説明

電気自動車用インホイール型軸継手

【課題】減衰機能を備えた電気自動車用インホイール型軸継手を提供する。
【解決手段】本発明は、ホイール内に設置される円筒状のケース5と、このケース内に前記ケースの中心線と平行、かつ中心線と直交方向に変位可能に配置され、電気自動車の駆動輪に回転を伝達する回転軸2と、前記回転軸の変位を減衰する減衰手段20、34と、を備え、前記ケースは電気自動車の懸架装置30に固定されることを特徴とする電気自動車用インホイール型軸継手である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用インホイール型軸継手の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、低速高トルクが要求される電動機に対応する電動機として、回転軸方向に固定子と回転子とが対向して配置される軸方向空隙型電動機がある。従来の軸方向空隙型電動機は、コイルが巻回される固定子と、このコイルに回転軸方向に対向して配置され、複数対の永久磁石が周方向起磁力形に配置される回転子とからなり、固定子コイルに電流を流して回転磁界を発生させ、これに伴い固定子と回転子との間の磁気的な吸引力および反発力によって、回転子を回転させるものである(特許文献1、2参照のこと)。
【0003】
このような軸方向空隙型電動機を電気自動車のホイール内に設置して(インホイールモータという)、電気自動車の駆動源として用いる技術がある(特許文献3参照のこと)。
【特許文献1】特開2002−153028号公報
【特許文献2】特開平11−187635号公報
【特許文献3】特開2006−211764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特に、電気自動車の駆動源としてインホイールモータを用いた場合には、いわゆるバネ下重量が増加するため、車体への入力が増加して乗り心地が悪化する恐れがある。
【0005】
本発明は上記の問題点を解消する減衰作用を備え、インホイールモータに適用し得る電気自動車用インホイール型軸継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ホイール内に設置される円筒状のケースと、このケース内に前記ケースの中心線と平行、かつ中心線と直交方向に変位可能に配置され、電気自動車の駆動輪に回転を伝達する回転軸と、前記回転軸の変位を減衰する減衰手段と、を備え、前記ケースは電気自動車の懸架装置に固定されることを特徴とする電気自動車用インホイール型軸継手である。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ホイール内に設置したケースの内側に回転軸の変位を減衰する減衰手段を設けたので、回転軸から車体に伝達される入力を減少させることができ、乗り心地を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0009】
本発明を適用する電気自動車用インホイール型軸継手をインホイールモータに適用した構成を図1に示す。図1に示すインホイールモータは、軸方向空隙型電動機1であって、図1は、軸方向空隙型電動機1の構成を示す断面図で、ロータ軸2の回転中心線(以下、中心線X1という。)がケース5の中心線に対して偏心している状態を示す。
【0010】
本実施形態において、被回転部材を回転するロータ軸2と、ロータ軸2に固定された回転子3と、ロータ軸2の中心線X1方向に所定の空隙をもって回転子3に対向するように設けられた一対の固定子4とからなる電動機部1aを、ロータ軸方向に二列に配置して、ケース5内に収納し、軸方向空隙型電動機1を構成する。
【0011】
各電動機部1aを収納するケース5は、電気自動車のホイール内に設置され、有底円筒形状を有する本体部5a、この本体部5aの開口端を塞ぐとともに、ロータ軸2が貫通する空間5dを備える蓋部5bと、ケース内を円筒形のケース5の中心線X2に直交する方向に仕切るように配置される中空円板状の仕切板5cとから構成される。仕切板5cは、ケース5内を中心線X2方向に並ぶ2つの互いに等しい形状の空間部5x、5yに区画するとともに、その中心部にロータ軸2が挿通される。電動機部1aはそれぞれ空間部5x、5y内に配置される。
【0012】
