説明

電磁アクチュエータ

【課題】駆動初期の磁気効率を高め、且つ吸引力特性をフラット化できる高性能な電磁アクチュエータを提供する。
【解決手段】磁気吸引ステータ4に2重のステータ突起51、52を設け、プランジャ3に2重のプランジャ突起53、54を設け、その間に3箇所の磁気吸引力発生箇所X、Y、Zを設けることで、駆動初期の磁気効率を高める。さらに、内周ステータ突起52の外周面にステータ側テーパ面5を設け、外周プランジャ突起53の内周面にプランジャ側テーパ面6を設ける。オーバーラップ後、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従いステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6において磁気吸引力が上昇する「右上がり特性」が得られる。このため、他の磁気吸引力発生箇所における「右下がり特性」を「右上がり特性」で相殺でき、吸引力特性をフラット化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動対象物に軸方向の駆動力を与える電磁アクチュエータに関し、特にプランジャと吸引力発生箇所との間に発生する磁気吸引力に関するものであり、例えば、電磁式の油圧制御バルブ等に用いて好適な技術に関する。
【0002】
以下の明細書中では、説明の便宜上、
・プランジャの移動方向(軸方向)を前後方向と称し、
・吸引力発生箇所にプランジャが接近する方向を前(図1、図6左側参照)、
・吸引力発生箇所からプランジャが離間する方向を後(図1、図6右側参照)、
と称する。
この前後方向は、説明のためのものであって、実際の搭載方向を限定するものではない。
【背景技術】
【0003】
背景技術の具体的な一例として、特許文献1を説明する。
特許文献1は、エンジン(内燃機関)によって駆動されるカムシャフトの進角量を可変する油圧式の可変バルブタイミング装置(バリアブル・バルブ・タイミング:以下、VVTと称す)に関する技術であり、
・進角室と遅角室の油圧差によってカムシャフトの進角量の可変を行なう可変カムシャフトタイミング機構(バリアブル・カムシャフト・タイミング:以下、VCTと称す)と、・進角室と遅角室の油圧差をコントロールするオイルフロー・コントロール・バルブ(以下、OCVと称す:電磁スプール弁の一例)と、
が用いられている。
【0004】
特許文献1に開示されるOCVは、四方弁構造を採用したスプール弁と、このスプール弁を駆動する電磁アクチュエータ(リニアソレノイド)とを結合したものであり、特許文献1の電磁アクチュエータを、図8を参照して説明する。
なお、以下の符号は、後述する[発明を実施するための形態]および[実施例]と同一機能物に同一符号を付したものである。
【0005】
特許文献1の電磁アクチュエータ1は、
・プランジャ3と磁気吸引ステータ4との間の複数箇所で磁気吸引力が発生し、
・プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップしない位置(軸方向で離間した位置)から、軸方向でオーバーラップする位置まで、磁気吸引ステータ4に対してプランジャ3が移動可能なものである。
【0006】
特許文献1は、複数箇所で磁気吸引力を発生させる手段として、
・プランジャ3に、内外2重のプランジャ突起(外周プランジャ突起53と内周プランジャ突起54)を設けるとともに、
・磁気吸引ステータ4に、内外2重のプランジャ突起(外周プランジャ突起53と内周プランジャ突起54)の間に侵入可能なステータ突起52’を設けたものである。
これにより、
・外周プランジャ突起53とステータ突起52’との間の外周吸引力発生箇所Xで磁気吸引力が発生するとともに、
・内周プランジャ突起54とステータ突起52’との間の内周吸引力発生箇所Yで磁気吸引力が発生する。
このように2箇所(X、Y)で磁気吸引力を発生させることで、駆動初期の磁気効率を高めることができる。
【0007】
(問題点1)
しかし、外周吸引力発生箇所Xは、外周プランジャ突起53の内周面とステータ突起52’の外周面とが、円筒面同士でオーバーラップする構造であった。
このため、外周プランジャ突起53とステータ突起52’が軸方向でオーバーラップすると、図8(b)の一点鎖線Xに示すように、外周吸引力発生箇所Xでは、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が低下してしまう。
【0008】
同様に、内周吸引力発生箇所Yは、内周プランジャ突起54の外周面とステータ突起52’の内周面とが、円筒面同士でオーバーラップする構造であった。
このため、内周プランジャ突起54とステータ突起52’が軸方向でオーバーラップすると、図8(b)の破線Yに示すように、内周吸引力発生箇所Yでは、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が低下してしまう。
【0009】
なお、以下では、オーバーラップ後、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が低下する特性を「右下がり特性」と称する。
特許文献1の技術は、外周吸引力発生箇所Xと内周吸引力発生箇所Yの2箇所で磁気吸引力が発生するものであるが、外周吸引力発生箇所Xと内周吸引力発生箇所Yは、ともに「右下がり特性」であった。
【0010】
プランジャ3には、外周吸引力発生箇所Xと内周吸引力発生箇所Yの合成力(「右下がり特性」+「右下がり特性」)が加わる。このため、プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップした後は、図8(b)の実線Gに示すように、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従いプランジャ3に作用する磁気吸引力が大きく低下してしまう。
即ち、特許文献1の技術は、駆動初期の磁気効率を高めることができるものの、オーバーラップ後において磁気吸引力が大きく低下し、プランジャの駆動力が低下する不具合があった。
【0011】
(問題点2)
上記「問題点1」では、プランジャ3がストロークして、プランジャ3と磁気吸引ステータ4がオーバーラップすることで磁気吸引力が低下する不具合を示した。
これに対し、プランジャ3が磁気吸引ステータ4にオーバーラップしない場合でも、プランジャ3のストロークが増加することで、プランジャ3の駆動力が低下する場合がある。
