説明

露光装置及びデバイス製造方法

【課題】投影光学系の複屈折を、露光装置上で短時間、且つ、高精度に測定することができる露光装置を提供する。
【解決手段】第1のステージに保持されたレチクルのパターンを第2のステージに保持された基板に投影する投影光学系を備える露光装置であって、前記投影光学系を通過した光を撮像素子に入射させる結像光学系を含み、前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定する測定部と、前記測定部の校正時において、前記結像光学系の複屈折を測定するために前記投影光学系の物体面側に配置され、前記測定部からの光を反射して前記投影光学系を介さずに前記測定部に戻す校正部と、前記測定部によって前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定した結果から前記投影光学系の物体面側に前記校正部を配置して前記測定部によって測定した前記結像光学系の複屈折を分離して、前記投影光学系の複屈折を算出する算出部と、を有することを特徴とする露光装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトリソグラフィー(焼き付け)技術を用いて半導体メモリや論理回路などの微細な半導体デバイスを製造する際に、投影露光装置が従来から使用されている。投影露光装置は、レチクル(マスク)に形成された回路パターンを投影光学系によってウエハ等の基板に投影して回路パターンを転写する。
【0003】
投影露光装置においては、近年の半導体デバイスの微細化に伴って、更なる解像力(露光装置で転写できる最小の寸法)の向上が要求されており、露光光の短波長化及び投影光学系の高NA化(投影光学系の開口数(NA)の増大)が進んでいる。例えば、波長約193nmのArFエキシマレーザーを露光光とし、0.8を超えるNAを有する投影光学系を備えた投影露光装置では、0.1μmの解像力が実現されている。また、投影光学系の最終面(最終レンズ)とウエハとの間の少なくとも一部を1よりも大きな屈折率を有する液体で満たす、所謂、液浸によって投影光学系のNAの増大を図る液浸露光装置も提案されており、更なる解像力の向上が期待されている。
【0004】
一方、露光装置の解像力の向上を実現するためには、投影光学系の性能(例えば、結像性能など)を正確に評価することが不可欠である。従来、露光装置上での投影光学系の性能の評価、或いは、組み立て時の投影光学系の性能の評価では、主に、透過波面収差が用いられてきた。但し、投影光学系の性能が向上するにつれて、投影光学系内の複屈折の影響を無視することができなくなってきているため、近年では、透過波面収差のみではなく、投影光学系の複屈折(瞳面内複屈折)も評価する必要がある。
【0005】
そこで、投影光学系の組み立て時において透過波面収差を測定する干渉計に、投影光学系の複屈折を測定する機能を追加した測定装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された測定装置には、投影光学系の複屈折(複屈折分布)を測定(評価)するために、結像光学系が組み込まれている。従って、投影光学系内の複屈折を高精度に測定(評価)するためには、測定装置に組み込まれた結像光学系の複屈折(以下、「システムエラー」と称する)と投影光学系の複屈折とを分離しなければならない。
【0006】
複屈折は、一般的に、ジョーンズ行列で表されるため、システムエラーと投影光学系の複屈折との分離(即ち、測定装置の校正)には、行列計算が必要となる。例えば、特許文献1では、光源から投影光学系までの往路(光源から投影光学系までの光路に配置された光学系)の複屈折と投影光学系から光検出部までの復路(投影光学系から光検出部までの光路に配置された光学系)の複屈折を別々に測定している。そして、システムエラーと投影光学系の複屈折とを含む測定値(即ち、測定装置の測定結果)を表すジョーンズ行列に、往路の複屈折及び復路の複屈折を表すジョーンズ行列の逆行列をかけることで、システムエラーと投影光学系の複屈折とを分離させている。
【特許文献1】特開2006−214856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は投影光学系の組み立て時における技術であり、露光装置に組み込まれた状態で投影光学系の複屈折を測定して、かかる複屈折の測定に用いられた測定装置のシステムエラーを分離する技術は知られていない。換言すれば、露光装置上で投影光学系の複屈折(複屈折分布)を高精度に測定する技術は提案されていない。
【0008】
