説明

露光装置

【課題】 本体構造体の弾性変形によるフォーカス精度の低下と、先読み領域の計測計を用いることで発生する基板処理枚数の劣化の両問題について解決する露光装置の提供を行う。
【解決手段】 上記目的を達成するために、本体構造体の位置変位量と、基板ステージ、もしくは原版ステージの位置を用いて、本体構造体が弾性変形をした時のフォーカス変動量をリアルタイムで計算し、予測補正する手段を有することを特徴とする。また、フォーカス変動量の予測補正量を算出する時に、本体構造体に強制的な作用力を加えて本体構造体の変位量を測定すると同時に、投影光学系と基板ステージ間の相対位置、もしくは、投影露光系と原版ステージの相対高さを測定し、回帰分析することで前記補正量の更正を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,物体を移動して位置決めするステージ装置の位置計測技術に関し,特に,半導体露光装置や液晶露光装置に搭載されるステージ装置の位置決め技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
露光装置は、高い像性能と重ね合わせ精度が求められるため、露光装置に使用される位置決めステージの位置計測計や投影光学系は、剛性の高い本体構造体に取り付けられる。しかしながら、特に液晶露光装置は、生産性を向上させるためにガラスプレートの大型化が著しい。すなわち、ガラスプレートを保持する基板ステージの大型化が進み、本体構造体も大型化され、基板ステージの移動による本体構造体の弾性変形が顕著となって現れてくる。その結果、構造体の弾性変形により、位置計測センサの計測誤差やステージ位置決め誤差が発生し、アライメント誤差、フォーカス誤差が生じる。
【0003】
特にフォーカス誤差に関しては、露光領域外の先読み領域に複数のフォーカス計測点を配置し、露光直前にフォーカス計測を行うことで、露光時に高い精度でフォーカス位置を補正する手段が提案されている(特許文献1)。
【0004】
ところが、前記提案では、先読み領域でフォーカス計測を行い、さらにその補正駆動を行うために基板ステージが駆動する時間が必要となり、その結果、特に大型の液晶露光装置では基板処理枚数が著しく遅くなる。また、本体構造体の弾性変形によるフォーカス変動に対しては、本体構造体の弾性変形の変形速度が遅いことから、先読み領域で計測したフォーカス計測値と、露光領域内で計測したフォーカス計測値が一致しない現象が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-281665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、先読み領域のフォーカス計測計を用いず、本体構造体の弾性変形による基板ステージと投影光学系の高さ変動に起因したフォーカス変動、もしくは原版ステージと投影露光系の高さ変動に起因したフォーカス変動を予測補正する。その結果、本体構造体の弾性変形によるフォーカス精度の低下と、先読み領域の計測計を用いることで発生する基板処理枚数の劣化の両問題について解決する露光装置の提供を行う。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の露光装置は、本体構造体の位置変位量と、基板ステージ、もしくは原版ステージの位置を用いて、本体構造体が弾性変形をした時のフォーカス変動量をリアルタイムで計算し、予測補正する手段を有することを特徴とする。
【0008】
また、フォーカス変動量の予測補正量を算出する時に、本体構造体に強制的な作用力を加えて本体構造体の変位量を測定すると同時に、投影光学系と基板ステージ間の相対位置、もしくは、投影露光系と原版ステージの相対高さを測定し、回帰分析することで前記補正量の更正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、本体構造体の弾性変形により生じる、基板ステージ、原版ステージの変位に起因したフォーカス変動を予測補正する。そのため、先読み領域のフォーカス計測計では補正できなかった、構造体の弾性変形に起因したフォーカス変動を補正することができる。また、先読み領域の計測計を用いることで発生する基板処理枚数の劣化の問題についても解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態である露光装置の側面図(XZ平面)
【図2】本発明の実施形態である露光装置の側面図(YZ平面)
【図3】本発明の実施形態である露光装置の本体構造体の弾性変形モード
【図4】本発明の実施形態である露光装置の本体構造体の平面図
【図5】本発明の実施形態である露光装置のフォーカス補正ブロック図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1、図2に、本発明の実施形態である露光装置の一例を示す。Zは高さ方向、θxはX軸まわりの回転量、θyはY軸まわりの回転量を示しており、以下同様である。
【0013】
基板ステージ構造体30は、基板ステージ支持台33上に、基板ステージ支持構造体マウント31を介して4脚で支持されている。本実施形態は4脚であるが、その限りではない。構造体マウント31は、空気によりZ方向の位置を制御できる。構造体マウント31の各脚には位置計測器32が搭載され、支持台33と構造体30の相対位置を計測する。また、構造体30のZ、θx、θy方向の位置決めは、4脚の位置計測器32の計測値を元に、構造体マウント31を駆動させることで行う。
