説明

静電アクチュエータの製造方法

【課題】振動板の絶縁膜や電極基板の個別電極の耐久性や信頼性を向上させることができ、基板積層の際のアラインメントも容易になる静電アクチュエータを得ること。
【解決手段】シリコン基板2のガラス製の電極基板3との接合側面に、ダイヤモンドライクカーボン膜9bとSiO2膜を成膜し、シリコン基板2と電極基板3とを密着させて陽極接合し、シリコン基板2と電極基板3とから構成される隙間17に、エッチングガスまたはエッチング液を導入して、隙間17に対面する先に成膜されたSiO2膜を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可動電極である振動板と固定電極である個別電極を有した静電アクチュエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載される静電駆動方式のインクジェットヘッドが知られている。静電駆動方式のインクジェットヘッドは、一般に、ガラス基板上に形成された個別電極(固定電極)と、この個別電極に所定の隙間を介して対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)とから構成される静電アクチュエータ部を備えている。そして、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する圧力室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、圧力室の一部を構成している上記静電アクチュエータ部に静電気力を発生させることにより、選択されたノズル孔からインクが吐出されるようになっている。
【0003】
従来の静電アクチュエータにおいては、アクチュエータの絶縁膜の絶縁破壊や短絡を防止して駆動の安定性と駆動耐久性を確保するため、振動板や個別電極の対向面に絶縁膜が形成されている。絶縁膜には、一般にシリコンの熱酸化膜が使用されている。その理由としては製造プロセスの簡便さや、絶縁膜特性がシリコン熱酸化膜は優れているという理由からである。また、プラズマCVD法によりTEOSを原料ガスとする酸化シリコン膜(以下、便宜上「TEOS−SiO2膜」と略記するものとする)により絶縁膜を振動板の対向面に形成する静電アクチュエータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、振動板側の片方だけに絶縁膜を形成するのでは誘電体の絶縁膜内に残留電荷が生じてアクチュエータの駆動の安定性や駆動耐久性が低下することから、振動板側と個別電極側の両方に絶縁膜を形成する静電アクチュエータが提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。また、上記残留電荷の発生を低減させるために、個別電極側の表面のみに体積抵抗の高い膜と低い膜とで二層の電極保護膜を形成する静電アクチュエータが提案されている(例えば、特許文献4参照)。さらに、アクチュエータの絶縁膜に、酸化シリコンよりも比誘電率の高い誘電材料、いわゆるHigh−k材(高誘電率ゲート絶縁膜)を用いることにより、アクチュエータの発生圧力を向上させることができる静電アクチュエータが提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−19129号公報
【特許文献2】特開平8−118626号公報
【特許文献3】特開2003−80708号公報
【特許文献4】特開2002−46282号公報
【特許文献5】特開2006−271183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電アクチュエータを備えた静電駆動方式のインクジェットヘッドにあっては、高解像度化に伴い高密度化、高速度駆動の要求が一段と高まり、それに伴い静電アクチュエータもますます微小化する傾向にある。このような要求に応えるためには、できるだけ低コストのもとで、静電アクチュエータの発生圧力を向上させるとともに、駆動の安定性および耐久性の更なる向上を図った静電アクチュエータを得ることが重要な課題となる。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、振動板、および/または、個別電極の耐久性や信頼性を向上させることができ、しかも基板積層の際のアラインメントを容易にし、高密度な静電アクチュエータの製造方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、複数の個別電極が複数の凹部内にそれぞれ形成されたガラス製の電極基板と、前記個別電極に隙間を介して対向する振動板を形成予定のシリコン基板とを接合して積層する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板の前記電極基板との接合側面に、第1のダイヤモンドライクカーボン膜と第1のSiO2膜を成膜し、前記シリコン基板と前記電極基板とを密着させて陽極接合し、前記シリコン基板と前記電極基板とから構成される前記隙間に、エッチングガスまたはエッチング液を導入して、前記隙間に対面する前記第1のSiO2膜を除去するものである。
【0008】
これによれば、振動板の表面にダイヤモンドライクカーボン膜が形成される。ダイヤモンドライクカーボンは高硬度であり、電気絶縁性や摩耗性にも優れるため、振動板の耐久性が向上し、また個別電極との間での絶縁性も確保できる。
