説明

電磁式燃料噴射弁

【課題】内燃機関に用いるインジェクタにおいて、燃料噴射量の精密な制御を容易にする。
【解決手段】弁座と当接することによって燃料通路を閉じ弁座から離れることによって燃料通路を開く弁体103と、弁体103の駆動手段として設けられたコイル105及び磁気コア101と、弁体103に対して相対変位可能な状態で保持された可動子102と、弁体103を駆動力の向きとは逆向きに付勢する第1の付勢手段106と、第1の付勢手段106による付勢力よりも小さい付勢力で可動子102を駆動力の向きに付勢する第2の付勢手段108と、可動子102の弁体103に対する駆動力の向きの相対変位を規制する規制手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられる燃料噴射弁であって、コイルに電流を流すことにより可動子とコアとを含む磁気回路に磁束を発生させ、可動子をコア側に引き付ける磁気吸引力を作用させることにより、弁体の開閉を行う電磁式燃料噴射弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−21014号公報には、可動子と弁体とを緩衝材を用いて固定し、ストッパ面と可動子が衝突する際に生じる衝撃を緩和する燃料噴射弁が開示されている。この燃料噴射弁では、可動子と弁体(弁ニードル)とが摩擦接続的に結合されている。
【0003】
特開2005−195015号公報には、可動子と弁体(弁ニードル)とが摩擦接続的かつ形状接続的に結合され、予備行程ばねを可動子と弁体との間に用いることによって不都合な開放(開弁)動作を行わないようにした燃料噴射弁が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−21014号公報
【特許文献2】特開2005−195015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2003−21014号公報や特開2005−195015号公報に記載された燃料噴射弁では、いずれにおいても、可動子と弁体(弁ニードル)とが摩擦接続的に結合されている。可動子と弁体(弁ニードル)との摩擦接続的な結合により、弁体が開閉動作する際に燃料噴射弁の本体側と衝突してバウンドすることを抑制することができる。しかし、可動子と弁体との接続関係を見直すことにより、弁体の応答性を高め、燃料の噴射量をより精密に制御することが可能になる。
【0006】
本発明の目的は、弁体の応答性を高め、燃料の噴射量を精密に制御することが可能な燃料噴射弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電磁式燃料噴射弁は、
弁座と当接することによって燃料通路を閉じ弁座から離れることによって燃料通路を開く弁体と、
前記弁体の駆動手段として設けられコイル及び磁気コアを有する電磁石と、
前記弁体に対して前記弁体の駆動方向に相対変位可能な状態で前記弁体によって保持された可動子と、
前記弁体を前記駆動手段による駆動力の向きとは逆向きに付勢する第1の付勢手段と、
前記第1の付勢手段による付勢力よりも小さい付勢力で前記可動子を前記駆動力の向きに付勢する第2の付勢手段と、
前記可動子の前記弁体に対する前記駆動力の向きの相対変位を規制する規制手段と、を備えたものである。
【0008】
このとき、前記第1の付勢手段及び前記第2の付勢手段は共にばねによって構成され、前記第1の付勢手段を構成するばねは一端が前記弁体を内包するハウジング側に支持され他端が前記弁体に当接し、前記第2の付勢手段を構成するばねは一端が前記ハウジング側に支持され他端が前記可動子に当接するようにするとよい。
【0009】
さらにこのとき、前記第1の付勢手段を構成するばねはハウジング側に支持された一端がこのばねの付勢力を調整するためにハウジング内に設けられたバネ押さえに当接し、前記第2の付勢手段を構成するばねはハウジング側に支持された一端がハウジングに固定されたばね座に当接するようにするとよい。
【0010】
また、前記ばね座は前記弁体をその駆動方向に案内するガイド部材に形成するとよい。
【0011】
また、前記規制手段は前記可動子と前記弁体の相互に向き合う当接面として構成され、前記可動子に構成された前記当接面は前記第2の付勢手段による付勢力のみで前記弁体に構成された前記当接面に当接するようにするとよい。
【0012】
また、前記可動子は、弁座と当接して静止した状態から前記駆動力を受けた場合、動き始めるよりも前に、前記可動子に構成された前記当接面が前記弁体に構成された前記当接面に当接しているとよい。
【0013】
また、前記弁体は弁座から離れる向きの移動を前記第1の付勢手段によってのみ規制されるようにするとよい。
【0014】
