレーキピストンを操作し、かつ操作した位置に保持することにより、駐車ブレーキ装置が伝動装置によってブレーキピストンに作用し、伝動装置が多数の転動体を介して互いに接触するねじ付きスピンドルとねじ付きナットを備えている、組み合わせ式車両ブレーキに関する。本発明はさらに、多数の転動体を介して互いに接触するねじ付きスピンドルとねじ付きナットを備えている、回転運動を並進運動に変換するための伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的に操作可能な駐車ブレーキ装置を備えたこのような油圧式車両ブレーキは例えば特許文献1によって知られている。公知の車両ブレーキの場合、駐車ブレーキ力を得るためにねじ付きナット−スピンドル−構造体の作用原理に従って電動機の回転運動をブレーキピストンの縦方向運動に変換する伝動装置が設けられている。実施形態に従い、この伝動装置ユニットはいわゆる「スピンドル−/ボール循環ブッシュ構造体」として形成されている。この構造体はボールねじ装置またはボール循環スピンドルとも呼ばれる。このボールねじ装置は多数の転動体を介して互いに接触するねじ付きスピンドルとねじ付きナットを備えている。ボールとして形成された転動体を戻すために、例えば特許文献2に開示されているようなボール通路が設けられている。このボール通路は製作コストが高くつき、従って公知のボールねじ装置の製作は比較的に高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】独国登録特許第10150803B4号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102004038951A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の根底をなす課題は、電気機械的に操作可能な駐車ブレーキの伝動装置が低コストで製作可能であると同時に、駐車ブレーキの過程を実施するための電気的な出力消費を低減するために伝動装置が高い効率を有するように、冒頭に述べた種類の組み合わせ式車両ブレーキを改良することである。本発明の根底をなす課題はさらに、このような伝動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、請求項1の特徴を有する装置によって解決される。その際、転動体が2個のストッパの間でねじ溝内に移動を制限されて配置され、ばね要素が転動体とストッパとの間に配置され、伝動装置が負荷されてない状態で操作されるときに、ばね要素が転動体の滑りを可能にし、伝動装置が負荷下で操作されるときにばね要素が転動体の転動を可能にする。この手段により、転動体またはボールの戻しが不要である。なぜなら、ばね要素が転動体を転動させるために「緩衝体変位」を一時的に提供するからである。負荷しないで操作する際、転動体は滑る。ブレーキパッドが摩耗している場合には、調整を行うことができる。換言すると、本発明によって、調整装置と操作装置が1つの部品にまとめられ、部品の数が比較的に少なくなる。同時に、全体効率が比較的に高い。これは電気的な出力消費を低減し、駐車ブレーキの作動時間および停止時間を短縮することになる。
【0006】
本発明の他の有利な実施形は従属請求項2〜15から明らかである。本発明対象の特に有利な発展形態では、転動体と他のストッパとの間に配置された第2ばね要素が設けられている。この第2ばね要素は駐車ブレーキを弛める際に緩衝体として作用する。この緩衝体は駐車ブレーキの操作の前に高いブレーキ油圧が油圧式常用ブレーキ内で発生したときに使用される。この場合、駐車ブレーキを弛めるときのボールの転動変位は、操作時の転動変位よりも大きい。従って、反対方向の第2の「緩衝体変位」が有利である。
【0007】
有利な実施形では、ストッパがねじ付きナットに摩擦的に連結されているかあるいはねじ付きナットと一体に形成されている。
【0008】
ストッパはねじ付きナットに支持されたピンによって形成されている。その際、ピンはねじ付きナットの穴に圧入され、かつねじ付きナットのねじ溝内に達している。
【0009】
代替的な実施形の場合、ストッパは螺旋セグメント状の2個の閉塞要素によって形成され、取付け前のこの閉塞要素の直径はねじ溝の直径よりも大きい。取付け後に、螺旋セグメント状閉塞要素は弾性的な変形によってねじ付きナット内で摩擦連結的に位置決めされている。
【0010】