また、シリコン基板上に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜(第1のダイヤモンドライクカーボン膜)やSiO2膜(第1のSiO2膜)を、パターニングする手間を省くことができる。
さらに、シリコン基板に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜をパターニングした後に電極基板と陽極接合する場合に比べて、シリコン基板と電極基板との陽極接合時のアラインメント精度も緩和でき、したがってアクチュエータの高密度化にも寄与できる。
【0009】
また、前記陽極接合の前に、前記個別電極上に、第2のダイヤモンドライクカーボン膜と第2のSiO2膜を成膜し、前記陽極接合の後に、前記エッチングガスまたはエッチング液によって、前記隙間に対面する前記第1のSiO2膜を除去すると同時に前記第2のSiO2膜を除去するものである。
これにより、個別電極面上にもダイヤモンドライクカーボンが成膜されるため、個別電極の耐久性も向上させることができる。なお、電極基板上の第2のダイヤモンドライクカーボン膜と第2のSiO2膜は、単に電極基板上の個別電極側全面に成膜するだけでよく、パターニングする必要はない。
ただし、前記第2のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜した後に、前記個別電極上以外の領域に成膜された第2のダイヤモンドライクカーボン膜を除去するようにしてもよい。
【0010】
なお、前記第2のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜する前に、前記第2のダイヤモンドライクカーボンを前記個別電極の上に固着させる下地膜を成膜するのが好ましい。適切な下地膜を追加することによって、ダイヤモンドライクカーボン膜と個別電極との密着性や固着性をより向上させることができるからである。
【0011】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、複数の個別電極が複数の凹部内にそれぞれ形成されたガラス製の電極基板と、前記個別電極に隙間を介して対向する振動板を形成予定のシリコン基板とを接合して積層する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板の前記電極基板との接合側面に、第3のSiO2膜を成膜し、前記電極基板の前記個別電極側面に、第4のダイヤモンドライクカーボン膜と第4のSiO2膜を成膜し、前記シリコン基板と前記電極基板とを密着させて陽極接合し、前記シリコン基板と前記電極基板とから構成される前記隙間に、エッチングガスまたはエッチング液を導入して、前記隙間に対面する前記第4のSiO2膜を除去するものである。
【0012】
これによれば、個別電極の表面にダイヤモンドライクカーボン膜が形成される。従って、個別電極の耐久性を向上させることができ、また、振動板との間での絶縁性も確保することができる。
しかも、電極基板上に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜(第4のダイヤモンドライクカーボン膜)やSiO2膜(第4のSiO2膜)、パターニングする必要もない。
さらに、電極基板に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜をパターニングした後に、シリコン基板と陽極接合する場合に比べて、シリコン基板と電極基板との陽極接合時のアラインメント精度も緩和でき、したがってアクチュエータの高密度化にも寄与できる。
【0013】
なお、前記第4のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極に成膜する前に、前記第4のダイヤモンドライクカーボンを前記個別電極の上に固着させる下地膜を成膜することが好ましい。
【0014】
また、前記第4のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極に成膜した後に、前記個別電極上以外の領域に成膜された第4のダイヤモンドライクカーボン膜を除去するようにしてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図である。図2は組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図、図3は図2のa−a方向から見た図1のインクジェットヘッドの部分拡大断面図である。
【0016】
本実施の形態のインクジェットヘッド10は、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2に形成された振動板6に対峙する個別電極5を有した電極基板3とが、貼り合わせにより積層されている。
【0017】
ノズル基板1は、例えばシリコンから作製され、キャビティ基板2に接着されている。そのノズル孔11は、例えば径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち径の小さい噴射口部分11aとこれよりも径の大きい導入口部分11bとから構成されている。また、ノズル基板1には、キャビティ基板2の圧力室21とリザーバ23とを連通するオリフィス12とリザーバ23部分の圧力変動を補償するためのダイヤフラム13が形成されている。
【0018】
キャビティ基板2は、例えば面方位が(110)のシリコン基板から作製される。このため、この明細書ではキャビティ基板2をシリコン基板2とも称する。キャビティ基板2には、インク流路を構成する複数の圧力室21と、各圧力室21に共通の1つのリザーバ23が形成されており、インク流路の表面にはインク保護膜18が成膜されている。なお、図2ではインク保護膜18が省略されている。