また、前記弁体は、前記第1の付勢手段の付勢力から前記第2の付勢手段の付勢力を差し引いた付勢力によって弁座に押し付けられており、電磁石によって駆動されるときは、前記第1の付勢手段の付勢力から前記第2の付勢手段の付勢力を差し引いた付勢力に抗して駆動されるようにするとよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、可動子は、弁座と当接して静止した状態にあるとき、第2の付勢手段と規制手段とによって、弁体に対する駆動力の向きの相対変位を規制される位置まで変位した状態に保持される。従って、弁座と当接して静止した状態から駆動力を受けた場合、可動子はその移動開始時から遅れることなく、弁体を開弁方向に移動させることができる。これにより、弁体の応答性を高め、燃料の噴射量を精密に制御することが可能な燃料噴射弁を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明に係る燃料噴射弁の断面図であり、図2は磁気吸引力を発生する磁気コア101と可動子102の近傍を拡大した拡大図である。図1及び図2に示した燃料噴射弁は通常時閉型の電磁弁(電磁式燃料噴射弁)であり、コイル105に通電されていない状態では付勢バネ106によって弁体103はノズル112に密着させられ、弁は閉じた状態になっている。この閉弁状態においては、可動子102はゼロ位置バネ108によって弁体103側に密着せられ、可動子102と磁気コア101の間には隙間がある状態となっている。ロッドをガイドするロッドガイド104が弁体103を内包するハウジング110に固定されており、このロッドガイド104がゼロ位置バネ108のばね座を構成している。なお、付勢バネ106による力は、コア101の内径に固定されるバネ押さえ107の押し込み量によって組み立て時に調整されている。
【0018】
尚、コイル105と磁気コア(単にコアとも言う)101とは弁体103の駆動手段となる電磁石を構成する。第1の付勢手段となる付勢バネ106は駆動手段による駆動力の向きとは逆向きに弁体103を付勢する。また第2の付勢手段となるゼロ位置バネ108は付勢バネ106による付勢力よりも小さい付勢力で可動子102を駆動力の向きに付勢する。
【0019】
コイル105に電流が流れると、コア101,可動子102,ヨーク109から構成される磁気回路に磁束が生じ、可動子102とコア101の間の隙間にも磁束が通過する。この結果、可動子102には磁気吸引力が作用し、生じた磁気吸引力が付勢バネ106による力を超えたときに可動子102はコア101の側に変位する。可動子102が変位する際には、可動子側の衝突面203と弁体側の衝突面202の間で力を伝達し、弁体103も同時に変位することで、弁体は開弁状態となる。
【0020】
開弁状態からコイル105に流れている電流を停止すると、磁気回路を流れる磁束が減少し、可動子102とコア101との間で働く磁気吸引力が低下する。ここで、弁体103にはたらく付勢バネ106による力は可動子側の衝突面202および弁体側の衝突面203を介して可動子102に伝達される。このため、磁気吸引力を付勢バネ106による力が上回ると可動子102および弁体103は閉弁方向に変位し、弁は開弁状態となる。
【0021】
図1及び図2で示されているように、弁体103が段付の棒状に形成されて弁体側の衝突面(当接面ともいう)202を形成すると共に、可動子102側は中心に弁体103の最外径よりも細い孔が設けられていることによって可動子側の衝突面(当接面ともいう)203を形成する。この結果、弁体側の衝突面202と可動子側の衝突面203との間で力の伝達がなされるため、可動子102と弁体103が分離された別部品として与えられた場合であっても電磁弁の基本的な開閉動作を行うことができる。衝突面202,203は可動子102の弁体103に対する駆動力の向きの相対変位を規制する規制手段となる。
【0022】
可動子102側の当接面203はゼロ位置バネ108による付勢力のみで弁体103側の当接面202に当接する。また、可動子102は、弁座と当接して静止した状態から駆動力を受けた場合、動き始めるよりも前に、可動子102側の当接面203が弁体103側の当接面202に当接している。このとき、弁体103は弁座から離れる向きの移動については特にストッパを設けておらず、付勢バネ106が縮みきった状態になったときそれ以上の移動を規制されることになる。すなわち弁座から離れる向きの移動を付勢バネ
106によってのみ規制されている。
【0023】
なお、ここで可動子は磁性体である必要があることから、硬質な材料を用いることが困難な場合がある。そこで、耐久性を確保するためには可動子側の衝突面203には、クロムめっきや無電解ニッケルめっきなどの硬質めっきが施されていることが望ましい。
【0024】