本発明対象の特に有利な実施形の場合、ねじ付きスピンドルの操作時にエネルギーを蓄積可能な機械式エネルギーアキュムレータが設けられている。その際、機械式エネルギーアキュムレータはねじり棒によって形成され、このねじり棒はねじ付きスピンドルの軸方向穴に収容され、かつ駆動装置とは反対側のねじ付きスピンドルの端部のところでねじ付きスピンドルにかみ合い連結および/または摩擦連結されている。ねじり棒の横断面は円形または長方形である。
【0011】
本発明対象の特に有利な発展形態では、ねじ付きスピンドルのカラーがブレーキハウジングの段付き穴に収容され、かつ第1スラストベアリングを介してブレーキハウジングに支持され、第2スラストベアリングがカラーとブレーキハウジングに連結されたポット状部材との間に配置され、かつピストン縦軸線に沿ったねじ付きスピンドルの移動を抑制する。その際、ポット状部材がブレーキハウジングの段付き穴に圧入され、かつねじ付きナットのためのストッパを形成していると有利である。
【0012】
本発明対象の他の有利な発展形態では、電気機械式アクチュエータとねじ付きスピンドルとの間に、二段式減速装置が接続配置され、減速装置の一方の段がセルフロックするように形成されている。
【0013】
本発明対象の有利な発展形態では、ねじ付きナットとブレーキピストンの相対運動が摩擦力を発生するように、ねじ付きナットがブレーキピストン内に嵌め込まれている。その代わりにまたはそれに追加して、シールリングがブレーキピストンとブレーキハウジングとの間に設けられ、ブレーキピストンとブレーキハウジングの相対運動時にこのシールリングが摩擦力を発生する。
【0014】
本発明の根底をなす課題は請求項16の特徴を有する伝動装置によって解決される。その際、転動体が2個のストッパの間でねじ溝内に移動を制限されて配置され、ばね要素が転動体とストッパとの間に配置され、伝動装置が負荷されてない状態で操作されるときに、ばね要素が転動体の滑りを可能にし、伝動装置が負荷下で操作されるときにばね要素が転動体の転動を可能にする。この手段により、転動体を転動させるためのころがり変位が一時的に提供され、それによって転動体の戻しを省略することができる。
【0015】
他の有利な実施形は従属請求項17〜22から明らかである。
【0016】
次に、2つの実施形態に基づいておよび添付の図に関連して本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】油圧操作可能な常用ブレーキと電気機械的に操作可能な駐車ブレーキを備えた本発明に係る車両ブレーキの断面図である。
【図2】図1に示した車両ブレーキの斜視図である。
【図3】図1、2に示した車両ブレーキで使用可能であり、かつばね要素のための一体化したストッパを備えている、本発明に係る伝動装置の第1実施形態を示す図である。
【図4】本発明に係る伝動装置の第2実施形態を示す図である。
【図5】図5a〜5dはばね要素用ストッパの他の実施形を示す、図3の伝動装置のいろいろな部分図である。
【図6】ばね要素用ストッパの他の実施形を示す断面図である。
【図7】図1の部分断面図である。
【図8】駐車ブレーキをかけるときと弛めるときの時間的な経過を示す図である。
【図9】駐車ブレーキをかけるときと弛めるときの電気機械式アクチュエータの締付け力と駆動モーメントを対比して示すグラフである。
【図10】図10a、10bは機械式エネルギーアキュムレータを統合した図3、4の伝動装置を示す図である。
【図11】図11a、11bは図9bに示した切断面に沿った横断面図である。
【図12】ブレーキピストンに嵌め込まれた図3、4の伝動装置を示す図である。
【図13】駐車ブレーキを弛めるときの電気機械式アクチュエータの電流消費の時間グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に示した本発明に係る車両ブレーキは一方において油圧操作可能な常用ブレーキを備え、そして他方において電気機械的に操作可能な駐車ブレーキ装置を備えている。車両ブレーキはブレーキハウジング29を備えている。このブレーキハウジングは図示していないブレーキディスクの外側エッジと、同様に図示していない2個のブレーキパッドとを取り囲んでいる。ブレーキハウジング29はその内側にブレーキシリンダ9を形成している。このブレーキシリンダはブレーキピストン5を軸方向に摺動可能に収容している。ブレーキシリンダ9とブレーキピストン5との間に形成された作動圧力室6内には、常用ブレーキによる制動を行うために、ブレーキ液を供給することができ、それによってブレーキピストン5をピストン縦軸線Aに沿って軸方向にブレーキディスクの方へ摺動させるブレーキ圧力が発生する。従って、ブレーキピストン5寄りのブレーキパッドがブレーキディスクに押し付けられる。この場合、その反作用として、ブレーキハウジング29は反対方向に摺動し、他のブレーキパッドをブレーキディスクに押し付ける。