【0012】
その具体例を、図6、図7を参照して説明する。なお、図6、図7は、実施例3の説明のための図面であり、従来技術ではない。
電磁アクチュエータ1の軸方向寸法の短縮化(図6参照)に伴って、プランジャ3の軸方向長が短縮された場合、プランジャ3のストロークが大きくなるに従い、図7(a)の符合Fに示すように、磁気受渡ステータ42とプランジャ3の後端(磁気吸引側とは異なる側)との間に、プランジャ3の駆動力を妨げる磁気吸引力が生じる。
このため、プランジャ3が磁気吸引ステータ4にオーバーラップしない場合であっても、プランジャ3のストロークが増加した際、逆向きの磁気吸引力Fの作用により、プランジャ3の駆動力が低下する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−301165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、プランジャのストロークの増加に伴うプランジャ駆動力の低下を防ぐことのできる電磁アクチュエータの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[請求項1の手段]
電磁アクチュエータは、磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所に、軸方向に対して互いに同方向に傾斜して対向するテーパ対向部を設けている。
このテーパ対向部では、プランジャが磁気吸引ステータに軸方向で接近するに従い磁気吸引力が上昇する。
なお、以下では、プランジャが磁気吸引ステータに接近するに従い磁気吸引力が上昇する特性を「右上がり特性」と称する。
これにより、プランジャのストロークの増加に伴うプランジャの駆動力の低下を、テーパ対向部で発生する「右上がり特性」で相殺することができ、結果的にプランジャの移動に対する駆動特性をフラット化することができる。
【0016】
[請求項2の手段]
磁気吸引ステータは、軸方向に向かって筒状に突出する内外2重のステータ突起を備える。
一方、プランジャは、軸方向に向かって筒状に突出して設けられ、内外2重のステータ突起の間に侵入可能なプランジャ突起を備える。
そして、テーパ対向部を、ステータ突起およびプランジャ突起の対向箇所に設ける。これにより、プランジャの移動に対する駆動特性をフラット化することができる。
【0017】
[請求項3の手段]
プランジャは、軸方向に向かって筒状に突出する内外2重のプランジャ突起を備える。 一方、磁気吸引ステータは、軸方向に向かって筒状に突出して設けられ、内外2重のプランジャ突起の間に侵入可能なステータ突起を備える。
そして、テーパ対向部を、ステータ突起およびプランジャ突起の対向箇所に設ける。これにより、プランジャの移動に対する駆動特性をフラット化することができる。
【0018】
[請求項4の手段]
磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、磁気吸引力が発生する他の箇所に比較して、軸方向の距離が長く設けられる。
磁気吸引力が発生する複数箇所のうち、少なくとも1箇所の軸方向の距離を変えることにより、プランジャのストロークに対してプランジャに作用する磁気吸引力を調整することができる。これにより、プランジャの移動に対する駆動特性(吸引特性)をフラット化することができる。
【0019】
[請求項5の手段]
磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、軸方向に対して傾斜するテーパ面を備える。
このテーパ面によって、プランジャの移動に対する駆動特性(吸引特性)を調整することができる。
【0020】
[請求項6の手段]
請求項6は、電磁弁(バルブ+電磁アクチュエータ)に本発明を適用したものである。
【0021】
[請求項7の手段]
請求項7は、電磁スプール弁(スプール弁+電磁アクチュエータ)に本発明を適用したものである。
【0022】
[請求項8の手段]
請求項8は、VCTにおける進角室と遅角室の油圧差をコントロールするOCVに本発明を適用したものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】OCVの軸方向に沿う断面図である(実施例1)。
【図2】(a)磁気吸引力の発生箇所を説明する電磁アクチュエータの要部断面図、(b)プランジャのストロークと磁気吸引力との関係を示すグラフである(実施例1)。
【図3】VVTの概略図である(実施例1)。
【図4】OCVの軸方向に沿う断面図である(実施例2)。
【図5】磁気吸引力の発生箇所を説明する電磁アクチュエータの要部断面図である(実施例2)。
【図6】電磁アクチュエータの断面図である(実施例3)。
【図7】(a)磁気吸引力の発生箇所を説明する電磁アクチュエータの要部断面図、(b)プランジャのストロークと磁気吸引力との関係を示すグラフである(実施例3)。
【図8】(a)磁気吸引力の発生箇所を説明する電磁アクチュエータの断面図、(b)プランジャのストロークと磁気吸引力との関係を示すグラフである(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面を参照して「実施形態1」と「実施形態2」を説明する。
実施形態1、2の電磁アクチュエータ1は、通電により磁力を発生するコイル2と、軸方向へ移動可能に支持されるプランジャ3と、コイル2の発生する磁力によりプランジャ3を軸方向へ磁気吸引する磁気吸引ステータ4とを具備する。
この電磁アクチュエータ1は、プランジャ3と磁気吸引ステータ4との間に磁気吸引力が発生する箇所が複数(後述する実施例1、2では3箇所、実施例3では4箇所)存在する。
【0025】
実施形態1の電磁アクチュエータ1は、磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所に、軸方向に対して互いに同方向に傾斜して対向するテーパ対向部(後述する実施例1、2ではステータ側テーパ面5、プランジャ側テーパ面6)を設けている。
【0026】
実施形態2の電磁アクチュエータ1は、磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所が、磁気吸引力が発生する他の箇所に比較して、軸方向の距離が長く設けられている。
【実施例】