このように弁体103と可動子102を別の部品として提供する構成とした上で、弁体103の最外径が燃料噴射弁の燃料入口113から可動子102に至る経路のうち付勢バネ106及びバネ押さえ107を除いた部分の燃料通路(図1ではコアの中心孔に相当する)よりも細くなるようにすることで、燃料噴射弁を組み立てた後に弁体を挿入することができるようになる。なお、弁体には燃料通路孔204及び205が設けられている。
【0025】
図3はコア101,ハウジング110,ヨーク109,コイル105,ロッドガイド
104および可動子102が組み立てられた後に弁体103を挿入して組み立てることが可能なことを示す図である。
【0026】
燃料噴射弁は、燃料の漏洩を防いだり、磁気回路を構成する部材の磁束通貨面積を確保したり、構造上の強度を維持する目的で、組み立ての工程では圧入や溶接を行うことがしばしばある。例えば図1の例では、ヨーク109とハウジング110の間は溶接、コア
101とハウジング110の間は圧入と溶接を用いて組み立てる。ここで、圧入時に加わる力や溶接時に生じる熱変形によって、コア101,ハウジング110,ヨーク109,コイル105,ロッドガイド104のそれぞれの相対位置関係や幾何学的な形状・寸法に微妙な誤差を生じることがある。従来技術ではこれらの部品と可動子102に加え、弁体103を組み込んだ後に溶接や圧入を行う必要があったため、前述のような溶接や圧入に伴う変形によって組み立て時にストロークが変化してしまうことがあった。従来技術では組み立て後にはストローク調整を行うことができないため、ストロークを精密に管理することが困難となることがあった。
【0027】
本発明に係る燃料噴射弁では、図3に示すように燃料噴射弁の組み立て工程の溶接や圧入を行った後に弁体を挿入することができる。この結果、組み立て後の燃料噴射弁の寸法測定結果に基づいて、所望のストロークが得られる寸法の弁体を選択して組み込むことにより、ストロークを調整することができる。
【0028】
図3に示した構造において、ストロークは弁体側の衝突面202と、弁体103の先端にあって弁座と接触するシート部301が成す距離L′と、コア101の端面に押し付けられている可動子102の衝突端面203と弁体と接触する弁座側のシート部302とが成す距離Lの差によって決定される。
【0029】
したがって組み立ての工程においては、予めLを測定しておき、所望のストロークを
Stとするとき、L′=L−Stなる関係にある弁体103を挿入することで燃料噴射弁のストロークを所望の値に調整することができる。Lの値を測定する具体的な方法としては、予めL′に相当する値が既知の測定用弁体もしくは弁体を模した形状のピンを燃料噴射弁に挿入し、可動子と接触した位置を検出し、この位置から弁体がシート部301に接触するまでの移動距離を測定すればよい。または、予めL′に相当する値が既知の測定用弁体を挿入した上でスプリングなどによって弁体をシート部301に接触させておき、コイルに通電して測定用弁体を実際に作動させることで、作動時における弁体の移動距離を測定すればよい。ここで求めた移動距離と所望のストロークとの差から、挿入すべき弁体103のL′の長さを決定すればよい。このようにストロークを後工程にて決定させることが出来るため、ストロークを精密に調整することが出来るようになる。ストロークを精密に調整できることにより、燃料噴射量の制御性が向上すると共に、燃料噴射弁の生産性が向上してコストを抑えることができるようになる。
【0030】
このような組立て工程を採ることから、ゼロ位置バネ108の外径は、可動子102に設けた窪み206の中で径方向に動いたとしても、ゼロ位置バネ108の線が可動子102に設けられた摺動孔207に係らないようになっていることが望ましい。摺動孔207にゼロ位置バネ108の線が係らないようになっていることで、弁体の挿入時に弁体とゼロ位置バネとが干渉して不具合を起こさないようにすることが出来る。
【0031】
図4は本発明に係る燃料噴射弁の弁体103および可動子102の開弁動作を示す模式図である。図4は模式図として描いた図であり、弁体103は弁体403として、可動子102は可動子402として描かれている。予め付勢バネ405によって付勢された弁体403は弁座に押し付けられ、弁は閉じた状態にある(図4−(a))。磁気吸引力がコア401と可動子402との間に生じて付勢バネ405による力に打ち勝つと、可動子