【0019】
駐車ブレーキによる制動を行うための駐車ブレーキ装置は電気機械的に操作可能であり、同様にブレーキピストン5に作用する。そのために、伝動装置1が設けられている。この伝動装置は電気機械式アクチュエータ7の回転運動を並進運動に変換し、軸線Aに沿ってブレーキピストン5を操作する。伝動装置1は実質的に、転動体4を介して互いに連結されたねじ付きスピンドル2とねじ付きナット3によって形成されている。転動体4はボール4として形成されている。ねじ付きスピンドル2に連結された軸17はブレーキディスクとは反対側でブレーキハウジング29から突出し、そして図2に基づいて詳しく後述するように、二段式減速装置を介して電気機械式アクチュエータ7によって駆動される。ねじ付きスピンドル2に伝達される回転運動は、ねじ付きスピンドル2とねじ付きナット3との間のねじ溝内にあるボール4を介してねじ付きナット3に伝達され、このねじ付きナットは軸線A方向に並進運動を行う。それによって、ねじ付きナット3を支持しているブレーキピストン5が操作される。同時に、ねじ付きスピンドル2がそれに連結されたカラー27と第1スラストベアリング18を介してブレーキハウジング28に支持される。すなわち、伝動装置1は電気機械式アクチュエータ7の回転運動を直線運動に変換し、駐車ブレーキの制動を行うための締付け力を発生する働きをする。
【0020】
負荷下での伝動装置1の操作の際に、転動体4はねじ溝内で転動する。それによって、75〜90%の比較的に高い効率が達成される。それに対して、負荷されていない状態で伝動装置1が操作されると、転動体4は滑動する。すなわち、ブレーキピストン5に付設されたブレーキパッドが図示していないブレーキディスクに接触するまで、ボール4は滑動する。なぜなら、この場合、ほとんど負荷されていない操作であるからである。負荷下で初めて、ボール4は転動またはころがり始める。すなわち、伝動装置1は同時に、図示していないブレーキパッドが摩耗しているときの調整装置として作用する。別個の調整装置が省略されるかまたは調整装置と操作装置が1個の部品に統合されることにより、コストが非常に安くなり、同時に装置が頑丈になる。負荷下で転動体4が転動することができ、かつ伝動装置1の負荷されていない操作の際に転動体が滑動することができるようにするために、ばね要素10が設けられている。このばね要素は図3に基づいて詳しく後述するように、転動体を転動させるための転動変位を一時的に提供する。
【0021】
本発明に係る車両ブレーキが図2に三次元的に示してある。この図から明らかなように、電気機械式アクチュエータ7と軸との間に、二段式減速装置が接続配置されている。図2に示した実施形態では、二段式減速装置は二段式ウォームギヤ11、12として形成されている。ウォームギヤは、転動伝動装置と異なり、運動にスライド成分が存在するねじ転動伝動装置のカテゴリーである。このようなウォームギヤはねじ状の歯を有するホイール、すなわちウォームと、それにかみ合う斜めの歯を有するホイール、すなわちウォームホイールとからなっている。第1伝動装置段、すなわち第1ウォームギヤ11は、入力側が電気機械式アクチュエータ7の出力軸8に連結され、第2伝動装置段、すなわち第2ウォームギヤ12は出力側が軸17または伝動装置1に連結されている。図2に示すように、第1ウォーム13は電気機械式アクチュエータ7の出力軸8に嵌め込まれ、第1ウォームホイール14にかみ合っている。第2ウォーム15は第1ウォームホイール14の回転中心部に嵌め込まれ、この第1ウォームホイールによって回転させられる。この第2ウォーム15は第2ウォームホイール16にかみ合っている。この第2ウォームホイールは軸17に相対回転しないように連結され、ねじ付きスピンドル2と共に軸17を回転させ、既に説明したようにねじ付きナット3を並進運動させる。このようにして調整された締付け力を駐車ブレーキの過程中に維持するために、ウォームギヤはセルフロックするように形成しなければならない。本実施形態では、第1ウォームギヤ11は75%の効率を有し、一方、第2ウォームギヤは40%の効率を有すると共にセルフロックするように形成されている。それによって、合計効率は約30%である。ブレーキピストン5を操作するための伝動装置1と組み合わせた二段式減速装置11、12の全体の減速は350:1のオーダーである。同時に、車両ブレーキの軸方向長さが短くなる。
【0022】
