説明

電界放出装置

【課題】ナノダイヤモンドを用いた改良された電子放出構造と画素化された配列と共に、冷陰極の放出領域をより簡単に製造する方法を提供する。
【解決手段】高い仕事関数を有する金属18であって、金属−ドープされたダイヤモンドナノ結晶粒子層14を低い仕事関数を有する金属陰極12の平坦面と接触させて包むカプセルである金属18を備えた電子放出素子と、その形成方法である。その方法は、伝導性を有するナノダイヤモンド粉末を金属性の溶液と調合すること、仕事関数が高い金属を含むこと、及び、それを金属陰極12の上に配置して低い電子親和力を示す表面領域を有する合成の物質層を構成することを含んでいてもよい。得られる冷陰極構造は、効率的な電子放出のために必要な抽出電界が低く、単位面積あたりの放出電流を制限する手段を有し、そして、吸着/脱着に対する電子放出感度が低減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界制御された電子放出素子(field-controlled electron emitters)に関するものであり、特に伝導性ナノダイヤモンドの放出領域を利用する電子放出装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極電子放出素子は、電子源として広範囲の真空装置においてその新たな応用が見出され続けている。その真空装置とは、フラットパネルディスプレイ、クライストロン及び進行波管、ランプ、イオン銃、小型X線管、電子ビームリソグラフィ、高エネルギー加速器、自由電子レーザ、電子顕微鏡、及び、マイクロプローブを含む。改良された冷電子放出素子、及びこの放出素子形成の複雑さを低減するいかなる工程も明らかに有用である。
【0003】
数多くの望ましい特性が冷電子源の陰極の材料として有利であるとして知られている。印加された外部電界に基づき、与えられた放出領域から抽出された放出電流の均一性は、高くなければならない(局部的に±10%より良い)、そして変動に対して非常に長い期間に渡って安定していなければならない。その期間とは、一般的には数万時間である。駆動電圧はCMOSドライバ回路が使用できるように低くなければならない。陰極は、化学汚染、逆流電子の衝突(back-bombardment)、極端な温度、アーク放電損傷(arcing damage)に対する耐性を有しなければならない。陰極の製造方法は経済的であって、かつ広範囲に渡る応用装置に組み入れられるような順応性のあるものでなければならない。
【0004】
ここで、数種の電子放出が知られている。熱電子放出(thermionic emission)は、電気的に荷電された粒子の白熱物質からの放出を伴う。光電子放出(photoemission)では、放射線の入射によるエネルギー供給により、物質から電子が放出される。2次電子放出は、電子又はイオン等の荷電粒子と物質との衝突によって起こる。電子注入(electron injection)は、ある固体から他の固体への電子放出を伴う。電界放出(field emission)とは、高電界の印加に起因する電子の放出をいう。
【0005】
電界放出において、強い電界の影響下にある電子は、物質(通常は金属又は半導体)内から誘電体(通常は真空)へと解放される。電子はポテンシャル障壁を「潜る(tunnel)」のであり、熱電子放出又は光電子放出におけるようにポテンシャル障壁を越えるのではない。よって電界放出は量子力学プロセスであって、古典的な類似技術が存在しない。
【0006】
電界放出素子の形状は、その電子放出特性に影響する。電界放出が最も簡単に得られるのは、鋭く尖った針又はチップであって、その端部が加熱によってほぼ半球状の形状となるまで滑らかにされている針又はチップである。チップ半径として、100Åという小さい半径が報告されている。電界が印加されると電気力線がチップから放射状に発散し、放出された電子はまずこれらの電気力線を追従する軌跡を描く。そのような微細なチップの形成は、通常大規模な形成施設を必要とし、そのような施設において放出素子は円錐形状に精巧に形成される。さらに、微細リソグラフィ(fine-featured lithography)を用い、広い面積を有する基板上に高密度で電界放出素子を築くことは、困難、長時間を要し、そして高価である。よって、微細リソグラフィを必要としない、高密度で電子放出素子を製造する方法への要求があった。従前の電子放出素子は通常、金属(例えばMo)又は半導体物質(例えばSi)でナノメータサイズに作られている。有用な電子放出特性がこれらの物質について示されているものの、これらの物質の仕事関数は高く、そのため電子放出に必要である制御電圧は比較的高い(およそ100V)。この高電圧駆動は、イオン照射(ion bombardment)、及び放出素子のチップ上の表面拡散(surface diffusion)に起因する損傷を増加させる。さらに高電圧駆動は、所望の電流密度を生じさせるためには、外部ソースからの出力密度を高くしなければならない。これらの物質が、イオン衝突、化学的に活性な種(chemically active species)、及び、極端な温度に対して有する弱点もまた深刻な懸案である。
