説明

電池タブ及びそれを用いたリチウムイオン電池

【課題】電解質と水分により発生するフッ化水素酸により腐食されることのない接着安定性及び、長期間の使用においてもタブ周辺の密封性に優れるニッケルメッキを施した電池用タブ及びそれを用いたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン電池本体と、リチウムイオン電池本体を密封する外装体とを備えたリチウムイオン電池に用いられ、正極及び負極に連結されるとともに外装体105により先端が外部に突出するように挟持され、挟持部分107にタブフィルム106を介在させて熱接着する電池タブ104であって、表面にニッケルメッキ層104xを設け、複合皮膜層104bで覆われたニッケルの電池タブ4を負極に連結した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストを抑えながら、安定した密封性を示すリチウムイオン電池用のタブ及びそれを用いたリチウムイオン電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池とは、リチウム二次電池ともいわれ、液状、ゲル状および高分子ポリマー状の電解質を持ち、正極・負極活物質が高分子ポリマーからなるものを含むものである。
【0003】
このリチウムイオン電池は、充電時には正極活物質であるリチウム遷移金属酸化物中のリチウム原子(Li)がリチウムイオン(Li+)となって負極の炭素層間に入り込み(インターカレーション)、放電時にはリチウムイオン(Li+)が炭素層間から離脱(デインターカレーション)して正極に移動し、元のリチウム化合物となることにより充放電反応が進行する電池であり、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池より出力電圧が高く、高エネルギー密度である上、浅い放電と再充電を繰り返すことにより見掛け上の放電容量が低下する、いわゆるメモリー効果がないという優れた特長を有している。
【0004】
リチウムイオン電池の構成は、正極集電材(アルミニウム、ニッケル)/正極活性物質層(金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料)/電解質層(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、炭酸ジメチル、エチレンメチルカーボネート等のカーボネート系電解液、リチウム塩からなる無機固体電解質、ゲル電解質等)/負極活性物質層(リチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料)/負極集電材(銅、ニッケル、ステンレス)及び、これらを包装する外装体からなる。
【0005】
ここで、外装体として従来、金属をプレス加工し円筒状または直方体状等に容器化した金属製缶、あるいは、プラスチックフィルム、金属箔等のラミネートにより得られる複合フィルムからなる積層体を袋状にしたものが用いられていた。
【0006】
しかし、従来のリチウムイオン電池の外装体として用いられていた金属製缶においては、容器外壁がリジッドであるため、電池自体の形状が決められてしまい、ハード側を電池に合わせ設計するため、該電池を用いるハードの寸法が電池により決定されてしまい形状の自由度がなくなるという問題があった。一方、積層体を袋状にして、リチウムイオン電池本体を収納するパウチタイプ、または、前記積層体をプレスしてエンボスタイプとした外装体は、柔軟性を有し形状を自由に設計することができることから外装体として近年、好適に用いられる傾向にある。
【0007】
また、電池本体は、蓄電部と蓄電部から電流を取出す陰陽の電池タブとからなり、この電池タブは電池本体を外装体の中に収納して密封シールする際に、外装体のヒートシール部に挟持された状態で、ニッケル部材からなる電池タブは外装体の最内層またはタブフィルムと熱融着され、電池として密封シールされる。ここで、ニッケル部材はアルミニウム部材と比較して耐電解液性に優れ腐食し難いものであるが、電池タブをニッケル部材とした電池本体を外装体に挿入して密封シールして長期保存した場合、そのヒートシール部においてタブ表面が、電池の電解液と水分との反応により発生するフッ化水素によって腐食してヒートシール部が剥離することがあった。
【0008】
また、ニッケル部材はアルミニウム部材と比較して高価であるため、銅を主成分とする金属部材の表裏面及び側面にニッケルメッキ層を形成した電池タブや、特許文献1に示されるような、銅を主成分とする金属部材の表裏面にニッケル部材をクラッド材として積層接合した電池タブが、ニッケルを主成分とするニッケル部材の電池タブの代わりに使用されることも考えられる。しかし、ニッケルメッキ層を形成した電池タブやクラッド材からなる電池タブは、ニッケルを主成分とするニッケル部材の電池タブより耐電解液性に劣り腐食し易い。このため、これら電池タブをリチウムイオン電池に用いた場合、電池本体を外装体に挿入して密封シールして保存すると、外装体と電池タブとのヒートシール部においてタブ表面が、電池の電解液と水分との反応により発生するフッ化水素によって腐食し易い。また、ニッケルメッキ層が溶出したり、銅を主成分とする金属部材の表裏面にニッケル部材をクラッド材として積層接合した電池タブの端面は銅が露出しているため、クラッド材の端面から銅が溶出し、外装体最内層と電池タブ間のヒートシール部が剥離するおそれがあった。したがって、電池タブに耐久性を持たせるためにはニッケルメッキ層の厚みを厚く形成したり、クラッド材のニッケル部を厚く設ける必要があり、安価で耐電解液性に優れる電池タブを提供することが困難であった。
【0009】
また、ニッケルは、アルミニウム、銅等と比べ電気伝導性に劣るため、リチウムイオン電池の容量を大きくし、出力を大きくした場合、ニッケルを主成分とするニッケル部材からなる電池タブは電気抵抗が増大し、電気的エネルギーのロスが大きくなったり、タブが極度に発熱するおそれがあった。
【特許文献1】特開2003−203622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、電解質と水分により発生するフッ化水素酸により腐食されることのない接着安定性及び、長期間の使用においてもタブ周辺の密封性に優れ、電気抵抗の小さい電池タブ及びそれを用いたリチウムイオン電池を安価で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の電池タブは、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含むリチウムイオン電池本体と、前記リチウムイオン電池本体を収納し周縁部を熱接着することにより前記リチウムイオン電池本体を密封する外装体と、を備えたリチウムイオン電池に用いられ、前記負極に連結されるとともに前記外装体により先端が外部に突出するように挟持され、前記挟持部分がヒートシールされる電池タブであって、前記電池タブは金属部材の少なくとも表裏面にニッケル層が形成され、少なくとも前記挟持部分の表裏面および側面にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記金属部材が銅から構成され、前記ニッケル層がメッキ処理により形成されていることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記金属部材が銅から構成され、前記ニッケル層はニッケルから構成される合わせ材であり、前記金属部材と前記ニッケル層とがクラッド材として積層接合していることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記複合皮膜層に、繊維質シート又は多孔質シートの両面にポリオレフィン樹脂層を有し、前記ポリオレフィン樹脂層の少なくとも一方が酸変性ポリオレフィン層であるタブフィルムが被覆されていることを特徴とする。
【0015】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記繊維質シートが天然繊維、又は200℃以上の融点を有する合成樹脂性の化学繊維からなることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記繊維質シートが主として全芳香族ポリエステル系繊維からなることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記全芳香族ポリエステル系繊維が、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなることを特徴とする。
【0018】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記全芳香族ポリエステル系繊維からなる前記繊維質シートの25℃、65%RHの環境下での吸湿率0.1%が以下であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記多孔質シートが200℃以上の融点を有する合成樹脂からなることを特徴とする。
【0020】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記複合皮膜層に、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にポリオレフィン樹脂層を有し、該ポリオレフィン樹脂層の少なくとも一方が酸変性ポリオレフィン層であるタブフィルムが被覆されていることを特徴とする。
【0021】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記酸変性ポリオレフィン層が不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリエチレンで形成されていることを特徴とする。
【0022】
また本発明は、上記構成の電池タブにおいて、前記複合皮膜層はアミノ化フェノール重合体が1〜200mg/m2、クロム付着量が0.5〜50mg/m2かつリン付着量が0.5〜5mg/m2であることを特徴とする。
【0023】
また本発明は、上記電池タブを備えたことを特徴とするリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1の構成によれば、ニッケル層が形成された金属部材で形成された電池タブの挟持部分にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層を形成することにより、電解質と水分により発生するフッ化水素酸によるニッケル層の腐食を防止し、ニッケル層の溶出を防ぐことができる。これにより、外装体とタブの剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有するアルミニウム、銅、銀等で構成することにより、電池タブの電気抵抗を抑え電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0025】
本発明の第2の構成によれば、金属部材を銅で構成し、ニッケル層をメッキ処理により形成することで、ニッケル部材の使用量を減らし電池タブの製造コストを抑えることができる。また、メッキ処理により形成されたニッケル層上にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層を形成することにより、ニッケル層の溶出を防ぎ、外装体最内層とタブの剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有する銅で構成することにより、電池タブの電気抵抗を抑え電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0026】
本発明の第3の構成によれば、金属部材を銅で構成し、ニッケル層をニッケルから構成される合わせ材とし、金属部材とニッケルから構成される合わせ材とをクラッド材として積層接合することで、ニッケル部材の使用量を減らし電池タブの製造コストを抑えることができる。また、積層接合されたニッケルから構成される合わせ材上にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層を形成することにより、銅を主成分とする金属部材の端面から銅が溶出するのを防ぎ、外装体最内層とタブの剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有する銅で構成することにより、電池タブの電気抵抗を抑え電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0027】
本発明の第4の構成によれば、タブフィルムとして用いる繊維質シート又は多孔質シートを酸変性ポリオレフィン系樹脂で被覆したフィルムは層間接着強度が強く、タブフィルム自体の剥離を防ぐことができる。また、繊維質シート又は多孔質シートが柔軟性に優れるため、シール部の折り曲げによるタブとタブフィルムとの剥離を防ぐことができる。
【0028】
また、複合皮膜を設けたタブと酸変性ポリオレフィン系樹脂の耐電解液シール強度は非常に安定したものであるため、タブとタブフィルムとの剥離を防止することができる。
【0029】
また、本発明の第5の構成によれば、タブを挟持し熱接着する際に、外装体を構成する金属箔とタブとの短絡を好適に防ぐことができる。
【0030】
また、本発明の第6の構成によれば、全芳香族ポリエステル系繊維は、その分子骨格から融点が高く、耐熱性に優れているばかりではなく、耐薬品性(耐電解液性)及び低吸湿性にも優れており、外装体のアルミニウム等の金属箔からなるバリア層とタブとの短絡を防止することができるとともに、電解液における剥離を防止することができる。
【0031】
また、本発明の第7の構成によれば、溶融異方性全芳香族ポリエステルは、溶融状態で光学異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、これを紡糸して得られる繊維はさらに光学異方性(液晶性)が進むため、機械的強度、耐熱性、耐薬品性(耐電解液性)に優れるだけではなく、分割、細分化されてできた隙間に酸変性ポリオレフィン系樹脂が浸透するため、層間強度の極めて強いタブフィルムを得ることができる。
【0032】
