説明

電流電圧変換合成出力装置

【課題】負帰還回路を用いずにDAコンバーターの電流出力を電圧出力に高精度で変換しプッシュプル合成して高品質の信号出力を得る、構成簡易で安価な電流電圧変換合成出力装置。
【解決手段】々エミッタ入力・ベース電圧固定(接地)・コレクタ出力動作の第1、第2のトランジスタQ10、Q11と、第1〜第3のカレントミラー回路CM1〜CM3を組み合わせて用いる。 カレントミラー回路CM1、CM2は夫々トランジスタQ10、Q11の各コレクタ出力をカレントミラー電流出力する。カレントミラー回路CM3はカレントミラー回路CM1の出力をカレントミラー電流出力する。カレントミラー回路CM2、CM3の各出力の共通接続点とGND間に、抵抗とコンデンサの並列回路が接続される。DAコンバーターからの互いに極性が逆の電流出力信号を、各トランジスタQ10、Q11のエミッタに入力し、カレントミラー回路CM2、CM3の各出力の共通接続点に電流電圧変換された電圧出力信号を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DAC(DAコンバーター)からの、互いに極性が逆の2種類の電流出力を電圧出力に変換するとともに、所定のローパス・フィルタ特性を付加し、プッシュプル合成して出力する電流電圧変換出力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオ再生で使用されるDACからのアナログ信号出力形式には、電圧出力形式と電流出力形式の2種類があり、電圧出力形式の場合には、所定のローパス・フィルタを通すことによってDAC出力に含まれる高周波雑音を除去すれば、アナログオーディオ信号が得られるが、電流出力形式の場合には、これを電圧信号に変換するとともに所定のローパス・フィルタを通すことによってアナログオーディオ信号を得る処理が必要となる。
【0003】
こうした電流電圧変換出力装置は、従来、オペアンプによる電流電圧変換回路と、逆極性の電圧出力信号を合成し出力するためのオペアンプによる差動増幅回路とを用いて構成されていた。
図1に従来の電流電圧変換合成出力装置の基本回路構成を示した。なお、これと同型の基本回路構成は例えば下記非特許文献1に開示されている。
図1に描かれているように、電流電圧変換合成出力装置VIC11は、DAコンバーター(DAC)DA1と、DA1の各電流出力I11およびI12がそれぞれ反転入力端子D、Eに接続され抵抗R11,R12がそれぞれ反転入力端子と出力端子間に接続されたオペアンプXX11、XX12とこれらオペアンプの出力を差動増幅すると同時にC3、C4によってローパス・フィルタを構成してDA1の出力に含まれる高周波雑音を除去して出力するオペアンプXX13とから構成される。
【0004】
DA1の電流出力I11およびI12をそれぞれオペアンプXX11、XX12の反転入力端子D、Eに入力すると、これらの電流はそれぞれ抵抗R11,R12を流れることと各オペアンプの非反転入力端子がグランド(GND)に接続されているため、反転入力端子の電位もGNDとなることからDA1の出力電流とそれぞれの抵抗の積で決まる出力電圧が、各オペアンプの出力に得られる。これがオペアンプによる電流電圧変換動作である。
【0005】
図1においてDA1の各電流出力I11,I12の電流の向きは互いに逆で電流値は同じIdaとすると、各オペアンプの出力電圧は、XX11の出力電圧が−Ida×R11、XX12の出力電圧がIda×R12となり、R11=R12であれば、互いに逆位相で同じ値の出力電圧が得られる。例えば、電流が正弦波である場合は、波形AとBのような電圧出力となる。
【0006】
この結果、オペアンプXX13の出力電圧をVoとすると、
Vo = (−Ida×R11)(−R14/R13 )+(Ida×R12)(R16/(R15+R16))((R13+R14)/R13)となる。
ここでR13=R15、R14=R16とすると
Vo = 2×Ida×R11×R14/R13 となり、合成されたシングルエンド電圧出力(例えば波形C)が得られる。
ローパス・フィルタ特性については、R11、R12、R14、R16にそれぞれ並列接続したコンデンサC1、C2、C3、C4によって、例えば図2のような所定の特性を得ることができる。
【0007】