また、特許文献1では、測定装置に組み込まれた結像光学系において、光の入射角度が5度以下となる位置にミラーやプリズムを配置し、測定装置内の光路を4つに分割して複屈折を測定することで、往路の複屈折及び復路の複屈折を得ている。従って、システムエラーと投影光学系の複屈折を分離するためには、数多く(少なくとも4回)の複屈折の測定が必要となり、測定に長時間を要してしまう。
【0009】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みて、投影光学系の複屈折を、露光装置上で短時間、且つ、高精度に測定することができる露光装置を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての露光装置は、第1のステージに保持されたレチクルのパターンを第2のステージに保持された基板に投影する投影光学系を備える露光装置であって、前記投影光学系を通過した光を撮像素子に入射させる結像光学系を含み、前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定する測定部と、前記測定部の校正時において、前記結像光学系の複屈折を測定するために前記投影光学系の物体面側に配置され、前記測定部からの光を反射して前記投影光学系を介さずに前記測定部に戻す校正部と、前記測定部によって前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定した結果から前記投影光学系の物体面側に前記校正部を配置して前記測定部によって測定した前記結像光学系の複屈折を分離して、前記投影光学系の複屈折を算出する算出部と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の別の側面としてのデバイス製造方法は、上述した露光装置を用いて基板を露光するステップと、露光された前記基板を現像するステップと、を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、投影光学系の複屈折を、露光装置上で短時間、且つ、高精度に測定する露光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明の一側面としての露光装置1の構成を示す概略図である。露光装置1は、本実施形態では、ステップ・アンド・スキャン方式でレチクル30のパターンをウエハ50に転写する投影露光装置である。但し、露光装置1は、ステップ・アンド・リピート方式やその他の露光方式も適用することができる。
【0016】
露光装置1は、光源10と、照明光学系20と、レチクル30を保持するレチクルステージ(第1のステージ)35と、投影光学系40と、ウエハ50を保持するウエハステージ(第2のステージ)55と、制御部60と、測定部70と、校正部80とを備える。なお、露光装置1は、図示しないアライメント検出系やフォーカス検出系なども備えている。
【0017】
光源10は、例えば、波長約193nmのArFエキシマレーザーや波長約248nmのKrFエキシマレーザーなどのエキシマレーザーを使用する。但し、光源10は、エキシマレーザーに限定されず、波長約157nmのFレーザー、波長10nm乃至15nm程度のEUV(Extreme Ultra Violet)光、水銀ランプやキセノンランプなどのランプを使用してもよい。
【0018】
照明光学系20は、光源10からの光を用いてレチクル30を照明する光学系である。照明光学系20は、本実施形態では、光源10からの光を光軸に対して対称な形状に整形する整形光学系22と、可干渉距離を低下させるインコヒーレント化光学系24と、レチクル30を照明する照明系26とを含む。
【0019】
レチクル30は、回路パターンを有し、レチクルステージ35に保持及び駆動される。
【0020】
レチクルステージ35は、レチクル30を保持すると共に、x軸方向、y軸方向、x軸方向及び各軸の回転方向にレチクル30を駆動する。また、レチクルステージ35は、本実施形態では、後述する校正部80を載置し、レチクル30と同様に、x軸方向、y軸方向、x軸方向及び各軸の回転方向に校正部80を駆動する。なお、レチクル30又はウエハ50の面内で走査方向をy軸、それに垂直な方向をx軸、レチクル30又はウエハ50の面に垂直な方向をz軸とする。
【0021】
投影光学系40は、レチクル30のパターンをウエハ50に投影する光学系である。投影光学系40は、屈折系、反射屈折系、或いは、反射系を使用することができる。
【0022】
ウエハ50は、レチクル30のパターンが投影(転写)される基板である。但し、ウエハ50は、ガラスプレートやその他の基板に置換することもできる。
【0023】