図3には、伝動装置1の第1実施形態が示してある。図3に示すように、ボール4は2個のストッパ21、22の間において動きを制限されてねじ付きスピンドル2とねじ付きナット3との間のねじ溝内に配置されている。第1ストッパ21とボール4との間にはばね要素10が設けられている。このばね要素は負荷されていない状態で伝動装置1が操作されるときにボール4の滑動を可能にし、負荷下での伝動装置1の操作の際にボール4の転動を可能にする。というのは、ばね要素10が緩衝体として作用し、ボールの転動変位またはころがり変位を一時的に提供するからである。ストッパ21、22はねじ付きナットに摩擦連結されている。その代わりに、ストッパはねじ付きナット3と一体に形成可能である。
【0023】
図4に示した伝動装置1の第2実施形態は第2ばね20を備えている。この第2ばねは図示していない第2ストッパ22と転動体4との間に配置されている。この付加的な第2ばね20は駐車ブレーキを弛める際に緩衝体としての働きをする。駐車ブレーキの操作前に大きなブレーキ油圧が作動圧力室6内に込められたときに、この第2ばね要素20が使用される。この場合、駐車ブレーキを弛める際のボール4の転動のための変位は、駐車ブレーキを操作する場合よりも大きく、第2ばね要素20は緩衝体として、ボール4の転動変位を一時的に提供する。
【0024】
図3、4に示した両実施形態はねじ付きスピンドル2を備えている。このねじ付きスピンドルのピッチは1回転あたり3〜5mmである。ねじ付きナット3は好ましくは2〜5個のねじ溝を有する。
【0025】
図5a〜5dは図3、4に示したストッパ21、22の実施形態を示している。図5b、5dの両断面図から明らかなように、ストッパ21、22はねじ付きナット3の穴24、24′に圧入されたピン23によって形成されている。ねじ付きナット3のこの穴24、24′はそれぞれ、ねじ付きナット3のねじ溝に接続し、穴24、24′に圧入されたピン23はねじ付きナット3とスピンドル2との間のねじ溝内に達している。特に図5b、5dに示すように、第1ばね要素10はピン23に支持され、ボール4とストッパ21を形成するピン23との間に配置されている。もちろん、同じことが第2ストッパ22および第2ばね要素20にも当てはまる。
【0026】
図5b、5cに示すように、ピン23はばね要素10、20またはボール4のためのストッパ21、22として作用するだけでなく、スピンドル2上でのねじ付きナット3の直線運動の制限部材としても作用する。スピンドル2のねじ溝はカラー27の方に、ピン23と協働する末端面32を有する。この末端面はねじ溝を形成する溝の連続的な縮小部である。それによって、ねじ溝内に達するピン23が必要とするスペースが不要であり、ピン23が末端面32に当接する。その際、ピン23、末端面32およびねじ付きスピンドル2のカラー27は、ねじ付きスピンドル2のカラー27がねじ付きナット3の外面34に接触しないように互いに位置決めされている。この手段により、カラー27またはスピンドル2におけるねじ付きナット3のかみ込みが防止される。ねじ付きスピンドル2の他端、すなわちカラー27とは反対側のねじ付きスピンドル2の端部にも同様に第2末端面が設けられているが、図5a〜5dには示していない。
【0027】
図6に示した代替的な実施形態の場合、ストッパ21、22は2つの螺旋セグメント状の閉塞要素41、42によって形成されている。ねじ付きナット3とスピンドル2との間のねじ溝内に取付ける前のこの閉塞要素の直径は、ねじ溝の直径よりも大きい。螺旋セグメント状閉塞要素41、42は切断した円環面の形をし、弾性材料によって作られている。すなわち、閉塞要素は弾性的な変形によって圧縮可能である。閉塞要素41、42をねじ溝内に取付ける際に閉塞要素41、42は圧縮され、弾性変形の結果閉塞要素41、42は取付け後ねじ付きナット3内で摩擦連結的に位置決めされる。従って、閉塞要素41、42はその外周部がねじ付きナット3に摩擦連結的に支持され、同時にスピンドル2に対して接触個所を有していない。それによって、スピンドルは摩擦損失を生じないで回転することができる。図において右側の閉塞要素42は更に、第1ばね要素10のためのストッパ21としての働きをする。場合によって設けられる第2ばね要素20は図において左側に示した閉塞要素41と転動体4との間に配置されている。
【0028】