【0007】
金属の放出素子について、電子放出面の仕事関数もまたその電子放出特性に影響を与える。仕事関数は、フェルミ準位と真空準位とのエネルギー差として定義される。仕事関数が小さいと、電子を表面から取り出すための抽出電界はより低い。例えば、表面の仕事関数が2.6eVであってリチウムでコーティングされた金属の放出素子は、表面の仕事関数が5.3eVを示すものであってプラチナでコーティングされた同様の金属の放出素子と比べて、より低い真空放出ポテンシャル障壁を有するであろう。合成ダイヤモンド等のバンドギャップが広い半導体物質において、フェルミ準位は伝導帯の下端と価電子帯の上端との間に位置する。そのような物質においては、不純物のドープ(doping)又は格子欠陥に起因するフェルミ準位の変化に伴って仕事関数が変化する。さらに、伝導帯の下端と真空準位との間のエネルギー差は基本的な物性であり、電子親和力と称される。従って、仕事関数(()と電子親和力(()とは金属中では同じであるが、バンドギャップが広い物質では異なる値を有する。そのようなバンドギャップが広い物質として、例えばドープ(dope)されていないダイヤモンドがあり、(〜4.5eVであり、(〜1eVである。ダイヤモンドは、冷陰極放出素子として有用な材料である。それはダイヤモンドの強健な機械的及び化学的な性質によるものである。ダイヤモンドを用いた電界放出装置に関連する開示の大部分は化学気相成長法(CVD)の技術を使用し、ダイヤモンド薄膜又はダイヤモンド類の薄膜が、陰極構造を有する基板上に薄膜として形成される及び/又は結合される。
【0008】
ダイヤモンドの低い電子親和力特性を利用し、低電圧で電子放出を達成するためには、従来通りにドープされたn型材料が必要である。しかしながら、n型のドーププロセスは、合成材料の薄膜に対しては信頼できるほどには達成されていない。そのため、別の開示された方法が行われていた。その方法は、ダイヤモンド材料が異常に多数の欠陥を含むようにダイヤモンドを成長させる又は処理することによって、ダイヤモンドからの低電圧駆動をもたらすことを試みるものである。そのような取り組みでは、通常、ダイヤモンド材料が水素添加されていなければならず、それによってその伝導率が向上し、その表面が低い電子親和力を示す。ここで電子親和力が低い表面とは、電子放出障壁が有利に下げられているような表面である。この方法は改善されたダイヤモンドの放出素子を与えることができるが、その一方で放出電流は放出領域に渡って均一に分布せず、むしろ複数のサイトからなる複数のクラスタから生じる。そして各クラスタにおいて、放出電流は変動し、その変動は印加された電界によって制御されていないかのようである。さらに、これらのダイヤモンドの放出素子は、アーク放電事象に起因する損傷に非常に影響されやすいことが分かっている。
【0009】
合成の半導体性のダイヤモンド薄膜において低電界電子放出が動作できる考え得る機序を考慮に入れる場合、故意及び/又は故意ではない不純物サブバンドがダイヤモンドの光バンドギャップの中に存在することができることは、明白である。サブバンドは卓越した役割を有することができる。その役割とは、もしもそれらのサブバンドが伝導帯の下端近くに位置する場合、ダイヤモンドの電子放出障壁又は物質界面に電子を供給することである。リチウムは、もしドープレベルが高ければ(>1×1019cm-3)、伝導帯下端の下に0.1eV(理論上)から1eVまでの低いサブバンドを形成することが報告されている。しかしながら、現場(in−situ)ドープされたCVD材料であってリチウムを含む材料のバルクの伝導性は低く、金属背面コンタクト(metal back contact)に電圧が印加されている場合には、膜を横断して相当量のポテンシャルの低下を引き起こす。従って、放出電流のための抽出電界は、高いまま(>>10V/μm)である。なぜなら、伝導に利用可能なキャリアはわずかであるからである。もしこれらのサブバンドが伝導帯下端から1eVよりも低い場合、注入背面コンタクト(injecting back contact)の効率は低くなるであろう。n型であるCVDダイヤモンド薄膜ダイヤモンドの文献に報告された電界放出の特徴は、背面コンタクトからのホットエレクトロン注入(hot electron injection)に支配されたキャリア輸送を示す傾向がある。良質な電気的な接触を示すように作られたナノ結晶薄膜のみ、弾道キャリア輸送を示すであろう。
【0010】
