説明

電流検知装置、電流検知素子および電流検知方法

【課題】より広い電流レンジの測定を可能とする。
【解決手段】電流を検知するための素子として、磁界の強度に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗素子を用いる。磁気抵抗素子の近傍に配置した配線に測定対象の電流が流れた際に発生する磁界に応じた当該磁気抵抗素子の抵抗に基づき、当該測定対象電流の電流値を測定する。また、磁気抵抗素子を、IV特性の直線領域において純抵抗として用いて、当該磁気抵抗素子に測定対象電流を直接流して電流値の測定を行う。これらの、磁気抵抗素子の磁気抵抗効果を利用した電流測定と、磁気抵抗素子を純抵抗として用いた電流測定とを、測定対象電流の電流値に応じて切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗素子を用いて電流を検知する電流検知装置、電流検知素子および電流検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気配線に流れる電流を測定する電流センサとしては、計器用変流器などで代表される、カレントトランスやクランプメータなどの可搬式のセンサが知られている。これらのセンサは、原理的および精度の確保のために、鉄心が主に使用されている。そのため、大電流では磁気飽和が生じてしまい、電流測定範囲を大きく取れなかった。また、大電流では、鉄心が発熱してしまうおそれもあった。
【0003】
そこで、これら鉄心を用いた電流センサに代わるものとして、磁気抵抗素子を用いた電流センサが提案されている。磁気抵抗素子は、磁界の強さに応じて抵抗値が変化する素子である。例えば、磁気抵抗素子の近傍に、測定対象電流が流れる配線を配置する。そして、この配線を流れる測定対象電流により発生する磁界に応じた磁気抵抗素子の抵抗を測定し、測定結果に基づき測定対象電流の電流値を求めることができる。
【0004】
磁気抵抗素子を用いたセンサとしては、例えば、特許文献1には、トンネル磁気抵抗効果素子を利用した磁気センサが開示されている。特許文献1によれば、トンネル磁気抵抗効果素子の下部電極にバイアス電流を流すことでより少ない消費電力でバイアス磁界を素子に印加することができ、外部磁界に応じてバイアス磁界の大きさを変化させることで、磁界検出精度を向上させることを可能としている。
【0005】
特許文献2には、巨大磁気抵抗効果(Giant Magneto-Resistive effect)を発現する巨大磁気抵抗素子(GMR素子)を用いるセンサ部と、測定対象電流を流すプリント基板とを積層して構成した電流センサが開示されている。また、特許文献3には、磁気抵抗効果素子に流してその変化を磁界変化として検知するための検知用電流を当該素子に対して流す向きを交互に切り替え、各々の向きの検知用電流を流したときに検出される電圧の平均値を取ることで、検知用電流が発生する磁界の影響による誤差を抑え、より高感度化した磁界検知を可能とした構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような磁気抵抗素子では、所定の磁界強度で抵抗値が飽和するため、検出可能な電流レンジが狭いという問題点があった。特に、電流により発生する磁界に応じた抵抗値を測定することで当該電流の検知を行うため、微弱な電流の検出を行うことが困難であった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、より広い電流レンジを測定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、第1の発明は、外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、フリー層と固定層とで磁化の方向が反平行の場合にフリー層と固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを備える磁気抵抗素子を用いた電流検知装置であって、測定対象電流により磁界を発生する配線が予め定められた距離に配置される第1の磁気抵抗素子と、第2の磁気抵抗素子と、第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するか否かを切り替える切り替え手段と、センス電流の第1の磁気抵抗素子による電圧降下と、測定対象電流の第2の磁気抵抗素子による電圧降下とを測定する測定手段と、測定手段での、第1の磁気抵抗素子による電圧降下の測定結果に応じて切り替え手段を制御する制御手段とを有し、制御手段は、切り替え手段により第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流が供給されないように切り替えられている状態において測定手段により測定された第1の磁気抵抗素子による電圧降下の大きさが閾値未満である場合に、第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するように切り替え手段を制御することを特徴とする。
【0009】
また、第2の発明は、基板と、外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、フリー層と固定層とで磁化の方向が反平行の場合にフリー層と固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを含む複数の薄膜が基板に対して積層されてなる磁気抵抗部と、測定対象電流が入力される入力部と、磁気抵抗部に対して周回して基板上に設けられる配線部と、入力部から入力された測定対象電流を磁気抵抗部に対して供給するか否かを切り替える切り替え部とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、第3の発明は、外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、フリー層と固定層とで磁化の方向が反平行の場合にフリー層と固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを備える磁気抵抗素子を用いた電流検知装置の電流検知方法であって、測定手段が、測定対象電流により磁界を発生する配線が予め定められた距離に配置される第1の磁気抵抗素子によるセンス電流の電圧降下を測定する第1の測定ステップと、測定手段が、測定対象電流の第2の磁気抵抗素子による電圧降下を測定する第2の測定ステップと、切り替え手段が、第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するか否かを切り替える切り替えステップと、制御手段が、切り替えステップにより第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流が供給されないように切り替えられている状態において第1の測定ステップにより測定された電圧降下の大きさが閾値未満である場合に、第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するように切り替えステップを制御する制御ステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より広い電流レンジの測定が可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、各実施形態に適用可能な磁気抵抗素子としてのTMR素子の一例の構造を示す略線図である。