402と弁体403は変位を開始する(図4−(b))。可動子402はコア401と衝突するとそれ以上上方には変位できないが、ここで弁体403は更に上方に変位を続けることができる(図4−(c))。このとき、可動子402はコア401との間でバウンドを生じて安定性を欠くことがあるが、本発明による構成では可動子402と弁体403が分離しているために可動子402がバウンドしている際には付勢バネ401によるスプリング力が可動子402に働かなくなる。したがって、可動子402がバウンドしている間は、可動子402には磁気吸引力のみが働く状態となり、可動子402はコア401に安定して密着しやすくなり、可動子402の不安定なバウンドが抑制される。この結果、微小な燃料噴射量のコントロールがし易い燃料噴射弁を提供できるようになる。また、弁体403は可動子402と分離されているため,弁体と可動子が接続されている場合と比較して質量を小さくすることができる。このため、一旦ストローク以上に変位した弁体403は、付勢バネ401による力によって素早くストローク位置まで戻ることができるため、噴射量の制御特性に悪影響を与えることがない(図4−(c))。
【0032】
図5は本発明に係る燃料噴射弁の弁体103および可動子102の閉弁動作を示す模式図である。図5−(a)は開弁状態にある弁の状態を示した図であり、コア401と可動子402との間に電磁力がはたらくことによって可動子402が引き上げられている。コイルへの通電が遮断され、コア401と可動子402との間にはたらく磁力が小さくなると、付勢バネ405によって弁体403は力を受け、可動子402と共に閉弁方向に動作を開始する(図5−(b))。
【0033】
更に弁体が変位403を続けると、図5−(c)に示すようにやがて弁体403はシート部501と衝突する。ここで、弁体403は可動子402とは分離しており、弁体403は可動子402よりも直径が小さいため、弁体と可動子が一体である場合と比較して弁体403の重量を著しく減ずることができる。このため、弁体403がシート部501と衝突して跳ね返った場合においても、弁体403が衝突直前に有している運動エネルギを小さく抑えることができると共に、付勢バネ405と弁体403で形成されるバネ−マス系の固有周期を短くすることができ、この結果バウンド期間および高さを小さく押さえることが出来る。
【0034】
ここで、弁体403の動きが停止して弁が閉状態となった後にも可動子402の運動を拘束するものがないため、可動子402は運動を継続する。このとき可動子402は押さえバネ404との間でバネ−マス系を形成して運動する。押さえバネ404のバネ定数が、付勢バネ402のバネ定数と比較して十分に小さいとき、可動子402が運動する距離は弁体403のストロークよりも大きくすることが出来る。可動子402は運動中に燃料による抵抗を受けて運動エネルギを放散するため、可動子402の運動範囲が大きいと放散される運動エネルギが大きくなり、可動子402が図5−(d)に示すような位置に戻ってきた場合においても弁体403を再び開かせることがないか、あるいは再び開いたとしても影響を軽微に留めることができる。この結果、閉弁後のバウンドによって燃料が噴射されてしまう二次噴射を抑制することができる。
【0035】
上述のように、本発明による燃料噴射弁では、可動子はゼロ位置ばねを介して燃料噴射弁の本体と接続されており、可動子と弁体とは互いに一つの衝突面を以ってのみ力を伝達するように構成されている。このため、開弁時においては図4−(c)に示されるようにコア401と可動子402とが衝突した直後に可動子と弁体とは互いに力を及ぼしあうことはなく、独立して運動するため、可動子402はスプリング405の力を受けることがなくなって磁気吸引力のみを受けるために素早く安定してコア401に吸引されると共に、弁体403は可動子402と独立して運動するために質量が軽いバネ−マス系を形成して短時間に安定化できるようになる。閉弁時においても可動子402と弁体403が独立して運動するために、運動中の可動子402の反力を弁体403が受けることがないため、弁体403は軽い質量の物体として運動することができ、バウンドを抑制することに寄与している。
【0036】
このような一連の動きをタイムチャート形式で描いたものが図6である。噴射制御パルスに対して僅かな遅れ時間を以って図6−(a)のように可動子・弁体共に変位を開始し、可動子が所定のストロークStに達すると可動子はコアによって図6−(b)のようにバウンドする。このとき弁体は図6−(e)のようにオーバーシュートするが、短時間でストローク位置まで戻る。噴射制御パルスが終了し、弁体が閉弁方向に変位し始めるとき、図6−(c)のように弁体と可動子は同時に閉弁方向に変位する。弁体はシート部との接触により、所定のストロークだけ変位すると図6−(d)のように変位を停止する。このときの弁体のバウンド量は、弁体が軽量であるために僅少となる。可動子は図6−(f)に示すように、弁体が運動を停止した後も継続して変位しつづけるが、押さえバネのバネ定数が小さいために可動子の変位量は大きくなり、したがってこの間に放散される運動エネルギを大きく取ることが出来、可動子が弁体の位置まで戻ってきた際にも弁体の運動に悪影響を及ぼさずに済むようにできる。