超薄膜(<10nm)n型ナノ結晶半導体の放出素子に対する効率的な背面コンタクト電子注入(back contact electron injection)のさらなる局面は、高い空間電荷値の生成であり、この高い空間電荷値は半導体における下方へのバンドの曲がりの原因となる。さらに、下方へのバンドの曲がりは、ダイヤモンドのようなバンドギャップが広い半導体表面に金属の超薄膜層を適用することによっても得られる。この効果は、カーバイドを形成しない金属でコーティングされたCVDダイヤモンドについて、報告されている。真空電子放出障壁を下げると、超薄膜n型半導体内における大きなバンドの曲がりに伴うことがあるが、この真空電子放出障壁の低下は放出領域の電子親和力の減少につながり、効率的な冷陰極動作にとって有益である。ナノダイヤモンドを用いた改良された電子放出構造と画素化された配列を有する冷陰極放出領域をより簡単に製造する方法が要求されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の局面によれば、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子(lithiated nanodiamond particles)の層を基板上に備えた電界放出装置が提供される。
【0012】
本発明の第2の局面によれば、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子を有する電界放出装置の製造方法が提供される。
【0013】
本発明のさらなる局面によれば、本発明の第1の局面の電界放出装置を少なくとも1つ備えた画素化された放出素子配列が提供される。
【0014】
本発明は、商業的に入手できるダイヤモンド粉末を有利に用いて改良された冷陰極電子源(及び結果として得られる放出素子構造)を製造する。ナノダイヤモンド粉末は、その伝導性、電子親和力、及び、0.5〜5V/ミクロンの電界が印加された場合のその電子放出能力を高めるように処理される。特に、平均粒子サイズ25nmのナノダイヤモンド粒子を有する電子放出素子は、不活性な雰囲気中で熱処理され、続いて高真空のもとで熱処理され、そしてリチウム又はリチウム化合物と共に熱処理されて、金属−ドープされたナノダイヤモンドであってその水素含有量が調整されているナノダイヤモンドが生産される。この材料は低い仕事関数を有する金属合金の陰極コンタクトの上に配置される。後続する空中焼成サイクルで、放出素子構造が形成される。リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子(lithium-doped nanodiamond particles)は、単層として金属陰極コンタクトに付着する。本発明の実施形態には、ナノダイヤモンド粒子自身が、高い仕事関数を有する金属を用いて厚さ15nmから1nmの範囲で共形にコーティングされるものもある。結果として得られる放出素子構造は、効率的でかつ均一な電子放出のために必要とされる抽出電界が低く、単位面積当たりの放出電流を制限する手段を有し、そして表面の吸着/脱着の効果に対する放出感度が低減されている。
【0015】
本発明の製造方法は、少数の工程ステップのみを含むので有利である。さらに、有利であるのは、ナノダイヤモンドの放出素子構造の形成は、超微細リソグラフィ、薄膜CVD、又は、ドライもしくはウェットのエッチング工程を必要としないことである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明をより良く理解するために、そして本発明がどのように実施されるかを示すために、例示として添付図面を参照して以下を説明する。
【0017】
本発明の重要な局面は、ナノダイヤモンド粒子を用いることであり、それらのナノダイヤモンド粒子は伝導性を有するように処理されていて、リチウムを支配的な金属不純物として用いて処理されている。
【0018】
ナノダイヤモンド粒子という用語は、そのドメインの大きさが2nm〜50nmの範囲内にあるダイヤモンド粒子を表す。
【0019】
処理のための出発物質として用いられるナノダイヤモンド材料は、商業的供給源から容易に入手できる。そしてそのナノダイヤモンド材料は、単結晶粒子又は多結晶粒子から成る。この出発物質はまず使用前に分級され、平均粒子寸法が25ミクロン以下である粉末を得る。次いで、安定させるためにその物質を熱サイクルにかける。そのときの温度範囲は950〜1150℃であり、雰囲気は水素/重水素、ヘリウム、又は、不活性ガス、又は、超高真空である。後続の処理サイクルにおいてリチウム蒸気が導入され、そのリチウムはナノダイヤモンド粒子とその温度で反応する。あるいは代案として、リチウム化合物は、あらかじめ各粒子に対する共形コーティングとして適用されるか、又はナノダイヤモンドが入った反応容器に導入される。ここでリチウム化合物とは、例えば、フッ化リチウム又は炭酸リチウム、又は好適には水素化リチウムである。より詳細には、水素化リチウムをナノダイヤモンド粒子と共にるつぼ内に配置し、アルゴン雰囲気中で約680℃まで加熱する。その後チャンバには真空が引かれ、その混合物は約850〜900℃まで加熱され、混合物からの熱の対流はなくなる。そして混合物は、950℃〜1150℃の温度まで、例えば約1100℃までパルス加熱される。それによって処理を制御し、ダイヤモンド構造を保護する。この特有の技術により各ナノ粒子を覆う及び各ナノ粒子に拡散されるリチウムの量が増加する。リチウム又はリチウム化合物がダイヤモンドナノ粒子を覆った及びダイヤモンドナノ粒子に拡散したのち、この容器はヘリウム、ネオン、又は、アルゴンガスのいずれかを用いてパージされ、そしてその温度においてさらにアニールされる。その後、この物質は、不活性ガスであるアルゴン雰囲気中で熱的に急冷される。