【0019】
各圧力室21は圧力変動を生じさせてノズル孔11からインクを吐出させる部分であり、インク供給口であるオリフィス12ともそれぞれ連通している。圧力室21の底面は可撓性を有した振動板6となっている。この振動板6は、キャビティ基板の片側表面のボロンを拡散させたボロン拡散層から形成されており、ウェットエッチングによりエッチングストップを利用して、そのボロン拡散層の厚さで薄く仕上げられている。
【0020】
振動板6の表面には、酸化シリコン(SiO2)またはいわゆるHigh−k材から成る絶縁膜8が形成されている。High−k材は、例えば酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化タンタル(Ta23)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)、窒化アルミ(AlN)、窒化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウム(CeO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化イットリウム(Y23)、ジルコニウムシリケート(ZrSiO)、ハフニウムシリケート(HfSiO)、ジルコニウムアルミネート(ZrAlO)、窒素添加ハフニウムアルミネート(HfAlON)、およびこれらの複合膜等を挙げることができる。その中でも膜の低温成膜性、膜の均質性、プロセス適応性等を考慮した場合、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ハフニウム(HfO2)、窒化ハフニウムシリケート(HfSiN)、酸窒化ハフニウムシリケート(HfSiON)の利用が適している。
【0021】
絶縁膜8の表面には、振動板6および絶縁膜8を保護する表面保護膜として、ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)9bが成膜されている。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜9bはキャビティ基板2の振動板6形成側の全面にわたって成膜されている。
【0022】
リザーバ23は、吐出液であるインクを貯留しておくためのものであり、オリフィス12を介して全ての圧力室21に連通している。リザーバ23の底部には電極基板3のインク供給孔33に連通するインク供給孔16が形成されており、図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
【0023】
電極基板3は、ガラス基板から作製される。中でも、キャビティ基板2であるシリコン基板と熱膨張係数の近いパイレックス(登録商標)ガラス等を用いるのが適している。これは、電極基板3とキャビティ基板2を陽極接合する際、両基板の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2を強固に接合することができるからである。なお、上記の理由により、この明細書では電極基板3をガラス基板3とも称する。
【0024】
電極基板3には、キャビティ基板2の各振動板6に対向する表面位置にそれぞれ個別電極形成用凹部32が形成されている。各個別電極形成用凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極5が、例えば100nmの厚さで形成されている。さらに、個別電極5の部分には、個別電極5を保護する表面保護膜として、ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)9aが成膜されている。なお、個別電極5とダイヤモンドライクカーボン膜9aとの間には、ダイヤモンドライクカーボンを個別電極5に固着させるために、下地膜7として、例えば酸化シリコン膜(SiO2膜)を形成しておくのが好ましい。
【0025】
個別電極5は、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部5aを有する。端子部5aでは、配線のためにこの部分のダイヤモンドライクカーボン膜9aおよび下地膜7が除去され、かつ、キャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部34内に露出している。
個別電極形成用凹部32において、振動板6と個別電極5との間に形成される隙間17の開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材35で封止される。これにより、湿気や塵埃等が隙間17へ侵入するのを防止することができ、インクジェットヘッド10の信頼性を高く保持することができる。
【0026】
キャビティ基板2と電極基板3は、それぞれの表面に形成されたSiO2膜15a,15bを介して陽極接合により接合されている。図2の符号36、図3の符号15a,15bの部分が、キャビティ基板2と電極基板3との陽極接合部分を示している。
なお、シリコン基板2や電極基板3に成膜される各膜の厚さは、例えば、下地膜7が60nm、絶縁膜8が80nm、ダイヤモンドライクカーボン膜9a,9bが5〜10nm、SiO2膜15a,15bが60nmである。
【0027】