ウエハステージ55は、ウエハ50を保持すると共に、x軸方向、y軸方向、x軸方向及び各軸の回転方向にウエハ50を駆動する。また、ウエハステージ55は、凹面ミラー713をx軸方向、y軸方向、x軸方向及び各軸の回転方向に駆動可能に保持する。
【0024】
制御部60は、CPUやメモリなどを有し、露光装置1の動作を制御する。制御部60は、レチクルステージ35及びウエハステージ55の周辺に配置されたレーザ干渉計の測定結果に基づいて、レチクルステージ35とウエハステージ55とをnmオーダーで同期制御する。なお、レーザ干渉計は、レチクルステージ35及びウエハステージ55の投影光学系40の光軸方向(即ち、z軸方向)及び投影光学系40の光軸に対して垂直な面内(即ち、xy平面)の位置を測定する。
【0025】
また、制御部60は、本実施形態においては、後述する測定部70の動作(即ち、測定部70の校正や測定部70による投影光学系40の複屈折の測定に関連する動作)も制御する。例えば、制御部60は、レチクルステージ35やウエハステージ55を介して、測定部70の校正時や投影光学系40の複屈折の測定時に必要となる校正部80の駆動や凹面ミラー713の駆動を制御する。また、制御部60は、測定部70の校正時や投影光学系40の複屈折の測定時に必要となる算出処理を行う算出部として機能する。例えば、制御部60は、撮像素子711で撮像された画像に基づいて複屈折を表すジョーンズ行列を算出する。また、制御部60は、測定部70によって測定部70と投影光学系40の全体の複屈折を測定した結果から測定部70の複屈折を分離して、投影光学系40の複屈折を算出する。なお、制御部60による具体的な算出処理については後で詳細に説明する。
【0026】
測定部70は、光源10からの光を投影光学系40に入射させて、投影光学系40を通過した光を撮像素子711に入射させる結像光学系を含み、投影光学系40の複屈折を測定する。但し、測定部70は、上述したように、結像光学系を有しているため、測定部70の測定結果には、投影光学系40の複屈折と測定部70の複屈折(即ち、結像光学系の複屈折)とが含まれることになる。測定部70は、本実施形態では、ファイバ701と、ファイバポート702と、λ/2板703と、偏光子704と、ビームエキスパンダ705と、ハーフミラー706と、対物レンズ707とを有する。更に、測定部70は、瞳結像レンズ708と、λ/4板709と、検光子710と、撮像素子711と、空間フィルタ712と、凹面ミラー713とを有する。
【0027】
校正部80は、上述したように、レチクルステージ35に載置され、測定部70の結像光学系の光路に挿脱可能に構成されている。校正部80は、測定部70の校正時において、測定部70の結像光学系の複屈折を測定するために投影光学系40の物体面側に配置される光学ユニットである。校正部80は、例えば、複数のミラーや複数のプリズムを含み、測定部70からの光を反射して投影光学系40を介さずに測定部70に戻す。校正部80は、図2に示すように、凹面ミラー82と、凹面ミラー84と、プリズム86とを有する。凹面ミラー82は、測定部70の結像光学系全体の複屈折を測定する際に使用される。また、凹面ミラー84及びプリズム86は、測定部70の結像光学系のうち復路光学系の複屈折を測定する際に使用される。プリズム86は、本実施形態では、3つのプリズム86a乃至86cを含み、プリズム86a乃至86cは、z軸に対してそれぞれ異なる角度(例えば、0度、60度、120度)で配置され、所定の直線偏光のみを透過する。従って、プリズム86a乃至86cのそれぞれは、互いに異なる3つの直線偏光を透過する。また、3つのプリズム86a乃至86cのそれぞれに対応して3つの凹面ミラー84a乃至84cが配置されている。凹面ミラー84a乃至84cは、プリズム86a乃至86cを透過した光をそれぞれ反射して測定部70に戻す。ここで、図2は、校正部80の構成を示す概略断面図である。
【0028】
以下、測定部70及び校正部80の詳細な構成や機能と共に、制御部60による算出処理を説明する。まず、測定部70の複屈折であるシステムエラーの測定方法について説明する。上述したように、複屈折はジョーンズ行列で表されるため、測定部70によって測定部70と投影光学系40の全体の複屈折を測定した結果からシステムエラーを分離(減算)するためには、行列計算が必要となる。従って、測定部70の結像光学系を、光源10からの光を投影光学系40に入射させる往路光学系と投影光学系40からの光を撮像素子711に入射させる復路光学系とに分離して、往路光学系の複屈折及び復路光学系の複屈折をそれぞれ得る必要がある。本実施形態では、測定部70の結像光学系全体の複屈折を表すジョーンズ行列をJ_m、復路光学系の複屈折を表すジョーンズ行列をJ_r、往路光学系の複屈折を表すジョーンズ行列をJ_gとする。