なお、後述するように、本発明は複数のカレントミラー回路を利用するものであり、このカレントミラー回路に関する公知例としては、下記非特許文献2がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Burr-Brown Products from Texas Instruments PCM 1794,“24-Bit,192-kHz SAMPLING,ADVANCED SEGMENT,AUDIO STEREO DIGITAL-TO-ANALOG CONVERTER”改訂版、2006年11月、p.20-21
【非特許文献2】トランジスタ技術2004年1月号、“トランジスタCooking、 電流源を複製できるカレントミラー回路”;2004年1月、p.219-227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術には次のような問題がある。即ち、DAコンバーターの出力信号には、本来必要とする信号(例えばオーディオ再生回路であればオーディオ信号)の他に、DAコンバーターのスイッチング動作に伴う高周波雑音が含まれている。このため、この出力信号が入力されるオペアンプには、この高周波雑音によって負帰還(NFB)ループの一部がクリップするなどして、混変調歪みが発生するなどの不都合を生じない所定の高速応答特性を有するものを使用し、性能低下(オーディオ再生の場合であれば音質低下)の問題を回避する必要がある。
【0010】
しかし、これらの性能低下回避手段(音質低下回避手段)を採用することは、必然的に大きなコスト上昇を招く。また、オーディオ再生の場合、音質に与える影響もこれらのオペアンプによるところが決定的であるにも拘わらず、その選択肢は狭く、目標とする音質に仕上げるためには多大な労力を要する。
【0011】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、その第1の目的は、汎用の部品により、良好な特性を持つとともに簡単で安価に構成できる電流電圧変換合成出力装置を提供することにある。また、第2の目的は、負帰還(NFB)回路を使用しない無帰還型回路とすることにより、高周波雑音入力に対するNFB応答の問題がないため混変調歪の発生がない電流電圧変換合成出力装置を提供することにある。更に、第3の目的は、無帰還でありながら、良好な直線性を持ち歪の発生が極めて少ない電流電圧変換合成出力装置を提供することにある。そして、第4の目的は、オーディオ再生に適用した場合に良好な音質が得られる電流電圧変換合成出力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明に係る電流電圧変換合成出力装置は、エミッタ入力・ベース接地・コレクタ出力動作の第1のトランジスタと、エミッタ入力・ベース接地・コレクタ出力動作の第2のトランジスタおよび前記第1のトランジスタのコレクタ出力をカレントミラー出力する第1のカレントミラー回路と、前記第2のトランジスタのコレクタ出力をカレントミラー出力する第2のカレントミラー回路と、前記第1のカレントミラー出力をカレントミラー出力する第3のカレントミラーと、前記第2のカレントミラー出力と前記第3のカレントミラー出力の共通接続点とGND(接地点)間に接続された抵抗とコンデンサの並列回路とで構成される。
【0013】
DAコンバーターからの互いに極性が逆の電流出力信号は、それぞれ前記第1のトランジスタのエミッタ、前記第2のトランジスタのエミッタに入力される。前記第2のカレントミラー出力と前記第3のカレントミラー出力の共通接続点とGND間に接続された抵抗とコンデンサの並列回路の両端に所定のローパス・フィルタ特性が付加された電圧出力信号が得られる。
【0014】
さらに、必要であれば、前記第1および第2のトランジスタのコレクタ・コレクタ間にコンデンサを接続することにより、前記ローパス・フィルタの特性と合わせて、2次のローパス・フィルタ特性を得ることができ、図2に例示したものと同様の特性を得ることができる。
上記第1から第3のカレントミラー回路は、電流入力側トランジスタのコレクタ・ベース間電圧が所定の電圧(例えば約2V以上)に固定されて動作する回路となっている。
【0015】
より具体的に各請求項に係る発明に即して言えば、次のようになる。
先ず、請求項1に記載の発明に従った電流電圧変換合成出力装置には、コレクタが正電源に接続され、ベースが接地され、エミッタが抵抗を介して負電源に接続されたNPNトランジスタと、前記NPNトランジスタのエミッタに、夫々のベースが接続されて、エミッタ入力・コレクタ出力動作する第1と第2のPNPトランジスタと、前記第1のPNPトランジスタのコレクタ電流出力をカレントミラー電流出力する、負電源に接続された第1のカレントミラー回路と、