【0027】
以下において本発明をVVTのOCVに適用した具体的な一例(実施例)を図面を参照して説明する。以下の実施例は具体的な一例であって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において、上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0028】
[実施例1]
図1〜図3を参照して実施例1を説明する。
VVTは、車両走行用のエンジンに搭載されるものであり、
・カムシャフト(例えば、吸気バルブ用カムシャフト等)に取り付けられてカムシャフトの進角量を連続的に可変することでバルブ(例えば、吸気バルブ等)の開閉タイミングを連続的に可変可能なVCT10と、
・このVCT10の作動を油圧制御するOCV11を用いた油圧回路12と、
・OCV11を電気的に制御するECU13(エンジン・コントロール・ユニットの略)と、
から構成されている。
【0029】
VCT10は、エンジンのクランクシャフトに同期して回転駆動されるシューハウジング14と、このシューハウジング14に対して相対回転可能に設けられ、カムシャフトと一体に回転するベーンロータ15とを備えるものであり、シューハウジング14内に構成される油圧アクチュエータによってシューハウジング14に対してベーンロータ15を相対的に回転駆動して、カムシャフトを進角側あるいは遅角側へ変化させるものである。
【0030】
シューハウジング14は、エンジンのクランクシャフトにタイミングベルトやタイミングチェーン等を介して回転駆動されるスプロケットにボルト等によって結合されて、スプロケットと一体回転するものである。このシューハウジング14の内部には、図3に示すように、略扇状の凹部14aが複数(この実施例1では3つ)形成されている。なお、シューハウジング14は、図3において時計方向に回転するものであり、この回転方向が進角方向である。
一方、ベーンロータ15は、カムシャフトの端部に位置決めピン等で位置決めされて、ボルト等によってカムシャフトの端部に固定されるものであり、カムシャフトと一体に回転する。
【0031】
ベーンロータ15は、シューハウジング14の凹部14a内を進角室αと遅角室βに区画するベーン15aを備えるものであり、ベーンロータ15はシューハウジング14に対して所定角度内で回動可能に設けられている。
進角室αは、油圧によってベーン15aを進角側へ駆動するための油圧室であって、ベーン15aの反回転方向側の凹部14a内に形成されるものであり、逆に、遅角室βは油圧によってベーン15aを遅角側へ駆動するための油圧室であって、ベーン15aの回転方向側の凹部14a内に形成されるものである。なお、進角室αと遅角室βの液密性は、シール部材16等によって保たれる。
【0032】
油圧回路12は、進角室αおよび遅角室βのオイルを給排して、進角室αと遅角室βに油圧差を発生させてベーンロータ15をシューハウジング14に対して相対回転させるための手段であり、クランクシャフト等によって駆動されるオイルポンプ17から圧送されるポンプ油圧を進角室αまたは遅角室βの一方に調量供給するとともに、進角室αまたは遅角室βの油圧を調量排圧することが可能なOCV11を備える。
【0033】
OCV11は、四方弁構造を有するスプール弁20(バルブの一例)と、このスプール弁20を駆動する電磁アクチュエータ1とを結合した油圧制御用の電磁スプール弁であり、スプール弁20がエンジン部品(シリンダヘッド等)に形成されたOCV装着穴(内周面が円筒形状を呈する穴)の内部に挿入されるとともに、電磁アクチュエータ1がエンジン部品に固定されるものである。
【0034】
(スプール弁20の説明)
スプール弁20は、
・エンジン部品に設けられたOCV装着穴に挿入配置されるスリーブ21と、
・このスリーブ21の内部において軸方向へ摺動自在に支持され、各ポートの連通状態を調整するスプール22と、
・このスプール22を後方へ付勢するリターンスプリング23と、
を備える。
【0035】
スリーブ21は、略円筒形状を呈し、外周面がOCV装着穴に対して微細なクリアランスを介して挿入配置される。
スリーブ21の内部には、スプール22を軸方向へ摺動自在に支持する摺動穴が形成され、この摺動穴の内周面においてスプール22を軸方向へ摺動自在に支持する。
【0036】
スリーブ21には、複数の入出力ポートが形成されている。
具体的に、スリーブ21の径方向には、オイルポンプ17のオイル吐出口に連通する入力ポート24、進角室αに通じる進角ポート25、遅角室βに通じる遅角ポート26、ドレン空間(ドレンパンに通じる空間)に通じる進角用ドレンポート27と遅角用ドレンポート28が設けられている。
これらの径方向のポートは、スリーブ21の前側から後側に向かって、進角用ドレンポート27、進角ポート25、入力ポート24、遅角ポート26、遅角用ドレンポート28の順に配置されている。
また、スリーブ21の前部には、上記入出力ポートとは別に、ドレン空間(ドレンパンに通じる空間)に通じる呼吸ポート29が設けられている。
【0037】
スプール22は、略円筒形状を呈し、外周面がスリーブ21の内周面に対して微細なクリアランスを介して挿入配置される。
スプール22の外周には、スリーブ21の摺動穴の内径寸法に略一致した外径寸法を有する4つの大径部(ランド)が設けられている。
また、4つの大径部の各間には、前側から後側に向かって、進角室ドレン用小径部31、作動油分配用小径部32、遅角室ドレン用小径部33が形成されている。
【0038】
進角室ドレン用小径部31は、図1に示すように、スプール22がストローク中央よりも後側に移動している時に進角ポート25と連通して進角室αの油圧の排出を行ない、進角室αの油圧を下降させるものである。
作動油分配用小径部32は、入力ポート24と常に連通するものであり、スプール22が前側へ移動した際に入力ポート24と進角ポート25を連通して進角室αの油圧を上昇させ、スプール22が後側へ移動した際に入力ポート24と遅角ポート26を連通して遅角室βの油圧を上昇させる分配室の機能を果たすものである。
遅角室ドレン用小径部33は、スプール22がストローク中央よりも前側に移動している時に遅角ポート26と連通して遅角室βの油圧の排出を行ない、遅角室βの油圧を下降させるものである。
【0039】
また、進角室ドレン用小径部31と作動油分配用小径部32の間の大径部は、スプール22がストローク中央の時に進角ポート25を閉塞する幅に設けられている。