【0029】
光源10からの光は、ファイバ701を介して、ファイバポート702から射出する。ファイバポート702から射出した光は、λ/2板703及び偏光子704を透過する。λ/2板703及び偏光子704は図示しないθステージ上に配置され、λ/2板703及び偏光子704をそれぞれ回転させることで、既知の直線偏光を得ることができる。λ/2板703及び偏光子704を透過した光は、光束径を拡大するビームエキスパンダ705を介してハーフミラー706で反射され、対物レンズ707に入射する。
【0030】
測定部70の結像光学系全体の複屈折を測定する際には、レチクルステージ35に載置された校正部80が投影光学系40の物体面側に配置される。具体的には、凹面ミラー82が対物レンズ707の直下に位置し、且つ、対物レンズ707の集光位置と凹面ミラー82の曲率中心とが一致するように、校正部80が配置される。
【0031】
校正部80に入射した光は、凹面ミラー82で反射され、対物レンズ707、ハーフミラー706、瞳結像レンズ708を介して、θステージ上に配置されたλ/4板709に入射する。λ/4板709で変調された光は、検光子710を介して、撮像素子711に入射する。この際、撮像素子711は、検光子710の角度によって定まる直線偏光成分のみを撮像する。
【0032】
このようにして、互いに異なる3つの角度(例えば、0度、60度、120度)を偏光子704に設定して3つの偏光パラメータを測定し、ジョーンズ行列を算出する。偏光パラメータ及びジョーンズ行列は移相子法で求められる。なお、移相子法については特許文献1に開示されているため、ここでの詳細な説明は省略する。これにより、偏光子704からλ/4板709までの複屈折、即ち、測定部70の結像光学系全体の複屈折を表すジョーンズ行列J_mを得ることができる。
【0033】
また、測定部70の復路光学系の複屈折を測定する際には、凹面ミラー84及びプリズム86が対物レンズ707の直下に位置するように、校正部80が配置される。例えば、凹面ミラー84a及びプリズム86aが対物レンズ707の直下に位置するように校正部80を配置した場合、凹面ミラー84aで反射される光は、プリズム86aの角度によって定まる既知の直線偏光である。従って、対物レンズ707、ハーフミラー706及び瞳結像レンズ708の複屈折に、プリズム86aの角度によって定まる直線偏光を入射した際の偏光パラメータが測定される。同様に、凹面ミラー84b及びプリズム86b、及び、凹面ミラー84c及びプリズム86cのそれぞれが対物レンズ707の直下に位置するように校正部80を配置することで、互いに異なる3つの偏光パラメータを測定することができる。これにより、対物レンズ707からλ/4板709までの複屈折、即ち、測定部70の復路光学系の複屈折を表すジョーンズ行列J_rを得ることができる。
【0034】
ここで、校正部80におけるプリズム86について説明する。プリズム86は、本実施形態では、ウォラストンプリズムを使用する。ウォラストンプリズムは、入射光に対して等しい角度で常光と異常光を分離する。従って、プリズム86としてウォラストンプリズムを使用する場合には、異常光を空間フィルタ712で遮光して、撮像素子711に異常光が入射することを防止する必要がある。
【0035】
空間フィルタ712の開口半径がΔrである場合、常光と異常光の分離角θは、以下の式1で表される。
θ=Δr/f0 ・・・(式1)
但し、式1において、f0は、瞳結像レンズ708の焦点距離、詳細には、瞳結像レンズ708を構成するレンズのうちハーフミラー706側に配置されたレンズの焦点距離を表している。
【0036】
ウォラストンプリズムは、常光も入射光に対して傾いた方向に射出するため、常光が空間フィルタ712(の開口)を通過するように、凹面ミラー84の位置を調整する必要がある。
【0037】
また、ウォラストンプリズムは、分離角θが小さければ、プリズムの接合角を小さくすることができるという特徴を有する。従って、ウォラストンプリズムは、薄型化が可能であるため、本実施形態のように、プリズム86として対物レンズ707の集光位置の近傍に配置しても、収差の発生を抑えることができる。プリズムは、一般的には、複屈折硝材で構成されるため、集光位置に配置すると結晶軸方向に位相差を発生させてしまうが、かかる位相差を相殺する複屈折硝材を凹面ミラー84とプリズム86との間に配置すれば収差の発生を防止することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、プリズム86としてウォラストンプリズムを使用しているが、対物レンズ707の開口角が小さい場合には、グラントムソンプリズムやサバール板などプリズムに置換することも可能である。