前記第2のPNPトランジスタのコレクタ電流出力をカレントミラー電流出力する、負電源に接続された第2のカレントミラー回路と、
前記第1のカレントミラー電流出力をカレントミラー電流出力する、正電源に接続された第3のカレントミラー回路と、前記第2のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力と前記第3のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力の共通接続点と接地点間に接続された抵抗とコンデンサの並列回路とが具備される。
【0016】
そして、DAコンバーターからの互いに極性が逆の電流出力信号を、それぞれ前記第1のPNPトランジスタのエミッタ、前記第2のPNPトランジスタのエミッタに入力することによって、前記第2のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力と前記第3のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力の共通接続点に電圧出力信号を得る。
【0017】
請求項2に記載の発明に従った電流電圧変換合成出力装置においては、上記の電流電圧変換合成出力装置おいて、更に、前記第1〜第3のカレントミラー回路の内の少なくとも1つについて、これを構成する第1と第2のトランジスタが、夫々のエミッタ抵抗が電源に接続され、ベース同志が接続され、この共通ベース接続点にベース電流を供給する第3のトランジスタは、そのエミッタが、LEDを介して共通ベース接続点に接続され、ベースはカレントミラー回路電流入力となる前記第1のトランジスタのコレクタに接続され、コレクタは接地または電源に接続されて、前記第2のトランジスタのコレクタから電流出力を得る。
【0018】
ここで、前記LEDは短絡されているものとすることができる(請求項3)。また、前記第3のトランジスタとLEDに代えて、第1のトランジスタのコレクタとベースを短絡したカレントミラー回路を採用しても良い(請求項4)。
また、前記第1のPNPトランジスタと第2のPNPトトランジスタを、対応する極性のFETに置き換えても良い(請求項5)。
【0019】
更に、請求項6で規定されているように、バランス出力回路を追加的に装備することもできる。このバランス出力回路は、第1及び第2のバランス出力回路用トランジスタと第1〜第4のバランス出力回路用抵抗と、第1及び第2のバランス出力回路用定電流源と、第1及び第2のバランス出力回路用コンデンサとを備える。そして、前記第1のバランス出力回路用トランジスタのベースは、前記第2のカレントミラー回路の共通ベース接続点に接続され、前記第1のバランス出力回路用トランジスタのエミッタは前記第1のバランス出力回路用抵抗を介して負電源に接続され、前記第1のバランス出力回路用トランジスタのコレクタは前記第1のバランス出力回路用定電流源を介して正電源に接続されると同時に、前記第2のバランス出力回路用抵抗と前記第1のバランス出力回路用コンデンサの並列回路を通して接地される。
【0020】
その一方、前記第2のバランス出力回路用トランジスタのベースは、前記第3のカレントミラー回路の共通ベース接続点に接続され、
前記第2のバランス出力回路用トランジスタのエミッタは、前記第3のバランス出力回路用抵抗を介して正電源に接続され、前記第2のバランス出力回路用トランジスタのコレクタは前記第2のバランス出力回路用定電流源を介して負電源に接続されると同時に、前記第4のバランス出力回路用抵抗と前記第2のバランス出力回路用コンデンサの並列回路を通して接地されて、前記第1と第2のバランス出力回路用トランジスタの夫々のコレクタから、互いに極性が逆で、同振幅のバランス信号電圧出力を得る。
【0021】
請求項7で規定されているように、前記第1のPNPトランジスタと前記第2のPNPトランジスタの夫々のコレクタ間にコンデンサを接続してローパスフィルタ特性を付加することもできる。さらには、各トランジスタの極性を全て逆にして構成することもできる(請求項8)。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、その回路構成が、負帰還回路を有しないことから、高周波雑音入力時に負帰還ループの応答が問題となって生じる混変調歪み発生が原理的に無く、電流出力直線性が改善されたカレントミラー回路による良好な電流・電流変換回路が汎用個別部品で構成できるため、高音質設計が容易でしかも安価で特性の良い電流電圧変換合成出力装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来例に係る電流電圧変換合成出力装置の回路図である。