また、本発明の第8の構成によれば、全芳香族ポリエステル系繊維からなる繊維質シートの25℃、65%RHの環境下での吸湿率0.1%が以下であるため全芳香族ポリエステル系繊維で構成される不織布を伝って水分が外装体内部へ浸透することを抑えることができる。これにより、タブの挟持部分からタブフィルムの端面を通して水蒸気が、外装体内部に侵入することを防止することができ、安全性の極めて高いリチウムイオン電池を得ることができる。
【0033】
また、本発明の第9の構成によれば、タブを挟持し熱接着する際に、外装体のアルミニウム等の金属箔からなるバリア層とタブとの短絡を好適に防止することができる。
【0034】
また、本発明の第10の構成によれば、タブを熱接着により密封する際に、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムが熱により溶融して薄肉となることなく残るので外装体を構成する金属箔とタブとの短絡を好適に防止することができる。また、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムは水蒸気バリア性にも優れるため、タブの挟持部分からタブフィルムの端面を通して水蒸気が、外装体内部に侵入することを防止することができ、安全性の極めて高いリチウムイオン電池を得ることができる。
【0035】
また、複合皮膜を設けたニッケル製タブと酸変性ポリオレフィン系樹脂の耐電解液シール強度は非常に安定したものであるため、タブとタブフィルムとの剥離を防止することができる。
【0036】
また、本発明の第11の構成によれば、タブ表面に形成した複合皮膜層と酸変性ポリオレフィン樹脂層との接着を低温で行なうことができる。
【0037】
また、本発明の第12の構成によれば、タブ表面に形成した複合皮膜層と酸変性ポリオレフィン樹脂層の層間接着強度をより向上させタブフィルムとタブの剥離をいっそう防止することができるとともにタブ表面のニッケル層の腐食をいっそう防ぐことができる。
【0038】
また、本発明の第13の構成によれば、耐電解液性及びタブ周辺の密封性に優れたリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る電池タブおよび電池タブの製造方法を図面を参照しながら説明する。図1(a)は本実施形態に係るリチウムイオン電池の斜視図であり、図1(b)はリチウムイオン電池を分解した状態を示す斜視図である。図1(a)及び(b)に示すように、リチウムイオン電池101は、リチウムイオン電池本体102及び外装体105から構成されており、外装体105に収納されたリチウムイオン電池本体102は、その周縁を密封することにより、防湿性が付与される。
【0040】
リチウムイオン電池本体102は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質と(いずれも図示せず)を含むセル(蓄電部)103と、セル103内の正極及び負極に連結されるとともに先端が外装体105の外部に突出する電池タブ104から構成されている。正極に連結される電池タブ104はアルミニウム製であり、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度であり、負極に連結される電池タブ104は銅から構成され、電池タブ104の表裏面及び側面(端面)に約2μm厚のニッケル層104xがメッキ処理により施されている。また、このタブは、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度である。
【0041】
図2は、リチウムイオン電池の負極側タブ周辺の構成を示す断面拡大図である。外装体105は複数の層から成る積層構造を有しており、タブ104は外装体105の最内層114により表裏面が挟持され熱接着している。
【0042】
また、表裏面及び側面にメッキ処理によりニッケルメッキ層104xが形成された電池タブ104と外装体105が熱接着される部分107(以下、挟持部分7という)及び外装体105の内側に配置され電解液と接触する部分には、耐フッ化水素層から成る複合皮膜層104bが形成されている。また、外装体105内に収納されたタブ104の先端には、負極(図示せず)とタブ104とを電気的に接続する負極集電体108が連結されている。なお、外装体105の詳細な構成については後述する。
【0043】
本実施形態に係るリチウムイオン電池101は、メッキ処理によりニッケルメッキ層104xが形成されたタブ104の少なくとも挟持部分107に複合皮膜層104bを設け外装体105と熱接着することを特徴とするものである。
【0044】
ニッケルメッキ層104xが形成された電池タブ104の挟持部分107にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層104bを形成することにより、電解質と水分により発生するフッ化水素酸によるニッケルメッキ層104xの腐食を防止し、ニッケルメッキ層104xの溶出を防ぐことができる。したがって、外装体105とタブ104の剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有する銅で構成することにより、電池タブ104の電気抵抗を抑え、リチウムイオン電池101の電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0045】
また、電池タブ104の芯材を安価な銅で構成し、その銅部材表面にニッケルメッキ層104xをメッキ処理により形成することで、電池タブ104の製造コストを抑えることができる。
【0046】
なお、リチウムイオン電池101は、リチウムイオン電池本体102を包装する外装体105のタイプにより、図1に示すようなピロー状の外装体105を用いるパウチタイプと、図3に示すようなエンボス部が形成されたトレイ105aとシート105bとから成る外装体105を用いてリチウムイオン電池本体210を密封収納するエンボスタイプとがあるが、本発明はいずれのタイプにも適用し得るものである。
【0047】
次に複合皮膜層104bについて説明する。複合皮膜層104bは、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素(化学式:HF)に起因するタブ表面の溶解、腐食を防止し、ニッケルメッキ層104xの溶出を防止する。また、外装体105最内層との接着性(濡れ性)を向上させ、外装体105と電池タブ104との剥離を防止する。しかし、ニッケルメッキ層104xが形成された電池タブ104表面には、オイルの付着あるいは、ニッケルメッキの酸化物が形成されていることが多い。そして、そのまま複合皮膜層104bを形成すると、ニッケルメッキ処理されたタブの場合には外装体106の最内層114としての金属接着性樹脂層との接着性が不安定となり、長期にわたる保管において剥離するおそれがある。その対策として、複合皮膜層104bの形成の前処理として、以下に述べる各種の前処理を行うことによって、前記剥離またはデラミネーションを防ぐことが可能となる。
【0048】
<化学的前処理>
化学的前処理はアルカリ脱脂をした後、酸洗いにより中和してニッケルメッキ層104x表面への複合皮膜層の形成を確実にすることが望ましく、用いるアルカリおよび酸は以下の各物質を用いることができる。
【0049】
化学的前処理として用いる酸性物質として具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、フッ酸、リン酸、スルファミン酸などの無機酸、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、ギ酸、ヒドロオキシ酢酸、EDTA(エチレン・ジアミン・テトラ・アセティック・アッシド)およびその誘導体、チオグリコール酸アンモニウム等が挙げられる。
【0050】
また、化学的前処理にアルカリ性物質を用いてもよく、具体的なアルカリ性物質としては、カセイソーダ(NaOH)、ソーダ灰(Na2CO3)、重曹(NaHCO3)、ボウ硝(Na2SO4・10H2O)、セスキ炭酸ソーダ(Na2CO3・NaHCO3・2H2O)などのソーダ塩類、オルソケイ曹(2Na2O・SI2、水分10〜40%)、メタケイ曹(2NA2O・SI2・9H2O)、一号ケイ曹(Na2O・2SI2、水分42〜44%)、二号ケイ曹(Na2O・3SI2、水分65%)等のケイ酸塩、第一リン酸ソーダ(NaH2PO4)、ピロリン酸ソーダ(Na427)、第二リン酸ソーダ(Na2HPO4)、ヘキサメタリン酸ソーダ{(NaPO36}、第三リン酸ソーダ(Na3PO4)、トリポリリン酸ソーダ(Na5310)等のリン酸塩類が挙げられる。
【0051】
複合皮膜層形成の化学的前処理は、前記の酸あるいはアルカリ物質の水溶液を用意して、該水溶液中にニッケルメッキ層104xが形成された電池タブ4を浸漬、または、前記水溶液をニッケルメッキ層104x表面にスプレイ、あるいはロールコート等の方法でコートした後、水洗いしてニッケルメッキ層104x表面を洗浄した後乾燥して、ただちに複合皮膜層4bを形成する。
【0052】
<化学的処理>
また、本発明のニッケルメッキ層104xが形成された電池タブ104においては、化学的処理または物理的処理あるいはその組み合わせによる処理を施すことによって複合皮膜層のニッケルメッキ層104xへの接着がより安定したものとなる。化学的処理は、ニッケルメッキ層104xの脱脂と洗浄を目的とする処理であって、脱脂には、アルカリ処理と炭化水素処理がある。そして、洗浄には酸による洗浄とクロム酸洗浄がある。また、物理的処理は、ニッケルメッキ層104xに対する複合皮膜層4bの接着性の向上のために行うもので、ニッケルメッキ層104x表面を粗面化することにより複合皮膜層104bの接着性を向上させ、耐電解液性を向上する方法である。以下、具体的に説明する。
【0053】
脱脂処理としてアルカリ物質を用いる場合、具体的にはオルソケイ酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、セスキ炭酸ソーダ、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。処理は前記物質の水溶液に浸漬する方法、前記水溶液を吹き付け、コーティング等をした後、酸洗浄または重クロム酸により洗浄し、更に純水により洗浄し乾燥する。酸洗浄に用いる具体的な物質と使用時の濃度(括弧内)は、塩酸(5%)、クエン酸(3)、硫酸(10)、スルファミン酸(10%)、リン酸(15%)、ギ酸(2%)、シュウ酸(5%)等が利用できる。
【0054】
脱脂処理として用いる炭化水素としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、べンゼン、トルエン、ヘキサン等である。脱脂後には、アルカリ脱脂の場合と同様に酸洗い後、純水による洗浄をすることが好ましい。
【0055】
<物理的処理>
ニッケルメッキ層104x表面に設ける複合皮膜層の接着を向上する方法として、ニッケル表面に表面研磨、フレーム処理、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理等の物理的処理を施すことが有効である。これらの方法はいずれもニッケルメッキ層104xの表面を粗面化する方法である。この物理的処理は、複合皮膜層の形成の前に単独で処理してもよいが、化学的処理との組み合わせによる処理をすることが好ましい。
【0056】
以上に述べた化学的処理と物理的処理とは組合せて用いることができる。組み合わせの処理としては、以下のような手順が可能で、いずれもニッケルメッキ層104x表面に対してそれぞれいずれの具体的な方法を組合せてもよい。(1)脱脂処理→酸洗い→物理的処理(2)脱脂→物理的処理(3)洗浄→物理的処理
【0057】
複合皮膜層4bを形成する前に、ニッケルメッキ層104x表面を前記のいずれかの方法によって前処理して、オイルや酸化ニッケル皮膜等を除去後、表面を乾燥して、クロム酸塩の液を用いニッケルメッキ層104x表面を化成処理することによって複合皮膜層104bが形成される。化成処理の方法は、クロム酸塩液にニッケルタブ材を浸漬する方法、タブ材にクロム酸塩液を吹き付ける方法、ロールコート法を用いて、タブ材にクロム酸塩液をコートする等の方法および/または物理的方法によって前処理をしてから端子材にクロム酸塩液を塗布乾燥して、ニッケルメッキ層104x表面に複合皮膜層104bを形成するものである。
【0058】
複合皮膜層104bの形成に用いる処理液としては、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を用いる。ニッケルメッキ層104xに前記水溶液を塗布後、乾燥し、さらに、皮膜温度が180℃以上となる温度条件において焼付ける。クロムの塗布量は8〜10mg/m2(乾燥重量)程度が適当である。
【0059】
脱脂処理後のタブ材への複合皮膜層104bを形成する方法は、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を浸漬法、シャワー法、ロールコート法等を用いてタブ材の全周に塗布乾燥し、さらに熱風、遠近赤外線の照射等により皮膜を硬化させる。望ましい皮膜の塗布量は、乾燥重量として、10mg/m2程度が望ましい。更に各成分別としては、前記複合皮膜層はアミノ化フェノール重合体が1〜200mg/m2、クロム付着量が0.5〜50mg/m2かつリン付着量が0.5〜5mg/m2とすることが望ましい。
【0060】
次に、本発明のリチウムイオン電池に用いられる外装体の材質について説明する。外装体を形成する積層体110は、図4(a)に示すように、少なくとも、基材層111、バリア層112、最内層(熱接着層)114からなり、これらの各層間に接着層116を設け、ドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法でラミネートして積層する。また、図4(b)に示すように、バリア層112と最内層114との間に中間層113を設けてもよい。
【0061】
最外層は、延伸ポリエステル又はナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロン樹脂としては、ポリアミド系樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,6とナイロン6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0062】
