説明

露光装置及びデバイス製造方法

【課題】露光装置の構造部材の振動を抑制する。
【解決手段】 露光装置は、構造部材と、基板ステージの駆動に起因して発生する構造部材に対する駆動反力を相殺する第1カウンタマスステージと、レチクルステージの駆動に起因して発生する構造部材に対する駆動反力を相殺する第2カウンタマスステージと、構造部材と第1カウンタマスステージとの間に力を発生させる第1カウンタマス駆動部と、構造部材と第2カウンタマスステージとの間に力を発生させる第2カウンタマス駆動部と、制御部とを備える。制御部は、構造部材に作用する力の情報を取得し、第1カウンタマス駆動部により構造部材と第1カウンタマスステージとの間に力を発生させると同時に、第2カウンタマス駆動部により構造部材と第2カウンタマスステージとの間に力を発生させることによって構造部材に作用する力を相殺するように第1カウンタマス駆動部及び第2カウンタマス駆動部を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露光装置及びそれを用いたデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体デバイスの製造装置である露光装置では、光学系に対してレチクルとウエハとを走査しながら露光する走査型露光装置が主流となっている。レチクル及びウエハをそれぞれ走査移動させるために、レチクルステージ及びウエハステージが設けられ、両ステージが同一の構造部材に固定される構成が提案されている。各ステージに設けられる駆動部で力を発生させることで、レチクル及びウエハを高加速度で移動させる。この高加速度での移動時に発生する駆動反力が構造部材に加わり、構造部材の振動を引き起こす。構造部材は除振装置を介して投影光学系が設置された基準定盤を支持しており、構造部材が振動することで基準定盤や投影光学系の振動を引き起こし、露光装置における重ね合わせ精度の低下を招く。
【0003】
そのため、露光装置では各ステージから構造部材に伝わる駆動反力を極力小さくするために、特許文献1に示されるように、運動量保存の法則を利用したカウンタマス機構の技術が適用されることが多い。カウンタマス機構は、レチクルステージ又はウエハステージの移動に応じて、受動的に逆方向に移動するカウンタマスステージを有し、これにより理想的にはステージから構造部材に駆動力が伝達しない。
【0004】
カウンタマスステージ機構について図3を用いて説明する。構造部材107は床にレベリングブロック124などのバネ要素を介して支持されている。構造部材107は、位置決めステージ101及びカウンタマスステージ103を静圧軸受などのガイド151で水平方向の摩擦が無視できるように鉛直方向に支持している。位置決めステージ101とカウンタマスステージ103との間に力を発生させる位置決めステージ駆動部115が設けられている。この位置決めステージ駆動部115が発生する力によって位置決めステージ101を水平方向に移動させて位置決めを行う。この例では位置決めステージ101とカウンタマスステージ103の質量はmで同じである。位置決めステージ101の重心位置、カウンタマスステージ103の重心位置、及び位置決めステージ駆動部115で発生する力Fの作用点の位置は、移動方向で一直線上になるように設計されている。また、構造部材107が傾いたりしたときに、カウンタマスステージ103が想定する位置から大きくずれないようにするため、カウンタマスステージ103と構造部材107との間に力を発生させるカウンタマス駆動部105が設けられている。理想的には、カウンタマス駆動部105で力を発生させる必要はなく、カウンタマスステージ103が所望の位置から大きくずれるときなどにのみ、適切なタイミングで力を発生させてカウンタマスステージ103の位置を補正する。
【0005】
このようなカウンタマス機構において、位置決めステージ駆動部115で力Fを発生させた場合、位置決めステージ101が移動する方向と反対方向にカウンタマスステージ103が移動する。両ステージの質量が一致しているため、移動する速度や距離も同じになる。このとき、構造部材107には位置決めステージ駆動部115で発生する力Fに起因した外乱力は入力されないため、構造部材107の振動は発生しない。また、特許文献2には、構造部材に入力される外乱力を相殺させるために、構造部材を支持する部分に駆動部を設ける技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−208562号公報
【特許文献2】特開2005−109441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