【図2】ローパスフィルタ特性の一例を示す図である。
【図3】本案(本発明)の第1の実施例の回路図である。
【図4】ベース電流誤差補償型カレントミラーの回路図である。
【図5】トランジスタのVce−Ic特性の一例である。
【図6】小信号ダイオードとLEDの順方向電流電圧特性の比較図である。
【図7】本案(本発明)と本案(本発明)からLEDを除去した回路の出力電圧対歪率特性の比較図である。
【図8】ウイルソン・カレントミラーの回路例である。
【図9】本案(本発明)において入力回路をFETに置き換えた場合の回路構成図である。
【図10】本案(本発明)の回路に、バランス出力回路を追加したものの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、いくつかの実施形態(実施形態1〜5)について図3以下を参照しながら説明する。
[実施の形態1]
図3に本実施の形態に係る電流電圧変換合成出力装置VIC21の回路構成を示す。図3の中で、DA2以外の部分がVIC21に相当する。
【0025】
図3に示すように、電流電圧変換合成出力装置VIC21は、ベースが所定の電位(図3では、NPNトランジスタQ12のエミッタ電位)に固定されDAコンバーター(DA2)の第1の電流出力Gがエミッタに入力されてコレクタから出力される第1のPNPトランジスタQ10と、ベースが前記所定の電位に固定されDA2の第2の電流出力Hがエミッタに入力されてコレクタから出力される第2のPNPトランジスタQ11とで電流入力部を構成している。この部分では、前記第1、第2のトランジスタ(Q10、Q11)の電流増幅率が十分に大きいので、ベース電流は無視することができ、DAコンバーター(DA2)の各電流出力は、各エミッタに入力されたものがそのままコレクタ出力となって出てくると考えて実用上は差し支えない。
【0026】
これらの出力は、カレントミラー回路CM1およびCM2に入力され、カレントミラーCM1の出力はカレントミラーCM3に入力され、カレントミラーCM3の出力は、カレントミラーCM2の出力とプッシュプル電流合成されて、一端がGNDに接続され他端がQ4とQ8のコレクタ共通接続点に接続された、抵抗R6とコンデンサC5との並列接続回路に流れることにより、電圧出力に変換される。
【0027】
DA2の2つの電流出力は、互いに逆位相で同じ値なので、例えば、Q11の電流変化分を矢印のI1とすると、Q10のそれは、逆向きの矢印I2のように表される。CM1、CM2、CM3はカレントミラーなので、原理的にI1=I3、I2=I4、I3=I5であり、R6とC5の並列接続回路の両端には、DA2の電流出力がほぼそのままの値でプッシュプル合成されて出力される。ここでR6の実用的な値は100Ω〜500Ωである。
【0028】
NPNトランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6で構成されるCM1およびCM2の共通エミッタ抵抗R1、R2、R4、R5は、負電源V3に接続され、PNPトランジスタQ7、Q8、Q9で構成されるCM3の共通エミッタ抵抗R3、R7は正電源V2に接続されている。ベース電流供給トランジスタQ3、Q6、Q7のベースは、それぞれのカレントミラーの電流入力端子に接続され、コレクタはGNDに接続され、各エミッタは発光ダイオード(LED)D3、D2、D1を通して共通ベース接続点に接続されている。
【0029】
入力部回路トランジスタQ10、Q11のベース電圧固定のためのトランジスタQ12のベースはGNDに接続され、エミッタには、入力トランジスタQ10、Q11のベースが接続されるとともに他端が負電源に接続された抵抗R8が接続され、コレクタは正電源に接続されている。カレントミラー回路CM1、CM2およびCM3は、図4のようなベース電流による誤差を低減するカレントミラー回路として有名な回路(前記非特許文献2参照)の改良型であり、共通ベース接続点とベース電流供給トランジスタのエミッタとの間に発光ダイオード(LED)が接続されているのが、本案の特徴である。図3中の各抵抗値については、R1= R2,R4 = R5,R3 = R7としてある。