【図2】図2は、磁気抵抗素子の磁気抵抗特性の例を示す略線図である。
【図3】図3は、磁気抵抗素子のIV特性の例を示す略線図である。
【図4】図4は、第1の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。
【図5】図5は、電流検知装置の一例の測定手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、第2の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。
【図7】図7は、第3の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。
【図8】図8は、第4の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。
【図9】図9は、第5の実施形態による電流検知装置の一例の構成の断面図を示す。
【図10】図10は、第6の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、電流検知装置、電流検知素子および電流検知方法の実施形態を詳細に説明する。各実施形態では、電流を検知するための素子として、磁界の強度に応じて抵抗値が変化する磁気抵抗効果を利用した磁気抵抗素子を用いる。すなわち、磁気抵抗素子の近傍に配置した配線に測定対象の電流が流れた際に発生する磁界に応じた当該磁気抵抗素子の抵抗に基づき、当該測定対象電流の電流値を測定する。また、各実施形態では、磁気抵抗素子を、IV特性の直線領域において純抵抗として用いて、当該磁気抵抗素子に測定対象電流を直接流して電流値の測定を行う。これらの、磁気抵抗素子の磁気抵抗効果を利用した電流測定と、磁気抵抗素子を純抵抗として用いた電流測定とを、測定対象電流の電流値に応じて切り替えることで、より広いレンジでの電流測定を可能とする。
【0014】
磁気抵抗効果を得られる磁気抵抗素子としては、GMR(Giant Magneto-Resistance effect)素子や、AMR(Anisotropic Magneto Resistance)素子、TMR(Tunnel Magneto-Resistance effect)素子などが知られている。各実施形態では、磁気抵抗素子として、TMR素子を適用する。
【0015】
図1は、各実施形態に適用可能な磁気抵抗素子10としてのTMR素子の一例の構造を示す。図1の例では、磁気抵抗素子10は、基板20、シード層21、磁化固定層22、トンネル障壁層23、フリー層24、キャップ層25からなるTMR層構成を有している。
【0016】
基板20としては、例えばSiやSi上熱酸化基板を用いる。基板20に対して、超高真空スパッタ装置やイオンビームスパッタ装置、EB(電子ビーム)蒸着装置などを用いて、Taなどのシード層21、FeMn、PtMn、IrMn、NiMn、PdPtMn、CrPtMn、CoMnなどやそれらの合金などからなる磁化固定層22を順次形成する。磁化固定層22の膜厚みは、各設計値によって、3nm〜400nm程度か、それ以上に設定され、好適には、10nm〜100nmとされる。
【0017】
磁化固定層22に対して、トンネル障壁層23が形成される。トンネル障壁層23は、例えばAl−OやMgOで構成され、膜厚は、0.5nm〜6nmの間で設計され、好適には、1nm〜4nmとされる。特に、トンネル障壁層23をMgOで構成すると、比較的厚い膜厚であっても優れた磁気抵抗変化率特性が得られるので、膜厚を厚くすることで大きな抵抗値が実現可能となる。
【0018】
なお、図示しないが、トンネル障壁層23をMgO層で構成する場合には、例えばCoFeSiBなどのアモルファス膜をアズデポ(as depo)で作製後、アニール時に結晶化することも好ましい。これにより、MgOの再配列を促し、結晶性を高めることで磁気抵抗変化率を著しく向上されることが可能となり、さらに検知性能の向上を図ることができる。
【0019】
フリー層24は、例えばパーマロイ(NiFe)、スーパーマロイ、CoFe、CoNiFe、CoZrNbなどの軟磁気特性を有するもので構成することにより、センサ特性を発揮することができる。また、キャップ層25としてTaなどを成膜する。
【0020】
磁気抵抗素子10は、所望の形状にフォトリソ、EB露光などを用いた微細加工により形状を作製し、上下に電極を配して完成させる。
【0021】
磁気抵抗素子10において、それぞれ磁性体であるフリー層24と磁化固定層22との間では、酸化層をトンネル障壁層23として電子がトンネル伝導を行い、トンネル電流が流れる。その際に、フリー層24と磁化固定層22とにおいて、磁化が平行の場合と反並行の場合とでは、磁性体内のバンド構造が丁度対称的に異なり、トンネル確率が異なる現象が発生する。この現象を利用して、磁気抵抗素子10の近傍に配置された配線に流れる電流を検知することができる。
【0022】
図2は、磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性の例を示す。電気配線に流す電流を増加させると、当該配線周囲の磁界強度が増加する。当該配線近傍に配置された磁気抵抗素子10は、図2に磁気抵抗曲線の一部が例示されるように、当該配線周囲の磁界強度の増加に応じて抵抗値が一定比率で増加する直線部分と、抵抗値が飽和する飽和部分とからなる磁気抵抗特性を有する。
【0023】