理想的なカウンタマス機構を適用すれば、2つのステージ101,103を支持する構造部材107に対して、2つのステージ101,103の駆動反力に起因した外乱力は発生しない。しかし、設計上の制限や加工上のばらつきなどで理想的なカウンタマス機構を構成できない場合が多く、それに起因した外乱力が構造部材107に対して発生し、構造部材107の振動が発生してしまう。
【0008】
カウンタマス機構を適用しても構造部材107の振動が発生する理由について図4を用いて説明する。図4は、位置決めステージ101の重心位置とカウンタマスステージ103の重心位置と位置決めステージ駆動部115で発生する力Fの作用点の位置とが、移動方向で一直線上になっていない点を除いて、構成は図3と同じである。この場合も、位置決めステージ駆動部115で力Fを発生させた場合、位置決めステージ101とカウンタマスステージ103は、互いに反対方向に移動し、位置決めステージ駆動部115で発生する力は構造部材107へ直接的には入力されない。しかし、カウンタマスステージ103の重心と位置決めステージ駆動部115で発生する力の作用点の鉛直方向の位置がずれている。そのため、ずれ量Lを腕の長さとする力Fによるモーメント力Mがカウンタマスステージ103に発生する。このモーメント力Mはガイド151を介して構造部材107に伝わり、構造部材107は回転方向の振動を生じてしまう。
【0009】
つまり、位置決めステージ駆動部115から構造部材107へ入力される力を発生させないようにするためには、各ステージの重心位置と力の作用点位置を鉛直方向で一致させることが求められる。しかし、設計上の制限や部品のばらつきなどで、重心位置と作用点とのずれを数mmオーダーで生じてしまうことが多い。露光装置の性能仕様が厳しくなるにつれ、位置決めステージ駆動部で1000N以上の力を発生させると、数mmオーダーのずれによるモーメント力でも、構造部材107の振動が許容できなくなってきているのが実情である。そのため、より理想的なカウンタマス機構に近づけるように設計的な工夫や、加工ばらつきを小さくする取り組みを行っている。一方で、両ステージ101,103を支持する構造部材107に発生してしまった外乱力を相殺させることで構造部材107の振動を抑制することが望まれている。
【0010】
さらに、露光装置上の構造部材には、カウンタマス機構の構成に起因する外乱力の他にも様々な外乱力が想定されている。例えば、ステージ移動に伴って、ステージに接続される実装部品によって発生する外乱力や、構造部材上に設置される様々な駆動部に起因する外乱力、さらには床振動などに起因する外乱力などが想定され、それらに対する制振システムが求められている。ステージ101,105を支持する構造部材107に入力される外乱力を相殺する方法として、特許文献2で開示されているように、専用の駆動部を設ける構成が提案されているが、駆動部の設置スペースやコストが課題になる。
【0011】
本発明は、露光装置の構造部材の振動を効果的に抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、レチクルのパターンを基板に投影して前記基板を露光する露光装置であって、前記基板を保持して移動する基板ステージと、前記レチクルを保持して移動するレチクルステージと、前記基板ステージおよび前記レチクルステージを支持する構造部材と、 前記構造部材により支持され、前記基板ステージの駆動に起因して発生する前記構造部材に対する駆動反力を相殺する第1カウンタマスステージと、前記構造部材により支持され、前記レチクルステージの駆動に起因して発生する前記構造部材に対する駆動反力を相殺する第2カウンタマスステージと、前記基板ステージと前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させる基板ステージ駆動部と、前記レチクルステージと前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させるレチクルステージ駆動部と、前記構造部材と前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させる第1カウンタマス駆動部と、前記構造部材と前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させる第2カウンタマス駆動部と、前記構造部材に作用する力の情報を取得し、前記第1カウンタマス駆動部により前記構造部材と前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させると同時に、前記第2カウンタマス駆動部により前記構造部材と前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させることによって前記構造部材に作用する力を相殺するように前記第1カウンタマス駆動部及び前記第2カウンタマス駆動部を制御する制御器と、備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、露光装置の構造部材の振動を効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1における露光装置の構成を示した図である。