同様に、作動油分配用小径部32と遅角室ドレン用小径部33の間の大径部も、スプール22がストローク中央の時に遅角ポート26を閉塞する幅に設けられている。
即ち、スプール22のストローク位置が前後方向の略中央の時に、進角ポート25と遅角ポート26とを同時に閉塞するように設けられている。
【0040】
スリーブ21とスプール22が上記の構成に設けられているため、スプール22を後端から前端へ移動することで、
(i)遅角ポート26を入力ポート24に連通させるとともに、進角ポート25を進角用ドレンポート27に連通させる「遅角状態」、
(ii)進角ポート25および遅角ポート26を遮断する「位相保持状態」、
(iii)進角ポート25を入力ポート24に連通させるとともに、遅角ポート26を遅角用ドレンポート28に連通させる「進角状態」、
を達成することができる。
【0041】
スプール22の後部には、電磁アクチュエータ1におけるプランジャ3の駆動力をスプール22に伝えるシャフト34が、スプール22と一体に設けられている。
なお、シャフト34は、スプール22と一体に設けられることに限定されるものではなく、別体に設けて、スプール22とプランジャ3の間に介在させても良いし、プランジャ3に結合するものであっても良い。
【0042】
この実施例のシャフト34は、小径筒状を呈するものであり、シャフト34の中心には軸方向に貫通したシャフト呼吸孔35が形成されている。
このシャフト呼吸孔35は、プランジャ3の前後の空間の容積変動を可能にする呼吸通路である。
【0043】
具体的に、シャフト呼吸孔35の前端は、スプール21の軸心に形成されたスプール内ドレン穴30を介して呼吸ポート29と常時連通する。
また、シャフト呼吸孔35の後端は、プランジャ3の中心部において軸方向に貫通形成されたプランジャ呼吸孔36を介して、プランジャ3の後端とカップガイド41との間の容積変動室(プランジャ3の後室)と常時連通する。
さらに、シャフト呼吸孔35は、シャフト34の径方向に形成された呼吸ポート(図示しない)を介して、シャフト34の周囲の容積変動室(プランジャ3の前室)と常時連通する。
【0044】
(リターンスプリング23の説明)
リターンスプリング23は、スプール22を後方へ向けて付勢する圧縮コイルスプリングである。
ここで、スリーブ21の前端には、軸方向に対して垂直な環状壁を備えており、この環状壁と、スプール22に設けたバネ受段差(スプール内ドレン穴30の前側で前方に拡径する部位の段差)の間で軸方向に圧縮された状態で組付けられるものである。
なお、リターンスプリング23が配置されるバネ室(スプール22の前部に設けられる容積変動室)は、呼吸ポート29を介してドレン空間と常時連通するものである。
【0045】
(電磁アクチュエータ1の説明)
電磁アクチュエータ1は、通電により磁力を発生するコイル2と、軸方向へ移動可能に支持されるプランジャ3と、コイル2の発生する磁力によりプランジャ3を軸方向へ磁気吸引する磁気吸引ステータ4とを具備するものであり、コイル2の通電時にプランジャ3と磁気吸引ステータ4との間の複数箇所(この実施例では、外周吸引力発生箇所X、内周吸引力発生箇所Y、中周吸引力発生箇所Zの3箇所)において磁気吸引力が発生するとともに、プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップしない位置(プランジャ3が後端で停止する位置)から、軸方向でオーバーラップする位置(プランジャ3が前端で停止する位置)まで、磁気吸引ステータ4に対してプランジャ3が移動可能に設けられている。
【0046】
具体的に、電磁アクチュエータ1は、上述したコイル2、プランジャ3、磁気吸引ステータ4の他に、カップガイド41、磁気受渡ステータ42、ヨーク43、ステー44およびコネクタ45を備えて構成される。
【0047】
コイル2は、通電されるとプランジャ3を磁気吸引するための磁力を発生する磁力発生手段であり、樹脂製のコイルボビンの周囲に絶縁被覆された導線(エナメル線等)を多数巻回したものである。
【0048】
プランジャ3は、コイル2の発生する磁力によりリターンスプリング23の付勢力に打ち勝ってスプール22を前方へ駆動する磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)によって形成された円柱体であり、カップガイド41の内周面において軸方向へ摺動自在に支持される。
【0049】
磁気吸引ステータ4は、スリーブ21とコイル2との間に挟まれて支持されて、プランジャ3を前方へ磁気吸引するものであり、磁気吸引ステータ4とプランジャ3の対向箇所(磁気吸引力の発生箇所:メインギャップ)については後述する。
【0050】
磁気受渡ステータ42は、カップガイド41を介してプランジャ3の周囲と径方向の磁気の受け渡しを行なうものであり、カップガイド41を介してプランジャ3の外周を覆うとともに、コイルボビンの内周に挿入配置される円筒部42a、およびこの円筒部42aから外径方向に向かって形成され、外周縁においてヨーク43と磁気結合されるフランジ部42bからなる磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)であり、円筒部42aとプランジャ3の径方向間に磁束受渡ギャップ(サイドギャップ)が形成される。
【0051】
ヨーク43は、コイル2の周囲を覆う円筒形状を呈した磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)であり、前端に形成された爪部をカシメることでスリーブ21と結合される。
【0052】
カップガイド41は、電磁アクチュエータ1の内部のオイルが外部に漏れないように、電磁アクチュエータ1の内部においてオイルが導かれる範囲を区画する手段であり、筒形カップ形状を呈する非磁性体材料(例えば、ステンレス等)によって設けられる。
カップガイド41の前端には径方向に広がる拡径フランジ部が設けられており、この拡径フランジ部が磁気吸引ステータ4の後面に配置されたOリング46と、コネクタ45を形成する2次成形樹脂との間に挟まれることで、カップガイド41の内外のシールが成される。
【0053】
なお、スリーブ21の後面と磁気吸引ステータ4の前面との間に配置されたOリング47は、スプール弁20と電磁アクチュエータ1との間からオイルが漏れるのを防ぐためのものであり、スリーブ21の後部外周に配置されたOリング48は、OCV装着穴からオイルが漏れるのを防ぐためのものである。