前記最外層は、リチウムイオン電池として用いられる場合、ハードと直接接触する部位であるため、基本的に絶縁性を有する樹脂層がよい。フィルム単体でのピンホールの存在、および加工時のピンホールの発生等を考慮すると、最外層は6μm以上の厚さが必要であり、好ましい厚さとしては12〜25μmである。
【0063】
前記最外層は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、積層化することも可能である。最外層を積層体化する場合、最外層が2層以上の樹脂層を少なくとも一つを含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは、12〜25μmである。最外層を積層化する例としては、図示はしないが次の1)〜7)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ナイロン/延伸ポリエチレンテレフタレート
【0064】
また、包装材料の機械適性(包装機械、加工機械の中での搬送の安定性)、表面保護性(耐熱性、耐電解質性)、二次加工してリチウムイオン電池用の外装体をエンボスタイプ(図3参照)とする際に、エンボス時の金型と最外層との摩擦抵抗を小さくする目的で、最外層を多層化、最外層表面にフッ素系樹脂層、アクリル系樹脂層、シリコーン系樹脂層等を設けることが好ましい。例えば、
3)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(フッ素系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
4)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(シリコーン系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
5)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
6)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
7)アクリル系樹脂/延伸ナイロン(アクリル系樹脂はフィルム状、または液状コーティング後乾燥で硬化)
【0065】
積層構造の外装体を形成する際の積層方法は、ドライラミネート法、熱ラミネート法、押出ラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出ラミネート法等を利用することができる。
【0066】
バリア層112は、外装体5を通して外部からリチウムイオン電池の内部に特に水蒸気が進入することを防止するための層で、バリア層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、または、無機化合物、例えば酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルム等も挙げられるが、バリア層としては、好ましくは15μm〜100μmのアルミニウムである。
【0067】
バリア層の材質として、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%のアルミニウムを用いることにより、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、積層体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、かつエンボスタイプの外装体をエンボス加工する時に側壁の形成も容易にできる。前記鉄含有量が0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、また、前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、積層体として製袋性が悪くなる。
【0068】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本実施例で用いられるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、焼きなましを適宜おこなった、柔軟性がある軟質処理品が好ましい。また、柔軟性・腰の強さ・硬さの度合い、すなわち焼きなましの条件は、加工適性(パウチ化、エンボス適性)に合わせ適宜選定すればよい。たとえば、エンボス成形時のピンホールやしわを防止するためには、焼きなましをしていない硬質アルミニウムより多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムが良好である。
【0069】
さらに、バリア層112の表面には、酸化性皮膜から成る複合皮膜層115が設けられている。複合皮膜層115は、リチウムイオン電池の電解質と水分により発生するフッ化水素によるバリア層112表面の腐食、溶解を防止するとともに、バリア層112表面の接着性(濡れ性)を向上させて積層体形成時のバリア層112と基材層111及び最内層114(或いは中間層113)との接着力を安定化させる。
【0070】
また、最内層114としてはポリオレフィン系フィルムを用いる。特にポリプロピレンが好適に用いられるが、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂からなる単層または多層からなるフィルムとしても使用できる。
【0071】
前記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレンおよび、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
【0072】
また、外装体の最内層は、最内層同士が熱接着性を有するとともに、タブ104表面に形成された複合皮膜層104bに対しても熱接着性を示し、かつ、内容物により変質、劣化しない材質を検討した結果、厚さ10μm以上、好ましくは20〜100μmであって融点80℃以上、ビカット軟化点が70℃以上の不飽和カルボングラフトポリエチレン、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレン、不飽和カルボングラフトポリメチルペンテンなどの不飽和カルボングラフトポリオレフィン系樹脂、金属イオン架橋ポリエチレン、またはエチレンまたはプロピレンとアクリル酸、またはメタクリル酸との共重合物、およびこれらの変性物の少なくとも一つを含むものが良好な結果を示した。
【0073】
また、積層体110の前記各層には、適宜、製膜性、積層化加工、最終製品二次加工(パウチ化、エンボス成形)適性を向上、安定化する目的のために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理等の表面活性化処理をしてもよい。
【0074】
また、各層間の積層方法等は、具体的にはTダイ法、インフレーション法、共押出し法等を用いて製膜することができる。必要に応じて、コーティング、蒸着、紫外線硬化、電子線硬化等の方法によって二次膜を形成してもよい。また、貼り合わせの方法としては、ドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法を用いることができる。
【0075】
ドライラミネート法により貼り合わせを行う際には、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリエーテル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、有機チタン系、ポリエーテルウレタン系、エポキシ系、ポリエステルウレタン系、イミド系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、シリコーン系の各種接着剤を用いることができる。また、これらの接着層には適宜、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛の少なくとも一つを含有することを特徴とした添加剤を添加することも耐薬品性、耐有機溶剤性をさらに向上させる。特に、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化亜鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛などは電解液と水分との反応で発生するフッ化水素を吸収・吸着する効果があり、各層、特にバリア層(アルミニウム)に対するフッ化水素の腐食を防止する効果がある。
【0076】
また、押出ラミネート法を用いる場合、接着する各層間の接着力を安定化する接着促進化方法として、ポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン系、ポリエーテルウレタン系、ポリエステルウレタン系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、ポリエチレンイミン系、シアノアリレート系、有機チタン化合物系、エポキシ系、イミド系、シリコーン系、およびこれらの変性物、または、混合物等の樹脂を1μm程度塗布したり、オゾン処理による表面活性化処理を行うことができる。また、押出ラミネート法あるいはサーマルラミネート法により貼り合わせる際の樹脂として不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを用いることによって、接着性とともに耐内容物性も向上する。
【0077】
[第2実施形態]
以下、本発明に係る電池タブおよび電池タブの製造方法を図面を参照しながら説明する。図5(a)は本実施形態に係るリチウムイオン電池の斜視図であり、図5(b)はリチウムイオン電池を分解した状態を示す斜視図である。図5(a)及び(b)に示すように、リチウムイオン電池201は、リチウムイオン電池本体202及び外装体205から構成されており、外装体205に収納されたリチウムイオン電池本体202は、その周縁を密封することにより、防湿性が付与される。
【0078】
リチウムイオン電池本体202は、正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、正極及び負極間に充填される電解質と(いずれも図示せず)を含むセル(蓄電部)203と、セル203内の正極及び負極に連結されるとともに先端が外装体205の外部に突出する電池タブ204から構成されている。正極に連結される電池タブ204はアルミニウム製であり、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度であり、負極に連結される電池タブ204は銅から構成され、電池タブ204の表裏面及び側面(端面)に約2μm厚のニッケル層204xがメッキ処理により施されている。また、このタブは、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度である。
【0079】
図6は、リチウムイオン電池の負極側タブ周辺の構成を示す断面拡大図である。外装体205は複数の層から成る積層構造を有しており、タブ204と外装体205の最内層214との双方に熱接着性を有するタブフィルム206を介し、熱接着されている。
【0080】
また、タブ204と外装体205が熱接着される部分207(以下、挟持部分207という)及び外装体205の内側に配置され電解液と接触する部分には、耐フッ化水素層から成る複合皮膜層204bが形成されている。また、外装体205内に収納されたタブ204の先端には、負極(図示せず)とタブ204とを電気的に接続する負極集電体208が連結されている。なお、外装体205の詳細な構成については後述する。
【0081】
本実施形態に係るリチウムイオン電池201は、表裏面及び側面にメッキ処理によりニッケルメッキ層204xが形成された電池タブ204の少なくとも挟持部分207に複合皮膜層204bを設けるとともに繊維質シート又は多孔質シートを酸変性ポリオレフィン系樹脂で被覆したタブフィルム206を介在させて外装体205と熱接着することを特徴とするものである。
【0082】
ニッケルメッキ層204xが形成された電池タブ204の挟持部分207にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層204bを形成することにより、電解質と水分により発生するフッ化水素酸によるニッケルメッキ層204xの腐食を防止し、ニッケル層204xの溶出を防ぐことができる。したがって、タブフィルム206とタブ4の剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有する銅で構成することにより、電池タブ204の電気抵抗を抑え、リチウムイオン電池201の電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0083】
また、電池タブ204の芯材を安価な銅で構成し、その銅部材表面にニッケルメッキ層204xをメッキ処理により形成することで、電池タブ204の製造コストを抑えることができる。
【0084】
また、タブフィルム206は繊維質シート又は多孔質シートを酸変性ポリオレフィン系樹脂で被覆したものであり、この構成により、複合皮膜層204bを施したタブ204表面とタブフィルム206間のシール強度は電解液に対して非常に安定したものとなる。また、この構成のタブフィルム206は柔軟性に優れ、タブ204とタブフィルム206との剥離を防ぎ長期間の使用においても密封性が確保されるため耐久性、安全性の高いリチウムイオン電池を提供することが可能となる。
【0085】
また、複合皮膜層204bと酸変性ポリオレフィン系樹脂は耐電解液シール強度が非常に安定したものであるため、タブ204とタブフィルム206との剥離を防止することができる。
【0086】
なお、リチウムイオン電池201は、リチウムイオン電池本体202を包装する外装体205のタイプにより、図5に示すようなピロー状の外装体205を用いるパウチタイプと、図7に示すようなエンボス部が形成されたトレイ205aとシート205bとから成る外装体205を用いてリチウムイオン電池本体202を密封収納するエンボスタイプとがあるが、本発明はいずれのタイプにも適用し得るものである。
【0087】