【0020】
結果として、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子が形成される。すなわち、ナノダイヤモンド粒子の少なくとも表層の少なくとも一部にリチウムが拡散されたナノダイヤモンド粒子、又は、ナノダイヤモンド粒子の少なくとも表面の少なくとも一部にリチウムが存在するナノダイヤモンド粒子である。
【0021】
図1−1〜図1−3は、本発明の第1の実施形態による冷陰極放出素子形成の、3つの連続する段階を示す概略図である。図1−1において、基板10は基礎を供給し、その基礎の上に放出領域を形成することができる。そしてこの基板10は、比較的平坦な領域であり、ガラス又は石英から成る。次いで、図1−2に示すように、連続的な陰極金属層12が基板上に堆積される。この比較的薄い膜は、約80〜120nmの厚さの(そしてガラスに適合されている)金属合金を含む。陰極金属層12は、伝導性を有する金属酸化物のグループのうちの1つ、すなわち、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウム−ドープされた酸化亜鉛(ZnO:Al)、インジウム−ドープされた酸化亜鉛(ZnO:In)、ガリウム及びアルミニウムが共ドープされた酸化亜鉛(ZnO:Ga、Al)等の1つであってもよく、金属合金のグループのうちの1つ、すなわち、アルミニウム−ドープされたリチウム(Li:Al)、銀−ドープされたリチウム(Li:Ag)、ニクロム(Ni−Cr)等の1つであってもよく、又は、金属のグループのうちの1つ、すなわち、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)等の1つであってもよい。図1−3に説明するように、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子14の単層が陰極金属コンタクト12上に堆積される。次いで、空気、不活性ガス、又は、真空中において装置が熱処理されて、ナノ粒子は機械的及び電気的に陰極金属コンタクト12と接続されるようになる。このコンタクトは、引き続き真空処理によって強化され、この冷陰極放出素子が装置にパッケージされる。ナノダイヤモンド14の表面上及びそのバルク内部にリチウムが存在するため、伝導性が著しく改善された。従って、ドープされていないナノダイヤモンド材料と比して、陰極金属コンタクト12と各ナノダイヤモンド粒子14との間に形成された電気的界面(electrical interface)の機能が高められるであろう。
【0022】
後続する図面において同様又は類似した要素が描かれる場合、それらの要素は同じ符号を用いて示される。示された特徴部分は、縮尺どおりに示されていないことに注目すべきである。
【0023】
図2−1〜図2−4は、本発明の第2の実施形態による冷陰極放出素子形成の、4つの連続する段階を示す概略図である。図2−1は、図1−1に類似している。
【0024】
図2−2において、注入背面コンタクトとして用いられている金属合金陰極12は、リチウム成分、及び/又は、インジウム成分を含有し、支持基板10の上に配置されて抵抗率が低い層を形成する。そして後続する空気中における高温での基板処理によって、陰極12の抵抗率値が著しくは変わることはない。陰極12は、化学的に前洗浄された基板表面10の上に堆積される。蒸着は、好適な堆積技術である。なぜなら、蒸着は最も簡単に広い領域を有する膜の堆積を可能にし、高い均一性を有し、含まれるガスの水準が低いからである。あるいはその代案として、プラズマアシスト蒸着法を用いてもよいが、堆積された金属中に大量のガスが閉じ込められないよう保証するために非常に注意しなければならない。ここでガスとはアルゴン等であり、アルゴンは形成された放出素子構造の動作を台無しにし、最終的にその構造を破壊へと導くことが知られている。陰極金属コンタクト12は好適には高い温度で堆積され、合金層の成分は、好適には共蒸着されている。あるいはその代案として、一連の物質蒸着を実行して金属合金層を構築してもよい。その金属合金は一般的に、ニッケル(Ni)成分、クロム(Cr)成分、インジウム(In)成分、及び、リチウム(Li)成分を含み、層の厚みは一般的には80〜120nmの範囲内にある。好適な金属合金はニクロム(Ni−Cr(80−20))であり、純粋なアルミニウム層の1/3から1/5の値の抵抗率を示す。
【0025】