ここで、磁気抵抗特性の前記直線部分から飽和部分へ移行する臨界部分を、抵抗値の飽和点と称する。この飽和点は、磁気抵抗特性の直線部分から飽和部分へと移行する部分の勾配が急激に変化する部分(屈曲点)でもあることから、検知が容易である。また、飽和点は、磁性体の物性や反強磁性体と磁性体との界面で発生する交換相互作用によって一義的に決まる量であるので、非常に精度のよい臨界点となる。さらに、通常の磁気抵抗素子10の作製プロセスでも、その飽和点が再現性よく得られる。
【0024】
図3は、磁気抵抗素子10に対して電圧Vを印加した場合の、電圧V=0付近の電流−電圧特性(IV特性)の例を示す。一般的なTMR素子において、素子の断面積が小さい場合、IV特性は、直線的な変化を示しており、電圧印加によっても通常はトンネル障壁の幅と高さによって決まるモデルによって近似される。すなわち、図3に例示されるように、磁気抵抗素子10において、印加電圧が電圧V=0付近は、IV特性が直線的な変化を示す直線領域となり、この直線領域において、磁気抵抗素子10は、抵抗値が固定的な純抵抗として扱うことが可能である。
【0025】
このとき、この磁気抵抗素子10のIV特性は、温度特性が0.1%/℃台程度であって、半導体素子に比べて小さいことが知られている。この磁気抵抗素子10におけるIV特性の直線領域を用いて電圧または電流の測定を行う場合、温度特性や磁界動作が均一になるようにすることが好ましい。さらに、磁気抵抗素子10を純抵抗として扱う場合には、例えば磁気抵抗素子10の近傍の、検知対象以外の電流が流れる配線の電流を遮断するなど、電流による磁界が発生しないようにすることで、微少電流の検知が可能となる。
【0026】
従来、磁気センシングを用いて電流検知を行う場合や、磁界を直接測定する場合など、AMR素子や巻き線を用いる磁気センサでは感度が小さく、半導体ホール素子を用いる場合も同様に、比較的大きな素子を用意する必要があった。これに対して、近年におけるGMR素子やTMR素子などの磁気抵抗素子の特性向上は著しく、平成23年3月の時点において室温で数100%に達するものとなっており、格段に特性向上が見込めるデバイスとなっている。また、最近のLSIの微細化などで、電流検知に伴う比較的複雑な回路も、LSIの微小な素子部として実現できるところとなってる。したがって、GMR素子やTMR素子を用いることで、従来のAMR素子などを用いた場合と異なり、新たな検知方法を実現することが可能となっている。
【0027】
TMR素子およびGMR素子の何方も、フリー層の磁界に対する変化を基準とする磁化固定層との磁化の相対角によってセンス電流の流れ方が異なることで、磁気抵抗変化としている。これらの素子では、フリー層そのものが磁界を検知する検知層であるため、微弱な磁界の検知においてはフリー層の特徴を適切に利用することで、素子特性の向上が可能となる。また、磁性体を介した電流注入による磁化反転の効果により、電流を検知対象とする場合には検知感度を向上させることが可能となる。これにより、微小な電流でも検知可能となり、同一電流の検知の際にも、検知信号の出力電圧比を向上させることが可能となる。
【0028】
各実施形態に適用可能なTMR素子である磁気抵抗素子10においては、フリー層24の磁化状態に応じて、磁気抵抗変化が得られる。フリー層24は、図1を用いて説明したように、パーマロイ、スーパーマロイ、CoFe、CoZrNb、CoFeB、CoFeSiB、FeAlSiなどの軟磁気特性を有する材料や、半硬質磁気特性を有する材料を用いて形成する。フリー層を形成する各材料は、それぞれ特徴ある磁気ヒステリシスループをとりながら、磁化がスイッチ的な角型形状を持って変化する場合や直線的な変化を示して、磁化飽和に達する曲線を示す。また、フリー層を形成する各材料は、リニアな測定を必要とする場合には、直線的な特性を示す。
【0029】
また、TMR素子において、磁化がスイッチイング特性を示す場合には、必要に応じて、角型形状を持った磁気抵抗曲線を用いることで電流の検知が可能である。さらに微少な電流領域の測定は、TMR素子を純抵抗素子と見做される直線領域を用いて検知可能とすることができる。
【0030】
各実施形態においては、図2に示したTMR素子の磁気抵抗曲線の直線部分と、図3に示したIV特性の直線領域とを切り替えて用いることで、より広いレンジでの電流検知を可能としている。
【0031】
すなわち、磁気抵抗曲線の直線部分においては、磁気抵抗素子10の近傍に配置された配線に流れる測定対象電流による磁界を磁気抵抗素子10により検知することで、測定対象電流の電流値を求める。この場合、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流が流れないため、比較的大電流を測定対象電流とすることが可能である。一方、微少電流領域では、図3に示したIV特性の直線領域を利用し、磁気抵抗素子10を純抵抗として用いて測定対象電流の電流値を求める。この場合、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流を流して、磁気抵抗素子10の両端の電圧降下を測定することで、当該測定対象電流の電流値を求める。
【0032】
(第1の実施形態)
図4は、第1の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。測定対象電流IMがスイッチ50を介して配線60に対して流される。測定対象電流IMを測定するために、複数の磁気抵抗素子100、101、102および103が設けられる。
【0033】
スイッチ50は、検知制御部40から供給される切り替え信号41により、端子50aおよび端子50bのうち何れが選択されるかが制御される。スイッチ50は、例えばトランジスタなどの半導体素子のスイッチング特性を利用して構成することができる。これに限らず、スイッチ50を機械的な構造で実現してもよい。
【0034】
検知制御部40は、磁気抵抗素子100、101、102および103それぞれの検知出力である電圧降下Vd0〜Vd3が供給される。検知制御部40は、供給されたこれら電圧降下Vd0〜Vd3に応じて、上述した切り替え信号41を出力する。
【0035】
これら複数の磁気抵抗素子100、101、102および103のうち、磁気抵抗素子101、102および103は、磁気抵抗曲線の直線部分を利用して、配線60を電流が流れることにより発生する磁界に基づき測定対象電流IMの検知および測定を行う。これら磁気抵抗素子101、102および103を用いて測定対象電流IMを測定する際には、端子50aが選択されるようにスイッチ50を予め切り替えておく。
【0036】