図2は、回転子3の形状を説明する図である。回転子3は図示しない被回転部材に接続するロータ軸2の中心線X1から直交方向に延出する4本の等長の腕部6を備える。これら腕部6は周方向に等間隔(図2では90°間隔)で配置される。各腕部6の外周側の先端部には各腕部6を連結する円筒状のリング部材7が固定される。
【0013】
図1に示すように、回転子3の腕部6には、永久磁石12が取り付けられる。永久磁石12は、それぞれ例えば図3に示すように中心線X1方向から見て略扇状に形成され、各腕部6の中間部を挟持するように固定される。永久磁石12は、両側の端面12aがそれぞれロータ軸2の中心線X1に直交する面に平行に形成される。なお、腕部6の数、形状等は実施形態に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0014】
ロータ軸2の中心線X1方向において、回転子3の永久磁石12の両側にそれぞれ対向する位置には、それぞれ一対の固定子4がケース5のロータ軸の中心線X1に直交する面5eと同じく仕切板5cの面5eに固定される。固定子4は、ケース5に固定されたヨーク部8と、固定子4の中心線X2方向から見て略扇状の形状を有するティース部9と、ティース部9に巻回されるコイル10とから構成される。ヨーク部8は、ティース部9をケース5に固定する。ティース部9の磁束を周方向に回して別のティース部9へ流す役割を果す。ティース部9は、中心線X1方向にヨーク部8から回転子3側に突出して形成され、その端面は永久磁石12の端面12aに平行に形成される。またコイル10は図示しない絶縁体等を介して、ティース部9から絶縁される。
【0015】
各電動機部1aがケース5内に配置された状態で、回転子3と、回転子3に相対する一対の固定子4との中心線X1方向のそれぞれの空隙14は所定値となるように設置される。
【0016】
回転子3の各腕部6の先端部を連結する円筒状のリング部材7は、中心線X1を回転中心として形成される。リング部材7のロータ軸2の中心線X1方向の両側の端面7aは、ケース5の内面5eとそれぞれ対面し、中心線X1に直交するように形成される。これら両端面7aとケース5の面5eとの間にそれぞれベアリング13が設置される。このベアリング13は例えばリング部材7と同径の円環状に配置され、ケース5に対してロータ軸2が中心線X1に直交する方向に摺動することを許容する。さらにリング部材7がケース5に摺接した状態でロータ軸2の中心線X1回りの回転を可能とする。なお、ベアリング13としてはスライドベアリング等が考えられるが、これに限らず、回転子3のケース5に対する摺動と回転子3の回転を可能とする手段であればよい。
【0017】
ここで、ケース5のロータ軸2が貫通する空間5dは、ロータ軸2の直径に対して所定量だけ大きく形成される。前述のように回転子3は、中心線X1に直交する方向に摺動可能に構成されるが、この空間5dの寸法とロータ軸2の直径との差によって、回転子3がケース5に対してロータ軸2の中心線X1に直交する方向の移動量が規定される。
【0018】
リング部材7の外周側には、ロータ軸2の中心線X1を中心線とする円筒状の支持部材15が所定の間隙をもって配置される。支持部材15は、ケース5の内面5eに摺接しながら移動可能に構成される。この支持部材15とリング部材7との間にはベアリング16が介装され、相対回転可能に形成される。
【0019】
支持部材15の外周面とケース5の内周面5fとの間には仕切板5cを介して2つに分割された環状の環状空間部5x1、5y1が区画される。環状空間部5x1、5y1は、回転子3がケース5内において、ロータ軸2の中心線X1に直交方向へ変位するのに伴い支持部材15が変位することで、その断面が変形可能に構成される。ここで支持部材15は、その内周面にベアリング16を介して回転子3のリング部材7を支持しているため、リング部材7が回転しても支持部材15は回転することなく、主としてロータ軸2の中心線X1に対する直交方向に変位するのみである。
【0020】
図3を用いて、本発明のインホイール型軸継手の構成を説明する。図3は、支持部材15により区画された環状空間部5x1、5y1内の構成を示す断面図であり、環状空間部5x1、5y1はそれぞれ同様の構成を備えるため、図3では環状空間部5y1の構成を代表して説明する。
【0021】