次に複合皮膜層204bについて説明する。複合皮膜層204bは、リチウムイオン電池の電解質と水分との反応で生成するフッ化水素(化学式:HF)に起因するタブ表面の溶解、腐食を防止し、ニッケルメッキ層204xの溶出を防ぐことができる。また、外装体205最内層との接着性(濡れ性)を向上させ、タブフィルム206と電池タブ204の剥離を防止するものである。しかし、ニッケルメッキ層204xが形成された電池タブ204表面には、オイルの付着あるいは、ニッケルメッキ層204xの酸化物が形成されていることが多い。そして、そのまま複合皮膜層204bを形成すると、ニッケルメッキ処理されたタブの場合には外装体205の最内層214としての金属接着性樹脂層との接着性が不安定となり、長期にわたる保管において剥離するおそれがある。その対策として、複合皮膜層204bの形成の前処理として、以下に述べる各種の前処理を行うことによって、前記剥離またはデラミネーションを防ぐことが可能となる。
【0088】
<化学的前処理>
化学的前処理はアルカリ脱脂をした後、酸洗いにより中和してニッケルメッキ層204x表面への複合皮膜層の形成を確実にすることが望ましく、用いるアルカリおよび酸は以下の各物質を用いることができる。
【0089】
化学的前処理として用いる酸性物質として具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、クロム酸、フッ酸、リン酸、スルファミン酸などの無機酸、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、酒石酸、ギ酸、ヒドロオキシ酢酸、EDTA(エチレン・ジアミン・テトラ・アセティック・アッシド)およびその誘導体、チオグリコール酸アンモニウム等が挙げられる。
【0090】
また、化学的前処理にアルカリ性物質を用いてもよく、具体的なアルカリ性物質としては、カセイソーダ(NaOH)、ソーダ灰(Na2CO3)、重曹(NaHCO3)、ボウ硝(Na2SO4・10H2O)、セスキ炭酸ソーダ(Na2CO3・NaHCO3・2H2O)などのソーダ塩類、オルソケイ曹(2Na2O・SI2、水分10〜40%)、メタケイ曹(2NA2O・SI2・9H2O)、一号ケイ曹(Na2O・2SI2、水分42〜44%)、二号ケイ曹(Na2O・3SI2、水分65%)等のケイ酸塩、第一リン酸ソーダ(NaH2PO4)、ピロリン酸ソーダ(Na427)、第二リン酸ソーダ(Na2HPO4)、ヘキサメタリン酸ソーダ{(NaPO36}、第三リン酸ソーダ(Na3PO4)、トリポリリン酸ソーダ(Na5310)等のリン酸塩類が挙げられる。
【0091】
複合皮膜層形成の化学的前処理は、前記の酸あるいはアルカリ物質の水溶液を用意して、該水溶液中にニッケルメッキ層204xが形成された電池タブ204を浸漬、または、前記水溶液をニッケルメッキ層204x表面にスプレイ、あるいはロールコート等の方法でコートした後、水洗いしてニッケルメッキ層204x表面を清浄にした後乾燥して、ただちに複合皮膜層204bを形成する。
【0092】
<化学的処理>
また、本発明のニッケルメッキ層204xが形成された電池タブ204においては、化学的処理または物理的処理あるいはその組み合わせによる処理を施すことによって複合皮膜層のニッケルメッキ層204xへの接着がより安定したものとなる。化学的処理は、ニッケルメッキ層204xの脱脂と洗浄を目的とする処理であって、脱脂には、アルカリ処理と炭化水素処理がある。そして、洗浄には酸による洗浄とクロム酸洗浄がある。また、物理的処理は、ニッケルメッキ層204xに対する複合皮膜層204bの接着性の向上のために行うもので、ニッケルメッキ層204x表面を粗面化することにより複合皮膜層204bの接着性を向上させ、耐電解液性を向上する方法である。以下、具体的に説明する。
【0093】
脱脂処理としてアルカリ物質を用いる場合、具体的にはオルソケイ酸ソーダ、メタケイ酸ソーダ、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、セスキ炭酸ソーダ、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を用いることができる。処理は前記物質の水溶液に浸漬する方法、前記水溶液を吹き付け、コーティング等をした後、酸洗浄または重クロム酸により洗浄し、更に純水により洗浄し乾燥する。酸洗浄に用いる具体的な物質と使用時の濃度(括弧内)は、塩酸(5%)、クエン酸(3)、硫酸(10)、スルファミン酸(10%)、リン酸(15%)、ギ酸(2%)、シュウ酸(5%)等が利用できる。
【0094】
脱脂処理として用いる炭化水素としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、べンゼン、トルエン、ヘキサン等である。脱脂後には、アルカリ脱脂の場合同様酸洗い後、純水による洗浄をすることが好ましい。
【0095】
<物理的処理>
ニッケルメッキ層204x表面に設ける複合皮膜層の接着を向上する方法として、ニッケル表面を表面研磨、フレーム処理、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理の物理的処理を施すことが有効である。これらの方法はいずれもニッケルメッキ層204xの表面を粗面化する方法である。この物理的処理は、複合皮膜層の形成の前に単独で処理してもよいが、前記化学処理との組み合わせによる処理をすることが好ましい。
【0096】
以上に述べた化学的処理と物理的処理とは組合せて用いることができる。組み合わせの処理としては、以下のような手順が可能で、いずれもニッケルメッキ層204x表面に対してそれぞれいずれの具体的な方法を組合せてもよい。(1)脱脂処理→酸洗い→物理的処理(2)脱脂→物理的処理(3)洗浄→物理的処理
【0097】
複合皮膜層204bを形成する前に、ニッケルメッキ層204x表面を前記のいずれかの方法によって前処理して、オイルや酸化ニッケル皮膜等を除去後、表面を乾燥して、クロム酸塩の液を用いニッケルメッキ層204x表面を化成処理することによって複合皮膜層204bが形成される。化成処理の方法は、クロム酸塩液にニッケルタブ材を浸漬する方法、タブ材にクロム酸塩液を吹き付ける方法、ロールコート法を用いて、タブ材にクロム酸塩液をコートする等の方法および/または物理的方法によって前処理をしてから端子材にクロム酸塩液を塗布乾燥して、ニッケルメッキ層204x表面に複合皮膜層204bを形成するものである。
【0098】
複合皮膜層204bの形成に用いる処理液としては、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を用いる。ニッケルメッキ層204xに前記水溶液を塗布後、乾燥し、さらに、皮膜温度が180℃以上となる温度条件において焼付ける。クロムの塗布量は8〜10mg/m2(乾燥重量)程度が適当である。
【0099】
脱脂処理後のタブ材への複合皮膜層204bを形成する方法は、フェノール樹脂、フッ化クロム(3)化合物、リン酸からなる水溶液を浸漬法、シャワー法、ロールコート法等を用いてタブ材の全周に塗布乾燥し、さらに熱風、遠近赤外線の照射等により皮膜を硬化させる。望ましい皮膜の塗布量は、乾燥重量として、10mg/m2程度が望ましい。更に各成分別としては、前記複合皮膜層はアミノ化フェノール重合体が1〜200mg/m2、クロム付着量が0.5〜50mg/m2かつリン付着量が0.5〜5mg/m2とすることが望ましい。
【0100】
次に、本発明のリチウムイオン電池に用いられるタブフィルム206について説明する。図8はタブフィルム206の代表的な層構成を図解的に示す図であり、タブフィルム206は外装体205の最内層214(図9参照)及びタブ204と接着性を有し、その構成は酸変性ポリオレフィン系樹脂が繊維質シート又は多孔質シート等の耐熱性不織布218に浸透し繊維質シート又は多孔質シートの空隙を埋めるとともに両面を酸変性ポリオレフィン層217で被覆して形成されたものである。
【0101】
通常タブフィルム206はリチウムイオン電池201の周縁熱接着部においてタブ204と外装体205との間に介在し熱接着されるため、この熱接着時の熱(160℃〜190℃)と圧力(1.0〜2.0MPa)により溶融し押し潰されない耐熱性と電解液に対する耐性(耐電解液性)が必要とされる。
【0102】
従って、繊維質シート及び多孔質シートを構成する繊維あるいは樹脂としては、耐熱性及び電解液に対する耐性が必要であり、繊維としては、例えば、セルロース、羊毛、絹、綿、麻等の天然繊維、あるいは、ガラス繊維、炭素繊維、岩石繊維、又はポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、ポリサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェ二レンサルファイドなど周知の耐熱性合成樹脂を繊維化した化学繊維、或いは上記した周知の耐熱性合成樹脂からなる未延伸シート或いは一軸ないし二軸方向に延伸した延伸シートを多孔質化したものなどを挙げることができる。
【0103】
また、繊維質シートとしては、ポリエステル繊維、特に、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸の3つのモノマーを組み合わせて、組成比を変えて合成される芳香族ポリエステル繊維のうち主鎖中に脂肪族炭化水素を有しないもので、P−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合体(クラレ製「ベクトラン」(登録商標))やP−ヒドロキシ安息香酸とテレフタール酸と4,4’−ジヒドロキシビスフェニルの共重合体(住友化学製「スミカスパー」(登録商標))などの全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布が好ましい。
【0104】
なお、全芳香族ポリエステルは、溶融状態で分子配向(溶融異方性)がみられ、これを紡糸してなる繊維(溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維)はさらに分子配向が進むため、繊維同士が交絡しやすくなり機械的強度の強く低吸湿性の耐熱性不織布が得られるだけでなく、分割、細分化されてできた隙間に樹脂が浸透しやすく樹脂含浸性に優れる耐熱性不織布が得られるため、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなる耐熱性不織布が最も好適である。また、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布は、湿式法、乾式法いずれの方法でも製造可能であるが、コスト、耐溶剤性などの点から乾式法が好ましく、中でもメルトブローン法により製造することが好ましい。
【0105】
具体的には、溶融異方性全芳香族ポリエステルを溶融紡出すると同時に紡出物を高温高速流体で吹き飛ばし、捕集面上に集積してウェブを形成し、該ウェブにカレンダー加工及び加熱処理を施して不織布を製造したものである。溶融異方性全芳香族ポリエステル不織布としては、例えば、クラレ製「ベクルス(登録商標)」を用いることができる。なお、「ベクルス(登録商標)」の25℃・65%RH状況下での吸湿率は0.1%以下である。
【0106】
なお、耐熱性不織布としては、溶融状態で塗布、浸透される酸変性ポリオレフィン系樹脂の浸透性、浸透後の樹脂層厚さを任意に変更できる点から、目付け量5〜25g/m2、密度0.15〜0.45g/cm3が好ましく、目付け量が5g/m2未満、密度が0.15g/cm3未満では短絡防止の効果が期待できず、また、不織布の強度が不十分で加工適性に劣る虞があり、また目付け量が25g/m2、密度が0.45g/cm3を超えると溶融塗布される酸変性ポリオレフィン系樹脂が浸透し難くなり、タブフィルムの総厚の制約から前記酸変性ポリオレフィン系樹脂の厚さが薄くなるためシール痩せにより十分な強度を得られない虞がある。
【0107】
また、上記溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布は、25℃、65%RHの環境下での吸湿率が0.1%以下であることが好ましい。吸湿率を0.1%以下とすることによって、上記溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維で構成される不織布を伝って水分が外装体内部へ浸透することを抑えることができる。これにより、タブの挟持部分からタブフィルムの端面を通して水蒸気が、外装体内部に侵入することを、より防止することができ、安全性の極めて高いリチウムイオン電池を得ることができる。なお、本発明において、吸湿率とは、試料を一定温度・湿度条件下に保存し、試料重量が平衡に達したときの、開始時からの重量変化を重量百分率で表したものである。
【0108】
また、多孔質シートの形成方法としては、例えば、過熱した針を押し付けるニードルパンチ法、エンボスロール法、研磨ロール、砥石、研磨テープ等を用いて未延伸シートあるいは一軸ないし二軸方向に延伸した延伸シートを溶融し穿孔する熱溶融穿孔法、ナイフ、カッター、あるいは、切れ刃を有するロール(ロータリーダイロール)等を用いる物理的穿孔法、レーザービーム加工、コロナ放電、プラズマ放電等の加工法等の方法を適宜選択して用いればよいものであるし、あるいは、無機物を混練した耐熱性合成樹脂をシート化すると共に延伸させる方法により多孔質シートとしてもよいものである。なお、繊維質シートあるいは多孔質シートに酸変性ポリオレフィン系樹脂を被覆した後のタブフィルムの厚さとしては、タブの酸変性ポリオレフィン系樹脂層の熱シール後の樹脂痩せを考慮すると、50〜120μmが好ましいものである。
【0109】
なお、繊維質シート又は多孔質シートの両面に酸変性ポリオレフィン系樹脂を塗布浸透させ繊維質シート又は多孔質シートの空隙を埋めると共に両面を被覆する方法としては、まず、シート状の繊維質シートあるいは多孔質シートを繰り出し、シートの片面に溶融状態の酸変性ポリオレフィン系樹脂を押出しコートした後、前記シートの他方の面に溶融状態の酸変性ポリオレフィン系樹脂を押出しコートにより積層して形成する。
【0110】
次に、タブフィルム206を構成する酸変性ポリオレフィン系樹脂について説明する。酸変性ポリオレフィン系樹脂はタブ206及び外装体205の内層と熱接着するために設ける層であり、熱接着性樹脂層に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要があるが、酸変性ポリオレフィン系樹脂として例示されるものとして、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、又は、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂などであり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体、オレフィン系エラストマー等を5%以上添加してもよいものである。