周知のように、配線60を流れる電流Iによる磁界の強さHは、電流Iの大きさに比例し、配線60からの距離rに反比例する。また、磁気抵抗素子10の磁気抵抗曲線は、図2を用いて説明したように、ある磁界強度で飽和点を持つ。そのため、複数の磁気抵抗素子101、102および103を、それぞれ配線60からの距離rが段階的に異なるように配置することで、より広いレンジで測定対象電流を測定することができる。
【0037】
図2の例では、磁気抵抗素子101、102および103のうち磁気抵抗素子101が配線60に対して最も近接した距離r1に配置されている。以下、磁気抵抗素子103が配線60に対して最も遠い距離r3に配置され、磁気抵抗素子102がこれらの中間の距離r2に配置される。なお、この例の場合、磁気抵抗素子101、102および103として適用可能な素子は、TMR素子に限られず、例えばGMR素子であってもよい。
【0038】
例えば磁気抵抗素子101に対して、定電流源301により一定電流値のセンス電流Ic1を流し、両端の点A1およびB1における電圧降下Vd1を測定する。一例として、この電圧降下Vd1の値とセンス電流Ic1の電流値とから磁気抵抗素子101の抵抗値を求める。そして、求めた抵抗値に基づき図2の磁気抵抗曲線から磁界強度を求め、距離r1に基づき配線60に流れる測定対象電流IMの大きさを求める。
【0039】
なお、電圧降下Vd1を測定するための測定回路は、煩雑さを避けるために図4では省略されている。磁気抵抗素子100〜103における電圧降下Vd0〜Vd3の測定は、一般的な電圧測定回路を用いて行うことができる。一例として、高インピーダンスの電圧増幅回路を入力側に備えたA/D変換回路により、各磁気抵抗素子100〜103の両端の電圧をデジタル値に変換して出力することが考えられる。各磁気抵抗素子100〜103に対して、それぞれ電圧測定回路を設けてもよいし、共通の電圧測定回路を切り替えて用いてもよい。
【0040】
これら電圧降下Vd1の値に基づく測定対象電流IMの値の算出は、例えば検知制御部40にて行われる。一例として、検知制御部40は、配線60と磁気抵抗素子101との間の距離r1の値と、センス電流Ic1の値と、磁気抵抗素子101の磁気抵抗曲線とを予めメモリなどに保持しておく。そして、図示されない測定回路から磁気抵抗素子101の両端の電圧降下Vd1が供給されると、この電圧降下Vd1と、保持されている距離r1、磁気抵抗素子101の磁気抵抗曲線およびセンス電流Ic1とから、測定対象電流IMの値を算出する。
【0041】
磁気抵抗素子102および103についても同様である。磁気抵抗素子102に対して定電流源302により一定電流値のセンス電流Ic2を流し、両端の点A2およびB2における電圧降下Vd2を測定し、これらセンス電流Ic2と電圧降下Vd2とから磁界強度を求めて、求めた磁界強度と距離r2とに基づき測定対象電流IMの大きさを求める。また、磁気抵抗素子103に対して定電流源303により一定電流値のセンス電流Ic3を流し、両端の点A3およびB3における電圧降下Vd3を測定し、これらセンス電流Ic3と電圧降下Vd3とから磁界強度を求めて、求めた磁界強度と距離r3とに基づき測定対象電流IMの大きさを求める。
【0042】
なお、ここでは、磁気抵抗素子101、102および103に対して、それぞれ異なる定電流源301、302および303からセンス電流Ic1、Ic2およびIc3を流すように説明したが、これはこの例に限定されない。すなわち、磁気抵抗素子101、102および103に対して、共通の定電流源から同一電流値のセンス電流Icをそれぞれ流すようにしてもよい。
【0043】
一方、複数の磁気抵抗素子100、101、102および103のうち、磁気抵抗素子100は、図3を用いて説明したIV特性の直線領域を利用して測定対象電流IMの検知および測定を行う。この場合、スイッチ50において端子50bが選択されるように切り替え、測定対象電流IMを磁気抵抗素子100に直接流して、当該磁気抵抗素子100の両端の点A0およびB0間の電圧降下Vd0を測定する。磁気抵抗素子100の直線領域における抵抗値R0は、当該磁気抵抗素子100のIV特性に基づき予め知ることができる。したがって、この抵抗値R0と測定された電圧降下Vd0の値とから、測定対象電流IMの値を求めることができる。
【0044】
この電圧降下Vd0の値に基づく測定対象電流IMの値の算出は、上述と同様に、例えば検知制御部40にて行われる。一例として、検知制御部40は、磁気抵抗素子100におけるIV特性の直線領域での抵抗値R0を予めメモリなどに保持しておく。そして、図示されない測定回路から磁気抵抗素子100の両端の電圧降下Vd0が供給されると、この電圧降下Vd0と、保持されている抵抗値R0とから、測定対象電流IMを算出する。
【0045】
純抵抗として用いる磁気抵抗素子100は、過大な電流を流すと破壊されるおそれがある。一方、磁気抵抗素子101〜103は、上述したように直接電流が流れないので、測定対象電流IMの値が大きくても破壊されることがない。そこで、検知制御部40は、磁気抵抗素子101〜103による測定結果に基づきスイッチ50の切り替えを制御し、磁気抵抗素子100に過大な電流が流れないようにする。
【0046】
図5は、この電流検知装置の一例の測定手順を示すフローチャートである。この図5のフローチャートの各処理は、例えば検知制御部40により制御される。測定に先んじて、検知制御部40は、スイッチ50を端子50a側が選択されるように制御し、磁気抵抗素子100に予期せぬ大電流が直接流れ込まないようにする。
【0047】
検知制御部40は、スイッチ50が端子50aを選択している状態で、磁気抵抗素子101、102および103の電圧降下Vd1、Vd2およびVd3をそれぞれ測定する(ステップS10)。そして、検知制御部40は、測定で得られた電圧降下Vd1〜Vd3と、予め保持される、各磁気抵抗素子101〜103の配線60に対する距離r1〜r3および磁気抵抗曲線と、各センス電流Ic1〜Ic3とに基づき、測定対象電流IMを算出する。
【0048】
次のステップS11で、検知制御部40は、測定範囲が最も低電流の測定部の測定結果が閾値未満か否かを判定する。図4の例の場合、測定範囲が最も低電流の測定部は、配線60から最も近い距離d1に配置される磁気抵抗素子101である。したがって、検知制御部40は、磁気抵抗素子101の電圧降下Vd1が閾値未満であるか否かを判定する。ここで、当該閾値は、磁気抵抗素子100のIV特性における直線領域内の電圧値である。
【0049】
若し、電圧降下Vd1が閾値未満であると判定した場合、検知制御部40は、処理をステップS12に移行させる。ステップS12で、検知制御部40は、スイッチ50を、端子50bすなわち磁気抵抗素子100側が選択されるように制御して、磁気抵抗素子100の電圧降下Vd0を測定する。