【0039】
偏光子704から対物レンズ707までの複屈折、即ち、測定部70の往路光学系の複屈折を表すジョーンズ行列J_gは、ジョーンズ行列J_m及びJ_rを用いて、以下の式2で算出することができる。
J_g=J_r−1×J_m ・・・(式2)
但し、式2において、J_r−1は、測定部70の復路光学系の複屈折を表すジョーンズ行列J_rの逆行列を表している。
【0040】
次に、測定部70によって測定部70と投影光学系40の全体の複屈折を測定した結果からシステムエラーを分離(減算)する方法について説明する。測定部70の結像光学系の光路から校正部80を退避させ、対物レンズ707の焦点位置が投影光学系40の物点と一致するように、対物レンズ707を配置する。また、ウエハステージ55に保持された凹面ミラー713の曲率中心と投影光学系40の結像点とが一致するように、凹面ミラー713を配置する。
【0041】
対物レンズ707からの光は、投影光学系40を通過して凹面ミラー713で垂直反射する。凹面ミラー713で垂直反射した光は、投影光学系40を再び通過し、対物レンズ707、ハーフミラー706、瞳結像レンズ708、λ/4板709及び検光子710を介して、撮像素子711に入射する。この際、測定部70と投影光学系40との全体の複屈折が測定される。
【0042】
従って、測定部70と投影光学系40との全体の複屈折を表すジョーンズ行列をJ_aとすると、投影光学系40の複屈折を表すジョーンズ行列J_pは、以下の式3で算出することができる。但し、行列の累乗根計算は特許文献1と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
J_p=(J_r−1×J_a×J_g−11/2 ・・・(式3)
このように、本実施形態では、測定部70の往路光学系の複屈折及び復路光学径の複屈折を2回の測定で得ることが可能であり、測定部70と投影光学系40との全体の複屈折からシステムエラーを分離することができる。従って、露光装置1は、投影光学系40の複屈折を、露光装置上で短時間、且つ、高精度に測定することができる。
【0043】
本実施形態では、校正部80は、レチクルステージ35に載置されているが、図3に示すように、投影光学系40(具体的には、投影光学系40を構成する鏡筒の入射面)に載置されていてもよい。この場合、対物レンズ707が校正部80の直上に位置することができるように、対物レンズ707を駆動可能に構成する必要がある。ここで、図3は、本発明の一側面としての露光装置1の構成を示す概略図である。
【0044】
また、校正部80は、図4に示すように、互いに異なる角度で配置された3つの光学ユニット810a乃至810cで構成してもよい。この場合、光学ユニット810a乃至810cのそれぞれを対物レンズ707の直下に配置して、互いに異なる3つの偏光パラメータを測定し、ジョーンズ行列を算出する。なお、光学ユニット810a乃至810cは、レチクルステージ35に載置されていてもよいし、投影光学系40に載置されていてもよい。ここで、図4は、校正部80の別の構成を示す概略断面図である。
【0045】
図5は、光学ユニット810aの構成を示す概略断面図である。光学ユニット810aは、図5に示すように、凹面ミラー82と、折り曲げミラー811aと、レンズ812aと、偏光ビームスプリッタ813aと、反射ミラー814aとを有する。凹面ミラー82は、上述したように、測定部70の結像光学系全体の複屈折を測定する際に使用される。折り曲げミラー811a、レンズ812a、偏光ビームスプリッタ813a及び反射ミラー814aは、測定部70の結像光学系のうち復路光学系の複屈折を測定する際に使用される。なお、光学ユニット810b及び810cは、凹面ミラー82を有していないだけで光学ユニット810aと同様な構成を有しているため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0046】