この第2の実施形態において、金属−ドープされたナノダイヤモンド14は、溶液16を用いてコロイド懸濁体へと調合される。ここで溶液16は、銀(Ag)、インジウム(In)、ニッケル(Ni)等の金属性の化合物を含む。図2−3を参照すると、調合された懸濁体は陰極12の表面上に分配され、それは、好適には工業的なインクジェットプリンタ等の液体分配法によって、あるいはその代案として、スプレー(spraying)処理、スクリーン(screening)処理、又は、めっき(plating)処理によって行われる。リチウム−ドープされたナノダイヤモンド14を金属層16のカプセルに包むことは、与えられた放出領域から引き出される放出電流の均一性を改善し、そして、従来技術の放出素子の陰極と比べて、動作が表面の汚染に対して敏感になることを抑える。
【0026】
陰極12とナノダイヤモンド14のための支持基板10は、次いで空中焼成(air bake)され、それによって、金属性の化合物16が分解し、有機物質が蒸発して金属18がナノダイヤモンド粒子14を「濡らす(wet)」。空中焼成の完了時には、図2−3に説明するように、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子14は単層として陰極コンタクト12に付着し、そしてナノダイヤモンド粒子14は、超薄膜で高い仕事関数を有する金属層18で共形にコーティングされる。ここでこの金属層18は一般的には1〜15nmの厚みを有する。ナノダイヤモンド粒子14は無作為に配置されているが、密接に押し込まれていて、1×106cm-2より大きい粒子密度を示す。高い仕事関数を有する金属層18は、インジウム又はインジウム合金である。
【0027】
ナノダイヤモンド14を分配可能な懸濁体へと調合(formulate)することの長所は以下のとおりである。つまりその懸濁体は、用意された金属陰極12上又はゲートが設けられた陰極構造12上に分配可能であること、そして最後に処理されることが可能であることである。このように、放出素子の陰極構造は、化学物質又は形成ステップに関連する物質と接触する状態になる可能性が低い。ここで形成ステップとは、アドレス可能な画素配列等のマルチ要素の冷陰極装置を作り出すために必須のステップである。
【0028】
注目すべきは、代案として、溶液16は、金属性の微粒子を有さないコーティングを含んでいてもよいことであり、そのような溶液はスクリーンインク等である。
【0029】
さらなる代案としては、リチウム−ドープされたナノダイヤモンドは銀−リチウム合金中に浮遊されていてもよく、そのナノダイヤモンドが浮遊された合金が次いで陰極12上にBrasher処理の形態としてめっきされる。これにより、有機化合物を除去するための加熱ステップの必要性がなくなる。
【0030】
図3−1〜図3−7は、本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、7つの連続する段階を示す概略図である。図3−1及び図3−2は、図1−1及び図1−2に類似している。
【0031】
図3−3において、ラッカー20はポリビニルアクリル(poly-vinyl acrylic)等の物質を含み、陰極12に対し薄膜として塗布される。ここで、塗布はスピン、スプレー、印刷を用いて行われる。図3−4において、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド14は、べたついたラッカー層20に塗布される。ここでこの塗布は、好適にはダスティング法を用いて行われ、あるいはその代案としてコンタクト転写(contact transfer)又はエアスプレー法を用いて行われる。ラッカー20は、次いで空中焼成され、それによってポリマーが除去されて、ナノダイヤモンド14の単層が電極表面12(図3−5に図示される)の上に残される。図3−6において、有機金属性の溶液16は、(前述したように)ナノダイヤモンド層14の上に分配され、後続の空中焼成によって図3−7に示す構造が形成される。
【0032】
図4−1の放出素子構造は、ナノダイヤモンド粒子14の単層を説明する。このナノダイヤモンド粒子14は、全て同じ寸法を有するように見える。しかし実際には、ナノダイヤモンド14の形状及び寸法には変動がある。この変動は、白金又は同様に選ばれた金属18の共形コーティングの厚みの変動範囲に反映される。図4−2は、この影響の、ある極端な例を説明する。もし、有機金属性の溶液16の調合の性質と、空中焼成の焼成条件との組み合わせを変えると、金属18はダイヤモンド粒子上全体に渡る共形コーティングをもはや形成せず、ナノダイヤモンド粒子表面上で不連続又は微粒子の金属22になるように構成することが可能である。
【0033】
図5は、縦型ゲートの冷陰極放出素子要素の断面を概略的に説明する。これは、本発明の放出素子陰極形成方法を利用した、アドレス可能な放出素子画素の一例である。絶縁層24及びゲート28は、陰極放出ライン26と共に基板10の上に配置されている。ここで、この陰極放出ライン26はほぼ中央に配置されている。