【0050】
検知制御部40は、測定して得られた電圧降下Vd0と、予め保持される磁気抵抗素子100におけるIV特性の直線領域での抵抗値R0とに基づき測定対象電流IMを求める。そして、処理をステップS13に移行させ、求めた測定対象電流IMを測定結果として出力する。
【0051】
一方、ステップS11で磁気抵抗素子101の電圧降下Vd1の値が閾値以上であると判定した場合、処理をステップS13に移行させ、ステップS10で得られた測定対象電流IMを測定結果として出力する。
【0052】
このように、測定対象電流IMに応じて、測定対象電流IMを配線60側および磁気抵抗素子100側の何れに流すかを選択することで、より広いレンジでの電流測定が可能となる。すなわち、測定対象電流IMが大きい領域では、磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性を利用して、素子に直接電流を流さない方法により電流測定を行う。測定対象電流IMが素子に対して直接流れないので、大電流に対応できる。一方、測定対象電流IMが微小な領域では、磁気抵抗素子10におけるIV特性の直線領域を利用して電流測定を行うことで、微少電流を高精度に測定することが可能となる。
【0053】
(第2の実施形態)
本第2の実施形態では、図4を用いて説明した第1の実施形態による電流検知装置において、IV特性の直線領域を利用して電流測定を行う磁気抵抗素子100と、磁気抵抗特性を利用して電流測定を行う磁気抵抗素子101〜103のうち測定範囲が最も低電流である磁気抵抗素子101とを、1の磁気抵抗素子10を共通に用いて構成する。
【0054】
図6は、第2の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。なお、図6において、上述した図1および図4と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図6の電流検知装置は、磁気抵抗素子10と、定電流源30と、検知制御部40と、スイッチ51および52と、配線60とを含む。磁気抵抗素子10は、配線60に対して距離rの位置に配置されている。
【0055】
なお、図6の構成において、磁気抵抗素子10の両端の点Aおよび点B間の電圧降下Vdを測定する測定部は、煩雑さを避けるために省略されている。また、図6の構成に対して、図4の磁気抵抗素子102および103の如く、配線60に対してそれぞれ所定の距離をおいて配置されるさらに多数の磁気抵抗素子を配置してもよい。
【0056】
スイッチ51は、検知制御部40から出力される切り替え信号42によって、測定対象電流IMを配線60に流す(ON)か否(OFF)かを切り替える。スイッチ52は、当該切り替え信号42によって、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流IMとセンス電流Icとのうち何れを流すかを切り替える。スイッチ51およびスイッチ52は、検知制御部40からの切り替え信号42により、連動して制御される。
【0057】
すなわち、スイッチ51およびスイッチ52は、配線60に対して測定対象電流IMが流される場合には、磁気抵抗素子10に対してセンス電流Icが流されるように、それぞれ切り替えられる。一方、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流IMが流される場合には、測定対象電流IMが配線60に流されないように切り替えられる。
【0058】
より具体的には、検知制御部40は、磁気抵抗素子10が磁気抵抗特性を利用して測定対象電流IMの測定を行う場合には、スイッチ51がON、且つ、スイッチ52において端子52bが選択されるように制御する。また、検知制御部40は、磁気抵抗素子10がIV特性の直線領域を利用して測定対象電流IMの測定を行う場合には、スイッチ52がOFF、且つ、スイッチ52において端子52aが選択されるように制御する。
【0059】
測定対象電流IMの測定手順は、第1の実施形態において図5のフローチャートを用いて説明した手順と略同一である。すなわち、検知制御部40は、測定に先立って、スイッチ51をON、且つ、スイッチ52において端子52bが選択されるように制御する。これにより、配線60に対して測定対象電流IMが流される。
【0060】
この状態で、検知制御部40は、磁気抵抗素子10によるセンス電流Icの電圧降下Vdを測定する(ステップS10)。検知制御部40は、測定された電圧降下Vdに対して閾値判定を行い(ステップS11)、当該電圧降下Vdが閾値以上であれば、当該電圧降下Vdに基づき求めた測定対象電流IMを出力する(ステップS13)。一方、検知制御部40は、当該電圧降下Vdが閾値未満であれば、スイッチ51をOFF、且つ、スイッチ52において端子52aが選択されるように制御し、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流IMを流す。そして、磁気抵抗素子10による測定対象電流IMの電圧降下Vd’を測定し、測定結果に基づき求めた測定対象電流IMを出力する(ステップS13)。
【0061】
なお、上述では、配線60に対して測定対象電流IMを流すか否かを選択するスイッチ51を設けたが、これはこの例に限定されない。すなわち、磁気抵抗素子10におけるIV特性の直線領域内の電流を配線60に流した際の、磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性による抵抗変化が極めて小さければ、スイッチ51を省略してもよい。
【0062】
また、上述では、磁気抵抗素子10と配線60との距離を距離rの1種類としたが、これはこの例に限定されない。例えば、磁気抵抗素子10に対してそれぞれ距離が異なる複数の配線60、60、…を配置し、測定対象電流IMの大きさに応じて、スイッチによってこれら複数の配線60、60、…を切り替えるようにしてもよい。こうすることで、1の磁気抵抗素子10により、極めて広いレンジで電流測定を行うことができる。
【0063】
このように、本第2の実施形態では、磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性を利用した電流検知と、IV特性の直線領域を利用した電流検知とを、1の磁気抵抗素子10の使用形態を切り替えることで行っている。そのため、1の磁気抵抗素子10を用いて、より広いレンジでの電流検知を行うことができる。
【0064】
(第3の実施形態)