【0030】
一般的には、これらのカレントミラー回路は、図4のようにLEDがなくても(LEDを短絡)、回路を構成する各トランジスタの特性が良く揃っていれば、ベース電流による誤差が無視できて高精度に入出力電流が一致するとされているが、これは、ミラー電流が1mA以下など比較的小さい場合でのことであり、本案での応用の場合など、10mAを超える電流値で、その変化幅も数mAとなるオーディオ信号のミラー変換用途においては、その電流ミラー精度は大きく劣化する。これは、電流入力側のトランジスタ(図4ではQ21)のコレクタ・エミッタ間電圧(Vce)が不足すると、コレクタ電流の変化に伴う電流増幅率の変化が大きくなることに起因する。
【0031】
図5にトランジスタのVce−Ic特性の一例を示した。図5において、31がVce=1.3Vのラインで、これはLEDが無い場合に相当し、32がVce=3Vラインで、これは、本案のCM1、CM2のようにLEDが有る場合に相当する。LEDに流れる電流は、ベース電流相当の小さな値であるが、このような小さい電流でも、順方向電圧として1.7V程度が維持できるメリットがある。
【0032】
図6は、これを示す一例で、一般的な小信号ダイオードを3個直列接続したものの順方向電流(IF)対順方向電圧(VF)特性(D3の曲線)に較べて、LEDの特性(LED1の曲線)は、順方向電圧の安定度が良いことが分かる。いま、図5において、それぞれのライン上で、IB=15μAの点を中心に、それぞれIBを10μA増減してみるとIcの変化分は4つの矢印で示したようになり、Vce=1.3Vのラインでは、Icの増加分が不足していることが明らかである。これに対して、Vce=3Vのラインでは、Icの増減分がほぼ等しいことが分かる。
【0033】
また、Vceがさらに大きくなっても、この状況は維持されることも分かる。一方、電流出力側のトランジスタ(Q1,Q4,Q8)については、Vceは10V程度以上あるので、Vceが小さいことによる問題はない。この違いは、LEDが無い場合は、電流ミラー精度が悪く、LEDがあれば、良好な電流ミラー精度を維持することができることにつながる。この結果、オーディオ信号出力(Q8とQ4の共通コレクタ接続点)の歪み率特性を比較すると、図7に示したようになり、LEDが無い場合の歪み率特性は、実用上で問題となるレベルであるのに対して、LEDを付加することにより実に2桁近い改善があり、全く問題の無い良好な歪み率特性が得られるのも本案の特徴である。
【0034】
この結果、前記第2のカレントミラーCM2の出力と前記第3のカレントミラーCM3の出力の共通接続点とGND間に接続された抵抗(R6)とコンデンサ(C5)の並列回路に流れる電流は、DAコンバーターの第1の電流出力I21とDAコンバーターの第2の電流出力I22とが精度良くプッシュプル合成されたものとなり、オーディオ帯域ゲインは抵抗R6の値で決まりローパス・フィルタ特性はコンデンサC1と抵抗R6の値で決まる電流電圧変換合成オーディオ信号出力回路が得られる。
【0035】
さらに、必要であれば、トランジスタQ10、Q11のコレクタ・コレクタ間にコンデンサC6を接続することにより、前記ローパス・フィルタの特性と合わせて、2次のローパス・フィルタ特性を得ることができ、図2に例示したものと同様の特性を得ることができる。
【0036】
[実施の形態2]
カレントミラー回路は本案で示した、ベース電流補償型回路に限らず、例えばCM1については、図8(a)のようなウイルソン・カレントミラーと呼ばれる回路も使用可能である。この場合は、図8(b)に示したダイオード(D51)付きの回路にすると特性が改善する。CM2およびCM3についても同様であるが、その説明は省略する。
【0037】
[実施の形態3]
実施の形態1において、図3のQ10とQ11とQ12とで構成される入力回路部分は、図9に示すように、2個のPチャンネルFET J1,J2 に置き換えて構成することもできる。J1,J2それぞれのFETは、ソースが電流入力、ゲートはGNDに接続され、ドレイン出力がそれぞれ、カレントミラーCM1、CM2に接続された構成となる。これ以外の部分は、図3と同様なのでその説明は省略する。
【0038】
[実施の形態4]