【0054】
ステー44は、OCV11をエンジン部品に結合するための手段であり、ヨーク43の前端に形成された段差部と磁気吸引ステータ4との間に挟まれて固定されている。なお、ステー44は、ヨーク43に溶接結合されるなど、他の技術で電磁アクチュエータ1に結合されるものであっても良い。
そして、上述したように、スプール弁20をバルブOCV装着穴の内部に挿入し、電磁アクチュエータ1のステー44をエンジン部品に締結することで、OCV11がエンジンに組付けられる。
【0055】
コネクタ45は、コイル2等を樹脂モールドする2次成形樹脂の一部によって形成された結合手段であり、その内部には、コイル2の導線端部とそれぞれ接続されるターミナル端子45aが配置されている。このターミナル端子45aは、一端がコイルボビンに差し込まれた状態で2次成形樹脂に樹脂モールドされたものであり、ターミナル端子45aの他端がコネクタ45内において露出配置されている。
【0056】
(ECU13の説明)
ECU13は、エンジン運転状態に応じた「目標の位相角」を算出する機能を備えるとともに、シューハウジング14に対するベーンロータ15の「実際の位相角」を検出する手段を備え、「実際の位相角」が「目標の位相角」となるようにコイル2の通電制御を実施するように設けられている。
具体的な一例として、ECU13は、デューティ比制御によりコイル2へ供給する電流量を制御するものであり、コイル2の供給電流量を制御することで、スプール22の軸方向の位置をリニアにスライド制御し、エンジン運転状態に応じた作動油圧を進角室αおよび遅角室βに発生させてカムシャフトの進角量を可変制御する。
【0057】
(磁気吸引ステータ4とプランジャ3の間における磁気吸引力の発生箇所の説明)
磁気吸引ステータ4は、上述したように、スリーブ21とコイル2との間に挟まれて支持されてプランジャ3を前方へ磁気吸引するものであり、スリーブ21とコイル2との間に挟まれて配置される円盤部と、円盤部の磁束をプランジャ3の近傍まで導く内外2重のステータ突起とからなる環状の磁性体金属(例えば、鉄:磁気回路を構成する強磁性材料)である。
【0058】
内外2重のステータ突起は、磁気吸引ステータ4の後面において同軸上で、且つ後方に向かって筒状に突出する2つの環状突起であり、
・プランジャ3の外径寸法より僅かに大径に設けられた外周ステータ突起51と、
・プランジャ3の外径寸法より小さく、且つプランジャ3の内径寸法(プランジャ呼吸孔35の径寸法)より大きく設けられた内周ステータ突起52と、
で構成される。
【0059】
一方、上述したプランジャ3の前端には、プランジャ3と磁気吸引ステータ4とが軸方向でオーバーラップした際に、内周ステータ突起52が非接触で侵入する環状溝が形成されている。
この環状溝を設けたことにより、プランジャ3の前端には、内外2重のプランジャ突起が形成される。
【0060】
内外2重のプランジャ突起は、プランジャ3の前面において同軸上で、且つ前方に向かって筒状に突出する2つの環状突起であり、
・プランジャ3と磁気吸引ステータ4とが軸方向でオーバーラップした際に、外周ステータ突起51と内周ステータ突起52との間に非接触で侵入する外周プランジャ突起53と、
・磁気吸引ステータ4の内径寸法(内周ステータ突起52の内径寸法)より僅かに小径に設けられた内周プランジャ突起54と、
で構成される。
【0061】
上記構成を採用することにより、図2(a)に示すように、
・外周ステータ突起51と外周プランジャ突起53との間には、外周吸引力発生箇所X(外周磁気吸引ギャップ)が設けられ、
・内周ステータ突起52と内周プランジャ突起54との間には、内周吸引力発生箇所Y(内周磁気吸引ギャップ)が設けられ、
・内周ステータ突起52と外周プランジャ突起53との間には、中周吸引力発生箇所Z(中周磁気吸引ギャップ)が設けられる。
【0062】
これにより、プランジャ3が後端で停止する位置でコイル2を通電すると、外周吸引力発生箇所X、内周吸引力発生箇所Y、中周吸引力発生箇所Zの3箇所で磁気吸引力が発生するため、駆動初期の磁気効率を高めることができる。
【0063】
ここで、外周吸引力発生箇所Xは、外周ステータ突起51の内周面と、外周プランジャ突起53の外周面とが、円筒面同士でオーバーラップするように設けられている。
このため、外周ステータ突起51と外周プランジャ突起53のオーバーラップ後、図2(b)の一点鎖線Xに示すように、外周吸引力発生箇所Xでは、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が低下する(右下がり特性)。
【0064】
同様に、内周吸引力発生箇所Yは、内周ステータ突起52の内周面と内周プランジャ突起54の外周面とが、円筒面同士でオーバーラップするように設けられている。
このため、内周ステータ突起52と内周プランジャ突起54のオーバーラップ後、図2(b)の破線Yに示すように、内周吸引力発生箇所Yでは、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が低下する(右下がり特性)。
【0065】
一方、この実施例における電磁アクチュエータ1では、磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所が、軸方向に対して互いに同方向に傾斜して対向するテーパ対向部として設けられている。
具体的なテーパ対向部は、
・磁気吸引ステータ4に設けられて軸方向に対して傾斜したステータ側テーパ面5と、
・プランジャ3に設けられてステータ側テーパ面5と同方向に傾斜したプランジャ側テーパ面6と、
の径方向および軸方向の対向箇所である。
【0066】
この実施例では、
・内周ステータ突起52の外周面に軸方向に対して傾斜したステータ側テーパ面5(後方に向かって縮径するテーパ面)が設けられ、
・外周プランジャ突起53の内周面にステータ側テーパ面5と同方向に傾斜したプランジャ側テーパ面6(前方に向かって拡径するテーパ面)が設けられるものであり、
プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップした状態において、ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6とが、径方向および軸方向の両方向に対向するものである。