上述の第2の実施形態では、磁気抵抗特性を利用した電流検知と、IV特性の直線領域を利用した電流検知とを、1の磁気抵抗素子10を共通して用いて行う場合に、磁気抵抗素子10に対してセンス電流Icと測定対象電流IMとのうち何れの電流が流されるかを、完全に切り替えていた。これに対して、本第3の実施形態においては、磁気抵抗素子10においてIV特性の直線領域を利用して測定対象電流IMの電流検知を行う際に、センス電流Icに対して測定対象電流IMを接続して、そのときの電圧増を含めて、磁気抵抗素子10による電圧降下Vdを測定する。
【0065】
図7は、本第3の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。なお、図7において、上述した図6と共通する部分には同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。図7の電流検知装置は、磁気抵抗素子10と、定電流源30と、検知制御部40と、スイッチ53と、配線60とを含む。磁気抵抗素子10は、配線60に対して距離rの位置に配置されている。
【0066】
スイッチ53は、検知制御部40から出力される切り替え信号43によって、測定対象電流IMを配線60と磁気抵抗素子10とのうち、何れに流すかを選択する。すなわち、スイッチ53は、切り替え信号43により端子53aが選択されると、測定対象電流IMを配線60に流し、端子53bが選択されると、測定対象電流IMを磁気抵抗素子10に流す。
【0067】
磁気抵抗素子10に対して、さらに、定電流源30からセンス電流Icが、スイッチ53において端子53aおよび53bの何れが選択されているかに関わらず流される。したがって、スイッチ53において端子53aが選択されている場合には、磁気抵抗素子10は、センス電流Icのみが流され、配線60からの距離rと、センス電流Icと、当該磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性とに基づき電圧降下Vdが測定される。
【0068】
一方、スイッチ53において端子53bが選択されている場合には、磁気抵抗素子10に対してセンス電流Icが流されている状態で、さらに、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流IMが流されることになる。なお、この場合、測定対象電流IMは、定電流源30の出力段のインピーダンス調整や、ダイオードなどを用いて、定電流源30には流れ込まないようになっているものとする。
【0069】
すなわち、磁気抵抗素子10に流される電流は、(測定対象電流IM+センス電流Ic)となり、磁気抵抗素子10における電圧降下Vdは、当該磁気抵抗素子10のIV特性の直線領域における抵抗を抵抗R0とすると、Vd=(IM+Ic)R0となる。この式を変形し、測定対象電流IMがIM=Vd/R0−Icとして算出される。
【0070】
測定対象電流IMの測定手順は、第1の実施形態において図5のフローチャートを用いて説明した手順と略同一である。すなわち、検知制御部40は、測定に先立って、スイッチ53を端子53aが選択されるように制御し、配線60に対して測定対象電流IMを流す。この状態で、検知制御部40は、磁気抵抗素子10によるセンス電流Icの電圧降下Vdを測定して(ステップS10)、測定された電圧降下Vdに対して閾値判定を行う(ステップS11)。検知制御部40は、当該電圧降下Vdが閾値以上であれば、当該電圧降下Vdに基づき求めた測定対象電流IMを出力し(ステップS13)。当該電圧降下Vdが閾値未満であれば、スイッチ53を端子53bが選択されるように制御し、磁気抵抗素子10に対して測定対象電流IMを流す。そして、(測定対象電流IM+センサ電流Ic)の磁気抵抗素子10による電圧降下Vdを測定し、測定結果に基づき上述したようにして求めた測定対象電流IMを出力する(ステップS13)。
【0071】
このように、本第3の実施形態では、磁気抵抗素子10の磁気抵抗特性を利用した電流検知と、IV特性の直線領域を利用した電流検知とを、1の磁気抵抗素子10の使用形態を切り替えることで行っている。そのため、1の磁気抵抗素子10を用いて、より広いレンジでの電流検知を行うことができる。またこのとき、磁気抵抗素子10の使用形態を切り替えるためのスイッチが1つで済む。
【0072】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。図8は、本第4の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す回路図である。この図8示す回路図は、図4に示した第1の実施形態による電流検知装置の構成例に対応するものである。図8において、図4と共通する部分には同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0073】
本第4の実施形態は、磁気抵抗特性を利用して測定対象電流IMを測定するための磁気抵抗素子101、102および103それぞれに対して、測定対象電流IMが流れる配線61を周回させて配置する。このとき、配線61は、例えば磁気抵抗素子101に対して平面状に、換言すれば、磁気抵抗素子101を構成する各層に対して平行な平面上において、当該磁気抵抗素子101に周回させて配線61を配置する。
【0074】
図8において、上述の図4と同様に、磁気抵抗素子101、102および103がそれぞれ磁気抵抗特性を利用した電流検知を行うものとする。この場合において、例えば、測定部111では、磁気抵抗素子101に対して距離r1を離して配線61が周回して配置される。同様に、測定部112では、磁気抵抗素子102に対して距離r1より遠い距離r2を離して配線61が周回して配置され、測定部113では、磁気抵抗素子103に対して距離r2より遠い距離r3を離して配線61が周回して配置される。
【0075】
なお、IV特性の直線領域を用いて測定対象電流IMの検知を行う磁気抵抗素子100については、図4の構成と何ら変わるところがないので、ここでの説明を省略する。また、図8の構成による測定対象電流IMの検知手順については、第1の実施形態において図5のフローチャートを用いて説明した手順と同様であるため、ここでの詳細な説明を省略する。
【0076】
このように、磁気抵抗素子101、102および103に対して平面状に周回させて配線61を配置することで、配線61を流れる測定対象電流IMによる発生磁界のベクトル方向が基板面(膜面)に対して垂直となる。これにより、磁気抵抗素子101、102および103の、反磁界の影響を考慮した設計や、配線61にて発生する磁界強度の分布誤差を低減できる。そのため、電流の検知精度が向上し、配線61を流れる測定対象電流IMの広いレンジでのより正確な測定が可能となる。