測定部70の復路光学系の複屈折を測定する際には、折り曲げミラー811aが対物レンズ707の直下に位置するように、光学ユニット810aが配置される。対物レンズ707からの光は、折り曲げミラー811aで垂直な方向に偏向されてレンズ812aに入射する。レンズ812aに入射した光は平行光となって偏光ビームスプリッタ813aに入射し、偏光ビームスプリッタ813aの角度によって定まる直線偏光のみが反射ミラー814aに入射する。反射ミラー814aに入射した光は垂直反射され、偏光ビームスプリッタ813a、レンズ812a及び折り曲げミラー811aを介して、対物レンズ707に戻る。なお、折り曲げミラー811a及びレンズ812aは、測定部70の復路光学系の複屈折に対して十分に小さい複屈折を有する硝材で構成することが好ましい。これにより、偏光パラメータは、測定部70の復路光学系に偏光ビームスプリッタ813aで定まる直線偏光を入射した際のものと見なすことが可能となる。光学ユニット810b及び810cでも同様に測定することで、3つの偏光パラメータから測定部70の復路光学系のジョーンズ行列J_rを求めることができる。なお、測定部70の結像光学系全体の複屈折を表すジョーンズ行列J_mの測定(算出)方法や測定部70と投影光学系40との全体の複屈折からシステムエラーを分離する方法については、上述した通りである。
【0047】
また、光学ユニット810aは、本実施形態では、反射ミラー814aを有しているが、反射ミラー814aの代わりに偏光ビームスプリッタ813aの射出面(反射ミラー814aに対向している面)に反射膜を形成してもよい。また、偏光ビームスプリッタ813aで反射された光を垂直反射させるのではなく、偏光ビームスプリッタ813aを透過した光を垂直反射させてもよい。
【0048】
また、測定部70の復路光学系の複屈折に対して十分に小さい複屈折を有する硝材で折り曲げミラー811a及びレンズ812aを構成することができない場合には、折り曲げミラー811a及びレンズ812aの複屈折を予め測定しておく。そして、折り曲げミラー811a及びレンズ812aの複屈折に基づいて、測定部70の復路光学系に入射する光の偏光状態を算出してもよい。
【0049】
露光装置1の動作において、まず、投影光学系40の複屈折を測定する。投影光学系40の複屈折は、上述したように、校正部80を用いて測定部70の複屈折(システムエラー)を測定し、測定部70によって測定部70と投影光学系40との全体の複屈折を測定した結果からシステムエラーを分離することで得られる。投影光学系40の複屈折が測定されると、かかる測定結果に基づいて、投影光学系40の複屈折が調整される。投影光学系40の複屈折は、例えば、投影光学系40を構成する光学素子を光軸周りに回転させたり、光軸方向に駆動したりすることで調整することができる。測定部70は、上述したように、投影光学系40の複屈折を短時間で高精度に測定することができるため、投影光学系40の複屈折も短時間で高精度に調整することができる。
【0050】
次いで、レチクル30のパターンをウエハ50に露光する。光源10から発せられた光は、照明光学系20によってレチクル30を照明する。レチクル30のパターンを反映する光は、投影光学系40によってウエハ50上に結像する。露光装置1が使用する投影光学系40は、上述したように複屈折が高精度に調整されており、優れた結像能力を達成する。従って、露光装置1は、高いスループットで経済性よく高品位なデバイス(半導体素子、LCD素子、撮像素子(CCDなど)、薄膜磁気ヘッドなど)を提供することができる。
【0051】
次に、図6及び図7を参照して、露光装置1を利用したデバイス製造方法の実施例を説明する。図6は、デバイス(半導体デバイスや液晶デバイス)の製造を説明するためのフローチャートである。ここでは、半導体デバイスの製造を例に説明する。ステップ1(回路設計)では、デバイスの回路設計を行う。ステップ2(レチクル製作)では、設計した回路パターンを形成したレチクルを製作する。ステップ3(ウエハ製造)では、シリコンなどの材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は、前工程と呼ばれ、レチクルとウエハを用いてリソグラフィー技術によってウエハ上に実際の回路を形成する。ステップ5(組み立て)は、後工程と呼ばれ、ステップ4によって作成されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の工程を含む。ステップ6(検査)では、ステップ5で作成された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テストなどの検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、これが出荷(ステップ7)される。
【0052】