図7は、伝動装置1がどのように車両ブレーキへ統合されているかを示す図1の部分拡大図である。ねじ付きスピンドル2のカラー27はブレーキハウジング29の段付き穴30に収容され、第1スラストベアリング18を介してブレーキハウジング29に支持されている。第2スラストベアリング28はねじ付きスピンドル2のカラー27と、ブレーキハウジング29に連結されたポット状部材31との間に配置されている。ブレーキハウジング29の段付き穴30に圧入されたこのポット状部材31は第2スラストベアリング28と共に、2つの機能を有する。一方では、ピストン縦軸線Aに沿ったねじ付きスピンドル2の運動を抑制する。すなわち、スピンドル2は図7に示したその位置から引き出すことができない。他方では、詳しく後述するように、ねじ付きナット3のストッパおよびかみ込み防止部材としての働きをする。駐車ブレーキを弛める際にねじ付きナット3がスピンドル2のカラー27の方へ戻り運動を行うや否や、ねじ付きナット3の外面34がポット状部材31に接触して支持される。その際、スピンドル2を介して第2スラストベアリング28に軸方向の力が加えられる。しかし、スピンドル2は既に述べたように、段付き穴30から引き出されることはない。同時に、ねじ付きナット3とポット状部材31との間でかみ込みが生じることはない。というのは、第2スラストベアリング28のころがり抵抗モーメントが小さいからである。
【0029】
図8は駐車ブレーキをかける(締付ける)ときと弛めるときの時間的な経過を示す図である。作動油圧室6内に込められた油圧pは破線で示してあり、一方、電気機械的なアクチュエータ7と伝動装置1によって発生した締付け力Fは実線で示してある。従って、縦座標には油圧pと電気機械的な締付け力Fが記入されている。時点tで液圧媒体は作動圧力室6内に供給されておらず、駐車ブレーキは操作されていない状態にある。時点tで油圧pが作動圧力室に加えられる。ほとんど同時に発生する締付け力Fはボール4の負荷されない状態の滑りに相当し、締付け力の上昇ΔFRutschは油圧の予圧から生じる。時点tで本来の電気機械的な操作が始まる。時点tまでは転動体4が転動し、この転動は駐車ブレーキの締付け力Fが達成されるまで行われる。その際発生する付加的な締付け力ΔFRollは、転動体4の転動変位に比例する。従って、駐車ブレーキの締付け力Fは、作動圧力室6内の油圧の予圧に相当する締付け力ΔFRutschと、重ね合わされた電気機械的な操作ΔFRollとからなっている。時点tで作動圧力室内への油圧供給を終了した直後、油圧はp=0に低下し、駐車ブレーキの締付け力は値Fまでやや低下する。駐車ブレーキは締付け力Fで自動車を停止保持する。
【0030】
時点tで駐車ブレーキを弛めることは、負荷下での伝動装置1の操作によって行われ、これはボール4の転動と、力ΔFRollだけの締付け力の低下とをもたらす。この力はボール4の転動に相当する。転動時にばね要素10が圧縮されており、転動体4をさらに転動させるためのそれ以上の緩衝体変位は生じない。駐車ブレーキを完全に弛めるためには、さらに力ΔFRutschだけ締付け力を低下させる必要がある。この力はボール4の滑りに相当する。この締付け力低下が低い圧力レベルで行われるので、ボール4は滑ることができる。図4に示した第2の実施形態の場合には、その代わりに、第2ばね要素20の圧縮と、ボール4のさらなる転動が行われる。時点tで、締付け力Fはゼロまで低下し、自動車は制動されないので動くことができる。
【0031】
図9に示すグラフでは、締付け力Fが縦座標に、そして伝動装置1の合成駆動モーメントMが横座標に記入してある。実線の曲線は、作動圧力室6内に油圧を加えない、1個または2個のばね要素10、20を備えた伝動装置の状態を示す。点線は、図8に基づいて説明したような、駐車ブレーキをかける前の作動圧力室6への油圧の供給時と、駐車ブレーキを弛める前の油圧低下時の、ばね要素10を1個だけ備えた図3の伝動装置1の状態を示している。その際、駐車ブレーキを弛める際に、参照符号33で示すマイナスのモーメントが発生することが明らかである。このマイナスのモーメント33は駐車ブレーキを弛める際に転動体4の滑りによって発生し、しかも転動体がその前に既に転動し、ばね要素10が圧縮されていて、そして転動体4を更に転動させるためのさらなる緩衝体変位がもはや供されないときに発生する。このマイナスのモーメント33は図8の時点tとtとの間で発生し、破線で示すように第2ばね要素20によって回避される。
【0032】