【0077】
なお、本第4の実施形態による、磁気抵抗特性を利用して電流測定を行う磁気抵抗素子に対して、測定対象電流が流れる配線を周回させる構成は、上述した第2および第3の実施形態にも適用可能なものである。
【0078】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。上述の第4の実施形態では、測定対象電流IMが流れる配線を、磁気抵抗素子10の基板面(膜面)に平行に周回させて配置した。これに対して、本第5の実施形態では、測定対象電流IMが流れる配線を、磁気抵抗素子10の各薄膜の積層方向に沿って周回させて配置する。
【0079】
図9は、本第5の実施形態による電流検知装置の一例の構成の断面図を示す。本第5の実施形態による電流検知装置は、MOS LSI(Metal-Oxide Semiconductor Large-Scale Integration)領域である基板120に対して、磁気抵抗素子10’と、当該磁気抵抗素子10’に対して薄膜の積層方向に沿って周回されるループ状配線部とを有する。
【0080】
図9において、MOS LSI領域120に対して配線用の埋め込み金属部106および115が形成され、埋め込み金属部106および115に対して、配線メタル層A105および114がそれぞれ形成される。配線メタル層A104に対して、下部導線部104を介して、磁気抵抗素子10’の基板20が形成される。この基板20に対してシード層21、AFM(反強磁性)層26、ピンド層27、トンネル障壁層23、フリー層24およびキャップ層25が順次形成されて、磁気抵抗素子10’が形成される。
【0081】
磁気抵抗素子10’のキャップ層25に対して、上部導線部103を介して配線メタル層B102が形成され、さらに、配線用の埋め込み金属部101が形成されその上に配線メタル層C100が形成される。
【0082】
一方、配線メタル層A114に対して配線部材113が形成され、この配線部材113に対して配線メタル層B112が形成される。これら配線メタル層A114、配線部材113および配線メタル層B112により、磁気抵抗素子10’の薄膜の積層方向に沿って、該磁気抵抗素子10’に対して所定の距離を離れて周回されるループ状配線部が構成される。配線メタル層Bに対して、配線用の埋め込み金属部111が形成されその上に配線メタル層C110が形成される。
【0083】
磁気抵抗素子10’の薄膜の積層方向に沿ってループ状配線部が周回するような構成とすることで、測定対象電流IMによる発生磁界のベクトル方向が基板面(膜面)に対して平行となる。これにより、磁気抵抗素子10’の、反磁界の影響を考慮した設計や、ループ状配線部にて発生する磁界強度に対する精度が向上し、ループ状配線部を流れる測定対象電流IMのより正確な測定が可能となる。
【0084】
また、本第5の実施形態によれば、MOS LSI領域120のような、半導体による集積回路の製造工程において磁気抵抗素子10’およびループ状配線部を構成することができる。そのため、低コスト化および小型化が図れる。また、半導体集積回路などの多層配線においては、磁気抵抗素子10’の素子平面に対して垂直に配置した構成を比較的容易に取ることができるので、より近接した立体ループ構造が比較的小面積で実現可能であり、小型化および高感度化が可能である。
【0085】
さらに、MOS LSI領域120は、磁気抵抗素子10’に接続される他の回路を組み込むことができる。図8の例では、測定対象電流の入力端と、この入力端から入力された測定対象電流をループ状配線部と磁気抵抗素子10’とのうち何れに供給するかを切り替えるスイッチ回路を、MOS LSI領域120に組み込むことができる。測定対象電流の入力端は、MOS LSI領域120の外部から測定対象電流を入力するものでもよいし、MOS LSI領域120における内部的なものでもよい。
【0086】
さらにまた、図8の例では、磁気抵抗素子10’に対してセンス電流Icを流すための回路を、MOS LSI領域120に組み込むことが考えられる。この場合、配線61の例えば測定部111に含まれる部分が、ループ状配線部に相当する。また、MOS LSI領域120に対して、検知制御部40を組み込むことも可能である。
【0087】
また、図9の構成を、上述の第2の実施形態や第3の実施形態と組み合わせることができる。一例として、図9の構成を図7に示す第3の実施形態に適用する場合、配線メタル層C100および配線メタル層A105に対して、定電流源30の出力端をそれぞれ接続すると共に、電圧降下Vdの測定端をそれぞれ接続する。また、配線メタル層C110および配線メタル層A114に対して、測定対象電流IMを流す経路を接続する。
【0088】
さらに、図7の構成におけるスイッチ53を、MOS LSI領域120に組み込む。この場合、スイッチ53において、端子53aが埋め込み金属部115を介してメタル配線部A114に接続され、端子53bが埋め込み金属部106を介して配線メタル層A105に接続されることになる。この構成に対し、検知制御部40や定電流源30、磁気抵抗素子1’の電圧降下Vdを測定するための測定部を、さらに、MOS LSI領域120に組み込むことができる。このような構成とすることで、測定対象電流IMをより広いレンジで測定可能な測定素子を、1の電流検知素子として形成可能となる。
【0089】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。本第6の実施形態では、上述の第5の実施形態と同様にして、磁気抵抗素子10’と、磁気抵抗素子10’の薄膜の積層方向に沿って周回するように配置するループ状配線部を、半導体集積回路の製造工程において作成する。その際に、磁気抵抗素子10’から所定に離れた位置に、当該磁気抵抗素子10’を挟むように、2のループ状配線部を作成する。すなわち、磁気抵抗素子10’を挟む2のループ状配線部により、ヘルムホルツコイル構造を形成する。
【0090】
図10は、本第6の実施形態による電流検知装置の一例の構成を示す上面図である。MOS LSI領域120に対して、図9を用いて説明したようにして磁気抵抗素子10’を形成する。そして、この磁気抵抗素子10’に対して所定距離だけ離して、当該磁気抵抗素子10’を挟むように、2のループ状配線部130Aおよび130Bを形成する。
【0091】