【図2】実施例1における情報の流れを示した図である。
【図3】カウンタマス機構の概要を示した図である。
【図4】カウンタマス機構でモーメント力が発生する一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施例1]
図1は、実施例1のレチクルのパターンを基板に投影して基板を露光する走査型の露光装置の概略を示した図である。本実施例の露光装置50では、ウエハ(基板)を保持して移動するウエハステージ(基板ステージ)2とレチクルを保持して移動するレチクルステージ1とが同一の構造部材7に支持されている。またウエハステージ2及びレチクルステージ1には以下に述べるカウンタマス機構がそれぞれ設けられている。ウエハステージ2の駆動に起因して発生する構造部材7に対する駆動反力を相殺する第1カウンタマスステージ4が構造部材7により支持されている。さらに、ウエハステージ2と第1カウンタマスステージ4との間に力を発生させる基板ステージ駆動部(ウエハステージ駆動部)40と、第1カウンタマスステージ4と構造部材7との間に力を発生させる第1カウンタマス駆動部6とが設けられている。
【0016】
同様に、レチクルステージ1の駆動に起因して発生する構造部材7に対する駆動反力を相殺する第2カウンタマスステージ3が構造体7により支持されている。さらに、レチクルステージ1と第2カウンタマスステージ3との間に力を発生させるレチクルステージ駆動部41と、第2カウンタマスステージ3と構造部材7との間に力を発生させる第2カウンタマス駆動部5とが設けられている。ウエハステージ駆動部40、レチクルステージ駆動部41、第1カウンタマス駆動部6、第2カウンタマス駆動部5は、ローレンツ力などを用いた電磁アクチュエータとすることができる。
【0017】
構造部材7は、床に対してレベリングブロック24などのバネとダンパー要素で固定されている。また、構造部材7の上には、バネ剛性の低い除振装置23を介して基準定盤21が設置され、さらに基準定盤21の上に投影光学系を含む鏡筒22が支持されている。基準定盤21には、干渉計25が設置されており、干渉計レーザー26を介してウエハステージ2やレチクルステージ1の位置を計測している。露光装置50では、鏡筒22や基準定盤21の振動によって生じる姿勢変化や弾性変形が露光性能に影響を与えるため、鏡筒22や基準定盤21の振動を極力抑制するように設計されている。鏡筒22や基準定盤21は、除振装置23によって構造部材7とある程度、振動的に絶縁する設計思想になっているが、露光性能仕様が厳しくなるにつれて、構造部材7の振動も極力抑制する必要が生じてきている。
【0018】
次に、構造部材7に作用する力(外乱力)、例えばモーメント力9が構造部材7に対して発生する場合の構造部材7の振動抑制技術について図1および図2を用いて説明する。本発明で定義する外乱力とは、構造部材7に対して第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5とから入力される制御力以外の力である。構造部材7に作用する外乱力の例としては、レチクルステージ1、ウエハステージ2、第1カウンタマスステージ3、第2カウンタマスステージ4など構造部材7に搭載されたステージ部の駆動に伴う力が挙げられる。床振動によりレベリングブロック24などを介して構造体7に入力される力も本発明で定義する外乱力に含まれる。また、ここでいう制御力とは、本発明に基づいて構造部材7を制振するために第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5とから構造部材7に発生させる力である。
【0019】
鉛直方向に関する第2カウンタマスステージ3における重心位置とレチクルステージ駆動部41で発生する駆動力の作用点位置がずれている場合、レチクルステージ1が駆動することで、構造部材7に外乱力(モーメント力)9が発生する。これにより、通常であれば構造部材7にY軸周りの回転が起こり、振動が発生する。そこで、外乱力(モーメント力)9に対応させて、第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5とにより、それぞれ第1カウンタマスステージ4及び第2カウンタマスステージ3と構造部材7との間に力11,10を同時に発生させている。
【0020】