また、ドライバIC等の駆動制御回路40が、各個別電極5の端子部5aとキャビティ基板2上面の共通電極26とに、フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されて、インクジェットヘッド10が構成されている。
ここで、電極基板3の個別電極5とキャビティ基板2の振動板6とは、液滴を吐出させる作用を果たす静電アクチュエータを構成しており、振動板6が静電アクチュエータの可動片を構成している。
【0028】
次に、以上のように構成されたインクジェットヘッド10の動作を説明する。駆動制御回路40により個別電極5とキャビティ基板2の共通電極26の間にパルス電圧を印加すると、振動板6は個別電極5側に引き寄せられて吸着される。これにより、圧力室21内に負圧を発生させて、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板6は個別電極5から離脱し、その際の圧力変動により、インクがノズル11から押出されて吐出される。
【0029】
振動板6が動作する際、個別電極5と振動板6とはそれぞれのダイヤモンドライクカーボン膜9a,9b同士が当接する。したがって、ダイヤモンドライクカーボン膜9a,9bには繰り返し接触によるストレス等が作用する。しかし、ダイヤモンドライクカーボン膜9a,9bは、硬質で低摩擦性を有するため、一定の振動板変位量を長期間安定して保持することができる。
また、ガラス製の電極基板3とシリコン製のキャビティ基板2とは、SiO2膜15a,15bの部分同士を密着させて陽極接合されているため、それらの接合強度も十分に確保されている。
その結果、このインクジェットヘッド10は、耐久性および安定性に優れ、信頼性の高いインクジェットヘッド10となっている。
【0030】
次に、実施の形態1のインクジェットヘッド10の製造方法について説明する。図4はインクジェットヘッド10の製造方法の一例を示す流れ図であり、以下では図4に沿って説明する。
【0031】
まず、電極基板3の製造方法を説明する。パイレックス(登録商標)ガラスからなる板厚約1mmのガラス基板3に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより所望の深さの個別電極形成用凹部32を形成する。この個別電極形成用凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極5毎に複数形成される。そして、例えば、スパッタ法によりITOを100nmの厚さで成膜する。さらに、そのITO膜をフォトリソグラフィーによりパターニングし、エッチング等により、個別電極形成用凹部32内にのみITOを残して個別電極5を形成する(S1)。
【0032】
次に、ガラス基板3の個別電極5形成面に下地膜7を成膜する(S2)。下地膜7は、例えば、ガラス基板3の個別電極5形成側の表面全体に、TEOSを原料ガスとして用いたRF−CVD(Chemical Vapor Deposition)法により酸化シリコン膜(TEOS−SiO2)を70nmの厚さで形成する。なお、下地膜7は設けるのが好ましいが必ずしも必須のものではない。ついで、このSiO2膜の上で、かつガラス基板3の個別電極5側の表面全体に、ダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)9aを成膜する(S3)。ダイヤモンドライクカーボン膜9aは、例えば、トルエンガスを原料ガスに用いた平行平板型RF−CVD法により、約5〜10nmの厚みで成膜する。
【0033】
次に、先に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜9aをパターニングして、アッシング等により個別電極5部分以外のダイヤモンドライクカーボン膜を除去する。
さらに、電極基板3のダイヤモンドライクカーボン膜9aが形成された側の全面に、SiO2膜15aを60nm程度の厚さで成膜する(S4)。その後、マイクロブラスト加工等によりインク供給孔16,33を形成する。
【0034】
次に、キャビティ基板2の製造方法を説明する。厚さが280μm程度のシリコン基板2の片面全面に、例えば厚さが0.8μmのボロン拡散層2aを形成したシリコン基板2を用意する。そして、そのシリコン基板2のボロン拡散層2aの表面に、ECRスパッタ等により、High−k材、例えば酸化アルミニウムの絶縁膜8を、80nmの厚さで全面に成膜する(S5)。
【0035】
続いて、絶縁膜8を保護するダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)9bを、シリコン基板2の絶縁膜8が成膜された側の全面に成膜し、さらにその上にSiO2膜15bを60nm程度の厚さで全面成膜する(S6)。以上により、後にキャビティ基板2となるシリコン基板2を作製することができる。
【0036】
次に、以上により作製されたシリコン基板2と電極基板3とを接合し積層する。これは、シリコン基板2の振動板6の形成予定領域と、電極基板3の個別電極形成用凹部32の個別電極5とを、隙間17を介して対向させるとともに、シリコン基板2と電極基板3の最表面にあるSiO2膜15a,15b部分を密着させて陽極接合する(S7)。
次に、この接合済みシリコン基板2の表面全面を研磨加工して、厚さを例えば50μm程度に薄くし、さらにこのシリコン基板2の表面全面をウェットエッチングによりライトエッチングして加工痕を除去する(S8)。
【0037】