図3に示すように支持部材15により区画された環状空間部5y1は、支持部材15の外周に設けられた区画板17a〜17hによりさらに周方向にそれぞれ偶数個、図では8つの密閉された隔室5ya〜5yhに区画される。これら8つの隔室5ya〜5yhは、ロータ軸2の回転中心線X1とケース5の中心線X2とが同一中心線となる場合において、その容積が互いに等しくなるように区画される。区画板17a〜17hは、その基端が支持部材15に揺動可能に支持され、その揺動中心に捩りコイルバネ18などの付勢手段が配置される。このため区画板17a〜17hの外端は、ケース5の内周面5fに常時押し付けられる。なお、区画板17a〜17hの長さは、支持部材15とケース5の間に形成される最大隙間よりも大きく設定され、これにより、隔室5ya〜5yhが変形しても、必ずケース5の内周面5fに接触することが可能となっている。隔室5ya〜5yh内には、例えば、空気、水及びMR流体が所定の圧力でもって封入される。
【0022】
したがって、ロータ軸2は、支持部材15を介してケース5の内周面5fに対して捩りコイルバネ18により浮動的に支持された構成となる。このため、各捩りコイルバネ18のバネ特性を同じとすると、ケース5に対して支持部材15がロータ軸2の直交方向に変位した場合に、隔室5ya〜5yhに封入した流体の圧力とともに、捩りコイルバネ18の作用によりロータ軸2にはケース5と同軸となるような付勢力が作用することになる。したがって、ロータ軸2にその中心線X1に対して直交する方向の外力が作用しない場合には、隔室5ya〜5yhの流体の圧力と、捩りコイルバネ18は、ロータ軸2の中心線X1とケース5の中心線X2とを一致させるように保持する。
【0023】
また、偶数個の隔室5ya〜5yhを区画する区画板17a〜17hは、1つ置きに周方向に貫通するオリフィス状の貫通孔20を備える。つまり、例えば区画板17b、17d、17f、17hに貫通孔20が形成される。このような構成により、例えば貫通孔20を備えた区画板17bを挟んで区画された隔室5ybと5ycとの間で容積差(=圧力差)が生じ、区画板17aと17bで区画された隔室5yb内の流体が貫通孔17bを通じて区画板17bと17cで区画された隔室5ycとの間で流通可能となり、オリフィス状に形成された貫通孔20の作用により減衰効果が生じる。なお、密閉される流体としてMR流体を用いる場合には、貫通孔20は回転子3及び固定子4近くに設けることが好ましいので、支持部材15近くに形成する。
【0024】
したがって、本発明のインホイール型軸継手は、ケース5内において、支持部材15と区画板17a〜17hと貫通孔20とから構成される。なお、1つ置きの区画板17b、17d、17f、17hに形成された貫通孔20が減衰手段として機能し、また、捩りコイルバネ18が付勢手段として機能する。
【0025】
このように構成されたインホイール型軸継手は、ケース5の本体部5aから電気自動車内側に延出するフランジ部5gを介して、コイルスプリングや減衰装置等からなる懸架装置、例えば図ではストラット30に接続される。
【0026】
ストラット30の下部にはブラケット31が固定されており、このブラケット31はストラット30の軸方向から見てコの字状に形成され、ブラケット31にはボルト32が貫通するボルト孔が形成される。一方、ケース5のフランジ部5gにもボルト32が貫通するボルト孔が形成され、ブラケット31の間にフランジ部5gを配置し、ボルト32の締結によりフランジ部5gにブラケット31が固定され、インホイール型軸継手がストラット30に接続される。
【0027】
図4は、本実施形態の振動モデルである。車体とタイヤ間には軸方向空隙型電動機1の固定子4(ケース5)と、軸方向空隙型電動機1の回転子3(ロータ軸2)に接続するホイール及びブレーキが配置される。車体と固定子4との間はストラット30と不図示のスプリングにより支持され、固定子4と回転子3との間は減衰手段としての貫通孔20と、付勢手段としての捩りコイルバネ18により支持される。さらにホイール及びブレーキはタイヤを介して路面に接地するため、タイヤの減衰特性及び付勢力により支持される。
【0028】
なお、本実施形態では、回転子3に永久磁石12を、固定子4にコイル10を設置したが、逆に回転子にコイルを、固定子に永久磁石を設けるようにしてもよい。
【0029】
次に作用を説明する。
【0030】