【0111】
なお、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、特に不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリプロピレン樹脂が好ましい。また、リチウムイオン電池の異常発熱、内圧上昇による耐久性を考慮すると、120℃以下に融点を有さないオレフィン系エラストマーを添加した樹脂が好適である。また、耐熱性不織布218に被覆される酸変性ポリオレフィン層217は、上記した酸変性ポリオレフィン系樹脂をTダイ押出機から前記繊維質シートあるいは多孔質シート上に過熱溶融押出しすることにより形成するものである。酸変性ポリオレフィン層217の厚さとしては、10μm以上であり、好ましくは20〜60μmである。10μm未満では押出し溶融樹脂の熱量が不足するために十分なラミネート強度が得られず、シール痩せにより酸変性ポリオレフィン系樹脂が強度不足となるなどの理由で十分なシール強度を得ることができない。また、60μm超ではタブフィルム206の総厚が増し、端面からの水蒸気バリア性が低下すると共にコスト対効果(ラミネート強度、シール強度)において顕著な向上が見られない。
【0112】
また、前記酸変性ポリオレフィン系樹脂は必要に応じて顔料を添加して着色層としてもよいものである。これに用いる顔料としては、無機系の各種顔料を用いることができるが、一般に電池の内部に使用されている材料であり、電解液に対する溶出の虞がなく、また、着色効果が大きく接着性を阻害しない程度の添加量で十分な着色効果を得られると共に熱で溶融することがなく添加した樹脂の見かけの溶融粘度を高くすることができ、熱接着時に加圧部が薄肉となることを防止してシール強度の低下を防ぐことができる等の理由から、上記充填剤で例示した炭素(カーボン、グラファイト)が好ましく、その添加量としては、例えば、平均粒径が約0.03μmのカーボンブラックを使用した場合、樹脂100重量部に対して0.05〜0.3重量部、好ましくは0.1〜0.2重量部である。
【0113】
このように酸変性ポリオレフィン層217を着色層とすることにより、タブフィルム206の有無をセンサーで検知容易なもの、あるいは、目視で検査容易なものとすることができる。
【0114】
また、熱接着部へのタブフィルム206のセット方法は、図10(a)、図10(b)、図10(c)に示すように、タブ204と最内層214との間に、タブ204(金属)と最内層214(熱接着層)との双方に対してシール性を有するタブフィルム206を介在させてもよいし、また、図11(a)、図11(b)、図11(c)に示すように、タブ204の所定の位置に巻き付けても良い。
【0115】
次に、本発明のリチウムイオン電池に用いられる外装体の材質について説明する。外装体205を形成する積層体210は、図9(a)に示すように、少なくとも、基材層211、バリア層212、最内層(熱接着層)214からなり、これらの各層間に接着層216を設け、ドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法でラミネートして積層する。また、図9(b)に示すように、バリア層212と最内層214との間に中間層213を設けてもよい。
【0116】
最外層は、延伸ポリエステル又はナイロンフィルムからなるが、この時、ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、共重合ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。またナイロン樹脂としては、ポリアミド系樹脂、すなわち、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,6とナイロン6との共重合体、ナイロン6,10、ポリメタキシリレンアジパミド(MXD6)等が挙げられる。
【0117】
前記最外層は、リチウムイオン電池として用いられる場合、ハードと直接接触する部位であるため、基本的に絶縁性を有する樹脂層がよい。フィルム単体でのピンホールの存在、および加工時のピンホールの発生等を考慮すると、最外層は6μm以上の厚さが必要であり、好ましい厚さとしては12〜25μmである。
【0118】
前記最外層は耐ピンホール性および電池の外装体とした時の絶縁性を向上させるために、積層化することも可能である。最外層を積層体化する場合、最外層が2層以上の樹脂層を少なくとも一つを含み、各層の厚みが6μm以上、好ましくは、12〜25μmである。最外層を積層化する例としては、図示はしないが次の1)〜7)が挙げられる。
1)延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
2)延伸ナイロン/延伸ポリエチレンテレフタレート
【0119】
また、包装材料の機械適性(包装機械、加工機械の中での搬送の安定性)、表面保護性(耐熱性、耐電解質性)、二次加工してリチウムイオン電池用の外装体をエンボスタイプ(図3参照)とする際に、エンボス時の金型と最外層との摩擦抵抗を小さくする目的で、最外層を多層化、最外層表面にフッ素系樹脂層、アクリル系樹脂層、シリコーン系樹脂層等を設けることが好ましい。例えば、
3)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(フッ素系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
4)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート(シリコーン系樹脂は、フィルム状物、または液状コーティング後乾燥で形成)
5)フッ素系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
6)シリコーン系樹脂/延伸ポリエチレンテレフタレート/延伸ナイロン
7)アクリル系樹脂/延伸ナイロン(アクリル系樹脂はフィルム状、または液状コーティング後乾燥で硬化)
【0120】
積層構造の外装体を形成する際の積層方法は、ドライラミネート法、熱ラミネート法、押出ラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出ラミネート法等を利用することができる。
【0121】
バリア層212は、外装体205を通して外部からリチウムイオン電池の内部に特に水蒸気が進入することを防止するための層で、バリア層単体のピンホール、及び加工適性(パウチ化、エンボス成形)を安定化し、かつ耐ピンホール性をもたせるために厚さ15μm以上のアルミニウム、ニッケルなどの金属、または、無機化合物、例えば酸化珪素、アルミナ等を蒸着したフィルム等も挙げられるが、バリア層212としては、好ましくは15μm〜100μmのアルミニウムである。
【0122】
バリア層212の材質として、鉄含有量が0.3〜9.0重量%、好ましくは0.7〜2.0重量%のアルミニウムを用いることにより、鉄を含有していないアルミニウムと比較して、アルミニウムの展延性がよく、積層体として折り曲げによるピンホールの発生が少なくなり、かつエンボスタイプの外装体をエンボス加工する時に側壁の形成も容易にできる。前記鉄含有量が0.3重量%未満の場合は、ピンホールの発生の防止、エンボス成形性の改善等の効果が認められず、また、前記アルミニウムの鉄含有量が9.0重量%を超える場合は、アルミニウムとしての柔軟性が阻害され、積層体として製袋性が悪くなる。
【0123】
また、冷間圧延で製造されるアルミニウムは焼きなまし(いわゆる焼鈍処理)条件でその柔軟性・腰の強さ・硬さが変化するが、本実施例で用いられるアルミニウムは焼きなましをしていない硬質処理品より、焼きなましを適宜おこなった、柔軟性がある軟質処理品が好ましい。また、柔軟性・腰の強さ・硬さの度合い、すなわち焼きなましの条件は、加工適性(パウチ化、エンボス適性)に合わせ適宜選定すればよい。たとえば、エンボス成形時のピンホールやしわを防止するためには、焼きなましをしていない硬質アルミニウムより多少または完全に焼きなまし処理をした軟質傾向にあるアルミニウムが良好である。
【0124】
さらに、バリア層212の表面には、酸化性皮膜から成る複合皮膜層215が設けられている。複合皮膜層215は、リチウムイオン電池の電解質と水分により発生するフッ化水素によるバリア層212表面の腐食、溶解を防止するとともに、バリア層212表面の接着性(濡れ性)を向上させて積層体形成時のバリア層212と基材層211及び最内層214(或いは中間層213)との接着力を安定化させる。
【0125】
また、最内層214としてはポリオレフィン系フィルムを用いる。特にポリプロピレンが好適に用いられるが、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンの単層または多層、または、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンのブレンド樹脂からなる単層または多層からなるフィルムとしても使用できる。
【0126】
前記各タイプのポリプロピレン、すなわち、ランダムプロピレン、ホモプロピレン、ブロックプロピレンおよび、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンには、低結晶性のエチレンーブテン共重合体、低結晶性のプロピレンーブテン共重合体、エチレンとブテンとプロピレンの3成分共重合体からなるターポリマー、シリカ、ゼオライト、アクリル樹脂ビーズ等のアンチブロッキング剤(AB剤)、脂肪酸アマイド系のスリップ剤等を添加してもよい。
【0127】
また、外装体の最内層は、最内層同士が熱接着性を有するとともに、タブフィルム206に対しても熱接着性を示し、かつ、内容物により変質、劣化しない材質を検討した結果、厚さ10μm以上、好ましくは20〜100μmであって融点80℃以上、ビカット軟化点が70℃以上の不飽和カルボングラフトポリエチレン、不飽和カルボン酸グラフトポリプロピレン、不飽和カルボングラフトポリメチルペンテンなどの不飽和カルボングラフトポリオレフィン系樹脂、金属イオン架橋ポリエチレン、またはエチレンまたはプロピレンとアクリル酸、またはメタクリル酸との共重合物、およびこれらの変性物の少なくとも一つを含むものが良好な結果を示した。
【0128】
また、積層体210の前記各層には、適宜、製膜性、積層化加工、最終製品二次加工(パウチ化、エンボス成形)適性を向上、安定化する目的のために、コロナ処理、ブラスト処理、酸化処理、オゾン処理等の表面活性化処理をしてもよい。
【0129】
また、各層間の積層方法等は、具体的にはTダイ法、インフレーション法、共押出し法等を用いて製膜することができる。必要に応じて、コーティング、蒸着、紫外線硬化、電子線硬化等の方法によって二次膜を形成してもよい。また、貼り合わせの方法としては、ドライラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、熱ラミネート法等の方法を用いることができる。
【0130】
ドライラミネート法により貼り合わせを行う際には、ポリエステル系、ポリエチレンイミン系、ポリエーテル系、シアノアクリレート系、ウレタン系、有機チタン系、ポリエーテルウレタン系、エポキシ系、ポリエステルウレタン系、イミド系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、シリコーン系の各種接着剤を用いることができる。また、これらの接着層には適宜、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛の少なくとも一つを含有することを特徴とした添加剤を添加することも耐薬品性、耐有機溶剤性をさらに向上させる。特に、酸化珪素、炭酸カルシウム、亜鉛、鉛丹、亜酸化鉛、酸化亜鉛、シアナミド鉛、ジンククロメート、クロム酸バリウムカリウム、クロム酸バリウム亜鉛などは電解液と水分との反応で発生するフッ化水素を吸収・吸着する効果があり、各層、特にバリア層(アルミニウム)に対するフッ化水素の腐食を防止する効果がある。
【0131】
また、押出ラミネート法を用いる場合、接着する各層間の接着力を安定化する接着促進化方法として、ポリエステル系、ポリエーテル系、ウレタン系、ポリエーテルウレタン系、ポリエステルウレタン系、イソシアネート系、ポリオレフィン系、ポリエチレンイミン系、シアノアリレート系、有機チタン化合物系、エポキシ系、イミド系、シリコーン系、およびこれらの変性物、または、混合物等の樹脂を1μm程度塗布したり、オゾン処理による表面活性化処理を行うことができる。また、押出ラミネート法あるいはサーマルラミネート法により貼り合わせる際の樹脂として不飽和カルボン酸グラフトポリオレフィンを用いることによって、接着性とともに耐内容物性も向上する。
【0132】
[第3実施形態]
次に本発明に係るリチウムイオン電池の第3実施形態について説明する。本実施形態にかかるリチウムイオン電池はタブフィルム306の構成以外第2実施形態で示したリチウムイオン電池201と共通しており、共通する部分について同一の符号を付して説明を省略する。図12は本発明にかかる第3実施形態のタブフィルム306の層構成を図解的に示す図であって、タブフィルム306は二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム320の両面に接着促進剤層319を介して酸変性ポリオレフィン層317を積層したものである。
【0133】
この構成によると、複合皮膜層204bと酸変性ポリオレフィン系樹脂は耐電解液シール強度が非常に安定したものであるため、図13に示すように、タブ204とタブフィルム306との剥離を防止することができる。
【0134】