【0067】
プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップした状態において、ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6とが、径方向と軸方向の両方で対向するものであるため、プランジャ3と磁気吸引ステータ4が軸方向でオーバーラップした状態であっても、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に軸方向で接近するに従い、ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6との対向箇所では、プランジャ3に作用する磁気吸引力が上昇する。
即ち、プランジャ3と磁気吸引ステータ4のオーバーラップ後、図2(b)の二点鎖線Zに示すように、中周吸引力発生箇所Zでは、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従い磁気吸引力が上昇する(右上がり特性)。
【0068】
プランジャ3には、外周吸引力発生箇所X、内周吸引力発生箇所Yおよび中周吸引力発生箇所Zの合成力(「右下がり特性」+「右下がり特性」+「右上がり特性」)が加わる。
このため、上述した外周吸引力発生箇所Xおよび内周吸引力発生箇所Yにおける「右下がり特性{図2(b)の一点鎖線X、破線Y参照}」を、中周吸引力発生箇所Zにおける「右上がり特性{図2(b)の二点鎖線Z参照}」で相殺することができる。
その結果、図2(b)の実線Gに示すように、プランジャ3の移動に対する駆動特性をフラット化することができる。
【0069】
このように、この実施例の電磁アクチュエータ1は、駆動初期の磁気効率を高めることで、電磁アクチュエータ1を小型化することができるとともに、「右下がり特性」を「右上がり特性」で相殺することで、プランジャ3の移動に対する駆動特性をフラット化することができる。即ち、小型で高性能な電磁アクチュエータ1を提供することができる。
【0070】
[実施例2]
図4、図5を参照して実施例2を説明する。なお、以下の各実施例において上記実施例1と同一符合は同一機能物を示すものである。
この実施例2は、磁気吸引ステータ4に対し、内周ステータ突起52が設けられる部位をサブステータ55として別体に設け、そのサブステータ55の要部(プランジャ3に対向する箇所)をカップガイド41の内周に挿入配置したものである。
即ち、実施例2は、
・外周ステータ突起51をカップガイド41の外周に配置し、
・内周ステータ突起52をカップガイド41の内周に配置したものである。
【0071】
このように設けることにより、上述した実施例1と同じ効果を得ることができる。
また、この実施例2では、内周ステータ突起52をカップガイド41の内周に配置するため、カップガイド41の拡径フランジ部をスリーブ21と磁気吸引ステータ4の間で挟むことができ、実施例1で示したOリング46を廃止し、スリーブ21の後面と磁気吸引ステータ4の前面との間に配置されたOリング47によってカップガイド41の内外をシールすることができる。
【0072】
さらにこの実施例2では、内周ステータ突起52が設けられるサブステータ55をカップガイド41の内周に配置する構成を採用することにより、カップガイド41を有する既存の電磁アクチュエータ1に本発明を適用することが容易になる。このため、コスト上昇を抑えて本発明を実施することができる。
【0073】
[実施例3]
図6、図7を参照して実施例3を説明する。
この実施例3の電磁アクチュエータ1は、カムシャフトの軸芯上にプランジャ3を配置するタイプであり、車両搭載上の制約から実施例1、2の電磁アクチュエータ1に比較して、軸方向の短縮化が図られている。
【0074】
この実施例3の電磁アクチュエータ1を説明する。
電磁アクチュエータ1は、コイル2、プランジャ3、磁気吸引ステータ4、磁気受渡ステータ42、ヨーク43およびコネクタ45を備えて構成されるものであり、
・磁気受渡ステータ42が、外側のアウターリヤステータ42cと内側のインナーリヤステータ42dとを組み合わせて設けられるとともに、
・ヨーク43が、前側のフロントヨーク43aと後側のリヤヨーク43bとを組み合わせて設けられるものである。
【0075】
上記の実施例1では、「内外2重のステータ突起」を設ける例を示したが、この実施例3は、「内外3重のステータ突起」を設けるものである。
内外3重のステータ突起は、磁気吸引ステータ4の後面において同軸上で、且つ後方に向かって筒状に突出する3つの環状突起であり、
・プランジャ3の外径寸法より僅かに大径に設けられた外周ステータ突起51と、
・プランジャ3の外径寸法より小さく、且つプランジャ3の内径寸法より大きく設けられた内周ステータ突起52と、
・プランジャ3の最小寸法とほぼ同径の最内周ステータ突起56と、
で構成される。
なお、最内周ステータ突起56は、プランジャ3の駆動力を外部に伝えるシャフト34を摺動自在に支持する軸受の機能を兼ねても良い。
【0076】
また、プランジャ3には、実施例1と同様に、内外2重のプランジャ突起(外周プランジャ突起53と内周プランジャ突起54)が設けられている。
なお、この実施例では、「内外3重のステータ突起」と「内外2重のプランジャ突起」を用いる例を示すが、もちろん「プランジャ側突起の数」および「ステータ側突起の数」はそれぞれ限定されるものではなく、磁気吸引力が発生する箇所が複数設けられるものであれば良い。
【0077】
上記構成により、コイル2の通電時には、プランジャ3と磁気吸引ステータ4との間に、第1吸引力発生箇所A、第2吸引力発生箇所B、第3吸引力発生箇所C、第4吸引力発生箇所Dの4箇所において磁気吸引力が発生する。
【0078】
具体的には、図7(a)に示すように、
・外周ステータ突起51と外周プランジャ突起53との間の第1吸引力発生箇所Aと、
・内周ステータ突起52と外周プランジャ突起53との間の第2吸引力発生箇所Bと、
・内周ステータ突起52と内周プランジャ突起54との間の第3吸引力発生箇所Cと、
・最内周ステータ突起56と内周プランジャ突起54との間の第4吸引力発生箇所Dと、において、磁気吸引力が発生する。
【0079】
磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、磁気吸引力が発生する他の箇所に比較して、軸方向の距離が長く設けられる。