【0037】
以上のような実施形態に依れば、燃料噴射弁のストロークを精密に調整することが可能になると共に、弁体が軽量であることによって開弁時には安定した弁体の動作が可能になり、閉弁時にはバウンドを抑制して二次噴射を抑えることができるようになる。この結果、燃料噴射量の制御がより精密に行えるようになり、燃料噴射量の可制御範囲を拡大することができる。
【実施例2】
【0038】
図7は実施例1において示された本発明に係る燃料噴射弁に加えて、弁体701とスプリング702の間にパイプ状部材703を備えた燃料噴射弁の断面図である。
【0039】
スプリング702と弁体701の間にパイプ状部材703を備えることにより、閉弁時における弁体702のバウンド量を更に小さくさせることができる。閉弁時には、弁体
701がシート部材705に衝突した際には、弁体701は圧縮応力を生じて僅かに縮み、運動エネルギをひずみにエネルギとして蓄える。蓄えられたひずみエネルギは次の瞬間に解放され、縮んだ弁体701が伸びる結果として弁体701はバウンドする。このとき、パイプ状部材703が備えられていることにより、閉弁時にはパイプ状部材703が運動エネルギを有しており、バウンドしようとする弁体701を閉弁方向に慣性力で押さえ付ける効果を得ることができる。本発明にかかる燃料噴射弁においては、弁体701は可動子704とは互いに接続されていない別体の構造となっていることから、弁体701の質量を小さくすることができるため、バウンド時に弁体701が蓄えるひずみエネルギは小さくて済み、パイプ状部材703の効果を十分に享受することが出来る。
【0040】
この結果として、弁体701のバウンド量を実施例1に示した場合よりも更に小さくすることが出来るため、燃料噴射弁として二次噴射がより少ないものを提供できるようになる。
【実施例3】
【0041】
図8は実施例1において示された本発明に係る燃料噴射弁に加えて、弁体801と可動子804の間に弁体801とは別個の運動が可能な部材803を備えた燃料噴射弁の断面図である。
【0042】
実施例1で示された燃料噴射弁は、燃料噴射弁の組立て後にストローク調整を行うことができ、その調整は弁体の長さを調整することによって為されるものであった。しかしながら、燃料噴射弁の部品として弁体は比較的長さが長いため、その長さを精密に調整することが困難であるような場合もある。また、弁体にはストロークを決定するという機能だけではなく、シート部との間でシール性を保ったり、あるいはその運動の円滑さ自体が燃料噴射量の制御精度を保つという機能もあることから、弁体は比較的高い加工精度が要求される部品である。したがって、ストローク調整のために高精度な加工部品を多数準備しておくことがコスト上有利で無い場合もある。また、ストロークは弁体のシート部から衝突面までの長さで管理することになるが、シート部からの長さを厳密に把握して管理することには困難が伴うことがあり、ストローク管理を弁体の長さだけで行うことが難しい場合がある。
【0043】
そのような場合において、弁体801と可動子804の間に弁体801とは別個の運動が可能な部材803を備えることは有効である。精密な加工が必要な弁体801とは別個の部材803を備えることにより、ストロークの調整は部材803の厚さによって行うことが出来るようになる。この結果、ストロークの調整のために多数用意しなければならない部材は、比較的小さい部材803で済むようになると共に、ストロークの調整は部材
803の厚さで管理することが出来るようになり、実施例1で示した場合よりもより容易なストローク管理を実現することが出来る。
【実施例4】
【0044】
図9に示した燃料噴射弁は、実施例1において示された本発明に係る燃料噴射弁に加えて、弁体と可動子904との接触面を成す部分を、非磁性もしくは磁性の弱い別部材906で構成した例を示す断面図である。
【0045】
弁体903は、シート部との接触によって燃料のシール性を確保し、なおかつシート部との繰り返しの衝突で磨耗しないことが必要となるため,比較的硬質な材料であることが望ましい。例えば、マルテンサイト系のステンレス鋼などを弁体903に用いると、耐磨耗性の観点で良好な特性を得ることができる。しかしながら、マルテンサイト系のステンレス鋼のように磁性体材料を弁体に用いた場合、実施例1に示したような形の弁体ではコアから弁体を経由して磁束が漏れ、吸引面における磁束密度の低下を招いて磁気吸引力が低下する。この効果による磁気吸引力の低下を嫌う場合には、弁体の最上端をコアの吸引面より下流側にするか、もしくは図9のように非磁性の別部材906を用いると良い。可動子904よりも上流側にある弁体の一部が磁束の漏れる経路となることから、ここを非磁性にすることによって磁束の漏れを低減し、磁気吸引力の低下を抑制することができる。