次に、薄板状に加工された接合済みシリコン基板2の表面にフォトリソグラフィーによってレジストパターニングを行い(S9)、さらにエッチングによってインク流路となる溝を形成する(S10)。これによって、圧力室21となる凹部、リザーバ23となる凹部、および電極取り出し部34となる凹部が形成される。その際、例えば水酸化カリウムでウェットエッチングを行えば、ボロン拡散層2aの表面でエッチングストップがかかるので、振動板6の厚さを高精度に形成することができ、表面荒れも防ぐことができる。
【0038】
次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、電極取り出し部34に対応する凹部の底部を除去して電極取り出し部34を開口する。
【0039】
その後、振動板6と個別電極5との隙間17の開口部から、エッチングガスまたはエッチング液をその隙間に導入して、振動板6と個別電極5の対向面に存するSiO2膜を除去する(S11)。エッチングガスやエッチング液としては、希フッ化水素溶液、無水フッ化水素ガス、無水フッ化水素とメチルアルコールの混合ガス等が利用できる。
エッチング液は、ポッティングやディッピングにより、毛細管現象を利用して隙間17に導入する。また、エッチングガスによる場合は、所望のガス圧に到達するまでガスを供給し、一定時間保持して反応を進めた後、ドライポンプで一定時間排気するというサイクルを繰り返すパルスエッチング方式を採用しても良い。
【0040】
続いて、個別電極形成用凹部32に形成された個別電極5と振動板6との隙間17から、その内部に付着している水分を除去する(S12)。水分除去は積層されたシリコン基板2を例えば真空チャンバ内に入れ、加熱真空引きをすることにより行う。そして、所要時間経過後、窒素ガスを導入し窒素雰囲気下で隙間17の開放端部にエポキシ樹脂等の封止材35を塗布して気密に封止する(S13)。このように、隙間17に付着した水分を除去した後、気密封止することによって、静電アクチュエータの駆動耐久性を向上させることができる。
【0041】
その後、インク流路の腐食を防止するため、シリコン基板2の表面にプラズマCVD法によりTEOS−SiO2膜からなるインク保護膜18を形成する。また、シリコン基板上に金属からなる共通電極26を形成する。
【0042】
以上の工程を経て電極基板3に接合されたシリコン基板2からキャビティ基板2が作製される。さらに、このキャビティ基板2の表面上に、予めノズル孔11等が形成されたノズル基板1を接着により接合する(S14)。そして最後に、ダイシングにより個々のヘッドチップに切断すれば、振動板6と個別電極5からなる静電アクチュエータを有したインクジェットヘッド10が完成する(S15)。
【0043】
以上の方法によれば、シリコン基板2に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜9bや最表面のSiO2膜を、パターニングすることなしに、シリコン基板2と電極基板3とを陽極接合できる。また、シリコン基板2のダイヤモンドライクカーボン膜をパターニングした後に陽極接合する場合に比べて、シリコン基板2と電極基板3との陽極接合時のアラインメント精度も緩和できるため、ノズル密度を高密度とすることができる。
さらに、シリコン基板2と電極基板3とは、ダイヤモンドライクカーボン膜9bではなくて、SiO2膜15a,15bを介して陽極接合されているため、十分な接合強度も得られ、インクジェットヘッド10の信頼性も向上する。
【0044】
実施の形態2.
図5は図3に対応した本発明の実施の形態2に係るインクジェットヘッドの断面図である。実施の形態1のインクジェットヘッド10は、ダイヤモンドライクカーボン膜が、キャビティ基板2の振動板6形成側の全面と、電極基板3の個別電極5上に形成されたものであった。
これに対して実施の形態2のインクジェットヘッドは、個別電極5を保護するダイヤモンドライクカーボン膜9aを、電極基板3の個別電極5形成側の全面に成膜したものである。電極基板3の個別電極5形成側面には、先に説明した理由により、下地膜7を形成するのが好ましい。これら以外の点では、実施の形態1と実施の形態2のインクジェットヘッドは同じ構成となっている。
【0045】
実施の形態2の静電アクチュエータ若しくはインクジェットヘッドによれば、たとえシリコン基板2と電極基板3のアラインメントが正確でなかったとしても、振動板6が個別電極5側に吸引された際に、ダイヤモンドライクカーボン膜同士が確実に当接することになるため、静電アクチュエータの耐久性および信頼性が向上する。また、製造の際、電極基板3に成膜するダイヤモンドライクカーボン膜9aをパターニングする手間も省ける。
【0046】
実施の形態2のインクジェットヘッドの製造方法は、個別電極5の表面保護膜であるダイヤモンドライクカーボン膜9aを、パターニングすることなしに、その上にSiO2膜を成膜している点で、実施の形態1の方法と相違している。
実施の形態1のインクジェットヘッドの製造方法では、ダイヤモンドライクカーボン膜9aの上にSiO2膜15aを成膜することは必ずしも必要ではないが、実施の形態2のインクジェットヘッドの製造方法では、ダイヤモンドライクカーボン膜9aの上にSiO2膜15aを成膜することが必須となる。それは、シリコン基板2との陽極接合面には、ダイヤモンドライクカーボン膜9aを露出させないようにする必要があるためである。
なお、便宜上、実施の形態1、2におけるシリコン基板2のダイヤモンドライクカーボン膜9bを第1のダイヤモンドライクカーボン膜と、SiO2膜を第1のSiO2膜と称し、電極基板3のダイヤモンドライクカーボン膜9aを第2のダイヤモンドライクカーボン膜と、SiO2膜を第2のSiO2膜と称する。
【0047】
実施の形態3.