このことを具体的に説明すると、
・内周ステータ突起52の軸方向長は、外周ステータ突起51の軸方向長より短く設けられ、
・最内周ステータ突起56の軸方向長は、内周ステータ突起52の軸方向長より短く設けられ、
・内周プランジャ突起54の軸方向長は、外周プランジャ突起53の軸方向長より短く設けられる。
【0080】
ここで、第1吸引力発生箇所Aは、外周ステータ突起51の内周面と、外周プランジャ突起53の外周面とが、軸方向でオーバーラップするように設けられている。
このため、第1吸引力発生箇所Aのみでは、図7(b)の二点鎖線Aに示すように、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従って磁気吸引力(プランジャ3の駆動力)が低下する(右下がり特性)。
【0081】
一方、この実施例の電磁アクチュエータ1は、軸方向寸法の短縮化に伴って、プランジャ3の軸方向長が短縮して設けられている。
このようにプランジャ3が短縮化されると、プランジャ3のストロークが大きくなるに従い、図7(a)に示すように、磁気受渡ステータ42の後部と、プランジャ3の後端との間に、プランジャ3の駆動力を妨げる磁気吸引力Fが生じる。
この逆向きの磁気吸引力Fの作用により、図7(b)の破線Fに示すように、プランジャ3が磁気吸引ステータ4に接近するに従って磁気吸引力(プランジャ3の駆動力)を低下させてしまう(右下がり特性)。
【0082】
この実施例の電磁アクチュエータ1は、上述したように、
・第1吸引力発生箇所Aの他に、第2〜第4吸引力発生箇所B〜Dを設けるとともに、
・第1〜第4吸引力発生箇所A〜Dの軸方向の距離が異なるように設けている。
これにより、プランジャ3のストロークに対してプランジャ3に作用する磁気吸引力を調整できる。
【0083】
また、第1〜第4吸引力発生箇所A〜Dは、軸方向の距離だけでなく、径方向にも違いを設けることで、プランジャ3のストロークに対してプランジャ3に作用する磁気吸引力を調整できる。
【0084】
さらに、この実施例3では、第1〜第4吸引力発生箇所A〜Dのそれぞれにおけるプランジャ3と磁気吸引ステータ4の対向角度を調整することで、プランジャ3のストロークに対してプランジャ3に作用する磁気吸引力を調整できる。
具体的には、磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所に、軸方向に対して傾斜するテーパ面を設けて、テーパ面の数、テーパ面の位置、テーパ面の角度、テーパ面の面積等によって、プランジャ3のストロークに対してプランジャ3に作用する磁気吸引力を調整できる。
【0085】
(実施例3の効果)
この実施例の電磁アクチュエータ1は、第1〜第4吸引力発生箇所A〜Dの「軸方向距離」、「径方向距離」、「対向角度」のそれぞれを適宜設定することにより、プランジャ3のストロークに対してプランジャ3に作用する磁気吸引力を高精度に調整することができる。
【0086】
これにより、プランジャ3のストロークに伴い、第1吸引力発生箇所Aが右下がり特性になるが、図7(b)の二点鎖線Bに示すように、第2吸引力発生箇所Bにおいて、磁気吸引力が上昇する右上がり特性が得られ始める。
さらに、プランジャ3のストロークが進むと、第1吸引力発生箇所Aの右下がり特性が大きくなるとともに、逆向きの磁気吸引力Fによる右下がり特性が加わるが、図7(b)の二点鎖線Cに示すように、第3吸引力発生箇所Cにおいて、磁気吸引力が上昇する右上がり特性が得られ始める。
そしてさらに、プランジャ3のストロークが進むと、第1吸引力発生箇所Aの右下がり特性がさらに大きくなるとともに、逆向きの磁気吸引力Fによる右下がり特性が増加するが、図7(b)の二点鎖線Dに示すように、第4吸引力発生箇所Dにおいて、磁気吸引力が上昇する右上がり特性が得られ始める。
【0087】
この実施例では、上述したように、第1吸引力発生箇所Aにおける「右下がり特性」とプランジャ3の短縮化に伴う逆向きの磁気吸引力Fによる「右下がり特性」を、
軸方向の対向距離が異なる第2〜第4吸引力発生箇所B〜Dによる「右上がり特性」で相殺することができる。
その結果、プランジャ3の移動に対する駆動特性をより高精度にフラット化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
上記の実施例1、2では、ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6とが同方向に傾斜して設けられる例を示した。ここで、ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6が同じテーパ角(ステータ側テーパ面5とプランジャ側テーパ面6が平行)であっても良いし、異なるテーパ角であっても良い。
また、ステータ側テーパ面5およびプランジャ側テーパ面6は、
・一定のテーパ角であっても良いし、
・少なくとも一方が複数のテーパ角を組み合わせたもの(複数のテーパ面を有するもの)であっても良いし、
・少なくとも一方が曲面のテーパ面であっても良い。
【0089】
上記の実施例1、2では、磁気吸引ステータ4とプランジャ3のそれぞれに2つずつの突起を設ける例(磁気吸引力発生箇所が3箇所に設けられる例)を示したが、
・磁気吸引ステータ4とプランジャ3の一方に2つの突起を設け、
・磁気吸引ステータ4とプランジャ3の他方に1つの突起を設けることで、
磁気吸引力発生箇所を2箇所に設けて本発明を適用しても良い。
具体的な一例として、上記の実施例で示した内周プランジャ突起54を廃止して磁気吸引力発生箇所を2箇所に設けたり、あるいは上記の実施例で示した外周ステータ突起51を廃止して磁気吸引力発生箇所を2箇所に設けるなどしても良い。
【0090】
上記の実施例1、2では、磁気吸引ステータ4とプランジャ3のそれぞれに2つずつの突起を設ける例(磁気吸引力発生箇所が3箇所に設けられる例)を示したが、磁気吸引ステータ4またはプランジャ3の少なくとも一方の突起の数を増やして、磁気吸引力発生箇所を4箇所以上に設けて本発明を適用しても良い。
【0091】
上記の実施例1〜3では、VVTに用いられるスプール弁20を駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用する例を示したが、VVTとは異なる用途のスプール弁(例えば、自動変速機の油圧制御用)を駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0092】