【0046】
また、このような別部材を用いることによって、別部材906と弁体902の位置関係によってストロークを調整することができ、実施例3に近い効果を得られる。
【0047】
以下に、上記各実施例に係る燃料噴射弁が解決しようとする課題について説明する。
【0048】
燃料噴射弁は弁体と弁座との間で離接して燃料通路の開閉を行い、燃料通路が開いている時間の長さによって燃料噴射量の制御を行っている。このとき、弁体の変位量(ストローク)は、弁体あるいは弁体に結合された可動子と衝突することによって弁体の運動を制限する衝突面によって規定されている。すなわち、弁体が閉状態にある場合の弁体側の衝突面と、燃料噴射弁本体側の衝突面の間に生じる空隙の大きさがストロークを決定している。
【0049】
ストロークの大きさは弁体の動作や燃料噴射時の流体抵抗に影響を及ぼす。例えば、電磁力によって弁体の開閉を行わせる燃料噴射弁においては、磁力による吸引力が弁体を動作させるが、この際に初期の空隙の大きさが磁気吸引力に影響を与えるため、ストロークの調整がばらつくと弁体が動作を開始するタイミングや開始する際の力の大きさがばらつき、結果として弁体が開状態となっている時間がばらついてしまう。
【0050】
このため、ストロークの精密な調整が困難である場合には、ストローク量に対して燃料噴射量が変化しにくいような設計値を予め採用したり、ストロークのばらつきを吸収するように最終工程で燃料噴射量の調整を行う方法がある。しかし、このような方法を採った場合の設計は必ずしも燃料噴射弁にとって最良の弁体動作を行わせる条件にならない場合がある。すなわち、燃料噴射弁の噴射量の制御可能な範囲が限定され、特に微小噴射量における燃料噴射弁の応答性や噴射量制御性が十分にならない場合がある。したがって、燃料噴射量を精密にコントロールするためには、ストロークが予め設計した値に精密に調整されていることが望ましい。
【0051】
しかし、燃料噴射弁は燃料漏洩などを防止し強度を確保する目的で、組立工程において圧入及び溶接を行う必要がある。組立工程において、圧入のように大きな力を加えたり、あるいは溶接によって熱変形が生じると、燃料噴射弁を構成する部品の相対位置関係も僅かに変形することがある。このとき、前述の燃料噴射弁側の衝突面の位置が変化すると、ストロークが変化してしまい、ストロークを精密に調整することが困難になる。この場合、燃料噴射量を精密にコントロールすることが難しくなる。
【0052】
一方で、燃料噴射弁の弁体が開閉動作する際に、弁体が燃料噴射弁の本体側と衝突する際にバウンドを生じることがある。このバウンドは燃料噴射量の可制御性を悪化させたり、閉弁後に微小量の余計な燃料が噴射されてしまう二次噴射を引き起こす。
【0053】
緩衝材を用いたり、弁体内に予備行程ばねを内蔵することにより、弁体のバウンドを防止することができるが、組み立て工程が複雑になったり、ストロークの精密な調整と弁体の開閉動作時のバウンド抑制とを両立することに困難を伴うことがあった。このため、精密な噴射量特性を実現し、二次噴射を抑制することに困難を伴うことがあった。
【0054】
上述の各実施例の構成では、電磁式燃料噴射弁において、弁座と当接することによって燃料通路を閉じ弁座から離れることによって燃料通路を開く弁体103と、前記弁体103の駆動手段として設けられコイル105及び磁気コア101を有する電磁石と、前記弁体103に対して前記弁体103の駆動方向に相対変位可能な状態で前記弁体103によって保持された可動子102と、前記弁体103を前記駆動手段105,101による駆動力の向きとは逆向きに付勢する第1の付勢手段(付勢バネ)106と、前記第1の付勢手段106による付勢力よりも小さい付勢力で前記可動子102を前記駆動力の向きに付勢する第2の付勢手段(ゼロ位置バネ)108と、前記可動子102の前記弁体103に対する前記駆動力の向きの相対変位を規制する規制手段(衝突面)202,203と、を備えている。
【0055】
また、前記第1の付勢手段106及び前記第2の付勢手段108は共にばねによって構成され、前記第1の付勢手段106を構成するばねは一端が前記弁体103を内包するハウジング110側に支持され他端が前記弁体103に当接し、前記第2の付勢手段108を構成するばねは一端が前記ハウジング110側に支持され他端が前記可動子102に当接した構成としている。
【0056】
また、前記第1の付勢手段106を構成するばねはハウジング110側に支持された一端がこのばねの付勢力を調整するためにハウジング110内に設けられたバネ押さえ107に当接し、前記第2の付勢手段108を構成するばねはハウジング110側に支持された一端がハウジング110に固定されたばね座に当接した構成としている。
【0057】