【0034】
図6−1及び図6−2は、サブ画素であるアドレス可能な放出素子配列要素の一例を示す。アドレス可能なゲート下構造30は、複数の陰極放出ライン26から電子放出を抽出する。ここで、陰極放出ライン26は、処理された、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド白金層とアルミニウム−リチウム陰極層とを含む。円形の開口部を有するゲート上電極34は、画素の電子放出とe−ビーム点の配置とを制御するための一手段を供給する。放出素子配列要素30及び上部ゲート28は、互いに電気的に絶縁されていて、さらにゲート下構造30と絶縁層24、32によって電気的に絶縁されている。
【0035】
図7−1及び図7−2は、サブ画素であって配列としてアドレス可能な放出素子陰極の一例を説明する。この放出素子陰極は、冷陰極放出ライン26から電子放出を抽出するために、一組の横方向のゲート30を用いている。第2のゲート28は、図5と同様に、この上に配置されている。
【0036】
よって、本発明が装置と改良された電界放出装置を与える形成方法とを提供することが分かる。
【0037】
当業者は、本発明の範囲内において、上述の装置及び形成方法に対する変更及び調整がなし得ることにも気づくであろう。例えば、基板10は、代案として、金属、セラミック、又は、半導体で構成されていてもよい。さらに、アドレス可能な画素のさらなる形成の簡素化を要望する場合、図7−1及び図7−2の放出素子陰極の配置によって、絶縁層32の省略が許される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1−1】本発明の第1の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図1−2】本発明の第1の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図1−3】本発明の第1の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図2−1】本発明の第2の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図2−2】本発明の第2の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図2−3】本発明の第2の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図2−4】本発明の第2の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−1】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−2】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−3】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−4】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−5】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−6】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図3−7】本発明の第3の実施形態による冷陰極放出素子形成の、連続する段階の1つを示す断面図である。
【図4−1】完成した放出装置のサンプルを示す図である。
【図4−2】完成した放出装置のサンプルを示す図である。
【図5】本発明の縦型ゲートの冷陰極放出素子要素の断面図である。
【図6−1】本発明の放出素子構造を組み入れている配列としてアドレス可能な放出素子配列画素要素の一例の平面図である。
【図6−2】本発明の放出素子構造を組み入れている配列としてアドレス可能な放出素子配列画素要素の一例の断面図である。
【図7−1】本発明の放出素子構造を組み入れている配列としてアドレス可能な放出素子配列画素要素の別の例の平面図である。
【図7−2】本発明の放出素子構造を組み入れている配列としてアドレス可能な放出素子配列画素要素の別の例の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 基板
12 陰極金属層、陰極金属コンタクト
14 ナノダイヤモンド粒子
16 溶液
18 金属層
20 ラッカー層
22 微粒子の金属
24、32 絶縁層
26 陰極放出ライン
28 ゲート
30 ゲート下構造、放出素子配列要素、横方向のゲート
34 ゲート上電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上の陰極と、