前記の実施の形態はすべて電流入力部をPNPバイポーラトランジスタまたはPチャンネルFETとして説明したが、DAコンバーターの出力形態によっては、電流入力部をNPNバイポーラトランジスタまたはNチャンネルFETで構成する場合もあり、この場合にはこれらに続くカレントミラー回路は、すべてNPNとPNPの極性を変えたもので構成することになるが、基本的に動作は図3と同じであるのでその説明は省略する。
【0039】
[実施の形態5]
前記の実施の形態はすべてシングルエンド出力回路としたが、必要に応じて、グランド電位に対して正負逆極性同振幅の2出力を有するバランス出力回路への対応が、以下のように簡単に実現できるのも本案の特徴である。
図10にその実施例を示す。図中、破線で囲まれた電流電圧変換合成出力回路(VIC91)は、図3のものと全く同じなので、その説明は省略する。バランス出力を得るために追加となるのが、図10のVIC91以外の部分である。トランジスタQ81のベースは、カレントミラーCM2の共通ベース接続点に接続され、エミッタはCM2のR4と同じ抵抗値の抵抗R81を介して負電源V3に接続され、コレクタ(OUT-1)は定電流源I81を介して正電源に接続されると同時に、抵抗R83とコンデンサC81の並列回路を通してGNDに接続されている。
【0040】
一方、トランジスタQ82のベースは、カレントミラーCM3の共通ベース接続点に接続され、エミッタはCM3のR7と同じ抵抗値の抵抗R82を介して正電源V2に接続され、コレクタ(OUT-2)は定電流源I82を介して負電源に接続されると同時に、抵抗R84とコンデンサC82の並列回路を通してGNDに接続されている。OUT-1、OUT-2から出力される信号は、互いに極性が逆で、同振幅のバランス信号出力となる。このように、カレントミラー回路(CM2、CM3)では、出力側のトランジスタを複数個並列接続することによって、容易に、複数個の同じ出力電流が得られるのが特徴である。定電流源I81、I82の電流値は、無信号時に、OUT-1、OUT-2がそれぞれゼロボルトになるような値に設定する。
【符号の説明】
【0041】
VIC11,VIC21,VIC91・・・電流電圧変換合成出力装置
DA1,DA2・・・DAコンバーター
CM1,CM2,CM3・・・カレントミラー回路
I11,I12,I21,I22・・・DAコンバーターの電流出力
XX11,XX12,XX13・・・OPアンプ
A,B,C,Vo・・・電圧出力波形
D,E,G,H・・・DAコンバーター電流出力端子
C1,C2,C3,C4,C5,C6,C81,C82・・・コンデンサ
R1,R2,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R11,R12,R13,R14,R15,R16,R21,R22、R51,R52,R81,R82,R83,R84・・・抵抗
Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6,Q12,Q21,Q22,Q23,Q51,Q52,Q53,Q81・・・NPNトランジスタ
Q7,Q8,Q9,Q10,Q11,Q82・・・PNPトランジスタ
D1,D2,D3・・・LED
D51・・・小信号ダイオード
V2・・・正電源
V3・・・負電源
J1,J2・・・PチャンネルFET
I1,I2,I3,I4,I5・・・電流変化分
31・・・Vce = 1.3 V 一定の特性
32・・・Vce = 3 V 一定の特性
LED・・・LEDの特性
D3・・・小信号ダイオード3個直列の特性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コレクタが正電源に接続され、ベースが接地され、エミッタが抵抗を介して負電源に接続されたNPNトランジスタと、
前記NPNトランジスタのエミッタに、夫々のベースが接続されて、エミッタ入力・コレクタ出力動作する第1と第2のPNPトランジスタと、
前記第1のPNPトランジスタのコレクタ電流出力をカレントミラー電流出力する、負電源に接続された第1のカレントミラー回路と、
前記第2のPNPトランジスタのコレクタ電流出力をカレントミラー電流出力する、負電源に接続された第2のカレントミラー回路と、
前記第1のカレントミラー電流出力をカレントミラー電流出力する、正電源に接続された第3のカレントミラー回路と、
前記第2のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力と前記第3のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力の共通接続点と接地点間に接続された抵抗とコンデンサの並列回路とを備え、