図7は、ステップ4のウエハプロセスの詳細なフローチャートである。ステップ11(酸化)では、ウエハの表面を酸化させる。ステップ12(CVD)では、ウエハの表面に絶縁膜を形成する。ステップ13(電極形成)では、ウエハ上に電極を蒸着などによって形成する。ステップ14(イオン打ち込み)では、ウエハにイオンを打ち込む。ステップ15(レジスト処理)では、ウエハに感光剤を塗布する。ステップ16(露光)では、露光装置1によってレチクルの回路パターンをウエハに露光する。ステップ17(現像)では、露光したウエハを現像する。ステップ18(エッチング)では、現像したレジスト像以外の部分を削り取る。ステップ19(レジスト剥離)では、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除く。これらのステップを繰り返し行うことによってウエハ上に多重の回路パターンが形成される。かかるデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。このように、露光装置1を使用するデバイス製造方法、並びに結果物としてのデバイスも本発明の一側面を構成する。
【0053】
なお、本実施形態の校正部80は、図8に示すように、フィゾー型の干渉計100にも適用することができる。干渉計100は、後述するように、投影光学系40の透過波面収差を測定する機能及び投影光学系40複屈折を測定する機能を実現する構成を有する。図8は、校正部80を適用したフィゾー型の干渉計100の構成を示す概略図である。
【0054】
干渉計100は、λ/2板703と、偏光子704と、ビームエキスパンダ705と、ハーフミラー706と、瞳結像レンズ708と、λ/4板709と、検光子710と、撮像素子711と、空間フィルタ712と、凹面ミラー713とを備える。また、干渉計100は、透過波面収差を測定するために、可干渉距離の長い干渉計用光源720と、波面整形用ピンホール721とを備えている。更に、干渉計100は、対物レンズ707の代わりに、最終面の曲率中心がレンズの焦点位置と一致し、且つ、最終面に入射する光の一部を透過して残りを反射する、所謂、TSレンズ722を備えている。なお、λ/4板709及び検光子710は、干渉計100の光路に挿脱可能に構成されており、投影光学系40の透過波面収差を測定する際には測定部70の光路から退避される。
【0055】
投影光学系40の透過波面収差を測定する際には、ウエハステージ55に保持された凹面ミラー713をz軸方向に微小駆動させて位相を変調する、所謂、フリンジスキャン法を用いる。凹面ミラー713は、ウエハステージ55で駆動させてもよいし、凹面ミラー713にピエゾアクチュエータを取り付けて駆動させてもよい。また、凹面ミラー713の代わりに、TSレンズ722をz軸方向に微小駆動させても位相を変調することが可能である。
【0056】
投影光学系40の複屈折を測定する際には、λ/4板709及び検光子710を干渉計100の光路に配置する。また、校正部80は投影光学系40に載置されているため、干渉計100を校正する際には、TSレンズ722を校正部80の直上に配置する。干渉計100において、投影光学系40の複屈折を測定するためには、透過波面収差を測定する際に発生する干渉パターンを空間フィルタ712の駆動や干渉パターンの平均強度などを用いて除去する必要がある。但し、干渉パターンの除去については、特許文献1に開示されているため、ここでの詳細な説明は省略する。また、干渉計100(の結像光学系)の複屈折及び投影光学系40の複屈折の測定方法は、上述した通りである。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示す露光装置の校正部の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の一側面としての露光装置の構成を示す概略図である。
【図4】図1に示す露光装置の校正部の別の構成を示す概略図である。
【図5】図4に示す校正部の光学ユニットの構成を示す概略断面図である。
【図6】デバイスの製造を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6に示すステップ4のウエハプロセスの詳細なフローチャートである。
【図8】本実施形態の校正部を適用したフィゾー型の干渉計の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0059】
1 露光装置
10 光源
20 照明光学系
22 整形光学系
24 インコヒーレント化光学系
26 照明系
30 レチクル
35 レチクルステージ
40 投影光学系
50 ウエハ
55 ウエハステージ
60 制御部
70 測定部
701 ファイバ
702 ファイバポート
703 λ/2板
704 偏光子
705 ビームエキスパンダ
706 ハーフミラー
707 対物レンズ
708 瞳結像レンズ
709 λ/4板
710 検光子
711 撮像素子
712 空間フィルタ
713 凹面ミラー
80 校正部
82 凹面ミラー
84、84a乃至84c 凹面ミラー
86、86a乃至86c プリズム