ここで、カウンタマス機構で発生する外乱力(モーメント力)9をMとして、鉛直方向の第2カウンタマスステージ3における重心位置とレチクルステージ駆動部41で発生する力の作用点との位置ずれ量をLとする。また、レチクルステージ駆動部41で発生させる力をFとすると、これらの関係式は以下の式1のように表現される。
M=F×L ・・・(1)
これに対応させて、第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5で発生させる制御力は以下のように演算される。図1で、第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5で発生させるX方向の制御力をそれぞれF1、F2とする。また、構造部材7と、構造部材7に搭載され、ほぼ一体に剛体運動する部品を含めた全体(例えば図1中の1〜6)の重心8と、第1カウンタマス駆動部6で発生させる制御力F1の作用点位置との鉛直方向(Z軸方向)距離をL1とする。ここで、重心9は、演算する外乱力の計算精度を考慮した上で様々な定義が可能であり、基準定盤21や鏡筒22も含めた装置全体の重心で定義しても構わない。同様に装置全体の重心8と、第2カウンタマス駆動部5で発生させる制御力F2の作用点位置との鉛直方向(Z軸方向)距離をL2とする。さらに、レチクル駆動ステージ1の駆動によって発生する外乱力(モーメント力)9をMとすると、以下の式2、式3のような関係が成り立つ。
F1+F2=0 ・・・(2)
F1×L1+F2×L2=M ・・・(3)
この2つの式よりF1、F2は式4、式5で表わされる。
F1=M/(L1−L2) ・・・(4)
F2=−M/(L1−L2) ・・・(5)
【0021】
第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5とでそれぞれF1,F2の制御力を発生させれば、構造部材7に加わる外乱力(モーメント力)9のみを相殺させる力を発生させることが出来る。以上より、構造部材7の振動発生を抑制することが可能となり、構造部材7上に設置される鏡筒22や基準定盤21の振動が抑制され、露光装置50としての露光性能が向上する。ここまで、レチクルステージ1の駆動によって発生する外乱力(モーメント力)9への対応のみ説明してきたが、ウエハステージ2の駆動によって発生する外乱力(モーメント力)に対しても同様に対応可能である。
【0022】
図2は、カウンタマス機構における情報の流れを示したものである。ウエハステージ制御部31でウエハステージ2の駆動を制御しており、ウエハステージ2と第2カウンタマスステージ4との間で力を発生させるウエハステージ駆動部40に対して、ウエハの位置決めをする上での制御力を決定している。この制御力情報S1は、第1カウンタマス制御部32に伝達される。第1カウンタマス制御部32は、制御力情報S1と、第1カウンタマスステージ4の位置情報S4と、後述する構造部材7への制振制御部38からの制御力情報S12とにより、第1カウンタマスステージ4に与える制御力F1を決定する。決定された制御力指令S2は第1カウンタマス駆動部6に伝達され、第1カウンタマスステージ4と構造部材7との間に制御力F1を発生させる。これにより第1カウンタマスステージ4は所望の移動をする。第1カウンタマスステージ4の移動は変位センサなどの第1カウンタマス位置計測部33により計測され、その位置情報S4を第1カウンタマス制御部32に伝達する。レチクルステージ側のカウンタマス機構も同様の流れで情報S5〜S7が伝達されながら、第2カウンタマスステージ3の移動制御が行われている。
【0023】
本発明では、さらにウエハステージ制御部31及びレチクルステージ制御部34から各ステージへの制御力情報S9,S10が外乱力推定部37へ伝達され、前述の式1により構造部材7に入力される外乱力(モーメント力)9を演算することで取得している。そして、取得された外乱力情報S11は制振制御部38に伝達される。制振制御部38は、第1及び第2カウンタマス駆動部6,5で発生させるべき力F1,F2を式4及び式5で算出して、第1及び第2カウンタマス制御部32,35に制御力情報S12,S13を伝達している。従来技術では、第1カウンタマスステージ4の制御と第2カウンタマスステージ3の制御はそれぞれウエハステージ2とレチクルステージ1とに対応して独立に行われていた。しかし、本発明では構造部材7の制振を行うために、第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5とを同期させて力を発生させている点が大きく異なる。これにより、レチクルステージ1及びウエハステージ2の一方又は双方の駆動によって構造部材7に発生する外乱力(モーメント力)9を新たな駆動部を設けずに効率よく相殺することが出来る。ウエハステージ制御部31、レチクルステージ制御部、第1及び第2カウンタマス制御部32,35、外乱力推定部37、制振制御部38は、制御器Cを構成している。
【0024】