前記二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(以下、PENと呼称する)320は、外装体の熱接着性樹脂層を形成する一般ポリオレフィン系樹脂や前記接着性フィルムの酸変性ポリオレフィン層317を形成する酸変性ポリオレフィン樹脂と比べて融点・ガラス転移点が高いためにリチウム電池本体202に突設されたタブ204に前記タブフィルム306を被覆し、図13中、第3実施形態で示したタブフィルム306に示すように外装体205と周縁を熱接着すると外装体の内層であるポリオレフィン系樹脂からなる最内層214とタブフィルム306の酸変性ポリオレフィン層317は熱と圧力により加圧部の外に押出され、加圧部が薄肉となる問題があるが、PEN320は薄肉となることなく残るために外装体のアルミニウム等の金属箔層とタブ204とが短絡することを防止することができる。
【0135】
また、PEN320は水蒸気バリア性に優れる(水蒸気透過度が小さい)ために、水蒸気のリチウム電池内部への侵入を防止することができて電池寿命を設計通りの寿命とすることができる。PEN320の厚さとしては、6μm以上であり、好ましくは12〜25μmである。6μm未満では短絡の虞があり、25μm超ではコスト対効果(短絡防止効果)において顕著な向上効果が見られない。また、PEN320の表面には必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の周知の易接着手段を講じることができるものである。なお、PENの代わりにポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETと呼称する)を用いても同様の効果を得ることができる。
【0136】
次に、接着促進剤層319について説明する。接着促進剤層319はPEN320と酸変性ポリオレフィン層317とを強固に接着する目的で設けるものであり、イソシアネート系、ポリエチレンイミン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、ポリブタジエン系等の周知の接着促進剤を用いることができるが、実験の結果では、トリイソシアネートモノマー、ポリメリックMDIから選ばれたイソシアネート成分からなるものがラミネート強度に優れ、かつ、電解液浸漬後のラミネート強度の低下が少なかった。
【0137】
特にトリイソシアネートモノマーであるトリフェニルメタン−4,4',4"−トリイソシアネートやポリメリックMDIであるポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(NCO含有率が約30%、粘度が200〜700mPa・s)からなる接着促進剤を用いた場合に最も良好な結果を得ることができた。次いで、同じくトリイソシアネートモノマーであるトリス(p−イソシアネートフェニル)チオフォスフェイトや、ポリエチレンイミン系を主剤とし、ポリカルボジイミドを架橋剤とした2液硬化型の接着促進剤が良好な結果を示すものであった。
【0138】
接着促進剤層319の形成は、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法等の周知の塗布法で塗布・乾燥することにより形成することができ、塗布量としては、トリイソシアネートからなる接着促進剤の場合は、20〜100mg/m2、好ましくは40〜60mg/m2であり、ポリメリックMDIからなる接着促進剤の場合は、40〜150mg/m2、好ましくは60〜100mg/m2であり、ポリエチレンイミン系を主剤とし、ポリカルボジイミドを架橋剤とした2液硬化型の接着促進剤の場合は、5〜50mg/m2、好ましくは10〜30mg/m2である。なお、トリイソシアネートモノマーは、1分子中にイソシアネート基を3個持つモノマーであり、ポリメリックMDIは、MDIおよびMDIが重合したMDIオリゴマーの混合物であり、下記式(1)で示されるものである。
【0139】
【化1】

【0140】
また、接着促進剤層319としては、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する接着促進剤を用いて形成することもでき、形成方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法等の周知の塗布法で塗布・乾燥することにより形成することができる。まず、アミノ化フェノール重合体について説明する。アミノ化フェノール重合体としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、下記式(2)、(3)、(4)、(5)で表される繰返し単位からなるアミノ化フェノール重合体を挙げることができる。なお、式中のXは水素原子、ヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アリル基ないしベンジル基を示す。また、R1、R2はヒドロキシル基、アルキル基、ヒドロキシアルキル基を示し、同じ基であってもよいし、異なる基であってもよいものである。
【0141】
下記式(2)〜(5)において、X、R1、R2で示されるアルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4の直鎖または分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。また、X、R1、R2で示されるヒドロキシアルキル基としては、たとえば、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等のヒドロキシ基が1個置換された炭素数1〜4の直鎖ないし分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。なお、下記式(2)〜(5)におけるXは水素原子、ヒドロキシル基、および、ヒドロキシアルキル基のいずれかであるのが好ましい。
【0142】
また、下記式(2)、(4)で表されるアミノ化フェノール重合体は、繰返し単位を約80モル%以下、好ましくは繰返し単位を約25〜約55モル%の割合で含むアミノ化フェノール重合体である。また、アミノ化フェノール重合体の数平均分子量は、好ましくは約500〜約100万、より好ましくは約1000〜約2万である。アミノ化フェノール重合体は、たとえば、フェノール化合物ないしナフトール化合物とホルムアルデヒドとを重縮合して下記式(2)ないし(4)で表される繰返し単位からなる重合体を製造し、次いで、この重合体にホルムアルデヒドおよびアミン(R12NH)を用いて水溶性官能基(−CH2NR12)を導入することにより製造される。アミノ化フェノール重合体は、1種ないし2種以上混合して用いることができる。
【0143】
【化2】

【0144】
【化3】

【0145】
【化4】

【0146】
【化5】

【0147】
次に、三価クロム化合物について説明する。三価クロム化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、硝酸クロム、フッ化クロム、硫酸クロム、酢酸クロム、蓚酸クロム、重リン酸クロム、クロム酸アセチルアセテート、塩化クロム、硫酸カリウムクロム等を挙げることができ、好ましくは硝酸クロム、フッ化クロムである。
【0148】
次に、リン化合物について説明する。リン化合物としては、公知のものを広く使用することができ、たとえば、リン酸、ポリリン酸等の縮合リン酸およびこれらの塩等を挙げることができる。ここで、前記塩としては、たとえば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩を挙げることができる。
【0149】
そして、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する接着促進剤を用いて形成する接着促進剤層319としては、1m2当たり、アミノ化フェノール重合体が約1〜約200mg、三価クロム化合物がクロム換算で約0.5〜約50mg、および、リン化合物がリン換算で約0.5〜約50mgの割合で含有されているのが適当であり、アミノ化フェノール重合体が約5〜約150mg、三価クロム化合物がクロム換算で約1.0〜約40mg、および、リン化合物がリン換算で約1.0〜約40mgの割合で含有されているのがより好ましい。この場合の乾燥温度としては、150〜250℃、好ましくは170〜250℃で、加熱処理(焼付け)するのが適当である。さらに、図12に示す積層構成とした後に酸変性ポリオレフィン層317を構成する樹脂の軟化点を超える温度で後加熱処理を行なうと著しく層間接着強度を向上させることができる。
【0150】
なお、アミノ化フェノール重合体、三価クロム化合物、および、リン化合物を含有する接着促進剤を用いて形成する接着促進剤層19の場合、図12に示す積層構成において、接着促進剤層319と酸変性ポリオレフィン層317との層間に、上記で説明したイソシアネート成分からなる接着促進剤層を設けてもよいものである。このように構成することにより、上記した後加熱処理を行なうことなく、層間接着強度を著しく向上させることができる。
【0151】
次に、酸変性ポリオレフィン層317について説明する。酸変性ポリオレフィン層317はタブ204および外装体の内層であるヒートシール層214と熱接着するために設ける層であり、最内層214に用いる樹脂種により適宜選択して用いる必要があるが、酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができ、不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリオレフィン樹脂、エチレンないしプロピレンとアクリル酸、または、メタクリル酸との共重合体、あるいは、金属架橋ポリオレフィン樹脂等であり、必要に応じてブテン成分、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体、非晶質のエチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等を5%以上添加してもよいものである。
【0152】
また、酸変性ポリオレフィン層317は、上記した酸変性ポリオレフィン樹脂をTダイ押出機から接着促進剤層319を形成したPEN320上に加熱溶融押出しすることにより形成するものであるが、接着促進剤層319と酸変性ポリオレフィン層317との接着性を向上させる目的で、Tダイ押出機から加熱溶融押出しされた前記酸変性ポリオレフィン樹脂の接着促進剤層319と当接する面に、必要に応じてオゾン処理を施してもよいものである。
【0153】
特に、接着促進剤層319がイソシアネート系の場合に、このオゾン処理を施すことによりラミネート強度が顕著に向上する。酸変性ポリオレフィン層317の厚さとしては、10μm以上であり、好ましくは20〜50μmである。10μm未満では、押出し溶融樹脂の熱量が不足するために十分なラミネート強度が得られず、結果として十分なシール強度を得ることができず、50μm超では接着性フィルムの総厚が増し、端面からの水蒸気バリア性が低下すると共にコスト対効果(ラミネート強度、シール強度)において顕著な向上効果が見られない。
【0154】
また、酸変性ポリオレフィン層317は、必要に応じて顔料を添加して着色層としてもよいものである。これに用いる顔料としては、無機系の各種顔料を用いることができるが、一般に電池の内部に使用されている材料であり、電解液に対する溶出の虞がなく、また、着色効果が大きく接着性を阻害しない程度の添加量で充分な着色効果を得られると共に熱で溶融することがなく添加した樹脂の見かけの溶融粘度を高くすることができ、熱接着時(シール時)に加圧部が薄肉となることを防止してシール強度の低下を防ぐことができるなどの理由から、炭素(カーボン、グラファイト)が好ましく、その添加量としては、たとえば、平均粒径が約0.03μmのカーボンブラックを使用した場合、樹脂100重量部に対して0.05〜0.3重量部、好ましく0.1〜0.2重量部である。このように前記ヒートシール層214を着色層とすることにより、前記タブフィルム306の有無をセンサーで検知可能なもの、あるいは、目視で検査可能なものとすることができる。
【0155】
さらに、タブフィルム306としたときのフラット性や利便性を考慮すると、PEN320の両面は、共に酸変性ポリオレフィン層317とし、同一樹脂で同一厚さに形成するのが好ましい。なお、今までは、PEN320の両面に前記酸変性ポリオレフィン層317を設けた構成で説明してきたが、これは説明する上で本発明のタブフィルム306の代表的な層構成を挙げたものであって、本発明のタブフィルム306はこれに限るものではなく、PEN320のいずれか一方の面に本発明のリチウム電池の包装体で説明した低密度ポリエチレン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,線状低密度ポリエチレン,エチレン−ブテン共重合体等のエチレン系樹脂、ホモポリプロピレン,エチレン−プロピレン共重合体,エチレン−プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂の単体ないし混合物などの一般ポリオレフィン系樹脂を用いてもよいものである。
【0156】
[第4実施形態]
次に本発明に係るリチウムイオン電池の第4実施形態について説明する。本実施形態にかかるリチウムイオン電池は負極に連結される電池タブの構成以外、第1〜第3実施形態で示したリチウムイオン電池と共通しており、共通する部分について同一の符号を付して説明を省略する。第4実施形態に係る電池タブは芯材を銅を主成分とする金属部材の表裏面にニッケルを主成分とする合わせ材を積層接合して形成されたクラッド材である。そして、この電池タブは、厚さが50〜200μm、幅が5〜100mm程度である。
【0157】
第1〜第3実施形態で示したリチウムイオン電池の負極に連結されるニッケルメッキ層を表面に形成した電池タブの代わりに第4実施形態で示す、クラッド材からなる電池タブを用いても、第1〜第3実施形態で示したリチウムイオン電池と同等の効果を得ることができる。すなわち、「ニッケルを主成分とする合わせ材」が第1〜第3実施形態で示した「ニッケルメッキ層」に相当する。金属部材を銅で構成し、金属部材表裏面にニッケルを主成分とする合わせ材をクラッド材として積層接合することで、電池タブの製造コストを抑えることができる。また、積層接合されたニッケルから構成される合わせ材上にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層を形成することにより、クラッド材からなる電池タブの端面において、銅を主成分とする金属部材の端面から銅が溶出するのを防ぎ、外装体とタブの剥離を防ぐことができる。また、金属部材を高い電気伝導性を有する銅で構成することにより、電池タブの電気抵抗を抑え電気的エネルギーのロスを抑えることができる。