本発明の電気自動車用インホイール型軸継手は、ロータ軸2に連結するリング部材7に対してロータ軸2の中心線X1回りに相対回転可能に支持される支持部材15がケース5との間に環状空間部5x1、5y1を区画し、支持部材15とケース5との間に捩りコイルバネ18で付勢された区画板17が介在する。このため、ロータ軸2の中心線X1をケース5の中心線X2から偏芯させようとする外力がロータ軸2に作用した場合に、この外力に抗して中心線X1、X2が一致するように隔室5ya〜5yhに封入した流体の圧力及び捩りコイルバネ18の付勢力が作用する。このため、外力の減少に伴いロータ軸2の中心線X1とケース5の中心線X2とを同軸上に維持しやすくなる。
【0031】
また、外力が作用しない場合や被回転部材が接続されていない場合には、隔室5ya〜5yhに封入した流体の圧力及び捩りコイルバネ18の作用により、ロータ軸2の中心線X1とケース5の中心線X2とを同一とする調芯作用が生じ、同一中心線とすることができる。
【0032】
また、隔室5ya〜5yhを密閉する区画板17a〜17hの内、一つ置きにオリフィス状の貫通孔20を形成した。このため、ロータ軸2がロータ軸2の直交方向にケース5に対して摺動するのに伴って隔室5ya〜5yhの容積変化が生じる場合、貫通孔20を備えた区画板17b、17d、17f、17hの周方向にて両側に位置する隔室5ya〜5yh間を流体が貫通孔20を通過して行き来する際に貫通孔20のオリフィス効果により抵抗が生じて、ロータ軸2の中心線X2に直交する方向の摺動を減衰することができる。この減衰効果は、貫通孔20を備えた区画板17b、17d、17f、17hを挟んで位置する隔室5ya〜5yh間の相互の容積差が大きいほど効果的である。したがって、例えばロータ軸2の回転時の振動により隔室5ya〜5yhに圧力変化が生じる場合、所定の区画板17b、17d、17f、17hに設けた貫通孔20の減衰効果によりロータ軸2の回転振動を低減することができる。
【0033】
また、本実施形態のインホイール型軸継手はストラット30を介して車体(懸架装置)に固定されており、貫通孔20の減衰作用とコイルバネ18の付勢作用によって、駆動輪側から入力される外力が吸収され、車体に入力される外力を減少する。これにより、バネ下重量の増加に伴う電気自動車の乗り心地の悪化を抑制することができる。また、ケース5内に減衰手段としての貫通孔20と付勢手段としての捩りコイルバネ18を備えたので、これらが懸架装置として機能し、懸架装置のストローク量を同一とした場合には、ストラット30のストローク量を減少させて、ストラット30を小型化することができる。
【0034】
図5は、第2の実施形態のインホイール型軸継手の構成を示す断面図である。第1の実施形態では、ケース5内において、回転子3の外周側に付勢手段としての捩りコイルバネ18と、減衰手段としての貫通孔20を配置する構成として、図3に示すように回転子3と固定子4との偏芯が車両前後方向及び上下方向の場合に減衰作用及びスプリング作用が生じる構成とした。これに対して、この第2の実施形態では、ロータ軸2とケース5との間に、回転子3を介することなく、付勢手段(コイルスプリング33)と減衰手段(油圧ダンパ34)とを設置する構成とした。以下、図5を用いて詳細を説明する。
【0035】
図5は、本発明を適用する電気自動車用インホイール型軸継手をインホイールモータに適用した第2の実施形態としての構成を示す。図5に示すインホイールモータは、軸方向空隙型電動機1であって、ロータ軸2の回転中心線(以下、中心線X1という。)がケース5の中心線に対して偏心している状態を示す。
【0036】
本実施形態において、被回転部材を回転するロータ軸2と、ロータ軸2に固定された回転子3と、ロータ軸2の中心線X1方向に所定の空隙をもって回転子3に対向するように設けられた一対の固定子4とからなる電動機部1aを、ロータ軸方向に二列に配置して、ケース5内に収納し、軸方向空隙型電動機1を構成する。
【0037】
各電動機部1aを収納するケース5は、電気自動車のホイール内に設置され、有底円筒形状を有する第1本体部5a、この第1本体部5aの開口端を塞ぐとともに、ロータ軸2が貫通する空間5dを備える蓋部5bと、ケース内を円筒形のケース5の中心線X2に直交する方向に仕切るように配置される中空円板状の仕切板5cとから構成される。仕切板5cは、ケース5内を中心線X2方向に並ぶ2つの互いに等しい形状の空間部5x、5yに区画するとともに、その中心部にロータ軸2が挿通される。電動機部1aはそれぞれ空間部5x、5y内に配置される。