本実施例では、外乱力推定部37において式1を用いて外乱力を演算によって取得する例を説明したが、これに限定されるものではなく、他の理論式を用いてもよく、さらには実験的に求めた関係式を用いて推定しても良い。また、制振制御部38において、式4及び式5で第1カウンタマス駆動部6と第2カウンタマス駆動部5で発生させる力F1,F2を決定した例を示したが、他の理論式や実験式を用いて各駆動部6,5への制御力情報S12,S13を決定しても良い。
【0025】
[実施例2]
実施例1では、レチクルステージ1の駆動に伴うモーメント力9に対する構造部材7の振動抑制技術に関して説明してきたが、モーメント力だけでなく並進力(図1の場合X軸方向の力)を含めた外乱力に対しても相殺する力を発生させることが可能である。例えば、レチクルステージ1と構造部材7との間で多数の配線や配管などの実装部材を引き回すことが多い。その場合、レチクルステージ1のX軸方向の移動に伴い、実装部材を介して構造部材7にX軸方向の並進力が伝達されることがある。また、レチクルステージ1と構造部材7との間で無視できない摩擦力がある場合もレチクルステージ1のX軸方向の移動に伴う並進力が構造部材7に働く。この場合、レチクルステージ1の駆動に伴い、モーメント力Mと同時に並進力F3が構造部材7に入力されることになる。
【0026】
このような場合には、並進力F3を理論的な式で推定することも可能であるが、通常、外乱力推定部37は、事前に導き出した実験的な関係式を用いて並進力F3を推定する。また、制振制御部38では、以下の式で第1及び第2カウンタマス駆動部6,5への制御力F1,F2を決定する。式2及び式3に対応して、構造部材7に関する力のつり合い式は、式6、式7となる。
F1+F2=F3 ・・・(6)
F1×L1+F2×L2=M ・・・(7)
この2つの式よりF1、F2は式8、式9で表わされる。
F1=(M−F3×L2)/(L1−L2) ・・・(8)
F2=−(M−F3×L1)/(L1−L2) ・・・(9)
ここでは、構造部材7に対する外乱力として、レチクルステージ1の駆動によるモーメント力Mと並進力F3が発生する例を述べてきたが、ウエハステージ2の駆動でモーメント力M又は並進力F3が発生した場合でも同様に対応可能である。
【0027】
[実施例3]
実施例1,2では、レチクルステージ1やウエハステージ2で発生する構造部材7に対する外乱力を対象に説明してきた。しかし、構造部材7に設置される他の駆動部によって発生する外乱力を対象にしても構わない。例えば、露光装置50は、レチクルの照明範囲を限定するマスキングブレードと呼ばれる、レチクル駆動ステージ1の駆動に同期して駆動する駆動部を有する場合がある。その場合、マスキングブレードの駆動反力が構造部材7に外乱力(モーメント力や並進力)が入力される可能性がある。このような駆動部によって発生する構造部材7への外乱力が図1におけるY軸周りのモーメントやX軸方向の並進力である場合は、実施例1や実施例2で述べたように制振制御部38で対応が可能である。但し、その場合は、外乱力推定部37で対象とする駆動部の駆動情報と構造部材7への外乱力との関係を事前に理論式又は実験式で作成しておき、駆動部の駆動情報をもとに、構造部材7への外乱力を推定出来るようにしておく必要がある。
【0028】
[実施例4]
実施例1〜3では、外乱力推定部37が構造部材7への外乱力を推定して、推定された外乱力をもとに制振制御部38で構造部材7への相殺力を計算し、構造部材7を制振する例を説明してきたが、それに限定されるものではない。例えば、構造部材7上に加速度センサ、変位センサ、速度センサなどの振動を検出する検出器を設置して、その検出結果をもとにして、構造部材7への外乱力を推定せず直接的に構造部材7の振動を抑制するのでも構わない。検出器の検出結果に基づいて、制振制御部38で構造部材7の振動が抑制するように第1及び第2カウンタマス駆動部6,5で発生させる力を調整することで構造部材7の振動を抑制する。この場合、予め実験的に第1及び第2カウンタマス駆動部6,5での力の調整方法を算出しておく。このような構成にした場合、外乱力が発生する原因が良く分からないような場合でも構造部材7の振動を抑制することが可能になる。また、床振動による構造部材7へのランダム的な外乱力に対しても効率よく対応出来る。
【0029】
〔デバイス製造方法〕