伝動装置1の他の実施形態が図10a,10bに示してあり、この実施形態はねじ付きスピンドル2の操作時にエネルギーを蓄積可能な機械式エネルギーアキュムレータ19を備えている。この機械式エネルギーアキュムレータ19はねじ付きスピンドル2の軸方向穴に収容されたねじり棒25によって形成されている。すなわち、ねじ付きスピンドル2はねじり棒25を収容するために中空に形成されている。ねじり棒25は軸とは反対側のねじ付きスピンドル2の端部において、ねじ付きスピンドルにかみ合い連結または摩擦連結されている。そのために、ねじり棒25はこの端部に、横方向肉厚部35を備えている。ねじり棒25はこの横方向肉厚部によってスピンドル2内にかみ合い連結的に固定されている。他端は入力側の回転モーメントの受け入れ部36を備え、かつピン37によってスピンドル2の軸17にかみ合い連結されている。ピン37は同時に、付勢されたねじり棒25を固定する働きをする。さらに、スピンドル2の溝の形状によって、正確に定められたねじり変位が実現される。
【0033】
図11a、11bには、図10bの横断面D−DとE−Eが示してある。図11aには、ねじり棒25の横方向肉厚部35をスピンドル2にかみ合い連結する構造が示してある。スピンドル2のねじり角度を正確に定めることにより、モーメントのきわめて正確で再現可能な調節が実現可能である。要求に応じて、ねじり棒25の横断面を円形にまたは長方形にすることができる。
【0034】
ねじり棒25は調節された締付け力を維持するために設けられている。その際、ねじり棒25はモーメントの伝達経路内に配置され、スピンドル2に作用する。ねじり棒はスピンドル2の回転時に付勢可能または負荷可能であり、そして熱的な収縮作用を相殺する。それによって、ブレーキパッドに作用する締付け力はブレーキキャリパの範囲における熱に起因する長さ変化にほとんど左右されない。
【0035】
図12に示すように、伝動装置1のねじ付きナット3とブレーキピストン5の相対運動が摩擦力を生じるように、ねじ付きナット3がブレーキピストン5内に嵌め込まれている。この摩擦力は図12において力の矢印38によって示してある。さらに、図1に関連して既に説明した、ブレーキピストン5とブレーキハウジング29との間のシールリング26は、ブレーキピストン5とブレーキハウジング29との間の相対運動時に力の矢印39によって示す他の摩擦力を生じるように形成されている。締付け力を得るために伝動装置1を操作する際、ねじ付きナット3はブレーキピストン5にかみ合い連結的に支持され、そしてねじ付きナットとブレーキピストン5が端面で接触するまで、ねじ付きナットはピストン縦軸線に沿って図において左側へ移動する。締付け力が上昇する。
【0036】
駐車ブレーキを弛める際に、締付け力が低下した後で、ねじ付きナット3がブレーキピストン5から引き出されるかまたはブレーキピストンが図示していないブレーキハウジング29内に引っ込められる。その際、ねじ付きナット3とブレーキピストン5との間の摩擦力に逆らってあるいはシールリング26の摩擦力に逆らって、作業が行われる。摩擦力と反対向きのこの作業は図13に示した消費電流において認められる。図13に示した、駐車ブレーキを弛める際の消費電流は先ず最初に最小値を有し、その後で摩擦力に逆らう上記の作業が参照符号40で示す新たな電流上昇を生じる。この電流上昇40は電流遮断信号として利用される。すなわち、電流上昇40が電気機械式アクチュエータ7を作動停止する信号である。というのは、駐車ブレーキが完全に弛められているからである。
【0037】
伝動装置構造体の全体効率が高く、それに伴い電気的な出力消費が小さいことが本発明の効果として見なされる。小さな作動音はノイズ対策を施した、ラバーダンパに支承されたウォームギヤ11、12を使用することによって達成され、そして機械式エネルギーアキュムレータを統合することによって、熱負荷されたブレーキの、冷却中の締め直しが不要である。
【符号の説明】
【0038】
1 伝動装置
2 スピンドルまたはねじ付きスピンドル
3 ねじ付きナット
4 転動体またはボール
5 ブレーキピストン
6 作動油圧室
7 電気機械式アクチュエータ
8 出力軸
9 ブレーキシリンダ
10 第1ばね要素
11 第1ウォームギヤ
12 第2ウォームギヤ
13 第1ウォーム
14 第1ウォームホイール
15 第2ウォーム
16 第2ウォームホイール
17 軸
18 第1スラストベアリング
19 エネルギーアキュムレータ
20 第2ばね要素
21 第1ストッパ
22 第2ストッパ
23 ピン
24、24′ 穴
25 ねじり棒
26 シールリング
27 カラー
28 第2スラストベアリング
29 ブレーキハウジング
30 段付き穴
31 ポット状部材
32 末端面
33 マイナスのモーメント
34 ねじ付きナットの外面
35 横方向肉厚部
36 収容部
37 ピン
38 力の矢印
39 力の矢印
40 電流上昇
41 閉塞要素