【0158】
次に本発明によるクラッド材からなる電池タブ及びニッケルメッキ処理された電池タブの耐電解液シール性について、実施例により以下説明する。
【0159】
[実施例1]
[包装材の作製]
まず、本実施例で用いる電気化学セル用包装材料の製造方法について説明する。まず、アルミニウム(厚さ40μm)の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルム(厚さ25μm)を2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせた。次に、他の化成処理面に酸変性ポリプロピレン(以下酸変性PPと略す)をロールコート法により塗布、焼付けし、未延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)を熱ラミネート法により、積層して本実施例で用いる電気化学セル用包装材を得た。このとき酸変性PPの厚さは15μmとする。
【0160】
なお、本実施例において、化成処理層には、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸からなる処理液をロールコート法により塗布し、皮膜温度が190℃以上となる条件において焼付けた。ここで、クロムの塗布量は10mg/m2(乾燥重量)であり、酸変性PPは、アルミニウム温度が140℃以上となる条件において焼付け、酸変性PPの塗布量は、3g/m2(乾燥重量)とした。
【0161】
[タブフィルムの作製]
次に、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布(目付け量14g/m2、厚さ45μm、密度0.24g/cm3、吸湿性0.1%以下(25℃、65%RH)、クラレ製「ベクルスMBBK14F」)の一方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布した後、不織布の他方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し総厚100μmのタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa―Fという。
【0162】
PENフィルム(12μm)の一方の面にイソシアネート系の接着促進剤を固形分として50mg/m2塗布すると共にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し、その後にPENフィルム(12μm)の他方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し、その後45℃で72時間エージング処理をして総厚100μmのタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa―Nという。
【0163】
マレイン酸変性ポリプロピレンからなるタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa単層フィルムという。
【0164】
[サンプルタブの作製]
次に、幅4mm、長さ40mmで、厚さ90μmの銅芯材両面に厚さ5μmのニッケル製合わせ材を積層接合したクラッド材からなるタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)実施例1、実施例2、比較例6に係るタブを得た。
【0165】
幅4mm、長さ40mmで、厚さ90μmのニッケル製のタブ材を0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)実施例3、実施例4に係るタブを得た。
【0166】
次に、幅4mm、長さ40mmで、厚さ96μmの銅芯材両面に厚さ2μmのニッケル層をメッキ処理により形成したタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)実施例5に係るタブを得た。
【0167】
幅4mm、長さ40mmで、厚さ90μmの銅芯材両面に厚さ5μのニッケル製合わせ材を積層接合したクラッド材からなるタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、比較例1、比較例2に係るタブを得た。
【0168】
幅4mm、長さ40mmで、厚さ90μmのニッケル製のタブ材を0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、比較例3、比較例4に係るタブを得た。
【0169】
次に、幅4mm、長さ40mmで、厚さ96μmの銅芯材両面に厚さ2μmのニッケル層をメッキ処理により形成したタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、比較例5に係るタブを得た。
【0170】
[サンプルプレシーリングタブの作製]
実施例1、実施例3、実施例5、比較例1、比較例3、比較例5に係るタブ(4×40mm)の両面にタブフィルムPPa―F(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブの各サンプルを得た。
【0171】
実施例2、実施例4、比較例2、比較例4に係るタブ(4×40mm)の両面にタブフィルムPPa―N(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブの各サンプルを得た。
【0172】
比較例6に係るタブ(4×40mm)の両面にPPa単層フィルム(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブのサンプルを得た。
【0173】
[評価方法]
次に上記作製した包装材(60×150mm)を2つ折りにし、対向する2辺を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:シール温度190℃、面圧1.0MPa、シール時間3秒)、パウチを形成した。次に、サンプルとして作製した上記プレシーリングタブ2本を10mmの間隔で開口部に挿入し、開口部でプレシーリングタブを挟持しながら熱接着(シール条件:シール温度190℃、面圧1.0MPa、シール時間3秒、幅8mm、深さ80μmの凹部を有する上下シールヘッドを使用)した。次に2つ折りにした包装材のボトム部分を切り開き、60℃、1000ppmの水分を添加した電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1の液に1molの6フッ化リン酸リチウムを添加)2gを包装材内部に注入し、タブ部を下向きにして、60℃で7日又は14日間保存した後、次の評価をおこなった。
【0174】
[ピーク強度の測定による評価]
各サンプルのタブシール部をタブの幅に沿って切り取りタブと包装材との間(幅4mm×長さ7mm)のシール強度をオートグラフにて引張り速度300mm/分で測定し、その時のピーク強度を耐電解液シール強度とし、下記の表1にまとめた。
【0175】
[シール残存率の測定による評価]
各サンプルのタブフィルムをタブの幅に沿って切り取りタブとタブフィルムとの接着部分の面積を測定し、最初の接着部分と残存した接着部分の面積比較からシール残存率をもとめた。また、併せてタブ周辺での電解液の漏れを調べこれらを下記の表2にまとめた。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
表1から明らかなように実施例1、実施例2で得られたリン酸クロメート処理を施した(複合皮膜層を表面に形成した)ニッケル材を備えるクラッド材は、比較例1、比較例2で得られたリン酸クロメート処理を施していないニッケル材を備えるクラッド材と比較して、PPa―F、PPa―Nのタブフィルムに対して優れたシール強度を示すとともに電解液への浸漬に対して時間の経過によるシール強度の低下が少なかった。このことから、リン酸クロメート処理した表面にニッケル材を備えるクラッド材を電池タブとして使用する場合、タブフィルムを用いて長期間に亘り使用し続けた場合でも、タブの挟持部分における外装体での密封性が確保できることがわかる。また、表1からニッケルを主成分とするニッケル材からなるタブと比較して、芯材に銅を用いてニッケル材を積層接合したクラッド材からなるタブは十分なシール強度が得られるとともに、シール強度の低下も抑えられることがわかる。
【0179】
また、同様に、表1から明らかなように実施例5で得られたリン酸クロメート処理を施した(複合皮膜層を表面に形成した)ニッケルメッキ層が形成された電池タブは、比較例5で得られたリン酸クロメート処理を施していないニッケルメッキ層が形成された電池タブと比較して、PPa―Fのタブフィルムに対して優れたシール強度を示すとともに電解液への浸漬に対して時間の経過によるシール強度の低下が少なかった。このことから、表面をリン酸クロメート処理したニッケルメッキ層を備える金属部材を電池タブとして使用する場合、タブフィルムを用いて長期間に亘り使用し続けた場合でも、タブの挟持部分における外装体での密封性が確保できることがわかる。また、表1からニッケルを主成分とするニッケル材からなるタブと比較して、芯材に銅を用いて表面にニッケルメッキ層を形成した金属部材からなるタブは十分なシール強度が得られるとともに、シール強度の低下も抑えられることがわかる。
【0180】
また、表2から明らかなように表面をリン酸クロメート処理したニッケル層を備えるクラッド材は接着部分が100%残存している。このことから、クラッド材表面におけるニッケルの溶出はリン酸クロメート処理により防がれていると考えられる。
【0181】
同様に、表2から明らかなように表面をリン酸クロメート処理したニッケルメッキ層を備える金属部材は接着部分が100%残存している。このことから、ニッケルメッキ層表面におけるニッケルの溶出はリン酸クロメート処理により防がれていると考えられる。
【0182】
[実施例2]
[包装材の作製]
まず、本実施例で用いる電気化学セル用包装材料の製造方法について説明する。まず、アルミニウム(厚さ40μm)の両面に化成処理を施し、一方の化成処理面に、延伸ナイロンフィルム(厚さ25μm)を2液硬化型ポリウレタン系接着剤を介してドライラミネート法により貼り合わせた。次に、他の化成処理面に溶融した酸変性ポリプロピレン(以下酸変性PPと略す)を接着樹脂として押出し、未延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ30μm)をサンドイッチラミネーション法により積層して本実施例で用いる電気化学セル用包装材を得た。このとき酸変性PPの厚さは15μmとする。
【0183】
なお、本実施例において、化成処理層には、フェノール樹脂、フッ化クロム化合物、リン酸からなる処理液をロールコート法により塗布し、皮膜温度が190℃以上となる条件において焼付けた。ここで、クロムの塗布量は10mg/m2(乾燥重量)とした。
【0184】
[タブフィルムの作製]
次に、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布(目付け量14g/m2、厚さ45μm、密度0.24g/cm3、吸湿性0.1%以下(25℃、65%RH)、クラレ製「ベクルスMBBK14F」)の一方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布した後、不織布の他方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し総厚100μmのタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa―Fという。
【0185】
PENフィルム(12μm)の一方の面にイソシアネート系の接着促進剤を固形分として50mg/m2塗布すると共にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し、その後にPENフィルム(12μm)の他方の面にマレイン酸変性ポリプロピレンをTダイ押出機で44μm厚さに押出し塗布し、その後45℃で72時間エージング処理をして総厚100μmのタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa―Nという。
【0186】
マレイン酸変性ポリプロピレンからなるタブフィルム(幅8mm、長さ15mm)を得た。以下、このタブフィルムをPPa単層フィルムという。
【0187】
[サンプルタブの作製]
次に、厚さ90μmの銅芯材両面に厚さ5μmのニッケル製合わせ材を積層接合したクラッド材からなるタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、実施例11、実施例12、比較例16に係るタブを得た。
【0188】
厚さ100μmのニッケル製のタブ材を0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、実施例13、実施例14、比較例17に係るタブを得た。
【0189】
厚さ96μmの銅芯材両面に厚さ2μmのニッケル層をメッキ処理により形成したタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、その後、タブ材をフェノール樹脂、フッ化クロム(III)化合物、リン酸の3成分からなる化成処理液中に5秒間浸漬して引上げ、熱風により、水分を除去した後、皮膜温度が190℃に到達するまで加熱して化成処理を行い(リン酸クロメート処理)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、実施例15に係るタブを得た。
【0190】
厚さ90μmの銅芯材両面に厚さ5μのニッケル製合わせ材を積層接合したクラッド材からなるタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、比較例11、比較例12に係るタブを得た。
【0191】
厚さ100μmのニッケル製のタブ材を0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、比較例13、比較例14に係るタブを得た。
【0192】
厚さ96μmの銅芯材両面に厚さ2μmのニッケル層をメッキ処理により形成したタブを0.1規定の硫酸液に10秒間浸漬してから水洗いして乾燥し(脱脂工程)、幅4mm、長さ40mmに裁断して、比較例15に係るタブを得た。