また、前記ばね座は前記弁体103をその駆動方向に案内するガイド部材104に形成してる。
【0058】
また、前記規制手段202,203は前記可動子102と前記弁体103の相互に向き合う当接面として構成され、前記可動子102に構成された前記当接面203は前記第2の付勢手段108による付勢力のみで前記弁体103に構成された前記当接面202に当接する構成としている。
【0059】
また、前記可動子102は、弁座と当接して静止した状態から前記駆動力を受けた場合、動き始めるよりも前に、前記可動子102に構成された前記当接面203が前記弁体
103に構成された前記当接面202に当接している。
【0060】
また、前記弁体103は弁座から離れる向きの移動を前記第1の付勢手段106によってのみ規制されることになる。
【0061】
また、燃料噴射孔と、前記燃料噴射孔の近傍に配設される弁座と、前記弁座との接離により燃料通路の開閉を行う弁体103と、開弁時に力を発生して前記弁体103を変位させる可動子102を有し、前記弁体103はスプリング106による力で前記弁座に押付けられた通常時閉型の燃料噴射弁において、前記可動子102と前記弁体103は互いに摺動可能なように構成され、前記弁体103が閉じる方向の力に対して前記可動子102が前記力の反力を発生できるような接触面を前記弁体103と前記可動子102は有し、前記弁体103と前記可動子102の間での開閉方向の力の伝達は前記接触面202,
203によってのみ行われるように構成している。
【0062】
従来技術では可動子と弁体が接合されて一部品を形成していたのに対し、弁体と可動子とを互いに接続されない別の部品とし、力の伝達を互いの接触面によって行わせる構成としている。
【0063】
このように別部品として与えられる弁体と可動子をひとつの接触面によって力の伝達が行われるように構成することで、弁体を組み立ての最終工程で挿入することが可能となり、圧入の精度や溶接による変形の影響を受けずにストロークを調整することが可能になる。この結果、燃料噴射弁のストロークを精密に調整することが可能になり、噴射量の制御を精密に行うことができるようになる。
【0064】
また、弁体と可動子が別部品として分離されていることにより、弁体の重量を減少させることができ、開閉弁時の応答性を向上させることが出来る。また、閉弁時においては別部品として設けられた可動子が弁体とは別個に運動できるため、閉弁時に生じる衝突エネルギは重量が少ない弁体の運動エネルギのみとなって小さくでき、可動子の運動エネルギは弁体とは別個に燃料中に放散させることができ、二次噴射を防止することができる。
【0065】
また、可動子は、弁座と当接して静止した状態にあるとき、第2の付勢手段と規制手段とによって、弁体に対する駆動力の向きの相対変位を規制される位置まで変位した状態に保持される。従って、弁座と当接して静止した状態から駆動力を受けた場合、可動子はその移動開始時から遅れることなく、弁体を開弁方向に移動させることができる。これにより、弁体の応答性を高め、燃料の噴射量を精密に制御することが可能な燃料噴射弁を提供できる。
【0066】
また、電磁石によって可動子に駆動力が作用すると、第2の付勢手段による付勢力は駆動力を補助するように作用する。一方、駆動力が遮断されて、弁体が第1の付勢手段によって弁座と当接する位置に復帰する場合には、第2の付勢手段による付勢力は第1の付勢手段による付勢力を弱めるように作用する。したがって、閉弁動作を速める必要がある場合には、第1の付勢手段による付勢力を、第2の付勢手段がない場合に比べて、強めに調整しておくと良い。
【0067】
本発明に係る各実施例の燃料噴射弁によれば、ストロークの精密な調整と弁体のバウンド抑制とを両立することができ、精密な噴射量特性を実現し、二次噴射を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る燃料噴射弁の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の可動子及び弁体の衝突部近傍を拡大した断面図である。
【図3】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の組み立て工程を示す図である。
【図4】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の開弁時の可動子及び弁体の運動の様子を表す模式図である。
【図5】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の閉弁時の可動子及び弁体の運動の様子を表す模式図である。
【図6】本発明の第一実施例に係る燃料噴射弁の開閉弁動作を示すタイムチャートである。
【図7】本発明の第二実施例に係る燃料噴射弁の断面図である。