上記の実施例1〜3では、駆動対象の一例としてスプール弁20を駆動する例を示したが、駆動対象はスプール弁20に限定されるものではなく、ボール弁など他の構成のバルブを駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【0093】
上記の実施例1〜3では、駆動対象の一例としてバルブ(実施例ではスプール弁20)を駆動する例を示したが、駆動対象物はバルブに限定されるものではなく、バルブとは異なるものを駆動する電磁アクチュエータ1に本発明を適用しても良い。
【符号の説明】
【0094】
1 電磁アクチュエータ
2 コイル
3 プランジャ
4 磁気吸引ステータ
5 ステータ側テーパ面(テーパ対向部の一方)
6 プランジャ側テーパ面(テーパ対向部の他方)
10 VCT(可変カムシャフトタイミング機構)
11 OCV
20 スプール弁(バルブ)
25 進角ポート
26 遅角ポート
51 外周ステータ突起
52 内周ステータ突起
53 外周プランジャ突起
54 内周プランジャ突起
A 第1吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
B 第2吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
C 第3吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
D 第4吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
X 外周吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
Y 内周吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
Z 中周吸引力発生箇所(磁気吸引力発生箇所)
α 進角室
β 遅角室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、軸方向へ移動可能に支持されるプランジャ(3)と、前記コイル(2)の発生する磁力により前記プランジャ(3)を軸方向へ磁気吸引する磁気吸引ステータ(4)とを具備し、
前記プランジャ(3)と前記磁気吸引ステータ(4)との間に磁気吸引力が発生する箇所が複数存在する電磁アクチュエータ(1)において、
前記磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、
軸方向に対して互いに同方向に傾斜して対向するテーパ対向部(5、6)であることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁アクチュエータ(1)において、
前記磁気吸引ステータ(4)は、軸方向に向かって筒状に突出する内外2重のステータ突起(51、52)を備え、
前記プランジャ(3)は、軸方向に向かって筒状に突出して設けられ、前記内外2重のステータ突起(51、52)の間に侵入可能なプランジャ突起(53)を備え、
前記テーパ対向部(5、6)は、前記ステータ突起(52)および前記プランジャ突起(53)の対向箇所に設けられることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電磁アクチュエータ(1)において、
前記プランジャ(3)は、軸方向に向かって筒状に突出する内外2重のプランジャ突起(53、54)を備え、
前記磁気吸引ステータ(4)は、軸方向に向かって筒状に突出して設けられ、前記内外2重のプランジャ突起(53、54)の間に侵入可能なステータ突起(52)を備え、
前記テーパ対向部(5、6)は、前記ステータ突起(52)および前記プランジャ突起(53)の対向箇所に設けられることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項4】
通電により磁力を発生するコイル(2)と、軸方向へ移動可能に支持されるプランジャ(3)と、前記コイル(2)の発生する磁力により前記プランジャ(3)を軸方向へ磁気吸引する磁気吸引ステータ(4)とを具備し、
前記プランジャ(3)と前記磁気吸引ステータ(4)との間に磁気吸引力が発生する箇所が複数存在する電磁アクチュエータ(1)において、
前記磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、
前記磁気吸引力が発生する他の箇所に比較して、軸方向の距離が長く設けられることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項5】
請求項4に記載の電磁アクチュエータ(1)において、
前記磁気吸引力が発生する複数箇所のうちの少なくとも1箇所は、軸方向に対して傾斜するテーパ面を備えることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電磁アクチュエータ(1)において、
この電磁アクチュエータ(1)は、バルブ(20)を駆動することを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項7】
請求項6に記載の電磁アクチュエータ(1)において、
前記バルブ(20)は、スプール弁(20)であることを特徴とする電磁アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7に記載の電磁アクチュエータ(1)において、
前記スプール弁(20)は、
可変カムシャフトタイミング機構(10)における進角室(α)に通じる進角ポート(25)と、前記可変カムシャフトタイミング機構(10)における遅角室(β)に通じる遅角ポート(26)とを備え、前記進角室(α)と前記遅角室(β)の油圧差をコントロールすることを特徴とする電磁アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−77792(P2013−77792A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277264(P2011−277264)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】