【0038】
さらに、ケース5には、第1本体部5aの底部5hに、その開口部が固定される有底円筒状の第2本体部5iが設置される。ロータ軸2は、第1本体部5aを貫通して、第2本体部5iの内部まで延出する。ここで、ロータ軸2が貫通する第1本体部5aの貫通孔5jの径は、ロータ軸2の固定子4に対する偏芯量を考慮して設定される。
【0039】
図6は、回転子3の形状を説明する図である。回転子3は図示しない被回転部材に接続するロータ軸2の中心線X1から直交方向に延出する4本の等長の腕部6を備える。これら腕部6は周方向に等間隔(図6では90°間隔)で配置される。各腕部6の外周側の先端部には各腕部6を連結する円筒状のリング部材7が固定される。また、ロータ軸2には、ロータ軸2の中心線X1の直交方向に延出する円板状の鍔部2aが形成され、鍔部2aは後述するロータ軸2の偏芯方向を規制するリニアガイド35を固定部材37を押圧する。
【0040】
図5に示すように、第1本体部5a内に配置される回転子3の腕部6には、永久磁石12が取り付けられる。永久磁石12は、それぞれ例えば中心線X1方向から見て略扇状に形成され、各腕部6の中間部を挟持するように固定される。永久磁石12は、両側の端面12aがそれぞれロータ軸2の中心線X1に直交する面に平行に形成される。なお、腕部6の数、形状等は実施形態に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0041】
ロータ軸2の中心線X1方向において、回転子3の永久磁石12の両側にそれぞれ対向する位置には、それぞれ一対の固定子4がケース5のロータ軸の中心線X1に直交する面5eと同じく仕切板5cの面5eに固定される。固定子4は、ケース5に固定されたヨーク部8と、固定子4の中心線X2方向から見て略扇状の形状を有するティース部9と、ティース部9に巻回されるコイル10とから構成される。ヨーク部8は、ティース部9をケース5に固定する。ティース部9の磁束を周方向に回して別のティース部9へ流す役割を果す。ティース部9は、中心線X1方向にヨーク部8から回転子3側に突出して形成され、その端面は永久磁石12の端面12aに平行に形成される。またコイル10は図示しない絶縁体等を介して、ティース部9から絶縁される。
【0042】
各電動機部1aがケース5内に配置された状態で、回転子3と、回転子3に相対する一対の固定子4との中心線X1方向のそれぞれの空隙14は所定値となるように設置される。
【0043】
回転子3の各腕部6の先端部を連結する円筒状のリング部材7は、中心線X1を回転中心として形成される。リング部材7のロータ軸2の中心線X1方向の両側の端面7aは、ケース5の内面5eとそれぞれ対面し、中心線X1に直交するように形成される。これら両端面7aとケース5の面5eとの間にそれぞれベアリング13が設置される。このベアリング13は例えばリング部材7と同径の円環状に配置され、ケース5に対してロータ軸2が中心線X1に直交する方向に摺動することを許容する。さらにリング部材7がケース5に摺接した状態でロータ軸2の中心線X1回りの回転を可能とする。なお、ベアリング13としてはスライドベアリング等が考えられるが、これに限らず、回転子3のケース5に対する摺動と回転子3の回転を可能とする手段であればよい。
【0044】
ここで、ケース5のロータ軸2が貫通する空間5dは、ロータ軸2の直径に対して所定量だけ大きく形成される。前述のように回転子3は、中心線X1に直交する方向に摺動可能に構成されるが、この空間5dの寸法とロータ軸2の直径との差によって、回転子3がケース5に対してロータ軸2の中心線X1に直交する方向の移動量が規定される。
【0045】
第2本体部5i内には、前述の通りロータ軸2が配置され、ロータ軸2の外周に所定間隔を持って円筒状の固定部材37がロータ軸2と同軸上に配置される。ロータ軸2と固定部材37との間にベアリング36が配置され、固定部材37は、ベアリング36を介してロータ軸2を回転自在に支持する。第2本体部5iの底面5kに対面する固定部材37の端部に、底面5kと平行に、つまり回転子3の中心線X1に直交する方向に延出する円板状の面37aが形成される。そして、この面37aと第2本体部5iの底面5kとの間にリニアガイド35が設けられる。このリニアガイド35は、回転子3(ロータ軸2)の摺動方向を規制するものである。ここで、リニアガイド35は、図7に示すように、タイヤの移動軌跡に応じて、回転子3の略上下方向の摺動のみを許可するように配置され、好ましくは回転子3が上方向に摺動する際には、若干車両方向後側にも変位する摺動となるように配置される。ロータ軸2には前述の鍔部2aが形成されており、この鍔部2aは固定部材37を介してリニアガイド35を第2本体部5iの底部5kに押圧する。