実施の形態1および2では、図3、図5に示したように、シリコン基板2と電極基板3の両方にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜した。これに対して、それらの一方にだけダイヤモンドライクカーボン膜を成膜しても、それが両方に成膜されていない場合に比べれば所定の効果が得られる。そこで実施の形態3では、シリコン基板2の振動板6形成面にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜し、電極基板3の個別電極5形成面にはダイヤモンドライクカーボン膜を成膜しない静電アクチュエータを提案する。
電極基板3の個別電極5とキャビティ基板2の振動板6とが静電アクチュエータを構成しているが、振動板6は可動片として変形動作する。したがって、振動板6の形成面だけをダイヤモンドライクカーボン膜9bで成膜しても、効果的に静電アクチュエータの耐久性および信頼性向上が図れる。
実施の形態3の静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの製造方法は、図4の流れ図において、S2〜S4の工程が省かれるだけで、他の工程は図4と同じでよい。 この製造方法によれば、シリコン基板2の振動板6形成面に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜をパターニングする必要がないことにことに加えて、シリコン基板2と電極基板3とのアラインメントが容易になる。
なお、便宜上、実施の形態3におけるシリコン基板2のダイヤモンドライクカーボン膜9bを第1のダイヤモンドライクカーボン膜と、SiO2膜を第1のSiO2膜と称する。
【0048】
実施の形態4.
実施の形態4では、電極基板3の個別電極5形成面にダイヤモンドライクカーボン膜を成膜し、シリコン基板2の振動板6形成面にはダイヤモンドライクカーボン膜を成膜しない静電アクチュエータを提案する。電極基板3の個別電極5形成側面だけにダイヤモンドライクカーボン膜を成膜するだけでも、個別電極5の耐久性や振動板6との間での絶縁性を向上させる効果が得られる。
実施の形態4の静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの製造方法も、図4の流れ図の一部を変更するだけで対応できる。すなわち、図4のS5において、振動板6の表面に絶縁膜としてSiO2膜を形成した場合には、S6の工程が全て省かれる。これに対して、図4のS5において、絶縁膜としてHigh−k材が形成された場合には、S6の工程においてそのHigh−k材表面にSiO2膜だけを形成する。High−k材表面にSiO2膜を形成するのが、陽極接合の観点から好ましいからである。
この製造方法によれば、電極基板3に成膜したダイヤモンドライクカーボン膜をパターニングする必要がないことにことに加えて、シリコン基板2と電極基板3とのアラインメントが容易になる。ただし、個別電極5上以外の領域に成膜されたダイヤモンドライクカーボン膜を除去するようにしてもよい。
なお、便宜上、実施の形態4におけるシリコン基板2のSiO2膜を第3のSiO2膜と称し、電極基板3のダイヤモンドライクカーボン膜9aを第4のダイヤモンドライクカーボン膜と、SiO2膜を第4のSiO2膜と称する。
【0049】
実施の形態1〜4で説明したインクジェットヘッドの製造方法は一例であり、本発明の思想の範囲外の部分では、他の各種の方法を適用することができる。
また、以上の実施の形態では、本願発明の静電アクチュエータを液滴吐出用のインクジェットヘッドに適用する例で説明したが、本発明の静電アクチュエータは、それ限らず各種の機器に適用することができる。例えば、本発明の静電アクチュエータは、光スイッチやミラーデバイス、マイクロポンプ、レーザプリンタのレーザ操作ミラーの駆動部等にも利用することができる。
さらに、インクジェットヘッドとしては、ノズル孔より吐出される液の種類を変更することにより、図6に示すようなインクジェットプリンタの他、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造等、様々な用途の液滴吐出装置の液滴吐出部に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態1に係る静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】組立状態における図1の略右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの断面図。
【図3】図2のインクジェットヘッドのa−a方向の部分拡大断面図。
【図4】実施の形態1に係る静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの製造方法の一例を示す流れ図。