この構成によれば、磁気抵抗素子10’の、反磁界の影響を考慮した設計や、ループ状配線部130Aおよび130Bにて発生する磁界強度に対する精度の均一性が向上し、ループ状配線部を流れる測定対象電流IMのより正確な測定が可能となる。特に、2のループ状配線部130Aおよび130Bが磁気抵抗素子10’を挟むように配置されてヘルムホルツコイル構造をなし、位置決めのルールが緩和されると共に、より正確な電流検知が可能となる。
【符号の説明】
【0092】
10,100,101,102,103,10’ 磁気抵抗素子
30,301,302,303 定電流源
40 検知制御部
41,42,43 切り替え信号
50,51,52,53 スイッチ
60,61 配線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0093】
【特許文献1】特開2010−145241号公報
【特許文献2】特開2002−082136号公報
【特許文献3】特開2004−184150号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、該フリー層と該固定層とで磁化の方向が反平行の場合に該フリー層と該固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを備える磁気抵抗素子を用いた電流検知装置であって、
測定対象電流により磁界を発生する配線が予め定められた距離に配置される第1の磁気抵抗素子と、
第2の磁気抵抗素子と、
前記第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するか否かを切り替える切り替え手段と、
センス電流の前記第1の磁気抵抗素子による電圧降下と、前記測定対象電流の前記第2の磁気抵抗素子による電圧降下とを測定する測定手段と、
前記測定手段での、前記第1の磁気抵抗素子による電圧降下の測定結果に応じて前記切り替え手段を制御する制御手段と
を有し、
前記制御手段は、
前記切り替え手段により前記第2の磁気抵抗素子に対して前記測定対象電流が供給されないように切り替えられている状態において前記測定手段により測定された前記第1の磁気抵抗素子による電圧降下の大きさが閾値未満である場合に、該第2の磁気抵抗素子に対して前記測定対象電流を供給するように前記切り替え手段を制御する
ことを特徴とする電流検知装置。
【請求項2】
前記閾値は、前記第2の磁気抵抗素子のIV特性における直線領域内の値である
ことを特徴とする請求項1に記載の電流検知装置。
【請求項3】
前記第1の磁気抵抗素子および前記第2の磁気抵抗素子は、1の磁気抵抗素子を共通に用いる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電流検知装置。
【請求項4】
前記切り替え手段は、
前記測定対象電流を前記配線および前記第2の磁気抵抗素子のうち何れに供給するかを切り替える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の電流検知装置。
【請求項5】
前記配線は、前記第1の磁気抵抗素子に対して周回して設けられる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の電流検知装置。
【請求項6】
前記磁気抵抗素子は、前記フリー層、前記障壁層および前記固定層を含む複数の薄膜が基板上に積層されてなり、
前記配線は、前記薄膜の積層方向に沿って前記第1の磁気抵抗素子に対して周回して設けられる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の電流検知装置。
【請求項7】
前記測定手段、前記切り替え手段および前記制御手段のうち、少なくとも前記切り替え手段が前記基板上に構成される
ことを特徴とする請求項6に記載の電流検知装置。
【請求項8】
前記配線は、前記第1の磁気抵抗素子を挟む平行な2のループからなるヘルムホルツコイル構造を持つ
ことを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の電流検知装置。
【請求項9】
前記第1の磁気抵抗素子および前記第2の磁気抵抗素子は、トンネル型磁気抵抗素子である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の電流検知装置。
【請求項10】
基板と、
外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、該フリー層と該固定層とで磁化の方向が反平行の場合に該フリー層と該固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを含む複数の薄膜が前記基板に対して積層されてなる磁気抵抗部と、
測定対象電流が入力される入力部と、
前記磁気抵抗部に対して周回して前記基板上に設けられる配線部と、
前記入力部から入力された前記測定対象電流を前記磁気抵抗部に対して供給するか否かを切り替える切り替え部と
を備える
ことを特徴とする電流検知素子。
【請求項11】
外部磁界により磁化の方向が反転するフリー層と、磁化の方向が固定された固定層と、該フリー層と該固定層とで磁化の方向が反平行の場合に該フリー層と該固定層との間に流れる電流に対する障壁となる障壁層とを備える磁気抵抗素子を用いた電流検知装置の電流検知方法であって、
測定手段が、測定対象電流により磁界を発生する配線が予め定められた距離に配置される第1の磁気抵抗素子によるセンス電流の電圧降下を測定する第1の測定ステップと、
測定手段が、測定対象電流の第2の磁気抵抗素子による電圧降下を測定する第2の測定ステップと、
切り替え手段が、前記第2の磁気抵抗素子に対して測定対象電流を供給するか否かを切り替える切り替えステップと、
制御手段が、前記切り替えステップにより前記第2の磁気抵抗素子に対して前記測定対象電流が供給されないように切り替えられている状態において前記第1の測定ステップにより測定された前記電圧降下の大きさが閾値未満である場合に、該第2の磁気抵抗素子に対して前記測定対象電流を供給するように前記切り替えステップを制御する制御ステップと
を有する
ことを特徴とする電流検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−113799(P2013−113799A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262572(P2011−262572)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】