【0014】
構造体30上には、Y駆動機構26a、26bによりY方向に駆動する基板ステージY駆動部25が構成される。Y駆動部25上には、X駆動機構24a、24bによりX方向に駆動する基板ステージX駆動部23、及び、Z駆動機構22aによりZ、θx、θy方向に駆動する基板ステージ21が構成される。基板ステージのX方向、Y方向の位置は、原版ステージ支持構造体50に固定された基板ステージX方向位置計測器27a、及び基板ステージY方向位置計測器27bで測定することができる。また、基板ステージのZ、θx、θy方向の位置は、X駆動部23と基板ステージ21の相対距離を測定するZ駆動位置計測器22bで計測する。基板ステージ21は、Z、θx、θy方向に駆動することから、Z駆動機構22a、及びZ駆動位置計測器22bは、各3点以上で構成される。
【0015】
原版ステージ構造体50は、原版ステージ支持台53上に、原版ステージ支持構造体マウント51を介して4脚で支持されている。本実施形態は4脚であるが、その限りではない。構造体マウント51は、空気によりZ方向の位置を制御できる。構造体マウント51の各脚には位置計測器52が搭載され、支持台53と構造体50の相対位置を計測する。また、構造体50のZ、θx、θy方向の位置決めは、4脚の位置計測器52の計測値を元に、構造体マウント51を駆動させることで行う。また、原版ステージ構造体50には、投影光学系10が固定されており、投影光学系10に固定されたフォーカス位置センサ11で、基板ステージ21と投影光学系10のZ方向変動量を測定することでフォーカス変動量を測定する。同様に、投影光学系10に固定されたフォーカス位置センサ42で、原版ステージ40と投影光学系10のZ方向変動量を測定することでフォーカス変動量を測定する。
【0016】
上述した実施形態における、基板ステージ支持構造体30、及び原版ステージ支持構造体50の代表的な弾性変形モードを図3に示す。本実施形態では、基板ステージ支持構造体マウント31、及び原版ステージ支持構造体マウント51が、それぞれ対角に4箇所配置されている。すなわち、基板ステージ支持構造体30、または原版ステージ支持構造体50の位置決め制御時に発生する作用力や、支持台33、及び支持台53からの振動などの外乱力により、図3の(a)の弾性変形モードは経時的に変化しながら最も顕著に発生する。そこで、本実施形態では、図3(a)の弾性変形モードに起因するフォーカス変動量をリアルタイムで補正する手段を示す。ただし、本実施形態では構造体マウントは4脚であるが、4脚以上で構成される実施方法も考えられ、その場合にフォーカス変動量の補正を行う弾性モードは、図3(a)以外にも考慮する必要がある。
【0017】
図4に、本実施形態の露光装置をZ方向から見た図を示す。簡略化するために、基板ステージ構造体マウント31と、位置計測器32の取り付け位置は同一としているが、実施形態によってはその限りではない。同様に、原版ステージ構造体マウント51と、位置計測器52の取り付け位置も同一としている。
【0018】
基板ステージ構造体マウント31のX方向の取り付け距離をLpx、Y方向の取り付け距離をLpy、位置計測器32の各脚の弾性変形量を+Ap、-Apとする。弾性変形モードの変形中心のX方向、Y方向座標を(Mpx, Mpy)、基板ステージ21のX方向、Y方向座標を(Ppx, Ppy)とする。基板ステージ構造体30の弾性変形に起因して、基板ステージ21は、Z方向、θx、θy方向に対して、式(1)でΔZp、Δθpx、Δθpy変位する。
【0019】
ΔZp = 2Ap × (Ppx − Mpx) / Lpx × (Ppy − Mpy) / Lpy
Δθpx = 4Ap × (Ppx − Mpx) / Lpx / Lpy
Δθpy = −4Ap × (Ppy − Mpy) / Lpx / Lpy 式(1)
原版ステージ構造体マウント51のX方向の取り付け距離をLmx、Y方向の取り付け距離をLmy、位置計測器52の各脚の弾性変形量を+Am、-Amとする。弾性変形モードの変形中心のX方向、Y方向座標を(Mmx, Mmy)、原版ステージ40のX方向、Y方向座標を(Pmx, Pmy)とする。原版ステージ構造体50の弾性変形に起因して、原版ステージ40は、Z方向、θx、θy方向に対して、式(2)でΔZm、Δθmx、Δθmy変位する。
【0020】
ΔZm = 2Am × (Pmx − Mmx) / Lmx × (Pmy − Mmy) / Lmy
Δθmx = 4Am × (Pmx − Mmx) / Lmx / Lmy
Δθmy = −4Am × (Pmy − Mmy) / Lmx / Lmy 式(2)
図5に、式(1)、及び式(2)で算出したフォーカス位置変位量用いてフォーカス位置を補正するブロック図を示す。
【0021】
基板ステージ構造体位置計測計32で計測された、支持台33と基板ステージ支持構造体30の相対位置は、モード分離行列60aで乗算され、基板ステージ支持構造体30の弾性変形量Apが算出される。基板ステージ21のX方向位置、Y方向位置は、基板ステージ 位置計測器27a、27bで計測され、上記の情報を元に、式(1)が計算される。
【0022】