次に、デバイス(半導体デバイス、液晶表示デバイス等)の製造方法について説明する。半導体デバイスは、ウエハに集積回路を作る前工程と、前工程で作られたウエハ上の集積回路チップを製品として完成させる後工程を経ることにより製造される。前工程は、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたウエハを露光する工程と、ウエハを現像する工程を含む。後工程は、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)と、パッケージング工程(封入)を含む。液晶表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラス基板に感光剤を塗布する工程と、前述の露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラス基板を露光する工程と、ガラス基板を現像する工程を含む。本実施形態のデバイス製造方法によれば、従来よりも高品位のデバイスを製造することができる。以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形および変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチクルのパターンを基板に投影して前記基板を露光する露光装置であって、
前記基板を保持して移動する基板ステージと、
前記レチクルを保持して移動するレチクルステージと、
前記基板ステージおよび前記レチクルステージを支持する構造部材と、
前記構造部材により支持され、前記基板ステージの駆動に起因して発生する前記構造部材に対する駆動反力を相殺する第1カウンタマスステージと、
前記構造部材により支持され、前記レチクルステージの駆動に起因して発生する前記構造部材に対する駆動反力を相殺する第2カウンタマスステージと、
前記基板ステージと前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させる基板ステージ駆動部と、
前記レチクルステージと前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させるレチクルステージ駆動部と、
前記構造部材と前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させる第1カウンタマス駆動部と、
前記構造部材と前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させる第2カウンタマス駆動部と、
前記構造部材に作用する力の情報を取得し、前記第1カウンタマス駆動部により前記構造部材と前記第1カウンタマスステージとの間に力を発生させると同時に、前記第2カウンタマス駆動部により前記構造部材と前記第2カウンタマスステージとの間に力を発生させることによって前記構造部材に作用する力を相殺するように前記第1カウンタマス駆動部及び前記第2カウンタマス駆動部を制御する制御器と、
を備える、ことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記構造部材により支持されて前記構造部材に前記構造部材に作用する力を発生する駆動部の駆動情報に基づいて前記構造部材に作用する力を演算することによって前記情報を取得する、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記構造部材に作用する力を発生する前記駆動部は、前記基板ステージ駆動部、前記レチクルステージ駆動部及び前記レチクルの照明範囲を限定するマスキングブレードの駆動部の少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記制御器は、前記基板ステージ駆動部により発生された駆動力の前記第1カウンタマスステージに対する作用点と前記第1カウンタマスステージの重心との位置ずれに伴って発生したモーメントと、前記レチクルステージ駆動部により発生された駆動力の前記第2カウンタマスステージに対する作用点と前記第2カウンタマスステージの重心との位置ずれに伴って発生したモーメントと、の少なくとも一方が前記構造部材に作用する力を演算する、ことを特徴とする請求項2記載の露光装置。
【請求項5】
前記構造部材に設置されて前記構造部材の振動を検出する検出器を備え、
前記制御器は、前記検出器の検出結果から前記構造部材に作用する力の情報を取得する、ことを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項6】
デバイスを製造する方法であって、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の露光装置を用いて基板を露光する工程と、
前記工程で露光された基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−41981(P2013−41981A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177747(P2011−177747)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】