42 閉塞要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧操作可能な常用ブレーキと、電気機械的に操作可能な駐車ブレーキ装置とを備える組み合わせ式車両ブレーキであって、
その際、ブレーキハウジング(29)内において作動油圧室(6)がブレーキピストン(5)によって画成され、このブレーキピストンが常用ブレーキを実施するために液圧媒体で付勢可能であり、それによってブレーキピストン(5)が制動作用を達成するためにピストン縦軸線(A)に沿って操作可能であり、
伝動装置(1)が電気機械式アクチュエータ(7)の回転運動を並進運動に変換すること、駐車ブレーキの過程を実施するためにブレーキピストン(5)を操作すること、および操作した位置に保持することにより、駐車ブレーキ装置が伝動装置(1)によってブレーキピストン(5)に作用し、
伝動装置(1)が多数の転動体(4)を介して互いに接触するねじ付きスピンドル(2)とねじ付きナット(3)を備えている組み合わせ式車両ブレーキにおいて、
転動体(4)が2個のストッパ(21、22)の間でねじ溝内に移動を制限されて配置されており、
ばね要素(10)が転動体(4)とストッパ(21)との間に配置され、伝動装置(1)が負荷されてない状態で操作されるときに、前記ばね要素が転動体(4)の滑りを可能にし、伝動装置(1)が負荷下で操作されるときに、前記ばね要素が転動体(4)の転動を可能にすることを特徴とする組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項2】
転動体(4)と他のストッパ(22)との間に配置された第2ばね要素(20)が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項3】
ストッパ(21、22)がねじ付きナット(3)に摩擦的に連結されているかまたはねじ付きナット(3)と一体に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項4】
ストッパ(21、22)がねじ付きナット(3)に支持されたピン(23)によって形成されていることを特徴とする請求項3に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項5】
ピン(23)がねじ付きナット(3)の穴(24、24′)に圧入され、かつねじ付きナット(3)のねじ溝内に達していることを特徴とする請求項4に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項6】
ストッパ(21、22)が螺旋セグメント状の2個の閉塞要素(41、42)によって形成され、取付け前のこの閉塞要素の直径がねじ溝の直径よりも大きく、取付け後に閉塞要素が弾性的な変形によってねじ付きナット(3)内で摩擦連結的に位置決めされていることを特徴とする請求項3に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項7】
ねじ付きスピンドル(2)の操作時にエネルギーを蓄積可能な機械式エネルギーアキュムレータ(19)が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項8】
機械式エネルギーアキュムレータ(19)がねじり棒(25)によって形成され、このねじり棒がねじ付きスピンドル(2)の軸方向穴に収容され、かつ駆動装置とは反対側のねじ付きスピンドル(2)の端部のところでねじ付きスピンドル(2)にかみ合い連結および/または摩擦連結されていることを特徴とする請求項7に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項9】
ねじり棒(25)の横断面が円形または長方形であることを特徴とする請求項8に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項10】
ねじ付きスピンドル(2)のカラー(27)がブレーキハウジング(29)の段付き穴(30)に収容され、かつ第1スラストベアリング(18)を介してブレーキハウジング(29)に支持され、第2スラストベアリング(28)がカラー(27)とブレーキハウジング(29)に連結されたポット状部材(31)との間に配置され、かつピストン縦軸線(A)に沿ったねじ付きスピンドル(2)の移動を抑制することを特徴とする請求項9に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項11】