前記陰極と電気的に接続され、リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子と、
を備えた電界放出装置。
【請求項2】
前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子は、前記陰極の上に単層として配置されていること、
を特徴とする請求項1に記載の電界放出装置。
【請求項3】
前記陰極は金属合金であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の電界放出装置。
【請求項4】
前記陰極は、ニッケル成分、クロム成分、インジウム成分、及び、リチウム成分を含む合金であること、
を特徴とする請求項3に記載の電界放出装置。
【請求項5】
前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子の前記層は、前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子と比してより高い仕事関数を有する金属でコーティングされていること、
を特徴とする請求項1に記載の電界放出装置。
【請求項6】
基板上に陰極を有する電界放出装置の製造方法であって、
リチウムをナノダイヤモンド粒子にドープすることと、
リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子を前記陰極の上に堆積することと、
を含む方法。
【請求項7】
前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子を前記陰極の上に堆積する前記ステップは、前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子の単層を堆積することを含むこと、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記陰極は、ニッケル成分、クロム成分、インジウム成分、及び、リチウム成分を含む合金であること、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記リチウム−ドープされたナノダイヤモンド粒子を堆積する前記ステップは、ナノダイヤモンド懸濁体を形成することと、前記懸濁体を前記陰極の上に堆積することとを含むこと、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノダイヤモンド粒子を前記陰極に付着させるために前記電界放出装置を熱処理すること、
をさらに含むことを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ラッカーの層を前記陰極の上に堆積することと、
前記ナノダイヤモンド粒子を前記ラッカーに付着させることと、
をさらに含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノダイヤモンド粒子を前記陰極に付着させるために、及び前記ラッカー層を除去するために、前記電界放出装置を熱処理すること、
をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記リチウムをナノダイヤモンド粒子にドープする前記ステップは、前記ナノダイヤモンド粒子をリチウム化合物と共に実質的に不活性な雰囲気中において加熱することを含むこと、
を特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記リチウム化合物は水素化リチウムであること、
を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノダイヤモンド粒子は前記リチウム化合物と共に約680℃まで加熱され、
そして雰囲気の真空を引くことと、
次いでさらにパルス加熱によって前記混合物の前記温度を上昇させることを含むこと
を特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から5のいずれか1項に記載の電界放出装置を少なくとも1つ備えたこと、
を特徴とする画素化された放出素子配列。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公表番号】特表2007−504607(P2007−504607A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524425(P2006−524425)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003696
【国際公開番号】WO2005/022579
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506068210)ユニヴァーシティー オヴ ブリストル (1)
【Fターム(参考)】