同様に、原版ステージ構造体位置計測計52で計測された、支持台53と原版ステージ支持構造体50の相対位置は、モード分離行列60bで乗算され、原版ステージ支持構造体50の弾性変形量Amが算出される。原版ステージ51のX方向位置、Y方向位置は、原版ステージ 位置計測器41a、41bで計測され、上記の情報を元に、式(2)が計算される。
【0023】
基板ステージ21のZ、θx、θyの位置は、少なくとも3点以上の位置計測器22bの計測値をモード分離行列60cに乗算することで算出する。基板ステージ21は、算出したZ、θx、θyの計測値に、式(1)で算出したΔZp、Δθpx、Δθpyを減算し、同様に式(2)で算出したΔZm、Δθmx、Δθmyの値を和算する。その結果を補償器61に入力し、モード分離行列60dを乗算して、Z駆動機構22aで位置決めを行う。上記演算はリアルタイムで行うため、本体構造体が図3(a)の弾性変形をし、基板ステージ21、及び原版ステージ40のZ、θx、θy方向の位置変動によるフォーカス変動量が発生しても、リアルタイムでフォーカス位置量の予測補正を行うことができる。
【0024】
また、式(1)の弾性変形モードの変形中心(Mpx、Mpy)、及び(Mmx、Mmy)の値は固定値としているが、設計値と実際の変形中心の値がずれる場合がある。そこで式(1)(2)から算出されるフォーカス位置補正を無効にし、基板ステージ21、及び原版ステージ40を位置決めした状態で、基板ステージ支持構造体マウント31に強制的に作用力を加え、図3(a)の弾性変形を故意に作り出す。その時の構造体30の弾性変形量Apと、フォーカス位置センサ11の変位量を回帰分析することによって、Mpx、Mpyの値の更正を行うことができる。同様に、原版ステージ支持構造体マウント51に強制的に作用力を加え、図3(a)の弾性変形を故意に作り出す。その時の構造体50の弾性変形量Amと、フォーカス位置センサ42の変動量を回帰分析することによって、Mmx、Mmyの値の更正を行うことができる。
【符号の説明】
【0025】
10 : 投影光学系
11 : 基板ステージ フォーカス位置センサ
21 : 基板ステージ
22a : 基板ステージ Z駆動機構
22b : 基板ステージ Z駆動位置計測器
23 : 基板ステージ X駆動部
24a : 基板ステージ X駆動機構可動部
24b : 基板ステージ X駆動機構固定部
25 : 基板ステージ Y駆動部
26a : 基板ステージ Y駆動機構可動部
26b : 基板ステージ Y駆動機構固定部
27a : 基板ステージ X方向位置計測器
27b : 基板ステージ Y方向位置計測器
30 : 基板ステージ支持構造体
31 : 基板ステージ支持構造体マウント
32 : 基板ステージ支持構造体 位置計測器
33 : 基板ステージ支持台
40 : 原版ステージ
41a : 原版ステージ X方向位置計測器
41b : 原版ステージ Y方向位置計測器
42 : 原版ステージ フォーカス位置センサ
50 : 原版ステージ支持構造体
51 : 原版ステージ支持構造体 マウント
52 : 原版ステージ支持構造体 位置計測器
53 : 原版ステージ支持台
60a〜d : モード分離行列
61 : 補償器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原版を搭載して移動する原版ステージと、
原版に形成されたパターンを結像する投影光学系と、
その結像位置に被露光基板を搭載して移動する基板ステージと、
原版ステージもしくは基板ステージの位置を計測する計測手段と、
該位置計測手段の計測値に基づいて基板ステージもしくは原版ステージを移動して位置を合わせる位置合わせ手段と、
前記投影光学系、基板ステージ、原版ステージ、及び位置計測手段を保持する本体構造体と、
該本体構造体を支持する支持台と、
該本体構造体と支持台との間の位置を計測する計測手段と
前記基板ステージと投影露光系の相対高さ、もしくは原版ステージと投影露光系の間の相対高さを測定する位置する計測手段を備えた露光装置において、
前記本体構造体と支持台との間の位置を計測する前記計測手段の計測値と
前記基板ステージもしくは前記原版ステージの前記計測手段の計測値を用いて、
前記投影露光系と基板ステージ間の相対高さ、もしくは投影露光系と原版ステージ間の相対高さを補正する手段を備えたことを特徴とする露光装置。
【請求項2】
前記本体構造体を支持する各箇所に強制的な作用力を与え、その強制的な作用力の変動に対する前記本体構造体と支持台との間の相対高さを前記計測手段で測定した測定値と、
一定の位置と姿勢を保つように位置決めされた前記基板ステージ、もしくは前記原版ステージの前記位置手段の計測値と、
前記投影露光系と基板ステージ間の相対距離、もしくは投影光学系と原版ステージ間の相対距離を前記位置手段で測定した計測結果を用いて、
前記補正手段の係数を回帰分析することによって更正する手段を備えた請求項1に記載の露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−189737(P2012−189737A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52314(P2011−52314)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】