【0046】
リニアガイド35により規制されるロータ軸2の摺動方向に伸縮する油圧ダンパ34が固定部材37と第2本体部5iとの間に配置され、ロータ軸2の摺動を減衰する。また、油圧ダンパ34と同様にリニアガイド35により規制される摺動方向に伸縮するコイルスプリング33が固定部材37と第2本体部5iとの間にロータ軸2を挟んで両側に配置され、ロータ軸2の中心線X1とケース5の中心線X2とを同一中心線となるようにロータ軸2を付勢する。
【0047】
したがって、本実施形態では、インホイール型軸継手は、ケース5の第2本体部5b内に設置された油圧ダンパ(減衰手段)34からなる。なお、コイルスプリング33が付勢手段として機能する。
【0048】
このように構成されたインホイール型軸継手は、ケース5の第2本体部5iから車両内側に延出するフランジ部5gを介して、例えば懸架装置を構成するストラット30に接続される。
【0049】
ストラット30の下部にはブラケット31が固定されており、このブラケット31はストラット30の軸方向から見てコの字状に形成され、ブラケット31にはボルト32が貫通するボルト孔が形成される。一方、ケース5のフランジ部5gにもボルト32が貫通するボルト孔が形成され、ブラケット31の間にフランジ部5gを配置し、ボルト32の締結によりフランジ部5gにブラケット31が固定され、インホイール型軸継手がストラット30に接続される。
【0050】
図8は、本実施形態の振動モデルである。車体とタイヤ間には軸方向空隙型電動機1の固定子4(ケース5)と、軸方向空隙型電動機1の回転子3(ロータ軸2)に接続するホイール及びブレーキが配置される。車体と固定子4との間はストラット30と不図示のスプリングにより支持され、固定子4と回転子3に接続するブレーキ及びホイールとの間は減衰手段としての油圧ダンパ34と、付勢手段としてのコイルスプリング33により支持される。さらにホイール及びブレーキはタイヤを介して路面に接地するため、タイヤの減衰特性及び付勢力により支持される。
【0051】
なお、本実施形態では、回転子3に永久磁石12を、固定子4にコイル10を設置したが、逆に回転子にコイルを、固定子に永久磁石を設けるようにしてもよい。
【0052】
次に作用を説明する。
【0053】
本実施形態の電動自動車用インホイール型軸継手は、ロータ軸2と同軸的に配置され、回転自在にロータ軸2を支持する固定部材37を設け、この固定部材37と第2ケース5iとの間にリニアガイド35を配置して、ロータ軸2の摺動方向を規定する。そしてロータ軸2の摺動方向に伸縮し、ロータ軸2の摺動を減衰する油圧ダンパ(減衰手段)34と、ロータ軸2の摺動方向に伸縮し、ロータ軸2とケース5との中心線とが同一となるようにロータ軸2を付勢するコイルスプリング(付勢手段)33とを備えた。さらに、第2ケース5iは懸架装置のストラット30に固定される。このような構成により、第1の実施形態と同様の効果を生じるとともに、第1の実施形態の軸方向空隙型電動機に対して、油圧ダンパ34とコイルスプリング33を直接的にロータ軸2上に設置したので、固定子4の中心線X2に直交する方向の寸法を抑制することができ、ホイールやタイヤの選択自由度を広げることができる。
【0054】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。なお、本実施形態では2列の電動機部1aを備えた軸方向空隙型電動機1を用いて説明するが、これに限らず、より複数個でも、あるいは1列の電動機部1aからなる軸方向空隙型電動機1であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の軸方向空隙型電動機の構成を説明する断面図である。
【図2】回転子の構成図である。
【図3】図1の断面A−Aの断面図である。
【図4】本実施形態の振動モデルである。
【図5】第2の実施形態の軸方向空隙型電動機の構成を説明する断面図である。