ポット状部材(31)がブレーキハウジング(29)の段付き穴(30)に圧入されていることを特徴とする請求項10に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項12】
ポット状部材(31)がねじ付きナット(3)のためのストッパを形成していることを特徴とする請求項10または11に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項13】
電気機械式アクチュエータ(7)とねじ付きスピンドル(2)との間に、二段式減速装置が接続配置され、減速装置の一方の段がセルフロックするように形成されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれか一項に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項14】
ねじ付きナット(3)とブレーキピストン(5)の相対運動が摩擦力を発生するように、ねじ付きナット(3)がブレーキピストン(5)内に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項15】
シールリング(26)がブレーキピストン(5)とブレーキハウジング(29)との間に設けられ、ブレーキピストン(5)とブレーキハウジング(29)の相対運動時にこのシールリングが摩擦力を発生することを特徴とする請求項1〜14のいずれか一項に記載の組み合わせ式車両ブレーキ。
【請求項16】
多数の転動体(4)を介して互いに接触するねじ付きスピンドル(2)とねじ付きナット(3)を備えている、回転運動を並進運動に変換するための伝動装置(1)において、
転動体(4)が2個のストッパ(21、22)の間でねじ溝内に移動を制限されて配置され、ばね要素(10)が転動体(4)とストッパ(21)との間に配置され、伝動装置(1)が負荷されてない状態で操作されるときに、前記ばね要素が転動体(4)の滑りを可能にし、伝動装置(1)が負荷下で操作されるときに前記ばね要素が転動体(4)の転動を可能にすることを特徴とする伝動装置(1)。
【請求項17】
転動体(4)と他のストッパ(22)との間に配置された第2ばね要素(20)が設けられていることを特徴とする請求項16に記載の伝動装置(1)。
【請求項18】
ストッパ(21、22)がねじ付きナット(3)に摩擦的に連結されているかまたはねじ付きナット(3)と一体に形成されていることを特徴とする請求項16または17に記載の伝動装置(1)。
【請求項19】
ストッパ(21、22)がねじ付きナット(3)に支持されたピン(23)によって形成され、ピン(23)がねじ付きナット(3)の穴(24、24′)に圧入され、かつねじ付きナット(3)のねじ溝内に達していることを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の伝動装置(1)。
【請求項20】
ストッパ(21、22)が螺旋セグメント状の2個の閉塞要素(41、42)によって形成され、取付け前のこの閉塞要素の直径がねじ溝の直径よりも大きく、取付け後に閉塞要素が弾性的な変形によってねじ付きナット(3)内で摩擦連結的に位置決めされていることを特徴とする請求項16〜18のいずれか一項に記載の伝動装置(1)。
【請求項21】
ねじ付きスピンドル(2)の操作時にエネルギーを蓄積可能な機械式エネルギーアキュムレータ(19)が設けられていることを特徴とする請求項16〜20のいずれか一項に記載の伝動装置(1)。
【請求項22】
機械式エネルギーアキュムレータ(19)がねじり棒(25)によって形成され、このねじり棒がねじ付きスピンドル(2)の軸方向穴に収容され、かつ駆動装置とは反対側のねじ付きスピンドル(2)の端部のところでねじ付きスピンドル(2)にかみ合い連結および/または摩擦連結されていることを特徴とする請求項21に記載の伝動装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2010−505072(P2010−505072A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529695(P2009−529695)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/060213
【国際公開番号】WO2008/037738
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【Fターム(参考)】