DAコンバーターからの互いに極性が逆の電流出力信号を、それぞれ前記第1のPNPトランジスタのエミッタ、前記第2のPNPトランジスタのエミッタに入力することによって、前記第2のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力と前記第3のカレントミラー回路のカレントミラー電流出力の共通接続点に電圧出力信号を得ることを特徴とする電流電圧変換合成出力装置。
【請求項2】
前記第1〜第3のカレントミラー回路の内の少なくとも1つについて、これを構成する第1と第2のトランジスタが、夫々のエミッタ抵抗が電源に接続され、ベース同志が接続され、この共通ベース接続点にベース電流を供給する第3のトランジスタは、そのエミッタが、LEDを介して共通ベース接続点に接続され、ベースはカレントミラー回路電流入力となる前記第1のトランジスタのコレクタに接続され、コレクタは接地または電源に接続されて、前記第2のトランジスタのコレクタから電流出力を得ることを特徴とする請求項1に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項3】
前記LEDが短絡されている、請求項2に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項4】
前記第3のトランジスタとLEDに代えて、第1のトランジスタのコレクタとベースを短絡したカレントミラー回路を有する請求項2に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項5】
前記第1のPNPトランジスタと第2のPNPトトランジスタを、対応する極性のFETに置き換えて構成される、請求項1に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項6】
バランス出力回路がさらに設けられており、
該バランス出力回路は、第1及び第2のバランス出力回路用トランジスタと第1〜第4のバランス出力回路用抵抗と、第1及び第2のバランス出力回路用定電流源と、第1及び第2のバランス出力回路用コンデンサとを備え、
前記第1のバランス出力回路用トランジスタのベースは、前記第2のカレントミラー回路の共通ベース接続点に接続され、
前記第1のバランス出力回路用トランジスタのエミッタは前記第1のバランス出力回路用抵抗を介して負電源に接続され、
前記第1のバランス出力回路用トランジスタのコレクタは前記第1のバランス出力回路用定電流源を介して正電源に接続されると同時に、前記第2のバランス出力回路用抵抗と前記第1のバランス出力回路用コンデンサの並列回路を通して接地され、
一方、
前記第2のバランス出力回路用トランジスタのベースは、前記第3のカレントミラー回路の共通ベース接続点に接続され、
前記第2のバランス出力回路用トランジスタのエミッタは、前記第3のバランス出力回路用抵抗を介して正電源に接続され、
前記第2のバランス出力回路用トランジスタのコレクタは前記第2のバランス出力回路用定電流源を介して負電源に接続されると同時に、前記第4のバランス出力回路用抵抗と前記第2のバランス出力回路用コンデンサの並列回路を通して接地されて、前記第1と第2のバランス出力回路用トランジスタの夫々のコレクタから、互いに極性が逆で、同振幅のバランス信号電圧出力を得るようにした、請求項1に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項7】
前記第1のPNPトランジスタと前記第2のPNPトランジスタの夫々のコレクタ間にコンデンサを接続してローパスフィルタ特性を付加した、請求項1に記載の電流電圧変換合成出力装置。
【請求項8】
各トランジスタの極性を全て逆にして構成される、請求項1に記載の電流電圧変換合成出力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−135198(P2011−135198A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290992(P2009−290992)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(304045952)協同電子エンジニアリング株式会社 (2)
【Fターム(参考)】