【図6】回転子の構成図である。
【図7】図5の断面B−Bの断面図である。
【図8】第2の実施形態の振動モデルである。
【符号の説明】
【0056】
1 軸方向空隙型電動機
1a 電動機部
2 ロータ軸
2a 鍔部
3 回転子
4 固定子
5 ケース
6 腕部
7 リング部材
8 ヨーク
9 ティース部
10 コイル
11 仕切板
12 永久磁石
13 ベアリング
14 空隙
15 支持部材
17a〜17h 区画板
18 捩りコイルバネ
20 貫通孔
30 ストラット
33 コイルスプリング
34 油圧ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイール内に設置される円筒状のケースと、
このケース内に前記ケースの中心線と平行、かつ中心線と直交方向に変位可能に配置され、電気自動車の駆動輪に回転を伝達する回転軸と、
前記回転軸の変位を減衰する減衰手段と、
を備え、前記ケースは電気自動車の懸架装置に固定されることを特徴とする電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項2】
前記減衰手段を前記ケース内に前記回転軸の中心線に対して直交する方向に配置したことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項3】
前記ケース内に前記回転軸の中心線に対して直交する方向に前記回転軸を付勢する付勢手段を配置したことを特徴とする請求項1に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項4】
前記減衰手段は、
前記回転軸の外周側に同軸的に固定されるリング部材と、
前記リング部材の外周に相対回転可能に嵌合される円筒状の支持部材と、
前記支持部材の外周と前記ケースの内周との間に区画された環状空間を前記回転軸の周方向に複数個の密閉された、かつ所定圧の流体が封入される隔室に区画する区画板と、
を備え、
前記減衰手段は、前記各隔室に封入する流体の移動に抵抗を付与することを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項5】
前記区画板の一端を前記支持部材の外周に揺動可能に取り付け、かつ前記区画板の先端を前記ケース内周面に押し付ける付勢手段を設け、
この付勢手段は、前記回転子の回転中心線に直交する方向に作用する付勢力により、前記回転軸の回転中心線と前記ケースの中心線とが同一中心線となるようにすることを特徴とする請求項4に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項6】
前記減衰手段として、前記区画板の1枚置きに前記各隔室内の流体が流通する貫通孔を備え、
前記貫通孔を介して前記隔室間の流体の出入りにより前記回転軸の移動を減衰することを特徴とする請求項4に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項7】
前記回転軸と同軸的に配置され、回転自在に支持される固定部材と、
この固定部材と前記ケースとの間に配置され、前記回転軸の変位方向を規定する変位方向規定手段と、
を備え、
前記減衰手段は、前記回転軸の変位方向に伸縮し、前記回転軸の変位を減衰する油圧減衰手段であることを特徴とする請求項1または2に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項8】
前記回転軸の変位方向に伸縮し、前記回転軸を付勢する付勢手段を設けたことを特徴とする請求項7に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。
【請求項9】
前記油圧減衰手段は、油圧ダンパであって、前記変位方向規制手段は、リニアガイドであることを特徴とする請求項7に記載の電気自動車用インホイール型軸継手。

【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−56159(P2008−56159A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237387(P2006−237387)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】