【図5】図3に対応した本発明の実施の形態2に係る静電アクチュエータを備えたインクジェットヘッドの断面図。
【図6】本発明の静電アクチュエータを備えたインクジェットプリンタの斜視図。
【符号の説明】
【0051】
1 ノズル基板、2 キャビティ基板(シリコン基板)、3 電極基板(ガラス基板)、5 個別電極、6 振動板、7 下地膜(SiO2膜)、8 絶縁膜、9a ダイヤモンドライクカーボン膜(個別電極側)、9b ダイヤモンドライクカーボン膜(振動板側)、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、12 オリフィス、13 ダイヤフラム、15a SiO2膜(個別電極側)、15b SiO2膜(振動板側)、16 インク供給孔、17 隙間、18 インク保護膜、21 圧力室、23 リザーバ、26 共通電極、32 個別電極形成用凹部、33 インク供給孔、34 電極取り出し部、35 封止材、40 駆動制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の個別電極が複数の凹部内にそれぞれ形成されたガラス製の電極基板と、
前記個別電極に隙間を介して対向する振動板を形成予定のシリコン基板とを接合して積層する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板の前記電極基板との接合側面に、第1のダイヤモンドライクカーボン膜と第1のSiO2膜を成膜し、
前記シリコン基板と前記電極基板とを密着させて陽極接合し、
前記シリコン基板と前記電極基板とから構成される前記隙間に、エッチングガスまたはエッチング液を導入して、前記隙間に対面する前記第1のSiO2膜を除去すること
を特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項2】
前記陽極接合の前に、前記個別電極上面に、第2のダイヤモンドライクカーボン膜と第2のSiO2膜を成膜し、
前記陽極接合の後に、前記エッチングガスまたはエッチング液によって、前記隙間に対面する前記第1のSiO2膜を除去すると同時に前記第2のSiO2膜を除去すること
を特徴とする請求項1に記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項3】
前記第2のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜する前に、前記第2のダイヤモンドライクカーボンを前記個別電極の上に固着させる下地膜を成膜することを特徴とする請求項2に記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項4】
前記第2のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜した後に、前記個別電極上以外の領域に成膜された前記第2のダイヤモンドライクカーボン膜を除去することを特徴とする請求項2または3に記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項5】
複数の個別電極が複数の凹部内にそれぞれ形成されたガラス製の電極基板と、
前記個別電極に隙間を介して対向する振動板を形成予定のシリコン基板とを接合して積層する静電アクチュエータの製造方法であって、
前記シリコン基板の前記電極基板との接合側面に、第3のSiO2膜を成膜し、
前記電極基板の前記個別電極側面に、第4のダイヤモンドライクカーボン膜と第4のSiO2膜を成膜し、
前記シリコン基板と前記電極基板とを密着させて陽極接合し、
前記シリコン基板と前記電極基板とから構成される前記隙間に、エッチングガスまたはエッチング液を導入して、前記隙間に対面する前記第4のSiO2膜を除去すること
を特徴とする静電アクチュエータの製造方法。
【請求項6】
前記第4のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜する前に、前記第4のダイヤモンドライクカーボンを前記個別電極の上に固着させる下地膜を成膜することを特徴とする請求項5に記載の静電アクチュエータの製造方法。
【請求項7】
前記第4のダイヤモンドライクカーボン膜を前記個別電極上に成膜した後に、前記個別電極上以外の領域に成膜された前記第4のダイヤモンドライクカーボン膜を除去することを特徴とする請求項5または6に記載の静電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−255389(P2009−255389A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107063(P2008−107063)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】