【0193】
なお、上記比較例11〜比較例17および実施例11〜15に係るタブの表面硬度(HV)を測定するとともに、タブの成形時に生じたバリの高さを接触式膜厚計により測定し、表3にまとめた。
【0194】
【表3】

【0195】
[サンプルプレシーリングタブの作製]
実施例11、実施例13、実施例15、比較例11、比較例13、比較例15に係るタブ(4×40mm)の両面にタブフィルムPPa―F(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブの各サンプルを得た。
【0196】
実施例12、実施例14、比較例12、比較例14に係るタブ(4×40mm)の両面にタブフィルムPPa―N(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブの各サンプルを得た。
【0197】
比較例16、比較例17に係るタブ(4×40mm)の両面にPPa単層フィルム(15×8mm)を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:190℃、面圧1.2MPa、5秒を2回)、プレシーリングタブのサンプルを得た。
【0198】
なお、上記比較例11〜比較例17および実施例11〜15に係るタブ表面の化成処理の有無及び設けたタブフィルムの種類を表4にまとめた。
【0199】
【表4】

【0200】
[評価方法1]
次に上記作製した包装材(60×150mm)を2つ折りにし、対向する2辺を加熱及び加圧により熱接着し(シール条件:シール温度190℃、面圧1.0MPa、シール時間3秒)、パウチを形成した。次に、サンプルとして作製した上記プレシーリングタブ2本を10mmの間隔で開口部に挿入し、開口部でプレシーリングタブを挟持しながら熱接着(シール条件:シール温度190℃、面圧1.0MPa、シール時間3秒、幅8mm、深さ80μmの凹部を有する上下シールヘッドを使用)した。次に2つ折りにした包装材のボトム部分を切り開き、60℃、1000ppmの水分を添加した電解液(エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート:ジメチルカーボネート=1:1:1の液に1molの6フッ化リン酸リチウムを添加)2gを包装材内部に注入し、タブ部を下向きにして、60℃で7日又は14日間保存した後、次の評価をおこなった。
【0201】
[ピーク強度の測定による評価]
各サンプルのタブシール部をタブの幅に沿って切り取りタブと包装材との間(幅4mm×長さ7mm)のシール強度をオートグラフにて引張り速度300mm/分で測定し、その時のピーク強度を耐電解液シール強度とし、下記の表5にまとめた。
【0202】
[シール残存率の測定による評価]
各サンプルのタブフィルムをタブの幅に沿って切り取りタブとタブフィルムとの接着部分の面積を測定し、最初の接着部分と残存した接着部分の面積比較からシール残存率をもとめた。また、併せてタブ周辺での電解液の漏れを調べこれらを下記の表6にまとめた。
【0203】
[評価方法2]
[タブの折り曲げ性評価]
次に上記作製した各サンプルのタブ(4mm×150mm)の両端を幅4mmの端面同士で付き合わせて折り曲げ、タブをフープ状に成形した。次に付き合わせ部分と対向するフープ部分を平板で1秒間プレスし(折り曲げ線にかかる線圧0.06kg/mm)、タブを2つ折りにした。次にその折り曲げ部分の厚さを測定し、200μmに対する折り曲げ部分の厚さの比を元厚比とし、下記の表7にまとめた。
【0204】
[評価方法3]
[ヒートシール時の短絡発生の評価]
次に上記作製した包装材(60×150mm)を2つ折りにし、各サンプルのプレシーリングタブを挟持した。次に、正極端子をタブにセットし、負極端子を包装材を構成するアルミニウムにセットした。次に、正極端子および負極端子間に電圧25Vを印加し、ニッケルタブを挟持した部分を含む7mm幅でシール温度190℃、シール圧1MPaでシールを行い、抵抗値が1000MΩ以下になる時間(以下、絶縁破壊時間とする)をそれぞれ測定し、下記の表8にまとめた。
【0205】
【表5】

【0206】
【表6】

【0207】
【表7】

【0208】
【表8】

【0209】
表4、表5から明らかなように実施例11、実施例12で得られたリン酸クロメート処理(化成処理、複合皮膜層を表面に形成した)を施したニッケル材を備えるクラッド材は、比較例11、比較例12で得られたリン酸クロメート処理を施していないニッケル材を備えるクラッド材と比較して、PPa―F、PPa―Nのタブフィルムに対して優れたシール強度を示すとともに電解液への浸漬に対して時間の経過によるシール強度の低下が少なかった。このことから、リン酸クロメート処理した表面にニッケル材を備えるクラッド材を電池タブとして使用する場合、タブフィルムを用いて長期間に亘り使用し続けた場合でも、タブの挟持部分における外装体での密封性が確保できることがわかる。また、表5からニッケルを主成分とするニッケル材からなるタブと比較して、芯材に銅を用いてニッケル材を積層接合したクラッド材からなるタブは十分なシール強度が得られるとともに、シール強度の低下も抑えられることがわかる。
【0210】
また、同様に、表4、表5から明らかなように実施例15で得られたリン酸クロメート処理を施した(複合皮膜層を表面に形成した)ニッケルメッキ層が形成された電池タブは、比較例15で得られたリン酸クロメート処理を施していないニッケルメッキ層が形成された電池タブと比較して、PPa―Fのタブフィルムに対して優れたシール強度を示すとともに電解液への浸漬に対して時間の経過によるシール強度の低下が少なかった。このことから、表面をリン酸クロメート処理したニッケルメッキ層を備える金属部材を電池タブとして使用する場合、タブフィルムを用いて長期間に亘り使用し続けた場合でも、タブの挟持部分における外装体での密封性が確保できることがわかる。また、表5からニッケルを主成分とするニッケル材からなるタブと比較して、芯材に銅を用いて表面にニッケルメッキ層を形成した金属部材からなるタブは十分なシール強度が得られるとともに、シール強度の低下も抑えられることがわかる。
【0211】
また、表6から明らかなように表面をリン酸クロメート処理したニッケル層を備えるクラッド材は接着部分が100%残存している。このことから、クラッド材表面とタブフィルムとのシール強度は電解液のへの浸漬に対して低下がみられず、リン酸クロメート処理によりクラッド材表面とタブフィルムとの耐電解液シール強度が向上していると考えられる。
【0212】
同様に、表6から明らかなように表面をリン酸クロメート処理したニッケルメッキ層を備える金属部材は接着部分が100%残存している。このことから、ニッケルメッキ層表面とタブフィルムとのシール強度は電解液のへの浸漬に対して低下がみられず、リン酸クロメート処理によりニッケルメッキ層表面とタブフィルムとの耐電解液シール強度が向上していると考えられる。
【0213】
また、タブを電池に使用する際、折り曲げて外部端子と接続させるため、タブは所定の折り曲げ特性が必要と成る。しかし、表3、表7に示すように、折り曲げ性に優れるタブは、タブの表面硬度が低く、バリが発生し易くなる。このため、発生したバリが包装材の最内層を傷つけ、ヒートシール時、タブと包装材のアルミ二ウムが接触して短絡が発生し易くなる。しかし、表8に示すように、タブフィルムPP−F又は、PP−Nを介した比較例11〜比較例15、実施例1〜実施例5のタブはPPa単層フィルムを介した比較例16及び比較例17のタブと比較して、ヒートシール時に短絡が発生し難いことがわかる。これにより、銅芯材両面にニッケル層をメッキ処理により形成したタブ及び銅芯材両面にニッケル製合わせ材に積層接合したクラッド材からなるタブはタブフィルムPP−F又は、PP−Nを介すことにより、電池用のタブ材として好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明のリチウムイオン電池タブを用いることにより、エネルギー貯蔵用や電気自動車用の電源として好適な、耐久性、安全性の高い大型のリチウムイオン電池を安価で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0215】
【図1】は、本発明のリチウムイオン電池(パウチタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図2】は、本発明のリチウムイオン電池のタブ周辺の構造を示す断面拡大図である。
【図3】は、本発明のリチウムイオン電池(エンボスタイプタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図4】は、本発明に用いられる外装体の積層構造を示す断面図である。
【図5】は、本発明のリチウムイオン電池(パウチタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図6】は、本発明のリチウムイオン電池のタブ周辺の構造を示す断面拡大図である。
【図7】は、本発明のリチウムイオン電池(エンボスタイプタイプ)の斜視図及び分解斜視図である。
【図8】は、本発明のタブフィルムの層構成を図解的に示す断面図である。
【図9】は、本発明に用いられる外装体の積層構造を示す断面図である。
【図10】は、リチウムイオン電池タブと外装体との熱接着における接着フィルムの装着方法を説明する斜視図である。
【図11】は、接着フィルムの他の装着方法を説明する斜視図である。
【図12】は、本発明のタブフィルムの層構成を図解的に示す断面図である。
【図13】は、本発明のリチウムイオン電池のタブ周辺の構造を示す断面拡大図である。
【符号の説明】
【0216】
101 リチウムイオン電池
102 リチウムイオン電池本体
103 セル(蓄電部)
104 タブ
104b 複合皮膜層(タブ)
104x ニッケルメッキ層
105 外装体
106 タブフィルム
107 挟持部分
108 集電体
110 積層体
111 基材層
112 バリア層
113 中間層
114 最内層(熱接着層)
115 複合皮膜層(バリア層表面)
116 接着層
117 酸変性ポリオレフィン層
118 耐熱性不織布
119 接着促進剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及び正極集電体から成る正極と、負極活物質及び負極集電体から成る負極と、前記正極及び負極間に充填される電解質と、を含むリチウムイオン電池本体と、
前記リチウムイオン電池本体を収納し周縁部を熱接着することにより前記リチウムイオン電池本体を密封する外装体と、を備えたリチウムイオン電池に用いられ、
前記負極に連結されるとともに前記外装体により先端が外部に突出するように挟持され、
前記挟持部分がヒートシールされる電池タブであって、
前記電池タブは金属部材の少なくとも表裏面にニッケル層が形成され、
少なくとも前記挟持部分の表裏面および側面にアミノ化フェノール重合体、3価クロム化合物およびリン化合物の複合皮膜層が形成されていることを特徴とする電池タブ。
【請求項2】
前記金属部材が銅から構成され、
前記ニッケル層がメッキ処理により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電池タブ。
【請求項3】
前記金属部材が銅から構成され、
前記ニッケル層はニッケルから構成される合わせ材であり、
前記金属部材と前記ニッケル層とがクラッド材として積層接合していることを特徴とする請求項1に記載の電池タブ。
【請求項4】
前記複合皮膜層に、繊維質シート又は多孔質シートの両面にポリオレフィン樹脂層を有し、前記ポリオレフィン樹脂層の少なくとも一方が酸変性ポリオレフィン層であるタブフィルムが被覆されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の電池タブ。
【請求項5】
前記繊維質シートが天然繊維、又は200℃以上の融点を有する合成樹脂性の化学繊維からなることを特徴とする請求項4に記載の電池タブ。
【請求項6】
前記繊維質シートが主として全芳香族ポリエステル系繊維からなることを特徴とする請求項5に記載の電池タブ。
【請求項7】
前記全芳香族ポリエステル系繊維が、溶融異方性全芳香族ポリエステル繊維からなることを特徴とする請求項6に記載の電池タブ。
【請求項8】
前記全芳香族ポリエステル系繊維からなる前記繊維質シートの25℃、65%RHの環境下での吸湿率が0.1%以下であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の電池タブ。
【請求項9】
前記多孔質シートが200℃以上の融点を有する合成樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の電池タブ。
【請求項10】
前記複合皮膜層に、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムの両面にポリオレフィン樹脂層を有し、該ポリオレフィン樹脂層の少なくとも一方が酸変性ポリオレフィン層であるタブフィルムが被覆されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1に記載の電池タブ。
【請求項11】
前記酸変性ポリオレフィン層が不飽和カルボン酸でグラフト変性したポリエチレンで形成されていることを特徴とする請求項4〜請求項10のいずれか1に記載の電池タブ。
【請求項12】
前記複合皮膜層はアミノ化フェノール重合体が1〜200mg/m2、クロム付着量が0.5〜50mg/m2かつリン付着量が0.5〜5mg/m2であることを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか1に記載の電池タブ。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに1記載の電池タブを備えたことを特徴とするリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−99527(P2009−99527A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124773(P2008−124773)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】