810a乃至810c 光学ユニット
811a 折り曲げミラー
812a レンズ
813a 偏光ビームスプリッタ
814a 反射ミラー
100 干渉計
720 干渉計用光源
721 波面整形用ピンホール
722 TSレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のステージに保持されたレチクルのパターンを第2のステージに保持された基板に投影する投影光学系を備える露光装置であって、
前記投影光学系を通過した光を撮像素子に入射させる結像光学系を含み、前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定する測定部と、
前記測定部の校正時において、前記結像光学系の複屈折を測定するために前記投影光学系の物体面側に配置され、前記測定部からの光を反射して前記投影光学系を介さずに前記測定部に戻す校正部と、
前記測定部によって前記結像光学系と前記投影光学系との全体の複屈折を測定した結果から前記投影光学系の物体面側に前記校正部を配置して前記測定部によって測定した前記結像光学系の複屈折を分離して、前記投影光学系の複屈折を算出する算出部と、
を有することを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記校正部は、前記第1のステージに載置されていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記校正部は、前記投影光学系に載置されていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項4】
前記校正部は、前記結像光学系の光路に挿脱可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項5】
前記校正部は、
入射光を反射して前記測定部に戻すミラーと、
入射光のうち互いに異なる少なくとも3つの直線偏光をそれぞれ透過する複数のプリズムと、
前記複数のプリズムを透過した光をそれぞれ反射して前記測定部に戻す複数のミラーと、
を含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記複数のプリズムのそれぞれは、ウォラストンプリズムを含むことを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記校正部は、
入射光のうち所定の直線偏光のみを反射する偏光ビームスプリッタと、前記偏光ビームスプリッタで反射された光を反射して前記測定部に戻すミラーとを含む複数の光学ユニットを有し、
前記複数の光学ユニットは、それぞれの前記偏光ビームスプリッタが互いに異なる少なくとも3つの直線偏光を反射するように配置され、
前記複数の光学ユニットのうち1つの光学ユニットは、入射光を反射して前記測定部に戻すミラーを更に含むことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか1項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記結像光学系は、光源からの光を前記投影光学系に入射させる往路光学系と、前記投影光学系を通過した光を前記撮像素子に入射させる復路光学系とを含み、
前記投影光学系の物体面側に配置された前記校正部が入射光を反射して前記測定部に戻すことで前記結像光学系の複屈折が前記測定部によって測定され、
前記投影光学系の物体面側に配置された前記校正部が入射光のうち互いに異なる少なくとも3つの直線偏光を反射して前記測定部に戻すことで前記復路光学系の複屈折が前記測定部によって測定されることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項9】
前記算出部は、前記測定部によって測定された前記結像光学系の複屈折から前記測定部によって測定された前記復路光学系の複屈折を分離して、前記往路光学系の複屈折を算出することを特徴とする請求項8に記載の露光装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光するステップと、
露光された前記基板を現像するステップと、
を有することを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−194238(P2009−194238A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35084(P2008−35084)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】