【図8】本発明の第三実施例に係る燃料噴射弁の断面図である。
【図9】本発明の第四実施例に係る燃料噴射弁の断面図である。
【符号の説明】
【0069】
101…磁気コア、102…可動子(アンカ)、103,403…弁体、104,111…ロッドガイド、105…コイル、106,405…スプリング、107…バネ押さえ、108…戻しばね、109…ヨーク、110…ハウジング、112…ノズル、201…アンカ端面、202…弁体側衝突部、203…アンカ側(可動子側)衝突部、204,205…燃料通路孔、206…窪み、207…摺動孔、301…弁体側シート部、302…弁座側シート部、401…コア、402…可動子、404…ゼロ位置バネ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座と当接することによって燃料通路を閉じ弁座から離れることによって燃料通路を開く弁体と、
前記弁体の駆動手段として設けられコイル及び磁気コアを有する電磁石と、
前記弁体に対して前記弁体の駆動方向に相対変位可能な状態で前記弁体によって保持された可動子と、
前記弁体を前記駆動手段による駆動力の向きとは逆向きに付勢する第1の付勢手段と、
前記第1の付勢手段による付勢力よりも小さい付勢力で前記可動子を前記駆動力の向きに付勢する第2の付勢手段と、
前記可動子の前記弁体に対する前記駆動力の向きの相対変位を規制する規制手段と、
を備えたことを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記第1の付勢手段及び前記第2の付勢手段は共にばねによって構成され、前記第1の付勢手段を構成するばねは一端が前記弁体を内包するハウジング側に支持され他端が前記弁体に当接し、前記第2の付勢手段を構成するばねは一端が前記ハウジング側に支持され他端が前記可動子に当接していることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記第1の付勢手段を構成するばねはハウジング側に支持された一端がこのばねの付勢力を調整するためにハウジング内に設けられたバネ押さえに当接し、前記第2の付勢手段を構成するばねはハウジング側に支持された一端がハウジングに固定されたばね座に当接していることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項4】
請求項3に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記ばね座は前記弁体をその駆動方向に案内するガイド部材に形成されていることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項5】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記規制手段は前記可動子と前記弁体の相互に向き合う当接面として構成され、前記可動子に構成された前記当接面は前記第2の付勢手段による付勢力のみで前記弁体に構成された前記当接面に当接していることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記可動子は、弁座と当接して静止した状態から前記駆動力を受けた場合、動き始めるよりも前に、前記可動子に構成された前記当接面が前記弁体に構成された前記当接面に当接していることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項7】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記弁体は弁座から離れる向きの移動を前記第1の付勢手段によってのみ規制されることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。
【請求項8】
請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁において、
前記弁体は、前記第1の付勢手段の付勢力から前記第2の付勢手段の付勢力を差し引いた付勢力によって弁座に押し付けられており、電磁石によって駆動されるときは、前記第1の付勢手段の付勢力から前記第2の付勢手段の付勢力を差し引いた付勢力に抗して駆動されることを特徴とする電磁式燃料噴射弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−218204(P2007−218204A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40929(P2006−40929)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】